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【適当】小説書きスレ其の弐【万歳】
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1: 名無しさん@読者の声:2014/6/12(木) 23:18:52 ID:YDoKF2wKiU
ここは主に小説を書くスレです!
自由に書いてよろし!

・他人に迷惑を書けるのは駄目です!
・喧嘩は喧嘩スレへGO
・必要なら次スレは>>980さんがお願いします。無理なら早急に代理を!

不備がありましたらすみません。楽しく書けることを祈ります。


72: 久しぶりの暇つぶし:2014/8/23(土) 22:45:08 ID:hw3MFdA1G6

 リンゼには学がない。しかし彼は自分が凡庸だと言うことを自覚している。その分だけまわりのちょっとバカげた人間よりも、賢いのだと自負している。そう言うところが彼の愚かさだった。

 夕刻である。住宅街に五時の鐘が夕焼け小焼けを鳴り響かせ、小学生たちが疎らに家に向かって駆けだしていた。コンビニの袋を下げた青年を、通り過ぎる彼らは異様な人間だと認識していく。

 事実、この季節にも拘わらず、長そでの灰色のパーカーを着てブルーのジーンズで足首まですっぽりと覆った男は、その風景から浮いていた。加えてパーカーのフードを被り、ちらりとのぞく髪の毛がびっくりするほど派手な色であれば、子どもは彼を妖怪か何かだと思うに違いない。妖怪でなくても、まともではないと正しく認知するのだろう。

 その感覚は全く自分に似合いの物である。これまたリンゼはよく分かっていた。誰もが相応の生き方をしている。だからコンビニでたむろするごろつきの上位互換に当たるような彼が、何でも屋と称して犯罪紛いのことに手を染めているのも不思議な話ではなかった。むしろごろつきの方がまだ迷惑の掛け方がかわいらしく、そのことを考えると彼らよりリンゼの方の性質は悪かった。

 今日は子供を誘拐してきた。コンビニの袋の中で、ご機嫌取りのための菓子とジュース、それからペアを組まされている雪中花の好きなチョコレートが揺れていた。子どもを誘拐させるなんてどうにかしている。リンゼたちに依頼してきた人間のことを、彼はそう評価するがそれを実行するリンゼたちもどうかしている。

 類は友を呼ぶと言うのは全く正しい言葉だ。ろくでなしにはろくでなしが愚かな作戦を囁いてくる。その法則でいくと、リンゼは一生ろくでなしとしか付き合えない。

 雪中花と子どもが待つアパートの階段を上った。古いアパートの外階段はガタガタと揺れて忙しない。二階の廊下についてスッと正面を見据えたとき、リンゼは奇妙な感覚に襲われた。黙りこくった家々の扉を見つめて、何とも言えない違和感に唇を舐める。

 何が違う。具体的な理由は見つけられない。ただ漠然とした違和感が、彼の中で緊張を高めた。息を吐き、やや慎重に足を運んだ。ポケットから携帯電話を取りだして、雪中花に電話をかける。無事かどうか、変わりはないかどうか、それが訊きたかった。

 彼らが向かう先は203号室。5つあるうちの部屋の中で、ちょうど真ん中に位置する。雪中花が電話に出ぬまま、201号室を通りすぎ、202号室の扉の前にさしかかった。もう一度かけなおそう。不安がさらに膨らんだのを感じて、リンゼは携帯電話を下した。

 と、その時である。

 202号室の扉が突然開く。物音に振り返ったリンゼが覚悟する隙も与えず、飛び出してきた男の拳がリンゼの腹を突いた。グッと身をかがめたリンゼの顔を、間髪入れずに殴りつけられる。避けようにもそんな暇をくれない速さだ。男はそして最後にリンゼのボディに回し蹴りを叩き込んだ。

73: ひまつぶし2 前もやった気がする:2014/8/23(土) 22:46:41 ID:hw3MFdA1G6

 アパートの床に倒れたリンゼを見下ろす男は存外小柄で、美しい顔立ちをしていた。精巧な作りの人形を見ているようだった。彼はリンゼを掴んで起き上がらせると、203号室の中に放り込む。中で待っていた仲間の一人が、リンゼを受け取ると、手慣れた様子で彼を拘束した。リンゼの落としたコンビニの袋を拾い上げて、戻ってきた男が扉を閉める。

 203号室は見慣れぬほどに静まり返っていた。痛みに呻き、リンゼは顔をあげる。リンゼが触れたこともないきっちりとしたスーツを着込んだ二人の男は、何かを小声で話しこんでいた。リンゼを殴った男の方が、コンビニの袋から菓子を取出し、嬉しそうに食べ始める。もう一人の、やけに体格のいい男が呆れた様子でそれを咎めた。

 雌猫だ。彼らの格好とこなれた戦闘から、リンゼは同業者の名前を思い出した。そして静かな部屋にハッと気が付く。雪中花の姿が見えない。

「もう一人いたはずだ。あの女をどうした?」

尋ねたリンゼに体格のいい男の方が振り返った。リンゼを見つめる瞳が灰色で、それが氷のように冷え冷えとしている。ぞっとした彼に、男は風呂場の方を顎でしゃくった。拘束し、あちらに閉じ込めていると彼は言う。

「うるさかったからな」

さもありなんと、こんな時であると言うのにリンゼは納得してしまった。確かに男の言う通り、あの女は少々うるさいところがある。彼の後ろでチョコレートをもぐもぐとやっていた男が、その綺麗な形の目を微笑ませ、生きていると言った。

