むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
900:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 13:10:19 ID:EGaUv6OiD6
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「うーん。こっち!」パシッ
ナラ「ふふ」
カロル「あ……」ガーン
ナラ「クスクス…。またわたしのかちだね?」ニコッ
カロル「ナラはババ抜きが得意なんだね?」
ナラ「ううん。とくいじゃないよ。カロル…よわいんだもん」クスクス
カロル「えぇっ!そんなことないよ!もう一回やろ?」
ナラ「うん。いいよ」
マルク「クゥーン!」スリスリ
ナラ「え?」
カロル「マルク、どうしたの?」
マルク「わん!わん!」
ナラ「な、なに?」オロオロ
カロル「…退屈になっちゃったのかな?」
ナラ「そう、なの?」
マルク「うぅぅ〜…!」ジーッ
ナラ「……」
カロル「待ってて。終わったら一緒に遊ぼう?」
マルク「……」ジーッ
ナラ「……」
901:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 13:17:03 ID:EGaUv6OiD6
カロル「また負けちゃった…」
ナラ「ふふ。かおにでやすいから…」
カロル「そうかな?ちゃんと分からないようにしてるのに?」
ナラ「だってババをもってると、ババしかみてないもん」
カロル「え…そうだったんだ。気を付けなきゃ」アセアセ
マルク「わんっ!」
カロル「あ、ごめんね?マルクも遊ぼっか!」
マルク「」ブンブン
カロル「…そうじゃないの?」
マルク「うぅ〜…わんっ!」
ナラ「」ビクッ
ナラ「……」
マルク「」ジーッ
ナラ「やっぱり…ダメだよ、ね」
カロル「へ?」
ナラ「…わたし、ウソついてるの」
カロル「ウソ…?」
マルク「くーん…」
ナラ「カロルはだまされてる。アリアスさまは…じゆうにするっていってたけど、ホントはちがうの」
カロル「違うって、なにが違うの?」キョトン
ナラ「わからないけど、アリアスさまは…なにかかくしてる。
だって…わたしにカロルをみはれっていった」
カロル「ど、どうして?見張らなくたって、お母さまと帰れるならおとなしくしてるよ?」オロオロ
ナラ「かえれ…ないよ。それにおかあさんにもあえないとおもう…」
カロル「え…?」ドクンッ
902:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 13:19:52 ID:mhRd5op86s
ナラ「わたしはカロルをあんしんさせてっていわれて…なにも、しらないけど」
カロル「…ナラはボクを騙してたの?」
ナラ「ち、ちが…!アリアスさまが…!」
カロル「……」
ナラ「わたし…じゃない。しんじて…?」
カロル「…もう分からないよ。誰を信じたらいいのさ」シュン
ナラ「ちがう!わたし、カロルがすきだよ!ともだち、だから!」
カロル「頼まれたから…友達のふりをしてたんじゃないの?」
ナラ「カロル…」
カロル「…ごめん」
マルク「」スリスリ
カロル「…へいき。心配しなくていいよ。傷付いたり…しないから」ナデナデ
マルク「クゥーン…」
ナラ「…さっき、せんきょうしさんにあった」
カロル「宣教師さま…?」
ナラ「うん。カロルのこと、はなしたよ」
カロル「…そうなんだ?なんて言ってたの?」
ナラ「なかよくしてあげてって、やさしくわらいながらいってくれた」
カロル「…そっか。宣教師さま、会いたいな」
903:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 13:22:18 ID:mhRd5op86s
ナラ「カロルは…わたしのこと、きらいになった?」
カロル「嫌いになんてならないよ。ナラは悪くないもの」
ナラ「……」
カロル「でも…ちょっとだけ悲しいかな。自然になかよくなれた気がしたから」
ナラ「…せんきょうしさんにね。きいてみたの」
カロル「?」
ナラ「どうしてホビットとともだちなの?って…」
カロル「……」
ナラ「そしたらね。じぶんのきもち、しんじなさいっていってた」
