ここでは、まとめの怖い系に掲載されている『師匠シリーズ』の続きの連載や、古い作品でも、抜けやpixivにしか掲載されていない等の理由でまとめられていない話を掲載して行きます
ウニさん・龍さん両氏の許可は得ています
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(1)話の途中で感想等が挟まると非常に読み難くなるので、1話1話が終わる迄、書き込みはご遠慮下さい
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それでは皆さん、ぞわぞわしつつ、深淵を覗いて深淵からも覗かれましょう!!
176: 信号機 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 01:27:42 ID:niLTnM81LA
『信号機』
夜だった。
サークルの後輩の家で酒を飲み、深夜一時を回ったころに「じゃあな」と自転車に跨って一人家路についた。
通り過ぎる市街地は人影もまばらで、暗くて顔も見えない人々はしかし皆一様に白い袋を手にしている。コンビニの袋なのだろう。
学生の多い街だ。繁華街からは外れた場所をこんな時間に出歩いている人が寄るところといったら決まっている。
自分もこの帰路の途中、どこのコンビニに寄るべきか、頭の中に地図を広げ始める。
しかし自分の頭の中だと言うのに厚い紙が入念に折り畳まれていて上手に広げられず悪戦苦闘していた。やはり酔っているのだろう。
赤信号が見えてブレーキをかけた。
交差点だ。
車など一台も見えないが、黄色の点滅ではない。信号機は普通のパターンのようだ。
片側一車線で、この時間帯なら全方位黄色の点滅でいいだろうに。
そんなことをぶつぶつと頭の中でつぶやきながらそれでも自転車を降りて信号が変わるのを待った。
我ながら順法意識の低い学生のこと。普段なら赤信号だろうが、車が迫っていようが、いけると判断したら渡るのに、その時は酔いで頭の中がシンプルになっていた。
赤は止まれ。青は進め。……黄色はなんだったか。まあいい。
立ったままうとうとしかけて、歩行者用信号機から赤いマークがふっ、と消えたのに気づき、あ、進まなきゃ、と思う。
その時、なんの前触れもなく自分のすぐ横を誰かが先に通り過ぎた。
あれ? 他に人がいたかな。
そう思って前を見たが、街灯に薄っすらと照らされた白と黒の縞模様が道路に伸びているだけで、人の姿はどこにもなかった。
では通り過ぎた誰かはどこに行ったのか。
ぼんやりと顔を正面に向けると歩行者用の信号機が目に入った。動きの鈍い頭の中に氷の一片がさし込まれたように、感覚が急にクリアになった。
ゾクリ……
首筋に走る、嫌な感覚。
その時、自分の頭の中に走馬灯のように思い出されたことがあった。そうだ。あれは、師匠から聞いた話だった。
177: 信号機 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 01:30:21 ID:niLTnM81LA
◆
その日、僕は加奈子さんと市内のハンバーガーショップで昼食をとっていた。
二階の窓際の席に陣取り、道行く人々を見下ろしながら心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく語り合っていると、ふいに加奈子さんが右手遠方を見つめ、「うん?」と首を傾げた。
「なんですか」
僕も一面ガラス張りの窓からそちらを覗き込むが、特に変わったことはないように見えた。
「あそこ、信号のとこ。一人いるだろ」
そう言われてよく見ると、遠くの横断歩道のところに、一人だけ誰か立っているのが見えた。
もう一度言う。よく見ると、つまり目を凝らしたら見えたのだ。
ぼんやりと視線を向けただけでは見えなかった。その誰かは。
「お化けがいるなあ」
加奈子さんはコーラのカップから伸びるストローを噛みながらぼんやりとそう呟く。
この距離で良く気づくものだ。感心ながらまじまじと見ていると、その横断歩道で立ち止まっている誰かはまったく動き出す様子がなかった。
信号が変わって、通行人が一斉に歩き出してもその人物だけはその場に立ち止まったままだった。また別の人々が横断歩道の前に溜まり、再び信号が青になってもその光景が繰り返される。何度もだ。
「あれ何してんのかなあ」
「何してるんでしょうね」
「おい」
「え」
加奈子さんが急に顔をこちらに向けた。
「ちょっと言って、訊いてこい」
「は?」
ストローから口を離したかと思うと、カップを持つ手から人差し指だけを立ててこちらに向ける。
「だから、今からあそこ行って、何してんのか訊いてこい」
「はあ」
しぶしぶ立ち上がる。
加奈子さんは冷めかけたポテトの欠片を指先で探りながらまた窓の外に目をやっている。
僕は飲み物や食べかけのバーガーを残したまま一人だけで階段を降り、ハンバーガーショップの外に出る。
178: 信号機 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 01:33:24 ID:niLTnM81LA
