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娘「お父さんスイッチ『う』!!」

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Part2
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 13:10:58.82 ID:8ZfAPCUv0
地下道を潜り抜けると俺は再び大通りに戻ってきた
律儀にも会社へ早退願を出した俺はあの公園からめぐり巡って向かおうとしていた
そう、あの日妻とあの男が歩いていた場所に
偶然にも俺の前をあの時と同じ色のタクシーが走り抜けていく
自然に視線はそのタクシーを追った
と、やおら私の眼は自然に開かざるを得なかった
後部座席にいたのは紛れもなく私の妻、そしてあの男だったからである
とっさに手を挙げてタクシーを呼ぼうとした
幸いにも通りの向こう側には空車らしきタクシーがいる
がしかしその思考は別のものにさえぎられる
近くの路地から飛び出してきた車に乗るのは
まさしくあの探偵だったからだ
探偵は俺に軽く笑うと、タクシーを追いかけていった
連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「ち」の章    完

138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 13:37:34.02 ID:V+bYtJik0
冷たい風が頬を撫でる。
「おい、ちょっとこの車冷房効き過ぎなんじゃないのか?」
「私、こう見えても汗掻きなんですよ」
各堂と妻の乗ったタクシーを追いかけている車内は、
嫌に寒気がした。
冷房のせいなのか、それとも別の要因が絡んでいるのか。
つまるところ考えてもしょうがないのだ。
私に今出来ることは、この車を追うことしかないのだから。
「追って、どうしましょうかね」
探偵の言葉に、私は直ぐに答えることが出来なかった。
車内で流れるBGMは、寂しいバラード。
しっとりと、空間を包む。
「……ラジオに変えてもいいか?」
「ああ、すみません。私こういう曲が好きなもんで。
 どんな時でも落ち着いていられるでしょう」
「勘弁してくれ」
切り替えられたラジオからは芸人の笑い声、
これもとても耳障りだった。
目の前の車のナンバーを見つめ続けながら。
連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「つ」の章    完

147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:03:17.81 ID:SWGf9u6j0
手を握り締めてしまっていた。
「……」
俺も、よれよれワイシャツも、無言である。
タクシーの運転手も、恐らく事態を察しているのだろう。
料金の請求をしてこない。
目の前にはラブホテル。
今すぐ飛び出してしまいたかった。
そして各堂を殴りつけたかった。
そうしなかったのは、ひとえに手首を掴まれていたからだ。
「早まった行動はしないでください。
 あなたが傷を負わないからこそ、制裁になるんです」
わかっているつもりだった。
しかし、目の前にいざ光景として現れると……。
運転手に三千円を握らせて、タクシーを降りる。
すでに妻と各堂はホテルへと消えてしまった。
よれよれワイシャツが写真を撮っていたが、
それだけで有効打になるのかどうか。
「多分無理でしょう。あいつは身を簡単に眩ませられます。
 まずは逃げ場を消さないと。
 今日のところは、あなたは一旦帰ってください。顔色がひどいですよ」
頭に手を遣り、うなずいた。
誰を、何を信じればいいのか。
娘の顔が脳裏をよぎった。
連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「て」の章    完

151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:24:28.77 ID:F8SmyHES0
「父さんと、母さん、どっちが好きだ?」
嗚呼、聞いてみたい。聞いてしまいたい。
いっそのこと。
ただそれは駄目だ。
娘にはいらぬ心配をかけさせたくはない。
デリケートな時期である。
ちょっとしたことから敏感に私の心を察してしまうだろう。
「お父さん、また痩せたんじゃない?」
「夏だからな、少しバテているんだ。そんなことより、…」
あぶなかった。
私の心はこの頃妻の事で一杯である。
まだ私達が付き合っていたあの頃よりも。
少しのきっかけから、話が妻の事に行ってしまいそうになる。
「顔色も悪いよ、夏も近いし一度しっかり診てもらって来たら?」
娘は心底心配そうにこちらを見ている。
私の中で何かがはじけた。
「ああ、そうしようかな」
「お前のとこ、看護学校だったろう。」
「一度行こう行こうと思ってたんだ」
「見学ついでに、横の大学病院に行ってこようかな」
「お前、私に」
「ついてきてくれるかい?」
連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「と」の章    完

153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:33:05.25 ID:SWGf9u6j0
「なに言ってんの、お父さん。子供じゃないんだから」
娘は苦笑しながらそう言った。
「まぁそうだよな。明日いってくるよ」
「本当に気をつけてよ」
「そうそう、一家の大黒柱なんだから」
妻が台所から会話に混ざってくる。
たったの一言で、
俺は自分の心がささくれだつことを自覚していた。
今すぐにでも今日のことを問い詰めたい。
この幸せな家族「ごっこ」を、もう少し長く続けていたい。
娘には罪などないのだから、
せめて娘は何も知らないうちに終わらせる。
そのためなら、人だって殺してみせよう。
家族の幸せを守るためなら、なんだってできる。
連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「な」の章    完