ナラ「しゅぞくも、おしえも、かんけいない。じぶんがすきなら…それでいい」
ナラ「わたしはカロルがすきだから、そのきもちにしたがうの」
カロル「うん…」
ナラ「もういっかい、きかせて?カロルはわたし、きらい?」
カロル「…そんなことない。大好きだよ?」ニコリ
ナラ「あり…がとう」
カロル「(そうだよね。理由なんていらないんだよ。きっと…)」
カロル「(ボクと仲良くしてくれる人間に…理由なんてない筈だもの)」
ナラ「どうしたの?」
カロル「なんでもないよ。それより、もっと遊ぼうよ?」
ナラ「うん!」
マルク「……」
904:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 18:36:09 ID:W53Y4Ns4ZQ
―――大聖堂(礼拝堂)―――
アリアス「連れて参りました」
司祭「うむ。ご苦労じゃったな」
宣教師「…私に何か?」ジト
司祭「ほっほっほ。まぁまぁ。そう警戒するな?」
宣教師「警戒など…」
司祭「ところで宣教師よ。これからどうする?」
宣教師「どうする…とおっしゃいますと?」
アリアス「あなたが布教を行っていた村の話は聞いたわよね?」
宣教師「はい。断片的でしたから、あまり把握出来ていませんが…」
司祭「ふむ、そういえば全ては説明していなかったのう?」
アリアス「端的に話せば例の村では布教を行えない」
宣教師「(もとより布教するつもりもありませんが…)」
アリアス「ある旅の人間が村人にタイマを勧めたのよ。それで今、村は管理出来る状態にないの」
宣教師「タイマ…?ま、まさかあのタイマですか!?」
司祭「…ほう。知っておったか?」
宣教師「知らない筈がありません!あれは…人の手に渡ってはならない物でしょう!」
アリアス「残念だけれど、それが渡ってしまったのよ」
宣教師「村人に勧めた旅の人間は何者なんですか!」
司祭「分からん。ただ、どうやらお前さんの親しくしていたホビットを狙っとったらしいわい」
宣教師「…二人を?」
司祭「そやつはお前がホビットを匿った日に村に入り込んだようじゃ。
まさか村を担当していたお前が、そんなことにも気付かなんだとはな?」
宣教師「そ、そんな…私が来た時には誰も旅人の話など…」
司祭「それはそうじゃろう?村人たちはお前がホビットを匿ってる事を知っていたのじゃから、信用など失っておったに違いない」
宣教師「……」
905:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 18:39:05 ID:W53Y4Ns4ZQ
司祭「判断を誤ったな、宣教師よ?」
宣教師「私は…」
司祭「貴様がホビットなどにとらわれおった為に村はあのような有り様じゃ」
宣教師「……」
司祭「大臣に報告してみたが、やはり村ごと無かった事にしようと考えておる」
宣教師「村を焼き払うのですか…!」
司祭「うむ。臭いものにフタでもないが、小さな村の一つや二つはおざなりに片付けようというのが王国の粗末なところよな」
アリアス「クスクス…。ほんと、哀れよね。あなたがホビットに情をかけたせいで、大勢の村人が割りを喰うのだし?」
宣教師「…私の責任ではありますが、それとホビットとは話が別です。
どうか大臣を説得させていただけませんか?」
司祭「焦るでないわ。なんとかならぬ訳でもないんじゃぞ?」
宣教師「……」
司祭「ただしお前の心がけ次第じゃがな?」
宣教師「私に出来る事であれば…!」
司祭「殊勝なものよな。ならば王国に行く気はあるか?」
宣教師「王国…ですか?」
司祭「大臣がお前を連れていきたいと申し出ておる。無論、お前が良ければの話じゃがな?」
宣教師「大臣…!?」ゾワッ
アリアス「ありがたい話だと思わない?平民の生まれで…その上、孤児だったあなたが王国の土を踏めるのだから?」
宣教師「…で、ですが大臣に同行して何を…?」
司祭「知らんわい。まぁ…想像はつくがな」
アリアス「付いていく際に宣教師の位は剥奪されるけれど安心していいのよ。
あなた一人いなくなったところで我が教団に影響はないわ」
宣教師「…教徒をやめろと…!?」
アリアス「えぇ。どのみち位も必要なくなるでしょうし…」
宣教師「……!」ギリッ
906:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 18:43:21 ID:W53Y4Ns4ZQ
宣教師「要は…私を追い出したいのでしょう?」
司祭「何を言うとるんじゃ?」
宣教師「…昨晩は私も同じ席に着いてました。あの夜の話は覚えています」
司祭「ほほほ…。そういえばそうじゃったのう?」
宣教師「」キッ
司祭「ふむ…。とぼけてみるのも一興、か。じゃがはっきりと伝えてやるのもまた、親心というものじゃな?」
宣教師「昨晩の話を聞いてしまった私が邪魔になったのでしょう?」
司祭「邪魔になった?く…わっはっは!」
宣教師「…?」
司祭「そうかもしれんなぁ…。しかしお前さん、他にも心当たりがあるのではないか?」
宣教師「」ドキッ
司祭「なにを嗅ぎ回っておった?」
宣教師「(まさか…伝承について調べていたのがこんなにも早く…!)」
司祭「貴様らの不自然な行動をわしが知らぬとでも思うたか?」
宣教師「そ、それは…」
司祭「企みは読めんが、おそらく出し抜こうとでも考えておったのじゃろうが?」
宣教師「は…?出し抜く…?」
司祭「とぼけるのも大概にせい!」
宣教師「なにを言って……」
司祭「残念じゃ。残念でならんよ…。
お前には幸せをくれてやるつもりじゃった…。それがこのような結果になるとはな!」
宣教師「お、落ち着いてください!おっしゃってる意味が分かりません!」アセアセ
司祭「ふん…よくもまぁぬけぬけと……」
宣教師「…せめて一から説明してください。一方的で何も伝わりません」
907:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 18:52:00 ID:4FFRlwruXo
司祭「しらばっくれると言うなら、それもよかろうな?
ならば一つ、確かめておくとしよう…」
宣教師「ですから…何も隠してなどいません!」
アリアス「立食パーティーの時にジョーと神父から伺ったのだけれど、書斎でホビットについて調べていたそうね?」
宣教師「……!」
司祭「ホビットと決別すると誓ったお前がなにゆえ、そのような行動に出たのじゃ…?」
宣教師「そ、それは…」
司祭「…貴様、やはり何か知っておるな?」
宣教師「ご、誤解です…。私は何も知りません…」
司祭「これ以上は無駄じゃな…。核心に迫るとしようかのう?」
宣教師「っ…!」
司祭「貴様の目的は癒しの力であろうが?」
宣教師「…?ち、違いますよ?」キョトン
司祭「ただの情であそこまで執着するなどおかしいとは思っとったが…」
宣教師「だ、だから違いますって…」
司祭「察しの通りじゃよ。伝承などまやかしに過ぎぬ。そして…癒しの力とは人間を癒す為の力ではない」
宣教師「」ピクッ
司祭「貴様もアピシナの大樹を狙っておったとはな?小賢しい娘に育ったものよ?」
宣教師「(アピシナの樹…!確かカロルくんのお母さまが言っていたおとぎ話の…!?)」
司祭「お前がなにより大切じゃったよ。幸せにしてやりたかった…。
しかしいくらなんでも踏み込み過ぎたな?アレはわしの物じゃ…!」
宣教師「("わしの物"?大樹が"アピシナの樹"?"癒しの力"?)」
宣教師「(ダメ…ですね。頭が追い付きません…!)」
司祭「たとえお前でも…渡さんぞ。癒しの力を大樹に注ぐのは、このわしじゃ…!」
宣教師「癒しの力を…大樹に注ぐ…?」
司祭「これでも、まだ知らぬ存ぜぬを通すか?往生際の悪い奴めが…」
宣教師「(もしかしたら今の言葉が全てに繋がるのでは…!?)」
908:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 18:58:18 ID:W53Y4Ns4ZQ
アリアス「大臣は今夜にもここを発つわ。あなたを連れて、ね?」ニコッ
宣教師「お待ちください!私は本当に何も…!」
司祭「……アリアス」
アリアス「かしこまりました」ズイッ
宣教師「な、なにを……」
アリアス「…寂しがらなくてもいいのよ?」ボソリ
宣教師「……?」
アリアス「あなただけじゃない。あなたに協力してた二人も同様に報いを受けるわ?」ガシッ
宣教師「なっ…どういう…!」
アリアス「」グイッ ブンッ
宣教師「!?」フワッ
宣教師「(か、体が浮い…)」
ダンッ!!
