2chまとめサイトモバイル

2chまとめサイトモバイル 掲示板
【適当】小説書きスレ其の弐【万歳】
[8] -25 -50 

1: 名無しさん@読者の声:2014/6/12(木) 23:18:52 ID:YDoKF2wKiU
ここは主に小説を書くスレです!
自由に書いてよろし!

・他人に迷惑を書けるのは駄目です!
・喧嘩は喧嘩スレへGO
・必要なら次スレは>>980さんがお願いします。無理なら早急に代理を!

不備がありましたらすみません。楽しく書けることを祈ります。


17: :2014/6/18(水) 19:44:04 ID:gLC12rS63M
もう既に半分べそをかいている男に阿久津はため息を吐き、丸まった背中を一度叩いてやった。意味も分からず、仲木戸はうん、と頷く。

「ねぇねぇ、春ちゃん」

もう一度話しかけられ、阿久津は仲木戸を見上げた。彼は何とも言えない微妙な顔で阿久津を見つめている。

「十年経ってるとね、きっといなかったり忘れてたりするのね」
「……あぁ、そうだろうな」

邑楽公園にも国道にも阿久津が求める者はいないかもしれない。彼は暗にそうほのめかしている。もしいたとしても、だ。阿久津が求める物は手に入らないかもしれない。けれどもとてもじっとはしていられなかった。

 それを分かっていて、仲木戸は眉を垂らす。そうだよね、と頷く彼は頬を掻き、両手をジーンズのポケットにしまい込む。

「ダメだったらアイスあげるの」

ニコニコと、仲木戸はどこか自慢げに言った。ついついそんな彼に頬が緩み、阿久津は黒い短髪をガシガシと掻く。

「でもそれ、俺の金で買ってんだろう?」

それを指摘すれば仲木戸はちょっとばかりきょとんとした。僕お金ないの、と実に彼らしい応えが戻ってきて、阿久津はまたため息を吐きだしかける。
「ほんっと、お前って馬鹿」

ため息の代わりに悪態をつけば、仲木戸はややムッとしたらしい。不貞腐れたような彼をにやりと見やり、阿久津はその背を押して邑楽公園にと急かす。何度もついたため息の所為で、詰まっていた肩の緊張はすっかり解れていた。


 平日の邑楽公園に人気は無かった。件の橋の前で阿久津は足を止め、周りの気配を探る。無駄な物が多いというか、不純物が多すぎて正直何が何だかわからない。一度場を清めるしか方法はないようだ。阿久津は小川に入って遊んでいる仲木戸を呼び戻し、彼にも状況を問うた。仲木戸はマスクで隠れた鼻を抑え、よく分からないと首を傾げる。

「なんか変な臭いするのね。ラーメン屋さんと鰻屋さんとお好み焼き屋さんと焼肉屋さんが全部お隣同士みたいなの」
「お前の例えは本当わかりやすいよなぁ、感心するよ」

主に欲望が。そうカッコ書きで言ったつもりだったが、仲木戸は褒められたと思ったらいく、嬉しそうにその場で飛び跳ねる。それを無視して、阿久津は抱えてきた太刀を抜いた。

「何するの?」
「ラーメン屋と鰻屋とお好み焼き屋を潰して、焼肉屋だけにする」
「全部食べたいのね」
「破産するから勘弁してくれ」

ため息を吐き、阿久津は黙り込んだ。集中した彼の気配に、仲木戸も釣られて黙り込む。ついでになぜか息を止めた。

 手に持った太刀に集中する。ふ、と気が緩むその一瞬を掴んで、太刀を地面に一度、突き刺した。

 阿久津を中心に据え置き、その場の空気が浄化される。それこそ、これで余計な店は無くなり、焼肉屋だけがここにある状態だ。どうだ、と仲木戸を振り返れば、彼は渋い顔で眉を顰めている。そんな顔をすると、ほんの少し恐ろしく見えるから彼は実際きつい顔立ちをしていた。

「あんまり好きじゃないの」

意外な言葉に阿久津は目を瞬いた。なぜ、と理由を問うと、仲木戸はむずがって猫のように顔を擦る。

「よくわかんないけど、なんか美味しくないのね。美味しい匂いじゃないの」
「と、言うと……」

この公園には何かがいる。それは確かだが、仲木戸が喜ぶようなものではない、つまり白花が言っていたような土地の神などではない、ということだ。
18: :2014/6/18(水) 19:45:01 ID:gLC12rS63M
 ふと、村瀬の言葉を思い出す。村瀬はこの公園が改装されると言っていた。ひょっとすると、それが関係あるのかもしれない。改装するからこの状況なのか、それともこの状況であるから改装するのか――

 どちらにせよ、もう少し何がいるのかを調べなければならない。阿久津は太刀をしまい、柏手を二度打つ。そしてもう一度。
『御魂の下に緊縛されし者。我が名に依りて封を解かん』
 目を閉じ、静かに唱えた。そして一度、柏手を打つ。

――INTECTUS。

 呼ばれた男はすぐ傍にいた。閉ざされていた瞼が持ち上がり、灰色に染まった瞳が露わになる。仲木戸は人ではない。他人の心の奥に眠る真実の姿を映し出す鏡のような悪魔だ。それを見せつけ、人をナルシストや醜形恐怖症にしたりする。

 自身もまた、阿久津によって封じられている際は醜形恐怖症であり、逆に封を解かれている際はナルシストになる傾向があった。ど
 マスクを取り去り、長い前髪を払った仲木戸はナルシストになるのも頷けるような、美しい顔立ちをしている。さして笑わなくなった彼にどうだ、と阿久津は尋ねた。

