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幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.

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Part2
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/23(土) 22:43:46.06 ID:yBf3Hcveo
「いいか、この際だからはっきり言ってやる」
 マエストロは言った。唐突だ。何かそんなにまずいことをしただろうかという気持ちになる。
 俺の苦悩をよそにマエストロは言葉を続けた。
「このクラスで、童貞は」
 何か重大な発表がなされようとしていた。
 なぜ今のタイミングで童貞の話に? という疑問はたぶん解消されない。
「サラマンダーと、俺と」
 なにやらカミングアウトしている。
「ーーそれから、おまえだけだ」
 ……巻き込まれてしまった。

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/23(土) 22:44:12.09 ID:yBf3Hcveo
 一瞬遅れで、
「……え、まじで?」
 俺は墓穴を掘った。
 空気が凍る。
 教室から音が消えた。
 サラマンダーの下手な口笛がどこかから聞こえる。
 今の発言は童貞だということを暴露したようなものだった。
 何かの視線に気付いて振り返ると、幼馴染が教室のうしろの扉から入ってきたところだった。
 彼女はあっけにとられたようにこちらを見ている。
 しばらく沈黙があった。その間中ずっと、幼馴染と俺は目を合わせたままだった。こんな状況でなければ喜ばしいことだ。
 彼女は静かに視線を落とし、照れくさそうに微笑したあと、言った。
「……童貞、なの?」
 ちょっと戸惑ったような声だった。
 ーーその瞬間、俺のあだ名はチェリーに決定した。

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/23(土) 22:44:48.97 ID:yBf3Hcveo
 ーーマエストロの虫の居所が悪かったのには理由があったらしい。
 なんでも、彼の信奉者であるオタメガネ三人組(鈴木・佐藤・木下)が、三人揃って童貞を卒業したというのだ。
 ……なぜ急に?
 鈴木曰く、
「体育の授業で怪我をして保健室いったら、保健の赤嶺先生に……」
 メガネをはずすと可愛いね、って言われて喰われた。
 巨乳で地味系。童顔。野暮眼鏡。ロリコンにひそかな人気がある。羨ましくて憤死する。
 佐藤曰く、
「ヒキコモリの従妹が数日間うちに泊まることになって……」
 親たちが出かけてる間に、合意の上で、好奇心に煽られてエロいことをし合った。した。
 年下。物静か。色白。生えてなかった。ぱんつはくまさんだった。ふざけんな。豆腐の角に頭ぶつけて死ね。
 そして木下曰く、
「勉強のふりしてアレしてたら、義理の母親に……」
 甘やかされた。
 歳の差結婚で恐ろしく若い上、父親は死んでいて未亡人だった。いろいろやばい。まずい。そんな際どいことクラスメイトに言うな。

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/23(土) 22:45:13.54 ID:yBf3Hcveo
 ーーどこぞのエロゲーか。
 脳内ツッコミ。
 応える声はなかった。
 どう考えてもエロゲーだった。
「保健の先生(巨乳)とか!」
 マエストロが吼える。丘の上の住宅街にある公園に、男三人の長い影が落ちていた。
「ヒキコモリの従妹(色白・物静か)とか! 義理の母親(未亡人・いろいろ持て余す)とか!」
 力が篭っていた。
「ふざけんなああああああああーー!!」
 魂の叫びだった。夕日に向かって、マエストロは泣いていた。思わず俺の目頭も熱くなる。
「なんだそりゃあ! なんだそりゃあ! 馬鹿にしてんのかあああああああーーーー!!」

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/23(土) 22:45:45.92 ID:yBf3Hcveo
「落ち着けマエストロ」
 サラマンダーが冷静に諌めた。彼はたまに冗談みたいなボケと失敗をかます以外、クールでイケメンなのだ。天然でエロ魔人だが。
「で、それなんてエロゲ? 特に二番目について詳しく教えて欲しい」
 ーー天然でエロ魔人だった。
 そして俺たちは十六歳(数え年)だ。
「俺がゲームやってる間に! 絵描いてる間に! MAD動画作ってる間に! エロ小説書いてる間に!」 
 多才な奴だ。
「アイツらがそんなことをしてたと思うと!」
「思うと?」
「死にてえ!」
「ですよね」
 聞くまでもないことだった。


20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/23(土) 22:46:16.15 ID:yBf3Hcveo
「反応鈍いぜ、チェリー」
 サラマンダーが気障っぽくいった。こんな気障な奴が「激辛キムチ鍋! ~辛さ億倍~」を食べて火を吐いたのだから思い出すだけで笑える。
「チェリーって言うな」
 とはいえ、俺は俺で落ち込んでいた。
『このクラスで童貞は、サラマンダーと、俺と、おまえだけだ』
 という言葉もそうだが、何よりショックだったのは、
『……童貞、なの?』
 といったときの幼馴染の表情だった。
 
