1スレ
少年「ボクが世界を変えてみせる」
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/l10
2スレ
カロル「ボクが世界を変えてみせる」
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbss/test/mread.cgi/ryu/1385288769/l10
―――あらすじ―――
それは遠い昔のお話
人と人は長い長い争いに身を投じ、互いを許せないまま30年もの月日を互いの血を流すことに費やしました
しかし長い争いはいつまでもいつまでも終わる気配もなく
人を傷付け、愛を蝕み、心は枯れて、命は絶えて、いつしか疲れ果てて……やがては目的さえ見失ってしまいました
そんな終わらない争いの果てに一つのきっかけが巡るのです
それは人と人との争いに無関心だったホビット族に原因があると唱える迷信でした
その迷信はあまりにも唐突で、あまりにも不自然な内容でしたが痩せ細って震える人々、争いに疲れきった国々はホビットに全てを擦り付けて争いを終わらせようと決めたのです
戦争が鎮まった後、各国に迷信を掲げた王国は大規模な宗教団体を立ち上げました
その団体は教団と呼ばれ、戦争を納めた功労者であるノワール・バントン司祭を筆頭に教徒達による布教活動が開始されました
布教の内容はホビット族が人間から゙癒しの力゙と呼ばれる特別な能力を奪ったというもので……
これを軸に様々な悪評を並べ立てて人々の心にホビット族への憎しみを焼き付けます
ありもしない神の作り話にいざなわれ、人々は信者へと洗脳されていきました
それから約40年の間、教団による布教活動は続き、思惑通り人々は順調にホビット族を差別していました
人間はことごとくホビット族の住み処を侵略し、奴隷にしてみたり、愛玩用に飼い慣らしてみたり、時には残酷な拷問を加えて見世物にしたり、罪深き種族と罵って横暴の限りを尽くします
438: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:42:04 ID:Xsg4vDSHiM
シヴァ「…憧れているのなら知るべきだ。自分の夢見る物がどれ程の険しさを伴うか…」
婚約者「え?」
シヴァ「傍目に見れば美しく煌めく景色も…奥へ踏み入れば理想が陰る。
そこから目を背けていては実る物も実らない」
婚約者「理想が……陰る…。まぁ…そうっすね…」ガクッ
シヴァ「それでも望むのであれば…これ以上は口を挟まん。好きにさせてやる」
婚約者「!?」
イフィート「お?式をやらせてやんのか?」
シヴァ「望むのであればな…」
イフィート「いきなり気が変わるたぁらしくねぇな?どうしたんだ?」
シヴァ「…儂も親だからな。娘のワガママを聞いてやりたくもなる」
イフィート「ガハハハ!お前もようやく親らしくなったか!お嬢さんも大喜びだろうぜ?」
婚約者「で、でも…俺はもう……」
シヴァ「大丈夫だ。儂らが付いている」
婚約者「え?」
シヴァ「理想に届くかは分からんが…理想に近付ける努力はしてみろ。
女の幸せは男の甲斐性にかかっているんだぞ?」
婚約者「……!」ゴクリ
イフィート「へっ…たまにはそれっぽいことも言えんだな?」ニシシ
シヴァ「たまにとはなんだ、たまにとは?」
婚約者「……俺、絶対あいつを幸せにしてやります!」グッ
シヴァ「今さら言うまでもないだろう」
婚約者「え……」
シヴァ「お前なら娘を幸せにしてくれる。そう認めていたからこそ交際を許したんだ?」ニコッ
婚約者「…お、お義父さん」ウルッ
シヴァ「娘を頼むぞ?」ポンッ
婚約者「うぅ…は…い」グスッ
439: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:44:05 ID:aotAc0vzsc
イフィート「ガハハハ!泣くんじゃねぇよ、みっともねぇ!
