1スレ
少年「ボクが世界を変えてみせる」
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/l10
2スレ
カロル「ボクが世界を変えてみせる」
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbss/test/mread.cgi/ryu/1385288769/l10
―――あらすじ―――
それは遠い昔のお話
人と人は長い長い争いに身を投じ、互いを許せないまま30年もの月日を互いの血を流すことに費やしました
しかし長い争いはいつまでもいつまでも終わる気配もなく
人を傷付け、愛を蝕み、心は枯れて、命は絶えて、いつしか疲れ果てて……やがては目的さえ見失ってしまいました
そんな終わらない争いの果てに一つのきっかけが巡るのです
それは人と人との争いに無関心だったホビット族に原因があると唱える迷信でした
その迷信はあまりにも唐突で、あまりにも不自然な内容でしたが痩せ細って震える人々、争いに疲れきった国々はホビットに全てを擦り付けて争いを終わらせようと決めたのです
戦争が鎮まった後、各国に迷信を掲げた王国は大規模な宗教団体を立ち上げました
その団体は教団と呼ばれ、戦争を納めた功労者であるノワール・バントン司祭を筆頭に教徒達による布教活動が開始されました
布教の内容はホビット族が人間から゙癒しの力゙と呼ばれる特別な能力を奪ったというもので……
これを軸に様々な悪評を並べ立てて人々の心にホビット族への憎しみを焼き付けます
ありもしない神の作り話にいざなわれ、人々は信者へと洗脳されていきました
それから約40年の間、教団による布教活動は続き、思惑通り人々は順調にホビット族を差別していました
人間はことごとくホビット族の住み処を侵略し、奴隷にしてみたり、愛玩用に飼い慣らしてみたり、時には残酷な拷問を加えて見世物にしたり、罪深き種族と罵って横暴の限りを尽くします
395: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 22:53:27 ID:kvfU/LDo0A
シヴァ「そうと決まれば早速、支度に取り掛かろう。場所はどちらにする?」
イフィート「待て待て待て?そうじゃないんだ?
あいつらなぁ、ホビット族の婚礼儀式はしたくねぇんだと?」
シヴァ「なに?」
イフィート「段取りとか細かいのはいいとして…見せ場ってのも変だが最後にお互い手製の花冠を贈り合うだろ?」
シヴァ「あぁ、新郎新婦が愛を確認する為に相手を想い、手作りした花冠を互いの頭に飾るのが習わしだ」
イフィート「それがイヤなんだと…」
シヴァ「……なぜ?」
イフィート「知るかよ!若い奴にとっちゃ古臭く感じんじゃねーの?」
シヴァ「ではどうしたいと?」
イフィート「だからよ…なんか人間のやり方?」
シヴァ「人間の?」
イフィート「花冠じゃなくて宝石の指輪とか…ち、ち、誓いのぶっチューとか…したいんだと?」モジモジ
シヴァ「げ、下品だ!夫婦になると言っても最低、1月は純潔を保つのが……」
イフィート「わ、分かってんだよ!んなこたぁ!?けどしょうがねーだろ!そうしてぇっつーんだから!?」
シヴァ「……近頃の若い者は」ハァァ
イフィート「溜め息しか出ないが…もう一個あんだよ」
シヴァ「まだあるのか?」
イフィート「教会で式を挙げたいんだと?」
シヴァ「教会!?」
イフィート「この前、出先から戻った仲間が余計なこと吹き込んだらしくてな。
ホビットと人間が和解して共存を始めたとか…人間の文化はああだこうだとよ」
396: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 22:56:00 ID:kvfU/LDo0A
シヴァ「しかし教会はな…」
イフィート「そうなんだよなぁ…。つってもずっと隠れ暮らした若い連中は人間を知らんだろ?
