『手紙』
郵便受けに詰まったチラシの中に、それはあった。
37: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/23(日) 18:09:37 ID:VTSHWpWAVQ
ずるり、ずるり、と。
トンネルの中から何かが這いずってくるような音がした。
「こ、今度は何なんだよっ!?」
男が懐中電灯の光を向ける。
そこには体の半分が削れて内臓が零れ落ち、全身血塗れの男性が路面を片腕だけで這いずっていた。
《車…俺を、轢いた、車、どれだ…?》
《誰、誰、誰、誰》
《お前かお前かお前かお前かお前か》
血塗れの男性は半分だけの顔で嗤いながら、物凄い速さで近付いてくる。
「やだやだ、来なきゃよかった、いやああああ!」
「早く逃げるぞ!」
肝試しに訪れた集団は這々の体で車に飛び乗り、猛スピードで廃トンネルをあとにした−−。
38: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/23(日) 18:30:41 ID:2SmBjDZddk
……………
「目を填めるのが面倒臭いです」
「あれ、内臓ってこの並び順でいいんだっけか」
「その豆のような部分はもう少し下ですよ。…そうです、そのまま閉じて下さい」
「お、どーも。くそ、肝試しに来るとはリア充め爆発しろ」
「呪わずとも、どうせ今頃は車とやらの中で醜い争いになっている事でしょう」
「そっか。ひひ、ざまーみろリア充」
「これがおなごに袖にされ続けた男の怨嗟…恐ろしや…」
「うるせえババア。顎に血ぃ付いてんぞ、拭くからじっとしてろ」
「…ありがとう、ございます」
39: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/23(日) 18:45:03 ID:2SmBjDZddk
「さて、今宵は如何しましょうか」
「馬鹿共の相手したら疲れたなー」
「私も生きている人間の相手は久し振りでしたから、些か疲れたやも知れません」
「そうだろそうだろ。寝ようぜ」
「…眠る事が、出来るのですか。初めて知りました」
「ババアのくせに知らない事あんのか」
「童貞が生意気な。…新造様から習った、子守歌でも歌ってあげましょうか」
「ああ、宜しく、ババア」
「ええ、おやすみなさい、童貞」
40: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/25(火) 15:21:59 ID:HhoWsFjMjM
『一人酒、手酌酒』
恋をすると綺麗になるらしい。
女性ホルモンがどうとか異性を意識するから外見に気を配るし生活に張りが出るとか、そういう事で綺麗になるらしい。
何だそれ、随分とお手軽な美容法だよな。
「あー…今日も疲れたぁ…」
お肌の曲がり角を過ぎてすぐ、昔は安けりゃで選んでいた化粧水を厳選するようになった。
空気の乾燥は大敵、肌の手入れは念入りに、余計な肉は付けずに大切な肉は落ちないように。
でも、そんなもの、
「お酒お酒…あとおつまみ」
数年経ったら面倒臭くなってやめていた。
41: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/25(火) 15:33:22 ID:2SmBjDZddk
だってしょうがない。
面倒臭いのは大嫌い。頑張って作れるようになった和食洋食も、自分以外に食べる人がいない。
女子会?傷の舐め合いしながら牽制するような空気も面倒臭い。
なので、今の私は。
「やっば、大吟醸やっば。マジうまい」
お酒と煙草とアニメとゲームと−−まあ、嗜好品と二次元世界に生きている。
42: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/25(火) 15:53:24 ID:VTSHWpWAVQ
「あー、煙草我慢だわ、この味を濁らせちゃ勿体ない」
半額シールが付いたお惣菜の揚げ出し豆腐を一口。そして日本酒。
何この幸せ。
残業でくたくたになった体に染み渡って、スライムみたいに溶けちゃいそう。
…まあ、夕食すっ飛ばしてお酒呑んでるから、回りが早いのもあるだろうけど。
予約限定版で購入したアニメのBOXセット、これの包装を丁寧に解きながらセットして再生する。
「やっぱりバトル物はいいなー」
こないだ同僚にお勧めされた恋愛ドラマなんて、食堂で使い回されたパセリより無味乾燥だったしなあ。
43: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/25(火) 16:11:49 ID:.YQl3liASQ
テレビと私以外は静かな夜。
お酒のコップを傾けながら、ちょっとだけ考えてみる。
−−いつか。
いつか私が恋をして、付き合ったりなんかしちゃったりする日が来るとして。
自室に上げたら、やっぱりたちまちドン引きされてしまうんだろうか。
ゲームとアニメとフィギュアだらけだし、この部屋。
まあ、だとしても。
「…そんな男、こっちから願い下げだわ」
筋金入りのオタク部屋の真ん中。
私はお酒を喉に流し込み、ぷはっと大きく息を吐いた。
44: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/30(日) 17:10:25 ID:2SmBjDZddk
『毒を食らわば』
消費した数は三発。
ポケットに突っ込んだ空薬莢の数を左手で確かめて、さてどうするかと考える。
(向こうさんが同業なんて聞いてねえぞ)
知らず眉間に力がこもるのを抑えて、深呼吸をした。
45: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/30(日) 17:22:36 ID:HhoWsFjMjM
どうするかもなにも、受けてしまった依頼は今更反故には出来ない。
ましてや、すでに撃ち合いをした今なら尚更だ。くそ、調査の手抜きしやがって。あの情報屋は金輪際使わねえ。
(どうする、どう動く)
サイレンサー付きとはいえ、いつまでも一つ所でドンパチやってる訳にはいかない。
民間人に被害を出したら、その瞬間に全ては終わるのだから。
自分の呼吸音が酷く耳障りに思えた。
