むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
935:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:36:26 ID:2.YmjrSCgk
―――ルーボイの部屋―――
ルーボイ「……母ちゃん?」
死体「」
ルーボイ「母ちゃん…なの?」ヒシッ
死体「」
ルーボイ「……」ギュッ
ルーボイ「なんだよ…なんなんだよ…!」ギュゥゥゥ
ルーボイ「なんでみんな…いなくなんだよぉ…!」ポロポロ
ルーボイ「あぁぁ…う…あぁぁぁ!」ポロポロ
『あいつのせいさ?』
ルーボイ「えっ」バッ
ルーボイ「(だ、誰も…いない)」キョロキョロ
『何度でも言うよ〜?あいつが悪いのさ?』
ルーボイ「あ、あ…!た、旅人の…!?し、死んだんじゃ……」
『あいつが来たから全部おかしくなったんだよ!』
ルーボイ「ぱ、パッチ…!?」
『あんたはほんとにしょうがないね!さんざんホビットと関わるなって口酸っぱく言ってきただろ!』
ルーボイ「か、母ちゃん!!」ガバッ
死体「」
ルーボイ「母…ちゃん?」
ボォォォォオ
936:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:41:33 ID:2.YmjrSCgk
『はい、ここで問題。あいつってだーれだ?』
ルーボイ「(なんだよ、これ…わけわかんねぇよ)」
『決まってるでしょ?あいつはあいつさ!』
ルーボイ「…うるせぇ」
『あたし達を不幸にしたあいつよ!』
ルーボイ「やめろよ!俺にどうしろって言うんだよ…!」
『おやまぁ〜?これだけヒントを出してもピンとこないかね?』
『ホントは気付いてるクセに』
『あいつが来るまで村もみんなも平和だった!あたしらもあんたもあいつに貶められたんだ!』
ルーボイ「やだよ…。やめろよ…聞きたくない!」ブンブン
『残念!それが出来ないんだなぁ〜?なんせ、この声はルーボイくん、君の意思だからねぇ?』
『君が自分で言えないから、ボクらが代わりに言ってあげてるんだよ』
『元はと言えばあんたがあいつを友達だなんて言い出したから!』
ルーボイ「わりぃかよ!あいつは俺の友達だ!」
『ところがどっこい、君の心の奥の奥の本当の所を除いてみると〜?あら不思議、大事な友達を否定してました〜?』
ルーボイ「ちがあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ブンブン
937:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:44:17 ID:2.YmjrSCgk
『許せないとは思わないか?いや、思うからこそ君には聴こえるんだろう?』
『あいつを受け入れたのはルーボイくんだもんね?』
『自分勝手だね!あんたもあいつも!目の前のあたしの顔を見てごらん!?』
死体「」ズルッ ボトッ
ルーボイ「ひいっ!」パッ
『あいつとあんたがあたしをこんな目に合わせた!』
ゴォォォォオ
ルーボイ「ひっ…火が…!」
『おっとっと、早く逃げないと大変だぁ〜?』
『逃げて。それで…ボクらの恨みを晴らしてよ?』
『あんたはやればできる子だから、分かってくれるでしょう?』
ルーボイ「」ガタガタ
ルーボイ「(全部…俺が悪いのかよ…)」ブルブル
『違う。悪いのはあいつさ』
『あいつがいけないんだ!』
『あいつがいなかったら!』
ルーボイ「…お、おれ」
『蔑むんだ?君が俺にしたようにねぇ?』
『怒ってよ。君がボクにしたみたいに』
『あいつの話なんか聞くんじゃないよ。あんたはあたしにそうしたんだから!』
ルーボイ「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」
ガラガラガラッ!! ボォォォォオォォ!!!
938:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:49:47 ID:2.YmjrSCgk
―――教会―――
ルーボイ「うわあぁぁぁぁぁ!?」ガバッ
カロル「ルーボイくん!」ダキッ
ルーボイ「うおっ…ちょ!」ビックリ
カロル「よかった…!ホントによかった!」ギュゥゥゥ
ルーボイ「……!?」
母「気が付いたのね?あなた、三日も寝てたのよ?」
ルーボイ「ど、どこ…?」
母「ここは教会よ。宣教師様もいるわ?」
ルーボイ「えっ!?」バッ
カロル「ほら、そこにいるよ?」
宣教師「久しぶりですね。ルーボイくん?」ニコッ
ルーボイ「せ、宣教師様…宣教師様ぁぁ!!」ダキッ
宣教師「…よしよし、怖かったでしょう?もう何も心配は入りませんからね?」ナデナデ
カロル「すごい火傷してたんだよ?ボク心配したんだから?」
母「ルーボイくん…ここで一緒に静かに暮らしましょ?」ニコリ
ルーボイ「え……」
宣教師「それは名案ですね?そうすればもう悪い夢にうなされずに済みますよ」
マルク「わんっ」シッポフリフリ
ルーボイ「お、おれ…」モジモジ
カロル「ボクたち家族になるんだよ!」
ルーボイ「……!」
ルーボイ「おれ…おれ…みんなといたい。家族に…なりたい!」
カロル「えへへ!これからはずーっと一緒だよ?」ニコニコ
ルーボイ「うん…うん!ずーっと…ずーっと一緒にいような!」パァァ
………………
939:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 08:31:13 ID:lBZMgJx./k
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「よしよし」ナデナデ
マルク「クゥーン」シッポフリフリ
カロル「ごめんね、毛繕いしてあげたいけど櫛が無いんだ?」ナデナデ
マルク「」スリスリ
カロル「…ふふ。こうしてると3人で暮らしてた頃を思い出すね」ナデナデ
マルク「……」シュン
カロル「…そんな顔しないで?」
マルク「くぅん」
カロル「後悔なんてしてないよ。
宣教師さまにルーボイくんとパッチくん、ラムくんにナラ…みんな大切な出会いだったから」ニコッ
マルク「」クイッ クイッ
カロル「うん、そうだね。マルクは一番の親友だよ?」ニコニコ
マルク「あんっ!」ニコリ
940:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 08:34:38 ID:3wYAsB3RjM
ガチャッ
カロル「おはよう」ニコッ
ナラ「……」
カロル「…どうしたの?」
ナラ「なんでも…ない」
カロル「顔が真っ青だよ?何かあったんじゃ…」
ナラ「へ、へいき…それより、あさごはん…もってきたよ?」コトッ
カロル「……」ジーッ
ナラ「な、なに…?」
カロル「やっぱり休んだ方がいいよ。ボクのことは気にしないで?」
ナラ「…へ、へいき。わたしはふつうだよ」アセアセ
カロル「じゃあ気休めかもしれないけど…」ナデナデ
ナラ「……!」フワッ
ナラ「え…あ…」
カロル「はい、少しは楽になったかな?」パッ
ナラ「う、うん…。あたま…なでられたら、からだがかるくなった…よ!」スッキリ
カロル「ふふ。よかった!」ニコニコ
ナラ「いまの…いやしのちから、なの?」
カロル「そうみたい?結構、便利な力だね?」ニコニコ
ナラ「う、うん…そうだね」プイッ
941:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 08:56:37 ID:3wYAsB3RjM
〜〜〜1週間後〜〜〜
―――大聖堂(礼拝堂)―――
ワイワイガヤガヤ
司祭「…そろそろ始めるとするかの」
アリアス「はい。すでに皆集まっています」
司祭「ふむ…。皆の者、早朝からご苦労じゃの」
全教徒「」シャキッ ペコッ
