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少年「ボクが世界を変えてみせる」
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1:🎄 名無しさん@読者の声:2012/12/23(日) 21:21:41 ID:apUuk9iOiY
むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。


64:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/25(火) 17:49:04 ID:CrrmOLoToc
宣教師「司祭様はいつ来られたのですか?」

村長の妻「宣教師様が来る20分ほど前です。
お供の方も連れずに一人で」

宣教師「なるほど。珍しいですね」

村長の妻「えぇ。何かあったんじゃないかと心配で、心配で」

宣教師「そうですね…」

村長の妻「取り分け昨日はホビットが村に入り込んだと聞くでしょう?
あたしは災いの前触れなんじゃないかって…」

宣教師「……」

村長の妻「あーやだやだ。
考えただけで身震いしますよ。
村の大人たちが追い出してくれたから良かったものの…。
宣教師様もそう思うでしょう?」

宣教師「……はい。罪深き種族の侵入を許すべきではありません」

村長の妻「そうですよね!
やっぱり司祭様にも報告して……」ペチャクチャ

宣教師「………」ゴクゴク
65:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:28:28 ID:L42.WERUbA
――奥の部屋――
村長「……なんと、そのような事が…」

司祭「ふむ。わしもお告げを聞くまでは信じられなんだが、紛れもない事実だそうだ」

村長「しかし、なぜ今になって…?」

司祭「分からぬ。すべては神の御心にしまわれたまま。
今はお告げに沿って動くほかあるまい」

村長「落ち着いている場合ですか!?
せっかくここまで……」

司祭「やっかましいぃぃい!!!
声を荒げるでないわぁぁぁあ!!!!!」

村長「」ビクッ

司祭「はぁっ…はぁっ…。
とにかく、村人に漏らすでないぞ。よいな?」

村長「は、はい」

司祭「では、わしは本部に戻るでな」ガタッ

村長「は、はぁ…」
66:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:30:02 ID:L42.WERUbA
村長の妻「なにかしら?
司祭様の声だったみたいですけど…」

宣教師「」ドキドキ

村長の妻「宣教師様?」

宣教師「あ、は、はい」ガタッ

村長の妻「大丈夫ですか?」

宣教師「え、えぇ。大丈夫です…」

村長の妻「ティーカップ、落としてますわよ?」

宣教師「へ?も、申し訳ございません!」アタフタ

村長の妻「大きい声でしたもの。驚かれるのも無理ありませんわ?」クスクス

宣教師「い、いえ決してそういうわけでは…」

ガチャッ

宣教師「」ビクッ
67:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:31:12 ID:L42.WERUbA
村長の妻「あら、あなた。
お話は終わったの?」

宣教師「」ホッ

村長「あぁ。もう帰られるそうだ」

司祭「ほっほっほ。早い時間に邪魔して申し訳なかったのう」

宣教師「」ビクッ

村長の妻「いえいえ、構いませんのよ?
こちらこそたいしたおもてなしも出来ずにすみません」

司祭「あぁあぁ。気を遣わんでくだされ。
突然押しかけたわしが悪いのじゃ」

村長の妻「あ、そうだわ!
宣教師様が司祭様にご挨拶したいと言っていらっしゃってますのよ?」

司祭「なんじゃ。来ておったのか?
相も変わらず律儀な奴じゃのう」

宣教師「ははははいぃぃ!!」ガタッ

司祭「」ビクッ
68:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:32:30 ID:FGq0e0WmdU
村長「どうかされましたか?」

宣教師「い、いえ…」

司祭「年寄りを驚かせるんじゃないわい。
なんなんじゃ、お前は」

宣教師「も、申し訳ありません…」

村長の妻「」クスクス

村長「何を笑ってるんだ?」

村長の妻「あぁ。ごめんなさい。なんでもないの」クスクス

宣教師「」カァァ

村長「……?」
69:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:33:49 ID:FGq0e0WmdU
司祭様「まぁよいわ。これ以上、ここにおったら邪魔になる。出るぞい」

