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【適当】小説書きスレ其の弐【万歳】
[8] -25 -50 

1: 名無しさん@読者の声:2014/6/12(木) 23:18:52 ID:YDoKF2wKiU
ここは主に小説を書くスレです!
自由に書いてよろし!

・他人に迷惑を書けるのは駄目です!
・喧嘩は喧嘩スレへGO
・必要なら次スレは>>980さんがお願いします。無理なら早急に代理を!

不備がありましたらすみません。楽しく書けることを祈ります。


64: 名無しさん@読者の声:2014/7/27(日) 00:20:29 ID:J7nAEDSW5M
幼女B「どうしたの?みつかった?」

幼女C「む。なんだか強そうなおじさん」

看守「おじっ……、君たち、彼女のお友だちかな?さあさあ、みんなで上にお戻り」

幼女A「……あっ!おねーちゃんっ!」

勇者「おおっ!僧侶たん!」

看守「はっ?お、おね……?」

勇者「(ゝω・)vキャピ」

看守「( ゚д゚)マジッスカ」

幼女B「こちら、王さまからの詫び状です。この方は一応ながら勇者であり、わたしたちは自身の意思で同行してることがおわかりいただけましたか」

勇者「魔法使いちゃん相変わらず一言多い!」

看守「た、確かに……」

幼女C「はやくいこーぜ!」

勇者「一日ぶりの戦士たそhshs〜」

戦士「あっ、こら!くすぐったい!」

僧侶「おねーちゃんっ、わたしも!」

勇者「うはっ、ハーレムじゃあ〜」

魔法使い「それでは失礼します」

看守「………」

看守「もう世界がどうなるかわからんな」

 この後に勇者達は魔王を見事倒し、世界に平和を取り戻した。
 なお、ほとんどの戦闘を勇者一人でこなしたことは後世まで語り継がれ【露利魂伝説】として名を残している――
65: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/7/27(日) 02:09:34 ID:jkSkBAMZfs
ここに一本の腕がある。

ほとんど日焼けしていない白い右腕が、絵画さながらのシュールさで転がっている。
鈍い刃物で無理矢理斬ったような切口は皮や肉がぐちゃぐちゃに潰れていて、そこから溢れた赤黒い血がねっとりと溜まりを作っていた。
脂肪がついた指は太く、形の悪い爪は丸く、毛深いことから男の腕であることが窺える。
それも、青年ではなく中年の男の腕だ。
メタボリックシンドロームの傾向が見られるような、汗臭そうな醜い腕が、一本。
僕は、それが何か知っていた。

僕の家庭は、貧乏だった。
生活はとても苦しく、いつも築何十年の古い屋根の下でおかずのない拙い食事をしていた。
いつも我が家の家計はギリギリ間に合うか間に合わないかの瀬戸際で、きっと足りなかった月もあったのだと思う。
時折母さんが地べたに頭を擦り付けるようにして、親戚のおばさんにお金を貸して欲しいと頼み込んでいたのを僕は知っている。
そんな母さんに対しておばさんはいつも冷ややかで、軽蔑を込めた視線で母さんを見下ろしていた。
迷惑だ、そう言っていた。
そんな日には、夜中遅くに電気のつけられていない居間から、母さんの泣き叫ぶような声が響いたのをよく覚えている。
うるさくて眠れなくても、僕には気付かないふりしかできなかった。
66: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/7/27(日) 02:11:20 ID:jkSkBAMZfs
学校では、よく余った給食のパンをもらって帰っていたが、そのことでよくいじめられた。

おまえんち、びんぼうなんだろう?
食べもんないんだろう?

そう言って馬鹿にされて蹴られて、持って帰ろうとしたパンをその場で踏み潰されたりした。
みんなにとってはあり余っている食べ物で、でも僕にとっては貴重な食べ物を、目の前で取り上げられて上靴で踏みにじられた。
靴裏の模様が綺麗に刻まれたパンは、ぺっしゃんこで流石にこれは食べられないなと思って捨てた。
そして自分のぼろぼろの穴の空いた上靴を見つめてから、僕のパンを潰した綺麗なロゴの入った上靴を、羨ましいなと思った。

