『手紙』
郵便受けに詰まったチラシの中に、それはあった。
21: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/20(木) 13:52:21 ID:HhoWsFjMjM
安普請のアパートの窓を開け、室内に飛び込んでくる冷気に構わず空を見上げた。
月が、出ている。
かつて彼女にプレゼントしたピアスの色によく似た青白い月が、街を静かに照らしている。
静かな夜に似合いの、冷たい月だ。
「…あー、」
怒りでも未練でも悲しみでもないこの感情のやり場をどうしたらいいのか、少し考えてから、
俺は夜の街に、言葉にならない叫び声をあげた。
くわえていた煙草が、窓の下に積もっていた雪に落ちて埋もれて、消えた。
22: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/21(金) 16:40:32 ID:HhoWsFjMjM
『ほしいもの』
「知ってる?放送室の話」
「知ってる?夕方に出るんだって」
「知ってる?まゆこさんのお話」
「知ってる?願い事を叶えてくれるらしいよ」
「でも、絶対に」
「まゆこさんのお願いは、聞いちゃ駄目なんだって」
見付からない。私のケータイのストラップが見付からない。
紐が切れちゃったのかな。古い物だから、もう塗装も半分剥がれちゃってるし。
でも、あれは大事な物なんだ。
23: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/21(金) 16:50:43 ID:.YQl3liASQ
教室の中、移動教室で行った先、今日は体育はなかったから、あとはどこだろう。
思い付く場所は全部探して、最後に辿り着いたのは放送室だった。
放送部の友達に頼んで借りた鍵を差し込む。がちゃりと横に捻ってドアを開けた。
「えー、夕方に放送室行くの?勇気あるね、まゆこさんの話知らないの?」
知ってる。
夕方、放送室に出るっていう、願い事を叶えてくれる幽霊のお話。
でも、私はそんなの信じてないもの。
24: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/21(金) 17:00:46 ID:HhoWsFjMjM
壁に並べられたパイプ椅子やマイクやよく分からないスイッチ類をちらりと見てから、私は床に這いつくばってストラップを探し始めた。
とても大事な物。大切な物。
私の、幸せだった頃の家族の思い出。
「どこ…どこに行ったの…?」
狭い部屋の中、ぶつぶつ呟きながらひたすら探す私の姿は、端から見るとさぞかし気味が悪いんだろうな。
でも、ここには私しかいないから。
25: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/21(金) 17:14:04 ID:.YQl3liASQ
どれくらいの時間、探したんだろう。
やっと見付けたストラップ−−ほとんど目鼻立ちが分からなくなっている小さなウサギ−−は、やっぱり紐の部分がぷつりと切れてしまっていた。
家に帰ったら、どうやって直そうか。
そう思いながら立ち上がり、さて教室に戻らないと、とドアの方を向くと。
−−−いつの間に入ってきたのだろう、長い髪の女の子が立っていた。
(あれ…ドアの開く音、したっけ…)
夢中で探していたから、そんなの覚えてないし気付かなかったかも知れない。
女の子は、長い髪を揺らして、ゆっくりとこちらに向かってくる。
26: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/21(金) 17:23:51 ID:VTSHWpWAVQ
てっきり、私と同じように探し物を取りに来たのだろうと思い、放送室を出ようと歩きかけた時、
《おねがいは、なぁに?》
耳元で透き通った声が響いた。
がしり、と。
ストラップを持っていない方の腕を掴まれる。なに、この子の手、凄く冷たい。
日本人形みたいに整った顔立ちの女の子。その顔がぐぅっと近付き、
《おねがいは、なぁに?》
確かに、そう囁いた。
27: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/21(金) 17:35:52 ID:HhoWsFjMjM
まさか。嘘だ。
だってあんなのはただの噂、よくある学校の怪談。
でも、今、夕方の放送室で、私の目の前にいるこの女の子は、
「………まゆこさん?」
私が掠れた声で呟くと、女の子は−−まゆこさんは、口元を三日月のように歪めて笑った。
背筋がぞわっと怖気立つ。
掴まれた腕を振り払い、ドアに駆け寄る。けど、幾らガチャガチャ動かしても、ドアはびくともしなかった。
鍵は掛けなかったはずなのに。
友達から借りた鍵を試しに差し込もうとしても、それは途中で詰まったかのように入らなかった。
カツン、カツン、と。
背後から足音が迫ってくる。
28: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/21(金) 17:49:42 ID:2SmBjDZddk
他に出口は−−そう考える暇もなく、また同じ腕を掴まれた。
「ひっ…!」
《おねがい、なんでもかなえてあげる。かなえてあげるよ?》
たとえば。
たとえば、あなたの死んだ妹だって、連れてきてあげるよ。
まゆこさんの口が、そう動いた。
妹。私の大切な、大切だったあの子。
このストラップをくれた、優しくて明るくて、宝石みたいにキラキラしてたあの子。
今はもういない、私の妹。
29: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/21(金) 18:03:29 ID:.YQl3liASQ
「…ほんとに、何でも叶えてくれるの?」
まゆこさんは、こくりと頷いた。
なら、あの子に会いたい。妹に会いたい。
《それがあなたのおねがいなのね》
ぎちり。
掴まれている腕に、指が食い込む。
《じゃあ、わたしのおねがいも、きいてくれる?》
まゆこさんのお願い?何だろう。私に叶えられる事なんだろうか?