また階段を上り、戻って来た時も加奈子さんは同じポーズで窓の外を見ていた。
席に着くと、心なしか僕のバーガーが小さくなっている。持ち上げてじっと眺めていると、「どうだった」という声。
「ええと。なんか、信号を待っているそうです」
「信号? 何度も青になってるじゃん」
「いや、それが歩行者用の信号って、人間が歩いてるマークが青で、真っ直ぐ立ってるマークが赤じゃないですか」
「そうだな」
「自分は違うそうです」
「は?」
「いや、ほら。足が……」
「ないからって?」
師匠は呆れたように顔をしかめる。
「はい。信号が進んでいいマークに変わらないからずっと待ってるとかなんとか……」
「お化け用の信号なんてあるか!」
バカじゃないの。
師匠はテーブルを叩く。
「じゃああいつ、ずっとあそこで待ってるつもりか」
「さあ。たぶん」
窓の向こうに目をやると、横断歩道のところにまだその人影がじっとしているのが見えた。歩き出す人々からぽつりと一人離れて。
「あいつ死にたてなのかな」
「さあ。たぶん」
僕は小さくなったように見えるバーガーの、キツネ色のパンズの上に残る小さな歯型を眺めている。
加奈子さんは何かぶつぶつ言っていたが、やがて顔を上げて口を開いた。
「いくらなんでも、そんなことでこの先やっていけるのか」
怒ったような口調だった。
知りませんよ、そんなこと。
加奈子さんはいきなり立ち上がった。
「説教してくる」
そして僕が止めるのも聞かず、さっさと階段を下りていってしまった。
残された僕は溜め息をついてから向かいの席の食べ物を漁ろうとした。
しかしポテトの欠片一つ残ってはいなかった。
179: 信号機 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 01:35:21 ID:niLTnM81LA
戻ってきた加奈子さんは、少し不機嫌そうだった。
「どうでした」
この窓から見ていた限りでは、横断歩道の前で身振り手振りで加奈子さんが何か言っている間にその人影は消えてしまった。
白昼に、人間が一人消えてしまったことよりも、誰もいない場所に一人で喚いている女性に対して道行く人々は気味の悪そうな視線を向けている。
元々僕ら以外の誰にも見えていないのだ。その生真面目なお化けは。
「駄目だ。びびって消えた」
「優しく言わないからでしょう」
「別に怒鳴ったわけじゃない。教えてやっただけだ」
「教えるって、なにをですか」
師匠はそこで、持ち上げたコーラのカップの予想外の軽さに驚いた顔をしてから、ニヤリと笑って、言った。
「信号の渡り方」
そうして、「お化けの」と付け加えてからテーブルに空のカップを置いた。
180: 信号機 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 01:38:13 ID:niLTnM81LA
◆
ゾクゾクしている。首筋が。
トットット…… 心臓の音が早い。そのリズムでアルコールを含んだ血液を全身に流している。
なのに頭は酩酊から冷めている。
街灯の明かりしかない夜の交差点。横断歩道の信号が変わり、夜目にも毒々しい赤い『止まれ』のマークが消えたばかり。
しかし動けない。歩き出せないでいる。
信号機は消えたままなのだ。赤だけではなく、青も。
どちらの明かりも消えたままだった。
歩行者用だけではない。自動車用の信号機も灯が消え、暗闇の中にぼんやりとその無機質な姿が浮かび上がっている。
真夜中、時間が止まったような光景だった。ただ目に見えない気配だけが、無人の横断歩道を渡って行く。
ついて行ってはいけない。それだけは分かった。
噂は聞いたことがあった。市内で、夜に信号がすべて消えたら動いてはいけない。人ではないものが、通り過ぎる時間だから……
その噂は、数年前から聞かれるようになったという。わりに新しい噂話だ。けれど広まるのは一瞬だ。口から口へ、耳から耳へ。
自転車のハンドルを支えながら、色と、音のない世界でじっと立ち尽くしている。気配が横断歩道の向こうへ消えて行くまで。
その間、頭の中に地図を広げる。夜の街の網目のように張り巡らされたすべての路地を幻視する。
そこには目に見えない噂話が音にならない囁きとともにゆっくりと流れている。
やがて我に返ると、青い歩行者のマークが点灯していることに気づく。
遠くから大きな猫の目のようなヘッドライトが減速しながら近づいてくる。
ペダルに足を掛けると、薄暗い横断歩道の向こう側で目に見えない誰かがもうそこで待っているような気がして、ひくりと息を飲んだ。
181: 趣味の話 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 01:40:37 ID:niLTnM81LA
『趣味の話』
師匠から聞いた話だ。
僕の師匠は実に多趣味な人だった。
もちろんオカルト道の師匠であるからして、その第一はオカルトであるのだが、他にも色々なものに凝っていた。
中でもスポーツは大好きで、野球、プロレス、水泳、登山、ビーチバレー、短距離走と、節操なく手を出していた。
いずれも見るだけはなく自分でやっているのであって、そのバイタリティと運動神経には驚かされる。