司祭「…また今日という1日を授かった幸運に感謝し、祈りを捧げよう」ギュッ
アリアス「黙祷!」ギュッ
全教徒「」ギュッ
シーン
司祭「……では解散してよいぞ」パッ
アリアス「解散!」パッパッ
ワイワイガヤガヤ
司祭「ふぅ…しかし何十年続けても疲れるわい。宗教の真似事というのは」
アリアス「お察しします。ですがそれも今しばらくのご辛抱ですわ?」
司祭「それもそうじゃが…まぁよいわ。小僧はどうしとる?」
アリアス「ご安心を。うまく管理してあります」
司祭「そうか…。王国から返事は来たか?」
アリアス「えぇ。明日にも迎えの馬車が来るそうですよ」
司祭「ふむ…ようやくか。待たせおってからに…」
アリアス「例の母親はどうします?連れていきますか?」
司祭「…どうしておる?」
アリアス「体調が悪化していたのでシスター達に看させて安静にしてありますが」
司祭「では連れていくとするかの。いざという時の切り札になろうて」
アリアス「かしこまりました」ペコリ
942:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 14:59:47 ID:sEfoXHz.V2
―――夢(ラム)―――
村人「ようこそ、旅のお方。ここは平和なアルの村です」
旅人「ちっぽけで何もない、ナイの村の間違いじゃないのかね?」
村人「ご冗談を。ちっぽけで何もないつまらなさこそがアルの村の財産なのです」
旅人「なるほど、平和な訳だ?」
村人「アルの村はおおらかです。歓迎しましょう。旅のお方」
旅人「それはどうも?」
村人「どうか私の家に来てください。外の人間の話が聞きたいのです」
旅人「見ず知らずの人間を招いていいのかね?ご家族が困るんじゃないか?」
村人「お気になさらず。私の家内は気さくです。
あなたが来ればカボチャのスープを暖めて迎えてくれる事でしょう」
旅人「ありがたいね。空腹を連れて旅をするのにも嫌気が差してたとこだ」
村人「それに私の娘はとても素直です。あなたの来訪に喜び、シュルグの花を摘みに行く事でしょう」
旅人「居心地が良さそうでなによりだ。俺の話が宿賃になるんなら何日でも聞かせよう」
村人「とても楽しみです」
943:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:03:36 ID:sEfoXHz.V2
旅人「素晴らしいもてなしだ。暖かいスープをたらふくいただいたおかげか、生き返った心地だよ?」
村人の妻「お気に召してもらえたようで良かった」ニコニコ
旅人「こんな美味しい手料理を毎日食べられるのだからご主人は幸せ者だねぇ」
村人「自慢の家内です」ニコニコ
ガチャッ
少女「ただいまー!」
村人の妻「おかえりなさい。今日はお客様がお見えになってるわよ」
少女「ほんと!?それなら野原に行ってお花を摘んでこなくちゃ!」
旅人「おやおや、かわいらしい娘さんだ?」
少女「こんにちは。旅のお方!今から花を摘んでくるから待っててね!」ガチャッ
旅人「せっかくだが花はまた今度受け取ろうか。帰ってきたばかりなんだからお嬢ちゃんも一緒に夕飯を食べよう?」
少女「はーい!じゃあ花は明日摘んでくるわね?」
村人の妻「さぁさ、手を洗って、おいしいスープをいただきましょう」
旅人「聞いてた通り、素直なお嬢ちゃんですな?」
村人「自慢の娘です」ニコニコ
944:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:05:49 ID:sEfoXHz.V2
少女「今日はみんなと石をぶつけて遊んだよ!」
村人の妻「またあの子に近付いたの?ダメだと言ってるのに!」
村人「えらいな!」ナデナデ
少女「うふふ」ニコニコ
村人の妻「あなたがそうやって甘やかすから…」
村人「悪いことをしてないなら叱る理由もないだろ」
少女「明日はなにして遊ぼっかな」
旅人「あぁ〜。俺の聞き間違いかな?すごく違和感を覚えるんだが?」