宣教師「は、はい!」

村長「では私が外まで送りましょう」

司祭様「構わん。こやつがおるでな」

村長「それもそうですな」

司祭「では行くぞい」

宣教師「はっはい」

村長の妻「またいつでもいらしてくださいね?」

司祭「ほっほっほ。その時は世話になりますぞ」

宣教師「おいしい紅茶をありがとうございました」ペコリ

村長の妻「いえいえ。とんでもないですわ。
またいつでも飲みに来てください」

司祭「失礼するぞい」ガチャッ

宣教師「お邪魔いたしました」ペコリ

バタンッ
70:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:34:53 ID:FGq0e0WmdU
宣教師「司祭様がお一人で来られるなんて珍しいですね」スタスタ

司祭「たいした用ではないわい」スタスタ

宣教師「はぁ。そうですか…」

司祭「布教は進んでおるのか?」

宣教師「はい、子供たちはとても素直ですし
村の方々も前任の神父様の教えの甲斐もあり、神の意思に賛同してくださってます」

司祭「ほっほっほ。それは重畳」

宣教師「恐縮です」

司祭「やはりお前に任せて正解だったわい。
思えば幼い頃から信心深く、聡明な子じゃった」

宣教師「そんな…私など…」

司祭「謙遜するな。わしの目に狂いはなかったという事じゃ」

宣教師「し、司祭様…!」

司祭「これからも感謝を忘れず、布教に励むがよい」

宣教師「はい!司祭様のお言葉に報いる為にも、身命を賭して神のご意志を伝えさせていただきます!」

司祭「ほっほっほ。期待しておるぞ?」
71:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:36:24 ID:FGq0e0WmdU
宣教師「(やはり私は愚かだった…。
たった一度でもホビットに気を許すなど、神の冒涜にほかならない…!)」


司祭「あぁそうじゃ。
お前には言っておかなければならんな」

宣教師「と言いますと?」

司祭「実は我が教団から『神の声』という本を出すのじゃがいるか?」

宣教師「も、もちろんです!
今後、布教の参考にする為にもぜひ!」

司祭「そうか。代金は後で本部に送るがよい」つ【本】

宣教師「えっ」キョトン
72:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:37:57 ID:L42.WERUbA
司祭「なんじゃ。変な顔しおってからに?」

宣教師「お金を…取るのですか?」

司祭「当たり前じゃろうが。何を訳の分からん事をほざいとるんじゃ?」

宣教師「い、いえ…てっきり頂けるものかとばかり」

司祭「贅沢を言うでないわ。
信者やその家族も身銭を切って教本を求めているのじゃ。
わしらがタダで読んでは平等でなかろう」

宣教師「ふ、普通教本などは無料で配布するものでは…」

司祭「やっかましいぃぃぃい!!」

宣教師「ひっ」ビクッ

司祭「この一冊で神の声に触れられると言うに!!
金を惜しむなどもっての他じゃ!!
貴様、恥を知れぇぇえ!!」

宣教師「は、はいぃぃ!申し訳ございません!!」フカブカ

司祭「はぁっ…はぁっ…。
分かればよいのじゃ…」ゼーゼー

宣教師「(今日の司祭様怖いです…)」ドキドキ
73:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:39:24 ID:L42.WERUbA
宣教師「うぅ…村の方々からの施しが…」グスッ

司祭「ほっほっほ。有意義に使えたのう」ホクホク

宣教師「ま、まぁ神の教えを深く知る意味では……ん?」マジマジ

司祭「どうしたんじゃ?」

宣教師「著者は司祭様となっておりますが…?」

司祭「その通りじゃが?」

宣教師「し、しかし題名は神の声と…」

司祭「わしが神の声に耳を寄せ、書き上げたのじゃから当然じゃ」

宣教師「な、なるほど…」

司祭「さっきから何を訳の分からん事を言うとるんじゃ?」

宣教師「……」
74:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:42:34 ID:FGq0e0WmdU
司祭「そろそろ村の外に出るのう。ここまででよいぞ」

