むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
2:🎄 名無しさん@読者の声:2012/12/23(日) 21:22:55 ID:apUuk9iOiY
互いを愛し、慈しむ心を持つ人間は大地と共に生きて言葉の通じぬ獣、目に見えぬものにまで感謝を示し、天に祈りを捧げます。
天上からその様子を見ていた神は人間を生命の最たる種族とし、大地を治めさせようと考えました。
その旨を伝える為、神は使いとしてホビットを大地に送ります。
大地に赴いたホビットは人間達に神の前に立つ一人を選ぶよう告げます。
人間達は悩み、悩みぬいた末に人望があり、勇敢さと正義感を併せ持つ一人の若者に役目を委ねました。
3:🎄 名無しさん@読者の声:2012/12/23(日) 21:23:55 ID:apUuk9iOiY
ホビットは若者を連れて天上へと続く大樹を案内し、
天に住まう神に引き会わせます。
神は若者に人間の長となり、
大地を清らかに保つとともに生命を統一するよう命じました。
若者は与えられた使命を硬く守ると誓い、
引き換えに癒しの力を戴きます。
4:🎄 名無しさん@読者の声:2012/12/23(日) 21:24:47 ID:apUuk9iOiY
神は言いました。
「すべての命に宿る血の一滴に至るまで愛するのです。」
「深く学び、広く知り、好奇心を以て接するのです。」
「大いなる愛が失われぬ限り、力は癒しとなり
魂を覆う深淵の闇を祓うでしょう………」
5:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:27:05 ID:apUuk9iOiY
――プロローグ――
宣教師「若者は神の言葉を重く受け止め、
人と大地を愛し、癒し続けました
と、聖書の内容はこのように終わっていますが、
皆さんはお話の続きを知っていますか?」
村の子供1「はい!」
宣教師「どうぞ」
村の子供1「ホビットが癒しの力をボクたちから盗みましたー!」
宣教師「素晴らしい、その通りです。
ホビットは神に選ばれた人間を妬み、
長を殺めた挙げ句にあろうことか力を奪ってしまったのです!
1くん、キミはとても優秀ですね。
神のご加護と一枚のビスケットを与えましょう」つ【ビスケット】
村の子供1「わーい!ビスケットだぁ!」ワーイワーイ
村の子供2「そりゃ知ってるに決まってるよ」コショコショ
村の子供3「毎日だもんね。
恒例のビスケットもすっかり早い者勝ちさ」コショコショ
村の子供2「そうそう、どうせまた同じ事を言うんだ」コショコショ
村の子供3「うん、村の外れにいるホビットの話でしょ」コショコショ
6:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:28:44 ID:apUuk9iOiY
宣教師「いいですか。
ホビットというのは非常にずる賢く、罪深き種族です。
村の外れにも忌々しいホビットの親子が住んでいますが
決して心を許してはなりません。いいですね?」
村の子供1「はーい!」
村の子供2「ほらな?」コショコショ
村の子供3「しょうがないよ。
お母さんも子供の頃から聞かされたって言ってたもん」コショコショ
宣教師「そこの二人、返事はどうしました?」
村の子供2&3「あっ…は、はい!」
7:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:29:42 ID:apUuk9iOiY
宣教師「……今日はここまで!
返事の良かった1くん、キミにはもう一枚ビスケットを差し上げましょう」つ【ビスケット】
村の子供1「わーい!」ワーイワーイ
村の子供2「あっ!ずるい!」プンスカ
村の子供3「1くんばっかり!」プンスカ
宣教師「黙りなさい、ちゃんとお話を聞かなかった罰です」
村の子供2「ちぇっ!」
宣教師「代わりと言ってはなんですが、キミ達には神のご加護を……」
村の子供3「えー!いらなーい!」
村の子供2「かみのごかごでお腹いっぱいになんないもんな」
宣教師「なっ!あ、ありがたい祈りに対してなんたる冒涜を!
これだから最近の子供は……」ブツクサ
8:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:32:28 ID:lvsJdXSM9o
宣教師「最近の子供はねじ曲がっています。
これがゆとり教育の弊害というものなのでしょうか…」スタスタ
村の大人1「おい!待て、このクソガキィ!!」
ワイワイガヤガヤ
宣教師「おや、一体なんの騒ぎでしょう?
人通りの多い市場でトラブルとは珍しい」
村の大人1「おら!捕まえたぞ。
ガキの分際でてこずらせやがって!」グイッ
少年「っ…!」
9:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:33:50 ID:apUuk9iOiY
村の大人2「バカなガキだぜ。
とりあえずどうするよ?」
村の大人1「けっ!決まってんだろ。
痛い目見せてやんのよ」
村の大人2「それもそうだなwww」ドッ
少年「うぅ…ごめんなさい…ごめんなさい…」ブルブル
10:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:35:59 ID:lvsJdXSM9o
宣教師「これは一体…大人が二人がかりで子供をいたぶるなど…。
神に仕える者として見過ごせませんね」
村娘「あら、宣教師様じゃありませんか。
ごきげんよう」
宣教師「村娘さん、ちょうどよいところに。
これは一体なんの騒ぎですか?」
村娘「…なんでもホビットが村に忍び込んできたそうですよ」
宣教師「な、なんですって!
それは由々しき事態です!」
村娘「うふふ、もう大丈夫ですよ。
村の大人二人が買い物をしていた所を見つけて捕まえたみたい」
宣教師「なるほど、それであの騒ぎに?」
村娘「えぇ、バカな子ですね。
ホビットが人間の村に入って来るなんて」
宣教師「ふむ……」
11:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:37:22 ID:apUuk9iOiY
村の大人1「おとなしくしやがれ!」バキッ
少年「うぐっ…」ドサッ
村の大人2「生意気に頭巾まで被って変装するなんてな。
ずる賢いホビットらしいぜ」
村の大人1「二度と村に入って来ねぇように痛め付けなきゃな!」
少年「ヒック…グスッ…ごめんなさい…」
村の大人1「うるせぇ!」バキッ
12:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:38:54 ID:apUuk9iOiY
少年「っ……!」ゲホゲホ
村の大人2「ははは!
腹に蹴りくらって悶絶してらwww」
村の大人1「んじゃもう一発おみまいするかwww」ドカッ
少年「っ……!」ギュッ
村の大人3「おい!
お前ら子供になにやってんだ!」
村の大人2「バーカ!こいつはホビットだぜwww」
村の大人3「あぁ…なんだ、ホビットか」
村の大人1「お前もやるか?」
村の大人3「そうだな。
せっかくだしやっとくか」
少年「」ビクッ
13:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:45:53 ID:lvsJdXSM9o
バキッ ガッ ドカッ ドスッ
宣教師「………」
村娘「あらま、いくらホビットだからってやりすぎじゃないかしら」
宣教師「……ホビットは罪深き種族。
何をされてもしかたがありません」
村娘「うふふ、それもそうですね?
私達は悪くない。罪を犯したのはホビットなんですもの」
宣教師「………」
村娘「では宣教師様、私は買い物の途中なので失礼します」ペコリ
宣教師「…えぇ。お気をつけて」ペコリ
14:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:47:34 ID:apUuk9iOiY
少年「……」グッタリ
村の大人1「ふースッキリしたなぁ」
村の大人3「おかげで手が疲れちまった」
村の大人2「お前らやりすぎだろwww
こいつ死んだんじゃねwww」
村の大人1「死んだところで知ったこっちゃねぇよ」
村の大人2「そりゃそうだwww」
村の大人3「とりあえずこいつを村の外に運ぶぞ。
道にこんなのが転がってちゃ邪魔だ」
宣教師「待ちなさい」
15:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:49:32 ID:lvsJdXSM9o
村の大人1「あ?っと。
これはこれは宣教師様」
宣教師「……その少年、私が送り届けましょう」
村の大人3「そっそんな!
わざわざ宣教師様にこのような事をさせられませんよ!」
宣教師「大丈夫です。
汚れ役を買って出るのも神のしもべとして当然のこと。
あなた達は自分の持ち場に戻りなさい」
村の大人1「はぁ…。宣教師様がそう言われるのなら…
では、失礼します。
おい、行くぞ!」スタスタ
村の大人2&3「ちょっ待てよ」スタスタ
宣教師「………」チラッ
少年「……」グッタリ
16:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:53:05 ID:apUuk9iOiY
???「ずる賢いホビットめ。
我々の目を盗んで森の奥に集落を作っていたとはな」
???「この世界にお前たちの居場所などない!」
???「あぁ…村が焼けている…」
???「見つけたぞ!殺せ!
一匹たりとも逃すな!」
???「待て!子供に手を出すつもりか!」
???「せめて、お前たちだけでもっ……!」
メラメラ メラメラ
17:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:55:15 ID:lvsJdXSM9o
少年「」ガバッ
少年「」ハッ
少年「……ゆ…め…?」
宣教師「目が覚めましたか?」
少年「」ビクッ
宣教師「安心しなさい、何もしませんよ」
少年「……」ブルブル
宣教師「……落ち着きなさい」
少年「…ご、ごめん…なさい」ブルブル
宣教師「…謝らなくてよろしい。
そうだ、ビスケットでもいかがですか?」つ【ビスケット】
少年「……!」パァァ
宣教師「……(分かりやすい)」
18:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:58:06 ID:apUuk9iOiY
少年「」サクッサクッ
少年「」パァァ
宣教師「……(ビスケット一枚でこんなに幸せそうに…)」
少年「」ハッ
少年「ごめんなさい…」シュン
宣教師「あっいえ、気にしないでください…」
少年「……」
宣教師「……」
少年「……」
宣教師「……」
宣教師「(き、気まずい…)」
19:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 21:59:19 ID:lvsJdXSM9o
少年「あ、あの…」
宣教師「はいっ」ビクッ
少年「あっ…ごめんなさい…」
宣教師「あっいや、どうしました…?」
少年「その…どうして…ボクを?」
宣教師「えっ」
少年「」ビクッ
20:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 22:05:09 ID:lvsJdXSM9o
宣教師「あっいや、その…どうしてと言われましても」
少年「…小さい頃、おじいさまが言ってました。
神に仕える人間は人一倍、ボクたちを嫌ってるって…」
宣教師「え、えぇ。まぁ…」
少年「……どうして、ですか…?」
宣教師「(い、言えない。
神に仕える身でありながらホビットを哀れに思ったなんて…)」
少年「……?」キョトン
宣教師「」キュンッ
宣教師「えっ」
少年「」ビクッ
21:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 22:10:33 ID:apUuk9iOiY
宣教師「(い、今もしかして私…。
いや、ありえない。何かの間違いに決まってます!
そうですよ、不気味な黄色い眼で見つめられたって)」
少年「」ジーッ
宣教師「」キュンッ
22:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 22:12:11 ID:lvsJdXSM9o
少年「……あっ!」バッ
宣教師「えっ」ビクッ
少年「ごめんなさい!ボク…家に帰らなきゃ!」
宣教師「そ、そうですか。
しかし先ほどのケガが…」ドキドキ
少年「だ、大丈夫です!
……ありがとうございました!」ペコリ
宣教師「い、いえ。そんなお構い無く」ドキドキ
少年「」ダッ ガチャッ バタンッ
宣教師「行ってしまった……」ドキドキ
23:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 22:14:29 ID:apUuk9iOiY
宣教師「それにしても」
宣教師「あれほどのケガを負って短時間で動ける程度に回復するとは」
宣教師「(あれが例の癒しの力……)」
宣教師「(いや、違う。癒しとはもたらす力)」
宣教師「(それにホビットが自己再生できるなんて聞いた事がない)」
宣教師「(あの子は一体……)」
宣教師「まあいいでしょう。
今は明日の分のビスケットを焼かなければ」
宣教師「………あの子にも焼いてあげますかね」
24:🎄 名無しさん@読者の声:2012/12/23(日) 22:34:00 ID:vTG5urokkw
すごくいい 支援
25:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/23(日) 22:49:58 ID:awL1.A7dcc
>>24さん
支援ありがとうございますm(__)m
正直初めてのSSで手を震わせながら投稿ボタンを押しているような状況ですが
暖かい目で見ていただけると助かります。
今日はここで切っておきます。
おやすみなさい。
26:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 09:28:03 ID:hTsbsopuA2
――村外れの民家――
少年「」タタタッ
少年「はぁっ…はぁっ…」
少年「」ニコニコ
少年「」ハッ
少年「」ブンブン
少年「……」
少年「」ギュッ
少年「ただいま」ガチャッ
27:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 09:29:52 ID:hTsbsopuA2
母「おかえりなさい。
ずいぶん遅かったのね?」
少年「うん、ちょっとね」
母「そう」
少年「うん」
母「」ジーッ
少年「な、なに?」
母「どこに行ってたの?」
少年「か、川でマルクと遊んでたんだ。
そしたら夢中になっちゃって。それで……」
母「……あらあら、じゃあ泳いできたのかしら?」
少年「う、うん」プイッ
母「楽しかったでしょうねぇ。
あなたの目も泳ぎ足りないと言ってるわ」クスクス
少年「え……」アセアセ
28:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 09:31:58 ID:h173FRh8P2
母「まぁ!人間の村へ行ったの?」
少年「……ごめんなさい。お母さま」
母「……人間に見つからなかった?」
少年「」ドキッ
少年「うん、見つかってないよ…」
母「ふふ、また目が泳いでる」
少年「うぅ…」カァァ
29:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 09:33:01 ID:hTsbsopuA2
母「おいで、わたしのかわいいぼうや」
少年「…うん」ダキッ
母「ふふ…いつまで経っても甘えん坊ね」
少年「……だめ?」ジーッ
母「いいのよ、あなたは私のかわいい息子だもの」ナデナデ
少年「えへへ。うれしい」ニコニコ
30:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 09:34:22 ID:h173FRh8P2
母「……そう」
母「あなたは私のたった一人の家族」
母「世界で一番愛してるわ。誰よりも」
母「だからこそ、誰よりもあなたを失いたくないのよ」
母「ああ、私のかわいい坊や」ダキッ
少年「お母さま…?」
31:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 09:37:09 ID:hTsbsopuA2
母「見つかったんでしょう?」
母「人間に、何をされたの?」
少年「っ……!」ギュッ
母「目を閉じても分かるわ」
母「こうして抱き締めていると、分かるの」
母「あなたの胸からポタポタと音がする。
心が涙をこぼしているのが聴こえるわ」
32:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 09:38:27 ID:h173FRh8P2
少年「」ウルッ
少年「……」ウルウル
少年「う、うぅ…」ポタポタ
少年「わああぁぁん!!」ポタポタ
母「辛かったでしょう。もう大丈夫よ」ナデナデ
33:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 09:39:58 ID:h173FRh8P2
少年「ヒック…グスッ……」キュッキュッ
母「あらあら、こすっちゃだめよ。
目が傷付いてしまうわ?」
少年「グスッ…ごめんなさい…」
母「いいのよ。それにしてもどうして人間の村へ?」
少年「………」
母「おしえて?」
少年「いやだ……」
母「まぁ…どうして?」キョトン
少年「だって…お母さまを悲しませたくないもの」
34:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 09:41:32 ID:h173FRh8P2
母「…ふふ、あなたは本当に心優しい子。」
母「でもね、坊や。
あなたがどんなにひどい言葉をぶつけるより」
母「私を嫌いになってしまうより」
母「あなたが独りで抱え込んでしまう方がよっぽど辛いわ」
少年「お母さま……」ウルッ
母「ふふふ。やっぱり嫌われるのもショックかも?」ニコニコ
少年「………」ダキッ
35:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 09:46:20 ID:h173FRh8P2
母「話す気になってくれた?」ポンポン
少年「うん。実はね…友達が欲しかったの」
母「そう」ニコニコ
少年「悲しく…ないの?」
母「あら、どうして?」
少年「だって……」
母「お友達が欲しいなんて、当たり前のことじゃない。
あなたが誰と仲良くしても私はダメなんて言わないわ」
母「(……そうよね。
私以外知らないんだもの。
マルクは…友達と言っても言葉を交わせない野生の獣。
この子は一緒に笑いながら
たくさん遊べる仲間が欲しかったんだわ。
それでも気を使って、
寂しさを奥底にしまって…。
人間に求めてしまったのね…)」
少年「そっか」ニコニコ
母「そうよ?」ニコニコ
36:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 09:47:39 ID:hTsbsopuA2
少年「それとね?」
母「うん」ニコニコ
少年「友達が、できたの」ニコッ
母「うんうん」ニコニコ
母「うん……?」
母「えっ」
37:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 09:49:57 ID:h173FRh8P2
少年「お母さま?」キョトン
母「あっううん、なんでもないのよ。
続けてちょうだい?」アセアセ
少年「うん。それでね。女の人なの」
母「へぇ。女の子と仲良くなったの。
すごいじゃない?」
少年「ううん。大人の人間だよ」
母「えっ」
少年「へ?」キョトン
38:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 09:52:54 ID:h173FRh8P2
母「あ、あーら…そ、そうなの」
少年「うん。ビスケットくれたんだ!」パァァ
母「そ、そう…?」
少年「おいしかったよ!」ニコニコ
母「よ、よかったわねぇ」ニコニコ
母「(大人の女性と友達なんて、冗談よね…?
もしかして変な趣味の人じゃ…?
ま、まさかねぇ…?
でもこの子が言ってる事だし…)」アセアセ
39:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 10:01:14 ID:h173FRh8P2
――教会――
宣教師「くしゅんっ」
宣教師「……風邪でしょうか?」
宣教師「……まあいいです」
宣教師「ふむ、おいしそうに焼けました」
宣教師「村の子供の分とあの子の分は別に分けておきましょう」
宣教師「ふぁぁ…」
宣教師「夜も更けましたし寝ましょうか」
宣教師「」ハッ
宣教師「……そういえば、あの子の家を知りません」
40:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 10:03:25 ID:hTsbsopuA2
少年「それでねっ!ボクお礼しに行きたいの!」
母「そうねぇ。じゃあ明日、一緒に行きましょうか」
少年「うんっ!」パァァ
母「(うふふ。嬉しそうねぇ。
この子が私以外に感情を向けるなんて初めてだから、なんだか私まで嬉しいわ)」ニコニコ
少年「あっそうだ!
おみやげに庭のカリアムで花束を作ろうかな!」
母「いいわねぇ。
でも今日は遅いから、それは明日にしましょうか?」
少年「あっうん…そうだね。」シュン
母「大丈夫よ、坊や。
明日は逃げたりしないから」
少年「うん!歯磨きしてくるね!」タタッ
母「まぁまぁ。
家の中で走っちゃだめじゃない?」ニコニコ
41:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 10:05:22 ID:h173FRh8P2
少年「おやすみなさい。お母さま」
母「おやすみなさい。かわいい坊や」
少年「ふふっ」ワクワク
母「(あんまり楽しみで寝れないのね。
うふふ。困った子だわ)」ニコニコ
少年「お母さま」ワクワク
母「なぁに?」ニコニコ
少年「早く明日にならないかな?」ワクワク
母「まぁ?」ニコニコ
少年「ボクずっと起きてようかな?」ワクワク
母「夜更かしする悪い子は朝ごはん抜きよ」
少年「はーい…」シュン
42:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 10:07:14 ID:h173FRh8P2
少年「おやすみなさい」ギュッ
母「おやすみなさい」ニコニコ
少年「」ウトウト
少年「」スピー
母「……まだまだ子供ね」クスクス
母「生まれてくれてありがとう。
私のかわいい坊や」
母「……」
母「」スースー
43:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 14:40:14 ID:p9j21mNoUI
オギャァ オギャァ オギャァ オギャァ
???「あなた…見て?」
???「グズッ…ズズッ…ヒック…」ポタポタ
???「もう…ちゃんと見てあげて!」
???「す、すまん…」フキフキ
???「ほら、玉のように愛らしい。
私たちの子供なのよ?」
???「あぁ…言葉を忘れるほどに愛しい。
俺にも抱かせてくれないか?」
???「えぇ、そうしてあげて」スッ
???「おぉ…」ヒシッ
44:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 14:41:25 ID:CA0eW9E7MM
オギャァ オギャァ
???「おっと、泣かせてしまったか?」アセアセ
???「違うわ。きっと喜んでいるのよ」
???「……そうか」
???「……あなた?」
???「この子は、幸せになれるだろうか?」
???「あなた…」
???「……すまない」
???「…大丈夫。幸せになれるわ。
私たちも、この子も…」
オギャァ オギャァ
45:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 14:42:48 ID:CA0eW9E7MM
――――
少年「うぅん……また、夢…」ゴソゴソ
少年「あったかい…夢…」
母「あら、起きたの?」カチャカチャ
少年「うん、おはよう。お母さま」
母「おはよう。朝ごはんが出来てるわよ」
少年「はーい」タタタッ
46:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 14:44:30 ID:p9j21mNoUI
少年「」パクパク
少年「」モグモグ
少年「」ゴクゴク
母「そんなに急いで食べたら詰まらせちゃうわよ?」
少年「だ、だって…」
母「心配しなくても、まだお日様は沈まないわ」クスッ
少年「う、うん!」パクパク
47:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 14:46:54 ID:p9j21mNoUI
少年「ごちそうさま!」
母「おいしかった?」
少年「うん!」
母「そう?ならよかったわ」ニコニコ
少年「ボク、庭に行ってくるね」
母「えぇ。いってらっしゃい」
少年「いってきまーす!」
ガチャッ バタンッ
母「人間の女性でお友達、ねぇ。
どんな方なのかしら?
坊やの言うように優しい方だといいけれど…」
48:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 14:49:06 ID:p9j21mNoUI
少年「〜〜〜」ルンルン
少年「えへへ。いっぱい摘んじゃった。
あの人、喜んでくれるかな?」
旅人「坊や」
少年「」ビクッ
少年「……?」クルッ
旅人「おっと、驚かせてしまったか。
すまないね、君はこの家の子かね?」
少年「う、うん…」
旅人「ははっ!そうか。そうか。
ご両親はいるのかな?」
少年「お母さまがいるよ」
旅人「そうか。ありがとう」ナデナデ
少年「……(悪い人間じゃなさそう)」
49:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 14:50:26 ID:CA0eW9E7MM
コンコン
母「はーい」
母「(誰かしら?私たちの家を訪ねる人なんていない筈なのに…)」
母「………」
コンコン
母「あ、はい。今出ます」ガチャッ
50:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 14:52:04 ID:p9j21mNoUI
旅人「突然申し訳ないね」
母「いえいえ、お気になさらないでください。
失礼ですが、どなた?」
旅人「旅の者でね、村を探しているんだが心当たりは無いかね?」
母「そうですか。それならこの道を南に抜けると村がありますわ」
旅人「そうか。ありがとう。
では失礼するよ」
母「いえいえ、お気を付けて」
バタン
母「あの人、私の目を見ても驚かなかったわね。
単に気付かなかっただけかしら?」
51:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 14:52:56 ID:p9j21mNoUI
旅人「………」スタスタ
旅人「あれは間違いなくホビットの親子だな」
旅人「くっ…くくくっ!」
旅人「ははははは!!」
旅人「ぎゃはははははは!!……」
旅人「っ……!」ゲホッゲホッ
旅人「……まずは村に行くか」
旅人「」スタスタ
52:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 14:54:19 ID:CA0eW9E7MM
少年「お母さま!見て!
たくさん花を摘んできたよ!」
母「……あらあら」
母「(庭のカリアムを全部摘んじゃったのね…)」
少年「お母さま?」
母「あ、えぇ。大きな花束が出来そうね」ニコニコ
少年「うん!」パァァ
母「………」
母「初めてのお友達だもの。
はりきっちゃうわよね」
53:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 14:55:51 ID:CA0eW9E7MM
少年「お母さま!花束出来た!」
母「まぁ大きい!」
少年「あの人、喜ぶかな?」
母「きっと大喜びよ」ニッコリ
少年「えへへ」テレテレ
母「そろそろ行きましょうか?」
少年「うん!」
54:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 14:59:28 ID:CA0eW9E7MM
――村――
宣教師「と、聖書の内容はこのように終わっていますが……」
村の子供2「はい!」
宣教師「ん?」
村の子供2「ホビットが癒しの力を盗んだ!」
宣教師「お話の途中で答えるんじゃありません」
村の子供2「いいからビスケットー!」
宣教師「却下します」ムスッ
村の子供2「えー!」
宣教師「お話の邪魔をした罰です!」
村の子供2「はいはい。わかりましたー」
宣教師「はいは一回でよろしい」
村の子供2「は〜〜い」
宣教師「めんどくさそうに言うんじゃありません!」
村の子供2「はい…」ムスッ
村の子供3「はは…まぁまぁ」
村の子供2「ふん」プイッ
55:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 15:04:41 ID:p9j21mNoUI
宣教師「……今日はここまでにします」
村の子供1「宣教師様、ビスケット食べたい!」
宣教師「えぇ。いいですよ。
お話を聞いていたご褒美です」つ【ビスケット】
村の子供3「あ、ボクも!」
宣教師「はいはい。たくさんありますからね。
たんとお食べなさい」つ【ビスケット】
村の子供2「」ムスッ
宣教師「さて、2くん。あなたには神のご加護を……」
村の子供2「いらない!」ダッ
宣教師「……」ガーン
56:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 15:07:13 ID:p9j21mNoUI
宣教師「最近の子供はわがままです。
これが文明の進化による心の貧困なのでしょうか」スタスタ
村の大人1「あ、宣教師様!
昨日はありがとうございました」
宣教師「おや、あなたは昨日の……。
いえ、神に仕える者として当然の事をしたまでです」
村の大人1「いやぁ。
我々も昨日は良い行いが出来て、気持ちよく寝れましたよ」
宣教師「…それはなによりです」
村の大人1「そういえば昨日のガキはどうしたんですか?」
宣教師「さぁ。もう住み処に帰ったのではないでしょうか」
村の大人1「まだくたばってないんですか。
あいつらはやっぱりしぶといですなぁ」
宣教師「……」
57:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 15:08:11 ID:CA0eW9E7MM
村の大人1「慈悲深い司祭様が殺すなとおっしゃるから我々も生かしてやってますが
わきまえずに村に侵入するなんざとんでもない話ですよ!」
宣教師「……そうですね。
あ、時にあなたはホビットの住み処を知っていますか?」
村の大人1「ホビットの?
いやぁ知りませんね。
昔から村の外れに住んでるとは聞いてますが、
わざわざ薄汚いホビットを探そうなんて村人もいませんからね」
宣教師「そうですか…。それは残念です」
村の大人1「えっ」
宣教師「」ハッ
58:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/24(月) 15:09:30 ID:CA0eW9E7MM
村の大人1「宣教師様、今のはどういう意味で?」
宣教師「ち、違います!邪推するんじゃありません!
残念というのは…そう!
昨日の子供から住み処を聞き出せなかったのが悔しいのです!」アセアセ
村の大人1「あ、あいつらの住み処なんて暴いてどうするんで?」
宣教師「え?そ、それはもちろん……」アセアセ
村の大人1「もちろん?」
宣教師「ひ、火です!火を放つのです!
不浄の血は清らかな大地の妨げになります!
神罰を以て粛清しなければなりません!」アワアワ
村の大人1「おぉ!なるほど!
それは素晴らしいですな!
さっそく司祭様に提案しましょう!」
宣教師「なっ……!
待ちなさい、司祭様が来てらっしゃるのですか?」
村の大人1「えぇ。先ほど挨拶させていただいた時に村長の家に用があると」
宣教師「なぜそれを先に言わないのですか。
私も挨拶に伺わなければ…」
村の大人1「すみません。気の付きません事で」ペコリ
宣教師「では私は失礼します」ソソクサ
59:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/25(火) 17:40:24 ID:5SMOo2RLI.
宣教師「今日はあまり人がいませんね」スタスタ
宣教師「まあ休日の朝くらいはゆっくりしたいのが本音なのでしょうが」
宣教師「それにしても司祭様が自ら足を運ぶとは…」
宣教師「……とにかく会って確かめるほかありませんね」
宣教師「例のホビットに付いても報告……」
宣教師「」ピタッ
宣教師「(司祭様に報告すれば、あの子は…)」
60:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/25(火) 17:41:52 ID:CrrmOLoToc
宣教師「」ハッ
宣教師「………」ガクガク
宣教師「私はなんと恐ろしい考えを……」
宣教師「神に仕える身でありながら、罪深き種族に配慮するなど…」
宣教師「…なんと愚かなのでしょう」
宣教師「あろう事か、施しを与えようとまで…」ブルブル
宣教師「……」つ【ビスケットの袋】
宣教師「けがらわしい!」ブンッ
バサッ
宣教師「……司祭様に、ご挨拶しなければ」
宣教師「……」スタスタ
61:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/25(火) 17:44:20 ID:CrrmOLoToc
――村長の家――
宣教師「着きましたね」
宣教師「」コンコン
ガチャッ
村長の妻「はいはい。まぁ、宣教師様?
おはようございます」ペコリ
宣教師「おはようございます。
こちらに司祭様がお立ち寄りだと聞いたのですが」
村長の妻「はい、今は主人と話していますよ。
さぁどうぞ、上がってください!」
宣教師「失礼します」バタンッ
村長の妻「主人と司祭様は奥の部屋にいます。
なんでも大事なお話とか…」
宣教師「そうですか。
では待っていた方がよさそうですね」
村長の妻「そうですねぇ。
テーブルにかけていてくださいな。
今暖かいお紅茶をお持ちしますから」カチャカチャ
宣教師「あ、いえ。お気遣い頂かなくともご挨拶に伺っただけですので」
村長の妻「まぁ。遠慮なさらないでちょうだい?
ちょうど外から良い茶葉を仕入れましたの。
味見していってくださいな」
宣教師「お気遣い痛み入ります。
では遠慮なく頂きます」ペコリ
62:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/25(火) 17:45:35 ID:CrrmOLoToc
村長の妻「どうぞ」つ【紅茶】
宣教師「いただきます」ゴクゴク
村長の妻「どうでしょう?」
宣教師「とても美味しいです」ニコッ
村長の妻「嬉しいわ。
あたしもいただいていいかしら?」
宣教師「どうぞ。私などにお構い無く」
村長の妻「それじゃ用意するわね」カチャカチャ
63:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/25(火) 17:47:46 ID:5SMOo2RLI.
村長の妻「美味しいわ。外の行商から取り寄せただけあるわねぇ」
宣教師「えぇ。この紅茶に合うお菓子があれば、なお良いでしょう」
村長の妻「お菓子と言えば宣教師様がいつも子供たちに配ってるビスケット。
とても美味しいと評判ですことよ?」
宣教師「……そうですか。それはありがたいですね」
村長の妻「このお紅茶にも合うんじゃないかしら?」
宣教師「どうでしょう?
あいにく今日は手持ちにありませんので…」
村長の妻「そう。それは残念ね」
64:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/25(火) 17:49:04 ID:CrrmOLoToc
宣教師「司祭様はいつ来られたのですか?」
村長の妻「宣教師様が来る20分ほど前です。
お供の方も連れずに一人で」
宣教師「なるほど。珍しいですね」
村長の妻「えぇ。何かあったんじゃないかと心配で、心配で」
宣教師「そうですね…」
村長の妻「取り分け昨日はホビットが村に入り込んだと聞くでしょう?
あたしは災いの前触れなんじゃないかって…」
宣教師「……」
村長の妻「あーやだやだ。
考えただけで身震いしますよ。
村の大人たちが追い出してくれたから良かったものの…。
宣教師様もそう思うでしょう?」
宣教師「……はい。罪深き種族の侵入を許すべきではありません」
村長の妻「そうですよね!
やっぱり司祭様にも報告して……」ペチャクチャ
宣教師「………」ゴクゴク
65:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:28:28 ID:L42.WERUbA
――奥の部屋――
村長「……なんと、そのような事が…」
司祭「ふむ。わしもお告げを聞くまでは信じられなんだが、紛れもない事実だそうだ」
村長「しかし、なぜ今になって…?」
司祭「分からぬ。すべては神の御心にしまわれたまま。
今はお告げに沿って動くほかあるまい」
村長「落ち着いている場合ですか!?
せっかくここまで……」
司祭「やっかましいぃぃい!!!
声を荒げるでないわぁぁぁあ!!!!!」
村長「」ビクッ
司祭「はぁっ…はぁっ…。
とにかく、村人に漏らすでないぞ。よいな?」
村長「は、はい」
司祭「では、わしは本部に戻るでな」ガタッ
村長「は、はぁ…」
66:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:30:02 ID:L42.WERUbA
村長の妻「なにかしら?
司祭様の声だったみたいですけど…」
宣教師「」ドキドキ
村長の妻「宣教師様?」
宣教師「あ、は、はい」ガタッ
村長の妻「大丈夫ですか?」
宣教師「え、えぇ。大丈夫です…」
村長の妻「ティーカップ、落としてますわよ?」
宣教師「へ?も、申し訳ございません!」アタフタ
村長の妻「大きい声でしたもの。驚かれるのも無理ありませんわ?」クスクス
宣教師「い、いえ決してそういうわけでは…」
ガチャッ
宣教師「」ビクッ
67:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:31:12 ID:L42.WERUbA
村長の妻「あら、あなた。
お話は終わったの?」
宣教師「」ホッ
村長「あぁ。もう帰られるそうだ」
司祭「ほっほっほ。早い時間に邪魔して申し訳なかったのう」
宣教師「」ビクッ
村長の妻「いえいえ、構いませんのよ?
こちらこそたいしたおもてなしも出来ずにすみません」
司祭「あぁあぁ。気を遣わんでくだされ。
突然押しかけたわしが悪いのじゃ」
村長の妻「あ、そうだわ!
宣教師様が司祭様にご挨拶したいと言っていらっしゃってますのよ?」
司祭「なんじゃ。来ておったのか?
相も変わらず律儀な奴じゃのう」
宣教師「ははははいぃぃ!!」ガタッ
司祭「」ビクッ
68:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:32:30 ID:FGq0e0WmdU
村長「どうかされましたか?」
宣教師「い、いえ…」
司祭「年寄りを驚かせるんじゃないわい。
なんなんじゃ、お前は」
宣教師「も、申し訳ありません…」
村長の妻「」クスクス
村長「何を笑ってるんだ?」
村長の妻「あぁ。ごめんなさい。なんでもないの」クスクス
宣教師「」カァァ
村長「……?」
69:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:33:49 ID:FGq0e0WmdU
司祭様「まぁよいわ。これ以上、ここにおったら邪魔になる。出るぞい」
宣教師「は、はい!」
村長「では私が外まで送りましょう」
司祭様「構わん。こやつがおるでな」
村長「それもそうですな」
司祭「では行くぞい」
宣教師「はっはい」
村長の妻「またいつでもいらしてくださいね?」
司祭「ほっほっほ。その時は世話になりますぞ」
宣教師「おいしい紅茶をありがとうございました」ペコリ
村長の妻「いえいえ。とんでもないですわ。
またいつでも飲みに来てください」
司祭「失礼するぞい」ガチャッ
宣教師「お邪魔いたしました」ペコリ
バタンッ
70:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:34:53 ID:FGq0e0WmdU
宣教師「司祭様がお一人で来られるなんて珍しいですね」スタスタ
司祭「たいした用ではないわい」スタスタ
宣教師「はぁ。そうですか…」
司祭「布教は進んでおるのか?」
宣教師「はい、子供たちはとても素直ですし
村の方々も前任の神父様の教えの甲斐もあり、神の意思に賛同してくださってます」
司祭「ほっほっほ。それは重畳」
宣教師「恐縮です」
司祭「やはりお前に任せて正解だったわい。
思えば幼い頃から信心深く、聡明な子じゃった」
宣教師「そんな…私など…」
司祭「謙遜するな。わしの目に狂いはなかったという事じゃ」
宣教師「し、司祭様…!」
司祭「これからも感謝を忘れず、布教に励むがよい」
宣教師「はい!司祭様のお言葉に報いる為にも、身命を賭して神のご意志を伝えさせていただきます!」
司祭「ほっほっほ。期待しておるぞ?」
71:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:36:24 ID:FGq0e0WmdU
宣教師「(やはり私は愚かだった…。
たった一度でもホビットに気を許すなど、神の冒涜にほかならない…!)」
司祭「あぁそうじゃ。
お前には言っておかなければならんな」
宣教師「と言いますと?」
司祭「実は我が教団から『神の声』という本を出すのじゃがいるか?」
宣教師「も、もちろんです!
今後、布教の参考にする為にもぜひ!」
司祭「そうか。代金は後で本部に送るがよい」つ【本】
宣教師「えっ」キョトン
72:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:37:57 ID:L42.WERUbA
司祭「なんじゃ。変な顔しおってからに?」
宣教師「お金を…取るのですか?」
司祭「当たり前じゃろうが。何を訳の分からん事をほざいとるんじゃ?」
宣教師「い、いえ…てっきり頂けるものかとばかり」
司祭「贅沢を言うでないわ。
信者やその家族も身銭を切って教本を求めているのじゃ。
わしらがタダで読んでは平等でなかろう」
宣教師「ふ、普通教本などは無料で配布するものでは…」
司祭「やっかましいぃぃぃい!!」
宣教師「ひっ」ビクッ
司祭「この一冊で神の声に触れられると言うに!!
金を惜しむなどもっての他じゃ!!
貴様、恥を知れぇぇえ!!」
宣教師「は、はいぃぃ!申し訳ございません!!」フカブカ
司祭「はぁっ…はぁっ…。
分かればよいのじゃ…」ゼーゼー
宣教師「(今日の司祭様怖いです…)」ドキドキ
73:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:39:24 ID:L42.WERUbA
宣教師「うぅ…村の方々からの施しが…」グスッ
司祭「ほっほっほ。有意義に使えたのう」ホクホク
宣教師「ま、まぁ神の教えを深く知る意味では……ん?」マジマジ
司祭「どうしたんじゃ?」
宣教師「著者は司祭様となっておりますが…?」
司祭「その通りじゃが?」
宣教師「し、しかし題名は神の声と…」
司祭「わしが神の声に耳を寄せ、書き上げたのじゃから当然じゃ」
宣教師「な、なるほど…」
司祭「さっきから何を訳の分からん事を言うとるんじゃ?」
宣教師「……」
74:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:42:34 ID:FGq0e0WmdU
司祭「そろそろ村の外に出るのう。ここまででよいぞ」
宣教師「お、お待ちください!」
司祭「なんじゃ?」
宣教師「村長からお聞きなされたとは思いますが…」
司祭「…ホビットが入り込んだそうじゃな」
宣教師「やはりご存知でしたか」
司祭「うむ、なんでも子供だったと聞くがのう」
宣教師「はい…」
司祭「おおかた何も知らぬ哀れな幼子じゃろう。
昨日の件もある。二度とこの村には来るまい」
宣教師「だと良いのですが…」
司祭「幼子と言えど罪深き種族。
時を追う毎に罰が下る。
己の罪深さを理解するまで捨て置く事じゃ」
宣教師「司祭様がそう言われるのでしたら私からもこれ以上の事は…」
司祭「それが良かろう。
奴らに関われば天の怒りを招く。
お前もそれは重々承知している筈じゃ」
宣教師「はい…」
司祭「うむ。ではわしは帰るでな。
この村の管轄は任せたぞい」
宣教師「はい。司祭様もお気を付けて」ペコリ
司祭「」スタスタ
宣教師「…私も教会に戻るとしましょうか」スタスタ
75:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:09:15 ID:BXUEK2.5u2
少年「ふんふふ〜ん」ルンルン
母「坊や、一人で先に行ってはだめよ?」
少年「お母さま、はやくはやく!」
母「まぁ。この子ったら?」
少年「村が見えたよ!」タタタッ
母「あ、ちょっと待って!」
少年「?」クルリッ
母「そのまま入ったら人間に見つかるでしょ?」
少年「あっそうだね…。
でもどうするの?
昨日は頭巾を被ってたのにバレちゃったんだよ?」
76:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:10:28 ID:BXUEK2.5u2
母「坊や。私たちと人間の違うところは何かしら?」
少年「瞳の色と…体の大きさ、かな?」
母「それから肌の色も、よ。
私たちは瞳が黄色くて、肌がとても白いわ。
それに体も人間と比べて小さい」
少年「うん…」
母「肌の色と小さな体はまだいいけれど、瞳の色を見られればどうしてもホビットだと分かってしまうわ。
だから……」
少年「目を隠すんだね?」
母「そうよ、賢いわね!」ニコッ
少年「えへへ!…あ、でもメガネなんて持ってないよ?」
母「安心なさい、お母さんが良い物持ってきたから」ニコニコ
少年「えっそうなの?」キョトン
母「こっちにおいで坊や。支度してあげるわ?」
少年「うん!」
77:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:11:47 ID:4a/V8q7lfc
母「うん、完璧ね!」
少年「………」ムスッ
母「あら、どうしたの坊や?ふてくされたりして」
少年「…なんでこうなるのさ?」ジト
母「まぁ。かわいらしくていいじゃない?」
少年「やだよ。女の子のカッコなんて!」
母「しょうがないでしょ?
色メガネで隠すより前髪で目を隠してしまった方が自然だもの」
少年「だからって……」
母「それに女の子のカツラを被っただけじゃない?
服はいつもと変わらないから大丈夫よ」
少年「……うん」
母「安心して?とってもかわいいから!」ニコッ
少年「そういう問題なのかな…?」
78:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:12:53 ID:BXUEK2.5u2
母「それに昨日、人間に見つかったんでしょ?
外から来た男の子ってだけで怪しまれるわよ?」
少年「あ、そっか…。
お母さまも前髪で隠すの?」
母「あたしは色メガネで隠すから大丈夫よ?」ニコッ
少年「っ……!ずるい!」プンスカ
母「うふふ。さあ行くわよ?」スタスタ
少年「むー…」ムスッ
79:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:14:22 ID:4a/V8q7lfc
――村――
母「……いい?自然に振る舞うのよ?」
少年「う、うん」
村の大人1「おっなんだ、あんたたち。
見かけない顔だがよその人かい?」
母「えぇ。娘と旅をしていますの」
少年「」ドキドキ
村の大人1「へーそうなのかい。
今どきは珍しくもないが、昔は故郷を離れるなんて考えられなかったからなぁ…。
女手一つでお嬢ちゃんを連れての旅だ、くたびれちまうだろう?」
母「えぇ、まぁ。…実は主人を亡くしまして、故郷を追われてしまいましたの」
村の大人1「……そいつは大変だな。
あんたも苦労してるんだろう。
この村にいる間は体も心も休めるといいよ。
ここはのどかな村だから悪い奴なんて一人もいないぜ?」
母「ありがとうございます。
お言葉に甘えさせていただきますわ」ペコリ
村の大人1「へへっ!頭なんか下げないでくれよ。
お嬢ちゃん。お母さんの言う事をよく聞いていい子にしてるんだよ?」ナデナデ
少年「」ビクッ
80:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:16:48 ID:BXUEK2.5u2
村の大人1「? どうしたんだい?」
母「あら、ごめんなさい。この子人見知りでして」
村の大人1「あぁ、そうか。
その歳で旅なんかしてちゃ友達もできないもんな?
大丈夫、村の子供らもお嬢ちゃんくらいの歳の子ばかりだから、
いっぱい遊んでいくといいよ」ニコニコ
少年「は、はい」ドキドキ
村の大人1「ほら、キャンディをあげよう。
これを出して話しかければ子供たちともすぐ仲良くなれるさ」つ【袋】
母「まぁ。そんな…」
村の大人1「いいんですよ。
俺が好きでやってるんだから」ニコニコ
母「ありがとうございます…。
ほら、あなたもお礼を言わないと?」
少年「ありがとう…ございます…」ペコリ
村の大人1「じゃあ俺は店があるから戻るが、困った事があったら遠慮なく村人たちに聞いてみな。
みんな嫌な顔一つせず助けてくれるからさ」
母「何から何まですみません」
村の大人1「いいってことよ!」スタスタ
少年「……」
81:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:19:11 ID:4a/V8q7lfc
少年「おじさん、優しかった…」
母「えぇ、そうね。すっかり女の子だと思われてたわよ?」ニコニコ
少年「もう!からかわないでよ!」
母「うふふ。ごめんなさい」クスッ
少年「……ねぇ」
母「ん?なぁに?」
少年「ボクね、お母さまに内緒だったけど
昨日あのおじさんにぶたれたんだ」
母「……そう」
82:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:20:16 ID:4a/V8q7lfc
少年「昨日はね、ボクが市場でお菓子を見てただけで怖い顔してた」
母「……」
少年「頭巾で隠してたから大丈夫かなって思ったけど、取ってみろって言われて嫌がったら捕まえられて」
少年「たくさんぶたれて、たくさん蹴られた」
少年「謝っても許してくれなかった」
少年「みんな冷たい目をしてたよ」
少年「助けてくれようとした人もボクがホビットってわかったら一緒になってぶったんだ」
少年「すごく怖かった」
母「……」
83:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:21:12 ID:4a/V8q7lfc
少年「でも、今日のおじさん、すごく優しくて…びっくりしちゃった」
母「そうね、とても大事な事よ?」
少年「うん…」
母「そこで見るものだけが真実ではないの。
心は色んな表情をするのよ?」
少年「……そうなの?」
母「心はね、たくさんの感情を持っているの。
喜び、悲しみ、愛、憎しみ」
母「喜びと悲しみの感情は自分だけのもの。
愛や憎しみは誰かに向けられるもの」
母「人間は同じ人間を愛し、獣に草木に空に海、空想的なものだって愛せる。
素晴らしいことよ、でもね」
母「ひとたび憎しみを受け入れてしまえば、心は呑まれてしまうの」
母「喜びも、悲しみも、愛も、ぜんぶ…」
母「そして憎しみは、あたしたちに向けられている」
母「何百…いえ、何千年も前から」
84:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:22:55 ID:BXUEK2.5u2
少年「……どうして?
ボクもお母さまも、悪いことしてないよ?」
母「決まってることなの。
いえ、決められてしまったという方が正しいわ」
少年「……わからないよ」
母「……ごめんなさい。あなたは知らなくていいことなのよ。
ただ忘れないでね、一面だけを見てすべてだと思ってはいけないの」
母「一つの場面での出来事にとらわれてしまうと、あたしたちは憎しみに呑まれるしかなくなってしまう」
少年「うん…」
母「あなたもいずれ分かるわ。
人間とお友達になるつもりならね」
少年「人間とお友達だと、いけないの?」
母「そうじゃないの。あなたにお友達ができたらあたしは嬉しいわ。
でも難しいの、ホビットと人間は…言葉にはできないほどに」
少年「……」
85:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:28:35 ID:BXUEK2.5u2
母「ねぇ坊や。二つ約束して。大事な約束よ?」
少年「うん…」
母「もし悲しくて、やりきれなくなってしまったら終わりにしてほしいの」
少年「人間と友達になるのを…?」
母「そうよ、その時は二人で静かに暮らしましょ?
あなたが憎しみにとらわれてしまわないように…ささやかな幸せを分け合うの」
少年「わかった…」シュン
母「それじゃもう一つの約束ね?
今から会うあなたのお友達が、あなたにとって信じられる人間だったなら…」
少年「……」
母「どんな事があっても信じてあげなさい?
その出会いを大切に、お互いにとってかけがえのない繋がりだと思って、ね?
約束できる?」
少年「…うん!!」パァァ
少年「約束、するよ!」
86:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:30:43 ID:4a/V8q7lfc
母「じゃあ約束の指切りをしましょ?」スッ
少年「うん!」ピトッ
母&少年「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます!指切った!」
母「約束破ったら本当に飲ませるわよ?」ニヤリ
少年「えっ」
母「冗談に決まってるじゃない?」クスクス
少年「……!」カァァ
少年「や、破らないもん!」
87:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:36:58 ID:wJajIDVNMY
母「さ、行きましょ?」
少年「うん、ボク場所覚えてるから案内するね!」
母「えぇ。お願い」
子供3「おーい、待ってよー!」
少年「ん?」
子供2「へっへーんだ!くやしかったらここまでおいでー!」タタタッ
子供3「くっそー!」タタタッ
母「村の子供たちが遊んでいるのね。あなたも入れてもらったら?」
少年「……ボクはいいよ」
母「あの子たちも喜ぶわよ?」
少年「そうかな…」
母「そうよ!ほら、いってらっしゃい。
お母さんはここで待ってるから」
少年「う、うん。いってくる!」タタタッ
母「」ニコニコ
88:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:38:15 ID:wJajIDVNMY
少年「ねぇ!ボクも仲間に入れて!」
子供2「えぇー!どうする?」
子供3「ボクはいいよ?」
子供2「じゃあお前も入れてやるよ!」
少年「うん、ありがとう!」
子供3「でもなんで女の子なのに"ボク"なの?」
子供2「あっほんとだ!ヘンだぞー!」
少年「なっ…!ボクは女の子じゃ…」
子供2&3「えっ」
少年「」ハッ
89:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:39:50 ID:wJajIDVNMY
子供2「女じゃねーのか?」
少年「う、ううん…女…だよ…」モジモジ
子供2「やっぱり女じゃんか!」
子供3「まぁまぁ」
少年「ごめん…」シュン
子供2「まぁいいや、何して遊ぶ?」
子供3「おいかけっこは飽きたし、かくれんぼでもする?」
子供2「いいな!やろうぜ!」
子供3「キミもかくれんぼでいい?」
少年「うん、いいよ!」ニコニコ
子供2「じゃあお前オニなー!」
少年「うん、わかった!」ニコニコ
子供3「いや、じゃんけんしようよ!?」
90:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:41:09 ID:wJajIDVNMY
少年「え?」
子供3「だってそうしないと不公平じゃない」
子供2「ちぇっ!わかったよ!」
少年「ねぇ」
子供2「ん?なんだよ?」
少年「じゃんけんって何?」
子供2「えっ」
子供3「えっ」
少年「えっ」
91:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:42:44 ID:wJajIDVNMY
子供2「なんだお前、じゃんけん知らねーのかよ?」
少年「うん、誰かと遊ぶのって初めてだから」
子供2「ヘンな奴!」
子供3「まぁまぁ!じゃあ教えてあげるね?
じゃんけんっていうのは…(※省略)」
少年「そうなんだ!おもしろそうだね!」
子供2「そうか?お前の方がおもしろいぞ?」
子供3「ボクもそう思う」
少年「あとかくれんぼっていうのも教えて?」
子供2「えー!?なんにも知らねーじゃん!」
少年「ご、ごめん」
子供3「いいよ?教えてあげる!」
92:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:44:33 ID:wJajIDVNMY
子供3「…っていうのがかくれんぼ!わかった?」
少年「うん、ありがとう!」
子供2「なー!早くやろうぜ?」
少年「待たせちゃってごめんね?」
子供3「じゃあじゃんけんしよう!」
子供2「よーし!最初はグー!」
「じゃんけんぽい!」
93:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:45:47 ID:PHb2NYku.U
少年「あはは。負けちゃった」
子供2「じゃあ俺たち隠れるから1000秒数えろよ!」
子供3「数え過ぎだよ!?
10秒でいいからね?」
少年「えっ…そんないいよ、1000秒数えるルールなんでしょ?」
子供2「……」
子供3「あ、あはは。2くんの冗談だから大丈夫だよ?」
少年「そ、そうだったの?」カァァ
子供2「」キュンッ
子供3「どうしたの?」
子供2「な、なんでもねーよ!」
子供3「……?」
94:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:47:44 ID:wJajIDVNMY
少年「はぁっ…はぁっ…」
子供3「つ、疲れたね…?」ゼェゼェ
子供2「お前らへばってんじゃねーよ!」
子供3「なんで2くんだけあんな元気なんだろ…?」
少年「わかんない…でもすごく楽しいや」
子供2「おーい、もっと遊ぼうぜ!」
子供3「えー!ちょっと休もうよ!」
子供2「なんでだよ!いいから遊ぼうぜー!」
少年「うん、遊ぼ?ボクももっと遊びたい!」ニコッ
子供2「」ドキッ
少年「どうしたの?」キョトン
子供2「う、うるせーよ!」
少年「え…」
子供2「ふんっ」プイッ
子供3「二人ともすごいや、ボクもうへとへとだよ…」
95:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:50:32 ID:wJajIDVNMY
子供3「だめ…ほんとにもうむり…」バタッ
少年「はぁっ…ぼ、ボクも…疲れちゃったよ…」
子供2「次なにするー?」
子供3「ボクらの話聞いてた!?」
少年「ボク…もう戻らなきゃ」
子供2「えー!なんでだよー!?」
少年「だって…お母さまを待たせてるから」
子供2「いいじゃんか!遊ぼうぜ!」
少年「で、でも…」
子供3「まぁまぁ!しょうがないよ」
子供2「……」
少年「ごめんね…?」
子供2「お前なんか知らねー!帰っちゃえよ!」
少年「」ガーン
子供2「バーカ!ブース!」ダッ
少年「……」
96:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:52:27 ID:wJajIDVNMY
子供3「気にしないでね、いつものことだから」
少年「…そうなの?」
子供3「そうだよ、好きな女の子にはああするんだ」
少年「す、好きな女の子…!?」カァァ
子供3「ボクらを教えてくれてる女の宣教師様にも、いつもああなんだ」
少年「そ、そうなんだ…」
子供3「うん、だから気にしないで?お母さん、待ってるんでしょ?」
少年「うん…」
子供2「おい!いつまでいんだよ!さっさと帰れよ!」
子供3「ふふ、素直じゃないんだから」
子供2「はぁ?意味わかんねーし!」
少年「」クスクス
97:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:53:33 ID:wJajIDVNMY
子供2「なに笑ってんだよ!?」
少年「ううん…なんでもない」
子供2「ヘンな奴…」
少年「これ、友達の証だよ。受け取って?」つ【キャンディ】
子供2「」ドキッ
子供3「ありがとう」
少年「ううん、またね?」タタタッ
子供2「お、おう…」ドキドキ
子供3「どうしたの?」ニヤニヤ
子供2「うるせー!!」プンスカ
98:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:54:45 ID:wJajIDVNMY
少年「待たせてごめんね」
母「あら、もういいの?」
少年「うん、お母さまを待たせてるもの」
母「もう…そんなの気にしなくていいのに」
少年「でも…」
母「あなたが子供たちと遊んでるのを見てるだけであたしは幸せよ?」
少年「……うん、ボクも楽しかった!」
母「うふふ、それは良かったわ!日も暮れてきたし行きましょうか?」
少年「そうだね、さっきまであんなに明るかったのに」
母「たくさん遊んだんだもの、しょうがないわ」
少年「楽しい時間は速く過ぎるんだね」
母「そうよ?だから大事にするの」
少年「そうだね…ボク、大事にするよ」
母「えぇ。そうなさい?」
少年「(また遊びたいな…)」
99:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:56:09 ID:PHb2NYku.U
母「それにしても…あの子たちと遊んでるあなた、まるで違和感が無かったわよ?」スタスタ
少年「そうかな?」スタスタ
母「えぇ。誰も14歳の男の子だなんて思わなかったでしょうね」ニコニコ
少年「……そんな事ないもん」
母「あ、今は女の子だったかしら?」ニヤニヤ
少年「っ……!しらない!」
母「うふふ。ところで、どの辺りなの?」
少年「えっと、確か…あっ!あそこだよ!」
母「まぁ、ずいぶん立派な……」ピタッ
少年「お母さま?どうしたの?」
母「これは…教会…?」
少年「うん、そうだよ?」
母「坊や、帰りましょ」
少年「えっ」
100:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:57:06 ID:PHb2NYku.U
少年「へ?な、なんで?」アセアセ
母「あなたも死んだおじいさまから聞いたでしょう?
教団の人間だけは、絶対にだめよ」
少年「で、でもボクを助けてくれた。いい人なんだよ?」
母「昨日はそうかもしれないけど今日はわからないでしょう?
お母さんはあなたを思って言ってるのよ」
少年「そ、そんな…急にどうして?」アタフタ
母「いいから帰るわよ、さぁ!」グイッ
少年「や、やめて!痛いよ?
それにあの人はそんな人じゃない!」
母「」キッ
少年「」ビクッ
母「ならいってらっしゃい!
行って教団の人間がどんなに酷いか知るといいわ!」
少年「……お母さま…」
101:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:57:55 ID:wJajIDVNMY
母「お母さんは先に帰るわ。
一緒に帰るなら今のうちよ?」
少年「いい…」
母「そう。勝手になさい?」
少年「うん。勝手にする…」
母「……もう、知らない」スタスタ
少年「……ごめんなさい、お母さま」
102:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:59:21 ID:PHb2NYku.U
ポツン
少年「どうして、こうなっちゃったんだろ…」
少年「さっきまであんなに楽しかったのに…」
少年「お母さま…」ウルッ
少年「……」グスッ
宣教師「どうしました?」
少年「!?」ビクッ
103:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 18:19:12 ID:TlNdAXGC3g
少年「し、神父さま?」
宣教師「なっ…!?
失礼な事を言うんじゃありません!私は女です!」
少年「じゃ、じゃあシスター?」
宣教師「あ、いえ。それは少し近いのですが…違います」
少年「……?」
宣教師「コホン!私は神の教えを説き、広める者…宣教師です!」
少年「宣教師…さま?」
宣教師「はい、宣教師です!」ドヤァ
少年「……」
宣教師「(無反応…だと…!?)」ガーン
104:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 18:20:09 ID:HcAMq1STVw
宣教師「コホン!あ、あなたはなぜ教会の前に?」
少年「えっ?ぼ、ボクは…えっと…」
宣教師「……?」
少年「せ、宣教師さまこそ、どうして?」
宣教師「どうしても何もここは私の教会ですが」
少年「あ、そうじゃなくて…」
宣教師「?」
少年「お日さまも沈んでる時間に帰って来たんだって思って…」
宣教師「あぁ…いつもはもう少し早いのですがね。
趣味で作っているお菓子の材料が切れまして、買いに行っていたのです」
少年「そ、そうです…か」
宣教師「あ、はい」
105:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 18:23:57 ID:TlNdAXGC3g
少年「……」
宣教師「……」
少年「……」
宣教師「(き、気まずい…)」
少年「……」
宣教師「(な、なんでしょう?前にもこんな事があったような…?)」
少年「あの」
宣教師「は、はいっ」ビクッ
少年「ご、ごめんなさい」
宣教師「あ、いや…どうぞ」
少年「昨日のこと、覚えてますか?」
宣教師「ん?」
106:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 18:24:53 ID:HcAMq1STVw
宣教師「昨日の…?」
少年「は、はい」
宣教師「失礼ですが、あなたのような女の子とお会いした事は無いかと…?」
少年「……」バッ
宣教師「か、カツラ…?」
少年「……」
宣教師「……!キミは、昨日の?」
少年「はい、宣教師さまに助けてもらったホビットです」
宣教師「っ……!」
ホビット「覚えて…ますか?」
宣教師「……!」ギュッ
宣教師「……なにを、言っているのですか?」
少年「えっ」
107:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 18:26:33 ID:TlNdAXGC3g
宣教師「私はあなたを助けた覚えなどありません」
少年「で、でも手当てして寝かせてくれた…!」
宣教師「神の教えに従ったまでです。
本来であれば罪深きホビットなど捨て置くところですが、
道で死なれても困るので、しかたなく手当てして差し上げました」
少年「ビスケット…くれた」
宣教師「あれはあなたを追い返す為にあげたんですよ。
失敗作が残っていたので、ゴミを減らすにはちょうどいいと思いましてね」
少年「そんな…」
宣教師「そんな事で女装までして私に会いに来たのですか?
ずる賢いホビットの考えそうな事です」
少年「ボク…お礼がしたくて」
宣教師「結構です。元いた場所に帰りなさい。
ホビットなど目に映せば、穢れてしまいます」
少年「そんな…そんなのって……」
108:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 18:28:11 ID:HcAMq1STVw
宣教師「あなたたちホビットは自分の罪を償う術を考えていればいいのです。
私があなたを受け入れると思っていたのですか?
人間に媚び、擦り寄ろうなど薄汚い種族にはお似合いかもしれませんが、笑えない話ですね」
少年「……」ポロポロ
宣教師「っ……!なにを泣いているのですか?
帰りなさいと言っているでしょう!」
少年「」スッ
宣教師「……なんのマネですか、この無駄に大きい花束は?」
少年「カリアムの花…花言葉は親愛の証って、お母さまが言ってました…」
宣教師「……」
少年「ごめんなさい…」ポロポロ
宣教師「……」
少年「ボク…帰ります」タタタッ
宣教師「……」
109:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 18:30:00 ID:TlNdAXGC3g
宣教師「(ホビットは罪深き種族…)」
宣教師「(ホビットは罪深き種族…)」
宣教師「ホビットは……」ウルッ
宣教師「(本当に…これが正しいのでしょうか?)」
宣教師「神よ、お教えください…」
宣教師「ホビットは確かに罪を犯しました」
宣教師「しかし、いったい…いくつの罰を与えればよいのでしょうか?」
宣教師「いつの時代まで…我々は……」
宣教師「……私もまた、罪深いのでしょうか…?」
宣教師「神よ、答えてください…」ポロポロ
宣教師「心が…潰れてしまいそう…」ポロポロ
110:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 18:35:37 ID:TlNdAXGC3g
>>106で少年の名前がホビットとなっていますが、ミスです。
もしも見ている方がいらっしゃいましたら申し訳ございませんm(__)m
111:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:04:18 ID:8X2XsZkcTQ
――森の道――
母「(あの子は知らない…)」スタスタ
母「(あたしたちが教団のせいでどんな目に遭っているか…)」
母「"あなた"……」
母「"あなた"さえ、いてくれたら……」キュッ
母「ごめんなさい…今はあの子の幸せを願うべきなのに…」
母「やっぱり心配だわ、戻りましょう…」
モクモク モクモク
母「煙…?」
母「あれは…あたしたちの家の方角…!」
母「っ……!」ダッ
112:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:06:07 ID:8X2XsZkcTQ
――森へ続く道――
少年「ふふ…友達、かぁ」
少年「そうだよね、助けてくれて、ビスケット貰ったからって、友達じゃないよね」
少年「ボク、なんにも分かってないや」
少年「遊んでくれた二人に、また笑われちゃうなぁ」
少年「……う、うぅ…」ブワァ
少年「うぇぇん……」ポロポロ
少年「……お母さまに、謝らなきゃ」グスッ
113:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:07:57 ID:S6udfti/Vo
母「……」タタタッ
母「……!」
メラメラ メラメラ
母「い、家が燃えてる…!?」
母「す、すぐに消し止めなきゃ!」
村の大人2「もう間に合わねぇよwww」
母「」ビクッ
村の大人1「ノコノコ戻って来やがるなんてな、バカなホビットだぜ」
母「な、なんでここが…?」
村の大人3「あぁ。あの旅人の言う通りだったな?」
村の大人2「おかげで薄汚いホビットを一掃できるぜwww」
母「(旅人?まさかあの時の…)」
114:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:10:11 ID:8X2XsZkcTQ
母「この火はあなたたちが…?」
村の大人1「そうだよ、キレイに燃えてんだろ?」
村の大人2「まさか森に隠れているたぁな、ずる賢い奴らだぜ」
母「なぜ…あたしたちが何をしたって言うの?」
村の大人2「なに言ってんだ?
お前らは生きてるだけで罪なんだよwww」
村の大人1「宣教師様も火を放つべきだと言ってたからな。
教団の方々も喜んでくれんだろ?」
村の大人3「あぁ。何事も早め早めの内がいい」
母「(もう、おしまいね…)」
母「(せめて…あの子だけは…)」
115:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:11:31 ID:8X2XsZkcTQ
村の大人2「おい!ガキはどうした!?」
母「なにを…言ってるの?
あたしに子供なんていないわ」
村の大人3「しらばっくれても無駄だ。
昨日ホビットのガキを捕まえて袋叩きにしてやったんだからな」
母「あなたたちの勘違いじゃないかしら?
あたしは独り身よ?子供なんていない」
村の大人1「てめぇ!!」バッ
村の大人3「まぁ落ち着け。ここで待ってりゃどの道ガキも現れる」
母「……!」
村の大人1「それもそうだな」
116:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:13:44 ID:8X2XsZkcTQ
母「……いいわよ、好きなだけ待ってればいいじゃない?」
村の大人1「あ?」
母「待っていてもそんな子供は来ないわ。
せいぜい時間を無駄遣いするのね」ヒラヒラ
村の大人1「てめぇ…!」ギリッ
村の大人3「挑発に乗るな、ただの強がりだ」
村の大人1「……ちっ」
母「(大丈夫…あの子は教会にいるはず……)」
村の大人2「だがよ、ただ待ってるのもつまらねぇと思わねぇか?」
村の大人1「……?」
村の大人2「おいおい、分からねぇのかよ?
ホビットとはいえ女だぜ?」ニヤリ
母「あなた…なにを言って…?」
117:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:14:54 ID:8X2XsZkcTQ
村の大人2「へっへっへ!ホビットは見た目だけは美しいからな。
大国のお偉いさんなんかは愛玩用に飼ってるって話だ」
村の大人3「そうだな、せっかくだしヤっとくか?」
母「なっ……!あなたたち、本気で言ってるの!?」
村の大人2「本気も本気www」
村の大人3「本気と書いてマジと読む」
村の大人1「おいおい、俺たちには妻も子供もいるんだぞ!?」
村の大人2「でもでもでもでも〜?」
村の大人3「関係ないから〜関係ないから〜」
村の大人2「Let's Party Night!Here We Go!」
118:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:17:50 ID:8X2XsZkcTQ
母「」ダッ
村の大人3「おっと、逃がさねぇよ」グイッ
母「っ……!」
村の大人2「はいはい脱ぎ脱ぎしましょうねぇwww」バッ
母「最低よ…!」
村の大人3「ホビットに言われちゃおしまいだ」ニヤニヤ
村の大人1「おい、やめろ!そんなもん相手にしたら汚れちまうぞ!」
村の大人2「うるせぇなぁ。嫌ならお前はヤんなきゃいいじゃねぇか?」
村の大人1「……好きにしろ!」
村の大人3「ガキが戻って来たら見せつけてやるか?」
村の大人2「そりゃいいやwww」
119:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:19:25 ID:S6udfti/Vo
母「あんたたち…こんな事して恥ずかしくないの!?」
村の大人2「バーカ!これからお前が恥ずかしい思いをすんだよwww」モゾモゾ
村の大人3「それにしても…うちの女房とは大違いだな」ゴクリ
村の大人2「おい、お前カミさんに言い付けんぞwww」
村の大人3「ははっ!勘弁してくれ」
母「(神様…どうか…)」
母「(あの子だけでも…)」
120:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:20:39 ID:8X2XsZkcTQ
――森の道――
少年「」タタタッ
少年「家に帰らなきゃ…」
少年「お母さまに謝るんだ!」
少年「それで、また…」
少年「」ピタッ
少年「許して、くれるかな…」
イヤァァァァァァ!!!
少年「」ビクッ
少年「お母さま…?」
少年「……!」タタタッ
121:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:21:50 ID:S6udfti/Vo
母「いやぁぁぁぁ!!!」ジタバタ
村の大人3「うるせぇ!!じたばたすんな!」バキッ
母「うっ……」
村の大人2「へへっ!にしてもこいつはいいや!
人間の女とは大違いだ!」パンッパンッ
母「お願い…もう、やめて…」
村の大人2「でもでもでもでも〜?」
村の大人3「関係ないから〜関係ないから〜」ベロンチョ
村の大人2「Oh!Let's Party Night!」パンッパンッ
母「ひっ……」
村の大人1「……こいつら、司祭様にバレたら大変だぞ」
ガサッ
村の大人1「」ビクッ
122:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:23:42 ID:8X2XsZkcTQ
少年「お母…さま…?」
村の大人1「お、お前はあん時のガキ!?」
母「え…」
少年「お母さまに…何してるの?」ワナワナ
村の大人3「ようやく来たか」モミモミ
村の大人2「おいガキ!いいもん見せてやんからこっち来いよwww」パンッパンッ
母「だめっ!だめよ!逃げなさい、坊や!」
村の大人3「てめぇは黙ってろ!」ゴッ
母「きゃっ……」
少年「お、お母さまをいじめるな!」ダッ
村の大人1「おっと、待ったぁ!」パシッ
少年「は、離せ!離してよ!?」
母「坊や!あたしはいいから早く逃げ……」
村の大人3「黙れってのが分からねぇのか!」ドフッ
少年「やめろ!」グッ
村の大人1「暴れんじゃねぇよ!」ガンッ
少年「うぁっ…!」ドサッ
村の大人1「てめぇはここでおとなしく見てろ」ガシッ
少年「うっ……」
123:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:26:09 ID:S6udfti/Vo
村の大人2「ほーれ、こっちも再開だwww」パンッパンッ
母「いやぁぁぁぁ!!」
少年「やめろ!やめろよ!?」
アッ イヤッ ギャハハハハ パンッパンッ
イヤァァァァァァ!!!
少年「お願い…だよ…」
村の大人1「黙って見てろよ、なかなか出来ねぇ体験だぜ?」ニヤニヤ
少年「こんなの…あんまりだ…」ポロポロ
少年「(ボクが…友達なんて欲しがったから……)」
124:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:27:47 ID:8X2XsZkcTQ
――事後――
村の大人2「ふい〜…もうすっからかんだぜ」
村の大人3「てめぇは出し過ぎだ」
母「」グッタリ
少年「……」シクシク
村の大人1「終わったんなら、そろそろ連れてくか?」
母「……」
少年「お母…さま。大丈夫?」
母「だい…じょうぶよ…心配しないで…」ニコッ
少年「そんな…そんな筈ないよ…」
村の大人3「そうだな、あの旅人に引き渡すか」グイッ
母「ひっ…!」
少年「や、やめて!もうお母さまをいじめないで!」
村の大人2「バーカ!お前も行くんだよwww」
村の大人1「しっかしホビットを高値で買おうなんて、奇特な旅人もいたもんだ」
村の大人3「おおかた娼婦にでもするつもりだろう。
これだけの上玉だ、ホビットと言えどそこそこの値は付くはずだぜ」
村の大人2「世の中変態が多いんだなwww」
宣教師「待ちなさい!」
村の大人1&2&3「」ビクッ
125:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:29:33 ID:8X2XsZkcTQ
村の大人1「せ、宣教師様…!」
少年「……宣教師さま、どうして?」
宣教師「あなたたち、何をしているのですか!?」
村の大人1「そ、それは…」
村の大人2「何と言われちゃー…。
ちょ、ちょいとナニをね…タハハ!」ヘラヘラ
村の大人1「バカ野郎!」ゴンッ
村の大人2「あたっ!」
宣教師「煙が上がっていたので来てみれば、なんという事を……!」
村の大人3「何か問題でも?」
村の大人1&2「えっ」
126:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:30:57 ID:8X2XsZkcTQ
宣教師「問題…?あなたは自分のした事を分かっていないのですか!?」
村の大人3「我々はただ神の教えに従い、罪深きホビットに罰を与えていただけですが?」
宣教師「なんですって?
幼子の前で、親を犯すのが罰だと言うのですか!?」
村の大人3「これは宣教師様のお言葉とも思えませんな?
昨日の暴力を咎めないのなら、これもまたありなのでは?」
宣教師「……!」ギリッ
村の大人3「では我々は失礼します。おい、さっさと来い!」グイッ
母「いやっ!」
少年「せ、宣教師さま…!」ジッ
127:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:33:22 ID:S6udfti/Vo
宣教師「分かりました」
村の大人3「さすが宣教師様、物分かりが良くて助かります。
ほら!来いっつったら来るんだ!」グイッ
母「や、やめて…!」
少年「そ、そんな…」
宣教師「ただしその親子は置いていきなさい」
村の大人3「なっ…」
宣教師「すでに十分な罰は与えたはずです」
村の大人3「バカなっ!こいつらはホビットだ!
罰に際限なんかあるか!?」
宣教師「私の言う事が聞けないのですか?」
村の大人3「あぁ。聞けねぇな!」
村の大人2「そ、そうでさぁ。こいつらは高値で売れるんだ!」
宣教師「あなたたちの事情は知りません。
私がホビットを管理すると言っているのです」
村の大人3「そんな事が…許されるわけ……」
宣教師「構いませんよ?
従えないと言うのなら司祭様に報告するまでです。
そうなれば我が教団によるこの村への援助は絶たれ、村長の怒りを買うのはあなた方でしょう」
村の大人1「うっ…」
宣教師「それでも一時の富を選ぶというのであればお好きになさい。
三等分した上で家族を養う事を考えれば雀の涙程度の額でしょうがね」
村の大人3「ち、ちくしょう…」スッ
宣教師「最初から言う通りにしていればいいのです」
128:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:35:34 ID:8X2XsZkcTQ
村の大人3「あんた、タダで済むと思うなよ?」
宣教師「噂でもなんでも広めればいい。
心貧しき人間にはお似合いです」
村の大人3「くそっ!覚えてやがれ!」ダッ
村の大人2「あっおい!待てよ!?」ダッ
村の大人1「……宣教師様…俺は悲しいですよ」
宣教師「……」
村の大人1「もう今まで通り村にいられるとは思わない事ですね」ダッ
宣教師「………」
129:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:37:04 ID:S6udfti/Vo
宣教師「」クルッ
母「」ビクッ
少年「宣教師さま…!」
宣教師「大丈夫ですか?」スッ
母「えっ」
宣教師「? どうしました?」
母「手を…差し伸べてくださるのですか?」
宣教師「えぇ。私は神に仕える者。
すべての命を平等に扱いますよ?」ニコッ
母「……あぁ…」ブワァ
少年「うっ…うぇぇ…」シクシク
宣教師「辛かったでしょう…。
今ある悲しみも、痛みも流してしまいなさい。
あなたたちの尊い涙を神は見てくださっています」
母「あぁぁぁぁ……!」ポロポロ
少年「うっ…うぇっ…」ポロポロ
130:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:40:02 ID:8X2XsZkcTQ
少年「宣教師さま、ありがとうございました!」
宣教師「いえ、礼を言われるような事など…」
母「うぅ……」ポロポロ
少年「ほら!お母さまもお礼しなくちゃ!ね?」
母「そうね、ごめんなさい…。
ありがとうございます。本当に感謝しております…」
宣教師「いえ、お礼を言うのはこちらの方です。
そして同時に、あなたたち親子に謝らなければなりません」
母「そんな…とんでもありませんわ!」
少年「そうだよ!宣教師さまはボクとお母さまを助けてくれたんだ!」
宣教師「……先ほどはキミに酷い言葉をぶつけました。
それに…私は昨日、何もせずに見ていただけです」
母「……」
131:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:43:03 ID:S6udfti/Vo
宣教師「ここから上がる煙に私がいち早く気付いていれば、
キミのお母様も、キミもこんな目に遭わずに済んだかもしれません…」
少年「……」ギュッ
母「そんな…お気になさらないでください。
こうなったのは宣教師様のせいではなく、あたしの不注意ですから…」
宣教師「違う…私はこんな事が言いたいのでは…」
母「……?」
宣教師「とりあえず今日のところは私の教会へ泊まりなさい」
母「まぁ!そんな、いけませんわ!
教団の方があたしたちを招けば人々になんて言われるか…!」
宣教師「問題ありません。
教えに背いた私はどのみち破門になります。
そうなれば村人の目はあって無いようなもの」
母「そうなればあなたまで迫害を受けてしまいますわ!?」
宣教師「……それも、問題ありませんよ」
母「えっ?」
宣教師「さ、汚れてしまった衣服やお体を清めなければならないでしょう?
夜も深まりましたし、早く教会へ行きましょう」
母「……」ペコリ
少年「宣教師さま…ありがとう!」
宣教師「……!」
宣教師「いえ、気にしないでください」ニコッ
132:🎄 名無しさん@読者の声:2012/12/30(日) 19:58:48 ID:A8xJN2pJRk
人間ってのは、どうしてこう……
つC
133:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 20:30:08 ID:JjbL7qVj/A
>>132さん
支援ありがとうございます!
人間の良い部分も悪い部分も書きたいので、中には不快なところも出てくると思いますがお付き合いいただければ幸いですm(__)m
134:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:28:56 ID:hN22NeG0qs
???「はっはっは!」パンッパンッ
???「おらぁ!そろそろ出すぞwww」パンッパンッ
???「ら、乱暴にしないでください…。
苦しいです…。」
これは…さっきの…?
???「なに言ってやがる!望むもんはくれてやったんだ!
しっかり働いてもらわねぇとな?」
母「は、はい。申し訳ありません」
???「……たく!ホビットは客の相手も満足に出来ねぇのかよ」
母「ごめんなさい…。」
違う…これはさっきのじゃない…?
オギャア オギャア
あれはボク…?
135:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:31:07 ID:hN22NeG0qs
母「すみません、子供が泣いてますので…」
???「なにぃ?」
母「お願いします。すぐに泣き止ませますから」
オギャア オギャア
???「うるせぇガキだ。俺が黙らせてやる!」
母「そんな!おやめください!」
???「ならくれてやった食料の半分、返してもらおうか?」
母「なっ…!」
???「ガキのせいで興が削がれたんだ。当然だろうが?」
母「……分かりました。お返します。
どうか息子には手を出さないでください」
???「それから1日延長だ。もちろんタダでな?」
母「はい、分かりました……」
お母さま…なんで…?
なんで、こんな事するの?
ボク、いやだよ。こんなの………
オギャア オギャア オギャア
136:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:34:11 ID:hN22NeG0qs
――教会――
少年「」ガバッ
少年「……」ダラダラ
少年「ここ、どこ?」
ガチャッ
母「あら、目が覚めたのね?」
少年「お母さま?」
母「なぁに?」ニコッ
少年「ここは?」
母「まぁ!寝ぼけてるの?
ここは宣教師様の教会じゃない?」
少年「教会?……あ、そっか」
母「もう!夢でも見てたんじゃないの?」
少年「夢……あ、あぁ…!
いやだ、いやだよ!思い出したくない!!」バッ
母「坊や?」
少年「う、うわぁぁぁあ!!!」ジタバタ
母「ど、どうしたの。坊や!?」
137:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:35:41 ID:JjbL7qVj/A
少年「いやだ、いやだ!いやだぁぁぁああ!!!」
母「坊や……」ダキッ
少年「あ、あ、あぁぁぁぁ!!!」
母「もう、大丈夫よ…。
あれは夢、忘れてしまいなさい」ギュッ
少年「お母さま…」
母「落ち着いた?」ニコッ
少年「ねえ…」
母「ん?」
少年「…ボクが赤ちゃんだった時にも、あんな事してたの?」
母「」ビクッ
138:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:37:36 ID:hN22NeG0qs
母「なにを、いっているの…?」
少年「ねえ、答えてよ。お願い?」
母「……」
少年「なんで何も言ってくれないの?
ねえ、どうして?」
母「坊や、それはね…」
少年「ごめんなさい」
母「えっ」
少年「よく考えたら、お母さまがそんな事するわけないよね?
疑ったりしてごめんなさい」ペコリ
母「坊や…?」
139:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:41:37 ID:hN22NeG0qs
少年「だってお母さまはキレイだもんね?」
少年「汚れてなんかないよね?」
少年「ごめんなさい。二度とお母さまを疑ったりしないよ」
少年「ボク、お母さまを信じてるから!」ニコッ
母「坊や……」
少年「どうしたの。お母さま?」
母「……なんでもないわ」
母「(謝らなきゃいけないのは、あたし……。
ごめんなさい…ごめんなさい…)」
140:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:43:15 ID:hN22NeG0qs
少年「そういえば宣教師様は?」
母「少し出かけるそうよ?」
少年「そっか。じゃあボク、マルクに会いに行こうかな」
母「だめよ、おとなしくしてなくちゃ。
村から離れているとはいえ、いつ人間に会うか分からないわ」
少年「そっか、そうだね。
マルク、ひとりぼっちで寂しくないかなぁ?」
母「大丈夫よ、マルクは利口な子だもの。
ちゃんと自分の生活を送ってるわ?」
少年「そうだよね、ボク我慢するよ」
母「あなたもとってもお利口ね?」ナデナデ
少年「えへへ!」テレテレ
母「………」
141:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:45:44 ID:JjbL7qVj/A
――回想(昨夜)――
母「すみません、お風呂まで頂いてしまって……」
宣教師「お気になさらず。
この教会も所詮は借り物、私の所有地ではありませんのでご自由にお使いください」
母「ありがとうございます。あの子は?」
宣教師「疲れたのでしょう。奥の部屋で寝息をたてていますよ」
母「そう、ですか。そうですよね。
あんな事があったんですもの…」
宣教師「…こちらでお茶でもいかがですか?
拙い出来映えではありますがお菓子も用意しましたので」
母「おいしそうですわね。もちろん頂きます!」
宣教師「……怪我の具合はどうですか?」
母「宣教師様の手当ての甲斐もあって良くなりましたわ」ニコッ
宣教師「…失礼ですが癒しの力を以てして治せないのでしょうか?」
母「……」
宣教師「あ、いえ。答えにくいようでしたら…」
母「私は、癒しの力なんて持ってません」
宣教師「え…?」
142:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:48:35 ID:JjbL7qVj/A
宣教師「それはどういう意味ですか?」
母「そのままの意味ですよ?」
宣教師「し、しかしあなたはホビットでは?」
母「えぇ。私はホビットですがそのような力は持っていませんよ?」
宣教師「ですが言い伝えにはハッキリと…」
母「宣教師様、失礼ですが教団に入られて何年になりますか?」
宣教師「かれこれ10年ほどになります…」
母「まぁ!10年も?
ずいぶんとお若いのね!」
宣教師「ふふ。歳は21ですが、私は孤児として司祭様に拾われましてね。
幼い頃から教団にいたのです」
母「そうでしたの…」
143:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:50:43 ID:JjbL7qVj/A
宣教師「それよりも私が教団に入った年月とお話にどのような関係が?」
母「あぁいけない!そうでしたね。
10年であれば宣教師様がご存知無いのも無理はないですわ」
宣教師「と言いますと?」
母「あれは確か…あの子がまだ赤ん坊だった頃…」
母「忘れもしません、すべてが崩れ去った日……」
144:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:52:09 ID:hN22NeG0qs
――回想(ホビットの集落)――
兵士「ずる賢いホビットめ。
我々の目を盗んで森の奥に集落を作っていたとはな」
兵士「この世界にお前たちの居場所などない!」
母「あぁ…村が焼けている…」
兵士「見つけたぞ!殺せ!
一匹たりとも逃すな!」
父「待て!子供に手を出すつもりか!」
父「せめて、お前たちだけでもっ……!」
メラメラ メラメラ
145:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:54:16 ID:JjbL7qVj/A
母「………」
宣教師「そんな事があったのですか…」
母「あの日、王国の兵士たちが私たちの村を焼き払い、
家族も村の人たちも皆殺しにされてしまいました」
宣教師「……」
母「幸い夫のおかげであたしと息子とお父様は逃げられましたが、
後日、王国の兵士が去ったのを機に様子を伺いましたところ
焼け野原となった村に夫と村人たちの無惨な死体が残っていました」
母「その日からは今日を凌げるかも分からない有り様で…。
元々あたしたちホビットは迫害を受けていましたし、
人間の住む場所で買い物も出来ませんから。
年老いた父とまだ赤ん坊だったあの子を養う為に木の実を探したり、
狩りをしてみたり…時には体も売りました」
母「うふふ。ご心配なさらずとも昨日が初めてではありませんのよ?」
宣教師「申し訳ございません…」
母「あ、ごめんなさい…。そういうつもりで言ったんじゃないんです…」
宣教師「いえ、何も知らず今まであそこの村人達にホビットへの偏見を植え付けたのは私です…」
母「……しかたないですわ、環境がそうさせるんですもの」
146:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:55:58 ID:JjbL7qVj/A
宣教師「すみません…。話の続きをお願いします」
母「…どこまで話しましたっけ?」
宣教師「そ、それは…その……」カァァ
母「?」
宣教師「あの、か、体を……」
母「」ハッ
シーン
母「あらやだ!ごめんなさい!」アセアセ
宣教師「そ、その…お気になさらないでください」カァァ
母「ほ、ほほほ…続き、話しましょうか?」
宣教師「お、お願いします!」
147:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:58:24 ID:JjbL7qVj/A
母「そ、そうね。
あれは…確か村を追われて5年も経った頃かしら?
お父様も歳だったし、娘のあたしに苦労を掛けたくなかったんでしょうね…。
その日の食料を調達して帰ってみたら、遺書を残していなくなっていました」
宣教師「……」
母「あの子には病気で亡くなったと言ってあるんですがね。
幼かったあの子に残っている思い出はお父様が口癖のように言っていた人間への恨み言だけ…」
宣教師「そういえばあの子も言っていました。
おじいさまに教団の人間の話をされたと」
母「えぇ。あたしも父の遺書を見るまで知らなかったのですが、
ホビットへの差別の始まりは教団にあるようなんです」
宣教師「やはりそうですか…」
母「教団の目的は分かりませんが、ホビットが人間から癒しの力を盗んだという噂が流れたのも父が子供の頃の話だと聞きました」
宣教師「なっ……まさか……!」
母「そのまさかですよ」
宣教師「しかし、それではなぜ当時の人々は…」
母「分かりません、でもあたしは父の言葉が真実だと思っています」
148:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 21:02:15 ID:hN22NeG0qs
宣教師「ホビットは……力を盗んでいなかった…。
いや、そもそもそんな力は存在しなかった、と言うのですか?」
母「あたしたちは森で暮らすおとなしい種族、何も侵さず、何も拒まず静かに生きていた。
少なくとも人間の方々に伝わっているような伝承は存在しなかったそうです」
宣教師「そんな……バカな!?」
母「………」
宣教師「私は…私たち人間は…そんなものに惑わされてきたというのですか!?」
宣教師「そんな……私が今まで信じてきた事は…捧げてきたものは……」
母「……」
149:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 21:03:46 ID:JjbL7qVj/A
宣教師「あぁぁぁぁぁああ!!!」ダンッダンッ
母「せ、宣教師様!?」
宣教師「私は…罪深い!裁かれるべきは……あぁぁぁぁ!!!」ダンッダンッ
母「お、おやめください!
頭など打ち付けては傷付いてしまいます!」ガシッ
宣教師「放っておいてください!」バッ
母「きゃっ」
宣教師「あなたの話が本当なら……私は罰を受けなければなりません」
母「……いい加減になさい!」バシンッ
宣教師「っ!?」
150:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 21:06:24 ID:hN22NeG0qs
母「あなたたち人間は、何をもって罪と定め、何をもって罰を与えようとするのか。
あたしにはさっぱり分からないわ!」
宣教師「」ビクッ
母「なぜ許す事を考えないの!?
なぜ正そうとは思わないの!?
あなたたちの都合に付き合わされるのは、もううんざりよ!!」
母「いつまで苦しみを背負って、どこまで悲しみを堪えれば分かってくれるのよ!?」
母「あたしたちは……誰も傷付けたりしない。
ただ静かに暮らしたいだけなの…」ブワァ
母「ねぇ、分かってよ…?
誰も不幸なんか望んでいない…。
あなたが不幸になっても、あたしも、あの子も喜んだりしないわ…」ポロポロ
宣教師「……」
宣教師「申し訳、ありません…」ガクッ
151:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/1(火) 19:03:04 ID:PegmcYVJcA
あけましておめでとうございます。
あの…今さらなのですが、登場人物に名前を付けた方がいいでしょうか?
読みにくかったりしませんかね?
152:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/1(火) 23:24:01 ID:.cUSspOk4Q
――――
母「……」
少年「宣教師さま、早く帰って来ないかなぁ」
母「そうねぇ。どこに行かれたのかしら?」
少年「帰ってきたら今までちゃんとお話出来なかったから、たくさんお話したいな!」
母「うふふ。そうなさい。宣教師さまも喜ぶと思うわよ?」
少年「えへへ!楽しみ!」
母「」ニコニコ
少年「ねぇ、お母さま!」
母「ん?なぁに…っ…!」ズキッ
少年「お母さま…?」
153:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/1(火) 23:25:44 ID:.cUSspOk4Q
母「っ……!」ズキズキ
母「だ、大丈夫よ…どうしたの?」
少年「大丈夫じゃないでしょ!?
だって昨日……!」
母「平気だから…心配しないで?」ニコッ
少年「けど…」
母「あたしはあなたの方が心配よ?
一昨日も、昨日も人間に暴力を振るわれて…」
少年「ボクは平気だよ…」
母「嘘おっしゃい、お腹だってアザだらけで…」
少年「平気だってば。ボクは大丈夫だから…」
母「だめよ、服を捲ってごらんなさい?」
少年「もう…わかったよ」ペラッ
母「ほら、こんなに……え?」
少年「ん…もう、いい?」
母「え、えぇ……」
母「(アザが消えてる…?)」
154:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/1(火) 23:27:25 ID:.cUSspOk4Q
少年「ね?平気だったでしょ?」
母「(どういうこと?そういえば一昨日もケガは無かったわね…)」
少年「お母さま?」
母「えっ」
少年「どうしたの?」
母「あ、いや…なんでもないのよ。ごめんなさい」
少年「ボクのおなか、ヘンだったの?」
母「なに言ってるのよ、ヘンなわけないじゃない?」クスクス
少年「よかった!」ニコッ
母「(……あれは癒しの力?
いや、ありえないわよね。そんな力は存在しないはずだもの…。
きっと打ち所がよかったのよ、それともなければ村の人間たちが子供相手だから加減したのか…)」
155:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/1(火) 23:29:38 ID:7FwZM..EWU
少年「それにしてもおなか空いちゃったね」
母「…そうね、何か作りましょうか?」
少年「ううん、いいよ。人の物を勝手に使っちゃだめなんでしょ?」
母「うふふ。大丈夫よ?
宣教師様には使っていいと言われてるから」
少年「そうなの?」
母「えぇ。そういえばあなたにビスケットを焼いたって言ってたわよ?」
少年「え?やった!ボク、ビスケット大好き!」
母「うふふ。あなたはホントにビスケットが好きね?」
少年「うん、小さい時に行った町で女の子に貰ったんだ。
それからずっと好き!」
156:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/1(火) 23:33:06 ID:.cUSspOk4Q
母「そんな事もあったわね。
あの女の子、どうしてるかしら?」
少年「きっと元気だよ?約束したもん、またねって!」
母「ふふ。それもそうね…。
あの頃はおじいさまも生きてて、家も無くて転々としてたから長居出来なかったけど…」
少年「懐かしいなぁ。
おじいさまに叱られちゃうからあの子にビスケット貰ったのは内緒にしてたんだっけ」
少年「あの女の子とはそれだけだったけど…」
母「…元気だといいわね。
あ、ビスケットは白い棚の2段目にあるそうよ」
少年「わかったー!」タタタッ
母「屋内で走るんじゃないの!」
少年「ご、ごめんなさい…」ピタッ
157:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/1(火) 23:36:01 ID:.cUSspOk4Q
――村――
宣教師「……」スタスタ
村娘1「」スタスタ
宣教師「おや、村娘1さん。こんにちは」
村娘1「あっ…宣教師様…こ、こんにちは…」ペコリ スタスタ
宣教師「……?」
ザワザワ ザワザワ
158:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/1(火) 23:38:42 ID:.cUSspOk4Q
村のおばさん「聞いたかい?
宣教師様がホビットを匿ってるそうだよ?」
村の青年「えぇ!?そ、そりゃ大変じゃないか!」
村のおばさん「大変なんてもんじゃないわよ!
薄汚いホビットのことさ、家を空けたりしたら食料から家具から盗まれちまうよ!」
村の青年「あっ!そういえば俺、今朝に読もうと思った本が無くなってた!」
村のおばさん「そりゃあんた、ホビットの仕業に違いないよ!」
村の青年「くっそー!まだ読み終わってないのに…許せねぇ!」
宣教師「なんの話ですか?」
村のおばさん「」ビクッ
村の青年「せ、宣教師様…!」
宣教師「事情は知りませんが、勝手な憶測で妙な噂を立てるのはおやめなさい」
村のおばさん「す、すみません」
村の青年「……」
宣教師「いえ、では失礼します」スタスタ
村のおばさん「…聞いたかい!?」
村の青年「あぁ。ホビットを庇いやがった。
宣教師様もなに考えてんだか」
村のおばさん「なにか妖術でも使われて洗脳されちまったんじゃないのかい?」
村の青年「とにかくこりゃ村長に報告しなきゃな!」
村のおばさん「あぁ。ホビットなんかにうろつかれちゃ夜もおちおち寝られやしないよ!」
159:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/1(火) 23:42:01 ID:.cUSspOk4Q
宣教師「早速、ですか。これでは広場に行っても子供たちはいなさそうですね」スタスタ
村の大人4「宣教師様だ…」ヒソヒソ
村の大人5「あぁ。あの人ホビットの仲間なんだろ?」ヒソヒソ
村の大人4「迷惑な話だよな」ヒソヒソ
宣教師「(言いたい事があるならはっきり言えばいい。
わざわざこちらを見ながらひそひそと…)」
ヒュッ
宣教師「危ない!? 石…?」チラッ
村のお婆さん「で、でていけぇ!あくちょうめ!」
宣教師「はい…?」キョトン
村娘2「お、おばあちゃん!何してるの!?」
村のお婆さん「えぇい!出ていけ、でちぇいけぇ!」ブンッ
ガッ
宣教師「っ……!」
村娘2「やめなさいよ、おばあちゃん!
ご、ごめんなさい。ほら、行きましょ?」ズルズル
村のお婆さん「でちぇいけぇ!でちぇいけぇ!うすぎちゃないしゅじょくのてしためぇ!」ジタバタ
宣教師「……」
宣教師「」スタスタ
160:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 00:24:19 ID:CtXxZyuyE.
――広場――
宣教師「さて、思った通り誰もいないみたいですね。
まぁ構いませんがね、これ以上の偏見を子供たちに植え付けるつもりもありませんし」
宣教師「……帰りますか」
村の子供2「宣教師様ー!」タタタッ
宣教師「?」
村の子供3「だ、だめだよ。2くん!お父さんに怒られちゃうよ!」
村の子供2「うるせー!」
宣教師「キミたち、なぜここに…?」
村の子供2「宣教師様、ホビットの仲間ってほんとなの!?」
宣教師「……」
村の子供2「どうなんだよ!?」
161:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 00:26:34 ID:k4nZjE3vWE
村の子供3「や、やめなよ」アセアセ
村の子供2「お前には関係ねーだろ!」
村の子供3「でもさ…」オロオロ
宣教師「本当ですよ」
村の子供2&3「えっ」
宣教師「正確には仲間ではなく、友達だと思っています」
村の子供2「……」
村の子供3「や、やっぱり…」
宣教師「ですが、たとえホビットと友達だからと言って、キミたちも私の大切な教え子に変わりはありませんよ?」ニコッ
村の子供2「……」
村の子供3「せ、宣教師様……」
宣教師「ここに来たのは今日から聖書の読み聞かせをお休みすると伝える為です」
162:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 00:29:19 ID:k4nZjE3vWE
村の子供2「な、なんでだよ…」
村の子供3「2くん?」
宣教師「どうしました?」
村の子供2「なんでホビットなんかと仲良くすんだよ!?
ホビットを信じるなって言ったのは宣教師様だろ!」
宣教師「……」
村の子供2「俺やだよ!宣教師様と会えなくなるなんてやだ!」
宣教師「2くん…」
村の子供2「ねぇ!ホビットなんかほっといていつもみたいに聞かせてよ!?
俺、もう話の邪魔したりしないから!」
宣教師「すみません。しかし私はもう布教活動はしないと決めたのです…」オロオロ
163:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 00:32:06 ID:CtXxZyuyE.
村の子供2「〜〜〜!!」ワナワナ
村の子供3「もうやめなよ…」
村の子供2「なんだよ!お前だって宣教師様が好きだったじゃんか!
いなくなってもいいのかよ!」
村の子供3「ボクだってイヤだよ。けどしょうがないでしょ?」
村の子供2「しょうがないって…なんだよ…」プルプル
村の子供2「う、うぇぇん…うぁぁぁん…!」ブワァッ
村の子供3「……」
村の子供3「……」チラッ
村の子供3「」ギョッ
宣教師「………」ポロポロ
宣教師「き、キミたち…私の事をそんなに……!」ウルウル
164:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 00:34:31 ID:CtXxZyuyE.
宣教師「わ、私は…私は感動してます…!」グスッ
村の子供2「ちくしょー…ホビットなんていなくなっちゃえばいいのに!」
宣教師「えっ」
村の子供2「だってそうじゃん!あいつらのせいで宣教師様がいなくなるんだろ!?
なんであいつらじゃなくて宣教師様なんだよ!?」
宣教師「べ、別に私には教会に来ればいつでも会えますから…。
彼らを責めるのはお門違いですよ?」アセアセ
村の子供2「ムリだよ!お父さんたちが言ってたんだ!
村人みんなで司祭様に言って布教する人を変えてもらうって!」
宣教師「それは本当ですか?」
村の子供3「うん、ボクのお父さんも言ってたよ…」
宣教師「なるほど、まあ遅かれ早かれこうなるとは思ってましたが、予想以上に対応が早かったですね」
村の子供2「そうなったらもう会えないだろ!?」
宣教師「そうですね、村を離れなければいけませんからしばらくは会えないでしょう」
165:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 00:37:59 ID:CtXxZyuyE.
宣教師「それでも一生会えなくなるわけではありません」ニコッ
村の子供2「……やっぱり!宣教師様は俺たちなんてどうでもいいんだ!」
宣教師「なっ!なぜそうなるんですか!?」
村の子供2「さっきから普通じゃんか!」
宣教師「ふ、普通…ですか?」キョトン
村の子供3「た、多分落ち着いてるからって意味だと思う」
宣教師「あ、なるほど」ポンッ
166:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 00:40:12 ID:CtXxZyuyE.
村の子供2「俺、宣教師様とお別れしたくない!
でも宣教師様はいいんだ!へっちゃらなんだろ!?」
村の子供2「俺のことなんて、めんどくさいって思ってたんだ!」
村の子供2「……どうせ…!」ポロポロ
宣教師「…ハンカチを貸しますから、とりあえず拭きなさい」スッ
村の子供2「いらない!」バッ
宣教師「安心なさい。ちゃんと洗ってますし、まだ使ってませんから」
村の子供2「そうじゃない!」
宣教師「え、違うのですか?」キョトン
村の子供2「違うよ!!」プンスカ
村の子供3「あ、あはは……宣教師様ってこういうとこあるよね…」
167:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 00:42:11 ID:CtXxZyuyE.
宣教師「とにかく涙と鼻水でお顔がぐちゃぐちゃですからお拭きなさい」フキフキ
村の子供2「や、やめろよ!」バッ
宣教師「なら自分で拭きなさい。ほら」スッ
村の子供2「うぅ…わかったよ」フキフキ チーン
宣教師「それでいいのです」ウンウン
村の子供2「んっ!」つ【使用済みハンカチ】
宣教師「ど、どうも……」
村の子供3「うわぁ……」
168:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 00:45:22 ID:k4nZjE3vWE
宣教師「コホン!一つ言っておきましょう!
先ほども言いましたが私はキミたちを大切な教え子だと思っています!」
村の子供2「嘘っぱちだ…ほんとはどうでもいいクセに」ジト
宣教師「むっ」カチンッ
村の子供2「ビスケットだって、いっつも俺にはくれなかった」
宣教師「あ、あれはキミがお話の邪魔をするから…」
村の子供2「神のご加護、神のご加護って言って手を合わせて祈るだけだったし……」
宣教師「ぐっ…ぐぬぬ!」イラッ
村の子供2「もういいよ、宣教師様なんかどっかいっちゃえ」プイッ
宣教師「や、やっかましぃぃぃ!!!」
村の子供2「」ビクッ
村の子供3「」ビクッ
宣教師「いいから私の話を聞きなさい!!」
村の子供2「は、はい!」ドキドキ
村の子供3「はい…」ドキドキ
宣教師「(司祭様の見よう見まねですが効果バツグンですね…)」
169:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 00:48:56 ID:CtXxZyuyE.
宣教師「コホン!とにかく先ほどから!何度も!言いますが私はキミたちが大切です!」
村の子供2「じゃ、じゃあどうして…」
宣教師「話は最後まで聞きなさい」
村の子供2「はい…」
宣教師「今からキミたちに最後の教えを説きます」
村の子供2「うん…」
村の子供3「……」
宣教師「今までの私の教えはすべて忘れなさい」
村の子供2&3「えっ」
宣教師「私の教えは忘れた上で、これから教会に来なさい」
村の子供2「な、なんでだよ?」
宣教師「そこに答えはあります。付いてくれば分かりますよ」
村の子供3「ど、どうしよう?」オロオロ
村の子供2「わかった。俺、行くよ」
村の子供3「え、いいの?だって教会にはホビットが…」
村の子供2「いい、ホビットなんか怖くねーもん。
それに宣教師様は今まで教えたこと、忘れろって言った」
宣教師「」ニコッ
村の子供3「で、でも…」タジタジ
村の子供2「イヤなら来んなよ、俺だけ行くから」
村の子供3「わ、わかったよ…ボクも行くよ」
宣教師「ふふ。では行きましょうか」
「ちょっと待ったぁ!!」
宣教師「……?」
170:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:10:03 ID:TbIaTri9k.
村の大人3「うちの子たちを連れてどこに行くつもりですか?」
宣教師「……」
村の大人3「まさか教会に連れていくつもりじゃないでしょうね?」
村の子供3「お、お父さん…」
村の子供2「……!」
村の大人3「困りますなぁ?勝手なことをされては…」
宣教師「……」
村の大人3「お前たちもこんな所にいないで帰るぞ。
あれほど宣教師様には近付くなと言っただろうが」
村の子供3「う、うん…ごめん…」
村の子供2「……」
村の子供3「2くん?」
171:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:11:54 ID:REyqDbJZgQ
村の大人3「おい、なにやってんだ。行くぞ?」
村の子供2「俺、行かない」
村の大人3「なにぃ?」ピクッ
村の子供2「あんたは俺の父さんじゃないんだから関係ないだろ?」
村の大人3「このガキ…」グイッ
村の子供2「っ…!」ビクッ
村の子供3「お父さん、やめて!」
村の大人3「お前は黙ってろ!」
宣教師「おやめなさい、子供に手を出すつもりですか?」
村の大人3「ちっ!」
172:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:12:42 ID:REyqDbJZgQ
村の大人3「たく…!やめていただけませんか、子供に余計な事を吹き込むのは?」
村の大人3「あんたのせいで村は今、混乱してるんだ」
宣教師「……」
村の大人3「おい、行くぞ」
村の子供2「イヤだっつってんだろ!」
村の大人3「いい加減にしろ!」
村の子供2「」ビクッ
村の大人3「こいつはホビットの仲間だぞ!分かってんのか!」
村の子供2「……い、いいじゃんか」ブルブル
村の大人3「はぁ?」
173:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:14:32 ID:cRgOqnAOPY
村の子供2「誰が誰と友達でも、俺たちには関係ない!
俺、いいもん!宣教師様がホビットと友達でも!」
村の子供2「俺は宣教師様が大好きだ!だから人間とか、ホビットとかどうでもいいよ!」
村の子供3「2くん……」ウルッ
宣教師「ふふ…」ニコニコ
村の大人3「お前、自分がなに言ってるか分かってんのか?
そんな考え、誰も認めてくれないぞ!」
村の子供2「別にいい…」
村の大人3「このバカガキ…!」
村の子供3「ぼ、ボクも…ボクも2くんの言う通りだと思う!」
村の大人3「なっ…!お前まで何を!?」ギョッ
村の子供3「ごめん、お父さん…。
でも、ボクはボクだから。友達は自分で決める」
174:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:16:54 ID:cRgOqnAOPY
村の子供2「へへっ!」ニコッ
村の大人3「……!」ギリッ
宣教師「あはははは!」
村の大人3「なっ!あ、あんた、なに笑ってんだ!」
宣教師「ふふ…失礼。ですがあなたの負けですよ。
この子たちの言っている事は正しい」
村の大人3「正しいだと!?