宣教師「っ!」ズシン
アリアス「軽いのね…。若いのに粗食は良くないわよ?」パンッパンッ
宣教師「あっ…う…」プルプル
宣教師「」ガクッ
宣教師「」ピクッピクッ
司祭「さて…大臣に引き渡すとするかの?」
アリアス「かしこまりました」ガシッ
宣教師「」ズルズル
司祭「………」
司祭「……」
909:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 19:00:45 ID:W53Y4Ns4ZQ
―――大聖堂(地下牢)―――
カツンカツン カツンカツン
ジョー「…宣教師さんにああ言ってみたものの、どうにか助けられねぇもんかな?」カツンカツン
???「よう…待ってたぜ?」
ジョー「ん?えっ…あ、あぁ…!?」ビクッ
ダガ「ふ…仕事しなきゃなぁ…?なんせ罪人が檻の外にいるんだ…?」ニヤァ
ジョー「お、お前…どうして…!?」
ダガ「てめぇが留守の間にアリアスが出してくれたのさ…。
たかが見張りとはいえ…怠けるもんじゃねぇなぁ?」ニヤニヤ
ジョー「(な、なんだと…!あのおばさん、なに考えてんだ!?)」
ダガ「お楽しみの邪魔をしてくれるわ…猿轡を噛ますわ…てめぇにはさんざん世話になったよなぁ?」ポキポキ
ジョー「あう…あぁ…!」ガタガタ
ダガ「クックック!」ジリ…ジリ…
ジョー「(そういやマリーさんは…!?)」キョロキョロ
ダガ「どうした?なんか探しもんか?」
ジョー「あんた…マリーさんをどうしやがった!?」
ダガ「…クックック!てめぇが知る必要のねぇ事さ?
そんなことより…今は自分の身を心配したらどうだ?」グイッ
ジョー「うっ…くっ!」ググッ
ジョー「(な、何がどうなってやがる…!まさか伝承を暴いたのがバレたのか…!?)」ジタバタ
910:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 19:03:47 ID:W53Y4Ns4ZQ
―――大聖堂(大部屋)―――
神父「うぅ…ぎもぢわるい…」グッタリ
神父2「大丈夫か?」サスサス
神父「…す、すまん…」
コンコン コンコン
神父2「入っていいぞ」
神父「(む…?また見張りのバカか?こっちは体調が悪いと言うのに…!)」
ガチャッ
ダガ「邪魔するぜ…」ズカズカ
神父「えっ」
神父2「だ、ダガ様…牢に入れられてた筈じゃ…!?」
ダガ「」スタスタ
神父2「な、何を…」アセアセ
ダガ「てめぇに用はねぇ…よっ!!」ボゴッ
神父2「うげふっ!?」ガタァァァン
神父「え…?え…?」メダパニ
ダガ「ふ…鈍った体もだいぶほぐれてきたぜ。宣教師に協力してた神父ってのはてめぇだな?」ギロッ
神父「ひっ!?」ズザザッ
ダガ「聞きてぇことが山ほどあるそうだ…。とりあえず洗いざらい吐いてもらおうか?」ポキポキ
神父「ひ、ヒィィィィイイィィ!!?」
911:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/10(木) 21:31:47 ID:2vgJI.yb2c
―――大聖堂(東門)―――
大臣「娘は慎重に運ぶんだぞ!絶対に傷を付けるな!」
兵士1「はっ!」
兵士2「はっ!」
大臣「いやぁ…まさか本当に頂けるとは思ってもみませんでしたぞ!」
司祭「遠慮は入りませんぞ。どうぞ自由に扱ってくだされ?」
大臣「ぐふふ…!それはそれはありがたい。では遠慮なく!」ニシシシシ
司祭「そちらの求める物は差し出したのです。こちらの要件もどうか重んじていただきたい」
大臣「もちろんですともぉ〜?色好い返事をお待ちください…?」ニヤニヤ
司祭「(当たり前じゃ…。ここまでして音沙汰無しでは済ませられんぞ、豚め!)」
912:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/10(木) 21:35:33 ID:tx11JOcd52
