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師匠シリーズ《続》
[8] -25 -50 

1: 1 ◆LaKVRye0d.:2017/1/24(火) 20:30:02 ID:1lmoPahM2s

ここでは、まとめの怖い系に掲載されている『師匠シリーズ』の続きの連載や、古い作品でも、抜けやpixivにしか掲載されていない等の理由でまとめられていない話を掲載して行きます

ウニさん・龍さん両氏の許可は得ています

★お願い★

(1)話の途中で感想等が挟まると非常に読み難くなるので、1話1話が終わる迄、書き込みはご遠慮下さい
(代わりに各話が終わる毎に【了】の表示をし、次の話を投下する迄、しばらく間を空けます)

(2)本文はageで書きますが、感想等の書き込みはsageでお願いします

それでは皆さん、ぞわぞわしつつ、深淵を覗いて深淵からも覗かれましょう!!





402: 幽霊物件 ◆LaKVRye0d.:2017/3/26(日) 01:53:40 ID:di6NFRnXyA

師匠と僕は顔を見合わせた。なにがどうなっているんだ。
「自殺の理由は?」
「どうやら進学のことを巡って、家庭内で揉めていたらしい。そのころは娘もノイローゼ気味で、自殺をほのめかすようなことを口にするようになっていたから、親も気が気じゃなかった。そんな最中の出来事だとよ」
以上だ、というように不破は手帳を閉じて、コーヒーに口をつけた。
師匠は険しい顔をして、考え込んでいた。僕らが見た、あの岩田町の三好の住むアパートに出る首吊り死体の霊は、いったいなんなのだ。
顔は完全に新聞に出ていた田岡早苗と一致していた。はずだ。
先に記事のほうを見ていたら、思い込みでそう見えてしまうこともあったかも知れない。しかし僕らはアパートの霊のほうを先に見ているのだ。記事の写真を見てから記憶が改ざんされたわけでもない。師匠の描いたスケッチがその証拠だった。
師匠はそのスケッチを取り出し、不破に見せた。首を吊っている田岡早苗の姿をだ。
不破は手帳に挟んであった写真の白黒コピーと見比べて、唸った。
「本人だな。おまえ、これをどこで見たんだ」
師匠は岩田町のアパートの住所と部屋番号を告げてから、言った。
「この部屋に田岡早苗の幽霊が出ている。彼女が自殺した時期に、この部屋に住んでいた人間のことを調べて欲しい」
「幽霊って、おまえ本気でいってんのか」
「私たちは、そこでその女が自殺したと思っていた。いや、首を吊っていたのに、喉に掻き毟った痕がなかったから、自殺に見せかけた他殺の可能性もあると」
「おいおい。もう終わった事件だぞ。それが今さら実は死因が別で、しかも死亡場所も偽装した殺人だった、ってのか。そんなわけあるかボケ」
口汚く言い切った不破に、それでも師匠は引かずに顔を突き出した。
「あんたらが、刑事として仲間の捜査を信じているように、私も私の目を信じている」
テーブルの上に身を乗り出し、自分の瞳を指さして師匠は言った。
不破は気圧(けお)されたように椅子に深く座りなおし、「けっ」と言ってコーヒーを飲みきった。
「小川によろしくな。また律子さんの手料理食いてぇ、って言っといてくれ」
立ち上がった不破に、「おい」と師匠は被せたが、「仕事なんだよ、こっちはよ」とそっけなく返された。
「丸山って警部、いるよな。西署に」
「なに?」
師匠からさっきまでとまったく違う話を振られ、不破はリズムを崩したようにぎこちなく振り返った。
「こないだ、色々裏話教えてもらったよな。石田組の松浦のこと。その松浦が、丸山警部によろしくってさ」
不破の顔色が変わった。
「不破さんの、隣のシマにいたよな。丸山警部。刑事第一課長じゃなかったか」
「おい」
「小川所長が県警本部にいたときの主任かなにか、とにかく上司だったって聞いたことあるぞ。でもって高谷さんの元部下か。今でも刑事畑の一線で活躍しているそんな人に、ヤクザがなにをよろしくなんだろうな」
「おい、やめろ」
不破が静かに言った。店内の空気が冷たくなったように感じて、僕は息を飲んだ。師匠も口をつぐんで不破を見つめている。
「お前は、その目で、見られるものだけを見てればいい」
そう言い捨てて、不破は喫茶店をあとにした。
代金はあいつらにつけろ。
ウェイトレスにそういうジェスチャーをしながら。


