むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
186:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:01:29 ID:f..8jqvYIw
村の子供3「ねえ、宣教師様。あの犬付いてくるよ?」スタスタ
宣教師「そうですね、服に気になる匂いでも付いていたんでしょうか?」スタスタ
犬「ワンッ!」スタスタ
村の子供2「」ドキドキ
187:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:03:21 ID:f..8jqvYIw
――教会――
宣教師「結局教会まで付いてきてしまいましたね」
犬「ワンッ!」
村の子供3「きっと宣教師様になついてるんだよ!」
村の子供2「」ドキドキ
宣教師「とりあえず入りましょうか」
村の子供2「このまま入ったら犬も入ってきちゃうじゃん!」
犬「ワンッ!」
村の子供2「お、俺イヤだぞ?」ドキドキ
犬「クゥン…」クーンクーン
村の子供3「そんなこと言ったらかわいそうだよ」
村の子供2「う……」ズキッ
宣教師「まぁ一応、借り物の教会は清潔に保ちたいので外で待たせておきましょうか」
村の子供3「えー!入れてあげようよ?」
犬「ワンッ!」
宣教師「だって野良ですよ?どこで何触ってるか分かんないじゃないですか?」
村の子供3「宣教師様って意外とシビアなんだね…」
宣教師「当然です。衛生面はしっかりしなければ」キッパリ
村の子供3「(て言うかボク、さっきまで普通に触ってたんだけど…)」
犬「クゥン…」クーンクーン
村の子供2「」ホッ
188:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:05:58 ID:Gs0K8eI9OM
村の子供3「ごめんね?」ナデナデ
宣教師「ここにいるのなら、おとなしくしておいてくださいね?」
犬「クゥン…」クーンクーン
ガチャッ バタンッ
犬「……ワンッ」
189:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:08:00 ID:f..8jqvYIw
母「あら、誰か帰ってきたみたいね?」
少年「宣教師さまかな?」パァァ
母「念のためお母さんが見てくるわ、坊やはここにいて?」
少年「え?」キョトン
母「もしかしたら宣教師様じゃないかもしれないでしょ?」
少年「な、ならボクが行くよ」
母「だめよ!いい子だからおとなしくしてなさい?」
少年「イヤだ!お母さまが人間にいじめられたら大変だもん!」
母「お願いだから聞き分けてちょうだい!たとえ教会でも安全とは限らないのよ?」
少年「イヤだ!ボクが行く!」
母「分からない子ね…!」
少年「お母さまが傷付くくらいならボクが傷付いた方がいい!」
母「あたしは嫌よ、坊やが傷付くところなんて見たくないわ!」
ガチャッ
少年「なんで分かってくれないのさ!」
母「分かってくれないのはあなたでしょ!?」
宣教師「あの…お取り込み中ですか?」
母&少年「えっ」
190:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:10:45 ID:Gs0K8eI9OM
少年「やっぱり宣教師さまだ!」パァァ
宣教師「えと、大丈夫ですか…?」オソルオソル
母「え、えぇ。ごめんなさい」
少年「お母さまは心配し過ぎだよ?」
母「まぁ!坊やこそ心配してたじゃない?」
少年「そんな事ないよ!ボクは宣教師さまって分かってたもん!」
母「もう!調子のいい事ばっかり…」
宣教師「」ニコッ
村の子供3「宣教師様…この人たちがホビットなの?」
宣教師「えぇ。そうですよ?」
村の子供2「なんだよ、全然怖くねーじゃん!」
母「? 宣教師様、その子たちは?」
宣教師「私が教えていた村の子供たちです。あなたたちに紹介しようと思いまして…」
191:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:12:58 ID:Gs0K8eI9OM
少年「」ハッ
宣教師「どうしました?」
母「あっそういえば……」
少年「…!」マジマジ
村の子供2「な、なんだよ?」
村の子供3「?」キョトン
少年「やっぱり!この前遊んでくれた子たちだ!」パァァ
村の子供2&3「えっ」
少年「ボクだよ、ボク!覚えてない?」
村の子供2「も、もしかして……!」
村の子供3「この前の女の子!?」
少年「えへへ!覚えててくれたんだね?」ニコッ
村の子供2「」ドキッ
母「……ぼ、坊や…」オロオロ
宣教師「大丈夫ですよ、お母様?」ニコッ
母「でも…」アセアセ
192:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:15:38 ID:f..8jqvYIw
村の子供3「キミってホビットだったの!?」
少年「あ、うん…内緒にしててごめんね?
