のび太(30)「いらっしゃいませ。」
Part1
2 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:03:53.86 ID:cvmqAs0AO
2012年 東京某所の靴屋
のび太「いらっしゃいませ。」
?「すいません。こちらのお店は靴の修理はやっていらっしゃいますか?」
のび太「はい。当店でお買い上げいただいた商品でしたら。」
?「あ、いや。買ったのは別のお店なんでs・・・・・・のび太君?」
のび太「えっ?」
?「のび太君だよね?」
のび太「はぁ、左様ですが・・・・・・」
?「僕だよ。覚えてない?」
のび太「・・・・・・!? 出木杉君!?」
出木杉「思い出してくれたかい?」
3 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:07:10.11 ID:cvmqAs0AO
のび太「出木杉君!ごめん、一瞬分からなかったよww 久しぶりだねぇ!」
出木杉「ホント久しぶりだねぇ。中学以来かなぁ?」
のび太「そうなるねぇ。僕ら、高校は別々だったから。」
出木杉「懐かしいなぁ。のび太君、靴屋さんに就職したんだ。」
のび太「うん、そうなんだ。」
のび太「あっ、ところでさっき言ってた修理って? ちょっと深刻そうな顔に見えたけど・・・・・・」
出木杉「あぁ、実はね、この革靴の底を張り替えたいんだけど・・・・・・」ガサゴソ
のび太「どれどれ・・・レザーソールか。結構磨り減ってるね。」
出木杉「就職祝いで父に買ってもらった大切な靴なんだ。今までに底は2回張り替えたんだけど、まだ張り替えられるなら張り替えたいと思って。」
のび太「そっかぁ。その2回張り替えてくれたお店ってのは?」
出木杉「会社の近くにあったんだけど、先月に廃業しちゃってね。他に修理してもらえるお店はどこかないかと探してるんだ。」
のび太「なるほどなぁ・・・・・・うん、分かったよ。うちで修理しよう。」
出木杉「えっ? 良いのかい? このお店で買った物じゃないのに。」
のび太「良いよ良いよ。基本、他店の商品は修理中に何かあっても保証ができないから断ってるんだけど、君とは昔のよしみだからね。修理させてもらうよ。」
出木杉「うわぁ、助かるよ。ありがとう、のび太君。」
のび太「どういたしまして。ただ、外底だけの張り替えじゃ済まなさそうだなぁ。」マジマジ
のび太「コルクの交換も必要かも知れない。」
4 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:10:44.05 ID:cvmqAs0AO
出木杉「コルク? 何なの、それ?」
のび太「見たトコロ、この靴はグッドイヤーウェルトという製法で作られてるんだ。グッドイヤーウェルトは両底にコルクのクッションを挟むんだけど」
出木杉「???」
のび太「あぁ、ごめん、ちょっと分かりにくい説明だったねww」
のび太「まず、出木杉君が張り替えて欲しいって言ってた、この地面と直に接する底。靴裏と言い換えても良いね。これを外底と言うんだ。」
出木杉「うん。」
のび太「そして、靴を履いた時に足の裏と接する、靴の内側の底。これを中底と言うんだ。」
出木杉「あぁ、確かにどちらも底と言えば底だね。」
のび太「そうなんだよ。ややこしいよねww」
のび太「それで、さっき言ったグッドイヤーウェルトっていう製法は、この外底と中底の間にコルクのクッションを挟んで作るやり方なんだ。もちろん他にも特徴はあるけど、ここでは省略するよ。」
のび太「コルクのクッションは、持ち主の足裏の形に合わせて変形するから、すごく足に馴染みやすくて履き心地が良いんだ。」
出木杉「確かに。履き始めの頃より今の方が楽だ。」
のび太「そうでしょ? それがグッドイヤーウェルトの魅力の一つなんだ。ただ、あまりに変形しすぎると、外底の張り替えの時に一緒に交換しなきゃいけなくなる。」
出木杉「えっ? どうして? せっかく足に馴染んできたのに?」
のび太「うん、張り替えに使う新品の外底は真っ平らだからね。凹凸の付きすぎたコルクだと、その真っ平らな外底と上手く着かないんだ。」
出木杉「あっ、なるほど!」
のび太「出木杉君のこの靴は、まさに今言った凹凸が付きすぎてる状態なんだ。だから外底と一緒にコルクも替える必要があるんだよ。」
5 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:12:49.23 ID:cvmqAs0AO
出木杉「なるほど、そういう事かぁ。」
のび太「だから外底交換とコルク交換を合わせて・・・・・・うん、10000円かな。」