僕にはおばあちゃんとおじいちゃんはいない。
友達も、ひとりもいない。
母さんも今はいない。
つい先週、母さんはとうとうこの刻苦に耐えかねたらしく、僕を捨てて家を出て行ってしまったのだ。
僕を連れて行くほどの精神的余裕も金銭的余裕も、もう母さんにはなかったのだろう。
僕にあるのは、父さんだけになった。
67: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/7/27(日) 02:11:40 ID:jkSkBAMZfs
父さんは、たまにしか家に帰って来なかった。
帰ってくると、お願いだから働いてよ、そう懇願する母さんを、酔った真っ赤な顔でうるせえと一蹴して、母さんがパートで稼いだなけなしの生活費を掴んでまた家を出て行った。
母さんはそんな日も泣いていた。

父さんは働かずにギャンブルに興じているのだと、母さんから一度だけ聞いたことがあった。
母さんが死にそうな思いをして働いているのに、父さんはそのお金を奪って毎日遊んでいるのだという。
父さんを憎いと思った。
父さんの右腕が嫌いだった。
悲鳴をあげる母さんを殴る、その右腕が嫌いだった。
母さんの頑張って稼いだお金を奪っていく、その右腕が嫌いだった。
いつもギャンブルにいそしんでいる、その右腕が嫌いだった。
嫌い、だった。
大嫌いだったんだ。



ここに一本の腕がある。

ほとんど日焼けしていない白い右腕が、絵画さながらのシュールさで転がっている。
これは、父さんの右腕だ。
僕の嫌いだった、大嫌いだった、父さんの右腕だ。
68: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/7/27(日) 02:12:47 ID:1FQQHmq18Q
僕のずっと握り締めていた五本の指が力尽きたように延びて、開いた掌から柄がするりと滑り落ちた。
床に落ちて盛大な音を立てたそれは、切味の良くないノコギリ。
父さんの汚い血に汚れた、錆さえついたノコギリだった。
僕はこの柄で酔って帰ってきた思いきり父さんの頭を殴りつけ、昏倒したところで今度は脇腹にその刃を滑らせた。
案外と、簡単に殺せた。
死んだ後で、その右腕を切り落とした。

ねえ、母さん。
父さんは、もういないよ。
もう、全部僕が壊したから、母さんを殴るものも泣かせるものも何もないから。
ねえ、母さん、帰ってきてよ、母さん。
僕はこれからどうしたらいいの。
母さん。
母さん。

…母さん。

ここに一本の腕があるよ。



end
69: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/8/6(水) 15:06:05 ID:KGivw7UGio
1/2

荒れ果てていた。
ここには何もない。
あるのは死体と、兵器の残骸と、燃え落ちた灰だけだ。
戦争の爪痕。
虚無と絶望を体現したかのような有り様が、地平線の果てまで広がっていた。
動くものなど何もない、停止した景色。
そのなかで、ぼくとアサヒはぽつんと取り残されていた。

「…変な匂いがする」

「ゴミだよ。ただの、ゴミの匂い」

アサヒの言葉に、ぼくが答える。
空を仰いだ。
夜の冷たさのなかで、うすぼんやりとした月が浮かんでいた。
星は見えなくて、光源はそれだけ。
今にも闇に溶けて消えてしまいそうな明かり。
これが消えるころに世界は終わりを迎えるのだろうなと、そう思った。

「そう、ゴミ。どうせここにはゴミしかない」

死体という名のゴミ、兵器という名のゴミ。
アサヒが呟く。
確かにそうだ。
ここにはゴミしかない。
どうせもうすぐぼくらもゴミになる。
世界が終わる。
そうなるのを、もうずうっと待っている。

「ねえ、昔、戦争が始まる前、よく“明日世界が終わるとしたらどうする?”って質問したの、覚えてる?」

「うん、覚えてる」

「もう、あの質問も出来ないね。少し、寂しい」

ぼくが言う。
アサヒが振り向いた。

「寂しい?」

「うん。少しだけ」

そう、少しだけ。
延々と続くゴミの景色のなかで、お互い以外に何も抱きしめるもののない空っぽの腕で、ぼくらにとって最早寂しいとか懐かしいとかいう感情は無意味だ。
ただ残響のように消えていく、それだけのものだ。
アサヒは、ふうん、と小さく相づちを打った。
70: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/8/6(水) 15:07:57 ID:HZbg6VSMA.
2/2

「そう。…それなら、寂しいなら、ぼくがユウに聞いてあげる。
“明日世界が終わるとしたらどうする?”」

冷めた声音。
アサヒは、別にぼくの答えには興味がなさそうだった。
それも、分かる。
だってぼくらには選べる答えがひとつしかない。
分かる。
だってぼくらには選べる答えがひとつしかない。
…昔は、いろいろなことを言えた。
世界が終わる前にやりたいことはたくさんあった。
でも、今、ほんとうに世界が終わろうとしている今、ぼくらに出来るのはゴミに埋もれた地平線を見つめながら虚しく言葉を交わすことだけだ。

