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【適当】小説書きスレ其の弐【万歳】
[8] -25 -50 

1: 名無しさん@読者の声:2014/6/12(木) 23:18:52 ID:YDoKF2wKiU
ここは主に小説を書くスレです!
自由に書いてよろし!

・他人に迷惑を書けるのは駄目です!
・喧嘩は喧嘩スレへGO
・必要なら次スレは>>980さんがお願いします。無理なら早急に代理を!

不備がありましたらすみません。楽しく書けることを祈ります。


44: 1/7 ◆iN.l3npE8U:2014/7/13(日) 21:24:22 ID:izIk0DwNI.
気がつくと私は、暗い森の中で、ひとり必死に穴を掘っている。
どうやって掘ったのか、底が見えないほど深い深い穴を、息を切らせながら見下ろしている。
傍らには、大きな錆びたシャベルが投げ出されていた。
ぽたりと穴の底に落ちていくのは、私の汗か、それとも涙か。

どうしてこの穴を掘ったのか、どうしてこんなに深く掘ったのかわからない。
ただ、飲み込まれそうな暗い深い穴が、そこにはある。

 * * * 

まただ。
またこの夢を見てしまった。
夢の中の自分と同じに汗をかいて目が覚める。
あの穴を掘った理由も、あの森がどこなのかも、現実にいてさえわからない。
じっとりとした不快感だけが、胸を浸食していく。
45: 2/7 ◆iN.l3npE8U:2014/7/13(日) 21:35:13 ID:4KR0fcTPFw
その夜も私は『穴』の傍らで、真っ暗な穴を見下ろしていた。

私はなぜか、左手を固く握りしめていた。
強ばった指をそっと開くと、小さな羽根の形をした、銀のネックレスがあった。

机の引き出しのずっと奥に、鍵をかけて仕舞い込んだはずのネックレス。もう見たくない、颯太にもらったネックレス。

―――あれは私の19歳の誕生日。
大学のそばの公園、薄暗くなったベンチに、2人並んで座って。簡素な包装の小さな袋を、「こんなんでごめん」と照れた様子で颯太が差し出した。
どんなでもいい、颯太に初めてもらったプレゼントだから、私は嬉しかった。
はしゃぐ私を、颯太は笑って見ていた。
―ありがとう。
何度も何度も、私は颯太にそう言った。

颯太と別れてから、私はあの公園のそばを通ることさえできないで、まわり道をして大学へ行くようになった。

ネックレスをもう一度強く握りしめて、それから暗い深い穴の上で、手を離した。
小さな羽根は、暗い穴の底に吸い込まれるように、消えた。
―さよなら。
その深い闇に向かって、私は小さく呟いた。

 * * * 

目を覚ますと、いつもとは違う、なにか不思議な違和感があった。
部屋を見渡して、その正体に気づく。
机の引き出しが、ほんのわずかに開いている。
鍵のかかる引き出し、颯太との思い出を封印した引き出し。鍵はかけてあったはずなのに、開いている。

どうして?

私はふらふらと起き上がると、机の前まで行ってその引き出しを開けた。
一番奥に仕舞っていた、蓋のついたお菓子の缶を取り出す。颯太との思い出を封印した缶。

恐る恐る、蓋を開けてみた。
羽根の形のネックレスが、なくなっていた。

その日私は、あの公園のそばを通って学校へ行った。
胸を刺す痛みも、こみ上げる哀しみも、もうなかった。
46: 3/7 ◆iN.l3npE8U:2014/7/13(日) 21:37:25 ID:4KR0fcTPFw
その夜も、いつもと同じ穴を見下ろしていた。
昨夜はこの穴に、何かを捨てたような気がする。
それが何だったのか、もう思い出せないけれど。

傍らには錆びたシャベル、そしていつのまにか右手には小犬のぬいぐるみを持っていた。

―――あれはまだ初夏、海へ行った日。
車の中に無造作に置かれていたそれを、「おまえに似てる」と、突然くれたものだった。
颯太が好きで好きで仕方なくて、シッポを振って駆け寄る小犬のようだと。
何よそれ、と私は怒ったけれど、頭を撫でられて機嫌が直ってしまった。単純なところも犬みたいだと、颯太は笑った。