46: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/30(日) 17:49:22 ID:.YQl3liASQ
互いに見えない睨み合いをする。
俺は向こうが動くのを待っているが、それは向こうも同じだろう。じりじりと時間だけが過ぎてゆく。影の形が、僅かに傾いていく。
…消耗戦は苦手だ。
苛々する。いい加減、煙草が吸いたい。
「−−クソが」
小さく呟いて、足を踏み出した。
47: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/30(日) 18:06:19 ID:HhoWsFjMjM
向こうの気配が動くのを感じると同時にルガーをその方向に撃つ。
コンクリートにめり込む音がしたが、距離と位置を測る為の捨て弾だ、目標以外の人間に当たらなければ構わない。
…あとで薬莢と弾の回収はするけれども。
「めんどくせえ、マジめんどくせえ」
苛々が加速する。つくづく、この稼業に自分は向いていないな、と自嘲して。
「…見付けた」
僅かに見えた影の先に、もう一発撃ち込んだ。
48: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/30(日) 18:23:35 ID:HhoWsFjMjM
「わー、美人。勿体ない。あー勿体ない」
でも依頼だからね、しょうがないね。
苦痛に歪む顔を見下ろしながら、両手にそれぞれ一発ずつ。薬莢は拾って、ポケットに。
消費した弾薬に見合う美人…で納得出来るかクソが。手の掛かる相手なんざ二度とゴメンだ、クソが。
ああもう、苛々してしょうがない。
49: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/30(日) 18:31:28 ID:2SmBjDZddk
ルガーを収め、別のポケットから取り出したものを見た標的は、目を大きく見開いた。
うん、さっきの銃で撃たれて終わりだと思ってたんだろう。俺だって最初はそのつもりだったし。
でも、これだけ手間取らせてくれた相手だ。
今日は特別、ってヤツである。
どうせやるなら最後まで。俺の気の済む最期をあげようじゃないか。
50: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/30(日) 18:50:46 ID:VTSHWpWAVQ
脇腹を爪先で転がして仰向けにし、角度を付けて口内に突っ込む。
こんな状況じゃなきゃエロい構図なんだがなあ。
「じゃあな、次はこんな人生選ぶなよ」
ガチリ、と撃鉄を起こして。
俺はブラックホークの引き金を引いた。
「…あーあ、勢いって怖いねー」
宿の階段を上がりながら、遠くで鳴り響くサイレンの音に俺は大きな溜め息をついた。
51: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/30(日) 19:00:27 ID:.YQl3liASQ
※ちょっと解説
ルガー(スターム・ルガーMk1)にはサイレンサー装着の為の専用パーツがあります。
こちらはオートマチックの銃。
ブラックホークはシングルアクション(自分で撃鉄を起こして引き金を引く)の銃。
リボルバーでマグナム弾を装填出来ます。
こちらもスターム・ルガーです。
52: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/5(土) 20:05:44 ID:SaPfFQhN5M
『××ぼっち』
「寂しい?」
「別に」
「おなか空いた?」
「…多分、そうかも」
「じゃあ何か食べなよ」
「お菓子でいい?」
「駄目だよそんなの…ほら、部屋から出よう?」
空間に、声が響く。
53: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/5(土) 20:17:13 ID:kvZJ1c/69U
「嫌よ。あの人達、嫌いだもの」
「でも、食べなかったらまた、大騒ぎされちゃうよ」
「…分かった。ちょっとだけね」
二階の部屋の扉が軋んだ音を立てて開く。
そこから出てきたぼさぼさ髪の女の子は、古びたうさぎのぬいぐるみを抱えて、階段をそろそろと降りていく。
時折、きょろきょろと周囲を窺いながら。
階下は彼女以外に誰もおらず、少女は冷蔵庫からラップのかかったおかずとおにぎりを取り出してレンジに入れた。
54: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/5(土) 20:27:37 ID:kvZJ1c/69U
温まるまでの数分間、少女は落ち着きなく腕の中のぬいぐるみを何度も抱え直す。
温め終了のレンジ音を聞くや否や、少女はお盆に皿を載せて二階の自室にばたばたと帰還した。
「誰もいなくてよかったね」
「そうね。さ、食べましょ」
ぬいぐるみを隣に座らせ、箸を取って
「ね、ほら」
「…分かってる。…イタダキマス」
仏頂面で少女はそう呟き、食事を始めた。
55: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/5(土) 20:48:47 ID:MS1/qmWxlE
食べ終えた食器を台所に持って行き、流しに置いて水に浸す。
テレビで見様見真似で覚えた歯磨きをし、少女はまた二階の部屋に戻った。
「ミントの匂いだ」
「イチゴ味は卒業したの」
「ちょっと大人だね」
「…口がすーすーして、水が冷たかったけどね。でもガマンしたわ、えらいでしょ」
「うん、凄いね、大人だ」
56: ◆bEw.9iwJh2:2016/11/5(土) 20:58:07 ID:KTecCmgJ/E
誉められて少女は少しだけ口元を緩めた。
それからうさぎのぬいぐるみを抱え、布団の上にごろりと寝転がる。
窓から差し込む光が眩しくて、少女は目をつむった。
「お外、行ってみたいな」
「あたしは嫌。このお部屋がいい」
「あの人達がうるさいから?」
「うん。変なにおいさせて、べたべた触ってくるんだもの。きもちわるい」
「嫌な触り方してくるのは、あいつだけだよ。他の人達は、心配してるだけ」
「でも、ママの悪口言ってた」
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