特に足の速さは一級品であり、主に逃げ足などに活用されていた。
この不思議な魅力を持つ人物のことをもっと知りたくて、彼女を知る人に片っ端からインタビューを試みたことがあった。
曰く、
足が速い。
幽霊が見える。
金を貸している。
寝癖が爆発していることがある。
案外いいヤツ。
逃げ足速すぎ。
何を考えているのか分からない。
逃げる野良猫に追いついているのを見た。
ときどき気持ちの悪いことを言う。
キレると怖い。
女ジャイアン。
諦めが悪い。
ずうずうしい。
殺しても死なない。
金を貸していた気がする。
凄く足が速い。
食べ物をたかるのはやめて欲しい。
頭は良い。
痴漢したオッサンに一瞬でノーザンライトスープレックスをきめていた。
怪談話が好き。
お巡りさんに追いかけられているのを見た。
上から目線がひどい。
知ったかぶりをする。
足が速い。
教授に色目を使っている。
…………
182: 趣味の話 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 01:42:59 ID:niLTnM81LA
等々、その特徴として足が速いことを挙げる人が多かった。
陸上部でもないのに、大学生にもなって足の速さを披露する機会が多いということ自体、彼女の普通ではない様を如実に表している気がする。
また、スポーツ以外でも興信所のバイトで探偵まがいのことをしていたり、地区の消防団に入っていたり、と実に活動の幅が広い。
ただ、その本質は飽きっぽいのであり、長く続いている趣味の後ろには、手を出したものの三日と続かなかったようなものが山を作っている。
例えばホーミー。
モンゴルの伝統的な歌唱法と言うか、発声法で、唸るような低い声と同時に甲高い笛のような音が聞こえてくるという代物だ。
なにかのテレビで見たらしく、さっそく試してみたようだ。実際にその音が出ると嬉しくなったのか、さらなる練習を重ね、口ホーミーから喉ホーミー、腹ホーミーと、様々に使い分けることもできるようになっていた。
超音波的というか、ビリビリと響く、どこか金属製のものを思わせるその音を聞いていると、僕など頭が痛くなってしまったものだ。
ある時、その師匠の家に遊びに行くと、ボロアパートの部屋の前に猫がたむろしている。四、五匹はいただろうか。
野良猫と思しき彼らはみな一様に部屋の中が気になるようで、ドアの下の隙間を覗き込もうとしたり、壁際に積んでいたダンボールを踏み台にして部屋の窓を伺ったりしていた。
いったい何事かと、僕も一緒になって窓から中を覗き込むと、カーテン越しにちらりと師匠が部屋の真ん中でヨガのようなポーズで座っているのが見えた。
その時、窓ガラスが小刻みに揺れているのに気づいた。そして微かに響いてくる低い唸り声と、それに被さる金属的な音。
ホーミーの練習をしているらしい。いつの間にやら趣味が高じて、近所の猫が集まってくるほどになっていたようだ。
というか、なぜ猫が?
そのホーミーに凝っていたのも二、三週間のあいだだけだった。あまりに猫が集まってくるので、エサをやっているんじゃないかと近所から苦情が来たらしい。
183: 趣味の話 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 01:46:10 ID:ki46t9YtMY
手品にハマッていたこともあったし、俳句に興じていた時期もあった。
ある時など、自分の寝言を記録していたことがあった。
師匠は元々寝言がやたら多いらしいのだが、ふと思いついて自分がどんなことを喋っているのか、それを記録してみることにしたらしい。
最初はラジカセで採ろうとしていたが、録音時間が足りず、人力をもってそれに代えることにしたという。
つまり僕だ。
「いいか。お前はずっと起きてて、わたしの寝言を一字一句聞き漏らさずに書き留めるのだ」
そんな宣言の後、師匠は布団を頭から被って寝始める。
その枕元にはノートと鉛筆を持って座っている僕、というシュールな絵面だ。時計は夜中の十二時をさしている。
確かに師匠は寝言を発していた。
むにゃむにゃむにゃ、というような文字化し辛いうわ言ばかりかと思っていたら、まれにはっきり聞き取れる内容のものもあった。
カナヘビがどうだとか、チェッコ・ダスコリがどうしたとか言っていたかと思うと、わたしからは名を与えるとか、ちょっとそこをどいてくれだとか、腹が減った、などというようなことをぼそぼそと口にしていた。
それらを黙々と書き留めていると、やがて誰かと会話しているらしい場面になった。
「らるふ、らるふ」と誰かに話しかけているらしいのだが、なにか怒っているような口調だ。
十分ばかり耳をそばだてて集中していると、ようやくなにを言っているのか分かった。夢の中で近鉄のラルフ=ブライアントに箸の使い方を説明しているのだ。
ブライアントはあまりに箸の使い方がヘタで、師匠がどれほど教えても上手く扱えないようだった。
だんだん「ボケ」とか「違うだろアホ」とか口調が汚くなり、「もう知らん。パンでも食ってろ」との捨てセリフを吐くに至った。
僕はそれを丁寧にメモしていく。
と、ノートに目を落としていたら、耳をつんざくような悲鳴が上がった。
