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つれづれに
[8] -25 -50 

1: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/18(火) 03:32:32 ID:HhoWsFjMjM

『手紙』

郵便受けに詰まったチラシの中に、それはあった。




61: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/8(火) 21:42:21 ID:SaPfFQhN5M
立ち入り禁止なわりにはロープしか張られてないし、玄関の鍵以外はガラッガラだしさ、これはもう忍び込まない方が馬鹿じゃね?って感じで。

で、夜の…七時は過ぎてたと思うよ。

みんなで懐中電灯とかキャンプ用のランタン持ち寄ってさ、旧校舎に肝試しに行った訳。

今考えると、馬鹿の極みだけどさ。
62: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/8(火) 22:05:32 ID:KTecCmgJ/E
鍵の掛かってない窓から中に入って。

ちゃんと上履きを本校舎から持ってきて履き替える辺り、まだまだ小心者だったなぁ。

いや、床を汚してあとあとバレたらヤバい、ってのもあったけどね?

一階の教室から見て回ったんだけど、まあ、木造なのと机や椅子がない事以外は大差なかったっけな。

あ、掃除されてないから汚い、ってのがあったか。あとギシギシうるせーの。忍者屋敷の廊下みたいにさ。
63: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/8(火) 22:13:18 ID:kvZJ1c/69U
ばあちゃんが「人の住まない家は傷みが早い」って言ってたけど、意味が分かった気がしたっけ。

…なに、前置き長い?

いやいや、ちゃんとどうしてそうなったかの説明しなきゃ分かりにくいと思ったんだけど。

あと、何で布団被ってんだよお前。
64: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/8(火) 22:33:02 ID:KTecCmgJ/E
…まあとにかく、教室には変わった部分が見付からなかったから、じゃあ特別教室行こう、と。

音楽室とか化学室とか工作室とか−−そっちに進んだ訳さ。



けど、何にもねーの。



立ち入り禁止の旧校舎だよ?

ロマンの塊じゃん、幽霊の一つや二つ出ねえかなってみんな期待してたんだよ。

けど、何もねえんだよ。

音楽室の肖像画なんて、画鋲で目を光らせるイタズラだったし。何それっつーか。
65: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/8(火) 22:39:36 ID:kvZJ1c/69U
みんなテンションがた落ちでさー…、それでも忍び込んだからにはコンプリートしようって変な意地張ってさ。

で、三階だったかな…図書室に入った。

うん、オチは読めるよな?

何もなかった。


俺以外にはな。
66: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/8(火) 23:00:54 ID:MS1/qmWxlE
さっき、教室の机とか椅子がないっつったじゃん。でも、図書室には本が全部…かな?多分、全部だろ。棚に残ってたんだよ。

で、床が綺麗な訳。

こりゃ古い図書の保管場所にしてんだろな、って思ってさ、だから玄関しか鍵掛かってないんだな、と納得もしてさ。

じゃあ次行こうぜーとなったんだ。

俺は懐かしいラノベ発見したから、ちょっと借りてあとで戻せばいいか、って最後に図書室出ようとしたんだ。
67: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/8(火) 23:13:16 ID:SaPfFQhN5M
そしたら、後ろから

《本をお借りでしたら、こちらで手続きをお願いします》

女の人の声がした。

肝試しのメンバーは男ばかりだったからな。やべ、とうとう出たかマジモンの幽霊、と。

とんとん、と肩を叩く手の感覚もする。

なのにさ、他の奴らは何も聞こえたり見えたりしてない感じに図書室出てっちゃう訳よ。

《貸し出しの手続きを》

俺の真後ろからはっきり声がしてんのに。
68: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/8(火) 23:25:36 ID:MS1/qmWxlE
仕方ないから腹を括って振り向いたんだ。

すげー美人の女の人が立ってて、困ったような笑顔っていうのかな、そんな顔をしてた。

透けてたけどな。

そのあとはもう、場の空気に飲まれちまってさー…。

《期間はどれくらいですか?》

「あ、えーと、一週間…で」

《はい、ここにクラスと名前を》

自分でも何やってんだろうと思いながら図書貸し出しの手続きしてたね。
69: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/8(火) 23:35:25 ID:kvZJ1c/69U
ひらひら手を振ってる女の人に反射的に礼をしながら、俺は旧校舎の図書室を出た。

先に探検してた奴らがお前何してたんだよって聞いてきたけど、何か秘密にしておきたくてさ、懐かしい本見付けて読んでたって嘘ついたんだ。


−−そんで、結局図書室以外には何も起こらずに、旧校舎の肝試しは終了した訳。


これが、俺が高校の夏に体験した話。
70: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/8(火) 23:46:23 ID:MS1/qmWxlE
あの女の人…司書さんって言うんだっけ?何者だったんだろうな。

幽霊がフツーに本の貸し出ししてるって、今思い出しても不思議だよな。

まあ、あの司書さんのおかげで本読むのが面白くなって、受験勉強とか少し楽になったけどさ。

……ん、旧校舎?