「…ぼくは、こうしてアサヒと話をしてるだけでいい。それでいい」

「…うん」

「アサヒは?」

「…ぼくも、ユウと同じ。それでいい」

アサヒが言った。
小さく唇を噛みながら。
ほんとうは、それでぜんぜんよくないことをぼくもアサヒも分かっていた。
でも、口に出せば哀しくなるから。
ぼくらは昔を思い出しながら、何も言わない。
君が隣にいるだけでいい。
こうして話をするだけでいい。
ぜんぜん良くないけど、それでいい。
それすらも叶わなくなって、やがて世界に終わりがくるのを知っているから。
だから、ぼくらは何も言わない。

「…アサヒ」

「なに、ユウ」

「…ううん、なんでもない」

「そう。…そっか」
71: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/8/6(水) 15:08:24 ID:HZbg6VSMA.
3/2(収まりませんでした)

ぼくらは待っている。
世界が終わるのを待っている。
もう、どれだけの間こうしているだろう。
ぼくらと、死体と、兵器の残骸と、燃え落ちた灰を、そのぜんぶを、月が泣きそうな顔をして見下ろしていた。
あそこからじゃあ、ぼくらとゴミの区別もつかないだろう。
別にそのことを哀しいとも思わない。
泣きたいとも思わない。
ぼくは全てを受け入れる準備ができている。

荒れ果てた地平線の果ては、白んでいた。
朝がくるのではない。
終わりがくるのだ。
やがて月が呑み込まれて何もかも一緒くたになる。
みんなゴミになる。
そうして終わる世界のなかで、アサヒとぼくが静かに眠りにつけたらいい。
それだけを、祈っている。



―――World Ending
72: 久しぶりの暇つぶし:2014/8/23(土) 22:45:08 ID:hw3MFdA1G6

 リンゼには学がない。しかし彼は自分が凡庸だと言うことを自覚している。その分だけまわりのちょっとバカげた人間よりも、賢いのだと自負している。そう言うところが彼の愚かさだった。

 夕刻である。住宅街に五時の鐘が夕焼け小焼けを鳴り響かせ、小学生たちが疎らに家に向かって駆けだしていた。コンビニの袋を下げた青年を、通り過ぎる彼らは異様な人間だと認識していく。

 事実、この季節にも拘わらず、長そでの灰色のパーカーを着てブルーのジーンズで足首まですっぽりと覆った男は、その風景から浮いていた。加えてパーカーのフードを被り、ちらりとのぞく髪の毛がびっくりするほど派手な色であれば、子どもは彼を妖怪か何かだと思うに違いない。妖怪でなくても、まともではないと正しく認知するのだろう。

 その感覚は全く自分に似合いの物である。これまたリンゼはよく分かっていた。誰もが相応の生き方をしている。だからコンビニでたむろするごろつきの上位互換に当たるような彼が、何でも屋と称して犯罪紛いのことに手を染めているのも不思議な話ではなかった。むしろごろつきの方がまだ迷惑の掛け方がかわいらしく、そのことを考えると彼らよりリンゼの方の性質は悪かった。

 今日は子供を誘拐してきた。コンビニの袋の中で、ご機嫌取りのための菓子とジュース、それからペアを組まされている雪中花の好きなチョコレートが揺れていた。子どもを誘拐させるなんてどうにかしている。リンゼたちに依頼してきた人間のことを、彼はそう評価するがそれを実行するリンゼたちもどうかしている。

 類は友を呼ぶと言うのは全く正しい言葉だ。ろくでなしにはろくでなしが愚かな作戦を囁いてくる。その法則でいくと、リンゼは一生ろくでなしとしか付き合えない。

 雪中花と子どもが待つアパートの階段を上った。古いアパートの外階段はガタガタと揺れて忙しない。二階の廊下についてスッと正面を見据えたとき、リンゼは奇妙な感覚に襲われた。黙りこくった家々の扉を見つめて、何とも言えない違和感に唇を舐める。

 何が違う。具体的な理由は見つけられない。ただ漠然とした違和感が、彼の中で緊張を高めた。息を吐き、やや慎重に足を運んだ。ポケットから携帯電話を取りだして、雪中花に電話をかける。無事かどうか、変わりはないかどうか、それが訊きたかった。

