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カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編】
[8] -25 -50 

1: ゆったりペースになりますが! ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:09:52 ID:N4jwCkModw
1スレ

少年「ボクが世界を変えてみせる」

http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/l10

2スレ

カロル「ボクが世界を変えてみせる」

http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbss/test/mread.cgi/ryu/1385288769/l10

―――あらすじ―――

それは遠い昔のお話
人と人は長い長い争いに身を投じ、互いを許せないまま30年もの月日を互いの血を流すことに費やしました

しかし長い争いはいつまでもいつまでも終わる気配もなく
人を傷付け、愛を蝕み、心は枯れて、命は絶えて、いつしか疲れ果てて……やがては目的さえ見失ってしまいました

そんな終わらない争いの果てに一つのきっかけが巡るのです
それは人と人との争いに無関心だったホビット族に原因があると唱える迷信でした
その迷信はあまりにも唐突で、あまりにも不自然な内容でしたが痩せ細って震える人々、争いに疲れきった国々はホビットに全てを擦り付けて争いを終わらせようと決めたのです

戦争が鎮まった後、各国に迷信を掲げた王国は大規模な宗教団体を立ち上げました
その団体は教団と呼ばれ、戦争を納めた功労者であるノワール・バントン司祭を筆頭に教徒達による布教活動が開始されました

布教の内容はホビット族が人間から゙癒しの力゙と呼ばれる特別な能力を奪ったというもので……
これを軸に様々な悪評を並べ立てて人々の心にホビット族への憎しみを焼き付けます
ありもしない神の作り話にいざなわれ、人々は信者へと洗脳されていきました

それから約40年の間、教団による布教活動は続き、思惑通り人々は順調にホビット族を差別していました
人間はことごとくホビット族の住み処を侵略し、奴隷にしてみたり、愛玩用に飼い慣らしてみたり、時には残酷な拷問を加えて見世物にしたり、罪深き種族と罵って横暴の限りを尽くします


363: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:50:33 ID:/baStbYdKk
ベチャッ

女装家「っ!?」ズルンッ ドタッ

女装家「…あららん?」ヌルヌル

ラム「バーカ?」スタスタ

女装家「あぶ…ら?もしかして…さっきの……」ヌルヌル

ラム「居間が炊事場と繋がってるからね。オイールの油瓶を引き出しから取ったんだ?」パシッ

女装家「え…ちょ…ま……」

ラム「夜になると蝋燭が灯されるんだ。
特にお客さんが来た時は居間の蝋燭とシャンデリア全部に火が点くから手を伸ばせばすぐ取れる距離にある?」ボォォッ

女装家「うそぉ〜ん?ジョークでしょん?」ヒクヒク

ラム「危ないから離れててね?」ニコッ

孤児1「う、うん!」タタタッ

女装家「さ、させっ……」ムクッ

女装家「あれっあれっ?」ズルッズルッ

ラム「バイバイ?」ポイッ

ボッ!

女装家「ンギャアアアアアア!!!!?」ボォォッ

女装家「うわっちゃ!はちゃほちゃちゃこんのふぁちゃっ!?」ジダンダ

女装家「ふぁっふぁっふぁっ!けっけし…けしぃて…」ジタバタ

メラメラ メラメラ

ラム「(あ、あちこちに燃え移ってる…。どうしよ…消し方は考えてなかった)」

女装家「んばぁぁああいやぁあああ!!」ゴロゴロ
364: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:53:29 ID:/baStbYdKk
〜〜〜深夜〜〜〜

―――ミラルドの町(憲兵団支部)―――

ルーボイ「お前さぁ……」ジロッ

ラム「…ごめん」シュンッ

ナラ「ま、まぁまぁ?なんとかなってよかったよね?」アセアセ

ルーボイ「だってよ!いくらなんでも教会ごと燃やす馬鹿がどこにいんだよ!?」

ラム「そうしないと守れそうになかったから……」イジイジ

ルーボイ「うるせぇ!!俺とナラが間に合わなかったら全部燃えてたぞ!?」

ナラ「あはは…けんぺいさんたち、きてくれてよかったね?」

ラム「ごめん……」

ルーボイ「ちぇっ…火なんか見たから嫌なの思い出したし…」ブツクサ
365: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:54:46 ID:ybRiD2Xm4Q
憲兵4「」カツンカツン