160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:06:16.46 ID:SWGf9u6j0
肉食動物も、草食動物も、
自分や家族を守るためには本領を発揮する。
巣や縄張りを守るということは、
それの極めつけのようなものだ。
俺は人間で、動物だ。だから行動原理は変わらない。
病院に行くふりをして、俺はホームセンターに寄った。
平日午前のホームセンターには以外と人がいる。
多少緊張しながら、工具コーナーや刃物コーナーを見て回る。
あいつを殺してやるつもりだった。
幸せな家族を守るために、俺に出来ることは他にない。
弁護士を仲介し、警察が解決したところで、幸せな家族は戻らない。
妻にも知られず、娘にも知られず。
俺が知っていることを、妻にも知られず。
当然警察にも知られず。
あたりまえだ。俺は各堂のために何一つ失うつもりなどない。
あんなやつのために、損失を被ってはならない。
殺意のスイッチはすでにONになっている。
連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「に」の章    完

165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:23:04.50 ID:u15+lSwr0
塗りつぶされていくのを感じる。
自分の心が、憎しみで黒く、黒く。
乱暴に漆を塗るように、何度も、何度も。
凶器を選ぶ手にも自然と力が入っていた。
ハンマーの柄を強く握りしめる。
それだけで心が満たされていく。
大きな角材を見上げる。それだけで血湧き肉躍る。
電動ネジ回しの重みを確かめ、引き金を握る。
振動が妙に心地良い。
そのどれもが私を応援してくれているようだった。
「頑張って」「僕がついてるから」
「あんなヤツ殺してしまえばいいんだ」
カモフラージュのために
何枚かのベニヤ板と共に日曜大工道具を揃え、レジへ向かう。
長い釘、鋸、トンカチ、角材、電動ねじ回し。
人ひとり死に至らしめるには充分すぎる品揃えだ。
奴さんにおあつらえ向きの死を、プレゼントしてやろう。
あとはどうやって自分を無実に見せかけるか、だ。
監視カメラと目が合った。
連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「ぬ」の章    完

167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:31:57.04 ID:tPydJSTS0
「ねえ、こんなにたくさん、何か作るの?」
「ん?ああ、たまには日曜大工でもしようと思って。」
突然たくさんの道具と木材を買って、お父さんが帰って来た。
「何か作ってほしいものはあるかい?」
なんて聞かれても、突然だから思いつかないよ。
ふふ、お父さんてばいつも思いつきで行動するんだから困るよね。
だけど変だな。
お父さん、工作とか日曜大工は苦手だったはずなのに。
大人になっても、人って変わるものなんだね。
連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「ね」の章    完

188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:31:19.55 ID:F8SmyHES0
鋸の音が響く。
私は各堂の体を分解していた。
恨みを、怒りを、妬みを、一刃一刃、こすりつけるように切る。
病院で寝不足と診断されたのが幸いした。
頂いた睡眠薬を使うことができた。
至極あっさりと、各堂は眠るように死んだ。
こんな安らかなものでいいはずはない、とも思ったが、
刃物でー撃、
でも挑戦して無闇に声を立てられてはかなわないと思い、
死んでからこのような「凶行」に及ぶことにした。
もはや各堂は頭と内臓のー部を残すのみである。
残りのパーツはすでに片付けてしまった。
不思議と喜びはあまりない。
かといってこの屑を悼む気持ちも湧いてこない。
私は何も失わない。
もちろん逮捕などもっての他である。
妻だって、娘だって失うつもりは、ない。
VIP連続小説  「お父さん、殺意のスイッチ」 「の」の章    完

195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:05:41.92 ID:F8SmyHES0
「はーい・・・って高田さん、また朝帰りですか」
「ごめんね藤田くん。今やってる案件がちょっと立て込んでてさ」
「相変わらず正義の味方気取ってるんですか、
 もうやめましょうよ、43っすよ」
「うるせえ、お疲れ様。今日はもう帰っていいよ」
「はい、ではまた明日の夜に来ます」
電話番の藤田君を帰して一息つく。
あれから2週間、
例の「妻」「各堂」が見当たらないどころか、旦那からも連絡がない。
特に何か進展した訳ではないが、
ここいらでもうー度作戦会議をしようか・・・と考えていると、
電話のべルが鳴った。
「はいこちら高田探偵事務所ですが・・・」
得てして、探偵事務所に頼むような事は電話では話しにくい事である。
この依頼者も、アポイントだけを取って後ほど来る、というタイプであった。
数時間後。
トントン、トントン。
さっきの人だろう。「はいどうぞお入り下さい」
ガチャリと開いたドアのむこうで、
「人探しをお願いしたいんです、
 あの、恋人が急に居なくなってしまって、どうしたらいいのか・・」
開けるやいなや矢継ぎ早に「妻」がしゃべり出した。
VIP連続小説 「お父さん、殺意のスイッチ」  「は」の章   完