頼まれたんだから、もっとシャンとしろっての!」バンッ
婚約者「う、うるせぇな…!分かってるよ!」グシッ
イフィート「なぁシヴァよ!めでたい話も出たことだ!まだ昼間だが男三人で盃を交わさねぇか!?」
シヴァ「そうだな。ちょうど儂の集落で作っている地の物が仕上がる時期だ。祝いに振る舞おう」
婚約者「お、俺もらってきます!」スクッ
シヴァ「おぉ、すまんな。慌てなくていいぞ。
集落を繋ぐ吊り橋も古くなり、縄や板もだいぶ傷んでいるからな。気を付けて行け?」
婚約者「はい!」
イフィート「つまみも貰ってこいよ!」
婚約者「つまみなんか、こっちのでいいだろ!じゃあ行ってくる!」ガチャッ
バタンッ
イフィート「ちぇっ…息子のくせに生意気だな。誰に似たんだか?」
シヴァ「お前しかいないだろう」
イフィート「はぁ!?俺はあんなんじゃねぇよ!?」
シヴァ「瓜二つだ」
イフィート「ふざけんじゃねぇ!俺はもっとたくましかったってんだ!」
シヴァ「ふ……」クスッ
イフィート「な、なんでにやけんだよ?」
シヴァ「こういう変化は悪くないな」
イフィート「……?なんだ、そりゃ?」キョトン
440: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:50:41 ID:aotAc0vzsc
―――谷間の吊り橋―――
族長の娘「うふ!頑固な父さんが許してくれるなんて!」タタタッ
ブラーン ブラーン ヒュールルル
族長の娘「あぁ…やっと夢が叶うんだ」ギシッ
族長の娘「衣装も考えなくちゃ!人間のドレ…ドレ…ドレッシングだっけ?なんかそんなのだよね!」ギシッギシッ
族長の娘「指輪とドレッシングでオシャレして…ち、誓いの…キス」ボッ
族長の娘「いっやーん!」ブルンブルン
スパッ ブチッ ガクンッ
族長の娘「きゃっ!?」ガシッ
グラングラン グラングラン
族長の娘「な、なに!?どうなってるの!?なんで風も強くないのに揺れ……」クルッ
魔導師「やあ、会えて嬉しいよ?」チャキッ
族長の娘「な、縄を切って…!なにするのよ!?危ないじゃないっ!?」
魔導師「まずは君の幸運に祝福を…」パチパチ
族長の娘「っていうか誰よ!?ま、まさか人間なの!?」ググッ
魔導師「そして度重なる不運に哀れみを込めて…」スッ
族長の娘「やめっ…!」ゾクッ
441: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:54:14 ID:aotAc0vzsc
魔導師「…うそうそ?まだ切らないよ?」ピタッ
族長の娘「っ……はぁっ!はぁっ!」ドキドキ
魔導師「んふふ…んふふふふふふ」プルプル
族長の娘「お願い…!やめて…!私はホビットだけど人間を憎んだりしないわ!?」
魔導師「楽しいなぁ…うーん、楽しいよぉ…?」ジッ
族長の娘「」ビクッ
魔導師「今まで生きてきて考えたりした?こんな状況?」
族長の娘「」ブンブンッ
魔導師「だよねぇ…?思わないよねぇ?こんな縄一本に命を預けるなんて?」ニタニタ
族長の娘「わ、私が…何をしたの…?あなたに…迷惑かけた?」ブルブル
魔導師「……?」キョトン
族長の娘「大好きな人と…もうすぐ夢だった式を挙げられるの…。私…絶対に死ねないの…!」ギュッ
魔導師「……」
族長の娘「こんな事やめて…刃物を捨てて?お願いだから……」
魔導師「ごめんよ?」
族長の娘「……!わ、分かってくれたのね?」パァァ
魔導師「……」
族長の娘「え…?」
魔導師「不幸はいつもお構い無しに理不尽を叩き付ける…。
偶然にしろ、運命にしろ、出会ってしまった以上は避けようがないのさ…?」ギランッ
族長の娘「そ、そんな…あなたのさじ加減じゃない!?」
442: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 22:57:36 ID:Xsg4vDSHiM
魔導師「さてさて、さてさて、さてさてと?