宣教師「お、お待ちください!」

司祭「なんじゃ?」

宣教師「村長からお聞きなされたとは思いますが…」

司祭「…ホビットが入り込んだそうじゃな」

宣教師「やはりご存知でしたか」

司祭「うむ、なんでも子供だったと聞くがのう」

宣教師「はい…」

司祭「おおかた何も知らぬ哀れな幼子じゃろう。
昨日の件もある。二度とこの村には来るまい」

宣教師「だと良いのですが…」

司祭「幼子と言えど罪深き種族。
時を追う毎に罰が下る。
己の罪深さを理解するまで捨て置く事じゃ」

宣教師「司祭様がそう言われるのでしたら私からもこれ以上の事は…」

司祭「それが良かろう。
奴らに関われば天の怒りを招く。
お前もそれは重々承知している筈じゃ」

宣教師「はい…」

司祭「うむ。ではわしは帰るでな。
この村の管轄は任せたぞい」

宣教師「はい。司祭様もお気を付けて」ペコリ

司祭「」スタスタ

宣教師「…私も教会に戻るとしましょうか」スタスタ
75:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:09:15 ID:BXUEK2.5u2
少年「ふんふふ〜ん」ルンルン

母「坊や、一人で先に行ってはだめよ?」

少年「お母さま、はやくはやく!」

母「まぁ。この子ったら?」

少年「村が見えたよ!」タタタッ

母「あ、ちょっと待って!」

少年「?」クルリッ

母「そのまま入ったら人間に見つかるでしょ?」

少年「あっそうだね…。
でもどうするの?
昨日は頭巾を被ってたのにバレちゃったんだよ?」
76:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:10:28 ID:BXUEK2.5u2
母「坊や。私たちと人間の違うところは何かしら?」

少年「瞳の色と…体の大きさ、かな?」

母「それから肌の色も、よ。
私たちは瞳が黄色くて、肌がとても白いわ。
それに体も人間と比べて小さい」

少年「うん…」

母「肌の色と小さな体はまだいいけれど、瞳の色を見られればどうしてもホビットだと分かってしまうわ。
だから……」

少年「目を隠すんだね?」

母「そうよ、賢いわね!」ニコッ

少年「えへへ!…あ、でもメガネなんて持ってないよ?」

母「安心なさい、お母さんが良い物持ってきたから」ニコニコ

少年「えっそうなの?」キョトン

母「こっちにおいで坊や。支度してあげるわ?」

少年「うん!」
77:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:11:47 ID:4a/V8q7lfc
母「うん、完璧ね!」

少年「………」ムスッ

母「あら、どうしたの坊や?ふてくされたりして」

少年「…なんでこうなるのさ?」ジト

母「まぁ。かわいらしくていいじゃない?」

少年「やだよ。女の子のカッコなんて!」

母「しょうがないでしょ?
色メガネで隠すより前髪で目を隠してしまった方が自然だもの」

少年「だからって……」

母「それに女の子のカツラを被っただけじゃない?
服はいつもと変わらないから大丈夫よ」

少年「……うん」

母「安心して?とってもかわいいから!」ニコッ

少年「そういう問題なのかな…?」
78:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:12:53 ID:BXUEK2.5u2
母「それに昨日、人間に見つかったんでしょ?
外から来た男の子ってだけで怪しまれるわよ?」

少年「あ、そっか…。
お母さまも前髪で隠すの?」

母「あたしは色メガネで隠すから大丈夫よ?」ニコッ

少年「っ……!ずるい!」プンスカ

母「うふふ。さあ行くわよ?」スタスタ

少年「むー…」ムスッ
79:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:14:22 ID:4a/V8q7lfc
――村――
母「……いい?自然に振る舞うのよ?」