「どう、と言われても」

当惑したように辺りを見回して、そうだなぁと彼は首を捻った。先ほどまでアイスだとか焼肉だとか言っていた者と同一人物とはとても思えない。仲木戸は鬱陶しそうに前髪を梳かしつつ、阿久津の方を振り返った。

「たぶん、ほとんど死にかけなんじゃないのかな。そりゃ食欲沸かないものー、腐りかけの牛肉出されても、春ちゃん食べないでしょ」
「まぁ、そりゃあな」

封されると力を制限されるせいか、やはり仲木戸は封を解いているときの方が賢い。しかしどっちにしたって食うことしか頭にねぇ、と阿久津はいつも思った。美味しくない、と空気の匂いを嗅ぎながら眉を垂らす仲木戸に、阿久津はため息を吐く。

「まぁ、うまいまずいじゃなくて、その死にかけは何者なんだ」
「うーん? うーん、何だろ……、なんだろねぇ」

食べられない、とわかると途端にこれである。呆れた顔をする阿久津を振り返って、仲木戸はハッと顔色を変えた。違う! と弁解し始めた彼を疑り深く、阿久津はじっとりと見つめる。

「ほんとだよ! なんか気配ないんだもん、ほとんど。ねぇ、春ちゃんだってわかんない癖に、僕の所為ばっかりするのいくない! いくないよ!」
「わーかったから、ほら、落ち着けって。悪かったよ。そんなにあれなら、もう国道行っておくか?」

拗ねる仲木戸はううん、と唸ってその誘いを拒否した。なんだか、彼の癪に障ったらしい。悔しそうにじっと公園を睨んで、ふと、気が付いたように阿久津を振り返る。

「春ちゃん……」
「なんだよ」

にこ、と笑った仲木戸は封じられているときのように穏やかだった。それに少なからず驚いた阿久津に向かって、やや恥じるように仲木戸は下を向く。

「お腹減った」

おいで、と阿久津は仲木戸を呼ぶ。いそいそと近寄ってきた彼の頭を、阿久津は思いっきり拳で殴りつけた。


19: 10レスじゃおさまらないかも知れなくなってきた・・・・orz:2014/6/18(水) 19:46:12 ID:gLC12rS63M

「だからそんな阿呆ではなく、我を連れて行けばよかったんだ」

 行きつけのラーメン屋で夕食を取りながら、呼びつけた白花が憤慨している。阿呆じゃないの、と仲木戸はむっつり頬を膨らませて反論する。が、今一つ説得力はない。

 まあな、と阿久津は頷きつつ、塩ラーメンをずるずると啜った。そうは言っても白花は夜にでもならなければ連れて行き辛い。仲木戸は封をしている時でも封を解いた時でも指して見た目は変わらないが、白花は違うのだ。彼のその変化を人に見られたら、と思うとなかなかやり辛いものがある。

「それにお前、目立つしなぁ」

ため息を吐いた阿久津に、何が悪いのだと白花は憤慨した。目立ちたくないからその存在が厄介なのだと阿久津は言ってやりたかったが、そんなことを言えば白花はますます手に負えなくなる。

面倒くさそうに何でもないと言うと、彼はふんっと鼻を鳴らし、八つ当たりと言わんばかりに隣で餃子をむさぼる仲木戸を殴った。餃子を咥えた仲木戸がきょとん、と白花を見返す。

「それでこれからどうする気だ、春」

問われ、考える。腹が減ったと駄々をこねられたから、ラーメン屋に連れてきたはものの、実際収穫はゼロに近い。邑楽公園には死にかけの何者かがいる事、そのくらいしかわかっていない。

「まぁ、腹も一杯になればコイツの頭も少しは回るだろ。お前もいることだし、国道に一度行ってみてから、もう一回邑楽公園に行ってみるか」

今度はもう少し明確に何がいるのか掴めるかも知れない。白花は阿久津の答えに少し満足げに頷いた。なんというか、偉そうな少年である。
とりあえずは腹ごなし。そう決めた阿久津がずるずると再びラーメンをすすりはじめると、仲木戸がメニューを睨んでいるのが見えた。

「まだ食うのか」

思わず呆れてそう声をかけてしまう。阿久津を振り返った仲木戸が、メニューを抱きつつ照れたように目元を緩めた。

「ねぇねぇ、春ちゃん」
「なんだ、頼むならあと二つまでにしろよ」
「ほんとー? 二つもいいのね? それじゃ杏仁豆腐とチャーハンと焼焼売と麻婆豆腐と……」
「二つだ」

結局チャーハンと焼焼売を頼んだ。一体どこにそれだけ入るのか、阿久津には想像もできない。ご機嫌な様子の仲木戸は自分のマスクを引っ張りつつ、そう言えば、と思い出したように阿久津を振り返る。