まだ遊びたいなぁ…でも長引くのはヤだし、そろそろ聞いてしまおうかなぁ?」
族長の娘「な、何よ…!?」
魔導師「君に放った呪術が解けてるよねぇ?どうやって治したんだい?」
族長の娘「な、なんだっていいじゃない!?それより放ったってどういう意味…!?」
魔導師「答えたら助かるよ?」
族長の娘「ほんと!?」
魔導師「うんうん、ほんとほんと?運命は自分次第で変えられるよ?」ニタニタ
族長の娘「か、カロルくんが治してくれたの!癒しの力で!!」
魔導師「……!」ピクッ
族長の娘「う、嘘じゃないの!信じて!?」
魔導師「んふ…んふふ…ンゥフフフフ」プルプル
???「おい!?俺の彼女に何してんだ!?」
族長の娘「……!?あっ!?」
婚約者「大丈夫か!?今、助けてやるからな!?」ギシッ
族長の娘「き、来ちゃダメ!?縄を切られたらあんたも……」
婚約者「だったら縄を切られる前に向こう側まで行って、あの薄気味悪い布野郎をぶっ飛ばしてやる!?」ギシッギシッ
グラッグラッ
婚約者「うおっと!?」ガシッ
族長の娘「きゃあっ!?」ガシッ
443: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/4(水) 23:08:03 ID:Xsg4vDSHiM
族長の娘「む、ムチャしないでよ…!私はいいから、あんただけでも戻って!?」グラグラ
婚約者「ば、バカ言うな!お前が危ないのに…じっとしてられっかよ!」ギシッギシッ
族長の娘「いいって!ほんとにいいから!」グラグラ
婚約者「うるせぇ!!」
族長の娘「」ビクッ
婚約者「惚れた女も助けらんねぇで…夫が務まるかよ!?」ギシッギシッ
族長の娘「〜〜〜!」ジーン
婚約者「すぐ行くから待ってろ!」ギシッギシッ
魔導師「お嬢さん。癒しの力はどこにいるんだい?」
族長の娘「そ、それどころじゃ…!」グラグラ
魔導師「切ろうか」スッ
族長の娘「わ、分かったわよ!言うから!集落の一番高い場所にある大きな家よ!そこにいるの!!」アタフタ
魔導師「あ、そう…」
族長の娘「教えたんだからもうどっか行ってよ!?そこにいられると怖くて渡れないんだけど!?」
魔導師「んふふ…やったぁ…!陛下に頭撫でてもらえる…!」ルンルン
族長の娘「…!?」ゾゾゾッ
婚約者「……い、今ならあいつの気も逸れてる!一気に駆けるぞ!」ダッ
族長の娘「え!?ちょっ…走ったら揺れ…!?」グラグラ
ザスッ
族長の娘「?」ヒュッ
婚約者「え?」ヒュッ
ガラガラガラガラ ブオオオン
ザバザバザバッ バッシャァァァン!!
ヒューン ゴシャッ バスンッ
魔導師「んふふ…いい音。これならみーんな大騒ぎして駆け付けるかなぁ?」ジーッ
魔導師「癒しの力…楽しみだなぁ…?」スタスタ
444: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 20:52:05 ID:WAMP9I3Be6
―――谷間の集落―――
ワラワラ ワラワラ
谷のホビット1「な、なんだなんだ?向こう側からスゲー音がしたぞ?」
谷のホビット2「ありゃ吊り橋の方角だな。もうだいぶ古かったし崩れたんじゃないか?」
谷のホビット3「く、崩れた?じゃあ誰かが通ろうとして落ちたんじゃ…!?」
谷のホビット4「えっ!?そ、そりゃまずい!?」
谷のホビット5「ぞ、族長や他の連中にも知らせよう!」
バラバラ バラバラ
谷のホビット6「な、なんてこった…!向こうの集落と繋ぐ唯一の橋だぞ!?
あれがなきゃ集落同士の繋がりが途絶えちまう!?」
谷のホビット7「う…!い、衣類の糸は向こうに分けてもらったカイコでまかなってたし困るな…!」
谷のホビット8「そこは問題ないよ。イカダで谷底の川を渡っていけばいいんだから」
谷のホビット6「にしたって不便だよ!」
谷のホビット9「そんな事よりケガ人がいたら大変だ!様子見に行くぞ!?」
谷のホビット7「それもそうだな!」
ダダダダダダダッ
445: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 20:53:30 ID:M97GWVJjkM
―――族長の家―――
バァンッ!