いつの間にやら変な憧れ持ってよ…。絶対に人間の教会で式を挙げるって…」
シヴァ「……」
イフィート「俺も噂程度でしか聞いてないが…まぁ安全そうなら人里に出て頼み込んでもいいかなぁと」
シヴァ「ダメだ」
イフィート「……」
シヴァ「関わるべきじゃない。もし人里に出て危害を加えられたら大変だ。この集落も見つかるかもしれん」
イフィート「で、でもよぉ…」
シヴァ「アピシナ様の教訓を忘れたか?」
イフィート「昔話だろ?今はもう平気だって?
息子もお嬢ちゃんも頑固だし説得出来ねぇよ?
それに一生に一度のおめでたい行事だ。本人らの意思を汲みたいじゃねぇか?」
シヴァ「……なんと言われようと納得出来ん」
397: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 22:58:07 ID:kvfU/LDo0A
イフィート「堅物だな!いいじゃねぇか!それで満足するってんなら一度くらい!?」
シヴァ「そもそも愛し合ってるのなら式など不要だ。わざわざやる事もない」
イフィート「はぁ!?かわいそうじゃねぇか!?
おめぇも親なら子の晴れ姿を見たくないのか!?」
シヴァ「やるのならホビット族の習わしに沿った式をやるべきだ」
イフィート「それじゃイヤだって言ってんだよ!?」
シヴァ「…では交際を絶とう」
イフィート「た、た……!?」
シヴァ「赤の他人なら式をする理由もない」
イフィート「〜〜〜!」プルプル
シヴァ「娘には儂から伝えておく。お前の息子にも言っておいてくれ」
イフィート「てめぇ…本気か…!?子供の幸せ奪うのか!?」
シヴァ「集落全体の問題だ。族長として住民たちを守らなければな」
イフィート「出てけっ!!」
シヴァ「……」
イフィート「…お前が正しいのかもしらんがよ?親のエゴってのもあんだろが…!」
シヴァ「…ふむ」
イフィート「そんなに言うならお前が説得しやがれ!?
それまで顔見せんな!!集落同士の付き合いも無しだ!!」
シヴァ「分かった」ガタッ
イフィート「……!」ワナワナ
シヴァ「」スタスタ ガチャッ
バタンッ……
……………………
398: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 23:01:40 ID:kvfU/LDo0A
シーン
カロル「……」
母「……」
シヴァ「どうした?」
族長の妻「ね!呆れちゃうでしょう!?」
母「…う、うーん」
シヴァ「なぜだ?」
母「それはちょっとひどすぎません…?」
シヴァ「……」
族長の妻「娘も怒っちゃって絶縁状態なんですよ!こんな狭い谷間で!」
シヴァ「だが…」
母「ま、まぁおっしゃるのは分かりますよ?」
族長の妻「だからって普通、親が子供に別れろなんて言います!?」
母「さ、さすがに…よほど悪い相手でもない限りは?」
族長の妻「でしょ!でしょ!?」
母「昨日もお話しましたけど実際にホビットと人間は和解してますのよ?」
シヴァ「…たとえ今は和解していても、いずれ決裂する」
カロル「そんなことないよ。約束したもん…?」
シヴァ「あてにならんな」
カロル「……」シュン
399: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 23:08:42 ID:kvfU/LDo0A
シヴァ「儂の考えが正しいかは分からん。だが…儂は集落の長として考えねばならん」
シヴァ「この地に住まう全ての者が平等に穏やかな日々を過ごせるよう…我らの暮らしに争いの日が訪れぬよう…」
母「……」
シヴァ「どうあっても意見は衝突する。なにもかもが一致して納得に落ち着く事などありえない」
シヴァ「なればこそ最終的に信じられるのは己となる。最良を模索し、最善を尽くす。それが族長である儂の責務だ」
シヴァ「少年の信じる人間の世界は美しくきらびやかで、広く鮮やかに見渡せるものなのだろう。決して間違ってはいない」
