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少年「あなたが塔の魔女?」

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Part2
37 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 08:22:44 ID:IchVhHA6
魔女「君は料理というものをしたことがあるかい?」
少年「僕は料理をしたことはないや」
魔女「そうか、残念だ」
少年「うん、ごめんね」
 魔女はなんだか落ち着かないみたいです。 さっきからこんな会話ばかりが続きます。
魔女「僕は何か食べたいんだけど」
少年「僕は何も持ってないよ?」
魔女「だろうね」
 魔女が話しかけてくれるのはうれしいんだけど、なんだかさっきより居心地が悪いです。
魔女「ねぇ、少年。 お使いを頼まれてくれないかな?」
 魔女にお使いを頼まれるなんて思っても居ませんでした。

38 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 11:11:16 ID:IchVhHA6
 塔から村までは、大した距離ではありません。 少し鼻歌を歌って歩いていればついてしまう距離です。
 熊や狼も、森には居ますが会ったことが無いのであまり気にしません。 むしろ、一度会ってみたいような気もします。
青年「おぉ、少年じゃないか。 何してるんだ?」
 村の入り口で青年さんに会いました。 頬には手のひらの痕があります。
少年「お使いだよ。 青年さんは?」
青年「ん、あぁ俺もそんな所だ
 やっぱり僕はこの人の事が好きじゃないようです。
 胸の辺りに嫌な感じがもやもやと広がりますもん。

39 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 12:31:58 ID:IchVhHA6
 村にはパン屋さんがありました、小さな小さなパン屋さんです。
 焼き上がりの時間になると美味しそうな匂いが村の間を風に乗って流れます。 
少年「パンを下さい」
 お店にはパン屋の娘さんがいて、焼きたてのパンを並べていました。 どれもサクサク、ふわふわの美味しそうなパンです。
娘「っ少年!?」
 娘さんは驚いたような顔で僕を見ます。 どうやら僕がパンを買いにくるとは思っていなかったようです。
娘「その……大丈夫?」
 なにやら心配したような顔でした。 
 僕は人にこんな顔をさせることが多いです。 駄目な奴なんですね。 きっと。

40 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 12:33:38 ID:IchVhHA6
少年「ん、大丈夫だよ」
 僕は魔女から預かっていた金貨を差し出しました。 これ一枚で店にあるパンを全て買ってもお釣りがきます。
娘「……どうしたの、これ?」
 魔女は正直に言っては駄目といって金貨を僕に渡しました。 なので嘘をつく事にします。
 嘘は嫌いなんだけどなぁ。
少年「森で拾ったんだ、これで足りる?」
 魔女いわく、金貨の価値を知らないふりをしろ、だそうです。 そうすれば買い物で余計ないざこざが減るらしいです。
 人間ってそんなもの、らしいです。
娘「えぇ、足りるわ。 どのくらい欲しいの?」
 娘さんは少し動揺したような、上擦った声で言いました。
少年「お釣りが無いように欲しいな」
娘「………」
 娘さんは悩んでいるようでした。 この人は悩んでいる姿が様になりません。 魔女なら凄く頭が良さそうに見えるのに。

41 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 12:35:37 ID:IchVhHA6
青年「これくらいじゃないかな?」
 後ろから声がしました。
少年「あぁ、青年さん、パンを買いに来たの?」
青年「あぁ、そんな所さ」
 青年さんはお店の籠に大きなパンを何個か入れると、にっこり笑って言いました。
青年「少しおまけしてコレくらいだな、なぁ娘?」
 青年さんはちらりと娘さんを見て頷きました。
娘「え、えぇ、そうね」
 娘は頷くと、籠にもう一つパンを入れてくれました。
青年「良かったな、少年。 娘にありがとうしなきゃな」
 青年さんはにっこりと笑っています。
少年「うん、ありがとう娘さん」
 僕もにっこり笑って応えます。 そうした方がいいから、そうします。
 人間ってそんなもの、です。


42 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 12:40:19 ID:IchVhHA6
少年「じゃあね」
青年「あぁ、じゃあな」
娘「ま、またね」
みんな顔がにっこりしてました。 まるで仮面をつけてるみたいです。
 みんな笑顔のままならそれも素敵なことかもしれないですね。
 僕が、パン屋さんを離れると、青年さんは娘さんの腰に手を回してお店の中に消えていきました。
 そういう関係、と大人の人達は軽蔑したような目で言っていたのを思い出しました。 みんな知っている、村の秘密です。
 知っているのに秘密だなんて、不思議だと思います。
 ただ、青年さんが周りからあまり好かれてないと思うと、嬉しいような、悲しいような気持ちになります。