アリアス「旅の疲れも抜け切れておられないかと存じますが…。
どうかお身体を気遣ってお帰りになられますようお願い申し上げます」ペコリ
バルガン「フッ!芸術的感性を膨らませるには悪くない場所だった。折が合えばまた立ち寄らせてもらおう」
アリアス「心よりお待ちしております」
バルガン「大臣が運ばせている…あの娘はなんだ?」
アリアス「あぁ。元は我が教団の教徒だったのですが…邪教に通じていたと分かりまして王国に裁きを願いました」
バルガン「薄布一枚被せたところで話は読めている。大臣への"土産"だろう?」
アリアス「…恐れ入ります」
バルガン「フッ!好きだなぁ、あの方も…昔からそうだが…」
アリアス「…事情に通じているのでしたら目を瞑っていただきたく存じます」
バルガン「なに…。どうという事もない。また哀れな女が増えた。それだけの話だ」
アリアス「?」
バルガン「あの方は狩猟を盛んに行っていてな。
我が屋敷に訪れては狩った獲物を自慢気に見せびらかしていたよ…」
アリアス「立場上、当然の嗜みではございませんか…?」
バルガン「そうとも言えんなぁ。なにせ芸術家である父上を頼り、それらを剥製にするのが趣味だったのだから…」
アリアス「別段、不自然とも思えませんが…」
バルガン「フッ…。あの方はな。狩猟を好まれてる訳ではない。剥製が好きなんだ」
アリアス「はぁ……?」
バルガン「今まで手を付けた女もな…。皆、キレイな姿のまま…大臣の屋敷に飾られているんだ」
アリアス「」ゾクッ
バルガン「いい表情だ…。創作意欲がそそられる…。その表情を土産に帰路に着くとしよう」
アリアス「(…ほんと、王国の人間は悪趣味ね…)」
913:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/10(木) 21:40:52 ID:2vgJI.yb2c
アントリア「短い間だったが濃密な時間を過ごせた。感謝するよ」
司祭「……」
アントリア「辛い選択をさせてしまったかな?君の為と考えていたんだが…」
司祭「…気にするでないわ。決断したのは、このわしじゃ」
アントリア「すまない…。だが君のもたらした犠牲は必ず先に通じるはずだ」
司祭「分かっておる。お前の言うように宣教師がわしらの目論見を読んで動いていたとするならば…全ての辻褄が合うからのう」
アントリア「昨晩、彼女と言葉を交わした時には驚かされた。
彼女の鋭い洞察力…。寒気すらしたよ」
司祭「ふむ…」
アントリア「そしてアリアス君に話を聞いて確信を得た。彼女はホビットではなく、癒しの力を狙っていたのだとね」
司祭「大臣に忍び寄ったのも…わしらの密談を聞くのに不自然でない状況を作る為という訳か」
アントリア「さぁ…?事実はどうあれ、可能性があるのなら排除しておくべきだと思ったのだよ」
司祭「…そうじゃな」
アントリア「…次に会うのは互いの念願を果たす時だ。今ですら君との再会が待ち遠しいよ、ノワール」
司祭「分かっておるよ、アントリア。もはや邪魔者はおらん」
アントリア「クックッ…実に楽しみだ。ではまた会う日まで」
司祭「うむ…」
914:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:36:36 ID:qcweGJ7Au2
―――大聖堂(地下牢)―――
「おい!起きろ!起きんか!?」
ジョー「……ん…」パチッ
ジョー「ぅん…んぅぅ……あたた…!」ズキズキ
ジョー「うおっ!なんだ、こりゃ!?動けねぇぞ!?」ギシギシ
神父「やっと起きたか!」
ジョー「…おっさん?あんた二日酔いで寝込んでたんじゃねぇのか?」
神父「知るか!突然ダガ様に襲われて連れてこられたかと思えば、このザマだ!」
ジョー「あぁ…あんたもか」
神父「それにしても…その顔はどうしたのだ?
