むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
533: ◆WEmWDvOgzo:2013/3/25(月) 20:06:27 ID:lymfDbihfs
ルーボイ「ほ、ホントはさ…。俺、教えたんだ…」
カロル「教えたって…何を?」
ルーボイ「……」
カロル「…大丈夫だよ。勇気を出して言ってみて?」
ルーボイ「旅人に…パッチの居そうな所、教えた…んだ」
カロル「…そっか」
ルーボイ「……俺、自分のせいだって思いたくなくて…。
それでお前に八つ当たりして…」
カロル「うん…」
ルーボイ「最低だろ…?」
カロル「ううん。そんな事ないよ」
ルーボイ「……」
カロル「無理やり聞かれたんでしょ…?
大人の人間に暴力を振るわれたんだもの。怖かったよね…?」
ルーボイ「わざと優しくすんなよ…。ホントは最低だって思ってるんだろ…?」
カロル「思わないよ。キミは悪くないもの」
534: ◆WEmWDvOgzo:2013/3/25(月) 20:13:43 ID:QWKkgR91fw
ルーボイ「…悪くないわけねーじゃん!俺は…あいつを……」
カロル「キミは悪くない…。
ルーボイくんが暴力を受けたのも、パッチくんが狙われたのも…村に迷惑をかけたのも…ボクのせいだから」
ルーボイ「……違う…!」
カロル「ごめんね。ルーボイくん…ごめんね。
ボク…最後まで自分の事しか考えてなかった。
こんなに迷惑かけておいて遊びたいなんて自分勝手だったよね…」
ルーボイ「やめろよ。謝るなよ…!」
カロル「ルーボイくんに言われるまで受け入れられなかったんだ。
きっと違うって。ボクのせいなんかじゃないって」
カロル「ありがとう。ボクも目が覚めた気がする?」ニコッ
ルーボイ「違う…。違うんだよ…」
カロル「何も違わないよ。キミは正しいじゃない」
ルーボイ「違うんだって!お前のせいなんかじゃ…!」スクッ
ルーボイ「うっ…!」ズキズキ
カロル「…ルーボイくん?」
ルーボイ「ぐぅ…あぅ…」ズキズキ
カロル「ルーボイくん!?」
535: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:31:20 ID:xrFLp2O0Vk
ルーボイ「うぅ…!」
カロル「大丈夫!?」ヒシッ
ルーボイ「ぃ…いてぇ…!」
カロル「ひどいケガだもの。辛いよね…。
ボクがいなかったら…こんな事にならなかったのに」ナデナデ
ルーボイ「…だから…違うって…!」ズキズキ
カロル「……」ナデナデ
ルーボイ「うぅ…!」
カロル「ボク、お医者さまを探してくるよ」ナデナデ
ルーボイ「無理だよ…!この村に医者はいねーもん…!」
カロル「へ?お医者さまがいないって、どういうこと?」ナデナデ
ルーボイ「…今までケガしたら宣教師様が看てくれたんだよ…。
村の中じゃ医者の勉強もできないから…」
カロル「そうなんだ…。それならおばさまが帰ってくるまで何もできないね」ナデナデ
ルーボイ「そうだな…」
カロル「早く帰ってくるといいね」ナデナデ
ルーボイ「……」
ルーボイ「…さっきから頭、撫でてんじゃねーよ!?」
カロル「わっ」ビクッ
536: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:33:38 ID:A5ygsn4Elg
カロル「…あれ?平気なの?」
ルーボイ「ん?そういえば急に痛くなくなったぞ?」
カロル「そう。よかった…!」ホッ
ルーボイ「いいから、もう離せよ」
カロル「あ、うん。ごめんね?」パッ
ルーボイ「……子供扱いすんなよな。歳も変わんねークセに」
カロル「そういえばルーボイくんっていくつなの?」
ルーボイ「俺?10歳だけど」
カロル「えぇっ!そうだったんだ?」
ルーボイ「なんでびっくりすんだよ?」
カロル「あはは…。ボクと同い年だと思ってたから」
ルーボイ「は?お前、俺より小さいの?」
カロル「ううん?ちょっぴり大きいよ」
ルーボイ「……え?」
カロル「ボク、14歳なんだ?」
ルーボイ「えぇぇ!?」
537: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:37:49 ID:xrFLp2O0Vk
ルーボイ「こんなにちっちぇーのに!?」マジマジ
カロル「小さいって言ってもルーボイくんと、そんなに変わらないでしょ?」
ルーボイ「四つも違うのに変わらないっておかしいだろ!」
カロル「しょうがないよ。ボクはホビットだから、あんまり背が伸びないんだ」