出木杉「!? そんなに安いの!? 前の修理の時は外底交換だけで15000円ぐらいだったよ!?」
のび太「いや、もちろん普通はそれぐらいするよ、レザーソールだしね。でも、今回はちょっとオマケしとくよ。」
出木杉「いやいやいや、良いよそんなの! ただでさえワガママを聞いて修理してもらうんだから。この上、値段まで負けてもらうなんて・・・・・・」アセアセ
のび太「良いよ良いよ。気にしないで。流石に旧友から利益を取る気になんてならないからww」
出木杉「のび太君・・・・・・」
のび太「大丈夫だよ、ホントに。気にしないで。ただ、今、交換用のレザーソールのパーツがないから、入荷待ちと修理工程を含めて、1ヶ月ほど猶予をもらいたいんだけど、良いかな?」
出木杉「うん、それは一向に構わないよ。こんな格安で修理してもらえるなら、いくらでも待つさ。」
のび太「助かるよ。じゃあ、申込書に名前と電話番号を書いてもらえるかな?」サッ
出木杉「分かった。」サラサラッ
のび太「ありがとう。じゃあ、修理が終わったらまたこの番号に電話するから、そしたらいつでも都合の良い時に取りに来て。お代はその時で良いから。」
出木杉「のび太君、何から何までホントにありがとう。」
のび太「やめてよww 普通に仕事をしただけだからww 照れ臭いよww」
6 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:15:42.32 ID:cvmqAs0AO
出木杉「のび太君、変わったね。」
のび太「えっ? そうかな?」
出木杉「うん、変わったよ。なんて言うか・・・・・・失礼な言い方だけど、すごくしっかりして、頼りになる感じになった。」
のび太「昔は僕、頼りなかったもんねぇww おまけにバカでマヌケでww」
出木杉「その上、ドジでぐうたらだったww」
のび太「おいコラ、言い過ぎだろww」
出木杉「wwwwww」
のび太「wwwwww」
出木杉「でも、ホントにすごいと思うよ。さっきの修理の説明もすごく分かりやすかったし。『プロだなぁ』って感じがしたよ。」
のび太「いやいや、あれは靴屋の基本の“き”だよ。入社1年目で覚える事だから。」
出木杉「そうなんだ。じゃあ8年目の今は、もっとすごい知識を持ってるんだね。」
のび太「僕はまだ5年目だよ。中途入社だからね。」
出木杉「あっ、そうなの? 前は何の仕事を?」
のび太「いや、僕は・・・・・・」
のび太「・・・・・・25歳まで、引きこもりだったんだ。」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/04/30(月) 23:25:52.03 ID:W1PGYvb1o
期待
8 : ◆51UnYd7yHM :2012/04/30(月) 23:33:40.20 ID:cvmqAs0AO
>>7
ありがとうございます。
レスもらえると嬉しいものですね。
頑張ります。
13 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:43:13.32 ID:cvmqAs0AO
2002年。のび太20歳の誕生日。
この日、ドラエもんは未来に帰って行った。
高校に入った頃から、のび太は少しずつドラエもんの道具には頼らなくなってきた。
部活は弓道部に入った。
幼少の頃よりモデルガンの射撃には定評のあったのび太。
和弓とモデルガンではいささか勝手が違うが、コツを掴めば持ち前の射撃精度を発揮し、メキメキと頭角を表し始めた。
15 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:44:38.81 ID:cvmqAs0AO
人間とは、何か一つでも夢中になれる物が見付かれば変わるものである。
弓道に打ち込み出した辺りから、のび太は学業の成績も少しずつ向上させ始め、3年生の夏頃には都内の比較的偏差値の高い大学にも手の届くレベルとなっていた。
努力する事の楽しさを知ったのび太にとって、ドラエもんの道具はもはや必要ではなくなった。
悩み事があれば必ずドラエもんに相談する。
だが、道具は借りない。
そして自分の言葉で、体で、意志で解決する。
のび太が大学に入った時、ドラエもんは四次元ポケットを未来のせわしの家に預けた。
のび太からそう申し出たのだ。
17 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:48:32.38 ID:cvmqAs0AO
『まるでドラエもん自体が道具であるかのように考えていた、当時の自分が許せないんだ。』