もうずっと昔に取り壊されたよ。

司書さんが成仏したのかどっか行ったのかは分からない。本校舎には出なかったし。

でも…

どこかの廃校で、今でも司書さんやってるんじゃないか、って。

俺はそう思ってるよ。


71: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/11(金) 06:26:59 ID:kvZJ1c/69U

『その名前は』


ぺたり、ぺたり、と鮮やかな色が丁寧にカンバスに載せられていく。

夕陽の射し込む教室、少女が独り。

同じ色を塗りたくられたカンバスは、布が少しくたびれてきたのか、少女が筆を置く度に僅かにその場所が窪んだ。

一心に、時に重ねて、載せられていく色。
72: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/11(金) 06:48:09 ID:SaPfFQhN5M
少女は筆を置き、ペットボトルの中身を呷る。ぬるい紅茶が喉を滑り落ちる。

ふう、と小さく洩れる息。

それから少女は使い込まれたペインティングナイフを手に取って、刃先を滑らせた。
73: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/11(金) 06:59:15 ID:MS1/qmWxlE
ぽたり、ぽたり、雫が緩やかに皮膚を伝い落ちていく。

落ちた先は、パレットの上だ。

赤い朱い紅いそれを、少女は持ち替えた筆先に含ませて、カンバスに載せた。

数日前に塗られた場所の色は朱を帯びた褐色に変化しつつあるが、今日筆を走らせた場所は、鮮やかな光沢を放っている。
74: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/11(金) 07:08:48 ID:kvZJ1c/69U
いったいどれくらいの色を載せたのだろう、ほぼすべてを同じ《絵の具》で塗り込められたカンバス。

それに尚も筆を走らせながら、

「ああ、なんて綺麗」

夕暮れの教室にたった独りで。

少女はうっすらと笑みを浮かべていた。


75: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/18(金) 02:14:12 ID:kvZJ1c/69U

『本日も待ちぼうけ』


また失敗した。

オーブンの中から漂ってくる焦げた臭いに、思わず顔をしかめる。

これで何度目だろう、スポンジケーキはべしゃりと潰れて焦げ茶色になっていた。

冷めた頃合いを見計らって包丁を入れる。

………固い。

典型的な失敗作、だ。
76: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/18(金) 02:35:40 ID:SaPfFQhN5M
仕方ないので焦げた部分は取り除いて細かく寸断し、冷蔵庫から取り出したヨーグルトの中に苺ジャムと一緒に入れてかき混ぜる。

苺ジャムの赤に染まっていくヨーグルトを見つめ、もうケーキ作りはやめようかと溜め息をついた。

飲みかけだった紅茶は温くなっていて、あまり美味しくない。
77: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/18(金) 02:50:41 ID:kvZJ1c/69U
どうしてだろう、レシピ通りにしているのに。ネットで失敗しない作り方も検索しまくって、それなのに。

「…諦めろ、って事かな」

世の中、頑張っても出来ない事があるというけれど、それにしたってあんまりだ。

また溜め息をついて、ヨーグルトを一口。
78: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/18(金) 03:14:32 ID:kvZJ1c/69U
最初はゼリー、次はクッキー。その次はなぜか白玉。羊羹や生チョコも作った。

全部美味しく作れたのに、この課題だけがどうしてもクリア出来ない。

この課題をクリアしないと、先生は現れてくれないのに。

「市販品じゃ駄目だしなあ」

市販のスポンジでショートケーキを作った時は、声だけのお叱りが飛んできたし。
79: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/18(金) 03:29:11 ID:KTecCmgJ/E
…でも。

これが最後の課題なのだから、クリアしないと。やり遂げないと。

でないと先生はいつまで経っても私の卒業を認めてくれない。

いつまで経っても私のところに来てくれない。誉めてくれない。

「…せんせい」



いつまで経っても、向こう側にいけない。
80: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/18(金) 03:41:26 ID:KTecCmgJ/E
生徒が残らず課題をクリアしない限り、料理教室の扉は閉まらないのだから。

「不出来な生徒でごめんなさい、先生」

カラン、とスプーンを置いて容器を端に寄せ、テーブルにべたりと伏せる。

−−もうすぐで、先生が亡くなってから六年目の秋が来ようとしていた。


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