こいつらは薄汚いホビットと人間を同じ天秤で測ってるんだぞ!
それが正しいって言うのか!?」
宣教師「今までのあなたの所業を思い出してごらんなさい。
弱い者を虐げ、悦に浸るあなたと…。
純粋な心で人間に接しようとするホビット、はたして薄汚いのはどちらですかね?」
村の大人3「バカな事を言うな!俺がいつ弱い者を虐げた!?
奴らは昔、癒しの力を奪った罪深い種族だ!
畜生にも劣る存在!俺は正しい行いをしたまでだ!」
宣教師「…どうやら、これ以上は無駄なようですね」
175:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:18:53 ID:REyqDbJZgQ
村の大人3「元はと言えば、奴らの罪深さを伝えてきたのはあんたら教団の人間だろうが!?
それを急に手のひら返しやがって!ふざけんじゃねぇぞ!!」
宣教師「えぇ。今までの私は間違っていました。
これからは世を惑わせる間違いを正そうと思っています」
村の大人3「間違いを正すだと!?
正すも何も間違ってんのはあんただ!」
宣教師「さ、行きましょうか」
村の子供3「え、でも…?」
村の子供2「いいよ、行こうぜ。おっちゃんには何言っても聞いてくんないよ」
村の大人3「待て!」ガッ
村の子供3「ひっ…い、痛いよ」ビクッ
176:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:20:29 ID:cRgOqnAOPY
村の大人3「俺の息子を連れてくなんて許さねぇぞ!
こいつまで薄汚いホビットに肩入れするようになったらどうする気だ!?」
宣教師「おやめなさい、まだ分からないのですか!」
村の子供3「お父さん。離してよ…」
村の大人3「……なんで分からないんだ!
父さんはお前を大事に思ってるからこそ言ってるんだぞ…!?」
村の子供3「…お、お父さん…」
宣教師「……」
村の大人3「お前が今しようとしている事は罪として、この先ずっとまとわりつくんだ!
そうすればお前が不幸になってしまうんだ!」
村の子供3「だ、だけど…」オロオロ
177:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:22:04 ID:REyqDbJZgQ
村の大人3「宣教師様、あんたも知ってるだろう?
ホビットに肩入れした町の話を…!
あの悲劇をもう一度引き起こす気か!?」
宣教師「…もちろん知っています。
私はあの悲劇の町で生まれましたから」
村の大人3「なっ…!なら、なんでだ!?
あの町の生き残りなら誰よりもホビットを憎むはずだ!」
宣教師「えぇ。憎んでいましたよ。
つい先日まではホビットこそが悪だと信じていました」
村の大人3「だったら…!」
宣教師「しかしあの悲劇を引き起こしたのもまた、私です」
村の子供2「えっ」
村の大人3「なんだと…?」
178:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:25:16 ID:REyqDbJZgQ
宣教師「あれはまだ10歳だった頃…私は町の裏通りで姿を隠して暮らしていたホビットに出会いました。
子供だった私はホビットに偏見も無く、
いつもお母さんが焼いてくれたビスケットをあげた…。
友達になろうと言い、いっぱい話をして…」
村の大人3「……」
宣教師「運悪くその場面を税の回収に来た王国の兵士に見られていたのです。
そんな事も知らずに今日で町を出るんだと話す少年を、私は見送った…。
あとは知っての通りです。次の日に王国が攻め込み、町は壊滅させられました。
大人は皆殺され、私より8つ大きかった兄も…」
村の大人3「じゃあ、やっぱりあんたはホビットを憎むべきじゃないか?
奴らに出会わなければ悲劇は起こらなかったはずだ」
宣教師「私もそう思っていましたよ。
孤児となった私を拾ってくださった司祭様に憎むべきはホビットだと説かれ、
同じ悲劇を産み出さない為にも私は宣教師となったのですから」
村の大人3「なら、なぜ…?」
179:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:27:30 ID:cRgOqnAOPY
宣教師「皮肉にも、私は何より憎んでいたホビットに会った事が無かったんですよ…
私がビスケットを与えたあの子以外のホビットに、ね」
村の大人3「つまりどういう事だ?」チンプンカンプン
宣教師「朧気に残っていた記憶は楽しく話した思い出だけ。
憎むにはあまりにいとおしく、キレイ過ぎました…」
宣教師「…さまざまな事柄をこじつけられて……。
唯一の拠り所だった司祭様に言われるままに納得させてきましたが、あの少年に出会ってしまった…」
宣教師「あの少年に、記憶の面影を映してしまった…」
村の大人3「だからといって悲劇の引き金があいつらなのに変わりはないだろう」
宣教師「……はたしてそうでしょうか?」
村の大人3「何が言いたいんだ?」
宣教師「悲劇を招いたのは我々人間なのではないでしょうか?」
180:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:28:48 ID:REyqDbJZgQ
村の大人3「はぁ?なんだそりゃ?」
宣教師「ホビットへの偏見と迫害こそが引き金、とは言えませんか?」
村の大人3「何を言ってんだ、ホビットは罪を犯したんだぞ。当然の罰じゃないか」
宣教師「あなたは先ほど、3くんに親として大切に思っていると話していましたが、
たとえば3くんに差別の手が向けられればどうですか?」
村の大人3「な、何があっても守るに決まってるだろう?」
宣教師「それならばあなたたちに傷付けられたあのホビットの親子の気持ちも理解出来るはずです」
村の大人3「……」
181:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:31:10 ID:REyqDbJZgQ
宣教師「私たちはあまりに傲りすぎた…。それこそが本当の罪なのではないでしょうか?」
村の大人3「あんたは間違ってる、ホビットは俺たちとは違う。忌むべき種族だ」
宣教師「やはり、分かってはくれませんか」
村の大人3「あぁ。俺は認めないぞ、あんな薄汚い奴らをな…」
宣教師「……」
村の子供2「もういいだろ?行こうぜ、おっちゃんは頭でっかちなんだ」
村の子供3「お父さん、ボクも行くよ。止めたって行くからね?」
村の大人3「勝手にしろ、どうせそいつが教団の人間である内は手出し出来ないしな。
だが絶対に約束しろ、ホビットとなんか仲良くするなよ?」
村の子供2「知らねー」プイッ
村の子供3「お父さん、言ったでしょ?
友達になる相手は自分で決めるって!」
村の大人3「…ちっ!なんでこんなバカになっちまったんだか!」
宣教師「では今度こそ行きましょう」
村の子供2「おう!」
村の子供3「うん!」
村の大人3「(ちっ!あの宣教師、早いとこ追い出さなけりゃまずいな…)」
182:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 20:50:08 ID:Gs0K8eI9OM
――村の外――
村の子供2「久しぶりだな、教会に行くの!」
村の子供3「前はよく遊びに行ったもんね?」
宣教師「一度大きな犬に出くわしてからご無沙汰してましたしね。
キミがすっかり怯えてしまって、村の外に出るのを嫌がったんでしたっけ?」クスクス
村の子供2「怯えてない!」プンスカ
宣教師「本当ですか?もしかしたら今日も出るかもしれませんよ?」
村の子供2「別にいいよ、怖くねーもん!」
ガサッ
村の子供2「」ビクッ
村の子供3「あはは!子猫が通っただけだよ?」
子猫「にゃー」ニャーニャー
183:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 20:54:05 ID:Gs0K8eI9OM
村の子供2「な、なんだ…」ホッ
宣教師「ふふ、大丈夫ですか?」クスクス
村の子供2「だ、大丈夫だし!」
村の子供3「かわいい猫だね、こっちおいで!」
子猫「にゃー!」スリスリ
村の子供3「あはっ!いい子だねぇ」ナデナデ
村の子供2「そんなのいいから早く行こうぜ」
村の子供3「そんなのなんて言い方したらかわいそうだよ?
こんなにかわいいのに。ねー?」ナデナデ
子猫「ごろにゃーん」ゴロゴロ
184:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 20:56:20 ID:Gs0K8eI9OM
村の子供2「もういいだろ?」ムスッ
宣教師「まぁまぁ。いいじゃないですか。
動物との触れ合いは心に安らぎを与えてくれます。すごくいい事なんですよ?」
村の子供3「2くんも撫でてみなよ、喉を撫でてあげるとゴロゴロ言うよ?」
村の子供2「俺はいいよ…」
村の子供3「あれ?もしかして怖いの?」ニヤニヤ
宣教師「なるほど、そういう事でしたら仕方ありませんね?」クスクス
村の子供2「はぁ!?なんでそうなんだよ!?」
村の子供3「なら触れるでしょ?ほら!」スッ
子猫「にゃーすでにゃーす」ニャーニャー
村の子供2「う…分かったよ」ダキッ
子猫「」ジー
村の子供2「」ドキドキ
子猫「」ジー
村の子供2「」ナデリ
子猫「うにゃー」ゴロゴロ
村の子供2「あ、あは…」ツツー
「ワンッ!!」
村の子供2「うわあぁぁぁぁああ!!?」ビクッ
子猫「にゃっ!」タタタッ
185:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 20:59:22 ID:Gs0K8eI9OM
犬「はっ!はっ!はっ!」ハッハッ
村の子供2「はぁっ…はぁっ…!?」ドキドキバクバク
宣教師「おや、この前の……?」
村の子供3「ああ、びっくりした!」
村の子供2「」ドキドキバクバク
村の子供3「大丈夫?」
村の子供2「あ、あぁ…」
犬「はっ!はっ!」タタタッ
宣教師「ん?」
犬「」クンクン
村の子供3「宣教師様になついてるね!」
宣教師「これはなついてるのでしょうか…?
しきりに匂いを嗅いでいますが?」
村の子供2「もう行こうって!夕方になっちゃうよ!」
村の子供3「まだお昼だよ?」
宣教師「そうですね、道草ばかり食うのもなんですから行きましょうか」
186:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:01:29 ID:f..8jqvYIw
村の子供3「ねえ、宣教師様。あの犬付いてくるよ?」スタスタ
宣教師「そうですね、服に気になる匂いでも付いていたんでしょうか?」スタスタ
犬「ワンッ!」スタスタ
村の子供2「」ドキドキ
187:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:03:21 ID:f..8jqvYIw
――教会――
宣教師「結局教会まで付いてきてしまいましたね」
犬「ワンッ!」
村の子供3「きっと宣教師様になついてるんだよ!」
村の子供2「」ドキドキ
宣教師「とりあえず入りましょうか」
村の子供2「このまま入ったら犬も入ってきちゃうじゃん!」
犬「ワンッ!」
村の子供2「お、俺イヤだぞ?」ドキドキ
犬「クゥン…」クーンクーン
村の子供3「そんなこと言ったらかわいそうだよ」
村の子供2「う……」ズキッ
宣教師「まぁ一応、借り物の教会は清潔に保ちたいので外で待たせておきましょうか」
村の子供3「えー!入れてあげようよ?」
犬「ワンッ!」
宣教師「だって野良ですよ?どこで何触ってるか分かんないじゃないですか?」
村の子供3「宣教師様って意外とシビアなんだね…」
宣教師「当然です。衛生面はしっかりしなければ」キッパリ
村の子供3「(て言うかボク、さっきまで普通に触ってたんだけど…)」
犬「クゥン…」クーンクーン
村の子供2「」ホッ
188:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:05:58 ID:Gs0K8eI9OM
村の子供3「ごめんね?」ナデナデ
宣教師「ここにいるのなら、おとなしくしておいてくださいね?」
犬「クゥン…」クーンクーン
ガチャッ バタンッ
犬「……ワンッ」
189:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:08:00 ID:f..8jqvYIw
母「あら、誰か帰ってきたみたいね?」
少年「宣教師さまかな?」パァァ
母「念のためお母さんが見てくるわ、坊やはここにいて?」
少年「え?」キョトン
母「もしかしたら宣教師様じゃないかもしれないでしょ?」
少年「な、ならボクが行くよ」
母「だめよ!いい子だからおとなしくしてなさい?」
少年「イヤだ!お母さまが人間にいじめられたら大変だもん!」
母「お願いだから聞き分けてちょうだい!たとえ教会でも安全とは限らないのよ?」
少年「イヤだ!ボクが行く!」
母「分からない子ね…!」
少年「お母さまが傷付くくらいならボクが傷付いた方がいい!」
母「あたしは嫌よ、坊やが傷付くところなんて見たくないわ!」
ガチャッ
少年「なんで分かってくれないのさ!」
母「分かってくれないのはあなたでしょ!?」
宣教師「あの…お取り込み中ですか?」
母&少年「えっ」
190:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:10:45 ID:Gs0K8eI9OM
少年「やっぱり宣教師さまだ!」パァァ
宣教師「えと、大丈夫ですか…?」オソルオソル
母「え、えぇ。ごめんなさい」
少年「お母さまは心配し過ぎだよ?」
母「まぁ!坊やこそ心配してたじゃない?」
少年「そんな事ないよ!ボクは宣教師さまって分かってたもん!」
母「もう!調子のいい事ばっかり…」
宣教師「」ニコッ
村の子供3「宣教師様…この人たちがホビットなの?」
宣教師「えぇ。そうですよ?」
村の子供2「なんだよ、全然怖くねーじゃん!」
母「? 宣教師様、その子たちは?」
宣教師「私が教えていた村の子供たちです。あなたたちに紹介しようと思いまして…」
191:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:12:58 ID:Gs0K8eI9OM
少年「」ハッ
宣教師「どうしました?」
母「あっそういえば……」
少年「…!」マジマジ
村の子供2「な、なんだよ?」
村の子供3「?」キョトン
少年「やっぱり!この前遊んでくれた子たちだ!」パァァ
村の子供2&3「えっ」
少年「ボクだよ、ボク!覚えてない?」
村の子供2「も、もしかして……!」
村の子供3「この前の女の子!?」
少年「えへへ!覚えててくれたんだね?」ニコッ
村の子供2「」ドキッ
母「……ぼ、坊や…」オロオロ
宣教師「大丈夫ですよ、お母様?」ニコッ
母「でも…」アセアセ
192:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:15:38 ID:f..8jqvYIw
村の子供3「キミってホビットだったの!?」
少年「あ、うん…内緒にしててごめんね?
ホビットのボクは、嫌いになっちゃうかな…?」オドオド
母「……」アセアセ
村の子供2「べ、別にホビットでもいいし!関係ねーもん!」
村の子供3「そうだよ、ボクらは友達じゃない?」
少年「……!」ウルッ
母「」ポロポロ
宣教師「」ニコニコ
村の子供2「な、なんだよ?みんなして…」アセアセ
少年「ううん…なんでも、ないよ?」ニッコリ
宣教師「ね?言った通りでしょう?」
母「はい。本当に…良かった」グスッ
村の子供2「なんだ?」キョトン
村の子供3「わかんない…」
193:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:17:59 ID:Gs0K8eI9OM
村の子供3「それにしても髪切ってるから分からなかったよ」
村の子供2「そうだよ、昨日はもうちょっと長かったじゃんか?」
少年「あはは。分かりにくくてごめんね?
でもアレはカツラだから髪を切った訳じゃないんだ」
村の子供3「えっ」
村の子供2「なんでカツラなんか被ったんだ?ハゲてないのに」
少年「は、はは…ホビットだって思われない為に女の子のカッコをしてたの」
村の子供2「へ?女の子のカッコ?」
村の子供3「まさかキミ…男なの?」
少年「う、うん。実はそうなんだ…」カァァ
村の子供3「えぇ!気付かなかったよ!?」
村の子供2「」ガーン
村の子供3「(あ、ショック受けてる)」チラッ
194:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:20:14 ID:Gs0K8eI9OM
少年「恥ずかしかったけど、お母さまに言われたからしかたなく、ね…」
村の子供2「(俺、ずっと男にドキドキしてたのかよ…)」ズーン
村の子供3「(かける言葉が見つからない…)」
少年「ど、どうしたの?」キョトン
村の子供2「なんでもねーよ…」
村の子供3「どんまい」ポンッ
村の子供2「うるせー!」
少年「……?」
宣教師「ふふ。すっかり仲良しさんですね?」ニコニコ
母「そうですねぇ」ニコニコ
195:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:18:14 ID:iqCPsQL3wQ
――一時間後――
村の子供2「それでさ!俺がググッと竿を引いたらこーんなに大きい魚が釣れたんだぜ!」
少年「えぇ!すごいや!?」
村の子供3「ウソだよ、もっと小さかったじゃない」
少年「そうなの?」
村の子供2「ウソじゃねーよ!ほんとにデカかったんだぞ!」
村の子供3「違うよ、実際はこのくらいでしょ?」
村の子供2「そんなちっちゃくねーっつの!」
少年「あはは。どっちがホントなのかわかんないや」
村の子供2「俺の話がホントなんだよ!こいつがウソ言ってんだ!」
村の子供3「違うよ、ボク嘘つかないもん」
村の子供2「俺が嘘つくみたいじゃんか!」
少年「じゃあどっちもホントだね!」
村の子供2「なんでそうなんだよ!?」ズルッ
村の子供3「あ、あはは。それはちょっと違うと思うなぁ…」
196:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:22:43 ID:zpo9dpEiuU
母「子供っておもしろいわねぇ。さっきまで落ち込んでたと思えば仲良くおしゃべりして…」
宣教師「確かに、あそこまで噛み合っていないのに会話が成立してるんですから不思議ですね」
母「……あの子たちのようにホビットと人間が分かり合えれば、どれだけ救われるかしら」
宣教師「きっと、そうなりますよ」
母「……そうね、そうなってくれたら…」
宣教師「そうなる為の鍵は、次の時代を生きるあの子たちにあります。
私たちは少しでも彼らの安らげる世界を開くきっかけとなりましょう」
母「本当に、いいの?あたし達といればあなたは…」
宣教師「昨晩話し合って決めた事です。
神に仕える者として曲げるつもりはありません」
母「ごめんなさい…」
宣教師「やめてください、私はあなたたち親子の力になりたいだけなのですから…」
母「……あたし、坊やにさんざん人間を憎まないよう言ってきたけれど、本当は自分の憎しみを誤魔化してきただけなのかもしれないわね…」
母「あなたやあの子たちを見ていると、人間はこんなにキレイなんだと思わされるの…」
宣教師「そんな事はありませんよ?
その証拠にあなたの息子さんは、透き通るほどに純粋な心を持っています。
母親であるあなたが穢れ無き愛情を注いだからこそ、憎しみに呑まれず育ってくれたのです」
母「そんな…あたしは……」
村の子供2「ねぇねぇ!腹減ったー!」
母「きゃっ!びっくりした…」
197:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:25:11 ID:iqCPsQL3wQ
宣教師「そういえばお昼を食べてませんでしたね」
母「あらあら、何か作りましょうか?」
村の子供2「俺、ステーキ食べたい!」
母「す、ステーキは…あるかしら?」
宣教師「す、すみません。お肉は用意してないです…」
母「確かにお野菜しか入ってないわね…」ガサゴソ
宣教師「村の方々の施しで生活していたものですから、あまり高価なお肉などは…」
母「宣教師様らしいですね?」クスクス
宣教師「お恥ずかしい…」
198:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:26:53 ID:iqCPsQL3wQ
村の子供2「ねぇ!ステーキまだ?」
母「残念だけどお肉が無いからステーキは作れないわね」
村の子供2「えー!」
宣教師「なぜキミは他人の家で臆面も無くステーキを食べたいなどと言えるのですか…。
あるなら自分で食べてますよ…」
母「他に食べたい物はない?」ニコッ
村の子供2「じゃあスパゲッティ!」
宣教師「……野菜しか無いのでスパゲッティは…」
母「え、えぇと…ならサラダはどうかしら?ヘルシーだし、とっても健康にいいのよ?」
村の子供2「えー俺、野菜食えない!」
母「あら、好き嫌いはよくないわよ?
それにおいしくなる魔法をかけておくから安心してちょうだい?」
村の子供2「えっ!おばさん魔法使えるの!?」
母「そうよ?どんな料理もおいしく出来上がる魔法が使えるの!」
村の子供2「わー!おばさんスゲーや!」
母「ふふ。楽しみに待ってなさい?」ニコニコ
村の子供2「うん、わかった!」タタタッ
母「さて、腕によりをかけて作りますから宣教師様も少し待っててくださいね?」
宣教師「えぇ、楽しみにしています。
では私は子供たちの所へ行ってますよ」
199:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:30:36 ID:zpo9dpEiuU
村の子供2「なぁなぁ!お前の母ちゃんすごいんだな!」
少年「へ?何がすごいの?」
村の子供2「どんな食べ物もおいしくなる魔法使えるんだってよ!」
村の子供3「(それって単純に料理上手アピールなんじゃ…)」
少年「えっ!そうだったんだ!ボク知らなかった!」
村の子供2「えー!じゃあウソなんじゃねーの?」
少年「でもお母さまの作るご飯はスゴくおいしいよ?」
宣教師「それはそれは楽しみですね」
村の子供3「あっ宣教師様!」
宣教師「とりあえず彼のお母様の料理が出来るまでビスケットでもいかがかと思いまして」
村の子供3「やった!」
少年「ボク、宣教師様のビスケット大好き!」
村の子供2「はぁ!?俺の方が好きだし!」
村の子供3「いや、どこで競ってんのさ?」
宣教師「たくさんありますから、仲良く分けてくださいね?」ニコニコ
3人「はーい!!!」
200:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:33:28 ID:zpo9dpEiuU
村の子供2「あーおいしかった!」
少年「えへへ!ホントにおいしかったね!」
村の子供3「2くんが一番食べてたね」クスクス
村の子供2「なんだよ!別にいいじゃんか!」
宣教師「満足してくれたようでなによりです」ニコニコ
母「さ、出来たわよ。みんな!」
宣教師「おや、メインが来まし…た…ね」ビクッ
村の子供2「え…おばちゃん…なにそれ…」ゼツボウ
村の子供3「(なにこれ…サラダが煙上げてる)」
少年「わー!おいしそう!」キラキラ
母「うふふ。自信作よ?」
3人「えっ」
201:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:35:24 ID:iqCPsQL3wQ
少年「ごちそうさま!」
宣教師「(普通に完食した…だと…?)」
村の子供2「これが…おいしくなる魔法…?」
村の子供3「(魔法だとしたら間違いなく黒魔術だよ…)」
母「あら、みんな箸が進んでないみたいだけど、お気に召さなかったかしら?」シュン
村の子供2「だってこれ…もがっ!?」
村の子供3「な、なんでもないですよ!?」ガシッ
村の子供2「もがもが!?」ジタバタ
宣教師「は、はは…」ヒクヒク
母「?」
202:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:36:48 ID:zpo9dpEiuU
少年「みんなさっきビスケットいっぱい食べちゃったもんね?」
村の子供3「そうそう!そうなんですよ!!」
村の子供2「ぷはっ!離せよ!」バッ
宣教師「わ、私ももともと少食なので」
母「まぁ!それなら言ってくれたら良かったのに!デザートも用意してたのよ?」
3人「えっ」
少年「ボク食べたい!」
3人「えっ?」
203:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:38:46 ID:zpo9dpEiuU
少年「」パクパク
少年「」モグモグ
少年「」ゴックン
少年「もうお腹いっぱい!」ニッコリ
村の子供2「ぜ、全部食いやがった…」
村の子供3「しかもボクらの分まで…」
宣教師「(なかなかどうしてこの子は侮れない…)」ゴクリ
母「坊やは本当に食いしん坊ね」ニコニコ
少年「だってお母さまのご飯がおいしいんだもの!」
母「そうねぇ。
泥水を啜ったり虫を食べたり、木の幹をかじって蜜を舐めてた頃に比べたらご馳走かもしれないわね?」ニコニコ
村の子供2「え…」ギョッ
村の子供3「なんでそんな…?」ヒクヒク
宣教師「(なるほど、納得です…)」シミジミ
204:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:41:38 ID:iqCPsQL3wQ
――夕方――
村の子供2「で、俺が後ろからワッ!てやったんだ!そしたらこいつ逃げてったんだぜ?」
少年「そ、そんな事したらだめだよぉ」
村の子供3「2くんがいきなり驚かせるからだろ?
それにすぐ分かったもん」
村の子供2「ウソだー!お前半べそかいてたじゃん!」
村の子供3「かいてないよ!?」
村の子供2「かいてただろ!」
村の子供3「かいてないって言ってるだろ!」
少年「ふ、二人とも…」オロオロ
村の子供2「なにをっ!」ガッ
村の子供3「なにすんだよ!」ガシッ
少年「け、ケンカしちゃだめだよ!」バッ
村の子供2「邪魔すんなよ!」ドンッ
少年「いたっ…!」ドサッ
村の子供3「なにしてんのさ!」
村の子供2「うるせー!こいつホビットのクセに生意気なんだよ!」
少年「え?」ドクンッ
205:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:44:41 ID:zpo9dpEiuU
村の子供3「ば、バカ!」アセアセ
村の子供2「」ハッ
少年「……」シュン
村の子供2「……」
村の子供3「もう…」
少年「」ウルッ
村の子供2「あ、その…ご、ごめんな?」
少年「ううん、大丈夫だよ…。気にしないで?」ニコッ
村の子供2「」ズキッ
村の子供3「ほ、ホントに大丈夫?」
少年「うん。ボクは平気!それより、もうケンカはだめだからね?」ニコニコ
村の子供2「お、おう…」
村の子供3「うん、わかったよ…」
少年「じゃあ二人とも仲直りしよっか!」
村の子供2「そ、そうだな。さっきはごめんな」
村の子供3「ボクもごめん。ついカッとなっちゃって」
少年「うんうん!これでおしまい!また楽しくお話しようよ!」
村の子供2「そ、そうだな!」
村の子供3「うん!」
206:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:46:44 ID:iqCPsQL3wQ
ガチャッ
宣教師「皆さん、そろそろ日も暮れる頃ですからお開きにしましょう」
村の子供2「えー!」
宣教師「えーじゃありません。よい子は帰る時間です」
村の子供2「ちぇっ」
村の子供3「お父さん、怒ってるかなぁ…」
少年「みんな、帰っちゃうんだ。寂しいなぁ…」
村の子供2「別に明日も会えるだろ?」
村の子供3「そうだよ!ボクたち遊びに来るからさ!」
少年「…うん!」ニッコリ
宣教師「ふふ。さ、私が送りますから行きましょう」
村の子供2&3「はーい」
少年「ボクも見送るよ!」
207:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:50:39 ID:zpo9dpEiuU
村の子供2「またな!」
村の子供3「明日も遊ぼうね!」
少年「うん!また明日!」
宣教師「」ガチャッ
「ワンッ!!」
村の子供2「うわああぁぁぁ!!?」ビクビクッ
宣教師「」ビクッ
村の子供3「あ、さっきの犬だ!まだいたんだね」
犬「ワンッ!ワンッ!」タタタッ
村の子供2「ひっ…」ビクッ
少年「マルク!」ダキッ
マルク「ハッ!ハッ!」ハッハッ
村の子供2「えっ」
少年「よしよし。そっか、マルクも来てたんだね?」ナデナデ
マルク「クーン…」スリスリ
少年「あはは!マルクは甘えん坊だなぁ!」ギュッ
宣教師「その犬はキミのだったんですか…」
少年「はい!森で一緒に遊ぶ友達です!」
宣教師「なるほど、それなら入れてあげるべきでしたね」
村の子供3「ボクらに付いてきたんじゃなくて飼い主の匂いに反応してたんだ」
村の子供2「(よくあんなでかい犬とじゃれられるな…)」ビクビク
208:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:52:55 ID:iqCPsQL3wQ
宣教師「おっと、暗くならない内に帰りましょうか?」
少年「あ、ちょっと待って。二人の名前、おしえて?」
村の子供2「あれ、言ってなかったっけ?」
村の子供3「そういえば3人とも自己紹介してなかったね」
宣教師「それでよくあんなに話せましたね…」ガクッ
宣教師「……ん?そういえば、私も皆さんの名前を知りませんね」ハッ
マルク「わぅ…?」
宣教師「(今まで名前も知らないまま話してたなんて…フィーリングってスゴいです…)」
209:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:54:25 ID:iqCPsQL3wQ
少年「ボクはカロル!改めてよろしくね?」
村の子供2「おう!俺はルーボイ!かっこいい名前だろー?」
カロル「うん。かっこいい!」ニコッ
村の子供3「そうかなぁ?」
宣教師「これが噂に聞くDQNネームというやつですか…」
ルーボイ「なんだよ、二人して!?」
210:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:58:20 ID:zpo9dpEiuU
村の子供3「ボクはパッチ。よろしくね、カロルくん」
カロル「うん、よろしく。パッチくん…えへへ!」
パッチ「どうしたの?」パチクリ
カロル「今まで友達がマルクだけだったから嬉しくって…」
パッチ「そっか」ニコッ
宣教師「」ニコニコ
ルーボイ「ヘンなやつ…」
マルク「ワンッ!」
ルーボイ「」ビクッ
宣教師「コホン!私の名前は……」
パッチ「あっ!暗くなってきたし帰らなきゃ」
ルーボイ「そうだな、カロル!また明日な!」
カロル「うん!また明日!」
宣教師「……」
マルク「クーン…」スリスリ
宣教師「ありがとうございます…」ナデリ
マルク「わぅん…」
ルーボイ「宣教師様、早く行こうぜ!」
宣教師「…分かりました」
宣教師「(どうせ私は宣教師ですよ…)」ムスッ
211:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/6(日) 17:54:53 ID:bQ3wFvPoik
――村長の家――
村長「……」
村の大人3「とにかくあんな宣教師は追い出すべきだ!
村にホビットと関わりのある人間がいるなんて王国にバレれば問題だぞ!」
村のおばさん「そうさ!この村にだって税の回収に兵士が来るんだ。
いつ見つかるとも分かったもんじゃない!」
村長「しかし代わりの人間を出そうにも教団が許すかどうか…」
村の青年「許すも何もホビットを匿ってるのは分かってるじゃないですか?
教団だって無視するわけには…」
村長「名誉の問題だよ。我々の村から教えに背く人間が現れたとなればただでは済まない。
どうしても責任を問われるだろう」
村の青年「でも野放しにする方が問題じゃないですか?」
村長「確かにその通りだが…」
村の大人3「司祭様は俺たち村人の話も真摯に受け止めて聞いてくれるお方だ。
悪いようにはしないだろう?」
村長「……しかしあの宣教師は司祭様のお気に入りだしな。
下手をすれば村の環境や我々の対応を問われる可能性だってある」
村の大人3「村長は考え過ぎですよ。
教えを破る人間を司祭様が許すはずはないだろ?」
村長「それもそうだが…」
212:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/6(日) 17:57:32 ID:bQ3wFvPoik
村の青年「まさか村長までホビットに肩入れしてるんじゃ…」
村のおばさん「なんだって!?
そりゃどういう事だい!あんな薄汚い種族を哀れむなんて気が狂ってるとしか思えないよ!」
村の大人3「村長、あんた……」
村長「待て待て!勝手な事を言うな!
わしはただ、その先の事を考えてだな…」
村の大人3「それならなぜ結論を出さないんですか?
ホビットが村に入り込んでもいいと言うんじゃないでしょうね?」
村長「無論ホビットは追い出す!
しかし司祭様に知られれば、この村にはホビットを受け入れた汚名が残るだろう!」
村の大人3「それならいっそ…殺しちまえばいいんじゃないか?」
村長「なに?それはどういう意味だ?」
村の大人3「司祭様に知らせず闇に葬るのが最善じゃないかって言ってんのさ。
あの宣教師もホビットもな」
村長「なっ…!しかし司祭様はたとえホビットであろうと殺生はならんと…」
村の大人3「だがどのみちほったらかしておけば村に害が及ぶのに変わりはないだろう?」
村長「し、しかしだな…」
213:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/6(日) 18:00:25 ID:mB1el9yyaE
村の青年「俺はいいと思うな。どうせバレなきゃ問題ないんだからさ」
村のおばさん「そうさねぇ。害虫を駆除したって文句言われる筋合いはないんだ。
殺っちまっていいんじゃないかい?」
村長「バカな!少なくともあの宣教師は人間だぞ!
ホビットだけならともかく…いくらなんでもそれはまずい!」
村の大人3「何を弱腰になってんですか。
たとえ人間でもホビットと関われば罰が下る。
それは"悲劇の町"の一件で証明されたはずだ」
村のおばさん「そうさ、司祭様には不慮の事故で死んだとでも言っておけばいいじゃないか?」
村長「みんな落ち着け!早まった考えはやめるんだ!」
村の大人3「だったら村長には考えがあるんでしょうね?」
村の青年「そうですよ、そんなに言うなら村長が案を出してくださいよ」
村長「……今は隠しておくしかないだろう。
とりあえず結論を急いでも仕方ない、少し時間をくれ」
村の大人3「……」
村長「それまでは決して早まったマネはしないでくれ。
わしもなるべく村の為になるよう最善の方法を考えておく」
村の大人3「…分かりましたよ」
村の青年「俺はいい案だと思ったけどなぁ?」
村のおばさん「ま、村長が言うんだから待つしかないね」
村の大人3「(こっちは息子まで毒されかけてるんだ…のうのうと待ってられるか…!)」ギリッ
村長「(困った事になったもんだ…)」ハァ
214:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/6(日) 18:07:13 ID:bQ3wFvPoik
――教会――
カロル「…ふふ!マルク…ごめんね、ひとりぼっちで寂しかったでしょ?」
マルク「はっ!はっ!」ペロペロ
カロル「あはは!マルクったらくすぐったいよ!」ニコニコ
マルク「わんっ!」
カロル「マルクもおっきくなったね。出会った頃はまだこんなに小さかったのに」
マルク「くぅん…」スリスリ
カロル「…ねえ。マルク。本当はホビットのぼくより人間のお友達が欲しかった?」
マルク「……?」キョトン
カロル「ボクね、今日は人間の友達といっぱい遊んだんだ。すごく楽しかったよ?」
マルク「わん!」
カロル「けどね、一回だけ『ホビットのクセに』って言われちゃった…はは」ニコニコ
カロル「すごく楽しかったのに、急に穴が空いたみたいに空っぽになって…怖かった」
マルク「……」
215:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/6(日) 18:08:57 ID:mB1el9yyaE
カロル「二人とも無理してたのかな、なんて…今になって思うんだ」
カロル「マルクも…無理してるのかなって思ったら怖くて…」
マルク「ワンッ!!」
カロル「」ビクッ
マルク「わんっ!!うぅ…わんっ!!」
カロル「マルク…怒ってるの?」オロオロ
マルク「わうぅ…!」
カロル「…そうだよね。ごめん。
ボク、考えすぎだった…。お母さまにも何があっても友達を信じなさいって言われたのに…」
マルク「くぅん…」
カロル「ごめんね、マルク…キミを信じてないわけじゃないんだよ?
ただ、ボクは少し…弱いから、心配になっちゃうんだ」
マルク「……」スリスリ
カロル「マルクにならなんでも言える気がして頼っちゃうのかも。
ふしぎと安心してあったかくなれるから…」ナデナデ
マルク「わぅ?」
カロル「ねえ、マルク。また辛くなったらキミに頼ってもいいかな?」
マルク「わんっ!!」
カロル「はは。頼もしいや!」パァァ
マルク「わんっ!わんっ!」ガバッ
カロル「あはは!どうしたの?重たいじゃないか!」クスクス
216:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/6(日) 18:10:13 ID:mB1el9yyaE
ガチャッ
母「坊や。もう遅いから中に入りなさい?」
カロル「あっお母さま…」
マルク「くぅん?」
母「あら、マルクも来てたの?」
カロル「うん、宣教師さまたちに付いてきてたんだって」
母「そう。よかったわね」ニコニコ
カロル「うん!」
マルク「わんっ!!」
母「さ、二人とも中に入りましょう?
ご飯が出来てるわよ?」
カロル「行こうか、マルク!」
マルク「うぅ……」クーン
カロル「あれ?どうしたのかな、マルクの元気がないよ?」
母「あら…きっとお腹が空いてるのね。大丈夫よ?
多めに作ったからあなたの分もあるわ?」
カロル「だってさ、よかったね!」ニコッ
マルク「……」
母「宣教師様もそろそろ子供たちを送って帰る頃かしら?」
カロル「そうだね、きっとお腹ペコペコだよ」
母「そうね、自信作だからお腹いっぱい食べてもらいたいわ?」ニコニコ
宣教師「(出るに出られませんね…)」ガクガクブルブル
217:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/6(日) 18:11:08 ID:bQ3wFvPoik
カロル「あっ!宣教師さま!おかえりなさい!」
母「宣教師様、いらしてたのね。ご飯が出来てますわよ?」
宣教師「い、いえ…私は…」
カロル「えっ」
宣教師「」ビクッ
カロル「宣教師さま…お母さまのご飯、食べてくれないの…?」ウルウル
宣教師「あ、その…そういう訳では…」アセアセ
母「お昼もあまり召し上がらなかったみたいですし、御加減が悪いのかしら…?」
宣教師「え、えと…あの…」アワアワ
カロル「」ジーッ
宣教師「」キュンッ
宣教師「(久しぶりに来た、この感覚)」
218:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/6(日) 18:12:19 ID:bQ3wFvPoik
カロル「宣教師さま?」ジーッ
宣教師「うぅ…」アタフタ
母「無理をなさらず、お気に召さなければ…」
宣教師「い、いえ!いただきます!」
母「そ、そう?なんなら作り直しますけど…」
宣教師「あ、いや。大丈夫です…」
宣教師「(根本的な解決になってませんし…)」
219:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/6(日) 18:13:33 ID:bQ3wFvPoik
ズーン
宣教師「(山盛りの石炭…)」
母「おかわりはたくさんありますからね?」ニコニコ
宣教師「……それはそれは…」
カロル「ボクいっぱいおかわりするね!」
宣教師「(主よ…私に一握りの勇気を与えたまえ…)」
マルク「くぅーん…」
カロル「いただきまーす!」
母「はい、召し上がれ!」
宣教師「ええいっままよっ!いただきます!!」ガッ
マルク「ワンッ!!」モグ
ギャアァァァアアァァ!!
ワオーーーン!!
チーン
220:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/8(火) 20:01:14 ID:whq.aZ6wWc
ここは湖の上の町
透き通るほどキレイな水に囲まれて育った種が、
連日のように笑顔の花を咲かせています。
『こんな日には出かけよう。
今日は幸せが落ちている気がする』
毎日のように出る言葉は希望という名の肥料
笑顔の花は明るい陽射しに照らされて、
きらめきに満ちた夢を見ています。
この町に誰かを疑うような人間はいません。
争いが無いのだから、争いは起こらない。
町の人々は今日も笑顔の花を咲かせます。
221:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/8(火) 20:07:02 ID:1rWYGP2MtE
『こんな日には出かけましょう。
今日はとても大きな幸せが落ちている気がするの』
一人の少女がこぼした言葉、毎日自然と出てくる言葉が今日だけは違う意味を持つことになります。
不幸にも少女はこっそりと町に入り込んだ悪いホビットと出会ってしまうのです。
ホビットはずる賢い種族。
甘い言葉を紡いでまんまと彼女を騙し、少女の心に毒を忍ばせます。
ホビットによって毒された花々は枯れてしまいます。
それはすでに決まっていることであり、覆ることはないのです。
争いがひょっこりと顔を覗かせました。
町の人々は今日も笑顔の花を咲かせます。
222:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/8(火) 20:16:22 ID:whq.aZ6wWc
次の日の朝も町は眩しい陽射しに照らされます。
しかし笑顔の花が見当たりません?
ひとりぼっちの萎れた花がしくしくと泣いています。
取り囲むのは茶褐色に色褪せたお花畑
キレイだったはずの水は赤く濁っています。
灰色の世界にまどろむ少女はきらめきに満ちた夢を見ます。
それはいつもの町の景色
それはいつもの町の声
深く眠る彼女は怖い怖い悪夢を見ます。
それは変わり果てた町の景色
聞こえなくなった町の声
彼女は過ちを胸に残して泣いています。
彼女の傷を癒せるものは枯れた町への贖い
神への無償の奉仕、すなわち神の意思に沿うこと
ホビットに騙されたかわいそうな少女は外れることのない重い枷を背負うのです。
枯れた町へ想いを馳せて………
〜悲劇の町の少女〜
聖典・神の声より
著者:ノワール・バントン
223:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/8(火) 20:28:53 ID:whq.aZ6wWc
パタン
宣教師「……司祭様…。断りも無く勝手にこんなモノを…」
宣教師「(こんな物が広まれば、ホビットへの差別は更に激化してしまいます…。
それにしても、これってやっぱり印税が入るんですかね…。
私の体験なのに…なんだかずるいです)」ハァ
カロル「宣教師さま!なに読んでるの?」ヒョコッ
宣教師「うわぁっ!?」ビックリ
カロル「あ、ごめんなさい…」
宣教師「あ、いえ…」
カロル「お母さまがお風呂の用意出来たから呼んで来てって」
宣教師「それはありがたいですね。早速入らせていただきます」ニコッ
カロル「ねえ!一緒に入ってもいい?」
宣教師「え?一緒に…ですか?」
カロル「はい!」キラキラ
宣教師「(この子、無垢な笑顔で何をとんでもない事を…)」
カロル「だめ…ですか?」シュン
宣教師「」キュンッ
224:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/8(火) 20:30:02 ID:1rWYGP2MtE
宣教師「(断れない自分が悲しいです…)」
カロル「ふんふふ〜ん!」ルンルン
宣教師「ご機嫌ですね?」
カロル「だってお母さま以外で一緒に入るの初めてなんだもん!」
宣教師「(ま、男女と言えど子供ですから問題ないでしょう)」ニコニコ
母「あら、坊や。呼んでくれたの?」
カロル「うん。今から一緒に入るんだ」ニコニコ
母「あら、仲がいいわねぇ?
でもいいんですか、宣教師様?」
宣教師「はい。私もいつも一人でこの教会をもて余していたので、たまにはこういう触れ合いもいいかと」
母「そうですか。坊や、体も頭もちゃんと洗うのよ?」
カロル「はーい!」
225:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/8(火) 20:44:18 ID:1rWYGP2MtE
――――
宣教師「ふぅ…」ヌクヌク
カロル「」シャワシャワ
カロル「宣教師さま、桶取ってください!」
宣教師「はい、どうぞ」つ【湯桶】
カロル「…ん、ありがとうございます」ザバー
カロル「」チャポッ
宣教師「狭い湯船で申し訳ありません…」
カロル「ううん、大丈夫!」
宣教師「…キミは普段、お母様とお風呂に入っているのですか?」ヌクヌク
カロル「ううん、いつもは一人で入ってます」ヌクヌク
宣教師「おや、それは意外ですね?」
カロル「えー。そうかな?だってボク、もう子供じゃないですよ?」
宣教師「なるほど…」クスクス
宣教師「(子供って総じてこう言うんですよね。ルーボイくんなんかもそうでしたが…)」シミジミ
カロル「お風呂って安心しますね」ヌクヌク
宣教師「そうですねぇ。これに勝る癒しはなかなかありません」ヌクヌク
カロル「ボク、友達と一緒にお風呂に入るのが夢だったんです」
宣教師「では一つ夢が叶いましたね?」
カロル「えへへ。宣教師さまにそう言ってもらえると嬉しいや」ニコニコ
宣教師「私で良ければいつでも入りますよ?」
カロル「うん!また入ろうね!」
宣教師「(この子にとって、友人との触れ合いは私たちでは感じ得ない幸福なのでしょう…。
私も日々のささやかな恵みに感謝しなければ…)」
226:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/8(火) 20:46:53 ID:whq.aZ6wWc
カロル「……」ポカポカ
宣教師「(こんなにあどけない普通の少年が差別にさらされる世界…。
そして我々はそれを助長している…)」
カロル「……」ホカホカ
宣教師「(なぜこんな簡単な矛盾に今まで気付けなかったのでしょうか…)」
カロル「」プスー
宣教師「(生きとし生ける者のすべてに感情がある…。
それはホビットも同じ事なのに…)」
カロル「」ブクブク
宣教師「ん?」
カロル「」ブクブク
宣教師「うわぁぁぁあ!?」ザバッ
227:🎄 名無しさん@読者の声:2013/1/11(金) 07:24:09 ID:JHQ4S3COq2
カロルが心配です
支援!
228:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/11(金) 22:07:20 ID:iqCPsQL3wQ
>>227
支援を頂けるなんて感激です!
ありがとうございます!
カロルはお風呂でのぼせただけなのでご心配なく!
229:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/11(金) 22:11:16 ID:iqCPsQL3wQ
宣教師「申し訳ありません…」ペコリ
母「いえいえ、あなたのせいではないのよ?
頭を上げてください?」
宣教師「いえ、目の前にいながらのぼせてしまったカロルくんに気付けなかった私の不注意です…」
母「…あなたと一緒だからって無理をして入っていたこの子も悪いのよ。
本当に気にしないでちょうだい?」
カロル「ん…」パチッ
母「あ、目が覚めたのね?具合はどう?」
カロル「あたま…ボーッとする…」ポーッ
母「当たり前よ、さっきまでのぼせてたんだから。
具合が悪いなら早いとこ寝ちゃいなさい?」
カロル「はーい…」スクッ
宣教師「私がベッドまで連れていきましょう。
さ、おぶってあげますから掴まってください」スッ
カロル「うん…」ギュッ
母「わざわざすみません…」
宣教師「とんでもないです。
元はと言えば私の責任なのですから」
母「ありがとうございます…」ペコリ
宣教師「いえ、大丈夫ですか。カロルくん?」
カロル「うん…平気……」ウツラウツラ
母「坊や、お母さんは寝るけど悪化したらすぐに言うのよ?」
カロル「うん…分かった…」ポーッ
230:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/11(金) 22:14:28 ID:zpo9dpEiuU
――寝室――
宣教師「大丈夫ですか?」
カロル「……はい、1日寝たら治ると思います」
宣教師「そうですか、では私は…」スクッ
カロル「あ…待って」
宣教師「どうしました?」
カロル「絵本…読んでほしい…です」モジモジ
宣教師「絵本、ですか?」キョトン
カロル「はい…」
宣教師「…状態が悪化してはいけませんし、安静にしておいた方が良いのでは…?」
カロル「だって…宣教師様とも、ずっと一緒にはいられないでしょ?」
宣教師「…急にどうしたんですか?」
カロル「…なんとなく、そんな気がして…」
宣教師「……」
231:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/11(金) 22:17:01 ID:zpo9dpEiuU
カロル「だから…今のうちにたくさん思い出を作りたいんだ…」
宣教師「……あなたが望むなら、ずっとそばにいてあげますよ?」ニコッ
カロル「…ホント?」
宣教師「えぇ。神に誓って私は嘘をつきません」
カロル「……そっか、ずっと…一緒なんだ…」パァァ
宣教師「ふふ。焦らず、じっくりと同じ時間を辿りましょう?
キミが気付いた時には、思い出の宝箱に抱えきれないほどの輝きが詰まっているはずですよ?」
カロル「…そうかな?」
宣教師「そうですとも。ですから今は体を治す事が先決です。
私はいなくなりませんから、絵本は明日でもいいでしょう?」
カロル「うん、ボク…我慢するよ」ニコッ
232:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/11(金) 22:18:33 ID:iqCPsQL3wQ
宣教師「……キミの具合が早く良くなりますように」ギュッ
カロル「…手を合わせるの…?」
宣教師「神のご加護です。
神は誰にたいしても平等な存在。
こうして祈る事で願いを聞き入れてくださるのです…」
カロル「でも…ボクはホビットだよ?」
宣教師「関係ありませんよ。
私たち人間もホビットも同じ実りある大地に産まれた小さな生命の一つ。
同じ時代を生きる命に優劣など無いのだから」
カロル「…宣教師さまがそう言うんなら、そうなんだよね?」
宣教師「……さ、そろそろおやすみなさい?
明日もルーボイくんとパッチくんが遊びに来ますから」
カロル「うん…!」
宣教師「ふふ。おやすみなさい…」
カロル「…はい。おやすみなさい」
バタンッ
233:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/11(金) 22:22:24 ID:iqCPsQL3wQ
バタンッ
宣教師「(…明日、司祭様にお話しましょう)」
宣教師「(ホビットへの歪んだ価値観を…)」
宣教師「(この世界の間違いを正すために…)」
宣教師「(私たちは…過ちを繰り返しすぎた…)」
宣教師「(たとえ、それが彼を裏切ることになろうと、犠牲が無ければ平和は生まれない…)」
宣教師「ふふ…」クスッ
宣教師「我ながら、私たち人間は…悲しい生き物ですね…」
宣教師「……」クルッ
宣教師「おやすみなさい、カロルくん。どうか良い夢を…」
宣教師「」スタスタ
234:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:26:42 ID:TbIaTri9k.
カロル「」スヤスヤ
カロル「ん…」ムニャムニャ
カロル「」パチッ
カロル「あさ…?」
トントン トントン
カロル「」グー
カロル「……朝ごはん」スクッ
235:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:27:54 ID:NaSHqV57P6
ガチャッ
カロル「おはよう。お母さま」
母「あら、起きてきたのね?具合はどう?」トントン
カロル「もう大丈夫だよ。すっかり良くなったみたい」
母「そう。気を付けなくちゃだめよ?」トントン
カロル「平気だよ、ボク大きなケガも病気もした事ないもん」
母「またそんな事言って…」トントン
カロル「ホントだよ?いつもすぐに治っちゃうんだ」
母「たまたまでしょ?
それにたとえ本当にそうでも体は大事にしなきゃだめ!」トントン
カロル「はーい…」
236:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:28:48 ID:TbIaTri9k.
母「さ、ごはんの用意が出来たわよ?」
カロル「わぁ…!おいしそう!」パァァ
母「てっきり体調が悪いと思ってたから…喉を通りやすいスープにしてみたの!」
カロル「へぇ…これって何が入ってるの?」
母「さぁ…?名前は分からないけど緑色のお野菜だったわよ?」
カロル「やっぱり!スープが真緑だからそうだと思った!」
母「ふふ。スープの色で中身を当てるなんて坊やは名探偵ね?」ニコッ
カロル「えへへ!」ニコリ
237:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:31:08 ID:TbIaTri9k.
バァンッ!!!
宣教師「いやいやいやいや!野菜はたいてい緑色ですよ!?
それにスープは野菜の色になるとは限りません!」
宣教師「だいたいトントンいってましたけど、どこで包丁使ったんですか?
今朝の献立はスープのみのはずですよね?
煮詰めるなり出汁を取るなり、作業から読むなら普通グツグツとかコトコトとかじゃないんですか?」
宣教師「しかもそのスープ、具が無いじゃないですか?
なんです?野菜本体を使わずにエキスだけ絞ったんですか?
新鮮なみずみずしいお野菜をシンプルに生搾りでいただこうと?」
宣教師「それ以前に自分で把握していない食材を他人に振る舞うのですか?
あなたそれでも親ですか?
しかもそれらの食材はすべて私の所有物ですよね?」
宣教師「いい加減言わせてもらいます。
あなたのそれは料理ではない!
自然界への冒涜です!」
宣教師「己の無駄にした食材、その亡骸たちの前で悔い改め、調理器具を二度と手にしないと誓いなさい!」ビシィッ
――扉の前――
宣教師「(と、ツッコみたい…)」
宣教師「私、独りでなにやってるんでしょう……」ハァ
238:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:33:57 ID:NaSHqV57P6
ガチャッ
カロル「あ、宣教師さま!おはようございます!」
宣教師「おはようございます」
母「朝ごはんが出来上がってますよ?
たんとおかわりしてくださいね!」
宣教師「あ、ありがとうございます…」ヒクヒク
――数分後――
カロル「」ペロリッ
カロル「ごちそうさま!」ニパッ
カロル「ボク、マルクと遊んでくるね!」タタタッ
母「はいはい。いってらっしゃい」ニコニコ
宣教師「(あれを完食出来る彼の舌と胃袋が欲しいです…)」ハァ
239:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:36:15 ID:NaSHqV57P6
宣教師「」ゼーゼー
母「宣教師様、息が上がっているみたいだけど大丈夫ですか?」
宣教師「わ、私は神に仕える者…この程度の試練で音を上げる訳には…うぅ…」ズズ
母「し、試練?お食事がですか?」キョトン
宣教師「あ、いや…なんでもありませんよ」アセアセ
母「そ、そう。あ、食べ終わったのね?
たくさん余ってますけどおかわりはいるかしら?」
宣教師「そ、そういえば私は用があるのでした!
申し訳ありませんが席を外させていただきます!」ガタッ
母「そうなの?
じゃあもったいないですから残りはあたしとマルクで片付けちゃいましょ」
宣教師「(ごめんなさい、マルクくん。弱い私を許してください…)」シュン
240:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:38:27 ID:TbIaTri9k.
――教会(玄関前)――
マルク「わぅーん…」ブルブル
カロル「どうしたの、マルク?」
マルク「くぅん…」ションボリ
カロル「ヘンなの?さっきまであんなに元気だったのに…」
ガチャッ
カロル「あれ?宣教師さま、どこか行くんですか?」
宣教師「はい、私は少し出掛けて来ますのでいい子にしていてくださいね?」ニコッ
カロル「はーい!」
宣教師「それから…マルクくん、ごめんなさい」ペコリ
カロル「へ?」
マルク「グルルル…!」
カロル「あっ!マルク!?
なんで宣教師さまを威嚇するの?だめじゃない!」
マルク「くぅん」シュン
宣教師「いえ、いいのです。
私は責められて然るべき罪を犯しました…」
カロル「……?」キョトン
宣教師「では行ってきますね」スタスタ
カロル「は、はい…」
カロル「宣教師さま、どうしたんだろ?」
ガチャッ
母「マルクー!ごはんよー?」
マルク「きゃいんっ!?」ビクッ
241:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:41:02 ID:NaSHqV57P6
――村(パッチの家)――
パッチ「」ドキドキ
パッチ「」キョロキョロ
パッチ「」ソーッ
村の大人3「……」ガシッ
パッチ「」ビクッ
村の大人3「どこに行くんだ?」ギロッ
パッチ「父さん…」
村の大人3「どこに行くんだと言ってるだろ?ん?」
パッチ「べ、別に…。遊びに行くだけだよ?」
村の大人3「教会にか?」
パッチ「ち、ちがうよっ」
村の大人3「はんっ。どうだかな?」
パッチ「ちゃ、ちゃんと日が暮れる前に帰るよ…」
村の大人3「ダメだ。今日から父さんがいいと言うまで家を出るな」
パッチ「え?そ、そんなの…」
村の大人3「母さんとも相談して決めたことだ。いいな?」
パッチ「待ってよ!ボクにはなんの相談もしてないじゃないか!」
村の大人3「……とにかく、おとなしくしてるんだぞ?」
242:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:43:07 ID:TbIaTri9k.
パッチ「ちょっと!ボクの話も聞いてよ!?」
村の大人3「うるさい!子供が親に意見するな!!」
パッチ「」ビクッ
村の大人3「お前はあの宣教師とホビットに騙されてるんだ!
これ以上あいつらの事を考えるな!分かったか!?」
パッチ「」フルフル
パッチ「……宣教師様もカロルくんも、そんなんじゃない」ブルブル
村の大人3「このっ…!」ブチッ
妻3「ちょっとあんた!何を怒鳴ってるの?」
パッチ「母さん…」
村の大人3「ちっ……母さん。俺は仕事に戻るが、パッチを家から出すんじゃないぞ?」
妻3「分かってるわよ。あんたも頭ごなしに怒ったりしたらダメよ?」
村の大人3「あぁ。行ってくる」ガチャッ
妻3「いってらっしゃい」
243:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:46:28 ID:TbIaTri9k.
妻3「さぁパッチ。おとなしく部屋にいるんだよ?」
パッチ「母さんまで…」
妻3「これもおまえの為じゃないか?
父さんも母さんもパッチが心配なんだよ」
パッチ「……しらないよ」
妻3「なっ?あんた、母親に向かってその口の聞き方はないでしょうが!」
パッチ「」バタンッ
妻3「晩御飯抜きだからね!?」
妻3「はぁ…なんであぁなったんだか。
それもこれもホビットなんかに関わるからよ。あぁおそろしい!」
244:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:49:42 ID:TbIaTri9k.
――パッチの部屋――
パッチ「……」ションボリ
パッチ「ボクも大人になったら、カロルくんたちをキライになるのかな…?」
パッチ「…そんなのイヤだ」
パッチ「父さんも母さんもヘンだよ…」グスッ
コンコン コンコン
パッチ「?」
ルーボイ「」コンコン
パッチ「ルーボイくん?」ガラッ
ルーボイ「よう!教会に行こうぜ?」
パッチ「え?でも…父さんたちが…」オロオロ
ルーボイ「いいじゃんか!バレなきゃ平気だって!」
パッチ「……」
ルーボイ「なんだよ?行かねぇなら俺だけで行くぞ!」
パッチ「わ、わかったよ!行くよ」アセアセ
245:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:52:03 ID:NaSHqV57P6
パッチ「大丈夫かなぁ…?」
ルーボイ「大丈夫だよ!俺だって内緒で脱け出したんだぞ!」
パッチ「そ、そうだね。じゃあちょっと待ってて?」
ルーボイ「おう!」
パッチ「これでよし…じゃあ行こうか」ファサッ
ルーボイ「何してたんだ?」
パッチ「一応バレないようにベッドに人形を置いて布団を被せたのさ」
ルーボイ「そんなの意味あんのかー?」
パッチ「何もしないよりいいだろ?ほら!行こうよ!」タタタッ
ルーボイ「あっ!ずるいぞ!待てよ!」ダッ
246:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 15:23:22 ID:BwFwt3N5iE
――村の外れ――
旅人「で、結果ホビットの親子をその宣教師に奪われちまったと」
村の大人1「あ、あぁ。あの方は教団の人間だからな。迂闊に手を出せねぇんだ」
村の大人2「おい、あんな奴をあの方なんて呼び方すんな!」
旅人「情けないねぇ…。
ちまちま家なんか燃やしてるからだよ?」
村の大人1「面目ない…」
旅人「目の前にニンジンをぶら下げてやったってのにまともに走れねぇ。
それじゃ意味が無いんだよ、馬モドキが」
村の大人1「なっ…!」
村の大人2「だ、誰が馬モドキだと!聞き捨てならねぇぞ!?」
旅人「馬じゃ不服かね?
お前らにはもったいないくらいだと思うがなぁ?」
村の大人1「おい、その辺にしとけよ?」
旅人「なんだ、いっちょまえに腹を立ててんのか?」ヘラヘラ
247:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 15:25:38 ID:BwFwt3N5iE
村の大人2「てめぇ!」ガッ
旅人「おい、なんだ。この手は?
服がシワになってしまうだろう?」
村の大人2「あぁ!?」
旅人「困るなぁ?俺の服はそれなりに値を張る上等な絹だ。
貧乏で飯食ってるようなあんたらのぼろ布とは違うんだよ?」
村の大人2「てめぇ、言わせとけば…!」
旅人「ほら、離すんだ。銀貨をあげよう。
卑しい手には服の袖より、金のぬくもりが必要だろう?」
村の大人2「もう我慢ならねぇ!!」バキッ
旅人「…あぁ〜ぁ。やっちゃったねぇ?
俗世に疎い田舎の百姓は野蛮で困るよ」
村の大人1「このクソ野郎、思い知らせてやる…!」ズイッ
旅人「ははは!思い知らされるのは困るなぁ?
きっと痛いんだろうなぁ?」ニヤニヤ
248:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 15:30:20 ID:esCYXYNWfc
村の大人1「ナメんじゃねぇぞ!」
旅人「」ジャキッ
村の大人1「え…?」
村の大人2「て、てめぇ…なんだよ、それは?」
旅人「田舎者は剣も知らないのか?
便利なもんでよく切れるんだよ?」
村の大人1「そうじゃねぇだろ!
なんでそんなモン持ってんだ!?」
旅人「俗世と関わらなくても、もう少し世の中を知った方がいいよ?
意外と危ないからね、身を守る飾り物は必需品だろ?」
村の大人2「あ、あぁ…うわぁっ…」ズルッ
村の大人1「あんた、なに考えてんだ!?」
249:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 15:33:03 ID:BwFwt3N5iE
旅人「おとなしくしとけばもう一回チャンスをあげても良かったんだが…。
予定変更だ、お前たちには土と添い寝してもらうよ?」
村の大人2「ひぃっ!?」
村の大人1「じょ、じょ冗談だろ?人殺しなんて…」
旅人「冗談だったら良かったのにねぇ?
斬られると痛いよー?
思わず死んじゃうくらい」ヘラヘラ
村の大人2「は、は、はぁぁ…あわわわ!」ジョー
旅人「汚いねぇ…いい歳してんだからお漏らしなんかするんじゃないよ」
村の大人1「ま、待ってくれ!分かった!
何をしてでもホビットを捕まえてくる!それでいいだろ!?」アセアセ
旅人「あぁ。もういいさ。
お前らに任せても時間の無駄だ」ザシュッ
村の大人2「かはっ…!」ドサッ
村の大人1「ひいぃっ!?」ズルッ
250:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 15:37:02 ID:BwFwt3N5iE
旅人「腰が抜けちゃったか。無理もない。
こりゃ逃げるのもままならんだろう?
どうするね?殺されてしまうよ?」ズイッ
村の大人1「お、おお俺には妻も子供もいるんだ!
こんな所で死ねないんだよ!頼むよ!?」
旅人「そりゃ死ぬ人はみんなまだ死にたくないと思うさ。
だがしょうがないだろう?それが寿命なんだから」
村の大人1「や、やだ…いやだ!いやだよ!やめてくれよ!!」
旅人「それじゃあ一度だけチャンスをあげようかね?」
村の大人1「えっ」
251:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 15:39:37 ID:esCYXYNWfc
旅人「俺の質問にちゃんと答えれば生かしてやろうじゃないか?」
村の大人1「ほ、本当か!?」
旅人「おまけにどっさりと金貨をくれてやろう。
肌寒い季節だからね。懐は暖めて帰るといい」
村の大人1「な、なななんでも聞いてくれ!!
そんな破格の条件なら願ったり叶ったりだ!」
旅人「ははは。大げさな奴だね。
じゃあ聞くけどホビットを匿ってる教会ってのはどこにあるのかね?」
村の大人1「この森を北に向かって枯れた大木に突き当たる!
そこを西に歩いてきゃ着くよ!」
旅人「あーそうかい。分かったよ」
村の大人1「なっ!もういいだろ!?
は、はは早く約束の金貨を……」
旅人「ほっ!」ザシュッ
村の大人1「っ…!」ドバッ
旅人「ご苦労さん」ヘラヘラ
252:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 15:41:49 ID:BwFwt3N5iE
旅人「俺の手を煩わせるんじゃないよ、まったく!
剣が血糊で錆びついちまうじゃないか?」キュッキュッ
旅人「拭いてはみたが大丈夫かねぇ?
あとで研ぎに出さなければならんな」
旅人「さぁ〜てと、教会に行くとするかね?」スタスタ
旅人「せっかく見つけたお宝だ。きっちりいただかなきゃな」
旅人「にしても…我ながらこの怠けぐせはいかんね」
旅人「おかげで余計な時間を喰っちまった。
やっぱり見つけた時点で捕まえるべきだったか」
旅人「会長に怒られてしまうよ」ニヤニヤ
旅人「クックッ…」
旅人「ははは!」
旅人「ぎゃはははははははは!!!」
旅人「うっ…」ゲホッゲホッ
旅人「(笑いすぎてむせた…)」
253:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 21:14:17 ID:mPH/90lhss
――大聖堂――
シスター「こちらでお待ちください。司祭様はもうすぐで戻られますので」
宣教師「ありがとうございます」ペコリ
宣教師「(さて真実を確かめる為に来ましたが、はたしてどうなりますやら…)」
宣教師「(私の言い分を司祭様に認めてもらえればホビットへの差別は激減するでしょう…。
少しずつ未来も和に向かうはず…)」
宣教師「(まぁそう上手くはいかないと思いますがね…)」
宣教師「(まず間違いなく破門され、教会にもいられなくなる…。
その時は村を離れて、あの親子が安らげる場所を探しますか…)」
宣教師「(それもまたいいかもしれない…。どうせ故郷も滅ぼされ、肉親もいない身…。
ホビットに罪が無いと分かった今となっては教団の活動もバカバカしく思える…)」
254:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 21:16:26 ID:w1YC/L5Ruc
ガチャッ
司祭「すまんすまん、待たせたのう?」
宣教師「いえ、突然の訪問でお時間を取らせてしまい、申し訳ございません」
司祭「ほっほっほ!気にするでないわ。お前の事じゃ、重要な話じゃろう?」
宣教師「はい。司祭様にとってあまり良い報告とは言えませんが…」
司祭「なんじゃ?」ジト
宣教師「…私は教団による信仰を捨てようと考えています」
司祭「なにぃ?」
宣教師「自分の中にある信仰に疑問を覚えました。
このような心持ちでは、とても布教活動など続けられません」
司祭「……そうか、それは残念じゃな」
宣教師「申し訳ございません…」ペコリ
255:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 21:18:30 ID:w1YC/L5Ruc
司祭「構わんよ、しかしなぜ急に…やはり施しで生計を立てるのは辛かったか?」
宣教師「そうではなく、ホビットへの価値観が変わってしまったのです」
司祭「ホビットへの…価値観じゃと?憎しみが増したか?
わしがホビットを生かせと言うのが気に入らんのか?」
宣教師「違います。今まで信仰における根底に根付いていたホビットへの猜疑心が失われたのです」
司祭「なんじゃと?」ピクッ
宣教師「ホビットは罪深き種族。これは間違いであると考えます」
司祭「……貴様。それが何を意味するか分かっとるのか?」
宣教師「はい。理解しているつもりです。
それについて今日は司祭様に伺いたく存じます」
司祭「伺う?何を聞きたいんじゃ?」
256:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 21:21:27 ID:w1YC/L5Ruc
宣教師「今まで伝えられてきた史実(※>>1-5)ははたして事実なのでしょうか?」
司祭「当然事実じゃ。今さら何を言っておる?」
宣教師「では、なぜ聖書にはホビットの伝承を記さないのですか?
その場面のみ口伝えによる布教を推奨なさるのはどういった訳でしょうか?」
司祭「声に出し、耳で聞き、頭で整理するのが最も入りやすいからじゃよ」
宣教師「ならばすべての教えを、そのように統一するべきでは?」
司祭「書き記しておかなければ忘れてしまう事もあろうて?
わしらも万能では無いのじゃ。記憶を頼れば各々の食い違いも生まれる」
宣教師「それはホビットの伝承も同じ事。違いますか?」
司祭「……」
257:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 21:23:33 ID:mPH/90lhss
宣教師「そもそもホビットはどのように人間から癒しの力を奪ったのですか?
私が受けた教えでは『神に選ばれた人間を妬み、人間の長を殺めた』としか聞き及んでおりません」
司祭「さぁて…どうだったかのう?」
宣教師「聖書の内容もホビットの伝承も思い返せば、あまりに漠然としています。
明確な事が何一つ分からない」
宣教師「これまでの布教活動を振り返ってみても、
まるでこの教団はホビットへの差別を促す事を目的としているような不気味さを感じます」
司祭「疑り深いのう…。そんな訳があるまい?」
宣教師「…だいたい人間を神と引き合わせたのはホビットとなっているのに、
なぜそのホビットが人間を妬んだりしたのか、史実と伝承は矛盾している」
司祭「人の話を聞かんやつじゃな、それで?何が言いたい?」
宣教師「おそらくですが、癒しの力など存在しないのではないですか…?」
司祭「……ほう?それは貴様一人の考えか?」
宣教師「……村人に傷付けられていたホビットに聞きました」
258:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 21:25:15 ID:mPH/90lhss
司祭「やはりな…。急に何を言い出すやら、おかしいとは思っとったわい」
宣教師「では私の考えが違うと?」
司祭「かわいそうに…まさか聡明なお前がホビットに毒されるとはな。
薄汚く濁っていて、まさにずる賢い種族じゃ!」
宣教師「は…?」キョトン
司祭「まだ気付かんか?お前は騙されとるんじゃよ」
宣教師「な…!何を言って…!」
司祭「わしが手塩にかけて育てたお前を蝕むとはな…。
許されざる罪じゃ。野放しにしようと考えたわしが甘かったか」
宣教師「司祭様!私の話に耳を貸してください!?」
司祭「暫し休息を取るがよかろう。今のお前は心に重い病を抱えておる」
宣教師「なぜ…分かってくださらないのですか?」グッ
259:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 21:28:00 ID:w1YC/L5Ruc
司祭「話は終わった。これまでにしよう」
宣教師「……あくまでシラを切ると、そうおっしゃられるのですね?」
司祭「なんのことかのう?」
宣教師「司祭様がそのつもりでしたら私にも考えがあります」
司祭「ほう?」
宣教師「私は教団を辞して各地に真実を伝えて参ります。
今は信じてもらえないでしょうが、撒いた種はいずれ芽を出し、実を成し、花となる…。
やがて真実は人々の心根を張る大樹となりましょう」
司祭「馬鹿げたことを…」フンッ
宣教師「親のように思っていた司祭様を裏切るのは心苦しいです。
しかし間違いに気付いていながら正すこと無くいられる程、私は腐っていません。
まことに申し訳ありませんが、今日限りをもって……」
司祭「……」クイッ
付き人1「」ババッ
付き人2「」ガシッ
宣教師「なっ…!こ、これは…どういうつもりですか!?」ギシッ
260:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 21:34:23 ID:w1YC/L5Ruc
司祭「やはりわしらは似ておるな…?」
宣教師「は…!?」
司祭「わしもまた、間違いに気付けば正したくなる性格らしい。
ほっほっほ。お前は明らかに間違っとる」
宣教師「バカな…!私はこの目で、そして直に接して本質を見たのです!
偏見を捨てて見た物は…普通に暮らしたいと嘆く健気な親子の姿だ!」
司祭「そう演じていたまでじゃよ。奴らの常套手段じゃ。
とことん腐っている、なんの価値も無い罪深き種族じゃよ」
宣教師「……いい加減にしてください!!」キッ
宣教師「っ…!ホビットが生きていて何が悪い!?
人間の村に入って何が悪い!?
友達を作って何が悪いんです!?」
宣教師「我々人間に阻まれて食べ物にも恵まれないまま泥水や野草で飢えを凌ぎ、
病に侵されても医者にかかれず、理不尽に侵略される!
それでもなお虐げられて耐え忍べと言うのであれば、我々こそが醜い!!」
付き人1「黙れ!宣教師風情が司祭様に対して畏れ多いわ!」グッ
宣教師「……!」ギリッ
司祭「よいよい。案ずるな?
だいぶ奴らの毒が回っとるようじゃな。それもホビットの受け売りか?」
宣教師「だとしたら、なんだと言うのですか…!」キッ
司祭「…哀れな奴よな。こやつを地下牢に押し込めよ」
付き人1「ははっ!かしこまりました!」
付き人2「来い!」グイッ
宣教師「くっ…!なぜ…なぜですか…!」
付き人1「黙れ!」ガフッ
宣教師「かはっ…!」バタンキュー
司祭「……知らぬままであれば、幸福を約束したというに…。愚か者めが」
261:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:18:06 ID:tYrmy1Mm3k
――教会――
カロル「二人とも早く来ないかなぁ?」ワクワク
マルク「わんっ!」
カロル「ん?」
ルーボイ「おーい、カロル!遊びに来たぞー!」タタタッ
カロル「あ、ルーボイくん!
…あれ?パッチくんはどうしたの?」
ルーボイ「あいつなら後から来るぜ?
どっちが先に着くか競争してたんだ!」
カロル「そうなんだ…。じゃあボク迎えに行ってくるよ!」
ルーボイ「えー!いいよ、先に遊んでようぜ?」
カロル「そんな…かわいそうだよ…?」
ルーボイ「…じゃあ一人で行けよ。俺は走り疲れたから中で休んでんぞ?」
カロル「うん!」タタタッ
ルーボイ「……たく!いい奴だけど、めんどくさいよなぁ…」
262:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:19:44 ID:n8gUqnX.1k
――村の外――
パッチ「はぁっ…はぁっ…ルーボイくん、早すぎるよ…」
パッチ「先に行っちゃったかな…?」
カロル「パッチくーん!!」タタタッ
パッチ「カロルくん!?」ギョッ
カロル「おはよう!」ニコッ
パッチ「どうしたの!?それにその格好は…?」
カロル「あ、これ?外に出る時はいつも頭巾を被るんだ。
ボクらのことが嫌いな人間も多いから、念のため」
パッチ「そっか…。そうだね…」
263:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:23:30 ID:tYrmy1Mm3k
パッチ「ごめんね、足が遅いから置いてかれちゃって…待たせちゃったかな?」スタスタ
カロル「そんなことないよ?来てくれただけで嬉しいもの!
てっきり道に迷っちゃったかと思って心配したよ?」スタスタ
パッチ「…もしかしてボクの為に迎えに来てくれたの?」
カロル「そうだよ。だって心配じゃない?」
パッチ「あはは…カロルくんはホントに優しいね?
なんでキミみたいな優しいヤツが嫌われるのか分からないよ」
カロル「…決まってるんだってさ。お母さまが言ってた。
だから…しょうがないよ」
パッチ「そうかな?ボクはキミが大好きだよ?
絶対嫌ったりなんてしない」
カロル「パッチくん…」
パッチ「ボクらは何があってもずっと友達だからね?」ニコッ
カロル「うん、ありがと…!」パァァ
パッチ「ううん。どういたしまして!ルーボイくん、待ちくたびれてないかな?」
カロル「大丈夫だよ。ルーボイくんは優しいもの」
旅人「ちょっといいかい?」
カロル「へ?」クルッ
264:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:26:02 ID:n8gUqnX.1k
旅人「やぁ、お出かけかな?」
カロル「あ…一昨日の…」
旅人「ん?」
カロル「な、なんでもないです!」アセアセ
パッチ「……?」
――回想(一昨日の夜)――
母「坊や、さっき家に来た旅人に会ったら逃げなさい?」
カロル「え?なんで?」
母「あの旅人はあたしたちをお金で買おうとしているの。
村人が家を燃やしたのも、あの旅人がやらせたことなのよ…。
出会ったら絶対に逃げなきゃだめ。いい?」
カロル「う、うん…!」
――――
カロル「(お母さまが言ってたのがホントなら逃げなきゃ…!
頭巾のおかげでボクに気付いてないみたいだし…)」
265:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:27:18 ID:n8gUqnX.1k
旅人「キミたち、こんな村の外れで何をしてるんだい?」
パッチ「ボクたち、今からき……」
カロル「パッチくん!行こう?」
パッチ「え?」
カロル「知らない人と話したらいけないってママが言ってたもの」
パッチ「ま、ママ?」キョトン
旅人「しっかり者だねぇ、坊や?
でもおじさん悪い人じゃないんだよ?
そんな風に言われちゃうと悲しいなぁ〜?」
カロル「ね、行こ?」
パッチ「う、うん…」オロオロ
旅人「おじさんね、これから教会に行くんだがキミたちもそうなのかい?」
カロル「」ビクッ
パッチ「……」
旅人「おや、こいつぁひょっとすると大正解?」ヘラヘラ
266:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:30:04 ID:n8gUqnX.1k
パッチ「違いますよ」
カロル「え…?」
旅人「んー?」
パッチ「ボクたち、これから森に入ってカリアムの花を摘むんです」
旅人「カリアムの花?なんだね、それは?」
パッチ「親愛の花言葉がある桃色のキレイな花ですよ。
ボクらの村では感謝する人にカリアムの花を送るんです。
今日はお父さんの誕生日ですから。ね?カロルくん?」
カロル「う、うん?そうだよ?」
旅人「はぁー!偉いねぇ!おじさん感心したよ!
キミらのご両親も、さぞ喜ばれることだろう?」
パッチ「ありがとうございます。じゃあボクらはこれで」ペコリ
カロル「さようなら」ペコリ
旅人「あーボクちゃんたち、心配はいらないと思うが教会には近付いちゃいけないよ?
あそこはホビットを飼う悪い宣教師さんがいるからねぇ」
パッチ「」タタタッ
カロル「」タタタッ
旅人「あらま、無視されちまったか?
ま、いいだろ。どうせ目的のホビットとは関係ないんだしな。
急がず焦らずゆったり歩いてこうかね」スタスタ
267:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:33:26 ID:tYrmy1Mm3k
タタタッ
カロル「パッチくん、ありがとね!」タタタッ
パッチ「いいよ、さっきの様子だと何かあるんでしょ?」
カロル「うん、お母さまに言われたんだ。あの人は危ないって」
パッチ「どこかで会ったの?」
カロル「一昨日ね。ボクの家にあの人が迷いこんで来て、お母さまが村の場所を教えてあげたんだ」
パッチ「うん」
カロル「そしたら夜に村の大人たちが家に来て、火を点けたんだ…」
パッチ「……だからカロルくんは教会に住んでるのかい?」
カロル「うん、宣教師さまが助けてくれたの!
大人たちを説得してね!かっこよかったよ!」
パッチ「……そうなんだ。それでなんであの人が危ないんだい?」
カロル「あの旅の人が村の大人に家を教えたんだって。
ボクとお母さまを買うために…」
パッチ「…ちょっと待って、買うってどういうこと?」
カロル「分からない。でも…きっと良い意味じゃないと思う」
パッチ「そうだね。絶対にだめだよ、そんなの!」
カロル「だから早くお母さまに教えなくちゃ!
教会にいたらルーボイくんも危ない!」
パッチ「…あの人、教会に行くって言ってたもんね?」
カロル「うん、急ごう!」
パッチ「うん!」
268:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:35:46 ID:n8gUqnX.1k
パッチ「それにしたってひどいよ!
大人たちはカロルくんの家を燃やして、その上売ろうとするなんて!」タタタッ
カロル「……」タタタッ
パッチ「もしお父さんまで一緒になってやってたなら、ボクは軽蔑するよ…!」
カロル「……それは違うと思うなぁ」ピタッ
パッチ「え?」ピタッ
カロル「誰かを恨んだり嫌ったりしても何も変わらないし、自分が辛いだけだよ?」
パッチ「でも…カロルくんは我慢できるの?」
カロル「うん。辛いのは慣れっこだもん」
パッチ「そんなの…おかしいよ」
カロル「あはは。そうかもね?
けどパッチくんもルーボイくんも宣教師さまもボクを嫌わないでしょ?
こんな幸せなことってないよ!」
パッチ「カロルくん…」
カロル「お母さまが教えてくれたのは間違ってなかったんだ。
辛くて、悲しくて、やりきれなくても、誰かのせいにしちゃいけないって…」
パッチ「…ごめん。ボクが間違ってたよ」
カロル「ううん。ボクの方こそ突然ごめん。早く行かなきゃね」
パッチ「…うん」
ダッ タタタッ
269:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:38:27 ID:tYrmy1Mm3k
――教会――
ルーボイ「あいつらおせぇなぁ。なにしてんだろ…?」
母「そうね。宣教師様も戻られないし心配だわ…」アタフタ
マルク「くぅん…」
バンッ
ルーボイ「うわっ」ビクッ
母「きゃっ!」ビクッ
マルク「わぅ?」
カロル「みんな!早く逃げて!?」
パッチ「はぁっ…はぁっ…」ゼーゼー
ルーボイ「な、なんだ。お前らかよ!びっくりしたじゃんか!」
母「…逃げてって、どういうことなの?」
カロル「おととい家に来た旅人がここに来るんだ!」
母「なんですって!?」
ルーボイ「はぁ?お前なに言ってんだよ?」キョトン
パッチ「はぁっ…はぁっ…説明は後でするから、カロルくんの言う通りにして!」
ルーボイ「意味が……」
マルク「わんっ!!」
ルーボイ「ひっ!!」ビクッ
マルク「ぐるる…!」
ルーボイ「わ、分かったよ。行けばいいんだろ?」ビクビク
母「荷物を用意する時間も惜しいわ!行きましょ!」ダッ
カロル「おいで、マルク!」ダッ
マルク「わんっ!」ダッ
パッチ「ルーボイくんも早く!」ダッ
ルーボイ「ちょ、ちょっと待てよ!」ダッ
270:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:07:40 ID:PegmcYVJcA
――十数分後――
旅人「おんやぁ〜?」
旅人「こりゃ一体全体どうしたことだ?」キョロキョロ
旅人「せっかく来た客にもてなしはおろか茶も出さない」スタスタ
旅人「おまけにもぬけの殻ときたもんだ?」ハァ
旅人「…おかしいねぇ。俺がここへ来ると決めたのはつい先刻のことだ」
旅人「漏れる筈が無いってのに…」
旅人「(開けっ放しの扉…散らかった木の人形。
まだ水滴の残る食器はさっきまで洗われてた証拠だ…)」
旅人「完璧に逃げられてるじゃないか」
旅人「なんでだ?何をまちがえ……」
旅人「」ハッ
旅人「まさか…さっきの子供か?」
旅人「(しかし片方は明らかに人間だったしな…。
ホビットと人間の子供が一緒にいる訳が…)」
旅人「……まぁいいだろ。考えてみても無駄だ。
まずは村に戻るとするかね」
271:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:09:39 ID:cYUoihoiOE
――森――
母「みんな…はぁっ…だいじょうぶ…?」ゼーゼー
カロル「う…うん…」ゼーゼー
パッチ「はぁっ…はぁっ…」ゼーゼー
ルーボイ「急になんなんだよ?」ピンピン
マルク「くぅん?」
パッチ「(マルクは犬だから分かるけど、ルーボイくんの体力はどうなってんだろ…?)」ゼーゼー
272:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:12:04 ID:PegmcYVJcA
母「二人はすぐに村に帰りなさい?」
ルーボイ「え…な、なんで?」
カロル「ごめんね…。でもここは危ないから…」
ルーボイ「だぁかぁらぁ!何が危ないんだよ!
教えてくんなきゃ分かんねーだろ!?」プンスカ
母「……怖い人間がいるの。見つかればあなたも怖い目に合うかもしれないわ?
だから今日はお家に帰ってちょうだい。お願いよ…」
ルーボイ「はぁ?意味わかんないよ」
カロル「……」オロオロ
273:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:13:12 ID:cYUoihoiOE
パッチ「ルーボイくん、言う通りにしよ?」
ルーボイ「お前まで何言ってんだよ!?」
パッチ「ボクもその人に会ったんだ。カロルくんが迎えに来た時に…。
正直言って気味の悪い人だった…」
ルーボイ「はぁ!?
じゃあお前らは危ない奴に会ったのに、なんで平気なんだよ?」
パッチ「たまたまだよ。運が良かったんだ」
ルーボイ「みんなおかしいぞ!
さっきから…訳がわかんねーよ!!」
パッチ「…分かんないなら、村に帰ってからちゃんと説明するよ」
ルーボイ「なんだよ、それ?今教えればいいだろ?」
パッチ「もう…!どうして分かってくれないのさ?」
ルーボイ「お前らが訳わかんねーからだろ!?」
カロル「け、ケンカしちゃダメだよ?」オロオロ
パッチ「……」
ルーボイ「ちっ…」ムスッ
274:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:15:53 ID:cYUoihoiOE
母「……ルーボイくん、あなたは大事なことを忘れてるわ?」
ルーボイ「…大事なこと?」
母「あたしと坊やはホビットなの。
あなたたち人間にとって、憎むべき存在なのよ?」
ルーボイ「に、にく…?」キョトン
パッチ「嫌ってるってことだよ…」ボソボソ
ルーボイ「わ、わかってるよ!」プンスカ
母「そう。とても嫌われてるの。
だから、あたしたちを狙う人間も多いわ?
一緒にいると危険な目に遭うかもしれないのよ…?」
ルーボイ「……」
母「もうおしまいにした方がお互いの為かもしれない…」
パッチ「え…」
カロル「……」シュン
275:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:18:43 ID:PegmcYVJcA
ルーボイ「……なんだよ、それ…?
じゃあ…昨日まで遊んでたのはなんだったんだよ…?」
母「……ごめんなさい。
あたしたちの方から近付いておいてわがままだとは思うわ。
でもこれが精一杯なの。これ以上は、もう…」
パッチ「そ、そんな…」アセアセ
ルーボイ「……イヤだ!友達が危ないのに帰れるかよ!?
いきなり終わりにしようなんて、ずるいだろ!!」
母「」ドキッ
パッチ「……!」
276:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:20:52 ID:PegmcYVJcA
ルーボイ「おい、カロル!お前はどうなんだよ!?」
カロル「……」
ルーボイ「本当にいいのかよ!?」
カロル「い、いい。だって…しょうがないもん」
ルーボイ「うるせぇ!このウソつき!!」
カロル「」ビクッ
ルーボイ「せっかく友達になったのに、これで終わりなんて絶対イヤだからな!?」
カロル「……」
ルーボイ「言ったろ!
ホビットとか、人間とか、知らねーしどうでもいい!友達だって!」
ルーボイ「遊んだこと無いって言ってたじゃんか!
だから…いっぱい遊びたいって…言ってたじゃんか!
なのに…今さらホビットだからとか、そんなんで…!」ポロポロ
カロル「」ウルウル
カロル「うん…」グスッ
277:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:25:27 ID:cYUoihoiOE
カロル「ボクも、友達だって思ってる…」グスッ
ルーボイ「それなら…ちゃんと…」グシグシ
カロル「けど…安心して?
ボクとお母さまは平気だから」
ルーボイ「なっ…!まだわかん……」カッ
カロル「ボクを信じて?
友達は、友達を裏切らない…絶対に」
ルーボイ「おまえ…」
カロル「また一緒に遊ぼ?今度はボクから会いに行くよ!」ニコッ
ルーボイ「」グッ
パッチ「…ルーボイくん」ニコッ
ルーボイ「分かったよ、もういいよ!お前なんか知らねー!」
カロル「あ…」シュン
ルーボイ「…約束だからな!」
カロル「え?」
ルーボイ「破ったら、もう遊んでやらないからな!」
カロル「…うん、約束!」ニッコリ
パッチ「ほんと素直じゃないなぁ…」ニヤニヤ
ルーボイ「うるせー!!」プンスカ
マルク「わんっ!」シッポフリフリ
278:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:30:05 ID:PegmcYVJcA
パッチ「じゃあ、またね!」
カロル「うん!」
ルーボイ「またな!絶対遊びに来いよ!」
カロル「もちろん!」
マルク「」シッポフリフリ
カロル「」ニコニコ
母「良かったわね、いいお友達に恵まれて?」ニコッ
カロル「うん…」
母「目まぐるしい4日間だったけど、坊やの笑顔がたくさん見れてお母さんも嬉しいわ?」ニコニコ
カロル「えへへ…」テレテレ
279:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:31:21 ID:cYUoihoiOE
母「ふふ…今夜の寝床を探しましょうか?」
カロル「…宣教師さまはどうするの?」
母「あ、そういえばそうね…。
どうしましょう。どこに行かれたかも分からないし…」
カロル「まだ教会にあの旅人がいたら宣教師さまが危ないよ…」オロオロ
母「教会の近くは行けないし、探すにしても動き回ると見つかる可能性があるわね…」
カロル「ボクが探しに行くよ!頭巾を被ったらバレなかったから!」
母「なに言ってるの!ダメに決まってるでしょ?
パッチくんも言ってたじゃない?運が良かっただけって!」
カロル「でも心配だよ…」シュン
母「気持ちは分かるわ?けど焦っても何も生まれない。そうでしょ?」
カロル「はい…」
母「(本当にどうしたら…)」
280:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:34:07 ID:PegmcYVJcA
マルク「わんっ!」
母「あら、どうしたの?」
カロル「……?」
マルク「わんっ!わんっ!」ピョンピョン
母「お腹が空いちゃったのかしら?」
マルク「」ブンブンブンブン
母「違うの?」
マルク「」コクコク
カロル「もしかして、マルクが探してくれるの?」
マルク「はっ!はっ!」コクコク
281:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:44:17 ID:PegmcYVJcA
母「気持ちは嬉しいけど…」
カロル「大丈夫だよ、マルクは賢いもの!
きっと宣教師さまを連れてきてくれるよ!」
マルク「わぅんっ!」
母「確かにマルクなら人間に見つかっても平気だし、鼻も利くから探すにはうってつけだけど…。
言葉を話せないから、たとえ宣教師様を見つけても連れて来れるかしら…?」
マルク「ぅー……」ガクッ
カロル「……そうだ!」ポンッ
母「え?」
カロル「手紙を書いてマルクに持たせればいいんだよ!
そうすれば喋らなくても伝えられる!」
母「……!そうね、いいかもしれないわ!
……あ、ダメよ。持たせようにも…」
カロル「ううん。紐で首に括り付ければ安心でしょ?」
母「…そう都合よく紐があるかしら?」
カロル「ここは森の中だから長いツタとか、丈夫でしなやかな枝を使えばいいよ」
母「……!」ビックリ
カロル「お母さま?」
母「すごいわ?完璧よ、坊やは賢いわね!」
カロル「お、おおげさだよ…?」タジタジ
282:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:46:40 ID:PegmcYVJcA
カロル「じゃあボク、紙とペン持ってるから、さっそく書いちゃうね」
母「あ、待って!あたしも書くわ。一枚ちょうだい?」
カロル「うん!」つ【紙】
カキカキ キュッキュッ
母「括り付けて、と。うん!問題ないわね?」キュッ
マルク「わぅ」コクリ
カロル「マルク、頼んだよ?」
マルク「わんっ!!」キリッ
マルク「」タタタッ
母「無事に連れ帰ってくれるといいけれど…」
カロル「」ギュッ
母「あら、手なんて合わせてどうしたの?」キョトン
カロル「宣教師さまが教えてくれたんだ?
手を合わせて祈ると神様が願いを叶えてくれるって」
母「まぁ…?」
カロル「…宣教師さまがちゃんと帰って来ますように」ギュッ
母「」ニコッ
母「………」ギュッ
283:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:03:34 ID:HNswQRyMvc
――大聖堂(牢屋)――
宣教師「」グッタリ
牢屋番「……」スタスタ
宣教師「」
牢屋番「おい」
宣教師「」
牢屋番「おい、起きろ!」
シーン
牢屋番「ちっ」
カチャカチャ ガチャッ
牢屋番「本来は牢の扉は開けられないが仕方ないか。
おい、起きろ!飯だ!」ユサユサ
宣教師「ん……」
牢屋番「たく!さっさと起きろって言ってんだろ!」
284:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:07:11 ID:2jtQ6Mfo/w
宣教師「ここは…?」ボヤー
牢屋番「なんだ、覚えてないのか?
お前は邪教に堕ちた罪人として牢に入れられたんだ」
宣教師「邪教…。なるほど、私は司祭様に…」
牢屋番「そういうことだ。どうやらお前は司祭様に目をかけられていたようたが、これまでだろうな。
神の教えに背く者を司祭様は許さない。覚悟を決めておけ」
宣教師「その口振りでは、私は始末されるのでしょうか?」
牢屋番「さぁな。殺されはしないだろうが、おそらくなんらかの罰を課せられるだろう」
宣教師「……この服は?」
牢屋番「ん?あぁ、囚人用の簡素な布さ。
罪人に神聖な修道服を着せるわけにはいかんからな」
宣教師「………」
285:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:08:58 ID:2jtQ6Mfo/w
牢屋番「ほら、飯だ。さっさと食え」ズイッ
宣教師「……」
牢屋番「なんだ?不満か?
罪人に飯を用意するだけありがたく思ってほしいもんだがな」
宣教師「いえ、一切れのパンにハムにスクランブルエッグ。食後のミルクまで付いて、むしろ豪勢です」
牢屋番「そんな質素な飯でか?」バタンッ ガチャッ
宣教師「えぇ。施しを受けて生活していると、どうしても倹約しなければなりませんからね…。
食事は野菜とお米でまかない、必要な資材や資料の購入にお金をかけていましたから」
牢屋番「はぁ…そんなもんなのか?」
宣教師「まぁ…そうですね」
286:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:10:56 ID:HNswQRyMvc
牢屋番「あんた、確かホビットと暮らしてんだろ?」
宣教師「……」
牢屋番「だんまりか。俺からすれば、なんであんな奴らと暮らせるのか分からないがな」
宣教師「……」
牢屋番「早いとこ目を覚ました方がいい。
奴らは狡猾な種族だ。信じるだけ無駄だよ」
宣教師「大きなお世話です…」プイッ
牢屋番「ふん…。食器の片付けもあるんだ。
冷めないうちに皿の上を空っぽにしとけよ?」
宣教師「……」モグ
287:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:12:31 ID:HNswQRyMvc
宣教師「そういえば今は何時なのですか?」
牢屋番「今か?今は18時だ。まぁ日暮れ時だな」
宣教師「…まずいですね」
牢屋番「なんだ、教会を留守にしてるのが心配なのか?
安心しろよ、村には明日から代わりの神父を派遣するそうだ」
宣教師「なっ…!」
牢屋番「当然だろ?邪教に堕ちた罪人に教会を管理させる訳にはいかん」
宣教師「それでは…あの親子はどうなると言うのですか…?」
牢屋番「親子?」
宣教師「ホビットの親子のことです!」
牢屋番「あぁ…まぁ罰が下るだろうな。
奴らも教徒を貶めた罪がある。下手すりゃ処刑もありうるかもな」
宣教師「そんな…」ワナワナ
牢屋番「納得出来ないってツラだな?
俺にはさっぱり分からん」
宣教師「(一刻も早くここを抜け出さないといけませんね…)」
牢屋番「……」
宣教師「(その為にはまず牢屋番をなんとかしなければ…)」チラッ
288:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:16:43 ID:HNswQRyMvc
牢屋番「先に言っておくが逃げようなんて考えるなよ?」
宣教師「」ギクッ
宣教師「……考えませんよ」
牢屋番「今はあんた以外に囚人がいないからな。
二人できっかり12時間交代、監視の目は離れないぜ?」
宣教師「はぁ…。今は、ということは先日まで別の囚人が?」
牢屋番「あぁ。たまにいるんだ。
あんたみたいに邪教に堕ちる教徒がな」
宣教師「私以外にも…」
牢屋番「まれにホビットを捕らえることもあるが…」
宣教師「ホビットを…ですか?」
牢屋番「あぁ。正直あれはどうなってるのかよく分からん。
噂じゃ断罪されただの、反省を促してから野に放つだのと言われちゃいるが…。」
宣教師「違うと?」
牢屋番「まるっきり違うさ。
実際は飯も服も与えずに牢に閉じ込めて、衰弱させてからアントリア様が連れていってる」
宣教師「アントリア神官が?」
289:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:23:14 ID:HNswQRyMvc
牢屋番「そうだよ、よく分からないだろ?
あの方は本来、王国に仕える専属の僧侶だ」
宣教師「何度かお目にかかりましたが…私もあの方は教団の人間では無いと聞いてました」
牢屋番「一応俺たちと同じ宗派の人間ではあるが、それにしたってわざわざ王国から田舎の大聖堂まで来るか?
しかもホビットを連れてく為にだぞ?」
宣教師「確かにおかしいですね…。
司祭様からも聞いたことがありませんし、
アントリア神官とも1、2回ほどお話をさせていただいてますが、そのような話は……」
牢屋番「ふーん。
あんたは司祭様のお気に入りだと聞いてたから、てっきり何かしら知ってると思ってたが…」
宣教師「私はなにも知りませんよ。
それにお気に入りなどでもありません」
牢屋番「そうか?
去年あたりには若干20歳にして一人で村一つ任された宣教師だって、教徒の間で話題になってたぞ?」
宣教師「それは…。たまたま前任の神父様が病を患ってしまったので、代役を仰せつかったまでです…」
牢屋番「まぁ神父様も歳だったと聞くしな。
だが、それにしたって人の集まる村や町の管轄を位の低い宣教師に委ねるくらいだ」
宣教師「それは、そうかもしれませんが…」
290:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:27:14 ID:2jtQ6Mfo/w
牢屋番「しかもたびたび司祭様が自ら赴いて様子を伺いに来てたんだろ?」
宣教師「たしかに不馴れな私を気にかけてくださってました…」
牢屋番「……孤児だったあんたを拾ってやったのもあのお方だつたと言うじゃないか?」
宣教師「はい…。感謝していますし、ずっと司祭様のことを尊敬しておりました」
牢屋番「なら、なぜだ?
そんな大恩ある方を裏切ってまで、ホビットに執着する理由があるのか?」
宣教師「……私にも分かりません。
しかし今まで書物や誰かの声で賜った教えと、自分の目で見た物の違いが大き過ぎたのです…」
牢屋番「バカを言うな。あんな奴らに同情の余地なんか無い」
宣教師「なぜあなたはホビットを憎むのですか?
彼らが一体なにをしたと言うのです?」
牢屋番「したさ。数え切れないくらいな」
宣教師「…え?」
牢屋番「長くなっていいなら話してやろうか?」
宣教師「是非、お願いします…」コクリ
291:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:30:35 ID:HNswQRyMvc
牢屋番「俺は農家の出でな。
両親は市場に納入する作物を育ててたんだ」
宣教師「……」
牢屋番「貧乏暇なしってやつでさ。
毎日のように両親と一緒に土を耕して、雑草を刈って肥料を蒔いて…。
たっぷりと手間暇かけて育て上げた作物を収穫するにも、そこでまた一苦労だ」
牢屋番「ガキの俺にはキツかったなぁ。
なんでこんな生活しなきゃならねぇんだって両親に当たったこともあった」
牢屋番「けど、なんだかんだ楽しかったよ。
父さんは職人気質で取っ付きにくかったが、俺が作業を覚えるたびに笑いながら頭をなでてくれた」
牢屋番「母さんは俺の背が伸びるたびに畑の作物と比べて『ジョーもこの子もすくすく成長してるわね』なんて言うんだ。
息子の成長と作物の成長をいっしょくたにしてんだぜ?笑えるだろ?」クツクツ
宣教師「…素敵なご両親ですね?」ニコリ
牢屋番「はは。ただのんきなだけさ」
宣教師「…あなたはジョーさんとおっしゃるのですか?」
ジョー「あぁ。まぁ短い付き合いになるだろうから覚えなくてもいいけどな?」
宣教師「いえ、覚えさせていただきます」ニコニコ
ジョー「はは…やっぱ、あんた変わってんな?」
292:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:33:39 ID:HNswQRyMvc
宣教師「ジョーさんはなぜご家業を継がず、ここに?」
ジョー「…まぁ、まずは話の続きだ」
宣教師「あ、はい…」
ジョー「あれは俺が15ぐらいの時だ。
いつも通り早起きして作物を一つ一つ数えてたら、なぜか数が足りなかった」
ジョー「獣の仕業かと思ったが、それにしちゃキレイにもぎ取られててな」
ジョー「その日から事あるごとに同じ事が続いた。
さすがに俺たち親子もバカじゃないからな。
気付いたよ。誰かが盗んでんだって」
ジョー「熟した実から、まだ青い実までもぎ取られて…。
かかしを置いてみたり、柵を張ったり、挙げ句には父さんが寝ずに見張ってたが、ことごとく無駄だった」
ジョー「次第に畑から作物が減って市場への納入にも間に合わなくなった。
急いで種を蒔いたが作物は成長に時間が掛かるからな。焼け石に水だったよ」
293:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:36:57 ID:2jtQ6Mfo/w
ジョー「父さんも疲れ果てて倒れちまって、母さんは父さんの看病しなきゃなんねぇから作業にも手が付かない。
自然と俺が一人でキツい農作業をしなきゃならないわけだ」
宣教師「それは…辛いですね」
ジョー「辛いなんてもんじゃないぜ。
熱い日射しに照り付けられながらひたすら耕す日もあれば、寒さに凍えながら萎れちまった実を抜いたり…」
ジョー「そんな中でも作物は盗まれ続けるし、とても一人じゃ追い付かなかったよ」
ジョー「市場の方も、もたついてる俺たちに愛想尽かして買い取ってくれなくなっちまった」
ジョー「それでも売らなきゃ食ってけないからな。
荷車を担いで売り歩いたが、まぁこれが誰も買ってくれない…」
ジョー「市場で売られてる物と違って質も値段も、なんの保証もないからな…」
ジョー「結局、売れないまま盗まれ続けて…。
そんなこんなしてる内に父さんも死んじまった」
294:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:38:54 ID:HNswQRyMvc
ジョー「…父さんの死をきっかけに塞ぎこんだ母さんは畑も、俺のこともほったらかして引きこもる始末だ」
ジョー「俺も今までの分が堰を切ったように溢れてなぁ。
全部バカらしくなって作業もやめちまった」
ジョー「そんなある夜の事だ。
ほったらかして伸びきった雑草を踏みながら適当に晩飯用の作物を漁ってたら……」
295:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:39:51 ID:HNswQRyMvc
――回想(ジョー)――
ジョー「……ちっ!」ブチッ
ジョー「たわんだ葉にしぼんだ実ばっかだ」ブツブツ
ブチッ ブチッ
ジョー「ん?なんだ?」キョロキョロ
???「」ブチッ
ジョー「……おい!」
???「」ビクッ
ジョー「お前、なにしてんだ!?」
???「」ダッ
ジョー「あっ!待て!」ガッ
???「わっ…」ボトボト
ジョー「…それ、なんだよ?」
???「あぁ…あぅ……」ビクビク
296:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:41:22 ID:HNswQRyMvc
ジョー「これも!これも!全部うちの畑で取れたモンじゃねぇか!?」
???「……うぅ…」ブルブル
ジョー「まさか…今までのもお前なのか!?」
???「ち、ちがいます…」
ジョー「ウソつけ!じゃあお前はここで何してたんだよ?
うちの作物を盗んでたんじゃないのか!?」
???「そ、そうですけど…」
ジョー「ふざけんな!お前顔見せてみろ!」バッ
???「あ……」ビクッ
ジョー「……!」
???「」ブルブル
ジョー「瞳が黄色く光ってる…。お前…ホビットか?」
ホビット「ゆ、ゆる……ゆるして、ください…」ガクガク
297:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:47:29 ID:2jtQ6Mfo/w
ジョー「この…!」グイッ
ホビット「きゃっ…」
ジョー「お前のせいで…お前のせいで、俺たち家族は…!ちくしょう!!」
ホビット「……?」
ジョー「うぅ…なんでだよ…。なんでなんだ…?」ポロポロ
ホビット「だって…これしか、しらない…」
ジョー「なんだと!?」
ホビット「わたしたちは…ほかに生きるすべがない…」フルフル
ジョー「それなら、盗みも許されるってのか!?
そのせいで俺の父さんが死んでもいいってのかよ!?」
ホビット「しらない…わからないの…」ウルウル
ジョー「おまえ…!」グッ
ホビット「うっ…!」
ジョー「死ね…。お前なんか死んじまえ…!」グググッ
ホビット「あ、あ、あ…ぐっ…」ブクブク
ジョー「……」グキッ
ホビット「」カクンッ
ジョー「はぁ…はぁ…」
ホビット「」
ジョー「父さん…仇…ぅ…うぇっ…げほっ」ゲロロロ
ジョー「…うぷっ!…おぇっ……」ゲロゲロ
ジョー「は、はひ…ははは…母さんにも、教えてやんなきゃ」フラフラ
ジョー「俺、父さんの仇、とったんだ…」フラフラ
――――
298:🎄 名無しさん@読者の声:2013/1/24(木) 23:16:59 ID:SjpgvNX9ww
当初ほのぼのファンタジーだと思っていたら、意外とえげつない展開が続き驚いている現在。
それでもすごく、このSSが好きです。支援。
299:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:18:39 ID:D9txi/yolg
宣教師「殺したの…ですか?」
ジョー「あぁ…。それほどに許せなかった…。
あいつのせいで全てが崩れたんだぞ?