ルーボイ「げっ!」

ナラ「ご、ごめんなさい!」ペコッ

ラム「す、すみませんでした!」ペコッ

憲兵4「なぜ謝るんだい?」

3人「えっ」

憲兵4「お手柄だったね!強盗に立ち向かうなんて、すごい勇気だよ!」

ルーボイ「ご、ごうとう…?」

憲兵4「奴らが連れてきた兵隊達も無事確保した。もう安心していいよ」

ラム「あ、あの人たちはどうなるんですか?」

憲兵4「…とりあえず西の国に強制送還かな。捕まえたままだと後々ややこしくなるから」

ナラ「よかったぁ…」ホッ

憲兵4「事情聴取で癒しの力がどうだとか言ってたけど…今さら昔の教団の教えを持ち出すなんてバカだよね。やっぱり西の国は民度が低いよ」

3人「……」

憲兵4「孤児院の消火活動と清掃が済んだら帰れるからさ。
それまでは宿舎で寝泊まりしてもらうけど大丈夫そう?」

3人「はい…」

憲兵4「あ、そうだ。職員のミシングさんね…幸いケガは無かったんだけどショックが大きかったみたいで。
医術師が言うにはもう2、3日、療養させた方がいいってさ?寂しいだろうけど我慢してね?」

3人「はーい…」
366: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:56:43 ID:ybRiD2Xm4Q
―――憲兵団支部(宿舎)―――

ホビット2「うっ…うっ…」メソメソ

ホビット3「ふええん…!」メソメソ

孤児1「」ブルブル

孤児2「」スヤスヤ

ラム「…ごめん」ゴロッ

ホビット2「ラムさんが…謝ることないです…!」グスッ

ホビット3「そう…ですよ!あいつらが…あいつらが悪いんです!」グシグシ

ラム「……」プイッ

ルーボイ「そうだよ。お前悪くねーんだから気にすんなよ」

ナラ「……カロル、いたら…なおしてくれたかな」グスッ

ルーボイ「バカ!あいつはもういねーだろ?」

ラム「…どこにいるのかな」

ルーボイ「知らねーよ!あんなやつ!」

ホビット2「…救い主様」

ホビット3「うぅ…なんでこんな時にいないんだよぉ…!」

ルーボイ「寝よーぜ!あいつの話なんかしたくねーし!」ムスッ

ナラ「せんきょうしさま…はやくみつけてほしい」

ラム「……」

ルーボイ「ふん!」バサッ
367: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 21:59:12 ID:ybRiD2Xm4Q
―――王都(城内)―――

団長「」ダンッ

役人1「」ビクッ

政務官「……」

団長「納得のいく説明をしてもらおうか…!リルラ政務官!?」カッ

政務官「説明とは?」

団長「南の領土、バンブルの港で起こった憲兵大量殺人についてだ…?」ギロリッ

政務官「あの件について調べているのはそちらだろう?私は一切、関与していないが?」

団長「…事件の直後、逃亡していた残党を捕らえた」

役人1「」ギクッ

団長「事情聴取してみれば驚愕の事実が判明したぞ?」

役人1「」ドキドキ

団長「この若造から依頼を受け、救い主を殺めるよう指示されたとなぁ!?」ダンッ

役人1「」ブルブル

政務官「…彼が?なんという事だ!役人が殺人教唆などあってはならない!」

団長「貴様はワシを馬鹿にしておるのか…!?」ビキィッ

政務官「……」

役人1「」ビクビク
368: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 22:00:40 ID:/baStbYdKk
政務官「貴様こそ私兵の分際で私に意見する気か?」

団長「なんだとぉ…!?」ギリギリ

政務官「まさか私が指示したとでも言いたいのか?」

団長「お前以外に誰がいる…!?」ギリギリ

政務官「…口の聞き方に気を付けろよ?」

団長「む…!」

政務官「私は西の国との国交に思案を巡らせねばならんのだ。くだらん話に付き合ってやる義理はない!!」

団長「なにぃ…!?」

政務官「おい、行くぞ?」スタスタ

役人1「は、はいっ!!」スタスタ

団長「待てぃ!貴様ぁ!?」

政務官「残党を捕まえたのは確かな功績だが…救い主を保護出来なかったのが残念だな」ピタッ

団長「……!?」

政務官「陛下も大層落ち込んでおられる事だろう?」ニヤリ

団長「ぐっ…ぎぎ…!」ワナワナ

政務官「」スタスタ

役人1「」スタスタ

団長「……!」ダンッ

ダンッダンッ
369: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 22:02:46 ID:ybRiD2Xm4Q
スタスタ スタスタ