 彼らが向かう先は203号室。5つあるうちの部屋の中で、ちょうど真ん中に位置する。雪中花が電話に出ぬまま、201号室を通りすぎ、202号室の扉の前にさしかかった。もう一度かけなおそう。不安がさらに膨らんだのを感じて、リンゼは携帯電話を下した。

 と、その時である。

 202号室の扉が突然開く。物音に振り返ったリンゼが覚悟する隙も与えず、飛び出してきた男の拳がリンゼの腹を突いた。グッと身をかがめたリンゼの顔を、間髪入れずに殴りつけられる。避けようにもそんな暇をくれない速さだ。男はそして最後にリンゼのボディに回し蹴りを叩き込んだ。

73: ひまつぶし2 前もやった気がする:2014/8/23(土) 22:46:41 ID:hw3MFdA1G6

 アパートの床に倒れたリンゼを見下ろす男は存外小柄で、美しい顔立ちをしていた。精巧な作りの人形を見ているようだった。彼はリンゼを掴んで起き上がらせると、203号室の中に放り込む。中で待っていた仲間の一人が、リンゼを受け取ると、手慣れた様子で彼を拘束した。リンゼの落としたコンビニの袋を拾い上げて、戻ってきた男が扉を閉める。

 203号室は見慣れぬほどに静まり返っていた。痛みに呻き、リンゼは顔をあげる。リンゼが触れたこともないきっちりとしたスーツを着込んだ二人の男は、何かを小声で話しこんでいた。リンゼを殴った男の方が、コンビニの袋から菓子を取出し、嬉しそうに食べ始める。もう一人の、やけに体格のいい男が呆れた様子でそれを咎めた。

 雌猫だ。彼らの格好とこなれた戦闘から、リンゼは同業者の名前を思い出した。そして静かな部屋にハッと気が付く。雪中花の姿が見えない。

「もう一人いたはずだ。あの女をどうした?」

尋ねたリンゼに体格のいい男の方が振り返った。リンゼを見つめる瞳が灰色で、それが氷のように冷え冷えとしている。ぞっとした彼に、男は風呂場の方を顎でしゃくった。拘束し、あちらに閉じ込めていると彼は言う。

「うるさかったからな」

さもありなんと、こんな時であると言うのにリンゼは納得してしまった。確かに男の言う通り、あの女は少々うるさいところがある。彼の後ろでチョコレートをもぐもぐとやっていた男が、その綺麗な形の目を微笑ませ、生きていると言った。

「僕らは同業者殺しなんて趣味じゃない」

少年のように笑う男を見て、リンゼは口をつぐんだ。二つの推測が確定し、一つ不可解な事が浮かんだのだ。確定したことは、彼らがリンゼたちと同業者であり、予想通り雌猫であること。そして彼らもまたリンゼたちが何者であるかを把握していると言うことだった。

 不可解なことは感覚的な物である。この男の少年のような笑顔や振る舞いは、およそ彼の戦闘能力や職業に“相応しくない”。

 実際、男は楽しそうに雪中花お気に入りのチョコレートを食べていた。これ、美味しいよ、ともう一人の男に伝えて、彼を呆れさせている。相容れない何かを感じ取ったリンゼだったが、そんなことを考えている暇はない。頭を振って、余計なことを追い払い、改めて彼らを見直した。

「アンタたち、雌猫だろ」

リンゼの問いを受け、彼らはちらりと視線を交わした。結果、灰色の瞳の男が口を開く。

「あぁ、同業者内ではそう言われている。自分らで名乗りはしないがな。アンタたちはお嬢さんたちで間違いないか」

リンゼは無言で頷く。フロイライン、令嬢を意味するドイツ語の社名は、同業者内ではしばしばそう呼ばれることがあった。しかしお嬢さんと言うのはまだいい呼び方だ。一般的にリンゼたちは、組織自体がまだ若く弱小であるゆえに、小娘と呼ばれることが多い。

 一方で、彼ら雌猫の格は段違いだ。業界トップシェアを誇り、全国各地主要都市に隅々まで支社がある。スマートで俊敏、そして上品であること。それが彼らの信念なのかそれとも規範なのか、雌猫の実行犯たちは皆イタリア製の高いスーツを着こなしていた。

