むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
307:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:32:07 ID:D9txi/yolg
ジョー「あぁ。そうさ!怠惰にかまけて何が悪い!?」
ジョー「自分を騙して何が悪い!?」
ジョー「正直に生きてなんになる!?」
ジョー「俺は気付いたんだ!何が正しいかって事にな!」
ジョー「優しいままでいれば悔やみ続ける!
優しいままでいれば傷付けられる!
優しいままでいれば許すしかなくなる!!」
ジョー「作物も、畑も、生活も、父さんも、母さんも、奪われた俺はどうすればいい!?」
ジョー「恨むしかないだろうが!?
奪ったあいつを!あいつがいないなら、あいつに近いものを!!」
ジョー「奴らを許したら俺には何も残らない!
優しさが邪魔になるなら捨ててやるさ!」
ジョー「お人好しなんか辛く、悲しいだけだ!
そんな負け犬になるくらいだったら俺は奪ってやるよ!」
ジョー「奪って、奪い尽くして、奴らの苦しむサマを眺めながら嘲笑ってやる…!
俺はこんなにも幸せなのに、お前らは不幸だってな!」
308:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:33:55 ID:D9txi/yolg
宣教師「……」
ジョー「はぁっ…はぁっ…!どうした?
これで満足じゃないのか!?
これが嘘偽りない俺の本心だぜ…!」ギロッ
宣教師「…やっと、心を開いてくれましたね?」ニコッ
ジョー「あ…?」キョトン
宣教師「ふふ。やっぱりジョーさんは優しいままですよ?」
ジョー「……」ポカーン
宣教師「」ビリッ
宣教師「これ、使ってください?」つ【破れた布】
ジョー「な、なんだ?突然自分の服を破いて、使えだなんて…大丈夫か、あんた?」
宣教師「…ご自分の頬をさすってごらんなさい?」ニコニコ
ジョー「……?」ピトッ
ジョー「」ハッ
宣教師「」ニコニコ
ジョー「泣いてる…のか?」ポロポロ
309:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:35:17 ID:D9txi/yolg
宣教師「言ったでしょう?やっと心を開いてくれたと?」
ジョー「バカな…」ポロポロ
宣教師「うわべだけならなんとでも言えますが、心に嘘はつけませんよ?」
ジョー「そんなはずは…ないんだ…。俺は……」グシッ
宣教師「今なら本心に届くでしょう?
虚勢を張らず、見てみぬフリをせずに、罪人である私の言葉が…」
ジョー「……!」
宣教師「そろそろあなたの本心を教えてください。
涙ではなく、確かな声で…」
ジョー「あんた、やっぱり変わってるな……」
宣教師「」ニコニコ
310:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:37:40 ID:D9txi/yolg
ジョー「ふん…。今でも後悔してるよ…。
奴をくびり殺した感覚が今でも手に馴染んでやがる…」
宣教師「……」
ジョー「命を奪うって行為が、こんなに重たいものだなんて知らなかったんだ…」ギュッ
宣教師「それで教団に入ったのですか?」
ジョー「あぁ。その後、布教に来た神父に誘われたんだ…。
ここでならみんなが俺を認めてくれる。もう苦しまずに済むってな…」
宣教師「私も似たようなものです…」
ジョー「そうか…」
311:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:41:44 ID:D9txi/yolg
ジョー「……。なぁ宣教師さん」
宣教師「なんです?」
ジョー「それでも俺は…やっぱりあのホビットを許せないよ」
宣教師「…そうですか」
ジョー「だが、あんたの話を聞いて少し見方が変わった。
あんたみたいな人が認めるなら、きっと悪い奴ばかりじゃないんだろうな?」ニヤリ
宣教師「えぇ。私の友達はとても良い子ですよ?」ニッコリ
ジョー「ふっ…。聞いてみたいな」
宣教師「よろこんでお話しましょう!」
ジョー「じゃあそもそものきっかけから教えてくれよ?