谷のホビット5「た、大変だ!族長!」ゼェゼェ
族長の妻「わっ!なによ、びっくりした…?」
谷のホビット5「ぞ、族長は!?」
族長の妻「隣の集落に行ってるけど?」
谷のホビット5「えぇ!?と、隣の!?」
族長の妻「ずいぶん慌ててるわね?どうしたの?」
谷のホビット5「大変なんだよ!向こうの谷と繋ぐ吊り橋が崩れたかもしれないんだ!?」
族長の妻「橋が?いくら古くなったとは言っても集落同士で協力して手入れしてるし縄や板も何度か代えたり修繕してきてるじゃないの?」
谷のホビット5「お、俺も分からないけど…とにかく見に行こうよ!誰かケガしてたら大変だ!」
族長の妻「大変、大変ってせわしないわねぇ。もうちょっと落ち着けないの?」
谷のホビット5「だ、だって大変じゃんか!?」
族長の妻「大丈夫よ?本当に崩れてたら、向こうの集落も気付くだろうから主人とイフィートさんも駆け付けてるでしょうしね?」
谷のホビット5「そ、そっか…!族長がいるなら安心だ!」
族長の妻「ケガ人はあの親子に頼めばなんとかなるし…」ボソッ
谷のホビット5「じゃあ俺も……なんか言った?」
族長の妻「え?あ、なんでもないけど…?」アセッ
谷のホビット5「あぁ、そう?じゃあ行ってくるよ!」ダッ
族長の妻「……いってらっしゃい」
446: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 20:55:49 ID:WAMP9I3Be6
グツグツ コトコト
族長の妻「(…あんなに恐ろしい病を一瞬で治す力なんてどこにもない。
お二人は旅立つと言ってたけど出来れば、ここに残ってほしいわ)」
族長の妻「(夫は異常にアピシナ様の昔話を不安視しているけど悪用しなければ平気よ?
集落の住民達もケガや病に怯えずに済むし、良いことしかないじゃない?)」
族長の妻「(なんとか引き留めなくちゃ…とりあえず娘の式に参加してもらいたいから、もうしばらく滞在するようにって頼んでみましょ)」
族長の妻「夕食に招待して話そうかね。
今夜はとびきり美味しい料理で二人をもてなさなきゃ!」テキパキ
コンコンッ コンコンッ
族長の妻「どなた?橋の件なら、さっき聞いたわよ?」テキパキ
「カロルはいるかい?」
族長の妻「カロルちゃん達なら今は下のお宿で荷造りしてるわよー?」テキパキ
「あ、そう」
スタスタ スタスタ……
族長の妻「……ん?今の誰?」クルッ
タッタッ ガチャッ
シーン
族長の妻「誰も…いない?」
族長の妻「気のせい…なのかねぇ?」
グツグツ プシュー
族長の妻「あ!?お鍋が煮えちゃう!?」タッタッ
447: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 20:58:36 ID:WAMP9I3Be6
―――渓谷の温泉宿―――
カロル「お母さま!荷造り終わったよ?」
母「ふふ、大きい物もないし持っていく数も少ないから楽チンよね?」パッパッ
カロル「族長さま達に挨拶したら、またイカダで送ってくれるんだよね?」
母「えぇ。そう言ってたわね…。はぁ…酔わないか心配…」
カロル「ボクは楽しみ!すっごく早くてグラグラして面白かったよ!」
母「そう…。あたしはちょっぴり苦手かも…」
カロル「マルクも楽しみでしょ?」ナデリ
マルク「ワンッワンッ!」シッポフリフリ
母「男の子は好きねぇ、ああいうの…。
それにしても…ここの温泉、すっかり気に入ってたのに…離れるのがもったいなく感じるわ…?」
カロル「また来ようよ?みんなにも教えてあげたら、きっと喜ぶよ?」
母「ふふ…そうね。シヴァさんも少しだけ人間への認識を改めようとなさってるみたいだし今度来る時は坊やのお友達も連れてこれるかも?」
カロル「うん!みんなで入ったら、もっと楽しいよね?」
母「あ、でも泳いじゃダメよ?