それを…知らない、分からない。そんな無責任な言葉で片付けられるか!」
宣教師「気持ちは分かりますが、命を奪っても何も解決しませんよ?」
ジョー「……分かってるさ。だが、そんなの今さらだろう?」
宣教師「そうですね…」
ジョー「実際、あんたの言う通りだったよ。何も変わらなかった。
帰って母さんに話してやったら興味無さげに頷いただけで次の日からはまた同じ景色が巡るばかりだ」
宣教師「失ったものを補うために失わせても虚しさしか残りません…。
きっとお母様は報復など望んでいなかったのでしょう…」
ジョー「苦しかったんだ。しょうがないだろ?
俺はただいつもの暮らしを続けたかった。それを奴は奪ったんだ!」
300:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:19:30 ID:IGFgpVzJso
宣教師「…それでもジョーさんにはお母様がいらっしゃるのでしょう?」
ジョー「…故郷に置いてったよ」
宣教師「へ…?」
ジョー「当たり前だろ?
父さんが死んだ途端に息子を見なくなるような母親だぞ!?」
宣教師「肉親を、捨てたのですか…?」
ジョー「そうさ!見捨てて何が悪い?
なんで俺ばっかり辛い思いをしなきゃならないんだ?」
宣教師「……」
ジョー「それもこれもホビットのせいさ!
奴らのせいで父さんは死んで、母さんは壊れた!
俺は何も悪くない!悪いのはあいつらだ!」
宣教師「……」
宣教師「(考え方があまりにも、幼い…)」
301:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:21:08 ID:IGFgpVzJso
ジョー「あんたは奴らの事を何も知らないから、教えに背くなんてバカなマネが出来るんだろうな?」
宣教師「そんな事は……」
ジョー「いつの時代も奴らは卑しい存在さ。人間を妬んでは盗みを繰り返す…」ワナワナ
ジョー「癒しの力も!誰かの幸福も!自分の欲を満たす為なら平気で奪える薄汚い種族だ!」カベヲ ダンッ
宣教師「落ち着いてください…!
私に当たったところでどうにもならないでしょう?」
ジョー「ふん…。今は罪人だが、あんたは腐っても教団の人間だろ?
ここまで言ってもホビットが正しいと思えるのか?」
宣教師「…確かにあなたのおっしゃる通り、罪を犯すホビットもいるでしょう」
ジョー「分かってるじゃないか?
ならあんな奴らとは決別して、司祭様に赦しを…」
宣教師「しかし、それとこれとは話が別です」
ジョー「……?」
宣教師「先ほどジョーさんが語ってくださった過去も、想いも…」
宣教師「ホビットを忌み嫌う理由にはなりません!」
ジョー「な、なに…!」イラッ
302:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:23:32 ID:IGFgpVzJso
宣教師「不条理な出来事を受け入れながら生きるのは、何もあなただけではない!」
ジョー「くっ…!あんた、やはりホビットに毒されてるな?」
宣教師「勘違いなさらないでください。あなたの気持ちは分かると言ったはずです」
ジョー「なら、なんでだ!奴らのした事は許されるってのか!?」
宣教師「許せるかどうかは知りません。
ですが、少なくとも過ちを繰り返すのは間違っています」
ジョー「あ、過ちだと?」
宣教師「あなたは"その子"の犯した罪に対し、自らもまた罪を犯すことを選んだ」
ジョー「罪…!?」
宣教師「…あなたには"その子"の命を奪った罪があるでしょう?」
ジョー「違う!罰を与えただけだ!
犯した罪には必ず罰が下る!俺は何も間違っちゃいない!」
303:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:25:32 ID:IGFgpVzJso
宣教師「自分を正当化しても意味はありませんよ?
あなたの中には今も罪の意識が残っているはずです…」
ジョー「分かった風な口を聞くな!お前は罪人だろう!?」
宣教師「……確かにあなたから見て私は罪人かもしれません。
しかし罪人だからといって、あなたに私の全てを否定する権利はない」
ジョー「な、なんだと?」
宣教師「ホビットも罪人も奴隷もあなたも神の目に映れば同じ命にすぎない。
身分や偏見を言い訳にするなど、愚かな行為だとは思いませんか?」
ジョー「くっ…!屁理屈をこねたとこでお前は罪人だ!
神の代弁者である司祭様が決めたって事は、お前は神の意思で罪の烙印を押されてるんだよ!」
宣教師「くだらない…」
ジョー「なっ!?」
宣教師「……以前までの私なら、あなたの言葉をすべて受け入れたかもしれないですね」
ジョー「今度はなんだ?また屁理屈でも言うつもりか!?
どんな言い訳しようがお前は……」
宣教師「」ハァ
ジョー「」ピクッ
ジョー「おい、今のため息はなんだ?」イライラ
宣教師「別に…」フッ
ジョー「ふざけるな!」
宣教師「ふざけてなどいませんが?」
ジョー「……てめぇ…!」ギリッ
304:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:27:50 ID:IGFgpVzJso
ジョー「屁理屈の次は開き直りか?人をバカにするのもいい加減にしろよ!!」
宣教師「……」プイッ
ジョー「はっ?まただんまりか?
分かったよ、もう分かった!
あんたにゃ何を言っても無駄だってな!」
宣教師「……」ツーン
ジョー「ちっ!あんたは分かる人だと思ったから、ここまで言ってやったのにな…。
一生牢屋で頭を冷やせばいい」
宣教師「…ジョーさんこそ、頭でっかちじゃないですか?」ボソッ
ジョー「…なんだと!?」
宣教師「…あなたも本当は分かっているはずです。同じ命に境など無いことを…」
ジョー「……」グッ
305:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:29:22 ID:D9txi/yolg
宣教師「あなたの話を聞いていると、まるで逃げ道を探すために己を正当化しようとしているように見えます」
ジョー「違うな、俺は正当化しようとしてるんじゃない。正しい事だけを言ってるんだ」
宣教師「……自分を騙して苦しくはならないのですか?」
ジョー「黙れ!」ダンッ
宣教師「あなたが手にかけたホビットもあなたと同じだと思いますよ?」
ジョー「まだ言うかっ!」
宣教師「その子は他に生きる術を知らないと言ったのでしょう?」
ジョー「だからなんだっ!?」イラッ
宣教師「…不条理な出来事にさらされ、理不尽を受け入れられず。
生きようともがいた結果が他人から奪うことだったのかもしれない」
ジョー「そんなの俺の知ったことか!?」
宣教師「そう。その通りです」
ジョー「はぁ?」キョトン
306:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:30:46 ID:D9txi/yolg
宣教師「今、まさにあなたが言った言葉こそが答えなのです」
ジョー「あんた、何を言ってるんだ?」
宣教師「あなたが言ったんじゃありませんか?
自分が受けた理不尽を知らない。分からない。
そんな無責任な言葉で片付けられないと」
ジョー「う……」ドキッ
宣教師「誰しも心に怠惰を抱えるもの」
宣教師「自分を第一に考え、無関心に振る舞う悪しき習性です」
宣教師「それでいながら自分に向けられれば怒りに駈られる。思いやりに欠ける卑劣な保身」
宣教師「あなたは言い訳を重ねる事で、今までの怠惰を隠してきたのでしょうね」
宣教師「なにより家族想いで優しいジョーさんだからこそ…選択を誤った。
優しさを捨てて、己を偽ることで…」
ジョー「くっ…!」グッ
307:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:32:07 ID:D9txi/yolg
ジョー「あぁ。そうさ!怠惰にかまけて何が悪い!?」
ジョー「自分を騙して何が悪い!?」
ジョー「正直に生きてなんになる!?」
ジョー「俺は気付いたんだ!何が正しいかって事にな!」
ジョー「優しいままでいれば悔やみ続ける!
優しいままでいれば傷付けられる!
優しいままでいれば許すしかなくなる!!」
ジョー「作物も、畑も、生活も、父さんも、母さんも、奪われた俺はどうすればいい!?」
ジョー「恨むしかないだろうが!?
奪ったあいつを!あいつがいないなら、あいつに近いものを!!」
ジョー「奴らを許したら俺には何も残らない!
優しさが邪魔になるなら捨ててやるさ!」
ジョー「お人好しなんか辛く、悲しいだけだ!
そんな負け犬になるくらいだったら俺は奪ってやるよ!」
ジョー「奪って、奪い尽くして、奴らの苦しむサマを眺めながら嘲笑ってやる…!
俺はこんなにも幸せなのに、お前らは不幸だってな!」
308:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:33:55 ID:D9txi/yolg
宣教師「……」
ジョー「はぁっ…はぁっ…!どうした?
これで満足じゃないのか!?
これが嘘偽りない俺の本心だぜ…!」ギロッ
宣教師「…やっと、心を開いてくれましたね?」ニコッ
ジョー「あ…?」キョトン
宣教師「ふふ。やっぱりジョーさんは優しいままですよ?」
ジョー「……」ポカーン
宣教師「」ビリッ
宣教師「これ、使ってください?」つ【破れた布】
ジョー「な、なんだ?突然自分の服を破いて、使えだなんて…大丈夫か、あんた?」
宣教師「…ご自分の頬をさすってごらんなさい?」ニコニコ
ジョー「……?」ピトッ
ジョー「」ハッ
宣教師「」ニコニコ
ジョー「泣いてる…のか?」ポロポロ
309:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:35:17 ID:D9txi/yolg
宣教師「言ったでしょう?やっと心を開いてくれたと?」
ジョー「バカな…」ポロポロ
宣教師「うわべだけならなんとでも言えますが、心に嘘はつけませんよ?」
ジョー「そんなはずは…ないんだ…。俺は……」グシッ
宣教師「今なら本心に届くでしょう?
虚勢を張らず、見てみぬフリをせずに、罪人である私の言葉が…」
ジョー「……!」
宣教師「そろそろあなたの本心を教えてください。
涙ではなく、確かな声で…」
ジョー「あんた、やっぱり変わってるな……」
宣教師「」ニコニコ
310:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:37:40 ID:D9txi/yolg
ジョー「ふん…。今でも後悔してるよ…。
奴をくびり殺した感覚が今でも手に馴染んでやがる…」
宣教師「……」
ジョー「命を奪うって行為が、こんなに重たいものだなんて知らなかったんだ…」ギュッ
宣教師「それで教団に入ったのですか?」
ジョー「あぁ。その後、布教に来た神父に誘われたんだ…。
ここでならみんなが俺を認めてくれる。もう苦しまずに済むってな…」
宣教師「私も似たようなものです…」
ジョー「そうか…」
311:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:41:44 ID:D9txi/yolg
ジョー「……。なぁ宣教師さん」
宣教師「なんです?」
ジョー「それでも俺は…やっぱりあのホビットを許せないよ」
宣教師「…そうですか」
ジョー「だが、あんたの話を聞いて少し見方が変わった。
あんたみたいな人が認めるなら、きっと悪い奴ばかりじゃないんだろうな?」ニヤリ
宣教師「えぇ。私の友達はとても良い子ですよ?」ニッコリ
ジョー「ふっ…。聞いてみたいな」
宣教師「よろこんでお話しましょう!」
ジョー「じゃあそもそものきっかけから教えてくれよ?
ホビットを嫌っていたあんが心を開いたきっかけをさ」
宣教師「えっ?」
ジョー「どうした?」
宣教師「いえ、あの、それはですね…」オロオロ
ジョー「なんなんだよ?」キョトン
宣教師「(とても言えない…)」モジモジ
宣教師「(カロルくんに出会って、初めて胸がキュンッとなったからだなんて…)」カァァ
ジョー「(なんで赤面するんだ…?)」
ジョー「……やっぱり変わってるな」
312:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/25(金) 23:50:49 ID:D9txi/yolg
>>298
支援ありがとうございますm(__)m
あまりに嬉しいお言葉で仕事の休憩中に何度も読み返してしまいました…。
見てくれてる方がいただけでなく、すごく好きだなんて感激の海に溺れそうです(笑)
展開としましては最初からえげつない方向で進める気でいました。
ほのぼのを期待させてしまったなら申し訳ありません…。
一応重すぎないようにほのぼの部分も含めて書くつもりです。
313:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:34:20 ID:OVSWlYCIKk
――村(夜)――
パッチ「……もう帰ろうよ?」
ルーボイ「……」ボーッ
パッチ「ルーボイくん?」
ルーボイ「え?あ、あぁ…」
パッチ「心配なのは分かるけど…」
ルーボイ「…別に」
パッチ「大丈夫だよ。だって約束したじゃないか?」
ルーボイ「分かってるよ…」
パッチ「ほら、もう帰ろうよ?」
ルーボイ「……」スクッ
314:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:36:13 ID:OVSWlYCIKk
パッチ「お父さんたち、きっとカンカンだろうなー?」
ルーボイ「あ…そういやそうだったな…!」ギクッ
パッチ「抜け出して遊びに行ったの忘れてたの?」
ルーボイ「わ、忘れてねーよ!」
パッチ「そっか。じゃあまた明日ね?」
ルーボイ「お、おい!」
パッチ「ん?なに?」キョトン
ルーボイ「もう帰るのかよ?」
パッチ「うん。これ以上遅くなったらまずいから」
ルーボイ「…まだいいだろ?」
パッチ「ルーボイくん…もしかして怒られるのが怖いの?」
ルーボイ「はぁ!?怖くねーし!」
パッチ「ならいいじゃん。ばいばい」スタスタ
ルーボイ「いや、待てよ!」ガシッ
315:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:37:27 ID:.f1NH6m4X6
パッチ「もう…なんなのさ?」
ルーボイ「付いてきてくれよ…」
パッチ「えっ」
ルーボイ「家まで付いてきてくれって言ってんだよ!」
パッチ「な、なんでボクが…?」
ルーボイ「お前がいた方が父さんも怒らないかもしんないだろ?」
パッチ「なんだよ、やっぱり怖いんじゃないか!?」
ルーボイ「う、うるせー!いいから来いよ!」
パッチ「やだよ!ボクまで怒られるかもしれないだろ!?」
ルーボイ「なんだよ、いいじゃねーか!」
パッチ「ルーボイくんのお父さんに怒られて、また自分の家で怒られるなんてイヤに決まってるじゃんか!」
ルーボイ「あー!もう!いいから来いって!」ガッ
パッチ「な、なにすんだよ!」
ルーボイ「ほら!行くぞ!」グイッ
パッチ「うわっ!や、やめてよ!一人で怒られればいいじゃないかー!」ズルズル
村の青年「おい、お前ら何やってんだ!?」
ルーボイ&パッチ「」ビクッ
316:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:42:03 ID:.f1NH6m4X6
ルーボイ「あ、なんだ。魚屋のテパ兄ちゃんか」
テパ「なんだってこたないだろ!?」ズルッ
パッチ「お父さんたちじゃなくてよかったね?」
ルーボイ「ホントだよ。びっくりしたっつの」プンプン
テパ「お前ら今までどこほっつき歩いてたんだ!?」
ルーボイ「なんだよ、兄ちゃんには関係ないだろ?」
テパ「バカ野郎!とにかく来い!!」グイッ
ルーボイ「お、おい!何すんだよ?」ズルズル
パッチ「わっ!ちょ、ちょっと…」ズルズル
317:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:44:41 ID:OVSWlYCIKk
――村長の家――
テパ「村長!二人を見つけました!」
村長「おぉ。見つかったか!」
テパ「えぇ。公園にいたみたいで」
村のおばさん「あんたたち、無事で良かったねぇ?」
ルーボイ「な、なんなんだよ?」
パッチ「さぁ?なんでみんな集まってるんだろ?」
村の大人3「パッチ!!」
パッチ「あ、お父さん…」
村の大人3「おまえ…!」
パッチ「あ、えと、その…ご、ごめんなさい」ゴニョゴニョ
村の大人3「無事だったんだな!?」ダキッ
パッチ「わっ!?」ギョギョッ
村の大人3「怖かったろう?ケガはないか?」
パッチ「怒って…ないの?」パチクリ
村の大人3「あぁ。お前が無事ならそれで良い…」ギュッ
パッチ「ぶ、無事ならって…言ってることがわからないよ…?」
村の大人3「大丈夫だ。もう安心だからな?」
パッチ「お父さん…?」
318:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:46:41 ID:OVSWlYCIKk
ルーボイ「…訳わかんねぇ」ポカーン
村長「ルーボイ君、今回の事は残念だったね…」
ルーボイ「え?なにが?」
村長「信じられないのも無理はない…。
受け入れるまで時間が掛かるだろうが心を強く持つんだぞ…?」
ルーボイ「待ってよ、おっちゃんの言ってる意味がわかんねぇよ」
村長「まさか君は何も知らないのか?」
テパ「…さっきまでパッチの奴とじゃれ合ってましたから、多分なにも知らないんだと思います」
村長「そんなはずは…彼らは教会に行っていたんじゃないのか?」
テパ「ダンさん(※大人3)の話だと、そう言ってましたが…」
ルーボイ「……なんだ?」キョトン
村長「ルーボイ君、信じられないかもしれないが、よく聞いておくれ?」
ルーボイ「う、うん」
村長「君のお父さんは殺されてしまったんだ…」
ルーボイ「えっ」
319:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:48:49 ID:.f1NH6m4X6
ルーボイ「ウソ、だろ?」
村長「……」フイッ
ルーボイ「ウソだよね?なぁ、ウソなんだろ?」アセアセ
村長「………」
ルーボイ「おっちゃん…?」
テパ「本当だよ、ルーボイ」
ルーボイ「兄ちゃん…?」クルッ
テパ「大人2さんは殺されたんだ」
ルーボイ「……な、なんで…」ワナワナ
村のおばさん「森の中で大人1も大人2も死んでたのさ。
傷から見て、誰かに刺されたんだろうって話だよ…」
ルーボイ「……」フルフル
テパ「…気の毒だけど、全部本当なんだ」
ルーボイ「…母ちゃんは?」
テパ「家にいるよ。ショックが大きかったみたいだ…」
ルーボイ「じゃあ母ちゃんに聞いてくる」
テパ「聞いてくるって…何をだ?」
ルーボイ「へへっ!みんなして俺をからかってんだろ?
勝手に遊びに行ったから、驚かせようとしてんだ!
いたずら好きな父ちゃんの考えそうなことだぜ!」ニカッ
テパ「ルーボイ…」
村のおばさん「……」
320:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:49:43 ID:.f1NH6m4X6
村長「ルーボイ君、悪いが…」
ルーボイ「俺帰るよ!パッチもまたな!」ダッ
パッチ「と、父さん。いい加減はなし……へ?」
ダン「はは。すまんすまん」スッ
テパ「あいつ……」
村長「やはり、言うべきではなかったか…」
村のおばさん「しかたないさね。どうせ嫌でも知る事になんだから…」
村長「それもそうだな…」
ダン「今は無理でも、あの子も徐々に分かるでしょう」
パッチ「ねえ?さっきからなんの話してるの?」
ダン「あの子の父親が殺されたのさ…」
パッチ「へっ…?」
ダン「あいつらは俺の古い友人でもあった。
俺は…殺した奴を絶対に許さないぞ」
テパ「そうっスね。許せませんよ…!」グッ
パッチ「(ルーボイくんのお父さんが…?)」
321:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:50:51 ID:OVSWlYCIKk
――ルーボイの家――
ルーボイ「」ガチャッ
ルーボイ「ただいま…」
大人2の妻「…おかえり」
ルーボイ「…なぁ、母ちゃん」
大人2の妻「なに…?」
ルーボイ「ウソ…だよな…?」
大人2の妻「…聞いたのかい?」
ルーボイ「村長たちが言ってた…」
大人2の妻「そう…」
ルーボイ「…ホントなの?」
大人2の妻「そんな事、母ちゃんの口から言わせないでおくれ…」
ルーボイ「そんな…」ズーン
322:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:51:46 ID:OVSWlYCIKk
大人2の妻「おまえだけでも無事で良かったよ…」ニコッ
ルーボイ「」ウルッ
大人2の妻「……」
ルーボイ「ぅ……」ブワァッ
大人2の妻「おいで、ルーボイ」
ルーボイ「ひっく…えぐ……」スタスタ
大人2の妻「これからは寂しい思いをするかもしれないけど、強く生きようね…?」ダキッ
ルーボイ「うぁぁ………」ポロポロ
大人2の妻「いっぱい泣きな。あたしはもう渇れちゃったから、泣いてあげられないんだよ…」ヒシッ
ルーボイ「なんでだよ…。父ちゃんの…ばかやろー!!」ポロポロ
大人2の妻「……」ナデナデ
323:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 16:50:04 ID:TbIaTri9k.
――村長の家――
パッチ「ルーボイくんのお父さん、死んじゃったんですか…?」
村長「あぁ。その件なんだが、君たちは本当に何も知らないのか?」
パッチ「知りません。ボクらは遊びに行ってましたから…」
ダン「あれだけ言い聞かせたにも関わらず、な」
パッチ「……」シュン
村長「まぁいい。実は旅の人が教えてくださってね。
教会に用があって森を歩いてたところで、たまたま二人の骸に出くわしたらしい」
パッチ「旅の人って…?」
ガチャッ
旅人「俺のことさ」
パッチ「」ビクッ
旅人「ん?君はさっきの…」
324:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 16:52:48 ID:NaSHqV57P6
旅人「奇遇だねぇ?」ニコッ
パッチ「あ、あぁ……」アタフタ
村長「どこかで会われたので?」
旅人「まぁ。教会に向かう道すがらね」
村長「なんと…やはり教会に行ってたのか?」
パッチ「違います!ボクは…」
旅人「森にカリアムの花を取りに行ってた。そうだろ?」
パッチ「は、はい…」
旅人「ところで君と一緒にいた少年は?」
パッチ「え?」
旅人「あの子だよ、ほら〜?頭巾を被った子がいただろ?」
パッチ「あ……」
パッチ「(カロルくんの事だ…)」
325:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 16:55:38 ID:TbIaTri9k.
ダン「頭巾だと?まさか…!」
旅人「心当たりが?」
ダン「あぁ。おそらく村に忍び込んだ例のホビットだろう。
息子たちはそいつに騙されてんだ」
旅人「ほっほーう?なぁるほどねぇ?」ニヤリ
パッチ「ち、ちが…」
村長「それはどういう事だ!?」
パッチ「」ビクッ
ダン「……」
村長「子供とはいえ、村人までがホビットに毒されたなどと知れれば、いよいよタダでは済まんぞ!?」
ダン「だから…さっさと、あのホビットも宣教師も始末するべきだと言ったんだ!
それをあんたがモタモタやってるから…!」
村長「モタモタも何も話し合ったのは昨日の夜だろう!?
そんな早急に対応出来るか!」
ダン「し、しかし…!」
村長「…いつからだ?」
ダン「……昨日の朝です。あの宣教師に連れられて…」
村長「なるほどな。お前が焦っていたのも納得だ…」
ダン「申し訳ない…」
326:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 16:59:03 ID:NaSHqV57P6
村長「……どうしたものか」
旅人「あぁ〜。もういいかな?」
村長「はっ!す、すみませんな。内々の話で止めてしまいまして…」
旅人「いやいや、結構結構クックドゥルドゥーですよ」
村長「は?」キョトン
シーン
旅人「あらま。ウケなかった?
結構結構コケコッコーと思わせてクックドゥルドゥーと言うジョークだったんですがね?」
村長「は、はぁ…?」
村のおばさん「お、おほ。おほほ…。お、おもしろいジョークですこと…」ヒクヒク
テパ「(なに言ってんだ、こいつ?)」
327:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:02:51 ID:NaSHqV57P6
旅人「まぁジョークはこの辺にしておいて、パッチ君って言ったかな?」
パッチ「は、はい」ドキッ
旅人「君はなぜホビットの少年といたんだい?」
パッチ「そ、それは…」
旅人「それはって事は、やはりホビットだったのか」
パッチ「あ…ち、違います!」
旅人「今さら隠しても無駄だよ〜?」
ダン「正直に言うんだぞ?」
パッチ「ただの友達です…」
旅人「」ニヤリ
パッチ「」ゾクッ
旅人「ところで取りに行ったお花はどこにあるんだい?」
パッチ「」ハッ
旅人「手には持っていないみたいだし、ポッケの中かなー?」
パッチ「あ、歩いてて落としたみたいです…」ドキドキ
旅人「ホントにぃ?」ジロジロ
パッチ「は、はい」プイッ
328:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:06:15 ID:TbIaTri9k.
旅人「ふーん。そういえばお父さん?」
ダン「なんだ?」
旅人「今日は何か特別なイベントはありますかな?たとえば誕生日とか…」
パッチ「」ギクッ
ダン「……いや、ないな?」
旅人「そりゃおかしいですな?
この子は確かに『父親の誕生日だから花を送る』と、そう話していたんですが?」
ダン「なんだって……?」
パッチ「……」フルフル
旅人「それから村長、カロルという名前の少年は村人の中にいますか?」
村長「はぁ?カロル…ですか?」
パッチ「」ハッ
――回想(>>262-266)――
パッチ「ボクたち、これから森に入ってカリアムの花を摘むんです」
旅人「カリアムの花?なんだね、それは?」
パッチ「親愛の花言葉がある桃色のキレイな花ですよ。
ボクらの村では感謝する人にカリアムの花を送るんです。
今日はお父さんの誕生日ですから。ね?カロルくん?」
カロル「う、うん?そうだよ?」
――――
329:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:13:46 ID:NaSHqV57P6
パッチ「」ガタガタブルブル
旅人「どうなんです?」
村長「そんな子はいませんが…」
旅人「はっはーん!チェックメイトだ!」パチンッ
村長「どういう意味ですかな?」
旅人「この事件、なんとなく読めてきましたよ…」
村長「はい?」キョトン
旅人「まぁとりあえず今日は遅いんで、これくらいにしましょう」
村長「あ、はぁ。それもそうですな」
パッチ「」ブルブル
ダン「…パッチ。大丈夫か?」
パッチ「う、うん…だいじょうぶだよ…」フルフル
旅人「君も帰ってぐっすり寝なさい。よい子はおねむの時間だよ〜?」ニヤニヤ
パッチ「」ビクッ
ダン「…帰るぞ?」
パッチ「うん…」アセアセ
スタスタ ガチャッ バタンッ
330:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:17:01 ID:NaSHqV57P6
旅人「明日の朝、全員を広場にでも集めといてくださいな」
村長「…分かりました」
村のおばさん「分かりましたって、村長。いいのかい?」ヒソヒソ
村長「仕方ないだろう。外の人間とはいえ、あの方以外に証人がおらんのだから」ヒソヒソ
村のおばさん「あたしゃ、あの旅人が怪しいと思うんだけどね…」ヒソヒソ
村長「犯人ならば、わざわざ知らせに来ないだろう?」ヒソヒソ
村のおばさん「そりゃそうだけど…」ヒソヒソ
旅人「まぁまぁ。ご心配なさらず?
必ず答えを見つけますから、じっちゃんの名にかけてね」
村長「(この人のキャラクターが掴めん…)」
旅人「それじゃおやすみなさいっと」ガチャッ
村長「あ、そこはわしの寝室……」
バタンッ
村長「……」
村のおばさん「あたしらも帰ろうかね?」
テパ「そうッスね。じゃあ村長、失礼しますね」
スタスタ ガチャッ バタンッ
村長「……客人とはいえ、妻と同じ寝間で寝かせていいものなんだろうか…?」ウーン
331:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:20:17 ID:NaSHqV57P6
――森――
ビュービュー
カロル「」ブルブル
母「寒いの?」
カロル「ううん…平気…」ブルブル
母「もう…こんなに震えてるじゃない?」ギュッ
カロル「お母さま…?」フルフル
母「こうしてくっつくと、暖かいでしょ?」ニコッ
カロル「うん…ぽかぽかする…」ヌクヌク
332:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:23:38 ID:NaSHqV57P6
母「思い出すわね?昔はこれが当たり前だったっけ…?」
カロル「初めてお家に住んでからは、ずっと暖かかったもんね?」
母「そうね。たまたま見つけた空き家で、もう何年も暮らしていたんだもの。
旅をしていた頃の事なんて、遠く感じるわね」
カロル「もう…あの家も無いんだね」シュン
母「えぇ。無くなっちゃったわね……」
カロル「マルクと遊ぶのに使ってた枯れ木細工の玩具とか
旅人が捨てた林檎の匂袋とか、お母さまが読み聞かせてくれた絵本とか、思い出がいっぱいあったのに…」
母「……坊やがあたしの為に集めてくれた押し花のアルバムも、おじいさまの遺書も焼けてしまったわ…」
カロル「ボクが友達を欲しがったから…?」
母「ううん、違う。きっと過去は捨てなさいっていう神様の思し召しよ?」
カロル「……?」
333:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:25:25 ID:TbIaTri9k.
母「それ以上に大切な物がこれからたくさん集まるから。
抱えきれなくなってしまう前に捨てなさいって、ね?」
カロル「そうなのかな?」
母「そうよ?現に3人もお友達が出来たじゃない?」
カロル「えへへ。そうだね」ニコリ
母「そろそろ寝ましょう?」
カロル「……宣教師さま、心配だな」
母「明日にもなればマルクも宣教師様を見つけてくれるわ?」
カロル「ホント?」
母「えぇ。今夜は安心して眠りなさい?」
カロル「うん。分かった…」ウトウト
母「おやすみなさい、わたしのかわいいぼうや…?」ナデナデ
カロル「おやすみ…なさい」スヤスヤ
母「……」ギュッ
母「(宣教師さま、どうか無事でいてくださいね?)」
334:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:09:34 ID:8C0o4sgn8A
――夢――
カロル「」タタタッ
カロル「」スッ
カロル「やっぱり!初めて見るお花だ!」パァァ
カロル「押し花にしてアルバムに入れよう!」ゴソゴソ
カロル「ふふ。お母さま、喜んでくれるかなぁ?」ニコニコ
ワンッワンッ グルルルル バウッ キャンッ
カロル「?」
カロル「なんだろ…?」クルッ
カロル「」タタタッ
335:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:10:44 ID:tP/EhEtJvg
カロル「あっ…!」
犬1「ばうっ!ばうっ!」
犬2「ぐるるるる…!」フーッフーッ
子犬「くぅん…」プルプル
カロル「大きい獣が小さい子をいじめてる…」
犬2「わんっ!!」
子犬「」ビクッ
犬1「ばうっ!」ドンッ
子犬「きゃいんっ」バタッ
犬1「がるるる!」ガッ
子犬「きゃんっ」ジタバタ
カロル「……!」ワナワナ
336:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:12:56 ID:tP/EhEtJvg
犬1「ばうっ!」ザッ
子犬「……!」プシッ
カロル「や、やめろ!」バッ
犬2「わう?」クルッ
犬1「」グルルルル
カロル「ぅ……」ビクッ
犬2「わんっ!!」
カロル「(こ、怖くない…怖くない…!)」フルフル
犬1「」ギロッ
カロル「〜〜〜!」バッ
犬1「?」
カロル「……!」フリフリ
犬2「わう?」キョトン
犬1「」キョトン
337:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:13:51 ID:tP/EhEtJvg
カロル「(今だよ!ボクが猫じゃらしで惹き付けてる間に…!)」チラッ
子犬「」ポカーン
犬1「」グルルルル
カロル「(は、早く逃げて!?)」チラッチラッ
子犬「」ハッ
子犬「」タタタッ
カロル「はぁ…。よかったぁ…」ホッ
犬1「ばうっ!」バッ
犬2「あおんっ!」ガッ
カロル「えっ?うわっ」ドサッ
ガブッ バウッ イタイ! イタイヨ!! ガリガリ ワオンッ オカアサマー!!?
338:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:15:42 ID:tP/EhEtJvg
カロル「うぅ…」グッタリ
カロル「いたた…!」ズキズキ
カロル「あ、あの子は…ちゃんと逃げられたかな?」
子犬「」クーン
カロル「え?」キョロキョロ
子犬「あん!」バッ
カロル「わっ!?」ビクッ
子犬「」ハッハッ
カロル「なんだ、キミだったの?」ホッ
子犬「あん!」シッポフリフリ
カロル「あは!そっか。逃げられたんだね?」ニコッ
子犬「」コクコク
カロル「よかったね?ふふ…」
カロル「っ…!」ズキン
子犬「くぅん?」ペロペロ
カロル「ふふ。ありがとう。でもボクは大丈夫だよ?」
339:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:17:44 ID:8C0o4sgn8A
子犬「あぅん…」シュンッ
カロル「悲しまないで?キミのせいなんかじゃないもの?
キミもケガをしてるから、ボクより自分を大切にしてあげて?」ニコッ
子犬「……」ペロペロ
カロル「そうそう。しっかり舐めて傷を治さなくちゃね」ニコニコ
子犬「あんっ!」
340:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:18:36 ID:8C0o4sgn8A
カロル「じゃあボクは帰るね。キミもあの獣たちに見つかる前に帰るんだよ?」
子犬「」クーン
カロル「……ごめん。お母さまが心配するから帰らなきゃ」
子犬「」スリスリ
カロル「だ、ダメ!ちゃんと自分のお家に…」
子犬「」ウルウル
カロル「ぅ…」タジタジ
子犬「」シッポフリフリ
カロル「」キュンッ
カロル「(うぅ…。こんなのズルいよ…。ほっとける訳ないじゃない)」チラッ
子犬「」キラキラ
カロル「」ハァ
カロル「…ボクのお家に来る?」
子犬「きゃんっ!きゃんっ!」ピョンピョン
…………
341:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:20:22 ID:8C0o4sgn8A
――森――
カロル「ん…ふぁぁ…」ノビノビ
カロル「………」
母「」スヤスヤ
カロル「(マルク……)」
母「……ぅん?」
カロル「(なんだろう…。胸がざわざわする…)」
母「早起きねぇ…」ポンポン
カロル「わっ」ビクッ
母「あらあら」クスクス
カロル「あ、お母さま…。おはよう」
母「おはよう。こんなに早起きしてどうしたの?」
カロル「なんでもないよ。目が覚めちゃっただけ」ニコッ
母「そう?まぁ枯れ木の窪みはすきま風に当たって寝心地が良くないわよね」
カロル「あはは。そうかも」ニコニコ
母「なーんてね。嘘はダメよ?」ニヤリ
カロル「」ドキッ
342:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:23:01 ID:8C0o4sgn8A
カロル「う、嘘なんてつかないよ?」
母「表情を見れば分かるのよ?」
カロル「……」
母「あたしはあなたの母親だもの。ね?」ウインク
カロル「お母さまにはかなわないや」クスクス
母「まぁ?」ニコニコ
カロル「……お母さま。マルクが昼までに戻って来なかったら、探しに行っていい?」
母「聞かなかったら黙って探しに行く気だったのかしら?」
カロル「……」
母「ダメよ」バッサリ
343:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:24:11 ID:8C0o4sgn8A
カロル「え…そんな…」シュン
母「危ないからダメ。じっとしてなさい?」
カロル「で、でも…」
母「あの子に宣教師様を探すよう頼んだのは坊や、あなたよ?」
カロル「それは…そうだけど」
母「なら最後まで信じてあげなさい?」
カロル「だけど、もし危ない目に遭ってたら…」
母「…お母さんと約束したわよね?」
カロル「うん…」
母「なら信じて待ちなさい。それとも坊やは友達が信用できない?」
カロル「ううん…。信じてる」
母「…そう。いい子ね?」イイコイイコ
カロル「……」
344:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 21:58:00 ID:Ck6no1fVS2
――村(広場)――
ワイワイガヤガヤ
旅人「あー!あー!ただいま発声テスト中!ただいま発声テスト中!」
村長「…何をしておられるので?」
旅人「ん?あぁ。ちゃんとギャラリーの皆さんに声が届くように発声練習をね」
村長「はぁ?とりあえず村人を集めましたが」
旅人「ん。オーケーオーケー!ベリーサンキュー!アイムソーリーヒゲソーリー!」ヒラヒラ
村長「(こんなにストレスの溜まる客人は初めてだ…)」イラッ
345:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:00:07 ID:Ck6no1fVS2
旅人「さぁて。パッチ君は来てるかなーん?」キョロキョロ
村長「一応全員呼んでありますが、被害者の家族は…まだ受け止められないようでして」
旅人「そうですか。んじゃまぁ始めるとしますかね」
村長「(本当に大丈夫なんだろうか…?)」
ザワザワ ザワザワ
旅人「あ、あー!おほんっ!おはようございます。村の皆さん。
こんな朝早くから、お呼び出ししてまことに申し訳ない」ペコリ
シーン
旅人「私を知らない方々もおられるかと思われますので、この場を借りて自己紹介しておきましょう」
村長「(なんだ、意外としっかりしてるじゃないか)」ホッ
旅人「名はアイリ・ワルド。歳は42。スリーサイズは上から82、57、85。
村長の家でお世話になっているしがない旅人です」
ズルッ バタバタッ
村長「……ずっこけてしまった。なに考えとるんだ、あの旅人は?」ムクリ
ワルド「ちなみに現在、独り身でしてね。私に気があるという方は是非一声かけてください」キリッ
ズルッ バタバタッ
村長「」ヒクヒク
ワルド「ははは。皆さん良い反応をされますな?」ケラケラ
346:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:02:28 ID:Ck6no1fVS2
テパ「おい!」ムクリ
ワルド「おや?あんたは昨日の…確かトンマさんと言ったかな?」
テパ「誰がトンマだ、ふざけるな!テパだ!」
ワルド「あーそうそう。そんな感じだ?」ヘラヘラ
テパ「あんた、大人2さん達を殺した犯人が分かったんじゃなかったのか!?」
ワルド「おいおい、そうカッカッしなさんなよ?
若い内は血の気が多いのもしょうがないが、さっきのはほんのジョークだろう?」
テパ「ならさっさと教えろよ!誰が殺ったんだ!?」
ワルド「さぁ?誰だろうな?」ニヤニヤ
テパ「く…!」
ザワザワ ザワザワ
ワルド「まぁ黙ってなよ。これから名探偵が事件の真相を暴くところだ。
横やりが入ると締まらないだろう?」
テパ「……ちっ!」
ワルド「さぁて、お待たせしましたね?
とんだ邪魔が入ってしまいましたが続けましょうか」
テパ「」ギリッ
347:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:03:52 ID:Ck6no1fVS2
パッチ「(ルーボイくんはどこにいるんだろう?)」キョロキョロ
ワルド「その前に…パッチ君はいるかね?」
パッチ「えっ」
ザワザワ ザワザワ
ワルド「ごきげんよう。昨日はよく眠れたかな?」
パッチ「」プイッ
ワルド「そうか。そいつはよかったねぇ」ヘラヘラ
ダン「なんだ…?うちの息子がどうかしたのか?」
ワルド「あぁ。そうだった?お父さんもいたんですね?」
ダン「?」
ワルド「昨日の晩は何を食べました?」
ダン「…どういうことだ?」キョトン
ワルド「まぁまぁ。いいから教えてくださいよ」
ダン「…蒸したチキンにサラダ。コーンスープ…だよな?」
ダンの妻「そ、そうだけど…それが何だって言うんです?」
ワルド「慎ましい食事ですなぁ?」
ダン「バカにしてるのか?」
ワルド「とんでもない。ただ最期の晩餐にしちゃ味気無いと思いましてね」
ダン「最期の晩餐…?」
ザワザワ ザワザワ
348:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:06:29 ID:Ck6no1fVS2
ワルド「皆さん。簡潔に言いましょう。のどかな、この村に犠牲をもたらした犯人は……」
テパ「」ドキドキ
ダンの妻「まさか…」チラッ
ダン「(…俺だとでも言うつもりか?)」
ワルド「……」
村のおばさん「あーじれったい!早くお言いよ!」
村娘「そうよ!もったいぶらないで!」
ワルド「……」
村長「いったい誰だと言うのです?」ハラハラ
村長の妻「」ドキドキ
ワルド「俺さ」ニヤリ
村人たち「えっ」
ワルド「くっくっくっ…」
村長「ま、まさか…まさかあなたが?」
ワルド「ふふ…」
テパ「て、てめぇ!よくも大人2さん達を…」
ダン「」プルプル
ダン「許さねぇ!」ダッ
ワルド「なーんちゃって」テヘペロ
ズルッ バタバタッ
ダン「こ、このやろう…」ヒクヒク
テパ「いい加減にしろ!!」ムクリ
ワルド「ははは。すまんすまん。とりあえず犯人はホビットだ」
村人たち「えっ」
349:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:08:12 ID:bd.VSVzfCA
ワルド「ホビットが以前、村に侵入したそうだね?
おそらく犯人はそいつだろう」
ダン「や、やっぱりそうか…!」
村長「ではすぐにでも教団に報告しなければ…」
テパ「あいつ、前にダンさん達に痛めつけられたのを根に持って…!」
村のおばさん「そんなこったろうと思ったよ」
村の大人5「生かしてもらった恩を忘れるとは、なんて薄汚い奴らなんだ」
村娘「うぅ…。ひどい…」シクシク
パッチ「違う!!!」
ワルド「んー?」
350:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:10:19 ID:Ck6no1fVS2
ワルド「何が違うのかな?」
パッチ「カロ…ほ、ホビットはそんな事しない!!」
ワルド「なぜ分かる?」
パッチ「なんでって…それは…」タジタジ
ワルド「残念だがね、ボクちゃん?ホビット以外に考えられないんだよ」
パッチ「な、なんでですか?」
ワルド「ダンさん。あんたを含め、大人1、2さんはホビットの恨みを買ってる。そうだろ?」
ダン「」ギクッ
パッチ「へ?」
ワルド「奴らの住み処に火を放って子供の前で母親を犯したんだもんねぇ?」
ダン「な、なぜそれをあんたが…!」
ワルド「大人1と2に取り引きを持ち掛けたのは俺だからさ。二人から話はよーく聞いてるよ」
ダン「ぐ…!」
ワルド「あんたも誘われてホイホイ付いてったらしいが、まずいね。
罪深い種族とイイことたくさんしちゃったんだもんなぁ?
バッチィ菌が繁殖してふにゃふにゃな息子も膿んでんじゃないのかい?」ニヤニヤ
ダン「あ、ぁ…!」ブルブル
村長「ホビットと交わっただと…!貴様ぁ!どういうことだ!?」ガッ
ダンの妻「あ、あんた…」ワナワナ
ダン「ち、違う…。違うんだ…」アタフタ
テパ「ダンさん…。あんた最低だな!」
村のおばさん「ほ、ホビットと交わるなんて…汚らわしいよぉぉ!」ヒィィ
村娘「こんな人が村にいたなんて…!」アトズサリ
ダン「あ、あぁ……」ガクリ
パッチ「(カロルくんが言ってたのはやっぱりお父さんたちだったんだ…!)」
351:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:12:20 ID:bd.VSVzfCA
ギャーギャー ワイワイ
ワルド「すっかり騒がしくなったもんだ」ヤレヤレ
ワルド「…ところでパッチ君、反論は?」
パッチ「……」
パッチ「…ホビットはお父さん達を恨んだりしてません」
ワルド「ほう?なぜそう思うのかね?」
パッチ「ホビットから聞きました」
ワルド「ほうほう?やはり君はホビットと繋がりがあるのかい?」
パッチ「……」
ワルド「おんやぁ?繋がりが無いなら今の言葉は嘘になるなぁ。なんの証明にもならんよ?」
パッチ「あのホビットは…ボクの友達です」
ワルド「ん?聞こえないなぁ?」
ワイワイ ガヤガヤ
パッチ「…あのホビットはボクの友達です!!」
シーン
ワルド「……聞こえましたか?村の皆さん?」
パッチ「」ハッ
ザワザワ ジロジロ
ワルド「ははは。一件落着だ」
352:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:14:00 ID:bd.VSVzfCA
ダンの妻「パッチ!!」
パッチ「」ビクッ
ダンの妻「なんてことを…!」
村長「お前たち一家は…!」グッ
村娘「ホビットと友達ですって…」ヒソヒソ
村の大人5「宣教師様だけじゃなかったのか…」
村のお婆さん「うすぎちゃない…!」フガフガ
ダン「もう…終わりだ…」グラグラ
村長「お前たちだけじゃないぞ!この一件が教団に知れて王国へ伝わればわしらも終わりだ!!」ユサユサ
村のおばさん「そうだよ!どうしてくれんのさ!?」
ダン「ははは…ぎゃはははははは!」
村長「何を笑っとるんだ!わしの言ってる意味が分からんのか!?」
テパ「ふざけるのも大概にしろよ!!」
ダン「ひひひ…!ウヒャハハハハハハハハ!!!」ゲラゲラ
村のおばさん「」ゾクッ
テパ「ダンさんが狂った…」
村長「このバカもんが!」ブンッ
ダン「」ドサッ
ダン「ひゃはは…うへひひひ…」ボロッ
村長「……」ギリッ
353:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:16:29 ID:bd.VSVzfCA
ダン「へへっ…へへへ」ポロポロ
ワルド「泣きながら笑うなんて大した芸当ですなぁ?教えてほしいくらいだ」
村長「泣きたいのはこっちだ…!失うものがあまりにも多すぎる…!」
ワルド「まぁまぁ。元気を出してください。人間、辛い時こそ元気がなによりですから」ポン
テパ「あんた、不謹慎だぞ?」ジト
村長「こんな状況で元気を出せなど…」
ワルド「大丈夫。解決策は別に用意してあります」
村長「え?ほ、本当ですか!?」バッ
村のおばさん「どうせあてになんないよ。あたしらはもうおしまいさ」フッ
ワルド「えぇ、もちろんです。村長には一宿一飯の恩がある。指をくわえて見てるほど私は腐っちゃいない」
村長「わ、ワルドさん…!あなたって人は…!」
テパ「てっきり腐ってるモンだとばっかり…」
ワルド「放浪者ってのは一っところにとどまらないから自分勝手に思われがちだがね。
憩える場所がないからこそ、それなりに情に脆いのさ?」
村長「ありがとうございます…。藁にも縋りたい気持ちとは、こういうことなのですなぁ…」ウルウル
ワルド「人を藁扱いすんじゃないよ。失敬な奴だね。
てかお前らみんな失礼だね」
354:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:18:10 ID:Ck6no1fVS2
ワルド「そんじゃまぁ、肝心の解決策だが…」
村長「は、はい!」
テパ「」ドキドキ
村のおばさん「」ドキドキ
ワルド「どうすればいいと思う?」
ズルッ バタバタッ
テパ「それをあんたが教えんだろ!?」ムクリ
ワルド「ん〜。実にいい反応だ。村人やらしとくにゃ惜しいね?」
村長「本当に大丈夫なんだろうか…」ヒクヒク
村のおばさん「やっぱりあてになんないね…」ヒクヒク
355:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:22:37 ID:bd.VSVzfCA
ワルド「時に村長、あんたは血を見るのは平気かね?」
村長「と言いますと?」
ワルド「ここからは少しダーティな相談になるってことさ」ニヤ
テパ「もったいぶらずに言えよ!!」
ワルド「キャンキャン吠えなさんな。今から言うさ」ヒラヒラ
テパ「くそっ…!」
ワルド「分かりやすく言おうか。あなたは村の為に血を流すのも惜しまない覚悟はあるかね?」
村長「そ、それはもちろん…」
ワルド「よろしい。なら話は簡単だ。あの親子を消せばいい」ニンマリ
村長「親子を消す…?」
ワルド「パッチ君たち親子のことさ。村に害を成す存在がいるのなら、その存在ごと消してしまえばいいハナシだ」
村長「ご冗談を…。それでは人殺しではありませんか?」
ワルド「そうさ。人殺しだよ。それですべて片が付く」クスクス
テパ「あんた、本気で言ってるのか?」
ワルド「悪いがジョークはおしまいだ」ヘラヘラ
村長「出来ません!村の為とは言え…!」
356:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:24:46 ID:Ck6no1fVS2
ワルド「何を躊躇う事がある?
村長、あなたはこの村の長じゃないですか?」
村長「長として皆の上に立つからこそ、人としての尊厳は破れません!
悪しき歴史を残せば、今は良くてもいずれ枯渇してしまう…!」
ワルド「しかしこのままではあなたの決断が鈍る事によって、村は崩壊するでしょうなぁ?」
村長「くっ…!」
テパ「村長、もうそれしかないですよ!」
村のおばさん「そうさ。ダンの奴にしたってホビットと関わった人間は始末しようって言ってたんだ。
それとまったく同じことじゃないか?」
村長「ぐぬぬ……」
ワルド「さぁ村長、どうかご英断を…?
あなたには村を守る使命がある…」
ワルド「なぁに…。あなたに罪はありませんよ?
やむを得ず、望まぬ犠牲を強いられているのです。罪深きホビットによって…」
村長「」グッ
村長「分かり…ました…」ガクッ
357:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 15:42:07 ID:1.PrppOx/o
――大聖堂へ続く道――
マルク「」タタタッ
マルク「」ハァッハァッ
神父「」スタスタ
マルク「わぅ…?」
神父「む?」
マルク「」タッタッ
神父「なんだ、この犬は…。随分くたびれてるようだが…」マジマジ
マルク「」クンクン
神父「な、なんだ…?」
マルク「……!」キラキラ
神父「……?」
マルク「」ハッハッ
神父「…む?首に何か下げてるな…」
マルク「」グイッ
神父「な、なんだ?引っ張るんじゃない!神聖な修道服に噛みつくなど、なんと罰当たりな…!」グッ
マルク「」グイッグイッ
神父「離せ!私は司祭様に村の布教を任されているのだ!
こんな所で足を止める訳にはいかん!」
マルク「」グイッグイッ
神父「ええいっ離せ!獣ごときが神の意向を曲げようなど片腹痛いわ!」グンッ
マルク「くぅん…」ションボリ
358:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 15:43:42 ID:1.PrppOx/o
神父「はぁっ…はぁっ…。せっかく司祭様に頂いた修道服が汚れてしまったではないか…」
マルク「わんっ!」ズイッ
神父「む?首にかかっている物を見ろと言うのか?」
マルク「わんっ!」コクコク
神父「仕方あるまい…。これ以上邪魔をされてはかなわんからな」ヒョイッ
マルク「」パァァ
神父「これは手紙か…?なぜ犬がこんな物を…」ガサ
マルク「」ハッハッ
神父「む…。こ、これは…!」
神父「おい、この手紙は誰から受け取った!?」
マルク「わおんっ!」
神父「くっ…。犬に分かる訳がないか」
マルク「くぅん?」キョトン
神父「村に行っている場合ではないな。司祭様にお伝えしなければ…。
犬よ。お前も付いてくるのだ」
マルク「?」
神父「…とにかく来い!」ヒョイッ
マルク「わうっ!?」ジタバタ
神父「暴れるな!」ダッ
359:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 19:21:08 ID:O5X0CHOlqg
――村(ルーボイの家)――
ルーボイ「……」ガラッ
ルーボイ「(もう夕方か…)」ゴロン
ルーボイ「父ちゃん…」ウルッ
コンコン
大人2の妻「ルーボイ。起きてるかい?」
ルーボイ「母ちゃん…?」ムクッ
大人2の妻「ごめんね。まだ寝てたかい?」
ルーボイ「ううん…。寝てないけど」
大人2の妻「そうかい…。ちょっといい?」
ルーボイ「うん…。なに?」
大人2の妻「テパ君が訪ねてきてね。聞きたい事があるから来てほしいとさ」
ルーボイ「テパ兄ちゃんが…?」
360:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 19:22:20 ID:O5X0CHOlqg
テパ「よう、ルーボイ。昨日の今日で悪いんだがちょっといいか?」
ルーボイ「用ってなんだよ、兄ちゃん…」
テパ「まぁそれは付いてくりゃ分かる」ヘラヘラ
ルーボイ「…なんなんだよ、兄ちゃんヘンだぞ?」
テパ「そうか?」プーン
ルーボイ「くっせ!?」ギョッ
テパ「ん?どうした?」ニヘラ
ルーボイ「(なんだ、この匂い?油くせぇ…!)」ツーン
テパ「へへ」ニンマリ
ルーボイ「…兄ちゃん、目ぇ赤くない?」
テパ「はは。寝不足かもな。そろそろ行こうか」スタスタ
ルーボイ「……?」スタスタ
361:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 19:24:09 ID:O5X0CHOlqg
――広場――
テパ「」スタスタ
ルーボイ「広場…?」
テパ「ワルドさん、連れてきましたよ」ニヤリ
ワルド「はいはい。ご苦労さん」
ルーボイ「(誰だ、このおっさん?)」
村長「」スパスパ
村のおばさん「」ニンマリ
ルーボイ「(みんな集まって…タバコ吸ってる?)」
プーン
ルーボイ「うっ」ツーン
ルーボイ「(さっきの匂いだ…!しかもみんなも目が赤い…?)」キョロキョロ
村娘「」ニヤニヤ
村の大人5「」ブツブツ
村のお婆さん「」フガフガ
ルーボイ「なんか、おかしい…?」
ワルド「はじめまして。ルーボイ君。早速だが見てもらいたい物があるんだ?」
ルーボイ「……?」
362:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 19:26:35 ID:O5X0CHOlqg
ワルド「そこに転がってる安そうなお肉に見覚えがあるだろ?」
ルーボイ「えっ」
肉塊「」ベチャ
ワルド「これだよ、これ。よく見なさい」
肉塊「」ベチャ
ルーボイ「グロ…」ウプッ
ワルド「分からないか?まぁぐちゃぐちゃだもんねぇ?」
ルーボイ「(なんだ、これ?気持ちわりぃ…)」
ワルド「おじさんはここまでする事ないって止めたんだが、みんな聞かなくてね」
テパ「へへ。ワルドさんから貰った異国の葉巻を吸ったらアガッちゃってさ」ニヘラ
ワルド「はは。そいつは良かった。気に入ったようだねぇ?」
テパ「へへ…へへ…。最初は油臭いしクラクラして気持ち悪かったけど、慣れると甘い匂いがするんだ…」
ルーボイ「」プルプル
テパ「ルーボイ…お前もワルドさんに貰えよ?気持ちいいぞ?」アヘアヘ
ルーボイ「なんだよ…。さっきから、みんなおかしいよ…」ブルブル
363:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 19:30:22 ID:O5X0CHOlqg
ワルド「本当はこんな手段まで使うつもりは無かったが、思った以上にヘタレた奴らでな。
こうでもしないと人の一人や二人も殺せないときたもんだ?」
ルーボイ「こ、殺っ…!?
お、おっさん…。みみ、みんなに…何した、んだよ?」ガクガク
ワルド「ちょいとキツめのベリーを太く巻いてプレゼントしただけさ」ニヤリ
ルーボイ「な、なんだよ…。訳わかんねーよ!」ガタガタ
ワルド「まぁそう震えるなよ?みんな幸せそうだろ?」
テパ「そうだよ。ルーボイ。幸せだぞ。幸せ〜?」ニヤニヤ
ルーボイ「……」チラッ
村娘「うっ」ゲロゲロ
村のおばさん「あぁ。何してんだよ。汚いねぇ?」ニンマリ
村の大人5「」ブツブツ
村長「わしは何も悪くない…わしは何も悪くない…」スパスパ
村のお婆さん「」フガフガ
ルーボイ「(頭が…おかしくなりそうだ…!)」
ワルド「ん〜。素晴らしい…。まるで桃源郷だ」ヘラヘラ
364:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 19:32:44 ID:iuXlfLsjlI
ルーボイ「あの肉はなんなんだよ…?」ゼーゼー
ワルド「あぁ、そうだ。忘れてた。あれはね…」
テパ「パッチの親父さんとお袋さんだよ」グシャッ
肉塊「」ブシッ
ルーボイ「」ゾクッ
ルーボイ「パッ…パッ…パッ…!?」ズルッ
ワルド「おいおい、死人を踏みつけちゃいかんよ」
テパ「いいじゃないッスかー。死体をさんざん鍬や鋤でグシャグシャにしたんだから今さら今さら〜」グシャッグシャッ
ワルド「ま、それもそうだねぇ?」ヤレヤレ
ルーボイ「あうっ…わっわっ。あふ…!」ダラダラ
ワルド「くくく。いい反応じゃないの?これだから、この村は好きだよ」ニヤリ
ルーボイ「パッチは…パッ…うぷっ!」グッ
ワルド「ん〜?パッチ君が気になるかね?」
ルーボイ「おぇっ…げほっげほっ」ゲロゲロ
ワルド「うわ。きったね」アトズサリ
テパ「へへ!ルーボイ。ごきげんだな!」ヒューヒュー
ワルド「なに言ってんだ?」
365:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 19:35:14 ID:iuXlfLsjlI
ルーボイ「ふぅ…ふぅ…。パッチは…どうしたんだよ?」ウルウル
ワルド「さぁな?両親のお肉に混ざってんじゃないか?」
ルーボイ「うぷっ!おぇぇぇ…!」ゲロゲロ
ワルド「ぎゃはははははは!!」ゲラゲラ
テパ「なんだ、ルーボイ!ごきげんだな!」ヒューヒュー
ワルド「ひぃっ!ひぃっ!お子さまながら…いい反応をするもんだ!」プププ
ルーボイ「あぁ…あぅ…」ブワッ
ワルド「あ〜堪能したよ。最高に晴れ晴れとした気分だ!」クスクス
ルーボイ「ひっ…ひっ…えぐ…うぇ…」ポロポロ
テパ「なんだ、ルーボイ!さっきからごきげんじゃんか!」ヒューヒュー
ワルド「もう一本やるから黙ってろ」つ【※※】
テパ「Hey!!Inna di mean time!!」キャッホー
366:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 19:38:44 ID:iuXlfLsjlI
ワルド「さて?」グイッ
ルーボイ「……!」グッ
ワルド「ん〜?いい表情だ?もっといじめたくなるよ…!」ゾクゾク
ルーボイ「」キッ
ワルド「はぁ〜。ダメだ。ダメだ。我慢しなきゃな?
今はまだまだまだまだまだまだまだまだ…」ハァハァ
ルーボイ「死ね、変態親父」ボソッ
ワルド「…元気でなによりだ?」ニコッ
ワルド「(ダメだ。ダメだ。仕事中…仕事中…)」ブツブツ
ルーボイ「なんで…こんな……」
ワルド「簡単なハナシさ。君のお父さんを殺したのはホビットで、あの親子はホビットと関わりがあった」
367:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 19:41:05 ID:O5X0CHOlqg
ルーボイ「カロルが…?」
ワルド「もしかしたらパッチ君も協力してたかもな?
あの子はホビットの仲間だから」ニヤニヤ
ルーボイ「パッチもカロルも…そんな事しねぇよ…!」キッ
ワルド「…君がしてないと言っても、しちゃっんだからしょうがないさ」
ルーボイ「お前だろ…?おっさんがやったんだろ!?」
ワルド「わおっ!鋭いねぇ?でも証拠がな〜い!」ヘラヘラ
ルーボイ「殺してやる…!」ギリッ
ワルド「吐瀉物まみれのお顔で吠えても怖くないなぁ?」
ルーボイ「」ガシッ
ワルド「」バキッ
ルーボイ「うっ…」ドサツ
ワルド「汚い手で掴まないでくれないか?あいにく俺の服は上等な絹でね」
ルーボイ「ちくしょう…!」
ワルド「思い出すなぁ?君のお父さんも掴みかかってきたよ」
ルーボイ「は…?」
ワルド「君の反応には楽しませてもらったからね。
礼と言っちゃなんだが、教えてあげよう」
ルーボイ「……」
ワルド「そう、俺だよ。ぜーんぶ俺が仕組んだんだ(※>>246-252)」ボソリ
ルーボイ「……」
368:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 19:45:15 ID:O5X0CHOlqg
ルーボイ「みんな!!犯人はこのおっさんだ!!」
村長「わしは悪くない…わしは悪くない…」ブツブツ
テパ「」アヒャヒャ
村のおばさん「あ〜そう〜」ニンマリ
村娘「」グッタリ
村の大人5「」ブツブツ
村のお婆さん「」フガフガ
村長の妻「甘い…」スパー
ルーボイ「みんな…?なにやってんだよ?親父を殺したのはこいつだぞ!
なにタバコなんか吸ってんだよ!?」
ワルド「無駄だよ。みんな魔法のラズベリーの虜だ?」
ルーボイ「そんな…」
ワルド「…たかだか巻いた草程度でここまで堕ちるとは思わなかったがね。
これじゃ証拠の隠滅どころか違法薬物に手を出したって事で、どのみちこの村は破滅するだろう」
369:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 19:50:49 ID:iuXlfLsjlI
ルーボイ「何がしたいんだよ!?」
ワルド「別に?ただあのホビットの親子が欲しいだけだよ」
ルーボイ「欲しい?」
ワルド「おじさんの組織は特殊でね。ホビットを使った商売をしてるんだ」
ルーボイ「商売って…」
ワルド「ヘマトバザールって組織でね。主にホビットの拷問をお客様にショーとしてお届けしてるのさ」
ルーボイ「ご、ごうもん?」
ワルド「本当はホビットじゃなくてもいいんだが、王国の目もあるからねぇ。
合法的に徹底差別を許されるホビットでやるしかない」
ルーボイ「……」
ワルド「元は拷問愛好者の集いに過ぎなかったんだがね」
ワルド「人数も増えて、いろいろ試すと外野の評価も欲しくなるもんだ。
最初は動物なんかでやってたんだが、ウケがイマイチだった」
ワルド「試しにホビットを捕まえてやってみたとこ、普段は寂れたショーに大歓声と黄金が舞いやがった」
ワルド「ホビットほど人間に疎まれて、それでいて人間に近いものは無いからなぁ」
ワルド「憎い奴が自分たちと変わらない反応で泣き喚く姿にある種の中毒性があるんだろう」
ワルド「おかげでがっぽり頂いてるよ」ニヤリ
ルーボイ「(このおっさん…クズだ…)」ブルブル
370:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 19:58:13 ID:iuXlfLsjlI
ワルド「でも困ったよ。悲劇の町の一件(>>220-222)があってから、王国を恐れてホビットへの差別が過激化しちまってね。
今じゃすっかり数も減って姿を表さない」ヤレヤレ
ワルド「だから少しでもホビットが欲しいのさ?
その為だけにおじさんは世界中を歩き回ってるんだ」
ワルド「この旅の間に2、3匹捕まえはしたが、足りない。足りないんだよ」ワナワナ
ワルド「たかだか数匹程度の血飛沫じゃ、もう客は満足しないんだ」
ワルド「内臓をえぐり出すくらいじゃ前座にもならない」
ワルド「兄妹にスプーンを持たせて先に目をくり抜いた方が生き延びるショーは今も満員さ。
だがそうそう都合よく兄妹なんかいない」
ワルド「飢えた親に我が子を食べさせるショーも、本当の親子じゃなきゃダメなんだ。
フェイクを客はすぐ見抜くし、何より血の繋がりがそそるんだ」
ワルド「客に振る舞う食肉バイキングをやるにも10匹以上はいないとフルコースが揃わない」
ワルド「おじさん、とても困ってるんだよ?
現実は思ったよりずっとシビアだ」
ワルド「なぁ、ルーボイ君?君もそう思わないか?」
ルーボイ「(こいつあたまおかしい)」ジョォォ
371:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 20:03:10 ID:O5X0CHOlqg
ワルド「お漏らしかね?だらしない。そういうとこまで親に似るんだな?」
ルーボイ「わ…わけ…わかん……」プルプル
ワルド「まぁいい。ルーボイ君、パッチ君が行きそうな所に心当たりはないかね?」
ルーボイ「ぱ……パッチ…死んだんじゃ…?」
ワルド「おいおい、冗談を真に受けるんじゃないよ。
ちゃんと生きてるさ。ただ逃げられただけでね」
ルーボイ「えっ」パァァ
ワルド「おっと、希望に浸るのはまだ早いなぁ。
君に頼みたいのはパッチ君のいそうな場所を教えてもらう事なんだからねぇ」
ルーボイ「教えるわけ…ないだろ」キッ
ワルド「それは困ったなぁ。村人は使い物にならんし、君しか頼れないんだよ」
ルーボイ「知るかよ」プイッ
372:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/3(日) 20:06:23 ID:O5X0CHOlqg
ワルド「……状況を分かってないのー?」
ルーボイ「どうせ…殺すんだろ。いいよ。殺ればいいだろ?」ブルッ
ワルド「簡単に言うねぇ?死ぬってどういう事か分かる?
痛いよ?苦しいよ?なーんにも無くなっちゃうよ?」
ルーボイ「…こ、怖くねーし」ブルッ
ワルド「無理しないで吐いちゃいなよ?
そしたらなんにも痛い思いしないんだよーん?」
ルーボイ「いやだ…」ブルブル
ワルド「強情だなぁ。そんなに震えてるのに?」
ルーボイ「友達を…悪い奴に渡せるかよ…。
父ちゃんを殺して、みんなをめちゃくちゃにしたお前なんかに…教えねぇ!」ブルブル
ワルド「おとぎ話の世界なら、ここでなんらかの力に目覚めて悪いおじさんをやっつけちゃうんだろうなぁ?
だが無情にも、この世界は現実さ。ほのぼのとした救いの無い素敵な世界だ?」ギロッ
ルーボイ「はは…は…!そんな事言ったって怖くねーぞ…!」カタカタ
ワルド「安心しなよ?すぐに怖くなる」
ルーボイ「怖く…ねーもん。怖くなんか…」ブワッ
ワルド「(ん〜!たまらないねぇ?そそる反応をしてくれる子だ…)」
ルーボイ「ひっ…ひっ…。カロル…。パッチ…。うぅ…えぐ…!」グスッ
ワルド「(あぁ。友達の名を縋るように呼んでいる…。
なんてかわいいんだ。これだから子供はたまらない…!)」ハァハァ
ワルド「今、痛めつけてあげるからね…?」ハァハァ
373:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/9(土) 21:32:08 ID:9IAOdG2/VE
ワルド「」ドカッ
ルーボイ「う…!」ダンッ
ワルド「どうしたね?さっきまでの威勢の良さが嘘のようじゃないか?」
ルーボイ「っ…!」ズキズキ
ワルド「ははは。みぞおちにくれてやった蹴りが効きすぎたか?」
ルーボイ「うる…せぇよ」ハッハッ
ワルド「一応聞くがパッチ君はどこにいると思う?」
ルーボイ「知ら……」
ワルド「」バキッ
ルーボイ「あぐっ……」ポタポタ
ワルド「血は初めてか?」
ルーボイ「……」ポタポタ
ワルド「早く言わないと、真っ赤っかになっちゃうぞ?」
ルーボイ「ペッ!」
ワルド「」ビチャッ
ワルド「……なるほど。優しいおじさんは嫌いか」
ルーボイ「お前なんか、大嫌いだ!」
374:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/9(土) 21:34:58 ID:svXBI68Hng
ワルド「悲しいなぁ?」シュッ
ルーボイ「……!?」ピッ プシュッ
ルーボイ「いってぇぇぇぇ!!」ジタバタ
ワルド「ははは。いい顔になったな?
相変わらずこいつは心地のよい切れ味を発揮してくれる」ヒラヒラ
ルーボイ「大人のクセに…子供に武器使うなんて、ダセー…」ドクドク
ワルド「泣きべそかいてたかと思えば強がって、忙しい奴だなぁ?」
ルーボイ「(いてぇ…いてぇ…。ほっぺたが熱い…)」ドクドク
375:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/9(土) 21:36:25 ID:9IAOdG2/VE
ワルド「とりあえず」グイッ
ルーボイ「っ…!持ち…上げんな…!」
ワルド「」バキッ
ルーボイ「ぶふっ!」
ワルド「」ゴッ
ルーボイ「ぎゃ…」
ワルド「」ドゴッ
ルーボイ「いだっ!」
ワルド「」ガスッ
ルーボイ「ごふっ」
ワルド「」ガンッ
ルーボイ「……!」
ワルド「こんなモンかな?」
ルーボイ「ゴホッゴホッ!ぐ…うぅ」ボロッ
ワルド「喋る気になったかね?」
ルーボイ「」ブンブン
ワルド「強情だねぇ?お子さまなのに立派だよ」ブンッ
ルーボイ「う!」ドサッ
376:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/9(土) 21:38:04 ID:9IAOdG2/VE
ワルド「だが素直じゃない子供は可愛げがないな?」
ルーボイ「あぐ…。はが…ふぁが…」ダラァ
ワルド「クックッ!前歯が無くなってしまったね。かわいそうに」
ルーボイ「うぅ…!」ギロッ
ワルド「これはね。拷問の基本中の基本なんだが、必ず最初に歯を抜くか叩き割るかするんだよ」
ルーボイ「あぅ…?」
ワルド「そうすれば舌を噛み切れないだろ?」ニヤリ
ルーボイ「ぁ…ぁあ…?」
ワルド「ここからはいくら苦しくても死ねないし、死なせない。お互いじっくり楽しもう」
ルーボイ「は…はぁぁ…!」ブルブル
377:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/9(土) 21:41:02 ID:9IAOdG2/VE
ルーボイ「わああああ!!」フラフラ
ワルド「なんだ?鬼ごっこがしたいのか?」
ルーボイ「はぁっ…!はぁっ…!」フラフラ
ワルド「おいおい、そんなんじゃすぐに追い付いちゃうよ?」スタスタ
ルーボイ「(いやだ。こわい。こわい!)」タタタッ
ワルド「おや、頑張るねぇ?ならおじさんも少し頑張っちゃおう!」ダッ
ルーボイ「(なんで俺、こんなことしてんだろ…)」タタタッ
ワルド「」ガシッ
ルーボイ「」ビクッ
ワルド「捕まえたよ?」ニヤリ
378:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/9(土) 21:43:07 ID:svXBI68Hng
ルーボイ「やら…!やへろぉ!」ジタバタ
ワルド「はっはっは!元気でなによりだ!」
ルーボイ「はなへ…!はなへよ!」ジタバタ
ワルド「ダメだよ。まだ準備しただけで始まってもいないんだからねぇ」
ルーボイ「うぅ!うわあ!」ビシッ
ワルド「痛いじゃないか?」パシッ
ルーボイ「手ぇ…はなへ!」グッ
ワルド「……こうやってねじると」グキッ
ルーボイ「ひっ…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」ブランブラン
ワルド「あらふしぎ。お手手が曲がってしまったねぇ?」ニヤニヤ
ルーボイ「いぎゃぁぁぁあああ!!!あぅぁうぅぅううぅぅ!!!」ゴロゴロ
ワルド「ん〜。イイ調べだ。声変わり前の甲高い悲鳴は耳に心地よい刺激を与えてくれる」
ルーボイ「(もう、やだ。もう、だめだ)」ハッハッ
379:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/9(土) 21:46:10 ID:9IAOdG2/VE
ワルド「さぁ。続けようか」グイッ
ルーボイ「もう、やめ……」
ワルド「何を言ってるんだ?始まったばっかりだろ?」
ルーボイ「」キョロキョロ
ワルド「周りを見ても無駄さ。村人たちはラズベリーの煙にヤられて、とっくに飛んでるよ」
ルーボイ「へ…」ガクガク
ワルド「ここには俺と君しかいない。助けは来ないよん?」
ルーボイ「うぅ……」
ルーボイ「……」グッ
ワルド「おや?黙りこくってどうしたんだい?
安心しなよ。優しく手ほどきしてあげるから。君は鳴いていればいい」
ルーボイ「はなすよ…」
ワルド「ん〜?」
ルーボイ「パッチのいるとこ…言うから…」ギュッ
ワルド「…チッ…つまらない」
380:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/9(土) 21:48:48 ID:svXBI68Hng
ルーボイ「もう、痛いのはいやだ…」
ワルド「あーそうかい。んで、どこだ?」
ルーボイ「たぶん教会にいる…と思う」
ワルド「ふーん。そうか」
ルーボイ「言ったんだから、もう…」
ワルド「あぁ。もういいよ。どうせこの村は枯れる運命だ。
精々ひび割れた苗の中で萎んで腐ればいいさ」
ルーボイ「」ホッ
ワルド「ともだちを裏切るなんて、最低な奴だよ。君は」
ルーボイ「」ズキッ
ワルド「どうしようもなく卑怯で、傲慢で、欲深なクズだ」
ルーボイ「」プルプル
ワルド「楽しい人生にするといい。ともだちを犠牲にしてね」スタスタ
ルーボイ「……」ズキズキ
ワルド「(せっかく楽しめると思ったのに。興醒めだ…!)」スタスタ
381:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/9(土) 21:52:38 ID:svXBI68Hng
ルーボイ「いてぇ…いてぇよ」ギュッ
ルーボイ「血…とまんねぇ…」ダラダラ
ルーボイ「(しょうがねーじゃん…)」
ルーボイ「(だって、怖いし、痛いし、それに)」
ルーボイ「それに…」ブワッ
ルーボイ「」ポロポロ
ルーボイ「パッチ……」
ルーボイ「うぅ…ごめん…。ごめんな…」グシッ
ルーボイ「ヒック…グズッ…!最低だ……」シクシク
382:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/10(日) 13:48:17 ID:MD.Og/oBiw
―――――
せんきょうしさまへ
おげんきですか
ぼくも おかあさまも げんきです
まるくに あえたんですね
よかったです
まるく はしって つかれてるかな?
よかったら なでてあげてくださいね
せんきょうしさまが かえってこなくて しんぱいです
ぼくも おかあさまも せんきょうしさまに あいたいです
でも きょうかいに かえったら だめです
ぼくと おかあさまは いま たびびとに おわれてます
せんきょうしさまも あぶないです
きをつけてください
ぼくと おかあさまは もりの おおきな かれきの したに います
はやく せんきょうしさまに あいたいです
えほん よんで くれるって やくそく
たのしみにしてます
まってます
ずっと まってます
カロル
―――――
383:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/10(日) 13:50:50 ID:qf2Xyjydl2
――大聖堂――
司祭「……ふむ」
神父「…いかがでしょうか?」
マルク「…くぅん」
司祭「間違いあるまい。これはホビットが書いたものじゃろう」
神父「やはり…!」
司祭「おそらくそやつはホビットが飼っとる犬じゃな」
マルク「わぅ?」
神父「しかし、何故この犬は宣教師に宛てた手紙を私に託したのでしょう…」
司祭「簡単な事じゃよ。お前が着とる修道服は宣教師の物じゃからな。
同じ匂いのするお前を宣教師と勘違いしたのじゃろうて」
神父「えっ」
384:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/10(日) 13:52:38 ID:qf2Xyjydl2
司祭「どうした?」
神父「使い回し…なのですか?」
司祭「当然じゃろうが。経費削減というやつじゃ」
神父「は、はぁ…?それにしては随分キレイに手入れされてますな?
てっきり新しく修道服を支給して頂けたのかと」
司祭「几帳面な奴じゃからな。欠かさず清潔を保っていたようじゃ」
神父「なるほど。前任の布教者は確か女性でしたな?」
司祭「そうじゃが?」
神父「」クンクン
司祭「おい、なぜ匂いを嗅ぐ?」
マルク「ぅぅ〜……」ウトウト
385:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/10(日) 13:55:34 ID:MD.Og/oBiw
マルク「」スヤスヤ
神父「な、何も叩かなくてもよいではありませんか…?」イテテ
司祭「やかましい。貴様も牢に叩き込むぞ」
神父「そ、それにしても…この手紙はどうしましょう?」
司祭「手紙に奴らの居場所が書いてある以上、出回ると厄介な代物である事は確かじゃな」
神父「ふむ…。混乱を招くでしょうな。手紙の中に書いてある旅人というのも気になります」
司祭「それはおそらく問題ないじゃろ。ホビットを罪深いと認識する正義感の強い人間じゃ」
神父「しかし手紙の内容には宣教師にも害が及ぶような事が書いてありますが…。
これはすなわち人間も構わず襲う凶悪な輩と暗示しているのでは…」
司祭「ふん。何を根拠に…」
神父「旅人の中には罪を犯し、各地へ逃げ延びる危険な者もおります」
司祭「……そんな輩にはそうそう出くわすものではないわい」
神父「ですがもし本当に危険な輩だとすれば……」
司祭「ホビットだけでなく村の人間にも害が及ぶと言いたいのか?」
神父「は、はい」
386:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/10(日) 13:57:31 ID:MD.Og/oBiw
司祭「心配性じゃな。その可能性はあるまいよ」
神父「なぜ、そのように言い切れるので?」
司祭「そもそもが、じゃ。手紙の主は誰じゃ?」
神父「ホビットですが…」
司祭「なれば、もう答えは決まっておろう。稚拙な虚言じゃよ」
神父「虚言…ですか?」
司祭「ホビットを狙う旅人の存在は真実じゃろうが、それ以外は虚言じゃ」
神父「……」
司祭「宣教師を呼び戻そうとするのは身を守る手段に最適と考えたのじゃな。
人間と共に在れば危険にさらされる可能性は大いに削られよう。
もしかすれば宣教師を囮に、まんまと逃げようという算段かも分からん」
神父「しかし…もしも真実であれば村人の身が…」
司祭「」ギロッ
神父「は…?」
司祭「貴様はホビットと司祭であるこのわし、どちらの言葉が重いと思っておる?」
神父「そ、それはもちろん司祭様のお言葉にございます」アセアセ
387:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/10(日) 14:00:50 ID:MD.Og/oBiw
司祭「分かっておればよい。奴らは狡猾な種族。
奴らの言葉に信用を向ければ、たちまちの内に利用され、喰い物にされるだけじゃ」
神父「はっ!申し訳ありません。あまりに浅はかな思慮でございました」フカブカ
司祭「じゃが、貴様の考えも一理ある。村の人間への配慮も必要じゃろうて」
神父「と、言いますと?」
司祭「…一度わしが奴らに会ってみよう。野放しにしておけば、害が及ぶとも限らん」
神父「なっ…。い、いけません!司祭様が不浄の者と接するなど…!」
司祭「無論、直接わしが出向く訳ではないわい。お前が捕まえてくるんじゃ」
神父「は…?」キョトン
司祭「明日、村に行くついでに奴らを捕らえてこい」
388:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/10(日) 14:03:57 ID:qf2Xyjydl2
神父「一人で…ですかな?」
司祭「無論じゃ」
神父「し、しかし何をされるか…」
司祭「安心せい。聞いた話ではメスとオスの子供しかおらん。
ホビットは体も小さく、力も無い。大の男が一人いれば十分じゃろ」
神父「し、しかし最近は人間を襲うホビットも現れたと聞きますが…」
司祭「あぁ。じゃがそれは西の領土の話じゃろうが?」
神父「し、しかしですな…」
司祭「」イラッ
神父「司祭様…?」
司祭「やっかましいぃぃぃ!!!
しかしもかかしもないわ!行けと言うのが分からんのかぁぁぁ!!?」
神父「ひぃっ」ビクッ
司祭「ふぅ…ふぅ…。返事はどうした!?」ゼーゼー
神父「は、はははい…。喜んで行かせていただきますとも!」
司祭「…そうか。では明朝、ここを発つがいい。今日はもう遅いでな」
神父「み、明朝ですか…」
司祭「村人に見られても説明が面倒じゃろ?皆が寝静まる時間にホビットを捕まえておくのじゃ」
神父「かしこまりました…」ペコリ
司祭「(…ふっ。宣教師をたぶらかしたホビットか。どんな輩か楽しみじゃわい)」クツクツ
マルク「」スヤスヤ
389:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/11(月) 00:27:06 ID:aMQyUdLMrI
――教会――
ワルド「さて、ほんとにこんなとこにいるのかねぇ」
ワルド「お日さまもぐっすりおねんねして、暗く月明かりに照らされた不気味な教会…。
まるで吸血鬼でも現れそうな雰囲気だ」
ワルド「こんな所にガキ一人でいられるとは思えんがね…」フッ
ワルド「いなくても構わんけどね。村に戻って、もう一度あのガキをいたぶって吐かせりゃいい」
ワルド「……」
ワルド「」ブルッ
ワルド「(正直、俺もちょっぴり怖いしね)」ブルブル
ワルド「まぁ、とりあえず入ってみますか」ガチャッ
ワルド「おじゃましまー…」スタスタ
グンッ
ワルド「わっと…!」ズルッ
ワルド「(足が…!?)」
ヒューン
ワルド「えっ」
ゴスッ!!
390:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/11(月) 00:29:58 ID:brIb.FAqgM
バタッ
???「」タッタッ
ワルド「」ピクピク
???「」ツンツン
ワルド「」ドクドク
???「あはっ!」ニッコリ
ワルド「」ビクンビクン
???「おじさん、すごいね?
2階からあんなに大きな石をぶつけたのに生きてるなんて!」
ワルド「」ビクンビクン
???「あ、そうだ。玄関の足下に紐を張っておいたんだ!
すぐ切れちゃったけど、おじさん転びそうになってたね?」
???「バカだなぁ!あははははは!!」
ワルド「」ドクドク
???「ねぇ。聞いてよ?ボクすごいだろ?」
???「ねぇ。ねぇってば!」ユサユサ
ワルド「」シーン
???「……」スッ
???「起きてよ。起きなきゃ、また石でぶつよ?」
ワルド「」シーン
???「……またジョーク言ってよ。つまんないジョーク」
???「ねぇ。聞いてる?大人は子どもの話を聞かなきゃダメなんだよ?」
ワルド「」シーン
???「……へー。無視するんだ?」パシッ
ガッ ゴッ バキッ ズゴッ ボコッ ガスッ グシャッ メキッ
391:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/11(月) 00:34:01 ID:brIb.FAqgM
???「ふふふ。お父さんもお母さんも天国で笑ってるよね?」
???「でも、まだだよ?」
???「みんな殺すんだもん。おじさん一人じゃ足りないよ」
???「みんなが悪いんだから。罪には罰を与えなきゃ」
???「そうでしょ?」
???「……聞こえないよね」
???「バイバイ、おじさん」フリフリ
ワルド「」
ガチャッ バタンッ
392:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/11(月) 15:38:40 ID:apt6p77LGE
――森――
カロル「」キュッキュッ
母「あら、坊や。なにを書いてるの?」
カロル「絵を描いてるの。宣教師さまが帰って来たら見せようと思って」キュッキュッ
母「ふふ。昔から上手だったものね。どんな絵なの?」
カロル「みんなの絵だよ!」
母「まぁ?一枚におさまるかしら?」
カロル「ほら、見て!
宣教師さまもルーボイくんもパッチくんも。お母さまもマルクもみんな一緒!
まだ途中だから、あんまり書けてないけど…」スッ
母「ふふ。そう…。まぁ?」ビックリ
カロル「……どうしたの?」キョトン
母「(前より上達してるわ…。紙の中にあたしたちがいるみたい?
お絵かきより、絵画と言うべきじゃ…?)」マジマジ
カロル「やっぱり…下手かな?」モジモジ
母「ううん。上手過ぎるくらい上手よ?
少し驚いちゃっただけ」
カロル「えへへ…。そっ、そうかな?」テレテレ
393:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/11(月) 15:40:06 ID:apt6p77LGE
母「さっきまではあんなにマルクの心配ばっかりしてたのに。どういう風の吹き回し?」
カロル「…マルクは賢いから、きっと大丈夫。そう思う事にしたんだ。
帰って来ないって思ってたら、本当に帰って来ないかもしれないから」
母「良いことね?」ニコッ
カロル「今ごろ宣教師さまと一緒にボクらを探してるかも?」ニコッ
母「そうね…?」ニコニコ
母「(坊やに言った手前、言いにくいけど心配になってきたわね…。
一晩経って、もう夜になるのにマルクも宣教師様も戻ってこないなんて…)」
カロル「……お母さま?」カキカキ
母「あ、ごめんなさい!何か言ってた?」
カロル「お顔に出てるよ?」
母「」ハッ
カロル「ボクも信じるから、お母さまも二人を信じてあげて?」ニッコリ
母「坊や…。……そうね?」ニッコリ
母「(坊やも、もうそういうのが分かる歳なのね…)」シミジミ
394:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/11(月) 15:42:24 ID:OSGANJ/Nfc
カロル「書けた!」パァァ
母「どれどれ?」ジー
カロル「どうかな?」
母「やっぱり上手ね…。坊やは将来、画家さんになれるわ?」ニッコリ
カロル「それは言い過ぎだよ…」タジタジ
母「ううん。そんなことないわよ。宣教師様もびっくりすると思うもの」
カロル「な、なんか恥ずかしいよ…」モジモジ
母「"あの人"の血かもしれないわね…」ニコッ
カロル「あの人って?」
母「あなたのお父様よ。あの人も絵が上手だったの」
カロル「お父さま…?」
395:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/11(月) 15:43:52 ID:OSGANJ/Nfc
母「えぇ。坊やが赤ちゃんの時に死んでしまったから、覚えてないでしょうけど」
カロル「……ウーン」
母「どうしたの?」
カロル「そういえばボク、お父さまのお話を聞いたことないなぁと思って」
母「あら、そうね?今まであまり話さなかったものね」
カロル「うん。聞く機会も無かったし、せっかくだから聞きたいな?」
母「ふふ。いいわよ?」ニコッ
396:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/11(月) 15:45:36 ID:OSGANJ/Nfc
カロル「お父さんってどんな人だったの?」
母「優しくてまっすぐで愛に溢れた…。
愛しいものを全力で守ってくれる、とても素晴らしい人よ?」
カロル「…ふふ」クスクス
母「……?」
カロル「あ、ごめん。なんだか嬉しくて?」
母「お父さまの話、あまり知らなかったものね?」
カロル「うん。もっと聞きたい!」
母「そうね。たくさん話してあげる!」
カロル「やった!」
397:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/11(月) 15:49:22 ID:OSGANJ/Nfc
母「あの人とは幼馴染みでね。よく人間にいじめられてたあたしを助けてくれたわ」
カロル「お母さまは人間の村にいたの?」
母「そうよ?昔はホビットも人間と暮らせる時代があったの」
カロル「いいなぁ!ボクも人間の村で暮らしたい!」
母「それでもあたし達を平等に扱ってくれる人間なんて一握りだけれど、あの人はそうじゃなかったわ」
カロル「お父さまは人間だったの?」
母「ぇぇ。その上、村長の息子だったのよ?」
カロル「そうなんだ!偉いんだね!」
母「大変なことなのよ?村人の非難は絶えなかったし、あの人も苦しかったと思う」
カロル「……?」
母「あの人はそれでも分け隔てなく接してくれる。
あたしも父もいつだってあの人の優しさに助けられたわ」
母「(そのせいであの人もあたし達も村を追われてしまったけど…。
それは知らなくてもいい事よね…)」
398:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/11(月) 15:54:11 ID:OSGANJ/Nfc
カロル「お父さまは暖かい人間だったんだね?」
母「そうよ。あなたのお父さまだけじゃない。
人間は時々間違ってしまうけれど、本当は優しいの」
カロル「知ってるよ!ボクをぶった人間もキャンディをたくさんくれたもの」
母「うん。そうね?」ニコリ
カロル「えへへ!ボクの宝物なんだ。いつも袋に入れてるよ?」ガサッ
母「そう」ニコニコ
カロル「でも、あの後…いろいろあったけど…たまたま、間違っちゃったんだよね?」
母「えぇ。あれは忘れてはいけない事だけど、残してもいけない間違いよ」
カロル「残してもいけない…?」
母「忘れてしまうと同じ間違いを犯すかもしれない。
だからといって心に残してしまうと、いずれ憎しみに囚われてしまうわ。
だから忘れてもいけないし、残してもいけないの」
カロル「お母さまがいつも教えてくれる事だね」
母「これも本当はあなたのお父さまが教えてくれた事なのよ?」
カロル「お父さまが?」
399:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/11(月) 15:56:04 ID:OSGANJ/Nfc
母「いつもあたしがやるせなくなると、この言葉をかけて励ましてくれたの」
カロル「ボクもお母さまの言葉に励まされてるよ!」
母「…よかった。あの人も喜んでると思う」ニコニコ
カロル「お父さま…。会ってみたいなぁ」
母「……」
カロル「ねぇ!もっと聞かせて。お父さまのお話!」
母「もちろんいいわよ?」ニコッ
母「そういえばこんなこともあったのよ?」
カロル「へー!」キラキラ
アハハハハ!!
エー!!? ウソダー!!?
…………
400:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/12(火) 20:42:23 ID:Kwo9hE/z3E
――夢――
???「大丈夫かい?」スッ
「平気よ、ありがとう。フィズス」パシッ
フィズス「ケガしてるじゃないか?」
「このぐらい、なんてことないわ?いつもの事だもの」
フィズス「またそんなこと言って…いい加減あきれるよ」
「あら?そんな風に言うけど、フィズスはいつだって助けてくれるじゃない?」
フィズス「当然だろ?同じ村の人間として放っておけないじゃないか?」
「ふふ。どうかしら?」クスクス
フィズス「なんだよ、それ?」ムッ
「べっつにー?」プイッ
フィズス「……なんなのさ」ムスッ
401:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/12(火) 20:45:18 ID:Kwo9hE/z3E
フィズス「で、今日は何があったの?」
「何かって?」
フィズス「とぼけないでよ。何かあったから、ケガしたんだろ?」
「…市場でお米を買ったら、相場より高い値段で買わされたの」
フィズス「……」
「おまけに量も減らしてあったから、文句言ってやっただけ」
フィズス「当たり前だよ。そんな事されたら誰だって文句言うさ」
「そしたら生意気だって言われて、あとはいつも通りよ?」
フィズス「…困った連中だな」グッ
「別にいいのよ。いつものことだもの」
フィズス「ダメだよ!お金はぼくが返すから、後であのおじさん達にも謝らせる!」
「気にしなくていいのに…。フィズスには関係ないでしょ?」
フィズス「関係あるよ!君はこの村の人間だ!
なのに君だけが不公平な扱いを受けるなんて間違ってる!」
「それって…村長の息子として?」
402:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/12(火) 20:47:31 ID:Ix/8/HR8zU
フィズス「どういう事だい?」
「…責任感であたし達を庇うなら、やめた方がいいわよ?
巻き込まれるかもしれないじゃない」
フィズス「なっ…!」
「あたしにはお父様がいるし、辛くないわ。だから無理しないで…」
フィズス「やめてよ」
「え?」
フィズス「そんな悲しいこと言うなよ」
「な、なによ…」
フィズス「君はいつも強がるけど、ほんとはとても寂しいんだろ?」
「冗談よしてよ。別に寂しくなんかないわ」
フィズス「ウソだ!」
「あなたに何が分かるのよ!?」
フィズス「分かるよ。ぼくは君の友達だ!」
「なによ、それ…」ムスッ
フィズス「村長の息子だから仲良くするんじゃない!
君が好きだから仲良くするんだ!もっとぼくを信じてよ!」
「………」カァァ
403:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/12(火) 20:50:01 ID:Kwo9hE/z3E
「………」
「…あ〜あ。買ったお米も踏みつけられて、夕飯には使えないわね。
お父様に怒られないといいけど!」
フィズス「あっ!なにごまかしてんだよ?」
「うるさい!話しかけないでよ!」
フィズス「なんで怒ってるの?」キョトン
「バカ!知らないわよ!」プンプン
フィズス「なんだよ、それ!?」
「帰るから付いてこないで!」プンスカ
フィズス「もう…なんなんだよ」
「ふん!」スタスタ
フィズス「あ、待って!」
「なに?まだ何か用!?」クルッ
フィズス「忘れ物だよ?」つ【袋】
「なによ、これ?」キョトン
フィズス「じゃあまたね。マリー!」タタタッ
マリー「ちょっと!待ちなさいよ!」
マリー「なんだって言うのよ…」ガサッ
マリー「……!」
マリー「…果物がたくさん入ってる…」
マリー「……バカ」ボソリ
…………
404:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 19:56:29 ID:OEv/Nma8qg
母「」パチッ
母「ふぁぁ…ぁ…」ノビ
母「(懐かしい夢だったわね…)」
母「昨日坊やに話してあげたからかしら?」ニコッ
カロル「」スヤスヤ
母「ふふ。起こすのも悪いわね?」ナデナデ
母「朝ごはんを探しに行かなきゃ」スクッ
母「……」
母「(あなた…。あなたに会いたい…)」ギュッ
母「……」
母「」スタスタ
カロル「」スヤスヤ
405:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 19:58:06 ID:RKYfkzbfdU
――村の外れ――
神父「」ガクガクブルブル
神父「い、いくら明朝と言えど早すぎる…」
神父「4時に経てなどと…司祭様は鬼だ!」
神父「暗いわ寒いわ、道のりが果てしない…」
神父「」ハッ
神父「い、いかんいかん!今のは無しだ!
こともあろうに司祭様への不平不満などバチが当たる!」
神父「と、言ってまぁ…誰も聞いてはいないわけだが」キョロキョロ
ガサッ
神父「」ビクゥ
子猫「にゃー」
神父「なんだ、猫か…。驚かせおって」
子猫「にゃ?」
神父「しっしっ!」ペイッ
子猫「にゃん!」タタタッ
神父「聖職者を驚かせようとは不埒な獣め!」
神父「くっ!なぜ私がこんな目に…」ブツクサ
406:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:02:23 ID:RKYfkzbfdU
――森――
神父「さて、この辺りか…。奴らがいる枯れ木というのは…」キョロキョロ
スースースヤスヤ
神父「ん…?」
カロル「」スースー
神父「ほう…」ポォォ
カロル「」スヤスヤ
神父「ハッ…。いかんいかん!見とれてしまった…。
しかし今まで数いるホビットを見てきたが、ハッとする美形だな…」
神父「堅物で通る宣教師をたぶらかす訳だ」
カロル「ぅん…」モゾモゾ
神父「それにしても窪みで寝ているが…。
薄着で寒くはないのか?不思議な種族だ…」
神父「話では母親もいたはずだが見当たらないな?
ともあれ、これは絶好の機会に他ならん…」キョロキョロ
神父「このホビットを捕らえて早々に教会で暖を取るとするか。
これから布教する為に荷物もまとめなければな」ダキッ
カロル「」スースー
神父「……軽いな。持ち運びが便利だ」グッ
カロル「ん…」モゾモゾ
神父「……!」ビクッ
カロル「うぅん…ぅん…」スースー
神父「ふぅ…。驚かせおって…」
神父「さっさと連れていくか…」スタスタ
カロル「」スヤスヤ
407:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:04:08 ID:RKYfkzbfdU
神父「(起きるなよ…?絶対に起きるなよ…?)」ドキドキ
カロル「ぅぅ…」モゾモゾ
神父「」ビクッ
カロル「」モゾモゾ
神父「ね、ねーんねんこーろりよ!おーころりよー!」アセアセ
カロル「」スヤスヤ
神父「ふぅ…」スタスタ
「おじさん」
神父「」ビクビクビクゥッ
カロル「」スースー
神父「ね、寝てる…よな?」
408:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:06:02 ID:RKYfkzbfdU
「こっちだよ」
神父「えっ」クルッ
「そっちじゃないよ。こっちだってば!」
神父「(こ、これはもしやホビットの魔術か…。脳に直接語りかけ、たぶらかそうと言うのかぁ!?)」
「ねぇ。聞いてる?」
神父「えぇいっ!神に仕える身をまやかそうなど片腹痛いわ!
なまんだぶなまんだぶ!はんにゃほけらむにゃむにゃそわか!」カァーッ!!
「クスクス…。なにしてんの、おじさん?」
神父「なっ何を貴様!寝たフリなぞ……」
カロル「」ジーッ
神父「しおっ……て…?」
カロル「だ、だれ…?」
神父「だ、誰って貴様が語りかけていたんじゃ…?」
「違うよ。こっちこっち。木を見上げてみて?」
神父「へ…?」
???「やっと気付いてくれた」ニコッ
神父「ほ、ホビット…?」
???「うん、そうだよ?」
カロル「え…」
409:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:08:18 ID:RKYfkzbfdU
???「はじめまして。僕はラム。おじさんは?」
神父「」ポカーン
ラム「おじさん?」
神父「あ、あぁ!き、貴様に名乗る名など無い!薄汚いホビットめ!」
ラム「あはは。ひどいや!その薄汚いホビットを抱えてるおじさんはなんなのさ?」
神父「黙れっ!」
ラム「」クスクス
カロル「……?」オロオロ
ラム「ほら、その子も怖がってるよ。離してあげたら?」
神父「ふざけるなっ!こいつは罪深き種族だ!
村の近くに住まわせておく訳にはいかん!」
カロル「」オロオロ
ラム「おじさん、教団の人間でしょ?」
神父「だからなんだっ!?」
ラム「だと思った。分かりやすい格好してるしね」
410:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:10:55 ID:RKYfkzbfdU
神父「貴様と話している暇はない!消えろっ!」
ラム「あれ。いいの?僕もホビットだよ?」
神父「い、今なら見逃してやると言ってるんだ!」
ラム「じゃあ僕を連れて行って、その子を見逃してあげてよ」
神父「バカバカしい!いいから消え失せろ!」
ラム「ふーん」
カロル「ボク…連れていかれるんですか?」オソルオソル
神父「あぁ、そうだ。おとなしくしていろ!」
カロル「ど、どうして?」アセアセ
神父「貴様に話す筋合いはない!」
カロル「お母さまはどこですか…?」
神父「知るか!」
カロル「離してください!ボク帰ります!」
神父「笑わせるな!貴様に帰る場所などないだろう!?」
カロル「いやだ…。行きたくない!」ジタバタ
神父「足掻くな!往生際の悪い奴め!」ガシッ
カロル「やめてください!」バッ
411:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:12:27 ID:OEv/Nma8qg
神父「き、貴様ぁ!ホビットの分際で逆らうとは…!」ビシッ
カロル「っ…!」
神父「おとなしくしておけば手荒なマネはしないぞ!」バッ
カロル「」ビクッ
ラム「……」ジーッ
神父「貴様、まだいたのか!」
カロル「……?」
ラム「ねぇ。助けてほしい?」
カロル「……!」
神父「なんだと!?」
ラム「どうなの?」
神父「黙れ!」
カロル「……」コクリ
ラム「そっか。じゃあ助けてあげるね」ピョンッ ストッ
412:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:13:52 ID:OEv/Nma8qg
神父「ば、バカな!助けるだと!子供に何が出来ると言うのだ!?」
カロル「」オロオロ
ラム「」タッタッ
神父「く、来るな。穢らわしい!」
ラム「怯えなくていいよ。何もしないから?」
神父「信用出来るか!それ以上近付けば…」
ラム「近付けばどうするの?」ニヤリ
神父「近付けば…こいつを殺す!」
カロル「」ビクッ
ラム「殺してどうするの?」
神父「なっ…!こ、殺してどうするだと?」
ラム「うん。どうするの?」
神父「こ、殺して…それから…埋める?」
ラム「どこに埋めるの?」
神父「え、えーと…ちょうど人気も無いし、この辺かなー」
カロル「」ブルブル
ラム「じゃあそうしたら?」
神父「えっ」
カロル「えっ」
413:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:16:09 ID:OEv/Nma8qg
ラム「ほら、早く」
神父「い、いや。早くと言われてもだな…。その…心の準備もあるし」アタフタ
カロル「」ビクビク
ラム「……」スッ
神父「お、お前もまだ死にたくないだろう?」アタフタ
カロル「は、はい…」ビクビク
ラム「」グッ
神父「そ、そういう事だから、殺すのはまた今度……」
ヒュッ ザクッ
神父「えっ」
グチュッ
ラム「」グリグリ
神父「……あぁぁぁあぁあぁぁ!!?」バタッ
カロル「いたっ…!」ドサッ
ラム「あはは」
神父「め、目が…目がぁぁぁぁぁ!!!」ゴロンゴロン
カロル「な、に…?」
ラム「木の枝を刺しただけだよ」クスクス
カロル「ひっ…」ギョッ
神父「あぁぁあぁあ!!いてぇ!!いてぇよぉぉおぁぁあぁ!!!」ゴロンゴロン
ラム「行こ?」ギュッ
カロル「え、でも…」
ラム「行くよ」グイッ
カロル「わっ…」アセアセ
タタタッ
イテェエェェェ!!イテェェェェヨォォ!!
414:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:09:35 ID:VGq6gHEdG.
ラム「あー疲れた!」
カロル「…」
ラム「ここまで来れば安心だね」
カロル「う、うん…。ありがとう」
ラム「どういたしまして」ニコニコ
カロル「……」
ラム「僕はラム。改めてよろしく」
カロル「ボクは…カロル」
ラム「カロルくんって言うんだ!」
カロル「うん…」
ラム「カロルくんはホビットなんでしょ?」
カロル「そ、そう…だよ」オドオド
ラム「僕もホビットなんだ。仲間に会えて嬉しいよ!」ニコッ
カロル「うん…」
ラム「どうしたの?」
カロル「さっきの人間…平気かな?」
ラム「平気な訳ないじゃん。目を刺されたんだから?」
カロル「……」
ラム「もしかして…心配なの?」マジマジ
カロル「」コクリ
ラム「ふーん。変わってるね?」
カロル「え…」ガーン
415:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:11:00 ID:VGq6gHEdG.
カロル「…ラムくんはこの森に住んでるの?」
ラム「違うよ。最近来たんだ。知り合いの人間を追いかけて」
カロル「人間と友達なの?」パァァ
ラム「えー!なにそれ?」クスクス
カロル「へ?」
ラム「君って面白いこと言うんだね?
ホビットが人間と馴れ合う訳ないじゃないか」
カロル「そ、そう…?」
ラム「そうだよ。あんな薄汚い連中、顔を見ただけで吐き気がする…」
カロル「で、でも!優しい人間もいるよ?」
ラム「えっ」
カロル「えっ」
416:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:12:14 ID:oXJpTUulPQ
ラム「……」ジーッ
カロル「?」キョトン
ラム「本気で言ってるの?」
カロル「う、うん…」ドキドキ
ラム「……バカみたい」ボソッ
カロル「え?」ドキッ
ラム「なんで人間を庇うのさ?」
カロル「だって…優しい人間もいるから…」シドロモドロ
ラム「だから何?」
カロル「だからって……」
ラム「あいつらが僕たちにしてきた事を考えてみなよ?」
カロル「……」
ラム「なに?いい子ぶってんの?」
カロル「ち、ちが……」
ラム「ふざけんなよ!!」
カロル「」ビクッ
417:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:17:01 ID:VGq6gHEdG.
ラム「お前も知ってるだろ!?
あいつらがどれだけ僕らを苦しめたか…!」
カロル「」ビクビク
ラム「知らないなんて言わせないぞ…!
僕は忘れない…。あいつらから受けた屈辱を…!」
カロル「……なにがあったの?」ビクビク
ラム「なにがあっただって?君も分かるだろ?
今まで生きてきて当たり前に自由があったかい?
ホビットってだけで蔑まれて、傷付けられて…縛られてきたんじゃないの?」
カロル「……」
ラム「人間に差別されたから、こんな寒くて不衛生な森の中に住んでるんじゃないの!?」
カロル「……」
ラム「黙るって事はそうなんだろ!?」
カロル「そう…だね…」
ラム「……ほら、やっぱりそうじゃないか」
418:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:20:48 ID:oXJpTUulPQ
カロル「たくさん傷付けられたよ…。
どこにも住ませてもらえなくて…。ご飯もまともに食べれなくて…。
ボクらに関係ない事もボクらのせいにされて、ぶたれたり、お家を燃やされたり、お母さまも…傷付けられた」
ラム「人間なんて…そんなもんだよ。弱い所を探って奪うのが好きなんだ」
カロル「それでも、ボクは人間を憎みたくない…。
傷付け合うのは違うと思う……」
ラム「キレイな言葉だね。でも抑えられる?」
カロル「うん。憎しみに傷付けられる痛みは知ってるし、お母さまと約束したもの」
ラム「じゃあさっき僕が君を助けなかったら?」
カロル「え?」
ラム「人間に拐われてお母さんにも会えなくなったら君は耐えられる?」
カロル「」ドキッ
ラム「今は悲しくても共有出来る人がいるからいいよ。
でも人間はそれすら奪うんだ」
カロル「そんな……」
419:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:25:44 ID:VGq6gHEdG.