「公園ね、村瀬に訊けばいいと思うのね。さっき、改装なんでするのーって話したでしょ?」
「あぁ、それもそうだな」

そもそもこの話を持ってきたのは村瀬である。それに彼はこの街に住んで長い。村瀬に聞いてしまうのが一番手っ取り早いだろう。

 明日、三貴コーヒーに行くか、と阿久津が決断を下す。その店のパフェが大好きな仲木戸は、両手を挙げて喜んだ。もしやコイツ、それが狙いか。

「村瀬好きなのね」

ニコニコとして仲木戸が言う。そうだろうなぁ、と阿久津も頷いた。村瀬はなんというか、彼らの扱いが上手い。

「まぁとりあえず、国道行ってみるかぁ」

大きく伸びをした阿久津の真似を白花がして見せる。それを見た仲木戸は何を思ったのか、彼もそれに続いた。

20: ◆f6FeUskW/6:2014/6/18(水) 19:47:08 ID:gLC12rS63M

 国道は不気味なほど静かだった。拉げたガードレールや電柱に付いた擦過痕。そして道路沿いに立つ事故注意の看板。10年前の事故現場がそのまま残されているような雰囲気に、阿久津の背中はぞくりと震える。

「僕ここ嫌いなのね」

封を解くまでもないらしい。仲木戸が心底不快そうに呟き、ぎゅっと両手で服の裾を握りしめる。白花は阿久津の肩の上で鼻先を空に向けていた。そうかと思うと、舌をべろりと出して見せ、こちらも不愉快な顔。

「腐ってる」
「あー、そうかよ」

そんな気持ちはしないこともない。どうやらここには不浄な気がたまりにたまりこんでいるようだ。浄化すればいい、と白花が阿久津に言うが、そうしてしまうとなんだかすべてが消え去ってしまいそうだ。手がかりも何も残らない、と言うのは避けたい。

「ここなんなの? 気持ち悪いのね」

何に腹を立てているのか、頬を膨らませる仲木戸が阿久津の服の裾を引っ張り尋ねた。ぐるりと辺りを見回して、そうだなぁと彼は一人ごちる。

「たぶん、何かが呼んでるんだろうなぁ。それでここは事故が相次ぐ場所になっちまってんだ」
「あの擦過痕やガードレールは10年前の物じゃないって言いたいんだな? 最近の物だと」
「あぁ、たぶんだけどな。普通、10年も壊れたガードレールを放置しないからな。電柱はまだしも、あっちは最近の物だ。きっと何かが事故を誘発してる。それでここの空気がおかしなことになってるんだろうよ」

その根本を見つければ、何かを掴むことができるのかも知れない。すんすん、と鼻を抑えつつ、辺りを探っていた仲木戸が、不思議そうに何度か首をかしげた。尋ねれば、眉を顰めた彼が阿久津に視線をくれる。

「公園と似たような匂いするのね」

似たような? 聞き返すと仲木戸は頷いた。ほんの少しだけれども、と指先で示しつつ、あたりをきょろきょろと見回す。やはり国道と公園は無関係ではないのか。頬を掻きつつ、どうしたもんかと唸った阿久津の上で、白花が声を上げた。

「春! 封を解け!」
「は?」
「間抜けめ、早くおし!」

白花が阿久津の肩から飛び降り、空中でくるりと一回転してみせる。何が何だかわからぬまま、阿久津は柏手を二度打った。そしてもう一度。

『御魂の下に緊縛されし者。我が名に依りて封を解かん』
「白蘭」

手を打つとともに白花の名を呼んだ。白蘭と呼ばれた彼は地面に着地するころには、阿久津とさほど変わらぬ背格好の青年に姿を変えている。萌木色の和服に身を包んだ彼は、長い銀の髪を一つでくくり直した。彼の腰元に狐面と共に括りつけられた鈴が鳴る。

 様子を訊くより先に、白花が動いた。地を二度、足で叩き、袖口で空を切る。そうすると白花によって浄化された場の中に、どす黒い泥の塊のような物が飛び込んでくるのが見える。空気が澱み過ぎてその存在すら分からなかったらしい。

舌を打った白花が地面を足払いして、木の葉を露わし、火をともす。燃える葉に襲われた泥の塊は、もがき苦しみ、暴れ狂った。

「どうにもならねぇなぁ。仲木戸、どれが核だ」

仲木戸は真理を映す鏡。彼にだけは、あの泥の塊の本質が見える。ところが彼は首をかしげた。

「そんなの無いのね。みんなで貪りあって食べちゃったの。もうみんなみんな何もないのね」

つまりは虚。そんなものはどうすることもできない。ただ無に帰すことしかできない。阿久津は口を噛み考え、そして決断した。

21: すいません、もうすこしもらいます:2014/6/18(水) 19:48:49 ID:gLC12rS63M

 柏手を二度打つ。太刀を鞘から抜き取り、地面に一度突き刺し、そこを拠点にくるりと舞った。場を清め、中心を定めるためである。白花が抑えているその泥を睨み、対象を定める。

『八百万の神々に恐み恐みも白す。御名と御魂に依りて、我らが守護と加護をば為さり賜え。御魂によりて眼前の穢れを打ち祓い、清め賜え』

柏手をもう二度打つ。と、途端に白花の炎に包まれていた泥の塊は霧散した。阿久津は礼代わりの柏手を一度、そして太刀を地面から抜き、場を元に戻す。

反動で元の姿に戻った白花が阿久津に飛びついてくる。よくやったなと褒めてやれば、存外嬉しそうに白花は額を阿久津の腹にぐりぐりと押し付けた。

 しかし何の収穫もなかった。この場においては無駄ではないが、祓いをしただけで阿久津には意味がない。この場には何も残らなかっただろうし、とため息を吐いた阿久津を仲木戸が呼ぶ。

