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つれづれに
[8] -25 -50 

1: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/18(火) 03:32:32 ID:HhoWsFjMjM

『手紙』

郵便受けに詰まったチラシの中に、それはあった。




2: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/18(火) 03:39:13 ID:HhoWsFjMjM
「手紙…誰からだ…?」

僕は封筒を裏返して差出人の名を確認しようとする。けれど、名前どころか住所も記されてはいなかった。

「…………」

こういった手紙には、ろくなものがない。

けれど、宛名の字になぜだか懐かしさを覚えて僕は封を切った。
3: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/18(火) 03:45:58 ID:VTSHWpWAVQ
錆びたカッターナイフがざりざりと封筒を開いていく。

鉄錆の臭いが鼻先に届き、ふと頭の片隅をがりがりと引っ掻かれるような感覚に戸惑う。

青いインクにところどころ染まった便箋が一枚、あった。
4: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/18(火) 03:56:51 ID:2SmBjDZddk
『元気ですか?

もうすぐ私は、むこうに行くようです。

覚えていますか、私のこと。

忘れていても構いません。

ただ、君にだけはほんとうのことを話しておきたかった。

あの日、君に悪戯をしたのは私。
5: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/18(火) 04:03:31 ID:HhoWsFjMjM
楽しかったね、あの夏。

花火をして虫取りをして、私は君が捕まえたカマキリに悲鳴を上げました。

だから、仕返しに君が驚くところをほんの少し見たかっただけなのです。

ごめんね、あの肝試しの夜、』

6: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/18(火) 04:09:36 ID:HhoWsFjMjM
…そこで文は終わっていた。

蝉の鳴き声が耳にうるさい。

買ってきたカップアイスが溶けていく。

「…お姉ちゃん?」

そう呟いた時、電話がけたたましい音を立てて鳴り響いた。
7: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/18(火) 04:23:13 ID:2SmBjDZddk
電話は母からだった。

親戚の**が亡くなったと、そう告げる電話だった。

半ば上の空で言葉を交わし、受話器を置いて振り向いた先には。

封筒も便箋も、何もなかったかのように、インクの匂いとカッターナイフの鉄錆の臭いだけ残して。

「…お姉ちゃん」

ごめんね。

僕は、お姉ちゃんが驚く顔が見たかっただけだったんだよ。

あの夏、あの夜、僕が喘息で倒れたのはお姉ちゃんのせいじゃないんだ。

ただ、僕は。
8: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/18(火) 04:29:42 ID:VTSHWpWAVQ
「…お姉ちゃん、ごめんね」

大好きな、でも手の届かない年上のあなたに、僕のことを少しでも覚えていてほしかったんだ。



溶けたアイスの甘い匂いが、過ぎ去った夏の日を忘れるなと、僕を責めていた。
9: 名無しさん@読者の声:2016/10/18(火) 23:20:58 ID:0zNVw1D.MU
支援
10: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/19(水) 01:00:13 ID:VTSHWpWAVQ
短編を思い付くままに書き綴るSSです。
書きためせずに考えながら書いてますので、投稿時間のばらつきはご容赦下さい。

支援、ありがとうございます。
11: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/19(水) 01:17:35 ID:.YQl3liASQ

『放課後デビュー』

めでたく高校に合格、入学した。

どの部活に入ろうかと廊下に張り出されている勧誘チラシを凝視し、僕は腕組みをする。

やはり内申書に有利なものがいいだろうか…でも、運動神経悪いからなあ、なんて考えながら文化部のチラシを順繰りに読み進めていく。

「…何だ、これ」

カラフルで趣向を凝らしたチラシの中、藁半紙にマジックで書き殴られただけの、酷く簡素なものがあった。
12: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/19(水) 01:30:22 ID:HhoWsFjMjM
【放課後有効無為活用倶楽部】

字面からは何の部活−−部活なのか?−−をしているのか、さっぱり読み取れない。

活動内容の説明もなく、入部希望者は以下の場所か部長のクラスまで、とだけしか書かれてはいなかった。

いったい何なのだ、これは。

怪しさしか感じられないその藁半紙に顔を近付け、何度も読み返してみたが、やはり活動内容の推測は出来なかった。
13: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/19(水) 01:39:35 ID:HhoWsFjMjM
「君、入部希望者かい?」