ラム「君はいいよね。僕だって誰かに縋りたいよ。
守られたいし、優しく包まれながら眠りたい」
カロル「ラムくん…」
ラム「怖い。怖いんだ。夜になると。
あといくつの朝を見れるんだろうって。独りが怖くて眠れないんだ」ブルブル
ラム「気を失うまで星を眺めて、ようやく眠りに就くと悪い夢を見て…。
忘れたい過去が僕を蝕むんだよ…」ブルブル
カロル「……」ダキッ
ラム「」ビクッ
カロル「」ギュッ
ラム「なに…?」フルフル
カロル「震えてる…」
ラム「やめろよ。同情なんて…」プイッ
カロル「抱き締められると暖かいよ?
眠れない時、ボクはお母さまに抱き締めてもらうの」
ラム「……別に寒くて震えてるんじゃないよ」
カロル「知ってるよ?」ニコッ
ラム「……」
420:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:32:38 ID:VGq6gHEdG.
ラム「……」ブルブル
カロル「さっきは無神経なこと言ってごめん…。
責めたんじゃないんだ…」
ラム「うん…。なんとなく分かるよ。君は僕より恵まれてるんだろうね…。
心に余裕があるから、誰にでも優しくするんだろ…」
カロル「……うん。ボクにはお母さまがいて、友達もいて、幸せなんだ」
ラム「…全部、僕にはもう無いものだ…」
カロル「無いなら作ろうよ?」
ラム「……どうやって」
カロル「ボクじゃダメかな?」
ラム「……君は人間が好きなんだろ?」
カロル「うん。でも人間だから好きなんじゃないよ?
人間もホビットも同じ。そう思うだけ」
ラム「僕は…好きになれないな」
カロル「……じゃあ、ボクが教えてあげる!人間のいいところ!」
ラム「……」
カロル「ダメ?」
ラム「ダメだなんて…。でも君はいいの?
僕は…とても汚れてるよ?君が想像できないほどに…」
カロル「いいに決まってるじゃない。ボクはキミと友達になりたいもの」
ラム「ほんとに…?」
カロル「それに汚れてたって洗えばいいよ!洗い物は得意なんだ!」
ラム「プッ…なにそれ?」クスクス
カロル「変かな?」ニコニコ
ラム「変だよ!」
アハハハハ!
421:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:36:33 ID:VGq6gHEdG.
ラム「ははは…!こんなに心から笑えるのっていつぶりだろう?」クスクス
カロル「ダメだよ。普段から笑わなきゃ?」ニコニコ
ラム「……うん。君が言うならそうしてみるよ!」ギュゥゥ
カロル「ちょ、ちょっと…苦しい…かも」ムギュ
ラム「あ、ごめん…」パッ
カロル「あ、あはは…。気にしないで?」ニコッ
ラム「…ありがとね。おかげで震えも止まった」ニコッ
カロル「よかった!」ニコニコ
ラム「誰かに抱き締めてもらうなんて…本当に久しぶりだなー」グスッ
カロル「……」
ラム「あ、涙だ…。ふふ。おかしいね?
たったこれだけのことなのに…」
カロル「涙は悲しみも痛みも流してくれるんだって?」
ラム「なにそれ?」グズッ
カロル「友達に教えてもらったんだ!」
ラム「そうなんだ…?」クスクス
422:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:38:00 ID:oXJpTUulPQ
カロル「ボクと一緒に行こう?
ラムくんと友達になったって、お母さまに教えたい!」
ラム「いいの…?」
カロル「うん!」
ラム「……君って不思議だなー。
会ったばっかりなのに自然と信頼できる…」
カロル「そ、そうかなー?」テレテレ
ラム「うん。ふしぎ…」
カロル「えへへ…。なんか恥ずかしいや…」テレテレ
ラム「今日、君に出会えて良かった」
カロル「え?」
ラム「君となら変えられそうな気がするんだ。
イビツで腐りかけた、この世界を…」
カロル「う、うん…?」
ラム「ふふ。君のお母さんに会いに行こう?」
カロル「うん…?」
カロル「(世界を変える…。どういうことだろ…?)」
423:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 08:22:49 ID:KqTJbdQyF2
――森(枯れた大木)――
母「……坊や?」
母「どこに行ったのかしら…。こんな早い時間に…」
母「坊や?坊やー?」
ガサッ
母「きゃっ!」ビクッ
カロル「おはよう!」
母「ぼ、坊や?もう…。驚かさないで?」
カロル「ふふ。ごめんなさい」ニコニコ
母「…あら、えらくご機嫌ね」ジト
カロル「うん。ちょっとね…」ニコニコ
母「何があったか知らないけど、勝手に出掛けたりしたらダメでしょ?」
カロル「えへへ…。ごめんなさい」
母「……へらへらしながら謝らないの。行儀が悪いわよ?
こんな朝早くからどこに行ってたの?」
カロル「その前に…ちょっといい?」
母「?」キョトン
ガサッ
ラム「」ペコリ
母「……え?」
424:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 08:25:08 ID:NrNVsrSms6
カロル「紹介するね。友達のラムくんだよ!」
母「(え…?なに?どういうことなの?)」アセアセ
ラム「はじめまして」ペコリ
母「は、はじめまして」オロオロ
ラム「ラムって言います」
母「ど、どうも。礼儀正しいのね?」ニコッ
ラム「いえ、そんな…」テレッ
母「ご、ごめんなさい。ちょっといい?」
ラム「あ、はい…?」
母「坊や…」コショコショ
カロル「?」キョトン
母「……何があったの?ちゃんと説明してちょうだい!」コショコショ
カロル「えっと…起きたら人間に捕まってて…」
母「なんですって!?」ビックリ
カロル「けど平気だよ。助けてもらったんだ!」
母「平気ってあなた…」
カロル「ラムくんが助けてくれたの」
母「あの子が…?」チラッ
ラム「……」
425:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 08:41:09 ID:KqTJbdQyF2
カロル「それでね。ラムくんもホビットなんだ」コショコショ
母「そうみたいね…」コショコショ
カロル「お話したら知ってる人間を追って旅をしてるって言ってたんだけど…」
母「旅?あの子、親御さんはいないの?
しっかりしてるみたいだけど、まだ一人で旅なんてできる年齢じゃないでしょう?」
カロル「いないんだって…。そう言ってた…」
母「……!そう…そうなの…」
カロル「人間が嫌いなんだって。
だからボク、友達になって人間もホビットも仲良くなれるって教えてあげたいんだ」
母「そうね。坊やは人間と友達になれたものね。
あの子も…ふれ合う喜びを知った方がいいと思う…」
カロル「うん…。あ、それでね。お母さまにお願いが…」
426:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 08:43:05 ID:NrNVsrSms6
ラム「あの…」
母「あ、ごめんなさい。こっちで話し込んじゃって…」
ラム「いえ、大丈夫です…」
母「坊やを助けてくれたのよね。ありがとう?
お礼が遅くなってしまったけど、気を悪くしないでね?」ナデリ
ラム「……!い、いえ…」ポッ
母「? どうしたの?顔が赤いみたいだけど、熱があるんじゃ…」
ラム「…な、なんでもないです」プイッ
母「あ…。ひょっとして触られるのは嫌いだったかしら?」
ラム「そ、そんなこと…ないです!」
母「そう…?」
ラム「(母さんにも、よく撫でてもらったっけ…)」
427:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 08:45:40 ID:NrNVsrSms6
カロル「えと…お母さま」
母「坊やもちゃんとお礼言ったの?」
ラム「はい。助けた時に言われました」
母「そう。それならよかった」ニコリ
カロル「ねぇ。お母さま、お願いがあるんだけど…」
母「なに?」
カロル「向こうにケガをしてる人間がいるんだ。助けてあげたい…」
母「…人間が?」
カロル「お母さましか頼れないんだ。ダメかな?」ジーッ
母「……困ってる人を放っておく訳にはいかないわね」ニコリ
カロル「……!ありがとう!」パァァ
ラム「ちょ、ちょっと待ってよ!?」
カロル「どうしたの?」
ラム「もしかして…さっきの人間を助けるの?」
カロル「うん。あのままにしておけないもの」
ラム「それじゃ僕が君を助けた意味がないじゃないか!
あの人間は君を浚おうとしたんだよ!?」
カロル「そうだけど…」
428:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 08:51:45 ID:KqTJbdQyF2
母「…人間のケガはあなたが負わせたの?」
ラム「え?だって…相手は人間ですから…」
母「他にも解決する方法はあったんじゃないかしら…」
ラム「そんなの…どうやって…」
母「…話せば分かるかもしれないし、隙を見て逃げてもよかったと思うの」
ラム「…僕を責めてるんですか?」
母「あ、いえ…そんなつもりじゃないのよ…。ごめんなさい」
ラム「……」
カロル「えと、ボクは助かったし、感謝してるよ…?」
ラム「そういう問題じゃないよ…」
カロル「じゃあ…何がいけないの?」
ラム「…もしかしたらあの人間は君を拐って、別の人間に売ったかもしれない。
そうなったらどんな目に合っていたか分からないんだよ?」
カロル「でもそうはならなかったでしょ?」
ラム「君が言ってるのは結果だろ!?」
カロル「……」
ラム「君は人間に抵抗が無いかもしれないけど、僕は違う!
僕は…人間なんて助けたくない…!」
429:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 08:56:44 ID:KqTJbdQyF2
カロル「…そっか。じゃあボクとお母さまで行くからラムくんはここで待ってていいよ」
ラム「どうしても行くのかい?助けたって…また連れ去ろうとするかもしれないよ?」
カロル「心配ないよ。そしたら逃げるから。こう見えて足は早いんだ?」ニコッ
ラム「……」
母「ラムくん。あなたの気持ちはとてもよく分かるのよ」
ラム「……」
母「今まで辛い事も多かったと思うわ?
でもね、許す事も必要よ?
たとえ傷付けられた相手でも、傷付けてしまった相手でも、どちらかが許してあげないと傷は癒されないもの」
母「その傷は一生残したままになるかもしれない。」
ラム「……」
母「傷付け合う関係なんて、お互いに悲しいでしょう?」
ラム「…僕たちは傷付けたりしないのに、人間は僕たちを傷付けた…」
母「そうね…。それでも許す心を否定しないであげて?」
ラム「……」
母「ね?」ニコリ
ラム「分かりました…」
母「…ありがとう?」イイコイイコ
ラム「いえ…」
カロル「……」ニコッ
430:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 08:58:39 ID:KqTJbdQyF2
カロル「行ってくるね!」
ラム「うん…。待ってる」
母「心配しないでね。すぐに戻ってくるから…?」
ラム「は、はい…」ドキッ
カロル「こっちだよ、お母さま!」タタタッ
母「えぇ…!」タタタッ
ラム「……」
タタタッ・・・
ラム「…ふしぎだな。なんで…簡単に許せるんだろ」
ラム「……」
ラム「…許したって人間はつけあがるだけなのに…」
ラム「………」
431:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 17:32:58 ID:2f6ATVrpfk
神父「うっ…ぐぐぎぎ…!」コヒューコヒュー
神父「ぁ…がぁぁ…!」ギュッ
グッ ズブブ ギュポッ
神父「うぁぁぁ…!」ブシャァァ
神父「枝…抜け……た…いてぇ…。いてぇよぉぉ…」ジタバタ
神父「あぅぅぅ…!」ゴロンゴロン
神父「(なぜ…私がこんな目に…)」ゼーゼー
432:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 17:34:47 ID:Ou70Vp7aU.
タタタッ
カロル「はぁっ…。ふぅ…。い、いたよ!」
母「はぁっ…はぁっ…。この人…教団の人間ね」
神父「」ビクッ
カロル「…お母さま!」ジーッ
母「分かってる。教団の人間にも宣教師様のような優しい方もいるもの。区別したりしないわ?」
神父「(こ、子供の声…さっきのホビットか!?
まさかトドメを刺しに来たのか…!)」ビクビク
カロル「…うん。ボクらも宣教師様に助けてもらったから、少しでも恩返ししなくちゃ」
母「えぇ。まずはこの人を村まで運んであげましょう?」
カロル「そうだね!」
433:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 17:38:04 ID:2f6ATVrpfk
神父「うぅ…ぐぐ…」
母「これは…酷いケガね。本当にあの子が?」
カロル「うん…。おじさま。大丈夫ですか?」スッ
神父「ぐぁっ…!」ズキンッ
母「何をしてるの!むやみに傷の近くに触れたらダメよ!?」
カロル「ご、ごめんなさい」オロオロ
神父「ぐぬぬ…!」ズキズキ
母「大丈夫ですか?あたし達が村まで送りますから、もう少し辛抱なさってくださいね?」
神父「だ、黙れ!薄汚いホビットめ!
そうして目の前に甘言を滴らせ、私が蜜を舐めるのを待っているのだろう?」
母「落ち着いてください。大きなケガをなさっているのですから、興奮してはいけません」
神父「だ、だま…うぐぐ!」ズキズキ
母「ほら、だから言ったじゃありませんか?」
カロル「起き上がれますか…?」スッ
神父「うぅ…。え、ええいっ!触れるな、汚らわしい!」バシッ
カロル「っ……!」
神父「元はと言えば貴様の仲間がやった事だろうが!?」
カロル「ごめ…なさ…」ションボリ
神父「己の罪も自覚せずにのこのこやって来おって!」
カロル「」ウルッ
434:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 17:40:25 ID:Ou70Vp7aU.
母「待ってください。それはあなたにも言えるんじゃありませんか?」
神父「何をっ!貴様、ホビットの分際で…!」
母「元を正せば寝ている坊やを連れ去ろうとしたのはあなたよ?」
神父「はっ!笑わせるな!ホビットをどうしようが人間の自由だ!」
母「自由ですって?それならあたし達の自由はどうなるの!」
神父「貴様らは神に仇なし、我々人間から癒しの力を奪った罪深き種族だぞ!
なぜお前達に自由があると考える!?
その腐りきった性根こそが罪なのだ!」
母「あなた達の身勝手な理屈に従う謂れはありません!」
母「あたし達にはあなた達と心を開いて接する気持ちがあるわ!」
母「なぜ、そんな迷信を広めるの!?
あなた達のために苦しんでいるホビットが何人いると思っているのよ!?」
神父「や、やかましい!あたかも己が正しいように振る舞うな!
正しいのは我々……!ぐっ…!」ズキッ
母「はぁっ…。はぁっ…」
カロル「……」
435:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 17:43:12 ID:Ou70Vp7aU.
母「坊や…。やっぱり戻りましょう?」
カロル「ううん。ダメ」フルフル
母「この人は宣教師様とは違うわ…。助けても、あたし達への見方は変わらない」
カロル「いいんだ。見返りを望んだ訳じゃないもの。
嫌がってても、助けなきゃ。見捨てる方がよっぽど嫌われるよ?」
神父「うっ…くっ!」ズキズキ
母「……なんでそこまでして…人間と関わりたいの?
お友達も出来たし、十分願いは叶ったはずよ?」
カロル「人間だからじゃないよ。ホビットでも、獣でも、苦しんでいる命の痛みは同じだから…」
母「けれど前にも言ったはずよ?
人間とホビットはとても難しいって…」
カロル「うん。ボクなりに分かってるつもり。
でもね。ボクらまで人間を拒んじゃったら、分かり合える日は来ないと思うんだ」
母「……」
436:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 17:46:00 ID:Ou70Vp7aU.
カロル「誰かが水をあげないと花は枯れてしまうでしょ?
キレイなカリアムの花も萎れちゃったら色褪せるじゃない」
母「水をあげても…枯れる花は枯れるのよ?」
カロル「それなら枯れるまで水をあげようよ?
諦めて枯らせたら、花がかわいそうだもん」
母「……!」
母「……そうね。あなたのお父様もきっと…同じ事を言うわ。
あたしが信じてあげなきゃいけないわよね…」
カロル「えへへ…。今までのお花はみんなキレイに咲いたもの。
素敵な出会いがいっぱいあったから、こうやって言えるんだ」ニコッ
母「ごめんね。あたし…」
カロル「謝らないで。誰も悪くないでしょ?」ニコニコ
母「(…本当に優しい子…。まるでフィズスの生き写しのよう…)」ホロリ
神父「ケガ人の前でごちゃごちゃとよく喋る口だ。
そうやって言葉を紡ぎ、人間を欺くのであろうが…」ヨロヨロ
母「…起き上がって平気なのですか?」
神父「貴様らの助けなど借りぬ!どこへなりと消え失せろ!」ヨタヨタ
母「あ、そっちは木が……」
ゴンッ!
神父「」フラフラ
母「だから言ったのに…」
神父「遅いわ!!……いっ…!」ズキズキ
437:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 17:49:35 ID:2f6ATVrpfk
神父「ぐっ…!くそ…。今ので収まりかけた痛みが…!」ズキンズキン
カロル「」タッタッ
神父「ひっ!く、来るな!」ビクッ
カロル「怒鳴ると傷に障るよ?ボクらが案内するから村まで歩こう?」
神父「だ、だから…薄汚い種族の助けは借りんと…」
カロル「でも一人で帰れないでしょ?」
神父「やかましい!お前のような者に付いていくよりマシだ!」
カロル「無理しないで?こんなに血が出てる」スッ
神父「だからっ!触るなと何度言えば…!」
カロル「ご、ごめんなさい…」シュン
神父「たく…!不浄の手で触れおってからに。修道服が汚れ……」ハッ
神父「(痛みが…和らいでる?)」スリスリ
神父「っ…!や、やはり触ると痛いな…」ズキズキ
神父「(だが確実に和らいでいる。先ほどまでの刺すような激痛がこない…)」
―――――
カロル「うん…。おじさま。大丈夫ですか?」スッ
神父「ぐぁっ…!」ズキンッ
母「何をしてるの!むやみに傷の近くに触れたらダメよ!?」
カロル「ご、ごめんなさい」オロオロ
―――――
438:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 17:54:12 ID:Ou70Vp7aU.
神父「(そういえば、先ほど触れられた時も…。言葉を出せなかった程の激痛が和らいだ…)」ジロジロ
カロル「な、なに?」
神父「(これが癒しの…力、なのか?)」ジロジロ
カロル「ぼ、ボクの顔に…何か付いてるかな?」
神父「くっ…。片目ではよく見えんが…どうやら目に映る方法だった訳ではなさそうだな」
カロル「なにが?」キョトン
母「そういえば…目は大丈夫なのですか?
安静にした方がいいのでは…」
神父「……だいぶ和らいだ。貴様らが我々から奪った術でな」
カロル「すべ…?」
母「なんのことですか?」
神父「とぼけるな。奪った力をぬけぬけと披露しおって。
それで恩を売ったつもりか!?」
カロル「え…?」
母「はい?」
神父「しかし奪った力など、所詮は盗みの垢にまみれた代物だ。
使役し、他者に施したところで罪の清算になると思うなよ!」ビシィッ
カロル「う、うん…。そうだね。あはは」ヒクヒク
母「お、おほほ…」ヒクヒク
神父「待て!なぜわざとらしく愛想笑いする!?」
439:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 17:59:04 ID:Ou70Vp7aU.
カロル「だ、だって…ね?」チラッ
母「えぇ。よく分からない事をおっしゃるものだから…」
神父「しらばっくれるな!この子供が癒しの力を用いて私の傷を癒したのであろうが!?」
母「……あぁ。なるほど。宣教師様も勘違いしていたわね」
神父「宣教師だと!?ふん…。やはりたぶらかしたのはお前達か」
カロル「おじさまは宣教師さまを知ってるの!?」バッ
神父「知らいでか!?
私は教団の人間だぞ!そのうえ奴より位の高い神父だ!」ドヤァ
母「別に位は聞いてませんけど…」シラー
カロル「教えて!今宣教師さまはどこにいるの!?」
神父「くっくっく…!奴なら今は大聖堂にいる!
罪を犯し、牢に入れられているそうだ!」
カロル「え…?」
母「なんですって!?」
神父「聞いた話では司祭様に刃向かったらしいがな。
たしか教団のホビットに対する見方を変えるべきだなどと」
母「なんで…そんな事を……」
カロル「宣教師さま…ボクたちの為に…」
440:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 18:02:34 ID:Ou70Vp7aU.
神父「おそらく牢を出る事はないだろう。目を覚まさない限りはな」
カロル「じ、じゃあボク…起こしに行く!」
神父「その目を覚ますじゃないわ!」
カロル「なら…どうしたらいいの?」
神父「奴がお前たちとの悪しき関係を清算し、悔い改めた上で司祭様に謝罪すれば、司祭様も寛大なお心を以てして許されるだろう。
そうすれば以前のように教団員として教えを従事し、布教活動をまっとうできるはずだ」
カロル「それって…」
神父「つまりはお前たちを見捨てるという事だな」
カロル「ボクたちを…見捨てる?
もう友達ではいられないの…?」
母「……」
441:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 18:08:18 ID:U0P6p.FErc
神父「当たり前だ!そもそもお前たちと関わらなければ奴が堕ちる事もなかったんだぞ!?」
カロル「ボクの…せい?」
神父「そうだ!奴は若干20歳にして村一つを任された。位の低い宣教師としては異例の待遇だったんだぞ!
いずれは教団の幹部になるだろうと間違いなく期待されていた!」
神父「奴はこの先も栄光を約束されていたんだ!
それをお前たちが全て崩した!紛れもなく、お前たちのせいだろう!?」
神父「(まぁそのおかげで奴が失墜し、私が村を任された訳だがな…)」ニヤリ
カロル「……」
――回想(>>111-123)――
カロル「やめろ!やめろよ!?」
アッ イヤッ ギャハハハハ パンッパンッ
イヤァァァァァァ!!!
カロル「お願い…だよ…」
カロル「(ボクが…友達なんて欲しがったから……)」
――――
442:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 18:10:43 ID:swnM2r.2YI
カロル「」ブルブル
母「坊や…」ダキッ
カロル「お母さま…やっぱり、ボク……間違ってたのかな?」ブワッ
母「そんな事、ない…。坊やのせいじゃないのよ…?」ギュッ
神父「いいや!お前のせいだ!罪深き種族めが!」
カロル「……分からない。分からないよ。ボクは…ただ…」ポロポロ
神父「私は宣教師のように癒しの力などにほだされんぞ!
自らの罪を受け入れるがいい!」
母「……!」キッ
神父「」ビクッ
母「いい加減にしてちょうだい!
この子はあなたを助けたかっただけなのよ!?」
神父「ふ、ふん。笑わせるな!助けたかっただと?
お前たちは災いを招く忌まわしき種族だ。
真に人間を想うのなら、我々に近寄るな!」
カロル「近寄るな……?」ドクンッ
母「どうしたら分かってくれるの!?
なにがそうまでさせるのよ!?
この子の気持ちを…少しは考えてよ…!」
443:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 18:14:24 ID:swnM2r.2YI
神父「ホビットに配慮するバカがどこにいる!?
女々しく泣きおって!それで罪を受け入れたつもりか!?」
カロル「…ぅ…ぇぐ…」メソメソ
神父「はっきり言ってやろうか!?」
カロル「な…にを…?」
母「やめなさい!それ以上、坊やに淀んだ感情をぶつけないで!」
神父「お前たちはそんざ……」
「そこまでにしなよ?」
神父「」ビクッ
ガサッ
カロル「グスッ…。だれ?」
母「……?」
ラム「やあ、おじさん。また会ったね?」ニコッ
神父「お…ぉ…ぉまえは…!」ワナワナ
ラム「声が上擦ってるよ?」クスクス
神父「だ、だだ黙れぃ!!」
ラム「心配しなくても何もしないよ。今度はホント」
神父「く……!」ガクガク
神父「(信用できるか…!)」ギリッ
444:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 18:20:49 ID:swnM2r.2YI
カロル「ラムくん…。どうしてここに…?」
ラム「だってなかなか帰ってこないんだもん。
心配するに決まってるじゃないか?」
カロル「あ、その…ごめんね。すぐに戻るって言ったのに…」
ラム「ううん。気にしてないよ?
それより早く別の場所を見つけよう。
あそこはもうバレちゃったみたいだから」
カロル「え、けど…」
ラム「……分かっただろ?人間に期待するだけ無駄だって」
カロル「……」シュン
ラム「僕ね。少し前からそこにいたんだ。
ちょこっとだけ話も聞いてた。
だから…カロル君が辛いのも知ってるよ?」
カロル「……」
ラム「行こう?これ以上、君が辛い思いをすることはないんだから」
母「そうね。行きましょ?
幸いケガの具合も良くなったみたいだし」
カロル「……」
445:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/24(日) 18:22:32 ID:swnM2r.2YI
ラム「まだ…何かあるの?」キョトン
カロル「」チラッ
神父「ひぃっ!?な、なんだ!なんだ!?
また私に危害を加えようとでもいうのか!?」ビクビク
カロル「あの…。さっき言ってた…司祭様っていう人には、どうしたら会えますか?」
ラム「か、カロル君!?」ビックリ
母「何を言っているの…!?」
神父「し、司祭様に会うだとぉ?
そんな事、出来る訳が……」
神父「ん?」
神父「」ハッ
神父「(待てよ?そういえばもともとホビットを連れてくるように言われてたんだったな…。
あまりの事態に忘れるところだった…)」
カロル「会えない…ですか?」
神父「」ニヤリ
神父「いいや?会わせてやってもいいぞ…?」ニヤニヤ
446:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/2(土) 20:16:58 ID:aGBdsxic0Q
神父「司祭様に会いたいというなら会わせてやってもいいぞ?」ニヤニヤ
カロル「ホント!?」パァァ
ラム「ち、ちょっと!本気で言ってるの?」
神父「あぁ。本気だとも。司祭様に会わせ……」
ラム「お前になんか聞いてない!」
神父「な、何を!貴様!?」
ラム「ねぇ。カロル君、どうなの?」
カロル「…ボクだけで行くから二人はここで待ってて」
ラム「なっ…!」
母「ダメに決まってるじゃない!?」
ラム「」ビクッ
447:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/2(土) 20:18:27 ID:tKolNl3U7M
母「今まで坊やが望むなら…そう思って目を瞑ってきたけど」
カロル「……」
母「今度は認められない!
教団の本部に行けばあなたは一生陽の目を見られなくなる!
ささやかな幸せすら、失ってしまうのよ!?」
神父「き、貴様!人聞きの悪いことを言うな!?」
母「ならあなたはなぜ坊やを拐おうとしたの!?」
神父「そ、それは…」ゴニョゴニョ
母「あたし達に話せないような理由なんでしょう?
話せば坊やが考えを変えるかもしれないから、話せないんでしょう?」
神父「あ、いや…それはだな…」ゴニョゴニョ
母「この人間はあなたが司祭に会いたがる気持ちを利用してるだけよ!
何か企んでるに決まってるわ!」
カロル「……」
448:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/2(土) 20:20:58 ID:tKolNl3U7M
神父「そ、そんな事はないぞ。私はお前の熱い気持ちに打たれたのだ!」
ラム「信じちゃダメだよ。人間は平気で嘘をつく生き物だから」
神父「余計なことを言うな!」
母「お願いよ!考え直して…?」
カロル「……それでも、行かなきゃ」
神父「よーし、よく言った!」
ラム「なんでさ。君が行く必要なんてないだろ?」
カロル「ボクじゃなきゃダメなんだ」
ラム「……!?」
カロル「ボクがちゃんと話さなきゃ。宣教師さまは悪くないって…。
そうしないと宣教師さまが不幸になってしまうもの」
ラム「宣教師…?」
母「……!」
母「(まさか…宣教師様を…)」
449:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/2(土) 20:22:26 ID:aGBdsxic0Q
カロル「お母さま。おねがい。ボクに行かせて?」
母「ダメよ!行かせないわ!」
カロル「お母さま…」
母「…宣教師様は坊やの不幸を望まないはずよ…。
あなたを恨んだりしないわ?」
カロル「…だから助けないの?」
母「違う!そうじゃないの!」
カロル「宣教師さまは本気でボクたちを助けようとしてくれたよ…?」
母「分かってる!でも!…あたしのたった一人の家族なの!」
母「もう…失うのはたくさん!」
母「あたしには……あなたしかいないのよ…!」ウルッ
ラム「……」
カロル「……ごめんなさい。お母さま…」
母「なっ…なんで…なんで分かってくれないの?」
カロル「……」
母「あたしはただ、あなたが心配だから……」
450:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/2(土) 20:25:30 ID:aGBdsxic0Q
カロル「ねぇ。お母さま」
母「え…」
カロル「村で約束したこと、覚えてる…?」
母「っ…!」
カロル「ボクは覚えてる。お母さまとの大切な約束だから」
母「……」
カロル「たとえば相手が人間でも……」
母&カロル「友達なら最後まで信じなさい」
ラム「……!」
カロル「……えへへ。やっぱり…覚えてた?」
母「自分で言ったことだもの…。覚えてるに決まってるわ」
カロル「……」ニコッ
451:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/2(土) 20:27:35 ID:tKolNl3U7M
カロル「じゃあもうひとつ思い出してみて?」
母「…?」
カロル「宣教師さまが手を差し伸べてくれた時のこと」
母「それも、覚えてる……」
カロル「今まで…あんなことって、無かったでしょ…?」
母「……そう…ね」
カロル「…ボクが村でいじめられた時も、お母さまを傷付けられた時も、助けてくれたじゃない?」
母「……」
カロル「ルーボイくんとパッチくんだって。
宣教師さまがいなかったら…ホントの友達になれなかったと思う…」
母「(坊や……)」
カロル「みんな…みんな…。宣教師さまが…くれたんだよ?」グスンッ
母「……」
カロル「」グシグシ
母「分かったわ。あたしはもう何も言わない…」
カロル「…お母さま!」
母「けど、一人では行かせないからね?」
カロル「え…。でもそしたらお母さまが…」
母「これだけは譲らないわよ?」
452:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/2(土) 20:30:26 ID:tKolNl3U7M
カロル「ラムくんはどうするの?
お母さまがいないと…一人にしちゃう」
ラム「僕のことは気にしないで」
カロル「え?だって…」
ラム「カロルくん達とは、ここで別れるよ」
カロル「…そ、そんな…」
ラム「同じホビットでも君は何かが違うみたい。
はっきり言って、不愉快だ」
カロル「…!」
ラム「君とは会ったばっかりだし、その人間も知らないけどこれだけは言えるよ。
君は人間を間違った目で見てる」
カロル「そんなこと…ないもん」
ラム「人間は汚い。汚いんだ。
君はまだ、本当に奪われる怖さを知らないから…」
カロル「……」
ラム「……あんまりお母さんを困らせたらいけないよ?
後悔するようになってから、思い出してしまうから」
カロル「……」
母「……ラム君」
ラム「……?」
母「ごめんなさいね…」
ラム「いえ…。それじゃ…」
カロル「ら、ラムくん…!」
ラム「バイバイ。カロル君!」ニコッ
カロル「っ……」
ラム「」スタスタ
スタスタ………
453:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/2(土) 20:41:17 ID:tKolNl3U7M
神父「ふぅ…。ようやく行ったか」
神父「(あの小僧め。覚えてろよ。この目の恨みは忘れんからな…)」
カロル「行っちゃった…」
母「…あたし達も行きましょう。さ、案内してちょうだい」
神父「私に命令するな!!」
カロル「(ラムくん…)」
母「坊や。行きましょう?」
カロル「……」
母「出会いと別れは必然的に繋がっているものよ…」
母「これも、あなたの選んだこと。
坊やは無防備すぎるから、学ばなくちゃいけないわね」
カロル「……みんなで仲良くはなれないのかな?」
母「難しいわね。あたしは半ば諦めてるわ」
カロル「」シュン
母「……出来ない事っていっぱいあるの。
あたし達には何が出来るか、少しずつ知っていきましょう?」
カロル「はい…」
神父「いつまでくっちゃべってるつもりだ!?」
母「あら、ごめんなさい。
ほら、坊や。行きましょう?」
カロル「……」コクリ
454:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/3(日) 19:37:54 ID:Opd5Ib3YrA
――森の道――
神父「(これで手柄は頂いたも同然だ…)」スタスタ
神父「くっくっく…」
母「なにを笑ってらっしゃるの?」
神父「お、思い出し笑いだ。気にするな」
母「……ずいぶんいやらしいお顔でしたけど」ジト
神父「な、な、なな何を言うか!?」
母「」ジト
神父「じゃ、邪推するな!何もいやらしい事など考えとらんわ!」
母「どうかしらね?」
神父「わ、私が朝っぱらから、そんな妄想をするように見えるか!?」
母「見えますわ」キッパリ
神父「な、にゃ、にゃにをうっ!?」プンスカ
母「ま、艶話は一つも無さそうですが…」クスリ
神父「き、貴様!私を侮辱する気か!」
母「大聖堂はまだかしら…」
神父「話を反らすなぁぁ!!
こうなればもう許さん!聞かせてやるぞ!
とっておきのめくるめく恋バナをなぁ!!」
母「別にいいですよ。興味ありませんから」
神父「貴様が始めた話だろうがぁ!?」
455:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/3(日) 19:40:17 ID:8m3SaG5X5s
カロル「はぁ」
母「あら、どうしたの?溜め息なんて吐いて」
神父「き、貴様ら少しは興味を持たんかぁ!?
私が若い時はそりゃメイクラブしたものだ!」
カロル「……」ウジウジ
母「落ち込まないの。下ばかり向いてると幸福が逃げていくわよ?」ポンポン
カロル「はい…」ウジウジ
母「そうだわ。話を変えましょう?
坊やは人間の話を聞きたいんでしょう?」
カロル「うん…」ウジウジ
母「ちょうどいいじゃない?
せっかく人間といるのだから道中、お話を聞かせてもらったら?」
神父「勝手に決めるな!」
母「あら、いいじゃありませんか?
あたし達はあなた方の思惑に乗ってあげてるんですから」
神父「こ、この小僧とて司祭様に会いたがっているではないか?
利害は一致しているのだから、私が何かしてやる謂れはないぞ」
456:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/3(日) 19:42:59 ID:8m3SaG5X5s
カロル「……いいのかな?」
母「ね?そうなさい。少しは気も紛れるはずよ」
神父「無視か!?」
カロル「…いつまでも落ち込んでられないもんね」
母「そうよ?ラム君も落ち込ませるつもりは無かったはずだもの。
一人で傷付いていたら変に思われるわ?」
カロル「…そうだね!」
神父「くっ…。こいつら、もしかして私をナメとるな?」
母「ほら、声をかけてご覧なさい?」
カロル「う、うん!…えと……」モジモジ
神父「(全部聞こえとるっつぅに…)」ブツクサ
カロル「……」モジモジ
母「どうしたの?さっきまで普通にお話してたじゃない?」
カロル「な、なんだか…緊張しちゃって…」モジモジ
母「あぁ…。さっきは勢いで話せる状況だったものね」
母「(そういえば…坊やはまだまともに自分から人間と接した事がなかったわね…。
まぁ大聖堂に行ってしまえば嫌でも接する事になるのだろうけど…)」
457:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/3(日) 19:45:04 ID:Opd5Ib3YrA
母「大丈夫よ。あの人間は優しいから?ね?」
カロル「う、うん…」モジモジ
神父「("あのおじさんは優しいから"でこちらにプレッシャーを掛ける母親は全種族共通なのだな…)」
カロル「あ…あ…あの…お、おじさま…」ゴニョゴニョ
神父「なんだ?」ギロッ
カロル「」ビクッ
神父「……?」
カロル「」ブルブル
神父「さっさと言わんか!?」
カロル「っ…!」タッタッ
神父「ん?なぜ逃げる?」
カロル「」ポフッ
母「あらあら。どうしたの?突然甘えん坊になっちゃって?」ポンポン
カロル「」シクシク
神父「(なぜ泣く!?)」ギョギョッ
母「そう。怖かったの?」ポンポン
カロル「」コクコク
母「」キッ
神父「」ビクッ
458:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/3(日) 19:46:21 ID:Opd5Ib3YrA
母「」ジーッ
神父「(なんだ、その目は!?私のせいとでも言う気か!?)」
母「」ジーッ
神父「(くそっ…。無言の圧力をかけてきおって…)」
母「坊やー?もう大丈夫よー?
おじさまは今、ものすごく上機嫌だから?」ポンポン
カロル「グスッ。…ホント?」
母「ホントよー?だから、ね?」チラッ
神父「」ビクッ
カロル「……」チラッ
神父「え……」アタフタ
カロル「」ジーッ
神父「へ、へへ…?」ニンマリ
カロル「っ…!」ゾワッ
神父「へ、へへへ…へへ…」ヒクヒク
カロル「ひっ…ぅ……」シクシク
母「そう…。やっぱり怖かったのね?」ダキッ
神父「なぜだぁぁぁぁ!!!?」ブチッ
459:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/3(日) 19:47:47 ID:Opd5Ib3YrA
神父「いい加減にしろ!聞くなら聞く!聞かないなら聞かない!
貴様らホビットはその程度の分別も付けられんのか!?」
カロル「……ご、ごめんなさい」グシグシ
神父「(そのメンタルでよくさっきまでの罵声に耐えられたな…)」
母「最初は一番気になる事を聞いてみたら?」
カロル「えと、じゃあ…目が無くなって不便ですか?」
神父「」イラッ
母「坊や。そこは触れてはダメよ…」
カロル「あ、ご、ごめ…なさ……」
神父「不便に決まっとろうがぁぁ!!
ずっと痛いわ、方向感覚も掴めんわ、不便以外の何物でもないわ!!」
カロル「ひっ……」キュッ
母「怒ることないじゃないですか?
坊やはまだ人間との接し方がよく分かってないんですから」
神父「今のは人間だろうがホビットだろうが怒るわ!!
目を潰されたばかりの人間に不便ですかなんて聞く奴があるか!?」
母「そ、それはそうですけど…大人なのですから」
神父「っ…!ホビットごときに気遣いなどできるか!」
母「……」
カロル「あの…ごめんなさい」シュン
神父「……ふん!」
460:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/3(日) 19:50:20 ID:8m3SaG5X5s
カロル「あ、そうだ!なんでボクたちのいた所が分かったんですか?」
神父「む?あぁ…昨日村に行く道中で出くわした犬がしきりに構ってきてな。
そこでお前たちの書いた手紙を見つけたのだ」
カロル「マルクだ…」
母「渡す相手を間違えたのね…」
神父「あの犬は今頃、本部で…たっぷりかわいがられてるだろうな…。くくく!」
カロル「(マルク……。待っててね。)」グッ
――その頃(大聖堂)――
マルク「くぅん!」
シスター1「かわいいぃぃ!」ギュッ
シスター2「あっずるい!あたしにも抱かせてよ?」
シスター3「その次はあたしね?」
マルク「あぅん……」フリフリ
シスター1「お名前なんて言うんですかー?」ナデナデ
マルク「わんっ!」
シスター1「ワンちゃんっていうのね。かわいい!」スリスリ
シスター2「もー!早く代わってよ」
シスター1「ごめんごめん!」テヘペロ
シスター2「ワンちゃんおいでー!」
マルク「わんっ!」ポフッ
シスター2「いいこいいこ!」ナデナデ
シスター3「いいなぁ。しっぽ掴みたーい」
マルク「くーん!」フリフリ
―――――――
461:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/3(日) 19:53:45 ID:8m3SaG5X5s
神父「くっくっく。誤算だったな?
まさか別の人間が宣教師の修道服を着ているとは思わなかっただろう?」
カロル「え…おじさま、宣教師様の服を着てるの?」
母「そのご年齢で女装趣味ですか…」ドンビキ
神父「変な勘違いをするな!
奴が着ていたのは男性用の修道服だからと、司祭様が使い回させたのだ!」
母「そうなのですか?」
神父「あぁ。本来宣教師とは旅の中で出会った者に神の教えを授ける者。
信者から得た施しで生計を立てる上に位も低く、辛い役目だ」
神父「故に本来は男が任を請け負うのだが、奴は変わり者でな」
カロル「変わってる…?」
神父「本部で勉学に勤しみ、信仰を深めたにも関わらずシスターではなく、宣教師の道を選んだのだ」
神父「シスターになれば神父や司教に仕える事ができて、うまくいけば出世の足掛かりともなる。
それなのに『自分の目で世界を見て、より良い教えをまっとうしたい』などと言って宣教師になった」
神父「だから奴は男の修道服を着ていたのだ。
何もそこまで徹底する必要は無かったと思うが」
神父「変わってるな。どう考えても変わってる」ウーン
カロル「ふふ!」ニコリ
母「立派ねぇ…。どこかの神父さんと違って?」チラッ
神父「おい、誰の事だ!?」
母「さぁ。誰の事かしら?」
神父「くそっ…!」
カロル「宣教師さまのお話、もっと聞かせてください!」
神父「ん…?」
神父「(先ほどまでの怯えが嘘のようだな…。
まぁ少し話に付き合うだけでおとなしく付いてくるのなら御の字だが…)」
462:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/7(木) 08:06:09 ID:Ec3umLyQhs
――教会――
カロル「……大丈夫ですか?」スタスタ
神父「黙れ。何も言うな」ボロッ
カロル「……」シュン
母「…そっとしてあげなさい?」スタスタ
カロル「はい…」
神父「(木にぶつかるわ、足元がおぼつかんわ、前が見えない恐怖が続くわ…)」
神父「(片目とはこんなにも恐ろしいものか…。
一生付き合っていくとなると、辛いな…)」
神父「(それもこれも…。くそっ…!)」
母「……」
カロル「あれ?ここって…」
神父「大聖堂に行く前に持ってきた荷物をまとめねばならんのでな。
お前たちはここで待っていろ」
カロル「はい…」
母「……」
神父「」ガチャ
キィィ
神父「む?」
死体「」プーン
神父「うおっ!?」ビクビクビクゥ
カロル「」ビクッ
母「なにかしら?」
神父「な…な…な…なんだ…これは……?」ヘナヘナ
母「様子がおかしいわね?」
463:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/7(木) 08:07:21 ID:Ec3umLyQhs
神父「(こ、これは…まちがいなく…!)」ブルブル
オジサマー?
神父「(一体、誰が…?教会には誰もいなかったはずじゃ……)」
ドウシタンデスカー?
神父「(うっ…。それにしても…惨い有り様だ…)」ウプッ
タタタッ キャッ!?
神父「(とにかくここを離れなければ…ん?)」
イヤァァァァァア!!
神父「(そういえば…宣教師以外に教会を使っていたのは…?)」ブルブル
オカアサマ? ドウシタノ? アッ…!
ダメッ! ミテハダメヨ!!
神父「(手紙には……)」ブルブル
464:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/7(木) 08:09:40 ID:YGdwWja6oE
――手紙(>>382)――
きょうかいに かえったら だめです
せんきょうしさまも あぶないです
神父「(教会から遠ざけようとしたのは……これを、隠すため…?)」ブルブル
たびびとに おわれてます
神父「(ということはこの死体は……)」ブルブル
ぼくと おかあさまは もりの おおきな かれきの したに います
神父「(大きな枯れ木…人気の無い場所を…指定?)」ブルブル
まってます
ずっと まってます
神父「」ゾクッ
神父「(事実、あのラムとかいうホビットは…私の目を…奪った)」ブルブル
『おじさま。大丈夫ですか?』
『いい加減にしてちょうだい!
この子はあなたを助けたかっただけなのよ!?』
神父「(しかし、それならなぜ私を……?)」
『奴らは狡猾な種族。
奴らの言葉に信用を向ければ、たちまちの内に利用され、喰い物にされるだけじゃ』
神父「………」
465:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/9(土) 23:17:44 ID:1xCSy.MLpI
カロル「はっ…!はっ…!」ビクビク
母「(血の付いた石…砕かれた頭…。誰かが……でも、誰が…?)」ギュッ
カロル「」ビクビク
母「坊や。そのまま目を閉じてなさい?いいわね?」ナデナデ
カロル「う…うん…」ビクビク
母「神父さん…。平気ですか?」
神父「」ビクッ
母「早くここを離れましょう。ここにいたら危険ですわ…?」
神父「……」ブルブル
カロル「(錆びた臭いが…する。アレ…死んでるの?)」ビクビク
母「神父さん…?」スッ
神父「たし……るな」ブツブツ
母「へ…?」
神父「私に触るなぁ!!」
母「」ビクッ
カロル「(あの服…旅人にそっくりだった…)」ビクビク
466:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/9(土) 23:21:08 ID:1xCSy.MLpI
母「どうなさったんですか…?」
神父「ひっ」ズザザッ
母「神父さん…?」
神父「わ、分かってるな…?
私は教団の人間だ。手にかければ、もうただでは済まんぞ?」
母「まさか…疑ってるんですか?」
神父「い、今ならまだ間に合う!
己の罪をよく理解し、受け入れれば神もお前たちを赦してくださるだろう!」
母「誤解しないでください!あたし達は違います!」
神父「わ、分かっているとも!故意ではなかろうよ!
だが罪は罪だ!おとなしく……」
母「やめてください!!」
神父「……」
母「あたしと坊やは…一昨日から教会を発っています。
それはあなたも知ってるはずでしょう?」
神父「あ、あぁ…知ってるとも」
母「なら疑うようなまねはよしてください…。
あたしも坊やも…混乱してるんです」
神父「う、うむ…。すまなかった…」
母「いえ…とにかく行きましょう」
神父「そ、そうだな…」
神父「(そんなもの…殺した後に教会を離れたと考えれば、なんのアリバイにもならん…)」
神父「(だが刺激したらまずい…。ここは言う通りにしておくか)」
467:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/9(土) 23:29:27 ID:ddmBHiklZY
母「坊や…行くわよ?」
カロル「…はっ…はっ…」ブルブル
母「目は閉じたまま。さ、手を繋いで?」パシッ
カロル「」ギュッ
母「……」スタ
カロル「ま、待って…。お母さま」
母「なに?」
カロル「埋めてあげなくちゃ…そのままにしたら、かわいそう」
母「そ、それも…そうね」
神父「い、いや。このままでいい。下手に動かせば証拠を失いかねないからな」
カロル「はっ…はっ…。そっか」ブルブル
母「……もう大丈夫?」
カロル「あと…服…服が旅の人の服だった…」ブルブル
母「…!目を開けたらダメって…!」
カロル「開けてないよ…。目をつむる前に見えちゃったんだ…」
母「……(旅人…あの時の…?)」チラッ
死体「」
母「うっ…」クラッ
神父「知って…いるのか?」
母「は、はい…」
神父「では手紙に書いてあった旅人とは…」
母「お顔は判別が付きませんが、おそらく…」
神父「や、やはり…」
母「違いますからね?」
神父「…も、ももちろん…疑っておらんよ」ブルッ
468:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/9(土) 23:32:36 ID:1xCSy.MLpI
カロル「はっ…はっ…。
お母さま…。おじさま…。なにが起こってるの?」ブルブル
カロル「ボク…こわいよ」
母「心配しなくていいのよ…」ギュッ
神父「……(無関係を主張する為に演じているのか?
どこまでもずる賢い種族だ…)」
カロル「教えてよ…。不安なままじゃ苦しいよ…」
母「あたし達にも分からないの。今は離れるのが先よ?
お願いだから聞き分けてちょうだい?」
カロル「はっ…はい…」ブルッ
母「……」
神父「……」
死体「」プーン
469:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/9(土) 23:35:51 ID:1xCSy.MLpI
神父「」スタスタ
カロル「まだ…開けちゃダメ?」スタスタ
母「そうね、もう大丈夫よ?」スタスタ
神父「(はたしてこのホビット共を大聖堂に招き入れていいものか…)」チラッ
カロル「ねぇ…。旅の人、死んじゃったの…?」
母「…忘れなさい」
カロル「忘れられないよ。目を閉じてる時、浮かんできて、ずっと怖かった…」
母「…ごめんね。あたしが付いているのに辛い思いばかりさせて…」
カロル「……!」
母「…お母さん、頼りないよね…?」
カロル「そんなこと、ない…。
お母さまがいてくれるから、頼っちゃって…いつもわがまま言っちゃうけど…」
母「……」
カロル「もう、この話はしないから…。悲しまないで?」
母「気遣ってくれてありがとう…」
カロル「気遣ってなんかないよ。心から思ってるもの?」ニコリ
母「」ニコッ
神父「(今はうまく演じているが、いつ本性を表すとも限らん…。
さすがに自由に身動きのとれる状態で連れていくのはまずい…)」
470:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/9(土) 23:37:52 ID:1xCSy.MLpI
神父「な、なぁお前たち…」
母「なんです…?」
神父「村に寄っていいか?
もしかすれば村で何かしら手掛かりか掴めるかもしれない」
カロル「…!」
母「…そうですね。やはり通り過ぎてはいけない問題ですよね」
神父「い、いや…あ、あれだ。もし手掛かりを掴めればお前たちへのうた…ゲフンッゲフンッ!
…じゃなくて誤解が解けるかも分からんだろ?」
母「まだ疑ってらしたのね…?」ジト
神父「だ、断じて!断じて疑っておらんぞ!!」アタフタ
母「別に怒ってません…。襲ったりしないから、普通にしてください?」
神父「む…。り、了解した」
カロル「……」チラッ
母「…分かってるわよ。坊やも村へ行きたいんでしょう?」ニコッ
カロル「……!」パァァ
母「パッチ君とルーボイ君に会えるかは分からないけど、きっと二人も坊やを待ってるはずよ?」ニコニコ
カロル「えへへ…。約束したもんね?」ニッコリ
母「…坊や。耳を貸して?」
カロル「え?」キョトン
471:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/9(土) 23:39:41 ID:ddmBHiklZY
母「よく聞いて?」コショコショ
カロル「うん…?」
母「……大聖堂に行ったら二人にも、もう会えないかもしれない。それでもいいのね?」コショコショ
カロル「…知ってる」
母「…ほんとにいいの?大聖堂にはあたしが行って、坊やはここに残ってもいいのよ?」コショコショ
カロル「っ…!?」
母「ラム君と仲直りすれば、きっとあたしがいなくても生きていけるわ?
あの子はまだ子供だけど、生きていく知恵を持ってるから」コショコショ
カロル「ダメ!そんなのやだ!!」
母「え…」
神父「!?」ビクビクビクゥッ
カロル「お母さまと一緒にいられなくなるなんてやだよ!!」
母「ぼ、坊や…。声が大きいわ?」
カロル「友達を欲しがったのはボクだけど、お母さまがいないなら…いらない!!」
カロル「みんな大切だけど…お母さまとは違うもん!」
カロル「ボクが不幸になっても…お母さまが幸せならいいから…!」
母「……」
神父「」ドキドキ
472:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/9(土) 23:42:58 ID:ddmBHiklZY
母「坊や…。顔を上げて?」
カロル「……」スッ
母「あなたの気持ちはよく分かったわ?とても嬉しいの。
でもね。自分が不幸になってもいいなんて言葉を親に向けてはダメよ?」
カロル「……」シュン
母「親の役目は子供を幸せにすること。
子供の役目は幸せになること。
あなたが幸せじゃなくなったら、あたしは不幸になってしまうわ?」
カロル「でも…ボクはお母さまが…」
母「分かってる。坊やはあたしを思いやってくれてるものね?」
母「最近は人間と仲良くなって、短い間だけど経験を重ねてあなたは成長したわ?
あたしが不信感を持つと、諭してくれるほどに」
母「少しずつ親離れしてると思うと寂しいけれど、嬉しかった」
カロル「……」
母「……あたしもあなたが一番大事よ。坊や?
だけど、自分で望んだ繋がりをいらないなんて言わないで?」
母「"いらない"っていう言葉は、何よりも酷い言葉なの。
目の前にみんながいたら、坊やは同じように言える?」
カロル「……言えない。もしもボクが宣教師さまに言われたら傷付いてしまうもの」
母「…そうでしょ?どんなに心が乱れても、言ってはいけない言葉があるの。
一度の過ちですべて崩れ去ることもあるから」
カロル「はい…」ションボリ
母「本当にあたしの幸せを願ってくれるなら、曇りのないあなたでいて?」
カロル「お母さまが幸せになれるなら…がんばってみるね」ニコッ
母「えぇ。信じてるわね?」ニコニコ
神父「………」
神父「(疎外感が…)」ドキドキ
473:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/9(土) 23:47:30 ID:1xCSy.MLpI
神父「い、一体なんの話をしてたのだ?」
母「ふふ。なんでもありませんわ?」
カロル「おじさま。早く村に行こう?」
神父「……あ、あぁ?」
母「二人はまた広場で遊んでるかしら?」ニコニコ
カロル「そろそろ起きる時間だもんね?」ニコニコ
神父「くっ…!」ズキッ
カロル「あっ…。目が痛いの?」
神父「う、うむ…。今度は先ほど…よりも、辛いな…!」ズキズキ
母「傷は浅いですけど、箇所が箇所ですものね…。
枝から菌が入ってるといけませんし、早く村に行きましょう?」
神父「い、いや…それには及ばん…。小僧、先ほどのように癒しの力で…治してくれ」
カロル「へ?さ、さっきも話したけど、ボクは力なんて知らないよ…?」
神父「う、嘘を言うな…!一時的とはいえ、力無くして…痛みを抑えることなど出来るものか…!」
カロル「そ、そう言われても…」
母「…先ほどはどうやったら治まったんです?」
神父「ふ、触れた時だ…!
触れた時に、確かに痛みが和らいだ…!」
母「……」パシッ
神父「う、うぅぅ…」ズキズキ
母「どうです?痛みは和らぎましたか?」
神父「ぐむむ…。だ、ダメだ…!」ズキズキ
母「これで分かりましたか?ホビットに癒しの力なんてありません」
神父「そんな…バカな…!先ほどは確かに…!?」ズキズキ
母「きっと偶然ですよ。これ以上傷が開いてしまう前に行きましょう?」
神父「うぐぅ…!」ズキズキ
カロル「……」オロオロ
474:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/10(日) 17:49:04 ID:v12GvXB3vM
――村――
大人2の妻「あぁ…うぅ…」シクシク
ルーボイ「……ぐ…あぁ…!」
大人2の妻「いったい…どうなってるの…?」
大人2の妻「テパ君と出掛けて、帰って来ないかと思ったら…こんな大ケガして…!」
ルーボイ「……痛い…いはいよ。母ひゃん…」
大人2の妻「ごめんね…。村のみんなは倒れててお医者さんも呼べないのよ…」
ルーボイ「腕…熱ひんらよ…。なんほかひれよ…!」
大人2の妻「辛いよね…。ごめん…ごめんね…!」シクシク
ルーボイ「なんれらよ…。なんれらよぉ…!?」
大人2の妻「こんな時に…教団は何をしてるのよ…!
うちの息子がこんなに苦しんでるのに…。なにが救いよ…!なにが信仰よ!」
ルーボイ「うぅ…!」
大人2の妻「(みんな一晩中騒いだ挙げ句、朝になったら倒れてて…)」
バンッバンッ
大人2の妻「ひっ!」
バンッバンッ
大人2の妻「いい加減にしてよ!さっきからなんなの!?」
シーン
大人2の妻「(ああしておかしくなった人までいる…!)」
大人2の妻「昨日、なにがあったって言うのよぉ…。うぅ…」シクシク
ルーボイ「いへぇよぉ…!」グッタリ
475:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/10(日) 17:51:30 ID:3s89PAnmDA
――大聖堂(地下牢)――
宣教師「はぁ…」ズーン
ジョー「……」
宣教師「」ズーン
ジョー「……」イライラ
宣教師「ジョーさん…」
ジョー「無理だ」
宣教師「まだ何も言ってませんよ!?」
ジョー「どうせ出してくれって言うんだろう?」
宣教師「はい…」
ジョー「無理に決まってんだろう?
あんたを出せば俺はどうなる?
間違いなく厳罰を強いられるんだぞ?」
宣教師「出してくださらなくともよいのです!
鍵を置いて、少しの間よそ見していただければ…」
ジョー「ふざけるな!」
宣教師「どうしても…ダメですか?」ウルウル
ジョー「諦めろ」
宣教師「諦めたらそこで試合終了ですよ?」
ジョー「うるさい!!」
476:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/10(日) 17:53:56 ID:3s89PAnmDA
ジョー「そりゃあんたの気持ちは分かるぜ?
だからと言って俺がどうこう出来る問題じゃないんだ」
宣教師「分かってますけど…」
ジョー「ふぅ…。落ち込むのは分かるよ。けど他人の心配より自分の心配をしとけよ。
いつ司祭様が答えを出すかもわからないんだぞ?」
宣教師「…構いませんよ。司祭様が何をおっしゃっても…」プイッ
ジョー「なに言ってんだ!?
どんな状況でも、まずは自分だろ!」
宣教師「そう言いながらジョーさんは私の為に交代せず、ここにいてくれるじゃないですか…?」
ジョー「う、うるさい!交代しても暇だから付き合ってやってるだけだ!」カァァ
宣教師「ふふ…」ニコッ
ジョー「くっ!」タジタジ
宣教師「ジョーさんは優しいですね?」ニコニコ
ジョー「…ほっとけ!」
477:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/10(日) 17:57:36 ID:3s89PAnmDA
ジョー「それに心配しなくても、もうすぐ奴らに会えるさ」
宣教師「どういうことですか?」
ジョー「さっき聞いたんだよ。代わりの神父が昨日、村に行く途中でホビットの居場所が書かれた手紙を見つけたってな」
宣教師「手紙を…?」
ジョー「あぁ。その手紙はホビットが書いた物で、奴らの飼い犬が首に下げていたらしい」
宣教師「マルクくんですね!しかし、なぜ神父様が…」
ジョー「聞いた話だと神父はあんたの修道服を着てたんだとよ。
犬は匂いで勘違いして神父に手紙を託したそうだ」
宣教師「また使い回しですか…。ホントに司祭様は倹約家と言いますか、ケチと言いますか…」ブツブツ
ジョー「…やめろ。誰かに聞かれたらどうすんだ」
宣教師「う…すみません」
ジョー「ったく!それでだ。司祭様が神父に捕まえてくるよう言ったらしい」
宣教師「なんですって!?」
478:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/10(日) 17:59:58 ID:3s89PAnmDA
ジョー「あんたが足掻いたとこでどうにもならないんだよ。もう諦めたらどうだ?」
宣教師「困ります!そんな事…私が許しません!」
ジョー「はぁ…!?」
宣教師「あの親子は悪事など犯していません!
それなのに捕らえるなんて理不尽極まりない!」
ジョー「お、落ち着け!いいか?
ホビットは存在が罪だ。伝承にもあるだろ。人間に害を成した奴らだぞ?」
宣教師「そんなものは迷信です!」
ジョー「バカを言え!実際に奴らは人間よりも長く生きる。力を奪った証拠だ!」
宣教師「たとえ、そうだとしても…何千年も前の話でしょう!?」
ジョー「そりゃそうかもしれないけど…」
カツンカツン カツンカツン
ジョー「?」
付き人1「何事だ?」
ジョー「だ、ダガ様…!」
ダガ「やけに騒がしいな…。またこいつか?」ギロッ
宣教師「…私はこいつでは…!」キッ
ジョー「いえ、何事もなく!」
479:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/10(日) 18:02:19 ID:3s89PAnmDA
ジョー「地下だから響きやすいんでしょう。お騒がせして申し訳ない」
ダガ「はっ!どうだか…?
お前ら何か企んでんじゃないのか?」
ジョー「た、企んでなんかいませんよ!」
ダガ「その割りにゃ牢屋番を一人で買って出たらしいじゃないか?
トトの奴がぼやいてたぞ?ジョーが必死に頼むから譲ったが、おかげで雑用ばかりだってな」
ジョー「は、はぁ…」
ダガ「くれぐれもこいつをここから出すなよ?
もし逃がしでもすれば司祭様の判断を待たず、俺が制裁を下してやるよ?」
ジョー「」ブルッ
ダガ「」チラッ
宣教師「」ムスッ
ダガ「ちっ…。こんなガキのどこがいいんだか…?
司祭様も目が弱ったものだな」
宣教師「聞き捨てなりませんね」ムッ
ダガ「なんだぁ?」
宣教師「私はガキではありません」
ダガ「なんだと…?」
ジョー「お、おい!」アタフタ
480:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/10(日) 18:05:04 ID:v12GvXB3vM
ダガ「もう一度言ってみろよ?」
宣教師「何度でも言いますよ。私はガキではありません」
ダガ「ふ…。生意気な奴だぜ。俺から見ればまだまだ青いガキさ」
宣教師「…それはあなたが歳をとっているからでしょう。
世間的に見れば私は十分、大人です」
ダガ「減らず口を叩きやがって…」
宣教師「……」
ジョー「おい!やめとけ!これ以上なにも言うな!」
ダガ「目上の人間に対する礼儀もなってねぇときた…。
お前みたいな邪教徒を気に入る司祭様が分からんぜ」
宣教師「妬んでるのですか…?」クスリ
ダガ「あぁ?」ピクッ
ジョー「ば、ばか!やめとけって言ってるだろ!」
ダガ「」ギロッ
ジョー「え…」
ダガ「…黙ってろよ」
ジョー「す、すいません」ブルッ
481:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/10(日) 18:07:19 ID:v12GvXB3vM
ダガ「おい、今のはどういう意味だ?」
宣教師「司祭様の付き人と言えば聞こえはいいですが、実際は護衛でしかないですものね…。
人を従えられず発言力も無く、上に行く事も無いから先も望めない…」
宣教師「年老いて務められなくなれば書室の番にでも回され、書物の整理に余生を費やす事になるんじゃないですか?」
ダガ「……くっ」
宣教師「気に入られていたかは知りませんが、あなたの目から見て私は司祭様に期待されていたのでしょう。
司祭様が私ばかり目にかけるのを妬んでいたのでは?」
ダガ「……少しばかりお勉強が出来るだけで調子に乗るなよ?」
宣教師「そのようなつもりはありませんが?」
ダガ「司祭様はもうお前なんぞ見ちゃいねぇぞ…」
宣教師「……」
ダガ「ふふ…。そうだ…。なんなら俺が罰を提案しようか。
お前が最高に苦しむとっておきの罰をなぁ?」
宣教師「お好きなように。どれだけ罰を与えられようと、あなたにだけは屈しませんから」
482:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/10(日) 18:10:24 ID:v12GvXB3vM
ダガ「ふ…。楽しみにしてるんだな?」ニヤリ
宣教師「…あぁ。そういえば司祭様が以前、こんな事をおっしゃってました」
ダガ「?」
宣教師「私を本当の娘のように思ってくださっていると?」ニコッ
ダガ「……!」イラッ
宣教師「司祭様に愛していただけて私は幸せ者です」ニコニコ
ダガ「ふ…ふふ…。そうか。それなら後悔させてやるよ…。
司祭様に愛されたが為にお前は絶望を味わうんだ…」
宣教師「お手柔らかにお願いしますね。"おじさま"?」ニッコリ
ダガ「」ブチッ
ジョー「だ、ダガ様…?」
ダガ「……」ドンッ
ジョー「……!」ドテッ
宣教師「……」
483:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/10(日) 18:13:23 ID:3s89PAnmDA
カツンカツン
ジョー「ふぅ…。行ったか…!」
宣教師「……」
ジョー「なぁ。あんたなに考えてんだよ?」
宣教師「……」
ジョー「さっきのはまずいぜ…?」
宣教師「……」
ジョー「……」
宣教師「……」
ジョー「なんとか言えよ!?」
宣教師「」ビクッ
宣教師「お、大きな声を出さないでください!?
もう少しで鼓動が落ち着きそうなのですから!」
ジョー「はぁ?さっきまで普通だったじゃないか?」
宣教師「…あんな風に言われたら、誰だってムッとするじゃありませんか?」
ジョー「そりゃそうだけどさ…。あんたらしくなかったぜ?」
宣教師「あの方とは昔から犬猿の仲なんです。
今回のようにあからさまに衝突した事はなかったですけど…」
ジョー「へー…」
484:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/10(日) 18:14:34 ID:3s89PAnmDA
ジョー「にしてもなんであの人があんたに嫉妬するんだ?
そもそも役目が違うんだから、競う事もないだろう?」
宣教師「あの方も元は宣教師だったそうです。
まぁあまり布教に向いた人柄で無いとされて、任を降ろされたようですが…」
ジョー「司祭様に見限られた訳か。納得だな。
あんなガチムチに教えなんか受けたって入ってこねぇよ」
宣教師「まぁそれはそれとしてジョーさん。相談があるのですが…」
ジョー「不可能だ」
宣教師「まだなにも…!?」
ジョー「どうせまた出せって言うんだろ!
こっちはさっき脅されたばっかだぞ!?」
宣教師「そこをなんとか!」ウルウル
ジョー「ダメなもんはダメだ!おとなしくしてろ!」
宣教師「グスンッ…。そんなひどい…」メソメソ
ジョー「はぁ…。どうなるか知れねぇってのに気楽なもんだよ…」
485:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:17:12 ID:ddmBHiklZY
――村――
母「目は色メガネで隠したし、問題無さそうね。坊やは大丈夫?」
カロル「うん。頭巾を被ったから平気だよ」
神父「ぐ…うぅ…」
母「神父さんもちゃんと付いて来てくださいね」
神父「あ、あぁ…」
カロル「早くお医者さまに行かなきゃ!」
母「その為にもまずは村の人に話を聞かなきゃね。
お医者さんがどこにいるか分からない内は動きようがないわ?」
神父「わ、私も…まだこの村には司祭様のお供で数回来た程度で…よく知らん…。
と、とにかく…この痛みだけでも抑えなければ…!」ズキズキ
母「……」
母「(さっきまで本当にどうなっていたのかしら…。こんな深い傷…そうそう治りはしないはずなのに…)」
カロル「あ、村の人だよ!」
村の大人5「くく…うひひ…」
母「…様子がおかしいわね?」
神父「な、なんでもいい…!今は医者の場所を聞くのが先決だ!」
母「…そうですね。あたしが話を聞いてきます。
二人はここで待っていてください」
神父「う、うむ…」
カロル「おじさま。もう少しの辛抱だから、がんばってくださいね?」
神父「あぁ…」
486:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:20:16 ID:ddmBHiklZY
村の大人5「へへへ…」ニヤニヤ
母「あの…旅の者なんですが、お話よろしいですか?」
村の大人5「あは…?」ニヤニヤ
母「…この村にお医者様はいますでしょうか?
道中で会った教団の方がケガをなさってまして…」
村の大人5「教団?」ピクッ
母「あ、はい」
村の大人5「ひ…!お、おらぁなんも知らねぇよ!」
母「この村の方ですよね。知らないんですか?」
村の大人5「ひっ!ひえー!」ダッ
母「あっ…」
母「なに…?なにかまずい事言ったかしら?」
神父「ど、どうしたのだ?」
カロル「逃げてたね…。お母さまは人間のカッコをしてるのに…」
神父「くっ…!見破られたんじゃないのか?
こっちは激痛を堪えとるというに…」
カロル「……」
母「なんだったのかしら?突然逃げてしまわれたけど」スタスタ
神父「お、おい!お前あの村人になんと言ったんだ?」
母「普通に接しましたよ?
教団の方がケガをなさってるからお医者様の所へ案内してほしいと」
神父「それであんな怯え惑う訳があるまい!?
バレたんじゃないのか!?」
母「そう言われても…。特別気付かれた様子でもありませんでしたよ?」
神父「くっ!と、とにかくここにいても何にもならん。他の人間に聞きに行くぞ!」
母「はぁ…」
487:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:23:58 ID:1xCSy.MLpI
ヒエー! ウワー!
神父「な、なんだなんだ?さっきから私たちを見た村人が逃げていくぞ?」
母「おかしいですわね…。前に来た時と様子も違いますし…」
カロル「それに変な匂いがするね?」
神父「なんだと言うのだ…。まったく」ベチャッ
神父「ん?べちゃ?」チラッ
母「」ギョギョッ
カロル「あ……」
神父「わわわっ!な、な、なんじゃこりゃぁ!?
なぜ道端に吐瀉物がぶちまけられとるのだぁ!?」アタフタ
母「ひっ!こ、こっちに来ないでください!」
神父「くそ…。驚きのあまり痛みが和らいだが、今度は精神的な激痛が…!」
カロル「見て。あちこちに同じのがあるよ?」
神父「な、なにぃ?この村にはゲロをぶちまける催しでもあるのか?」
母「そんな催しはどこに行ったってないですよ…」
カロル「…逃げた人たちも具合が悪そうだった。
病が風に乗ってきたのかもしれないね」
神父「流行り病に悩まされとると言うのか?
それならばなおの事、我々に頼る筈だ。
教団の人間は医学に精通しとる者も多いからな」
488:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:27:19 ID:ddmBHiklZY
母「あら。それなら自分で傷を看られないのですか?」
神父「同じ教団の人間でも私は文学専門だ」
カロル「ねぇ。おじさま。それならなんで大聖堂に行かないで村に寄ったんですか?
大聖堂に行けば手当ても受けられるし、村よりいいお医者さまもいるんでしょ?」
神父「え…あ…。ま、まぁあれだ。
死体の件についてはどのみち報告せねばならんし、先に調べておいて損はないだろう」
カロル「…おじさまってやっぱりいい人間だね?」ニコッ
神父「はぁ?」
カロル「自分のケガより誰かを優先してるもの?
ボク、ちょっとだけ尊敬しちゃうな」
神父「う…ほ、ホビットの分際で知ったような口を聞くな!」カァァ
母「どうかしらね。もしかしたら村の人に協力してもらって拘束しようとでも考えてるかもしれないわよ?
あたし達を自由な状態で連れていくのはまずいでしょうから」
神父「」ドキッ
カロル「そんなことないよ。ボクたちは何もしないもん」
母「そうね。何もしてないのに…いつも…」
神父「ま、まままぁあれだな!とりあえず痛みも和らいだし、死体について聞いていくとするか!」ドキドキ
カロル「はーい!」
489:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:30:23 ID:1xCSy.MLpI
母「…そうは言っても話を聞けそうな状態にありませんしねぇ…」
神父「それもそうだな。しかし一体何に怯えているやら…」
カロル「広場に行ってみようよ。ルーボイくん達がいたら、話を聞いてくれると思う」
母「そうね。今はそれしか無さそうね」
神父「さっきから誰だ?そのルーボイとかパッチとか言うのは?」
母「村の子供です。坊やとお友達でして」
神父「な、なにぃ!貴様ら村の人間までたぶらかしたのか!」
母「たぶらかしてなんかいません。お友達になっただけですわ?」
神父「同じことだ!いいか。お前達は災いを招く種族だ!
むやみやたらと人間に近付こうとするな!」
カロル「……」
母「勝手に悲劇を産むのはあなた方じゃありませんか…。
あたし達は何もしていません」
神父「な、なにをっ!?」
母「」プイッ
神父「……ちっ!忌まわしき種族めが!」
カロル「行こっか。今はこんな事してる場合じゃないよ」ニコッ
神父「……」
490:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:33:14 ID:1xCSy.MLpI
――村(広場)――
神父「うっ…。匂いが強くなったな…」
母「えぇ。まるで油のような…」
カロル「……」
神父「だが不思議だ。気持ちの悪い匂いなのになぜだか心地よい…」
カロル「誰かいるよ?」
神父「む?そうだな…。痛みも無くなってきたし、私が声をかけよう」
村娘1「……」
神父「あぁ…っと、そこな娘さん?ちょっと伺いたいのだが…」
村娘1「」フラフラ
神父「む?ど、どうした?ふらついてるが大丈夫かね?」
村娘1「」バタッ
神父「なっ!お、おい!」ビクッ
母「大丈夫ですか!?」
カロル「おねえさん、どうしたの!?」
村娘1「」ブクブク
神父「あ、泡を吹いとる…。やはりおかしいぞ。
この村にも何かあったのかもしれん!」
母「あの旅人と関係があるのかしら…」
「おーい!あんたら何してんの?」
カロル「?」クルリ
491:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:34:44 ID:ddmBHiklZY
テパ「よそ者かい?」
神父「おぉ!この村の人間か!君はまともなようだな?」
テパ「なに言ってんですか。みんなまともですよ!ねぇみんな?」
神父「…?」
カロル「お兄さん。そっちには誰もいないですよ?」
テパ「えー!えー!なに言ってんの?見えないの?
いるじゃん?ほら、みんないるよ?ねぇみんな!?」
母「し、神父さん…もしかして…?」
神父「あ、あぁ。こいつもおかしいな…」
テパ「ってかさ。あんたらよそ者?旅の人?
くれよ、アレ!最高にバッチリさ!」
カロル「お兄さん。なに言ってるの?」キョトン
神父「お、おい…。大丈夫か?」
テパ「なんでだよ!?出せよ!?」
カロル「」ビクッ
492:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:36:49 ID:ddmBHiklZY
神父「ま、待て。君の言ってる事はめちゃくちゃだぞ?
筋道立てて順序よく話してくれないか?」
テパ「いいから出せよ!知ってんだぞ!」
母「知ってるって何をですの?」
テパ「よそ者は気持ちいい葉巻を持ってんだ!ベリーだ!ベリー!」
母「葉巻?ベリー?」
テパ「気持ちいいのさ!イクぜっ!うぉぉ!」ピョンッ
カロル「お母さま…。なんだか怖い…」ブルブル
母「……坊やはあたしの後ろにいなさい」
神父「葉巻…ベリー…。ま、まさかこいつ…!」
母「何か知ってるんですか?」
神父「こいつが言ってるのはおそらく…タイマの事だ」
母「タイマって…まさか?」
神父「あぁ。違法とされる薬物の一種だ。
しかしなぜ村の人間がタイマを…。こんな田舎では入手は困難なはずだ…」
493:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:40:25 ID:ddmBHiklZY
カロル「よそ者って言ってたから…あの旅人が渡したのかも」
神父「な、なに?ではやはり…!」
神父「(私の思った通り、罪を犯して逃げ回る危険な旅人だったか…)」
テパ「そうだよ!ワルドさんがくれた!
もっと欲しい!でもワルドさんがいない!ワイルドだろ〜?」ジタバタ
母「村の人の様子がおかしかったのも、変な匂いも…それなら納得がいくわね」
神父「道理で痛みが和らいだ訳だ…。異国では鎮痛剤代わりに重宝されるような代物だからな」
カロル「でも他の人間はこんなに変じゃなかったよ?」
神父「過剰に煙を吸ったのだろう…。その証拠に目が真っ赤だ…」
テパ「」ガバッ
神父「うおっ!?」ビクッ
テパ「ヨコセ!ハマキヨコセ!」ググッ
494:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:43:22 ID:ddmBHiklZY
神父「は、離せ!私はタイマなど持っておらん!」ジタバタ
テパ「ヨコセ!!」ユサユサ
神父「いっ…!」ズキッ
カロル「やめて!おじさまはケガをしてるんだ!」アセアセ
テパ「ウルサイ!ヨコセ!」ガッ
神父「(す、すごい力だ…!)」ググッ
母「やめなさい!」ガッ
テパ「あぁぁだぁぁぁ!!」ユサユサ
神父「ひぃっ」グラグラッ
母「は、離れないわね…!」ググッ
テパ「ヨコセ!」
カロル「あ…あっちにタイマがあるよ!?」ビシィッ
テパ「ドコだ!?」バッ
神父「っ…!(た、助かった…)」ホッ
カロル「ほ、ほら!ボクが指差してる方!ずっと向こうだよ!」アセアセ
テパ「アッタァァァァァ!!」ダダダダッ
カロル「」ドキドキ
ダダダダッ
495:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:45:52 ID:ddmBHiklZY
母「行ったわね…?」
カロル「ふぅ…。怖かった」
神父「お、恐ろしいな…。噂以上の効き目だ…」
母「助けてもらったんですから、安心する前にお礼くらい言ったらどうです?」
神父「なにぃ?」
カロル「い、いいよ。お母さま。
おじさまも気にしないでね?」オロオロ
母「坊やは謙虚でいい子ね?どこかの神父様と違って」
カロル「そ、そんなことないってば」アセアセ
神父「ふん!」ムスッ
カロル「あ、あはは…」
496:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:48:29 ID:1xCSy.MLpI
村娘1「う、うぅ…」ムクリ
神父「む?あぁ。娘さん。気が付きなさったか?」
村娘1「す、すみません…。お見苦しいところを…」
神父「なんと…!意識があったのかね?」
村娘1「えぇ…。朦朧とはしてますが、なんとか…」
母「一体なにがあったんですか?」
村娘1「実は一昨日に村の人間が二人殺されまして…」
神父「なに!こ、ここでも殺人があったのか…!」
村娘1「はい、それで昨日の朝…犯人が分かったと村長の家でお世話になっていた旅人がみんなを集めたんです…」
母「旅人が?」
村娘1「はい。なんでも二人の死体を発見したのもその方だそうで…。
それで集まったみんなに犯人はホビットと…」
母「なっ!じ、冗談じゃないわ!なぜあたし達が疑われるの!?」
村娘1「へ?」
カロル「お、お母さま!」アワアワ
母「あ、いえ…。なんでもありませんのよ?」アセアセ
神父「……」シラー
497:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:52:00 ID:1xCSy.MLpI
村娘1「それで…話している内に一騒動ありまして…。
その時に旅人が私たちに葉巻を配って…勧め…たんです」
村娘1「うぅ…!頭が…!」ズキズキ
カロル「だ、大丈夫ですか?」
村娘1「と、とにかく…村長に聞いてみてください!
私も…詳しい事情は知りませんので…」
神父「村長はどこにいるのだね?」
村娘1「市場を抜けて…左手の道をまっすぐ歩けば大きな家があります…。村長はそこにいる筈です…」
神父「あい分かった!
話を聞き次第、本部に戻って手勢を集めてすぐに手当てするからな。気を確かに持つのだぞ?」
村娘1「…私達は裁かれませんか?」
神父「違法と知らずに旅の者にそそのかされたのであろう?
安心したまえ。娘さん達に罪など無い。私が司祭様にしっかりと報告しておくよ」
村娘1「よかった…。それなら村長達は何に怯えていたのかしら…」
498:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 02:56:43 ID:ddmBHiklZY
カロル「ねぇ。あれはなんだろう?」
肉塊「」
神父「む?なんだ、あれは…肉か?」
母「なんでしょうね…。お嬢さんはご存知ないんですか?」
村娘1「え?さぁ…?なにかしら…?
私は葉巻を吸わされてすぐに意識を無くしたから…」
カロル「……」
神父「安静にしていなさい。あとは私に任せてくれればよい」
村娘1「はい…。ありがとうございます」ペコリ
母「……神父さんに任せても、あんまりいい予感はしないわね」
神父「黙れっ!」プンスカ
カロル「(なんだろう…。あのお肉みたいなの。旅人の死体を見た時と似た感覚がする…)」
肉塊「」
499:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 17:25:50 ID:DqwtwHeU8E
――村(村長の家)――
カロル「わぁ…!」
神父「なかなか大きな家だな。他の民家とは大違いだ」
母「……立派ねぇ」
神父「とは言え、以前私が布教を行った町では、このくらいの規模が当たり前だったがな」
母「贅沢ですわね。あたし達は住む所にも困っているのに…」
神父「む…。まあ当然の罰だな」
母「怒りますよ?」
神父「ふ!」ニヤリ
母「」イラッ
カロル「……ケンカしちゃダメだよ?
二人とも仲良くしなくちゃ?」
神父「ホビットなどと仲良く出来るか!?」
母「こっちからも願い下げよ!」
カロル「もう…。じゃあボクがノックするよ?」
神父「? 勝手にしろ。ノックなど一々確認するやつがあるか」
カロル「えへへ…。実は初めてだから、やってみたかったんです!」テレテレ
母「誰かの家を訪ねる機会なんて無かったものねぇ…」
神父「とことん変わった種族だな。たかだかノックごときで…」
500:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 17:28:23 ID:qvo.LPcHN.
カロル「」ドキドキ
母「坊や!頑張って!」
カロル「」モジモジ
神父「さっさとせんか!」
カロル「う、うん…!」ソーッ
ガチャッ
カロル「」ビクッ ズザザ
村長の妻「何事ですか?騒がしいですけど、お客人?」
カロル「」ガーン
村長の妻「ん?」
カロル「」ションボリ
母「あ、えぇ。旅の者でして…。おほほ…」
神父「私は教団に仕える神父だ。明日からこの村の布教を担当するのでよろしく頼みますぞ」
村長の妻「」ビクッ
母「?」
村長の妻「き、教団の方ですか…。なるほど…どうぞ上がってください」
神父「うむ」スタスタ
母「(一瞬怯えていたけど、なんなのかしら…)」
カロル「ノック…したかった……」ショボショボ
母「ま、また今度出来るわよ!ね?」
カロル「……」ショボショボ
神父「どうした?入らんのか?」
母「さ、あたし達も上がりましょ?」
カロル「はい…」スタスタ
501:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 17:30:58 ID:qvo.LPcHN.
村長の妻「出来合いの物しかありませんが…」コトン
神父「いえいえ、突然お邪魔してご相伴に預かってしまい、すみませんな」
村長の妻「おほほ。とんでもございませんわ?」
カロル「お母さま。これなぁに?」
母「これはクラクネスよ。坊やがよく遊んでた川にもいたでしょ?」
神父「む?」
カロル「えぇ!ウソだ?だってこれお魚の形してないよ?
頭と体が離れてるし、ぷにぷにしたお肉が短冊みたいになってる!」
母「坊やがいつも食べてたのは焼いた魚なの。
これはお刺身と言って生のお魚を捌いた物なのよ」
神父「お、おい…」
カロル「へー!だから黒くないんだね?
お母さまが作るのは炭みたいなのに。これはテカテカしてる!」
母「そうよ?焼いた魚はすべからず黒くなってしまうけど、お刺身は…」
神父「おい!作ってくださった方の前でべちゃくちゃ出された物の話をするな!行儀がなっとらんぞ!?」
カロル「え…ぁ…ごめ…なさい」シュン
母「すみません…」シュン
村長の妻「クスクス…。構いませんのよ?
クラクネスのお刺身でこんなに喜んでくれるお客さんは初めてですもの?」
カロル「あ、あはは…。は、恥ずかしいや…」
502:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 17:33:49 ID:DqwtwHeU8E
村長の妻「私には子供がいませんから、坊やのようなかわいらしいお客さんは微笑ましいですわ?」
カロル「えへへ…」テレテレ
母「ありがとうございます。そう言っていただけると母親としても嬉しいです」ニコリ
村長の妻「うふふ…。ところで屋内ですから頭巾と色メガネは外していいんですよ?
置き場を気になさってるのなら預かっておきますが?」
カロル「」ビクッ
母「あ、その…こ、これは…」シドロモドロ
神父「あ、あぁ…!い、いいのだよ、奥さん。
これは彼女らの故郷の風習なのだ!」
村長の妻「そうなんですか?ならいいですけど…」
カロル&母「」ホッ
503:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 17:35:32 ID:qvo.LPcHN.
カロル「」パクパク
神父「と、ところで村長はどうしたのですかな?
出来ればご挨拶しておきたいのだが…」
村長の妻「……。主人は今、外出してまして家におりませんの」
神父「外出と言うと、どこかへ行かれたのかな?」
村長の妻「さ、さぁ…。私は何も聞いてませんので…」ツツー
母「」ピクッ
カロル「」モグモグ
神父「そうか…。それは弱りましたな…」
村長の妻「申し訳ありません…」
神父「いやいや、奥さんが謝ることはない。突然押し掛けた我々が悪いのだ」
村長の妻「……」ツツー
母「奥様…失礼ですが、なにか隠してませんか?」
村長の妻「えっ」
504:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 17:37:10 ID:qvo.LPcHN.
神父「なっ!お前なにを…!?」
母「さっきから目が泳いでますもの」
村長の妻「そ、んなこと…」
母「それに神父さんが教団の人間と名乗った時に怯えたご様子でしたわ…?
もしかすると何か後ろ暗い事でも…?」
村長の妻「っ…!」
神父「おい、失礼だぞ!」
母「えぇ。ですからちゃんと失礼ですがと断りを入れましたよ?」
神父「屁理屈を言うな!」
カロル「」ウマウマ
カロル「(こんなにおいしいお魚、初めて食べた…)」
505:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 17:38:56 ID:qvo.LPcHN.
母「どうなんです?」
村長の妻「そ、それは…」
カロル「お母さま。お母さま。食べないの?すごくおいしいよ?」グイッ
母「あら。気に入ったの?ならお母さんの分も食べていいわよ?」
カロル「やったー!」パァァ
神父「おい、小僧。空気を読め」
カロル「へ…?」キョトン
神父「はぁ…。もういい。私の分もやるから静かにしていろ」
カロル「いいんですか?やったー!」ニコニコ
村長の妻「なんならおかわりも作りましょうか?」
カロル「え…でも…」チラッ
村長の妻「いいのよ。子供が遠慮なんてしてはいけないわ?」
カロル「じ、じゃあ…お願いします!」
村長の妻「うふふ。それじゃ私は洗い場に…」
母「おかわりを作ってくださるのはありがたいですけど、話を流そうとしてもそうはいきませんわよ?」
村長の妻「」ギクッ
506:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 17:41:36 ID:qvo.LPcHN.
カロル「」モグモグウマウマ
村長の妻「ほ、本当に私は何も隠してませんよ…」アセアセ
母「…この際だから言ってしまいますけど、実は村の方からもう話は聞いてますよ?
なんでも旅の人に勧められてタイマを吸ってしまったとか…」
村長の妻「……すでにご存知でしたか…!」
神父「すまんな…。
我々はその件も含めて村長に話を聞きに来たのだ。
なにやら死人も出ているのだろう?
これはさすがに捨て置く訳にはいかん」
村長の妻「そこまで知られているのなら、もう観念するしか無さそうですわね…。
分かりました。すべてお話します。
お子様に聞かせられる内容では無いので奥の部屋へ案内しますわ…」
母「そうですね。坊やはそこにいなさい?
お母さん達は大事な話をするから」
カロル「モグモグ…。え?それならボク、ルーボイくんに会いに行っていい?」
母「いいけど…家が分からないんじゃない?」
507:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 17:44:05 ID:qvo.LPcHN.
村長の妻「あら。君はメイキさんのお子さんと知り合いなの?」
カロル「おばさまはルーボイくんを知ってるの?」
村長の妻「えぇ。知ってるわよ?
わんぱくで手を焼かせるけど、自然と人を元気にしてくれる子。
この村であの子を知らない人間はいないわ?」
カロル「あはっ!ルーボイくんらしいなぁ!」
母「よかったじゃない。それなら家を教えてもらうといいわ。
あたし達が話してる間に遊んできなさい」
村長の妻「そうですね。
メイキさんもルーボイ君も色々あって気が滅入ってるでしょうし、いい気分転換になるかもしれないですわ?
今地図を書いてあげるから、少し待っててちょうだいね?」
カロル「ありがとうございます!」ペコリ
神父「おい。貴様ら、私が先ほど言った事を忘れたのか…?
これ以上、村の人間をたぶらかすなど許さんぞ…!」コショコショ
母「……」ツーン
神父「無視か!おい、無視なのか!?」
508:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 17:46:20 ID:qvo.LPcHN.
村長の妻「…どうしたんです?」
神父「え…いや…そのですな…」
母「なんでもありませんよ?
この神父さん、少し落ち着きが無くて…」
神父「な、なんだと!」
村長の妻「まぁ…。目をケガなさってるようですし、安静にした方が…」
神父「あ、いや…ご心配なく。
だいぶ良くなりましたのでな。ははは…」
村長の妻「…そうですか。さあ坊や、書けましたよ?」
カロル「うん。ありがとう!」
509:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 17:50:18 ID:DqwtwHeU8E
カロル「それじゃ行ってくるね!」
母「気をつけて行くのよ?」
村長の妻「村の人には声をかけないようになさいね。
効き目が切れずにおかしくなってしまった人もいるから?」
カロル「はーい!」
神父「」ムスッ
バタンッ タタタッ
母「…お話を聞かせてもらえますか?」
村長の妻「分かってます…」
神父「…何故村はこのような事になったのですかな?」
村長の妻「……順を追ってお話します…」
510:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/17(日) 19:34:42 ID:702jk76dIA
……(>>344-356)……
村長の妻「…という事がありましたの」
神父「ホビットと交わった者がいた訳か。
なるほど、それは確かにまずいが…何も司祭様とて鬼ではない。
包み隠さず正直に話せば赦しを得られたかもしれぬものを…」
母「……あの時の人間達ね…」ボソリ
村長の妻「村の子供がホビットにたぶらかされたのもありますし、宣教師様はホビットの味方をして…。
あの方は司祭様のお気に入りと聞いてましたから、主人はもしかしたら村の責任を問われるのではないかと危惧していたようです…」
神父「なるほど。いや、無理もない!心配されるだろうとも!」
村長の妻「それもこれも…ダンの一家がホビットなんかに関わるから…!」
神父「ふん。奴らは災いを招く忌まわしき種族ですからな。
今回のような例は何も初めてではない。"悲劇の町"の一件がいい例だ!」
母「(なによ、それ…。勝手にあたし達の住み処を奪って、坊やの前でいいように体を汚されて…。
それもこれも全てあたし達のせいだって言うの?)」
村長の妻「先ほど話に出たルーボイ君のお父さんも加担していたようで…。
…殺された二人の内の一人なのですが…」
神父「色々あったと言うのはその事か…」
村長の妻「はい…」
母「それでダンさんの一家はどうしたんですか?」
村長の妻「あ、そうですね。肝心なのはその後で…」
511:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 20:26:18 ID:7tOMx1TQp2
――村(市場)――
カロル「」キョロキョロ
カロル「(前に来た時はにぎやかで人間もたくさんいたのに…なんだか寂しいな)」
村の大人4「はぁっ…はぁっ…」
カロル「(苦しそう…。顔色の悪い人間ばっかりだ…)」
カロル「(どうして旅人は村をこんなにしたんだろ…?)」
カロル「(ボクとお母さまが目的だったんじゃないの…?)」
村の大人4「げほっ!」
カロル「(…大丈夫かな?)」チラッ
村の大人4「はぁっ…」
カロル「(声をかけちゃいけないって言われたっけ…)」
カロル「」スタスタ
村の大人4「げほっ!ぅぇほっ!!」
カロル「」ズキッ
村の大人4「うぅ…」
カロル「……」ワナワナ
クルリ タタタッ
512:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 20:29:36 ID:9Wlxga5cBI
カロル「あ、あの…」オズオズ
村の大人4「げほっ…!な、なんだい…?」
カロル「具合が悪そうだから…」オドオド
村の大人4「は、はは…。そうか。子供に心配されるとはね…」
カロル「ご、ごめ…なさ…」
村の大人4「いや、そういう意味じゃないんだ…。
言い方が悪かったね。でも…おじさんは大丈夫だから」
カロル「ほ、ホント…ですか?」
村の大人4「うん。今のところは…まだね」
カロル「そうですか…!よかったです!」ホッ
村の大人4「…ん?君はよく見たら村の人間じゃないね?」
カロル「」ハッ
村の大人4「も、もしかして…!」
カロル「」ビクッ
カロル「(き、気付かれたかな…!?)」
村の大人4「君は……」
カロル「」ダッ
村の大人4「あ、待って!待ってくれ!」
カロル「ごめんなさーい!!」タタタッ
村の大人4「あぁ…」
村の大人4「(旅人の知り合いだったら、あの葉巻が貰えたかもしれないのに…)」ガックリ
513:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 20:33:55 ID:7tOMx1TQp2
――村(民家周辺)――
カロル「はっ…はっ…!」
カロル「あ、危なかったぁ…!」ゼーゼー
カロル「」チラッ
カロル「…よかった。追ってこないみたい」
カロル「このままルーボイくんの家に行こう」
カロル「えーと…」カサカサ
カロル「おばさまの書いてくれた地図には…あれ?」
カロル「ここかな?いつの間にか着いてたんだ!?」
扉「」
カロル「」ハッ
カロル「(と、扉だ…。ノックできる…!)」
カロル「……」ドキドキ
カロル「と、友達の家に遊びに行くのって…こんな感じなんだ…」ドキドキ
カロル「えへへ…!なんだかむず痒いや。
人間はいつも、こんな気持ちで友達と遊ぶのかな…?」
カロル「…羨ましいなぁ」
カロル「(でも大聖堂に行く前に…この気持ちを知れてよかった)」
扉「」
カロル「よ、よーし…!」ワナワナ
カロル「」コンコン
カロル「……!」ドキドキ
シーン
カロル「……あれ?」
514:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 20:36:20 ID:9Wlxga5cBI
カロル「あ、そっか…。何も言わなかったから…」コンコン
カロル「すみません。ルーボイくん……」コンコン
「いい加減にしてって言ってるでしょ!?」
カロル「」ビクッ
「なんなのよ、さっきから!帰ってちょうだい!!」
カロル「あ、あの…違うんです!ボクはルーボイくんの友達で…!」
「……お友達?」
カロル「は、はい…」
ガチャッ
メイキ「パッチかい…?」
カロル「は、はじめまして」ペコリ
515:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 20:37:34 ID:7tOMx1TQp2
メイキ「…あなた、誰?」
カロル「えと、その…ルーボイくんの…友達で…」シドロモドロ
メイキ「? どこの子だい?
悪いけどあなたのような子に見覚えはないよ?」
カロル「ぼ、ボク…村の人間じゃないんです」
メイキ「……あっ!分かったよ!とりあえずお入りなさいな!」
カロル「え…?いいんですか!」パァァ
メイキ「もちろん!今、あの子はケガをしてて元気がないんだけど…。
お嬢ちゃんの顔を見たらきっと少しは元気が戻るよ?」
カロル「お嬢ちゃん…?ボクは……」
メイキ「いいから、いいから!このあいだ村に遊びに来た子だろ?
ちょっと待ってておくれ?そこでくつろいでてくれていいからね!」
カロル「は、はい…?」
メイキ「あの子に聞いてくるわね」タタタッ
カロル「あ、すみません…。お邪魔します」
カロル「ひょっとしたらあの時(>>87-97)のことかな…?」
516:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 20:40:08 ID:7tOMx1TQp2
ルーボイ「うぅ…い、いへぇよぉ…」
コンコン
「ルーボイ…?」
ルーボイ「う…?な、なんらよ…?」
「お友達が遊びに来たよ…?」
ルーボイ「とも…だち…?」
ルーボイ「(ぱ、パッチ…!?)」ムクリ
ルーボイ「今行く!!」
「え?ちょ、ちょっと…あんた動いちゃダメだよ?
ひどいケガを負ってるんだから!」
ルーボイ「大丈夫だよ!全然痛く…!」ズキッ
ルーボイ「うぐぅ…!」
「だから言ったじゃないか…。今、呼んでくるからおとなしくしてな?」
ルーボイ「うう…。分かったよ…」
「待たせてごめんね。お嬢ちゃん。入っていいわよ?」
「ありがとうございます!」
ルーボイ「……ん?お嬢ちゃんって…女?」ピクッ
517:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 20:41:52 ID:7tOMx1TQp2
ガチャッ キィィ
メイキ「あたしはお茶菓子を用意しておくわね?」
カロル「すみません。ありがとうございます!」ペコリ
メイキ「いえいえ、ゆっくりしていってね」バタンッ
カロル「ルーボイくん!」
ルーボイ「え…」
カロル「あ、頭巾を取らないと分からないよね?」バッ ファサッ
ルーボイ「か、カロル!?」ギョギョッ
カロル「久しぶり!」ニコッ
ルーボイ「お、お前…なんで…?」
カロル「え?なんでって、約束したじゃない?」
ルーボイ「でも…どうやって入って来たんだよ?
宣教師様もお前の母ちゃんもいねーのか?」
カロル「……。ちょっと色々あって…?」ニコッ
ルーボイ「おい!」
カロル「え…な、なに…?」ビクッ
ルーボイ「またそうやってごまかすのかよ?」
カロル「そ、そうじゃないよ…。ホントに遊びに来ただけだから」
ルーボイ「嘘つけ!わざわざ危ないのに一人で来る奴がいるかよ!?」
カロル「……」
ルーボイ「いてて…!」ズキズキ
518:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 21:15:11 ID:b3J50V5QKY
ルーボイ「くっそー…!」ズキズキ
カロル「ケガしてるんでしょ?怒鳴ると傷に障るよ?」
ルーボイ「お前がちゃんと話さないからだろ!」
カロル「ごめん…」
ルーボイ「落ち込むなっつの!」
カロル「う、うん…!ありがとう!」
ルーボイ「別にいいよ!んなことくらい!」
カロル「…そのケガじゃ遊べないね」
ルーボイ「ん…あぁ。せっかく来てくれたのにごめんな」
カロル「気にしないで?一緒にいられるだけでいいもの!」
ルーボイ「なんだよ、それ」
カロル「ところでしゃべり方が変わってる。口も腫れてて痛そうだよ…?」
ルーボイ「お前らが言ってた旅人にやられたんだよ…」
カロル「え…。なんでルーボイくんが!?」
ルーボイ「パッチを探してたんだってよ…」
カロル「パッチくんを!?
大変…!ど、どうしよう!?」
ルーボイ「…パッチは逃げたってさ」
カロル「へ?じゃあパッチくんは村にいないの!?」
ルーボイ「さっきから声が大きいっつの!母ちゃんに聞こえるだろ!」
カロル「あ…そうだね。ごめん…」
ルーボイ「…たく!」
519:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 21:20:23 ID:VTUPJwu2H6
カロル「…パッチ君は今どこにいるの?」
ルーボイ「し、知らねー」プイッ
カロル「…そっか。心配だね…」
ルーボイ「」ズキッ
〜〜〜〜〜〜
『パッチのいるとこ…言うから…』
〜〜〜〜〜〜
ルーボイ「……」
カロル「ルーボイくん。どうしたの?」
ルーボイ「なんでもねーよ。それよりさっき聞いたのに答えろよ?」
カロル「ん…ちょっとね。しばらく会えないかもしれないから…」
ルーボイ「? なんでだよ?」
カロル「やらなきゃいけない事があるから…」
ルーボイ「ふーん…」
520:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 21:25:54 ID:VTUPJwu2H6
カロル「でもなんで旅人はボクとお母さまじゃなくてパッチくんを探してたんだろう…?」
ルーボイ「知らねーよ。俺だって訳分かんなかったもん」
カロル「そっか…。でも関係ないルーボイくんまで傷付けるなんて…」
ルーボイ「……そういえばカロルは何も知らないんだよな」
カロル「へ…?う、うん?」
ルーボイ「父ちゃんが殺されたんだよ。旅人に…」
カロル「……!」
ルーボイ「パッチの父ちゃんと母ちゃんも殺したって言ってた…」
カロル「……ひどすぎるよ…」
ルーボイ「村のみんなもめちゃくちゃになって…もう…」
カロル「……」
〜〜〜〜〜〜
『ともだちを裏切るなんて、最低な奴だよ。君は』
『どうしようもなく卑怯で、傲慢で、欲深なクズだ』
『楽しい人生にするといい。ともだちを犠牲にしてね』
〜〜〜〜〜〜
ルーボイ「(パッチも…)」グッ
521:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 21:30:00 ID:VTUPJwu2H6
ルーボイ「俺だけじゃない。みんな……。もうやだよ…。怖いんだ」
カロル「…ルーボイくん」
ルーボイ「またあの旅人が来たら…母ちゃんまで殺されたら…」
カロル「それは…大丈夫。もうあの旅人はいないから」
ルーボイ「……え…!?」バッ
カロル「教会で…死んでたんだ。誰がやったか分からないけど…」
ルーボイ「し、死ん…」
カロル「ここに来る途中、教会に行ったから…ホントだよ?」
ルーボイ「だ、だって教会にはお前らと宣教師様がいたじゃんか?」アセアセ
カロル「ううん。実はね。ボクらはあの後、教会に帰らなかったんだ」
ルーボイ「え…じゃあ宣教師様はどうしたんだよ?」
カロル「宣教師さまは…今はいないけど」
ルーボイ「ちょっと待てよ!宣教師様がいないってどういう事…!」ズキッ
ルーボイ「〜〜〜!」ズキズキ
カロル「ルーボイくん…。もしかして腕も…」
ルーボイ「…そんなの、どうだっていいだろ?
宣教師様がいないってなんなんだよ…!?」ズキズキ
522:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 21:32:53 ID:VTUPJwu2H6
カロル「う、うん…。宣教師さまは教団っていう人たちに捕まってるんだって」
ルーボイ「知ってる…。教団って宣教師様のいたとこだろ?
なんで仲間の宣教師様が捕まるんだよ?」
カロル「それは…宣教師さまがボクたちホビットの事で司祭さまっていう人に逆らったから…」
ルーボイ「…司祭様が?嘘だ!司祭様はすごく優しい人だぞ!」
カロル「教団の神父さまが言ってたんだ…。
多分、ホントなんだと思う」
ルーボイ「…そ、それじゃ宣教師様はどうなるんだよ?」
カロル「ずっと閉じ込められるって言ってた…」
ルーボイ「宣教師さまが…閉じ込められる…。そしたら、もう会えないじゃんか!?」
カロル「……」
ルーボイ「それ…ホントかよ?」
カロル「うん…」
ルーボイ「なら、なんでお前はここにいんだよ!」
カロル「それは…これから教……」
ルーボイ「遊んでる場合かよ!!」
カロル「」ビクッ
523:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 21:35:56 ID:VTUPJwu2H6
ルーボイ「だってそうだろ!?
お前らのために宣教師さまは捕まったんだろ!?」
カロル「ちょっと待っ……」
ルーボイ「なんかお前らが来てから変になった…!」
カロル「……!?」
ルーボイ「そういえばそうだよ!お前らが来てからだよ!
だってそれまで何もなかったんだぞ!?」
ルーボイ「この一週間ずっと変だよ!」
ルーボイ「大人たちはソワソワしてたし、宣教師様も来てくれなくなった!」
ルーボイ「お前が宣教師様を独り占めしたから!」
カロル「ち、違うよ。ボクらは…!」
ルーボイ「何が違うんだよ!?
お前が俺たちの村に来たからだろ!?」
カロル「お、落ち着いて!お願いだよ。ボクの話を聞いて!?」
ルーボイ「うっせー!お前のせいで父ちゃんも死んだんだぞ!
お前が村に来たから旅人も来たんだろ!」
カロル「そんなの…知らないっ…!ホントだよ、何も知らないんだ!」
ルーボイ「嘘つくな!旅人が言ってたんだぞ!
ホビットが欲しいから村に来て、俺の父ちゃんを…騙したって!」
カロル「……ち、ちが…ちがうよ…。だってそれは旅人が…」
524:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/20(水) 21:41:22 ID:b3J50V5QKY
ルーボイ「お前らがいたから、あの旅人が来てめちゃくちゃにされた!
パッチだって殺された!全部、お前のせいだ!!」
カロル「……!」
カロル「待って!どういう事?パッチくんは逃げたんじゃ…」
ルーボイ「」ハッ
ルーボイ「えっ…あっ…!」アタフタ
カロル「ルーボイくん、何か知ってるの?」
ルーボイ「う、うるせー!知らねーよ!!」
カロル「教えてよ。パッチくんはどうしたの?」
ルーボイ「お前になんか教えねーよ!」
カロル「どうして!心配じゃない…!?」
ルーボイ「うるさい!知らねーよ!全部お前のせいだ!!」
カロル「そんな…ひどいよ…?
ボクらは友達じゃなかったの…?」
ルーボイ「う…!」
カロル「ねぇ。答えてよ…?
キミが答えてくれないと、ボクには分からないよ…!」
ルーボイ「う…お前なんか……」
コンコン
ルーボイ「」ビクッ
「さっきから何を言い争ってるの?入るわよ?」
ガチャッ
カロル「あ……!」
525:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/25(月) 19:45:08 ID:QWKkgR91fw
キィィ
カロル「(どうしよう!開けられたらホビットって気付かれる…!)」
ルーボイ「母ちゃん!ちょっと待って!」
「へ…?」ピタッ
カロル「え…?」キョトン
ルーボイ「今こいつと大声対決してんだよ!」
「はぁ?あんた、何言ってんの?」
ルーボイ「っ…っわぁ〜!!