シヴァ「しかし…儂には同じ見方が出来ぬ。人間の世界は醜く不条理だ」
カロル「分かるよ…。でもシヴァさんはそれでいいの?」
シヴァ「……」
カロル「…わがままかもしれないけど、外に出れば叶う夢なんだよ?」
シヴァ「…たった二人の為に大勢を巻き込めん。
外を知りたければ…ふるさとを捨ててもらう他ない」
シヴァ「儂も親だ。願わくは…娘と近しい距離でありたい」
母「…坊や、あたしも族長さんは間違ってないと思うわ?」
カロル「間違ってないよ。だけど…」
母「それにあたし達が口出ししていい話でもないと思うの」
カロル「はい…」
族長の妻「だからって…娘がかわいそうよ」
シヴァ「…娘だからと贔屓してはならない」
族長の妻「じゃあどうするの?このままじゃ娘とは疎遠なままよ!?」
シヴァ「待つしかない。きっと分かってくれる」
マルク「」ガッガッ
シヴァ「あぁ、君たちの服だが妻が洗っておいた。後で着替えるといい」
母「ど、どうもすみません…?」ペコリ
族長の妻「いいえ!どういたしまして!」プンスカ
母&カロル「……」
400: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 23:12:28 ID:iRSgF5ODfA
―――谷間の集落(川の岸辺)―――
族長の娘「」ジャバジャバ
イフィート「お?朝っぱらから洗濯かい!精が出るなぁ?」スタスタ
族長の娘「あ、お義父さん!おはようございます!彼なら狩りに出かけてますよ?」
イフィート「ん…そか。ところであの話だけど」
族長の娘「」ピタッ
イフィート「すまねぇな。俺がカッとなっちまったばかりに…」
族長の娘「お義父さんのせいじゃありませんから!全部うちの父が悪いんです!」ジャバジャバ
イフィート「はぁ…そのぅ…なんとかならねぇのか?仲直りってか…」
族長の娘「父が認めてくれるまでしません!」ジャバジャバ
イフィート「い、いやぁ…あいつもさ。
真面目過ぎるってか…なんてぇのかな。冷めたとこもあんけどお嬢さんを思って……」
族長の娘「どこがですか!?」キッ
イフィート「」ビクッ
族長の娘「いきなり彼と別れるか、ふるさとと縁を断つか選べって言われたんですよ!?」
イフィート「う、うん。分かるぜ?ひでぇよな?」
族長の娘「ひどいですよ!!私はただ式を挙げたいってお願いしただけなのに!」
イフィート「で、でもよ?やっぱり人間のやり方じゃなくても…」
族長の娘「お義父さんまで式なんかやめろと!?」
イフィート「そ、そうじゃねぇよ?」アセアセ
401: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 23:15:02 ID:iRSgF5ODfA
イフィート「ただなぁ…人間を知ってる世代からすりゃ…教会なんざ諸悪の根源だし……」ポリポリ
族長の娘「和解したんでしょう!?聞きましたよ!
救い主って呼ばれるホビットが変えてくれたって!?」
イフィート「う、う、うん。うん。そうだな?
うん、お嬢さんの言うとおりかもな?」アセアセ
族長の娘「綺麗な宝石の指輪に誓いの口付け…そんな素敵な話を聞いてしまったら憧れてもしかたないじゃない…?」シュン
イフィート「(光る石ころやらぶっチューがそんなにいいかね…?男の俺にゃよく分からんぜ…)」ウーン
族長の娘「……古い風習なんてだいっ嫌い!
私はもっとたくさんの世界を知りたいの!」ジャバジャバ
族長の娘「こんな狭い所でじっと過ごしてなんかいられない…!」
イフィート「あ、あのなぁ…別に俺たちも好きでそうしてるんじゃ……」
族長の娘「分かってますよ!でも…若い子たちはみんな外界を知りたがってますよ!?」
イフィート「……」
族長の娘「…すみません」
イフィート「いや、いいんだけどな…。まぁ…また親父さん説得してみるから」
族長の娘「…ありがとうございます。お義父さんにまで迷惑かけてごめんなさい」
イフィート「いいんだよ。お嬢さんとは家族になんだから水臭いのは無しだ?