村人「なぜ違和感を覚えるのです?」
旅人「平和な村にあるまじき会話としか思えないね。誰かをいじめる内容にしか聞こえないんだ」
村人「アルの村ではごく普通の平和な日常です」
旅人「あぁ…じゃあこうしよう?たとえば俺がお嬢ちゃんの髪を引っ張ったらどうするね?」
村人の妻「まぁひどい!」
少女「」ビクビク
村人「旅のお方!ここは平和なアルの村!乱暴はいけません!」
旅人「(なに言ってんだ、こいつら)」
945:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:07:55 ID:sEfoXHz.V2
村人の妻「旅のお方の為に部屋を用意しました。今晩はここで休んでください」
旅人「…俺にはもったいない部屋だ。恩に切るよ」
村人の妻「いえいえ、おやすみなさい。どうかよい夢を見られますよう」バタンッ
旅人「……」
旅人「」ボスンッ
旅人「ふぅ…こんなばか正直な村に出会えて幸運だったな。今夜はよく眠れそうだ」ゴロン
旅人「(…しかし変わってるな。口調もそうだが何より…)」
旅人「あの会話はなんだったんだろうねぇ?まったく不思議な連中だ」
旅人「」ゴロゴロ
旅人「ふぅ…」
旅人「少し散歩でもしてみるか」スクッ
946:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:09:59 ID:5VD59INVTw
旅人「」スタスタ
旅人「何もないねぇ。灯りもないし視界も悪い。
酒場の一つもあればと思ったが…こんな村に期待した俺がバカだったか」スタスタ
旅人「…おんやぁ〜?」チラッ
???「」ザッザッ
旅人「坊や」
???「」ビクッ
旅人「こんな夜更けに何をしてるんだい?お子さまはおねんねする時間だろう?」
???「……」
旅人「おやぁ?これは砂で作った洞穴かなぁ?」ジロジロ
???「……!」バッ
旅人「隠さなくたっていいじゃないか?
よく出来てる。あとは水を汲んで流せば完璧だ」
???「う、うるさい!僕にかまうなっ…!」
旅人「なんだ、喋れるんじゃないか?
声を出さないもんだから言葉を知らないんだと思ったよ」
???「……」プイッ
旅人「ひねくれたガキだなぁ?今からそんなんじゃ将来が不安だ」ヤレヤレ
???「あっち行ってよ。僕に用なんかないだろ!」
旅人「用ならあるさ?なんでこんな夜更けに一人で砂遊びなんかしてるか聞かなきゃならないからねぇ?」ニヤニヤ
???「……!」カァァァ
947:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:11:26 ID:sEfoXHz.V2
旅人「ほらほら、恥ずかしがらずに言ってごらん?おじさん笑わないから?」ニヤニヤ
???「関係ないだろ…。それにもう笑ってる」
旅人「おっと、これは失敬。なんだか滑稽でね」ププッ
???「笑いたかったら笑えばいいよ。僕は夜にしか遊べないんだ」
旅人「ははーん!道理で背が伸びない訳だ?」
???「うるさいっ…!」
旅人「なんで夜に限定する?お日さまの光は嫌いかね?」
???「お日さまはキライじゃない…。でも村のみんなはキライだ…」
旅人「友達がいないのかい?おじさんが友達になってあげようか?」ニヤニヤ
???「……」
旅人「なぁボクちゃん?そろそろこっちを向いてくれてもいいだろ?」
???「やだ…」プイッ
旅人「向かぬなら向かせてみせようホトトギス」ガシッ
???「えっ」グリンッ
旅人「はーい、目が合った!これでおじさんと坊やは仲良しだ!」
???「は、離してよ!」ジタバタ
旅人「ダメだよぉ〜?離したら君は逃げるだろう?」ググッ
???「当たり前だろ…!いいから離して…!」
旅人「力一杯抵抗していいよー!おじさんはね、抗う子供を従わせるのが大好きなんだ…!」
???「」ゾクッ
948:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:13:05 ID:sEfoXHz.V2