《うん、あなたにしかかなえられないことだよ》
いいよ、あの子に会えるのなら。
……………………。
30: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/21(金) 18:11:37 ID:2SmBjDZddk
「−−続いてのニュースです」
「××県公立××高校内で女子高生の遺体が発見されました」
「遺体の腕は片方が切断、行方不明になっており、警察では殺人事件の可能性もあると−−」
《うふふ、うふふ》
《きれいなうで、わたしのうで》
《おねがいきいてくれてありがとう》
《むこうでいもうとにあえるんだから、わたし、うそはついてないよね》
「知ってる?放送室の話」
「知ってる?夕方に出るんだって」
「知ってる?まゆこさんのお話」
「知ってる?願い事を叶えてくれるらしいよ」
「でも、絶対に」
「まゆこさんのお願いは、聞いちゃ駄目なんだって」
「まゆこさんに、体のどこかを取られて死んじゃうからなんだって」
31: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/23(日) 16:03:25 ID:2SmBjDZddk
『トンネルの中』
「何度も言いますが、ここは私の住処なんです、新参者め」
「だから他にいい場所紹介するって言ってんだろーが、ババア」
「女性にババア呼ばわりとは…あなた、童貞で人生終わったんですね、惨めな」
「童貞ちゃうわ、大人の店くらい何遍も行っとるわ」
「あらあら、素人童貞というヤツですか、プークスクス」
「ぐっ…言い返せない…」
32: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/23(日) 16:29:51 ID:HhoWsFjMjM
「大体、工事予定もなく肝試しに来るような愚か者は滅多に来ない、こんな素敵な場所を、どうしてたかだか死んで数年っぽっちの餓鬼に私が譲らねばならないのですか。年上を敬えと教育されなかったのですか」
「見た目ガキはあんたの方だからな!?生きた年数なら俺の方が上だぞ!?」
「ふっ、ならば幼女に地上げを迫る穀潰しと言い換えましょうか」
「こんな性格悪い幼女嫌だ」
「あなた、女に幻想を抱いて童貞をこじらせたのですね…哀れな…」
「童貞言うな!しつこいわ!なら、そっちこそ処女じゃねーのかよ」
「当たり前ではないですか、ようやく禿を終える頃でしたのに」
「禿…はげ?」
「禿(かむろ)です。色街も知らないとは」
33: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/23(日) 16:44:51 ID:VTSHWpWAVQ
「おいやめろ、その可哀相なものを見る目をやめてくれ、心に刺さる」
「近代の若者は学び舎にて学問を修める好機を自ら捨てる者も多いと聞きましたが…嘆かわしい…」
「今の学校で遊廓の仕組み教える先生いたら、PTAから苦情きてクビだっつうの」
「人の世の明暗を知らずして成長など片腹痛し。…まあ、私のような子供がいないのならばよいのですがね」
「…ん、まあ、確かにな…」
「飯盛り女で童貞捨てた男に同意されたくはないですけどね」
「だから童貞うるせえよババア」
34: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/23(日) 17:00:55 ID:VTSHWpWAVQ
「−−さて、下らぬ事を話しましたが」
「何だよ、ようやく場所譲ってくれんのかよババア」
「誰が譲るか童貞」
「じゃあ何だよババア」
「久し振りに愚か者共がやってきたようですよ、童貞」
「−−お。マジだわ、めんどくせぇ」
「では、一時休戦と参りましょうか」
……………
35: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/23(日) 17:33:57 ID:2SmBjDZddk
車の止まる音と共にヘッドライトが消え、懐中電灯を手にした若者が数人、車から下りてくる。
「マジでこのトンネル出るの?すっげーボロいじゃん」
「ばっか、新築に幽霊出る訳ねーだろ?しっかし汚ぇなあ」
「女の子の幽霊ってネットには書いてあったけど、事故とか殺人事件とかソースないし。ビミョー」