颯太は海が好きだと言って、春の海にも冬の海にも連れて行ってくれた。
思い出してしまうから、海辺の街に住みながら、私は颯太と別れてから、一度も海を見ていない。

右手にぶら下がるぬいぐるみを、私は真っ暗な穴の上にかざす。
―さよなら。
手を離すと、ゆっくり、ゆっくり、その犬は穴の中へ落ちた。

 * * * * 

目を覚ますと、また部屋の中に違和感を覚えた。
何かが足りない。
何か。
部屋を見渡して、本棚の上に目を止める。そこに並べて置いていたいくつかのぬいぐるみの真ん中が、まるで誰かがひとつだけ持ち去ったように、ぽっかりと空いていた。

あそこには何があったんだっけ。
数秒の間考えて、そして小さな犬がいたことを思い出す。
だけどそれがどんな意味をもつものだったのか、どんな犬だったか、大事にしていたものだった気がするのに、思い出せない。
47: 4/7 ◆iN.l3npE8U:2014/7/13(日) 21:43:39 ID:izIk0DwNI.
暗さを増したような気がするその深い穴の傍らに、その夜私はアルバムを持って立っていた。
颯太と一緒に買った、青空模様の表紙のアルバム。ふたりで撮った写真を、大切に納めていった。

ページをめくる。春の海、冬の海、遊園地、颯太の車の中、そして颯太の部屋。最後の写真まで丁寧に辿ると、あとは黒い台紙が続く。
黒く寂しいアルバムをめくっていって、裏表紙に辿り着く。
そして閉じたアルバムを、両手でそっと穴の上に差し出して、捨てた。

 * * *

ゆっくりと目を開ける。
何かが起こっている。それはもうわかっていた。
起き上がって、棚の一角に目をやる。
中学時代、高校時代、家族と旅行したときのもの、丁寧に整理して並べていたアルバムが、ちょうど一冊分抜けていた。
だけどそこに何色のアルバムがあって、何の写真が入っていたのか、私にはもう、わからなかった。

それはもう、『捨てた』ものだから。

天気の良い日だった。授業もないので、自転車に乗って出かけることにした。

海へ。

どうしてだろう、何年か前まではよく来ていた気がするのに、家から一番近いこの海岸に来るのは、とても久しぶりのような気がした。
自転車を5分も走らせれば海があるのに、波の音も海の色も、ずいぶん長いこと見ていなかった気がする。

防波堤に腰かけて、海を見る。
なんだか左手が、手持ちぶさたな気がした。
何かを―――誰かの手を、私はいつもここで、握っていた気がする。
48: 5/7 ◆iN.l3npE8U:2014/7/13(日) 21:49:48 ID:izIk0DwNI.
その夜はいつもより森が明るく見えた。
その理由はすぐにわかった。
私は携帯を持っていた。画面の明かりが、暗い深い森を照らしていた。

颯太とお揃いで買ったストラップを、私は今も外せずにいる。
消すことのできない颯太からのメール、2人で撮った写真。
そしてもう使うことなどないのに、残されたままの颯太のメモリー。

私はゆっくりとその小さな機械を持った手を振り上げて、そして深い深い穴の底に、叩き付けるようにして、投げた。

 * * *

怖い夢にうなされた子供のように、私は飛び起きた。
夢の中の私は、携帯を『捨て』た。
今まであの穴に『捨て』たものは、(何だったか思い出せないけれど)全部私の現実からもなくなった。
慌ててベッドの枕元、いつも携帯を置いている場所を探る。

予想に反し、携帯はちゃんとそこにあった。
ただ、何かが足りない気がした。
飾り気のない、買ったときのままの携帯に、妹の修学旅行土産と、姉がくれた水色のビーズのストラップがついている。
ほかにも何か、ついていたような気がするのだけど。

それよりも妙な胸騒ぎがして、メールボックスを開ける。
受信メールが、やけに少なくなっていた。颯太からのメールがない。送信メールも画像も、残っていなかった。
アドレス帳で『竹田颯太』を検索する。