背後からそんな声と共に肩に手を置かれ、僕は驚きのあまり飛び上がった。

振り返ると、ネクタイの色からして二年生らしい眼鏡をかけた男子生徒が立っている。

藁半紙を読むのに集中していたせいだろうか、足音に気付けなかったみたいだ。その二年生は僕の顔とネクタイを交互に見、

「で、入部するかい?」

そう言ってポケットから入部届だろう紙を寄越してきた。
14: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/19(水) 01:51:35 ID:.YQl3liASQ
つい反射的に受け取ってしまう。

受け取ってしまった手前、いいえ違います、とは言いづらい。陽が暮れてきたのか、廊下の床板が少し朱く染まり始めているのに気付く。

「あ、あの、」

「何かな」

二年生は柔和な表情で、少し首を傾けた。

「…この、放課後…なんとかって部活、何の部活なんですか」

早口言葉のような部活名だな、と思った。
15: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/19(水) 02:00:27 ID:2SmBjDZddk
「何の部活…か。うん、まあ、もっともな質問だね」

「文化部、ですよね?」

「一応ね。まあ、たまには運動部並に体を酷使する日もあるけど、滅多にないから安心していいよ」

いや、安心ポイントはそこじゃない。

二年生は、うーん、と唸りながらこめかみに人差し指を当てて、

「まあ、簡単に言うと、『退屈な日常を打破する為の部活』かな」

更に訳の分からないことをのたまった。
16: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/19(水) 02:12:40 ID:.YQl3liASQ
何なのだ、その活動内容は。

どうして学校がそんな得体の知れない部活動を許可しているんだ。

疑問が次々と湧き上がる。

−−だが、



「楽しい、ですか?」

「勿論。でなきゃ部活が存続出来やしないだろう?幽霊部員もうちにはいないしね」

これでも学校創立時からの歴史ある倶楽部なんだよ、と。

二年生はそれは愉しげな顔で言う。
17: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/19(水) 02:34:36 ID:2SmBjDZddk

……………。

僕は、

(何を考えてるんだ)

鞄から筆記具を取り出し、入部届にがりがりと学年氏名を記入し、

書き終えたそれを二年生、いや先輩に差し出して、

「−−宜しくお願いします」

何だかよく分からない、訳が分からない不明瞭な部活に入ることを決めた。



先輩は入部届を受け取ると、


「ようこそ、【放課後有効無為活用倶楽部】へ」


そう言って、片目を細めて笑った。


18: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/20(木) 13:19:50 ID:.YQl3liASQ

『月に吠える』


自室の壁にもたれかかり、煙草に火を点ける。メンソールの冷たさが、吸い込む冬の空気を更に冷却していく。

ストーブの燃料は今朝方に尽きてしまい、新しく注文しようにも懐には冬将軍が頑固に居座っていた。

バイト代が入るのは、来週である。

じゃあ布団に潜って暖を取ればいいじゃないかという話なのだが、灰を落としてしまった時に焦げ跡を作った事があったので、彼女が置いていった膝掛けで何とかしのいでいる。

部屋には、俺以外に誰もいない。
19: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/20(木) 13:30:37 ID:HhoWsFjMjM
いったい直接の原因は何だったのか、未だに俺には飲み込めていない。

ただ、去り際に彼女が吐き捨てた言葉が、独りになるとぐるぐると頭の中を巡るのだ。

カチリ。二本目に火を点す。

指先が冷たい。


《結局あなたは、自分が一番大事なんじゃない。二番目だって、私じゃないじゃないの》


「……………」

大切にしていたつもりだったのに。

記念日だって忘れないように祝ったし、家事だって出来るだけ頑張っていたつもりだったのに。
20: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/20(木) 13:37:39 ID:2SmBjDZddk
つもり、つもり。

浮かぶ自己弁護は、つもり、だらけだ。


《あなた、何にも分かってないのよ》


じゃあ、どうすればよかったんだろうか。

尋ねたい相手は、合い鍵を俺に投げつけて先週に部屋を出て行った。

口の中が煙草とは違う苦さで満たされていく。半分まで灰になった煙草をくわえたまま、俺は立ち上がった。
21: ◆bEw.9iwJh2:2016/10/20(木) 13:52:21 ID:HhoWsFjMjM
安普請のアパートの窓を開け、室内に飛び込んでくる冷気に構わず空を見上げた。

月が、出ている。

かつて彼女にプレゼントしたピアスの色によく似た青白い月が、街を静かに照らしている。

静かな夜に似合いの、冷たい月だ。

「…あー、」

怒りでも未練でも悲しみでもないこの感情のやり場をどうしたらいいのか、少し考えてから、

俺は夜の街に、言葉にならない叫び声をあげた。

くわえていた煙草が、窓の下に積もっていた雪に落ちて埋もれて、消えた。


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