心臓が止まりそうになるほど驚いた僕はひっくり返ってテーブルに頭をぶつけてしまった。
師匠が口元を抑えて跳ね起きた。目が大きく見開かれている。
「な、なにが。ど、どうしたんですか」
しどろもどろでそう訊くと、返事も出来ない様子で肩で息をしている。
「ラルフになにかされたんですか」
184: 趣味の話 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 01:49:55 ID:niLTnM81LA
そう訊ねた僕に、怪訝な顔をして「ラルフってなんだ」と訊き返してくる。
「寝言で言ってたんですよ。夢を見てたんでしょう?」
僕が説明すると、師匠はひったくるようにノートを手に取り、自分の発した寝言を確認する。
寝ている師匠がなにか喋ったら、その内容と時間とをメモしてあるのだが、最初の一時間半ほどはすやすやと寝ていて、夜中の二時前くらいからぽつぽつと何ごとか寝言を言い始め、そして三時半現在でいきなり自分で悲鳴を上げて飛び起きた、という流れだ。
師匠の部屋の外はまだ暗い。電柱に取り付けられた街灯の微かな明かりがカーテン越しに見える。
「おい。この、パンでも食ってろ、ってのが最後か」
「はい」
「いつだ」
「いつって、ついさっきですよ」
「何分まえだ」
「何分というか、いきなり叫びだして起きる直前ですよ」
「直前……?」
師匠は真剣な表情になり、目を見開いたまま、なにかを思い出そうとするように額に手を当てた。
「夢が変わってる」
「は?」
「そんな、ブライアントが出てくるような楽しい夢じゃなかったぞ」
真顔でそう言われて、なんだかわけの分からないままに寒気がしてきた。
「どんな夢を、見てたんです?」
恐々とそう訊ねた。
師匠は右手をゆっくりと前に突き出して目に見えないなにかを探るような仕草をする。
「こう…… 誰もいない夜の街で、道路になにかが這いずったような跡があって、それを辿って行くと……」
そこで口ごもった。
続けようとしたようだが、手だけが宙を彷徨うばかりで言葉は出てはこなかった。
師匠は一瞬、身体を震わせたかと思うと、また布団に潜り込んだ。あっけにとられた僕は、しばらくその布団の膨らみを見つめていたが、いつまで経ってもそのままなので「ちょっと」と揺すった。
「なあに?」
「なあにじゃなくて」
気になるでしょう。
僕が促すと、布団の中から囁くような声でこんな言葉が返ってきた。
「なにかいるぞ」
この街に……
そうして布団が小刻みに揺れた。笑っているのか。怯えているのか。どちらとも知れなかった。
185: 趣味の話 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 01:53:30 ID:niLTnM81LA
◆
そんなことがあってからしばらく後、師匠は今度は読唇術に凝り始めた。
僕はさっそく部屋に呼び出され、その練習相手を無理やりさせられていた。
「ほんじつは……せいてんなり?」
パクパクパク。
「かーる……るいす」
パクパクパク。
「がーたー……べると」
パクパクパク。
「とむ……と……しぇりー」
座って口パクをする僕の唇の動きだけを見てなにを言っているのか当てるのだそうだ。
それが正解なら僕は黙って頷くことになっている。外れなら左右だ。
師匠の手元にはどこで手に入れたのか、読唇術のハウツー本が握られている。
「おっ……ぱい?」
正解。
師匠はそこでちょっとタイムとばかり、両手を頭上でクロスさせた。
「なあ、さっきからなんか、ところどころエロい言葉を言わせようとしてないか」
ぶんぶんと頭を振る。
疑わしそうな目で睨みながら師匠は膝を付き合わせた姿勢に戻る。
「なんでも良いから喋るフリしろ、とか言われても逆になにを言って良いのか分かんなくなるんですよ」
抗議をすると、師匠は少し考え込み、やがて「じゃあ、プロ野球選手の名前縛りで行こう」と言った。
僕は真剣な表情でこちらを凝視してくる師匠のプレッシャーを感じながらゆっくりと口を動かす。
パクパクパク。
「くわた……ますみ」
パクパクパク。
「あいこう……たけし?」
パクパクパク。
「お……な……」
そこまで言いかけて、師匠はいきなり僕の左頬に平手打ちをかました。
「い、痛い」
びっくりして思わず喋ってしまった。
「いい加減にしろ、このボケ」
怒鳴りつけられた。
「オマリーって言っただけですよ。オマリー。阪神の」
「うそだ。絶対うそだ」
「うそじゃないです」
実はうそだった。
しばらく言い争ったが、白けてしまったのか、師匠はハウツー本を投げ出して立ち上がった。
186: 趣味の話 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 01:56:41 ID:ki46t9YtMY
そして洗面所でジャージに着替えてきたかと思うと「走ってくる」と言う。
その手には何故かランプが握られている。手に提げるタイプの古色蒼然としたオイルランプだ。
吊り下げられたガラス瓶の中に灯は入っていない。
これも、師匠がこのところ日課にしている奇妙なランニングだった。
陽が落ちてからこの明かりのないランプを手に街中を走り回るのだ。