45 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 18:58:42 ID:IchVhHA6
 魔女の塔に戻りました。
 長い長い石造りの階段をぐるぐる回って、頂上の魔女の部屋を目指します。
 なんだか、ぐるぐると回っている内に違う世界に迷い込んでいくような不思議な感じがします。
 僕は、この感覚が好きです。
 だから魔女も、ここに住んでいるのかな? それとも魔女が住んでいるからこうなのかな?
 ひんやりと沈んだ空気の中、僕はそんな事を考えてました。
少年「魔女、買ってきたよ」
魔女「あぁ、お使いご苦労」
 やっぱり魔女は安楽椅子に腰掛けて本を読んでいました。
 花瓶の置いてある窓から入った風が、魔女の蜂蜜のような濃い金色の癖っ毛を微かに揺らしてます。
 一枚の絵のように、自然で美しいと思います。

46 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 18:59:30 ID:IchVhHA6
少年「ねぇ、魔女。 なぜ金貨の価値を知らないふりしなければいけなかったの? あれは大金だよね」
 魔女は受け取ったパンを手に取り、しげしげと眺めながら応えてくれました。
魔女「君は、わかってるんじゃないのかい?」
 魔女は小さな口を精一杯広げてパンを頬張ります。
 なんだか栗鼠みたいです。
少年「なんとなくしか分かんないや。 それに僕は魔女じゃないから、魔女が考えている事なんてわかんないよ」
 魔女の考えと僕の考えが同じだったらそれは素敵なことだけど。

47 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 19:00:04 ID:IchVhHA6
魔女「人間は自分の物にならないものよりも、確実に手には入るものに目がくらむ奴が大抵だからね」
 魔女は、あっという間にパンをひとつ平らげると、僕にパンをひとつ飛ばしました。
魔女「もし、仮に君が金貨の価値を知った上で、このパンとの正当な取引をしようとすれば、大金を持っている理由に興味が湧くだろう。 妬みに近い感情で」
 僕は、渡されたパンを掴んだまま魔女の話を聴きました。
 薄く笑った魔女の顔は感情を表している笑顔なので僕は好きです。
 なぜ人は、感情を隠すために笑顔を作るんでしょうね? 不思議ですよね。

48 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 19:01:06 ID:IchVhHA6
魔女「でも、金貨が自分の手に入るかも知れないと考えたら、その金貨の出所なんて途端に興味がなくなる。 僅かな罪悪感と、大きな満足感に比べれば、ね」
 難しい話でしたが、なんとなく僕と同じような考えだと言うのは分かりました。
少年「人間って、そんなものだよね」
魔女「うん、人間ってそんなものさ」
 魔女の笑い方はなんだか悲しそうでした。
 そう見えたのは、沈む夕日が魔女を照らしてたからなんでしょうか?
 僕は、魔女じゃないから分かりませんでした。

53 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 21:16:57 ID:IchVhHA6
魔女「僕はもうおなか一杯になったんだけど、君は食べないのかい?」
 魔女はまた本を見てます。
 今日一日魔女が安楽椅子から降りたのをみていません。
少年「食べようかな」
魔女「……そう」
 魔女は僕がパンを食べるかどうか、あまり興味がないようです。
 すっかり冷えてしまいましたが、やはりパンはいい匂いです。
 僕はパンを噛みしめます。
少年「魔女、このパンどんな味がした?」
魔女「ふんわりとバターの香りが鼻腔を抜けていく、久々に食べた食物がコレで良かったと思える程度にはおいしいパンだと僕は思ったけど?」
 そうか、このパンは美味しいんだ。

54 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 21:39:45 ID:IchVhHA6
魔女「君的にはどうだったのかな?」
少年「魔女と同じだと思う」
 嘘は嫌いなんだけどなぁ。
魔女「……そう」
 魔女は僕の方に視線を向けるとなんだか残念そうな顔でため息をつきました。
 どうやら、魔女の期待から外れてしまったようです。 残念です。
 手に残ったパンを口に運ぶ作業に戻ります。
 胃に入れた先からこみ上げてくる吐き気との戦いには骨が折れますね。

56 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 21:58:30 ID:IchVhHA6
魔女「飲み物……必要かい?」
少年「できれば」
 魔女は安楽椅子から降りて、奥の部屋から硝子の小瓶を持ってきました。
 彼女の瞳よりも濃い紫色の液体が満たされている小瓶は、凄く不味そうです。
魔女「生憎だけど、僕の家には飲み物といえばこれくらいしかないんだ」
少年「飲まなきゃ、駄目なの?」
魔女「飲まなくても良いけど、僕はわざわざ読書を中断してまで取りに行ってあげたんだよ?」
 魔女は諭すように言いました。 少しずるいと思います。