政務官「」ピタッ

役人1「わっ!」ドンッ

政務官「……」

役人1「せ、政務官殿?急に止まってはあぶな……」

政務官「…捜索隊はどうなったんだ?」

役人1「や、雇った賞金稼ぎからは…あと一歩の所まで追い詰めたと報告を受けたのですが」オロオロ

政務官「追い詰めてどうなった?」

役人1「た、隊長のマドラスが取り逃し、仲間割れを起こしたと」オロオロ

政務官「……で、どうなった?」

役人1「…隊員数名を切ってマドラスは逃亡。残りは憲兵団に捕らえられました」

政務官「…で?」

役人1「で、と言われますと?」キョトン

政務官「なぜ私が奴に呼び出される事態になった?」

役人1「そ、それは…残党が私の名前を……」

政務官「分からん奴だな…」
370: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 22:03:56 ID:ybRiD2Xm4Q
政務官「なぜそのようなヘマをしたか聞いてるんだ?」

役人1「は…?なぜと言われましても?」

政務官「危険な依頼をする際に姿や身分を隠すのは当然だろうが?」

役人1「し、しかし!優秀な人員を当たるなら身分を隠すとなると不利に…」

政務官「貴様の人脈が浅いからだ。手紙で接触するなり使いを挟むなりやりようはあるだろう?
どうせ奴らは依頼主になど興味はない。金目当ての薄汚い野良犬だ」

政務官「依頼を達成すれば、こちらを脅迫する可能性もある。国の存亡にすら関わる大事を正面から依頼する奴があるか!?」カッ

役人1「あ、いや…!?」

政務官「貴様には失望したよ…」

役人1「こ、この汚名…必ずや挽回してみせます!」アセアセ

政務官「……すでに挽回しているよ」

役人1「本当ですか!?」バッ

政務官「あぁ、汚名を返上するどころか挽回してくれるとはな。
なぜお前を選んでしまったのか…私は采配を誤ったようだ」

役人1「お、おわわわ…わうぉ…!?」ガクガクブルブル

政務官「しばらく休暇をやろう?」

役人1「い、いりま……」

政務官「始末は後で言い渡す。今までご苦労だったな」スタスタ

役人1「あ、あうあうあー……」ガクンッ
371: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 22:05:53 ID:/baStbYdKk
〜〜〜朝〜〜〜

―――城(国王の部屋)―――

ヒメ「」ポンッポンッ

団長「……」ザッ

ヒメ「役人達が認可を降ろした書類の山をまたオレが選別して判を押すんだけどさ。
正直、一つ一つ読み込んでやってたら終わらない膨大な作業だし手が疲れる」ポンッポンッ

団長「さようでござるか…」

ヒメ「だからオレが考えたのは先に書類に目を通して可、不可を振り分けるんだ。それで一気に判を押す!」ポンッポンッ

団長「なるほど…」

ヒメ「それを給仕に話したら『二度手間じゃないですか』って笑われた。よく考えたら、そうだよな」ポンッポンッ

ヒメ「でもいろいろ試行錯誤しながら失敗と成功を繰り返してけば、いかに効率よく正確に進められるかが見極められるんじゃないかと思うんだ」ポンッポンッ

ヒメ「失敗ばっかじゃダメだけど次に活かせればオレはいいと思う…って誰か同じように言ってたな?
ははは!大事なことって、いつも誰かが先に言ってたりするよな?」ポンッポンッ

団長「はっ…」

ヒメ「オレも即位して1年以上経つし、そろそろ何か歴史に刻まれるような名言を残さないとな!なんかいいのあるか?」ポンッポンッ

団長「…それは自分で考えねば意味がないのでは?」

ヒメ「そうだな。お前の言う通りだ」ポンッポンッ

ヒメ「はぁ…イヤな役目を引き受けちゃったなぁ。昔の方が自由だったよ」ポンッポンッ

団長「……」
372: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 22:07:41 ID:ybRiD2Xm4Q
ヒメ「」クルッ