403: 幽霊物件 ◆LaKVRye0d.:2017/3/26(日) 01:59:47 ID:di6NFRnXyA

「……どうします」
行ってしまった不破を見送ってから、僕は師匠に話しかけた。
「どうなってやがる」
師匠は不機嫌そうな顔でズボンのポケットに両手を突っ込み、ズズズと椅子に沈み込んだ。
喫茶店を出たあと、僕らは小川調査事務所に一度戻ることにした。
「お疲れさん。調査は順調かい」
小川所長は事務所のデスクで1人、足の爪を切っているところだった。
「不破刑事が、律子さんの手料理食べたいってさ」
「ふうん。また家に呼んでやろうかな。……って、あいつ、まさか、りっちゃん狙ってんじゃないだろうな!」
律子さんというのは、小川所長の奥さんだ。僕も家にお邪魔した時に会ったことがある。事故で右足が不自由になってしまっていて、いつも杖をついている人だった。タカヤ総合リサーチの高谷所長の一人娘でもある。
いつもは飄々としている小川さんだったが、律子さんのことになると血相を変えるので面白い。
「トーマがね。不破が大好きで家にきたら喜ぶんだ。なんであんな危ない男が好きなのかね」
そう言ってぶつぶつと呟いている。
トーマというのは小川さんの1人息子だ。この春に小学校1年生になったばかり。おとなしくて可愛らしい子だった。
「お、そう言えば、204号室のニシノって人から電話があったよ。今日は家にいるってさ」
小川所長のその言葉に、師匠は指をパチリと鳴らした。

「わからないな。男だったってことしか覚えてない」
「表札の名字だけでも覚えてないですか」
「……」
204号室の男、西野は黙って首を振るだけだった。
依頼人である三好の借りている102号室に、弁当屋のパート田坂さんの、さらに前に住んでいたはずの人間の情報を、聞き出そうとしたのだが、空振りに終わりそうだった。


404: 幽霊物件 ◆LaKVRye0d.:2017/3/26(日) 02:04:21 ID:F.ceRSUuyA

「女性が出入りしていたなんてことはないですか」
「見たことはないと思う。自信はないけど」
そんな実にならない会話をしばらく交わしたあと、師匠は『薄謝』の入った封筒を、惜しそうな顔をしながらしぶしぶ西野に渡した。
「あーっ、クソ。陰気なやつだったな」
204号室を出た後、師匠はそんな悪態をついた。その足で102号室の前に行ってみたが、鍵が掛かっていて入れなかった。
三好は今日、夕方8時過ぎまで仕事があると言っていた。さすがに合鍵までは預かっていない。
「今日はもういいや」
「いいんですか。晩にまた出てきてもいいですよ」
「ちょっと手詰まりな感じだしな」
師匠は他人ごとのようにそう言うと、大きな欠伸をした。

次の日だ。日曜日、僕は電話で師匠のアパートに呼び出された。部屋に上がると、開口一番、師匠は「ハードボイルドだぜ」と言って笑う。
手に手帳の切れ端のようなものを持っている。朝、それが郵便受けに入っていた様子を再現して、延々と笑っていた。
手帳のメモには、市内の住所と『酒井良平』という名前だけが記されていた。他にはなにも書かれていない。たぶん、というか間違いなく不破刑事がくれた情報なのだろう。僕らがこれだけ苦戦したことをこんな風にあっさりと。
さすがにプロだ。感心していると、師匠は「しかし、デカへの借りは高くつくぞ。今度やらせろ、って言われたらどうしよう」と真剣な表情で冗談めかしてそう言うのだった。
それから昼時を狙って、僕らは酒井良平の家へ向かった。


405: 幽霊物件 ◆LaKVRye0d.:2017/3/26(日) 02:05:27 ID:di6NFRnXyA

岩田町からは車で十五分くらいの距離にあるマンションだった。特に作戦を打ち合わせることなく、師匠は部屋のチャイムのボタンを押した。
『はい』
インターフォン越しに、男の声がした。
「酒井さんですか。興信所のものです。実は、亡くなった田岡早苗さんのことで少し、お話をうかがいたくて参りました」
向こうで、息を飲んだ気配があった。
師匠は「しっ」というジェスチャーを僕に見せながら、黙っていた。
しばらく沈黙が続いていたが、やがてガサガサという音が扉の向こうから聞こえてきて、ドアがゆっくりと開いた。
「なんなの。わけわかんないこと言って」
ドアから顔を覗かせたのは、肩口まである長髪をなびかせた優男だった。年齢は20歳後半くらいか。5年前に大学生だったという、早苗さんの友人からの情報と合致する。
「お時間は取らせませんので、少し上がらせていただいてよろしいですか」
「いやいやいや、ちょっとなに言ってんの。わけわかんないんだけど」
酒井はそう言いながら、うろたえたような様子を見せた。動揺している。本当になにを言っているのかわからないなら、もっと気持ち悪そうな顔をして、帰れと言ってドアを閉めればいい。しかし、彼はドアから出てきて、僕らのことを観察していた。僕でもビンゴだということはわかった。
「5年前に早苗さんが亡くなったとき、あなたは岩田町のアパートに住んでましたよね。そのときのことを詳しく訊きたいんですけど」
わざと声の音量を上げて喋っている師匠に、酒井は動揺を隠し切れない様子だった。そして、階段のあたりでこちらを怪訝そうに窺っている住民の視線に気づき、酒井は、「ちょっと、入って」と言った。
「ありがとうございます。お時間は取らせません」
師匠は澄ました顔でそう言って、僕にウインクをした。