206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:29:26.63 ID:F8SmyHES0
独り身です、と「妻」は当然のように言った。
どういうことだ。嫌な予感しかしない。
「その、蒸発・・された方のお名前をお閨かせ下さい」
「久藤隆一、といいます。どうかあのひとを見つけて下さい、お願いします」
久藤、というのは各堂のことだ。
彼女の出した写真を見て、それは明白となった。
嫌な予感しかしない。
「ご結婚・・・されてないんですね。お綺麗なのに」
「ええ。私、独身貴族ってやつですわ」
確定だ。こいつは嘘をついている。
「居なくなって、どれくらいですか?」
「一週間、電話も何も繋がらないんです、
 あの、私付き合い長いくせに被の家も知らなくて・・・」
各堂の家は調べがついている。
一度行ってみないといけないだろう。
どちらの案件のためにも。
「わかりました、では捜索いたしますので、
 連絡先をここに書いてお帰り下さい」
「妻」は自分のアイフォンの番号を書いて帰っていった。
糞ビッチめ、と小声で呟く。
やっぱり嫌な予感がした。
VIP連続小説 「お父さん、殺意のスイッチ」 「ひ」の章    完

209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:37:54.86 ID:3e3N4sjj0
不思議なものだ。
人を殺すということに、人並みに抵抗はあった。
昔までは。
この男を殺したことを、あの探偵はどう思うだろう。
私の身を案じて助力を尽くしてくれたあの正義の味方は。
結果彼を裏切ることにわずかな罪悪感はあったが、
今となってはそんな気持ちも奇麗に霧散してしまっていた。
「ああ、腹が減ったな。」
慣れない鋸を引き続けた腕は重く痺れていた。
これで俺を苦しめていた悩みは消えたのだ。
しらず頬に笑みが上った。
そうだ、ケーキを買って帰ろう。
たまにはいいだろう。
ポケットの携帯電話が鳴った。
VIP連続小説  「お父さん、殺意のスイッチ」 「ふ」の章 完

214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:53:08.21 ID:F8SmyHES0
平日の昼間だったが、藤田君は来ると言ってくれた。
藤田君が来るのを待って、2人で各堂の家に向かった。
「でももし本当に失踪だったら近所の人が騒ぎません?
 一週間もいないんでしょ?」
「前科者がー人いなくなったからって騒ぐ人もいないだろうさ」
各堂の家はごくふつうのアパートであった。
室内へと入る。
「見て下さい、3DSですよ、もらってっていいですかね」
「うるせえ馬鹿」
冷蔵庫の中には出来合いのコロッケが入っていた。
「消費期限は11日前・・・
 連絡してなかっただけで2週間くらい前からいなかったのかもな」
特にめぼしい物もなく、家を出る。
「どこ行ったんでしょうね?各堂」
「こういう時は大底殺されてるものだけど」
「殺されてたらやっぱり探偵の本領発揮ですね!」
「そんな訳ないだろう、殺人と分かったら警察にまかせるさ」
でも、私は心の中で、これは確かに殺人だと思っていた。
多分、殺したのはあの旦那という事も。
私は明日になったら、旦那に電話をしてみようと思った。
VIP連続小説 「お父さん、殺意のスイッチ」 「へ」の章    完

223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 18:19:37.61 ID:3e3N4sjj0
本当のところ、確信があったわけじゃない。
そうそうドラマのように殺しが実行されるなんてありえない。
日本人は基本嵐はじっと耐える人種だ。
目の前でコーヒーを啜るこの男は、
いったい今どんな心境なのだろう。
仕事がら、殺しをやらかした人間は見分けがつくようになった
自分の眼力を恨めしく思った。
さて、どう切り出すべきか。
思案しつつ男をそっと窺った。
変に挑発して、こっちまで恨まれては堪らない。
カマを掛けてみるか・・・
「ところでですね、
 最近各堂の行方を警察が嗅ぎまわっているんですよ」
目の前の男の頬が微かに引き攣った。
VIP連続小説  「お父さん、殺意のスイッチ」 「ほ」の章 完

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