さっさと式を認めさして、また仲良くいこうや?」
族長の娘「…はい」ニコッ
402: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/23(金) 23:19:11 ID:iRSgF5ODfA
〜〜〜昼〜〜〜
族長の娘「はぁ…疲れちゃった。彼が帰ってくる前にお湯沸かして…食事の支度も。あ!浴槽のお掃除しなきゃ!」
族長の娘「もっと家事できるようにならなくちゃ…いつも遅くなっちゃう…」シュン
族長の娘「……人間なら便利な道具で済ませるのかなぁ」
族長の娘「はぁ〜あ…外界に住んでみたい…?」
バッ
族長の娘「きゃっ……」ガッ
グワシッ
族長の娘「はぐっ!んむー!?うぅぅ!?」モガモガ
グググッ ジタバタ
族長の娘「っ……」フッ
バタッ
魔導師「不幸は急に訪れるものさ。運の無さを恨もうねぇ…?」ニタァァァ
魔導師「さぁてさてさて…残る命は一週間といったとこ…?」
魔導師「癒しの力がそばにあればなんてことないもんねぇ…?」
魔導師「でもたまたま偶然、癒しの力がこの集落にある可能性は限りなくわずか…?」
魔導師「…君に幸あれ。んふふふふふ」スタスタ
スタスタ スタスタ………
403: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 22:25:42 ID:Lw.U6xJ0LM
―――谷間の丘陵―――
カロル「見てみて!ちっちゃい蟻さんの行列だよ!」
マルク「わんっわんっ!」タシッタシッ
カロル「あ、マルクったら、なんでそういうことするの?蟻さんが困っちゃうでしょ?」
マルク「わふん!」タシッタシッ
母「あらあら、気になっちゃうのね?」
カロル「叩いたりするのよくないよ?」ポンッ
マルク「あぅん?」
母「ふふふ。こうして旅先をゆっくり見て回るのもいいわね?」ニコニコ
カロル「ボクもこういうの好き!知らない物がたくさん見られるのっていいよね?」
母「そうね…?王都みたいに文明が発達してて驚いちゃう所もあれば、この間の山奥みたいにほのぼのした場所もあって、どれも新鮮よね?」
カロル「うん!新鮮!」
母「はぁ…族長さんの言うことは最もだし、あたし達がどうこう言うのは気が咎めるけど…やっぱり娘さんの言い分も分かるのよね」スタスタ
カロル「…ねー」
母「どんなに美しい景色も豊富な実りも…それ以上の物がどこかにあるなら見てみたいと思ってしまうものよ?特に女の子はね?」
カロル「なんとかしてあげたいね…?」
母「あの族長さんはとても道理に通じた方だけど…やっぱり一人の親なのね」
カロル「?」
母「心配だから必要以上に押さえつけてしまうの。嫌って意地悪してる訳じゃないのよ?」
カロル「…大好きだから不安になるんだね」
母「あたしもどちらかで言えば…族長さん寄りの考え方だから気持ちはよく分かるの」
カロル「ボクはお母さまが意地悪だなんて思わないよ?」
母「ふふ、ありがとう?でも亡くなった夫なら坊やの好きなようにさせてあげたかもしれないわね…」
カロル「そうなの?」
母「あぁ、でもあの人もなんだかんだで心配性だから、やっぱりあたしと同じかしら?」
404: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 22:44:51 ID:M2x7A5cHg6
カロル「…あ、そういえばお母さまとお父さまは結婚式したの?」
母「へ?あたしと夫が?」
カロル「お父さまは人間だったんでしょ?人間の結婚式したのかなぁって?」
母「してないわよ?」
カロル「え?どうして?」
母「どうしても何も…夫と付き合ってるのが広まって住んでた村を追われちゃったから」
カロル「でもしようと思ったら出来たでしょ?したくなかったの?」
母「もちろん憧れてたわよ?あたしも女ですもの?」
カロル「すればよかったのに!」
母「なかなかそうもいかないのよね」
カロル「なんで?」