スッと師匠が取っ手を目の高さに掲げる。そして丸く膨らんだガラスの中の空洞を見つめる。
ガラス越しにその口元が歪むように笑う。僕はその様子を見てゾクリとする。
「じゃあ行ってくる」
そうしてドアから出て行く後ろ姿を見送った。
これから師匠は夜の街を、明かりのないランプを掲げて走る。人工の光で満ち、ほの白い陽炎で覆われたような夜を、そのランプで照らして行く。
何もない空のランプで。
何もないがゆえにそこから湧き出てくる、底知れない闇で、まがい物のような夜を照らすのだ。
そして走りながら呪文のようにこう繰り返す。
「幽霊はいないか」「幽霊はいないか」
…………
強烈な挑発だ。
かつて古代ギリシャの『樽の中の賢人』ディオゲネスは、太陽の出ている昼間にランプに灯をともし、人で溢れるアテネの街を練り歩いたという。
一体なにをしているのかと問われた彼はこう答えた。
『人間を探しているのだ』
彼は哲学者だったが、狂人ではなかった。
真に『人間』と呼ぶに値する人物がこの街にいるのか、という彼一流の痛烈な皮肉である。
その故事にちなんだ師匠の最悪の趣味がこれだ。彼女が馬鹿にし、けなし、挑発しているのは、この街に彷徨うすべての死者だった。
さすがにこの悪意に満ちたランニングのことを知った時には僕も鼻白んだが、あまりに執拗に繰り返しているので、何か裏の意味があるのではないかと思うようになっていた。
実際にそのランニング中の師匠の表情はどこか緊張を帯びたような様子だった。
幽霊はいないか。
一人になった部屋でそう呟くと、もの寂しさと同時に背筋になにか冷たいものがゆっくりと這い上がってくるのを感じた。
なにをするともなく待っていると小一時間ほど経ってからドアノブを誰かが掴んだ音がする。
「戻った」
187: 趣味の話 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 01:58:44 ID:ki46t9YtMY
汗を湯気のようにまとって師匠が部屋に入ってくる。
同時に、その師匠が潜ってくるドアの外側の上部に、逆さになってこちらを覗き込んでいる顔があった。まるで二階の部屋から逆さにぶら下がっているかのような格好だ。
しかし現代の長屋とでも言うべきこのアパートには二階などない。三十代だか四十代だかの痩せこけた男の首だけが無表情にこちらを見ている。
奇妙なことに髪の毛は重力の方向に逆立っていない。なんとも言い難い嫌悪感とともに、一瞬、そういう絵がそこにあるような錯覚をおぼえた。
僕の視線に気づいた師匠が振り返る。
そしてその逆さまの男の顔を見上げたかと思うと、近くにあった箒を手に取り「しっしっ」と言いながら鼻先を払った。
顔は無表情のまま引っ込み、師匠はすぐにドアを閉じる。
「あー、疲れた」そう言ってランプを転がして、部屋の真ん中で仰向けに寝転がる。
僕はさっきまでそこにあった男の顔が頭から離れず、ドアの上部を恐る恐る見つめている。
師匠の悪趣味な挑発に対してどこからかついてきたのだろうか。
「どうした」
「さっきの首は……」
「雑魚だ。ほっとけ」
平然とそう言う。
しかしその次の瞬間、ドアノブが外から誰かに捻られた音がした。さっきの現実感のない絵のような存在とは明らかに違う、なにか恐ろしいものの気配。ドアが小刻みに揺さぶられたかと思うと、「ギッ」と音を立てて開きかける。
ざわっとした嫌な感じが体幹を駆ける。まずい。直感でそう思った。
師匠が跳ね起きた。
「どけ」
前にいた僕を弾き飛ばし、信じられないことにそのままの勢いでドアにドロップキックを敢行した。
凄い音がして、ドアが外側に弾ける。
ということは、やはりドアが開きかけていたのは間違いない。玄関口に転がった師匠は、その場を動けないでいる僕を尻目にすぐさま立ち上がると、さっきと同じ箒を手に持って「しっしっ」と部屋の外に向かって払う仕草をした。
しかし開いたドアの外には何も見えず、箒を持ったまま「ん?」と首を傾げて突き出そうとする。僕もその後ろから、部屋の外を覗き見ようとした。
いる。街灯のわずかな光に照らされて、なにかがいる。
アパートの敷地から立ち去ろうとする影。人ではなかった。それはすぐに分かった。
188: 趣味の話 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 02:01:24 ID:niLTnM81LA
それは頭部があきらかに普通の大きさではなかったのだ。大きいのではない。逆に小さい。小さすぎた。
顎の上部あたりから先が、まるで切り取られたように、ない。後ろ姿からは、丁度うなじのすぐ上が何もない空間になっていた。
そんな状態で生きていられるわけがない。しかしその人影は、ふらふらとした足取りで去って行ったのだった。
師匠はその光景を見つめながら、おお、という感嘆符を残し、しばらくたたずんでいたが、ふいに僕の方を振り返ってこう言った。
「今のは、かなりやばいやつだな」
「最初の首だけ見えてたのとは別ですか」
「別だ。おまえ、見ただけで雑魚とああいうやばいのとの区別がつかないと危ないぞ」
危ないのか。しかしそれをわざわざ招いているのは師匠ではないのか。
招いている?