『該当するデータはありません』

私の携帯から、颯太だけが消えていた。
私が捨てたのは、携帯じゃなく、携帯の中の『颯太』だった。

そこでようやく私は、あの『穴』の意味に気づいた。
どうして今まで気づかなかったのか。
私は夢のなかで、『穴』に颯太との思い出をひとつひとつ『捨て』ていく。
その作業をすべて終えたとき、きっと私は颯太を忘れられるんだ。
颯太を忘れて、前に向かって、歩き出せるんだ。

それから私は色んなものを『穴』に捨てた。
颯太がくれたピアス、薬指には少しゆるくて中指につけていた指環、初めて2人で旅行へ行ったときの思い出。

その度私の現実から何かが消え、そして私は喪失感に包まれた。
だけどすぐに『それ』が何だったのか忘れてしまい、喪失感も虚無感も日常に埋もれてしまう。

私は立ち直るんだ。
半年も颯太のことをひきずって、前を向けなかった。
だけどこの作業を終えたら、すっかり立ち直って、前へ進むんだ。
49: 6/7 ◆iN.l3npE8U:2014/7/13(日) 21:53:21 ID:4KR0fcTPFw
最後の日がやってきた。
なぜか私はそれを知っている。
―今日の『作業』を終えたら。
不思議な決意に満たされて目を開いて、そして私は思わず声を上げた。

目の前に颯太が立っていた。
『穴』と私の間のわずかな空間に、浮かぶように、颯太が居た。

〔夏実〕

颯太が私を呼ぶ。
懐かしい声。
颯太はそっと私を抱き寄せた。
ふわりと漂う香水の香り。
ああ、颯太。

〔夏実、もうだいじょうぶ、今日で終わりだよ〕

颯太が言って、私の身体を離した。
―さぁ。
―終わらせるんだ。
颯太が私の目を見て笑った。
この笑顔も、声も、香水のにおいも、すべて好きだった。

だけど迷いはなかった。
やるべきことはわかっていた。

微笑み返して、颯太の肩をとん、と押す。

 ふわり。

颯太の身体は浮いて、それからゆっくり、ゆっくり、
深い深い『穴』の底へ、吸い込まれていった。
50: 7/7 ◆iN.l3npE8U:2014/7/13(日) 21:55:30 ID:izIk0DwNI.
テレビには朝のニュース。
母さんはぱたぱたと忙しく動き回っていて、父さんは食卓でコーヒー片手に新聞を広げている。
お姉ちゃんの爪は今日もきれいに整えられていて、妹は自分の寝坊を何かに責任転嫁している。
いつもと同じ朝だった。

「あら…」
テレビの画面を見て、母さんがふいに眉をひそめた。
「ねぇこれ、この近くじゃない?」
思わず皆が、そのニュースを見た。
確かに、見覚えのある風景と、見たことのあるマンションが映っていた。

アナウンサーの生真面目な口調が言った。
『…今日未明、こちらのマンションの駐車場で遺体が発見されました。
死亡したのはこのマンションの6階に住む、竹田颯太さん…』
その名前とともに、画面の端に顔写真が映し出される。
それを見て、お姉ちゃんが言った。
「あれ?この人、どっかで見たことある気がする…。
夏実、あんたの同級生とかじゃなかった?」
お姉ちゃんに言われて、私も画面をじっと見つめる。
―どこかで。どこかで会ったことが、あるような。
私もそう思ったけれど、どれだけ記憶を手繰ってみても、それが誰だったのか思い出せない。

あるいはバイトしている居酒屋によく来るとか、大学へ行く途中によくすれ違うとか、その程度の人なのかもしれない。

「ううん、知らない。よくいる顔なんじゃない?」
私は首を振って、テレビから目を離した。
そうかな、と首を傾げて、だけどお姉ちゃんも気にしたふうもなく、朝食の箸を持つ。
そうだよ、と私も言って、堅焼きの目玉焼きをつつく。

いつもと同じ、朝だった。


『…なお、竹田さんは6階の自宅ベランダのほぼ真下に、仰向けに倒れた状態で発見されており、ベランダから後ろ向きに転落、背中や後頭部を強く打ち、死亡したと見られています。
遺書などは見つかっておらず、警察は事故と事件の両面から、捜査を進める方針です…』