あの時は真夜中で他に誰もいなかったから良かったけど…本当はお風呂で泳ぐのは行儀が悪いのよ?」
カロル「そ、そうだったの?」アセアセ
母「それにもしかしたら犬を入れるのも禁止だったでしょうし…」
カロル「え?マルクは入っちゃダメなの?」
マルク「ワゥンッ!?」ガーン
母「えぇ、たぶんね?今度来た時は普通に入りましょう?」ニコッ
カロル「はーい!」
マルク「クゥン……」シクシク
448: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:00:14 ID:M97GWVJjkM
コンコンッ コンコンッ
母「あ、はーい?」
ガララッ
番頭「」ヨロッ
母「あら、番頭さ……え?」ビクッ
カロル「っ…!?」
マルク「ワンッ!?」
番頭「」バタッ
カロル「わ、わわっ!?だいじょうぶ!?」バッ
母「こ、これって娘さんと同じ…!?」
マルク「わふっ!?」ツーン
フワッ
番頭「……あ、あれ?うちは何を…?」ムクッ
カロル「よ、よかった」ホッ
マルク「ブルルルルっ!!」ブルンブルンッ
母「…マルク?」
マルク「ウゥゥゥ……」ツーン
カロル「イヤな匂いがするの…?」
マルク「」コクコクッ
番頭「」ハッ
番頭「に、逃げてください!?」アタフタ
母「な、なにがあったんですの?」オロオロ
番頭「は、早く!?またあいつが……」
母「あいつ…?」キョトン
449: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:03:05 ID:M97GWVJjkM
シュコォォォウ
番頭「あ、あぐぅ…ま、また…!」クラッ
母「っ…な、なんなの?急に……体が重く…!?」ググッ
マルク「わ…ぅぅん!」ググッ
カロル「へ?みんなどうかしたの?」オロオロ
番頭「は…やく……に………げ…………」バタッ
母「わ…からない…。なに…が……っ」バタッ
マルク「くぅ……」ズシンッ
カロル「!?」ギョギョッ
カロル「お、お母さま!マルク?番頭さんっ!?」バッ
タンッタンッ
カロル「」ビクッ
魔導師「んふふ…見ぃつけた?」ニギニギ
カロル「お、お面した…布のおばけさん?」キョトン
魔導師「なんでもいいじゃないの?名称に価値はないさね?」クックッ
カロル「……!お母さまたちになにしたの!?」キッ
魔導師「教えてあげるから耳を貸してごらん?」チョイチョイ
カロル「え?は、はい…?」スッ
魔導師「」グワシッ
カロル「わっ…!?うむっ!?あぐっ!?」ジタバタ
魔導師「」グッグッ
カロル「うっ…えっ!ぇほっ!ぇほっ!」ウルッ
カロル「(の、喉に指が入って…き、きもちわるい!?)」オエッ
魔導師「んふふ…どうかなぁ?これでも?これでも?」グッグッ
カロル「うっ…あ…!?ぅぅん!!」カジッ
魔導師「んぅっ!?いたっ!?いたたたた!?」ズボッ
450: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:07:17 ID:M97GWVJjkM
カロル「げはっ!はぁっ…あ…はぁっ!」ゲホゲホ
魔導師「…おやまぁ、本物だねぇ。あーイタタイタイ?」ヒリヒリ
カロル「なに…するのさっ!?」キッ
魔導師「効かないよねぇ…?うん、効いてない?」ジロジロ
カロル「……!?」
魔導師「自他両方に及ぶなんて自由自在だなぁ…。これが癒しの力」ジーッ
カロル「なっ…なんで知ってるの!?」
魔導師「欲しいなぁ…。紛い物じゃない…本物の力が……」ズイッ
カロル「やっ…来ないで!?」ズザッ
魔導師「…さてさて、さてさて、さてさてと。出直そうかね」クルッ
カロル「え…?」
魔導師「腕力には自信がないもんでね。呪術が通用しないんじゃ相手がホビットの子供とはいえ、祖国まで持ってけそうにない…。
こんな事ならシャルウィンも協力させれば良かった…。あぁ…また陛下をガッカリさせてしまうなぁ…」スタスタ
カロル「ま、待ってよ!なんでボクを狙うの!?王国の人間なの!?」
魔導師「……」
カロル「や、やっぱり永遠の命が…欲しいから?」オソルオソル
魔導師「永遠の命…ねぇ」ボソッ