「もしかして、あのディオゲネスごっこは……」
そうだ。
師匠は頷いた。
「霊道を作ってんだよ」
そんなもの作るなよ!
そう突っ込もうとしたが、ゾクゾクとした寒気が背中を走り抜けた。その中に歓喜に似たものが入り混じっているような気がした。
街中の死者の霊を冒涜し、挑発して追って来させているのだ。その意味を知り、反応した連中が同じ道をたどり、やって来る。
ディオゲネスごっこに出くわさなかったやつも、他の霊が進む方向に惹かれて何も知らずにやって来る。この部屋にだ。
「なんでそんなこと」
「なんでって。見たいだろ」
「なにを」
「なんか、すごいやつ」
あっさりそう答えた。探して見に行く手間が省けるじゃないか、という顔だ。
呆れてしまって、思わず乾いた笑いが漏れた。
189: 趣味の話 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 02:04:16 ID:niLTnM81LA
「大丈夫なんですか」
そんなすごいやつを毎回箒で撃退するつもりなのか。
そう問うと、師匠はニヤリとしてこう答えた。
「会いたいやつは、たぶんそんな撃退するとかいうレベルじゃないやつなんだがな。でも全然来ないぞ」
その口ぶりは、なにか特定の存在を指しているようだった。
「どんなやつですか」
思わず生唾を飲み込みながら訊ねる。
師匠はドアを閉め、部屋の中に戻った。そうしてこちらに向き直りながら畳の上に胡坐をかいて両膝の上に手を乗せる。
「最近な、街に変な幽霊がいるだろ」
「変って、どんなのですか」
「手がないやつとか、腰のあたりが千切れてるやつとかだよ」
思い浮かべるが、そんなのを見ただろうか。
「さっきのやつみたいに、頭がないのもいる」師匠はそう言って嬉しそうに笑う。
ひとしきり笑った後で、身を乗り出して言った。
「食われてんだよ」
く…… 食われてるって。
絶句する。
「こないだ、駅の近くの郵便ポストの前ですごいのを見たぞ。足首だけの幽霊を。両足の脛のあたりから下しかないんだ。そんなのがずっとそこにいるんだよ。ほとんど意思も感じない。あれじゃあ個を保てないだろうから、じきに消えるだろうな」
手のひらを床にかざして、このくらい、と足だけの幽霊の様子を示す。
師匠は、この街の幽霊がなにかに食われているというのだ。
胸が嫌な高鳴り方をしている。
僕は想像してしまっている。今この瞬間にもなにか得体の知れない存在が、この部屋の屋根をかぱりと開けて、中にいる僕らをつまみあげ、大きな口に放り込んでしまうのを。あるいは、小さな蟻のようなものがどこからともなく現れ、僕の顔に群がったかと思うと、一瞬でそこだけ白骨化してしまうのを。
そんな荒唐無稽なイメージが次々と脳裏をよぎる。
「なにかがいるんだ」
そうひとりごちて、彼女は視線を床に落とし、考え込むような顔で沈黙した。
190: 1 ◆LaKVRye0d.:2017/2/19(日) 02:05:42 ID:ki46t9YtMY
今夜は、以上です。【了】
191: 桜雨 ◆LaKVRye0d.:2017/2/22(水) 04:30:50 ID:pIgPmzpxL2
『桜雨』 前編
大学一回生の冬だった。
駅の構内で甘栗を売るバイトをしていた俺は、鼻唄をうたいながら割れ栗を見つけては廃棄廃棄と呟きつつしゃがんで口に放り込む、ということを繰り返していた。
甘栗にはシーズンがあり、中国から新栗が入荷されてくる秋から冬にかけて、それまでの古い栗から味がガラリと変わり、甘みが俄然強くなる。これが美味い。実に美味い。
駅の裏で甘栗を焼く仕事もしていたので、皮が弾けて黒い石が入り込んだ割れ栗を廃棄するという名目のもと、人の目もないテントの下で片っ端から食べまくってもいた。
しかしそれだけ食べても太る気配がなかった。立ち仕事をしているから、というのもあるが、一番の要因は『お通じ』ではないかと思っている。栗に含まれている食物繊維がそうさせるのか、とにかく快便なのだ。
そんな甘栗ライフなバイト中の俺は、売り場のハコの中から知っている人が通り過ぎるのを見かけた。
京介さんというオカルト好きのネット仲間だ。
「バイト帰りですか」と声をかけるとこちらに気づいて振り向いた。ダッフルコートに、赤いマフラーをしている。
京介というハンドルネームながられっきとした女性であったので、甘栗や焼き芋のごときものは好きに決まっている。