51: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/7/16(水) 15:10:11 ID:1OWkgS9UwU
死生する夢1/2



細く一筋の光が見える。
暗闇に射し込む、ざわめきにも似た白い光。
やがて大きく強く闇に広がって。

「おはよう。
僕の名前は××、死んで生まれる君を永遠に愛している」

それが目覚め。
暗闇しか知らない私に与えられた温かく、輝かしく、美しいもの。
貴方という、存在。

「貴方は、誰」

「僕は今日の君が生まれる前から、昨日の君が死ぬよりも前から、君と一緒にいる。
そして今日の君が死に明日の君が生まれた後も」

私は貴方を知らない、眠りの闇から私を掬い上げてくれる貴方を、がらんどうの私を光で満たしてくれる貴方を、私は知らない。
でも分かる。
貴方の優しい微笑みと真っ直ぐな言葉だけで。
私は貴方に愛されていることを知り、私もきっと貴方を愛すだろう。
貴方に愛され、貴方を愛すまで。
それが、私の一日。

「私は貴方を知らない」

「僕は君を知っている。
君が僕を知らず君自身のことすら知らないということも」

「どうして」

「君が忘れても僕は忘れない。
君が思い出さずとも僕は思い出す」
52: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/7/16(水) 15:11:22 ID:QDxXAZvW3Q
死生する夢2/2



私の記憶は目覚めと共に生まれ眠りと共に死す。
毎日毎日初めて貴方を知って、愛されて、愛して、また忘れていく。
貴方はまた私が真っ黒い闇に還ることを知りながら鮮やかな光をくれ、そしてまた光のなかに潜む闇をくれる。
死んで、生まれる、眠り、目覚める。
貴方のもたらす愛を奪われてはまた得る。
終わらない輪廻。

「眠るのは怖い」

「眠りは君を闇に突き落とす。
それなら僕は何度でも光をもたらそう」

「私はまた貴方を失わなきゃいけない」

「僕は死生する夢のなかで必ず君と一緒にいる」

「夢は夢」

「現実などどこにもない」

優しい微笑みと真っ直ぐな言葉を、貴方は幾度繰り返して来たのだろう。
私の傍らで、貴方は何を信じているのだろう。
私の闇、貴方の光、私の忘却、貴方の追憶、私の刹那、貴方の永遠、ずっと零に回帰するだけの夢のなかで。

「貴方を愛したくない」

「僕はもう君を愛してしまった」

「愛して忘れるくらいなら」

「愛して忘れられても」

「私はまた眠りにつく」

「しかし君はもう目覚めた」

目覚めなど欲しくはなかった。
失うくらいなら始めから、愛など知らずにいたかった。

光が再び細くなる。
闇が濃くなる。

愛され、愛するための一日が終わる。
53: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/7/17(木) 19:34:11 ID:rZ8g.duegA
西の窓1/3

春休み、幼馴染みのケイちゃんが引っ越しした。
私の家の隣家は、空き家になった。

私が学校から帰って来てその後一日が終わるまでの大半を過ごす、自室。
木目調の家具と大量の縫いぐるみで構成されるこの部屋は、南と西に窓がある。
南の窓からは道路が見え、西の窓には隣家の窓が重なるように合わさっている。
西の窓から見える、その窓の部屋がケイちゃんの部屋だった。

ケイちゃんは、恐竜が好きだった。
だから、ケイちゃんの部屋には恐竜の模型なんかがいくつも置いてあって、本棚には恐竜の分厚い図鑑が置いてある。
ケイちゃんは恐竜を好きなことが恥ずかしいらしく、周りにはいつも隠していた。
でも、私の部屋からケイちゃんの部屋は見えるからそんなことはバレバレで、だから、ケイちゃんが恐竜を好きなことは私は黙ってあげていた。