母「あたしはホビットで夫は人間だったから」
カロル「……」
母「…祝福してくれる相手もいないのに式だけしてみたって虚しいじゃない」
カロル「……!」ズキッ
母「あたしも一輪挿しの真っ赤なお花を差した純白のドレスに身を包んで…。
大勢に祝福されながら夫と寄り添ってヴァージンロードを歩いてみたかった」
母「…昔はおてんばで気が強くて村の人間達ともしょっちゅう口喧嘩ばかりするようなじゃじゃ馬だったけど。
あの人と一緒にいるとそういう日が来るのかしらなんて夢見たりもしたの?」クスッ
カロル「……」
母「…同族の集落に住まわせてもらった時もそういう雰囲気にはなれなかったから結局、証明のない夫婦にしかなれなかったけど?」
カロル「…ひどいよ。ホビットは結婚できないなんて」
母「しょうがないのよ…。差別されてた頃は何をするにも妨げがあって…自由にできる事の方が少なかったんだから」
405: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 22:47:23 ID:M2x7A5cHg6
母「経験があるから、なんだか娘さんには同情しちゃう…」
カロル「今はどうなのかな?差別されないよ?」
母「うーん、どうなんでしょ?やろうと思えば人里でも結婚式は出来るんじゃない?」
カロル「…そうだよね。ホントはできるのにしないなんてもったいないよ」
母「人間がよくても族長さんが納得してくれないと、どうにもならないもの」
カロル「ここに結婚式を開いてくれる人間を呼んだらダメ?」
母「それもありだと思うけど…族長さんは人間との関わりを許さないとおっしゃってるから」
カロル「あ、そっか…」
母「…たぶんどうしたって認めないでしょうね。人間に直接、差別されてきた世代とそうでない世代だと考えが違うもの」
カロル「仲直りしてもわだかまりが残るんだ…。なんかやだな…」シュン
母「それはそうよ?差別された事なんて思い出すたびに嫌な気持ちになるでしょ?」
カロル「うん…。お腹がキュってする」ズキッ
母「族長さんにしてみれば娘をそういう目には遭わせたくないんでしょうね。難しいわ、とても…」
カロル「難しいねー…」
406: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 22:50:32 ID:M2x7A5cHg6
母「歩いてみると意外と広いのね…。
山岳に囲まれた田園地帯っていうのも風情があっていいかも?」スタスタ
サァァッ サァァッ
母「山間から吹き抜けるのかしら、涼しい風がそよいで気持ちいい?」ニコニコ
カロル「空気もおいしいし景色もキレイだから、もっとお散歩したくなっちゃう!」ニコニコ
マルク「くぅん」タッタッ
ピーピー ピーピー
カロル「あっ!小鳥が鳴いてるよ?」
母「えぇ、耳を澄ますといろんな音が聴こえる?
風に揺れる稲穂のざわめき…木々に休める小鳥のさえずり…草むらに戯れる鈴虫の共鳴…」スッ
母「坊やも耳を澄ましてごらんなさい?」
カロル「はーい…」スッ
マルク「わぅ…?」クルッ
サァァッ サァァッ
ピーピー ピーピー
キュルルルル キュルルルル
母「うーん…いつまでもこうしてたい」ノビノビ
カロル「そうだねー…」ノビノビ
407: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 23:04:53 ID:Lw.U6xJ0LM
母「族長さんは過酷で危険だとおっしゃったけど道筋さえ気を付ければ案外、そうでもなさそうね?」
カロル「旅は慣れっこだもんね?」
母「えぇ、案内も要らなそうだし道だけ聞いておきましょうか。
明日の朝には宿を空けて、ご挨拶してから集落を出ましょ?」
カロル「お礼はどうしよう?」
母「いらないって言われそうだけどダメ元で聞いてみましょっか?」
カロル「…たくさんしてもらっちゃったから、なにかしないと落ち着かないかも」