こんなにも嬉しい言葉はなかった。
ロボットの人権が認められている22世紀の世界ですら、依然としてロボットをただの道具や機械とみなす人は少なくない。
なのに、100年も前の時代に生きるこの少年の、何と優しい事か。
ドラエもんは泣いた。
僕に涙を流す機能があって良かった。
僕がどれだけ幸せか、彼に伝える事ができる。
そこにはただ、野比のび太とドラエもんという、
2人の親友だけが残った。
18 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:50:05.72 ID:cvmqAs0AO
20歳の誕生日。
のび太は大学からの帰り道、パパ・ママ・ドラエもんに、それぞれプレゼントを買って帰った。
ママのお気に入りの洋菓子店のプリン、パパが社会人になった頃から贔屓にしているブランドのネクタイ、そしてあんこがたっぷり詰まったどら焼き。
この20年間、実に19回も誕生日を祝ってもらい、プレゼントを貰った。
ならばたまには、20年目の節目ぐらいは、こちらからプレゼントを渡しても良いのではないかと、のび太は考えた。
産んでくれてありがとう、育ててくれてありがとう、と。
ママもパパもドラエもんも、プレゼントを見て非常に驚き、そして目を潤ませて喜んでくれた。
そしてドラエもんはその夜、未来へ帰る事をのび太に告げた。
19 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:52:48.67 ID:cvmqAs0AO
のび太の成長を目の当たりにし、もう自分の助けは必要ないと確信したと言う。
ドラエもん「君はもう大丈夫だよ、のび太君。」
のび太にはワケが分からなかった。
大丈夫って何が?
僕はもう、ドラエもんに頼ろうなんて思っちゃいない。
ただ、親友とずっと一緒にいたいだけなのに。
なのに帰ってしまう?
なんで?
なんで?
頭の中でいくつもの言葉が飛び交った。
しかし、それは口には出さなかった。
頭は混乱していたが、一方でどこか冷静な自分がいた。
その冷静な自分は分かっていた。
ドラエもんがいつか、未来に帰ってしまう事を。
ふと、高校の卒業式の日を思い出した。
のび太は職員室を訪ね、お世話になった弓道部の顧問の先生に挨拶をした。
あの時、先生は今までに見せた事のない優しい目をしていた。
一人の人間を立派に育てた充足感、その人間の今後の幸せを願う慈愛、そして、愛しているが故の淋しさ。
様々な暖かい感情がない交ぜとなった、とても優しい目。
今のドラエもんは、あの時の先生と同じ目をしている。
ならば、この別れは避けられない。
いや、避けてはいけない。
20 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:55:52.98 ID:cvmqAs0AO
のび太はありったけの言葉で感謝を伝えた。
伝え続けた。
涙が止まらず、嗚咽で声が裏返っても、ドラエもんの丸い手をしっかりと握り、必死にありがとうと言った。
一緒に冒険をした。
一緒に色んな場所に行った。
ケンカもたくさんした。
それと同じだけ仲直りもした。
ドラエもんと出会えて本当に良かった。
ドラエもんと過ごした日々はとても幸せだった。
ドラエもん、ありがとう。
僕はドラエもんが大好きだ。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
ドラエもんがのび太に伝えようと思っていた言葉は、のび太が全て先に言ってしまった。
相手に対する想いは、お互い同じだったから。
なので、ドラエもんはただ黙って、泣きながら笑って、のび太の手を握り返しながら、優しく頷いていた。
二人の頭上を、夜がゆっくり流れていった。
やがて、窓の外に広がる空が白み始めた頃、別れの時がやって来た。
21 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:59:00.40 ID:cvmqAs0AO
のび太に見送られながら、ドラエもんは机の引き出しを開けた。
のび太は、泣いていなかった。
最後は笑顔で別れると決めたから。
ドラエもんの体が徐々に引き出しへと入ってゆく。
まるで水平線に沈み行く夕陽のようだ。
ドラエもんの丸い頭が少しずつ、引き出しの中へと消えてゆく。
のび太の脳裏を、狂ったように思い出が駆け巡る。
目に写る映像、写らない映像。
スローモーション。
そしてついに、青い夕陽は沈んでしまった。
引き出しが閉じられる。
静寂が訪れた。
ドスンッ!