ホビットを嫌っていたあんが心を開いたきっかけをさ」
宣教師「えっ?」
ジョー「どうした?」
宣教師「いえ、あの、それはですね…」オロオロ
ジョー「なんなんだよ?」キョトン
宣教師「(とても言えない…)」モジモジ
宣教師「(カロルくんに出会って、初めて胸がキュンッとなったからだなんて…)」カァァ
ジョー「(なんで赤面するんだ…?)」
ジョー「……やっぱり変わってるな」
312:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:50:49 ID:D9txi/yolg
>>298
支援ありがとうございますm(__)m
あまりに嬉しいお言葉で仕事の休憩中に何度も読み返してしまいました…。
見てくれてる方がいただけでなく、すごく好きだなんて感激の海に溺れそうです(笑)
展開としましては最初からえげつない方向で進める気でいました。
ほのぼのを期待させてしまったなら申し訳ありません…。
一応重すぎないようにほのぼの部分も含めて書くつもりです。
313:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:34:20 ID:OVSWlYCIKk
――村(夜)――
パッチ「……もう帰ろうよ?」
ルーボイ「……」ボーッ
パッチ「ルーボイくん?」
ルーボイ「え?あ、あぁ…」
パッチ「心配なのは分かるけど…」
ルーボイ「…別に」
パッチ「大丈夫だよ。だって約束したじゃないか?」
ルーボイ「分かってるよ…」
パッチ「ほら、もう帰ろうよ?」
ルーボイ「……」スクッ
314:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:36:13 ID:OVSWlYCIKk
パッチ「お父さんたち、きっとカンカンだろうなー?」
ルーボイ「あ…そういやそうだったな…!」ギクッ
パッチ「抜け出して遊びに行ったの忘れてたの?」
ルーボイ「わ、忘れてねーよ!」
パッチ「そっか。じゃあまた明日ね?」
ルーボイ「お、おい!」
パッチ「ん?なに?」キョトン
ルーボイ「もう帰るのかよ?」
パッチ「うん。これ以上遅くなったらまずいから」
ルーボイ「…まだいいだろ?」
パッチ「ルーボイくん…もしかして怒られるのが怖いの?」
ルーボイ「はぁ!?怖くねーし!」
パッチ「ならいいじゃん。ばいばい」スタスタ
ルーボイ「いや、待てよ!」ガシッ
315:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:37:27 ID:.f1NH6m4X6
パッチ「もう…なんなのさ?」
ルーボイ「付いてきてくれよ…」
パッチ「えっ」
ルーボイ「家まで付いてきてくれって言ってんだよ!」
パッチ「な、なんでボクが…?」
ルーボイ「お前がいた方が父さんも怒らないかもしんないだろ?」
パッチ「なんだよ、やっぱり怖いんじゃないか!?」
ルーボイ「う、うるせー!いいから来いよ!」
パッチ「やだよ!ボクまで怒られるかもしれないだろ!?」
ルーボイ「なんだよ、いいじゃねーか!」
パッチ「ルーボイくんのお父さんに怒られて、また自分の家で怒られるなんてイヤに決まってるじゃんか!」
ルーボイ「あー!もう!いいから来いって!」ガッ
パッチ「な、なにすんだよ!」
ルーボイ「ほら!行くぞ!」グイッ
パッチ「うわっ!や、やめてよ!一人で怒られればいいじゃないかー!」ズルズル
村の青年「おい、お前ら何やってんだ!?」
ルーボイ&パッチ「」ビクッ
316:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:42:03 ID:.f1NH6m4X6
ルーボイ「あ、なんだ。魚屋のテパ兄ちゃんか」
テパ「なんだってこたないだろ!?」ズルッ
パッチ「お父さんたちじゃなくてよかったね?」
ルーボイ「ホントだよ。びっくりしたっつの」プンプン
テパ「お前ら今までどこほっつき歩いてたんだ!?」
ルーボイ「なんだよ、兄ちゃんには関係ないだろ?」
テパ「バカ野郎!とにかく来い!!」グイッ
ルーボイ「お、おい!何すんだよ?」ズルズル
パッチ「わっ!ちょ、ちょっと…」ズルズル
317:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:44:41 ID:OVSWlYCIKk
――村長の家――
テパ「村長!二人を見つけました!」
村長「おぉ。見つかったか!」
テパ「えぇ。公園にいたみたいで」
村のおばさん「あんたたち、無事で良かったねぇ?」
ルーボイ「な、なんなんだよ?」
パッチ「さぁ?なんでみんな集まってるんだろ?」
村の大人3「パッチ!!」
パッチ「あ、お父さん…」
村の大人3「おまえ…!」
パッチ「あ、えと、その…ご、ごめんなさい」ゴニョゴニョ
村の大人3「無事だったんだな!?」ダキッ
パッチ「わっ!?」ギョギョッ