もともと目も当てられんような顔が腫れ上がって更にひどい事になってるぞ?」
ジョー「うるせぇ!ダガの筋肉親父にやられたんだよ!」
神父「…一体どういう事だ?なぜあの方が牢を抜け出して……」
ジョー「抜け出したんじゃねーよ。アリアスが出したんだ」
神父「アリアス様が?」
ジョー「俺もよく知らねぇけどダガがそう言ってたんだよ」
神父「や、やはり色々調べ回っていたのがまずかったのだろうか?」アセアセ
ジョー「さぁな?それより他に誰かいないのか?」
神父「知らんぞ?ここには貴様と私だけしかおらん」
ジョー「…どうなってやがる」
915:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:38:12 ID:m1j4TaAkkU
カツンカツン カツンカツン
神父「だ、誰か来たぞ…?」ビクビク
ジョー「みてぇだな…」
アリアス「あら、ここにいたのね。探したのよ?」
ジョー「やっぱりあんたの差し金か…。白々しい小芝居打ってんじゃねぇよ、おばさん」
アリアス「…そんな所にいないであなたもいらっしゃい?」
ナラ「」トテトテ
ジョー「(あ、あの子は…!?)」
アリアス「ここで見ているのよ?」
ナラ「……」
神父「む?なぜナラが…?」
ジョー「知ってんのか?」
神父「私が教えていた修道子の一人だ。不出来な上に無愛想なので、あまり直接関わる事はしなかったがな」
カツンカツン カツンカツン
ジョー「(まだ誰か来るのか?)」
アリアス「……」ペコリ
ダガ「…こちらになります」スタスタ
司祭「うむ」スタスタ
神父「し、し…司祭様ぁぁぁぁ!?」
ジョー「(おいおい…いよいよただ事じゃなくなってきたな…!)」
916:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:41:00 ID:m1j4TaAkkU
アリアス「さぁて…何から聞きましょうか?」
ジョー「…なんの事だ?」
アリアス「とぼけても無駄よ?
宣教師に協力して調べていたのでしょう?」
神父「(や、やはりその件か…。あぁこんな事なら小僧の頼みなど聞いてやるんじゃなかった!)」
ジョー「知らないな。俺達はホビットについて調べてただけだ」
ダガ「てめぇら…素直に吐く気がねぇなら俺と遊んでみるか?」コキッコキッ
神父「ひぃぃ」ビクビク
司祭「ほっほっほ。そう脅してやるな?嘘は申しておらんよ」
ダガ「はっ…失礼しました」ペコリ
司祭「ホビットについて調べておったのじゃろう?何か手掛かりは得れたか?」
神父「め、滅相も…分からぬ事ばかりで…はい!」オロオロ
司祭「別に責めている訳ではないのじゃよ。
お前たちの知っている事を話してくれれば、それでよい」
ジョー「こんな真似しておいてよく言うぜ…」ボソッ
アリアス「口を慎みなさい?」
ダガ「ふ…。てめぇの立場が分からねぇようだな?」
神父「あ…いや…あの…こいつも悪気があって言っているのでは…」アセアセ
ジョー「あんたら、宣教師さんをどうした?」
神父「バ、バカモンッ!だだ黙ってろ!!」アタフタ
司祭「…宣教師、か。ふん…」
917:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:42:32 ID:m1j4TaAkkU
司祭「奴なら既にここにはおらんよ」
ジョー「なに!?どういう事だ!?」
アリアス「先ほど王国に引き渡したわ?」ニコリ
ジョー「んなっ…!なんだとぉ!?」ガバッ ギシギシ
神父「(ば、馬鹿な…!あれほど過保護に扱っていた宣教師を…)」
司祭「……」
神父「(司祭様は本気ということか…!?)」
ダガ「ふ…しかしてめぇらは運がいい」
ジョー「…なにぃ?」ジロッ
ダガ「今の内に喋ればこれまで通り、教団の人間として長生き出来るんだからなぁ?」
神父「そ、それは本当ですか!?」ギシギシ
司祭「うむ…。お前さん程の男を失うのは惜しいからのう?」