406: 幽霊物件 ◆LaKVRye0d.:2017/3/26(日) 02:11:12 ID:di6NFRnXyA




その日の夜。僕らは102号室の依頼人の部屋にいた。
目の前には月明かりに浮かび上がった首吊り死体がある。いや、実体はない。首吊り死体の霊だ。
生前、田岡早苗と呼ばれた女子生徒だった。今ではただ、寒々とした部屋でなにも言わずドアに背中をつけてぶら下がっている。口から出た舌はだらりと伸び、それでも苦痛の表情を浮かべず、ほぼ無表情で目を見開いている。ぞっとする姿だった。
「会ってきたよ。あなたの恋人に。酒井良平。大学生だったんだね。高校生だったあなたには、ずいぶん大人に見えたんだろうね」
師匠はその首吊り死体の霊に語りかける。
「遊び人だったんだな。あなた以外にも付き合っている女は何人かいたみたいだ。一度部屋に上げたのも、気まぐれだったってさ。そんなまだ子どもの女子高校生が、結婚してくれないと死ぬ、なんて思いつめちゃって、困ったって。もう別れる、なんて言っても聞きやしない。死ぬ死ぬ死ぬの繰り返し。だったらしね(1注:原文は漢字です)って言ったんだってね。リストカットは致死率の低い自殺方法だ。成功率は5%もないくらい。何度か未遂を繰り返したある日、あなたはとうとう本当に死んでしまう」
開け放ったベランダの窓から、さらさらと木の葉を揺らす風の音がする。張り詰めたような月の光を背負い、師匠は真っ直ぐに前を見据えて続ける。
「自分の家の浴槽に身を横たえて。たった1人で。酒井良平はそのニュースを見て、驚く。それでも自分には関係がないと、言い聞かせて。でも次の日の夜。あなたはこの部屋で首を吊った。死んでなお、恋人に自分の思いの深さを知って欲しかったから。どれほど愛していたかを、知って欲しかったから。あなたは、霊魂になってから、首を吊ったんだ。舌が伸びているのは、ドラマで見たことがあったから。首吊り死体について知っていることは、無意識に再現した。そうなるはずの死体になりきるために。でも喉の爪痕は知らなかったんだね」
師匠は静かに語り掛ける。
田岡早苗の霊は、なんの表情も浮かべないままだ。
「酒井良平は驚いた。死んだはずのあなたの霊が部屋に現われたことに。そして次の日、すぐさま引越しをする。あなたは彼の引っ越し先を知らない。次の日の夜もこの部屋に出た。首吊り死体の霊として。だれもいない部屋に。次の日も、その次の日も。だれもいないこの部屋に。そうして数年が経ち、住人が入れ替わっても、あなたはこの部屋に現われた。思いは消えない。消えていない。恋人はあなたの元を去ったけれど、ほかにどうしようもなかった。いつかまた、恋人がこの部屋に戻ってきて、俺が悪かった、結婚しようと言ってくれるかも知れない。その日が来るまで、あなたはこの部屋から離れられなかったんだ」
違うかな。
師匠は首を軽く傾けた。死体の霊は何も語らない。