「どうした」
「あんねぇ、公園のいたのね。でも、もういないのね」
「そりゃあ、祓っちまったからなぁ」

結局無駄骨、と言うことになる。しかし仲木戸は首を振った。

「違うの、そうじゃないのね。ここにはいないけど、公園の方に帰ってったの」
「は?」

白花と共に阿久津は首をかしげた。仲木戸は説明がし辛いのだろう、頭を抱えて悩んだ挙句、阿久津の服を引っ張る。

「公園行ったらわかるのね。あっち行ったのね。きっとあっちにいるのね」
「あー? よくわかんねぇけど……、取り敢えず行って見るか?」

頷いた仲木戸に半ば引っ張られるようにして、阿久津は邑楽公園を目指して駆けだした。追いかけてきた白花が後ろから背中に飛びつく。おい、と文句を言った阿久津に、彼はどこか上機嫌な顔でそっぽを向いた。


 夜の邑楽公園は静かだった。塀を飛び越えて園内に入った一行は、仲木戸の誘導に従ってわけもわからず駆ける。彼が足を止めたのは小川の終着地であるため池だった。柵の傍で何かが横たわっている。

人の形をしたものだ。白花とほとんど変わらぬ姿だが、違うと言えば泥だらけの体と血の気のない頬くらいであろう。そんな姿であると言うのに、赤い瞳はぎらぎらと光を抱き、輝いていた。

「美味しそうなのね」

にこやかに仲木戸が言ったのを聞いて、阿久津はつい苦笑いが漏れた。近寄っていくと、気配に気が付いたそれがわずかに後退したのが分かる。鳥か、と白花が呟いた。

「仲木戸。そいつは何者だ?」

じゅるり、と垂れる涎を拭って仲木戸が首を傾げる。うーん、と彼はわずかに唸ってから、不意に目を細めた。サンザシ、と彼が呼んだことに鳥はガバリと状態を起こし、こちらを睨む。

「貴様、よくも我が名を呼んだな!」
「サンザシ、か」

続けて阿久津がその名を繰り返せば、鳥はさらに警戒した。彼ら、人ならざる者にとって、名と言うのはその魂の次に重要な物。字ならばまだしも諱を知られればそれは生死にかかわる。諱はその者の魂を束縛する力があるからだ。

 だから鳥は諱を呼ばれ、怒り、そして同時に恐れている。もしも阿久津が諱の下にそれに死を命ずれば、それは避けることのできない命令になるからだ。現状、酷く弱っているのも、それが怯える理由にもなっているだろう。この状態では阿久津の命に抵抗することができない。

「もう一度その名を呼んでみろ! 八つ裂きにしてやる……っ!」
「ピィピィ喚くのでない。うるさいぞ、鳥ごときがなんじゃ。お前をあの阿呆の望む通り、焼き鳥にしてやろうか?」

白花が鳥をさらに煽った。怒りに身を震わせ、鳥が白花を睨みつける。阿久津は一つ、嘆息を零して、白花の頭に拳骨を落とした。ぎゃっと悲鳴を上げて、白花が頭を抑える。
22: :2014/6/18(水) 19:49:47 ID:gLC12rS63M

涙目で抗議してくる彼を無視し、阿久津は鳥を静かに見据えた。

「お前、この公園の主か」
「だからなんだ」

吐き捨てるように鳥が答える。食う訳でもなければ、殺そうとも思っていないと阿久津は鳥に言い聞かせた。隣で仲木戸が残念そうな声を上げるも、皆で揃って無視する。阿久津の言葉に鳥は聊か警戒を緩めたのか、今度はやや自虐的な調子で問いを肯定する。

「名ばかりの主だ。下らん人間どもの行いの所為で、この囲いの中に閉じ込められ、挙句の果て、穢れた泥のような感情に何年も捕らわれていた」
「泥のような感情? さっきのことか」

国道で祓った泥の塊を阿久津は思い出す。そう言えばあの時、仲木戸は鳥の気配を国道でも感じていた。それが公園に逃げたと言ったから、ここまで戻ってきたのである。

 鳥は驚いたように阿久津を見、祓い師か、と正体を察する。頷いた阿久津に鳥は若干不服そうな顔のまま礼を言った。

「あれから解放してくれたことには感謝せねばなるまい」

つまり鳥もあの泥の中にいたのだろう。それを阿久津が払ったため、長年彼を拘束していた泥が失せて自由になり、元の場所に帰ってきたと言うことだ。鳥自体はそもそも清浄な物であるから、たとえ穢れを払ったとしても消滅はしない。

「お前はあれの所為で死にかけてたのか。その上、ゴミ屑みたいなのに覆われていたから、こいつでも正体が分かんなかったんだな」

鳥はため息を吐いて恐らくそうだろう、と頷く。彼があの泥に捕らわれたのは10年前らしい。件の事故が起きた際、あの国道に抱えきれないほどの穢れが生まれた。鳥は事故の反動によってその中に取り込まれた。そうされたのは、自分だけではないはずだ、と鳥は言う。

「だが、ほとんどがあの中に溶けて行った。私も同じだ。羽を解かされ、骨を砕かれ、あの中の一部になりかけていた。元々園内に閉じ込められていて、力が弱っていたのも原因だろう」

辛うじて生きてはいるが、今だって加護がなければ死ぬやもしれないと彼は言う。公園は昼間、阿久津が清めていたおかげで彼にとっても居心地が良いようだった。大変だな、と月並みな感想しか阿久津には思いつかない。

 しかしそれでよく分かった。10年前、鳥があの泥に取り込まれた際に、大きなずれが生じたのだろう。その結果、橋の向こうとこちらで世界が変わってしまった。一時的な物ではあったが、それが園児を行方知らずにさせた原因だ。