い、いいから!邪魔すんなよな!いつつ…!」ズキズキ
「あんた、ケガして口も腫れてんだから…あんまり騒いじゃダメだよ?」
ルーボイ「分かってるよ!とにかくまだ入るなよ!」
カロル「」ポカーン
ルーボイ「なにしてんだよ…!早くそれ被れよな…!」コショコショ
カロル「へっ?あっ…うんっ!」カブリカブリ
ルーボイ「…ったく!」
526:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/25(月) 19:47:57 ID:lymfDbihfs
「…じゃあ、お茶菓子だけ置いてくから開けるよ?」
ルーボイ「早くしろよー」
「早くしろって…あんたが待てって言ったんじゃないかさ?」ブツブツ
ガチャッ
メイキ「ありあわせの物で作ったおやつだから、外から来たお嬢ちゃんのお口に合うか分からないけど」
カロル「これ…なんですか?」マジマジ
メイキ「木苺のジャムだよ。この村から北の方角に出ると森があるだろ?
あの森はたくさんの恵みを授かってるからね。色んな実や魚、獣が取れるのさ」
カロル「知ってます!ボクもよくお母さまと採りに行きました!」
メイキ「おや、そうかい?あ、これはね。ジャムをパンに塗って食べるんだよ?」
カロル「へぇ!おいしそうですね…!」キラキラ
メイキ「嬉しいね。たんとお上がりよ?」
カロル「はい!」
ルーボイ「こいつなんでも食うからなー」
カロル「そ、そんなことないよ!」
メイキ「女の子に滅多なこと言うもんじゃないよ!
これだからあんたは……」ガミガミ
527:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/25(月) 19:50:37 ID:lymfDbihfs
ルーボイ「あーもう!うるさいな!母ちゃんはあっちに行ってろよ!」
メイキ「まっ!生意気な口の聞き方して!」
カロル「お母さんにそんな言い方したらダメだよ…?」アセアセ
メイキ「お嬢ちゃんはいい子ねぇ?」
ルーボイ「ふん!」
カロル「そ、そんなことないです!ルーボイくんの方がすごく優しいですよ!」アセアセ
メイキ「…ふふ。ありがとね。あんた、こんないい子と喧嘩しちゃダメじゃないか?」
ルーボイ「してねーよ!」プンスカ
カロル「……」
528:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/25(月) 19:51:58 ID:lymfDbihfs
メイキ「……ねぇ。お嬢ちゃん。一つ頼んでいいかい?」
カロル「へ?」
メイキ「この子の面倒を見ておいてもらえるかい?
おばさん、ちょっと出掛けなきゃいけないから」
カロル「え…」
ルーボイ「母ちゃん、どこ行くんだよ?」
メイキ「ちょっと教団の本部に行ってお医者様を呼ぼうと思ってね。
幸いお嬢ちゃんが来てからあんたも元気が戻ったみたいだから」
ルーボイ「別に一人で平気だよ!」
メイキ「うふふ。照れないの?
じゃあお嬢ちゃん。悪いけど頼んだわね?」
カロル「は、はい!」
529:🎄 名無しさん@読者の声:2013/3/25(月) 19:54:55 ID:QWKkgR91fw
ルーボイ「………」
カロル「………」
ルーボイ「………」
カロル「……」チラッ
ルーボイ「なんだよ?」ギロッ
カロル「う、ううん。なんでもないよ!ごめんね…」
ルーボイ「…食わねぇのかよ?」
カロル「あ、うん!これおいしそうだね?」パシッ
ルーボイ「……」
カロル「」ヌリヌリ パクッ
カロル「あまーい!パンもふわふわだー!」
ルーボイ「……」
カロル「」チラッ
ルーボイ「……」
カロル「はは…」
ルーボイ「…言いたい事があんなら言えよ?」
カロル「え、あ、うん…」
530:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/25(月) 19:57:33 ID:QWKkgR91fw
カロル「その…さっき、ありがとう…」
ルーボイ「…何がだよ?」
カロル「ボクがホビットって気付かれないようにしてくれたんでしょ…?」
ルーボイ「めんどくせぇからな」ツーン
カロル「……」
ルーボイ「それだけかよ?」
カロル「…ううん。もう一つ」
ルーボイ「……」
カロル「…全部ボクのせいって言ったよね?」
ルーボイ「……悪いかよ?だってそうだろ?」
カロル「悪くないよ?それに、その通りだと思う!
キミの気持ちも考えないで遊びに来て…ごめん!」ペコリ
ルーボイ「……」
カロル「でもね。最後になるかもしれないから、どうしてもキミとパッチくんに会いたかったんだ」
ルーボイ「さっきも言ってたな…。会えなくなるとか」
531:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/25(月) 20:01:27 ID:lymfDbihfs
カロル「ボクもこれから教団の本部に行くんだ。お母さまと一緒に!」
ルーボイ「……?」
カロル「宣教師さまを助けるには…ボクたちが行くしかないと思うから」
ルーボイ「宣教師様を助けられんのか…!?」バッ
カロル「うん!ボクたちが宣教師さまと関わるのをやめて、いなくればいいんだって!」
ルーボイ「はぁ!?なんだよ、それ!?」
カロル「その為には司祭さまっていう人間に説明しなきゃいけないんだ?
ボクと宣教師さまは友達じゃないって」
ルーボイ「どうして…!そんなのウソっぱちじゃんか!
宣教師様だってお前のこと、友達って言ってたぞ!」
カロル「……」
ルーボイ「なぁ…!やめろよ!そんな事しなくたって、他にもなんかあんだろ!」
カロル「……どうして?」
ルーボイ「え…?」
532:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/25(月) 20:03:07 ID:lymfDbihfs
カロル「キミもボクのせいだって言ったじゃない…?
なのに、なんで今さらそんな事言うの…?」
ルーボイ「う…。そ、そりゃ…」アタフタ
カロル「……」
ルーボイ「だって…」
カロル「だって…なに?」
ルーボイ「……」プルプル
カロル「……?」
ルーボイ「い、言ったら…絶対怒るだろ?」プルプル
カロル「え…。なんで?」
ルーボイ「そんな気がするだけだよ…」プルプル
カロル「大丈夫。怒ったりしないよ?」
ルーボイ「ホントか…?」
カロル「うん。ボクを信じて?」ニコッ
ルーボイ「…分かった」
533:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/25(月) 20:06:27 ID:lymfDbihfs
ルーボイ「ほ、ホントはさ…。俺、教えたんだ…」
カロル「教えたって…何を?」
ルーボイ「……」
カロル「…大丈夫だよ。勇気を出して言ってみて?」
ルーボイ「旅人に…パッチの居そうな所、教えた…んだ」
カロル「…そっか」
ルーボイ「……俺、自分のせいだって思いたくなくて…。
それでお前に八つ当たりして…」
カロル「うん…」
ルーボイ「最低だろ…?」
カロル「ううん。そんな事ないよ」
ルーボイ「……」
カロル「無理やり聞かれたんでしょ…?
大人の人間に暴力を振るわれたんだもの。怖かったよね…?」
ルーボイ「わざと優しくすんなよ…。ホントは最低だって思ってるんだろ…?」
カロル「思わないよ。キミは悪くないもの」
534:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/3/25(月) 20:13:43 ID:QWKkgR91fw
ルーボイ「…悪くないわけねーじゃん!俺は…あいつを……」
カロル「キミは悪くない…。
ルーボイくんが暴力を受けたのも、パッチくんが狙われたのも…村に迷惑をかけたのも…ボクのせいだから」
ルーボイ「……違う…!」
カロル「ごめんね。ルーボイくん…ごめんね。
ボク…最後まで自分の事しか考えてなかった。
こんなに迷惑かけておいて遊びたいなんて自分勝手だったよね…」
ルーボイ「やめろよ。謝るなよ…!」
カロル「ルーボイくんに言われるまで受け入れられなかったんだ。
きっと違うって。ボクのせいなんかじゃないって」
カロル「ありがとう。ボクも目が覚めた気がする?」ニコッ
ルーボイ「違う…。違うんだよ…」
カロル「何も違わないよ。キミは正しいじゃない」
ルーボイ「違うんだって!お前のせいなんかじゃ…!」スクッ
ルーボイ「うっ…!」ズキズキ
カロル「…ルーボイくん?」
ルーボイ「ぐぅ…あぅ…」ズキズキ
カロル「ルーボイくん!?」
535:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:31:20 ID:xrFLp2O0Vk
ルーボイ「うぅ…!」
カロル「大丈夫!?」ヒシッ
ルーボイ「ぃ…いてぇ…!」
カロル「ひどいケガだもの。辛いよね…。
ボクがいなかったら…こんな事にならなかったのに」ナデナデ
ルーボイ「…だから…違うって…!」ズキズキ
カロル「……」ナデナデ
ルーボイ「うぅ…!」
カロル「ボク、お医者さまを探してくるよ」ナデナデ
ルーボイ「無理だよ…!この村に医者はいねーもん…!」
カロル「へ?お医者さまがいないって、どういうこと?」ナデナデ
ルーボイ「…今までケガしたら宣教師様が看てくれたんだよ…。
村の中じゃ医者の勉強もできないから…」
カロル「そうなんだ…。それならおばさまが帰ってくるまで何もできないね」ナデナデ
ルーボイ「そうだな…」
カロル「早く帰ってくるといいね」ナデナデ
ルーボイ「……」
ルーボイ「…さっきから頭、撫でてんじゃねーよ!?」
カロル「わっ」ビクッ
536:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:33:38 ID:A5ygsn4Elg
カロル「…あれ?平気なの?」
ルーボイ「ん?そういえば急に痛くなくなったぞ?」
カロル「そう。よかった…!」ホッ
ルーボイ「いいから、もう離せよ」
カロル「あ、うん。ごめんね?」パッ
ルーボイ「……子供扱いすんなよな。歳も変わんねークセに」
カロル「そういえばルーボイくんっていくつなの?」
ルーボイ「俺?10歳だけど」
カロル「えぇっ!そうだったんだ?」
ルーボイ「なんでびっくりすんだよ?」
カロル「あはは…。ボクと同い年だと思ってたから」
ルーボイ「は?お前、俺より小さいの?」
カロル「ううん?ちょっぴり大きいよ」
ルーボイ「……え?」
カロル「ボク、14歳なんだ?」
ルーボイ「えぇぇ!?」
537:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:37:49 ID:xrFLp2O0Vk
ルーボイ「こんなにちっちぇーのに!?」マジマジ
カロル「小さいって言ってもルーボイくんと、そんなに変わらないでしょ?」
ルーボイ「四つも違うのに変わらないっておかしいだろ!」
カロル「しょうがないよ。ボクはホビットだから、あんまり背が伸びないんだ」
ルーボイ「ふーん…。やっぱ俺たちと違うんだな…」ジロジロ
カロル「ふふ…。大人になる頃には見下ろされてるかも?」
ルーボイ「俺は大きくなるからなー?」ニヤリ
カロル「……大きくなったルーボイくんが見たかったなぁ」
ルーボイ「うっ…!そんなこと言うなよ!」
カロル「ごめん…」シュン
ルーボイ「んな心配しなくても…司祭様は優しいし、分かってくれるかもしんねーじゃん」
カロル「うん…。そうだといいな」
538:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:40:59 ID:A5ygsn4Elg
ルーボイ「なぁ…。カロル?」
カロル「なに?」
ルーボイ「さっきごめんな。ひどい事言って…」
カロル「気にしてないよ?」
ルーボイ「…俺さ。前にもひどい事言ったよな。ホビットのクセにとか…」
カロル「気にしてないってば」
ルーボイ「お前が気にしなくても、俺は気にするよ。
なんか今までひどい事したり、言ったり、いっぱいあったもんな」
カロル「そんな事ないよ!」
ルーボイ「パッチにも昔からたくさんいじわるしてたなぁ…」
カロル「……」
ルーボイ「ホントは俺の事なんか嫌いだったのかなぁ…?」
カロル「パッチくんはキミを嫌ったりしないよ。あんなに仲良しだったんだから」
ルーボイ「そうかな…。もう会えないって思ったら、嫌なことばっかり考えちゃうんだよ…」
カロル「元気を出さなくちゃ…。キミらしくないよ?」
ルーボイ「……」
539:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:46:28 ID:xrFLp2O0Vk
カロル「それに会えないって決まったわけじゃないでしょ?」
ルーボイ「…だってあいつ、村の外は教会しか知らないんだぞ…?
他に逃げたり、隠れたりする場所なんかないだろ?」
カロル「けど教会にはパッチくんはいなかったよ?」
ルーボイ「そうなのか!?」
カロル「うん。中までは見てないから分からないけど」
ルーボイ「っ…!それじゃ分かんないだろ!
もしかしたら中で…し、し…死ん…」
カロル「それはないよ。旅人は入り口で倒れてたから、中まで入ってないはずだもの」
ルーボイ「はぁ?どういうことだよ?」
カロル「教会の中に入ったなら入り口を開けた形で倒れてるのはおかしいからね。
多分、扉を開けてすぐに襲われたんだと思う」
ルーボイ「そ、そっか!よくわかんねーけど、そうなんだな?」チンプンカンプン
カロル「うん。だからボク、キミから話を聞いた時も少し安心してたんだ?」
ルーボイ「なんでだよ?」
カロル「今までの事が繋がったし、パッチくんは生きてるって分かったから。
もし殺されたりしたなら旅人は教会にはいなかったはずだよ」
ルーボイ「……?」
540:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:50:30 ID:xrFLp2O0Vk
カロル「きっと旅人はボクらを捕まえる為にパッチくんを狙ったんだ」
ルーボイ「あ、そういえば、そう言ってたぞ!」
カロル「うん。だから旅人がパッチくんを見つけてたら、ボクらの居場所を聞くよね?」
ルーボイ「そ、そうだな」
カロル「たとえば森にいるって言われたら旅人は森に来ただろうし、嘘の場所を教えられても教会には行かなかっただろうね」
ルーボイ「はぁ?嘘つかれたら分かんねーから、教会とか村も全部探したかもしんねーじゃん!」
カロル「ううん。それはないよ」
ルーボイ「なっ!なんでだよ!」プンスカ
カロル「旅人はボクらが教会にも村にもいない事を知ってるもの。
それでも分かってて探しに来るほど、浅はかじゃないよ」
ルーボイ「あ、そうか!あいつ一回、教会に来たんだっけ!」
カロル「うん。ボクらが逃げた後、もぬけの殻になった教会にね。
そして村の人たちをおかしくしたのは話を聞き終わって、用が無くなったから…」
ルーボイ「…そんなんで!村をめちゃくちゃにしたのかよ…!」
カロル「ボクが勝手に考えた事だから、確かじゃないけど…」
ルーボイ「ちくしょう…!あいつ、サイテーだ!」ギリッ
カロル「……」
541:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:54:40 ID:xrFLp2O0Vk
ルーボイ「でも、それが本当ならパッチは生きてるんだよな?」
カロル「…うん。ボクの考えがホントだとしたら、だけどね」
ルーボイ「おー!す、スゲー!
お前って変な奴だと思ってたけど、スゲー頭いいんだな!」
カロル「は、はは…。それって素直に喜んでいいのかなぁ…?」タジタジ
ルーボイ「じゃあ、あいつは今どこにいるんだよ?」
カロル「えと…さすがにそこまでは分からないや」
ルーボイ「なんだよ!使えねーな!」
カロル「うぅ…ついさっきまで褒めてくれてたのに…」シュン
ルーボイ「…でもありがとな!パッチが生きてるって分かったら安心したぜ!」
カロル「あはは…。どういたしまして?」ニコッ
ルーボイ「やっぱお前、スゲーいい奴だよ!」
カロル「ほ、ホント…?それなら、許してくれる…?」
ルーボイ「おう!あったりめーだろ!ってか途中から怒ってなかったし!」
カロル「……!あ、ありがとう!」パァァ
ルーボイ「へへっ!俺の方こそ、八つ当たりしてごめんな?」
カロル「もう…!気にしてないったら!」
ルーボイ「ははっ!そっか!」
カロル「うん…!」ニコニコ
542:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:56:48 ID:A5ygsn4Elg
ルーボイ「よっしゃ!そうと決まったら探しに行こうぜ!」スクッ
カロル「へ…?」キョトン
ルーボイ「? なに変な顔してんだよ?」
カロル「だって!ルーボイくん、ケガしてるじゃない!」アタフタ
ルーボイ「関係ねーよ!もう痛くねーし!」
カロル「だ、ダメだよ!キミのお母さまにも言われたんだから、じっとしてなくちゃ!」アセアセ
ルーボイ「……」
カロル「ね?パッチくんの事はボクがなんとかするから、おとなしくしよう?」
ルーボイ「ちぇっ!」ボフッ
カロル「」ホッ
543:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 01:58:08 ID:A5ygsn4Elg
ルーボイ「早く母ちゃん来ねーかな…」
カロル「まだ来ないと思うよ?お家を出てから、そんなに経ってないもん」
ルーボイ「あー!もー!早くパッチに会いてぇ!」ジタバタ
カロル「あ、暴れたら危ないよ?腕も痛めてるんだし…」ドキドキ
ルーボイ「うるせー!くらえっ!」ブンッ
カロル「わっ」ボスッ
ルーボイ「へへっ!」ニヤリ
カロル「もう…。まくらは投げる物じゃないでしょ?」
ルーボイ「お前が生意気言うからだろー?」
カロル「生意気って…。ボクの方が年上なのに…」ブツブツ
ルーボイ「なんだよ?」ジロッ
カロル「」ビクッ
ルーボイ「なんか言ったか!?」
カロル「な、なんでもないよ?」ニコッ
ルーボイ「ふんっ!」
カロル「(まぁいっか…。元気になってくれたんだもの…)」ニコニコ
544:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 17:33:27 ID:.tgHhz2SVw
――村(村長の家)――
村長の妻「……これで私の知る限りの事は全てお話しました」
神父「ふむ…」
母「……」
村長の妻「私は見ている事しか出来ずにいたんです…。
村人たちが狂っていくサマも、そしてダン夫婦を……!」ガクガク
神父「いや、なに。奥さんに罪はない…と、言いたいがな……」
村長の妻「……」カタカタ
神父「ここまでの事態に発展してしまった以上、ありのままに報告すれば…おそらくまずいだろうな」
村長の妻「やはり…そうですよね…」ブルブル
神父「ふぅ…。私には荷の重い役目だ。
騙されていたとはいえ、人殺しは許されん…」
村長の妻「うぅ…!なぜ…こんな事に…!今まではずっと穏やかだったのに…!」ドンッ
神父「……」
母「……」
村長の妻「あぁぁぁ…」ブワッ
村長の妻「あぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」シクシク
545:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 17:40:16 ID:.tgHhz2SVw
――村(市場)――
神父「恐ろしいものだ…。たった一つの異変が全てを変えてしまったとはな…」スタスタ
母「……」スタスタ
神父「まったく…。分からんものだよ」
母「…きっとあの奥さんは立ち直れないでしょうね」
神父「すぐには難しいだろうな。時間が必要だ。
念のため、悪いようにはしないと言っておいたが気休めになるかどうか…」
母「…あの旅人は何者だったのでしょう?」
神父「分からん。だが、この問題は想像以上に根が深そうだ…。
少なくとも司祭様の勘働きは外れたようだな」
母「と、言いますと?」
神父「司祭様はお前たちの手紙を見て、『旅人はホビットの存在を許さぬ正義感の強い人間』と評された。
実際は、とんだ悪人だった訳だがな」
母「そうですか…。やはりあたし達の言葉は信じてもらえていなかったのですね」
神父「ま、それが当然だろう…。
ホビットは人間を騙すからな」
母「…あたし達は騙したりしません」
神父「どうだかな…。私にはお前たちの考えが読めんよ。
何故、司祭様に会いたがるのか…。目的が掴めん」
546:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 17:50:27 ID:4YUZHqrID.
母「それは坊やが望んだからですわ。あたしはあの子の意思を汲みたかっただけ…」
神父「宣教師のため、か?
ますます分からん。なぜ他の種族を助けようなどと思うのか…。
しかも人間とホビットという巨大な境を目の前にして…」
母「……あの子には友達がいなかったんです」
神父「……」
母「ずっと旅をしてましたから…」
神父「……」
母「一定の場所に留まる事も無く、ひっそりと怯えながら生きる道を歩んできた坊やには繋がりが大切なんです…」
神父「同じホビットの仲間はおらんのか?」
母「…あの子が生まれた村は王国によって滅ぼされました。
ただ、ホビットが暮らしているというだけで…」
神父「…まぁ。それもそうか。
となれば旅の中で出会う事も無かったのか?」
母「えぇ。不思議なことに…。
あたし達が出会ったのは神父さんも知る子と以前、住んでいた空き家の主だけです」
神父「あの小僧か…!くそっ!」
547:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 17:53:27 ID:.tgHhz2SVw
母「…あの子ならホビットとして、人間と関わらず静かに生きる道を坊やに教えてくれたかもしれないわね。
出会うのが少し遅かったみたいですけど…」
神父「…あの憎みようを見る限り、共に人間に仇なす道でも選びそうだがな」
母「ふふ。そんな…。まだ子供ですから、そこまでは…」
神父「子供ながらにして私の目を躊躇いもなく、奪ったんだぞ?」
母「…ああした行動をさせてしまったのは…」
神父「人間のせいとでも言うつもりか?」
母「いえ…」
神父「ふん…。見誤るなよ?罪を犯したのは貴様らだ」
母「……」
神父「だが、まぁ…。こうした時代に生まれた事は哀れと取るべきかもしれんなぁ」
母「……!」パチクリ
神父「…勘違いするな。お前たちを理解する気など毛頭ないぞ!」
母「えぇ…。分かってます」ニコッ
548:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 17:58:29 ID:4YUZHqrID.
神父「話に寄れば旅人はほぼ全員にタイマを寄越したらしいが、中には吸わなかった者もいるようだな」
母「そうですわね。
奥さんは少量と言ってましたし、吸わなかった人間たちは風に乗った煙の影響を受けたんでしょう」
神父「不幸中の幸いだな…。
タイマを求めて旅人を探す村人もいるが、意識を取り戻した者もいる…」
母「ルーボイ君の家族も影響は受けてないみたいですし。
遊びに行った坊やも心配する必要は無さそうですものね」
神父「…お前の子供など知ったことか。
とりあえずは逃げ延びた子供の安否を確かめねば…」
母「知ったことかって…。そういう言い方はないんじゃないですか?」ムスッ
549:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 18:03:42 ID:4YUZHqrID.
神父「ふん…。まぁ十中八九、殺されているだろうな」
母「なんでそう言えるんです?」
神父「子供の足で逃げられる場所など限られているし、手口を聞く限り、旅人は相当な残虐性を持ち合わせていたようだ」
母「けど殺されたとは限りませんわ?」
神父「いや、殺されている可能性が高い。
いっそのこと探すのは後回しでもいいかも分からんな」
母「なぜです?生きていたら、今もどこかで不安な思いをしてるかもしれないじゃありませんか?」
神父「少なくともお前たちを大聖堂に連れて行くのが優先だ。
その際に報告すれば助力も得られるし、探すにも我々だけでは難しい」
母「でも…早く助けないと、森には獣もいますし…」
神父「…貴様の息子は逃げた子供と関わりがあるのだろう?」
母「はい。ですから坊やの為にも…」
神父「もし、無惨な姿だったらどうする?
そんな再会をしたら、傷は深いぞ…」
母「そ…それは……!」
550:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 18:07:50 ID:4YUZHqrID.
神父「お前たちに配慮する訳ではないが、なんにしろ大聖堂に行った方がいい。
一目、宣教師に会える程度の情けなら受けられるかもしれんぞ?」
母「…どうしたんですか?」
神父「何がだ?」
母「いえ、先ほどとは打って変わった様子ですから」
神父「…疲れただけだ。もうさっさと、この件からは離れたい」
母「何を言ってるんですか?あなたはこの村の布教者でしょう?」
神父「バカを言うな。この村は終わりだ」
母「え…?」
神父「貴様も聞いただろう?
違法な薬物に手を出しただけならまだしも人の命を奪っている。
騙されたとはいえ、許される事ではない」
母「ですが…更正の道はないのですか?」
神父「更正するようであれば、それにこした事はないが…我が教団による援助は期待出来ん」
母「なっ…!あなた達は聖職者なのに…こういう時に手を差しのべないんですか!?」
神父「『与えられし試練に他の力を望むべからず』」
母「……はい?」
神父「神の教えだ。ゆえに我々は手助けはしない」
母「そんな…!助け合わない事を、あなた達の信じる神様は勧めるって言うの!?」
神父「無論、それだけではない。こんな教えもある」
551:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 18:12:39 ID:4YUZHqrID.
『救いは両の腕に込めなさい』
『勇気は両の足に込めなさい』
『道徳は頭に携えなさい』
『体に全てを繋ぎ止めなさい』
『命はまことの導きに沿うのです』
552:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/1(月) 18:16:49 ID:4YUZHqrID.
母「…その言葉に従うなら助け合う必要があるんじゃないのかしら?」
神父「そうとも取れるが…我々の考える物とは違うな」
母「どういうこと…?」
神父「救いも勇気も道徳も人は当然に持ち合わせている物だ。
それらを体に繋ぎ止められぬ命は信仰に背いているとも言える」
母「……」
神父「…彼らは裁かれるべきだ。
自分の罪を受け止め、己の力で清算するのが何よりの罪滅ぼしとなる…」
母「間違いを犯してしまう弱さを認めようとは思わないのですか…!」
神父「…それはお前たちのように間違いを犯す者の意見だな。
『弱さ』などと言う言葉に置き換えたところで『罪』は『罪』でしかない」
母「あなたの信じる神様は…薄情ですね」
神父「なんとでも言え。しょせんホビットには分かるまいよ」
母「……」
神父「…王国へ伝わらないように最善は尽くす」
母「……?」
神父「王国に伝われば村ごと滅ぼされかねんが…。
我々の胸の内にしまえれば、援助は出来ずとも彼らの力で更正する時間は作れるだろうが?」
母「……まぁ!」
神父「あの娘さんにも安心しろと言ってしまったしな?」
母「神父さん、ちゃんと考えてらしたんですね…!見直しましたわ?」ニコッ
神父「…見直したは余計だ!」
553:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 16:40:42 ID:pA07Cck1l6
神父「それにしても昼過ぎだと言うのに人が減っているな?」
母「気が付いた人たちは家に戻ったんじゃないかしら?」
神父「ふむ。体調を崩している者も多いようだしな」
母「…この村には医者がいないみたいですしね」
神父「あぁ、ご夫人が言っていたな?
司祭様も人が悪い。先に村の事情を詳しく聞かせて下さればよかったものを…」
母「……」
神父「とりあえずお前の息子を迎えに行くか」
母「えぇ。たしか、この先の民家の通りだと…」
「もし?」
神父「ん…?」クルリ
母「?」
554:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 16:47:18 ID:3eh8rSa52E
メイキ「教団の方ですか?」
神父「いかにも。私は教団の神父をしている者だが?」
メイキ「ちょうど良かったですわ!」
神父「(教団の人間と分かって声をかけるところを見ると、昨日の記憶が無いのか?)」
メイキ「話を聞いてもらえますか?」
神父「あぁ。言ってみなさい」
メイキ「うちの息子が大ケガをしてまして。
これから教団に向かおうと思っていたところなんですよ!」
神父「ふむ…。息子さんがケガを、か」
メイキ「はい。すぐにでも看てもらいたいのですが?」
神父「申し訳ないが私は文学専門でしてな。医術は対象外だ」
メイキ「は…」
555:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 16:49:21 ID:3eh8rSa52E
母「他に言い方はないんですか…。冷たく聞こえますよ…?」コショコショ
神父「仕方なかろうが…!事実、私にはなんとも出来んのだから…!」コショコショ
母「それにしたって…」
メイキ「」ワナワナ
神父「ご安心召されよ。我々も今から大聖堂へ向かうところだ。
その際に私から話を通して医術に長けた者をそちらに寄越しましょう」
メイキ「……」
神父「まぁそれまで息子さんには我慢してもらう事になるが…。
なぁに、1日や2日そこらで人間そうそう死ぬ事もあるまいよ」
母「ちょ、ちょっと!そんな言い方って……」
メイキ「ふざけんじゃないよ!!」ガッ
神父「」ビクッ
母「」ビクッ
556:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 16:52:11 ID:pA07Cck1l6
メイキ「我慢しろだって!?
あんたは何様のつもりだい!?」
神父「ひぃっ!」ズザァ
メイキ「うちの子は今、苦しんでるんだ!あんたの都合じゃないんだよ!」
神父「す、すまなかった!分かったから一旦落ち着こうじゃないか!」
メイキ「元はと言えば、あんたんとこの宣教師がホビットなんかとつるんだから、こんな事になってんだよ!
責任の一つも感じてみたらどうなのさ!」
神父「う、うむ!気持ちは分かる!分かるが少し落ち着こう!」
メイキ「何が分かるってのさ!宣教師はここ数日、ホビットに構って村に顔も出さない!」
メイキ「さんざんあたし達や子供にホビットを許すな、なんて言っといてだよ!?」
メイキ「あの人が治療してくれりゃ解決するのにさ!」
神父「ま、待ってくれ!宣教師は今、本部にいるのだ!」
メイキ「なんだって?村が大変なのにほったらかして本部で何をしてるんだよ!?」
神父「いや、ホビットの件で罰を与えられておりましてな!
今は牢に閉じ込められているのだ!」
メイキ「はぁ!?こんな時に内輪揉めしてんじゃないよぉ!!」
神父「ひぃっ!申し訳ない!申し訳ない!」ペコペコ
母「」クスクス
557:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 16:55:42 ID:pA07Cck1l6
メイキ「ったく!あんたら教団がしっかりしてないから、みんな混乱するんじゃないかさ!」
神父「し、しかしですな…」
メイキ「しかしもかかしもないよ!!」
神父「ひぃっ!」ビクッ
母「ふふ!」クスクス
メイキ「ん?何がおかしいんだい?」
母「あ、すみません。神父さんの反応がおかしくて、つい…」ニコニコ
神父「な、なにぃ!?」ムカッ
メイキ「…あんたも教団の人かい?」
母「いえ、あたしは旅の者で…。
村に用があったので教団の方に案内していただいてたんです」
メイキ「おや、そうかい…。そりゃみっともないところを見せちまったね?」
母「いえ、お気になさらないで?
奥さんのおっしゃる事も同じ母親として分かりますから」
メイキ「あら、あなたも子供がいるんですか?」
母「えぇ。14になる息子が一人…」
メイキ「はぁ〜!ずいぶん大きいんですね!」
母「そうですね…。大きくなりました…」ニコニコ
神父「(さっきまで喚き散らしといて母親同士になると井戸端会議か…。
これだから女はタチの悪い…)」
メイキ「あ、そうだ!話が終わってなかったわ!」
神父「」ビクッ
558:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 16:58:15 ID:pA07Cck1l6
メイキ「あんた!さっさとうちの子を治しなさいよ!」
神父「む、無茶を言うな!私は施術など出来ん!」アセアセ
メイキ「それなら今すぐ医者を呼びなさいよ!」
神父「今すぐだとぉ!?」
メイキ「当たり前じゃないかさ!」
神父「無理に決まってるだろ!もう勘弁してくれー!」アセアセ
母「(肝っ玉の強い方ねぇ。そういえば誰かに似てるような…?)」
メイキ「んじゃ1秒でも早く本部に行きなさいよ!」
神父「だ、だからその前にだな!」
母「(…そうよ!どことなく彼に似てるわ!もしかして…)」
メイキ「その前になんだい!?
そりゃうちの子より大事な事なの!?」
神父「い、いや…。大事な事かと聞かれると別に…」アセアセ
メイキ「ならほっぽっときなさいよ!」
母「あの…」
メイキ「あら、どうしました?」
母「すみません。失礼ですが…もしかしてルーボイ君のお母さんですか?」
メイキ「まぁ!うちの子と知り合いですか!?」
神父「ふぅ…。助かった…」ボソリ
559:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 17:01:36 ID:3eh8rSa52E
母「はい。以前、立ち寄らせていただいた時に息子が仲良くなりまして」
メイキ「あぁ、そうだったんですか!」
母「先ほど坊やがそちらにお邪魔したと思うのですが?」
メイキ「うちにですか?いいえ、知りませんよ?」
母「あら?ならどこへ行ったのかしら…?」
メイキ「男の子は知りませんが女の子なら、さっきうちに訪ねてきましたよ?」
母「…その女の子、頭巾を被ってました?」
メイキ「え…!か、被ってましたけど…!」ビックリ
母「その子です!うちの坊や、背格好からよく女の子に見られますの?」
メイキ「そうでしたの?
勘違いしてずっとお嬢ちゃんって呼んでたけど、悪いことしちまったねぇ?」
母「いえいえ、本人も慣れてますから気にしてませんよ?」
560:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 17:03:25 ID:pA07Cck1l6
メイキ「それにしても14の男の子にしちゃ、背も低いし肌もベルメロのミルクみたいにまっしろで…。
いやぁ、とても見えなかったよ!」
母「ベルメロ…ですか?」
メイキ「あ、ごめんなさいね!牛なんかで例えちゃって!
旦那が農家に雇われてたから、ついクセが出ちまって?」
母「いえ、お気になさらず?」ニコニコ
メイキ「(おかしいわねぇ。何日か前に外の女の子と仲良くなったって聞いてたからてっきり…?)」
母「どうしました?」
メイキ「へ?あ、いえ…なんでもないですよ?」ニコッ
神父「お、おい?」
母「」コクリ
メイキ「……?」
561:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 17:06:17 ID:pA07Cck1l6
母「実は大聖堂に行く前に坊やを呼ぼうとしていたのですが…」
メイキ「あら、あなたも教団の本部に?」
母「はい。少し大事な用がありますの」
メイキ「そうですか。そういう事なら家に案内しますよ!」
母「ありがとうございます」ペコリ
神父「(ふぅ…。なんとか一件落着か)」
562:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 17:07:09 ID:pA07Cck1l6
―――村(民家周辺)―――
メイキ「言いにくいんだけど、あなたんとこの坊やにうちの子のお守りまで頼んじまってねぇ」スタスタ
母「構いませんよ。あの子なら苦にならないと思いますから」スタスタ
神父「……」スタスタ
メイキ「どうですかねぇ?
うちの子はわんぱくだから、一緒にいて疲れるんじゃないかしら?」
母「ふふ。大丈夫ですよ。むしろあの子の元気を分けてほしいくらいです」ニコッ
メイキ「よしとくれよ。うるさいだけさ」ニコニコ
母「坊やは少しおとなしいですから、ルーボイ君みたいにたくましい仲間が必要だと思うんです」ニコニコ
メイキ「口がうまいんだから。気を遣わなくて結構ですよ?」ニコニコ
母「まぁ?」ニコニコ
神父「(謙遜する割には満足そうにニヤニヤしとるじゃないか…)」ムスッ
563:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 17:09:26 ID:3eh8rSa52E
母「ケガをなさったそうですけど遊ばせてしまって平気だったんですか?」
メイキ「私も不安だったんですけどね。
唇が腫れ上がって、腕もひねったみたいで紫色に…」
母「…なぜそんな事に?」
メイキ「それが教えてくれないんですよ…」
母「……?」
メイキ「日が沈んだ頃に帰ってきたかと思えば、目の前には痛ましい姿の息子ですよ?
慌てるじゃありませんか?」
母「そうですね…」
メイキ「何があったか聞いても辛そうに泣くばかりで、てんで見当も付きませんで…」
母「それほどのケガを負っているんですもの。
冷静になれないのも無理はないですよ…」
メイキ「まぁ…そうですね。
それでも助けを求めようと親しくしてる人や、村長の所に行ってみたんですが…」
メイキ「何があったのか知らないけど、変な目付きでぎゃーぎゃー喚いてて…助けを求めるどころじゃなかったんですよ」
母「(…そういえば奥さんは何も知らないのよね)」
神父「ふむ…」
564:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 17:10:50 ID:pA07Cck1l6
メイキ「次の日になれば宣教師様が異変に気付いてくれると思ったけど、一向に現れやしない」
母「……」
メイキ「かわいそうに。痛みのあまり眠れず、辛そうにする子供を見てる事しか出来なかった…」
母「……」
神父「…申し訳ありませんでしたな」
メイキ「……」
神父「あなたの息子さんも村の者たちも我々が必ず救います。
どうか…お許しいただきたい」
メイキ「いえ、私の方こそ…神父様に当たってしまってすみませんでした」
神父「いや、お気に召さるな。全ては私の不徳の致すところだ」
母「ふふ。それならお互い水に流してはいかがでしょう?」
メイキ「それもそうだね。湿っぽくしちまってごめんよ?
あたしはもう気にしないから、神父様も許しとくれ?」
神父「無論、私も水に流しましょう!」
565:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 17:16:09 ID:pA07Cck1l6
メイキ「でも不思議なもので、あの子が遊びに来た途端、元気になっちまって!」
母「ふふ。あの子らしいですわね?」
神父「あの小僧と会った途端に、か…」
メイキ「えぇ。嬉しいんですよ。
まだ色々と吹っ切れられないで、その上あんなケガまでされてね…」
メイキ「突然が重なりすぎて、どうしていいか分からなくなってた時にあなたの息子さんが来てくれて…。
おかげで、あの子の元気な声が聞けたんですから…」ニッコリ
母「」ニコニコ
メイキ「唇が腫れてるのに大声対決なんかする始末で」ニコニコ
母「お、大声対決…?」ヒクヒク
神父「独特な遊びですな…?」ヒクヒク
メイキ「うふふ。おかしいでしょう?」
母「そうですね?」ヒクヒク
神父「彼女の息子を連れて行ったら、すぐに医術師を呼んで来ますのでな!」
メイキ「うふふ。お願いしますよ?」
神父「無論ですとも!」グッ
メイキ「頼もしいですねぇ。あ、着きましたよ?」
566:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/5(金) 17:17:35 ID:pA07Cck1l6
―――村(民家周辺)―――
メイキ「じゃあ呼んできますね?」
母「はい」ペコリ
神父「…あ〜。待ってくれんかな?」
メイキ「なんです?」キョトン
母「……?」
神父「私も入ってよろしいか?
念のために息子さんの容態を見ておきたいのだが…」
メイキ「そういう事でしたら、どうぞ?」ニコッ
神父「すみませんな」ペコリ
メイキ「いえいえ」ガチャッ
神父「貴様はここで待っていろ。くれぐれも変なマネをするなよ?」
母「は、はい…?」キョトン
神父「お邪魔しますぞ」スタスタ
バタンッ
母「どうしたのかしら…?」
567:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/7(日) 14:29:53 ID:zOFUY7O9qk
―――(ルーボイの家)―――
ガチャッ
ルーボイ「お!母ちゃんが帰ってきたのか?」
カロル「え…?でも早くないかな?」
ルーボイ「じゃあ他に誰がいんだよ?」
カロル「様子のおかしい人もいたから、もしかしたら…」
ルーボイ「げっ!テパ兄ちゃんかな…。一番おかしかったし…」
カロル「ルーボイくんは動けそう?」
ルーボイ「あったりめーだろ!ぴんぴんしてるぜ!」
カロル「無理しちゃダメだよ…?」
ルーボイ「へへっ!心配すんなって!
腫れてたとこも元に戻ってんだぜー!」
カロル「ほ、ほんとだ…!」
ルーボイ「すごいだろー?俺にかかればへっちゃらだぜ!」
カロル「(ほんとにすごいや…。ルーボイくんってどうなってるんだろ…?)」
ルーボイ「変な奴だったら追い払おうぜ!」
カロル「逃げた方がいいと思う…」
ルーボイ「なんだよ。ビビってんのか?」
カロル「うん。こわいよ。おかしな人だったら逃げよう?」
ルーボイ「弱虫だなー」
568:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/7(日) 14:31:21 ID:zOFUY7O9qk
ペチャクチャ
カロル「話し声がするね?」ヒソヒソ
ルーボイ「おう。母ちゃんの声だけど、もう一人いるな?」
カロル「……あっ」
ルーボイ「どうした?」
カロル「神父さまの声だ。ボクを迎えに来たのかも?」
ルーボイ「なーんだ。やっぱり平気じゃんか」
カロル「うん。ボクの早とちりだったみたい」
ルーボイ「はぁ…。お前、気にしすぎだよ」
カロル「ごめん…」
ルーボイ「謝るなっつの!年上なんだろ?」
カロル「そうだけど…」
ルーボイ「もっとなんかこう、ズーンとしてドシーンってしろよ!」
カロル「えーと…それってどんな風なの?」
ルーボイ「だからズーンとしてドシーンだよ!」
カロル「…ごめんね。ボクには分からないや」
ルーボイ「なんでだよ!?」ガーン
569:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/7(日) 14:32:31 ID:JLKlcntD3Q
カロル「人間のこと、もっと勉強するよ。
それからルーボイくんの言うようにしてみるね?」
ルーボイ「はぁ?勉強…?」
カロル「うん。そうしたらズーンとしてドシーンっていうのも分かるようになると思うから」
ルーボイ「やめとけよー。勉強なんてつまんねーぞ?」
カロル「そうかな?知らない事を覚えるのって楽しいよ?」
ルーボイ「うぇー…。やめろよ。聞きたくねー」
カロル「楽しいのに?」
ルーボイ「…母ちゃんの前で勉強の話すんなよ?」
カロル「どうして?」
ルーボイ「いいから!絶対すんなよ!勉強しろってうるせーに決まってんだから!」
カロル「う、うん…」
570:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/7(日) 14:34:03 ID:zOFUY7O9qk
ペチャクチャ
ルーボイ「ぜんぜん入ってこねーな?」
カロル「うん。大事な話をしてるのかも」ペラ
ルーボイ「ふーん…。なぁ、それおもしれーか?」
カロル「おもしろいよ?ルーボイくんも読む?」
ルーボイ「いいよ。ってか俺のだから、もう読んだし」
カロル「あ、そうだよね?」テレッ
ルーボイ「子供ん時はそういう絵本に夢中だったなぁ」
カロル「(今も子供だと思うけど…)」ペラ
ルーボイ「でも、やっぱ外で遊んだ方がおもしろいなぁ」
カロル「ルーボイくんはすごく元気だもんね?」
ルーボイ「おう!遊んでたらあっという間に日が沈んじゃうからな!」
カロル「あはは!さすがだね!」ペラ
571:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/7(日) 14:36:39 ID:JLKlcntD3Q
ルーボイ「なぁ、なぁ。それってどんな話だっけ?」
カロル「えっとね。迷子になった子供が色んな動物に助けてもらって、お母さんの所に帰るお話だよ?」ペラ
ルーボイ「ふーん。ガキくせーなぁ」
カロル「そう?ボクは素敵だと思うな?」
ルーボイ「そうかー?なんかありがちじゃん」
カロル「ほら、見て?」ヒラッ
ルーボイ「ん?」
カロル「ウサギが寂しがる子供に唄を歌ってあげてる?」
ルーボイ「そうだな…?」
カロル「種族が違っても分かりあって、助け合えるんだ。
このお話には大切なことがいっぱい詰まってるよ?」
ルーボイ「…だって嘘っぱちだろ。俺らは動物となんか話せねーぞ?」
カロル「話せなくてもいいんじゃないかな。
言葉じゃなくても伝えられることってあるでしょ?」
572:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/7(日) 14:38:08 ID:JLKlcntD3Q
ルーボイ「俺は分かんねーな。動物嫌いだし」
カロル「そうなの?」
ルーボイ「お前の犬だってでかいし、うるさいしイヤだったなぁ」
カロル「そ、そう?マルクは賢くていい子だよ?」
ルーボイ「そうか?あいつすっげー吠えるぞ?」
カロル「マルクは人懐こいから、きっと遊びたがってるんだよ?」
ルーボイ「やだよ、あいつと遊ぶのなんか!」
カロル「そんな言い方は良くないよ。マルクは友達なんだから!」
ルーボイ「な、なに怒ってんだよ?」
カロル「怒ってないけど、マルクを悪く言われたくない…」
ルーボイ「じ、冗談だっつの…」
カロル「…そっか。冗談だったんだ。大きな声出してごめん」
ルーボイ「別に…いいけどさ」
カロル「そういえばおやつがまだ残ってるね。食べないの?」
ルーボイ「え…あ、あぁ…。食うよ」
573:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/7(日) 14:39:56 ID:zOFUY7O9qk
カロル「」ペラ
カロル「……」
カロル「」パタン
ルーボイ「読み終わったのか?」
カロル「うん…」
ルーボイ「それ、やるよ」
カロル「へ…?いいよ?悪いじゃない?」
ルーボイ「俺、もうそんなガキくせーの読まないからいらねーし」
カロル「でも…」アセアセ
ルーボイ「めんどくせーな!いいから持ってけっつーの!」グイグイ
カロル「わっ!」
ルーボイ「…さっきマルクの悪口言ったのも、それであいこだからな?」
カロル「そんな…もう気にしてないよ?」
ルーボイ「……」ムスッ
カロル「ありがとう?」ニコッ
ルーボイ「…ふん!」プイッ
574:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/12(金) 20:11:35 ID:J./Ghkr/nw
カロル「この絵本、大事にするね!」ニコニコ
ルーボイ「別にいいっつの。どうせいらなかったし」
カロル「あ、ちょっと待ってて?」ゴソゴソ
ルーボイ「なんだよ?」
カロル「はい!」スッ
ルーボイ「アメか?」
カロル「お返しにあげる!」
ルーボイ「そういえば前にもくれたよな?」
カロル「えへへ。変装して来た時に貰ったんだ!」
ルーボイ「あー!お前が女のふりした時だろ!」
カロル「うん、あの時は恥ずかしかったなぁ…」テレテレ
ルーボイ「あん時は俺もパッチもお前がホビットなんて思わなかったぞ?」
カロル「そうだよね?
ボクも、あれから二人と友達になれるとは思わなかったもの」
ルーボイ「へへ!ほんとだな?」
575:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/12(金) 20:13:27 ID:RneutkhE8s
ガチャッ
メイキ「……」
ルーボイ「母ちゃん、おかえり!早かったな!」
カロル「」ペコリ
メイキ「…あぁ、ただいま。ケガの具合はどうなんだい?」
ルーボイ「なんともないぜ!ほら、見てくれよ!」
メイキ「……!」キッ
ルーボイ「? どうしたんだよ、怖い顔して?」
カロル「?」キョトン
神父「奥さん、どうでしたかな?」スタスタ
メイキ「神父様の言った通りでした…」
神父「うーむ。やはりな…」
ルーボイ「なんだ…?ケガが治ったのにがっかりしてるぞ?」
カロル「どうしたんだろう…?」
576:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/12(金) 20:18:35 ID:J./Ghkr/nw
ルーボイ「帰ってきてからしばらく話してたけど、なに話してたの?」
メイキ「なんでもいいだろ。それより…」ジロッ
カロル「?」キョトン
メイキ「…出ていっとくれ」
カロル「え?」ビクッ
メイキ「聞こえなかったかい?出ていけって言ったんだよ」
カロル「おばさま…?」
ルーボイ「なに言ってんだよ、母ちゃん!」
メイキ「……」ジロッ
カロル「(冷たい目…。今まで何度も見てきた目だ…!)」
カロル「そっか。そういうことなんだ…」ボソッ
神父「おい、行くぞ!」
カロル「はい…」スクッ
ルーボイ「はぁ!?待てよ!」ガシッ
カロル「……」クルッ
メイキ「うちの息子に触んじゃないよ!」バチンッ
カロル「いっ…!」ヒリヒリ
ルーボイ「何してんだよ!?」
神父「……」
577:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/12(金) 20:20:32 ID:RneutkhE8s
メイキ「いいから!さっさと手を離しな!」
ルーボイ「意味分かんねーよ!母ちゃんまでおかしくなったのかよ!?」
カロル「やめて、ルーボイくん」
ルーボイ「へ?」
カロル「手、離して」
ルーボイ「お前までどうしたんだよ…?」
カロル「…離して」
ルーボイ「なっ…!」
カロル「ボク、行かなきゃいけないから、ね?」ニコッ
ルーボイ「…分かったよ。離せばいいんだろ?」パッ
カロル「ありがとう」ニコニコ
メイキ「外の井戸で手を洗ってきな!」
ルーボイ「な、なんでだよ?」
メイキ「汚いからに決まってるだろう!?」
ルーボイ「汚いってカロルのことかよ!?」
メイキ「いいからさっさと洗ってきちまいな!」
ルーボイ「ふざけんなよ!こいつは俺の友達だぞ!」
578:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/12(金) 20:23:57 ID:J./Ghkr/nw
カロル「お母さんの言う通りにして?」
ルーボイ「……!?」
メイキ「あんたが息子に指図すんじゃないよ!!」
カロル「すみません…」
メイキ「私たちを騙して…腹ん中で笑ってたクセにさ!」
カロル「……」シュン
ルーボイ「な、なんなんだよ?さっきまで、そんな事言わなかったじゃんか!?」
メイキ「あんたが隠してたからだろ!」
ルーボイ「なにがだよ!?」
神父「まぁまぁ、奥さん。そう声を荒げてはいかん」
メイキ「…あぁ、すみません」
神父「…気持ちは分かりますが冷静になられよ。母親が子供に不安を与えてはもとも子もない」
メイキ「…えぇ」
神父「ルーボイ君と言ったか。君もお母さんに対して少し言い過ぎだ」
ルーボイ「」ムスッ
579:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/12(金) 20:26:02 ID:RneutkhE8s
メイキ「もう…連れていってください」
神父「そうですな…」チラッ
カロル「分かってます」コクリ
ルーボイ「…カロル、どうしたんだよ?お前、なんか変だぞ?」
カロル「…なんでもないよ」
ルーボイ「……」
カロル「楽しかったよ!バイバイ?」フリフリ
ルーボイ「お、おう。またな…」
ガチャッ バタンッ
ルーボイ「」ポツン
メイキ「手、洗いなよ?」
ルーボイ「……」
580:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/12(金) 20:27:38 ID:RneutkhE8s
――村(民家周辺)――
神父「…む?お前の母親がおらんな?」
カロル「……」
神父「ここで待ってるように言ったのだがな」
カロル「…ボクがホビットなの、おばさまに話したんですか?」
神父「」ギクゥッ
神父「……し、知らんよ」
カロル「話したんですね?」ジト
神父「うっ!いや、待て!私はだな…!」アタフタ
カロル「気にしなくていいです」
神父「おっ?」
カロル「…一つだけお願いしていいですか?」
神父「な、内容にもよるが…言ってみろ」
カロル「お母さまには内緒にしてください」
神父「先ほどの事を、か?」
カロル「はい。心配かけたくないから…」
神父「ま、まぁ構わんが…」タジタジ
581:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/12(金) 20:29:25 ID:RneutkhE8s
スタスタ
母「あ、二人ともいたのね?」
カロル「お母さま!」
神父「……」
母「遅かったから、少し向こうで畑を見てたの。どれも立派に実って、素敵だったわ?」ニコニコ
カロル「そうだったんだ。待たせちゃってごめんなさい?」
母「いいのよ?それじゃ行きましょうか」
神父「うむ」
カロル「はーい!」
582:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/12(金) 20:31:59 ID:J./Ghkr/nw
母「それにしてもずいぶん長かったんですのね?」スタスタ
神父「む?ま、まぁアレだな…」スタスタ
母「アレ?」
神父「いや、その…ま、まぁアレだ」
母「何かあったんですか?」ジロリ
神父「」ギクギクッ
カロル「ボクが帰りたくないって、わがまま言っちゃったんだ。
それでみんなを困らせちゃって…。えへへ」
母「そうなの?」
神父「あ、あぁ!そうだ、そうだ!まったく手を焼かせおって!」
カロル「あはは。ごめんなさい」ニコニコ
母「怪しいわね…」
神父「な、なにぃ!?」
母「だって様子が……」
「おーい!!」タタタッ
母「」ビクッ
神父「ひぃっ」ビクッ
カロル「……?」クルッ
583:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/12(金) 20:33:48 ID:J./Ghkr/nw
ルーボイ「おい!カロル!」
カロル「ルーボイくん…?」
ルーボイ「母ちゃんの言ったこと、気にすんなよ!」
カロル「うん…」
母「……?」
ルーボイ「あ、カロルの母ちゃん!」
母「久しぶりね?元気だった?」ニコニコ
ルーボイ「おう!元気だぞ!」
母「そう?よかったわ?」ニコニコ
カロル「ルーボイくん、家に帰った方がいいよ。怒られるよ?」
ルーボイ「大丈夫だよ。手ぇ洗うっつってきたから!」
カロル「そうなんだ…」
ルーボイ「つーかお前、ひどいじゃんか!」
カロル「へ?」
ルーボイ「いきなりそっけなくしやがって!」
カロル「…ごめん。ああいう時はどうにもならないって知ってたから」
ルーボイ「ふん!ひでーよな。母ちゃんには後で言っとくよ!」
カロル「いいよ。しかたないことだもの」
ルーボイ「そんな訳にはいかねぇよ!」
カロル「それよりパッチくんを気にしてあげて?」
ルーボイ「……!」
カロル「ボクは宣教師さまを助けるから、ルーボイくんはパッチくんを、ね?」
ルーボイ「……よっしゃ!任せとけ!」グッ
カロル「お互いがんばろう!」グッ
母「」ニコニコ
神父「……」
584:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/12(金) 20:38:08 ID:J./Ghkr/nw
カロル「じゃあ、そろそろ行くね?」
ルーボイ「おう!またな!」
カロル「うん!また!」スタスタ
母「」スタスタ
神父「」スタスタ
ルーボイ「……」
ルーボイ「カロル!」
カロル「?」クルッ
ルーボイ「前に約束したよな?また遊ぶって!」
カロル「うん!」
ルーボイ「今日のは無しだぞ!パッチも宣教師様もいなかったから!」
カロル「……?」キョトン
ルーボイ「もし、このまま会えなくなったら約束破りだからな!」
カロル「……」
ルーボイ「宣教師様と一緒に帰ってこいよ!
その時にはパッチも見つけとくから、遊ぼうぜ!」
カロル「…うん!!」
ルーボイ「約束破ったら許さないからな!」
カロル「守るよ!絶対!」
ルーボイ「へへっ!」ニカッ
カロル「えへへ!」ニコッ
585:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/12(金) 20:39:37 ID:RneutkhE8s
タタタッ
母「行っちゃったわね」ニコニコ
神父「声のでかい子だ。さっきまで大ケガを負っていたとは思えん…」
カロル「ふふ!お母さま!神父さま!行こう?」タタタッ
母「あらあら、そんなに走って。転んでも知らないわよ?」ニコニコ
神父「急にはしゃぎおって…ケガ人を走らせる気か!」
カロル「ほら、はやくー!」
母「ふふふ!もう!しょうがない子ねぇ!」タタタッ
神父「だから!私はケガをしてると言っとろうが!」スタスタ
586:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/15(月) 18:17:10 ID:xrFLp2O0Vk
―――森―――
スタスタ
???「あー!お前、どこ行ってたんだよ!?」
ラム「…バンパ」
バンパ「全然戻ってこないから心配したぞ!」
ラム「ごめんごめん。ちょっとね」
バンパ「朝にはここに戻ってくるはずだったろ。
もう夕方だぞ!何してたんだ?」
ラム「たまたま同族を見かけてね」
バンパ「同族?俺たち以外のホビットがいたのか?」
ラム「うん。この森に住んでるんだってさ」
バンパ「なんでこんな所に?
自然豊かな田舎じゃあるけど、教団のお膝元だぞ?」
ラム「さぁね。そんなのボクの知ったことじゃないよ」
バンパ「なんだそりゃ?会ったんじゃないのか?」
ラム「…そんな事よりさ。シープは?」
バンパ「バカ!お前を探しに行ったに決まってるだろ!」
ラム「一人で?シープはまだ子供だよ?
バンパが探しに行けばよかったじゃないか」
バンパ「交代で探してたんだよ!
それに黙っていなくなったお前が言う事じゃないだろ?」
ラム「…それもそうだね」
587:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/15(月) 18:22:15 ID:6Oet8Id.lc
ラム「でも黙っていなくなった訳じゃないよ?
人間の臭いがする所にいたくなかっただけ」
バンパ「お前はいっつもそう言って、屋内で寝たがらないよな?」
ラム「逆に聞きたいね。なんであんなとこで寝れるんだい?」
バンパ「どこで寝ようが同じだろ。ちょうど人間もいなかったしな」
ラム「ふーん…」
バンパ「そういえばお前がいない間にシープがやってくれたぞ?」
ラム「何を?」
バンパ「ずっと追ってたクズ野郎を殺したんだよ!」
ラム「…ヘマトの人間?」
バンパ「おう。奴の方からのこのこ教会に来たらしい。
罠を張っておいて正解だったな!」
ラム「罠って言っても入り口に紐を張っただけだろ?」
バンパ「あぁ。だがそれが活きた!俺の作戦勝ちだな!」
ラム「なに言ってんのさ。どうせ何もしてないんだろ?」
バンパ「うっ…し、しょうがないだろ!俺は寝てたんだから!」
ラム「…いい大人が子供に見張り任せて寝てるんだもん。情けないよ」ヤレヤレ
バンパ「う、うるさいな!ちゃんと交代してんだからいいだろ!
それにお前がわがまま言わなきゃ3人で交代出来たから、1人が寝る時間も増えるんだぞ!」
ラム「それは悪かったね」
バンパ「シープの奴も始末した後、俺を置いてきぼりにしかけたし、お前らって俺に冷たいよな」ブツブツ
588:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/15(月) 18:25:20 ID:/c7iUBA6B6
ラム「それで死体はどうしたの?」
バンパ「ん?そのままだよ。
人間なんか埋めてやる気も起きないしな」
ラム「ふーん。いいの?足がつくかもしれないけど?」
バンパ「別にいいだろ。どうせすぐに別のとこに行くんだから」
ラム「能天気だよね、ホント。あんまり目立ちたくないのにさ」
バンパ「お前に言われたくないよ。いつも真っ先に人間を襲うくせに」
ラム「僕は見境なくやってる訳じゃないし、場所と状況は弁えてるつもりだよ」
バンパ「よく言うぜ…」ハァ
589:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/15(月) 18:29:35 ID:/c7iUBA6B6
バンパ「そういやさっき言ってた奴はどうしたんだ?
せっかく同族を見つけたのに連れて来なかったのか?」
ラム「ん…気が合わなかったから」プイッ
バンパ「おいおい、気が合わないって…。
俺たちの目的は同じように苦しんできた仲間を助ける事だろ?」
ラム「……」
バンパ「…大事な仲間を、そんな理由で見捨てるのか?」
ラム「…その子は同族より、人間の方が好きみたい」
バンパ「へ?な…な…あんだって?」キョトン
ラム「人間と友達だって。嬉しそうに話してたよ?」クスクス
バンパ「な、なんだそいつ…!そんな奴がホントにいるのか?」
ラム「バカな奴だよね。"傷付け合うのは間違ってる"だって?
綺麗事で自分をごまかしてる。たまたま少しうまくいってるだけなのに」
バンパ「…確かにな。バカだ」
ラム「それとなく連れてこようと思ったんだけど…やめといたよ」
バンパ「あぁ。それがいいよ。そんな奴は仲間じゃねぇ」
ラム「……」
バンパ「同族とは思えないな…。今もどこかで仲間が人間に苦しめられてるのによ…」
ラム「…ふふ。きっといつか気付くだろうけどね。
痛い目にあってから後悔したって遅いんだ…」
590:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/15(月) 18:33:20 ID:/c7iUBA6B6
バンパ「それにしてもシープの奴、遅いな?どこまで行ったんだ?」
ラム「シープなら人間に見つかるような事は無さそうだけど心配だね」
バンパ「お前が勝手に歩き回るからだろ?迷ったんじゃないだろうな…」
ラム「……」
ガサッ
シープ「あー!ラムったらどこに行ってたの!?」
ラム「シープ!」
シープ「ずっと探してたんだから!心配したんだよ?」
ラム「ごめん。色々あってね」
バンパ「同族に会ったんだってよ?」
シープ「えー!ホント!?」
ラム「余計なこと言わないでよ?」
バンパ「まぁまぁ?俺たちの間で隠し事はなしだろ?」
ラム「そうだけどさ…」
シープ「どこにいるの!もちろん連れてきたんでしょ?」
バンパ「いや、訳あって仲間にはしなかった」
シープ「どうして?ボクも会いたいよ!」
ラム「その子は人間が好きなんだってさ。僕たちとは合わないだろ?」
バンパ「そういうことだ」
シープ「なにそれ?人間が好きって…本気なの?」
ラム「どうだろう?僕には嘘を言ってるようには見えなかったけど?」
シープ「…じゃあ仲間じゃないね」
591:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/15(月) 18:36:45 ID:6Oet8Id.lc
バンパ「変わってるよな?俺もラムから聞いた時は驚いたぜ」
シープ「殺そうよ、そいつ」
バンパ「は?」
シープ「だって人間の仲間でしょ?」
バンパ「おいおい、簡単に言うなよ?」
シープ「いいじゃん。殺そうよ!」
ラム「……?」
シープ「今までだってそうだったじゃない?」
バンパ「そりゃ人間相手の話だろ?
しかもホビットを虐げる人間に限って、だ」
バンパ「生きる為に行商人や旅人を襲った事もあるけど、意味のないことはしてこなかったじゃないか」
シープ「…二人とも優しすぎるよ?人間はみんな敵でしょ?
そいつはボクらをいじめる人間の仲間なんだよ?」
バンパ「そうとは限らんだろ?
村の子供とか、俺たちにまだ偏見を持ってない人間と仲良くして勘違いしてるだけかもしれないしな」
シープ「同じだよ。ボクは生まれた村で同い年の人間の子供にたくさん、いじめられてきたもん」
ラム「……」
592:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/15(月) 18:39:00 ID:/c7iUBA6B6
バンパ「だからって見境なく殺すのは人間と同じだぞ?
俺たちはあいつらとは違うだろ?」
シープ「どうして?昨日の夜にあいつを殺した時は褒めてくれたよね?」
バンパ「だから、それは状況がだな…」
シープ「ねぇ、聞いてよ。ラム!ボク昨日、初めて1人で人間を殺したんだよ?」
ラム「うん。さっきバンパから聞いた」
シープ「すっごく楽しかったんだ!
今までずっとあいつが怖かったのに、全然怖くなかった!」
ラム「……」
バンパ「待てよ。楽しいってのは間違ってるぞ?
俺たちは快楽の為に人殺しをしてる訳じゃないんだぞ?」
シープ「違うよ!そういうんじゃない!
悪い奴をやっつけるのって正義の味方みたいでかっこいいじゃん!」キラキラ
バンパ「おいおい…」
シープ「人間の数だけ悪い奴がいるんだ!みんなやっつけようよ!?」
バンパ「おとぎ話じゃないんだぞ?
悪い奴をやっつけたって解決しないし、世の中そんなに簡単じゃない」
シープ「なんでさ!」プンスカ
バンパ「お前はまだ小さいから分からないだろうな?」
シープ「むぅ…子供扱いしないでよ?」
バンパ「へっ!俺から見りゃガキだよーだ!」ケラケラ
シープ「なんだよ、もう!」
593:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/15(月) 18:41:27 ID:6Oet8Id.lc
バンパ「ラムからもなんとか言ってやってくれよ?」
シープ「ラムなら分かってくれるよね!?」
ラム「…僕としては反対かな。そこまでする事ないよ」
シープ「えー?なんで?」
ラム「別にあの子が人間と仲良くしても僕らには関係ないしね」
シープ「ぅー…」ムスッ
バンパ「そういうこと!分かったら、さっさと出発するぞ?
だいぶ時間もくっちまったしな」
シープ「どこに行くの?」
バンパ「はぁ…前に言っただろ?」
シープ「覚えてない!」キッパリ
バンパ「……」
594:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/15(月) 18:44:06 ID:6Oet8Id.lc
ラム「東に向かうんだ。エルマーっていうホビットの集落があるはずだからね」
シープ「あ、そうだった!」
バンパ「しっかりしてくれよ…。
エルマーに行けば仲間を集められるかもしれないんだぞ?」
シープ「ふーん!けど、今から行くの?」
バンパ「そうだよ。死体はあのままだし、人間達が追ってくるかもしれないからな」
シープ「ボク、くたくたなんだけど」ジト
バンパ「わがまま言うな!」
シープ「だってさっきまでラムを探しに行ってたんだよー?」
バンパ「くっ…別に歩けるだろうが!ちょっとの辛抱だ!」
シープ「やだー!歩きたくなーい!おんぶしてよー!」ジタバタ
バンパ「くっそー…!」イライラ
ラム「おぶってあげれば?」
バンパ「はぁ!?元はといえばお前のせいなんだから、お前がやれよ!」
ラム「やだね。僕も疲れるのは嫌いだもん」ツーン
バンパ「こ、こいつ…!」イライラ
シープ「バンパー!はやくー!」ジタバタ
バンパ「……!」イライラ
595:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/15(月) 18:46:39 ID:6Oet8Id.lc
バンパ「分かったよ!おぶりゃいいんだろ!おぶりゃ!」シャガム
シープ「わーい!」ガバッ
ラム「さ、行こうか?」
バンパ「お、おう…!」ググッ
シープ「うん!」ギュッ
ラム「辛そうだね?」
バンパ「(そう思うなら変われっつの!)」
シープ「楽チン、楽チン!」ニコニコ
ラム「……」
ラム「(これで本当にお別れだね、カロル君…)」
バンパ「どうした?」
ラム「なんでもないよ。行こう」スタスタ
バンパ「おう!」スタスタ
シープ「レッツゴー!」ニコニコ
596:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/16(火) 20:26:07 ID:88ff4WVCKM
―――大聖堂(書斎)―――
ドカッ!
ダガ「あんのガキぃ〜…!」イライラ
付き人2「……」ペラ
ダガ「があぁぁ!!」ドカッ
付き人2「静かにしてもらえない?
本に集中出来ないんですけど?」
ダガ「あぁ?」ギロッ
付き人2「ここは神聖なる書物が並ぶ書斎よ?
壁を蹴ってストレスを発散する場所じゃないの」
ダガ「うるせぇよ…」
付き人2「あなたって本当に単細胞よね?
分も場所も弁えられない。そんなだから出世も出来ないのよ」
ダガ「今なんつった!?」ガタンッ
付き人2「あら、何か聞こえまして?」ペラ
ダガ「お前まで俺を怒らせる気か…?」イライラ
付き人2「……」ペラ
ダガ「なんとか言ったらどうだ?おう?」
597:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/16(火) 20:27:22 ID:88ff4WVCKM
付き人2「あなたって野蛮よね。
長い付き合いだけど、同じ教団員として理解しかねるわ?」
ダガ「なんだとぉ…?」ピキッ
付き人2「……」パタン
ダガ「なんだ。読書は終わりか…?」
付き人2「これ以上、当たられても困るから聞いてあげる」ジーッ
ダガ「当たられてもだぁ?俺がいつ当たった?」
付き人2「いいから話してごらんなさい?」
ダガ「ちっ!」
598:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/16(火) 20:28:42 ID:lGG2TOSiaY
(>>478-482)
ダガ「って事があってよ…」
付き人2「どうせそんな事だろうと思ってたけど…」ハァ
ダガ「あのガキだけは許せねぇ…!」ググッ
付き人2「あなたも司祭様も、何が楽しくてあんな小娘に執着するの?」
ダガ「執着なんざしてねぇよ。気に入らねぇだけだ」
付き人2「ますます分からない。ほっとけばいいじゃないの?」
ダガ「ほっとけるか!あからさまに司祭様から贔屓されてやがるんだぞ!」
付き人2「要は嫉妬してるのね?」
ダガ「嫉妬じゃねぇ!あのガキみてぇな事を言ってんじゃねぇよ!」
599:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/16(火) 20:30:13 ID:88ff4WVCKM
付き人2「それで、あなたはどうしたいわけ?」
ダガ「あのガキをぎゃふんと言わせて目の前に跪かせてやりてぇ…!」
付き人2「はぁ…まるで子供ね…」
ダガ「なに…!?」イラッ
付き人2「あの娘は牢に押し込められた立派な罪人よ?
今となっては躍進も望めない。その内いなくなるでしょう?」
ダガ「だが、司祭様に裁く意思は見られねぇ…」
付き人2「そうね…。少しお灸を据える程度に考えてらっしゃるでしょうね」
ダガ「気に入らねぇな…。奴はホビットの味方をした上に司祭様に歯向かいやがった…。
重い罰を与えてしかるべき罪だ…」
付き人2「それを決めるのは私達じゃない」
ダガ「くっ…」ギリッ
600:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/16(火) 20:31:31 ID:88ff4WVCKM
ダガ「お前はなぜ納得できる?目障りだと思わねぇのか?」
付き人2「納得してる訳じゃないわ?司祭様のお考えに沿ってるだけよ」
ダガ「……」
付き人2「それに私はあなたと違って、ただの護衛じゃないの」
ダガ「ふ…。そりゃ失礼したな。補佐さんよ…?」
付き人2「腐らないでよ?別にあなたを見下したりはしてないわ?」
ダガ「どうだか…?」
付き人2「はぁ…。しょうがないわね…」
ダガ「あ…?」
付き人2「私に任せといて。同僚のよしみでなんとかしてあげる」
ダガ「? どうする気だ…?」
付き人2「ちょっと頭を使えば、あんな小娘を陥れるくらい簡単よ」ニヤリ
ダガ「……?」
601:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/18(木) 19:29:48 ID:4YUZHqrID.
―――大聖堂(牢屋)―――
ジョー「…く…ぁぁ…」ノビッ
ジョー「(さすがに2日の見張りはキツいな…)」
ジョー「(俺に断りもなく逃げ出す心配はなさそうだし、休憩がてら広間の食事場で一服してもいいんだが…)」
ジョー「(一人で見張るって言っちまっただけに、ここを離れると誰もいなくなるしな…)」
ジョー「(そうなったら万が一、何かがあった時にまずい…)」
ジョー「」チラッ
宣教師「……」オロオロ
ジョー「牢屋ん中を動き回ってもなんにもならないぞ?」
宣教師「仕方ないでしょう。心配なのですから…!」ムッ
ジョー「神父がホビットを連れてくるのも間もなくだろうな。いい加減、諦めろって?」
宣教師「諦めるとか諦めないの問題ではありません!」
ジョー「そりゃあんたからしつこいくらい、たっぷりと話も聞いたし、悪い奴らじゃないんだろうけどさ」
宣教師「当たり前です!あの親子に責めるべき点などありません!」
ジョー「はぁ…何言ってもコレだ…」
宣教師「うまく逃げてくれていればいいのですが…」
602:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/18(木) 19:34:00 ID:.tgHhz2SVw
ジョー「…2日も牢屋に籠ってるのに、よく不満も言わずにホビットの心配なんか出来るよな?」
宣教師「それは…ここでは暖かな食事にありつけますし、ジョーさんも良くしてくださいますから…」
ジョー「あぁ…そりゃそうかもな」
宣教師「何か含みがありそうな言い方ですね?」
ジョー「…まぁ言っても差し支えはないか」
宣教師「……?」
ジョー「司祭様にそうするよう言われたんだよ」
宣教師「司祭様が…ですか?」キョトン
ジョー「もちろん俺が見張りを一人で買って出たのは別だぜ?
でもまぁ飯と着替えは司祭様のお情けってやつだ」
宣教師「なぜです?」
ジョー「そりゃあんたがお気に入りだからだろ?」
宣教師「…それが分かりません。
確かに以前、ジョーさんがおっしゃったようにある程度の気遣いは頂いてたかもしれませんがお気に入りは大げさです」
ジョー「全然、自覚がねぇんだもんな…」ヤレヤレ
宣教師「自覚も何も…」
ジョー「たかだか1布教者である、あんたの為にわざわざ村まで足を運んでくださってたんだぞ?」
宣教師「たまたま身近な場所で布教をしていたので、足を運びやすかっただけでは…?」
ジョー「そんな訳があるかよ。司祭様の忙しさはあんたのがよく知ってるだろ?」
宣教師「……」
603:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/18(木) 19:37:00 ID:4YUZHqrID.
ジョー「なんだかんだ言って今もあんたを心配してくださってるんだ。
あんたも本当のとこは分かってるんだろ?」
宣教師「……」
ジョー「分からないとは言わせないぞ?」
ジョー「あんたは俺に見てみぬふりをするなと言ったよな?」
ジョー「そのあんたが司祭様の思いやりから目を背けるのか?」
宣教師「……」
ジョー「まぁ…俺には関係ねぇけどさ」プイッ
カツンカツン カツンカツン
ジョー「ん?また誰か来たのか?ダガ様といい、今日は珍しいな」
宣教師「……」
604:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/18(木) 19:38:32 ID:.tgHhz2SVw
トト「よう!」
ジョー「おう!なんだ、トトじゃねーか!」
トト「調子はどうだ?」
ジョー「別に変わらねーよ。お前こそ地下くんだりまで何しに来たんだ?
確かシスター達と一緒に雑用を任されてるはずだろ?」
トト「お前が見張りを一人で買って出たおかげでな!」
ジョー「はは!わるいわるい!」
トト「シスター達はダメだよ。あいつら、昨日神父が連れてきた犬に夢中でさ」
ジョー「あぁ。例のホビットの飼い犬か」
トト「女ってのはなんでああ犬が好きなんだろうね?
あきれちまってモノも言えねぇよ」
ジョー「犬に限らねーよ。かわいいモンが好きなんだろ」
トト「しまいにゃ神への信仰よりかわいいモンを取るんじゃないかって勢いだぜ?」ヘラヘラ
ジョー「はははは!」
605:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/18(木) 19:40:13 ID:4YUZHqrID.
トト「この人が噂の宣教師か?」
ジョー「あぁ」
宣教師「……」ペコリ
トト「ほうほう…。結構キレイな人じゃねーか?」コショコショ
ジョー「そうか?あれで意外と気が強いんだぜ?」コショコショ
トト「お前が一人で見張りを買って出たのも分かる気がするよ」ニヤニヤ
ジョー「バカか!そんなんじゃねーよ!」
トト「おいおい、聞こえちゃうぞ?」ニヤニヤ
ジョー「くっ…!」チラッ
宣教師「……」
ジョー「」ホッ
トト「聞いてないな。考え事でもしてんのかな?」
ジョー「知らねーよ…」
トト「あーあ、つまんねーの」ムスッ
ジョー「お前なぁ…」ハァ
606:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/18(木) 19:43:54 ID:.tgHhz2SVw
ジョー「結局お前は何しに来たんだよ?」
トト「おっと、忘れんとこだった!これこれ!」つ【手紙】
ジョー「なんだ?」キョトン
トト「お前のお袋さんからだってよ。さっきアリアス様から受け取ったんだ」
ジョー「アリアス様が?」
トト「おう。届いたはいいが手が空かなくて渡せそうにないからと、代わりに頼まれたんだよ」
ジョー「嫌な予感がするなぁ…。朝にダガ様と揉めたばっかだぜ?」
トト「そうなのか?」
ジョー「アリアス様はダガ様と共に司祭様の付き人をしてるだろ?
ダガ様に頼まれて嫌がらせしようとしてるとか…」
トト「アホか!そんな暇な人じゃねーだろ。
アリアス様はダガ様と違って、いろいろ任されてんだからよ!」
ジョー「うーん。それもそうか…」
トト「2日も地下に籠って疲れてんじゃねーの?」
ジョー「そうかもな…」
トト「なんなら今からでも見張りを代わってやろうか?」
ジョー「いや、いいよ。ありがとな!」
トト「ならいいけどよ。俺も雑務が残ってるから、もう行くぞ?」
ジョー「おう、すまなかったな!」
トト「気にすんなって!」
カツンカツン
607:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/18(木) 19:50:33 ID:4YUZHqrID.
ジョー「…お袋から、か」
宣教師「…手紙ですか?」
ジョー「ん?なんだ、聞いてたのか?」
宣教師「すみません。聞き耳を立てるつもりはなかったのですが…」
ジョー「別にいいよ。地下だし、この距離で聞こえない方がおかしいしな」
ジョー「ん?」
宣教師「どうしたのですか?」
ジョー「い、いや…」
宣教師「?」キョトン
ジョー「(この様子じゃトトの軽口は聞いてなかったみたいだな…。助かったぜ…)」ホッ
宣教師「ところで、その手紙は前におっしゃっていた…?」
ジョー「あぁ。故郷に置いてったお袋からだ」
宣教師「……」
ジョー「…自分を見捨てたバカ息子に今さら、どうしたんだろうな…」
宣教師「お母様はジョーさんがここにいる事を知っていたのですね?」
ジョー「…出てく時に俺を連れてってくれた神父さんに事情を説明してもらったからな」
宣教師「ふふ…連絡出来る手段を残してから行くなんて、優しいジョーさんらしいですね?」ニコッ
ジョー「そんなんじゃないよ。ガキながらに義理を通しただけだ」
宣教師「……?」
ジョー「どうせお袋もあのままだろうし、きっちり関係を清算しとこうと思ってな」
宣教師「そう、ですか…」シュン
ジョー「あれから10年以上経つけど、生きてたのか…」
ジョー「俺がいなくなった後はどうしてたんだろう…」
608:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/18(木) 19:53:50 ID:.tgHhz2SVw
ジョー「」ビリッ カサッ
ジョー「……」ペラッ
宣教師「……」
ジョー「……」
ジョー「…なるほどな」カサッ
宣教師「なんと書いてあったのですか?」
ジョー「正確にはお袋からじゃないらしい」
宣教師「どういう事でしょう?」キョトン
ジョー「俺がいなくなって数年くらいした時、痩せはてた畑を引き取ってくれた人がいたんだと。
この手紙はその人が代理で書いたもんだ」
宣教師「ふむふむ」コクコク
ジョー「今までその人がずっとお袋の面倒を見てくれてたんだってよ」
宣教師「…それは、いわゆる恋仲ですか?」
ジョー「だろうな。たくましいもんだよ」
宣教師「…ま、まぁ希望を見いだせていたようで何よりではありませんか…?」アセアセ
ジョー「はっ!親父が死んだら息子の俺をほっといて引きこもってたクセによ。
俺がいなくなったら新しい男を作って幸せにしてやがった訳だ?」
宣教師「ジョーさん…」
609:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/18(木) 19:56:08 ID:4YUZHqrID.
ジョー「しかも帰って来てほしいんだとよ?ふざけやがって!」ビリッ
宣教師「」ビクッ
宣教師「何を…!?」
ジョー「こんな手紙、いらねぇよ!」ビリビリ
宣教師「……!」
ジョー「はぁっ…はぁっ…!」
宣教師「じょ、ジョーさん…」
ジョー「くそっ…」
宣教師「帰ってはあげないのですか…?」
ジョー「今の俺を見てお袋に会いたがってるように見えるか?」
宣教師「いえ…。ですが、今になって手紙が送られたという事は何かあったのでは…?」
ジョー「…病気だ。何年も前から患っていたんだと」
宣教師「……!それでしたら…」
ジョー「会ってやれってか?無責任なことを言うな!」
宣教師「しかしお母様はあなたに会いたがっているのでしょう?」
ジョー「知るか!都合のいいように使われるのはごめんだ!」
宣教師「なぜですか…!たとえ、わだかまりがあったとしても肉親なんですよ…!」
ジョー「さんざん身勝手にしてきた挙げ句に…最後くらい息子に看取られて逝きたいってか!?」
ジョー「あぁいいじゃねぇか!愛してる男もいて、息子への未練もスッパリ断ち切れて幸せかもな!?」
ジョー「けど俺はどうなんだ?」
ジョー「お袋を満足させる為に仕事をほったらかして、わざわざ痩せ細った姿を見て!和解して!」
ジョー「死んでいくのを眺めながら、知らねぇ男と一緒に涙ぐめってのか!?」
ジョー「他人から見る分には最高のお涙ちょうだい劇かもしれねぇな?」
ジョー「だが当人からすりゃ、ただの茶番だ!!」
宣教師「……」
610:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/18(木) 20:00:25 ID:.tgHhz2SVw
ジョー「それでもあんたは行けって言うのか…!」
宣教師「……」
ジョー「どうなんだよ?答えろよ!?」
宣教師「…また後悔したくはないでしょう?」
ジョー「……!?」
宣教師「あなたは過去にホビットの少女の命を奪って、これまで後悔の念に苦しみ続けてきたはずです…」
ジョー「っ…」
宣教師「同じ事をまた繰り返すつもりですか…?」
ジョー「だけど…!」グッ
宣教師「行くか、行かないかを決めるのはジョーさんです」
宣教師「ですが決められるのは今だけ…。選択をする機会は二度と戻りません」
ジョー「そんなの…分かってるよ…!」
宣教師「……」
ジョー「だけどな…。どういう顔をしたらいいんだ!?」
ジョー「俺はお袋を捨てた…!」
ジョー「たとえ和解出来ても、いつ来るか分からない別れに怯えなきゃならない!」
ジョー「そんな状況で…笑顔の一つも見せられそうにねぇよ…!」
611:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/18(木) 20:02:32 ID:4YUZHqrID.
宣教師「取り繕う必要はありませんよ。
ありのままのあなたでいいのです」
ジョー「いい訳がないだろ!俺は…俺は…!」ググッ
宣教師「お母様もきっと今まで通りのあなたを望んでいるはずです」
ジョー「…そんな事がなんであんたに分かるんだよ!?」
宣教師「もちろん分かっていません。分かってはいませんけど…」
ジョー「……?」
宣教師「…少なくとも他人に向けるような笑顔で接してくるあなたと会うより…」
宣教師「素直になれなくても親子として向き合おうとするあなたに会いたいのではないでしょうか?」
ジョー「っ…!」
宣教師「別れは確かに悲しいですが、最期の願いを聞き入れずにとどまったとしても、より強い後悔を残すだけだと思います」
宣教師「ジョーさんの決める事ですから、どうしても行かないとおっしゃるのなら、それでも構いません」
宣教師「……でも同時に傷付くあなたを、私は見たくありません…」
ジョー「くっ…!」
宣教師「…これ以上の事は言いません。余計な口出しをしてすみませんでした…」
ジョー「……」カツンカツン
宣教師「? どこへ?」
カツンカツン カツンカツン
宣教師「……」
612:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/19(金) 21:36:56 ID:hEL1ryUmTQ
―――大聖堂(通路)―――
ダガ「(あのガキを貶めるのは簡単だなんぞとアリアスは言いやがったが…)」
ダガ「あんなやり方でうまくいくもんなのか…?」ウーン
ジョー「」スタスタ
ダガ「!」ギョッ
ジョー「……」
ダガ「(ほ、本当に来やがった…!)」
ダガ「ふ…」ニヤリ
ジョー「……」
ダガ「おい、ジョー。俺の前を素通りはねぇんじゃねーか?」
ジョー「あっ…!」ビクッ
ダガ「なんだ、今さら気付いたのか?」
ジョー「い、いえ…挨拶が遅れて申し訳ない」ペコリ
ダガ「嫌な奴に会ったってぇツラだな?」
ジョー「そ、そんな事はありませんよ!」
ダガ「まぁいい…」
ジョー「で、では俺はこれで…」
ダガ「ところでお前、見張りはどうした?」
ジョー「」ギクッ
613:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/19(金) 21:39:52 ID:y3moFeW55g
ダガ「まさか一人でやるなぞと息巻いといて、サボってんじゃねぇだろうなぁ?」
ジョー「よ、用が終わったら、すぐに戻りますんで!」
ダガ「ほう…。なんだ?その用ってのは?」
ジョー「し、私用で司祭様の耳に入れたい事があるんスよ!」
ダガ「それなら俺が代わりに聞いてやるよ。
司祭様は今、司教様達と共に話し合いの場を開いておられるからな…」
ジョー「あ、いや…でもなぁ…?」アセアセ
ダガ「俺じゃ不服か?」
ジョー「ちがいます!ちがいます!」アタフタ
ダガ「ふ…。まぁいいぜ。俺で不満ならアリアスに言ったらどうだ?」
ジョー「アリアス様…!そうッスね!アリアス様なら…」
ダガ「……」
ジョー「あ、ちがいます!アリアス様ならっていうのはそういう意味じゃ…!」
ダガ「アリアスなら書斎にいるはずだ」
ジョー「へ…?」
ダガ「急ぎの用ならさっさと済ませろ。あいつは中々手が空かねぇからな…」
ジョー「…はっ!恩に着ます!」タタタッ
ダガ「……」
ダガ「ふ…ふふ…!本当にあいつの言う通りになりやがった…!」ニヤリ
ダガ「アリアスに頼って正解だったな…」ニヤニヤ
614:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/19(金) 21:41:55 ID:y3moFeW55g
ジョー「ここが書斎か…。俺には縁のないとこだと思ってたが…」ガチャッ
ジョー「」ソーッ キョロキョロ
ジョー「…いないな…ん?」
ジョー「あぁ、そういう事か」
ジョー「名簿に借りた本の題名と名前を入れて、指定した個室で自由に読むシステムなんだな」
ジョー「めんどくさいが名簿から探すか…」
ジョー「えー…アリアス…アリアス…と」
ジョー「2の読室か…」
ジョー「ふー…緊張するぜ」スーハースーハー
615:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/19(金) 21:46:01 ID:y3moFeW55g
コンコン
付き人2「…どうぞ」ペラ
ジョー「失礼」ガチャッ
付き人2「この書室は使用中よ。名簿に書いてなかった?」
ジョー「はっ!申し訳ございません!」
付き人2「……」ペラ
ジョー「…実はアリアス様にお願いしたい事がありまして…」
アリアス「お願いしたいこと…?」
ジョー「はい。先ほどトト越しに受け取った手紙なのですが…」
アリアス「あぁ…。あなたの母親の?ちゃんと届いたでしょう?」
ジョー「…えぇ。感謝します」ペコリ
アリアス「お礼ならいいわ。それより用件を言ってくれる?私は資料に目を通したいんだけど?」
ジョー「は、はい!申し訳ありません!」
616:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/19(金) 21:46:56 ID:hEL1ryUmTQ
アリアス「それで?」
ジョー「…しばらく休暇を頂きたいんです」
アリアス「……」
ジョー「許可をもらえないでしょうか?」
アリアス「理由を聞かない事には、なんとも言えないわね」
ジョー「母が病気を患って倒れているそうで…見舞ってやりたいんです」
アリアス「…そう。それはお気の毒ね」
ジョー「お気の毒…?」ピクッ
アリアス「ごめんなさい。言葉が悪かったわね」
ジョー「い、いえ…。そういう訳で休暇を頂けないでしょうか?」
アリアス「えぇ…構わないけど」
ジョー「あ!ありがとうございます!」ペコリ
アリアス「ただし二日よ」
ジョー「えっ」
617:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/19(金) 21:50:10 ID:y3moFeW55g
ジョー「ふ、二日…ですか?」
アリアス「そうよ」スッ
ジョー「お、お言葉ですが俺の故郷は西の領土にあるんです…」
アリアス「それで?」ペラ
ジョー「それでって…二日で見舞いに行ける距離じゃないでしょうが!」
アリアス「そうかしら?乗り物を使えば不可能ではないと思うけど?」
ジョー「乗り物なんかどこにあるんですか!?」
アリアス「村を越えた先を東に4時間も歩けばミラルドの町があるでしょ。
あそこでなら馬やベルメロを売ってくれる家畜商もいるわよ」
ジョー「馬…ましてやベルメロなんて一介の牢屋番じゃ手が届きませんよ!」
アリアス「貯金から切り崩せばいいじゃない?」
ジョー「そんな…!俺の貯金じゃ、とてもじゃないが無理だ!」
アリアス「計画性がないのね。なら諦めたら?」
ジョー「あ、諦めろだって!?」
アリアス「無理だと言ったのはあなたよ?諦めるしかないじゃない?」
ジョー「あ、あんたなぁ!こっちは親の死に目がかかってるんだぞ!?」
アリアス「……」ペラ
ジョー「おい!聞いてんのかよ!?」
アリアス「……」
618:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/19(金) 21:52:57 ID:y3moFeW55g
ジョー「本なんか読んでないで聞けよ!!」
アリアス「なぜ?話は終わったはずよ?」
ジョー「バカ言うな!いつ話が終わったんだよ!?」
アリアス「何が不満なの?
私はあなたの希望通り、休暇を与えたし、助言もしてあげたでしょ?」
ジョー「き、休暇はたったの二日!助言は何も役立ってないだろ!」
アリアス「…さっきから鼻息荒く喋ってるけど、あなたは誰に口を利いてるの?」
ジョー「へ…?」
アリアス「あなたは雇われの牢屋番、私は本部の重役よ?」
ジョー「う……」
アリアス「…こんな事は言いたくないけれど、あなたの態度は少し度が過ぎてる」
ジョー「す、すみません…」
アリアス「自分でも思い当たらない?」
ジョー「は、はい。あまりに失礼な振る舞いでした…」
アリアス「…まぁいいわ。この際だから色々と教えてあげる」
ジョー「は…?」
619:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/19(金) 21:54:42 ID:hEL1ryUmTQ
アリアス「まずあなたは組織に属してる事を知りなさい」
ジョー「……」
アリアス「組織とは大小や様々な系統はあれど、人と人が集まる場所」
アリアス「その中でそれぞれが自身の能力に合った働きをしている」
アリアス「そして足りない物を補う為に協力し合ってるの」
アリアス「当然、対人関係は大切になるわ?」
アリアス「あなたは対等の立場でない私に対して声を荒げたわよね?」
ジョー「はい…」
アリアス「つまり対人関係に気を配っていないと言えるわ」
ジョー「い、いえ…そんなつもりじゃ…」
アリアス「あなたにその気がなくても私にはそうとしか捉えられないの。分かる?」
ジョー「……」
620:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/19(金) 21:57:45 ID:y3moFeW55g
アリアス「更に付け加えて言うなら、組織に身を置く人間として責任を自覚なさい」
ジョー「なっ…責任は持ってますよ!」
アリアス「はたしてそうかしら?」
ジョー「……?」
アリアス「あなたは極めて個人的な理由で休暇を申し立てたにも関わらず、与えられた日数に不満を漏らしている」
ジョー「だって…」
アリアス「なに?」
ジョー「こ、個人的かもしれないけど…俺にとっては外せない。一生後悔するかもしれない事なんです…」
アリアス「気持ちは分かるわ。たった一人の親ですものね?」
ジョー「……」
アリアス「けどね。あなたの事情を汲んでも二日の休暇、それが限界よ」
ジョー「……!」
アリアス「…あなたの空いた穴を埋めるのは簡単よ?
けれど一人の個人的な事情で長期の休暇を許せば、全体に堕落した意識が根付くかもしれない」
アリアス「誰もが自由に持ち場を空けて休んでも許されるようなぬるい空気になられても困るの」
ジョー「大げさですよ…」
アリアス「大げさなくらいがいいのよ。宣教師のような例もあるのだし」
ジョー「……」
621:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/19(金) 22:01:44 ID:hEL1ryUmTQ
アリアス「そういう事だから、あなたにとって望ましい回答は出来ない」
アリアス「それでもまだ不満があるなら聞いてあげる」
アリアス「私は筋を通しているし、最大限に譲歩する努力はしたわ?」
アリアス「…さぁ何かある?
出来れば、これ以上の時間を奪われたくはないのだけれど?」
ジョー「いえ…」
アリアス「そう?納得してもらえてなによりね」
ジョー「……」
アリアス「出ていってくれる?
私はあなたと違って片付けなければならない事が山ほどあるの」
ジョー「はっ…」ガチャッ
バタンッ
622:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/19(金) 22:03:25 ID:hEL1ryUmTQ
ジョー「くっ…!」
ジョー「(ちくしょう…!)」グッ
ジョー「たった二日でどうしろって言うんだよ…」
ジョー「……」トボトボ
ダガ「おっ」
ジョー「」トボトボ
ダガ「ふ…。今にもくたばりそうなツラしてやがる…」
623:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/19(金) 22:04:31 ID:y3moFeW55g
ガチャッ
ダガ「……」
アリアス「ノックくらいしてくれる?」ペラ
ダガ「うまくやったみたいだな?」
アリアス「当然でしょ?」
ダガ「ジョーの野郎、ひどく沈んでたぜ…?」
アリアス「それは悪いことをしたわね」
ダガ「ふ…お前もなかなかえげつねぇなぁ?
母親の手紙を偽って寄越すとはよ」
アリアス「……」ペラ
ダガ「ありゃ全部でたらめなんだもんなぁ?」
アリアス「……」
ダガ「ふ…。しかしあんな手紙に本当に乗せられるとは思っちゃいなかったが…」
アリアス「あの小娘がいなければ成立しなかったでしょうね」
ダガ「ククク…。あぁ、あのガキのくだらねぇ正義感とおせっかいが役に立ったな…」
アリアス「あとはジョーの弱味をちらつかせて小娘を脅すだけね」ペラ
ダガ「…そこはどうなんだ?」
アリアス「問題ないわよ。あのタイプは自分より他人を優先するはず」
ダガ「…はっ?いわゆる偽善者って奴だ?」
アリアス「あら、偽善だなんて神に仕える者として相応しくない言葉よ?」
ダガ「…それもそうか」
アリアス「今の内に考えておきなさい。あの小娘に何をさせるか」ペラ
ダガ「ふ…ふふ…!ククク!」
アリアス「(疲れた…。こっちは仕事が残ってるって言うのに…)」
アリアス「(ま、これで気が済むでしょ。借りも一つ出来たし…)」ペラ
624:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/20(土) 17:21:53 ID:hjA9OHHsFc
―――大聖堂(牢屋)―――
ポツン
宣教師「………」
――――――
『そのあんたが司祭様の思いやりから目を背けるのか?』
――――――
宣教師「私が司祭様のお気に入り、か…」
宣教師「(思えば孤児として拾われた後も司祭様の優しさに幾度となく救われましたっけ…)」
宣教師「(懇切丁寧に教えを授けてくださり、学ぶ場所から生きる場所まで頂いた…)」
宣教師「それなのに…」
――――――
『…哀れな奴よな。こやつを地下牢に押し込めよ』
――――――
宣教師「半ば諦めている中で微かな希望を持っていた…」
宣教師「司祭様なら…きっと間違いに気付いてくださると…」
宣教師「一体どちらの側面が本当なのでしょう…?」
宣教師「私の目で見たカロルくん達は…薄汚れてなどいなかった」
宣教師「むしろそれまで神々しいほどに輝いていた司祭様が褪せて見えた…」
宣教師「私の目が濁っているというのなら、なぜ司祭様は何も教えてくださらないの…?」
宣教師「ずっと…信じていたのに…」
宣教師「父のように慕っていたのに…」
宣教師「とても……やりきれない…」ポロポロ
625:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/29(月) 20:23:16 ID:OlYbvURtok
―――大聖堂(通路)―――
ジョー「なぁ…頼むよ!」
トト「いや、ほんと悪い!」ペコリ
ジョー「なんでだよ!さっきまでは見張りを代わってもいいって言ってたじゃないか!?」
トト「それがさぁ…。ダガ様にいきなり頼まれちゃったんだよ」
ジョー「頼まれたって…何をだよ?」
トト「ミラルドの町まで行って酒を4樽買ってこいって言われたんだ。
なんでも三日後に来る客をもてなすんだとよ」
ジョー「なんでこんな時に…!」
トト「そんで客が来たらシスター達を手伝ってやんなきゃなんないから手が空かないんだよ」
ジョー「ちくしょう…」
トト「どうしたんだよ。さっきまでは平気だって言ってたじゃないか?」
ジョー「事情が変わったんだよ!」
トト「何があったんだ?」
ジョー「それは…」
トト「それは?」
ジョー「…いや、なんでもねぇよ」
トト「なんだよ。気になるじゃんか?最後まで言えよ?」
ジョー「…いいって。無理言って悪かったな」
トト「そうか…。力になれなくてごめんな」
ジョー「そんな事ねぇよ。お前はお前で色々あんだから」
トト「はは!雇われの身としちゃ上に逆らえねぇしな!」
ジョー「……」
トト「おっと、もう行かなきゃだ!悪いな!」
ジョー「あぁ…」
626:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/29(月) 20:25:12 ID:hf9q3Lf4C.
ジョー「どうすりゃいいんだよ…!」グッ
ジョー「すぐにでも行かなきゃ…」
ジョー「それどころか間に合うかすら分からないってのに…!」ガクッ
ジョー「俺はどうすりゃいいんだよおぉぉぉーー!!」
シスター「」ビクッ
神父2「」ビクッ
ジョー「うあぁぁぁぁぁーー!!」
ザワザワ ザワザワ
627:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/30(火) 20:02:01 ID:d4mo8KMAQc
―――大聖堂(正門)―――
神父「はぁ…はぁ…。つ、着いたぞ!」ズルズル
カロル「わー!この建物、すごい大きいね?」
母「そうね。とても立派な造りだわ?」
神父「はぁ…はぁ…」
カロル「おじさま、辛いの…?」
神父「黙れ…!さんざんケガ人を急かしおって!」
カロル「ごめんなさい…」シュン
母「なに言ってるんですか!
休憩だって何度もとりましたし、あたしも坊やも神父さんのペースに合わせて歩きましたよ?」
神父「ぐっ…」
母「順調に行けば夕方までには着くという話でしたけど、結局こんなに暗くなってしまいましたし…」クドクド
神父「ぎぎ…!」ギリッ
カロル「あ、あはは…。もういいじゃない。早く中に入って休ませてもらおうよ?」
母「…そうね。神父さん、開けてくださいな?」
神父「黙れ!言われんでもそうするわ!」
628:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/30(火) 20:06:05 ID:d4mo8KMAQc
ガチャッ
守衛「おや、神父さん。遅い帰りだったね」
神父「色々ゴタゴタがありましてな」
守衛「……?左目に布が巻かれてますがどうなさったんです?」
神父「久しぶりに吸った外の空気が合わなかったのか、見事に腫らしてしまいましてな」
守衛「まさにゴタゴタだった訳ですか」
神父「ははは。情けないザマをお見せしたようだ!」
カロル「」キョロキョロ
母「どうしたの?」
カロル「外から見たら大きかったのに中はそんなに広くないんだね?」
母「ふふ。この入り口はわざと個室にしてあるのよ?」
カロル「どうして?」
母「外から怪しい人間が入らないように二重に入り口を設けたのね。扉を抜ければもっと広い敷地に出るはずよ?」
カロル「へー!じゃあこの先にマルクも宣教師さまもいるの?」キラキラ
母「そうよ」ニコッ
守衛「神父さん。その方たちは?」
神父「司祭様が招いた客人です。リストを確認してもらえますかな?」
守衛「そうでしたか。ちょっと待ってくださいね」ペラッ
守衛「うんうん。確かに書いてありますよ」
神父「では通してもらえますか?」
守衛「リストにチェックを付けておきます。ちょっと待っててくださいね」カキカキ
629:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/30(火) 20:13:04 ID:d4mo8KMAQc
守衛「さぁ、どうぞ通ってください」
神父「どうも」ペコリ
カロル「ありがとうございます!」ペコリ
母「ありがとうございます」ペコリ
守衛「いえいえ」ニコニコ
630:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/30(火) 20:18:49 ID:d4mo8KMAQc
カロル「わぁ…!見て、お母さま。庭があるよ?」
母「すごい…。人口の物なんですか?」
神父「いや、自然の物だ。ここに拠点を建設した際に、あえて司祭様はこれらの豊かな彩りを残されたのだ」
神父「この庭園に備わる草木や花はシスター達が手入れし、美しく保ち続けている」
神父「これらの世話は女に宿るとされる真心を育み、慈愛と献身の意思を体に覚えさせる。一種の修行だな」
母「そうなの…。それにしても見事ですね!」
カロル「お花が光ってるよ?」
神父「それはライの花だ。暗闇に包まれると花弁が淡い光を放つ不思議な習性を持っている」
カロル「へぇ…森でも見たことないです」
神父「旅に出ていた宣教師や遠くの布教地から一旦戻った神父、司教様などが土産に持ってくるのが主だな」
カロル「そうなんだ!すごいね、お母さま!」
母「そうね…」
神父「凄くて当然だ。我が教団が誇る大庭園だからな!