母「ま、まぁ…命を救われて宿や温泉、替えの服にごはんまで頂いて…正直、明日出ていくのが申し訳ないけど…」
カロル「うん…。早く王子さまに会いたいし…しょうがない…のかな」
母「……しょ、しょうがないわ!また落ち着いてから改めてお礼しに行きましょ?」アセアセ
カロル「そ、そうだね!うん!」アセアセ
母「と、とりあえず今日はゆっくりお散歩を楽しみましょ?」
カロル「そうしよっか!」
母「それにしても見たことないお花とか獣がいっぱいね」
カロル「ちょこっと歩いてるだけで冒険してるみたい?」
母「そうね…。あら?あんな所に木陰が…?」
カロル「わー…!フサフサ?」
母「小高い丘、草むらの絨毯にちょうどいい陽射し…ふふ!」
母「ねぇ、坊や!日向ぼっこしましょうよ?」
カロル「いいよ!マルクもしよ?」
マルク「わんっわんっ!」ハッハッ
母「(久しぶりに過ごす穏やかな時間…なんて幸せなのかしら)」ニコニコ
408: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/25(日) 23:08:09 ID:Lw.U6xJ0LM
〜〜〜夕方〜〜〜
母「〜〜…あ、あら?いつの間にか寝ちゃってたみたい?」
カロル「」スヤスヤ
マルク「」スヤスヤ
母「うふふ……かわいい寝顔?」クスッ
母「今日は楽しかった?あたしはとっても楽しかったわよ?」ツンッ
カロル「んぅ…」ゴロン
母「……」ジーッ
母「…見た目はあたしに似たのよね。
あなたが生まれた時、自分に似てないって夫がガッカリしてたっけ…?」クスクス
母「改めて見ると混血だなんて思えないくらい人間の要素が薄いわ…?」
母「でもなぜだか…考え方や性格は夫にそっくりなのよねー…?」
母「あの人がいたら…きっともっと明るく生きていけたのに」
母「坊やとも気が合うわよ?なんて…親子なんだから当たり前よね?」
母「ねぇ、覚えてる?坊やがまだ赤ちゃんだった頃ね、夫が初めて抱いた時にふと呟いたの?
『この子は幸せになれるだろうか』って…柄にもなく震え声でよ?」
母「いつも明るく前向きだったあの人でさえ、不安になって弱さを見せた…。
守る物の大きさがそうさせるの。あなたが大切だから…」
母「坊やと夫が過ごした時間はとても短かったけれど、夫は本当にあなたを愛していたのよ…?」
母「『キミとこの子に出会えた人生はなにより価値がある』って…口癖のように言ってたわ。
あなたの寝顔をいつまでも眺めていたり、夜泣きしたらあたふたしながら一生懸命あやして…。
たまに坊やがクシャッとはにかむと、あの人まで一緒になって満面の笑みを浮かべてた…」
母「…あんな日が続くんだって信じてた。坊やが大きくなってあたしと夫が年老いても…きっとこの幸せは変わらない。そう思ってたの」
母「そう…思ってたのに……」
母「……」
母「……忘れないでね。友達もそうだけど、何よりも自分を大事にしないとダメよ?」ナデリ
カロル「くぅ…くぅ…」スヤスヤ
母「…ふふ。独り言ばっかり?あたしも歳ね…」
409: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:21:56 ID:6cG0DciUyc
〜〜〜夕方〜〜〜
―――隣集落の民家―――
ガチャッ
シヴァ「入るぞ」スタスタ
族長の妻「……!」
イフィート「おう、二人とも遅かったな」
族長の妻「む、娘は…!?」ハァッハァッ
イフィート「…二階で俺の息子と薬師が看病してるよ」
シヴァ「容態は?」
イフィート「意識はあるが…咳が止まらねぇ。ひでぇ熱があるみたいだ」
シヴァ「……」
族長の妻「うっ…うぅ…!」ブワッ
イフィート「しきりに体を掻きむしるんで腕を固定して止めさせたが…全身にぶつぶつと出来物が浮き上がってな。
はっきり言ってここじゃどうにもなんねぇよ。ちゃんとした医術師のいる場所に連れてった方がいい」
シヴァ「……そうか」