団長「……」

ヒメ「…なにかあったのか?」

団長「すでに聞き及んでおられるかも分かりませんが……」

ヒメ「知ってる。あいつを見つけたんだろ?」

団長「はっ!しかし…またも見失いました…!」ググッ

ヒメ「もう聞いたよ。それがどうかしたのか?」

団長「……!」ギュゥゥッ

ヒメ「…なんでおまえがそこまで落ち込むんだよ」

団長「申し訳ございません…!」バッ

ヒメ「頭なんか下げなくていいって…誰もおまえを責めてないだろ?」

団長「あと少しで…あと少しだったのです…!」

ヒメ「あのなぁ…」ポリポリ

団長「本心ではヒメ様も悔しいのでございましょう…!?」

ヒメ「いーや、全然?」

団長「偽りを申されるな…!」

ヒメ「オレの本心を勝手に決め付けるな?」

団長「ぐっ…」

ヒメ「むしろ嬉しいよ。心なしか公務も捗ってる気がする?」

団長「な、なぜです…?もう少しであれほど待ち望んでいた再会を果たせそうだったというのに…その機会を逃してしまったのですぞ?」

ヒメ「…会う会わない以前にあいつが生きてたことが嬉しいんだ」ニコッ

団長「は…!?」
373: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/5(月) 22:09:35 ID:ybRiD2Xm4Q
ヒメ「こうしている今もあいつはどこかで生きてる。それ以上の希望があるか?」ニコニコ

団長「……!」

ヒメ「おまえのおかげで希望が芽生えた?だから胸を張れ?」ニコニコ

団長「もったいなき…お言葉!」ジワァ

ヒメ「はっきり言って不安だったよ。あいつの消息が絶たれて1年余り…なんの音沙汰も無かったからな」

団長「っ…!」ツツー

ヒメ「大義であった!……なーんてな。おまえに言っても照れ臭いだけか」

団長「うっ…うぅ…!」ポロポロ

ヒメ「おまえなぁ…?最近、本当におかしいぞ?いちいち泣くなよ?」シラー

団長「もう…しわげっ…ございまぜぬ!」グシグシ

ヒメ「ほら!用が済んだら出ていけよ!王様は忙しいんだからな!」クルッ

団長「はっ…!」スクッ

ヒメ「」ポンッポンッ

団長「ワシは…ヒメ様にお仕え出来ている事を…誇りに思います…!」グシグシ

ヒメ「じゃあこんなとこで泣いてないで働け!役に立たない奴はどんどん切り捨てるからな!」ポンッポンッ

団長「ハハハ…!まるで暴君ですな…?」

ヒメ「はぁ!?処刑されたいのか!?」クルッ

団長「ハハハ!くわばらくわばら…では失礼致します」ペコリ

ガチャッ バタンッ

ヒメ「……」ポンッポンッ

ヒメ「」ピタッ

ヒメ「っ……!」ギュゥゥッ

『また一緒に食べようね。アイスキャンディ!』

ヒメ「……まだ食べれそうにないな。いつまで待たすんだか」フッ

ヒメ「」ポンッポンッ
374: 名無しさん@読者の声:2015/1/20(火) 10:59:03 ID:3IxlrI3Ps2
支援支援支援しえーん!
375: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:02:06 ID:HNswQRyMvc
―――西の領土(渓谷の川)―――

ペチペチ ペチペチ

カロル「ん…んぅぅ…?」パチッ

ジーッ

カロル「え?」ビクッ

ゾロゾロ ゾロゾロ

カロル「(え?え?なに?すごいたくさん?)」ビクビク

???「気が付いたか、少年?」

カロル「あ、あの……」オロオロ

ボォォォ パチパチ パチパチ

カロル「あ…焚き火だ…。あったかいや…」ボーッ

???「安心しなさい。我々は同族だ」

カロル「……………あれ?」パッパッ

カロル「(な、なにも着てない…!どうして…!?)」

???「ずぶ濡れだったので衣服は乾かしている」

カロル「あ、そうなんだ…?ありがとうございます…」ペコリ

カロル「(よく見たら、他のみんなも下着しかしてないみたい…)」
376: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:03:01 ID:HNswQRyMvc
???「君はなぜここに流れ着いた?」

カロル「えと…それ、は…!?」ビクッ

カロル「(そういえば…お母さまは?マルクはどうなったの…!?)」キョロキョロ

???「……?」

カロル「あ、あの…ボクだけですか!流れてきたの!」

???「そうか。先に流れてきた獣と女は少年の知人か」

カロル「い、生きて…ますよね…?」ブルッ

???「潮の流れが強かったのか所々打ち身をしていた。
一応の手当てはしてあるが意識は戻っていない。
なにぶん我々は自然生が染み着いているのでな。
ここでは施術に必要な物が不足しているんだ」