57 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 21:58:45 ID:IchVhHA6
少年「わかった。 わざわざありがとう」
 冷たくも温かくもない、苦くて酸っぱくて甘くてしょっぱい液体が喉を通っていきます。
魔女「どんな味がした?」
少年「苦くて酸っぱくて甘くてしょっぱい味」
魔女「そう、良かったわね」
 魔女はなんだかほっとしたような顔をして、安楽椅子に戻ります。
 あまりに変な味だったせいか、いつの間にか吐き気は収まっていました。

58 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 23:03:57 ID:IchVhHA6
魔女「さて、夜も更けてきたようだ」
 魔女は読んでいた本をパタンと閉じて言いました。
少年「うん」
魔女「今日はいつまで居るのかな?」
 魔女の瞳がいつもより小さく見えます。
少年「居ても良いまで」
 この部屋はランプもないのに随分と明るいです。 部屋の壁がぼんやりと光っているからなんですが、これも魔女の魔法なんでしょうか?

59 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 23:04:14 ID:IchVhHA6
魔女「……」
 魔女の瞼が徐々に下がっています。 眠いんでしょうね。
魔女「居ても良いまでとは言ったが、ここには僕の分の寝具しかないんだけど」
少年「魔女は眠らないんじゃないの?」
魔女「魔女だって眠るさ」
少年「なら帰った方が良さそうだね」
 居心地が良い分、帰る時は後ろ髪を引かれるような気分になります。 でも、魔女の睡眠の邪魔は良くないですね。 『寝不足は美容の天敵よ』ってお姉ちゃんも、言ってたし。

60 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 23:06:03 ID:3KufQS5g
~リビング~
男「お母さんは?」
父「ああ、長旅の疲れが出たんだろう。先に休んでいるよ」
男「そっか」
父「......それで男の意見を聞かせてもらえるかな」
男「意見って......もう決まったことなんだろ」
父「まあそうなんだが......」
男「......従うよ、親父に......」
父「そうか、すまない」

61 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 07:30:58 ID:kQaYoE2g
 塔を出て森を歩きます。 耳を澄ませば、遠くにある木々の葉が風に擦れる音までも聞こえてきそうな程、静かな、透明な夜です。
 どこからか狼達の遠吠えが聞こえてきました。
 不純物のない空気は、思わず深呼吸をしたくなります。
少年「?」
 しばらく歩いている内に、青年を見かけました。
 スコップを片手に怖い顔で森の奥へ消えていきます。
 なにやら大きな荷物を背負っていました。
 ちょうど娘さんくらいの大きさだな、なんて思ってしまいました。
 そんな訳ないですよね?

65 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 21:51:50 ID:kQaYoE2g
「ただいま」
「うん、魔女は悪い人じゃないよ」
「はは、お姉ちゃんは心配しすぎだよ」
「魔女の正体?」
「魔女は魔女じゃないかなぁ」
「今日は父さんがいないね? まだ帰らないんだ」
「大丈夫だよ、父さんなら」
「今日もお姉ちゃんと一緒に寝るの?」
「良いけど、お姉ちゃんチクチクしてくるから痛いんだよなぁ」
「うん、お休みなさい」
少年「ん、今日は雨か……」

66 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 21:52:51 ID:kQaYoE2g
 今日は朝から雨でした。 雨は素敵だと思います。 昔、お母さんが『雨は、泣きたくても泣けない人の代わりにお空が泣いてくれているの』と言っていました。
 でもそれは嘘だと思います。
 だって、それならば、毎日雨が降っていなきゃおかしいでしょうから。
 それに、自分の悲しみなのに、どこかの誰かが何の断りも無しに奪って行くなんて酷い話だと思いませんか?
 喜びや悲しみは、感じた人だけが表現できる大切な物だと僕は思うんです。
 僕の悲しみは僕じゃなきゃ悲しめませんものね。
少年「押しつけがましいから雨は嫌いなんだ」


67 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 22:45:54 ID:kQaYoE2g
 魔女の塔へ行く途中、村のみんなが慌てていました。 口々に娘さんの名前を呼んでいます。
青年「少年!? 娘を見なかったか?」
 青年さんが慌てた様子で僕に話しかけてきました。 周りの村人のみんなはそれを遠くから眺めてます。
 どうやら、娘さんが居なくなったらしいです。 青年さんは、周りに聞こえるような大きな声で、僕が昨日の夜何をしていたか聞いてきました。
少年「昨日の夜は森を散歩していたよ。 その後は家に帰って寝たんだ」
青年「夜の森に一人で散歩? 何か目的でもあったのかい?」
少年「うーん、特に理由は無いけど」
青年「理由も無く夜の森を? おかしな事もあるもんだ。 野獣が彷徨くような夜の森にふらふらと行くなんて!!」
 青年さんは一層大きな声で言いました。 まるで僕の話している内容を、周りのみんなに聞かせているみたいです。
 みんなに聞かせるような面白い事は話して無いつもりなんですけど。