族長の妻「あんた!」ポロポロ
イフィート「このままじゃ助からんぜ?お前もいっぺん様子を見てみろ?」
族長の妻「娘のそんな姿…見たくない…!」ポロポロ
シヴァ「泣くな。しかと受け止めて励ましてやれ」
族長の妻「うぅ…!」グスッ
410: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:30:24 ID:6cG0DciUyc
族長の娘「ぼふぉっ!あふっ!え゙ぇ゙ぇ゙ぅ…」ゲホゲホ
シヴァ「こ、これはどうした事だ…!?」
族長の妻「な、なんてこと…!?顔中に紫色のイボが浮き上がって…誰だかも分かりゃしないじゃないの…!」
婚約者「俺が狩りを終えて戻った時には既に岸辺で散乱した洗い物と一緒に倒れてて…。
なんとか家まで運んで寝かせたんですが…どんどん悪化して…!」ググッ
シヴァ「なぜ…この谷にこれ程の病の気はなかった筈だ」
薬師「外界から入ってきたのかもしれんね。最近は外も安全だと遠出して花や果物の種、木材を調達しに行く同胞も多かったから」
シヴァ「外界…?」
族長の妻「あ、あんた!もしかしたら…?」
シヴァ「なんだ?」
族長の妻「あの親子じゃない!?流れ着いてきた!?」
薬師「心当たりでも?」
シヴァ「いや…何もない」
族長の妻「あんたが余計なの拾ってくるから…!」
シヴァ「取り乱すな。たとえそうだとしても、あの親子に罪はない」
族長の妻「それは…そうかもしれないけど!」
シヴァ「伝染病の類いであれば他にも同様の症状を患った者がいる筈だ。この狭い谷間の集落で娘一人が感染するとは思えん」
薬師「そりゃどうだろな…。娘さんから集団感染する事もあり得る。
まぁ周囲に飛びやすい菌なら、ここにいる面々はまず諦めた方がいいよ」
族長の妻「なんで……なんでなのよ…!こんな時に…結婚を前にして……なんでよぉ!?」ポロポロ
婚約者「俺が悪いんだ!彼女が苦しんでるのに気付いてやれなくて…!」
シヴァ「矛先を探すのはやめろ。誰のせいでもない」
族長の妻&婚約者「……」
シヴァ「…薬師よ。ここで作られる薬ではどうにもならないか?」
薬師「無理だな。こんな症状は見た事がないし…具合からして手探りに調合してられる余裕もないよ」
族長の娘「ふぅ…うあぁあああ!!」ガタガタ
薬師「さっきから時たま、こうしてガタガタと寝具を揺らす程に引き付けを起こしてる。かなり危険だね」
411: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:35:48 ID:6cG0DciUyc
イフィート「見ただろ!?ありゃどう考えたって俺たちの手に負えねぇよ!!」
族長の妻「あぁぁぁん!!」ポロポロ
シヴァ「泣くな。気をしっかり持て」サスサス
イフィート「なんでそう冷静でいられんだ?お嬢さんがあんな目に遭ってるってのに?」
シヴァ「…突っ伏して泣きわめいてもどうにもならん」
イフィート「…どうすんだ?」
シヴァ「うむ……」ウーン
イフィート「こうなりゃ一つしかねぇだろ!」
シヴァ「人間に頼もうと言うのか?」
イフィート「他にどうするってんだ!?」
シヴァ「病を患って動けぬ娘をどうやって運ぶんだ?」
イフィート「イカダで川を下れば人里まであっという間だ!」
シヴァ「……」
イフィート「おい、なに躊躇してんだよ!娘の命に関わるんだぞ!?」
シヴァ「………」
イフィート「てめぇ…!」ギリッ
族長の妻「なんでも…いい!あの子が助かるなら…なんだっていい!」ガバッ
イフィート「奥さんはこう言ってんぞ!?」
シヴァ「……」
412: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:37:37 ID:6cG0DciUyc
族長の妻「今すぐ人里へ下りましょうよ!?」
イフィート「よしきた!そう言うと思って用意はさせてある!」スクッ
シヴァ「いや……」
イフィート「あ?」ギロッ