その代わり、私は縫いぐるみが大好きだった。
でも周りの女の子達は縫いぐるみなんか興味はなくて、玩具の機械なんかで通信をして遊んでいて、私は縫いぐるみが好きなことが恥ずかしくて隠していた。
もちろん私の部屋もケイちゃんにはバレバレだから、ケイちゃんには私が縫いぐるみを好きなことは黙ってもらっていた。
これが、私達の共有する秘密だった。
54: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/7/17(木) 19:35:56 ID:/bHhw959qA
西の窓2/3

私が部屋で休んでいると、時々コンコン、と窓ガラスを叩く音が聞こえることがある。
そんな音がすると、私はすぐにカーテンを開け、窓を開ける。
すると必ずその先にはケイちゃんが笑っていて、時々窓を伝って部屋に入って来たりした。
だから、その窓にはレース調のカーテンがあるだけで、後は何も飾られていない。
縫いぐるみでも置いておこうものなら、ケイちゃんが私の部屋に来るときに蹴っ飛ばしてしまうからだった。
私はケイちゃんがいつ部屋に来てもいいように、自分用の小さな冷蔵庫を持っている。
冷蔵庫にはケイちゃんの好きなファンタを入れておき、棚にはケイちゃんの好きなコンソメ味のポテトチップスを置いておくのだ。
ケイちゃんはファンタを飲みに私の部屋へ来る訳ではなかったけど、ケイちゃんが美味しい美味しいと言いながらファンタを飲むのを見るのが好きだった。

ケイちゃんは時々お母さんを怒らせて、夕御飯抜きにされることがあった。
そんなときはお腹が空いて、私の部屋にポテトチップスをもらいに来るのだけど、それも私は嬉しかった。
私は夕御飯を食べた後でお腹がいっぱいだったけれど、ケイちゃんと一緒に食べるポテトチップスが大好きだから、私もいつも一緒に食べる。
母さんのご飯よりポテチのほうがいいもんね、なんて言いながら、笑っていた。
55: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/7/17(木) 19:37:01 ID:rZ8g.duegA
西の窓3/3

一度、ケイちゃんと私の部屋に糸電話を繋いだことがあった。
たまたまテレビで糸電話の作り方をやっていたのを見て、ケイちゃんと一緒に糸電話を作ろうと話が決まったからだった。
私達が作った糸電話は、ケイちゃんは紙コップに戦う恐竜の絵を書いて、私はお花畑で遊ぶウサギの絵を書いて、それらをたこ糸で繋ぐだけの簡単な糸電話だった。
それをお互いの部屋の窓越しに置いて、ケイちゃんとたくさんお喋りをした。
私が、ハロー、ハロー、聞こえますか、と言うと、ケイちゃんはイエス、電波は良好です、どうぞ、と言った。
嬉しくて嬉しくてその糸電話は窓から窓へと糸を渡したままにしておいたのだけど、ある日風の強い日があって、糸電話の糸が切れてしまった。
私はそのとき、わんわん泣いた。
ケイちゃんと作った糸電話が壊れたのが悲しくて、ケイちゃんともう糸電話でお話出来ないのが悲しくて、いっぱい泣いた。
でもケイちゃんは、泣かないでよ、と。
糸電話も楽しかったけど、俺は直接話す方が好きだよ、と言った。
だから、私は泣くのをやめて、ケイちゃんといっぱいいっぱい話すことにした。
ケイちゃんは、笑っていた。

春休み、ケイちゃんが引っ越しして、私の部屋の西の窓から見える部屋は、空っぽになった。
それでも、私は西の窓辺には縫いぐるみを置かないでいる。
私の部屋には相変わらず冷蔵庫があって、ファンタとポテトチップスが常備してある。
ケイちゃんがいつものように窓ガラスを叩く気がして、私はよく西の窓を覗く。
空っぽの部屋を見る度に、ケイちゃんがいないことに驚く。

長年の習慣はなかなか抜けない、と誰かが言うのを聞いたことがある。
でも、これは習慣などではなく恋なのだ、と。
時折糸が切れた糸電話を眺めては、そう思うのだった。
56: 名無しさん@読者の声:2014/7/18(金) 18:34:31 ID:TGPqRdF0rc
こうかんにっき