ホビットのボクは、嫌いになっちゃうかな…?」オドオド
母「……」アセアセ
村の子供2「べ、別にホビットでもいいし!関係ねーもん!」
村の子供3「そうだよ、ボクらは友達じゃない?」
少年「……!」ウルッ
母「」ポロポロ
宣教師「」ニコニコ
村の子供2「な、なんだよ?みんなして…」アセアセ
少年「ううん…なんでも、ないよ?」ニッコリ
宣教師「ね?言った通りでしょう?」
母「はい。本当に…良かった」グスッ
村の子供2「なんだ?」キョトン
村の子供3「わかんない…」
193:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:17:59 ID:Gs0K8eI9OM
村の子供3「それにしても髪切ってるから分からなかったよ」
村の子供2「そうだよ、昨日はもうちょっと長かったじゃんか?」
少年「あはは。分かりにくくてごめんね?
でもアレはカツラだから髪を切った訳じゃないんだ」
村の子供3「えっ」
村の子供2「なんでカツラなんか被ったんだ?ハゲてないのに」
少年「は、はは…ホビットだって思われない為に女の子のカッコをしてたの」
村の子供2「へ?女の子のカッコ?」
村の子供3「まさかキミ…男なの?」
少年「う、うん。実はそうなんだ…」カァァ
村の子供3「えぇ!気付かなかったよ!?」
村の子供2「」ガーン
村の子供3「(あ、ショック受けてる)」チラッ
194:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:20:14 ID:Gs0K8eI9OM
少年「恥ずかしかったけど、お母さまに言われたからしかたなく、ね…」
村の子供2「(俺、ずっと男にドキドキしてたのかよ…)」ズーン
村の子供3「(かける言葉が見つからない…)」
少年「ど、どうしたの?」キョトン
村の子供2「なんでもねーよ…」
村の子供3「どんまい」ポンッ
村の子供2「うるせー!」
少年「……?」
宣教師「ふふ。すっかり仲良しさんですね?」ニコニコ
母「そうですねぇ」ニコニコ
195:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:18:14 ID:iqCPsQL3wQ
――一時間後――
村の子供2「それでさ!俺がググッと竿を引いたらこーんなに大きい魚が釣れたんだぜ!」
少年「えぇ!すごいや!?」
村の子供3「ウソだよ、もっと小さかったじゃない」
少年「そうなの?」
村の子供2「ウソじゃねーよ!ほんとにデカかったんだぞ!」
村の子供3「違うよ、実際はこのくらいでしょ?」
村の子供2「そんなちっちゃくねーっつの!」
少年「あはは。どっちがホントなのかわかんないや」
村の子供2「俺の話がホントなんだよ!こいつがウソ言ってんだ!」
村の子供3「違うよ、ボク嘘つかないもん」
村の子供2「俺が嘘つくみたいじゃんか!」
少年「じゃあどっちもホントだね!」
村の子供2「なんでそうなんだよ!?」ズルッ
村の子供3「あ、あはは。それはちょっと違うと思うなぁ…」
196:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:22:43 ID:zpo9dpEiuU
母「子供っておもしろいわねぇ。さっきまで落ち込んでたと思えば仲良くおしゃべりして…」
宣教師「確かに、あそこまで噛み合っていないのに会話が成立してるんですから不思議ですね」
母「……あの子たちのようにホビットと人間が分かり合えれば、どれだけ救われるかしら」
宣教師「きっと、そうなりますよ」
母「……そうね、そうなってくれたら…」
宣教師「そうなる為の鍵は、次の時代を生きるあの子たちにあります。
私たちは少しでも彼らの安らげる世界を開くきっかけとなりましょう」
母「本当に、いいの?あたし達といればあなたは…」
宣教師「昨晩話し合って決めた事です。
神に仕える者として曲げるつもりはありません」
母「ごめんなさい…」
宣教師「やめてください、私はあなたたち親子の力になりたいだけなのですから…」
母「……あたし、坊やにさんざん人間を憎まないよう言ってきたけれど、本当は自分の憎しみを誤魔化してきただけなのかもしれないわね…」
母「あなたやあの子たちを見ていると、人間はこんなにキレイなんだと思わされるの…」
宣教師「そんな事はありませんよ?