村の大人3「怖かったろう?ケガはないか?」
パッチ「怒って…ないの?」パチクリ
村の大人3「あぁ。お前が無事ならそれで良い…」ギュッ
パッチ「ぶ、無事ならって…言ってることがわからないよ…?」
村の大人3「大丈夫だ。もう安心だからな?」
パッチ「お父さん…?」
318:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:46:41 ID:OVSWlYCIKk
ルーボイ「…訳わかんねぇ」ポカーン
村長「ルーボイ君、今回の事は残念だったね…」
ルーボイ「え?なにが?」
村長「信じられないのも無理はない…。
受け入れるまで時間が掛かるだろうが心を強く持つんだぞ…?」
ルーボイ「待ってよ、おっちゃんの言ってる意味がわかんねぇよ」
村長「まさか君は何も知らないのか?」
テパ「…さっきまでパッチの奴とじゃれ合ってましたから、多分なにも知らないんだと思います」
村長「そんなはずは…彼らは教会に行っていたんじゃないのか?」
テパ「ダンさん(※大人3)の話だと、そう言ってましたが…」
ルーボイ「……なんだ?」キョトン
村長「ルーボイ君、信じられないかもしれないが、よく聞いておくれ?」
ルーボイ「う、うん」
村長「君のお父さんは殺されてしまったんだ…」
ルーボイ「えっ」
319:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:48:49 ID:.f1NH6m4X6
ルーボイ「ウソ、だろ?」
村長「……」フイッ
ルーボイ「ウソだよね?なぁ、ウソなんだろ?」アセアセ
村長「………」
ルーボイ「おっちゃん…?」
テパ「本当だよ、ルーボイ」
ルーボイ「兄ちゃん…?」クルッ
テパ「大人2さんは殺されたんだ」
ルーボイ「……な、なんで…」ワナワナ
村のおばさん「森の中で大人1も大人2も死んでたのさ。
傷から見て、誰かに刺されたんだろうって話だよ…」
ルーボイ「……」フルフル
テパ「…気の毒だけど、全部本当なんだ」
ルーボイ「…母ちゃんは?」
テパ「家にいるよ。ショックが大きかったみたいだ…」
ルーボイ「じゃあ母ちゃんに聞いてくる」
テパ「聞いてくるって…何をだ?」
ルーボイ「へへっ!みんなして俺をからかってんだろ?
勝手に遊びに行ったから、驚かせようとしてんだ!
いたずら好きな父ちゃんの考えそうなことだぜ!」ニカッ
テパ「ルーボイ…」
村のおばさん「……」
320:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:49:43 ID:.f1NH6m4X6
村長「ルーボイ君、悪いが…」
ルーボイ「俺帰るよ!パッチもまたな!」ダッ
パッチ「と、父さん。いい加減はなし……へ?」
ダン「はは。すまんすまん」スッ
テパ「あいつ……」
村長「やはり、言うべきではなかったか…」
村のおばさん「しかたないさね。どうせ嫌でも知る事になんだから…」
村長「それもそうだな…」
ダン「今は無理でも、あの子も徐々に分かるでしょう」
パッチ「ねえ?さっきからなんの話してるの?」
ダン「あの子の父親が殺されたのさ…」
パッチ「へっ…?」
ダン「あいつらは俺の古い友人でもあった。
俺は…殺した奴を絶対に許さないぞ」
テパ「そうっスね。許せませんよ…!」グッ
パッチ「(ルーボイくんのお父さんが…?)」
321:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:50:51 ID:OVSWlYCIKk
――ルーボイの家――
ルーボイ「」ガチャッ
ルーボイ「ただいま…」
大人2の妻「…おかえり」
ルーボイ「…なぁ、母ちゃん」
大人2の妻「なに…?」
ルーボイ「ウソ…だよな…?」
大人2の妻「…聞いたのかい?」
ルーボイ「村長たちが言ってた…」
大人2の妻「そう…」
ルーボイ「…ホントなの?」
大人2の妻「そんな事、母ちゃんの口から言わせないでおくれ…」
ルーボイ「そんな…」ズーン
322:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:51:46 ID:OVSWlYCIKk
大人2の妻「おまえだけでも無事で良かったよ…」ニコッ
ルーボイ「」ウルッ
大人2の妻「……」
ルーボイ「ぅ……」ブワァッ
大人2の妻「おいで、ルーボイ」
ルーボイ「ひっく…えぐ……」スタスタ
大人2の妻「これからは寂しい思いをするかもしれないけど、強く生きようね…?」ダキッ
ルーボイ「うぁぁ………」ポロポロ
大人2の妻「いっぱい泣きな。あたしはもう渇れちゃったから、泣いてあげられないんだよ…」ヒシッ
ルーボイ「なんでだよ…。父ちゃんの…ばかやろー!!」ポロポロ
大人2の妻「……」ナデナデ
323:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 16:50:04 ID:TbIaTri9k.