少年「う、うん」

村の大人1「おっなんだ、あんたたち。
見かけない顔だがよその人かい?」

母「えぇ。娘と旅をしていますの」

少年「」ドキドキ

村の大人1「へーそうなのかい。
今どきは珍しくもないが、昔は故郷を離れるなんて考えられなかったからなぁ…。
女手一つでお嬢ちゃんを連れての旅だ、くたびれちまうだろう?」

母「えぇ、まぁ。…実は主人を亡くしまして、故郷を追われてしまいましたの」

村の大人1「……そいつは大変だな。
あんたも苦労してるんだろう。
この村にいる間は体も心も休めるといいよ。
ここはのどかな村だから悪い奴なんて一人もいないぜ?」

母「ありがとうございます。
お言葉に甘えさせていただきますわ」ペコリ

村の大人1「へへっ!頭なんか下げないでくれよ。
お嬢ちゃん。お母さんの言う事をよく聞いていい子にしてるんだよ?」ナデナデ

少年「」ビクッ
80:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:16:48 ID:BXUEK2.5u2
村の大人1「? どうしたんだい?」

母「あら、ごめんなさい。この子人見知りでして」

村の大人1「あぁ、そうか。
その歳で旅なんかしてちゃ友達もできないもんな?
大丈夫、村の子供らもお嬢ちゃんくらいの歳の子ばかりだから、
いっぱい遊んでいくといいよ」ニコニコ

少年「は、はい」ドキドキ

村の大人1「ほら、キャンディをあげよう。
これを出して話しかければ子供たちともすぐ仲良くなれるさ」つ【袋】

母「まぁ。そんな…」

村の大人1「いいんですよ。
俺が好きでやってるんだから」ニコニコ

母「ありがとうございます…。
ほら、あなたもお礼を言わないと?」

少年「ありがとう…ございます…」ペコリ

村の大人1「じゃあ俺は店があるから戻るが、困った事があったら遠慮なく村人たちに聞いてみな。
みんな嫌な顔一つせず助けてくれるからさ」

母「何から何まですみません」

村の大人1「いいってことよ!」スタスタ

少年「……」
81:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:19:11 ID:4a/V8q7lfc
少年「おじさん、優しかった…」

母「えぇ、そうね。すっかり女の子だと思われてたわよ?」ニコニコ

少年「もう!からかわないでよ!」

母「うふふ。ごめんなさい」クスッ

少年「……ねぇ」

母「ん?なぁに?」

少年「ボクね、お母さまに内緒だったけど
昨日あのおじさんにぶたれたんだ」

母「……そう」
82:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:20:16 ID:4a/V8q7lfc
少年「昨日はね、ボクが市場でお菓子を見てただけで怖い顔してた」

母「……」

少年「頭巾で隠してたから大丈夫かなって思ったけど、取ってみろって言われて嫌がったら捕まえられて」

少年「たくさんぶたれて、たくさん蹴られた」

少年「謝っても許してくれなかった」

少年「みんな冷たい目をしてたよ」

少年「助けてくれようとした人もボクがホビットってわかったら一緒になってぶったんだ」

少年「すごく怖かった」

母「……」
83:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:21:12 ID:4a/V8q7lfc
少年「でも、今日のおじさん、すごく優しくて…びっくりしちゃった」

母「そうね、とても大事な事よ?」

少年「うん…」

母「そこで見るものだけが真実ではないの。
心は色んな表情をするのよ?」

少年「……そうなの?」

母「心はね、たくさんの感情を持っているの。
喜び、悲しみ、愛、憎しみ」

母「喜びと悲しみの感情は自分だけのもの。
愛や憎しみは誰かに向けられるもの」

母「人間は同じ人間を愛し、獣に草木に空に海、空想的なものだって愛せる。
素晴らしいことよ、でもね」

母「ひとたび憎しみを受け入れてしまえば、心は呑まれてしまうの」

母「喜びも、悲しみも、愛も、ぜんぶ…」

母「そして憎しみは、あたしたちに向けられている」

母「何百…いえ、何千年も前から」
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名前:
sage:


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