のび太は膝から崩れ落ちた。
そして、部屋に立ち込める静寂を追い払うかのように、声を上げて泣いた。
涙は無尽蔵だ。
さっきあれだけ泣いたのに。
こんな明け方に大泣きしたら、きっと近所迷惑だろうな。
でも、止められない。
涙と、悲鳴のような嗚咽は、後から後から沸き上がってくる。
ドラエもんは
もう
いない。
それから1週間後。
のび太は部屋から出て来なくなった。
2012年 東京某所の靴屋
のび太「いらっしゃいませ。」
?「すいません。こちらのお店は靴の修理はやっていらっしゃいますか?」
のび太「はい。当店でお買い上げいただいた商品でしたら。」
?「あ、いや。買ったのは別のお店なんでs・・・・・・のび太君?」
のび太「えっ?」
?「のび太君だよね?」
のび太「はぁ、左様ですが・・・・・・」
?「僕だよ。覚えてない?」
のび太「・・・・・・!? 出木杉君!?」
出木杉「思い出してくれたかい?」
3 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:07:10.11 ID:cvmqAs0AO
のび太「出木杉君!ごめん、一瞬分からなかったよww 久しぶりだねぇ!」
出木杉「ホント久しぶりだねぇ。中学以来かなぁ?」
のび太「そうなるねぇ。僕ら、高校は別々だったから。」
出木杉「懐かしいなぁ。のび太君、靴屋さんに就職したんだ。」
のび太「うん、そうなんだ。」
のび太「あっ、ところでさっき言ってた修理って? ちょっと深刻そうな顔に見えたけど・・・・・・」
出木杉「あぁ、実はね、この革靴の底を張り替えたいんだけど・・・・・・」ガサゴソ
のび太「どれどれ・・・レザーソールか。結構磨り減ってるね。」
出木杉「就職祝いで父に買ってもらった大切な靴なんだ。今までに底は2回張り替えたんだけど、まだ張り替えられるなら張り替えたいと思って。」
のび太「そっかぁ。その2回張り替えてくれたお店ってのは?」
出木杉「会社の近くにあったんだけど、先月に廃業しちゃってね。他に修理してもらえるお店はどこかないかと探してるんだ。」
のび太「なるほどなぁ・・・・・・うん、分かったよ。うちで修理しよう。」
出木杉「えっ? 良いのかい? このお店で買った物じゃないのに。」
のび太「良いよ良いよ。基本、他店の商品は修理中に何かあっても保証ができないから断ってるんだけど、君とは昔のよしみだからね。修理させてもらうよ。」
出木杉「うわぁ、助かるよ。ありがとう、のび太君。」
のび太「どういたしまして。ただ、外底だけの張り替えじゃ済まなさそうだなぁ。」マジマジ
のび太「コルクの交換も必要かも知れない。」
4 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:10:44.05 ID:cvmqAs0AO
出木杉「コルク? 何なの、それ?」
のび太「見たトコロ、この靴はグッドイヤーウェルトという製法で作られてるんだ。グッドイヤーウェルトは両底にコルクのクッションを挟むんだけど」
出木杉「???」
のび太「あぁ、ごめん、ちょっと分かりにくい説明だったねww」
のび太「まず、出木杉君が張り替えて欲しいって言ってた、この地面と直に接する底。靴裏と言い換えても良いね。これを外底と言うんだ。」
出木杉「うん。」
のび太「そして、靴を履いた時に足の裏と接する、靴の内側の底。これを中底と言うんだ。」
出木杉「あぁ、確かにどちらも底と言えば底だね。」
のび太「そうなんだよ。ややこしいよねww」
のび太「それで、さっき言ったグッドイヤーウェルトっていう製法は、この外底と中底の間にコルクのクッションを挟んで作るやり方なんだ。もちろん他にも特徴はあるけど、ここでは省略するよ。」
のび太「コルクのクッションは、持ち主の足裏の形に合わせて変形するから、すごく足に馴染みやすくて履き心地が良いんだ。」
出木杉「確かに。履き始めの頃より今の方が楽だ。」
のび太「そうでしょ? それがグッドイヤーウェルトの魅力の一つなんだ。ただ、あまりに変形しすぎると、外底の張り替えの時に一緒に交換しなきゃいけなくなる。」
出木杉「えっ? どうして? せっかく足に馴染んできたのに?」
のび太「うん、張り替えに使う新品の外底は真っ平らだからね。凹凸の付きすぎたコルクだと、その真っ平らな外底と上手く着かないんだ。」
出木杉「あっ、なるほど!」
のび太「出木杉君のこの靴は、まさに今言った凹凸が付きすぎてる状態なんだ。だから外底と一緒にコルクも替える必要があるんだよ。」
5 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:12:49.23 ID:cvmqAs0AO
出木杉「なるほど、そういう事かぁ。」
のび太「だから外底交換とコルク交換を合わせて・・・・・・うん、10000円かな。」
出木杉「!? そんなに安いの!? 前の修理の時は外底交換だけで15000円ぐらいだったよ!?」
のび太「いや、もちろん普通はそれぐらいするよ、レザーソールだしね。でも、今回はちょっとオマケしとくよ。」
出木杉「いやいやいや、良いよそんなの! ただでさえワガママを聞いて修理してもらうんだから。この上、値段まで負けてもらうなんて・・・・・・」アセアセ
のび太「良いよ良いよ。気にしないで。流石に旧友から利益を取る気になんてならないからww」
出木杉「のび太君・・・・・・」
のび太「大丈夫だよ、ホントに。気にしないで。ただ、今、交換用のレザーソールのパーツがないから、入荷待ちと修理工程を含めて、1ヶ月ほど猶予をもらいたいんだけど、良いかな?」