部屋を整理していた時に一冊のノートを見つけた。表紙に『交換日記』と書かれていた。ページをいくつか捲る。僕が書いたページと、滅茶苦茶な文字のページを見つけた。
「若かったなぁ」
笑いながら当時を思い出す。昔、僕は好きな人が出来たら交換日記から始めたいと思っていた。それから好きな人が出来て、交換日記から始めるという願いも叶った。
願いは叶った…んだけど
「櫻井さん!書いてから渡してよ!」
「書いてますよ」
「紙がヨレヨレなだけだよコレ!返事楽しみにしてたのに」
「これ炙り出しです」
好きになった相手が悪かった。確かに炙り出しだった。でかでかと『宜しく』の文字。次はイカ墨で書いてきた。達筆過ぎて読めなかった。次は全体を鉛筆で塗りつぶして文字を読んだ。毎回毎回、読むのが大変だったけど楽しかった。彼女の事が更に好きになった。
今でも好きなことに変わりはないと言えば嘘になる。
「うげ。またそんな物出して…さっさと捨てて下さい」
好きは好きでも、以前よりも今の方が好きだ。僕は妻に笑顔で言ってやった。
「捨てないよ。これからも『宜しく』」
妻は苦笑いして
『宜しく』と言った。
57: とまとじゅーす ◆0gP2sG3Be6:2014/7/24(木) 09:33:35 ID:k5bC4zJ8jM
『君の名は』
 
チャイムが鳴る。
不毛な恋が、始まる。

がらがらと教室の扉が開いて、あたしのクラスを担任する、まだ若い化学教師が入ってくる。
シバさんとかシバくんなんて気軽に呼ばれる彼は、生徒からの人気が高い。

「今日はみんなのお待ちかね、テストを返しまーす」
えーっ。昨日テスト終わったばっかじゃん。待ってないし。早いよシバくん。
みんなが口々に言う。

「男に早いとかゆーな。いつもどおり赤点の人は放課後補習するから覚悟するよーに。」

返されたあたしのテストは、案の定、赤点だった。
あたしはちらりと彼を見る。
不毛な恋。だからせめて、一緒にいられる時間を。
58: とまとじゅーす ◆0gP2sG3Be6:2014/7/24(木) 09:34:23 ID:k5bC4zJ8jM
テスト用紙を持ってあたしの隣に戻ってきた藤井に、尋ねる。
「ね、藤井、また赤でしょ」
「・・・自分だって赤のくせに」
せーのでお互いテストを見せる。あたし、38点。藤井、39点。ギリギリアウトの赤点。

「よっしゃ、俺の勝ち。」
小さくガッツポーズをする藤井に、あたしはわざとらしくため息をついてみせる。
「毎回毎回、ご苦労だよね。ホントはちゃんと点取れるくせに」
「おまえだってほんとは、」
「ハイ静かにー。解説するからちゃんと聞いてー」
苦笑いを見せていた藤井が、シバさんの声で、ぱっとまじめな顔して前を向く。

あたしは知ってる。
藤井はほんとは理系の人間で、解説なんか聞かなくてもすごくよくできる。
それなのにまっすぐシバさんを見つめていた。

シバさんはまだ若くて、ほかのじいさん教師と違って融通が利くし、楽しいし、生徒からの人気は高い。憧れ以上の気持ちを抱く子もいると聞く。

そしてそれは、ここにもひとり。
不毛な恋をする藤井の真剣な横顔を、あたしは授業が終わるまで、こっそり見つめていた。
59: とまとじゅーす ◆0gP2sG3Be6:2014/7/24(木) 09:35:47 ID:k5bC4zJ8jM
視聴覚室での補習の時間にも、藤井はずっとシバさんを見つめていた。
補習が終わり、教室を出ようとするシバさんを、何人かの女子がきゃぴきゃぴと追いかける。