 しかし、その彼らが一体何の用で格下のリンゼたちの元を襲撃したのだろう。


74: 暇つぶし3 読んでくれた方がいたらありがとう:2014/8/23(土) 22:47:38 ID:hw3MFdA1G6
 美しい青年が、チョコレートを平らげ、口の端を親指で拭く。そのついでに、彼は腕時計をちらりと見やった。彼が手首を動かしたのに合わせて、時計のサファイヤガラスが滑らかに光を反射した。

「日が暮れるまでに全てを済まそう。僕は帰らなきゃいけなくなる」

「飼い猫は大変だな」

「不便でも、一度飼われると野良には戻れない」

皮肉っぽく、彼らは不思議な会話を繰り広げた。そうかと思うとリンゼの方に視線を向ける。チョコレートの彼がまたコンビニの袋を漁りつつ、これは不幸な事案だとラベルを張った。

「君たちは僕らの勝手なゲームの答え合わせに巻き込まれている」

「勝手だと分かっているならやらなきゃいいのにな。自覚している分、余計に性質が悪い」

一瞬リンゼは、自分に学がないから彼らの話が分からないのかと勘違いした。しかしすぐに、この者たちが分からないように話しているのだと気が付く。訳が知りたい。強く迫ったリンゼに灰色の目の男が頷いた。

「簡潔に行こう」

と、新しい菓子を取りだした男が、袋を開けつつ宣言する。男はそれに頷いて、灰色の瞳を部屋の襖に向けた。

「俺たちはお前らが誘拐した少年に用がある。別に連れ帰るつもりはないから安心しろ。ただ訊きたいだけだ。この誘拐は、少年自身が画策し、お前たちに依頼して起こした狂言誘拐で間違いないか?」

リンゼは数度目を瞬いた。彼の言っていることがさっぱりわからない。彼らは端からリンゼに答えを期待してはいなかったらしい。二人の色違いの瞳は、黙って押入れを向いていた。押し入れに閉じ込められている少年が、それを肯定するように襖の向こうで身じろぎをする。

 一人だけ置いてけぼりにされたリンゼは、聊かそれが不服だった。さっぱりわからない。どうせ巻き込むのならば、そしてそれが不幸でありかつ不遇であると思うのならば、きちんと説明したらどうなのだろう。

 そんな彼の不満を察したように、クッキーを手に持った男がリンゼを振り返る。一瞬交わった視線は緩やかに笑っていた。男は相棒を見上げて、呼びかける。相棒を見下ろした灰色の瞳を見て、クッキーを食べつつ彼は笑顔になった。

「やっぱりさ、順をおって話そうよ。これは義務なんじゃないのかな」

「お前、時間は平気なのか」

クッキーの箱を下して、男は腕時計を見やった。リンゼは初めて、彼の顔が不快に歪むのを見る。しかし彼はすぐに笑顔に戻って、大丈夫、と軽く頷いて見せた。

「早口でしゃべるよ」

それを聞いた相棒は、灰色の目を呆れたように細めた。まぁ、いい。そういう決断が下されたのだろう。彼の視線はリンゼを向いた。そして隣の男もリンゼを見やった。彼はクッキーを齧りつつ、灰色の男をちらりと見上げる。お前が話せ。そう言う意味のようだ。

 早口でしゃべると言ったのだから、彼が話すのかと思っていたが違うらしい。それは相棒の方も同じだったようで、聊か不服な顔で彼から視線を逸らすと、深いため息を吐きだす。

「事の発端は押入れの中にいる坊やのママから、俺たちに依頼があったことだ」

そうして、彼らのくだらないゲームの内容が、大体二倍速に早口で語られ始めた。


75: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/9/18(木) 23:24:20 ID:tTo33X2Amg
こんなこと繰り返して、一体何になるのかなあ。

彼女はそう呟いて、小さく息を吐いた。
膝上三センチのスカートが、夕方の冷めた風に揺れる。
空気には少しだけ排ガスの匂い。
大通りをバス停に向かって歩く俺らの影は、一定の距離を置いたまま伸びていく。

「知るかよ。
そういうことは頭でっかちの先公どもに言え」

「やだよ、成績下げられんじゃん」

あたしこれでも大学推薦希望なんだから、と彼女は続ける。
俺もはあ、と小さくため息を吐いた。

俺らの毎日は、学校に行って、授業を受けて、家に帰って、課題をやる、ただそれだけ。
毎日授業と試験と再試験と、講習と課題ばっか繰り返している。
勉強ばっかで、いくら勉強しても足りなくて、それ以外に必要とされることなんかなくて。
楽しいと思えることが消えて、早一年。
高校二年生となった俺達の日常はただ多忙を更に極めただけで、また去年と同じかそれ以上に辛い一年が過ぎることだろうと俺は予感する。
そして、予感は何れ事実に変わるだろう。
76: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/9/18(木) 23:25:14 ID:a5CI6Rgw5w
「あーあ。
あたし何で生きてんのか分かんなくなりそう」