ルーボイ「ふーん…。やっぱ俺たちと違うんだな…」ジロジロ
カロル「ふふ…。大人になる頃には見下ろされてるかも?」
ルーボイ「俺は大きくなるからなー?」ニヤリ
カロル「……大きくなったルーボイくんが見たかったなぁ」
ルーボイ「うっ…!そんなこと言うなよ!」
カロル「ごめん…」シュン
ルーボイ「んな心配しなくても…司祭様は優しいし、分かってくれるかもしんねーじゃん」
カロル「うん…。そうだといいな」
538: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:40:59 ID:A5ygsn4Elg
ルーボイ「なぁ…。カロル?」
カロル「なに?」
ルーボイ「さっきごめんな。ひどい事言って…」
カロル「気にしてないよ?」
ルーボイ「…俺さ。前にもひどい事言ったよな。ホビットのクセにとか…」
カロル「気にしてないってば」
ルーボイ「お前が気にしなくても、俺は気にするよ。
なんか今までひどい事したり、言ったり、いっぱいあったもんな」
カロル「そんな事ないよ!」
ルーボイ「パッチにも昔からたくさんいじわるしてたなぁ…」
カロル「……」
ルーボイ「ホントは俺の事なんか嫌いだったのかなぁ…?」
カロル「パッチくんはキミを嫌ったりしないよ。あんなに仲良しだったんだから」
ルーボイ「そうかな…。もう会えないって思ったら、嫌なことばっかり考えちゃうんだよ…」
カロル「元気を出さなくちゃ…。キミらしくないよ?」
ルーボイ「……」
539: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:46:28 ID:xrFLp2O0Vk
カロル「それに会えないって決まったわけじゃないでしょ?」
ルーボイ「…だってあいつ、村の外は教会しか知らないんだぞ…?
他に逃げたり、隠れたりする場所なんかないだろ?」
カロル「けど教会にはパッチくんはいなかったよ?」
ルーボイ「そうなのか!?」
カロル「うん。中までは見てないから分からないけど」
ルーボイ「っ…!それじゃ分かんないだろ!
もしかしたら中で…し、し…死ん…」
カロル「それはないよ。旅人は入り口で倒れてたから、中まで入ってないはずだもの」
ルーボイ「はぁ?どういうことだよ?」
カロル「教会の中に入ったなら入り口を開けた形で倒れてるのはおかしいからね。
多分、扉を開けてすぐに襲われたんだと思う」
ルーボイ「そ、そっか!よくわかんねーけど、そうなんだな?」チンプンカンプン
カロル「うん。だからボク、キミから話を聞いた時も少し安心してたんだ?」
ルーボイ「なんでだよ?」
カロル「今までの事が繋がったし、パッチくんは生きてるって分かったから。
もし殺されたりしたなら旅人は教会にはいなかったはずだよ」
ルーボイ「……?」
540: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:50:30 ID:xrFLp2O0Vk
カロル「きっと旅人はボクらを捕まえる為にパッチくんを狙ったんだ」
ルーボイ「あ、そういえば、そう言ってたぞ!」
カロル「うん。だから旅人がパッチくんを見つけてたら、ボクらの居場所を聞くよね?」
ルーボイ「そ、そうだな」
カロル「たとえば森にいるって言われたら旅人は森に来ただろうし、嘘の場所を教えられても教会には行かなかっただろうね」
ルーボイ「はぁ?嘘つかれたら分かんねーから、教会とか村も全部探したかもしんねーじゃん!」
カロル「ううん。それはないよ」
ルーボイ「なっ!なんでだよ!」プンスカ
カロル「旅人はボクらが教会にも村にもいない事を知ってるもの。
それでも分かってて探しに来るほど、浅はかじゃないよ」
ルーボイ「あ、そうか!あいつ一回、教会に来たんだっけ!」
カロル「うん。ボクらが逃げた後、もぬけの殻になった教会にね。
そして村の人たちをおかしくしたのは話を聞き終わって、用が無くなったから…」
ルーボイ「…そんなんで!村をめちゃくちゃにしたのかよ…!」
カロル「ボクが勝手に考えた事だから、確かじゃないけど…」
ルーボイ「ちくしょう…!あいつ、サイテーだ!」ギリッ
カロル「……」
541: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:54:40 ID:xrFLp2O0Vk
ルーボイ「でも、それが本当ならパッチは生きてるんだよな?」
カロル「…うん。ボクの考えがホントだとしたら、だけどね」
ルーボイ「おー!す、スゲー!