「ねーねー先生、今度個人授業してよー」
「何のだよ」
「なんのって化学に決まってんじゃん、シバくん意外にムッツリ?」

きゃははは。
笑い声が痛い。

藤井はふらりと窓辺に歩いていって、乗り出すようにして夕焼けを眺めていた。
帰り支度を済ませると、あたしも歩いてって藤井の隣に立つ。

「・・・俺、女の子だったらよかったな」
ぽつりと言う。
「あたしの制服貸そうか」
「きもちわるいことを言うな。そーじゃなくて、女子ならさ、さっきの子達みたく、冗談でも先生に迫れる」
それこそ冗談でも言ってるような顔で、だけど夕焼けに照らされた藤井の横顔は悲しそうにも見えた。

「迫ればいいじゃない」
「ばかだろお前、先生と生徒ってだけでもアウトなのに、俺、男よ?アウトオブ眼中もいいとこよ?」
アウトオブ眼中。それはあたしだって同じ。

「あーあ、俺、お前だったら良かったのにな。何か昔の映画みたく、俺とお前入れ替わったらいいのに」
「・・・勝手なこと言わないでよ」
あんたがあたしだったら、追いかけるのは先生じゃない。

どうして気づかないんだろう。あたしは女なのに、こんなにも気づいてもらえない。
60: とまとじゅーす ◆0gP2sG3Be6:2014/7/24(木) 09:45:39 ID:k5bC4zJ8jM
その日午後一番の化学の時間、いつもは予鈴より早く席に座っている藤井の姿が見えなかった。
チャイムが鳴って、シバさんが教室に現れても、藤井は戻ってこない。

シバさんが出席を取り始める。
「あれ、そこの席、休み?誰だっけ?坂井の隣」
「ふじーくんでーす」
お気楽な男子の声が飛ぶ。
ああ、そう、とシバさんは気のない返事をして、名簿の藤井の所にバツをつける。

『誰だっけ』?
あんなにいつも、藤井はシバさんの事を見てたのに?
きっとこのクラスの誰より、あんたの授業に熱心だったのに?
ほんとはできるのに、毎回赤点とって補習に出てまで、あんたを見てたのに。

藤井が、シバさんの中に何の印象も残していないらしいことが、悔しかった。
悔しくて、涙がこぼれそうになって、吐き気がして、あたしは思わず頭を抱えて突っ伏した。

「あれ、どうした?」
シバさんが近づいてくるのが足音でわかった。
「坂井?どうした?具合悪い?」
あたしの名前は、名簿なんか見なくてもわかるのに。
そんなことより、藤井の事を見てあげて。

肩にシバさんの手が触れた。
ガターン!
あたしはその手を払いのけて、立ち上がっていた。

あたしになんか触らないで。それを望んでいるのは、あたしじゃない。

「・・・気分、悪いんで」
それだけ言うと、あたしは教室を飛び出した。
61: とまとじゅーす ◆0gP2sG3Be6:2014/7/24(木) 09:50:14 ID:wOb5fsEmtU
藤井は視聴覚室にいた。
いつかのように窓際の机に腰掛けていたけれど、今日は外ではなくて足元を見つめていた。

扉が開いたのに気づいて、びくりと振り返って、笑った。
「なんだ、おまえかよ。びっくりさせんな。つーか授業は?」
「・・・こっちが聞きたいわよ。シバさんの授業、あんたがサボるなんて」
「うん・・・ちょっと」

そう言ったきり、藤井はどこか遠くを見つめて黙ってしまった。


長い沈黙の後、藤井が口を開いた。
「・・・シバさんさ」
「うん」
「7組の、桜木さんと、一緒にいたんだ」
「え?」
桜木。確かその子は、サッカー部のアイドルマネージャーだ。
「それが、何・・・?シバさんて確か、サッカー部の顧問でしょう?」
別に何も、不思議なところはない気がするけれど。

「進路相談室から、出てきたんだ。鍵、かけてて」

がちゃり、と鍵の開く音がして、普段人気のないその廊下を、藤井はふと覗き込んだ。
シバさんが、女生徒の肩を抱くようにして出てきたらしい。
それは、部活の顧問とマネージャーという関係以上に見えた。そもそもシバさんは進路相談なんて受けない。
驚いて動けずにいると、シバさんが藤井に気づいて苦笑した。

『あー・・・見ちゃったか。何組の、誰だ?俺の持ってるクラスの人だっけ?』
かすれた声で藤井は答える。
『2年・・・3組の、藤井です』
『ほんとに?俺のクラスだ。じゃあさ、口止め料として、今度の成績ちょっと上乗せしてやるから、黙っといて』