68 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 22:49:28 ID:kQaYoE2g
少年「そうは言っても……」
 魔女の事はなんだか話したくありませんでした。 僕の中だけの出来事で良いからです。 青年さんに話せば、周りにも聞こえてしまうでしょうし。
青年「そうか。 もし娘を見かけたら教えてくれ。 彼女のパンは村の大切な財産だから」
 青年さんはそれだけ言うと、村のみんなのところに戻っていきました。 村のみんなは、僕の方を見ながら小さな声で何か話し合っているようで、少しだけ内容が気になります。
 内緒話なんて、良くないです。
 なんとなく、昨日の夜に青年さんを森で見かけた事は言わないでおきました。
 なんとなく、言わない方がいい気がしたからです。

72 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/27(日) 22:29:10 ID:IbKh7y.k
少年「やぁ魔女。 今日も本を読んでいるんだね」
 今日も魔女は安楽椅子にその小さな身体を預けて読書をしています。
魔女「あぁ、僕にとっては読書は呼吸にも等しいからね」
 魔女は、今日は僕の方に視線すら向けません。 よほど面白い本なのでしょうか?
魔女「今日は……ないの?」
 魔女は本からは視線をずらさずにポツリと呟きました。
少年「なにが?」
魔女「いや、何でもない」
 魔女の視線が一瞬窓辺の方へ向きました。
 窓辺では綺麗に飾られた昨日の花が、風に揺れています。 その隣にはなにも飾られていない花瓶が一つ、置かれていました。

73 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/27(日) 22:29:30 ID:IbKh7y.k
少年「もしかして、花が欲しかった?」
魔女「いや、そういう訳じゃないんだけどね。 ただ……」
少年「?」
魔女「素敵な贈り物だったからつい、期待してしまったんだ。 恥ずかしい話だけど、ね」
 魔女の声は、普段と変わりません。 澱まず、通り抜けていく、見た目の割に落ち着いた低い声。
 ただ、その夕闇の色をした紫色の瞳は少し残念そうに見えました。

77 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 15:04:01 ID:DJ6La7VI
 魔女が花を好きだとは思いませんでした。 知っていたなら一抱えでも、二抱えでも花を持ってきたというのに。
少年「ごめんね、魔女が花を欲しかった事に気がつけなくて」
魔女「よしてよ、僕だって柄じゃないことくらい自覚している。 それに、声にも出してもいない思いを他人に悟られる程若くはないよ」
 魔女が笑いました。 ほくそ笑むように唇だけを歪めるいつもの笑い方ではなく、しっかりとした笑みです。
 それは自嘲気味な、寂しい笑顔でした。 でも、まるで神様が魔女の為に作った表情だと思ってしまう程魔女には似合っていてました。

78 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 15:05:19 ID:DJ6La7VI
少年「魔女の笑顔はどうしてそんなに悲しいの?」
 魔女は夕闇のような深い紫の瞳を、満月のように丸くして僕の方を見ました。 驚いているようです。
 そして、安楽椅子から降りると僕の方へ歩いてきました。
 その表情は、怒っているような、喜んでいるような、そんな表情です。
魔女「まさかそんな事を言われるとは思わなかったよ」
少年「怒らせちゃったかな?」
魔女「あぁ、怒っている。 あって数日の年端もいかぬ少年に分かったような口を叩かれたんだ。 魔女のプライドもあったもんじゃない」
少年「……ごめん」
魔女「ただ、それを言われたのは君が初めてじゃないんだ。 だから、その言葉を君から言われて、なんというか複雑な気持ちでもある」
 魔女はまた、笑いました。
 泣き出してないのが不思議なくらい悲しい、寂しい笑みでした。

81 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 20:28:33 ID:DJ6La7VI
 魔女は、それだけ言うと安楽椅子に戻りまた本を読み始めました。 
 僕も、魔女も、口を開きません。 時間だけが過ぎていきます。
 日が暮れていきます。 茜色の空が紫色に染まっていきます。 
少年「今日はもう帰るよ」
 魔女は明日も来て良いと思ってくれているでしょうか?
魔女「あぁ」
 魔女は本から視線を外さないで答えました。
少年「じゃあね。 それと魔女……」
魔女「なに?」
 魔女はまだ僕を見てくれません。
少年「明日、来ても良いかな?」

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