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幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.

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Part29
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/11(木) 12:15:35.92 ID:FyktQczwo
 不意に、幼馴染が、今までに聞いたことがないほどはっきりとした声で言った。
「納得いかない」
「……は?」
「納得いきません」
 納得いかないらしい。
 何が?
「だって、ずっと一緒にいたでしょ、私たち」
「はあ」
「人生の半分以上の時間を共に過ごしてるわけで」
「……いやなんつーか」
「その間中、私はずっと好きだったわけで」
「……ずっと好きだったんですか」
「ずっと好きだったんです」
 頭の中で斉藤和義が歌っていた。
 なんか、開き直ったっぽい。
 
「ね、屋上さんにふられたら、私と付き合ってくれる?」
「何言ってんだおまえは」
「いいじゃん。保険。キープ」
 こいつ、自分で何言ってるのか分かってるんだろうか。
「あのな、仮に振られたとして」
 言いかけて考え込む。
 そういえば、振られるかもしれないんだった。
 何も解決してない。
「……いや、それは今はいい。仮に振られたって、あっちがダメだったからこっち、みたいな真似できるわけないだろ」

886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/11(木) 12:16:12.16 ID:FyktQczwo
「なんで? 別に私はいいけど」
「いいけど、って」
「だから、別にそういう扱いでもいいよ、って」
 ダメだ。
 言葉が通じなくなってしまった。
「なんなら二号さんでもいいよ!」
 ……あれ?
 なんか二股できる感じの雰囲気?
 いや違うだろう。
「ダメだって」
 何が悲しくて、こんなことを必死に否定しなければならないのか。
 
「でも、それじゃ私、告白し損じゃん。もし君が先に屋上さんに告白して、それで振られてたら、私にもチャンスがあったわけでしょ?」
「いや、え?」
「先に告白しちゃったから付き合えませんって、どう考えてもおかしいよ」
 ……いや、なんつーか。
「振られる前提で話を続けないでください」
 そこまで自信がないので。
「いいじゃん、振られてよ」
 無茶を言う。そこは俺の意思でどうにかなる部分じゃないです。
 言ってることがむちゃくちゃだ、さっきから。

887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/11(木) 12:16:50.66 ID:FyktQczwo
「いや、だからさーー」
「あ、アイス溶けてる」
「ーーあっ」
「もう帰ろうよ」
 言うが早いか、幼馴染はブランコから跳ね上がるように立ち上がった。
「いや待てって」
「もう何も聞きたくないです」
 結局、その後は何を言っても聞いてもらえなかった。
 家に帰ってからドロドロに溶けたカップアイスを冷凍庫に突っ込む。
 
 幼馴染はその後すぐに帰ってしまったので、あの態度にどういう意図があったのかが分からない。
 本気で言っていたのか、ただの強がりだったのか。
 
 まさか、とは思う。
 でも、もし本気で言っていたら、少し気が楽になるのに。
 どう考えても希望的観測。
 
 もう以前通りとはいかないだろう。
 ……そのはず、だ。うん、たぶん。
 その後すぐに、幼馴染は自分の家に帰った。三姉妹も同様に、揃って帰路につく。
 特別騒がしかったわけではないはずなのに、妙に静かになったように感じる。
 困る。
 台所で洗い物を始めた妹が、不意に俺に声をかけた。
「ねえ、お姉ちゃんの何かあった?」
 鋭い。
 が、どう答えるべきか迷う。
 何も言うべきではない気もするし、何かを言っておくべきだという気もする。
 結局、何も言わなかった。
「いいんだけどさ」
 ちょっと拗ねたみたいに、妹は言った。

888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/11(木) 12:17:18.01 ID:FyktQczwo
 部屋に戻ってベッドに寝転がる。
 さて、どうしたものか。
 ひとまず、幼馴染に自分の考えを伝えることはできた。
 なんだか、非常に疲れる結果になったけれど、まぁ贅沢は言わない。
 妙に気に掛かるところではある。が、今は気にしてたって仕方ない。 
 ーーで。
 これからどうすればいいんだろう。
 告白?
 というのは、唐突だ。
 別に、今すぐ急いでどうにかしようとしなくても、なんとかなるんじゃないかな、と思う。
 サチ姉ちゃんもそんなこと言ってた。
 ……いいのか、それで。
 どうなんだろう。
 でも、今日は疲れた。とりあえず眠りたい。
 ここのところずっと考えてばかりだったから、少し休んでいたい。
 その日は何の考えも浮かばないまま眠る。
 翌日になって、サチ姉ちゃんが実はエスパーなのではないかと疑いたくなるような出来事が起こった。
 