お前って変な奴だと思ってたけど、スゲー頭いいんだな!」
カロル「は、はは…。それって素直に喜んでいいのかなぁ…?」タジタジ
ルーボイ「じゃあ、あいつは今どこにいるんだよ?」
カロル「えと…さすがにそこまでは分からないや」
ルーボイ「なんだよ!使えねーな!」
カロル「うぅ…ついさっきまで褒めてくれてたのに…」シュン
ルーボイ「…でもありがとな!パッチが生きてるって分かったら安心したぜ!」
カロル「あはは…。どういたしまして?」ニコッ
ルーボイ「やっぱお前、スゲーいい奴だよ!」
カロル「ほ、ホント…?それなら、許してくれる…?」
ルーボイ「おう!あったりめーだろ!ってか途中から怒ってなかったし!」
カロル「……!あ、ありがとう!」パァァ
ルーボイ「へへっ!俺の方こそ、八つ当たりしてごめんな?」
カロル「もう…!気にしてないったら!」
ルーボイ「ははっ!そっか!」
カロル「うん…!」ニコニコ
542: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:56:48 ID:A5ygsn4Elg
ルーボイ「よっしゃ!そうと決まったら探しに行こうぜ!」スクッ
カロル「へ…?」キョトン
ルーボイ「? なに変な顔してんだよ?」
カロル「だって!ルーボイくん、ケガしてるじゃない!」アタフタ
ルーボイ「関係ねーよ!もう痛くねーし!」
カロル「だ、ダメだよ!キミのお母さまにも言われたんだから、じっとしてなくちゃ!」アセアセ
ルーボイ「……」
カロル「ね?パッチくんの事はボクがなんとかするから、おとなしくしよう?」
ルーボイ「ちぇっ!」ボフッ
カロル「」ホッ
543: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:58:08 ID:A5ygsn4Elg
ルーボイ「早く母ちゃん来ねーかな…」
カロル「まだ来ないと思うよ?お家を出てから、そんなに経ってないもん」
ルーボイ「あー!もー!早くパッチに会いてぇ!」ジタバタ
カロル「あ、暴れたら危ないよ?腕も痛めてるんだし…」ドキドキ
ルーボイ「うるせー!くらえっ!」ブンッ
カロル「わっ」ボスッ
ルーボイ「へへっ!」ニヤリ
カロル「もう…。まくらは投げる物じゃないでしょ?」
ルーボイ「お前が生意気言うからだろー?」
カロル「生意気って…。ボクの方が年上なのに…」ブツブツ
ルーボイ「なんだよ?」ジロッ
カロル「」ビクッ
ルーボイ「なんか言ったか!?」
カロル「な、なんでもないよ?」ニコッ
ルーボイ「ふんっ!」
カロル「(まぁいっか…。元気になってくれたんだもの…)」ニコニコ
544: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 17:33:27 ID:.tgHhz2SVw
――村(村長の家)――
村長の妻「……これで私の知る限りの事は全てお話しました」
神父「ふむ…」
母「……」
村長の妻「私は見ている事しか出来ずにいたんです…。
村人たちが狂っていくサマも、そしてダン夫婦を……!」ガクガク
神父「いや、なに。奥さんに罪はない…と、言いたいがな……」
村長の妻「……」カタカタ
神父「ここまでの事態に発展してしまった以上、ありのままに報告すれば…おそらくまずいだろうな」
村長の妻「やはり…そうですよね…」ブルブル
神父「ふぅ…。私には荷の重い役目だ。
騙されていたとはいえ、人殺しは許されん…」
村長の妻「うぅ…!なぜ…こんな事に…!今まではずっと穏やかだったのに…!」ドンッ
神父「……」
母「……」
村長の妻「あぁぁぁ…」ブワッ
村長の妻「あぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」シクシク
545: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 17:40:16 ID:.tgHhz2SVw
――村(市場)――
神父「恐ろしいものだ…。たった一つの異変が全てを変えてしまったとはな…」スタスタ
母「……」スタスタ