重そうに鞄を背負う小さな背が、そう強い嫌悪感を持って毒付いた。
伸びる影は細く、脆い。
どうせその鞄の中にだって、今日出た課題が詰まっているのだ。
家に帰っても課題と予習復習に追われるのは、この学校が詰め込みゃいいという短絡的な考えの進学校だからだろう。
しかもそれなのにこの学校の進学率が高いもんだから、俺らの毎日に終わりはない。
先公の野望も、尽きはしない。

「絶対さあ、先生って進学率上がればそれでいいって感じだよね。
生徒の負担とか考えてくれないし」

「ならストライキでもすればいいだろ」

身も蓋もない返事に、彼女の横目がじろりと俺を睨む。

「…カズってさー頭いいけど成績大丈夫なの?
先生の前でも普通にそういうこと言ってるでしょ」

「構やしねーよ。
どうせ俺大学行かねーし」

刹那、彼女の靴音が止まったと同時、目と口を開いた間抜け顔が振り返る。
驚きとしか表現のしようがない、そんな表情。
どうせ俺みたいな自由人以外に、この学校に大学を志望しない人間なんていないのだ、きっと。
そもそも大学を志望しないというのが、彼女らには先ず存在しない選択肢なのであろう。
案の定彼女は信じられない!と喚き出した。

77: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/9/18(木) 23:26:02 ID:tdDkSZWvHM
「ウッソ!ウソでしょ!?
模試でもあんな点数取ってた癖に、大学行かないの?
もったいないよ、あんな頭いいのに!」

「お前、馬鹿?」

「ちょっ、何よそれ」

「大学に入れる人間は入らなきゃいけないとか、そういう馬鹿な前提作ってんじゃねーよ。
大学ってのはもっと専門的な勉強したいヤツが行くんだろ」

「そりゃ…そうだけど」

小さくうつ向き頷いた彼女を尻目に、するりと彼女の横を通り抜ける。
一瞬重なった影が、また遠く。
俺と彼女のポジションが入れ替わり、俺は後ろを気にせずに先をずかずかと歩いた。

「…そっか。
…そうなんだ」

ゆっくりと彼女の靴音が俺を追いかける。
独り言のような呟きが、自動車音にかすれて耳を抜けた。
成績はいいけど、頭の悪い女だ。
勉強ばかりやって生きてきて、勉強とそれ以外の全てが酷くアンバランスな…現代高校生の悲しい性(さが)。
でも今はそれが当たり前で、きっとイレギュラーなのは俺の方で。
教科書の紙の匂いが排ガスに混じったような気がして、俺は不愉快になってぶんぶんと頭を振った。
俺の嫌いなものばかりが、茶渋のように頭から離れないでいる。
78: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/9/18(木) 23:26:44 ID:cz7cfSsS7w
「…お前、なんで大学行くのよ」

「………別に、給料の高い仕事に就くため。
後、親に行けって言われたから」

「働きたいって願望ある?」

「……………そんなの、ないよ」

短い沈黙の後に、そう―――俺の予想通りの言葉が、返る。
背後で彼女がどんな表情をしているのか俺には分からなかったが、酷くばつの悪そうな顔をしているのだろうと思った。
けれど、でもさ、と言葉は続く。

「でもさ、どうせ働かなきゃいけないなら、お金いっぱい欲しいでしょ。
それだけだよ。
働かないで生きていけるなら、それが一番いいけどさ」

まるで何かの弁解のように彼女は言うけれど、それも俺の予想通りの言葉でしかなくて。

「ねえ、カズもそう思うでしょ?」

でも、きっと、それが普通の感覚。
正しいとか正しくないとかそんな次元にすら届かない、馴染み過ぎた当たり前のもの。
この世に本当にただ就きたい職業があるヤツなんて、どのくらいいるのか俺には分からない。
少なくとも、そんなヤツを俺は知らない。
79: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/9/18(木) 23:27:41 ID:89y5NMfb82
夕日がゆっくりと落ちていく中で、アスファルトが無駄にきらきらと光って見えた。
その上を自動車が何台も走る、走っては信号に足止めを喰らう、苛立ちのままに灰色の煙を吐き出す。
眼前にはコンクリートビルの影が、大きく俺らの影を呑み込んで倒れていた。
ふと視線を向けるとそこの看板には『○○塾』なんて書いてあって、また教科書の紙の匂いを思い出す。
中には受験勉強に明け暮れているらしい、中学生の背が見えた。
こいつらには、本当に行きたい高校とかあるんだろうか。
高校に入らなきゃいけないから、ただ机に向かっているんだろうか。
何のためにそうしているんだ。