カロル「あ、会わせてください!どこにいるんですか!?」

???「見たら心を痛めるぞ。痣や腫れだらけで痛ましい」

カロル「平気です!ボクが治しますから!おねがいします!」

???「…ほう。その歳で医術を?だがさっきも言ったようにここでは必要な物が揃わないぞ?」

カロル「大丈夫です!なんとかします!」

???「ふむ。そこまで言うなら……皆、集落へ戻るぞ」

ワラワラ ワラワラ

カロル「……!」ハラハラ
377: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:05:54 ID:HNswQRyMvc
―――谷間の集落(宿屋)―――

カロル「お…かあさま…まるく……」

???「この獣が女の衣服を噛んで泳いでいた。
疲弊しきっていたのか岸辺に着いた矢先に気絶してしまったが」

母「」グッタリ

マルク「」グッタリ

カロル「ごめ…ね…!ありがとう…マルク」ウルッ

???「今は気を失っているだけだが衰弱が激しい。
見つけた時は息もしていなかった。海水をたっぷり吸ったようだ」

カロル「…!」グシッ

???「…治せるのか?」

カロル「」ピトッ

???「……?」

フワッ フワッ

母「う……ん…?」パチッ

マルク「」スヤスヤ

母「あら、坊や…?どうして裸んぼなの?」キョトン

カロル「お母さまぁ!!」ダキッ

母「きゃっ!?あ、あれ…?あたしも…裸?」ギョギョッ
378: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:07:15 ID:2jtQ6Mfo/w
???「……」ジーッ

母「っ!?だ、だれ!?」ビクッ

???「気が付いてよかった。儂は族長のシヴァだ」

母「……?」

カロル「ボクたちを助けてくれたんだって?」コショコショ

母「まぁ…!?すみません、お礼も言わずに…!」アセアセ

シヴァ「気にしなくていい。ところで今のはなんだ?」

母「い、今の…と言いますと?」

シヴァ「少年が手を触れた途端にお前様の痣や腫れが引いた。獣も安らかに寝息を立てている」

母「そ、それは…あの…ツボ押し……」

シヴァ「癒しの力なのか?」

カロル「え…?」

母「知ってらっしゃるんですか…!?」

シヴァ「あぁ、知っている。この目で見たのは初めてだが」

母「し、失礼ですが…ここに人間は?」

シヴァ「いない。ホビット族だけだ」

母「で、でしたらなんで人間の迷信を…?」

シヴァ「? 癒しの力は人間の迷信ではない」

母「えっ」
379: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:12:28 ID:2jtQ6Mfo/w
シヴァ「癒しの力とは我らが祖先アピシナ様から伝わったものだ」

母「アピシナって…アピシナの樹の…?」

シヴァ「うむ」

カロル「…アピシナの樹?お爺さまが昔、聞かせてくれたおとぎ話かな?」

母「え、あぁ…そうね。坊やが人間に興味を持たないようによく言い聞かせてたっけ…」

シヴァ「おとぎ話などではない」

母「ど、どういうことですか…?」

シヴァ「過去にあった事実だ」

カロル「そうなの?」

母「事実って…なんでわざわざ人に虐げられた話を残すんですか?」

シヴァ「人だけではない」

母「……?」

シヴァ「アピシナ様は全てに嘲られ、誰にも偲ばれる事なく、この世を去った」

シヴァ「あれは今から300年も昔……」

母「あ、あの!」

シヴァ「……?」

母「お、お話の前に…なにか着る物を貸していただけませんか?」モジモジ

シヴァ「…我らの民族着で良ければ」

母「お、お願いします…!」カァァ

カロル「ちょっぴり寒いもんね?」

シヴァ「あまり暖かくはならないが服が乾くまでの辛抱だ。宿の主人に借りてこよう」スタスタ
380: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:17:03 ID:2jtQ6Mfo/w
シヴァ「悪いがそれしか無くてな。肌に合うかどうか?」

カロル「ぴったりです!」ジャーン

母「ぴ、ぴったりだけど…下着なんですね…?」モジモジ

シヴァ「狼の皮で編んだ衣服だ。寒さを感じるなら羊毛のコートもあるが…」

母「あ、出来ればそれも…」

シヴァ「うむ。あまり取れない貴重な素材なので宿にはない。儂の汗が染み込んだ古着でいいなら持ってくるが」

母「…そ、そういえばあたし暑がりでした。やめときます」

カロル「この下着も?」

母「えっ」ドキンッ

シヴァ「それは宿屋の既製品だ」

母「(宿屋のなら清潔…)」ホッ

シヴァ「さて、まずは事情を聞かせてもらおうか」

母「へ?さ、さっきのお話は…?」

シヴァ「?」

母「あ、アピシナ様の…?」

シヴァ「あぁ…聞かせてもいいが聞かなくてもいいぞ。多分、今後なんら影響もない話だ」

母「そ、そうですか」

カロル「えー!気になるよ!」

シヴァ「そうか?」

カロル「うん!聞いてみたい!」

シヴァ「ふむ…分かった」
381: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:19:25 ID:HNswQRyMvc
シヴァ「今から300年以上前、まだ人もホビットも散り散りに独立して暮らし、国のような社会形態も無かった頃だ」