407: 幽霊物件 ◆LaKVRye0d.:2017/3/26(日) 02:14:19 ID:F.ceRSUuyA

「だけどあなただって本当はわかっている。恋人はもう戻ってこない。あいつは、たくさんいる女友だちの1人としてしか自分を見てくれていないことも。高校生はめんどくせえ。友人にそう言っているのを、あなたに聞かれてしまったこともあったんだってね。あいつは女たらしのクソ野郎だ。私も話していて胸糞が悪くなったよ」
師匠はそこで言葉を切り、ゆっくりと酒井良平の住所を告げた。
「あいつは今、そこにいる。もうこの部屋に出るのはよせ。でも、今のあいつの部屋に行くのもよしなよ。くだらないから。なにもかも」
師匠は右手を挙げて見せた。手のひらから、拳にかけて包帯が巻かれている。
「話していて、つい手がでちまった。まさか殴るつもりはなかったんだけどな。あなたのやりたかったこととは、違うだろうけど。ちょっとは気が晴れたかな」
師匠がそう笑いかけると、首吊り死体はゆらりと揺れた。
「あ」
見ている僕らの前で、その姿が徐々に薄くなっていった。存在が揮発していく。音もなく、溶けるように。すべてが消え行くその瞬間、表情のないその頬に、一筋の涙が流れたような気がした。
「消えた」
息を飲んですべてを見守っていた依頼人の三好が、そう呟いた。
「消えた」
もう一度繰り返す。
いつもの霊の消えるときとは、あきらかに様子が違うのだろう。今度は本当に、そして永遠に消えてしまったのかも知れない。
「凄いな、あんた」
三好は真剣な表情で師匠を見つめる。僕もまた、同じ気持だった。
「多分、もう出ないと思うよ。一応念のため、今夜はまた友だちのところにでも泊めてもらって、この部屋にはいない方がいい」
明日また見にくる、と言って、師匠と僕は102号室を出た。
「あ〜、終わったぁ」
師匠は両手を上げて伸びをしながらそう言った。
「幽霊が首を吊るなんて、そんなことがあるんですね」
僕がそう言って感慨深い溜め息をついていると、師匠はこちらを振り返る。
「盲点だったな。浮遊霊なら色々な現れ方をするけど、ああいう一見典型的な地縛霊に見えるやつが、そういうことになるなんて。思いつかなかった。奥が深いな」
この世界は。
そう言いながら、師匠は右手の包帯をクルクルと剥がし、近くのゴミ袋に投げ捨てた。
 

(完)


408: 1 ◆LaKVRye0d.:2017/3/26(日) 02:16:14 ID:F.ceRSUuyA

失踪(書籍版)、幽霊物件

【了】


409: 風の谷の名無しか:2017/4/2(日) 08:28:58 ID:7NpPPkRlYk
いつもありがとうございます!
加奈子さんの亡くなった原因は、いつかとりあげられるのかな〜
410: 1 ◆LaKVRye0d.:2017/4/4(火) 02:46:32 ID:xvjAz8nVuI

>>409
有難うございます
私が把握してる限りでは未だ死因は出て来ませんが、いずれ書いて下さると信じて待ちます

すみません、次の更新予定作品は前・中編しか書かれておらず、後がまだ無いので後回しにしようかと思っていましたが、
現在発表されている話の残りがもう僅かなので、やはり書かれた順にしよう…とバタついている内に随分お待たせしてしまいました
一週間を目安に次の更新の予定ですが、いつもお待たせして申し訳ありません


411: 風の谷の名無しか:2017/4/27(木) 00:33:06 ID:78sJZ6mQ/g
帰って来るの待ってるよー
保守保守
412: 風の谷の名無しか:2017/5/12(金) 08:44:58 ID:Q1b1gahRH.
お帰りお待ちしてます♪
413: 風の谷の名無しか:2017/5/18(木) 16:35:08 ID:ei9QG12O.w
保守
414: 風の谷の名無しか:2017/6/4(日) 23:54:06 ID:yYo5iIviSU
保守保守
415: 風の谷の名無しか:2017/6/12(月) 18:06:00 ID:T1T6IXCxRQ
保守
ずっと待ってます!!
416: 風の谷の名無しか:2017/6/21(水) 00:14:46 ID:7iX.2xWtjE
保守
417: 風の谷の名無しか:2017/7/7(金) 13:04:22 ID:1ZO2afkhOQ
ほしゅ
418: 風の谷の名無しか:2017/7/27(木) 02:22:40 ID:3i5sHT.5WI
ほす
419: 風の谷の名無しか:2017/8/19(土) 01:18:07 ID:a7TtWoh1Kk
保守
420: 風の谷の名無しか:2017/9/6(水) 04:02:06 ID:Vu4LcD4XH.
待ちます
421: 風の谷の名無しか:2017/10/4(水) 21:31:35 ID:a0tuh2oODQ
ほしゅ
422: 名無しと申します:2018/7/16(月) 00:00:12 ID:UYS2vbUMHY

423: 令和最初の名無しさん:2019/8/25(日) 18:51:42 ID:xGb3eNc5qw
保守
424: 令和最初の名無しさん:2019/10/27(日) 17:37:48 ID:EDMJho3bZ2

425: 東京名無しンピック2020:2020/10/19(月) 21:51:18 ID:DVkLhpvj66

426: 東京名無しンピック2021?:2021/3/8(月) 16:22:40 ID:xAYhXhB8y.

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