「あそこから助けてくれたことには礼を言う。だが、もう放っておいてくれ。どうせこのままではもたない。いずれ、穢れに耐えられず消える運命だ」

そう言われて阿久津は白花と顔を見合わせる。早く食べようと意気揚々としている仲木戸の首根っこを掴んで抑え、そう言われてもと二人は戸惑った。
この鳥が消えれば公園は穢れを清める存在を失うことになる。それは街としてはあまりいい事ではない。それに、阿久津にはこの鳥に訊きたいことがある。

「悪いな、放っておくわけにはいかねぇんだ」

阿久津はそう言い放つと、その場で一度柏手を打った。驚いた鳥が阿久津を見上げる。

「この今にも消失しそうな身を祓おうと言うのか……? さすが悪神を連れているだけはある。底意地が悪いな、貴様」
「早合点するな。名を与えるだけだ」

名、と言う言葉に鳥は目を見張った。字は加護になる。字を与えられればその者は神の加護を受けることができ、例え消える寸前だとしても力を取り戻せた。なぜわざわざそんなことを。訝る鳥に、阿久津は口の端をひん曲げて笑う。

23: これでおわりかな?:2014/6/18(水) 19:51:11 ID:gLC12rS63M

「訊きたいことがあるだけだ。もう黙れ、うるせぇぞ」

二度目の柏手を打った。清められた大地に、更に太刀を打ち込んでそれを強める。阿久津は未だ驚きに満ちた瞳で阿久津を見つめる鳥を見据えた。

「サンザシ」

阿久津が彼を呼んだ。今にも食われそうなその黒い双眼に、鳥は思わず息を飲む。阿久津は目を閉じ、意識を集中させた。そして静かに歌うかのごとく呟く。

『八百万の神々に恐み恐みも白す。御魂の下に我が願いを聞し召せ。荒魂を静め、加護を与え、御身を守るべく名を与えよ。代償に我が名に依りて其の御魂を緊縛したまえ』
そして瞼を開け、サンザシを見据える。鳥は何も言わなかった。阿久津はわずかに笑みを浮かべる。
「真赭。それがお前の名だ」

呼ばれた真赭は口惜しそうに唇を噛んだ。余計なことを、と呟く彼に、白花が噛みつく。

「助けてもらっておいてその言い草はなんじゃ」
「うるさい! 獣は黙っておれ!」

恐らく同等の力を持つ彼らは、何かしらのライバル意識でもあるらしい。どっちもどっち、と阿久津は思わず呆れる。精神年齢まで同じくらいである必要はないと言うのに。

 それでも名を与えられ、加護を得た真赭の姿はマシになった。汚れは失せ、本来ならばきっと美しい鳥なのだろうと思わせるような、緑がかった黒い髪を持つ少女になったのである。瞳だけは同じ赤色であり、おそらくその目がサンザシと言う名の下なのだろうと阿久津は想像する。

「春! こんな阿呆捨ててさっさと家に戻るぞ! 聞きたいことがあるなら早く聞くんじゃ」
「あっ、あぁそうだったな」

頷いた阿久津を仲木戸が意味深げに見上げる。心配ないと言ってやっても、彼はなんとなく落ち着かぬ様子で、阿久津の服の袖をしっかりと掴んだ。

 折角加護によって綺麗な姿を取り戻したにもかかわらず、向き合った真赭はボロボロだった。白花と争った結果らしい。やんちゃも大概にしろと言いたくなるも、白花の抗議の目によって文句は喉の奥に引っ込む。

「真赭。四年前だ。四年前に何か変わったことはなかったか、教えてくれるか」
24: 今度こそ終わり!:2014/6/18(水) 19:52:58 ID:gLC12rS63M
真赭は少し考え込んだ。しかし暫くしてゆるりと首を振る。

「何かあったかもしれぬ。だが、その頃には私は泥に呑まれて6年も経っている。何かを知覚し、記憶できるような力はなかった」
「そうか、すまんな」

真赭は気にするなと首を振る。少しばかり落ち込んだ様子の阿久津に、白花が勢いよく飛び付いた。ぎゅっと抱きしめるようなその素振りに、阿久津も怒る気になどなれず、やや笑って白花を諌める。不貞腐れた様子の彼は肩に顎を載せ、阿久津にぴったりとくっついて離れなかった。

「お前に名を与えたが、使役する気はないよ。ここでのんびり暮らせ。あーでも、改装工事をするらしいからしばらくは騒がしいかもしれん」

阿久津の言葉に真赭は素直にわかったと頷く。時々清めに来てやろうかと阿久津が持ちかけると、少し拗ねたような顔で真赭はそっぽを向いた。お節介な奴だと言う真赭に、阿久津の頬も緩む。

 またな、と阿久津は言い置いて踵を返した。気を付けて様子を見てやろうと言う阿久津に、白花が気に入らないと言わんばかりに鼻を鳴らす。

「貴様」

真赭が呼びとめたのは仲木戸だった。二人に付いて行こうとしていた彼は足を止め、真赭を振り返る。チョコン、と首を傾げた仲木戸を見据えて、真赭は憎悪のこもった声で何者かと尋ねた。仲木戸はまた、首を傾げる。

「貴様は人間などに使役される存在ではなかろう」

真赭の指摘を受けて、仲木戸は実に穏やかな笑みを浮かべた。んふふと声を漏らす様子は何が楽しいのか。真赭の背筋がぞくりと震える。まるで悪意の塊のようなものに、舐められたような錯覚に陥った。

