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つれづれに
[8] -25 -50 

1:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2016/10/18(火) 03:32:32 ID:HhoWsFjMjM

『手紙』

郵便受けに詰まったチラシの中に、それはあった。




101:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2016/12/14(水) 22:10:11 ID:2X7Sn7osMQ

『連続と不連続』


コンクリートの路面に落ちている、小さな植物の種。それをつまみ上げて空中に放り投げる。

くるくる、くるくる、自然のプロペラが付いた種は綺麗に回転しながら落下した。

何の種かは知らない。調べた事もない。

でも、毎年秋が来る度にこれをやるのは、楽しかった。
102:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2016/12/14(水) 22:21:02 ID:hBWtCCsS/Q
それも、今はもう出来ない。

種を毎年付けていたらしい樹木は、道路の拡張工事だとかで切り株すら残されずに伐られてなくなってしまった。

今年の秋は、コンクリートの路面にはゴミ以外何も落ちてはいない。

私のささやかな楽しみは、誰かの利便性の為に奪われたのだ。
103:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2016/12/14(水) 22:32:07 ID:g/tnjEI7V2
−−せめて。

せめて、あの種の一つでも持ち帰って。

育つかは分からないけど土に埋めたなら、もしくは親に大人に何の植物の種なのだと尋ねていたなら。

私の哀しさは、少しは薄まっただろうか。


《誰かの幸せは、誰かを不幸にする》


そんな言葉を思い出し、これも不幸というのだろうかと独り首を傾げて。

私はコツコツと靴音を鳴らし、歩いた。


104:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 21:04:45 ID:2X7Sn7osMQ

『コンビニに行く理由』


部屋着のスウェットの上にコートを羽織り、財布と鍵を手に家を出る。

十二月の夜空は雲がどんよりと重たそうで、雪一つないのがなぜだかつまらない。

目指すコンビニまでは、徒歩七分だ。
105:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 21:24:13 ID:g/tnjEI7V2
「いらっしゃいませ、こんばんはー」

辿り着いたコンビニのドアを開くと、いつもこの時間にレジにいる女性が朗らかな声を上げる。

雑誌コーナーに足を向け、昔読んだ漫画のペーパーバックを発見して懐かしい気分になった。年月が経つのは早い。

カゴにスナックや駄菓子、惣菜パンやドリンク類を放り込んでスイーツコーナーへ。

二種類のシュークリームのうち、どちらにするかしばし悩む。
106:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 21:35:33 ID:hBWtCCsS/Q
結局生クリームとカスタードのオーソドックスな方を選び、カゴに入れる。

ちらりとレジの方を窺うと、店員さんはチラシの整理をしていて綺麗な黒髪と両手の甲しか見えなかった。

作業の途中でレジ打ちさせるのは何だか気が引けるので、カップ麺コーナーへ移動し、買うか悩むふりをする。

我ながら小心者、だ。
107:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 21:57:44 ID:g/tnjEI7V2
店員さんの作業が終わって少し経った頃を見計らい、レジに行く。

「ポイントカードはお持ちでしょうか?」

「あ…と、あります、」

不自然にならない程度に時間をかけてポイントカードを取り出し、渡す。

不規則な電子音がまるで自分の鼓動みたいだな、と思ったけど、それじゃ不整脈じゃねえか、と冷静な自分がツッコミを入れた。
108:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 22:01:46 ID:g/tnjEI7V2
会計を済ませ、「ありがとうございましたー」という声を背にコンビニを出る。

店の明かりが僅か遠くになった辺りまで歩いて、

「………はぁ」

足を止めて大きな溜め息をついた。
109:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 23:13:42 ID:hBWtCCsS/Q
今更のように全身が熱くなって、心音がやたらと耳にうるさい。

握り締めたビニール袋の重さが、手袋越しなのに指に痛かった。

(もう、ストーカー同然じゃねえかよ、俺)

何か、声を。

たった一言だけでも、何か言葉を。

それが出来なくて、彼女がレジに立つ時間にコンビニ通いを繰り返している。
110:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2016/12/23(金) 23:30:49 ID:hBWtCCsS/Q
思い切って、玉砕覚悟で。

砕け散ったら、もうあのコンビニに行かなければいいだけの話、それだけなのに。

(…そんなん、つらくて無理だわ)

明日のクリスマスイヴ。

彼女は普段通りにコンビニのレジに立っているのか、それとも−−、


「………あーあ、もう何も考えたくねえ」


家に帰って酒でも飲むか、とビニール袋の中でガサガサ揺れるスナック菓子を見ながら、思った。


111:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2017/1/18(水) 11:08:14 ID:7OaejmEFgE

『踏み出すその先』


布団の誘惑をはねのけ欠伸を一つ。

洗顔、歯磨き、寝癖直し、それらを終えてから着替えて朝食の席へ。

並んでいるのは−−和食?洋食?