神父「し、司祭様…!」
ジョー「騙されんな、おっさん!こいつらが本気でそんなん言う訳ねーだろ!?」
神父「し、しかしだな…」
ジョー「よーく考えろ!あんたなんかを失ったとこで痛くも痒くもねぇに決まってんだろ!?」
神父「な、にゃにをうっ!貴様ぁぁ!!」
司祭「…神父よ、そやつに構うな。わしの言葉が信じられんのか?」
神父「は、はいっ!包み隠さず申し上げます!」
ジョー「おっさん!」
アリアス「ダガ…?」カチャカチャ ガチャッ
ダガ「おう、任せとけ…」ズイッ
ジョー「な、なんだよ?」ギシギシ
ダガ「おとなしくしてろよ…」グワシッ
ジョー「……!?」モガモガ
ジョー「(あ、顎が…!なんつー握力だよ…!)」ググッ
918:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:47:01 ID:m1j4TaAkkU
神父「……という訳です」
司祭「ふむ…やはり色々知っていたようじゃな」
アリアス「癒しの力の使い道までは辿り着いていないようですが…」
司祭「…こやつらは利用されとったのじゃろう。秘密を共有する事で協力せざるを得ん状況を作ったに違いない」
アリアス「なるほど、あくまで独占するつもりだったのですね。したたかな娘…」
神父「…わ、私はあくまでも巻き込まれただけなのです!」
アリアス「ダガ?」
ダガ「あぁ…」パッ
ジョー「う……」ゲホッゲホッ
ダガ「」ガシッ
神父「…あ、頭など掴んで何を?」キョトン
ダガ「教えてやるよ…」グッ
神父「は……」
ゴキィッ
神父「」プラーン
ナラ「……!」
ダガ「ふ…いい音がしたなぁ?」ニヤリ
ジョー「あ、あんた…何してんだっ!?」ギョギョッ
ダガ「」ガシッ
ジョー「ひっ…や、やめ…」ジタバタ
アリアス「待って」
ダガ「あぁ?」
919:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 22:01:38 ID:m1j4TaAkkU
アリアス「あなた…最期に何か言い残したい事はある?」
ジョー「え…?」ブルブル
アリアス「」クスリ
ジョー「(くそっ…!こいつ、笑いやがった!俺が泣きわめいて命乞いするとでも思ってんだな!?)」
アリアス「どうしたの?恐怖に凍って言葉が出ないのかしら?」
ジョー「(冷血オバタリアンが…!こうなりゃヤケだ!)」
ジョー「…し、司祭様!」
司祭「なんじゃ?」
ジョー「どうせだったら教えてくれよ!あんたらの目的はなんだったんだ!?」
司祭「……」
ジョー「俺達は何も知らねぇのに、ただ死ねなんて都合が良すぎるだろ!?」
司祭「ふむ…。それもそうじゃな?」
司祭「いいじゃろう。あの世に着いたら神父にも教えてやるがいい?」
ジョー「……!」
司祭「枯れた大樹を再び蘇らせ、実を付ける…。それがわしの目的じゃよ」
ジョー「枯れた大樹を蘇らせるだと?」
司祭「伝承にある大樹とはアピシナの樹と言ってな…。かつてホビットが育てていた物なのじゃよ」
ジョー「(…おとぎ話じゃなかったのかよ)」
司祭「奴らがその樹をどのようにして天高くまで聳えさせたと思う?」
ジョー「俺に分かる訳ねぇだろ。作物は育てても樹なんか世話した事もねぇんだ」
司祭「癒しの力じゃよ。癒しの力を樹に注ぐ事で大樹にまで成長させたのじゃ」
ジョー「……!」
司祭「力をたっぷりと注がれた樹から成る実は…素晴らしく潤った癒しの力そのものよ」
司祭「その実をかじればたちまちの内に傷は癒え、大病を患い濁った体をも浄化する…。
老いて萎れても実の効能に掛かればあっという間に若返るそうな……」
司祭「そして極限まで力の染み込んだ実は…永遠の命をもたらすとまで言われておる」
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【うpろだ】
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