 普通に死ねる。
 なんか、経験済み的な微笑だった。先入観のせいかも知れない。
 男の子だもんね、的微笑だった。
 おとだも的微笑と名付けた。
 分かりにくいのですぐにやめた。

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/23(土) 22:46:43.49 ID:yBf3Hcveo
 ……付き合ってれば、そりゃ、ね。
 あの先輩、悪い人じゃないし、ね。
 でもヘタレっぽいし、たぶん、積極的なのは、幼馴染の方、だよ、ね。
『……童貞、なの?』
 あの微笑。……せつない。
 本番はともかく、ペッティングくらいならやってるかも知れぬ。
「手でいいですか? ……とか言ってるんだろうか」
 ふと呟いた。
「口でやってもらえる? って言われて、『……それは、ちょっと』って言ってたりしてな」
 サラマンダーが冷静に言った。
「もう我慢できない! って跨ってたりしてな」
 マエストロが必中必殺魔法を使った。即死効果付だった。俺は死んだ。
 言葉にするだけで頭に光景が浮かぶ。鬱勃起しそうになる。
 自己嫌悪で死ねる。
「現実でそんなのは……ないだろ」
 と言いたかったが、童貞なので分からない。

22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/23(土) 22:47:12.94 ID:yBf3Hcveo
「……死にたい」
 言いながらジャングルジムに登る。丘から見下ろす住宅街のそこらじゅうに「済」のハンコが押されてる気がした。
 
「現実なんて、クソばっかだーーーーーッ!!」
 青春っぽく叫んでみた。
 ……むなしかったのですぐにやめる。
 なんか童貞とか童貞じゃないとか以前に、幼馴染のあの表情だけで普通に死ねそうです。
 
「この世こそが真の地獄であり、我々は永遠の業火によって罰を受け続けているのだーーッ!!」
 グノーシスっぽいことを言ってみる。
 適当だった。
 その日はそのままふたりを別れた。
 家に帰ると妹が台所で料理していた。せつなくなって後ろから抱き締めた。
 照れられた。癒された。本気で嫌がられた。抵抗を黙殺した。殴られた。
「次やったら晩御飯抜きだから」
 クールに宣言される。難しい天秤だった。

23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/23(土) 22:47:39.61 ID:yBf3Hcveo
つづく

26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) :2011/07/23(土) 22:51:42.75 ID:ezJ7691Ao
すごく期待

27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/07/23(土) 23:35:10.38 ID:bIwhGbtyo
長いが読んでしまう
ちゃんと完投する事を祈る

36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:06:52.62 ID:t7XC+KI9o
 翌日は授業に身が入らなかった。
 ずっと幼馴染のことを考えていて、気付けば、誰とも話さないまま昼休み。
「俺……」
 ひょっとして幼馴染が好きだったんだろうか、とシリアスに悩む。
 悩んだあげく、いつまでも幼馴染のことばかり考えていても仕方ないという結論を出した。
 幼馴染に声をかける。 
「おい!」
「え?」
 きょとんとしている。
 おべんとをあけていた。
 ピンク色の巾着袋。
 乙女チック。ファンシー系女子(普通の女子がやっていたら寒いことをしてもかわいく見える人種)。
 
「おまえのことなんて、もうしらねえからなッ!」
「……あの、突然なに?」
 苦笑してる。

37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:07:26.18 ID:t7XC+KI9o
 普段からマエストロやサラマンダーと一緒にいるせいで、周囲から「またあいつらか……」的な視線が送られていた。
 二人のせいで俺までエロ童貞三人衆に数えられている。
 なぜかしらないが俺にまで信者がいる。妄想に関しては随一だというくだらない噂が立っているらしい。
 ……冗談だと思いたかった。
 幼馴染はこちらを見ながら苦笑した。
 毒のない無垢な笑顔に癒されそうになって逆に深く傷つく。もう人の女だ。
 
「おまえなんて、おまえなんて、サッカー部のなんかかっこいい先輩といい感じになってあげくのはてに卒業してからも一緒にいればいいんだ!」
「……祝福されてるのかな?」
 照れ苦笑しておられる。微妙に困っていた。
 どことなく寂しさ漂う苦笑。
 俺の心境がそう見せているに違いない。
 ……自分がかわいそうになってくる。
 ふざけていたつもりが、声に出したら真剣につらくなった。
 というわけで、幼馴染のことは忘れることにする。
 さらば幼き日の約束。
 妙な達成感が胸に去来した。
「おまえと結婚の約束をした記憶なんてないッ!」
「私もないよ?」
 忘れ去られていた。
 ……死のう。