「新栗ですよ」とにこやかに言うとノコノコと近づいてくるではないか。ふふふ。
だが買わせようという腹ではない。
最近京介さんの家に遊びに行くたびに、洗面台のところにある体重計の針を少しずつ進めるというイタズラを敢行していたのだが、それがバレてブッ飛ばされたばかりだった。
その間、会うたびに心なしかげっそりとしていった様子を見ていた俺は、彼女もそれなりにウエイトを気にしているのだと知ったのだった。
であるので、お詫びも兼ねて甘栗をおすそ分けしようと思ったのだ。しかしさすがに売り物は配送量で管理されていたので大量に人にあげるとバレてしまう。
「少し時間ありますか。もうすぐバイトあがるんで」
目配せで俺の意図を読み取ったのか、京介さんは素直にうなずいて、すぐそばで行われていた催事を物色し始める。
それから十分ほどして定時となったので店を片付け、売り上げをJRの社員に確認してもらっていると、すぐ目の前で「松尾先生!」という京介さんの声が聞えた。
これから改札に入ろうとする人の中に知った顔を見つけたらしい。いつもは淡々としているその声が、どこか踊るようなリズムを帯びている気がして意外な感じだった。
先生と呼んだ人と、そのまま立ち話を始めたようだが、俺はもう店長のところへ行かなければならない。
その場を立ち去りながら、京介さんのようなかつての不良娘が学校の先生と親しげに喋っているのが不思議でならなかった。卒業後には軋轢も懐かしい思い出に変わるということか。
192: 桜雨 ◆LaKVRye0d.:2017/2/22(水) 04:32:57 ID:HMJYUJcabU
店長に今日の報告をした後で、新栗をお世話になっている人にあげたいと言うと、大量に袋につめてくれた。もちろんタダだ。見た目は小男だが、なかなか太っ腹な人だった。
それを持って駅の地下に戻ると、ちょうど京介さんが改札をくぐる『先生』に手を振っているところだった。
「栗です。あまったんで、どうぞ」
近寄って手渡すと、「ありがとう」と受け取りながら、ずっと改札の方を見ている。
俺もその後ろ姿が人の波に消えていくところを見つめる。
「中学か、高校の時の先生ですか」
「ああ。高校の時の担任だ。松尾先生。私たちはザビエルって呼んでたけど」
京介さんは懐かしそうに目を細める。
「久しぶりだったけど、変わってないな」
京介さんは高校の授業などサボってばかりだったはずなので、その当時の担任ならどう考えても衝突をしていたはずだ。
訊いてみると、やはりそのザビエルは学校生活の敵であり、よく怒鳴られたのだそうだ。そのころのことを思い出してだんだん腹が立ってきたのか、憎々しげに腕組みをした。手に提げた甘栗の袋がガサリと音を立てる。
「ザビエルって、面白いあだ名ですね」
俺がそう言うと、京介さんはふっ、とやわらかな表情になり、「そうだな」と口を開いた。
そうしてゆっくりと思い出を紡ぐように語り始めたのだった。
193: 桜雨 ◆LaKVRye0d.:2017/2/22(水) 04:34:20 ID:HMJYUJcabU
◆
京介さんから聞いた話だ。
桜が咲いていた。
踏みしめた土の感触。足の裏に感じる柔らかな弾力が、凍てついた冬が去って行ったことを告げている気がする。
家の近くの川沿いに並木があり、それがなんの木なのかいつもは意識することはないのだが、肌寒さが薄れ、吹き付ける風の中にもなにか柔らかいものが通ったある日、気がつくとその枝の先に白い花が咲いていた。
立ち止まって見上げていると、なんとも言えない気持ちになる。どうして桜だけが特別なのだろう。春という、別れと出会い、そして終わりと始まりの節目の時期に咲く花だからだろうか。
白の中に数滴の血を混ぜたような、見る人を落ち着かなくさせる、ほのかな色をしているからだろうか。
私は寒いのは嫌いだ。
寒いくらいなら暑い方が良い。十一月ごろに感じる肌寒さは、これから否応なしに日々寒さが増していく死刑宣告のように感じられて、救いのない気持ちになる。
でもそれは実際には死刑宣告ではなく、懲役刑であって、その刑期がついに明ける日がやってきたのだった。
もちろん、肌触りが変わったとは言っても、今日の寒さもまだまだ私には辛い。
それでも、桜が咲いているというそれだけで、なにもかも許して生きていける気がする。