その証拠にあなたの息子さんは、透き通るほどに純粋な心を持っています。
母親であるあなたが穢れ無き愛情を注いだからこそ、憎しみに呑まれず育ってくれたのです」
母「そんな…あたしは……」
村の子供2「ねぇねぇ!腹減ったー!」
母「きゃっ!びっくりした…」
197:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:25:11 ID:iqCPsQL3wQ
宣教師「そういえばお昼を食べてませんでしたね」
母「あらあら、何か作りましょうか?」
村の子供2「俺、ステーキ食べたい!」
母「す、ステーキは…あるかしら?」
宣教師「す、すみません。お肉は用意してないです…」
母「確かにお野菜しか入ってないわね…」ガサゴソ
宣教師「村の方々の施しで生活していたものですから、あまり高価なお肉などは…」
母「宣教師様らしいですね?」クスクス
宣教師「お恥ずかしい…」
198:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:26:53 ID:iqCPsQL3wQ
村の子供2「ねぇ!ステーキまだ?」
母「残念だけどお肉が無いからステーキは作れないわね」
村の子供2「えー!」
宣教師「なぜキミは他人の家で臆面も無くステーキを食べたいなどと言えるのですか…。
あるなら自分で食べてますよ…」
母「他に食べたい物はない?」ニコッ
村の子供2「じゃあスパゲッティ!」
宣教師「……野菜しか無いのでスパゲッティは…」
母「え、えぇと…ならサラダはどうかしら?ヘルシーだし、とっても健康にいいのよ?」
村の子供2「えー俺、野菜食えない!」
母「あら、好き嫌いはよくないわよ?
それにおいしくなる魔法をかけておくから安心してちょうだい?」
村の子供2「えっ!おばさん魔法使えるの!?」
母「そうよ?どんな料理もおいしく出来上がる魔法が使えるの!」
村の子供2「わー!おばさんスゲーや!」
母「ふふ。楽しみに待ってなさい?」ニコニコ
村の子供2「うん、わかった!」タタタッ
母「さて、腕によりをかけて作りますから宣教師様も少し待っててくださいね?」
宣教師「えぇ、楽しみにしています。
では私は子供たちの所へ行ってますよ」
199:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:30:36 ID:zpo9dpEiuU
村の子供2「なぁなぁ!お前の母ちゃんすごいんだな!」
少年「へ?何がすごいの?」
村の子供2「どんな食べ物もおいしくなる魔法使えるんだってよ!」
村の子供3「(それって単純に料理上手アピールなんじゃ…)」
少年「えっ!そうだったんだ!ボク知らなかった!」
村の子供2「えー!じゃあウソなんじゃねーの?」
少年「でもお母さまの作るご飯はスゴくおいしいよ?」
宣教師「それはそれは楽しみですね」
村の子供3「あっ宣教師様!」
宣教師「とりあえず彼のお母様の料理が出来るまでビスケットでもいかがかと思いまして」
村の子供3「やった!」
少年「ボク、宣教師様のビスケット大好き!」
村の子供2「はぁ!?俺の方が好きだし!」
村の子供3「いや、どこで競ってんのさ?」
宣教師「たくさんありますから、仲良く分けてくださいね?」ニコニコ
3人「はーい!!!」
200:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:33:28 ID:zpo9dpEiuU
村の子供2「あーおいしかった!」
少年「えへへ!ホントにおいしかったね!」
村の子供3「2くんが一番食べてたね」クスクス
村の子供2「なんだよ!別にいいじゃんか!」
宣教師「満足してくれたようでなによりです」ニコニコ
母「さ、出来たわよ。みんな!」
宣教師「おや、メインが来まし…た…ね」ビクッ
村の子供2「え…おばちゃん…なにそれ…」ゼツボウ
村の子供3「(なにこれ…サラダが煙上げてる)」
少年「わー!おいしそう!」キラキラ
母「うふふ。自信作よ?」
3人「えっ」
201:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:35:24 ID:iqCPsQL3wQ
少年「ごちそうさま!」
宣教師「(普通に完食した…だと…?)」
村の子供2「これが…おいしくなる魔法…?」
村の子供3「(魔法だとしたら間違いなく黒魔術だよ…)」
母「あら、みんな箸が進んでないみたいだけど、お気に召さなかったかしら?」シュン
村の子供2「だってこれ…もがっ!?」
村の子供3「な、なんでもないですよ!?」ガシッ
村の子供2「もがもが!?」ジタバタ
宣教師「は、はは…」ヒクヒク
母「?」
202:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:36:48 ID:zpo9dpEiuU
少年「みんなさっきビスケットいっぱい食べちゃったもんね?」
村の子供3「そうそう!そうなんですよ!!」
村の子供2「ぷはっ!離せよ!」バッ
宣教師「わ、私ももともと少食なので」
母「まぁ!それなら言ってくれたら良かったのに!デザートも用意してたのよ?」
3人「えっ」
少年「ボク食べたい!」
3人「えっ?」
203:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:38:46 ID:zpo9dpEiuU
少年「」パクパク
少年「」モグモグ
少年「」ゴックン
少年「もうお腹いっぱい!」ニッコリ
村の子供2「ぜ、全部食いやがった…」
村の子供3「しかもボクらの分まで…」
宣教師「(なかなかどうしてこの子は侮れない…)」ゴクリ
母「坊やは本当に食いしん坊ね」ニコニコ
少年「だってお母さまのご飯がおいしいんだもの!」
母「そうねぇ。
泥水を啜ったり虫を食べたり、木の幹をかじって蜜を舐めてた頃に比べたらご馳走かもしれないわね?」ニコニコ
村の子供2「え…」ギョッ
村の子供3「なんでそんな…?」ヒクヒク
宣教師「(なるほど、納得です…)」シミジミ
204:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:41:38 ID:iqCPsQL3wQ
――夕方――
村の子供2「で、俺が後ろからワッ!てやったんだ!そしたらこいつ逃げてったんだぜ?」
少年「そ、そんな事したらだめだよぉ」
村の子供3「2くんがいきなり驚かせるからだろ?
それにすぐ分かったもん」
村の子供2「ウソだー!お前半べそかいてたじゃん!」
村の子供3「かいてないよ!?」
村の子供2「かいてただろ!」
村の子供3「かいてないって言ってるだろ!」
少年「ふ、二人とも…」オロオロ
村の子供2「なにをっ!」ガッ
村の子供3「なにすんだよ!」ガシッ
少年「け、ケンカしちゃだめだよ!」バッ
村の子供2「邪魔すんなよ!」ドンッ
少年「いたっ…!」ドサッ
村の子供3「なにしてんのさ!」
村の子供2「うるせー!こいつホビットのクセに生意気なんだよ!」
少年「え?」ドクンッ
205:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:44:41 ID:zpo9dpEiuU
村の子供3「ば、バカ!」アセアセ
村の子供2「」ハッ
少年「……」シュン
村の子供2「……」
村の子供3「もう…」
少年「」ウルッ
村の子供2「あ、その…ご、ごめんな?」
少年「ううん、大丈夫だよ…。気にしないで?」ニコッ
村の子供2「」ズキッ
村の子供3「ほ、ホントに大丈夫?」
少年「うん。ボクは平気!それより、もうケンカはだめだからね?」ニコニコ
村の子供2「お、おう…」
村の子供3「うん、わかったよ…」
少年「じゃあ二人とも仲直りしよっか!」
村の子供2「そ、そうだな。さっきはごめんな」
村の子供3「ボクもごめん。ついカッとなっちゃって」
少年「うんうん!これでおしまい!また楽しくお話しようよ!」
村の子供2「そ、そうだな!」
村の子供3「うん!」
754.79 KBytes
[4]最25 [5]最50 [6]最75
[*]前20 [0]戻る [#]次20
【うpろだ】
【スレ機能】【顔文字】