――村長の家――
パッチ「ルーボイくんのお父さん、死んじゃったんですか…?」
村長「あぁ。その件なんだが、君たちは本当に何も知らないのか?」
パッチ「知りません。ボクらは遊びに行ってましたから…」
ダン「あれだけ言い聞かせたにも関わらず、な」
パッチ「……」シュン
村長「まぁいい。実は旅の人が教えてくださってね。
教会に用があって森を歩いてたところで、たまたま二人の骸に出くわしたらしい」
パッチ「旅の人って…?」
ガチャッ
旅人「俺のことさ」
パッチ「」ビクッ
旅人「ん?君はさっきの…」
324:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 16:52:48 ID:NaSHqV57P6
旅人「奇遇だねぇ?」ニコッ
パッチ「あ、あぁ……」アタフタ
村長「どこかで会われたので?」
旅人「まぁ。教会に向かう道すがらね」
村長「なんと…やはり教会に行ってたのか?」
パッチ「違います!ボクは…」
旅人「森にカリアムの花を取りに行ってた。そうだろ?」
パッチ「は、はい…」
旅人「ところで君と一緒にいた少年は?」
パッチ「え?」
旅人「あの子だよ、ほら〜?頭巾を被った子がいただろ?」
パッチ「あ……」
パッチ「(カロルくんの事だ…)」
325:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 16:55:38 ID:TbIaTri9k.
ダン「頭巾だと?まさか…!」
旅人「心当たりが?」
ダン「あぁ。おそらく村に忍び込んだ例のホビットだろう。
息子たちはそいつに騙されてんだ」
旅人「ほっほーう?なぁるほどねぇ?」ニヤリ
パッチ「ち、ちが…」
村長「それはどういう事だ!?」
パッチ「」ビクッ
ダン「……」
村長「子供とはいえ、村人までがホビットに毒されたなどと知れれば、いよいよタダでは済まんぞ!?」
ダン「だから…さっさと、あのホビットも宣教師も始末するべきだと言ったんだ!
それをあんたがモタモタやってるから…!」
村長「モタモタも何も話し合ったのは昨日の夜だろう!?
そんな早急に対応出来るか!」
ダン「し、しかし…!」
村長「…いつからだ?」
ダン「……昨日の朝です。あの宣教師に連れられて…」
村長「なるほどな。お前が焦っていたのも納得だ…」
ダン「申し訳ない…」
326:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 16:59:03 ID:NaSHqV57P6
村長「……どうしたものか」
旅人「あぁ〜。もういいかな?」
村長「はっ!す、すみませんな。内々の話で止めてしまいまして…」
旅人「いやいや、結構結構クックドゥルドゥーですよ」
村長「は?」キョトン
シーン
旅人「あらま。ウケなかった?
結構結構コケコッコーと思わせてクックドゥルドゥーと言うジョークだったんですがね?」
村長「は、はぁ…?」
村のおばさん「お、おほ。おほほ…。お、おもしろいジョークですこと…」ヒクヒク
テパ「(なに言ってんだ、こいつ?)」
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