出木杉「うん、それは一向に構わないよ。こんな格安で修理してもらえるなら、いくらでも待つさ。」
のび太「助かるよ。じゃあ、申込書に名前と電話番号を書いてもらえるかな?」サッ
出木杉「分かった。」サラサラッ
のび太「ありがとう。じゃあ、修理が終わったらまたこの番号に電話するから、そしたらいつでも都合の良い時に取りに来て。お代はその時で良いから。」
出木杉「のび太君、何から何までホントにありがとう。」
のび太「やめてよww 普通に仕事をしただけだからww 照れ臭いよww」
6 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:15:42.32 ID:cvmqAs0AO
出木杉「のび太君、変わったね。」
のび太「えっ? そうかな?」
出木杉「うん、変わったよ。なんて言うか・・・・・・失礼な言い方だけど、すごくしっかりして、頼りになる感じになった。」
のび太「昔は僕、頼りなかったもんねぇww おまけにバカでマヌケでww」
出木杉「その上、ドジでぐうたらだったww」
のび太「おいコラ、言い過ぎだろww」
出木杉「wwwwww」
のび太「wwwwww」
出木杉「でも、ホントにすごいと思うよ。さっきの修理の説明もすごく分かりやすかったし。『プロだなぁ』って感じがしたよ。」
のび太「いやいや、あれは靴屋の基本の“き”だよ。入社1年目で覚える事だから。」
出木杉「そうなんだ。じゃあ8年目の今は、もっとすごい知識を持ってるんだね。」
のび太「僕はまだ5年目だよ。中途入社だからね。」
出木杉「あっ、そうなの? 前は何の仕事を?」
のび太「いや、僕は・・・・・・」
のび太「・・・・・・25歳まで、引きこもりだったんだ。」
期待
8 : ◆51UnYd7yHM :2012/04/30(月) 23:33:40.20 ID:cvmqAs0AO
>>7
ありがとうございます。
レスもらえると嬉しいものですね。
頑張ります。
13 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:43:13.32 ID:cvmqAs0AO
2002年。のび太20歳の誕生日。
この日、ドラエもんは未来に帰って行った。
高校に入った頃から、のび太は少しずつドラエもんの道具には頼らなくなってきた。
部活は弓道部に入った。
幼少の頃よりモデルガンの射撃には定評のあったのび太。
和弓とモデルガンではいささか勝手が違うが、コツを掴めば持ち前の射撃精度を発揮し、メキメキと頭角を表し始めた。
15 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:44:38.81 ID:cvmqAs0AO
人間とは、何か一つでも夢中になれる物が見付かれば変わるものである。
弓道に打ち込み出した辺りから、のび太は学業の成績も少しずつ向上させ始め、3年生の夏頃には都内の比較的偏差値の高い大学にも手の届くレベルとなっていた。
努力する事の楽しさを知ったのび太にとって、ドラエもんの道具はもはや必要ではなくなった。
悩み事があれば必ずドラエもんに相談する。
だが、道具は借りない。
そして自分の言葉で、体で、意志で解決する。
のび太が大学に入った時、ドラエもんは四次元ポケットを未来のせわしの家に預けた。
のび太からそう申し出たのだ。
17 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:48:32.38 ID:cvmqAs0AO
『まるでドラエもん自体が道具であるかのように考えていた、当時の自分が許せないんだ。』
こんなにも嬉しい言葉はなかった。
ロボットの人権が認められている22世紀の世界ですら、依然としてロボットをただの道具や機械とみなす人は少なくない。
なのに、100年も前の時代に生きるこの少年の、何と優しい事か。
ドラエもんは泣いた。
僕に涙を流す機能があって良かった。
僕がどれだけ幸せか、彼に伝える事ができる。
そこにはただ、野比のび太とドラエもんという、
2人の親友だけが残った。
18 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:50:05.72 ID:cvmqAs0AO
20歳の誕生日。
のび太は大学からの帰り道、パパ・ママ・ドラエもんに、それぞれプレゼントを買って帰った。
ママのお気に入りの洋菓子店のプリン、パパが社会人になった頃から贔屓にしているブランドのネクタイ、そしてあんこがたっぷり詰まったどら焼き。
この20年間、実に19回も誕生日を祝ってもらい、プレゼントを貰った。
ならばたまには、20年目の節目ぐらいは、こちらからプレゼントを渡しても良いのではないかと、のび太は考えた。
産んでくれてありがとう、育ててくれてありがとう、と。
ママもパパもドラエもんも、プレゼントを見て非常に驚き、そして目を潤ませて喜んでくれた。
そしてドラエもんはその夜、未来へ帰る事をのび太に告げた。
19 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:52:48.67 ID:cvmqAs0AO
のび太の成長を目の当たりにし、もう自分の助けは必要ないと確信したと言う。
ドラエもん「君はもう大丈夫だよ、のび太君。」
のび太にはワケが分からなかった。
大丈夫って何が?