「僕らは同業者殺しなんて趣味じゃない」

少年のように笑う男を見て、リンゼは口をつぐんだ。二つの推測が確定し、一つ不可解な事が浮かんだのだ。確定したことは、彼らがリンゼたちと同業者であり、予想通り雌猫であること。そして彼らもまたリンゼたちが何者であるかを把握していると言うことだった。

 不可解なことは感覚的な物である。この男の少年のような笑顔や振る舞いは、およそ彼の戦闘能力や職業に“相応しくない”。

 実際、男は楽しそうに雪中花お気に入りのチョコレートを食べていた。これ、美味しいよ、ともう一人の男に伝えて、彼を呆れさせている。相容れない何かを感じ取ったリンゼだったが、そんなことを考えている暇はない。頭を振って、余計なことを追い払い、改めて彼らを見直した。

「アンタたち、雌猫だろ」

リンゼの問いを受け、彼らはちらりと視線を交わした。結果、灰色の瞳の男が口を開く。

「あぁ、同業者内ではそう言われている。自分らで名乗りはしないがな。アンタたちはお嬢さんたちで間違いないか」

リンゼは無言で頷く。フロイライン、令嬢を意味するドイツ語の社名は、同業者内ではしばしばそう呼ばれることがあった。しかしお嬢さんと言うのはまだいい呼び方だ。一般的にリンゼたちは、組織自体がまだ若く弱小であるゆえに、小娘と呼ばれることが多い。

 一方で、彼ら雌猫の格は段違いだ。業界トップシェアを誇り、全国各地主要都市に隅々まで支社がある。スマートで俊敏、そして上品であること。それが彼らの信念なのかそれとも規範なのか、雌猫の実行犯たちは皆イタリア製の高いスーツを着こなしていた。

 しかし、その彼らが一体何の用で格下のリンゼたちの元を襲撃したのだろう。


74: 暇つぶし3 読んでくれた方がいたらありがとう:2014/8/23(土) 22:47:38 ID:hw3MFdA1G6
 美しい青年が、チョコレートを平らげ、口の端を親指で拭く。そのついでに、彼は腕時計をちらりと見やった。彼が手首を動かしたのに合わせて、時計のサファイヤガラスが滑らかに光を反射した。

「日が暮れるまでに全てを済まそう。僕は帰らなきゃいけなくなる」

「飼い猫は大変だな」

「不便でも、一度飼われると野良には戻れない」

皮肉っぽく、彼らは不思議な会話を繰り広げた。そうかと思うとリンゼの方に視線を向ける。チョコレートの彼がまたコンビニの袋を漁りつつ、これは不幸な事案だとラベルを張った。

「君たちは僕らの勝手なゲームの答え合わせに巻き込まれている」

「勝手だと分かっているならやらなきゃいいのにな。自覚している分、余計に性質が悪い」

一瞬リンゼは、自分に学がないから彼らの話が分からないのかと勘違いした。しかしすぐに、この者たちが分からないように話しているのだと気が付く。訳が知りたい。強く迫ったリンゼに灰色の目の男が頷いた。

「簡潔に行こう」

と、新しい菓子を取りだした男が、袋を開けつつ宣言する。男はそれに頷いて、灰色の瞳を部屋の襖に向けた。

「俺たちはお前らが誘拐した少年に用がある。別に連れ帰るつもりはないから安心しろ。ただ訊きたいだけだ。この誘拐は、少年自身が画策し、お前たちに依頼して起こした狂言誘拐で間違いないか?」

リンゼは数度目を瞬いた。彼の言っていることがさっぱりわからない。彼らは端からリンゼに答えを期待してはいなかったらしい。二人の色違いの瞳は、黙って押入れを向いていた。押し入れに閉じ込められている少年が、それを肯定するように襖の向こうで身じろぎをする。

 一人だけ置いてけぼりにされたリンゼは、聊かそれが不服だった。さっぱりわからない。どうせ巻き込むのならば、そしてそれが不幸でありかつ不遇であると思うのならば、きちんと説明したらどうなのだろう。

 そんな彼の不満を察したように、クッキーを手に持った男がリンゼを振り返る。一瞬交わった視線は緩やかに笑っていた。男は相棒を見上げて、呼びかける。相棒を見下ろした灰色の瞳を見て、クッキーを食べつつ彼は笑顔になった。

「やっぱりさ、順をおって話そうよ。これは義務なんじゃないのかな」

「お前、時間は平気なのか」

クッキーの箱を下して、男は腕時計を見やった。リンゼは初めて、彼の顔が不快に歪むのを見る。しかし彼はすぐに笑顔に戻って、大丈夫、と軽く頷いて見せた。

「早口でしゃべるよ」

それを聞いた相棒は、灰色の目を呆れたように細めた。まぁ、いい。そういう決断が下されたのだろう。彼の視線はリンゼを向いた。そして隣の男もリンゼを見やった。彼はクッキーを齧りつつ、灰色の男をちらりと見上げる。お前が話せ。そう言う意味のようだ。

 早口でしゃべると言ったのだから、彼が話すのかと思っていたが違うらしい。それは相棒の方も同じだったようで、聊か不服な顔で彼から視線を逸らすと、深いため息を吐きだす。

「事の発端は押入れの中にいる坊やのママから、俺たちに依頼があったことだ」

そうして、彼らのくだらないゲームの内容が、大体二倍速に早口で語られ始めた。


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