言い訳ぐらいすればいいのに、残酷にも『口止めしなきゃいけない現場』だったことを認めて、シバさんは笑ったという。
62: とまとじゅーす ◆0gP2sG3Be6:2014/7/24(木) 09:53:25 ID:k5bC4zJ8jM
「正直助かるよ、俺、赤点ばっかだったから。でもさすがに、授業で顔見るの気まずいっつーか、・・・見れなくて。サボっちゃった」
そう言って、あたしの目の前で、藤井は弱々しく笑って見せた。
だけどあたしは矛盾に気づく。

「そんなの、テキトーなこと言ってるだけだよ」
声が震えた。
「さっき、出席のとき、シバさん、あんたがいないの気づかなかったもん。動揺してもいなかったし、ぜんぜん、あんたのことなんか、名前も覚えてなくて、」
悔しくて、ぐちゃぐちゃになって、涙が出た。見られたくなくて、俯く。
「あんたのこと傷つけたのも、あんたがいないのもわかんなくて、成績だってぜんぜん、ほんとはそんな気なくて、」
視界の端っこで、藤井がおろおろしているのがわかる。

ああ、もう、どうしてこのひとはこんな不毛な恋をして。
名前も覚えてもらってなかった藤井みたいに、藤井の中にあたしはいなくて。
悔しくて、視界のぼやけた目で藤井を睨みつけて、言う。

「もうっ、何ボケッとしてんの?男なら泣いてる女の子慰めるぐらいの甲斐性もちなさいよ!」
「え、ええぇぇ?この状況は、俺が慰めるの?俺のこと慰めてくれるんじゃなくて?」
半分あきれて、半分うろたえて、だけど藤井はあたしのそばまで来て、小さな迷子にするみたいに、きゅっと手を握って、頭を撫でてくれた。

涙が、こぼれる。
きっと今泣きたいのは、あたしじゃなくてこの人なのに、だけど止まらない。

「よーしよしよし。なんでお前がそんな泣いてんのかわかんないけど」
あたしはもう自分でもわけがわからなくなりながら、思い切りしゃくりあげた。
「なんでこんな、不毛な恋を、するの?」
ははっ、と藤井が小さく笑う。
「うん・・・なんでだろうねぇ・・・俺も、わかんないや」
最後は藤井の声も震えていた。

どさくさにまぎれて藤井の肩で泣きながら、あたしはいつかの藤井の言葉を思い出した。

そうだね、あたしが男で、あんたが女だったら良かったね。

そしたらきっとあんたは素直に泣くことができたのに。
そしたらあたしが抱きしめて、慰めてあげるのに。

そしたら力ずくでも、泣いてるあんたを自分のものにしたかもしれないのに。

でもあたしは女で、あんたは男で、この恋は絶対にかなわなくて、だから。

だからせめて、あんたの肩で、あんたのかわりに泣いてあげる。


『君の名は』 終
63: 名無しさん@読者の声:2014/7/27(日) 00:19:29 ID:J7nAEDSW5M
勇者「パーティーを幼女で固めた結果wwwww」

勇者「城の地下牢に幽閉されたンゴ……」

看守「静かにしてろロリコン野郎」

勇者「異議あり!人類皆ロリコンです!幼女は正義なんです!」

看守「完全に犯罪者の言い分です」

勇者「グギギ」

看守「観念して煩悩を消し去ることに専念するんだな」

勇者「おかしい……私は勇者であるぞ……世界の平和と全ての幼女の笑顔を守るべく魔王を討ち倒す存在……これじゃバコタじゃないか……」ブツブツ

看守(狂ってやがる)

 幼女A が あらわれた!▼

看守「ん?おやおやお嬢ちゃん、ここは勝手に入っちゃだめな場所なんだよ。危ないから早く親御さんのところに戻ろうね」

幼女A「…………ふぇっ」

 幼女A は なかまをよんだ!▼

 幼女B が あらわれた!
 幼女C が あらわれた!▼

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うpろだ
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