 仲木戸はその場でくるりと回って見せ、しゃがみ込んで真赭を覗き込んだ。そのフレンチグレイの瞳に見据えられ、真赭はすくみ上る。

「……焼き鳥には関係ないのね」

 阿久津の仲木戸を呼ぶ声が響く。真赭など気にも留めず、くるりと踵を返した仲木戸は阿久津の下に駆けて行った。春ちゃーん! 勢いよく背中に飛びつくその姿は無邪気そのもの。悪魔の真意は計り知れない。


・・・・・・
10レスを優に超えてしまった……すいません、結局14レスいただきました!(>>11-24
読んでくれた方ありがとう!ノシ

25: 『ある本の噺』:2014/6/18(水) 20:32:37 ID:rktzNjJhRM
 
 僕は待っている。狭い場所で、その時を。

 神保町の路地裏にひっそりとたたずむ古書店、かるま堂。この場所にある本はどれも、世界に一冊しかない貴重品だ。
 ここには人の人生を余すところ無く記した本が、一人につき一冊存在する。どこで生まれたかとか、犯した罪の内容も克明に。
 
 そして今日、長い間待ち焦がれていた客が、古書店のドアベルを鳴らしたのだ。

「すいませーん……誰もいないの?」

 声から察するに三十代後半の男性、あまり裕福ではなさそうだ。なぜって、足音がほとんどしないから。貧乏な人は靴底がすりへらないよう、そろりそろりと歩くものだ。
 
 男は本棚に近づき、片っ端からページをめくりはじめたようだ。乾いた空間に紙のこすれる音だけが響く。
 僕の前にたどり着いたのは、彼が来店してから数時間後のことだった。

「見つけた……!」

 男は禿げ上がった頭を真っ赤にしてそう叫ぶと、むさぼるように僕を読み始めた。

「ああ、これが警察にわたったら、俺は破滅だ……」

 彼が見たものは、彼自身が犯した罪の記録。自分の業を省みてパニックになった男は、ポケットからおもむろにライターを取り出し、そして……。

 僕に火をつけてしまった。

 その途端、まるで呼応するかのように男は炎に包まれる。蛙をつぶした時のような悲鳴が、室内に響き渡った。

(ずっとこの日を待っていた。お前の罪を知れ)

 僕は笑い続けた。灰になって、すべての罪が消えるまで。    

  終

26: 『海の美食家』:2014/6/18(水) 23:35:35 ID:rktzNjJhRM

 海底に潜むその怪物はね、人の屍骸が好物なんだ。

 そいつの鼻は嵐の匂いに敏感だ。なぜって、難破した船の残骸にへばりつく往生際の悪い人間を喰らうためさ。

 そいつは言うよ、人間ほど美味なものはこの世のどこにも居ないって。

 深い深い海底で、怪物は今日も鼻をひくつかせて獲物を探している。

 僕が海に行きたがらなかった理由はそのためさ。誰だって、死んだら大地に還りたいだろう?

 だけどあの日だけは例外だった。遠方へ嫁いだ姉の結婚式に出席するため、島の連絡船に乗ったんだ。それが運のつきさ。

 海底から飛び出してきたそいつの頭突きで船は大破、必死でマストにしがみつく僕をあざ笑うかのように、そいつはゆうゆうと海面を泳いでくる。

 生臭い、牙がびっしりと生えた巨大な口が目前に迫った。

 もうだめだ。僕は祈ることも忘れ、ただその瞬間が過ぎるのを待った。

 だけどね、待てども待てども何も起こらなくて…恐る恐る目を開こうとしたとき、確かに怪物がこう呟いたんだ。

「なんか……こいつ不味そうだな」って。

 次に目が覚めたときは病院だった。

 それからの人生はみじめの一言さ……。考えても見たまえ、何よりも人間を愛する怪物に「不味そう」なんて言われた日にゃ、生きる意欲もなくすってものだ。


 今日、僕は海に潜ろうと思う。人生の辛酸を舐めた今の僕なら、あの怪物の口にもきっと合うはずだ。

 もし今回も食べてくれなかったら仕方ない……おとなしく大地に還るとしよう。
 
 終
27: [] :2014/6/19(木) 10:50:38 ID:8U6KAMraZc

「思い通りの夢を見られる装置?」

 怪しげな屋台で購入した機械は、見るからにガラクタの寄せ集めだった。
 こんなもので本当に夢を操作できるのか? 疑問を脳みそにひっかけたまま、細いプラグを頭にとりつける。
 鏡には、金属の蛸をかぶった間抜けな学ラン姿が映っていた。…疑っても仕方ない。ひとつ試してみるか。

 ―

 美しく可憐な少女。唇はぷっくりと桜色に染まり、潤んだ目元は僕を熱っぽく見つめる。
 僕は彼女を無我夢中でベッドに押し倒した。ボタンをはずすのに手間取りあせる僕を見て、少女がくす、と笑う。
 ああ、なんて幸せなんだ。これで脱・童貞が現実のものに……。

 ―

 目が覚めた僕は、幸せの残り香に包まれていた。普通では絶対味わえない感覚、まさに夢にまで見た夢が現実になったのだ。
 鼻歌交じりでプラグを引っぺがすと、カツラまで一緒に取れてしまった。ばさり、と黒い長髪が背中に降りかかる。
 コスプレの学ランも脱ぎ、ため息をつく。鏡に映る華奢な少女の姿を見て、現実が一気に押し寄せてきた。
「……それでもかまわない。夢の中では、君を愛し合えるのだから……」
 鏡に映る『僕』は、いじらしく微笑んだ。
 
end
28: 名無しさん@読者の声:2014/6/25(水) 23:23:06 ID:Mw1dBIcCw.