旅人「なんてね」パッ
???「わっ」ドサッ
旅人「…ま、君に友達がいない理由はよく分かったよ」
???「……」
旅人「目は口ほどに物を言うなんてことわざがあるが、ここまで分かりやすい例はないだろうねぇ」
???「……」
旅人「なぁ?ホビットのボクちゃん?」ジロッ
???「ひっ…!」ビクビク
旅人「安心しなよ?おじさんは君の味方さ」
???「へ…?」
旅人「かわいそうにねぇ…。本当にせちがらい世の中だよ」
???「……」
旅人「それもこれも教団がいいように差別を促すからだ。人のエゴは目に見える形で犠牲を強いてる」
???「…おじさんだって人間じゃないか」
旅人「あぁ、おじさんは人間だとも?勝手気ままに旅して回る自由人さ?」
???「おじさんも僕が嫌いなんだろ…」
旅人「あらま?さっき言ったの聞いてなかった?おじさんは君の味方だよ?」
???「うそだっ…!」
旅人「俺は嘘を付いた事が無くてね、それだけが寂しい人生の中で唯一の誇りなんだ?」
???「うさんくさいよ…さっきからずっと」
旅人「心外だなぁ?信じてみなきゃ始まらんよ?」
???「……」
949:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:15:06 ID:5VD59INVTw
旅人「ま、なんにしてもお家にお帰りよ?ご家族も心配してるだろう?」
???「…わかった」スクッ
旅人「よしよし、いい子だ」ワシャワシャ
???「な、なにするの!?やめてよ!?」クシャクシャ
旅人「照れ屋さんだなぁ〜?もっと素直に喜んでいいんだぞ?」ニヤニヤ
???「う、うるさい!」プンスカ
旅人「元気でなによりだ」ニヤニヤ
???「……!」スタスタ
旅人「」スタスタ
???「なんで付いてくんのさ!?」バッ
旅人「おいおい、ボクちゃん?こんな暗がりの中を子供一人で歩かせる訳にはいかないだろう?」
???「子供扱いするな!それに僕はボクちゃんじゃない!」
旅人「だったらなんて呼べばいい?」
???「」ボソリ
旅人「ん?聞こえないなぁ?」
???「ラム…」
旅人「…ラム、ねぇ?OK、それじゃおじさんの事はワルドって呼んでくれ」
ラム「……」
950:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:16:17 ID:5VD59INVTw
旅人「ここがラムの家か?ウサギ小屋かと思ったよ」キョロキョロ
ラム「じゃあ帰れば?人間はウサギ小屋には入らないだろ?」
旅人「たまにはかわいいウサギちゃんと添い寝するのも悪くはないな」
ラム「気色悪いからやめてよ…」ゾワッ
旅人「さて、お宅拝見といきますか」ガチャッ
ラム「勝手に入るな!」
951:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:20:10 ID:sEfoXHz.V2
旅人「…ふーん。質素な家だねぇ。家具も置かずに生活してるのか?」
ラム「悪かったね、貧乏で」ムスッ
旅人「いやいや、それより家族はもう寝たのかな?」
ラム「いないよ」
旅人「いない?こんな時間に出かけてるのか?」
ラム「…そのままの意味だよ。家族はいないんだ」
旅人「……」
ラム「村人達が…僕の両親を村から追い出したんだ」
旅人「追い出した?」
ラム「ホビットは汚い種族だから村に置いておけないって…」
旅人「君は追い出されなかったのか?」
ラム「僕はまだ小さかったから…。両親がお金を渡して村に預けてくれたんだ」
旅人「なるほど、地獄の沙汰も金次第って言うしねぇ。君の両親は懸命だよ」
ラム「僕は残りたくなんかなかった…!」ググッ
旅人「気持ちは分かるがね。子供を連れてあてのない旅をするのは大変だよ」
ラム「お母さんもお父さんも…僕が邪魔だったから捨てたって言うの?」
旅人「そうじゃない。きっと事情があったのさ」