 前日、早めに眠りについたにもかかわらず、ぐっすりと眠って十時過ぎに起床した俺は、起きてすぐ携帯を手に取った。
 メールが来ているのに気付く。慌てて開くと、屋上さんからのものだった。十五分ほど前のもの。
 心臓の鼓動がやけに騒がしいことに、気恥ずかしい気持ちを覚えながら本文を読み進める。
 内容は単純で、近々後輩の誕生日が来るため、プレゼント選びを手伝って欲しい、という内容。
 二人でお出かけしませんか、的なお誘い。
「うおお……」
 喜んだりする前に、強く動揺した。どうしよう。
 とりあえず深呼吸をする。深く息を吸って、息を吐く。
 後輩の誕生日って夏だっけ、と考える。思い出そうとしたけれど、記憶に引っかかるものはない。
 
 夏休み中に誕生日が来ていたなら、知らなくても無理はない。
 でも、なんで俺なんだろう。
 幼馴染とか、妹の方がいいんじゃないだろうか。後輩、女の子だし。
 とはいえ、そんなことを言ってせっかくの機会を棒に振ることになるのも嫌だったので、即座に了解の返事を打った。
 サチ姉ちゃんはエスパーです。

889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/11(木) 12:17:58.60 ID:FyktQczwo
 その日。
 俺は朝五時半に目覚めた。むしろほとんど眠れなかった。やけに緊張していた。たぶん受験のときより緊張している。
 眠れなかったからといってベッドにすがりついていても仕方ないので、さっさと起き上がる。
 準備を終えて時間に余裕ができる。三時間以上。
 そわそわする。
「……どうしたの?」
 妹に心配される。
「なんでもない」
「なんでもないなら貧乏ゆすりをやめて」
 無意識です。
 時間になってから、忘れ物がないかを確認して家を出る。一応、決めた時間に迎えに行くことになっていた。
 結構距離がある、が、毎日のように三姉妹は歩いてきていたわけで。恐るべし。
 幸いなことに、暑さはそこまでではなかった。 
 相変わらずでかい家だった。
 玄関でインターホンを鳴らす。やっぱり緊張する。でも押さなきゃならない。怖い。ジレンマ。
 呼び出しベルが鳴った後、家の中からどたばたという物音が聞こえた。
 がらりと引き戸が開いて、なかば飛び出すみたいに屋上さんが出てくる。
「……どうも」
「あ、うん」
 言葉が途切れる。
 なんか言わなきゃ、的な空気が飽和する。
 でも、互いに言葉はない。
 困った。
 というか、困っている。
 そういえば屋上さんとふたりきりになるなんて久々なわけで。
 一緒に出かけるなんて初めてなわけで。
 
 そう考えると目すら合わせられない。彼女の方を見るのが怖い。
 なぜか普段と雰囲気が違って見えるし。
 なんかこう。
 ……どうしたものか。
 持て余す。いろいろ。


890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/11(木) 12:18:27.37 ID:FyktQczwo
 ずっとそうしていても仕方ないので、とりあえずモールに向かって歩く。言葉がない。
 何を言えばいいやら。
 今までどんな話をしていたんだっけ。
 ……平然とセクハラまでしていたような。
 何者だ、以前の俺。
 ていうか、ぱんつまで覗いてたような。
 ……なんだろうね、この気持ち。
 なんていうか、昔の自分に腹が立ってくるよね。おまえ、どんだけ調子乗ってんだ馬鹿野郎っていう。
 見詰め合ってなくても、素直におしゃべりできません。
 馬鹿みたいだけど。
 モールに着くまで、結局会話らしい会話はほとんどなかった。
 
「何か考えてるのはあるの?」
「え?」
「プレゼント」
「あ、ああ」
 突然話しかけたからか、屋上さんは少しきょとんとしていた。
「何も考えてない」
「……何も考えてないのに、とりあえずモールに来たの?」
「……うん」
 深くは追及するまい。
 とにかく、店を回る。後輩の趣味を屋上さんに訊ねながら店を回る。
「ぬいぐるみとか好きかも」
 まじかよ。
 予想外でした。
「鞄に小さめのストラップ付けてる。いつも」
 そういえばそんなのもあった気がする。
 ちょっと想像してみる。ぬいぐるみ的ストラップをつけた鞄を背負う後輩。
 ーーなんか普通にスタイリッシュだ。チューインガム噛んでそう。
 もう何をやってもスタイリッシュなんじゃなかろうか、あの子。