食べているのに味は分からなくて、ちゃんと口に運べているのに肝心のそれを見る視界はぼやけている。
112:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2017/1/18(水) 11:18:12 ID:ynbZaOnSW.
一緒のテーブルに着いている家族の顔も、靄がかかったように酷く曖昧だ。

賑やかに交わされているらしい会話も、文章としては耳に入ってこない。

(…うちは何人家族だっけ)

そんな簡単な事すらなぜか思い出せない。

思考とは裏腹に体は食事を終えていて、いつ支度したのだろうか鞄を手に取る。

玄関で、行ってきますと一歩踏み出し、



−−そこで、いつも記憶は途切れるのだ。
113:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2017/1/18(水) 11:49:31 ID:tvwtCbnITM

《バイタルチェックの結果ですが、JCSVのままです》

《GCSでは?》

《E1、V1、M5…依然として低い状態です》

《…そうか》

《直接・間接共に対光反射及び眼位、》

《正常なんだろう?体温や呼吸器、脈拍に血圧…どれも変化なし、むしろ正常値だからね》

《…はい。なのに、なぜ…》


114:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2017/1/18(水) 12:37:45 ID:7OaejmEFgE
また布団の中だ。

おかしい、確かに外に出たのに。

でも目が覚めたのだから起きなくては。

掛け布団を体の上からどけて立ち上がる。洗顔、歯磨き、寝癖を直してそれから。

…ああ、着替えだ。パジャマ姿のままでは××に行けない。遅刻したら叱られる。

朝食を食べて鞄を手にして、行ってきますと言いながら歩き出す。

右足、左足、と地面の感触が返ってきて、


−−また、視界が一面の白で覆われた。
115:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2017/1/18(水) 12:59:05 ID:tvwtCbnITM

《お願いします、もうこの子しかいないんです!》

《落ち着いて下さい、本日お呼びしたのは経過報告と精密検査の了承を頂きたく…》

《検査ですか!?そしたらこの子が助かる方法が分かるんですか!?》

《…明確な回答は出来ませんが…。意識レベル以外は回復しましたので、》

《お願いします、どうか、どうか…!》


116:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2017/1/18(水) 13:20:14 ID:7OaejmEFgE
目を開ける前に分かる、また布団の中に戻っている事に。

今度はこのまま寝ていてみよう。誰か起こしに来てくれるかも知れない。


……………。


誰も来ない。

いや…鳥の鳴き声や車の排気音、そういった喧騒すら聞こえない。

仕方ないから起き上がる。

そしてまた、家を出ようとしたところで、


117:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2017/1/18(水) 14:05:34 ID:ynbZaOnSW.
布団の中にいた。

いしのなかにいる、じゃあるまいし、と思いつつ、今度は起き上がった。

階段をそろそろと降り、リビングを覗く。



………誰もいない。



あれ、おかしい、家族はどこに行ったのだろう。いつもなら朝食の支度も出来上がっていて、みんな椅子に着いていて。

そして出掛けるはずなのに、

…あれ?
118:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2017/1/18(水) 14:14:28 ID:ynbZaOnSW.
出掛けるって、どこへ?

いつもは××に行く時間で−−××ってどこだ?学校?違う、どこだろう。

頭が痛み出す。

学校、違う、そこは違う。そこに通っているのは姉だ、ああ、姉がいたんだ、他には誰がうちにいる?

思い出したい、思い出せない。

廊下に座り込むと、じわりと額から垂れてくる汗が鬱陶しくて乱暴に拭う。


−−腕にべったりと赤い色が付いていた。
119:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2017/1/18(水) 15:11:42 ID:ynbZaOnSW.

《患者の様態に変化、心拍と血圧上昇しています、すぐ病室にお願いします》

《分かった、すみませんがここでお待ち願えますか》


《先生、先程より心拍上昇しています。血圧上昇は収まりましたが…、》

《それ以外の変化は出ているか?》

《いえ、心拍と血圧だけです。波形の変化は他になし、分拍は現在134》

《洞性頻脈の症状に近いな…β遮断薬を投与する、用意を》

《はい!》


120:🎏 ◆bEw.9iwJh2:2017/1/18(水) 16:25:24 ID:ynbZaOnSW.
赤い。これは汗なんかじゃない。腕に、何より額からだらだら流れ落ちるこれは、自分の血だ。

そう認識した瞬間、着ていたパジャマがよそ行きの服に姿を変える。お気に入りの明るい緑色のシャツが、少しずつ赤く染まっていく。

座り込んだ廊下のフローリングの板には、コップの水を零した時のように赤い液体が広がっている。

(…ああ、そうだった)

今まで曖昧だった家族の顔を鮮明に思い出す。どの顔も血塗れで、首や腕や体が変な方向に曲がっている。

ぐしゃぐしゃに潰れた車の中。

(だから思い出せなかったんだ)

自分は、確か。

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