ラム「事情ってなんだよ!僕より大切な事情だったの!?」
旅人「…両親なりに考えたんじゃないかねぇ。
のたれ死ぬと分かって連れて行った方が幸せか、迫害されると分かって残した方が幸せか…」
ラム「……!」
旅人「…ラムはどう思うね?」
ラム「…僕の幸せを考えるなら、飢えて死んだっていいから一緒に行きたかった!」
旅人「…そうだろうなぁ。難しいよ、親子ってのは」
952:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:25:04 ID:5VD59INVTw
旅人「ま、なんにせよクヨクヨしたって始まらないぞ〜?」
ラム「別にしてない…」
旅人「ふぅ〜」
ラム「なに?そのわざとらしいため息は?」
旅人「分からないか?」
ラム「……?」キョトン
旅人「さっきから君はお客さんに茶の一つも出さないのかね?」
ラム「呼んだつもりはないし、勝手にズカズカ入り込んでくる人間をお客さんとは思えない」
旅人「悲しいなぁ〜?」
ラム「…水でよかったら出してあげてもいいけど」
旅人「水?おいおい、ジョークがうまいじゃないか?」
ラム「村の人間は茶葉も食料も売ってくれないから、雨が降った日には水を溜めてる。それでいいなら出すけど?」
旅人「手厳しいなぁ〜?それじゃ飯はどうしてるんだい?」
ラム「1日に一回、家のドアの前に村人が置いてる」
旅人「なんだ、意外に大事にされてるんだねぇ?」
ラム「そうかな…。僕は地面に落ちてる食べかけの料理を見て、大事にされてると思った事は一度もないよ」
旅人「…こりゃ失敬」
953:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:27:54 ID:5VD59INVTw
旅人「なぁ、ラム君。一つ訪ねてもいいかい?」
ラム「…なに?」
旅人「外の世界に興味はあるかね?」
ラム「ないけど」キッパリ
旅人「…そんなにきっぱり言われるとは思わなんだなぁ」ポリポリ
ラム「…でも、ずっとここにいるなら…外に出てみるのもいいかな」
旅人「素直じゃないねぇ?」クスクス
ラム「…どうしてそんなこと聞くのさ?」
旅人「なぁに、ただの気まぐれだよ?」
ラム「あっそ…」プイッ
旅人「もしラム君さえよかったらおじさんが素晴らしい世界へ案内しようか?」
ラム「素晴らしい世界って?」
旅人「こんな村にいたら味わえない幸せがこの世にはたくさんあるって事さ」
ラム「……」
旅人「どうだい?子供の君ならわくわくしないか?」
ラム「なんで僕に優しくするの?」
旅人「ん?」
954:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:37:46 ID:5VD59INVTw
ラム「僕を騙してからかう気なんだろ?」
旅人「なぜそう言える?おじさんは見ての通り、優しくて頼れる力持ちだよ〜ん?」
ラム「…今日だってそうだった」
旅人「ん〜?」
ラム「みんなから遊ぼうって誘われて…行ったら石を投げられた」
旅人「あぁ…そういえばあの家でそんな話をしてたっけなぁ」ポリポリ
ラム「いつもそうさ…。嘘だって分かってるのに…!」ググッ
旅人「そいつは可哀想に。心から同情するよ」ナデナデ
ラム「それでも信じたくなるんだ…。そんな自分が情けなくて…悔しくて…どうしていいか分からないよ」
旅人「悪循環でしかないなぁ?そんな環境にいたら君はダメになる」
ラム「」ウルウル
旅人「おんやぁ?キレイな瞳に水溜まりが出来てるぞ?」
ラム「大人たちは…汚く濁った黄色い目だってバカにする…」
旅人「そうか?おじさんはそうは思わないがね?」
ラム「そんなの…誰も言ってくれない」
旅人「俺は言うさ?君の瞳は濁っちゃ〜いない!磨いた石ころ程度には輝いてるさ!」
ラム「なにそれ…」クスッ
旅人「」ニヤリ
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