「…嗚呼」

馬鹿みたいだ。
本当に、馬鹿みたいだ。
俺らだって純粋に、幼稚園の頃は叶えたい夢を言えたんだ。
今の俺らは夢見ることすらも出来なくなったけれど、仕事はただお金のためになり下がったけれど、あの頃は。
将来の夢に宇宙飛行士って、何の疑問もなく書けたのに。
それを恥ずかしげもなく人に話すことが出来たのに。
俺らは、いつからこうなったのだろう。
俺らは、何を失ったのだろう。
それすらも分からない中で、俺らは一体何を学んでいるのだろう。

「…なんか、お前の言う通りな気がしてきた」

「何が?」

「こんなこと繰り返して何になるのかなってさっき言ったじゃん」

「…いきなりそんなに話戻されても分かんないよ」
80: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/9/18(木) 23:28:48 ID:/MjnvKgbOA
彼女は息を吐きながら、苦笑する。
いつの間にか隣を歩く彼女の、固いローファーの音が耳に響く。
いつも通りの夕焼けが今日はやけに眩しくて、目が熱く痛むのを感じた。
きっと、俺は今、酷く泣きたいのだ。

そんなことには気付かずに、彼女は言う。

「…でも、繰り返して行けば、何か見えてくるのかな」

「…さあな」

俺は、曖昧に言う。

見えてきたバス停には既に何人もの人がバスを待っていて、夕焼けの中で揺らいでいた。
聞こえるのは、車道の喧騒と、靴音だけ。

「…でも、繰り返されるって保証があるのは、そこまで悪くはないと思うよ」

「うん?」

「どんなにつまんない毎日でも、辛い毎日でも、繰り返されるなら明日は来るでしょ。
明日が来るなら、いいじゃない」

彼女は、そう言って薄く笑った。
表情筋など使わない、冷めた瞳で世界を見据えた時のような、そんな笑い方。
俺はそれを横目で見ながら、ただ町並みに呑まれていく夕日を前に、歩く。

「…そんなの、慰めにもなんねーよ」

「うん、そうだね。
でも、慰めて欲しくもないんでしょ?」

「…まあ、そりゃな」

涙が出ても、悲しい訳じゃない。
日常を嘆いても、慰めて欲しい訳じゃない。
81: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/9/18(木) 23:29:38 ID:NKK3Q3K4qM
夢がなくても、大人にはなる、働かなくてはいけなくなる、お金は必要になる。
そうして、また明日がくる。
明日もまた、学校に行く。

「…課題、明日写させて」

「えっ、なんで?
カズの方が頭いいのに!」

何の気なしにそう言うと、隣から抗議の声が上がった。
あたしが写させて欲しいくらいだよっ、とキーキー喚く馬鹿に、俺は嫌味なくらいの笑顔を向けて。

「じゃ、よろしく頼むわ」

ホラ、結局仕方ないなぁと嫌な顔をしながらも、きっとコイツは写させてくれるから。
明日もきっと、今日と変わらない明日に、なるから。



理不尽な感情を抱え込んでも、矛盾だらけの毎日に退屈しても、例え今日一日が無意味でも。

アンバランスな自分を、パッチワークで繕って。
俺らは、今日を生きていく。



―――アンバランス、了。
82: 爆発した:2014/12/10(水) 23:04:56 ID:aQBQVC/2pA

 スラム街は今日も薄暗い。

 屋台がぎゅうぎゅうと寿司詰になって並んだ通りに、そのアッシュブロンドの男はいた。仲間と適当な話に興じながら、買ったシーフードヌードルをずるずるとやっている。遅い昼飯だった。仲間はバイト先の同僚で、彼と同じように大体皆頭も素行も悪そうな身形をしている。そう言う奴らが集まると、大抵話の内容は女か酒かギャンブルの話だった。一人が酷いヘビースモーカーなので、彼は時折渋い顔をしてその煙を払いのけつつ、ぼんやりと通りを見やる。