891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/11(木) 12:19:01.53 ID:FyktQczwo
 ともかく、小物が置いてある店とか、ぬいぐるみ系統の店とかを回る。
 男の居心地の悪さは女性向け服飾店にも劣らない。
 適当に歩いてみるものの、これだというものは見つからないらしい。
 仕方ないので他の案を探すついでに店を回ってみることになった。
 雑貨屋。マグカップ、写真立て。このあたりは経験則的に悪くないが、誰かに贈ったものを提案するのも気が進まない。
 ああでもないこうでもないと言い合いながら、いろいろ見て回る。
 結局目ぼしいものが見つからないまま昼になり、とりあえず昼食をとることにする。
 フードコートのなかのハンバーガーショップ。学生の財布にやさしい場所。
 
 妹ときたときとまるで同じルートって、自分の行動範囲の狭さを自分で示しているような。
 なんとなく生まれる後ろめたさ。
 いや、深く考えないようにしよう。
 対面に座ってハンバーガーをかじる屋上さんの顔を覗き見る。
 特に退屈ではなさそう、では、あるのだが。
 気を遣う。
 なんか、こう、ねえ。
 下手打ってないかな、とか、まずいことしてないかな、とか、失敗してないかな、とか、全部同じ意味なんだけど。
 気付くと、屋上さんがこっちを見ていた。
「……なに?」
「え?」
「見られてると食べにくい」
「あ、はい」
 無意識でした。
 とはいえ。
 どこに目を向けたものか困る。普段はどうしていたんだっけ。
 ああなんかもう、おかしくなってる。

892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/11(木) 12:20:38.60 ID:FyktQczwo
 軽い食事を終えた後、次はどこの店を回ろうかと考えはじめたところで、屋上さんがゲームセンターで足を止めた。
 UFOキャッチャー。
 たしかにぬいぐるみはあるけれども。
 以前の失敗が頭を過ぎる。今はタクミもいないのです。
 でもまぁ、仕方ないので筐体に小銭を突っ込む。
「え」
 と屋上さんは変な声をあげた。
「どれ?」
「いや、いいって」
「もう入れちゃったし」
「……それ」
 彼女が指差したぬいぐるみの位置を確認する。
 難しくはない、が。
 一度やってみるしかない、と思う。
 失敗する。
 屋上さんが居心地悪そうに体を揺すった。
「こういうのは最初に一、二回失敗するものなのです」
 本当はあんまり詳しくないけど、それっぽいことを言う。
 また硬貨を投入する。二度目。失敗する。位置と向きが変わる。
 三回目。取る。
「はい」
 ぬいぐるみを受け取るまで、彼女はずっときょとんとしていた。
「エアホッケーしようぜ!」
 ついでだから誘う。あっさり負けた。

893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/11(木) 12:21:07.61 ID:FyktQczwo
 他の店を適当に見て回る。特に心惹かれるものもなく、無難に浮かぶものもない。
 役に立ててるんだろうか、俺。
「なんも思いつかないっす」
「うん」
 無口になる。なんか言わなきゃ、的な雰囲気。でも言うことねえや。
 なんかもう、ね。
 何を言えばいいやら。今までどんな話をしていたやら。
 ちょっとした会話はあっても、話が弾むことはない。
 居心地悪いわけではないんだけど。
 これはこれでいいのかもしれないけど。
 あと一歩、という感じの。
 結局、特に何があるわけでもなく、夕方近くに帰ることになった。
 並んで帰る。ひょっとして今じゃね? って思う。
 何かを言うにはちょうどいい時間。
 どうしたものか。隣を歩く屋上さんは、UFOキャッチャーで取ったぬいぐるみを抱えて視線を落ち着かないように彷徨わせていた。
 考え事をしながら歩く。
 それでも結局、何もいえない。肝心のところでダメ人間。
 あーあー。
 どうにかせねば、と焦る。なんか言わなきゃ。
 会話がないまま道を歩く。夕方。トンボが飛んでる。蝉の声。
 どうしたものか。
 距離を測りそこねている。
 屋上さんの家につく頃には、四時半を回っていた。
 なんか言わなきゃ、が、ずっと頭の中でぐるぐる巡っている。 
 そうこうしているうちに、屋上さんは一歩踏み出した。
「それじゃ」
 短く言って、彼女は歩いていってしまう。
 ああもうめんどくさい。言っちゃえよ。
 衝動に従う。
「ストップ」
 屋上さんは戸惑ったみたいに立ち止まった。振り返った彼女の表情が、今までで見たことのないものに思える。

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