シヴァ「人は平地や草原地帯を支配し、ホビットは森林や野山に根付いていた。
互いを敵と見なし、幾つもの時を血に濡らした混沌の時代」

カロル「人間とボクたちは昔から仲が悪かったの?」

シヴァ「うむ。食料や衣服となる獲物、武器や住み処となる自然物。
異なる地形に根差しているからこそ自分たちの持たざる物が欲しくなる。
人間はそういった欲望が特に強かった」

シヴァ「攻めてくるのは人の群れ、それを迎撃するホビット族。争いの要因は決まって人間だった」

シヴァ「しかしある時、不思議なホビットが現れた。
どんな傷や病もたちどころに癒してしまうホビットだ」

母「それがアピシナ様なんですか…?」

シヴァ「そうだ。どこからともなく突如、ホビット族の集落に現れたらしい。
その実態や過去は明らかにされていないが…とにかく変わり者であったそうな」

シヴァ「ある時には捕らえられた人間の傷を癒し、こっそり逃がしたと聞く。
またある時には人間との仲を取り成そうと一人で平地に赴き、殺されかけて逃げ帰ってきたとか」

母「……」ジッ

カロル「なんでボクを見るの?」キョトン

シヴァ「またまたある時には空から種が降ってきたと騒ぎ、相手にされず一人で育てていたとか。
とても風変わりなお方だが、それでも癒しの力は役立つ為、誰も何も言わなかった」

シヴァ「ところがある時、事情が大きく変わった。
それはアピシナ様が育てた種が樹となり、実を付けた頃だ」

シヴァ「アピシナ様は集落の皆に実を配り、食べさせてやった。
するとその日から誰一人、ケガや病気をしなくなった」

シヴァ「獣に噛まれても不注意で木から転げ落ちても傷はすぐに癒え、病に至っては発症する兆しもなく、ホビット達は首を傾げた」
382: ◆WEmWDvOgzo:2015/1/21(水) 22:24:19 ID:HNswQRyMvc
シヴァ「これはどういうことかとアピシナ様に尋ねると朗らかに答えた」

シヴァ「『皆さんがおいしくいただいたので果実が喜んでる』のだと」

カロル「あ……」ハッ

シヴァ「なにか心当たりが?」

カロル「ボクも前に樹に力を使ったら枯れてたのに実が成りました!」

シヴァ「…実らせてしまったのか」

カロル「は、はい…?」

シヴァ「その実はどうなった?」

カロル「ともだちが食べて…それだけだったと思います」

シヴァ「そうか…」

カロル「い、いけなかった…ですか?」

シヴァ「…アピシナ様は実を分け与えた事で孤独になった」

カロル「……?」

シヴァ「実を食べれば傷も病も恐れなくていい。癒しの力はもう不要だと集落を追い出された」

シヴァ「そしてホビット族は実の力を過信し、人間の領地を攻めるようになった。
凄まじい治癒力から永遠の命を持っているんじゃないかと恐れられ、過激な種族へと変貌したそうだ」

シヴァ「一方的な侵略。争いの要因はホビットに切り替わった」

シヴァ「人間はホビットを恐れ、ついには降伏した…。
しかしホビットは許さなかった。何故なら力を持っているからだ」

シヴァ「アピシナ様の実によって得た治癒力は彼らの欲望を増長させてしまった。
もはや人間など狩りの対象としてしか見られぬ程、おとなしく穏やかな種族は残忍さを増していった」

シヴァ「だが…異変が起きた。樹が徐々に痩せ細り、枯れてしまったのだ」

シヴァ「元よりアピシナ様が不在になってからは実を付けなくなっていたが…問題は樹が枯れた途端に力が失われた事だ」

カロル「力って…治癒力?」

シヴァ「そうだ。それにより無謀な攻撃を繰り返していたホビット族は多大なる犠牲を払った」

シヴァ「そこでホビット族は再度、樹を蘇らせようとアピシナ様を探した」

シヴァ「…だが捜索も虚しく、とうに行方を眩ませていたアピシナ様を発見する事は叶わなかった」
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名前:
sage:


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