矢部「目指せ」山田「ポケモン」上田「マスター?」

オーキド「それでは君たちに新しい仲間を紹介しよう。右から順番にヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネじゃ」

山田「腹減り、銭出せ、ふしぎぜん?」

矢部「お前は何を聞いとんねん、右からひたかげ、せにがめ、ふしぎたねやろうが」

上田「山田も矢部さんも違いますよ、右からひとはだ、ゼンマイ、ふしぎまげでしょう」

オーキド(この三人大丈夫かのぉ…)

オーキド「おほん、まずはヒトカゲじゃ。こいつは火ポケモンで尻尾の炎が消えてしまうと死んでしまう」

矢部「じゃあそこじゃない場所に火つけたったらええやないですか!」

オーキド「うるせえ」
29: 名無しさん@読者の声:2014/6/25(水) 23:24:20 ID:Mw1dBIcCw.


オーキド(な、なんで説明だけにこんなに時間が…)

矢部「つまりこの四天王に勝てってことやな」

山田「ちなみに…報酬は……」

オーキド「バトルするたびにお金が貰えるから、それで道具を買ったりするんじゃぞ」

上田「いや、私は通信教育で空手を習っててポケモンとやらの力はいりませんよ」

オーキド「うん、どうでも良いから」

山田「私はこの…ヒトカゲにしようかな、よろしくなヒッキー!」

矢部「なんや山田そのしょーもないニックネームは」

山田「う、うるさい!そういう矢部は何にするんだ」

矢部「わしゃー、このゼニガメとやらにしようかのぉ」

矢部「ニックネームは…そうやなぁ……アブクゼニやな」

オーキド(ポケモンになんて名前を……)

上田「では私はこの……フシギダネを」

矢部・山田「ニックネームは?」

上田「……ど…」

矢部・山田「ど?」

上田「どんと来い超常現象だ!」

オーキド「それは長いで」
30: 名無しさん@読者の声:2014/6/25(水) 23:25:28 ID:Mw1dBIcCw.

山田「結局なんの捻りもなくフシギダネのままにしたのか」

上田「うるさ…」

ガサガサ

矢部「な、なんや?!」

山田「なんでしょうか」

上田「」

「ぼっぽぉ!」

矢部「なんやこいつ」

山田「そういえばなんちゃらっての貰いましたよ!ポケモンの名前がわかるとかなんとか」

矢部「なんちゃらしかゆーてへんやん!そんなのどーでもええから、はよ見てみろって」

山田「えーっと…ポッポと言うらしいですよ」

ポッポ「ポッポォ…?」

山田「こいつが私がもらう!」

矢部「ふん、わしも今そう思ってたとこやねん」


31: 名無しさん@読者の声:2014/6/25(水) 23:29:35 ID:Mw1dBIcCw.


山田「いけっ!ヒッキー!!」

ヒッキー「カゲカゲ!」

矢部「ええと、なんやったかな…まあええわ!いけっ!なんとかガメ!」

アブクゼニ「ゼニゼニ」

山田「ヒッキー、たいあたり!」



山田「いけっ!ヒッキー!!」

ヒッキー「カゲカゲ!」

矢部「ええと、なんやったかな…まあええわ!いけっ!なんとかガメ!」

アブクゼニ「ゼニゼニ」

山田「ヒッキー、ひっかく!」

アブクゼニ「ゼニィ!?」

矢部「ああ!!山田お前何すんねん!」.

山田「だってバトルってそういうもんだってあのおじさん言ってたじゃないですか」

矢部「でもな…!いいことと悪いことがあるやろ!」

山田(名前覚えてなかったくせに…)


ポッポ は 逃げ出した ▽


32: 名無しさん@読者の声:2014/6/25(水) 23:30:48 ID:Mw1dBIcCw.




山田「上田さんー、おーいー、おい上田」

矢部「上田せんせぇー?」

上田「こ、ここは…」

山田「上田教授は気絶なさってたのでありますか」

上田「ば、馬鹿言うもんじゃない!」

矢部「ポッポとやらには逃げられましたし、先に進むとしましょ」

山田「そうだな、それに腹が減った」

矢部「せやな」

33: 名無しさん@読者の声:2014/6/25(水) 23:34:40 ID:Mw1dBIcCw.


上田「それにしても私はさっきまでの記憶が全くないんだが、何でだろうな。ハハッ」

山田(やっぱり気絶か)

矢部(気絶っちゅーやつやな)

山田「それにしてもこの森はなんでこんなに暗いんでしょうか」

上田「それはだな、木g」

矢部「うわ、なんや!めっちゃブンブン音するで!!」



というトリックとポケモンのやつ考えてたけど諦めました。
34: 名無しさん@読者の声:2014/6/25(水) 23:41:33 ID:Mw1dBIcCw.
(同じ文が二回も…そしてたいあたりではなくひっかくです……ミスが…すいません)
35: 名無しさん@読者の声:2014/7/4(金) 20:22:28 ID:XLIMSCAJag

 今でこそコミュ障野郎だけど、大学時代は結構顔が広くていろんな知り合いがいた。その中には同じ大学生もいれば、そうじゃない人もたくさんいて、なかなか豊富なネットワークだったと自分でも思う。