貴様らのような下賤な種族にはもったいない光景だろう?」
カロル「うん!」
神父「」ズルッ
母「坊や…今のはバカにされたのよ?」
カロル「そうなの?」キョトン
神父「まったく調子が狂うな…」スクッ
631:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/30(火) 20:32:50 ID:d4mo8KMAQc
神父「…さすがにもう遅い。今日は休んで司祭様には明日お目通し願おう」スタスタ
カロル「ボクたちはどうするの?」スタスタ
神父「あぁ、問題ない。別に部屋を用意してやるさ」
母「よかった。神父さんと一緒の部屋じゃないのね?」ニコッ
神父「当たり前だ!貴様らと同じ部屋で寝られるか!」
母「まぁ?」
神父「それに私は自分の部屋を持っておらん。他の神父達と共同なんだ」
神父「ともなればなおさらお前たちなど連れてこれん。騒ぎになっても面倒だしな」
母「なんでもいいですけど、お部屋に案内してくださいます?」
神父「案内してやってるだろうが!」
カロル「あれ?誰か座ってるよ?」
???「」グッタリ
神父「なんだ?通路の脇にしりもちなどついて…」
母「うなだれてらっしゃるみたい…何かあったのかしら?」
神父「なんだろうが知った事じゃないが、行儀の悪い奴だな…」
632:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/30(火) 20:43:45 ID:d4mo8KMAQc
神父「おい、そこのお前!」
ジョー「…?」ムクッ
神父「そんな場所で座り込むなど、何を考えているんだ!」
ジョー「あぁ、すみません…」スクッ
神父「ん?お前は確か見張りの…」
ジョー「ジョーです…」
神父「こんな所で何をしている?お前は地下の番をしていたはずだろう?」
ジョー「すみません…。すぐに戻りますんで」
神父「…体調が悪いのか?」
ジョー「あ、いや、心配なさらず。なんでもないッスよ」
神父「そうか…」
ジョー「じゃあ俺はこれで…」
神父「いや、待て」
ジョー「はい?」
633:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/30(火) 20:50:09 ID:d4mo8KMAQc
神父「ちょうど頼みたい事があったのだ」
ジョー「…なんです?」
神父「彼女らを案内してやってくれないか?」
母「?」
ジョー「案内って…どこへ?」
神父「お前の持ち場だ。そこに入れてやってくれ」
ジョー「はい?俺の持ち場って地下ろ……」
神父「しーっ!いいから!言う通りにしてくれ!」
ジョー「わ、分かりましたよ…」
神父「よし、頼んだぞ!私は医務室に用があるのでな!」スタスタ
ジョー「あ、はい」
ジョー「(神父が連れてきたって事は…ひょっとしてこいつら…)」
ジョー「(ったく…こっちはそれどころじゃねぇってのに…)」
634:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/30(火) 20:53:21 ID:d4mo8KMAQc
ジョー「あーっと…聞いてたと思うけど、そういう事だから」ガリガリ
母「はい」ニコッ
カロル「お願いします」ペコリ
ジョー「おっ!ボウズ、しっかりしてるな?」ナデナデ
カロル「……!えへへ!」ニコニコ
ジョー「俺はジョーだ。よろしくな?」
カロル「ボクはカロル!よろしくね、おじさん!」
ジョー「おいおい、おじさんはよしてくれよ…」ツツー
母「どうも。この子の母親で、マリーと言います」ペコリ
ジョー「マリーさんか。よろしく!」
635:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/30(火) 20:56:05 ID:d4mo8KMAQc
母「神父さんはどこに行かれたんですか?」
ジョー「ん?あぁ、あの人は医務室に行ったよ」
カロル「」キョロキョロ
ジョー「どうした、ボウズ?」
カロル「あ、ごめんなさい。初めて見る物ばかりだから、つい…」
ジョー「壁に飾られた絵や脇に立てられてる花瓶か。確かに物珍しいかもな」
カロル「うん。全部キレイ!」ニコッ
ジョー「へー。俺にはああいう芸術?みたいのはよく分からないなぁ…」
カロル「ボクも描いてみたいなぁ…」
母「そうね…画材の一つも買い与えられたらよかったけれど…」
ジョー「はは…まぁいいや。案内するよ」
636:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/30(火) 20:57:32 ID:d4mo8KMAQc
―――大聖堂(地下牢)―――
母「ここ…ですか?」ツツー
ジョー「う、うん。まぁ何も無いとこだけどくつろいでってくれよ?」
母「……」
カロル「地面の下にたくさん部屋があるなんてすごいね!」
ジョー「お、ボウズ!気に入ったか?」
カロル「うん!」ニコッ
ジョー「いやー!そりゃよかった!」
カロル「ねぇ、ボクたちの部屋はどれなの?」ワクワク
ジョー「ここだ、待ってろ。今開けてやるからな?」カチャカチャ
母「(まぁ…それもそうよね。初めから期待はしてなかったけど)」
母「(ここが牢屋なら宣教師様はこの部屋のどれかにいるのかしら…?)」チラッ
637:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/30(火) 20:59:32 ID:Pt5pBqwsmA
カロル「お母さま、入ろうよ」ガチャッ
母「えぇ…」スッ
ジョー「(まさか素直に入るとはな…。宣教師さんの言ってた通り、悪い奴らじゃないらしい…)」ガチャガチャ
カロル「鍵、閉めるの?」
ジョー「ん?う、うん…まぁな。他の奴が入ってこないようにさ」
カロル「そうなんだ?」
ジョー「とりあえず寝具を持ってくるからおとなしくしててくれよ?」
カロル「はい!」
母「……」スッ
カロル「色眼鏡、外しちゃうの?」
母「だいじょうぶ。ここで隠す必要はないわ?」
カロル「……」
母「坊やも頭巾は外してしまいなさい。いっぱい歩いたから汗で蒸れるでしょう?」
カロル「…分かった」スルッ
母「…平気よ。さっきのお兄さんは気付いてるから」
カロル「ボクとお母さまのこと…?」
母「えぇ、そうよ…?」
カロル「そう…」
638:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/30(火) 21:01:43 ID:d4mo8KMAQc
ジョー「備え付けのベッドで寝てくれ。もう遅いからなるべく静かにな?」バサッ
カロル「はい」
ジョー「柵越しで悪いが受け取ってくれないか?」つ【毛布】
カロル「ん…ありがとうございます」パシッ
母「何から何まですみません」ペコリ
ジョー「いやいや」
カロル「ジョーさんはどこで寝るの?」
ジョー「あぁ、俺のことは気にすんな。まだ寝ないから」
カロル「うん…」
ジョー「(こいつ、ホントに分かってないんだな…)」
ジョー「(そういや宣教師さんをほったらかしにしたままだったか)」
639:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/4/30(火) 21:02:56 ID:d4mo8KMAQc
ジョー「」ソーッ
宣教師「」スヤスヤ
ジョー「…そりゃそうか」
宣教師「」スヤスヤ
ジョー「あんなに会いたがってた相手が隣の牢屋に入ってるって知ったら、どんな顔すんだろな…」
ジョー「(更に二人も牢屋に抱えちまって、間違いなく休暇は増やせないな…)」
ジョー「……ん?」チラッ
母&カロル「くぅ…くぅ…」スヤスヤ
ジョー「もう寝てるよ…」
ジョー「……よっぽど疲れてるんだな」
ジョー「俺も少ししたら寝るか…」
640:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/3(金) 18:27:56 ID:ZFsnQBBly6
――――――
宣教師「……」パチッ
???「どうしたの?」
宣教師「えっ」
???「お姉ちゃん、お話してたのに寝ちゃうんだもん。びっくりしちゃった」
宣教師「キミは…?」
???「へ?」
宣教師「キミは…誰ですか?」
???「ボク?ボクは???だよ!」
宣教師「え…?すみません、聞き取れな……」
???「さっき教えたじゃない。ボクもお姉ちゃんも」
宣教師「そう、でしたか?」キョトン
???「お姉ちゃん、どうしたの?」
宣教師「あ、いえ…なんでもありません」
宣教師「(なにがなんだか分かりませんが…夢、という解釈でいいのでしょうか?)」
宣教師「(夢は記憶を整理する為の作業。逆らったところで意味もない…)」
宣教師「(それなら懐かしい思い出に身を委ねるのも、いい気分転換になるかもしれません)」
宣教師「(さて、これは一体どの場面なのでしょうか…?)」
641:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/3(金) 18:31:10 ID:YsB2Ns3Klg
???「」サクッサクッ
宣教師「それは…?」
???「お姉ちゃんがくれたんでしょ?」
宣教師「あ、あぁ…そうでしたね」
???「ねぇ、コレってなんて言うの?」
宣教師「それはビスケットですよ」
???「へー。初めて食べた!」
宣教師「おいしいですか?」
???「うん!」ニコッ
宣教師「そうですか」ニコニコ
宣教師「(これは…あの日の記憶?)」
宣教師「…となると、いい思い出ではなさそうですね」ボソッ
642:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/3(金) 18:49:54 ID:OplxH4gICE
???「お姉ちゃんはどうしてボクに話しかけてくれたの?」
宣教師「…そういえば思い出せませんね」
???「えー!分からないの?」ビックリ
宣教師「…ところでキミは顔を見せてくれないのですか?」
???「ずっと見てるじゃない?」
宣教師「…霧掛かっていて見えませんね」
???「そう…じゃあまだ思い出せないんだね」
宣教師「……?」
「おい!」
宣教師「」ビクッ
「何してんだよ。裏通りには行っちゃダメだって、母さんに言われたろ?」
宣教師「お兄…ちゃん?」
643:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/3(金) 18:54:18 ID:OplxH4gICE
兄「なんだ、兄ちゃんの顔も忘れたのか?」
宣教師「なぜ…だって…お兄ちゃんは…」
兄「どうした?様子が変だぞ?」
宣教師「あ、ううん…なんでも、ないよ」
兄「一人で何してたんだ?」
宣教師「一人?」
兄「一人でぶつぶつ喋ってたじゃないか?」
宣教師「いない…!」
兄「はぁ?」
宣教師「そこにいた男の子は?」
兄「そこには最初からお前しかいなかったぞ?」
宣教師「そんな…そんな筈は…」
兄「大丈夫か、何かあったのか?」
宣教師「お兄ちゃんも見たでしょう!私と話してた子を!」
兄「見てないよ」
宣教師「どうして…」
兄「…いいんだよ。そんな奴はいなくて…」
宣教師「…お兄ちゃん…?」
兄「あいつはいなくていいんだ」
宣教師「なに…?」
カァァァ!
宣教師「きゃっ」
宣教師「視界が…まぶしい…!」
………………
644:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/3(金) 18:58:23 ID:QE/RDjeSTw
―――大聖堂(地下牢)―――
宣教師「」パチッ
宣教師「ふむ。やはり夢でしたか」ムクリ
宣教師「(ずいぶんと不思議な夢でしたね…。一体なんだったのでしょう?)」
ジョー「おっ!起きたか?」
宣教師「あ、ジョーさん。おはようございます」ペコリ
ジョー「おはよう。朝飯ならそこに置いてあるぜ」
宣教師「あの…お母様の件はどうなったのですか?」
ジョー「ん?あぁ、いいんだよ。行かないって決めたからさ」
宣教師「え?行かないのですか?」
ジョー「まぁ頼んではみたけど休暇が貰えなくてさ」
宣教師「そんな…!ちゃんと事情を話せば分かってもらえる筈です!」
ジョー「いいって、いいって!別に今すぐじゃなくても人間、そうそう死にはしないよ」
宣教師「それでいいのですか?」
ジョー「…そんな事よりさ、あんたに朗報だぜ」
宣教師「朗報?」キョトン
645:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/3(金) 19:00:31 ID:QE/RDjeSTw
ジョー「隣の牢にホビットの親子が入ってる。あんたの知り合いじゃないか?」
宣教師「」ゾワッ
宣教師「ま、まさか」
ジョー「昨日の夜、神父が連れてきて俺に押し付けたんだよ」
宣教師「……!」
ジョー「二人ともぐっすり寝てるよ。よっぽど疲れてたんだろうな」
宣教師「…捕まってしまったのですか」
ジョー「そう落ち込むなよ。さんざん会いたがってたじゃないか」
宣教師「こんな形での再会は望んでません…」
ジョー「……」
宣教師「司祭様はどういうつもりでいるのでしょう…」
ジョー「さぁな。俺には司祭様の深い胸の内を知る事はできないよ」
宣教師「私の力が足らないばかりに…二人をこんな目に合わせてしまうなんて」
ジョー「……」
646:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/3(金) 19:03:15 ID:OplxH4gICE
カロル「ん…」モゾモゾ
母「」スヤスヤ
宣教師「なんとかならないのですか?」
カロル「……(宣教師さまの声…?)」
ジョー「なんとかって言われてもな」ポリポリ
カロル「(昨日のお兄さんもいる)」
宣教師「彼らに罪などありません。出してあげてください」
ジョー「おいおい、無茶言うなよ」
宣教師「では司祭様に会わせてください。私が話をつけます!」
ジョー「なに言ってんだ。そんな事出来る訳ないだろ?」
宣教師「決めつけていては何もなりません!」
ジョー「あんまり声を出すと二人が起きちまうぞ?」
宣教師「……!」
ジョー「あんたには酷だが、この二人はどのみちロクな事にならないよ」
宣教師「…カロルくんとお母様が不幸になっていくのを、ただ黙って見ていろと?」
ジョー「あぁ、そうさ。それにこいつはあんたにとってもチャンスなんだぜ?」
宣教師「……?」
ジョー「司祭様は一度だけ、こいつらを見に来る。ホビットを捕らえた時はいつもそうだからな」
宣教師「つまり…」
ジョー「そうだよ。そこであんたがこいつらに騙されてたと言えば、司祭様は信じるかもしれない」
宣教師「……」
ジョー「もちろん、そうなればこいつらの罪は確定して罰が下されるだろうが…」
ジョー「しょせんこいつらはホビットだ。どうあったって裁かれる存在なんだ」
ジョー「だったら下手に庇って一緒に罪を被るより、あんただけでも助かった方がいい」
宣教師「……」
カロル「……」
647:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/3(金) 19:05:59 ID:QE/RDjeSTw
宣教師「冗談はよしてください」
ジョー「なに言ってるんだ。俺は本気だぜ」
宣教師「なぜ私の為に二人が罰せられなければならないのです?」
ジョー「別にあんたの為にじゃない。どっちみち裁かれる運命なんだよ」
宣教師「絶対に嫌です。私は…そのような醜い手段を使ってまで生き延びたいとは思いません」
カロル「……!」
ジョー「じゃあどうするんだ。このまま共倒れすんのか?」
宣教師「カロルくん達だけでも助けられるよう、司祭様に懇願します」
ジョー「バカ!それが無理だって言ってるんだ!」
宣教師「なんと言われても結構です。神に仕える者として、私の前で罪無き者を裁かせはしません!」
ジョー「…あきれた奴だな」
カロル「(宣教師さま…)」ウルッ
648:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/3(金) 19:09:59 ID:OplxH4gICE
カロル「(そっか。ここ、牢屋だったんだ…)」
カロル「(この中でもずっと、ボクらを心配してくれてたんだ…)」グスッ
ジョー「はぁ…勝手にしろよ!」
宣教師「言われなくてもそうします」
ジョー「ちっ…!最後まで分からず屋だったな!」
宣教師「どこへ行くのですか?」
ジョー「広間で一服してくんだよ!」
宣教師「待ってください。二人の分の朝食は用意してあるのですか?」
ジョー「ホビットの為に飯を作る人間が、ここにいると思うか?」
宣教師「……」
ジョー「そんなに心配なら自分の飯を分けてやれよ。柵の隙間から渡せるもんならな!」
宣教師「なっ…」
ジョー「くれぐれもスープはこぼさないでくれよ?
パンなら食えなくなるだけだが、汁物は後片付けが面倒だからな」
宣教師「…!」キッ
ジョー「ふん!」スタスタ
カツンカツン カツンカツン
649:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/3(金) 19:13:26 ID:QE/RDjeSTw
宣教師「ジョーさんがあんな人だとは思いませんでした!」プンスカ
カロル「宣教師さま?」
宣教師「」ビクッ
カロル「おはようございます」
宣教師「か、カロルくん…。起きていたのですか?」
カロル「はい」
宣教師「…聞いてました?」
カロル「……」
宣教師「あ、あの…先ほどの話は言うなれば…その…う、嘘のようなものでして」アセアセ
カロル「平気、何も聞いてないよ?」ニコッ
宣教師「ホッ…それは良かったです」
カロル「…宣教師さまの声、久しぶりな気がするね」
宣教師「そ、そうですか?」
カロル「うん…。懐かしくて、なんだかすごく嬉しいや」
宣教師「カロルくん…」
カロル「でも顔が見れなくて、ちょっぴり残念かも」
宣教師「…そうですね」
650:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/3(金) 19:15:25 ID:OplxH4gICE
宣教師「ふふ。私もキミの声が聞けて嬉しいです」ニコニコ
カロル「ホント?」
宣教師「もちろん。片時もあなた達を忘れた事はありませんよ?」
カロル「ボクも忘れなかったよ!宣教師さまのこと!」
宣教師「おや、本当ですか?」
カロル「うん!ホント!」
宣教師「てっきりルーボイくんやパッチくんと遊ぶのに夢中で忘れてるかと思いました?」ニコッ
カロル「う…そんなことないです!」
宣教師「一瞬言葉に詰まりましたね?」ニコニコ
カロル「…いじわるですよ?」ムスッ
宣教師「ふふ…」ニコニコ
651:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/3(金) 19:18:27 ID:QE/RDjeSTw
宣教師「みんなの様子は変わりありませんか?」
カロル「……」
宣教師「カロルくん?」
カロル「…うん。みんな元気だよ!」
宣教師「そうですか。それは何よりです」ニコニコ
カロル「……」
宣教師「キミはここへ連れてこられたのですか?」
カロル「ううん…」
宣教師「へ?」
カツンカツン カツンカツン
宣教師「……?」
カロル「ジョーさんかな?」
宣教師「さぁ…誰でしょうね?」
カツンカツン カツンカツン
652:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/8(水) 23:29:47 ID:eXZVFIc0MI
カツンカツン
宣教師「あなたは…!」
ダガ「なんだ、ジョーはいねぇのか…」
宣教師「…ジョーさんでしたら広間に行きましたが?」
ダガ「…都合がいいじゃねぇか」
宣教師「はい?」
ダガ「ん?こいつは…」ジロッ
カロル「」ビクッ
宣教師「……!」
ダガ「…ホビットか」
カロル「はじめ……」
ドッ! ガシャァッ!
カロル「わっ」ビクッ
ダガ「人間様に口を利くんじゃねぇよ。このドブネズミが…」
宣教師「なにをしてるんですか!?」
ダガ「柵に蹴りを入れただけだろうが?」
宣教師「相手は子供ですよ…!」
ダガ「子供?アッハッハッハ!!」ゲラゲラ
宣教師「何がおかしいのです…?」
ダガ「ドブネズミに子供もクソもあるか!おかしな事を言いやがる!」ゲラゲラ
カロル「」ブルブル
ダガ「ふふ…ふふ…。こんなに笑ったのは久しぶりだぜ」ニヤニヤ
653:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/8(水) 23:38:41 ID:eXZVFIc0MI
ダガ「ふ…どうした?眉間にシワなんぞ寄せて?」ニヤリ
宣教師「…それ以上、無闇に彼を傷付けるのはおやめなさい。私に用があるのでしょう?」
ダガ「分かってんじゃねぇか?」
宣教師「……」
ダガ「そう睨むなよ?別に取って食おうって訳じゃないんだぜ?」
宣教師「どうでしょうね…」
ダガ「今日はジョーの事で話があって来たんだ…」
宣教師「ジョーさんの?」
ダガ「あぁ。あいつの母親が病を患ってな。奴はその見舞いに行きたいらしい」
宣教師「その話ならすでに聞きましたが…」
ダガ「やっぱりな…」
宣教師「どういう事ですか?」
ダガ「休暇が取れなかったのも聞いたか…?」
宣教師「はい」
ダガ「そうか。なにせ休暇が取れないのはてめぇのせいだもんな…?」
宣教師「私の?」
654:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/8(水) 23:39:55 ID:eXZVFIc0MI
ダガ「知ってたんじゃないのか…?」
宣教師「それは聞いていませんでしたが…」
ダガ「お前の見張りで奴は管轄を離れられねぇのよ…」
宣教師「トトさんに頼めば代わってくれるのでは?」
ダガ「そうはいかねぇ。トトには俺からキツイ仕事をプレゼントしてやったからなぁ…」ニヤリ
宣教師「…」
ダガ「かわいそうになぁ…?奴は母親の見舞いに行けないそうだ?」
宣教師「まさか…」
ダガ「ぐふふ…どうした?」
宣教師「ジョーさんの事情に付け込んだのですね?」
ダガ「人聞きの悪いことを言うなよ?
トトの奴が暇そうにしてたから善意で仕事をくれてやっただけさ…」
宣教師「私にどうしろと言うのです?」
ダガ「理解が早いな…。さすが優秀な宣教師さんだ?」ニヤニヤ
655:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/8(水) 23:42:35 ID:GFjLj5QVz.
ダガ「そうさなぁ…。何をしてもらおうか?」ガシッ
宣教師「」ビクッ
ダガ「ふ…怯えなくていい。柵に隔てられる限りは安全だ…」ニヤァ
宣教師「怯えてなどいません…」キッ
カロル「」ドキドキ
ダガ「クックック…」ギュッ
宣教師「……?」
ダガ「ふん…!」グニィ ビキッ
宣教師「っ…!?」
ダガ「おっと、曲げるつもりが勢い余ってもげちまった?」ニヤニヤ
宣教師「お、脅しているのですか?」ビクビク
ダガ「ふ…そういう訳じゃねぇさ」ブンッ ポイッ
カシャンッ!
カロル「っ!」ビクッ
宣教師「」ビクッ
ダガ「さて、なんでも言う事を聞いてくれんだったな?」
宣教師「そ、そこまでは言ってません!」
ダガ「ほう…。ジョーが見舞いに行けなくなってもいいのか?」
宣教師「っ…!」ギリッ
656:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/8(水) 23:45:58 ID:GFjLj5QVz.
ダガ「ん?どうする?」ニヤニヤ
宣教師「わ…かり、ました」
ダガ「あぁ?なんだって?」
宣教師「…好きにしてください」
ダガ「はっ…?まぁよしとしようか?」
宣教師「……」
カロル「ダメ!!」
ダガ「あぁ?」
宣教師「カロルくん…?」
カロル「その人はひどい事をするに決まってる!」
宣教師「……」
カロル「言う通りにしちゃダメだよ!」
宣教師「…キミも先ほど聞いたでしょう?」
カロル「……」
宣教師「私が言う通りにしなければジョーさんはお母様のお見舞いに行けないのです」
カロル「だからって…こんなの違うよ!」
657:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/8(水) 23:46:52 ID:GFjLj5QVz.
ダガ「おい、ドブネズミ?」
カロル「……?」
ダガ「……!」ググッ
ビキィッ!
カロル「」ビクッ
ダガ「てめぇもこの柵みてぇになりてぇか?」
カロル「あ…ぅ……」ブルブル
ダガ「ドブネズミごときが人間様の話に口出ししてんじゃねぇよ…」
カロル「」ブルブル
ダガ「あぁ?なんとか言ってみろ、おら?」
カロル「……」ブルブル
ダガ「はっ?縮こまるぐらいならハナから喋るんじゃねぇよ」
658:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/8(水) 23:50:14 ID:eXZVFIc0MI
宣教師「弱いものいじめはそのくらいにしたらどうです?」
ダガ「…一々気取った言い方しやがって」
宣教師「……」
ダガ「まぁいい。その減らず口もすぐに聞けなくなる…」
宣教師「いい加減に用件を言ったらどうなんです?」
ダガ「ククク…そうだな?」ジャラ
宣教師「…なぜあなたが鍵を?」
ダガ「予備の合鍵をくすねたのよ」カチャカチャ
宣教師「何を…するつもりですか?」
ダガ「ふ……」ガチャッ
宣教師「やめなさい…。それ以上、私に近付けば大声を出しますよ…!」
ダガ「出せばいいじゃねぇか?ジョーが母親に会えなくなってもいいならな…」
宣教師「……」
ダガ「あいつも悲しむだろうなぁ?母親の死に目に立ち会えなけりゃよ…」
宣教師「私は…あなたを軽蔑します…!」
ダガ「ククク…生意気な女ほど、いたぶり甲斐もあるってものさ?」
宣教師「」ススッ
ダガ「ふ…後ろには壁しかねぇぞ?」ジリジリ
宣教師「……!」トンッ
659:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/9(木) 13:05:40 ID:QUrG5tc8yc
カロル「(ど、どうしよう…)」ブルブル
母「じっとしてなさい…」
カロル「」ビクッ
カロル「おかあさ…」
母「しっ!声を出してはいけないわ」
カロル「……!」
母「坊やはおとなしくしてるのよ。いいわね?」
カロル「けど…宣教師さまが…!」
母「耳を塞いで目を瞑って、何も考えずにベッドに潜りなさい」
カロル「やだ…やだよ!」
母「しっ!」バッ
カロル「むぐっ!んぅ…!?」
母「平気…お母さんに任せて?」
カロル「……?」
母「信じて…?」
カロル「……」
カロル「」コクリ
母「」ニコリ
660:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/9(木) 16:45:17 ID:0e8Wekw..E
ダガ「ククク…布切れ一枚、か。…みすぼらしいが、お前にはお似合いだな?」
宣教師「…修道服は没収済みですからね」プイッ
ダガ「ふ…」ビリィッ
宣教師「っ…!」
ダガ「ククク…ガキだと思ってたが、体の方はなかなか育ってやがる…」ビリビリ
宣教師「仮にも神に仕える者が神聖な場で、このような振る舞いを行って許されるとお思いですか?」
ダガ「神聖な場だと?罪人の掃き溜めがか?」ニヤニヤ
宣教師「…汚らわしい」ボソッ
ダガ「」ガシッ ダンッ
宣教師「っ!」ググッ
ダガ「よく喋る口だ…。このまま顎を握り潰してやれば少しはおとなしくなるか?」
宣教師「……!?」ジタバタ
ダガ「手荒に扱われたくねぇなら黙って従え…」
宣教師「」ウルウル
ダガ「……」パッ
宣教師「けほっ…」ズキズキ
ダガ「始めるか……」
「ふあぁ〜!」
ダガ「あ?」
宣教師「?」ゲホッゲホッ
母「久しぶりにゆっくり寝れたわね!」ノビッ
ダガ「ドブネズミの檻か…」スクッ
宣教師「……?」
ダガ「てめぇはそこにいろ」
661:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/9(木) 17:06:04 ID:0e8Wekw..E
ダガ「……!?」アングリ
母「あら、初めて見る方ね?」
ダガ「て、てめぇ…何をしてる?」
母「はい?」
ダガ「なんで全裸なんだと聞いてんだ!!」
母「暑くて寝苦しかったからですけど?」
ダガ「な、なにぃ…!?」
母「何か問題でも?」クネクネ
ダガ「くっ…!」チラッ
母「これでも自信はありましてよ?」ニコリ
ダガ「」マジマジ
母「…なんでしたら試してみます?」
ダガ「」ハッ
ダガ「黙れ!!」
母「たくましい方なので積極的かと思ったのだけれど、意外に奥手なんですね?」クスクス
ダガ「なんだと?」ギロッ
母「好きなように弄んでいただいていいんですよ?」スラリ
ダガ「だ、誰が…!」
母「それとも、そっちは自信がありませんでした?」クスクス
ダガ「…何をっ!?」イラッ
母「それならいいじゃありませんか?」
ダガ「や…やってやろうじゃねぇか!」カチャカチャ
母「ふふ!」クスリ
ダガ「」ガチャッ
ダガ「この売女が…!思い知らせてやるよ…」
母「どうぞ?」
662:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/9(木) 17:19:19 ID:cOHi1N7WQ6
「ふふ…こんなにして…お召し物が汚れますよ?」クスクス
「うっ…だ、黙れ!」
「…目を隠すと、とても良くなるんですよ?」
「そ、そうなのか?」
「もしかして知らないんですか?」
「も、もちろん知ってるに決まってんだろうが!」
「そうですよね?あ、ちょうど手拭いを持ってるんです。使ってください?」
「あ、あぁ…こうか?」シュル
「そうそう…。どうです?良くなったでしょう?」
「うぅ!た、確かに…な」
「もっと良くしてあげますからね?」クスクス
663:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/9(木) 17:20:28 ID:0e8Wekw..E
宣教師「な、何を考えて…!?」アタフタ
宣教師「(カロルくんもいるというのに…不潔です!)」カァァ
カロル「」ソローリ
カロル「宣教師さま…?」コソコソ
宣教師「」ビクッ
カロル「大丈夫?」
宣教師「か、か、か…!?」
カロル「お母さまが引き付けてるから…行こ?」パシッ
宣教師「え?え?」ギュッ
カロル「早く…!」グイッグイッ
宣教師「は、はい…!?」ムクッ
タタタッ!
664:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/9(木) 17:22:05 ID:cOHi1N7WQ6
ダガ「はぁ…はぁ…い、今、物音がしなかったか?」
母「さぁ?」シュッシュッ
ダガ「お、おうっ!おぉぉ!」ビクビク
母「何か言いましたか?」クスクス
ダガ「うっ…」
母「あらあら」ギュッ
ダガ「うごぉ…!な、何を…!?」
母「まだ早いですよ?頑張ってくださいな?」
ダガ「わ、分かって……!」
母「(坊やと宣教師様は無事に脱出したみたいね…)」
母「(それにしても旅先で体を売ってた経験がこんな形で役に立つとは思わなかったわ…)」
母「まだダメですよ?」
ダガ「くっ…い、いい加減にしろ!」
母「ふふ…ベッドに誘導しますから寝転んで?」
ダガ「目隠しは外さないのか…!?」
母「何を言ってるんです?」
ダガ「あ?」
母「まだほんの序ノ口ですよ?」
ダガ「……!」ゴクリ
665:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/10(金) 19:43:01 ID:61YiResIYI
―――大聖堂(通路)―――
カロル「」タタタッ
宣教師「」タタタッ
カロル「…地下、出たねっ」タタタッ
宣教師「は、はいっ」タタタッ
カロル「助けを、呼ばなきゃっ!」タタタッ
宣教師「そ、そう、ですね!」タタタッ
神父2「」ビクッ
カロル「あの人はっ?」タタタッ
宣教師「ダメですっ!」
神父3「うわぁっ」ドサッ
カロル「じゃあ!今の人!」タタタッ
宣教師「どういう方か!分かりませんっ!」タタタッ
カロル「えと!そ、それじゃ…わっ!?」ドンッ
宣教師「カロルくん!?」ピタッ
「いたた…」
カロル「うぅ…ご、ごめんなさい…」
神父「き、気をつけ…!?」
カロル「あっ」
神父「あっ」
宣教師「えっ」
666:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/10(金) 19:44:41 ID:f2fl720CvI
神父「貴様ぁぁぁ!!」ムクッ
カロル「お、おじさま!?」
宣教師「お知り合い…ですか?」
神父「知るも知らんも…って貴様はぁぁ!?」
宣教師「」ビクッ
カロル「おじさまがボクとお母さまをあそこに案内してくれたの」
宣教師「そ、そうなのですか?」
神父「貴様ら、なぜここにいる!?」
宣教師「あ……」
宣教師「(ま、まずいですね…。私達は仮にも囚人…正直に話す訳には…)」
カロル「逃げてきました!」
宣教師「へ?」
神父「なにぃぃぃぃ!?」
宣教師「な、なんで言ってしまうんですか!?」
カロル「え?だって……」
神父「とうとう本性を表したな!重罪人がぁぁ!!」ビシィッ
ザワザワ ザワザワ
「罪人だって?」
「あの二人が?そうは見えないけど…」
「あれ司祭様に刃向かった宣教師じゃないか?」
「なんで半裸なんだ?」
「きゃあっ!あの黄色い瞳…ホビットの子供よ!?」
「な、なんだってー!?」
667:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/10(金) 19:46:07 ID:61YiResIYI
ワイワイガヤガヤ
カロル「あわわ…どうしよう…!」
宣教師「そういえば私ったら破れた服のまま…!」カァァ
神父「はしたない奴め!罪深き種族に加担するだけの事はある!」
宣教師「あの…違います!これは違うんです!」アタフタ
神父「何を言う!見苦しいぞ!?」
宣教師「誤解です!?」
神父「おい、こいつらを捕まえろ!?」
カロル「せ、宣教師さま…!」
宣教師「こうなってしまってはどうする事も出来ません…」
カロル「そんな…!」
「見張りは何をしてたんだ!?」
「探して参ります!」
「きゃあっ!きゃあっ!ホビットって初めて見た!」
「近付くな!何をされるか分からんぞ!」
神父「早くしろ!逃げられるぞ!?」
668:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/10(金) 19:48:00 ID:f2fl720CvI
神父「貴様ら、そこを動くなよ?」
カロル「お母さまが危ないんです!」
神父「なにぃ?」
宣教師「司祭様の付き人のダガが私を襲い、彼の母親を手籠めにしようとしているのです!」
神父「でたらめをぬかすな!」
カロル「ウソじゃないもん!」
神父「言い逃れも甚だしい!」
宣教師「聞いてくれそうにありませんね…」
神父「誰が罪人とホビットの言葉に耳を貸すものか!」
「連れて参りました!」
ジョー「なんスか?いきなり呼びつけたりして…」
トト「支度の途中だったんだけどなぁ」
神父「バカもん!これはどういう事だ!?」
ジョー「はい?……あぁ!?」ギョッ
トト「げっ!?」ギョッ
宣教師「……」
カロル「……」
ジョー「お前らなにしてんだ!?」
神父「見張りは貴様らの務めであろうが!?」
トト「俺は関係ないですよ!見張りはこいつがやってたんですから!」
ジョー「あっ!てめぇ!?」
トト「だってそうだろ!?」
神父「知ったことか!さっさとこいつらを牢に戻せ!!」
669:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/10(金) 19:49:26 ID:61YiResIYI
ジョー「あんた何してんだよ!どうやって出たんだ!?」ガシッ
宣教師「私の話を聞いてください!」
ジョー「そんなの後だ!いいから行くぞ!」グイッ
トト「お前もだ!」グイッ
カロル「わっ」グッ
宣教師「今でなくてはならないのです!」
ジョー「抵抗するな!あんた、自分が何したか分かってんのか!?」
宣教師「それどころではありません!」
ジョー「はぁ…!?」
神父「ええいっ!早く連れていかんか!」
カロル「っ!」ガブッ
トト「いってぇ!!」パッ
カロル「お願い!宣教師さまの話を聞いて!」タッタッ
ジョー「……」
トト「何すんだ!このガキ!」バッ
カロル「」ビクッ
ジョー「待て!」ガッ
トト「え?」
670:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/10(金) 19:51:10 ID:f2fl720CvI
トト「なんで止めんだよ?」
ジョー「こいつらの話を聞いてやろうぜ?」
トト「な、なんで?」
神父「何をしている!連れていけと言うのが分からんか!?」
ジョー「…少し待ってやってください」
神父「なぜ待つ必要がある!?」
ジョー「……」
宣教師「ダガが地下牢で……」
神父「黙れ!早く連れていけ!」
ジョー「うるせぇっ!!」
神父「」ビクッ
トト「」ビクッ
ジョー「続けてくれ」
宣教師「はい」
神父「な、な、な……!?」ワナワナ
671:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/10(金) 19:53:29 ID:f2fl720CvI
ジョー「そりゃ本当か…!?」
宣教師「はい。今は彼の母親が時間を稼いでくれています」
カロル「早くしないとお母さまがひどい事される!」
ジョー「よし、分かった!トト、手を貸してくれ!」
トト「え…?」
ジョー「どうした?」
神父「どうしたもこうしたもあるか!こんな奴らの話を信じる気か!?」
トト「そうだよ、こいつらは罪人だぜ?」
ジョー「信じられないなら実際に行って確かめりゃいいだろ」
神父「バカな事を…」
トト「でまかせに決まってるさ」
ジョー「お前ら…」
宣教師「放っておきましょう」
カロル「そうだよ!今はお母さまを助けに行かなきゃ!」
ジョー「…そうだな」
トト「おいおい、本当に行くのか?」
ジョー「どうせこいつらは牢に入れなきゃならないんだ。同じ事だろ?」
トト「そりゃそうだけどよ…」
神父「待て!私も行くぞ!」
ジョー「信じる気になったのか?」
神父「苦労して捕らえたホビットを逃がされては困るからな!」
ジョー「ふん。好きにしろよ」
神父「貴様も来い!」
トト「俺もですか!?」
宣教師「一刻の猶予もありません!行きましょう!」
672:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/17(金) 11:26:45 ID:qgZvNb4RsY
―――大聖堂(地下牢)―――
ダガ「ふぅっ!ふぅっ!」ビクンビクン
母「手足を縛って目隠しをされながらお尻を踏まれる気分はいかが?」グリグリ
ダガ「ぐはぁっ!屈辱的だが…たまらんっ!」ビクンビクン
ジョー「こ、これは…」
神父「なんたる破廉恥な…!」
トト「うわぁ…」
母「来てくださいましたの?」
ダガ「なに!誰かいるのか!?」
母「」グリグリ
ダガ「おうつ!」ドピュッ
ジョー「………」
神父「………」
トト「………」
673:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/17(金) 11:28:12 ID:aC4VDD3xI2
カロル「ねぇ、宣教師さま。どうしてボク達は地下に行かないの?」
宣教師「目に毒だからです」
カロル「?」
アリアス「そこで何をしているの?」
宣教師「え…。あ……!?」ギョッ
カロル「」キョトン
司祭「なぜ罪人が檻の外におるんじゃ?」
宣教師「し、司祭様…!」
カロル「えっ」
674:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/17(金) 11:30:33 ID:qgZvNb4RsY
ダガ「」グッタリ
ジョー「」ポカーン
母「あの…」
ジョー「」ハッ
母「この方…どうしましょう?」
ダガ「」
ジョー「え、えーと…そうだな。どうしよう?」
トト「俺に聞くなよ!?」
神父「な、何かの間違いだ…。司祭様の付き人ともあろうお方がこのような…」
司祭「何事じゃ?」
3人「」ビクッ
神父「あ…あ…!」
ジョー「司祭様…!」
母「この方が…?」
ダガ「」ピクッ
ダガ「司祭様だとぉ!?」ジタバタ
司祭「何があったと聞いとる。申してみよ」
神父「はっ!」
675:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/17(金) 11:34:03 ID:qgZvNb4RsY
司祭「ふむ…なるほどのう」
司祭「ダガよ。つまりはお前が勝手に牢の鍵を持ち出し、罪人達を解き放ってしまった訳じゃな?」
ジョー「ま、まぁそうなりますね」
ダガ「ま、待ってください!俺はこいつらに騙されただけだ!」ジタバタ
司祭「そのようなナリで言い訳など見苦しいぞい」
ダガ「し、しかしっ」
司祭「勝手なマネをしおって…危うく傷物にされるところだったわい」
アリアス「司祭様」
ダガ「アリアス…!?」
アリアス「……」
ダガ「助かったぜ!お前からも説明してやってくれ!」
アリアス「この者の処罰はいかがいたしましょうか?」
司祭「牢の扉を閉めてそのままにしておけ」
ダガ「お、おい…!」
アリアス「分かりました」スッ
ダガ「おい、てめぇ!どういうつもりだ!?」
アリアス「落ち着きなさい…」ボソッ
ダガ「……!?」
アリアス「なんとかしてあげる…。待っていて?」ボソボソ
ダガ「ふ…頼んだぜ」
アリアス「えぇ。任せておいて」
ガチャッ
アリアス「(これで余計な事は言わないでしょう)」
アリアス「(なんとかしてあげるですって?)」
アリアス「(冗談じゃない…。バカのお守りは懲り懲りよ)」クスリ
676:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/17(金) 11:38:26 ID:aC4VDD3xI2
司祭「…さて、見張りの者よ」
ジョー「はっ!」ピシッ
トト「はっ!」ピシッ
司祭「ホビットと宣教師を応接間へ通しておけ」
ジョー「応接間…ですか?」
司祭「うむ」
ジョー「はっ…かしこまりました!」
司祭「神父よ。お前も共に来るのじゃ」
神父「かしこまりました」
司祭「わしは別に用があるんでな。暫し待たせておけ」
ジョー「はい…」
アリアス「司祭様…」
司祭「うむ」スタスタ
アリアス「」スタスタ
カツンカツン カツンカツン
677:🎄 名無しさん@読者の声:2013/5/17(金) 16:38:14 ID:kSrAs2xhO6
お母さま素敵すぎるww
っCCCCC
678:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/18(土) 18:57:08 ID:JCs5Ytnfiw
>>677
こんな途中から読むと何がなにやら分からない不親切なSSに目を通していただいた上に支援までありがとうございます!
4ヶ月ぶりかつ400レスぶりの支援に我が目を疑いましたw
母の新たな一面を快く受け入れてもらえてなによりです!
679:🎄 名無しさん@読者の声:2013/5/19(日) 01:49:46 ID:wXdrSJ4wMc
えっじゃあ流れが途切れたところで便乗して支援する……!
ごめんね作者さん、ずっと区切りのいいとこで支援しようと考えてたらなんかこう……ずるずると
すっごく大好きですし応援してますからね!支援!
680:🎄 名無しさん@読者の声:2013/5/19(日) 12:48:07 ID:f1/ZlPtsYQ
追いついた!
つCCCCCCC
681:🎄 名無しさん@読者の声:2013/5/19(日) 19:06:22 ID:eJ2W1GU6.c
俺もこのSS大好きです!
支援!!
682:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/19(日) 20:22:47 ID:MaTt0N3kzE
>>679
とんでもありません。読んでくださっていた方がいたと分かっただけで報われました。
その上大好きとまで言ってもらえて仕事中も有頂天でした。
よかったです。ただただよかったです。
ファンタジーなのに魔法も冒険も戦いも無い退屈なSSですが、お付き合いいただけたらと思います。
支援ありがとうございました。
>>680
追い付いたんですか!?
ここまで読んでいただけて嬉しいです!
今日は更新出来ませんが、何卒暖かい目でゆっくり見守っていただければなによりです。
支援ありがとうございました。
>>681
ありがとうございます!
大好きでいてもらえるよう頑張ります!
支援ありがとうございました。
683:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:15:40 ID:I7KxdXpwyw
―――大聖堂(応接間)―――
トト「おとなしくしてろよ?」
宣教師「」モガモガ
ジョー「…猿ぐつわまで噛ます必要があんのか?」
神父「当然だ。何をしでかすか分かったものではないからな!」
ジョー「…あの親子はなんで奥に?」
神父「知らん!」
ジョー「嫌な予感がするぜ…」
ガチャッ
司祭「ほほほ。待たせたの」
神父「いえ、とんでもございません!」
司祭「見張りの者よ。ご苦労じゃったな。下がってよいぞ」
ジョー「はっ!」
トト「はっ!」
アリアス「司祭様」
司祭「うむ。お前も下がるがいい」
アリアス「失礼します…」ペコリ
ガチャッ バタンッ
684:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:17:29 ID:x1LN.Icy8M
司祭「む?」
宣教師「うぅ…」モガモガ
司祭「なぜ猿ぐつわなど噛ましておる?」
神父「は?」
司祭「外してやれ」
神父「え…しかし……」
司祭「この距離でわしの言葉が届かぬか、それともなければ刃向かいたいのか?」
神父「と、とんでもない!すぐに外しましょう!」シュルリ
宣教師「けほっけほっ!」
司祭「かわいそうに…苦しかろう?」
神父「申し訳ございません!」
宣教師「はぁっ…どういうつもりですか?」
司祭「わしはただお前を気遣っただけじゃよ」
宣教師「そんなはず…ありません!」
神父「なんという口の聞き方だ!司祭様の温情が分からんか!」
司祭「よいよい、神父よ。暫し口を閉ざしておれ」
神父「えっ」
685:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:20:43 ID:x1LN.Icy8M
司祭「不安に思うことはない。わしにお前を裁く意思はないのじゃよ?」
宣教師「そんな事は関係ありません!」
司祭「む…?」
宣教師「あなたは私の言葉を…受け取ってさえくれなかった!」
宣教師「ずっと私を騙していた…!」
司祭「……」
神父「なんの事だ?」
宣教師「謂れのない憎しみを植え付け、人々の嗜虐心を煽り、差別を促すあなたを私は許しません!」
司祭「…ふむ。まだ混乱しとるようじゃな」
神父「そのようで」
宣教師「伝承も…史実も…すべては歪められた物!」
宣教師「癒しの力など存在しません…!神父様も目を覚ますべきです!」
神父「なにを言うかと思えば救いようのない…」
宣教師「教団の伝える教えは真実を象っているに過ぎません!」
神父「なぜそんな事をする必要がある?なんの得もないだろうが?」
司祭「耳を貸さぬ事じゃ。二匹の入れ知恵じゃろうて?」
神父「なるほど」
宣教師「……!」ギリッ
686:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:22:41 ID:x1LN.Icy8M
司祭「哀れも哀れ。罪深き種族に関わったばかりに二度も悲運を辿ろうとは…」
宣教師「あなたに哀れまれる筋合いはありません!」
司祭「おぉ、宣教師や?汚れなき心を邪念に侵され、さぞや辛い事じゃろう」
宣教師「……!」
司祭「やはり今はゆっくり休ませよう。お前が目を覚ますまで辛抱強く待とうじゃないか?」
宣教師「まともに答える気はないのですね…?」
神父「ははは!馬鹿馬鹿しすぎて、まともに取り合っても疲れるだけだ!」
司祭「やめんか。そのようなつもりで言ったのではない」
神父「も、申し訳ございません」アセアセ
宣教師「…分かりました。もういいです」
司祭「む?」
687:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:24:53 ID:I7KxdXpwyw
司祭「もういいとはどういう意味じゃ?」
宣教師「私は自らの命を絶ちます」
司祭「馬鹿げたことを…お前が命を絶ったからといってなんになる?」
宣教師「…真に命を重く考えてくださるのなら、私の話を聞いていただけませんか?」
司祭「むぅ…」
宣教師「それすら叶わないのであれば、一思いに舌を噛み切ります…」
神父「黙れ!貴様など我らの威信と信仰を汚す堕ちた邪教徒に過ぎないんだ!」
神父「そのような命が失われたところで捨て場に困る!」
神父「やるなら我々のいない場所でひっそりと命を絶てばいい!」
宣教師「…それが答えなのですか?」
司祭「……」
神父「やれるものならやってみせろ!出来もせん分際が偉そうに!」
宣教師「……」
宣教師「」カジッ
神父「」ビクッ
宣教師「っ…!」グッ
神父「お、おい…まさか…」
宣教師「〜〜〜!」ググッ プルプル
神父「や、やめ…!」
司祭「やめんかぁぁぁぁ!!!」
宣教師「」ビクッ
神父「」ビクッ
688:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:27:21 ID:x1LN.Icy8M
司祭「よく伝わったわい。その辺にしておけ」
宣教師「いっ…つつ」タラー
神父「ち…血がっ…!?」
宣教師「いざやるとなると、中々うまくいかないものですね…」ヒリヒリ
神父「(こいつ…本気で舌を噛み切る気だったのか…!?)」
司祭「物分かりがよく聡明でありながら、決めたら頑として曲げず不器用なところは変わらんのじゃな?」
宣教師「司祭様も…お声は健在なようでなによりです」
司祭「…改めて話し合おうかの」
宣教師「えぇ。お願いします」
司祭「二匹はどこへやった?」
神父「は…はい!言われました通り、奥の部屋に隔離してあります!」
司祭「そうか、では先に行っておれ」
神父「はっ!」
宣教師「?」
689:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:29:10 ID:x1LN.Icy8M
司祭「宣教師よ。お前はわしにこう言ったな?」
司祭「人々に差別を促しているのはこのわしで、伝承も史実も歪められた教えじゃと」
宣教師「はい…」
司祭「そう思うに至った理由はなんじゃ?」
宣教師「それは…」
司祭「村の人間から袋叩きに遇い、傷付いた幼いホビットを哀れに思ったのが始まり…そうじゃな?」
宣教師「」ドキッ
司祭「優しいお前の事じゃ。連れ帰って手当てでも施したのじゃろう?」
宣教師「……」
司祭「なんらかの形でホビットはお前に近寄り、お前もまた受け入れた…」
宣教師「…はい」
司祭「…短いふれあいの中で情が芽生えたか?」
司祭「一人貧しく暮らし、村の布教を行う孤独には穏やかな笑顔がまばゆく写ったか?」
司祭「そこに懐かしい家族の面影を重ねたかったのか?」
司祭「或いは…居心地の良さに憩いが生まれたか?」
宣教師「……!」
司祭「それが手とも知らずに…だから愚かだと言うんじゃ」
宣教師「え…?」
690:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:31:28 ID:I7KxdXpwyw
司祭「情を寄せたお前は疑いなく奴らの言葉を聞き入れたのであろう」
司祭「おそらく不幸な生い立ちを囁き、お前に罪の意識を絡み付け…」
司祭「ホビットに癒しの力など無い…。と言い放たれたのじゃな?」
宣教師「なぜ…!?」
司祭「分からぬか?そういう生き物なんじゃよ」
宣教師「そんな…彼らは違います!」
司祭「癒しの力など存在しないじゃと?」
司祭「それもそうじゃろう。使わずに黙っておればいい話じゃ」
宣教師「(そういえば以前に…村人から受けた傷を短時間で治していたような…)」
宣教師「……!」ブルブル
司祭「うまい所を突いたものじゃ。確かに癒しの力など無いと考えれば全てが裏返る」
司祭「そして奴らは人間の前で癒しの力を見せようとせん」
司祭「そうなれば力を目の当たりにした事のないお前が騙されるのは仕方のないことじゃ」
宣教師「違います…。あの親子は…私を信じて…」ブルブル
司祭「安心せい。奴らの化けの皮を剥がして目を覚まさせてやろう」
宣教師「……」ブルブル
691:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:33:08 ID:I7KxdXpwyw
カロル「んーっ!」ジタバタ
母「」モガモガ
神父「……」
ガチャッ
神父「司祭様…!」
司祭「幼子の拘束を解いてやれ」
神父「よろしいのですか!?」
司祭「構わん」
神父「はっ!」シュルリ
カロル「はぁっ…はぁっ…」
母「」モガモガ
カロル「お母さま…!」
司祭「よく見ておけ」
宣教師「……」
692:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:35:06 ID:I7KxdXpwyw
司祭「幼きホビットよ」
カロル「へ…?ボク…ですか?」
司祭「うむ。お前さんにある事を願いたい」
カロル「…はい」
司祭「もしお前さんが願いを聞き入れ、叶えてくれたならば、こちらもお前さんの望みを叶えよう」
カロル「のぞみ…?」
司祭「そう。望みじゃ」
カロル「……」
司祭「さぁ、ありのままに望みを言うがいい」
カロル「それは…一つじゃないとダメですか?」
司祭「む?な、なるほど…二つという事か?」
カロル「ホントに叶えてくれるなら、お願いしたい事がいっぱいあるんです」
神父「貴様!どさくさ紛れに欲をかきおって!」
司祭「よいよい。いくらでも言うがいい。一つで満たされぬのは子のサガじゃ」
カロル「ありがとうございます」ペコリ
宣教師「(今まで多くを望まなかった彼が…)」
宣教師「(まさかこの機会を利用する気で…!)」
693:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:38:45 ID:I7KxdXpwyw
司祭「ではまずはこちらの望みじゃ」
カロル「はい」
司祭「…神父の傷付いた目を治してほしいのじゃよ」
神父「は!?」
カロル「おじさまの目を…?」
司祭「お前さんは気付いておらんが、その手には不思議な力が宿っている」
カロル「手…?」キョトン
司祭「神父よ。彼の目線まで屈んでやれ」
神父「はっ!」シャガミ
司祭「試しに傷に触れてみるんじゃ」
カロル「……」
司祭「さぁ!」
カロル「」ドキドキ
宣教師「」ドキドキ
カロル「」スッ ピトッ
神父「……」
司祭「どうじゃ?」
神父「なにぶん医務室で手当てを受けたもので…痛みは無いのですが…」
司祭「ふむ…布を取って傷を晒してみよ」
神父「え…いや…しかし、外してはならないと医術師から…」
司祭「」ギロッ
神父「は、はい!外します!」シュルリ
宣教師「っ…!」
カロル「」ビクッ
司祭「なるほどな。痛ましいものじゃ…」
694:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:41:10 ID:x1LN.Icy8M
司祭「今度は直に触れてみよ」
カロル「はい…」ピトッ
神父「……」
カロル「痛くないですか…?」
神父「う、うむ…」
―――数分後―――
司祭「変わりなしか」
神父「申し訳ございません…」
カロル「ごめんなさい…」
宣教師「やはり癒しの力は無いのでは?」
神父「小僧!わざとやってるんじゃないだろうな!?」
カロル「ち、ちがう!ボク、力なんて知らないもの!」
母「」モガモガ
カロル「お母さま…」
宣教師「彼のお母様の拘束を解いてあげてください」
司祭「ならぬ。力を隠す腹積もりであれば母親はそのままじゃ」
カロル「へ?」
司祭「素直に力を示せばよい。そうすれば母親は無傷で返そう」
宣教師「待ってください。お母様を人質に取ると言うのですか?」
司祭「穏便に済ませたかったが、こうでもせねば、いつまでも力を隠し続けるじゃろうて」
宣教師「卑劣極まりない。このような仕打ちを神が赦されると思いますか!」
司祭「…ならばこうしようではないか」
695:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:43:41 ID:x1LN.Icy8M
司祭「幼子よ。あと一度だけじゃ」
カロル「でも…ボク、力なんて…」
司祭「もし傷を癒せればお前さんらを無事に帰すと保証しよう」
司祭「無論、初めに言った出来うる限りの望みを叶えるという約束も守る」
カロル「……」
司祭「じゃが傷を癒せなければ…全ては元通りじゃ」
司祭「お前さんらには生涯を地下牢で過ごしてもらうぞ」
カロル「……」
宣教師「それはあまりに不平等な選択ではありませんか!」
司祭「何がじゃ?」
宣教師「なぜ傷を癒せなければ捕らえられるのです!」
司祭「ふん…愚か者め。神父の報告で既に分かっておるんじゃ」
司祭「こやつらは村の人間にまで深く関わり、旅人に罪を着せて崩壊まで追い詰めておる」
宣教師「な…!」
カロル「え…?」チラッ
神父「……」ツツー
カロル「…どういう事なの?」
神父「……」
カロル「おじさま…?」
神父「うっ…む、むぅ…ゲフンゲフン!」
カロル「…ボク、そんな事してない」
母「んーっ!んーっ!」ジタバタ
696:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:46:06 ID:x1LN.Icy8M
カロル「知らない…。ボクもお母さまも…何もしてない」
司祭「ほっほっほ…言い訳などいくらでも出来る。罪を清算したくば力を見せてみよ」
カロル「分からないよ…。力なんて持ってないもの…」ワナワナ
宣教師「やはり認められません!一方的に二人を貶めて、脅迫するなど…!」
司祭「やかましいわい。お前が認めなかろうが所詮は腕の自由を奪われた女の身じゃ。どうにもなるまい?」
宣教師「初めから…彼に力があるか試したかっただけなのですね…!」
司祭「……」
宣教師「どこまで…信頼を裏切れば気が済むのですか…!」
母「んーっ!」ジタバタ
司祭「…幼子よ。機会は一度。道は二つじゃ…。限られた選択を誤るでないぞ?」
カロル「おじさまを治せば…みんなで帰れるの?」
神父「…ま、まぁそうだな」
カロル「…しゃがんで?」
神父「あ、あぁ」シャガミ
カロル「」スッ ピトッ
カロル「(分からないけど、たぶん…)」ギュッ
697:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 19:45:55 ID:X7oKNsh1ok
カロル「」ピトッ
カロル「……」ギュッ
司祭「何のマネじゃ?」
神父「手を…合わせているようですな?」
司祭「手を?」
宣教師「(あれは…祈り?)」
カロル「」スッ
神父「ん?」
カロル「」ナデナデ
神父「な、なんだ?なぜ撫でるのだ?」
カロル「」パッ
神父「はぁ…?」キョトン
司祭「なんと…!」
宣教師「…!?」
カロル「ホントにできた…!」パァァ
698:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 19:47:36 ID:X7oKNsh1ok
宣教師「まさか…そんな……」ガクッ
神父「は?何か起こったのですかな?」
司祭「…素晴らしい…!」
神父「へ?へ?」
司祭「…気付いておらんのか?」
神父「はい?」
司祭「何か変化を感じんか?」
神父「……?」
司祭「愚か者め。目元をさすってみよ」
神父「」スリスリ
神父「えっ」
神父「な、な、なんじゃこりゃぁ!?」ビックリ
司祭「…呆れた奴じゃわい」
699:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 19:50:43 ID:Ncsc1rYezg
神父「見える…はっきりと見えるぞ…!」
宣教師「傷を塞ぐだけでなく、失われた部分まで再生するなんて…!」
司祭「ほほほ。まさしく力を目にしたな?」
宣教師「……」
司祭「オホンッ…もう迷う必要はあるまい?」
宣教師「どうやら、そのようです…」
司祭「うむ。それでよい…。縄をほどいてやろう」
神父「よくやったぞ!」
カロル「えへへ」テレッ
神父「しかしどうして今まで隠していた?
その力を用いれば私の傷も癒せただろうに…」
カロル「ホントに知らなかったんです。ボク、力なんて聞いた事もなかったから」
神父「ならばどうやって発揮したのだ?」
カロル「祈ってみたの。おじさまのケガが治りますようにって?」
神父「それがさっきの手を重ねる所作か?」
カロル「うん。宣教師さまに教えてもらったんだ!」ニコッ
神父「なぜそれで力が発揮されると思ったんだ?」
カロル「みんなの祈りを神様は聞いてくれるって宣教師さまは言ってたよ?
だからもしボクに力があるなら、神様が教えてくれると思ったの」
神父「なるほどな…」
司祭「神父よ、耳を貸すでないぞ。そやつは偽りをごまかしているに過ぎぬ」
神父「」ハッ
司祭「ホビットが神を語るなど、おこがましいにも程がある。そう思わんか?」
神父「そ、そうですな。あまりの喜びにほだされかけてしまいました」アセアセ
カロル「嘘じゃないのに?」キョトン
神父「黙れっ!宣教師のようにたぶらかそうとしても、そうはいかんからな!」
カロル「……」
700:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 20:09:41 ID:Ncsc1rYezg
母「」モガモガ
神父「メスのホビットはいかように?」
司祭「牢に押し込めておけ。もはや幼子以外に用はない」
神父「はっ!」ガシッ
母「んーっ!んーっ!」ジタバタ
神父「おとなしくしろ!」ズルズル
ガチャッ バタンッ
カロル「え…お母さま…」
司祭「さぁ、お前の醜い欲を存分に聞いてやろう?」
カロル「待って!お母さまをどうするの?」
司祭「はて、どうなるものやら…」
カロル「どうして…?約束は守ったのに…」
司祭「なればこそ望みを聞いてやると言うとろうが?」
カロル「待ってよ、だったらお母さまを……」
宣教師「黙りなさい」
カロル「え…」
宣教師「もう演じなくても結構です。気付いていないとでもお思いですか?」
カロル「宣教師さま…?」
宣教師「あなた達は…初めから利用していたのでしょうね」
宣教師「残念です…」
カロル「…?」
司祭「無駄じゃ。こやつは既に目を覚ましておる」
カロル「どういうこと?」
司祭「お前がいくらまやかそうと無駄じゃ」
カロル「?」
宣教師「……」
701:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 20:12:50 ID:Ncsc1rYezg
司祭「宣教師よ、こやつの手を縛れ」
宣教師「は…?」
司祭「何をしでかすか分からんからのう」
宣教師「……」
司祭「まさか出来ぬとは言うまいな?」
宣教師「い、いえ…」
司祭「決別の時じゃ。己に眠る浅はかな情を断ち切ってみせよ」つ【縄】
宣教師「分かりました…」スッ
宣教師「動かないで、くださいね」スルッ
カロル「……」
宣教師「」ギュッ
カロル「っ…!」グッ
宣教師「」ビクッ
宣教師「い、痛かった…ですか?」
カロル「ううん。平気だよ?」ニコッ
宣教師「そうですか…」ホッ
カロル「…宣教師さまの方が苦しそう」
宣教師「えっ」
カロル「…なんでもない」
宣教師「カロルくん…」
司祭「いつまでやっとる?」
宣教師「も、申し訳ありません」アセアセ
702:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 20:14:24 ID:X7oKNsh1ok
カロル「……」
司祭「ほほほ。どうした?これからお前の望みを聞いてやると言うに覇気のない」
カロル「ホントに聞いてくれるんですか?」
司祭「あぁ、聞いてやるとも。好きなだけ言うがいい」ニヤリ
カロル「じゃあ…お母さまとマルクを返してください」
司祭「うむ。聞いたぞ」ニヤニヤ
カロル「へ?」
司祭「して、次はなんじゃ?」ニヤニヤ
カロル「お母さまとマルクは…?」
司祭「聞いた聞いた。じゃんじゃん望みを言うがいい」ニヤニヤ
カロル「……」
司祭「どうした?もう望みは無いのか?」ニヤニヤ
カロル「ひどい…!」
司祭「わははは!本気で叶えてもらえると思ったのか?」
カロル「だって…約束したもの!」
司祭「約束じゃと?」
カロル「ボクが神父のおじさまを治したら、望みを叶えてくれるって!」
司祭「そんな事を言ったかのう?」
カロル「言ったよね、宣教師さま?」
宣教師「は、はい」
司祭「ほう…宣教師よ。まだそやつを味方するか?」
宣教師「…おっしゃられたのは確かな事実かと」
司祭「」イラッ
703:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 20:16:24 ID:Ncsc1rYezg
カロル「お母さま達を返して!」
司祭「ふむ…立場を理解しておらぬようじゃな?」
カロル「え…」
司祭「ほっ!」ビシッ
カロル「いっ…!」
宣教師「な、何を…!?」
司祭「折檻に決まっておろうが!はぃぃ!」ガッ
カロル「ぅっ…」タラー
宣教師「血が…!」
司祭「このっ!このっ!薄汚いホビットめがっ!」バキッ
ビシッ ガスッ ボコッ ベキッ
704:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 20:17:24 ID:X7oKNsh1ok
司祭「はぁ…はぁ…。老体に負担を…かけおって…」ゼーゼー
カロル「ぅ…うぅ…」グッタリ
司祭「お前の血で杖が汚れてしもうたわい!」バキッ
カロル「あぐっ」
宣教師「」ジーッ
司祭「む?」
宣教師「…何もそこまでする必要があるのですか?」
司祭「まだこのホビットに未練が残っておるようじゃな?」ジロッ
宣教師「そ、そういう訳では…」
司祭「騙されてなお、信用したいなら好きにせい」
宣教師「……」
司祭「また騙されるだけじゃ」
宣教師「はい…」
司祭「さて、出ようかの」スタスタ
宣教師「彼は?」
司祭「しばらくは動けまい。そのまま放っておけ」
司祭「鍵はどのみちわしが持っておる。先ほどのように脱け出す心配はない」
宣教師「なぜ彼だけはこの部屋に?」
司祭「こやつは特別じゃからな…」
宣教師「……?」
司祭「分からずともよい。行くぞ」スタスタ
宣教師「」チラッ
カロル「うぅ…」グッタリ
宣教師「……」
司祭「何をしとる?」クルッ
宣教師「あっ!いえ…」スタスタ
705:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 18:30:09 ID:pgetIhYfwI
―――大聖堂(広間)―――
宣教師「」モグ
宣教師「……」
ストッ
宣教師「?」
アリアス「お隣いいかしら?」ニコッ
宣教師「…どうぞ」
アリアス「赦しを頂けたのね。おめでとう?」ニコニコ
宣教師「…ありがとうございます」
アリアス「日暮れ時に独りでお食事?」カチャカチャ
宣教師「はい。今日の間は休んでいていいと言われましたから」
アリアス「そう。あまり食べていないのね?」
宣教師「お腹が空きませんので…」
アリアス「フフ…埃臭い地下牢で食事を摂っていたら、少食にもなるでしょうね?」
宣教師「」ムッ
アリアス「浮かない様子だけれど、まだ例のホビットを引きずってるの?」カチャカチャ
宣教師「い、いえ…」
アリアス「そう」モグモグ
706:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 18:38:58 ID:CxQyg6B8SQ
アリアス「そういえば司祭様が嬉しそうになさってたわよ?」
宣教師「カロ……ホビットを捕らえた事ですか?」
アリアス「それもあるけど、あなたが目を覚ましてくれたのが大きな要因でしょうね」
宣教師「そうですか」
アリアス「どうしたの?」パクッ
宣教師「なぜ司祭様は…私を気にかけて下さるのでしょうか?」
アリアス「?」モグモグ
宣教師「ジョーさんもダガも私を司祭様のお気に入りだと言います…」
アリアス「」ゴクン
宣教師「…どうして、そのように振る舞われるのでしょう?」
アリアス「そう?あまり感じないけれど?」
宣教師「ですが、言われてみると思い当たる事がいくつかありまして」
アリアス「」パクッ モグモグ
宣教師「……」モグ
アリアス「考えられるとしたら、一つはあなたが悲劇の町に生きた子だから」
宣教師「え?」
アリアス「もう一つは…悲劇の町を産み出したのがあなたではないからでしょうね」
宣教師「私ではないとは…どういう意味ですか?」
707:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 18:42:04 ID:CxQyg6B8SQ
アリアス「悲劇の町の件は私達の組織から出版される書物の一節になるほど有名よね」
宣教師「はい」
アリアス「昔は…と言ってもせいぜい30年ほど前でしょうけど、その頃までは人間の町や村に住むホビットも少なくなかった」
宣教師「そうみたいですね。話に聞いた程度ですが…」
アリアス「もともと快く思われてはいなかったけれど、それほど教えも浸透してなかった時代ね」
宣教師「きっかけはなんだったのですか?」
アリアス「知らない訳ではないでしょ?」
宣教師「…ホビットが癒しの力を盗んだという伝承が広まったのでしたね」
アリアス「正確には司祭様が古い書物を解読して文字に興したのが始まり」
宣教師「なるほど」
アリアス「当時の教団はまだ力を持っていなかったけれど、顧問として属していた貴族を通して書物の内容は王国に伝わったの」
アリアス「国王は大変興味を示された。なぜなら…」
宣教師「待ってください。その話は司祭様が私を気にかける理由に関係しているのですか?」
アリアス「そうね…。直接的にではないけれど、一応関係しているわよ?」
宣教師「(…そうは思えませんが)」
708:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 18:46:10 ID:CxQyg6B8SQ
アリアス「有力な貴族には信心深い人間も少なくない。王国に仕えるアントリア神官の家系もその一つね」
宣教師「……」
アリアス「人とホビットの境は曖昧で、長い期間互いに壁を作りながら保守的に接していた」
アリアス「そんな時代に暴かれた真実は両者を奮わせるには十分過ぎたのでしょうね」
アリアス「伝承を問う人間と否定するホビット。どこへ向かっても争う運命だったのよ」
宣教師「よく話し合えばそのような事態に至らなかったのでは?」
アリアス「無駄よ。争いの種は尽きないのが命のサガ。
つまらない話し合いなんてこじれて、小競り合い程度の攻防も次第に激化していくのが必然の成り行き」
アリアス「惜しみなく武力を注いだ結果、王国によってホビットは住処を追われ…」
アリアス「…上に立った"人"は目的を見失ってしまったのよ」
宣教師「……」
709:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 19:08:10 ID:pgetIhYfwI
宣教師「それで可能性とはなん…」
アリアス「話は少し戻るけど、人は……というより王国はすでに理性を切らしてる」
宣教師「……?」
アリアス「本当のところは癒しの力なんてどうでもいいのよ」
宣教師「えっ」
アリアス「ただ奪うきっかけとして大義名分を翳しているの」
宣教師「そんな事が許されるのですか…!人として、王として国を治める方々が…!」ガタッ
アリアス「あなたって優秀だって聞いてたけど、案外かわいいのね?」クスクス
宣教師「はい?」キョトン
アリアス「まぁそうよね。司祭様が大事に育てた箱入り娘だもの」
アリアス「かわいいわ?とてもかわいらしくて素敵よ?」クスクス
宣教師「」ムッ
アリアス「怒らないで?本心から言ってるのよ?」
宣教師「バカにしないでください!」
アリアス「ムキになってしまう所もかわいい」ニコニコ
宣教師「なにがおかしいのです!」
アリアス「だって…あなたって世界を知らな過ぎるんですもの?」
宣教師「わ、私だって常に学んで…!」
アリアス「えぇ、えぇ。学んだんでしょうね?
何も訪れない平和な村の中で、過保護に囲われる大聖堂の中で、外から運ばれる文面を頼りにして…あなたなりに?」
宣教師「何が言いたいのです!」
710:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 19:22:45 ID:YhSVxlQFnk
アリアス「司祭様の望んでいたモノとは違う方向へ人は向かってしまったの」
宣教師「司祭様の望んでいたモノ?」
アリアス「司祭様は癒しの力をあるべき命に戻したかったとおっしゃられていた」
宣教師「そんなことが出来るのですか?」
アリアス「まず無理でしょうね」
宣教師「では一体なぜ…」
アリアス「ただ、一つの可能性を見つけたそうよ」
宣教師「可能性…?」
アリアス「」カチャカチャ
アリアス「」モグモグ
宣教師「可能性とはなんですか?」
アリアス「待って、水を飲みたいの」
宣教師「あ、すみません」
アリアス「」ゴクゴク
宣教師「それで可能性とは…」
アリアス「急かさないでくれる?食事の邪魔をするようでは品格に欠けるわよ?」
宣教師「」ムッ
711:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 19:24:38 ID:lFqhfFxm2w
宣教師「それで可能性とはなん…」
アリアス「話は少し戻るけど、人は……というより王国はすでに理性を切らしてる」
宣教師「……?」
アリアス「本当のところは癒しの力なんてどうでもいいのよ」
宣教師「えっ」
アリアス「ただ奪うきっかけとして大義名分を翳しているの」
宣教師「そんな事が許されるのですか…!人として、王として国を治める方々が…!」ガタッ
アリアス「あなたって優秀だって聞いてたけど、案外かわいいのね?」クスクス
宣教師「はい?」キョトン
アリアス「まぁそうよね。司祭様が大事に育てた箱入り娘だもの」
アリアス「かわいいわ?とてもかわいらしくて素敵よ?」クスクス
宣教師「」ムッ
アリアス「怒らないで?本心から言ってるのよ?」
宣教師「バカにしないでください!」
アリアス「ムキになってしまう所もかわいい」ニコニコ
宣教師「なにがおかしいのです!」
アリアス「だって…あなたって世界を知らな過ぎるんですもの?」
宣教師「わ、私だって常に学んで…!」
アリアス「えぇ、えぇ。学んだんでしょうね?
何も訪れない平和な村の中で、過保護に囲われる大聖堂の中で、外から運ばれる文面を頼りにして…あなたなりに?」
宣教師「何が言いたいのです!」
712:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 19:27:30 ID:YhSVxlQFnk
アリアス「その目で見ないと分からないモノよ?だって世界は広いのだし」
宣教師「……!」ググッ
アリアス「あなたが狭い籠に収まってエサを与えられている内に凄まじい速さで進み変わっていくの」
アリアス「都合の悪いモノと都合の良いモノを選別しながら慎重に、ね?」
アリアス「そして長年に渡る種族間の隔たりも所詮は選別されるモノの一つに過ぎない」
アリアス「生き残ったホビットも僅かな足場を奪い合いながらもがいているだけ。じきに絶えてしまうでしょうね」
宣教師「……」
アリアス「そうなれば絶えた命の持っていた実りはどこに行くと思う?」
宣教師「」ハッ
アリアス「それが私たち人間を潤してくれる。
フフ…付け入る隙を逃さない点では、人以上に長けた生き物っていないんじゃないかしら?」
宣教師「…その為に王国は司祭様の発見を利用していたのですね?」
アリアス「えぇ。でも、そんな王国の欲望を目覚めさせてしまったのは司祭様に他ならないでしょう?」
宣教師「それで私を…」
アリアス「王国によって人生を狂わされたあなたを見て自責の念に駈られたんじゃない?」
713:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 19:29:46 ID:lFqhfFxm2w
宣教師「私に打ち明けてよかったのですか…?」
アリアス「別に他意はないけど、あなたが知りたがってたみたいだから?」ニコリ
宣教師「…ありがとうございます」
アリアス「フフ…あなたが知るにはまだ早すぎたかもね?」
宣教師「…正直、惑わされている心地です」
アリアス「惑わせるなんて心外ね?
でも悩むのはいい事よ。そこから得られるモノは無限にあるのだし?」
宣教師「もしアリアス様の話が本当だとして、私に何を望んでいるのですか?」
アリアス「そうね…。真実を見極める目を養ってほしいわ?」ニコリ
宣教師「」ジト
アリアス「……?」
宣教師「まだあなたの事を信じる気になれません」
アリアス「そう。ずいぶんはっきりと言うのね?」
宣教師「…すみません」
アリアス「……」
宣教師「部屋に戻ります」スクッ
アリアス「…付け加えて言うなら」
宣教師「結構です。これ以上は聞きたくありません」
アリアス「つれない娘ね。話し相手くらいしてくれたっていいじゃない?」
宣教師「口が寂しいのでしたら残りの冷めた料理で埋められてはいかがですか?」
アリアス「は…!?」ピクッ
宣教師「失礼します」スタスタ
スタスタ スタスタ……
714:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 19:32:08 ID:YhSVxlQFnk
アリアス「…鋭い娘。ダガが疎ましがってたのも分かる気がする?」
アリアス「世間知らずな小娘がよく言ったものよね」
アリアス「まぁあんな小娘、私にかかれば取るに足らないけれど」
アリアス「せいぜい悩むことね」パクッ
アリアス「」カチャカチャ
アリアス「」モグモグ
アリアス「……」
アリアス「」シュン
アリアス「……(料理が冷たい)」
715:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 19:38:26 ID:lFqhfFxm2w
すみません。>>709はミスです。脳内削除していただけるとありがたいですm(__)m
716:🎄 名無しさん@読者の声:2013/6/30(日) 23:35:58 ID:KQZ1ttse8M
ずっと支援してます 支援
717:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/1(月) 18:15:20 ID:i6iF4FIEZA
>>716
お気遣いいただき、ありがとうございます!
すみません。少し忙しくなりまして、書いてはいるのですが話をまとめられないので投稿出来ない状況ですorz
なるべく早く投稿出来るよう努力致しますので、時間を頂けたらと思います。
一言も無くスレを止めてしまい、申し訳ありませんでした。
支援ありがとうございました!
718:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/3(水) 20:47:00 ID:BuAGEhMwno
―――大聖堂(地下牢)―――
ジョー「あ〜あ、柵が曲がってるよ。こいつ一体どんな力出したんだ?」グッグッ
ダガ「ぐがぁ…ぐごごご…」グースカピー
ジョー「捕まったってのに呑気なもんだぜ…。ここに入ってくる奴らには緊張感ってものがねぇのかな?」
母「……」ブルブル
ジョー「ん?どうした?寒いのか?」
母「いえ…」ブルブル
ジョー「…なんか持ってくるよ。腹も空いてんだろ?」
母「結構です…今は喉を通りません」ブルブル
ジョー「まぁそう言うなって。あと何回、口に入るかも分からないんだ。食っとかなきゃ損だよ」
母「あたしはどうなったって……」
ジョー「それが分かってんならなおさら食っとけ。天に昇れば腹も減らなくなるんだからな」
母「坊や…うぅ……坊や……!」シクシク
ジョー「……」
719:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/3(水) 20:50:24 ID:8vmLCPxZ0w
――――――
ジョー「」カキカキ
ジョー「…こんなもんか。さて、報告書もまとめたし…うーん…!」ノビッ
母「グスッ…」
ジョー「まだ泣いてんのか?」
母「……」
ジョー「もう消灯時間だぜ?いい加減に寝たらどうなんだ?」
母「うぅ…!」ブワッ
ジョー「見てらんねぇな…ったく!燭台の灯りも消すからな?」
母「あぁぁぁぁ…!」メソメソ
ジョー「……」
ジョー「ふっ」フッ
カツンカツン カツンカツン
母「あぁぁ…!」メソメソ
ジョー「はぁ…さすがにあれじゃ寝られねぇな」スタスタ
ジョー「地下だから泣き声も響くし、ダガの筋肉親父もよくあんな中でグースカいびきをかけたもんだ」
ジョー「はぁ……今夜はタコ部屋に戻って雑魚寝するか」
ジョー「(母さんも俺が故郷を離れた後に…ああして泣いてくれたのかな)」
ジョー「……」
ジョー「…そんな訳ねぇか」
ジョー「さて、報告書を渡して寝るかな。アリアス様もまだ起きてんだろ」スタスタ
720:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/3(水) 20:52:34 ID:8vmLCPxZ0w
―――大聖堂(礼拝堂)―――
ジョー「…ん?」
アリアス「……」
司祭「ふむ」
ジョー「…こんな夜更けにどうしたんだ?」コソコソ
司祭「して…宣教師はどうしておる?」
アリアス「部屋に戻りました」
司祭「うむ…」
アリアス「こちらに信頼を寄せている風ではありませんでした。まだ懐疑的になっていますね」
司祭「おとなしくしておればよいがな…」
アリアス「どうでしょう?おそらく色々と探り始めるのではないでしょうか?」
司祭「…見張りを立てるか」
アリアス「始末されてはいかがです?」
ジョー「!?」ギョギョッ
司祭「…やめんか。滅多な事を言うでないわ」
アリアス「理解に苦しみます。なぜ彼女に固執なされるのです?」
司祭「…わしにも一角の親心があるのじゃよ」
アリアス「……」
ジョー「(なんなんだ、一体…?)」
721:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/3(水) 20:54:36 ID:BuAGEhMwno
アリアス「神父の報告にあった村の件はどうなされるおつもりで?」
司祭「確かめるまでもない。王国に伝え、様子を見よう」
アリアス「ですが…王国に伝われば村の存続が危ういかと」
司祭「だからなんじゃ?代わりなどいくらでもあろうて?」
アリアス「…かしこまりました」
司祭「せいぜい王国に労力を使わせろ。わしらがどうこうしてやる謂れはあるまい」
アリアス「しかし…あの程度の規模の村であれば大した分散にもならないと思われますが?」
司祭「むぅ…然るに大樹への道筋を辿るには弱かろうな」
アリアス「提案させていただいてもよろしいでしょうか?」
司祭「む?」
アリアス「大樹に着くまでに必ず検閲を受ける事になります。ホビットを通す事は不可能かと。
それならば敢えて癒しの力を持つホビットの存在を国王に知らせてはいかがでしょう?」
司祭「ほう?」
アリアス「王国は嬉々として大樹への道を開く筈です」
司祭「そんな事をすれば王国は間違いなく利用しようと手を尽くすじゃろう?
わしが過去に解読した伝承も奴らの醜い欲によって政を円滑に進める為の潤滑油とされたのじゃぞ?」
アリアス「歴史を繰り返す事になる、と?」
司祭「当然じゃ。今度こそ同じ轍は踏まん!
人間としての進化を捨て、目の前の果実にかぶり付いたケダモノの首を掻き切る為にもな!」
アリアス「あまり大きな声を発されては……」
司祭「構わんよ。聞かれて困る事もなかろう?」
アリアス「司祭様が思われている程…全ての者が妄信的という訳でもございません」
司祭「…どちらにせよ、ここにおるのはわしとお前の二人じゃ。心配はいらんよ」
アリアス「……」
ジョー「(なんの事だか分からないが…反乱でも起こす気なのか?)」
722:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/3(水) 20:57:40 ID:8vmLCPxZ0w
司祭「計画を成す為には、あのホビットの存在は必要不可欠じゃ」
アリアス「…私はこの目で確認していないのですが、癒しの力を扱えるというのは本当なのですか?」
司祭「うむ。わしも生涯の内に見られるとは思わなんだが事実、目に焼き付けた」
アリアス「神父と宣教師も確認したそうですが、そのままにしておいてよろしいのですか?」
司祭「構わぬわい。意識的にホビットは癒しの力を扱えるものと根付いておる。
まさか力を持つホビットが今までいなかったとは誰も考えまい」
アリアス「それもそうですね…。正直に申しますと私は今も疑わしく思いますが…」
司祭「これまで伝承を手掛かりに闇雲にホビットを集めておっただけじゃからな」
ジョー「(おいおい…)」
司祭「アントリア神官は二日後に来るのじゃったな?」
アントリア「えぇ。そのようにご連絡を頂いてます」
司祭「ほほほ。偶然の産物とはいえ、実に良き頃合いじゃ。
主も天より祝福を授けてくださったのじゃろう」
アリアス「(…そう上手くコトが進むかしら?)」
司祭「アントリア神官を迎えてから、再度計画を詰めるとしよう。下がってよいぞ」
アリアス「失礼します…」ペコリ
ジョー「(とんでもない話を聞いちまったな…)」スタスタ
723:🎄 722のアリアスがアントリアになっているのは誤植ですorz ◆WEmWDvOgzo:2013/7/3(水) 21:01:17 ID:8vmLCPxZ0w
アリアス「」スタスタ
アリアス「?」ピタッ
ジョー「……」
アリアス「あなたは…」
ジョー「夜分遅くに申し訳ない」ペコリ
アリアス「報告書を提出しに来たの?律儀なものね?」
ジョー「それもありますが…お願いしたい事がありましてね」
アリアス「休暇の話?残念だけれど二日以上は与えられない」
ジョー「そこをなんとかお願い出来ませんかね?」
アリアス「あなたもしつこい人ね。どうしても見舞いに行きたいのなら勝手になさい。
ここでの居場所を失ってもいいのならね」
ジョー「……」
アリアス「早く報告書を寄越しなさい。サインはこちらで書いておくから」
ジョー「…そういえば礼拝堂でおもしろい話を耳にしたんですが」
アリアス「!」ドキッ
724:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/3(水) 21:03:03 ID:BuAGEhMwno
ジョー「俺は貧乏農家の出だから頭は悪いが、さすがにあんたらの話は読めたぜ?」
アリアス「……」
ジョー「たいした計画だ。今まで親密な関係を築いていた王国に反乱を起こそうなんてな?」
アリアス「声を抑えなさい」
ジョー「おっと…」
アリアス「どこから?」
ジョー「へ?」
アリアス「どこから聞いていたの?」
ジョー「…さ、最初っからだよ」オドオド
アリアス「嘘ね」
ジョー「うっ」ギクッ
アリアス「素直に話してみなさい?」
ジョー「…ここで言っていいのか?夜中ったって便所に起きる奴がいるかも分からないぜ?」
アリアス「それもそうね」
ジョー「(ふぅ…なんとか誤魔化せたか)」ドキドキ
725:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/3(水) 21:07:45 ID:BuAGEhMwno
アリアス「本当の目的は何?まさか見舞いに行きたいだけではないのでしょう?」
ジョー「いや、ささやかな願いさ?」
アリアス「そう…それならあなたはきっと喜ぶわね」
ジョー「なんだ?」キョトン
アリアス「休暇は与えられないけど代わりにいい事を教えてあげる」
ジョー「へっ…!あんたのホクロの数か?悪いが年増の色気に気付くには俺はガキ過ぎるかもな?」ニヤリ
アリアス「」イラッ
ジョー「それにあんたみたいな冷血女は好みじゃないしな?」
アリアス「あまり調子に乗らないで。私はこれでも司祭様の付き人よ?」
ジョー「おいおい、この期に及んで立場でごり押しか?」ニヤニヤ
アリアス「」バッ ガシッ
ジョー「おっ?」グイッ
ズダァァァン!!
ジョー「〜〜〜〜〜!!」ズキズキ
アリアス「」グッ
ジョー「かっ…はぁ……!」プルプル
アリアス「大の男が女に投げられて転がるなんて情けないものね?」
ジョー「あっ…はぐっ!んぁ……」パクパク
アリアス「なんとか言ってみたら?」ニヤリ
ジョー「……!」パクパク
アリアス「あぁ…そういえば首を絞めていたんだったわ?何も言えないでしょうね?」ニヤニヤ
ジョー「」プルプル
アリアス「このままあなたを消すのもいいかもしれない」ニヤニヤ
ジョー「(た、助け……!)」パクパク
726:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/3(水) 21:11:07 ID:8vmLCPxZ0w
アリアス「でも…今回は許してあげる」パッ
ジョー「……うぇっほぉ!うぅ…うぇっほぉえほ!!」ゲホゲホ
アリアス「ふふ。口が軽いのも考えものよ?」ニヤリ
ジョー「おぇっ…うっ…ぶぼほぉっ」ゴホッゴホッ
アリアス「間違っても吐かないでね。神聖なる大聖堂の通路で」
ジョー「っ…!っ…!っ!」ズキズキ
アリアス「司祭様の付き人をしてる意味、分かってもらえた?」
ジョー「!」コクコク
アリアス「物分かりが良くて助かるわ?」ニコッ
ジョー「はぁっ…はぁっ…」
アリアス「ところで、まだ休暇が必要?」
ジョー「っ…!悪いがそれだけは譲れねぇ!」
アリアス「よほど痛い目に合いたいのかしら?」
ジョー「ひっ」ビクッ
アリアス「冗談よ?私もそこまで鬼ではないわ?」
ジョー「じゃあ…」
アリアス「礼拝堂で見た夢は忘れなさい。所詮は眠りこけて見たありもしない夢。
そんな話を現実に持ち込まれても迷惑なの」
ジョー「はぁ…」
アリアス「…それから休暇はあくまで二日が限度よ」
ジョー「えっ」
アリアス「代わりにいい事を教えてあげる」
ジョー「代わりもクソも……」
アリアス「品の無い言葉遣いね。いいから聞きなさい」
ジョー「……!」ギリッ
727:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/3(水) 21:13:22 ID:8vmLCPxZ0w
アリアス「あの手紙は全て嘘。最初から存在しない物なの」
ジョー「……は?」キョトン
アリアス「かわいそうだけれど諦めて」
ジョー「な…何がどうして…」
アリアス「ダガに頼まれたから仕方なく」
ジョー「ダガに?」
アリアス「宣教師にいいように言われたのが腹立たしかったらしくて。
私にまで当たってくるものだから軽く筋書きだけ提供したのよ。
そうしたら何を血迷ったのか勝手に合鍵を盗んで、あの騒ぎ。とんだ迷惑だと思わない?」
ジョー「」ポカーン
アリアス「そういう事だから休暇は必要ないでしょ?」
ジョー「ま、待てよ…」ワナワナ
アリアス「なに?」
ジョー「なに?じゃねぇだろうがァァぁあ!!?」
アリアス「大きな声を出さないで。みんな寝ているのよ?」
ジョー「あぁ!?」ムカッ
アリアス「また絞められたいのかしら?」
ジョー「く…く…くっ!」ヒクヒク
728:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/3(水) 21:15:29 ID:BuAGEhMwno
アリアス「なんなら二日の休暇でゆっくりして親に便りでも出したら?
それであなたの親御さんが危篤状態だったりしたら、その都度対応するわ」
ジョー「あ、あんたなぁ…!人がどんだけ悩んだと…!」ヒクヒク
アリアス「報告書を預かりましょうか」
ジョー「」ブチッ
ジョー「」プルプル
ジョー「〜〜〜!」つ【報告書】
アリアス「はい、ご苦労様」
ジョー「(この冷血オバタリアンぶっころしてやる…!)」イライラ
アリアス「あ、そうそう。くれぐれも夢のお話をしないように。
まぁ言ったところで誰も相手にしないでしょうけれど」
ジョー「……!」
アリアス「それじゃおやすみなさい」スタスタ
ジョー「……」
ジョー「冷血オバタリアン…」ボソッ
ダダダダダダダダッ!!
ジョー「」ビクッ
アリアス「」ピタッ
ジョー「うわっちょっ」アタフタ
アリアス「」ニコッ
ジョー「あ、あはは…?」ビクビク
アリアス「殺すわよ?」
ジョー「す、すんません!」
729:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:18:55 ID:5qrvW4u.To
―――夢―――
「……おかあさま、おかあさま」ユサユサ
マリー「んぅ…どうしたの?坊や?」ウトウト
「おなか空いた…」グー
マリー「さっき食べたばかりでしょう?」
「…葉っぱと川の水だもん」
マリー「……」
「ねぇ。街に行こうよ?」
マリー「……!?」
「ボク知ってるんだ!近くに街があるって!
街に行ったらおいしい食べ物がいっぱい買えるよ?」
マリー「やめなさい。おじいさまが起きたらどうするの?」
「なんでダメなの?人間がいるから?」
マリー「そうよ。人間はあたし達をいじめるの。
街に入ったりすれば、とてもタダでは済まないわ?」
「そんな事ないよ!ねぇ、行ってみようよ!」
マリー「……」
祖父「駄目だ」
「…おじいさま」
730:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:20:29 ID:5qrvW4u.To
マリー「お父様…起きていたの?」
祖父「カロルや、いつも言っているだろう?
人間はおそろしくおぞましい種族だ」
「うん…」
祖父「近付くのはもちろん、見かけてもいけない。
私もおまえのお母さんも人間のために苦しんできたのだよ?」
「はい。ごめんなさい…」シュン
祖父「お腹が空いたのなら、これをお食べ」つ【木の実】
「木の実…?」
祖父「あぁ。坊やが腹を空かせてしまわないように残しておいたのだ」
「いいの?」
祖父「もちろんだとも。足しにならないかもしれないが、今はこれで我慢しておくれ?」
祖父「マリーは私たちを食べさせる為に朝から頑張っている。
とても疲れているのだ。少しでも休ませてあげなさい」
マリー「やめてよ、お父様…。子供に気を遣わせるような事は言わないで?」
祖父「…すまない」
「……グスッ」
マリー「」ビクッ
731:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:22:33 ID:PS6bUdj8sg
「ごめ……なさい」ポロポロ
マリー「坊や…?」
「えぐ…ボクが…ワガママ言ったから…」ポロポロ
マリー「坊や…。違うのよ?あなたは何も悪くないの」
祖父「そうだとも、カロルや。おまえが泣くことはないのだよ?
私たちが悪いのだ。まだ幼いおまえに苦労を強いているのだから…」
「ヒック…ひっ…うぅ……グスッ」ポロポロ
マリー「坊や、いい子だから泣かないで?
そうだ、何か探してくるわ?おいしくて、お腹がいっぱいになる物をたくさん!」
「ううん、いらない…。もう、お腹いっぱいだもん…」ポロポロ
マリー「無理しないの!探せばきっと果実が成っている木の一つや二つあるわ?」
祖父「おまえは疲れているだろう。わたしが…」
マリー「なに言ってるの!お父様は病を患ってるんだからおとなしくしていて!」
祖父「しかし…」
マリー「じゃあ行ってくるわね!」
「お母さま…!」
マリー「すぐに戻るからいい子にしてるのよ?」ニコッ
マリー「」タタタッ
祖父「マリー……」
祖父「(フィズスを亡くして、おまえも辛いだろうに…)」
732:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:24:46 ID:5qrvW4u.To
「おじいさま…。ごめんなさい」
祖父「謝るのは私の方だ」ナデナデ
「……」
祖父「ひもじいのだろう?いつもお腹を空かせてしまって…」
祖父「そのうえ私は体が弱いから、生きるのが精一杯でおまえと遊んでもやれない…」
「へいきだよ?おじいさまとお母さまがいて、いつも一緒だから。それだけでいいんだ!」
祖父「そうか…。おまえは良い子だね?」ナデナデ
「えへへ」テレテレ
祖父「(私がいなければ…この子の食べる分も増えるだろう)」
祖父「(マリーの負担も減って、ほんの少しだが楽になるはずだ)」
祖父「(やはり私はいるべきではない…。二人の為にも……)」
祖父「カロルや」ポンポン
「なぁに?おじいさま?」キョトン
祖父「…今夜は私と一緒に寝ようか?」
「…どうしたの?」
祖父「ん?なにがだね?」
「おじいさま。いつも一人で寝たがるから」
祖父「はは…いつもおまえのお母さんに一人占めされてるからな?
それともカロルは私と一緒では嫌かな?」
「ううん!いいよ!一緒に寝よう?」ニコッ
祖父「ははは…おまえは本当に優しい子だね」ニコッ
「えぇ!なんで?」
祖父「気にしないでおくれ。じゃあ寝ようか」
「うん!」ポフッ
733:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:26:44 ID:PS6bUdj8sg
「おじいさまの体、あったかい…」
祖父「そうか?」
「うん」
祖父「…カロルや」
「なぁに?」
祖父「…お母さんが好きかい?」
「大好き!」
祖父「そうか、そうか」ニコニコ
「おじいさまも大好きだよ!」
祖父「……!」
「おじいさま?」
祖父「…幸せだ。こんなにも幸福なことはない」ポロポロ
「泣いてるの…?ボク、いけない事しちゃった?」オロオロ
祖父「違うのだよ、カロル。嬉しいのだ。
抱えきれない程に幸せが溢れて…どうしてもこぼれてしまうのだよ」ポロポロ
祖父「私は幸福者だ…。だからこそ忍びない…。
私はおまえ達を…幸せにしてはやれないのだ…」ポロポロ
「おじいさま?」
祖父「…いや、なんでもないよ。もう寝よう」
「うん…」ウトウト
734:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:28:52 ID:5qrvW4u.To
〜〜〜〜〜〜
「」スヤスヤ
祖父「カロルや。もう寝たのかい?」
「」スヤスヤ
祖父「」スクッ
祖父「許しておくれ。二人とも…こうでもしなければ、優しいおまえ達のことだ。
別れを許してはくれないだろう」
祖父「」スタスタ
祖父「」ピタッ
祖父「っ…!いざとなると、こんなにも辛く険しいのか…。
この足を暫し前へ進めれば、自然と別れはいざなってくれるというのに…」
祖父「(二人と別れれば私に生きる術はない…。この別れは永遠となるだろう)」
祖父「(こんな命など惜しくはない。むしろ消えいくサダメなら楽に思えるほどだ)」
「」スヤスヤ
祖父「だが…愛する孫の寝顔を見て別れを選ぶなど……」
祖父「あまりに残酷で…あまりに救いが無さすぎる……」
祖父「(…カロル。マリー。私はやはり……)」
祖父「」ググッ
祖父「ゴホッゴホッ」
「んぅ…」モゾモゾ
祖父「」ビクッ
「……うぅん」スヤスヤ
祖父「…駄目だな、この子の幸せには変えられん」
祖父「せめて強く生きておくれ…。それが唯一の願いだ」
祖父「(往生際の悪いことだ…。遺書を置いて消えよう)」スッ
「おじい…さま…」スヤスヤ
〜〜〜〜〜〜
735:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:30:36 ID:PS6bUdj8sg
マリー「うふふ!果物は採れなかったけど、坊やの大好きなハニービーの蜜が採れたわ!」ルンルン
マリー「…あら?」
「」スヤスヤ
マリー「寝ちゃったのね…」クスクス
マリー「お父様はどうしたのかしら?」キョロキョロ
マリー「ん?なにかしら、この紙は?」カサッ
マリー「」ペラッ
マリー「……!」
マリー「お父様!?」バッ
マリー「お父様…!」タタタッ
736:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:31:43 ID:5qrvW4u.To
「ふあぁ…」ノビッ
マリー「…おはよう。坊や!」
「おはよう…」グシグシ
マリー「あらあら…目を擦らないの。傷付いてしまうわよ?」
「はーい…」
マリー「ねぇ、坊や!これ、なーんだ?」
「……?」
マリー「うふふ!ハニービーの蜜よ?」
「ホント!?」パチクリ
マリー「舐めてごらんなさい?取れたてだから、とっても甘いわよ?」つ【蜜袋】
「ペロッ…あまーい!」パァァ
マリー「……」ニコニコ
「お母さまも!」つ【蜜袋】
マリー「あたしはいいの。さっき取ったばかりの蜜を舐めたから!」ニコッ
「そうなの?」
マリー「あーおいしかった!取れたてほやほやのあまーい蜜!」キャピキャピ
「ムッ…なんかズルいや?」
マリー「坊やはそれで我慢なさい?ほーっほっほ!」
「…いいもん!」プンプン
マリー「ふふ…」ニコニコ
737:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:36:05 ID:5qrvW4u.To
「あれ…おじいさまは?」
マリー「……」
「どこに行ったの?」
マリー「…おじいさまは出かけたわ。用事があるからって」
「用事って?」
マリー「さぁ?あたしも知らないけど、先に行ってていいそうよ?」
「え?またどこかに行くの?」
マリー「えぇ…同じ場所に留まり続けると人間に見つかる恐れがあるもの」
「そう…そうだね…」
マリー「さ、ゆっくり食べなさい。食べ終わったら行くわよ?」
「おじいさま…ひとりぼっちになっちゃう。やっぱり待とうよ?」
マリー「……」
「ね?いいでしょ?」
マリー「そうね…。少しだけ待ちましょうか」
マリー「それでも来なかったら、行きましょう…」
「うん!」
マリー「……」
……………………
738:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 19:56:31 ID:PQJ03F4Riw
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「」パチッ
カロル「いっ…!」ギシッ
カロル「腕が縛られ…てる?」
カロル「そっか…。ボク…捕まっちゃったんだっけ」
カロル「」ハッ
カロル「お母さま?お母さまは!?」キョロキョロ
コンコン コンコン
カロル「…?」
???「起きているか?」
カロル「…だれ?」
???「私だ」
カロル「神父のおじさま…?」
神父「うむ。寝覚めはどうだ?」
カロル「……」
神父「ククク…扉越しからでも分かるぞ?
その様子では望みは聞き入れられなかったようだな?」
カロル「うん…」
神父「ははは!当然の結果だな!」
カロル「っ…!」
神父「ホビットの分際で欲を掻くからこういうことになるのだ!」
カロル「なんで…」
神父「む?」
739:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:01:27 ID:Iq/2yn3AyA
カロル「なんでダメなの?」
カロル「ボク達が欲しがったらいけないの?」
神父「……」
カロル「ずっと…我慢してきたんだよ?」
カロル「いっぱい頑張ったんだ…」
カロル「自分たちのお家があって、おいしいご飯があって、お日さまが昇ったら心を通わせる友達とたくさん遊んで…」
カロル「お日さまが沈んだら柔らかいベッドであったかい毛布にくるまってぐっすり眠って…」
カロル「起きたらお母さまがいて、優しく笑ってるんだ」
カロル「少しずつだけど…夢が叶ってたのに…」
神父「くだらん願いだ」
カロル「なんでボク達が幸せじゃいけないの…!」
カロル「人間と…友達になったっていいじゃない!」
神父「それが許されるには清らかでなくてはならない。
お前達のように罪深く、浅ましく、薄汚れた種族には許されんのだ」
カロル「ボクらと人間の何が違うっていうのさ…!」
神父「なっ…!ふざけるなよ、貴様ぁぁ!」
カロル「」ビクッ
740:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:06:50 ID:PQJ03F4Riw
神父「太古よりお前達は癒しの力を奪った種族として忌み蔑まれる存在だ!
人を襲い、食物を盗み、王国の怒りを招いて人を破滅に追いやるホビットがどれだけいると思っているのだぁ!!」
カロル「……!?」
神父「己の罪も自覚せずに図々しい事ばかりぬかしおって!恥を知れ!」
カロル「」プルプル
神父「なんとか言ってみたらどうだ!?」
カロル「もういいよ!!」
神父「なにぃっ!?」
カロル「どっか行ってよ!ボク、おじさまと話したくない!」
神父「何を貴様ぁ!ここは我々の敷地内だぞ!?」
カロル「おじさまだってボクとなんか話したくないんでしょ!?」
神父「当然だ!」エッヘン
カロル「なら放っておいてよ!」
神父「い、言われなくともそうするに決まっとろうが!」
カロル「…じゃあそうすれば!?」
神父「ぐぬぬ…!」ギリッ
神父「ふん!」クルッ スタスタ
カロル「…なんなのさ」シュン
741:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:13:30 ID:Iq/2yn3AyA
――――――
カロル「…これからどうなるんだろう」
カロル「閉じ込められたままなのかな…」
コンコン コンコン
カロル「……?」
神父「おい!」ドンッ
カロル「わっ!」ビックリ
神父「…聞こえてるなら返事せんか!」
カロル「…な、なに?」
神父「…貴様、なにか頼みたい事はないのか?」
カロル「…へ?」
神父「頼み事はないのかと言っとるんだ!」
カロル「ど、どうしたの?」
神父「うるさい!いいから言え!」
カロル「…何がしたいの?」
神父「な、なに?」
カロル「また騙そうとしてるんじゃ…」ジト
神父「な、なんだと、貴様ぁ!?」
カロル「だって…変だもん」ムスッ
神父「うるさい!あるのかないのか!」
カロル「…もしかして暇なの?」
神父「なっ…なっ…にゃにをぅっ!?
人が下手に出てやればいい気になりおってぇ!!」
カロル「…違うの?」キョトン
742:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:47:08 ID:Iq/2yn3AyA
神父「目を癒してもらった礼に頼みの一つも聞いてやろうと言うに!邪推しおってぇ!!」
カロル「えっ」
神父「そこまで疑うなら知らん!いつまでも孤独に震えていればいい!」
カロル「お、おじさま!」
神父「」クルッ スタスタ
カロル「待って!」
カロル「おじさま…」
カロル「…行っちゃったの?」ウルッ
カロル「」ウルウル
カロル「うぇぇん…」ポロポロ
神父「やかましい!泣くな!」
カロル「……」
神父「最初からどこにも行っとらんわ!」
カロル「グスッ……!」
カロル「ごめんなさい…」
神父「ふん!」
カロル「でも…さっきまでひどい事言ってたから」
神父「む?うぅん…うぉっほん!」
カロル「……?」
神父「つ、罪深き種族に借りなど作りたくないからな!それだけだ!」
カロル「…そうなんだ?」ニコッ
743:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:49:20 ID:PQJ03F4Riw
神父「あぁ。そうだ!分かったらさっさと言え!
ただし無茶な頼みは聞かんからな!?」
カロル「…ホントにいいの?あのおじいさまに怒られるんじゃ…」
神父「うっ…!そ、それはお前が司祭様の前で口を滑らせなければいい話だ!」
カロル「そっか、そうだね!」
神父「さぁ言え!私の気が変わらん内にな!」
カロル「…宣教師さまに渡してほしい物があるんだ?」
神父「渡してほしい物だと?」
カロル「うん。宣教師さまにあげようと思って絵を描いてきたの!」
神父「…なんと幼稚な」
カロル「ダメ?」
神父「ダメだとは言わんが…そんなことでいいのか?」
カロル「うん!」
神父「てっきり母親と自分を牢屋から出せだのと無茶を言うかと思っていたが…」
カロル「ホントはそうしたいけど、そんなこと言ったらおじさま怒るもの」
神父「まぁな…」
744:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:51:06 ID:Iq/2yn3AyA
カロル「だからいいんだ。やり残したのって言ったら、これくらいだから」
神父「ふむ…。ちなみにだが、お前が司祭様に願おうとしていた望みとはなんだったんだ?」
カロル「なんで?」キョトン
神父「なんとなく気になっただけだ。黙って答えろ!」
カロル「あ、うん…えと…」
神父「……」
カロル「……」
神父「……」
カロル「……」
神父「…どうした?」
カロル「黙りながら答えようって思ったんだけど、分かんなくて」
神父「普通に答えればいいだろうが!?」
カロル「え?だって黙って答えろって…?」
神父「だからと言って黙る奴があるか!?」
カロル「ご、ごめんなさい」アセアセ
神父「まったく…面倒な奴だな」
745:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:58:06 ID:PQJ03F4Riw
カロル「ボクね。宣教師さまを許してってお願いしたかったんだ?」
神父「あぁ。それは前にも聞いたが…」
カロル「それからお母さまとマルクと3人で一緒に帰るんだ!」
神父「ふむふむ」
カロル「あと見張りのお兄さんにおやすみをあげてってお願いしようと思ってたの」
神父「む?なぜだ?」
カロル「お母さんのお見舞いに行きたいんだけど、おやすみが貰えないから行けなくて困ってるって聞いたんだ」
神父「それは確かに不憫だがお前が気にする事でもあるまい?」
カロル「えー。そうかな?」
神父「それはそうだろう?」
カロル「うーん…でも困ってるって聞いたよ?」
神父「そんなものは本人の問題だ。そっとしてやるのが普通だろう」
カロル「でも自分でなんとかできなかったらどうするの?」
神父「知らんわ!こちらには関係なかろう!」
カロル「それならどうしておじさまはボクの頼みを聞いてくれるの?」
神父「はぁ?」
カロル「それっておじさまが優しい人間だからだと思うんだ。
だから関係ないボクを放っておけないんじゃないかな?」ニコッ
神父「なっ…!な、な、なな…!」カァァ
746:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 21:08:18 ID:PQJ03F4Riw
神父「オホンッ…で、それが望みだったのか?」
カロル「ううん、他にもあったよ?」
神父「ずいぶん多いな…」
カロル「パッチくんを探してほしくて…」
神父「…逃げた子供か」
カロル「うん。どこに行っちゃったんだろ…」シュン
神父「……」
カロル「ちゃんと生きてる筈だよ?でも帰ってこないから…」
神父「…そうか」
カロル「うん…」
カロル「あとね。村にお医者さまを呼べたらいいなって…」
神父「……!」
カロル「みんな苦しそうで…無事な人間たちも悲しそうだったから」
神父「(こ、この小僧…)」
747:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 21:15:00 ID:Iq/2yn3AyA
―――回想(神父)―――
司祭「ほう…。そのような事になっておったか」
神父「はっ…。あのままでは村は崩壊の危機に瀕するかと思われます!」
司祭「何を言うとる?既に崩壊しとろうが?」
神父「は?いや、しかし…徐々に修正していけば元通りとはいかずとも息を吹き返せるのでは…」
司祭「ほほほ。それもまた一つの道じゃろうな?」
神父「は…?と、言われますと?」
司祭「まずは王国に報告して出方を見るとしよう」
神父「そ、そんなことを知らせれば…!」
司祭「まぁ…どう転ぼうと主が定められた道じゃよ」
神父「だ、黙っているという訳にはいかないのですか?」
司祭「黙ってなんとする?」
神父「は…?」
司祭「黙っていたとして万が一、王国に知られたらどうする?」
神父「そ、それは…」
司祭「そうなれば責めを負うのは我々じゃ。
謂れの無い罪を問われるのであれば何もかも話してしまった方がよい」
神父「……」
748:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 21:16:09 ID:PQJ03F4Riw
司祭「そう気を落とすでない。
お前にも、いずれまた別の布教地を任せてやろう。なにも急ぐ必要はない」
神父「い、いえ、そういう訳では…」
司祭「そんなことよりも、そのホビットが癒しの力を使ったというのは確かか?」
神父「そ、そんなこと…ですと…!?」
司祭「なんじゃ?」
神父「はっ…い、いえ…」
司祭「ふむ。それでホビットは癒しの力を使ったのか?」
神父「は、はい……」
司祭「ほっほっほ!そうか…それは実に許しがたい…!」ニヤリ
神父「……」
……………………
749:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 21:17:49 ID:Iq/2yn3AyA
「ま……さま…?おじさま…?」
神父「」ハッ
カロル「おじさまー?」コンコン コンコン
神父「す、すまん…。少しボウッとしていた」
カロル「大丈夫ですか?」
神父「うむ…」
カロル「急に声がしなくなったから心配したんだよ?」
神父「あぁ…すまんな」
カロル「平気。ボクは気にしてないよ!」
神父「…とりあえず約束通り、絵は届けてやる。
扉を開けるが逃げ出そうなどと思うなよ?」
カロル「はーい!」
神父「…」ガチャッ
神父「む?なんだ、これは?」ガチャッガチャッ
カロル「どうしたの?」
神父「鍵は回した筈なのだが扉が開かんのだ」
カロル「え……」
神父「一体どうなっているんだ?」ガチャッガチャッ
「その扉は特別でのう」
神父「」ビクッ
司祭「扉に備え付けられた鍵の他に…わしが持つ、この鍵を差し込まねばならんのじゃよ?」ジャラジャラ
神父「しさ……ぃ…さま…!?」
司祭「時に神父よ…。貴様、そこで何をしておるんじゃ?」
アリアス「…立ち入りを禁じていた訳ではないけれど、無断で扉を開けるのはまずいんじゃないかしら?」
神父「……!?」
750:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 13:46:55 ID:klXJlN7p4w
司祭「何をしとると聞いておろうに。さっさと答えんか」
神父「そ、それは…」
アリアス「まさか逃がそうとしていたの?」
神父「ち、違います!断じて!」
司祭「では何をしておったんじゃ?」
神父「む、村で起こった出来事にどこまで関わっていたのか…聞き出そうと思いましてな」
司祭「なんじゃ。まだこだわっておったのか?その話はもう済んだじゃろうが?」
神父「は、はぁ…」
司祭「…まことにそれだけか?」
神父「……」
司祭「話を聞くだけであれば扉を開く必要はあるまい?」
神父「失礼致しました!こうなれば恥を忍んで申し上げます!」
司祭「?」
神父「小僧とその母親を連れていた道中、ある物を預けておりまして、それを回収しに来たのです!」
司祭「ある物?なんじゃ、それは?」
神父「え、絵です!絵を預けたのです!」
司祭「絵?なにゆえにそのような物を預けたのじゃ?」
神父「あ、いや…」
カロル「違うよ!絵じゃなくて絵本でしょ?」
神父「そ、そうだ!そうだった!