カロル「あれ…?ちがうの?」
魔導師「自分はなんでもいいんだよねぇ…。特別でさえあれば……。
そしてあの方もまた特別な存在になりたがってる」
魔導師「この手で叶えてあげたいのさ。愛する人の願いを」
カロル「?」
魔導師「さよなら、特別なお坊ちゃん?次は血腥い失楽園で会えるかもねぇ?」スタスタ
カロル「あぁっ!待ってよ!?」ダッ
ウゥゥ〜 ウゥゥ〜
カロル「」ハッ
カロル「お、お母さまたちを癒さなきゃ!」ピトッ
451: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:09:51 ID:M97GWVJjkM
〜〜〜回想(パカラゥロ)〜〜〜
グワシッ……ジタバタ……
西の民1「う……ぶ…ブバァッ!?」バシャッ
魔術師1「ふ、ふははは!ついに…ついに完成したぞ!我らの手でなし得たのだ!究極の禁術を…!!」
魔術師2「お、おぉ…!これこそまさしく…!」
魔術師3「アーッハッハ!!見たか!?実験台が血溜まりを残して干からびた!?」
魔術師4「これならば陛下にもお喜びいただけよう!終わらない争いの雪辱も晴らせるというものだ!!」
魔術師1「あぁ…この魔溶液は長年、研究を積み重ねて得た黒魔術の結晶だ…」ニギッ
魔術師2「ククク!機は熟した…!すぐに御披露目しよう!パカラゥロ!!」
奴隷「はい……」スッ
魔術師2「一つ大役が出来たな?」
奴隷「はぁ……」
魔術師1「うむ!陛下に御披露目する場ではお前が術を披露するのだ!」
奴隷「なぜ…自分が?」
魔術師1「なぜか…だと?」ガシッ
バサッ
452: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:11:25 ID:M97GWVJjkM
奴隷「……」ズゥゥン
魔術師1「この腕はなんだ?皮膚は醜く爛れ、魔溶液の後遺症で青く変色し、手の甲には無数の噛み痕が刻まれている?」
魔術師3「ぶふっ!いつ見ても気持ちわりーなぁ?」ニタニタ
魔術師4「どうやったらそんな気味悪くなんだよ?」
奴隷「……」サッ
魔術師1「お前は我らの生み出した黒魔術を解き放つ為の媒体だ?
他の奴隷は術を体に埋め込むのに耐えきれず、ことごとく死んでいったが…お前だけはこうして生き延びている?」
奴隷「……」
魔術師1「そしてついには究極の魔術さえも会得した…。
その術を陛下の前で披露出来るとは…これ以上ない栄誉だ!奴隷の身でありながらなんという幸運か!?」
奴隷「幸運……ねぇ」ボソッ
奴隷「(黒魔術の研究だとかで無理やり連れてこられて、どれだけ経ったか…)」
奴隷「(月日も数えられないくらい…心も身体もボロボロだ)」
魔術師1「どうした!?浮かない様子だな?」
魔術師2「緊張してるんだな?奴隷の分際で陛下に謁見が叶うとはとんだ幸福者よ!」
アハハハハッ ギャーッハッハッハ!!
奴隷「(これが幸運だってんなら…どこにも希望なんか落ちちゃないのかね)」
453: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:15:52 ID:WAMP9I3Be6
――――――
西の民2「う……ぐっ!ぐはぁっ!?」ブバァッ
バシャッ
奴隷「……」ビシャビシャ
オオオオオオオオオオオオ!!!
魔術師1「ふはは!どうですご覧になりましたか!?これぞ我らが練りに練った研究を重ね得た究極の魔術にございます!!」
側近「おぉ!?なんと!?その者が触れた途端に男が大量の血を噴き出して息絶えたぞ!?」
魔術師1「クックック……陛下の感想を伺いたく存じます」
皇帝「……これぞ余の求めてきた術、その物じゃ」
魔術師1「」ニタァァ
皇帝「グフ…グフフ…!我らを嘲り、平和などとのたまう憎き国々に血ヘドを吐かせ、余の前に跪かせてやろう…!」
将軍「その術を広範囲に渡らせたりは出来ぬか?
単体への効能は申し分ないが直接触れねばならぬという条件ではいささか使い道に困るぞ?」
魔術師1「それも問題なく…密閉された空間内…例えるなら、この王宮程度の範囲であれば丸々虐殺可能でございます?