 その知り合いの一人に、ヒシギさんという男の人がいた。
 ヒシギさんは駅前に現れる露天商で、結構怪しい身なりのお兄さんだ。扱っている商品もかなり怪しい。その所為からか、そう言った体験を良くするらしく、あの人は俺にしょっちゅうオカルトな話をしてくれた。

 俺に天狗坂の婆さんの話をしてくれたのも、ヒシギさんだったと思う。

 天狗坂と言うのは駅の南口から市街地に向かう大きな坂だ。市街地に向かって上り坂になっている。なんで天狗坂と言うのだかはよく知らないが、近所の爺ちゃん婆ちゃんはその昔この山に天狗がいたからなんとか、と言っていた。まぁ、そんな坂である。

 駅通りから市街地に向かう坂なので、どうも坂の上に向かうにつれて人気もなくなるし、電灯の数も減っていく。昔から変質者が出るとかで、夜はちょっと危ない場所として有名だった。

 だからヒシギさんが天狗坂の名前を出した時点で、俺はまた変質者でも出たんだと早合点をした。それにヒシギさんはゆったりと笑って、違う違うと首を振る。

「天狗坂の婆さんは変質者でもなきゃボケた婆さんでもない。ま、一度見てみたらわかるべ。暇なときに行ってみな。夜だぞ」

「そう言われて誰が行くんすか」

俺が思わず言い返すと、確かにそうだとヒシギさんは笑った。俺はそう言う話を聞くのは好きだったが、実際に自分が関わるのは嫌なタイプの人間だ。心霊スポットだって行かない。

「万が一行くことがあったらさ、弟連れてけよ」

ヒシギさんは心霊スポットを勧める時、いつも俺にそう言った。理由は聞かなかったが、俺は素直にいつも頷く。

 ヒシギさん以外にもオカルトに強い人には結構会ったが、本物の人たちは大体俺に弟のことを言った。彼ら曰く、弟は強いらしい。


 そんな話を暇していた弟にうっかり話したのが悪かった。嬉々として見に行こうと弟に誘われて、結局弟に話した祖の晩、俺たちはアイスを咥えて自転車で天狗坂を目指した。

 蒸し暑い夜だった。長い坂の途中から俺たちは自転車を押して天狗坂の天辺を目指して歩いていた。

「あのさぁ、兄ちゃん。ヒシギさんどの辺で出るって言ってた?」

「あー、聞いてないわ。悪い」

「したら天辺までいかなきゃいけないんかぁ」


だるいなぁ、と言い出しっぺの弟が言うので、俺はちょっと奴を睨んだ。弟はへらへらと笑ってごまかす。

36: 名無しさん@読者の声:2014/7/4(金) 20:23:49 ID:XLIMSCAJag

「つーか、この辺本当……」

 暗いなぁ。そう言おうとした俺は黙りこくった。兄ちゃん? 弟が呼ぶ声が響く。俺は首を振って弟に反対車線の方を見ろ、と顎をしゃくった。アイスを咥えたままの弟が、間抜け面をそちらに向ける。

 反対車線にはガードレールに腰かける小さな人影が一つ。暗くてよく見えないが、背丈からして老人か子どもくらいだろう。

「あれかな」

近づいてきた弟がこっそりと耳打ちした。よく考えればヒシギさんから婆さんの詳細も聞いていないから、あれが天狗坂の婆さんなのか判断も出来ない。そもそも暗くて人間なのかもわからなかった。

「近く行ってみる?」

「やめろよ、あぶねぇだろ」

「でも、気になるじゃん」

まぁ、気にならないことはない。俺が結論を出すより先に、弟がケータイを取りだして明かりを婆さんの方に翳した。闇夜にケータイの白い光の中で老婆の姿が浮かび上がる。びくっと肩を震わせた俺の隣で、弟も顔をひきつらせて老婆を見ていた。

「おい、やめろよ」

俺の批難の声にハッとして、弟はケータイを急いで閉じた。俺の声に反応したのか、それともケータイの明かりに反応したのか。ともかく老婆の視線を感じた。俺たちを見ている。ただ文句も言わずにじっと。

「あ、すいません、落し物しちゃって。探してたんです」

適当な言い訳を弟が取り繕った。俺もそれに合わせて、すいませんと謝る。

「もう見つかったんで、僕ら行きますね」

俺がそう続けて弟を帰ろうと促した時、

「お名前は何かね」

老婆が突然訪ねた。

「えっ」

つい弟と二人反応し、顔を見合わせてしまう。当然こんな怪しい婆さんに名前なんて教えない。いやぁ、と適当に誤魔化す俺たちに婆さんはもう一度訪ねた。

「お名前は何かね」

「訊かれても普通言いませんけど」

困惑気味の俺が答えるも、婆さんはもう一度名前を尋ねるだけだった。弟が俺の服を引っ張る。耳を寄せると、早く行こうと言われた。

「なんかやべーよ、帰ろうや」

俺は頷いて自転車に跨った。今日ほど天狗坂が駅に向かって下りになっていることに感謝した日は無かったかもしれない。俺たちは全力で自転車を漕いで、明るい駅前に向かってほとんどノンブレーキで自転車を走らせる。

219.74 KBytes

名前:
sage:


[1] 1- [2] [3]最10

[4]最25 [5]最50 [6]最75

[*]前20 [0]戻る [#]次20

うpろだ
スレ機能】【顔文字