あまり怖がる風でもないその集団は、古いトンネルの入り口に立つと懐中電灯を中に向けた。
照らし出された壁には落書きの数々や染み、路面には雑草がぼうぼうに生えている。
昼でもたいそう薄気味悪いだろう場所だ。
「ね、ねえ、トンネルの向こう行って戻ってくればいいんだよね?」
さすがに少しは怖じ気づいたらしい女性が僅かに震えた声で言う。
「ああ、それで−−」
「きゃああっ!」
36: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/23(日) 17:52:47 ID:2SmBjDZddk
突然背後から悲鳴が上がる。
トンネルの方を見ていた数人が振り返ると、その視界の先には、
《私と遊びにきたの…?》
《何で遊ぼっか、お姉ちゃん達》
《そうだ、お手玉しようよお手玉》
《お姉ちゃん達が負けたら、新しいお手玉、頂戴?》
真っ黒な眼窩からぼたぼたと血を滴らせ、片手に目玉を二つ載せた少女が立っていた。
「うわあああっ!」
「やだ、こっちこないで、こないで、」
集団は手近な逃げ場−−トンネルの中に走り出そうとする。
だが、しかし。
37: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/23(日) 18:09:37 ID:VTSHWpWAVQ
ずるり、ずるり、と。
トンネルの中から何かが這いずってくるような音がした。
「こ、今度は何なんだよっ!?」
男が懐中電灯の光を向ける。
そこには体の半分が削れて内臓が零れ落ち、全身血塗れの男性が路面を片腕だけで這いずっていた。
《車…俺を、轢いた、車、どれだ…?》
《誰、誰、誰、誰》
《お前かお前かお前かお前かお前か》
血塗れの男性は半分だけの顔で嗤いながら、物凄い速さで近付いてくる。
「やだやだ、来なきゃよかった、いやああああ!」
「早く逃げるぞ!」
肝試しに訪れた集団は這々の体で車に飛び乗り、猛スピードで廃トンネルをあとにした−−。
38: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/23(日) 18:30:41 ID:2SmBjDZddk
……………
「目を填めるのが面倒臭いです」
「あれ、内臓ってこの並び順でいいんだっけか」
「その豆のような部分はもう少し下ですよ。…そうです、そのまま閉じて下さい」
「お、どーも。くそ、肝試しに来るとはリア充め爆発しろ」
「呪わずとも、どうせ今頃は車とやらの中で醜い争いになっている事でしょう」
「そっか。ひひ、ざまーみろリア充」
「これがおなごに袖にされ続けた男の怨嗟…恐ろしや…」
「うるせえババア。顎に血ぃ付いてんぞ、拭くからじっとしてろ」
「…ありがとう、ございます」
39: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/23(日) 18:45:03 ID:2SmBjDZddk
「さて、今宵は如何しましょうか」
「馬鹿共の相手したら疲れたなー」
「私も生きている人間の相手は久し振りでしたから、些か疲れたやも知れません」
「そうだろそうだろ。寝ようぜ」
「…眠る事が、出来るのですか。初めて知りました」
「ババアのくせに知らない事あんのか」
「童貞が生意気な。…新造様から習った、子守歌でも歌ってあげましょうか」
「ああ、宜しく、ババア」
「ええ、おやすみなさい、童貞」
40: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/25(火) 15:21:59 ID:HhoWsFjMjM
『一人酒、手酌酒』
恋をすると綺麗になるらしい。
女性ホルモンがどうとか異性を意識するから外見に気を配るし生活に張りが出るとか、そういう事で綺麗になるらしい。
何だそれ、随分とお手軽な美容法だよな。
「あー…今日も疲れたぁ…」
お肌の曲がり角を過ぎてすぐ、昔は安けりゃで選んでいた化粧水を厳選するようになった。
空気の乾燥は大敵、肌の手入れは念入りに、余計な肉は付けずに大切な肉は落ちないように。
でも、そんなもの、
「お酒お酒…あとおつまみ」
数年経ったら面倒臭くなってやめていた。
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