神父「まったく…。分からんものだよ」
母「…きっとあの奥さんは立ち直れないでしょうね」
神父「すぐには難しいだろうな。時間が必要だ。
念のため、悪いようにはしないと言っておいたが気休めになるかどうか…」
母「…あの旅人は何者だったのでしょう?」
神父「分からん。だが、この問題は想像以上に根が深そうだ…。
少なくとも司祭様の勘働きは外れたようだな」
母「と、言いますと?」
神父「司祭様はお前たちの手紙を見て、『旅人はホビットの存在を許さぬ正義感の強い人間』と評された。
実際は、とんだ悪人だった訳だがな」
母「そうですか…。やはりあたし達の言葉は信じてもらえていなかったのですね」
神父「ま、それが当然だろう…。
ホビットは人間を騙すからな」
母「…あたし達は騙したりしません」
神父「どうだかな…。私にはお前たちの考えが読めんよ。
何故、司祭様に会いたがるのか…。目的が掴めん」
546: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 17:50:27 ID:4YUZHqrID.
母「それは坊やが望んだからですわ。あたしはあの子の意思を汲みたかっただけ…」
神父「宣教師のため、か?
ますます分からん。なぜ他の種族を助けようなどと思うのか…。
しかも人間とホビットという巨大な境を目の前にして…」
母「……あの子には友達がいなかったんです」
神父「……」
母「ずっと旅をしてましたから…」
神父「……」
母「一定の場所に留まる事も無く、ひっそりと怯えながら生きる道を歩んできた坊やには繋がりが大切なんです…」
神父「同じホビットの仲間はおらんのか?」
母「…あの子が生まれた村は王国によって滅ぼされました。
ただ、ホビットが暮らしているというだけで…」
神父「…まぁ。それもそうか。
となれば旅の中で出会う事も無かったのか?」
母「えぇ。不思議なことに…。
あたし達が出会ったのは神父さんも知る子と以前、住んでいた空き家の主だけです」
神父「あの小僧か…!くそっ!」
547: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 17:53:27 ID:.tgHhz2SVw
母「…あの子ならホビットとして、人間と関わらず静かに生きる道を坊やに教えてくれたかもしれないわね。
出会うのが少し遅かったみたいですけど…」
神父「…あの憎みようを見る限り、共に人間に仇なす道でも選びそうだがな」
母「ふふ。そんな…。まだ子供ですから、そこまでは…」
神父「子供ながらにして私の目を躊躇いもなく、奪ったんだぞ?」
母「…ああした行動をさせてしまったのは…」
神父「人間のせいとでも言うつもりか?」
母「いえ…」
神父「ふん…。見誤るなよ?罪を犯したのは貴様らだ」
母「……」
神父「だが、まぁ…。こうした時代に生まれた事は哀れと取るべきかもしれんなぁ」
母「……!」パチクリ
神父「…勘違いするな。お前たちを理解する気など毛頭ないぞ!」
母「えぇ…。分かってます」ニコッ
548: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 17:58:29 ID:4YUZHqrID.
神父「話に寄れば旅人はほぼ全員にタイマを寄越したらしいが、中には吸わなかった者もいるようだな」
母「そうですわね。
奥さんは少量と言ってましたし、吸わなかった人間たちは風に乗った煙の影響を受けたんでしょう」
神父「不幸中の幸いだな…。
タイマを求めて旅人を探す村人もいるが、意識を取り戻した者もいる…」
母「ルーボイ君の家族も影響は受けてないみたいですし。
遊びに行った坊やも心配する必要は無さそうですものね」
神父「…お前の子供など知ったことか。
とりあえずは逃げ延びた子供の安否を確かめねば…」
母「知ったことかって…。そういう言い方はないんじゃないですか?」ムスッ
549: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 18:03:42 ID:4YUZHqrID.