194: 桜雨 ◆LaKVRye0d.:2017/2/22(水) 04:37:04 ID:pIgPmzpxL2
中学校を卒業して、地元の女子高に入学したばかりのころだ。
着ている制服が変わっただけで、中身はなにも変わっていないはずなのに、周囲に求められるものは随分変わってしまった。
親からは「もう高校生なんだから、しっかりしなさい」という小言を聞かされることが増え、学校からは「高校生の自覚」という、よく分からないものを持てと言われる。
くだらない。
そう思う一方で、なにか自分でも変えていきたいという意識が確かにあったのだと思う。
私は高校生になったことを期に、タバコの本数を減らすことを密かに心に誓った。さっそく校舎の裏に、人気のない絶好のスポットを見つけた時も、本数は控え目にしたのだ。
気分が良かった。
友だちも出来た。ヨーコという、よく喋る元気な子だ。その元気の良さと行動力に振り回されているというのが本当のところだけれど、悪い気分ではなかった。
そうして、私の高校生としての日々がゆっくりと進み始めたある日、下校途中に校門から出たばかりのあたりで大きな囃したてるような声が聞こえて、思わず顔を上げた。
「あ〜、ザビエルがコレと歩いてる〜」
私のすぐそばにいた二人組の女子生徒が指を立てながら、ちゃかしたように歓声を上げている。上級生のようだった。
その視線の先を見ると、見覚えのあるハゲ頭が目に入った。
「教師に向かって、からかうようなことを言うんじゃない」
そんなことを捲し立てながら、ハゲ頭は怒ってこちらにやってこようとした。
二人組はさほど慌てた風もなく、わざとらしく「キャー」と言いながら、校舎のほうへ逃げ戻って行った。
ハゲ頭は「まったくあいつらは」と吐き捨てるように呟いたあと、連れの女性にヘコヘコと頭を下げた。
「すみませんね、野田先生」
女性の方はいいえと言いながら笑っていた。
美女と野獣だと、私は思った。
はた目にもつり合いが取れていないし、現に相手にされていないように見えた。その卑屈な態度も逆効果だと気付かないのだろうか。
遠くないであろうその失恋を思うと少しかわいそうになった。
195: 桜雨 ◆LaKVRye0d.:2017/2/22(水) 04:39:13 ID:HMJYUJcabU
ザビエルは私のクラスの担任だった。
もちろんあだ名だが、この『先生のあだ名』というやつは先輩から後輩へと代々受け継がれるもののようだ。
一度その学校へ赴任すれば、最初につけられたあだ名がずっとついて回るらしい。
ザビエルも、最初からザビエルだった。
部活の先輩がそう呼んでいるのを聞いたクラスメートが広めて、三日目には完全にクラスに定着してしまった。
ザビエル自身もそう呼ばれていることは知っているし、諦観というのか、面と向かって呼ばれでもしない限り、いちいち取り締まろうという気はないようだった。
私はこのザビエルには少々含むところがある。
高校生になって最初の土曜日に、私はヨーコと二人で繁華街をぶらついていたのだが、いきなり後ろから声をかけられた。
振り返るとザビエルがいて、「こんなところでフラフラするんじゃない」とか、「街には誘惑が多いから」とか、そういうくだらない説教をはじめた。
生徒指導の担当でもないくせに、たまたま街で出会った私服の生徒を、どうして目の敵にするのだろう。
別になにか悪さをしようというわけでもないのに。少なくとも私の善悪感においてはだ。
むしろそっちこそなにかやましいことがあって、その照れ隠しなんじゃないかと勘ぐってしまう。
勘ぐっただけではなく、ヨーコはそれを口にしたので、説教が長くなってしまった。
そんなこともあって、ザビエルは私の敵だった。タバコも学校では相当に気をつけて吸わないといけなかった。
しかし、あとで分かったのだが、ザビエルは偶然街にいたのではなく、いつも繁華街を警戒して歩いているらしい。
そういう担当でもないのに、自発的に生徒の非行を未然に防ごうという、実に素晴らしい教師としての自覚、そして行動だった。
こういう一方的な善意が一番迷惑だ。
一度平日にホテルから出るところで出くわして心臓が止まりそうになったことがあった。こちらが先に見つけたので、すぐに身を隠して事なきを得たが、こんなところまで張っているとは、本当に気が抜けない「センコー」だった。
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