38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:07:55.54 ID:t7XC+KI9o
 開放されている屋上に行くと女の子がいた。
 見なかったふりをして鉄扉の内側に戻ろうとする。
「待って」
 しかし逃げられなかった。
 ロールプレイングゲームっぽいテロップが脳内に出る。
 戦闘BGM。敵性存在とのエンカウント。
「ヤァ、コンニチワ」
 ナチュラルに挨拶をしようとしたら片言になった(ありがちだ)。俺はこの子が苦手なのだ。
「何でカタコト?」
 普通に気付かれた。
「実を言うとこのあたりに地球外の知的生命体の痕跡が……」
「別にいいから、そういう冗談」
「やは」
 ごまかし笑いが出た。

39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:08:23.98 ID:t7XC+KI9o
「何しに来たの?」
「何しに、とは?」
「お弁当、持ってないみたいだけど」
 何かを言いそびれたみたいな、困ったような声音だった。
 彼女はこの学校でも有名な一匹狼だ。ザ・ロンリーウルフ。
 でも別に凶暴ってわけじゃない。気付くといつもひとりでいる。
 多分ひとりが好きなんだろう。もしくは気楽なのかもしれない。
 俺はなぜか彼女に嫌われていた。
 その嫌われ具合は簡単に語れる。
 まず初対面がーー
 曲がり角でぶつかる。彼女が突き飛ばされる。
「あ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「い、たた」
 尻餅をついた彼女に、手を差し伸べる。紳士に。
「大丈夫です。ありがとうーー」
 いい雰囲気。彼女の手が俺の手と合わさる。
「あ、パンツ見えてる」
「ーーは?」
「今日はラッキーデイ! 眼福!」
「……」
 ーーごく普通の出会い方であるどころか、むしろ好印象ですらありそうなものだが、
「……死ね」
 と暴言を吐かれた。
 深く傷ついた。

40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:08:55.49 ID:t7XC+KI9o
人に噛み付きたいお年頃なのだと納得し、その後もめげずに声をかけるようになった。
 あるときは階段の下からーー
「黄色!」
「ーーッ!!」
 あるときは廊下で転んだところに彼女が歩いてきてーー
「水玉! 青地に白!」
「……」
 あるときは彼女とぶつかって転んだときに身体が絡み合い、体操服の隙間からーー
「白!」
「……死ね」
 ということを何度か繰り返していたら、普通に嫌われた。よくよく思い返してみれば当然かもしれない。
 自己嫌悪。でも全部事故だ。実際に口に出したのは自分だけれど。

41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:09:39.75 ID:t7XC+KI9o
「あのさ」
 考え事をしていたらふたたび声をかけられる。
「お弁当、どうしたのって聞いてるんだけど」
「……ええと」
 教室に忘れてきた。妹の手作りだった。
 親が忙しいのでいつも妹が作っているのだが、美味い。常に食べきっている。
 昨日は食べられたか覚えていない。というか昨日の記憶がない。
 死にたくなってきた。
「どうしたの?」
 なにやら(心配そうに)下から覗き込まれる。カッコ内はの妄想。
「よせやい、照れるぜ」
 茶化す。
「死ね」
 笑いながら死ねと仰られる。
 なんだか今日はご機嫌のようだ。

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:10:08.65 ID:t7XC+KI9o
 孤高のロンリーウルフである彼女は、通称を屋上さんという。
 なんか屋上にいるから、屋上さん。
 あだ名ばっかりの学校だ。
 名前を聞いても教えてくれないので、俺がつけた。
 髪型はポニーテール。この歳になるとなかなかお目にかかれない。
 陸上部に所属していて、いつもハードルを越えてる。すごい。やばい。足が速い。クラスが違うので詳しいことは知らない。
「食べる?」
「は?」
 何かを差し出される。
 コンビニのサンドウィッチだった。
「……ミックスサンドだけど」
 まるでツナサンドじゃないことが申し訳ないみたいな言い方だった。
「いいじゃんミックスサンド、好きだよ」
 思わずミックスサンドをフォローする。実際好きだ。ツナサンドも嫌いじゃない。
「そう?」
 なぜか照れてるように見える。言うまでもなく妄想に違いない。

43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 12:10:35.31 ID:t7XC+KI9o
「ありがとう、もらうよ」
「べ、別に。余ってたってだけだから」
「ありがとう」
 なにやらツンデレっぽい発言だが、彼女が実際にツンデレだというわけではない。現実でそんなのいるわけない。
 実際、好かれるようなことはやっていないのだ。
 ーーが、嫌いな人間にすらサンドウィッチを分けるこの優しさ。心に傷を負ったタイミングでこんなことをされれば、当然、
「やばい、惚れる」
 となる。
「は?」
「つらいときのやさしさは身に沁みる。結婚しよう」
「死ね」
 とたんに不機嫌になった。屋上さんは扱いが難しい。現実でも選択肢がでれば、間違ったほうは選ばないのに。

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