神父「ふん…。まぁ十中八九、殺されているだろうな」
母「なんでそう言えるんです?」
神父「子供の足で逃げられる場所など限られているし、手口を聞く限り、旅人は相当な残虐性を持ち合わせていたようだ」
母「けど殺されたとは限りませんわ?」
神父「いや、殺されている可能性が高い。
いっそのこと探すのは後回しでもいいかも分からんな」
母「なぜです?生きていたら、今もどこかで不安な思いをしてるかもしれないじゃありませんか?」
神父「少なくともお前たちを大聖堂に連れて行くのが優先だ。
その際に報告すれば助力も得られるし、探すにも我々だけでは難しい」
母「でも…早く助けないと、森には獣もいますし…」
神父「…貴様の息子は逃げた子供と関わりがあるのだろう?」
母「はい。ですから坊やの為にも…」
神父「もし、無惨な姿だったらどうする?
そんな再会をしたら、傷は深いぞ…」
母「そ…それは……!」
550: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 18:07:50 ID:4YUZHqrID.
神父「お前たちに配慮する訳ではないが、なんにしろ大聖堂に行った方がいい。
一目、宣教師に会える程度の情けなら受けられるかもしれんぞ?」
母「…どうしたんですか?」
神父「何がだ?」
母「いえ、先ほどとは打って変わった様子ですから」
神父「…疲れただけだ。もうさっさと、この件からは離れたい」
母「何を言ってるんですか?あなたはこの村の布教者でしょう?」
神父「バカを言うな。この村は終わりだ」
母「え…?」
神父「貴様も聞いただろう?
違法な薬物に手を出しただけならまだしも人の命を奪っている。
騙されたとはいえ、許される事ではない」
母「ですが…更正の道はないのですか?」
神父「更正するようであれば、それにこした事はないが…我が教団による援助は期待出来ん」
母「なっ…!あなた達は聖職者なのに…こういう時に手を差しのべないんですか!?」
神父「『与えられし試練に他の力を望むべからず』」
母「……はい?」
神父「神の教えだ。ゆえに我々は手助けはしない」
母「そんな…!助け合わない事を、あなた達の信じる神様は勧めるって言うの!?」
神父「無論、それだけではない。こんな教えもある」
551: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 18:12:39 ID:4YUZHqrID.
『救いは両の腕に込めなさい』
『勇気は両の足に込めなさい』
『道徳は頭に携えなさい』
『体に全てを繋ぎ止めなさい』
『命はまことの導きに沿うのです』
552: ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 18:16:49 ID:4YUZHqrID.
母「…その言葉に従うなら助け合う必要があるんじゃないのかしら?」
神父「そうとも取れるが…我々の考える物とは違うな」
母「どういうこと…?」
神父「救いも勇気も道徳も人は当然に持ち合わせている物だ。
それらを体に繋ぎ止められぬ命は信仰に背いているとも言える」
母「……」
神父「…彼らは裁かれるべきだ。
自分の罪を受け止め、己の力で清算するのが何よりの罪滅ぼしとなる…」
母「間違いを犯してしまう弱さを認めようとは思わないのですか…!」
神父「…それはお前たちのように間違いを犯す者の意見だな。
『弱さ』などと言う言葉に置き換えたところで『罪』は『罪』でしかない」
母「あなたの信じる神様は…薄情ですね」
神父「なんとでも言え。しょせんホビットには分かるまいよ」
母「……」
神父「…王国へ伝わらないように最善は尽くす」
母「……?」
神父「王国に伝われば村ごと滅ぼされかねんが…。
我々の胸の内にしまえれば、援助は出来ずとも彼らの力で更正する時間は作れるだろうが?」
母「……まぁ!」
神父「あの娘さんにも安心しろと言ってしまったしな?」
母「神父さん、ちゃんと考えてらしたんですね…!見直しましたわ?」ニコッ
神父「…見直したは余計だ!」
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