 スラム街は何とも薄汚い。街も人も建物すら、粉塵なのかうっすらと灰色がかって見えていた。そのくせ、今日は太陽すら遠い曇りの日で、しかも冬の近い寒い日であったから、その陰鬱さは余計に増していた。

 ぼんやりとする彼に仲間が話を振った。適当に応じて、またヌードルをずるずるとし始めた彼は、不意に何かの予感を感じてどんぶりから顔をあげた。その時、最初の一音だけを彼は確かに聞いたと思う。いや、むしろ最初の一音だけしか、聞くことができなかった。

 一瞬で辺りが無音に包まれた。呆然と彼は目の前のヌードルが、どんぶりごとゆっくりと浮遊し、ひっくり返っていくのを見つめていたと思った。しかしながら本当は自分自身も道に大きく投げ出されていたのである。それに気が付いたのは、実際にアスファルトの上に投げ出されてからだった。細かな瓦礫やら何やらが振ってくるのを腕で防ぎ、唖然として辺りを見回した。

 通り一杯に並んでいた屋台はそこからごっそりと消え失せていた。妙な耳鳴りがして、耳を抑えればそこに血の感触を知る。ぬめりけを指先で拭い、全身頭から真っ白に埃を被った彼はくしゃみをした。

 初めに思ったのはヌードルのことだった。訳の分からない状況を、だんだんと把握していくごとに妙な苛立ちを感じた。辺りでちらほら、人の姿が見えるようになる。呆然と通りを見つめている人や、必死で何かを探している人もいた。彼はため息をついて俯いた。履いていたはずのビーチサンダルが一つなくなっていて、舌打ちをし、それをも放り捨てた。

「やってらんねぇな」

一人呟き、アッシュブロンドの髪を掻き上げる。仲間を探す気にはとてもならなかった。スラム街は変わらずこんな調子なのである。昨日隣にいた神さまが、今日はいないなんてことくらい平気である。

 ひどい有様の通りを一人歩きはじめる。血の流れる右腕を庇いながら両手をジーンズのポケットに詰め込む。爆心地から少しずつ遠ざかり、彼は情報を集めるために都市部に向かった。

83: 横入りすみません:2014/12/23(火) 01:10:05 ID:zSrTtecpdQ
今日は楽しいことが起こったの!部屋の中に同じ歳ぐらいの子がいたんだ。初めて見る顔だった。
「こんにちは。里沙」って笑って言ったの!彼女と話すのは楽しい。真っ白な部屋ばかり見てたからつまんなかったんだ。
今日は楽しいことが起こったの!部屋の中に同じ歳ぐらいの子がいたんだ。初めて見る顔だった。
「こんにちは。里沙」って笑って言ったの!彼女と話すのは楽しい。
今日はびっくりしたことが起こったの!部屋の窓際に同じ歳ぐらいの子がいたんだ。初めて見る顔だった。「こんにちは。里沙」って笑って言ったのよ!嬉しい!
今日はびっくりしたんだ!突然、同じ歳ぐらいの子が目の前の椅子に座っていたの!里沙を見て「こんにちは。里沙」って笑って言った!笑い顔なんて久しぶり!知らない顔だった。
今日は『ママ』がきた。なんで泣いてるの?

知らない子が里沙を見て「こんにちは。里沙」って笑ってた。『』みたいに泣いた顔じゃなかった。『』って誰だっけ?
「こんにちは。里沙」って誰かが笑ってた。
「こんにちは。里沙」って何かが言った。
「こんにちは。里沙」って…
「おやすみなさい。里沙」
うん。おやすみなさい×××
また××しようね。だから…ないで。


私の親友が入院した。入院する前に聞いた症状は「忘れる」ということ。入院して数日は笑い話だった。里沙も笑って「まだ二十代なのにねー」って言っていた。段々笑えなくなってきた。病室を自分の部屋だと思い始めた所で私は限界だった。まだ私を覚えていた里沙は、笑って欲しいと願いを言ってきた。きっと彼女の最後の願い。それからは毎日遊びに行った日に日に里沙は悪くなった。もう私を誰とは認識出来なくなっていたようだった。
でも私は笑って「こんにちは。里沙」と言い続けた。彼女が永遠に寝続けるまで。
「おやすみなさい。里沙」
頑張ったね。里沙
「うん。おやすみなさい。香織」
私は泣いた。泣かないでと彼女は言って息を引き取った。
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