僕はもう、ドラエもんに頼ろうなんて思っちゃいない。
ただ、親友とずっと一緒にいたいだけなのに。
なのに帰ってしまう?
なんで?
なんで?
頭の中でいくつもの言葉が飛び交った。
しかし、それは口には出さなかった。
頭は混乱していたが、一方でどこか冷静な自分がいた。
その冷静な自分は分かっていた。
ドラエもんがいつか、未来に帰ってしまう事を。
ふと、高校の卒業式の日を思い出した。
のび太は職員室を訪ね、お世話になった弓道部の顧問の先生に挨拶をした。
あの時、先生は今までに見せた事のない優しい目をしていた。
一人の人間を立派に育てた充足感、その人間の今後の幸せを願う慈愛、そして、愛しているが故の淋しさ。
様々な暖かい感情がない交ぜとなった、とても優しい目。
今のドラエもんは、あの時の先生と同じ目をしている。
ならば、この別れは避けられない。
いや、避けてはいけない。
20 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:55:52.98 ID:cvmqAs0AO
のび太はありったけの言葉で感謝を伝えた。
伝え続けた。
涙が止まらず、嗚咽で声が裏返っても、ドラエもんの丸い手をしっかりと握り、必死にありがとうと言った。
一緒に冒険をした。
一緒に色んな場所に行った。
ケンカもたくさんした。
それと同じだけ仲直りもした。
ドラエもんと出会えて本当に良かった。
ドラエもんと過ごした日々はとても幸せだった。
ドラエもん、ありがとう。
僕はドラエもんが大好きだ。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
ドラエもんがのび太に伝えようと思っていた言葉は、のび太が全て先に言ってしまった。
相手に対する想いは、お互い同じだったから。
なので、ドラエもんはただ黙って、泣きながら笑って、のび太の手を握り返しながら、優しく頷いていた。
二人の頭上を、夜がゆっくり流れていった。
やがて、窓の外に広がる空が白み始めた頃、別れの時がやって来た。
21 : ◆51UnYd7yHM [sage]:2012/04/30(月) 23:59:00.40 ID:cvmqAs0AO
のび太に見送られながら、ドラエもんは机の引き出しを開けた。
のび太は、泣いていなかった。
最後は笑顔で別れると決めたから。
ドラエもんの体が徐々に引き出しへと入ってゆく。
まるで水平線に沈み行く夕陽のようだ。
ドラエもんの丸い頭が少しずつ、引き出しの中へと消えてゆく。
のび太の脳裏を、狂ったように思い出が駆け巡る。
目に写る映像、写らない映像。
スローモーション。
そしてついに、青い夕陽は沈んでしまった。
引き出しが閉じられる。
静寂が訪れた。
ドスンッ!
のび太は膝から崩れ落ちた。
そして、部屋に立ち込める静寂を追い払うかのように、声を上げて泣いた。
涙は無尽蔵だ。
さっきあれだけ泣いたのに。
こんな明け方に大泣きしたら、きっと近所迷惑だろうな。
でも、止められない。
涙と、悲鳴のような嗚咽は、後から後から沸き上がってくる。
ドラエもんは
もう
いない。
それから1週間後。
のび太は部屋から出て来なくなった。
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