族長の妻「なによ…!?まだ娘より集落の安全とか言うの!?」
シヴァ「そうではない」
イフィート「…お嬢さんが愚痴ってたぜ?父親のせいで夢が叶わないとよ?」
シヴァ「だからなんだ?」
イフィート「娘に恨まれたまま死なれてもいいのかよ?」
族長の妻「死ぬなんてやめてください!?」ガタッ
イフィート「あ、いや!す、すまねぇ!そういうつもりじゃあ……」アタフタ
シヴァ「……儂に考えがある。しばらく待っていてくれ」スクッ
イフィート「あぁ?」
族長の妻「なんとかするって…どうやって?」
シヴァ「一度、席を外すぞ。お前たちは娘を励ましてやってくれ」スタスタ
イフィート「お、おい!?」
族長の妻「せめてどうするのか言いなさいよ!?」
ガチャッ バタンッ
413: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:42:08 ID:6cG0DciUyc
―――谷間の集落(渓谷の温泉宿)―――
カロル「うーん…!」ノビッ
マルク「」ウツラウツラ
母「二人ともよく寝てたわね?」クスクス
カロル「だって草がフサフサして気持ちよかったんだもの…」ゴシゴシ
母「あらあら、まだ眠たいの?」
カロル「ううん…。ちょっぴり瞼が重たいだけ」ムニャッ
母「そう。眠たいのね」
カロル「なんかね…?夢見たんだ?」
母「へぇ、どんな夢を見たの?」
カロル「人間がね?ボクの顔をじーっと見てニコニコしてるの?」
母「まぁ?ふしぎな夢ねぇ?」
カロル「でもね、その人に見られてるとボクも嬉しくなってニコニコしちゃうんだ?」
母「……その人は坊やに話しかけたりしなかったの?」
カロル「あ!思い出したっ!」ピコーン
母「なにか言ってたの?」
カロル「えっとね…いないいないばーって言ってたよ!」
母「…そ、そう」
カロル「…誰だったのかな?」
母「…ふふ。誰なんでしょうね?」クスッ
マルク「あんっ!あんっ!」
母「あ、宿に着いたみたい。今夜で離れると思うと名残惜しいわね?」
カロル「忘れないように温泉いっぱい入ろ?ボクがお母さまの背中流してあげるね!」
母「あら?じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら?」ニコッ
カロル「マルクも一緒に泳ごうね?お猿さんとケンカしちゃダメだよ?」
マルク「クゥーン!」シッポフリフリ
414: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/31(土) 22:45:55 ID:jD7cUAyoro
番頭「や、お客さん遅かったね?散歩は楽しめたかい?」
母「えぇ、とても?ね、坊や?」ニコニコ
カロル「うん!これおみやげだよ?おじさまにあげる!」スッ
番頭「やや?ツクシかい?ありがとねぇ!おいちゃんうれしいよ!」マジマジ
カロル「えへへ。どういたしまして!」
母「へぇ…ツクシっていうのね?」
番頭「ややっ!ご存知でない?西の方じゃわりかしポピュラーなんですがね?
お二人の暮らす土地では見かけませんか?」
カロル「そうだったんだ?見たことない珍しいキノコがあると思って取ってきたの!」
番頭「ははは!これはキノコじゃないんだよ。笠が無いだろう?」
母「ほら、だから違うって言ったでしょ?」クスッ
カロル「えー…キノコみたいなのに?」
番頭「キノコじゃないけど食べれるんだよ?」
カロル「そうなの?食べてみたい!」
番頭「うちでも作ってるからお夕飯に出してあげるよ。油で揚げて塩を振りかけると美味しいんだ」
カロル「わーい!楽しみ!」キャッキャッ
母「ふふ。よかったわね?じゃあ坊やとマルクは先に部屋で支度なさい?
お母さんはちょっとお話しないといけないから?」
カロル「はーい!行こ?」トットッ
マルク「あんっ!」タンッタンッ
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