その上、術者が不在になっても術自体の効果はしばらく留まり、瘴気を浴びた者は同様の効果を受けて死にます?」
将軍「……ではわざわざ敵を密閉された空間内に誘き寄せなければならぬのか?」
魔術師1「そうなりますな…。巻き込まれる可能性もありますので」
将軍「…あまり実用的ではないな」ウーン
皇帝「どうにかならんのか?魔術師よ?」
魔術師1「うっ…」
参謀「発言させていただいてもよろしいでしょうか?」
皇帝「…この者は?」
将軍「はっ!我が軍の参謀であります!軍略における指揮の全権をこの者に与えておりまして…我輩程ではありませぬが、そこそこの切れ者にございます!」
皇帝「…発言を許す」
参謀「はっ!」ザッ
454: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:20:56 ID:M97GWVJjkM
参謀「この魔術なる特異な力は主に屋外での作戦を基盤とする戦場において利用価値は無いに等しいでしょう」
皇帝「ふむ…」
魔術師1「くっ…!」
参謀「しかし…見方を変えればとても実用性に優れた利用法がある」
将軍「ほう、お主ならどのように使うと?」
参謀「兵ではなく…刺客として敵の内部に送り込みます」
皇帝「……?」
参謀「貿易でも友好を図る会食でも適当なイチャモンを付けるでもいい。
なんらかの理由を付けて話し合いの場を設け、各国の最高責任者を引っ張り出すのです…」
将軍「……で?なんとする?」
参謀「その場で広範囲に魔術を展開させ、事故に見せかけて殺害させます」
皇帝「グフフ!それはいい!目の前で奴らの苦しみ喘ぐ無様な姿を眺められる訳じゃな?」
側近「そう易々と成せるのでしょうか?」
参謀「我が国が他国に警戒視されているのは否めない…。
しかしこちらから出向くのであれば相手も多少の油断を見せるでしょう」
参謀「たとえばその媒体を会議の場に送り込んで敵の王をまとめて刈り取れば…各国はそれぞれ混乱に陥り、統制が効かなくなる。
そこで初めて……将軍閣下率いる軍の出番です?」
将軍「我輩が混乱に乗じて一気に叩き潰すのだな?」
参謀「やはり分かっておられますね?」クスッ
将軍「ヌハハハハ!!我輩を誰だと思っている!?」
皇帝「グフフ!貴様、名は?」
参謀「ピクスィです。以後お見知りおきを」ペコッ
皇帝「フッフッ…覚えておこう?」ニヤリ
455: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:23:32 ID:M97GWVJjkM
将軍「」ハッ
参謀「」クスッ
将軍「(こ、このガキぃ…!これを機に我輩を出し抜こうと…!)」
参謀「ご心配なく」ボソッ
将軍「……!?」
参謀「僕は貴方の駒の一つ…この命が尽きない限り、盤上からはみ出る事はございません…?」ボソボソ
将軍「」ニヤリ
参謀「(バカは扱いやすくて助かる…。将軍閣下も…この皇帝という鎧を纏った愚か者も…所詮はただの人)」
参謀「(この作戦には大きな穴がある。それは……各国の王が集う場に陛下も含まれている事だ)」
参謀「(なるべく最善の策を用意し、表向きは陛下の安全を磐石に固める…。その上で起こる悲劇は……不慮の事故としか言いようがない)」
参謀「(軍の指揮系統を握っているのは僕だ。統制機関は恙無く進行出来る。けれど…こいつらは陛下の死に混乱するだろう)」
参謀「(その最中で諸国を殲滅し、功績を上げたとなれば…僕は国の英雄だ。誰にも疑われず西の国の頂点に君臨出来る)」
参謀「(つまり……列国の脅威も無くなり、必然的に世界を牛耳れる。僕がこの世界を支配するんだ)」
皇帝「よぉし…早速、その方向で取りかかれ」
参謀「お待ちを」
皇帝「なんだ?」
参謀「僕が申し上げた作戦はあくまで不安要素を除いた理想的な展開にございます。この段階ではまだまだ準備が必要かと」
皇帝「……?」
参謀「その媒体は他に作れないのか?」
魔術師1「は、はっ!いずれは民間人の3割に仕込ませ、媒体の大量生産も視野に入れております!」
参謀「そうか。ではその術を広範囲に展開した場合、効果を防ぐ方法は?」
魔術師1「ご安心を…もしもの時は我らの作った"防術の仮面"を装着していただけば…」スッ
参謀「(やっぱりな…)」
魔術師1「なにか?」
参謀「いや、問題ない」コホンッ
456: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:32:35 ID:M97GWVJjkM
参謀「(黒魔術だとか神秘性を持たせて特異な力に仕立て上げてるが、要は毒薬の精製か……。
原理は不明だが手ぶらで猛毒を放てる媒体を作っているだけだ)」
参謀「(媒体の数に限りがあるのは数え切れない失敗例があるから…というよりたまたま成功したんだろうな。
もし作戦を実行に移すとなれば1体じゃ心許ないな)」
参謀「(何も持たせず毒を放出させられる人間兵器……応用次第でどうにでも扱えそうだが二度は使えない手だけに慎重に策を練らないと)」
皇帝「グフフ!先が見えたな!なんと素晴らしい日か!者共よ!パレードを行うぞ!すぐさま用意させろ!」
側近「ははぁっ!」
将軍「(ムフフ…暗殺はあくまで通過点に過ぎぬ。決め手となるは我輩の軍による敵国の殲滅よ!
これで一つ、我輩の武勇に箔が付き、忌まわしき過去を清算出来るぞ!)」ニィィッ
魔術師1「(ふ…ふ…ふ…!作戦が成功すれば我らに充てられる研究資金が跳ね上がるぞ!
それに他国の領地を一部、壌土されるかもしれん!ウッハウハだ!)」ワクワク
参謀「(踊らされろ、バカ共め。僕の創る新たな世界にお前達の出る幕はないよ)」クスッ
奴隷「(何を話してるんだかさっぱり分からないけど…一つだけ確かな事がある)」
奴隷「(たぶん自分は死ぬ。そしてこいつらは笑う)」
奴隷「(…いっそ死んじゃおうか。もうたくさんだ)」
奴隷「(………こんな考え、何回も繰り返した。でも結局、踏みとどまってしまう)」
奴隷「(怖いのもあるけど…期待してしまうんだ)」
奴隷「(もしかしたら…もう少し…あと少し頑張れば…何か良い事があるんじゃないかって)」
奴隷「(きっと何もない所に向かってるんだろうけど……)」
457: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/8(日) 21:38:55 ID:WAMP9I3Be6
――――――
カツンカツン カツンカツン
西の衛兵1「ふぁ、ふぁふぁ…!?なぜこのような場所に!?」
???「どこに来ようと妾の勝手じゃ?」
西の衛兵2「し、しかし…ここは牢獄ですぞ!?貴方様が来るような場所では…!?」
ウオオオオオ!!
西の罪人1「久々に生の女を見たが…どえらいべっぴんさんじゃねーか!?」ガシャッ
西の罪人2「はぁ…はぁ…ヤベェ!おいら興奮してきちゃった!」ヌギヌギ
西の罪人3「ウオオー!!ヤらせろー!!いっぺんでいいからヤらせやがれー!?」ガシャガシャッ
西の衛兵1「お、おい!騒ぐな!罪人共!?」ガンッ
西の衛兵2「処刑前に串刺しにされたいか!?」
???「フゥ〜?これはまた精の強そうな?クスス…悪くはないぞ。でも…今はお預け?」クスッ
???「パカラゥロなる奴隷はおるかえ?」
西の衛兵1「はぁ!?」
西の衛兵2「ぱ、パカラゥロでしたら…!?」チラッ
???「…ほう、最奥の固く閉ざされた独房がそうかえ?」チラッ
西の衛兵2「お、恐れながら…あの者は大変、危険にございます!
常日頃より陛下のそば近くにおわすファルージャ様は…特に関わりを持ってはなりません!」
ファルージャ「クスス!妾が陛下とお近付きになれるのは肌を重ねし夜のみよ…。あの男は身体目当ての薄汚いケダモノじゃ……」
西の衛兵1「ぶ、無礼な!?」
ファルージャ「ほう?無礼とな?」
西の衛兵1「この国では発言一つが命取りとなるのはよくご存知の筈…先の失言を側近殿に申し立てさせてもらう!」
ファルージャ「はんっ…?むさい顔に似合わず几帳面なことよ…。じゃが失言をしたのはそなたの方じゃ?」
西の衛兵1「なんだと…宮女と言えば聞こえはいいが…平民上がりの愛人だろうが…!」
カツンカツン カツンカツン
西の衛兵2「ま、また誰か来たぞ!?」
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