布教をする際に子供らの目を引くようにと絵本を用意したのですが小僧が読みたいと言うので、つい渡してしまいましてな…。
あは、あはは。あはははは!」
司祭「ほう?まぁそういうことなら構わぬが、一言わしに断りを入れてくれんか?」
神父「はっ!大変失礼致しました!」フカブカ
司祭「ふむ…。鍵を開けてやろう。しばし待つがいい」
神父「はっ!ありがとうございます!」
751:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 13:48:58 ID:klXJlN7p4w
司祭「」ガチャッ
司祭「ほれ、開いたぞ?」
神父「失礼します!」スタスタ
カロル「袋の中に入ってるよ?」
神父「うむ、これか?」パシッ
カロル「うん」
神父「」ガサゴソ
神父「あぁ、あったあった。これだな?」つ【絵本】
カロル「おじさま…」コショコショ
神父「分かってる…。本の間に挟んでおいた…」コショコショ
カロル「うん、ありがとう…!」ニコリ
アリアス「待ちなさい」
神父「はっ…!?」ドキッ
アリアス「その袋は没収よ。囚人に荷はいらないでしょう?」
司祭「ふむ。それもそうじゃな」
神父「あ、はっ…。か、かしこまりました」つ【袋】
司祭「……」パシッ
カロル「あっ」
司祭「」ガサゴソ
司祭「ほっほっほ。これはこれは」ニヤリ
アリアス「なにか?」
司祭「見よ。見事にガラクタばかりじゃわい?」スッ
アリアス「…飴の入った小袋に古ぼけた万年筆。数枚の紙、汚れた頭巾とカツラ…ですか。ふふ」クスクス
司祭「持たせておいても問題はなさそうじゃが…万一の事を考えて取り上げておこうかの」
神父「……」
カロル「」シュン
752:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 13:52:59 ID:kcUjvD4cU2
―――大聖堂(応接間)―――
神父「では私はこれで…」
司祭「まぁ待て。お前にも用があるのじゃ」
神父「は?」
司祭「悪いが宣教師に付いていてもらえんか?」
神父「それははたまた…なぜ?」
司祭「村での布教活動も無くなった今となっては、あやつもする事がなく、時間をもて余しておるじゃろう。
奴の持ち場が決まるまでの間、お前の仕事を手伝わせてやってくれ」
神父「は、はぁ」
アリアス「余計な動きをされると面倒だから、よく見ていて」
神父「…余計な動き?」キョトン
アリアス「仮にもあの娘はホビットと通じていたのよ?」
神父「あ、あぁ…そうでしたな」
司祭「頼んだぞ」
神父「はっ!お任せください!」
神父「(ついでに絵を渡してやるか)」
753:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 17:15:03 ID:i6iF4FIEZA
―――大聖堂(広間)―――
ジョー「いやー。出てこられてよかったな!」
宣教師「ありがとうございます」モグ
ジョー「久々の牢外の飯はどうだ?」
宣教師「昨日もいただきました」モグモグ
ジョー「…なんだ、そっけないな」
宣教師「そういえば見張りの仕事はいいのですか?」
ジョー「あぁ、いいよ。別に逃げられたりしないだろ」
宣教師「知りませんよ…?」
ジョー「平気だって。これでも長いこと見張りをやってきたんだ。俺の勘は外れないよ」
宣教師「(今まで見た限り、あまりあてにならない気がしますが…)」モグモグ
ジョー「あんたの方はどうなんだ?見たとこ、やる事も無さそうだが」
宣教師「そうですね。布教も止まったままですし、司祭様の許しが降りたら村へ行こうと思っています」
ジョー「ふーん。村、か」
宣教師「なにか…?」
ジョー「いや、いいんじゃないか?」
754:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 17:27:56 ID:rrB8Fet0jk
ジョー「この菜飯うまいな!」ガツガツ
宣教師「…ジョーさんはどうされるのですか?」
ジョー「ん?」ゴックン
宣教師「…本当に行かないのですか?」
ジョー「あぁ、見舞いか?」
宣教師「はい…」
ジョー「あれ、嘘だぜ。ぜーんぶな」
宣教師「……へ?」
ジョー「ダガに頼まれてアリアスが仕組んだんだってよ。昨日の夜に言われたよ」
宣教師「な、なんですか、それ…!」
ジョー「あんたに嫌がらせしたかったんだと。ガキじゃあるまいし、暇な連中だぜ」
宣教師「……!」ワナワナ
ジョー「だからいいんだよ。こうなったらヤケになって馬車馬みたいに働くだけだ」
宣教師「そ、そんな事の為に…私は……か、体を…奪われそうに…!」ワナワナ
ジョー「へ?」
宣教師「許せません!!」ガタッ
ジョー「…おーい、どうした?」
宣教師「アリアス様に一言言ってきます!」
ジョー「行っても相手にされないと思うぞ?」
宣教師「くっ…!」ギリッ
ジョー「それにアリアス様はあんたのかわいがってたホビットの件で司祭様とランデブーだ。邪魔すんとどやされちまうぞ?」
宣教師「ですが…納得出来ません!」
ジョー「惨めだけど諦めるしかねぇよ。上の気まぐれに付き合わされんのも、下のお役目ってやつさ」
宣教師「く…ぐぐ…!」ギリギリ
ジョー「今回の事でそれがよーく分かったよ。下にいる以上じたばたしてもしょうがねぇってな」
宣教師「なんというか…吹っ切れてますね?」
755:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 17:36:17 ID:rrB8Fet0jk
ジョー「母さんに何もねぇって分かったし、胸のつかえも取れたからな。吹っ切れなきゃしょうがねぇだろ?」
宣教師「はぁ…」
ジョー「こうして出てきてるって事はあんたも色々と吹っ切れたのか?」
宣教師「私ですか?」
ジョー「あぁ、牢屋じゃホビットの話しかしなかったクセにこうやって世間話してんだぜ?」
宣教師「言われてみれば…そうかもしれませんね」
ジョー「このままいけばおとがめ無しだ。最初からそうしときゃよかったんだよ」
宣教師「そうですね…」
ジョー「…ほんとにそう思ってるか?」
宣教師「……」
ジョー「見たとこ、奴らを信じたい気持ちと信じられない気持ちでにらめっこしてるようにも見えるけどな?」
宣教師「何が言いたいのですか…?」
ジョー「ま、いいんだけどな」
宣教師「ジョーさんこそ、何か隠していませんか?」
ジョー「……?」
宣教師「わざわざ私などを食事に誘って…何か言いたい事があるのでは?」
ジョー「別に。単なる暇潰しだよ」
宣教師「でしたら私などではなく、トトさんを誘えば…」
ジョー「ははは。野郎と飯食ったってむさ苦しいだけだ」
宣教師「…私と食事をしたところで場が華やかになる訳でもないでしょう」
ジョー「大丈夫だよ。華は無くても飯はうまいから」
宣教師「…それはよかったですね」イラッ
756:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 17:38:35 ID:i6iF4FIEZA
宣教師「本当に何もないのですね?」ジト
ジョー「疑り深い奴だな。なにもないって言ってるだろ?」
宣教師「…そうですか」
ジョー「それより解放されてみて居心地はどうなんだ?」
宣教師「あまり良くはないですよ。話しかけられる相手もいませんし」
ジョー「そりゃそうだろうな。あんな事があった後じゃ誰も寄り付かねぇよ」
宣教師「こうして普通にお話してくださるのもジョーさんだけです」
ジョー「なんだよ。人のこと散々疑っといて?」
宣教師「すみません」シュン
ジョー「いや、別に怒ってないって」
宣教師「……」
ジョー「ま、無視されるのも今のうちだけさ。んな気ぃ落とすなよ?」
宣教師「はい…」
ジョー「俺でよけりゃいつでも話し相手になってやるから。な?」
宣教師「ありがとうございます…」グスンッ
ジョー「…あんた意外とおセンチなんだな」
757:🎄 名無しさん@読者の声:2013/7/21(日) 17:39:16 ID:onMP.eW80k
やった更新待ってた!
758:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 17:59:00 ID:i6iF4FIEZA
宣教師「このスープ、牢でも頂きましたね」ズズ
ジョー「言ったろ?司祭様のお情けでまともな飯を出してたんだよ」
宣教師「なるほど…」
「おい」
宣教師「?」クルッ
神父「こんなとこにおったのか」
ジョー「お!神父さんじゃねぇか。どうしたんだ?」
神父「見張りの分際でその口の聞き方はなんだ!」
ジョー「いいじゃねぇか。たいして変わんねぇよ。
あんたも俺も上に手綱引かれて畦道を走らされる馬車馬だ」
神父「なんだと!?」
ジョー「お互い貰えるニンジンは小さなもんだろ?」ニヤニヤ
神父「貴様と一緒にするな!!」
宣教師「どうなされたのですか?」
神父「司祭様に貴様を世話するように言われてな。これから私の下で働いてもらう事になった」
宣教師「神父様の下で…ですか?」
神父「まぁいわゆる教育係だな。邪教に通じていた小娘を面倒見る気にはなれんが、こうなったからにはコキ使わせてもらうぞ」
宣教師「」ムッ
ジョー「神父さんの下でか…。あんたも苦労が絶えねぇな」
神父「それはどういう意味だ!?」
759:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 18:04:04 ID:i6iF4FIEZA
宣教師「分かりました」スクッ
ジョー「おいおい、いいのか?まだ食い終わってないだろ?」
宣教師「えぇ、コキ使ってくださるようですので、存分に使われてきます」
神父「いい心がけだ。だがまだ食べていていいぞ。
手伝ってもらう前に渡したいものがあるのでな」
宣教師「?」
神父「」カサッ
宣教師「紙…?」
ジョー「まさか恋文でも書いてきたんじゃないだろうな?」ニヤニヤ
宣教師「えっ」
神父「そんな物を仕事前に渡すバカがいるか!?」
宣教師「」カァァ
神父「貴様も本気にするなっ!!」
ジョー「まぁこんなおっさんに恋文渡されてもな」
宣教師「お気持ちは嬉しいのですが…」
神父「貴様らいい加減にせんと本気で怒るぞ…!」ワナワナ
760:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 18:07:56 ID:rrB8Fet0jk
神父「ほれ、さっさと受けとれ!」つ【絵】
宣教師「これは…絵ですか?」
ジョー「どれどれ?」ヒョイッ
宣教師「あ、ちょっとジョーさん!」バッ
ジョー「へー!よく描けてるな!神父さんが描いたのか?」
神父「いや、これはホビットが描いたものだ」
ジョー「……は?」
宣教師「いいから返してください!」パシッ
ジョー「おっと」
神父「貴様に渡してほしいと頼まれたんでな」
宣教師「……」
ジョー「あのボウズは応接間の奥に閉じ込めてあるんだろ?
なんであんたに頼み事ができるんだ?」
神父「そんな事はどうでもよかろうが!」
ジョー「いや、どうでもよくないだろ」
神父「…どうでもいいと言ったらどうでもいいのだ!」
宣教師「(…これは私やルーボイ君、パッチ君を描いたもの…)」
ジョー「……」チラッ
宣教師「…カロ…ルくん」ギュッ
ジョー「はっ!やっぱりまだ吹っ切れてねぇんじゃねーか?」
宣教師「そ、そんな事はありません!」アセアセ
761:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 18:12:53 ID:rrB8Fet0jk
神父「なにぃ?貴様、また邪教に手を染めようとしているのか?」
宣教師「い、いえ…!」
ジョー「おいおい、そんな言い方はないんじゃないか?あんたもホビットの頼みを聞いちまったんだ」
神父「何が言いたい!?」
ジョー「ホビットに関わるのが邪教に通じるっていうなら、あんたも立派な邪教徒じゃねぇのか?」
神父「ば、バカを言うな!私はだな…!」
ジョー「あんたはどうなんだ?」
宣教師「え…」
ジョー「本当にいいのか?」
宣教師「…ジョーさんはホビットを憎んでいたのではないのですか?」
ジョー「…経験は人を変えるんだよ」
宣教師「……」
ジョー「もう一度聞くぜ。あんたはどうしたいんだ?」
宣教師「私は、もう彼らの事など…」
神父「わ、私も奴らを庇おうなどと思っとらんぞ!」
ジョー「あんだけ頑なだったのにどうしちまったんだ?」
宣教師「それは…」
神父「こいつは奴に騙されていたのだ!」
ジョー「?」
神父「奴らは癒しの力など存在しないと言っていた。しかし小僧は実際に我々の目の前で使ってみせたのだ!」
ジョー「…そういえば左目の布が取れてるな?」
神父「その通り!この傷は奴の力で塞がったものであり、癒しの力の存在を証明する確固たる印だ!」
ジョー「まさしく目印ってわけだ?」ニヤリ
神父「……!」カァァ
神父「そ、そういうつもりで言ったのではない!」
宣教師「……」
762:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 18:20:54 ID:i6iF4FIEZA
ジョー「それなんだけどな。裏があるかもしれないぞ?」
神父「はぁ?」
宣教師「どういう…ことですか?」
ジョー「あんまり大きな声じゃ言えないが昨日の夜に司祭様がアリアス様と話してたのを聞いたんだ」
神父「な、何を聞いたと言うのだ?」
ジョー「…癒しの力を持ってるのは、あんたが可愛がってたボウズだけだ」
宣教師「……?」
ジョー「うまく言えないが、そもそも癒しの力を持つホビットなんていなかったらしい」
神父「バカを言え!現にあの小僧は癒しの力を使ったぞ!」
ジョー「だから言ってるだろ?あいつ以外のホビットは使えないって」
宣教師「では…カロルくん達は嘘をついていたのではなくて…気付いていなかっただけ、ということですか?」
ジョー「ん?そうなのか?」
神父「なぜそうなる?」
宣教師「気付いていなかったのであれば、今までの発言も全て辻褄が合います」
宣教師「彼のお母様が『ホビットに癒しの力なんてない』とおっしゃられたことも、彼が直前まで力の存在を否定していたことも…」
神父「な、なるほどな!」
ジョー「ほんとに分かってんのか?」ジロジロ
神父「と、とと当然だ!!」シドロモドロ
763:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 18:26:50 ID:rrB8Fet0jk
ジョー「…そうすると気になるのは、なんで司祭様がボウズに癒しの力があると踏んだのか、だな」
神父「それは簡単だ。私が報告したのだ」
ジョー「えぇっ!?」
宣教師「彼が力を使うところを見たのですか!?」
神父「直接確認した訳ではないが二回ほど、それらしき場面があったんでな」
宣教師「そのような曖昧な報告で司祭様が確信なされたのですか…?」
神父「間違いなく使ったかと確認されたので、つい…間違いないと」
宣教師「あなたという人は……」
神父「だ、だがそうとしか思えん出来事があったのだ!」
ワイワイガヤガヤ
宣教師「神父様、声を抑えてください…」
神父「うっ」
ジョー「ここじゃ出入りが激しすぎるな。人目に付くし、聞かれてたって不思議じゃない」
宣教師「そうですね。一度場所を……」
シスター「神父様!」
3人「」ビクッ
シスター「礼拝堂で子供達が教えを待ちわびてますよっ!」ピシャリッ
神父「す、すまん。今行く…!」ガタッ
シスター「もうっ!早く準備してくださいね!」プンスカ
神父「分かっとる!貴様も来い!」
宣教師「わかりました」スクッ
ジョー「俺も持ち場に戻るとするか」スッ
シスター「先に行ってますからね!」スタスタ
宣教師「続きはまた後で」
ジョー「地下にいるよ。お務めに励んでな」
宣教師「はい」ニコリ
764:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/21(日) 18:45:24 ID:i6iF4FIEZA
>>757
ありがとうございます!
そう言っていただけると、とても励みになります。
現状、あまり頻繁に更新出来そうにないのですが出来る限りお待たせしないように努力致しますので暖かい目で見守っていただけたら幸いですm(__)m
765:🎄 名無しさん@読者の声:2013/7/23(火) 16:34:19 ID:C6E.n7Fh6I
やっと追いついた!
サラッと読むつもりだったのに気付いたらしっかり読み込んでしもた…w
ハラハラとwktkが止まらないですが、忙しいなら無理はなさらずに(`・ω・´)つC
766:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/24(水) 19:02:48 ID:SkEtgVNlD2
>>765
追い付きましたか!読み込んでいただけたなんて恐縮です!
その上お気遣いまで…!
あまり更新の早いSSではないので退屈させてしまうかもしれませんが、どうかゆったりとした歩調で読み進めていただけたらと思います!
支援ありがとうございました!
767:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/24(水) 19:04:13 ID:SkEtgVNlD2
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
司祭「」ジロジロ
カロル「」ドキドキ
司祭「ふむ。キレイな顔じゃわい。体も改めるとしようかの?」
アリアス「かしこまりました」ガシッ
カロル「」ビクッ
アリアス「おとなしくなさい?乱暴にされたくはないでしょう?」
カロル「」ビクビク
アリアス「」ビリッビリッ
カロル「っ…!」
司祭「ふむふむ」ジロジロ
カロル「なに…?な、なんなの?」ビクビク
アリアス「透き通るような白い肌…。フフ、素敵」
司祭「なるほどのう…?実にキレイな肌じゃ」ニヤリ
カロル「」ゾクッ
アリアス「フフ…」ニヤニヤ
司祭「ほっほっほ」ニヤニヤ
カロル「(こ、コワイ…!)」ブルブル
768:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/24(水) 19:07:10 ID:Wy3d6Ik7q2
司祭「見事なものじゃ。昨日のアザがすっかり消え失せておるわ」ニヤニヤ
アリアス「間違いなく怪我を負わせたのですか?」
司祭「この杖を見たがえぇ。こやつの穢れた血がこびりついて茶褐色に褪せておる」つ【杖】
アリアス「…確かに1日で元通りになるとは到底思えないですわね」
カロル「ね、ねぇ。もういいでしょ?服を着させてよ?」
アリアス「替えの服を所望していますが?」
司祭「そんな物、ある筈がなかろう?卑しい種族めが…」
アリアス「だ、そうよ。残念だったわね?」ニッコリ
カロル「そんな…」
司祭「風邪をひこうがアザと同様に癒しの力が発揮されるじゃろうて。心配はいらぬよ」
アリアス「これでだいたいの概要は掴めましたね」
司祭「そうじゃのう。己の傷にまで作用するとは…たいしたものじゃわい」
アリアス「他に何か調べておきますか?」
司祭「いや、ヘタにいじらぬ方がよい。すでに必要な力は確認出来た」
カロル「……?」
769:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/24(水) 19:12:30 ID:Wy3d6Ik7q2
司祭「さて、戻るかの。お前さんも通常の務めに戻るがよい」
アリアス「かしこまりました」
カロル「あ…待って、ください!」
司祭「む?」
カロル「ボクたちは…どうなるんですか?」
司祭「愚問じゃな」クツクツ
カロル「ボクはどうなったっていいです!だからお母さまとマルクは……」
司祭「やっかましいぃぃぃぃ!!!」
カロル「」ビクッ
司祭「どうでもよい事をべらべらと…」
カロル「どうでもよくなんかっ…!」
司祭「…行くぞ」スタスタ
アリアス「はい」スタスタ
カロル「……」
バタンッ
カロル「お母さま…マルク……」
カロル「どうしたら、いいの…?」ギュッ
770:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/24(水) 19:19:30 ID:Wy3d6Ik7q2
―――村―――
ガシャァッ!!
ヒャハハハハハ!! キャアアァアァァ!!
バキッ ガッ ゴスッ チャグッ ビチョ
―――民家(ルーボイの家)―――
バンッバンッ
メイキ「なにが…どうなっているの?」ブルブル
メイキ「(神父様から大体の事情は聞いたけど…こんなのじゃない!)」
メイキ「(何がなんだかわか……)」
バカンッ!!
メイキ「あひぇっ!?」
テパ「ひらいた……ごま〜〜〜!!!」ワッショイワッショイ
村人4「こ、ここか…。ここなんだな!?」ズルズル
メイキ「あんた、魚屋の息子のテパじゃないか…!
く、鍬なんか持ってなにしてんのさ…!?」
テパ「うぉーナナナナナ!!」ジタバタ
771:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/24(水) 19:22:48 ID:SkEtgVNlD2
村人4「もう限界だ…!持ってんなら早くよこせ!」
メイキ「な、なにさ?なにをよこせってんだよ?」ビクビク
村人4「持ってないのか!?はま……」
テパ「なんでやねん!?」ガスッ
村人4「ぼごふっ」グシャッ
メイキ「イャアアアアアアアア!!!?」
テパ「ドタマぶっちぎり!スッキリすっからかんだぜ!」キラーン
メイキ「あんた、何してんのよぉ!?」
テパ「ハーマーキーくーれーよー」ブンブン
メイキ「はぁ!?」
テパ「ババアだから葉巻をもってこい!」
メイキ「誰がババアよ!?」
テパ「はーやーくー」ブンッ
村人4「」ゴシャッ
メイキ「」ビクッ
テパ「うってつけだぜ!!」キラーン
メイキ「ひぃぃ!」タタタッ
テパ「そっち?」スタスタ
772:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/24(水) 19:25:42 ID:SkEtgVNlD2
ガチャッ
メイキ「ルーボイ!逃げるよ!?」
シーン
メイキ「ルーボイ?」キョロキョロ
メイキ「(まさかあの子ったら勝手に出ていったんじゃ…!)」
テパ「葉巻ここ?」
メイキ「」ゾクッ
テパ「なぁ、なぁ、なぁ」
メイキ「ち、ちがう…ちがうのよ…!逃げようとしたんじゃないの!」アセアセ
テパ「ないっじゃんっ!?」ブンッ
ドカッ!!
メイキ「ハ、ハァァァ…!?」ドキドキ
メイキ「(床が…抜けて……)」
テパ「なぁ、なぁ、なぁ」ジリジリ
メイキ「やめて…や……」
テパ「」ブンッ
グシャッ!!
テパ「」ビチャッ ビチャッ
テパ「おもしろかっこいいぜ!!」シャキーン
773:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/28(日) 14:21:54 ID:myb4Deq0fM
―――夢(パッチ)―――
ワルド「どうしたね。パッチくん?目を瞑ってしまうなんてもったいないなぁ?」
「……!」ギュッ
ワルド「ほら、ごらんよ。こんなに楽しいショーを見逃したら、きっとあの世で後悔するよーん?」
バキッ ドッ ボカッ ギャァァァ!!
ワルド「いくらお目々を閉じてみたってお耳は素直に受け入れるだろう?」
ワルド「両親の悲鳴が…暴力の嬌声が…艶かしく耳をなぞってくれる」ニヤァ
「ワアァァァァァァ!!!!」
ワルド「ん〜?」
「あぁぁぁぁあぁぁ……あぁぁぁぁあぁぁ!!」
ワルド「自分の声で掻き消そうとしているんだねぇ?」ヘラヘラ
ワルド「よしよし。おじさんには分かるよ?そういうホビットを何匹も扱ってきたから…」ナデナデ
「わっ…!わっ…!わあ゛あ゛あ゛…!!」
ワルド「涙ぐましい努力だ。声が枯れてなお、聴くまいと声を張り上げる…」シュボッ
グシャッ ミシッ ベキッ ドガッ
ワルド「スー……ハァァ……」プカプカ
ワルド「こんな巻き草一つで崩れる理性なら、君も村人たちもいずれ朽ちていたさ」
ワルド「いい教訓になったろう?活かす機会も無いだろうがね?」
「っさい!!黙れ!!黙れよ!!」
ワルド「君もいっぱい吸い込んでおくといい。怒りも恐怖も悲しみも…」
ワルド「ぐちゃぐちゃに混ざった感情を、この煙たさが忘れさせてくれるだろう」
「うるさいって!言ってるだろ!?」
ワルド「くくく…」
ワルド「ぎゃはははははははは!!!」ゲラゲラ
…………………
774:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/28(日) 14:26:07 ID:yGLCYk4q6E
―――森―――
パッチ「わっ!わあ゛あ゛あ゛!!」パチッ
パッチ「…あっ…ふわ!」アタフタ
パッチ「……!」キョロキョロ
パッチ「に、逃げなきゃ…もっと、もっと遠くに…」スクッ
パッチ「」スタスタ
パッチ「」カクンッ
パッチ「へ?」グラッ
ズザァッ! ザザザザザザザァァ!!
パッチ「あぅ…うぅ……」ズルズル
パッチ「い、痛い……逃げないと…」スクッ
パッチ「」フラッフラッ
パッチ「あっ…」クラッ
パッチ「」バタッ
パッチ「(あれ…なんでだろ。体が動かない…)」
パッチ「(ボク…死んじゃうのかな)」ウツラウツラ
パッチ「(やだ…死にたく…ない……やだ………)」ウツラウツラ
……………………
775:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/28(日) 14:30:38 ID:myb4Deq0fM
ルーボイ「パッチ―!」スタスタ
ルーボイ「たく…あいつ、どこもいねーじゃん…」
行商人「ぼくー?何を探しているんだい?」
ルーボイ「へ?」クルッ
行商人「子供が一人で森に入ったら危ないじゃないか。迷子にならない内に家にお帰り?」
ルーボイ「おっちゃん…誰?」
行商人「おじさんは旅の商人だよ」
ルーボイ「旅の…!?」ブルッ
行商人「旅とは言っても一定のお客さんの所を回ってるだけだけどね。君は?」
ルーボイ「お、俺のことなんかいいだろ!別に!」
行商人「何を言ってるんだ。どうせそこの村の子だろ?」
ルーボイ「う、うるせぇ!」
行商人「おじさんが家まで送ってあげるから一緒に行こう。帰り道を忘れてしまったんだろ?」スッ
ルーボイ「来んな!」
行商人「なんだ、君は?人が親切で言ってるのに?」
ルーボイ「いいから!俺のことなんかほっとけよ!」
行商人「そういう訳にはいかないよ。子供を一人で森に置いてはいけない。
それに私も村に用があるんだ。ほんのついでだから遠慮しなくていい」
ルーボイ「用ってなんだよ?」
行商人「あそこの村長夫妻にご愛顧いただいていてね。週に一度はこうしてカーリン産のガーデンハーブを納めさせてもらってるんだ」
ルーボイ「なにそれ?」
行商人「上等な香りを持つ茶葉だよ。奥様の大のお気に入りなんだ」
ルーボイ「茶葉…葉っぱ…草……」
〜〜〜〜〜〜
『…たかだか巻いた"草"程度でここまで堕ちるとは思わなかったがね。
これじゃ証拠の隠滅どころか違法薬物に手を出したって事で、どのみちこの村は破滅するだろう』
〜〜〜〜〜〜
776:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/28(日) 14:33:09 ID:myb4Deq0fM
ルーボイ「ひっ」
行商人「?」キョトン
ルーボイ「うわあぁぁぁ!!!」タタタッ
行商人「えっ」
タタタッ タタタッ
行商人「ち、ちょっと!そっちは…!」ダッ
ルーボイ「あのおっちゃんも同じだ!」タタタッ
ルーボイ「…逃げなきゃ!殺される!」タタタッ
行商人「ま、待って!待ってくれ!」タタタッ
ルーボイ「や…来んな!くんなぁ!!」タタタッ
行商人「はぁっ…そっちは…!」ゼーゼー
ルーボイ「うわぁぁぁ!!」タタタッ
行商人「だからっ…そっちは…急な斜面が……」
ルーボイ「うるせぇ!うるっ…」カクンッ
ルーボイ「えっ」
ズシャッ! ゴロゴロゴロゴロ!
行商人「あぁぁぁぁ!!!」
行商人「だ、だから言ったのに…!」
行商人「お、俺は知らないからな!と、止めたのに…」ガタガタ
行商人「あんな崖みたいな勾配から落ちたら…」ブルブル
行商人「」ブルブル
777:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/28(日) 14:39:47 ID:myb4Deq0fM
ルーボイ「っ…てぇ〜〜〜〜〜」ズキンズキン
パッチ「」
ルーボイ「…ぱ、パッチ?」
ルーボイ「パッチ!おい、パッチ!」ユサユサ
パッチ「」
ルーボイ「パッ…チ……?」
ルーボイ「おい…起きろ。起きろよ…」ユサユサ
ルーボイ「なんでだよ…カロルはお前が生きてるって……」
ルーボイ「ウソだろ…!」ワナワナ
パッチ「ん……」
ルーボイ「ちくしょー!!」
パッチ「」ビクッ
パッチ「ルーボイ…くん?」
ルーボイ「…っ!?」
パッチ「ルーボイくん…なの?」
ルーボイ「パッチ!!」ダキッ
パッチ「わっ」ギョッ
ルーボイ「お前なにしてたんだよ!勝手にいなくなりやがって!」
パッチ「…ごめん」
ルーボイ「良かった!ほんと良かった!」
パッチ「どうして…ここにいるの?」
ルーボイ「お前がいなくなっちゃうからだろ!バーカ!」
パッチ「……」
ルーボイ「早く村に帰ろうぜ!」
パッチ「無理だよ…」
ルーボイ「へ?」
778:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/28(日) 14:44:34 ID:yGLCYk4q6E
パッチ「ルーボイくんも落っこちたんでしょ?あそこから」
ルーボイ「あ、そうか…。登るの大変だな」
パッチ「登れないよ。二人ともケガしてるし」
ルーボイ「一回登ってみようぜ?イケるかもしんねーじゃん」
パッチ「……」
ルーボイ「ほら、行くぞ!」グイッ
パッチ「あっ」
ルーボイ「いっ!」ズキズキ
パッチ「足、腫れてるじゃん…」
ルーボイ「…こんぐらいへっちゃらだよ」ズキンズキン
パッチ「強がるなよ。ホントはすごく痛いくせに」
ルーボイ「うるせぇな。痛くたって登んなきゃ村に帰れねぇだろ?」
パッチ「いいよ。帰れなくたって…」
ルーボイ「は?なに言ってんだよ、お前?」
パッチ「最初から帰るつもりもなかったし」
ルーボイ「……?」
779:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/28(日) 14:46:30 ID:yGLCYk4q6E
パッチ「とにかくボクはここに残るよ」
ルーボイ「バカ言ってんじゃねーよ!母ちゃん達も心配……」
パッチ「」ピクッ
ルーボイ「あ…」
パッチ「そうだね。ルーボイくんのお母さんは心配してるよ。すごく」
ルーボイ「ご、ごめん」オロオロ
パッチ「なにが?」
ルーボイ「いや…」
パッチ「ボクの両親が死んだから気を遣ってるの?」
ルーボイ「そういう訳じゃ、ねーけどさ」
パッチ「かわいそうだって思ってるんだ?」
ルーボイ「なに言ってんだよ!そんなわけねーだろ!」
パッチ「……」
ルーボイ「…変なこと言って悪かったよ」
パッチ「いいよ。別に…」
780:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/28(日) 14:48:57 ID:yGLCYk4q6E
ルーボイ「そういえば、あの旅人だけどよ…」
パッチ「」ブルッ
ルーボイ「……」
パッチ「」ブルブル
ルーボイ「死んだってよ」
パッチ「えっ」
ルーボイ「カロルが言ってた。教会で死んでたって」
パッチ「ホント…?」
ルーボイ「なんで俺がウソつくんだよ?」
パッチ「そう…か。死んだんだ」
ルーボイ「だから帰ろうぜ。もう平気だよ」
パッチ「…やだ」ボソッ
ルーボイ「」ブチッ
ルーボイ「いい加減にしろよ!さっきからお前わがままだぞ!?」グイッ
パッチ「…るさいな」ボソッ
ルーボイ「はぁっ!?」
パッチ「うるさいな!!なんにも知らないくせに!!」バッ
ルーボイ「!?」
パッチ「そんなに帰りたかったら一人で帰れよ!ボクは絶対に帰らない!」
781:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/28(日) 14:53:33 ID:yGLCYk4q6E
ルーボイ「ふざけんな!なんで俺がここに来たと思ってんだよ!」
パッチ「関係ないよ!そっちが勝手に来たんだろ!?」
ルーボイ「てめぇ…!」イラッ
パッチ「もう…構わないでよ!」プイッ
ルーボイ「この…!」ガバッ
パッチ「うわっ」ズザァッ
ルーボイ「バカヤロー!」ボカッ
パッチ「いた…!」
ルーボイ「お前のために…来たんだぞ!」ビシッ
パッチ「や、やめ…やめろよ!」ジタバタ
ルーボイ「俺も…!カロルも…!心配してたのに!」ガッ
パッチ「いたい…いたいって!」ジタバタ
ルーボイ「お前なんか知らねーよ!」ゴッ
パッチ「あう…!」ヒリヒリ
ボカッ ゴッ バスッ ガツンッ
パッチ「(こわい…こわいよ…)」
『両親の悲鳴が…暴力の矯声が…艶かしく耳をなぞってくれる』
パッチ「(おとが…音がこわい…!)」ギュッ
782:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/28(日) 15:17:07 ID:myb4Deq0fM
パッチ「ひっ…ひっ…」ボロッ
ルーボイ「……」
パッチ「こわい…こわい…うぅ…ヒック…グスッ」ポロポロ
ルーボイ「ごめん。やりすぎた」
パッチ「ぇぐ…わあぁぁん…」ポロポロ
ルーボイ「でも…お前だって悪いんだからな」ムスッ
パッチ「…きらいだ」スクッ
ルーボイ「え?」
パッチ「みん…みんな…みんな…きらいだ」フラッ
ルーボイ「おい、どこ行くんだよ!」ガシッ
パッチ「離せよ!」ドンッ
ルーボイ「っ!」ドサッ
パッチ「」フラッフラッ
ルーボイ「待て…っ!」ズキン
ルーボイ「足が…!」ズキズキ
パッチ「」フラッフラッ
フラッフラッ フラッフラッ
ルーボイ「パッチ!パッチー!!」
ルーボイ「ちっ…!バーカ!そうやってずっといじけてろー!」
ルーボイ「バーカ……」
783:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 20:05:28 ID:ViDpTILY5o
「おーい!!」
ルーボイ「…?」
行商人「よ、良かった!生きていたんだね!」
ルーボイ「さっきの…おっちゃん?」
行商人「遅くなってごめんよ!確かめるのが怖くて動けずにいたんだ!
待ってて!すぐに縄を下ろすから!」スッ
ルーボイ「……」
行商人「引き上げてやるから縄を掴むんだ!さぁ!」ダラン
ルーボイ「お、おう」パシッ
行商人「よ、よし!いくぞ!うんしょっ!」グイッ
ルーボイ「」ググッ
行商人「うおおおお…!」ギシッ
784:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 20:06:38 ID:ViDpTILY5o
行商人「はぁ…はぁ…」ゼーゼー
ルーボイ「……」
行商人「無事でよかった…」ニコッ
ルーボイ「あんがと…」
行商人「いいんだよ。ちゃんと教えなかった私も悪い」ナデナデ
ルーボイ「…さっき、ひどいこと言ってごめん」
行商人「気にしなくていいよ。それより足をケガしてるじゃないか?
こんな森の中にいて菌が入ったらまずいから手当てしてあげよう」ゴソゴソ
ルーボイ「……」
行商人「少し染みるけど我慢するんだよ。お酒で消毒するから」キュッ ポンッ ドボドボ
ルーボイ「っ…」ピクッ
行商人「傷薬を塗って、と」ヌリヌリ
ルーボイ「……」ヒリヒリ
行商人「包帯を緩く巻いて」マキマキ
ルーボイ「おっちゃん、いろいろ持ってんな」
行商人「これくらいは旅をする人間ならみんな持ってるさ。はい、おしまい」ギュッ
ルーボイ「ありがとな!」
行商人「どういたしまして。ところで…さっきはなんで逃げたりしたんだい?」
ルーボイ「」ドキッ
行商人「もしよかったら聞かせてくれないか?」ニコッ
ルーボイ「……」
785:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 20:10:38 ID:ViDpTILY5o
行商人「……んー。にわかには信じられないなぁ」
ルーボイ「ホントだぞ!」
行商人「見知らぬ旅人がやって来て村の人間を何人も殺した上に村人達をおかしくしたって言うのかい?」
ルーボイ「そうだよ。俺の父ちゃんも…殺された…!」
行商人「…でたらめを言ってる訳じゃなさそうだね」
ルーボイ「だからホントだって言ってるだろ!」
行商人「なら村に行っても商売にならないかもなぁ」
ルーボイ「…行かねぇ方がいいよ。さっき抜け出した時もぎゃーぎゃー喚いてて変だったもん」
行商人「それにしても煙草を吸わされたから半狂乱になるなんてあり得ないと思うけどなぁ」
ルーボイ「ウソじゃねーもん…」ムスッ
行商人「うん、分かってるよ。冗談でこんな事を言う子はいない」
ルーボイ「……」
786:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 20:11:56 ID:ViDpTILY5o
行商人「それで落ちた時に行方が分からなかった友達も見つけたんだね?」
ルーボイ「おう。ケンカしちゃったけど…」
行商人「じゃあもう一回その子も探しに行こうか。仲直りして一緒に帰ろう、な?」ナデナデ
ルーボイ「」ジト
行商人「ん?なんだい、変な顔して?」
ルーボイ「なんでそんな優しくすんだよ?」
行商人「なんでって?」
ルーボイ「おっちゃんと俺は赤い人ってやつだぞ。変じゃんか!」
行商人「それを言うなら赤の他人だよ」
ルーボイ「どっちだっていいだろ!」
行商人「なんで、かぁ…。子供なのに難しいこと考えるんだなぁ?」
ルーボイ「いいから答えろよ!」
行商人「そんなこと言われてもなぁ…」ポリポリ
ルーボイ「おっちゃんだって、あの旅人みたいに騙すかもしんねーだろ!」
行商人「それを本人に言われても困るよ。しかも目の前で」
787:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 20:26:11 ID:ViDpTILY5o
行商人「まぁ強いて言うなら…俺にも子供がいるんだ」
ルーボイ「子供?」
行商人「うん。今年で9歳になる」
ルーボイ「へっ!ガキじゃん!」
行商人「君もたいして変わらないだろう」ガビーン
ルーボイ「だからって助ける理由にはなんねーぞ!」
行商人「そうかもね。理由はないよ」
ルーボイ「ねーのかよ!」ガクッ
行商人「でも…君ぐらいの歳の子が助け合うのに理由を求めてはいけないよ」
ルーボイ「はぁ?」
行商人「君は知らない人が目の前でケガをして動けなかったらどうする?」
ルーボイ「え…声かけたり、大人を呼ぶかな」
行商人「それはなんでだい?」
ルーボイ「なんでって普通そうするだろ!」
行商人「そういうこと」
ルーボイ「いや、どういう事だよ!」
行商人「人を助けるのに理由なんていらない。そんなことばかり考えていたら寂しい大人になっちゃうよ」
ルーボイ「……!」
行商人「そうだろ?」ニカッ
ルーボイ「うん。そうだな!」
788:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 20:32:55 ID:ViDpTILY5o
行商人「さて、さっき君が落ちた坂の下に来てみたけど」
ルーボイ「別の道があったんなら教えろよな。めちゃめちゃ痛かったじゃねーか」
行商人「(全然礼儀がなってないな…。この子の親の顔が見てみたい)」
行商人「君のお友達はどっちに行ったんだい?」
ルーボイ「あっち」ビシッ
行商人「じゃあそっちに行ってみようか」スタスタ
ルーボイ「」ピタッ
行商人「ん?どうしたの?」
ルーボイ「…俺、あいつの事殴った」
行商人「うん。聞いたよ」
ルーボイ「……」
行商人「早く見つけて仲直りしないとね?」ニカッ
ルーボイ「うん…」
789:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 20:47:39 ID:ViDpTILY5o
行商人「結構深いとこまで来たな…」スタスタ
ルーボイ「あいつどこ行ったんだろ?」スタスタ
行商人「さぁ…この先の川を下って橋を渡ればミラルドの町だ。村からはかなり距離がある」
ルーボイ「……」
???「」グスッ
行商人「? 茂みから何か聞こえるね?」
???「ひっく…ひっく…」メソメソ
ルーボイ「パッチか!?」ダッ
行商人「あっちょっと」
ルーボイ「おい、パッチ!」ガサガサ
行商人「ま、待て!」ダッ
???「うえーん!」
ルーボイ「……あれ?」
790:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 20:48:37 ID:ViDpTILY5o
???「うえーん!」
ルーボイ「お、おまえ誰?」オロオロ
行商人「ルーボイ君!勝手に走っちゃダメじゃないか!」タタタッ
ルーボイ「お、おっちゃん」アセアセ
行商人「ん?あの子が君のお友達かい?」
ルーボイ「違うっつの!」
???「グスッ…ぼく、シープ」
行商人「シープ君って言うのか。こんな森の中で何をしてるんだい?」
シープ「仲間とはぐれちゃって一人ぼっちなんだ」メソメソ
行商人「そうなのか…」
シープ「それにお腹も空いて…三日くらい何も食べてない」
行商人「それはかわいそうに…」
ルーボイ「おっちゃん、なんか食わせてやれよ!」
行商人「そうだね。売り物だがしょうがない。シープ君、顔を上げて。もう怖くないよ?」ゴソゴソ
シープ「ホント…?」ムクッ
行商人「」ビクッ
ルーボイ「おう。このおっちゃん優しいぞ!」
行商人「……!?」
791:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 20:52:06 ID:J1qc8SjSd6
行商人「お、お、おま……」カタカタ
ルーボイ「どうしたんだ?」
シープ「ありがとう。人間のおじさん」ニコッ
行商人「こいつはホビットじゃないかぁ!?」
シープ「」キョトン
ルーボイ「あ、ホントだ。目が黄色だな」
行商人「は、離れろ!すぐに離れるんだ!」
ルーボイ「はぁ?」
行商人「消えろ!薄汚いホビットが!しっ!しっ!」シッシッ
シープ「……」
ルーボイ「お、おい…」
行商人「ホビットはいつも俺たちのかすみを食い漁る!
誰が食料なんか分けてやるか!勝手に野垂れ死んでろ!」
シープ「……」
行商人「ルーボイ君!行くよ!」
ルーボイ「なに言ってんだよ、こいつ助けてやれよ!」
シープ「?」
行商人「何を言ってるんだ!同じ空気を吸ったら呪われるぞ!」
ルーボイ「ホビットだからっていじわるすんなよな!さっき助けんのに理由はいらないって言っただろ!」
行商人「それとこれとじゃ話が全然違うじゃないか!」
ルーボイ「ホビットだって変わらねぇよ!」
行商人「だったら勝手にしたらいい!俺は知らないからな!」スタスタ
ルーボイ「おい、待てよ!」
792:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 20:53:48 ID:J1qc8SjSd6
スタスタ スタスタ
ルーボイ「…何がダメなんだよ」
シープ「あ〜あ、行っちゃった!」ケロッ
ルーボイ「…ん?」
シープ「ねぇ。食べ物ある?」
ルーボイ「え…」
シープ「なんか出してよー!ねぇー!ねぇー!」グイグイ
ルーボイ「…おまえ元気じゃねーか!?」バッ
シープ「うん。元気だよ!お腹ペコペコだけど!」
ルーボイ「じゃあさっきのなんなんだよ!?」
シープ「うそっこでーす!」ピョンッ
ルーボイ「はぁ!?」
シープ「ビックリしたでしょー!」
ルーボイ「ウソだったのかよ!?」
シープ「うん!とびっきりのウソ!」キラキラ
ルーボイ「ふざけんなよ!心配しちまったじゃんか!」
シープ「あっ!ラムー!おかえりー!」フリフリ
ルーボイ「え?」
ラム「ただいま。シープ」スタスタ
バンパ「俺にもおかえりくらい言えよ!?」
シープ「あの行商人、食べ物持ってた!?」キラキラ
バンパ「おう。これなら1週間はしのげるぞ!」つ【袋】
シープ「わーい!」ピョンピョンッ
ルーボイ「わ、わけわかんねぇ…」
793:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 20:58:03 ID:ViDpTILY5o
シープ「あ、こいつはどうするの?殺すの?」
ルーボイ「えっ」
ラム「その子は殺さないよ」
ルーボイ「な、なに…?」ドキドキ
シープ「ふーん」
バンパ「なんでもかんでも殺すとか言うんじゃない!」
シープ「いいじゃん!」
バンパ「これだからお子ちゃまは困るんだ。変な言葉を覚えたらそればっか言いたがる…」
シープ「むー!うるさい!」プクー
バンパ「うるさいってなんだ!」
シープ「ふーんだ!」プイッ
バンパ「…あぁもう!イライラさせる!」ガリガリ
ルーボイ「な、なんだよ…。なんなんだよ」ドキドキ
794:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 20:59:44 ID:J1qc8SjSd6
ラム「怖がらせてごめんね」
ルーボイ「…は、はぁ?怖くねーし!」
ラム「あはは。そっか」ニコニコ
ルーボイ「…おっちゃんに何したんだよ?」
ラム「あの人間なら死んだよ」
ルーボイ「」ゾクッ
ラム「……」
ルーボイ「お前らがやったのかよ」
ラム「そうなるね」
ルーボイ「……!」
ラム「安心して。君には何もしないよ?」ニコリ
ルーボイ「」ボカッ
ラム「……!」ヒリヒリ
シープ「あぁっ!」
バンパ「何してんだ、ガキ!?」ズイッ
ルーボイ「うるせぇ!!」
バンパ「こんの…!」
ラム「バンパ!!」
バンパ「あぁ!?」
ラム「……」ジーッ
バンパ「う…わ、分かったよ」スッ
シープ「へいき?いたくない?」ナデナデ
ラム「平気だよ。シープ」ニコリ
795:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 21:03:25 ID:ViDpTILY5o
ルーボイ「謝んねぇかんな!」プンスカ
ラム「いいよ。気にしてない」
ルーボイ「なんでおっちゃんを…」
ラム「殺してなんかいないよ。気絶させて、必要な物を貰っただけ」
ルーボイ「ま、またウソついたのかよ!」
ラム「ちょっとした遊び心。ううん、好奇心って言った方が正しいかな」
ルーボイ「はぁ?意味わかんねーぞ!」
バンパ「俺だって反対だったんだよ!こんなくだらない事に付き合わされんのは!」
ルーボイ「わかんねーよ!ちゃんと教えろっつの!」
シープ「はーい!ぼくが迷子のホビット役ー!」バッ
ルーボイ「えっ」
シープ「ぼくを助けてくれたらいい人間でー!助けてくれなかったら悪い人間!」
ルーボイ「?」
ラム「試したんだ。ここを通った人間でね」
ルーボイ「何がしたいんだよ!」
ラム「…森で会った同族が面白い事を言ってたんだ。差別しない優しい人間もいるってさ」
バンパ「それを確かめる為だけにラムのわがままで目的への足を止めてまで、こんな茶番劇をやらされたんだ!」
シープ「ぼくは楽しかった!」
ルーボイ「……!?」
ラム「君は合格。シープがホビットだって分かっても手のひらを返すようなまねはしなかったからね」
ルーボイ「……」
796:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 21:06:39 ID:ViDpTILY5o
バンパ「もういいだろ。行こうぜ」スタスタ
シープ「バンパー!うそっこしたら疲れたー!」
バンパ「うるさい!しゃんとしろ!」スタスタ
シープ「ケチー!」タタタッ
ラム「じゃあそれだけだから、バイバイ」
ルーボイ「お前が言ってたのってカロルだろ…?」
ラム「……!」パチクリ
ルーボイ「なんとか言えよ」
ラム「」クスリ
ルーボイ「なに笑ってんだよ?」
ラム「…そんな気はしてたんだ」
ルーボイ「……?」
ラム「君はカロル君の友達なんだろ?」
ルーボイ「だったらなんだよ?」
ラム「カロル君を裏切らないであげてね」
ルーボイ「は…?」
ラム「あの子は…僕らとは違う。幸せになれる」
ルーボイ「…お前らは?」
ラム「」キョトン
ルーボイ「幸せになんねーのかよ?」
ラム「……」
797:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/1(木) 21:08:16 ID:J1qc8SjSd6
ナニヤッテンダー! ハヤクシロー!
ラム「今行くー!!」
ルーボイ「おい!どうなんだよ!?」
ラム「バイバイ!」タタタッ
ルーボイ「あっ!待てよ!」
タタタッ......
ルーボイ「……」
ルーボイ「なんだよ…。カロルのやつ!」
ルーボイ「ちゃんと友達いるじゃんか!」ニカッ
ルーボイ「よっし!俺もパッチを探すぞー!!」グッ
ルーボイ「おーい!パッチー!」タタタッ
798:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/7(水) 10:20:22 ID:uXqH8Y5qJ2
―――大聖堂(庭園)―――
ジョー「もう日暮れ時か…。二十歳を過ぎた頃から1日が早く感じる…」
ジョー「はぁ…なーんかジジクセェなぁ」
カツンカツン カツンカツン
ジョー「おっ」
宣教師「お待たせしました…」ズーン
ジョー「おう。お疲れ…さん?」
神父「たく…」ブツブツ
ジョー「二人ともどうしたんだ?」
神父「どうしたもこうしたもあるか!」
ジョー「な、なにがだよ?」
神父「教え子達がこいつを延々となじっていて私の教えを聞かなかったのだ!」
宣教師「ヘアヌード女、脱走女、ホビットの仲間と散々罵られて、筆記具を投げつけられて、誰も話を聞いてくれませんでした…」ガクリ
ジョー「ヘアヌードって…ほんとに子供が言ったのか、それ?」
神父「おかげで私までとばっちりを受けたのだ!」
宣教師「うぅ…せめてセミヌードと…」メソメソ
神父「そういう問題か!?」
ジョー「ガキんちょにまで広まってんのか…。まぁあんだけ派手に動いたんだ。しょうがねぇよ」
神父「それもこれも貴様が半裸でホビットと牢を抜け出したりしたからだ!」
宣教師「うぅ…ですがあの時は他に手立てが…」
ジョー「まぁまぁいいじゃねぇか。そんな事を言い合う為に集まった訳じゃないだろ?」
神父「ふん!」
宣教師「はい…」シクシク
ジョー「じゃあ3人集まった事だし、本題に入ろうぜ」
宣教師「本題と言っても…ジョーさんの話を聞かない事には始まりませんよ?」グスンッ
ジョー「あぁ、分かってる。全部話すよ」
799:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/7(水) 10:23:17 ID:uXqH8Y5qJ2
ジョー「(>>720-728)ってのを聞いちまってな」
神父「…本気で言っているのか?」
ジョー「あぁ、この耳ではっきり聞いたんだぜ。間違いない」
神父「…なぜだ。なぜ司祭様はそのような秘密を我々…。いや教徒全員に打ち明けて下さらなかったのだ!」
ジョー「…それじゃ秘密でもなんでもねぇだろうが」
宣教師「……」
ジョー「で、宣教師さん。あんたはどう思う?」
宣教師「大樹…癒しの力…王国…果実…」ブツブツ
ジョー「…心当たりでもあるのか?」
宣教師「確かではありませんが…まずは情報を探ってみましょうか」
ジョー「おっ!乗り気だな!」
宣教師「もう惑わされるのもうんざりですからね。こうなったら自分たちで真実を手繰り寄せるしかありません!」
ジョー「そうこなくっちゃな!」ニヤリ
宣教師「協力していただけますか?」
ジョー「当たり前だろ。俺はもうこんな組織には嫌気が差してんだ!
不透明で…無情で…人の心を弄びやがるやり方にな!」
宣教師「ありがとうございます」ニコッ
800:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/7(水) 10:24:16 ID:uXqH8Y5qJ2
ジョー「神父さんは?」
神父「…貴様ら、真実など知ってどうするつもりだ?」
宣教師「決まっているでしょう?」
ジョー「あぁ。分かりきった事を言うな」
神父「な、なんだ?」
宣教師&ジョー「「しかえんじつたぎゃふんえといわせてます!!」」
神父「!?!?!?」メダパニ
宣教師&ジョー「「えっ」」
神父「な、な、なんだって?」
宣教師「なんておっしゃいました?」
ジョー「仕返ししてぎゃふんと言わせる。あんたは?」
宣教師「真実を世に伝えます、と…」
ジョー「……」
宣教師「……」
神父「」ドキドキ
ジョー「ま、いいんじゃねぇか?」
宣教師「そうですね。目的など人それぞれです。辿る道と導が重なれば問題ありません」
神父「…こ、こいつら」ガクッ
801:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/7(水) 10:26:01 ID:uXqH8Y5qJ2
神父「バカバカしい。私は協力などせんぞ!」
ジョー「お、おいおい!ここまで来てそれは…」アセアセ
神父「10年以上、身を置いた組織に意趣返しなど出来るか!お前らの企みも全部報告してやるから覚悟しておけ!」
ジョー「てめぇ…」グイッ
神父「ひっ!や、やめんか!暴力はいかんぞ!」ビクビク
宣教師「ジョーさん!」
ジョー「…止めようってのか?」
宣教師「えぇ。暴力では何も解決しません。話し合いで収めましょう?」
神父「そ、そうだ!野蛮だぞ!雇われ者のぶんざ…ぐえっ」ググッ
ジョー「言わせとけば調子に乗りやがって…。
こっちはガキの頃から毎日力仕事してたんだ!お前なんかを捻り潰すのは訳ねぇぞ!」ググッ
宣教師「やめなさい!」ガシッ
ジョー「あんた優しすぎるぜ?こんな奴に何言ったって聞きゃしねぇよ!」
宣教師「落ち着いてください!お願いですから!」ギュッ
ジョー「わっちょっ!ち、ちょい!」アタフタ
宣教師「神父様を離してあげてください!」ギュッ
ジョー「わ、わかった!わかったから!」パッ
神父「」ゲホッゲホッ
宣教師「ありがとうございます…」ホッ
ジョー「い、いいから!あんたも離れろよ!」アセアセ
宣教師「あ、すみません」スッ
ジョー「(せ、背中に胸が当たってるっての…!)」カァァ
802:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/7(水) 10:28:18 ID:V3L/v4xpps
宣教師「神父様、どうしても協力していただけませんか?」
神父「ふ、ふざけるな!あんなことをされた後でまだ言うか!」プンスカ
ジョー「自業自得じゃねぇか」
神父「な、にゃにをうっ!?」
宣教師「これでも…協力していただけませんか?」ピラッ
神父「ん?それは…」マジマジ
宣教師「よく見てください」つ【絵】
神父「小僧が描いた…これがなんだと…」マジマジ
神父「…あぁっ!?」
宣教師「」ニッコリ
ジョー「ん?それがどうかし…えぇっ!?」
神父「あの小僧いつの間にぃぃ!?」
宣教師「彼の絵には私と村の子供二人、飼い犬のマルクくんとお母様。そして……」
ジョー「隅っこの余白に神父さんの似顔絵、か。よく描けてるわ。
こんなもんが司祭様にバレたらホビットの仲間扱いだな」
神父「お…おのれぇぇぇいぃぃぃ!!!」
―――一方その頃―――
カロル「くしゅんっ」
カロル「風邪…かな?」
カロル「服が欲しいなぁ。寒いよ…」ブルッ
カロル「……」
カロル「マルク…お母さま…宣教師さま…」
カロル「会いたい…」ギュッ
803:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/7(水) 10:30:54 ID:V3L/v4xpps
ジョー「やっと観念したか」
神父「くそぉ…ずる賢い種族め…!すでに罠を張っていたとはなぁ…!」
宣教師「ふふ。優しいカロルくんのことです。あなたを忘れるとかわいそうだと思ったんですよ。きっと?」
神父「余計なお世話だ!」
ジョー「じゃあ納得したとこで続きといくか」
宣教師「そうですね。まずは書斎に入って『大樹』『癒しの力』『ホビット』、三つの言葉が入った本を探しましょう!」
ジョー「はぁ!?」
宣教師「どうしました?」
ジョー「そ、そんなの時間がいくらあっても足んないだろ!
あそこに何千冊の本があると思ってんだよ!?」
宣教師「それぞれの題目ごとに棚が分かれていますから題目を伝承・史実に限定すれば、かなり絞れると思いますよ?」ニコッ
神父「それでも約500冊…。どんなに速読術を備えていても最低4日はかかるな」
ジョー「勘弁してくれよ!自慢じゃないが活字とか読めねぇんだ!」
神父「バカが。本当に自慢にならんな」
ジョー「うるせぇ!だいたい本なんか読み漁ってどうすんだ?」
宣教師「先ほどの話だけでは不明な点ばかりで何も明らかにされていませんし、少しでも手掛かりを見つけなくては…」
神父「…なぜ3つの言葉に限定して探すのだ?」
宣教師「話の流れから察するに『大樹』『癒しの力』『ホビット』、これらが共通して使われているように思えてならないのです」
神父「だが分かったところでどうする?たいした意味も無いかもしれんだろう」
宣教師「いえ、きっと大きな意味を持ちますよ」
神父「バカな。何を根拠に…」
宣教師「では一度整理してみましょう。その上で話し合えば答えは自ずと開けるはずです」
804:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/7(水) 10:33:45 ID:uXqH8Y5qJ2
宣教師「経緯は司祭様が教団を立ち上げてから、ですね」
神父「そこまで遡るのか?」
ジョー「まぁまぁ。オツムの出来から考えて、こん中で頼れるのは宣教師さんだけだ。黙って聞こうぜ」
神父「なっ!わ、私の頭脳をナメるなよ!!」
ジョー「あぁ、あんたはすげぇよ。とてもかなわねぇ」
神父「はっはっ!ようやく私の素晴らしさに気付いたか!」エッヘン
宣教師「…いいですか?」
ジョー「続けてくれ」
宣教師「これはアリアス様に聞いたのですが…本来の伝承は古代文字によって暗号化されていて、正確に伝えられたのは何十年か前の事のようです」
神父「うむ。私の生まれる前から伝承は明らかにされていたぞ。
教団を立ち上げて間もない頃、司祭様が解読し、王国に伝えたのだそうな」
宣教師「…そして名声と確固たる地位を築いた司祭様は多くの信者を抱え、それらの過程で得た教えを説いたのでしたね」
神父「だからなんだ?そんなのは教団員ならば常識だろうが?」
宣教師「…おかしいとは思いませんか?
ホビットにまつわる伝承は数多く存在しますが、人間に関する伝承がほとんど上がっていません」
ジョー「…うん。そういえばそうだな」
宣教師「…司祭様が解読した物はなにか、そこを突き詰めてみましょう」
神父「どういう事だ?」
宣教師「もし、これまでの教えが全て迷信だとしたらどうですか?」
神父「め、迷信だと?まだそんな事を言ってるのか?」
宣教師「昼間にジョーさんが話していたじゃありませんか。癒しの力を持つホビットは限られていると」
神父「……!そうか!司祭様は知っていたのだった!これまでホビットが癒しの力を持っていなかった事を!」
805:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/7(水) 10:36:05 ID:uXqH8Y5qJ2
ジョー「なのに教団から発信された伝承、聖典、史実、口頭からはホビットが癒しの力を持っていると伝わったわけだ?」
宣教師「えぇ、つまり伝承そのものが存在すら疑わしいまやかし物である可能性も否めません」
ジョー「それじゃ仮に司祭様はなんの為に、こんな凝った作り話を広めたって言うんだ?」
宣教師「それはおそらく…王国によって歪められたんだと思います」
神父「王国が伝承をでっちあげたと言うのか?そんなバカな!」
ジョー「いや、確かにそんな風な事を言ってたな。王国に利用されたとかなんとか…」
宣教師「ホビットへの差別を促す目的があったのではないでしょうか」
神父「…?」
宣教師「王国が伝承を作り替え、教団に広めさせて人々にホビットは悪という概念を植え付けたかったのではないかと」
ジョー「…そうなると司祭様が王国へ怒りを向けるのも、なんとなく分かるな」
神父「それなら伝承は…なんだったと言うのだ?」
宣教師「解読したモノは伝承とは異なるなにか…」
神父「なにかとはなんだ?」
宣教師「分かりません。ですがその答えが…3つの言葉に繋がる気がするんです」
ジョー「はは。なんだか随分と大きい話になってきたなぁ?」
宣教師「はい。この時点ではあくまで空想の域を出ませんが…」
神父「…だが、なぜ王国がホビットへの差別を促したと?」
宣教師「彼らを追いやる事で人間の世界を拡大したかったのではないですかね…」
神父「それだけの為にか?パッとせん理由だな…」
ジョー「そんなの考えてみても時間の無駄。
なんかしらの理由があった。それだけ分かってりゃいいじゃねぇか?」
806:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/11(日) 18:18:24 ID:.2siRI80Ec
―――森の小道―――
ルーボイ「」ザッザッ
ルーボイ「あいつ…どこまで行ったんだよ!」ザッザッ
ルーボイ「ってかここどこだし!空も暗くなったし帰れねぇじゃねーか!」
ルーボイ「(パッチは道分かるかな。見つけたって帰れなかったら意味ねーよ)」
ルーボイ「腹も減ったし…ん?」ピクッ
ルーボイ「ここって…」キョロキョロ
ルーボイ「やっぱり!宣教師様の教会の近くだ!」
ルーボイ「なーんだ。帰れんじゃん!ひゃっほー!」ウキウキ
807:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/11(日) 18:19:52 ID:SgDEn2PqjI
―――教会―――
ルーボイ「」タッタッ
ズルッ ズルッ
ルーボイ「」ビクッ
ルーボイ「え…?」
パッチ「」ビクッ
ルーボイ「お、お前…!なんでここにいんだよ?」タタタッ
パッチ「……」
ルーボイ「それに…棒なんか持って…」
パッチ「どいて」ドンッ
ルーボイ「……!」
パッチ「!」ガスッガスッ
死体「」ブチャッ
ルーボイ「うぷっ」
パッチ「ぜんぶっ!ぜんぶっ!おまえのせいだっ!」ガスッガスッ
死体「」ブリョッ
ルーボイ「や、やめろよ!」ガシッ
パッチ「っ!」ジタバタ
ルーボイ「やめろって!なにしてんだよっ!」ググッ
パッチ「うるさいっ!邪魔するなよっ…!」バッ
ルーボイ「うわっ!お、お前…どうしちゃったんだよ?」オロオロ
パッチ「関係ないだろ!」
ルーボイ「……!」
808:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/11(日) 18:23:09 ID:SgDEn2PqjI
パッチ「はぁ…はぁ…!」ガスッガスッ
ルーボイ「……」
パッチ「はぁ…はぁ…」
ルーボイ「…なぁ?」
パッチ「はぁ…なに…?」
ルーボイ「何があったんだよ?お前、なんかおかしいぞ…?」
パッチ「おかしい?ふふ…おかしいだって!?」
ルーボイ「」ビクッ
パッチ「おかしくもなるよ…!こんなの!!」ブンッ
ルーボイ「わっ!?」サッ
パッチ「ボクがちゃんとお父さんの言うことを聞いてたら…こんなことにならなかったんだ!!」ブンッブンッ
ルーボイ「あ、あぶねぇな!そんなもん振り回すんじゃねぇよ!」サッサッ
パッチ「いけなかったんだ!ホビットと友達になるなんて!」ブンッ
ルーボイ「うぁ…!」ガスッ
パッチ「はぁ…はぁ…。知ってたら…最初から、友達になんかならなかった…!」
ルーボイ「つつ…」タラー
パッチ「…そうだろ!?」
ルーボイ「か、カロルは…ずっとお前の心配してたぞ…!」ズキズキ
パッチ「ウソだ!!どこにもいないじゃない!?
ボクが一人で逃げ回ってる間に…宣教師様とどっかに行ったんだ!」
ルーボイ「ちが…」
パッチ「ボクは裏切らなかった…!旅人に脅されたって…カロルくんのこと、守ったのに!」
パッチ「約束したから!裏切らない、ずっと友達でいるって!!」
ルーボイ「……」
809:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/11(日) 18:27:04 ID:.2siRI80Ec
パッチ「カロルくん達と一緒に逃げようと思って必死で探したんだ…。
だけど、どこにもいなかった!」
ルーボイ「……」
パッチ「なんでさ…?ボクは苦しくても我慢したよ?
お父さんもお母さんも村のみんなにぐちゃぐちゃにされて…旅人の笑い声を聞きながら、それでも耐え続けたんだ…」ワナワナ
ルーボイ「(村のみんながパッチの父ちゃん達を…?)」
パッチ「ボクはカロルくんを助けようとしたのに…カロルくんはボクを助ける気なんかなかったんだよ…!」
ルーボイ「だ、だから帰らないって言ってたのか?」
パッチ「そうだよ。村のみんなの顔なんて見たくないし、あそこにボクの居場所なんて無い!
誰も信じられなくなって、こんな森の中にひとりぼっちでいたのがどれだけ怖かったか君に分かるの…!?」
ルーボイ「……」
パッチ「分からないんだろ!分かるもんか!」
ルーボイ「(こいつ…そんな大変だったんだ…)」ググッ
810:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/11(日) 18:29:25 ID:.2siRI80Ec
パッチ「正直、ルーボイくんに会えた時はホッとしてた…。ボクらは幼なじみだもんね?」
ルーボイ「お、おう」
パッチ「でも…もう君も信じられない」
ルーボイ「な、殴ったのはごめん…。知らなかったから…」
パッチ「じゃあ…もう分かったよね。ボクに構わないでよ」
ルーボイ「ぱ、パッチ…!聞いてくれよ!」
パッチ「……」
ルーボイ「俺もカロルも宣教師様も…お前が大好きだ!
お前がいないと、俺…俺、楽しくないよ!」
パッチ「かわいそう」ボソッ
ルーボイ「えっ」
パッチ「いじめる人間にいじめられるホビット。かわいそうなのはホビットだって思ってた。
けど…本当はホビットに関わった人間がかわいそうなんだ」
パッチ「父さんが話してた悲劇の町のお話は…そういうことだったんだよ」
ルーボイ「……」
パッチ「かわいそうだよね。ボクも君も…あいつのせいでさ。
あいつがいなかったら、ボク達、ずっと仲良くなれたのに」
ルーボイ「……!」
811:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/11(日) 18:31:10 ID:.2siRI80Ec
パッチ「もう帰りなよ。ここからなら帰れるでしょ?」
ルーボイ「…やだ。帰りたく…ない」プルプル
パッチ「勝手にすれば…?ボクは行くよ」スタスタ
ルーボイ「どこに行くんだよ?」
パッチ「知らないよ…。どうすればいいか分かんない…。
とにかく誰もいない所に行きたいんだ」スタスタ
ルーボイ「……」スタスタ
パッチ「」ブンッ
ルーボイ「うおっ」サッ
パッチ「付いてこないで」
ルーボイ「や…でも…友達だろ?」オロオロ
パッチ「友達だったね。今までは」
ルーボイ「なっ…!今でも友達だっての!」
パッチ「違うよ。君なんか大嫌い」
ルーボイ「え…!」
パッチ「君もカロルも宣教師も…村のみんなだって。嫌いだよ」
パッチ「死んじゃえばいいのに」
ルーボイ「」ドクンッ
スタスタ スタスタ......
ルーボイ「」ガクッ
ルーボイ「」ドサッ
ルーボイ「は…はは…」
ルーボイ「……」ゴロン
死体「」プーン
812:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/12(月) 20:37:50 ID:6Siwn10zKM
―――大聖堂(書斎)―――
宣教師「……」ペラ
神父「」パラパラ
ジョー「くぁ…あぁ…」アクビ
宣教師「ジョーさんもマジメに読んでください!」
ジョー「んな事言われたって…読めねぇ字ばっかだしなぁ」
宣教師「神父様を見習ったらどうですか?もう10冊以上読まれてますよ?」
ジョー「パラパラめくってるだけだろ。本当に読んでんのか?」
神父「チキチキボンボンはやがて性に目覚めたが、その凄まじく歪んだ性癖から世の女性達に忌み嫌われ、挙げ句には芸者殺し野郎とあだ名された。それを見かねたチキチキバンバンが己の体を差し出し、引き込もっていたチキチキボンボンの心を解きほぐした。人々はチキチキバンバンの献身と慈愛に尊敬の念を抱き、チキチキの像を建て、彼女が体を差し出した日をチキチキパンパンの日とした………」スラスラ
ジョー「くっ…音読しやがった」
宣教師「読み込んでおられる証拠です。ジョーさんもしっかり頼みますよ?」ペラ
ジョー「(ろくでもねぇ内容じゃねぇか…。なんの史実だよ!?)」ブツクサ
神父「」ニヤニヤ
ジョー「このやろう…!」
神父「」パラパラ
813:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/12(月) 20:40:53 ID:Ll5Myk1/v.
ジョー「けっ!本なんか読めなくたって死にゃしねぇっつの!」
宣教師「いいから読んでください!何も情報が集まらないでしょう!?」
ジョー「お、怒るなって!はいはい、読むよ。読みますよ!」ペラ
神父「お前みたいなバカにも分かる本があればいいがな」パラパラ
ジョー「なんだと、おっさん!」ガタッ
神父「音読しているだけだが?」
ジョー「バカにすんじゃねぇ!」
神父「バカのクセに勘がいいではないか?」
ジョー「んだと…このクソオヤジ!!」グイッ
神父「うげっ!や、やへろ…!首が…しま……」バタバタ
ジョー「おらぁ!!」ユサユサ
神父「ぎょへ…!」ブラブラ
宣教師「はぁ…」イライラ
ジョー「参ったか!?」ググッ
神父「うぐぐ……」ブンブン
ゴチンッ! バキッ!
ジョー「っ〜〜〜!な、何も分厚い本で殴らんでも…!」グワングワン
神父「わ、私は…被害者だぞ…」グワングワン
宣教師「いい加減になさい。喧嘩は両成敗です!」
ジョー「暴力はダメだって言ったのはどこのどいつだよ…!」
宣教師「時として神は目に余る愚か者に裁きを下されます。頭を冷やす事ですね」
神父「野蛮な…!これだからヘアヌード女などとからかわれるのだ…」ブツクサ
ゴチンッ!!
神父「」ピクピク
宣教師「さ、続けましょうか。この調子では全冊読み終える頃には明け方になってしまいますよ?」ペラ
ジョー「(…おとなしくしとこう)」ブルブル
814:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/12(月) 20:44:29 ID:Ll5Myk1/v.
宣教師「あまり手掛かりとなりそうな書物もありませんね…」パタン
宣教師「どうですか?」チラッ
神父「めぼしい内容は見当たらんな」パラパラ
ジョー「ほとんど読めねぇよ。なんだこれ、しゅう…こい…?」
神父「どれ、見せてみろ?」パシッ
ジョー「……」
神父「バカか、貴様は?これは"贖い"と書いて"あがない"と読むのだ」
ジョー「じゃあ、あんたが読めばいいだろ!俺は読めねぇよ!」
神父「ふっ!いいだろう。文学専門の私に掛かれば速読など容易いことだ!」パラパラ
ジョー「ちっ!」
宣教師「人には得手不得手があるものです。ここは神父様を頼りましょう」
ジョー「あぁ、あぁ!そうだな!」ムスッ
神父「ふむ…。なるほどな」
宣教師「何か分かりましたか?」
神父「あぁ、これは何も関係無さそうだ!」キッパリ
宣教師「」ズルッ
ジョー「ならもったいぶんじゃねぇよ!!」
815:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/19(月) 02:11:37 ID:ViDpTILY5o
―――大聖堂(通路)―――
トト「はー!疲れた!ほんとアリアス様はコキ使ってくれるよな」スタスタ
トト「ん?」
神父「この書物に行き着くのなら、わざわざ書斎に行く必要があったのか?」スタスタ
宣教師「…改めて原点に立ち返ってみれば、今までとは違う視点から新たなものが見えるでしょう」スタスタ
神父「結局は全ての書物を確認した訳でもなかろう?」
宣教師「いえ、神父様の速読術のおかげでだいぶ絞れましたよ。ありがとうございます」
神父「む…!ま、ままぁな!はっはっは!」
ジョー「…二度と字なんか見たくねぇ」ズーン
トト「ジョー!!」
ジョー「うおっ!?」
宣教師「?」
ジョー「なんだ、トトか。びっくりさせんなよ!」
トト「てめぇ!よくもサボりやがったな!」
ジョー「何がだ?」
トト「とぼけんな!夕方から客人を迎える支度でみんな大変だったんだぞ!」
ジョー「あぁ、そうだっけか?わるいわるい!」
トト「悪いで済むと思ってんのか!こっちが忙しく働いてんのに自分はちゃっかり逢い引きなんかしやがって!」ギリギリ
ジョー「アホ!そんなんじゃねぇよ!」
トト「けっ!どうせ隠れて乳繰り合ってたんだろ!アリアス様に言いつけちゃうからな!?」
ジョー「勝手な報告すんじゃねぇよ!俺がこんなカタブツ頑固女と付き合う訳ねぇだろ!?」
宣教師「……」
ジョー「そっ!それに神父だっているだろ?」
神父「呼び捨てにするなぁ!!」
トト「あ、ほんとだ。ちわっす」ペコリ
神父「気付いとらんかったのか!?」
816:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/19(月) 02:16:34 ID:J1qc8SjSd6
トト「よくわかんねぇ面子だけど、なにしてたの?」
ジョー「ちょっとした宝探しだ」
トト「宝?なんだそれ?」
ジョー「見つけたらお前にも教えてやるよ」
トト「期待しないで待ってるよ」
ジョー「おう、任せとけ」
トト「あ、そういえばさ、さっきお前を探しに地下牢を覗いたらメスのホビットが具合悪そうにしてたぞ」
ジョー「具合悪そうって…どんな風にだ?」
トト「あー…なんかぐったり床に寝そべってて、妙に息が荒かったな」
ジョー「そうか。知らせてくれてありがとよ」
トト「おう。じゃあおやすみ。明日は客が来るんだからほどほどにしとけよ!」スタスタ
ジョー「あぁ、分かってるよ」
ジョー「で、どうする?」クルッ
宣教師「聞かれるまでもありません」
神父「うむ。疲れたし、そろそろ寝るとするか」
ジョー「勝手にしろ。俺らは地下に行くぜ」スタスタ
宣教師「」スタスタ
神父「な、なにぃ!いちいち見に行くのか!?」タタタッ
817:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/19(月) 02:18:30 ID:J1qc8SjSd6
―――大聖堂(地下牢)―――
カツンカツン カツンカツン
ジョー「さぁて…」
神父「ん?」
宣教師「どうしま…」チラッ
ダガ「むがむぐ」ギシギシ
宣教師「」ビクッ
ジョー「どうした?」
宣教師「あの方はなぜ全裸な上に縛られているのですか…!?」ゾゾゾッ
ジョー「司祭様がそのままにしとけって言うからよ。
猿轡はいびきがうるせぇから、俺が噛ましといた」
ダガ「むぐ!むぐぉぉ!」ギシギシ
宣教師「ひっ」
ジョー「安心しろよ。あー見えて寝てるから」
神父「…なんともえげつない光景だな」
ジョー「そのうち慣れて何も感じなくなるよ。
見張りってのは、そういう感覚じゃなきゃやってけねぇ」
818:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/19(月) 02:21:31 ID:ViDpTILY5o
ジョー「どれどれ?」チラッ
母「」ゼーゼー
ジョー「暗くてよく見えねぇな…」
宣教師「お母様!私です!」
母「」ゼーゼー
神父「どうやら意識がないようだな」
宣教師「このままでは何も対処出来ません!私は医術の心得がありますから、開けてください!」
ジョー「…了解!」ジャラ
神父「な、何をしている!」
ジョー「腹括れよ。あんたも俺達もとっくに教団を裏切ってんだ」カチャカチャ
神父「そ、それはそうかもしれんが…まだ間に合うのだぞ!」
ジョー「開いたぜ!」ガチャッ
宣教師「はい!」バッ
母「」ゼーゼー
宣教師「」ピトッ
宣教師「すごい熱ですね…」
ジョー「平気そうなのか?」
宣教師「…おそらく疲れが出たのでしょう。温かくして、氷を当てておくしかありません」
ジョー「じゃあ毛布と敷き布を持ってくるよ。神父さんは食堂から氷を持ってきてくれ」
神父「はぁ…こうなればやけくそだ…」
宣教師「私はお母様を見ています」
ジョー「了解」スタスタ
神父「(くそっ!私は何故こんな事を…!)」カツンカツン
819:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/19(月) 13:36:26 ID:URWfLfOkaM
―――夢(母)―――
カロル「お母さま!早く!」グイグイ
「きゃっ!ど、どうしたの?そんなにあわてて…」
カロル「いいから!ほら、見てよ!」グイグイ
「分かったから引っ張らないで…」スタスタ
カロル「お待たせ!マルク!」
マルク「わんっ!」
「二人してなんなの?そろそろ何をするか教えてちょうだい?」
カロル「だーめ!まだナイショだよ!ねー?」
マルク「わぅん!」コクコク
「(…今日は特別な日だから、夕飯の支度がしたいんだけど)」
カロル「取ってきてくれた?」
マルク「わふーん!」クイッ
カロル「よしよし。おりこうさんだね!」ナデナデ
マルク「くぅん」スリスリ
「まぁ?かわいいお花ね?」
カロル「うん。小さな穴の中に咲いてたんだ!マルクに取ってってお願いしてたの!」ゴソゴソ
「へー…。最近よく遊びに行くと思ってたら…。その本は?」
カロル「えと…こうやって…!」グッグッ
「まぁ!せっかくのお花をなんで挟んでしまうの!?」
カロル「開けてみれば分かるよ?」つ【アルバム】
「え…」パラリ
カロル「」ワクワク
マルク「」フリフリ
「……!」
820:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/19(月) 13:38:31 ID:UP/8EGaLio
カロル「どう?押し花でアルバムを作ってみたんだ?」
「すごいわ!こんなに色とりどりのお花が一冊のアルバムに咲き誇ってる!
これを一人で全部集めたの?」
カロル「ううん。マルクも一緒だよ?」
マルク「あんっ!」
「ふふ。そうね。ごめんなさい」ニコニコ
カロル「それ、お母さまにあげる!」
「まぁ。嬉しいわ!でも、いいの?せっかく二人で集めたのに…」
カロル「えへへ!だって今日はお母さまにとって特別な日でしょ?」
「…あたしにとって?」
カロル「もう!忘れちゃったの?」
「えぇ。ごめんなさい…。ちょっと思い出せないわ」
カロル「今日はお母さまが……」
「(だって今日は坊やの……)」
カロル「お母さまがボクを生んでくれた日!」
821:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/19(月) 13:39:56 ID:UP/8EGaLio
「……それって坊やの誕生日でしょ?心配しなくても忘れてなんかいないわよ?
今日のために森の中を探し回ってご馳走を準備しておいたんだから!」
カロル「わーい!楽しみ……そうじゃなくって!」プンプン
「な、なに?」
カロル「今日はお母さまがボクを生んでくれた日だから、ありがとうって伝えたくて!」
「それで…アルバムを?」
カロル「うん!」
「…今日は坊やのお祝いしようと思って張り切ってたのに」ガックリ
カロル「…い、イヤだった?」アセアセ
「こんな事されちゃったら、嬉しい日なのに泣けてきちゃうわ…?」ブワァッ
カロル「わっ!な、泣かないで!ボク、お母さまを喜ばせたくて…ごめんなさい!」ペコッ
マルク「くぅん…」シュン
「違うのよ。坊や…」ダキッ
カロル「…お母さま?」
「生まれてくれてありがとう…。あたしのかわいい坊や…。
あなたがいてくれるから、こんな悲しい世界でも…生きていこうって…そう思えるのよ?」ギュッ
カロル「えへへ…。生んでくれてありがとう。お母さまがいてくれるから、ボクは幸せだよ」ポンポン
マルク「はっ!はっ!」ピョンピョン
カロル「もちろんマルクも、ね?」ニコッ
「えぇ。あなたも大切なあたし達の家族よ?」グスッ
マルク「くーん…!」スリスリ
「(誰一人、欠けてはならない大切な家族…。あなた達だけは…絶対に守ってみせる)」
「…二人とも。お家に帰りましょう?今日はとびっきりのご馳走よ?」
カロル「はーい!マルク!どっちが先に帰るか、かけっこしようよ!」タタタッ
マルク「わんっ!」タタタッ
「あらあら、まだ支度も出来てないのに…しょうがない子たちね?」タタタッ
…………………
822:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/21(水) 21:35:22 ID:sf2O.3nUgE
―――大聖堂(地下牢)―――
母「うぅん…あたしの…かわいい坊や…」ギュウ
「!」
母「んぅ……へ…?宣教師…さま?」ギュウ
宣教師「目が…覚めましたか?」ムギュ
母「ご、ごめんなさい!」パッ
宣教師「あ、いえ…お気になさらず…!」アタフタ
ジョー「ぷっ…くく…!」プルプル
神父「」グーグー
宣教師「むっ」カチンッ
ジョー「とっくに成人してる女が…か、かわいい坊やだってよ…!くくく…!」ニヤニヤ
神父「」グースカピー
バキッ! ゴインッ!
ジョー「」ピクピク
神父「っ!?っ!?っ!?」メダパニ
宣教師「ふぅ」
ジョー「あ、あんたなぁ…3人で苦労して探した本を武器にすんなよ……」ズキズキ
宣教師「私物をどのように使おうと私の勝手では?」
神父「(な、なんだ?何が起こったのだ?よく分からんが後頭部がとにかく痛い…!)」ズキンズキン
母「お、おほほ…」ヒクヒク
823:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/21(水) 21:37:15 ID:sf2O.3nUgE
母「あなた達…どうしてここに…?」
宣教師「…お母様が体調を崩していると聞いたものですから」
ジョー「寝具と氷水は俺達が持ってきたんだぜ?」
神父「ふあぁ…」アクビ
母「眠たそうになさってますけど、一体いつから…?」
ジョー「昨日の夜からかな。交代で看てたんだ」
母「まぁ…!ご迷惑をおかけしてすみません!」
神父「まったくだ…!」ブツブツ
宣教師「…とんでもありません。今は体を休める事に集中なさってください」
母「ありがとうございます…」
ジョー「いいってことよ!なっ?」ドンッ
神父「うっ!ゲホッゲホッ!い、痛いではないか!貴様ぁ!!」
母「ふふ…」クスクス
824:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/21(水) 21:39:02 ID:CxkaNjJgs6
母「」ゴホッゴホッ
宣教師「大丈夫ですか!?」ガバッ
ジョー「意地を張ってろくに飯も食わねぇからだ。熱もあんだし、おとなしく寝てろよ?」
母「気を遣わないで…?このくらい、旅をしていた頃は何度もありましたし、だいぶ熱も引きましたから…」
宣教師「無理はいけませんよ…。今日からきちんと食事を摂ってくださいね?」
母「あたしなんていいんです…。それより、坊やは…?」
宣教師「……」
母「…宣教師様?」
宣教師「……」
母「…坊やはどうしているの…!?」
宣教師「今は別の所にいます…。お母様もカロルくんも必ず出してあげますから、心配は入りませんよ」
母「……?」
宣教師「その為にここにいるジョーさんと神父様も協力してくださってます」
母「…本当に?」
ジョー「まぁ、そうなんのかな?」
神父「勘違いするな!私は貴様の息子のせいで巻き込まれただけだ!」
母「……」
宣教師「安心してお休みになってください。あとは私達に任せて…」
母「…ありがとうございます」ホロリ
825:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/21(水) 21:42:53 ID:CxkaNjJgs6
母「あたしにも何か出来ることはありませんか?
ここに籠っていると不安で…なんでもいいから協力したいんです」
宣教師「…そんな。お母様は無事に出られるよう、体調を整えるのに専念していただければ…」
母「…いてもたってもいられないの。早くあの子の顔が見たくて…」
宣教師「お気持ちは分かりますが…」
ジョー「じゃあさ、マリーさんは本当に癒しの力を持ってないのか?」
母「……?持ってませんよ?」
宣教師「急にどうしたのです?」
ジョー「なんか腑に落ちないんだよな…。母親のあんたに無い力を息子が持ってるってのがさ」
神父「うむ…。確かにな。遺伝や体質的なものであれば、母親の貴様が持ってないのはおかしい」
母「…そう言われても」
宣教師「それは私も考えていましたが…何か条件があるのだと思います」
神父「条件?」
宣教師「そうですね…。例えば環境とか…思い当たる節はありませんか?」
母「特には…。あたし達のような暮らしを強いられた同族はたくさんいる筈ですし…」
神父「…同族の中にそういう力を持った者はいなかったのか?」
母「聞いた事がないわ…。あの子がなぜそんな力を持ってるのか、あたしも不思議でしょうがないんです」
ジョー「ますます分からねぇな。そうなってくると、そもそも癒しの力ってなんなんだ?」
神父「頭がおかしくなりそうだ…。今まで常識として捉え、深く考えていなかったが改めて考えると訳が分からん」
宣教師「…私も最初はそうでした。正直のところ、今も分かっていません。
ですが実在する力である以上、そこになんらかの理があるはず」
母「…ごめんなさい。あたしが何か知っていたら…」
宣教師「いえ、お母様のせいでは…あっ」ポンッ
宣教師「…お母様。これを見ていただけませんか?」つ【本】
母「…それは?」
宣教師「我々教団が布教の際に用いる聖書(>>1-4)です。この内容に心当たりが無いかと思いまして」
母「…力になれるかは分からないけど、あたしに出来ることなら」
826:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/21(水) 21:45:42 ID:sf2O.3nUgE
母「…聞いた事もないお話ねぇ」パラリ
宣教師「やはり、そうですか…」
母「あたし達ホビットにまつわる樹のお話と言ったら…"アピシナの樹"くらいだけど。関係も無さそうですし」
宣教師「アピシナの樹…?」
母「はい。あたし達の種族に伝わる古いおとぎ話です」
ジョー「そんな樹、聞いたことあるか?」
神父「いや、無いな。そもそも聖書に乗っている大樹も遠い昔に枯れ果てたとされている」
ジョー「そうなのか?」
神父「うむ。癒しの力を奪った後に神の裁きを恐れたホビットが、この世界と神のおわす天界を繋ぐ大樹を隔てる為に枯らせたとな」
ジョー「へー。やっぱ名ばかりじゃなくて、ちゃんと神父やってんだな。俺は大雑把にしか覚えてねぇや」
神父「これぐらい今や常識だぞ…!?」
宣教師「その樹の言い伝えとは、どんなお話なのです?」
母「それは…」
827:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/21(水) 22:26:54 ID:CxkaNjJgs6
………………
むかしむかしのおはなしです
森に棲むアピシナという名の若いホビットがいました
ある日のことです
いつものように森をお散歩していると、とつぜん空から一粒の種が降ってきたのです
ふしぎに思ったアピシナは鳥のイタズラかと空を見上げてみましたが、陽気なお日さまの他に生き物の影は見当たりません
好奇心旺盛なアピシナは空から降ってきた摩訶不思議なその種を育ててみることにしました
その種は一生懸命世話をする内に芽を出し、やがてスクスクと成長して樹となり、それはそれは大きな実を付けました
アピシナは喜んで樹をよじ登り、実を摘むと瑞々しい果実を頬張りました
それはかぶり付くと小気味良い音がして、口いっぱいに甘い果汁が広がり、えもいわれぬ幸せです
アピシナは自分が育てた実をみんなにも食べさせてあげようと思い、樹の下に同じホビットや人間、獣達も招いて一つずつ分け与えました
すると実を食べた人間が目を輝かせ、「この甘い実が欲しい。その樹をくれ」と頼んできます
困ったアピシナは「樹はあげられません。食べたいのなら一緒に育てましょう」と持ちかけました
人間は少し不服そうにしていましたが頷いて、それからは一緒に樹を育てることになりました
アピシナと人間は1日ごとに分担して樹を世話すると決めました
一緒に育てる仲間が出来たと思うと嬉しくなって、張り切って樹の世話に励みます
ですが人間はなぜだか、一向に世話をしようとはしません
やり方を教えても、愛想よく頷くだけでどこかへ遊びに行ってしまうのです
しかたなくアピシナが人間の分まで世話をして実が成ると、平然とやって来て食べようとします
あきれたアピシナは「約束を破ったのだから実はあげません」とはっきり言いました
すると怒った人間は無理やり実をもぎ取って、さっさと逃げてしまうのでした
828:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/21(水) 22:29:38 ID:sf2O.3nUgE
約束を破られた上に育て上げた実を奪われたアピシナは愛想が尽き、あの人間に食べられるくらいならと樹の世話をやめてしまいます
それを知った人間はおいしい実が食べられなくなると、慌ててアピシナに謝りました
ですが一度約束を破った人間をアピシナも許す気にはなれません
しかたなく人間はアピシナが手放した樹を自分で世話をすることにしました
アピシナはその様子をこっそりと木陰から見ています
今まで世話をしてこなかった人間はどうしていいか分からず、樹の下であたふたとするばかり
かわいそうに思ったアピシナは、やはり人間を許してあげようと思いました
育て方を一からコツコツと教えてあげた甲斐あって、実を付ける頃には人間だけでも世話が出来るようになっていました
分かれた枝のそれぞれにたくさんの実が成って、二人は大喜びです
さぁ食べようとアピシナが実を取りによじ登ろうとすると、人間が立ちふさがって登らせてくれません
ふしぎに思ったアピシナが理由を聞くと、人間はふてぶてしく「お前は途中から来たんだから、この樹はオレのものだ」と言います
ムッとして言い返すと人間は枝を一本折って、その枝でアピシナの頭をつついて追い払ったのです
邪魔なホビットがいなくなったと満足した人間はおいしい実をお腹いっぱいになるまで、たらふく食べました
それからも人間はアピシナに教わった通りに世話をし続けます
しかし実が成るどころか、だんだんと樹は痩せ細っていくのです
驚いた人間は必死に手入れしましたが、むなしくも見る間に樹は枯れてしまいました
人間はもう一度アピシナに頼もうとしましたが、探し回っても姿はなく、鳥に聞いても獣に聞いても首をかしげるばかり
途方に暮れた人間はおいしい実を泣く泣く諦めました
その頃アピシナはというと、新天地に移って新しい樹を育てていました
もしものために実を食べる時には必ず種を取っておいたのです
アピシナは新しい土地でもみんなに実を振る舞っていました
よくばりな人間のいない樹の下で獣や鳥たちとおいしい実を囲んで幸せに暮らしましたとさ
めでたし めでたし……
…………………
829:🎄 名無しさん@読者の声:2013/8/22(木) 17:13:22 ID:o0.iqJu5Wk
C
830:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/24(土) 08:11:34 ID:.TjughmmcA
>>829
支援ありがとうございます!
831:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 20:46:38 ID:.KbjG3TjXA
母「というお話です」
神父「なんだ、その全面的に人間だけを悪者に仕立てた話は?気分の悪い…」
ジョー「ま、そこはお互い様だろ。俺はむしろホビットも人間も似たり寄ったりだって分かって安心したぜ?」
宣教師「その樹は今もあるのですか?」
母「そんな…。これはおとぎ話ですから、ホントにある訳じゃ…」
宣教師「……」
神父「それにしてはやけに具体的な語り口で構成された話だな」
ジョー「その話に余談みたいのはないのか?」
母「父が言うには…アピシナの樹は愛情を注がないと育たない…そう言ってた気がするわ」
宣教師「愛情…?」
神父「…戯言を抜かしおって。気持ちで育てば苦労などない!」
ジョー「いや、農家の息子やってた俺にはよく分かるよ。作物ってのは生き物だ。
いい加減な気持ちで育てたら、その程度のモンしか出来ない。そういうもんさ」
母「…こんなお話じゃお役に立てないですよね」
宣教師「いえ、そんなことはありませんよ。参考にさせていただきます」
母「そうですか。よかった…」
宣教師「…申し訳ないのですが、私達はそろそろ行かなくてはなりません。
どうか安静になさっていてくださいね?」
母「どこへ行かれるのです?」
宣教師「今日は客人がいらしてますので、ご挨拶に伺うんです」
ジョー「毎度のことながら、総出で出迎えさせるなんて傲慢だよな。"お客さん"もよ」
母「……?」
神父「貴様ぁ!口を慎まんか!王国の方々がわざわざ足を運んでくださるのだぞ!
めんどくさがるなど以ての外だ!」
ジョー「はっ!あんなのは言ってみりゃしがらみだよ。しがらみ!はた迷惑なだけさ!」
母「王国…!?」ガタガタ
832:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 20:49:48 ID:TgNiQQVscQ
母「」ガタガタ
宣教師「…お母様!?」
母「いやっ!イヤァァァ!!」ガクガクブルブル
神父「」ビクッ
ジョー「な、なんだ、なんだ?」
宣教師「…先に行っててください。私はお母様を落ち着かせてから行きます」
母「イヤよ…!あなた…!行かないで!!」ガタガタブルブル
ジョー「あ、あぁ!そうした方が良さそうだな…!」
神父「…訳の分からん。これだからホビットは」
母「これ以上…なにも奪わないで!!」
宣教師「……」
神父「おい!意味の分からん事をガタガタ騒ぐな!牢を開けたのがバレるだろうが!?」
ジョー「そんなのいいから行くぞ」グイッ
神父「お、おい!なにをする…!」ズルズル
ジョー「じゃ、後は頼んだぜ」スタスタ
神父「や、やめろ!私をなんだと思ってるんだ!?」ズルズル
宣教師「……」
833:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 20:52:11 ID:.KbjG3TjXA
宣教師「……」
母「いやっ…イヤよ…!」ブルブル
宣教師「」ダキッ
母「」ビクッ
宣教師「」ギュッ
母「」ブルブル
宣教師「……」ポンポン
母「」ブルブル
母「」フルフル
母「」ピタッ
母「……」
宣教師「…大丈夫。私が付いてます」
母「……」
宣教師「あなたから、もうなにも…失わせたりしません」
母「信じさせて…くれますか?」
宣教師「えぇ。神に誓って」
母「……」ギュッ
834:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 20:53:37 ID:.KbjG3TjXA
―――大聖堂(庭園)―――
ワイワイガヤガヤ
ジョー「…相変わらず大したもんだよ。馭者に馬を駆らせて、優雅な籠車でご登場ときた。
俺らが死ぬ気で働いたって、あんな贅沢を味わう機会はないだろうな」
神父「うむ。圧巻だったな」
ジョー「馬にまたがった御付きの兵隊っぽいのが取り囲んでたな。迫力はあったよ」
神父「今回は人数も多い。正門から潜る事が出来ない為に東側の門から入ったようだが…。
あの馬や籠車を敷地内に入れてしまったとなると、やはり誰かしらに役目が回ってくるのだろうな」
ジョー「勘弁してくれよ。王国御用達のお馬様方を世話して、籠車が痛まねぇように手入れしとけってのか?」
神父「まぁ…その辺はシスター達がやってくれるだろう」
ジョー「だといいけどな」
神父「ところで…よかったのか?奴らを二人にして?」
ジョー「宣教師さんなら、なんとかしてくれるさ」
神父「情にほだされて逃がしでもしたらどうする気だ?」
ジョー「あの人は考えも無く早まったまねをするほどバカじゃない。
そん時は、何か理由があると思って諦めようぜ?」
神父「ふざけるな!巻き込んでおいて、罪人にさせられるなど御免だぞ!」
ジョー「仲間のよしみで飯くらいはまともなモンを出してやるよ。牢の見張りは俺だからな」
神父「誰が仲間だ!?」イライラ
835:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 20:59:46 ID:.KbjG3TjXA
ワイワイガヤガヤ
ジョー「立食パーティーが始まるぜ。宣教師さんには悪いけど、先に腹ごしらえといくか!」
神父「ホビットの面倒など見ているからだろう!自業自得だ!」
シスター1「ワンちゃーん!お魚さんですよー?」
神父「ん…?」チラッ
マルク「わんっ!」ピョンピョン
シスター2「お腹空いたもんねー。いっぱい食べていいのよー!」
シスター3「ほら、あーんして?」つ【魚】
マルク「」パクッ
シスター3「きゃっ!ワンちゃんたらせっかちなんだから!」
シスター2「食いしん坊なワンちゃんも…かっわいぃぃぃ!!」ダキッ
マルク「?」モグモグ
シスター1「あっ!ずるい!あたしもだっこしたーい!」
神父「(あの犬、まだおったのか…)」
ジョー「お!うまそうな魚だな!」
神父「…クラクネスか。パーティーだというのに安上がりな食材を…。司祭様も相変わらず倹約に精を出しておられるようだな」
ジョー「同じ安物にしたって今日は給仕の連中の気合いが違う。食い甲斐があるじゃねぇか!」
アリアス「失礼」スッ
ジョー「へ?あっ!て、てめぇは…!」
アリアス「ごめんなさいね。意地汚く餌に群がってたのにお邪魔して?」ニコニコ
ジョー「な、なんだとぉ…!」
神父「これはアリアス様ではありませんか。おはようございます」ペコリ
アリアス「…昨日の夕方から見かけなかったけれど、どこに?」
神父「言われました通り、宣教師と行動を共にしておりました!」
ジョー「ちっ…」
アリアス「無愛想な男ね。ここで話すのもなんだし、人気の無い場所へ行きましょう?」
836:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 21:11:34 ID:MP0y9eWMw6
アリアス「…ここなら、あまり人は来ないかしら」
神父「は、はぁ」
ジョー「けっ!わざわざ歩かせやがって。なんの用だよ?」
アリアス「そうね…。お客様への挨拶まで姿も見せないで何をしていたのか…。ぜひ聞かせてもらいたくて?」ニコリ
神父「そ、それは…」
アリアス「見張りのトトから聞いたわ。なんでも宝探しをしてたんですってね?」
ジョー「あのおしゃべり野郎…!」
アリアス「ずいぶん楽しそう。私も入れてくださらない?」
ジョー「冗談よせよ。独り身のあんたにゃ、お宝よりフィアンセ探しがお似合いだ」
アリアス「……。遠回しな言い方じゃ理解出来ないようね?」
神父「こ、こいつは学がありませんからな!
さっきから何をとち狂ったのか、無礼な口の利き方を…」アセアセ
ジョー「……」
アリアス「率直に言うわ。何を嗅ぎ回っているのか、答えてもらう」ズイッ
神父「あ、いや…あの…」タジタジ
ジョー「俺たちに構う暇があんなら、司祭様の傍にいたらどうだ?あんたは付き人だろ?」
アリアス「気遣いはいらないわ?
司祭様なら、王国の方々と御歓談なさってる。その間、あなたの話を聞いてあげる時間は十分にあるわ?」
ジョー「そうかよ。だがあんたに教える義務はねぇな」
アリアス「義務ならあってよ?私はあなた達より位が高いのだから?」
ジョー「俺たちは何も嗅ぎ回ってねぇ。だから答える義理もねぇ。話は終わりだ」
837:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 21:20:04 ID:MP0y9eWMw6
アリアス「神父」
神父「はっ!」
アリアス「あなたには宣教師の見張りを命じていた。そうね?」
ジョー「…はぁ!?そうだったのか!?」
神父「……」
アリアス「答えなさい。何を嗅ぎ回っていたのか」
ジョー「だから何も……」
アリアス「神父。あなたに聞いているのよ?」
ジョー「ちっ…言ってやれよ。俺たちは何も嗅ぎ回っちゃいねぇってな」
神父「……」
アリアス「答えなさい」
神父「ほ、ホビットについて…調べておりました」
アリアス「……?なぜ?」
神父「…気になった、としか言いようがありませんな。なんせ直に奴らの力を体感したのですから」
アリアス「……」
神父「その話を彼らにしてやったところ、興味を持ちましてな。しばらく書斎を借りておりました」
アリアス「…なるほど。本当にそれだけなのね?」
神父「はっ!私はこいつと違い、分を弁えております。嘘偽りは申しません」
アリアス「……」
838:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 21:20:26 ID:MP0y9eWMw6
ジョー「もういいだろ?俺らも暇じゃないんだ」
アリアス「何か予定があって?」
ジョー「今日は客人を迎えて豪勢な飯が食えるんだ。
あんたと話してる時間も惜しい。腹ごなしを済まさねぇとな」
アリアス「あなたにとって、あたしは食事以下の人間だと言いたいのね」
神父「……」
アリアス「何か動きが見えたら…頼むわね?」
神父「ご心配なく。包み隠さず報告致します!」
アリアス「」スタスタ
神父「……」
ジョー「…てっきり全部報告しちまうかと思って焦ったよ」
神父「そうしてもよかったのだがな」
ジョー「……」
神父「私も空腹なのだ。長引くのは御免被りたかった。それだけのことだ」
ジョー「はは!俺もだ。ご馳走が無くならない内に行こうぜ?」
神父「(…無断で牢を開けるのを止めなかった上に一晩中ホビットを介抱していた等と言えるか!)」
839:🎄 名無しさん@読者の声:2013/8/27(火) 02:02:09 ID:Y2FzbAJ85A
夢中で見ていたらこんな時間に...
こんなに物語に引き込まれたのは久しぶりです。
切なくも考えさせられるお話ですね。
紫煙していきます つCCCC
840:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/27(火) 21:41:43 ID:cDgRUFiY4w
>>839
支援ありがとうございます!
遅い時間帯まで読んでもらえて嬉しい反面、貴重な睡眠時間を削ってしまった罪悪感が…。
差別に焦点を当てたSSなので、読んでいていい気分はしないかもしれませんが、思うところがあると感じていただけて嬉しいです!
支援ありがとうございました!
841:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:03:12 ID:sw/JgG8jwQ
―――大聖堂(礼拝堂)―――
司祭「ほほほ。こうして言葉を交わすのも久しいな?」
???「ここも少し見ない間に変わったものだね」
司祭「…老いて目が曇ったか、アントリアよ?何も変わっちゃおるまい」
アントリア「いや、変わったな。前に来た時より汚れがよく目立つじゃないか」
司祭「ふん。相変わらず嫌味な奴じゃわい」
アントリア「君も相変わらずでなによりだよ、ノワール。
わざわざ遠い所から足を運んできた客人に土臭い田舎料理と味気無い果実酒を振る舞うなんて、なかなか出来る事じゃない」
司祭「…お前の皮肉はうんざりじゃ。本題に入るぞ」
アントリア「クックッ…。せっかちな性分も健在なようで…。
それにしても、せっかく昔馴染みに会えたのに、もう話を切ると言うのかな?」
司祭「あまり王国の連中を待たせておくと、うるさそうなんでな」
アントリア「あぁ…すまないね。どうしても来たいと言って聞かなかったんだ」
司祭「ふん…。ぶくぶく肥えた体で出歩くのは辛かろうに。なぜこんな所まで来たのじゃ?」
アントリア「つまらない要件さ。税率を上げたいから、君から信者を通じて説明してほしいのだと?」
司祭「醜い豚共め…。まだ己を満たす為に民の心を弄ぼうというのか」
アントリア「腐った根からは卑しい花が咲くものさ。
他の養分を吸い取って色ずく花弁は鮮やかでありながら、更なる色を求めてる」
司祭「花じゃと?あんなものは雑草でも贅沢じゃろうよ」
アントリア「…君は言葉が過ぎる。僅かでも慎みを持ち合わせた方がいい」
司祭「大きなお世話じゃ!」
アントリア「…で、話とはなんだね?」
司祭「ほっほっほ。ついに手に入れたぞ…」
アントリア「」ピクッ
842:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:05:18 ID:sw/JgG8jwQ
アントリア「…まさか」
司祭「そのまさかじゃよ!見つけたのだ!癒しの力をな…!」
アントリア「…やめよう。互いに夢を見られる歳でもないだろう?」
司祭「なんじゃ?信じておらんのか?」
アントリア「あんな夢物語を信じろと?」
司祭「なっ…!き、貴様!わしが発見を伝えた時は手放しで喜んでくれたではないか!」
アントリア「それが若さというものだよ。手の届かぬ希望に縋りたくなる愚かな若さ。
しかし次第に学ぶのさ。理想に届かぬ不安に埋もれる日々の中でね」
司祭「…なら、貴様はとうに諦めておったのか…!わしらの念願を…!」
アントリア「叶える努力はしたじゃないか。癒しの力を探す為に手は尽くした。
さんざ王国の力を利用して、様々な犠牲がもたらしたものはなんだね?」
司祭「……」
アントリア「所詮、我々は人だ。無力で…脆い人でしかないのだよ」
司祭「…ならば己の目で見たがええ」
アントリア「ノワール……」
843:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:06:47 ID:DwgOGbbmEY
ズンズン ズンズン
大臣「失礼しますぞ」
アントリア「…大臣、待っているようにと……」
兵士1「……」
兵士2「……」
大臣「んぅ〜?お話し中でしたかな?」
司祭「いや…構いませぬよ。お待たせしたようで申し訳ございませんな」
大臣「とんでもない。彼の高名な司祭殿と同じテーブルを囲んで食事させていただけるのです。いくらでも待ちますとも!」ニコニコ
司祭「ほほほ。大臣から直々にお褒めの言葉を頂けるとは光栄の至りですわい」
アントリア「…大臣。申し訳ないが、もう少し時間をもらえはしないかね?」
大臣「わたくしは構わないんだが…他の者がやかましくてなぁ?」
司祭「(どうせ貴様が待ってられんとごねたんじゃろうが…。豚モドキめが…)」
アントリア「礼拝堂は謂わば神の御前、神に仕える我々としては多少の時間を要しても祈りを捧げておきたいのだよ」
大臣「んぅ〜…。なるほど〜?」
司祭「シスター達がその辺におる筈です。不都合があれば彼女らになんなりとお申し付けくだされ」
大臣「ほう…。シスターとな!?」
司祭「皆、若いながらに気立てが良く、清潔な者ばかりです。不快な思いをさせるような心配もございませんぞ」
大臣「若い…か。ぐふふ」ジュルリ
アントリア「いかがですかな。大臣?」
大臣「司祭殿と神官がそこまでおっしゃるのなら、席を外しておきましょうよ。戻るぞ!」ズンズン
兵士1「」ペコリ
兵士2「」スタスタ
844:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:09:25 ID:sw/JgG8jwQ
―――大聖堂(応接間)―――
アントリア「困ったものでね。あの方は少々、抑えが利かないのだ」スタスタ
司祭「元より豚に理性がある等と思っちゃおらん。着いたぞ」ガチャッ
アントリア「こんな所に癒しの力があるのかね?」キョロキョロ
司祭「バカを言え!奥に部屋を設けてあってな、そこに保管しとるよ」スタスタ
アントリア「…大臣もあの性格だ。あまり待たせてはおけないよ?」スタスタ
司祭「ならば手短に済ませてやろう。ここじゃ」ガチャガチャ
アントリア「二重の鍵か…。君も繊細な男だな?」
司祭「当然じゃ…!これに全てが懸かっておるんじゃからな!」ガチャガチャ
アントリア「(大袈裟な…。何かの間違いに決まってる…)」
ガチャッ
カロル「」ビクッ
司祭「ほほほ!おとなしくしておったか?」
アントリア「…ただのホビットじゃないか」
司祭「ふん…まことにそう思うか?」
カロル「……!」
アントリア「……。確かにキレイなホビットだね。土産にすれば大臣や貴族達が喜びそうではある?」ジロジロ
司祭「醜いものよ。民にホビットとの関わりを禁じながら己らはホビットを娼婦や奴隷として扱っておる。
じゃが…この小僧の価値はそんな安いモノでは収まらん」
カロル「」キッ
司祭「む?なんじゃ、その目は?」
カロル「……」
司祭「まだ懲りておらんのか?」スッ
カロル「」ビクッ
アントリア「(…なんの変哲も無いホビット、としか思えないがねぇ)」ジロジロ
カロル「……」
845:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:11:19 ID:DwgOGbbmEY
アントリア「…ノワール。勿体ぶらずに力を見せてくれないか?」
司祭「よかろう?」
司祭「では…この杖でわしを叩いてくれんか?」つ【杖】
アントリア「…そんな事をすれば君が怪我を負うじゃないか?」
司祭「…構わぬ。全身全霊を込めて叩け」
アントリア「……」
司祭「早くせぬか?」
アントリア「そこまで言うなら…ふんっ」ブンッ
司祭「うぐっ」ボカッ
カロル「わっ!」
司祭「が…あぁ…あぐぅ…!」ポタポタ
アントリア「流血してしまったね。大丈夫か?」
司祭「小僧…!何をボサッと見とる!力でわしを癒さぬか!?」
カロル「……!」
アントリア「彼は腕を縛られているようだが拘束は外さなくていいのかね?」
司祭「関係…ないわい!奴は触れるだけで傷を治せるのじゃ!」
アントリア「触れるだけで…?」
846:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:13:26 ID:sw/JgG8jwQ
司祭「くっ!早くせいと言っとるのが分からんのか!?」
カロル「い…イヤだ!」
司祭「なに!?どういう事じゃ!?」
カロル「おじいさまはボクとの約束を破ったもの!
お母さまだって、マルクだって返してくれなかった!」
司祭「こ、小僧…!」ギリッ
アントリア「…ホビットよ。君は本当に癒しの力を持っているのかね?」
カロル「……」
アントリア「どうなんだね?」
カロル「知らないよ…」ボソッ
アントリア「……?」
カロル「そんな力、知らない…。ボクはただ、お母さまとマルクと一緒に帰りたいだけ!」
アントリア「つまり力など持っていないと?」
司祭「たわけがっ!貴様は神父の傷を癒したであろうが!わしを癒せぬとは言わさんぞ!?」
カロル「じゃあ約束を守ってよ!みんなを返して!」
司祭「くっ…!卑しいホビットめ…!」
アントリア「ノワール。その時はどのように力を発揮したのだね?」
司祭「祈りじゃ!こいつが手を合わせて祈りよった途端、力を発揮したのじゃ!」
アントリア「祈り、か。君はなぜ祈ったら力を扱えたのだね?」
カロル「ぇ…えと、頭にふわぁって流れてきて、その…なんとなく分かったんです」
アントリア「…真偽はともかく興味深い話ではあるね」
司祭「な、何を呑気に話などしておる!?」
847:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:15:25 ID:DwgOGbbmEY
アントリア「君も元学者なら分かるだろ。我々は好奇心には逆らえない生き物だ」カキカキ
司祭「メモを取っている場合か…!」ズキズキ
カロル「……」アセアセ
アントリア「…ノワールが心配かね?」
カロル「……!ち、違います!ただ、血を流してる、から…」モジモジ
司祭「小僧…!癒せ!癒さぬかぁ…!」ガシッ
カロル「うぁっ…!は、離してよ!」バッ
アントリア「ノワール。君も君だよ。焦って力を証明しようと思うから、そうなるのだ。
君は昔から結果を急いで短絡的に動き過ぎる節がある」カキカキ
ガチャッ
アリアス「失礼します…。やはりここに…し、司祭様…!?」ギョギョッ
司祭「ぐ…ぬぅ…!」ググッ
アントリア「アリアス君じゃないか?懐かしいね。何年越しの再会だろう?」
アリアス「アントリア神官…!これは…どうなってるんです!?」
アントリア「あぁ。僕がやったのだよ。ノワールに頼まれてね」
アリアス「なっ…!なぜそんなマネを…!ご高齢の司祭様が血を流す程の打撃を浮ければ、タダで済まない事など承知しているでしょう!?」
アントリア「無論、承知しているよ。承知の上で頼まれたのだ」
アリアス「っ…!ホビット!」
カロル「」ビクッ
アリアス「司祭様を癒しなさい!今すぐによ!」
カロル「……」
アリアス「何をしてるの!」
カロル「…ボクは約束、守ったもん」
アリアス「……!」
848:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:18:22 ID:sw/JgG8jwQ
アントリア「無駄だよ、アリアス君。どうやら彼の意志は硬いようだ」
アリアス「なら…どうしたら…!」
アントリア「罪深き種族に必要なのは利害の一致。命の不運など目に映らぬ残酷な種族なのだよ」
カロル「……!」
アリアス「くっ…!こうなったら、力ずくでも……」
アントリア「変わらんよ。力で押さえ付けたところで、このホビットは曲がらないだろう」
司祭「はぁ…はぁ…」ポタポタ
カロル「(このままじゃおじいさまは死んじゃう…。でも……)」
カロル「(助けたら…また…)」
アントリア「なぁ、ホビットよ?」
カロル「え?」
アントリア「君の一族はそうして迫り来る惨劇から目を背けて生きてきたのだろう?
なにせ罪深く、残酷で、卑しいのだから、見捨てられる痛みを知らないのだね」
カロル「違うよ!お母さまも…お父さまも…見捨てたりしない!誰よりも優しいんだ!」
アリアス「よく言うわね…。司祭様を苦しめておいて…!」
カロル「そんな…ボク……」
アントリア「(ノワールの場合は自業自得としか言いようが無いがね…)」
アリアス「司祭様が死んだら許さない…。あなたの母親も飼い犬も…無事にしておかないわ!」
カロル「(…ボクだって、ホントは助けたい)」
アントリア「もういいだろう。医術師を呼びなさい」
アリアス「くっ!」ダッ タタタッ
カロル「(けど…できるか分からなくて、こわい)」
849:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:21:31 ID:sw/JgG8jwQ
アントリア「ノワール。意識はあるかね?」
司祭「ぐぅ…当たり前じゃ。これしきで死んでたまるか…!」ググッ
アントリア「威勢がいいのは君の持ち味とも言うべきか。意志が身体に伴えばいいが、起き上がるのは難しいようだね」
司祭「貴様が…加減をせんからじゃろうが…」ポタポタ
アントリア「君がそれを口にするかね?友人の手を危うく殺人に使わせておいて。ともあれ今死なれては寝覚めが悪い。肩を貸すよ」グッ
司祭「うぅ……」ガシッ
司祭「ぐわっ!?」ガクンッ ドカッ
アントリア「おっと、重くて落としてしまった。歳は取るものじゃないな」
カロル「あっ…」
アントリア「(さぁ、どうす……)」
カロル「おじいさま!」ダッ ガシッ
司祭「……」グッタリ
カロル「……!」ギュッ
アントリア「(まさか力を?いや、しかし黙って手を握っているようにしか……)」
司祭「お、おぉ…!」ムクリ
アントリア「!?」ビクビクゥゥゥッ
カロル「だい…じょうぶですか?」オロオロ
司祭「どけぃっ!ホビット風情がわしに触れるでないわ!」ドンッ
カロル「っ…!」ドサッ
アントリア「ノワール…!なんともないのかね…!?」
司祭「ほっほっほ…。これで信じる気になったか?」ピンピン
アントリア「(こんな…一瞬で…!)」
カロル「いたた…」スリスリ
アントリア「(これが癒しの力…)」
アントリア「クックッ!クッハハハハ!素晴らしいよ!ノワール!」
司祭「」ニヤリ
850:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:02:46 ID:UA2BXDBNOY
―――大聖堂(通路)―――
アントリア「確かめておきたいんだが…本当になんともないのかね?」ジロジロ
司祭「しつこいのう。見ての通りじゃ」スタスタ
アントリア「…我ながら素晴らしい手応えだったのだがね」
司祭「うむ。死ぬかと思ったわい。よくもあんな一撃をくれたものじゃ」
アントリア「生まれが貴族なものでね。多少は剣の教養も心得ているのだよ」
司祭「平民生まれのわしへの当て付けか?」
アントリア「とんでもない。平民には平民なりの教養がある。
その証拠に君は素晴らしい倹約術を備えているじゃないか?」
司祭「貴様という奴は……」
アントリア「クックッ…。腹を立てないでくれたまえ。
懐かしいのだ。旧友として…広い心で受け止めてくれ」クスクス
司祭「付き合ってられん…!」
アントリア「今日は良い日だ。再会と新たな船出を祝して乾杯しよう。ノワール。
豚の鳴き声、鎧の擦れる音色が取り囲むオーケストラは、きっとさもしい心を震わせてくれることだろう」
司祭「…わしに慎みを諭した男の言葉とは思えんな」
アントリア「今日という日の素晴らしさがそうさせるのだ。
諦めかけていた夢を取り戻せた今日という日がね」
司祭「信じておらなんだクセに…現金な奴じゃのう」
アントリア「大樹への道筋については僕に任せておきたまえ」
司祭「……可能なのか!?」
アントリア「クックッ…。とうに準備してあるとも。
年老いて諦めを知ったとはいえ、夢に備える幼心をも忘れた訳じゃない」
司祭「ほっほっほ!相変わらず…食えん奴め!」
851:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:05:51 ID:UA2BXDBNOY
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「…やっぱりホントなんだ」ドキドキ
カロル「(…もう分かるよ。二回目だもの。あれは…ボクの力なんだ)」
カロル「(この力で司祭のおじいさまの望みを叶えたら…今度は約束、守ってもらえるかな?)」
カロル「」グー
カロル「…おなかすいたなぁ」
ガチャッ
アリアス「……」
カロル「あっ……おばさま」
アリアス「おば…!?」ピクッ
カロル「」ハッ
アリアス「コホンッ!…先だっての件、司祭様を癒してくれて感謝するわ」
カロル「だ、大丈夫です…よ?」ヒクヒク
アリアス「是非ともお礼をさせてほしいの?
ささやかではあるけれど、あなたの為に食事を用意させたのよ?」ニコリ
カロル「え…?」
アリアス「ナラ!」
ナラ「は、はい」オズオズ
カロル「……?」
アリアス「彼女は私たちの下で教えを乞う修道女よ。あなたと同じくらいの歳かしら」
ナラ「」ペコリ
カロル「そう。よろしくね?」ニコッ
ナラ「」オロオロ
852:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:08:31 ID:NVVx.F.t9I
アリアス「この子、人見知りなの。慣れるまで、こんな調子だと思うけれど仲良くしてあげて?」ニコリ
カロル「……!」
アリアス「どうしたの?」キョトン
カロル「だって……」
アリアス「…今までツラく扱ってしまったから信じられないでしょうけれど、あなたには申し訳なく思ってる」
カロル「……」
アリアス「ほら、あなた達はホビットでしょう?
立場上、教団の人間は関わり方を知らなかったのよ」
ナラ「…」
アリアス「けれど分かったの。あなたは心から優しい子だと。
司祭様も先ほどはあのような態度をとってしまわれたけれど、あなた達への見方を変えようとおっしゃられていたわ?」
カロル「信じていいんですか…?」
アリアス「えぇ。神に誓って」
カロル「……」
853:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:10:25 ID:NVVx.F.t9I
アリアス「手の拘束も解いてあげるわ」シュルリ
カロル「…ありがとうございます」ペコリ
ナラ「」ビクッ
アリアス「…どういたしまして。さぁ、食事を頂いて?
私は戻らなければならないから、後はナラに任せるわ」
カロル「あ…待ってください!お母さまは…どうなるんですか?」
アリアス「…あなたと同じよ。自由になれる」
カロル「じゃあお母さまとマルクと帰っていいんですか?」パァァ
アリアス「…今は無理ね」
カロル「…どうして」
アリアス「王国って…知ってる?」
カロル「」ビクッ
アリアス「それなら話は早いわ。王国の人間があなた達の存在を嗅ぎ付けて狙っているの」
カロル「王国が…ボクたちを……」
アリアス「この大聖堂の中にも王国の人間が来ているの。
だから…そうね。あなた達が本当に自由になるには…まだしばらくかかるでしょうね」
カロル「お母さまに会えないの…?」
アリアス「…安心なさい。あなたの母親には宣教師が付いてあげてるから」
カロル「宣教師さまが!?」パァァ
アリアス「そうよ。心配はいらないでしょう?」
カロル「はい!」ニコニコ
アリアス「ふふ…。あなた達は教団が守る。安心してゆっくり過ごしなさい」ガチャッ
カロル「ありがとう!おばさま!」ニコニコ
アリアス「お、おば……!!」
カロル「」ハッ
ナラ「」ビクッ
アリアス「……!」バタンッ
854:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:15:13 ID:UA2BXDBNOY
―――回想(アリアス)―――
アントリア「あのホビットの管理が粗雑なようだが、君らはどう考えている?」
司祭「…何がじゃ?」
アリアス「どう…と言われましても」
アントリア「手に入れた後の事は考えていないのだね。あきれるばかりだ」
司祭「な、なんじゃと…!」
アントリア「傷付けるばかりでは恐怖と反抗心が増すだけだ。
我々人間にも言える事だが、いざという時に最も力を発揮出来るのは心が落ち着いている時だとは思わんかね?」
司祭「ふむ…」
アントリア「それに…手懐けておいた方が言う通りにさせやすい。
彼を今の環境に置き続けて自ら命を絶たれでもすれば…それこそ終わりだよ」
司祭「む…確かに一理ある」
アリアス「神官には考えがあるのですか?」
アントリア「なにも複雑に考えなくていいのだよ。
飢えた野良犬には一切れの肉を与えれば…すんなり従うものさ」
司祭「ふむ……」
アリアス「……」
………………………
―――大聖堂(通路)―――
アリアス「哀れなホビット…。せいぜい束の間の幸せに溺れなさい」クスリ
アリアス「」スタスタ
855:🎄 名無しさん@読者の声:2013/9/2(月) 18:18:17 ID:EnRiGUqGu.
カロルは幸せになるよね?
母さまも皆幸せになるよね?
(´;ω;`)っCCCCC
856:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:09:59 ID:rNg5ExPvj.
―――大聖堂(広間)―――
大臣「これはこれはお二方!ようやくお戻りになられましたか!」
司祭「お待たせして申し訳ございませんな」
大臣「まったくですぞ!待つ間、手の中で揺れるグラスの波に溺れておりました!ワッハッハ!」
司祭「(陽も沈まぬ内から大酒を喰らうか…。とても王国の高官とは思えぬわい)」
アントリア「明日の夜には発つのですから控えられてはいかがか?」
大臣「まぁ座りなされ!堅苦しい事は抜きにしましょう!宴の席が濁りまするぞ!のう、娘さんや!」グイッ
宣教師「ち、近いです…!少し離れてください!」ググッ
司祭「では遠慮なく席に着かせてもらいますわい…。時に宣教師よ。なぜお前がおる…?」
大臣「いやなに、この通り手持ち無沙汰だったものでしてな。勝手ながら声をかけさせてもらいましたよ!」
宣教師「庭園の立食パーティーに参加しようと向かっていたら、お付きの方々に連れられたのです!」プンプン
司祭「くっ…!大臣、他のシスターや下仕えの女人を連れて参るので、その娘を下がらせていただけませぬか?」
大臣「滅相もない!司祭殿に面倒はかけられませんよ!この娘が相手をしてくれれば十分です!」
司祭「お、お気遣い召されるな。すぐに……」
宣教師「きゃっ!な、何をなさるんですか!?」
大臣「ワッハッハ!ちょんと撫でただけでウブな娘よ!気に入ったぞ!」
宣教師「…もう耐えられません!」ガタッ
兵士1「」ガシッ
宣教師「…何のまねですか!」グッ
大臣「席に着いてくれ。共に楽しもうぞ?」
宣教師「イヤです」
大臣「」クイッ
兵士1「大臣がお望みである!席に着け!」グイッ
宣教師「……!」ギリッ
アントリア「ああなったら手を付けられんよ。諦めることだ?」ボソボソ
司祭「(王国の豚め…!よくもわしの宣教師を…!!)」ワナワナ
857:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:13:25 ID:LLuv63mkU2
大臣「ほれ、お嬢さんも飲みなさい?」つ【酒】
宣教師「結構です!」プイッ
大臣「ぐふ…ぐふふ。垢抜けておらず、男を知らぬ顔だ。
わたくしはね、お嬢さんのような女がなにより好物なのだよ?」サワサワ
宣教師「(汚らわしい…!村の大人たちにしてもダガにしても…男性とはかくもこのような欲にまみれているのでしょうか?)」プルプル
司祭「オホンッ!よろしいか?」
大臣「おぉおぉ!これはわたくしとした事がなんたる無礼を!」
司祭「…税の底上げを図っておられるそうですな?」
大臣「神官からお聞きなされたか!でしたら話も手短に済みましょう?」
司祭「これまでの割合に収まらぬので?」
大臣「お恥ずかしい!我が国も何かと入り用でしてな!」
アントリア「王国に仕える身としては…とてもそうは思えんがね?
貴族や王族の方々は変わらず財を持て余しておられる」
大臣「手厳しいですな!しかし国を治める苦労をご理解くだされ。
我々も骨身を削りながら民にとって住み良い日々を保っておるのです!」
司祭「むぅ…。しかし王都から離れた土地にある町や村々は、ほとんどが王国の支援もなく自分たちで生活を維持しておりますがの」
大臣「それも国あればこそ、ですな。我が王国の存在無くしては貧しい町や村同士で争いが生まれまするぞ!
治安の維持も国家たる務め!治めるものあらば、治められるものへの抑止力となりえるのです!」
アントリア「(酔っ払いにしては非常に呂律が回っている。よほど使い慣れた言い回しなのだろうな…)」ゴクゴク
大臣「ですから我々貴族や高官による、ある程度の使い回しなど許容の範囲と納めなされ!
平和な暮らしへの投資と、愛すべき国家への還元と考えれば何も惜しむ事はありますまい!?」
宣教師「(…様々な人達を見てきましたが、ここまで最低な人間は見たことがない)」
858:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:17:43 ID:rNg5ExPvj.
司祭「…しかしですな」
大臣「まだ問題が?司祭殿もなかなか頑固なお方ですな?」
司祭「民は国の奴隷では無いのですぞ?」
大臣「……」
司祭「常に公平な心持ちで接してやらねば…」
大臣「はぁぁぁぁいぃぃぃぃ〜〜〜?」ピクッ
司祭「……!?」
大臣「…娘よ!酒が無いぞ!さっさと注がんか!?」
宣教師「……」トクトク
大臣「」グイッ ゴクゴク
大臣「ぶはぁっ!!まっずい酒だ!!」ガシャンッ
宣教師「」ビクッ
大臣「おい、ジジイ!!貴様は王国の高官であるわたくしに、こんな不味い酒を飲めと言うのか!?」
司祭「なっ…!」
大臣「わたくしは旨い酒を飲みたいのだ!おい、娘!グラスを代えて注げ!」
宣教師「……」キュッキュッ
大臣「破片など拭かなくていい!黙って言う通りにせんか!!」
宣教師「(急に豹変した…)」トクトク
大臣「ジジイ!この酒を旨くしろ!!」
司祭「なんじゃと…?」
大臣「たった一言でいい」ニヤリ
司祭「…どういう意味ですかな?」
大臣「分からないか?たった一言『協力する』と言えば、この不味い果実酒が極上の酒になるんだよ?」ニヤニヤ
司祭「(…本性を現しおったな。豚の肉に埋もれたハイエナめが…!)」
大臣「どうした?言え。これは命令だ!!」ダンッ
司祭「ぐぬぬぅ…!」ワナワナ
859:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:25:15 ID:rNg5ExPvj.
アントリア「よしましょう。これ以上は見るに耐えない…」
大臣「な、なんだとぉ?」
司祭「(アントリア!)」
宣教師「……?」
アントリア「声を荒げては宴の時が濁ってしまう。違いますか?」ニコリ
大臣「…わたくしは一刻も早く旨い酒を片手に宴を楽しみたいのですがね?」ギロッ
アントリア「なるほど。そういうことでしたら、その酒を旨くして差し上げよう」
大臣「ほう…?神官から信者達を説き伏せてくださるので?」
アントリア「いや…僕が信者にしてやれるのは、せいぜい懺悔を聞いて慰めるくらいだね」
大臣「…話になりませんねぇ」チッ
アントリア「だが、税を上げるより手早く楽に、そして確実に財をもたらす方法なら知っている?」
大臣「んぅ〜?」
アントリア「ヘマトバザールだ」
司祭「イカれた殺戮狂の集いがなんだと言うんじゃ?」
アントリア「彼らの興行は表向きにではないが、裏の世界で根強い支持を得ているね」
大臣「わたくしも何度か見ましたが、あれはヤミツキになりますぞ。誰も思い付かないような手口でホビットをいたぶるサマは格別でしてな!」
アントリア「大臣も知っての通り、捕らえたホビットの一部はヘマトに卸している」
大臣「ぐふふ…!今やホビットは市場に欠かせない宝ですからねぇ!」
アントリア「あぁ。差別を煽って弱き民の捌け口にすれば、国への反発も和らぐし…その美しい見た目から娼婦や奴隷、剥製と様々な分野で売り物にもなる」
大臣「ワッハッハ!確かに…!ホビットと人間の差別化に成功してから人間同士の争いも無くなって万々歳だ!」
アントリア「そこで…またホビットに一肌脱いでもらうというのは?」
大臣「どういう意味です?」
アントリア「伝説の大樹の下でホビットの拷問ショーを行うのだ。罪深き種族に神の前で裁きを与えるという名目でね」
司祭「(そうか…。そういうことじゃな?)」ニヤリ
宣教師「(これが差別の理由だったなんて…)」
宣教師「(思った通り…いえ、思った以上に…腐ってる!)」ググッ
860:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:29:27 ID:LLuv63mkU2
アントリア「シチュエーションとしてはこれ以上のモノはない筈です。集客力も十分に見込みがある」
大臣「だ、だがなぁ…。あの大樹は……」
アントリア「分かっているとも。あれはかつてホビットが育ててきた物…。
残念ながら、立ち入りは禁じられている」
大臣「う、うむ。国王はホビットを憎んでおられる。あの大樹も快く思ってはいませんよ」
アントリア「かといって差別を促す為には聖書に載せられた大樹の存在は必要不可欠だ。
だからこそ枯れた大樹を燃やす事も無く、あのままにしておられるのだね」
大臣「そうです!誰にも触れられぬよう厳重に管理して、ね!」
アントリア「」ゴクゴク
大臣「そこで我々富裕層に親しまれるヘマトの興行などを実行すれば、国王の怒りを買いますぞ!?」
アントリア「何を恐れているのだね?」
大臣「は…?」
アントリア「国を司るのはどなたか?」
大臣「そ、それは…国王に決まって……」
アントリア「言うなれば…国王は旗だ」
大臣「旗…?」キョトン
アントリア「…国を象徴する高貴なる旗。何を差し置いても国王こそが掲げられねばならない」
大臣「そ、そうですな」
アントリア「ならば…その旗を両の手に握り締め、天へ翳すのはどなたかね?」
大臣「そ、それは……」
アントリア「大臣。あなたでしょう?」
大臣「えっ」
861:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:34:33 ID:rNg5ExPvj.
大臣「わ、わたくし…ですと?」キョトン
アントリア「改めて言うまでもないでしょう?あなたこそが国王という旗を握っておられるのだ」
大臣「わ、わたくし…が?」ドキドキ
アントリア「伝説の大樹とヘマトバザールのショーは莫大な材を国にもたらす。
それならば誰よりも国家に重きを置くあなたは…国の歩むべき未来を先駈け、保身も欲もかなぐり捨てて道を開くだろうと思うのだよ?」
大臣「わたくしが…国を…」ブツブツ
アントリア「あなたは答えに辿り着いた筈だ。国を司る真なる王はどなたか?」ニヤリ
大臣「…ご、ご冗談を!あまりからかわんでくだされ!」アセアセ
アントリア「すまないね。年甲斐も無く喋りすぎました…」
大臣「まったくですな!わたくしが真の王などと…いやはやなんとも!」
アントリア「あながち、まんざらでも無さそうだがね?」
大臣「いやいや!」
司祭「(表情が全てを物語っとるわい。腹の底では既に冠を被っておろうに…)」
大臣「ぐふふ!ぐふ!」ニンマリ
宣教師「(これが…私たち人間の上に立つ者なんて…)」
大臣「しかしなぁ…。いや、やはりというべきか…神官は見る目がありまするな!」
アントリア「…伊達に歳を喰ってませんからね?」
大臣「ワッハッハ!いいでしょう!
愛する国の為…国王の為ということであれば、誠に不本意ながら、わたくしめが引き受けましょうぞ!」ニヤニヤ
アントリア「感謝するよ。あなたを見込んで正解だった」
司祭「(モノは言い様じゃな…。ともあれ、これで全ての準備が整ったか)」
宣教師「(こんな醜い人達の為に…カロルくん達を犠牲にはさせない…!)」
宣教師「(あの親子は私が絶対に守ってみせる…!)」
862:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:42:11 ID:rNg5ExPvj.
>>855
幸せになれるかどうかは…どうなんでしょう?(笑)
もし良ければホビット親子の運命を見届けてあげてください!
支援ありがとうございました!
863:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/4(水) 19:04:56 ID:Dhvz5ObIgc
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「わぁ…!おいしい!」パァァ
ナラ「」ジーッ
カロル「……?ボクの顔になにか付いてる?」キョトン
ナラ「」ハッ
カロル「?」モグモグ
ナラ「」プイッ
カロル「…ねぇ、ナラちゃん!」
ナラ「!?」ズザァッ
カロル「ど、どうしたの?隅っこに何かあった?」オロオロ
ナラ「」ビクビク
カロル「?」
ナラ「」ビクビク
カロル「もしかしてボクがこわいの?」
ナラ「!」
カロル「…そうなんだ」シュンッ
ナラ「!!」
カロル「ごめんね。もう話しかけたりしないから…」
ナラ「ぁ…ぅ…」
カロル「……」ズーン
ナラ「ち、ちが…ちが…ぅ…」
カロル「え?」
ナラ「わた…し…」
カロル「なぁに?」
ナラ「わ、わ…たし…じょうずに、しゃべ、れない。から」モジモジ
864:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/4(水) 19:08:45 ID:5Jf7tolYuw
ナラ「しゃべったら…へん…。で、でも…へんって、いわれたく…ない」モジモジ
カロル「なんで?変じゃないよ?」キョトン
ナラ「うそ…。へんって…いいたいん…でしょ?」ジト
カロル「ううん。変って思わないよ」
ナラ「ほん、と?」ジーッ
カロル「ナラちゃんはどうして変だと思うの?」
ナラ「だって…み、みんな…いう」
ナラ「へんって…いう、もん」プイッ
カロル「クスクス……変なの!」
ナラ「」ピクッ
カロル「すっごく変だよ!」クスクス
ナラ「やっぱり…へん」シュンッ
カロル「うん。だってナラちゃんは変じゃないのに、自分は変だって思い込んでるもん」
ナラ「……?」
カロル「お喋りするのが苦手なのって変じゃないでしょ?
それが変なら、お勉強が苦手な子もお絵描きが苦手な子も野菜が食べれない子もみんな変になっちゃうもの」
ナラ「……」
カロル「苦手ってさ。直せるんだよ!ボクも苦手なことばっかりだけど、少しずつ直してるんだ!」
カロル「えっとぉ…字の読み書きでしょ?あと…いつも道に迷ってて、道を覚える練習もしたよ!」
ナラ「……」
カロル「そうだ!嫌いだった芋虫も食べれるようになったんだよ!」ニコッ
ナラ「(いもむし!?)」
865:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/4(水) 19:12:19 ID:5Jf7tolYuw
カロル「ボクでも出来たんだから、ナラちゃんもきっと直せるよ!」
ナラ「む、むり、だよ。わたし…おともだち…いない」
カロル「え?」
ナラ「おしゃべり…したい、けど…れんしゅう、できない」
カロル「そうなんだ…。人間も、みんなが友達じゃないんだね…」
ナラ「…みんなは、ナラ、へんだ…から、あそばないって」ウルウル
カロル「……」
ナラ「わたし、も…あそ…びたい。でも…あそんで、くれないから…ひとりぼっち…」ウルウル
カロル「ボクも…ナラちゃんの気持ち、分かるよ?」
ナラ「……?」
カロル「ボクもホビットだから…友達なんていなかったもん」
ナラ「……」
カロル「寂しいよね。独りって…とても……」
ナラ「……」コクリ
カロル「泣きたくなるけど…そういう時はお母さまがギュってしてくれるんだ。
よしよしって撫でてくれて、お母さまのぬくもりが冷たい心を暖めてホッとする…」
ナラ「…ぃ…ぃ…な」
カロル「ナラちゃんにもお母さんがいるでしょ?」
ナラ「いる…けど、いない」
カロル「?」
866:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/4(水) 19:15:19 ID:5Jf7tolYuw
ナラ「ママ…。わたし、を…すてた」
カロル「……!」
ナラ「ぱ…パパは…いない、よ。わ…たし、しら…しらない、ひとの…こども、だから」
カロル「」ズキンッ
ナラ「しょうがなくて、うんだって…ママ、いってた。あいし…て、ないんだって」
カロル「…ごめん」
ナラ「ちが…あな、あなたの…せいじゃ、ない」オロオロ
カロル「…」
ナラ「あやまら、ないで…」
カロル「ボク…誤解してた。人間はみんな幸せなんだって、そう思ってた」
ナラ「しあ…わせ?」
カロル「なんでボクたちばっかりツラい想いをするんだろうって…人間はずるいって、少しだけだけど、思ってた」
ナラ「ホビット…だから?」
カロル「うん…。ホビットに生まれてなかったら、幸せだったのかもなんて考えたこともあるよ。
お母さまには絶対言わなかったけど…人間に憧れてた」
ナラ「…わた、し。あなた…うらやましい」
カロル「……」
ナラ「ひとり、ぼっちじゃ…ないなら、なんでも…いい。あなた…うらやましい」
カロル「でもホビットだよ?」
ナラ「いい…。ホビットでも…いい。わたし…ホビットが、いい」
カロル「……」
ナラ「きらわれて、いきるなら…にんげんより…ホビットが、マシだ…もん」
867:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/4(水) 19:18:31 ID:Dhvz5ObIgc
カロル「うーん。そうかな?」
ナラ「そう、だ…よ」
カロル「ナラちゃんの話を聞いたら、ボクは人間でもホビットでも変わんないって思ったよ?」
ナラ「…なん…で?」
カロル「種族の違いなんて関係ない。キミはキミだもの」
ナラ「じゃ…わた、し…このまま…なの?」シュンッ
カロル「ナラちゃんは変われるよ?今は少し、勇気が出せないだけ!」
ナラ「……?」
カロル「分かり合えるはずだよ。いつか…みんなと仲良しになれる!」
ナラ「わた…しは…できない。だれも、なかよく…してくれない」モジモジ
カロル「ううん!出来るよ!」
ナラ「うそ…うそ、だよ。だれが……」
カロル「ボクがナラちゃんの友達になる!」
ナラ「」パチクリ
カロル「あ…えと、ボクはホビットだから…キミがイヤじゃなかったらだけど!」アセアセ
ナラ「ぁ…ぅ…」パクパク
カロル「…イヤかな?」ドキドキ
ナラ「う、うれ…しい」モジモジ
カロル「っ…!」
ナラ「ともだち…なりたい!」モジモジ
カロル「…うん!よろしくね!」ニコッ
ナラ「」ドキッ
868:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/4(水) 19:21:08 ID:5Jf7tolYuw
ナラ「わたし、ナラ…よ、よろし…く」
カロル「ボクはカロル!カロルって呼んでね!」
ナラ「ぅ、うん…。わかった…。か、か、カロル…!」モジモジ
カロル「なぁに?ナラちゃん?」
ナラ「」カァァ
カロル「えへへ。なんだか照れくさいね?」ニコニコ
ナラ「」モジモジ
カロル「どうしたの?」キョトン
ナラ「わたし…も」
カロル「へ?」
ナラ「ナラが、いい。ナラって…よんで、ほしい」
カロル「うん。いいよ!ナラ!」ニコニコ
ナラ「」ドキッ
カロル「ねぇねぇ!ここって出れないの?」
ナラ「……?」
カロル「ここだと、ちょっぴり狭いよね?せっかく友達になれたんだから、お外で遊びたいなー?」キョロキョロ
ナラ「!」ドキドキ
ナラ「でれる…よ?」
カロル「ホント!?」パァァ
ナラ「うん…。アリアスさまに…あずかった」つ【鍵】
カロル「じゃあ遊びに行こうよ!ボク、村の友達からいろんな遊びを教えてもらったんだ!」
ナラ「どんな…遊び?」
カロル「じゃんけんと…かくれんぼでしょ?あと鬼ごっこ!」
ナラ「(じゃんけん…?)」
カロル「広いお庭があるから、そこで遊んだら楽しいよ!」
ナラ「!」パァァ
869:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/9(月) 15:42:52 ID:4jRYvwqKz2
―――大聖堂(庭園)―――
ジョー「ふいー!今日はよく眠れそうだぜ」ホロヨイ
神父「へはうぃわうりはおふ〜」デイスイ
ジョー「それにしても…威張ってる割には下戸だったんだな。おっさん…」
神父「にょふふ。おらぁがしゃんとしぃねん…あたしゃおねむだよ〜」バタッ
ジョー「おい、んなとこで寝るな!?」
シスター1「あら?ワンちゃんったらお寝坊さん?」
シスター2「かっわっ……」
シスター3「い〜〜〜い!!」
シスター1&2&3「きゃぁ〜〜〜!!!」ピョンピョン
マルク「」スヤスヤ
ジョー「(…そういや宣教師さん、おせーな。まだマリーさんに付いてやってんのか?)」
トト「はぁ〜!公に酒が飲めるなんてたまんねぇな、ジョー!」
ジョー「ん?あぁ、そうだな!」
トト「今日は飲み明かすぞー!」
ジョー「…まだ夕方だぞ?気が早すぎだろ?」
トト「はぁ?このままぶっ通しに決まってんだろ!」
ジョー「はぁ?勘弁してくれよ!ほとんど寝てないんだぜ!?」
トト「ダメだ!昨日はお前のせいで遅くまで準備させられたんだぞ!酒の席くらい付き合えよ!」
ジョー「(唯一酒を楽しめる日っつっても、みんな悪酔いしすぎだろ…)」
870:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/9(月) 15:49:55 ID:ur1V531DUI
スタスタ スタスタ
トト「ん…おい、ジョー!あれ…」トントン
ジョー「誰かが裸踊りでも始めたのか?」グビグビ
トト「ちげーよ!あれだって!」
ジョー「なんだよ。しつ……!?」
カロル「人がいっぱいいるね?」キョロキョロ
ナラ「き、きょうは…パーティーだから」モジモジ
ジョー「な、なんでボウズが…!?」
カロル「あっ!」タタタッ
ナラ「」ビクッ
シスター1「なに、この子?」
シスター2「きゃー!かわいい!新しく入った修道子かしら?」
カロル「マルク!」
シスター1「マルクってお名前なの?」
マルク「わんっ!」ピョンピョン
シスター2「きゃー!ワンちゃん起きた!」
カロル「わっ」ドサッ
シスター3「あらまぁ。乗し掛かっちゃダメでしょ、ワンちゃん!」
マルク「」ペロペロ
カロル「あはは!くすぐったいよ!」ニコニコ
ナラ「か、カロ…ル?」ビクビク
カロル「くすぐったいったら!もう!そんなに寂しかったの?」ナデナデ
シスター1「ワンちゃんとお知り合いなの?」
シスター2「きゃー!もしかして…ワンちゃんを飼ってる子!?」
シスター3「へ?それって……」
シスター1&2&3「ホビット!?」
871:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/9(月) 15:52:19 ID:4jRYvwqKz2
シスター1「き、キャー!?」タタタッ
シスター2「わ、わわ…!誰か!誰かー!!」タタタッ
シスター3「ホビットよー!ホビットが脱け出したわ!」
トト「よーし!俺が取っ捕まえてやる!」ダッ
ジョー「待て!俺がなんとかする!」ダッ
トト「はぁ?自分ばっかいい格好しようったってそうはいかねぇぞ?」タタタッ
ジョー「ち、ちげーよ!いいから待てって!」タタタッ
カロル「?」
ナラ「か、カロル!」ガシッ
カロル「平気だよ!おばさまは見方を変えるって言ってたじゃない?」ニコッ
ナラ「」オロオロ
マルク「わぅ?」
トト「捕まえた!」ガシッ
カロル「へ?」キョトン
ナラ「か、かろ……」アセアセ
ジョー「はぁ…。なぁにやってんだか」
トト「ちょくちょく出てきやがって!なんなんだ、お前は!」
カロル「ボクらは遊びに来ただけだよ?」
トト「はぁ?なに言ってんだ、お前?」
カロル「アリアスさんが約束してくれたんだ!もうボクたちは自由だって!」
トト「???」クエスチョン
872:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/9(月) 15:56:35 ID:4jRYvwqKz2
ジョー「一緒にいるちっこいのは?」ジロッ
ナラ「」ビクッ
ジョー「…お前がボウズを出したのか?」
ナラ「」ビクビク
ジョー「はぁ…。とにかく今すぐ戻れ。ここには貴族の方たちも……」
兵士3「何事か!」
兵士4「ホビットだそうだな?」
ジョー「ちっ…」
カロル「(鎧だ…。かっこいい!)」キラキラ
貴族「たまらんなぁ。ネズミにうろつかれては…?」スタスタ
トト「(やべぇぞ…。よりによって、この人かよ…!)」
ジョー「申し訳ない。我々のミスです。すぐに牢に押し込めますんで」ペコリ
貴族「その必要はない。余興には打ってつけだ?」スラッ
ジョー「はっ…!?」
貴族「ネズミを押さえろ。ちょうど新調した剣の切れ味を試したかったんだ?」ジャキッ
兵士3「了解しました」ガシッ
カロル「!?」
貴族「フッフッフ!さながらモルモットといったとこか?」スッ
ジョー「ち、ちょっと落ち着いて…!」アセアセ
兵士4「暴れるな!!」ググッ
カロル「あ、あぶないってば!やめてよ…!」ギシギシ
ナラ「か、カロル!いやがってる!やめて…!」オロオロ
マルク「グルルルル…!」フシューフシュー
「何をしているの!?」
873:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/9(月) 16:01:04 ID:ur1V531DUI
貴族「…誰だぁ?私を呼び止めたのは…。口の聞き方がなっとらんなぁ?」クルッ
アリアス「司祭様の付き人をしております。アリアスと申します。
恐れ入りますが、ここは教団の敷地内。たとえホビットとはいえ、血を流すのは許されません」
兵士4「貴様!この方をどなたと心得る!」
アリアス「都が誇る芸術家、侯爵家ランベルヤ卿のご子息、バルガン様でございますね?」
バルガン「フッ!なかなか心得ているようだな?」
アリアス「高名なる卿の名を存じ上げない者など、この敷地内には一人としていません」ペコリ
バルガン「…なるほど。もっともだ?」
アリアス「お目汚し、失礼いたしました。どうか、この場は収めていただけませんか?」
バルガン「……」
兵士3「卿の前に薄汚いホビットをうろつかせた責めはどうするつもりだ!」
アリアス「」ストッ
バルガン「…なんの真似だ?」
アリアス「どうか…ご容赦願います」ドゲザ
バルガン「フッ!女の身で、そこまでするか?」
アリアス「……」
バルガン「」チャキッ
バルガン「興が醒めた…。飲み直すぞ」スタスタ
兵士3「え…」スタスタ
兵士4「は、はい!」パッ
カロル「……!」トトッ
874:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/9(月) 16:04:22 ID:4jRYvwqKz2
アリアス「……」スクッ
カロル「助けてくれてありがとう!おばさま!」
マルク「わんっ」ペコリ
ジョー「お、おい……」
ナラ「」ビクビク
アリアス「勝手に出歩いてはダメでしょう?」
カロル「ごめんなさい……」
アリアス「あの方々は王国の人間だから、少し誤解があったみたいね」
カロル「うん。みんな慌ててたからびっくりしちゃった」
アリアス「まだ全員に説明出来ていなかったの。ごめんなさいね」
カロル「ううん!平気だよ!」
アリアス「なるべく無断で外出しないで?騒ぎになってはいけないし、王国の目もあるから」
カロル「はーい…」
マルク「くぅん…」
ナラ「」ションボリ
アリアス「トト。彼を部屋に戻して」
トト「あ、はい!付いて来い!」スタスタ
カロル「うん!マルク、おいで?」スタスタ
マルク「わんっ!」タタタッ
シスター1「あーん…ワンちゃんが行っちゃう…」
シスター2「うえーん!」
シスター3「しょうがないわよ。ホビットの犬だもん」
875:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/9(月) 16:10:26 ID:ur1V531DUI
アリアス「ふぅ…。よくよく使えないわね、あなたも」ボソッ
ジョー「ちっ…」
アリアス「…私に頭を下げさせておいて、その態度はどうなのかしら?」
ジョー「う……」
アリアス「私が来なければ今頃、お客様方の前で血が流れていた。そうなってしまえばパーティーどころでは無くなるのよ?」
ジョー「す、すんません」
アリアス「…間違いなく司祭様にまで責めが及んだでしょうね。これだけの醜態を晒せば、教団は王国に意見出来なくなるわ。
私達の布教に制限がなされて、今後の活動に支障をきたす…。あなたにその責任が取れて?」クドクド
ジョー「ぐっ…!」
アリアス「ナラ!」
ナラ「ひっ…」ウルウル
アリアス「」パシンッ
ナラ「ん…!」ヒリヒリ
アリアス「鍵はあなたに渡していた筈よね?なぜホビットを外に出したの!?」
ナラ「ご、ごめ…なさい」ポロポロ
ジョー「…こ、子供相手になにもそこまでやんなくても…」アセアセ
アリアス「関係ないのだから黙っていなさい。ナラ…あなたに任せた筈よね?」
ナラ「ほ、ホビット…みはる…」
アリアス「そうよ?それがなぜ、こんな事になっているの?」
ナラ「……」
アリアス「答えなさい」
ナラ「とも…だち」
アリアス「……?」
ナラ「いっしょに…あそ、ぼうって…」
アリアス「(…まさかナラが…短時間で心を開いたと言うの…!?)」
876:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/9(月) 16:12:49 ID:4jRYvwqKz2
アリアス「(純粋で疑いを知らないからこそ人の心の境界を容易く越えられる。
それがあの少年の強味であり、人間の持たざる力。油断がならないわね…)」
ナラ「」プルプル
アリアス「鍵は没収させてもらう。あなたも部屋に戻りなさい」
ナラ「」つ【鍵】
ジョー「部屋ってボウズが閉じ込められてるとこか?」
アリアス「そうよ」
ジョー「あんた…この子まで監禁する気かよ?」
アリアス「時間になればナラを出して修道子たちの大部屋に戻すわ」
ジョー「そしたら、この子は寝る時以外はずっとボウズに付きっきりじゃねぇか。自分の時間も与えられねぇ!」
アリアス「それでいいのよ。ナラに時間なんて必要ないわ」
ナラ「……」
ジョー「あんた、なに言ってんだ…!?」
アリアス「この子は誰とも心を通わせない。いえ、通わせられないと言った方が正しいかしら」
ジョー「なっ…」
アリアス「同じ修道子達からも相手にされていないし、かといって教えを熱心に受け入れる訳でもない。
簡単に言えば、彼女ははぐれ者なの。いつもボーッとしているだけで、なんの才も無い不要な子」
ナラ「もど…り…ます」ダッ
ジョー「あっ!」
ナラ「」タタタッ
877:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/9(月) 16:18:02 ID:ur1V531DUI
ジョー「……最低だな。あんた…!」
アリアス「好きに取って構わないけれど、ナラにとってもいい機会でしょう?
親に捨てられて、拾われた教団でも居場所が無かったあの子を受け入れてくれる相手といられるのだし?」
ジョー「…その唯一の相手といられる時間も、そう長くはねぇんだろ?」
アリアス「それもそうね…。まぁホビットにしか相手にされないような子は、初めから神に愛されていないのよ」
ジョー「結局、身勝手に利用してあの子の心を弄んでるだけじゃねぇか!」
アリアス「さっきまであの子の顔も知らなかった分際で意見しないでもらいたいわね?
自己満足の善悪を押し付ける暇があったら、自分でなんとかしてみたら?」
ジョー「……!」
アリアス「しがらみにまとわりつかれた大人に出来る事なんて限られてるのよ。
その証拠にあなた、達者な口とは裏腹に足が震えてるわよ?」
ジョー「…くそ!」ガクガク
アリアス「あなたは今まで通り、必要なことだけに集中なさい。
罪人を見張って、金を手にして、生活を維持するだけの日常に…ね」
ジョー「(くそっ!くそっ!くそっ!)」
アリアス「くれぐれもお客様の機嫌を損ねないように。せいぜいパーティーを楽しみなさい」スタスタ
ジョー「」ワナワナ
シスター1「ワンちゃーん…!」グスン
シスター2「神様ー!かわいいペットをくださーい!」
シスター3「神様にくだらないこと祈らないの!」
神父「ぐがー…ぐごー…」スヤスヤ
シスター1「グスン…なんでこの人、芝の上で寝てるの?」
ジョー「(宣教師さん…絶対にあいつらをぎゃふんと言わせてやろうぜ!)」
878:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/15(日) 20:43:21 ID:Dhvz5ObIgc
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「えへへ。怒られちゃったね」
ナラ「……」
カロル「どうしたの?元気ないよ?」
ナラ「へい…き」
マルク「クゥーン」スリスリ
ナラ「…!」ビクッ
カロル「マルクも心配だって?」
ナラ「う…うん」
カロル「あ、そうだ!これ食べる?」つ【パン】
ナラ「……?」
カロル「こっそりもらってきたんだ!」ニコニコ
マルク「はっ!はっ!」シッポフリフリ
カロル「ふふ。マルクにも、ちゃんとあるよ!」つ【ローストチキンの切れ端】
マルク「」ハムッ モグモグ
ナラ「」パクッ
ナラ「…おいしい」パァァ
カロル「元気出た?」ニコニコ
ナラ「うん…」ニコニコ
カロル「アリアスさんが許してくれたら、今度はいっぱい遊ぼうね!」
ナラ「そう…だね」
マルク「」モグモグ
ナラ「(カロルはあんなこと…あったのに、こわくないのかな)」
879:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 21:50:02 ID:oAdlPUadgE
―――大聖堂(広間)―――
宣教師「」ズーン
アントリア「お疲れのようだね?」
宣教師「神官…」
アントリア「大臣が可愛がる度に引き攣る君の顔は見ものだったよ?」
宣教師「お、思い出させないでください!」アセアセ
アントリア「クックッ!すまないね…」クスクス
宣教師「…この先、私に純白のドレスを着る機会はないでしょうか…?」フッ
アントリア「ハハ…そこまで思い詰める事はないよ。
君ほど魅力的な女性なら、きっといい人が現れるとも」
宣教師「気休めはよしてください…」グスン
アントリア「あんなものは言ってみれば事故だよ。気に病むことはないさ」
宣教師「さんざん腰を撫で回された上に胸をまさぐられて…とても事故では済ませられません!」
アントリア「やれやれ、大袈裟だな…?」
宣教師「悪かったですね!どうせ下品な男の方には分かりませんよ!?」
アントリア「クックッ!下品ときたか。君もなかなか言うようになったな?」
宣教師「っ!失礼しましたね…!」プンスカ
880:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 21:54:34 ID:IWbPBuUNEE
アントリア「しかし君もノワールも変わらないな?」
宣教師「神官もお変わりなく」
アントリア「それこそ気休めだね。僕もすっかり老け込んだものだよ」
宣教師「いえいえ、まだまだ若さを保っておられますよ?」
アントリア「クックッ!下品な男ほど、しぶといのかもしれないね」
宣教師「あっ…その…さっきのは言葉のあやでして…申し訳ございません」ペコリ
アントリア「今日は君にとって厄日だったろうからね。気持ちが抑えられないのは仕方ないさ?」
宣教師「…はい」
アントリア「辛いだろうがね。悪い夢にうなされたとでも思って忘れなさい」
宣教師「…それは先ほどの話も含めて、という意味でしょうか?」
アントリア「まぁ…君には関わりのない事さ。深く考えない方がいい」
宣教師「そういう訳にはいきません…」
アントリア「…ふむ」
宣教師「教団は矛先をホビットに向けて差別を促し、民の不信感を和らげて…王国は仮初めの平和に乗じて自由に世界を動かしている…。これが今の世界の流れなのですね?」
アントリア「君は相変わらず飲み込みが早いな。会話の断片を拾うだけで、その結論に達するとは…」
宣教師「神官は…こんな不毛な流れに疑問を持たれないのですか?」
アントリア「…時に宣教師くん。君は教団が活動する前の世界を知っているかね?」
宣教師「…急にどうなさったんですか?」
アントリア「年寄りはおしゃべりが好きでね。少し昔語りがしたくなったのだよ?」
宣教師「…知る筈がありません。私は生まれてもいないのですから」
アントリア「それもそうか…。なら疑問を持ってもおかしくはないよ」
宣教師「……?」
アントリア「今から40年ほど前に学者だったノワール・バントン司祭が伝承を解読したのは知っているね?
それは彼の名前が歴史に刻まれたとしても、なんらおかしくない程の発見だった」
宣教師「(もしかしたら偽の伝承にまつわる話でしょうか…)」
アントリア「あれから世界の仕組みは大きく変化した…。
今から話すのはノワールの発見ではなく、我々が過ごした時代の話だがね?」
881:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 21:56:58 ID:IWbPBuUNEE
―――回想(アントリア)―――
……あの時代はとても荒んでいた
人が人を憎み、互いに傷を広げ合う
いくつもの国が争う頃には誰もが癒えない傷を抱えていた
人々の憂いは限りなく、生きる術ばかり限られる
村や町は戦火に焼き払われ、生き残る国もあれば死に絶える国もあった
それでも終局を見せないまま十年に渡って繰り広げられた戦いは、やがて終わらない争いと呼ばれた
僕とノワールはそんな時代に生まれたのだ
過酷で行き場を見失いがちな環境の中で……
今、この時を生きていられるのがウソだと思えるような
思い返すと気の休まらない日々を過ごしていたよ
とはいえ僕は運がよかった
家柄に恵まれていた事もあり、戦火とは無縁な場所にいられたのだからね
民が不安に怯え、ままならぬ生活に喘いでいる事も知らずに浮わついた生活を送っていた
舞踊、剣術などを嗜み、茶会や舞踏会などの娯楽に興じる気ままな日々をね
しかしノワールは孤独な少年だった
平民として裕福な町に生まれた彼は、まだ幼く、無邪気だったそうだ
自国の膝元に置かれた町は、遠く離れた貧しい村々のように煙が立ち込めることもなく
武力が盾となり、なに不自由ない生活を送っていたと言う
まぁ…彼の記憶が定かであればの話だがね
882:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 21:59:02 ID:oAdlPUadgE
しかしある日を境に彼を取り巻く環境は大きく変化した
町と外を隔てる唯一の門が敵国の手によって開かれたのだ
普段ならば決して開くことのない硬く、たくましい樫の巨木で作られた門がいとも容易く……
町の人間には何が起こっているのかさえ分からない内に馬に跨がった無数の兵が攻め込んできた
兵士達は馬上から容赦なく剣を振るい、家々には人の頭ほどもあろう石が投げ込まれ
逃げ惑う人々の背を蹄が突き刺し、先ほどまで活気立った市場には火の手が上がった
よく寝かせた赤ワインを瓶ごとこぼすようにどっぷりと赤い血が地面に溢れる
ノワールはその光景を前にして、ただ立ち尽くしていたそうだ
無理もない。まだ幼い少年だったのだから
人々は溺れるようにして火の海の藻屑となった
兵士達は食糧や金品などの物資を手早く回収すると、勝利の雄叫びを上げ、自国の旗を掲げながら悠々と去っていった
ノワールは瓦礫の隙間に忍んで息を潜め、恐怖に震えながらも見つかることはなかったそうだ
隠れている間に何度か鈍い音と痛ましい悲鳴が聴こえたが、か細い腕は震えに抗えず、耳を塞ぐことすら叶わなかったと言っていたよ
足音に体を強張らせ、立ち込める煙を吸い込むたびに咳き込みそうになるのを必死の思いでこらえた
徐々に迫る火に怯え、熱さに悶えながらも彼は耐え忍んだ
兵士達が去っていった後もしばらく瓦礫の下にうずくまっていたらしい……
883:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 22:02:29 ID:oAdlPUadgE
……そうしている内に火の手が回り、炎がメラメラと音を立てて身を隠す瓦礫に迫る
幼き本能は敏感に死を悟り、這うようにして瓦礫から抜け出すと夢中で走っていた
「はぁ…はぁ…」タタタッ
「うぐっ」ゴロンッ
「うっ…くっ…!」ムクリ
「はぁ…はぁ…」タタタッ
「はぁ…あ…あ…あぁ…」ウルッ
「うぅぅ…あああぁ……」ブワァッ
……足が縺れるのも気にせずに走り、転んでは立ち上がり、傷の痛みも感じずに走る繰り返し
痺れ切って感覚もない足、足首は紫色に腫れ上がり、膝の皮は転んだ拍子に破れてずる剥けだった
それでも彼は走り続けた。そして泣き続けた
ほんの数時間前までは何も知らなかった少年がこの時、確かな答えを見つけていたのだ
「うっ…うぅ…うわあぁぁん!」ポロポロ
……もう無いのだと。
家族も、町も、町の人々も、友達も、家も……
思い出だけを残し、一人で生きるしかないのだと
………………
884:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 22:08:06 ID:oAdlPUadgE
アントリア「とまぁこんなところかな」
宣教師「そのような時代があったなんて…知りませんでした」
アントリア「王国は隠したがっているようだからね。だが現実に悲惨な時代があったのだよ」
宣教師「司祭様は…私と同じ孤児だったのですか?」
アントリア「…それだけではないよ」
宣教師「……?」
アントリア「彼の国を滅ぼしたのも王国だ」
宣教師「えっ」
アントリア「だからかな。君には他の者と違う感情を覚えてしまうらしい」
宣教師「(司祭様も…私と同じ境遇に…)」
アントリア「ノワールは気難しい男ではあるが、君が思っているような人物ではないよ?」
宣教師「え……」
アントリア「ホビットを苦しめて楽しむ薄情な男と思っているのだろう?」
宣教師「い、いえ」
アントリア「…まぁ目的の為なら手段を選ばない人間ではあるがね」
宣教師「少し…行き過ぎている気もします」
アントリア「だが終わらない争いを終わらせたのは紛れもなくノワールの功績だ。それだけは分かってやってほしい」
宣教師「はぁ…。あの…司祭様はなぜホビットを憎んでいるのですか?」
アントリア「……」
宣教師「……?」
アントリア「見捨てられたのだよ。孤児だった頃にね」
宣教師「見捨てられた…?」
885:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 22:10:00 ID:IWbPBuUNEE
アントリア「行き場もなくさまよったノワールは見知らぬ森の中で疲れはてて、草むらに横たわって眠ったのだそうだ」
アントリア「そして目を覚ますと数匹のホビットが彼を取り囲んでいた」
宣教師「(そういえばカロルくんのお母様が言ってましたね。ホビットは森に住まう種族だと)」
アントリア「ノワールは怯えながらも必死に助けを求めた」
宣教師「助けてもらえなかったのですか?」
アントリア「…助けてもらえないだけならまだよかったろうね」
宣教師「……?」
アントリア「ホビットは傷付いて動けない彼を流れの激しい川に放り込んだのだ。
自分たちの縄張りに人間を置いておく訳にはいかないと言ってね」
宣教師「なっ…!」
アントリア「濁流に押し流されて気が付いた頃には王国領に辿り着いていた。
冷えきった体と朦朧とする意識をなんとか起こし、川を離れたところで力尽きたのだと?」
宣教師「(ものすごい生命力ですね…)」
アントリア「さすがに彼もその時ばかりは死を覚悟したらしいがね。
運良く、たまたま馬車で通りかかった父上が拾ったのだよ」
宣教師「ということは…司祭様は神官の家で過ごしたんですか?」
アントリア「亡くなった父上は変わり者でね。たまたま拾った見知らぬ子供を誕生日の贈り物として僕にくれたのだ」
宣教師「司祭様は物扱いなんですね」
アントリア「物なら単純で助かるが彼は扱いにくかったよ」
宣教師「…なんとなく分かります」
886:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 22:15:48 ID:oAdlPUadgE
宣教師「(司祭様にそんな過去があったなんて…)」
司祭「大臣め!ようやっと寝間に入りおったわい!」ガチャッ
アントリア「クックッ!ご苦労だったね?」
宣教師「」ジーッ
司祭「む?なんじゃ?」
宣教師「い、いえ…」
司祭「……?変な奴じゃな?」
アントリア「さて、僕も寝るとしようかな」
司祭「そうか。では寝間に案内してやろうかの」
宣教師「……」
アントリア「年寄りの長話に付き合わせてすまなかったね?」
宣教師「あ…とんでもありません」
司祭「む?なんの話じゃ?」
アントリア「なに、つまらない話さ」
司祭「……?」
宣教師「……」
司祭「…お前も寝ておけ。庭園の宴も終わった頃じゃろう?」
宣教師「はい…」
宣教師「(司祭様がホビットも王国も憎んでいる理由は分かりましたが、なぜそこまで癒しの力に執着するのでしょうか…)」
887:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/23(月) 11:55:20 ID:kql6e53rLY
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
ガチャッ
アリアス「ナラ。迎えに…」
カロル「」プニィ
マルク「」グニョン
ナラ「ぷっ」
カロル「あっ!今笑ったでしょ?」
マルク「わんっ!」
ナラ「…うぅ」モジモジ
アリアス「……」
カロル「あ、アリアスさん!」
ナラ「」ビクッ
マルク「わんっ」
アリアス「…あなた達、なにしてるの?」
カロル「にらめっこしてたんです」ニコニコ
ナラ「……」ビクビク
アリアス「(…ずいぶん呑気なのね。まぁ良い傾向だけれど)」
カロル「アリアスさんもにらめっこする?」
アリアス「遠慮しておくわ。ナラ?」
ナラ「はい…」
カロル「…どうかしたの?」
アリアス「もう遅いからナラを部屋に戻すのよ」
カロル「え…そんな時間だったんだ。気付かなかった」
888:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/23(月) 11:58:24 ID:ndq7pVhfUU
カロル「おやすみ。ナラ?」ニコッ
ナラ「……」
アリアス「…あなたは返事もまともに出来ないの?」
ナラ「」ビクッ
カロル「叱らないであげて?ボク、怒ってないですから…」
アリアス「そう…」
ナラ「」ウジウジ
カロル「アリアスさんもおやすみなさい」ニコッ
アリアス「おやすみなさい。良い夢を…」バタンッ
マルク「わぅぅん…」
カロル「ナラ…どうしたんだろ?」
マルク「クゥーン…」
カロル「…明日はもっと笑ってくれるといいね?」
マルク「」コクコク
889:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/23(月) 12:01:49 ID:ndq7pVhfUU
―――大聖堂(通路)―――
アリアス「いつの間にあんな顔ができるようになったの?」ニコッ
ナラ「……」
アリアス「普段の無口なあなたからは想像できない…。卑屈で…媚びていて…引きつった笑みのあなたからは…?」
ナラ「」ブルブル
アリアス「ダメじゃない?誰が心を開いていいと言ったの?」ニコニコ
ナラ「ごめんなさい…」
アリアス「あなたも知ってるわよね?アレはホビットなのよ?
人間じゃない…。ホビットなの?」ニコニコ
ナラ「はい…」
アリアス「教えも熱心に受けないあなたを置いてあげてるのは何故だと思う?」ニコニコ
ナラ「……」
アリアス「それは…こういう時の為でしょう?」ギロッ
ナラ「ひっ…」ビクッ
アリアス「ホビットを楽しませるのは結構よ?でもあなたはそうじゃないでしょう?」
ナラ「はい…」
アリアス「あなたが少しでも集中出来るように私から助言をしてあげましょうか?」
ナラ「……?」
アリアス「あのホビットはもうすぐいなくなる…。二度と会える日は来ないの」
ナラ「……!なんで!!」
アリアス「声を荒げるなんて珍しいわね。よほど情が深いのかしら?」
ナラ「…ちが…ます」
アリアス「…肝に銘じておきなさい。ホビットと人間は異なる生き物。交わることはないのよ」
ナラ「……」
アリアス「…部屋には一人で戻れるわよね?」
ナラ「」コクリ
890:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/26(木) 20:24:25 ID:hwbXPlLH2c
―――夢(宣教師)―――
……逃げろ!早く!早くしろ!
……なんで私達が!?一体何をしたと言うの!?
……町を出るんだ!ここにいては殺されてしまう!
……無理よ!湖に囲まれたこの町に逃げ場なんてないわ!?
……火が放たれたぞ!王国は本気でこの町を消すつもりだ!
……あぁ!あぁ!あぁぁぁぁ!!
……希望を捨てるな!出口が無いのなら、いっそ湖に飛び込もう!
……待って!子供がいないの…!
……諦めろ!どうせ助からない!
……誰か、誰か手を貸してくれ!妻が怪我をしてるんだ!
……構うな!助かりたい奴は生き残る事だけを考えろ!
……騎馬隊が迫ってきたぞ!
……早く飛び込むんだ!
バシャッ! バシャバシャッ! ボチャンッ!
……うがぁぁ…!く、苦しい!
……なんだぁ!何か…変だぞ!?
……み、水を飲むな!毒が入ってるのかもしれない!
……ぶくぶく
…矢が!矢が放たれだふっ!?
……一人も、生かさない気なの…か…
……ぶくぶく ぶくぶく
891:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/26(木) 20:29:03 ID:pqeXbqy9pQ
〜〜〜〜〜〜
???「ここが例の町か。本来は美しい町であったろうに…」スタスタ
「」グスングスン
???「む…?」スタスタ
「ひっく…ひっく…」グスングスン
???「…お前さんはこの町の子かね?」
「うっ…うえぇぇん…」ブワァッ
???「何があった?泣いてばかりでは分かるまい?」
「ヒック…グスン!おじいさんは誰なの?」
???「わしは神に仕えし人間じゃ。恐れる必要などないのじゃよ?」
「…ほんと?」グスン
???「本当じゃとも。何があったか話してみなさい」
「…わたしが外にお花を摘みに行ってたら、みんないなくなってたの」
???「ふむ…」
「ねぇ、どうして?どうして町が無くなったの?どうしてみんないなくなったの?」
???「…わしでは答えられんな」
「おじいさんは神に仕える人間なんでしょう?神様は教えてくれないの?」
???「神が人に教えるのは…いずれも答えに近いものであって答えではない。
あくまで、それを見つけるのは自分自身なのじゃ」
「……」
???「お前さんの町がなぜこうなったかは…いずれ自分自身で見つけられよう。
それよりも今はお前さんがどう生きるのかを考えねばな」
「イヤだよ…。お父さんもお母さんも…お兄ちゃんもいないなんてやだ」
???「ならばどうする?ここに残るのか?」
「……」
892:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/26(木) 20:34:36 ID:pqeXbqy9pQ
???「お前さんのような子供が一人で生きていけるほど、生易しい世の中ではないぞ?」
「生きてたって…みんなも町も戻らないもん」
???「だったらなんじゃ?死ぬとでも言うのか?」
「…それでもいいよ。みんなに会えるなら」
???「ふむ。あの世で再会とな…。はたしてお前さんの家族は望むかの?」
「知らないよ…知らないけど、しょうがないから」
???「しょうがない?」ピクッ
「だって!どうしたらいいの!?
いきなり一人になったって分かんないよ!」
???「やっかましいぃぃぃぃぃ!!!!」
「」ビクッ
???「ケツの青いガキの分際で命をやすやす捨てようなど片腹痛いわぁぁぁ!!」
「…!?」ドギマギ
???「お前さんがどうしても死ぬと言うのなら、わしは断固阻止するぞ!?」
「どう…して?」
???「どうしてもこうしてもあるかっ!とにかくお前さんの生きる場所はわしがくれてやる!
そこでもまだ死にたいとほざくのなら、勝手に死ねばええわい!」
「」キョトン
???「向こうに馬車を待たせとる!行くぞ!」スタスタ
「」ポカーン
………………
893:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/29(日) 21:33:24 ID:nCTLVGdIG2
―――大聖堂(広間)―――
ワイワイガヤガヤ
ジョー「へー!司祭様にそんな過去がなぁ…」
宣教師「…はい。まさか私と似たような境遇にいたなんて思ってもみませんでした」
ジョー「王国を憎む訳だよ。えげつねぇにも程がある」
宣教師「…そういえば神父様は?いらっしゃらないみたいですが…」
ジョー「あのおっさんなら二日酔いで寝込んでるよ。昨日は飲めねぇクセに意地張って飲んでたから」
宣教師「それはまた…あの方らしいと言いますか…」
ジョー「そんな事より聞きてぇんだけどさ。あんたは王国を恨んでないのか?」
宣教師「私ですか?」
ジョー「あぁ。あんたも王国に故郷を滅ぼされたんだろ?」
宣教師「……。特にないです。司祭様のように復讐に走る気もありませんし」
ジョー「…ま、そうだろうな。考えてみりゃあんたはそんな人じゃねぇか」
宣教師「…許せない方ならいますがね」ボソリ
ジョー「ん?なんだって?」
宣教師「い、いえ…なんでもありません」ゴニョゴニョ
ジョー「それにしても王国まで一枚噛むとなると、ますます話がでかくなるなぁ…」
ナラ「」トコトコ
ジョー「ん?よう!昨日のちっこいのじゃねぇか?」
ナラ「」ビクッ
宣教師「?」
894:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/29(日) 21:35:34 ID:nCTLVGdIG2
ジョー「またあのボウズんとこに行くのか?」
ナラ「」コクリ
宣教師「ジョーさん、この子は?」
ジョー「修道子だよ。なんでもアリアスの命令で、あんたの好きなホビットの部屋に入り浸ってるらしいぜ?」
宣教師「なんですか、その誤解を招きそうな言い方は…。要は監視でしょう?」
ジョー「こんな子供に何させてんだかってハナシだよな?」
宣教師「カロルくんでしたら監視など付けなくてもおとなしくしていそうなものですが」
ナラ「……!カロル…しってる、の?」
宣教師「えぇ。私は彼の友達ですから」
ナラ「もしかして…せんきょうし、さん?」パチクリ
宣教師「おや、彼から聞いたのですか?」
ナラ「うん。すごく…やさしくて、だいすきなひと…いってた」
宣教師「なっ…」カァァ
ジョー「ヒュー!隅に置けねぇな、あんたも?」ニヤニヤ
宣教師「ふ、ふざけないでください!」
ジョー「あのボウズに会いたくなってきたんじゃねぇか?」ニヤニヤ
宣教師「っ…!知りません!」プイッ
ナラ「……」
895:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/29(日) 21:37:48 ID:nCTLVGdIG2
ジョー「くくく…!」ニヤニヤ
宣教師「コホンッ!お名前は?」
ナラ「な、ナラ…」モジモジ
宣教師「ふふ。かわいらしいですね。カロルくんは元気にしてますか?」
ナラ「」コクリ
宣教師「それは良かった。仲良くしてあげてくださいね?」ニコッ
ナラ「……」
ジョー「なんか言いたそうな顔だな?」
ナラ「…ホビット、なかよくできない」
宣教師「?」
ナラ「アリアスさまが…いってた」
ジョー「あの冷血オバタリアンか…」
ナラ「せんきょうしさん、どうして…なかよくするの?」
宣教師「…あなたはカロルくんが嫌いですか?」
ナラ「……ちがう!」ブンブン
宣教師「そうでしょう?でしたら自ずと答えは見える筈です」
ナラ「?」
宣教師「誰かの言葉ではなく…自分の気持ちに従いなさい。あなたがしたいようにすればいいのです」
ナラ「でも…おしえも…」
宣教師「教えはあくまで参考程度のモノですよ。
そこから何を思い、どうするのかはあなたが決めること。違いますか?」
ジョー「そうそう。てめぇの人生なんだからてめぇの好きにさせろってハナシだよ」
ナラ「……」
896:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/29(日) 21:39:51 ID:nCTLVGdIG2
ナラ「…わたし、カロルがすき」
宣教師「そうですか!」ニコリ
ジョー「ライバル登場だな?」ニヤニヤ
宣教師「いい加減にしなさい。本の角で叩きますよ?」
ジョー「じょ…冗談だって」タジタジ
ナラ「……いなくなるもん」
宣教師「……?」
ジョー「はぁ!?」
ナラ「アリアスさまがいってた…」
宣教師「……」
ジョー「ナラちゃんに教える事はねぇだろうに…!あのおばさん…とことん冷めてんな!」
ナラ「カロル…いなくなったら、またひとりぼっち」ウルッ
宣教師「……」
ジョー「う……」タジタジ
ナラ「もっといっしょにいたい。ずっと…ずっと」ウルウル
宣教師「…顔を上げてください?」
ナラ「…」スッ
宣教師「先はどうあれ、今を大切にしなければ始まりませんよ?」
ナラ「……」
宣教師「たくさんの思い出を作りなさい。あなたの気持ちの赴くままに?」ニコリ
ナラ「」コクリ
897:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/29(日) 21:41:47 ID:joc1CoqX1k
――――――
ジョー「いいのか?あんな事言っちまって?」
宣教師「……」
ジョー「その場しのぎもいいとこだ」
宣教師「黙っていても彼女は悩み続けますよ」
ジョー「…それもそうか」
宣教師「私たちは出来る限りの事をしましょう?あの親子を助けられるように…」
ジョー「無理だな」
宣教師「なっ…」
ジョー「内心分かってんだろ?」
宣教師「……」
ジョー「教団と王国に隠された真実は暴けたし、伝承も迷信だって分かった。
あとはこの事実を俺たちの足と声で伝えてくだけだ」
宣教師「えぇ。王国の圧政は教団の洗脳あってのもの。人々の呪縛が解ければホビットに向けられた矛先は王国に傾く筈です」
ジョー「じゃあ今から伝えて廻るとして…何年、いや何十年かかる?」
宣教師「それは…」
ジョー「そんなことしてる内にボウズ達は司祭様に利用されて消されるぞ」
宣教師「……!」
ジョー「人間ってのはそんな単純じゃないぜ。分かるだろ?
ハナから信じてもらえねぇ前提で話して廻るんだ。下手したら一生掛かっても洗脳は解けないかもしれない」
宣教師「分かってます…。私が任されていた村の人間も…耳を貸してくれませんでしたから」
ジョー「俺だって…あんたがいなきゃ一生ホビットを憎んだままだった」
宣教師「……」
898:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/29(日) 21:44:41 ID:nCTLVGdIG2
ジョー「だから言える。世界中歩き回ったって信じてくれる人なんか、ほんの一握りだ」
宣教師「無謀だと分かってるなら…どうして協力しようと思ったんですか?」
ジョー「…あんたがいるからだろ?」
宣教師「え?」
ジョー「あんたなら…こんな馬鹿げたやり方でも何か変えられる気がしたんだ」
宣教師「私が…?」
ジョー「あぁ。自分じゃ気付いてないかもしれないが、あんたの言葉には嘘がない。
妙に説得力があるっていうか…うまく言えないけど、自然と信じてみたくなるんだよ」
宣教師「そんな…大げさですよ。私はただ言いたい事を言ってるまでです」
ジョー「その素直さがいいんだよ。俺には分かる」
宣教師「…私には分かりません」
ジョー「はは。だろうな?」
宣教師「……」
ジョー「けど…どう頑張っても信じさせるには時間が要る」
宣教師「…ですが、あの親子には時間がありません」
ジョー「そういうことだ。王国と教団が動き出しちまっちゃ、もう諦めるしかない」
宣教師「……」
ジョー「差別に苦しんでるホビットはあいつらだけじゃないしな」
宣教師「…私は諦めません」
ジョー「……」
宣教師「カロルくんとお母様に…約束しましたから」
ジョー「はぁ…あんたも頑固だな…?」
899:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 13:07:56 ID:mhRd5op86s
ジョー「俺はそろそろ戻るぜ」
宣教師「……」
ジョー「とりあえず頭に入れといてくれよ?」
宣教師「…なにか方法を考えてみます」
ジョー「…まぁ、あんたがそうしたいって言うならそれでいいけどさ。
多分、どうしようもないんじゃないか?」
宣教師「……」
ジョー「…なんか思い付いたら教えろよ。俺に出来ることなら協力するから」
宣教師「はい…。ありがとうございます」
ジョー「んじゃ、またな!」スタスタ
宣教師「えぇ。また…」
スタスタ スタスタ……
宣教師「はぁ…弱りましたね」
「悩みでもあって?」
宣教師「はい。実は……え?」
アリアス「私でよければ聞きましょうか?」ニコリ
宣教師「…いつからそこに?」
アリアス「たった今来たところだけれど?」
宣教師「…そうですか」
アリアス「何かあったのなら聞かせてもらえない?」
宣教師「あなたには関係ありません」
アリアス「冷たいのね。とても悲しく思うわ?」
宣教師「…何か用ですか?」
アリアス「えぇ。司祭様があなたを呼んでいるわ。付いてきなさい」
宣教師「…分かりました」スクッ
900:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 13:10:19 ID:EGaUv6OiD6
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「うーん。こっち!」パシッ
ナラ「ふふ」
カロル「あ……」ガーン
ナラ「クスクス…。またわたしのかちだね?」ニコッ
カロル「ナラはババ抜きが得意なんだね?」
ナラ「ううん。とくいじゃないよ。カロル…よわいんだもん」クスクス
カロル「えぇっ!そんなことないよ!もう一回やろ?」
ナラ「うん。いいよ」
マルク「クゥーン!」スリスリ
ナラ「え?」
カロル「マルク、どうしたの?」
マルク「わん!わん!」
ナラ「な、なに?」オロオロ
カロル「…退屈になっちゃったのかな?」
ナラ「そう、なの?」
マルク「うぅぅ〜…!」ジーッ
ナラ「……」
カロル「待ってて。終わったら一緒に遊ぼう?」
マルク「……」ジーッ
ナラ「……」
901:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 13:17:03 ID:EGaUv6OiD6
カロル「また負けちゃった…」
ナラ「ふふ。かおにでやすいから…」
カロル「そうかな?ちゃんと分からないようにしてるのに?」
ナラ「だってババをもってると、ババしかみてないもん」
カロル「え…そうだったんだ。気を付けなきゃ」アセアセ
マルク「わんっ!」
カロル「あ、ごめんね?マルクも遊ぼっか!」
マルク「」ブンブン
カロル「…そうじゃないの?」
マルク「うぅ〜…わんっ!」
ナラ「」ビクッ
ナラ「……」
マルク「」ジーッ
ナラ「やっぱり…ダメだよ、ね」
カロル「へ?」
ナラ「…わたし、ウソついてるの」
カロル「ウソ…?」
マルク「くーん…」
ナラ「カロルはだまされてる。アリアスさまは…じゆうにするっていってたけど、ホントはちがうの」
カロル「違うって、なにが違うの?」キョトン
ナラ「わからないけど、アリアスさまは…なにかかくしてる。
だって…わたしにカロルをみはれっていった」
カロル「ど、どうして?見張らなくたって、お母さまと帰れるならおとなしくしてるよ?」オロオロ
ナラ「かえれ…ないよ。それにおかあさんにもあえないとおもう…」
カロル「え…?」ドクンッ
902:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 13:19:52 ID:mhRd5op86s
ナラ「わたしはカロルをあんしんさせてっていわれて…なにも、しらないけど」
カロル「…ナラはボクを騙してたの?」
ナラ「ち、ちが…!アリアスさまが…!」
カロル「……」
ナラ「わたし…じゃない。しんじて…?」
カロル「…もう分からないよ。誰を信じたらいいのさ」シュン
ナラ「ちがう!わたし、カロルがすきだよ!ともだち、だから!」
カロル「頼まれたから…友達のふりをしてたんじゃないの?」
ナラ「カロル…」
カロル「…ごめん」
マルク「」スリスリ
カロル「…へいき。心配しなくていいよ。傷付いたり…しないから」ナデナデ
マルク「クゥーン…」
ナラ「…さっき、せんきょうしさんにあった」
カロル「宣教師さま…?」
ナラ「うん。カロルのこと、はなしたよ」
カロル「…そうなんだ?なんて言ってたの?」
ナラ「なかよくしてあげてって、やさしくわらいながらいってくれた」
カロル「…そっか。宣教師さま、会いたいな」
903:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 13:22:18 ID:mhRd5op86s
ナラ「カロルは…わたしのこと、きらいになった?」
カロル「嫌いになんてならないよ。ナラは悪くないもの」
ナラ「……」
カロル「でも…ちょっとだけ悲しいかな。自然になかよくなれた気がしたから」
ナラ「…せんきょうしさんにね。きいてみたの」
カロル「?」
ナラ「どうしてホビットとともだちなの?って…」
カロル「……」
ナラ「そしたらね。じぶんのきもち、しんじなさいっていってた」
ナラ「しゅぞくも、おしえも、かんけいない。じぶんがすきなら…それでいい」
ナラ「わたしはカロルがすきだから、そのきもちにしたがうの」
カロル「うん…」
ナラ「もういっかい、きかせて?カロルはわたし、きらい?」
カロル「…そんなことない。大好きだよ?」ニコリ
ナラ「あり…がとう」
カロル「(そうだよね。理由なんていらないんだよ。きっと…)」
カロル「(ボクと仲良くしてくれる人間に…理由なんてない筈だもの)」
ナラ「どうしたの?」
カロル「なんでもないよ。それより、もっと遊ぼうよ?」
ナラ「うん!」
マルク「……」
904:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 18:36:09 ID:W53Y4Ns4ZQ
―――大聖堂(礼拝堂)―――
アリアス「連れて参りました」
司祭「うむ。ご苦労じゃったな」
宣教師「…私に何か?」ジト
司祭「ほっほっほ。まぁまぁ。そう警戒するな?」
宣教師「警戒など…」
司祭「ところで宣教師よ。これからどうする?」
宣教師「どうする…とおっしゃいますと?」
アリアス「あなたが布教を行っていた村の話は聞いたわよね?」
宣教師「はい。断片的でしたから、あまり把握出来ていませんが…」
司祭「ふむ、そういえば全ては説明していなかったのう?」
アリアス「端的に話せば例の村では布教を行えない」
宣教師「(もとより布教するつもりもありませんが…)」
アリアス「ある旅の人間が村人にタイマを勧めたのよ。それで今、村は管理出来る状態にないの」
宣教師「タイマ…?ま、まさかあのタイマですか!?」
司祭「…ほう。知っておったか?」
宣教師「知らない筈がありません!あれは…人の手に渡ってはならない物でしょう!」
アリアス「残念だけれど、それが渡ってしまったのよ」
宣教師「村人に勧めた旅の人間は何者なんですか!」
司祭「分からん。ただ、どうやらお前さんの親しくしていたホビットを狙っとったらしいわい」
宣教師「…二人を?」
司祭「そやつはお前がホビットを匿った日に村に入り込んだようじゃ。
まさか村を担当していたお前が、そんなことにも気付かなんだとはな?」
宣教師「そ、そんな…私が来た時には誰も旅人の話など…」
司祭「それはそうじゃろう?村人たちはお前がホビットを匿ってる事を知っていたのじゃから、信用など失っておったに違いない」
宣教師「……」
905:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 18:39:05 ID:W53Y4Ns4ZQ
司祭「判断を誤ったな、宣教師よ?」
宣教師「私は…」
司祭「貴様がホビットなどにとらわれおった為に村はあのような有り様じゃ」
宣教師「……」
司祭「大臣に報告してみたが、やはり村ごと無かった事にしようと考えておる」
宣教師「村を焼き払うのですか…!」
司祭「うむ。臭いものにフタでもないが、小さな村の一つや二つはおざなりに片付けようというのが王国の粗末なところよな」
アリアス「クスクス…。ほんと、哀れよね。あなたがホビットに情をかけたせいで、大勢の村人が割りを喰うのだし?」
宣教師「…私の責任ではありますが、それとホビットとは話が別です。
どうか大臣を説得させていただけませんか?」
司祭「焦るでないわ。なんとかならぬ訳でもないんじゃぞ?」
宣教師「……」
司祭「ただしお前の心がけ次第じゃがな?」
宣教師「私に出来る事であれば…!」
司祭「殊勝なものよな。ならば王国に行く気はあるか?」
宣教師「王国…ですか?」
司祭「大臣がお前を連れていきたいと申し出ておる。無論、お前が良ければの話じゃがな?」
宣教師「大臣…!?」ゾワッ
アリアス「ありがたい話だと思わない?平民の生まれで…その上、孤児だったあなたが王国の土を踏めるのだから?」
宣教師「…で、ですが大臣に同行して何を…?」
司祭「知らんわい。まぁ…想像はつくがな」
アリアス「付いていく際に宣教師の位は剥奪されるけれど安心していいのよ。
あなた一人いなくなったところで我が教団に影響はないわ」
宣教師「…教徒をやめろと…!?」
アリアス「えぇ。どのみち位も必要なくなるでしょうし…」
宣教師「……!」ギリッ
906:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 18:43:21 ID:W53Y4Ns4ZQ
宣教師「要は…私を追い出したいのでしょう?」
司祭「何を言うとるんじゃ?」
宣教師「…昨晩は私も同じ席に着いてました。あの夜の話は覚えています」
司祭「ほほほ…。そういえばそうじゃったのう?」
宣教師「」キッ
司祭「ふむ…。とぼけてみるのも一興、か。じゃがはっきりと伝えてやるのもまた、親心というものじゃな?」
宣教師「昨晩の話を聞いてしまった私が邪魔になったのでしょう?」
司祭「邪魔になった?く…わっはっは!」
宣教師「…?」
司祭「そうかもしれんなぁ…。しかしお前さん、他にも心当たりがあるのではないか?」
宣教師「」ドキッ
司祭「なにを嗅ぎ回っておった?」
宣教師「(まさか…伝承について調べていたのがこんなにも早く…!)」
司祭「貴様らの不自然な行動をわしが知らぬとでも思うたか?」
宣教師「そ、それは…」
司祭「企みは読めんが、おそらく出し抜こうとでも考えておったのじゃろうが?」
宣教師「は…?出し抜く…?」
司祭「とぼけるのも大概にせい!」
宣教師「なにを言って……」
司祭「残念じゃ。残念でならんよ…。
お前には幸せをくれてやるつもりじゃった…。それがこのような結果になるとはな!」
宣教師「お、落ち着いてください!おっしゃってる意味が分かりません!」アセアセ
司祭「ふん…よくもまぁぬけぬけと……」
宣教師「…せめて一から説明してください。一方的で何も伝わりません」
907:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 18:52:00 ID:4FFRlwruXo
司祭「しらばっくれると言うなら、それもよかろうな?
ならば一つ、確かめておくとしよう…」
宣教師「ですから…何も隠してなどいません!」
アリアス「立食パーティーの時にジョーと神父から伺ったのだけれど、書斎でホビットについて調べていたそうね?」
宣教師「……!」
司祭「ホビットと決別すると誓ったお前がなにゆえ、そのような行動に出たのじゃ…?」
宣教師「そ、それは…」
司祭「…貴様、やはり何か知っておるな?」
宣教師「ご、誤解です…。私は何も知りません…」
司祭「これ以上は無駄じゃな…。核心に迫るとしようかのう?」
宣教師「っ…!」
司祭「貴様の目的は癒しの力であろうが?」
宣教師「…?ち、違いますよ?」キョトン
司祭「ただの情であそこまで執着するなどおかしいとは思っとったが…」
宣教師「だ、だから違いますって…」
司祭「察しの通りじゃよ。伝承などまやかしに過ぎぬ。そして…癒しの力とは人間を癒す為の力ではない」
宣教師「」ピクッ
司祭「貴様もアピシナの大樹を狙っておったとはな?小賢しい娘に育ったものよ?」
宣教師「(アピシナの樹…!確かカロルくんのお母さまが言っていたおとぎ話の…!?)」
司祭「お前がなにより大切じゃったよ。幸せにしてやりたかった…。
しかしいくらなんでも踏み込み過ぎたな?アレはわしの物じゃ…!」
宣教師「("わしの物"?大樹が"アピシナの樹"?"癒しの力"?)」
宣教師「(ダメ…ですね。頭が追い付きません…!)」
司祭「たとえお前でも…渡さんぞ。癒しの力を大樹に注ぐのは、このわしじゃ…!」
宣教師「癒しの力を…大樹に注ぐ…?」
司祭「これでも、まだ知らぬ存ぜぬを通すか?往生際の悪い奴めが…」
宣教師「(もしかしたら今の言葉が全てに繋がるのでは…!?)」
908:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 18:58:18 ID:W53Y4Ns4ZQ
アリアス「大臣は今夜にもここを発つわ。あなたを連れて、ね?」ニコッ
宣教師「お待ちください!私は本当に何も…!」
司祭「……アリアス」
アリアス「かしこまりました」ズイッ
宣教師「な、なにを……」
アリアス「…寂しがらなくてもいいのよ?」ボソリ
宣教師「……?」
アリアス「あなただけじゃない。あなたに協力してた二人も同様に報いを受けるわ?」ガシッ
宣教師「なっ…どういう…!」
アリアス「」グイッ ブンッ
宣教師「!?」フワッ
宣教師「(か、体が浮い…)」
ダンッ!!
宣教師「っ!」ズシン
アリアス「軽いのね…。若いのに粗食は良くないわよ?」パンッパンッ
宣教師「あっ…う…」プルプル
宣教師「」ガクッ
宣教師「」ピクッピクッ
司祭「さて…大臣に引き渡すとするかの?」
アリアス「かしこまりました」ガシッ
宣教師「」ズルズル
司祭「………」
司祭「……」
909:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 19:00:45 ID:W53Y4Ns4ZQ
―――大聖堂(地下牢)―――
カツンカツン カツンカツン
ジョー「…宣教師さんにああ言ってみたものの、どうにか助けられねぇもんかな?」カツンカツン
???「よう…待ってたぜ?」
ジョー「ん?えっ…あ、あぁ…!?」ビクッ
ダガ「ふ…仕事しなきゃなぁ…?なんせ罪人が檻の外にいるんだ…?」ニヤァ
ジョー「お、お前…どうして…!?」
ダガ「てめぇが留守の間にアリアスが出してくれたのさ…。
たかが見張りとはいえ…怠けるもんじゃねぇなぁ?」ニヤニヤ
ジョー「(な、なんだと…!あのおばさん、なに考えてんだ!?)」
ダガ「お楽しみの邪魔をしてくれるわ…猿轡を噛ますわ…てめぇにはさんざん世話になったよなぁ?」ポキポキ
ジョー「あう…あぁ…!」ガタガタ
ダガ「クックック!」ジリ…ジリ…
ジョー「(そういやマリーさんは…!?)」キョロキョロ
ダガ「どうした?なんか探しもんか?」
ジョー「あんた…マリーさんをどうしやがった!?」
ダガ「…クックック!てめぇが知る必要のねぇ事さ?
そんなことより…今は自分の身を心配したらどうだ?」グイッ
ジョー「うっ…くっ!」ググッ
ジョー「(な、何がどうなってやがる…!まさか伝承を暴いたのがバレたのか…!?)」ジタバタ
910:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 19:03:47 ID:W53Y4Ns4ZQ
―――大聖堂(大部屋)―――
神父「うぅ…ぎもぢわるい…」グッタリ
神父2「大丈夫か?」サスサス
神父「…す、すまん…」
コンコン コンコン
神父2「入っていいぞ」
神父「(む…?また見張りのバカか?こっちは体調が悪いと言うのに…!)」
ガチャッ
ダガ「邪魔するぜ…」ズカズカ
神父「えっ」
神父2「だ、ダガ様…牢に入れられてた筈じゃ…!?」
ダガ「」スタスタ
神父2「な、何を…」アセアセ
ダガ「てめぇに用はねぇ…よっ!!」ボゴッ
神父2「うげふっ!?」ガタァァァン
神父「え…?え…?」メダパニ
ダガ「ふ…鈍った体もだいぶほぐれてきたぜ。宣教師に協力してた神父ってのはてめぇだな?」ギロッ
神父「ひっ!?」ズザザッ
ダガ「聞きてぇことが山ほどあるそうだ…。とりあえず洗いざらい吐いてもらおうか?」ポキポキ
神父「ひ、ヒィィィィイイィィ!!?」
911:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/10(木) 21:31:47 ID:2vgJI.yb2c
―――大聖堂(東門)―――
大臣「娘は慎重に運ぶんだぞ!絶対に傷を付けるな!」
兵士1「はっ!」
兵士2「はっ!」
大臣「いやぁ…まさか本当に頂けるとは思ってもみませんでしたぞ!」
司祭「遠慮は入りませんぞ。どうぞ自由に扱ってくだされ?」
大臣「ぐふふ…!それはそれはありがたい。では遠慮なく!」ニシシシシ
司祭「そちらの求める物は差し出したのです。こちらの要件もどうか重んじていただきたい」
大臣「もちろんですともぉ〜?色好い返事をお待ちください…?」ニヤニヤ
司祭「(当たり前じゃ…。ここまでして音沙汰無しでは済ませられんぞ、豚め!)」
912:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/10(木) 21:35:33 ID:tx11JOcd52
アリアス「旅の疲れも抜け切れておられないかと存じますが…。
どうかお身体を気遣ってお帰りになられますようお願い申し上げます」ペコリ
バルガン「フッ!芸術的感性を膨らませるには悪くない場所だった。折が合えばまた立ち寄らせてもらおう」
アリアス「心よりお待ちしております」
バルガン「大臣が運ばせている…あの娘はなんだ?」
アリアス「あぁ。元は我が教団の教徒だったのですが…邪教に通じていたと分かりまして王国に裁きを願いました」
バルガン「薄布一枚被せたところで話は読めている。大臣への"土産"だろう?」
アリアス「…恐れ入ります」
バルガン「フッ!好きだなぁ、あの方も…昔からそうだが…」
アリアス「…事情に通じているのでしたら目を瞑っていただきたく存じます」
バルガン「なに…。どうという事もない。また哀れな女が増えた。それだけの話だ」
アリアス「?」
バルガン「あの方は狩猟を盛んに行っていてな。
我が屋敷に訪れては狩った獲物を自慢気に見せびらかしていたよ…」
アリアス「立場上、当然の嗜みではございませんか…?」
バルガン「そうとも言えんなぁ。なにせ芸術家である父上を頼り、それらを剥製にするのが趣味だったのだから…」
アリアス「別段、不自然とも思えませんが…」
バルガン「フッ…。あの方はな。狩猟を好まれてる訳ではない。剥製が好きなんだ」
アリアス「はぁ……?」
バルガン「今まで手を付けた女もな…。皆、キレイな姿のまま…大臣の屋敷に飾られているんだ」
アリアス「」ゾクッ
バルガン「いい表情だ…。創作意欲がそそられる…。その表情を土産に帰路に着くとしよう」
アリアス「(…ほんと、王国の人間は悪趣味ね…)」
913:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/10(木) 21:40:52 ID:2vgJI.yb2c
アントリア「短い間だったが濃密な時間を過ごせた。感謝するよ」
司祭「……」
アントリア「辛い選択をさせてしまったかな?君の為と考えていたんだが…」
司祭「…気にするでないわ。決断したのは、このわしじゃ」
アントリア「すまない…。だが君のもたらした犠牲は必ず先に通じるはずだ」
司祭「分かっておる。お前の言うように宣教師がわしらの目論見を読んで動いていたとするならば…全ての辻褄が合うからのう」
アントリア「昨晩、彼女と言葉を交わした時には驚かされた。
彼女の鋭い洞察力…。寒気すらしたよ」
司祭「ふむ…」
アントリア「そしてアリアス君に話を聞いて確信を得た。彼女はホビットではなく、癒しの力を狙っていたのだとね」
司祭「大臣に忍び寄ったのも…わしらの密談を聞くのに不自然でない状況を作る為という訳か」
アントリア「さぁ…?事実はどうあれ、可能性があるのなら排除しておくべきだと思ったのだよ」
司祭「…そうじゃな」
アントリア「…次に会うのは互いの念願を果たす時だ。今ですら君との再会が待ち遠しいよ、ノワール」
司祭「分かっておるよ、アントリア。もはや邪魔者はおらん」
アントリア「クックッ…実に楽しみだ。ではまた会う日まで」
司祭「うむ…」
914:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:36:36 ID:qcweGJ7Au2
―――大聖堂(地下牢)―――
「おい!起きろ!起きんか!?」
ジョー「……ん…」パチッ
ジョー「ぅん…んぅぅ……あたた…!」ズキズキ
ジョー「うおっ!なんだ、こりゃ!?動けねぇぞ!?」ギシギシ
神父「やっと起きたか!」
ジョー「…おっさん?あんた二日酔いで寝込んでたんじゃねぇのか?」
神父「知るか!突然ダガ様に襲われて連れてこられたかと思えば、このザマだ!」
ジョー「あぁ…あんたもか」
神父「それにしても…その顔はどうしたのだ?
もともと目も当てられんような顔が腫れ上がって更にひどい事になってるぞ?」
ジョー「うるせぇ!ダガの筋肉親父にやられたんだよ!」
神父「…一体どういう事だ?なぜあの方が牢を抜け出して……」
ジョー「抜け出したんじゃねーよ。アリアスが出したんだ」
神父「アリアス様が?」
ジョー「俺もよく知らねぇけどダガがそう言ってたんだよ」
神父「や、やはり色々調べ回っていたのがまずかったのだろうか?」アセアセ
ジョー「さぁな?それより他に誰かいないのか?」
神父「知らんぞ?ここには貴様と私だけしかおらん」
ジョー「…どうなってやがる」
915:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:38:12 ID:m1j4TaAkkU
カツンカツン カツンカツン
神父「だ、誰か来たぞ…?」ビクビク
ジョー「みてぇだな…」
アリアス「あら、ここにいたのね。探したのよ?」
ジョー「やっぱりあんたの差し金か…。白々しい小芝居打ってんじゃねぇよ、おばさん」
アリアス「…そんな所にいないであなたもいらっしゃい?」
ナラ「」トテトテ
ジョー「(あ、あの子は…!?)」
アリアス「ここで見ているのよ?」
ナラ「……」
神父「む?なぜナラが…?」
ジョー「知ってんのか?」
神父「私が教えていた修道子の一人だ。不出来な上に無愛想なので、あまり直接関わる事はしなかったがな」
カツンカツン カツンカツン
ジョー「(まだ誰か来るのか?)」
アリアス「……」ペコリ
ダガ「…こちらになります」スタスタ
司祭「うむ」スタスタ
神父「し、し…司祭様ぁぁぁぁ!?」
ジョー「(おいおい…いよいよただ事じゃなくなってきたな…!)」
916:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:41:00 ID:m1j4TaAkkU
アリアス「さぁて…何から聞きましょうか?」
ジョー「…なんの事だ?」
アリアス「とぼけても無駄よ?
宣教師に協力して調べていたのでしょう?」
神父「(や、やはりその件か…。あぁこんな事なら小僧の頼みなど聞いてやるんじゃなかった!)」
ジョー「知らないな。俺達はホビットについて調べてただけだ」
ダガ「てめぇら…素直に吐く気がねぇなら俺と遊んでみるか?」コキッコキッ
神父「ひぃぃ」ビクビク
司祭「ほっほっほ。そう脅してやるな?嘘は申しておらんよ」
ダガ「はっ…失礼しました」ペコリ
司祭「ホビットについて調べておったのじゃろう?何か手掛かりは得れたか?」
神父「め、滅相も…分からぬ事ばかりで…はい!」オロオロ
司祭「別に責めている訳ではないのじゃよ。
お前たちの知っている事を話してくれれば、それでよい」
ジョー「こんな真似しておいてよく言うぜ…」ボソッ
アリアス「口を慎みなさい?」
ダガ「ふ…。てめぇの立場が分からねぇようだな?」
神父「あ…いや…あの…こいつも悪気があって言っているのでは…」アセアセ
ジョー「あんたら、宣教師さんをどうした?」
神父「バ、バカモンッ!だだ黙ってろ!!」アタフタ
司祭「…宣教師、か。ふん…」
917:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:42:32 ID:m1j4TaAkkU
司祭「奴なら既にここにはおらんよ」
ジョー「なに!?どういう事だ!?」
アリアス「先ほど王国に引き渡したわ?」ニコリ
ジョー「んなっ…!なんだとぉ!?」ガバッ ギシギシ
神父「(ば、馬鹿な…!あれほど過保護に扱っていた宣教師を…)」
司祭「……」
神父「(司祭様は本気ということか…!?)」
ダガ「ふ…しかしてめぇらは運がいい」
ジョー「…なにぃ?」ジロッ
ダガ「今の内に喋ればこれまで通り、教団の人間として長生き出来るんだからなぁ?」
神父「そ、それは本当ですか!?」ギシギシ
司祭「うむ…。お前さん程の男を失うのは惜しいからのう?」
神父「し、司祭様…!」
ジョー「騙されんな、おっさん!こいつらが本気でそんなん言う訳ねーだろ!?」
神父「し、しかしだな…」
ジョー「よーく考えろ!あんたなんかを失ったとこで痛くも痒くもねぇに決まってんだろ!?」
神父「な、にゃにをうっ!貴様ぁぁ!!」
司祭「…神父よ、そやつに構うな。わしの言葉が信じられんのか?」
神父「は、はいっ!包み隠さず申し上げます!」
ジョー「おっさん!」
アリアス「ダガ…?」カチャカチャ ガチャッ
ダガ「おう、任せとけ…」ズイッ
ジョー「な、なんだよ?」ギシギシ
ダガ「おとなしくしてろよ…」グワシッ
ジョー「……!?」モガモガ
ジョー「(あ、顎が…!なんつー握力だよ…!)」ググッ
918:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:47:01 ID:m1j4TaAkkU
神父「……という訳です」
司祭「ふむ…やはり色々知っていたようじゃな」
アリアス「癒しの力の使い道までは辿り着いていないようですが…」
司祭「…こやつらは利用されとったのじゃろう。秘密を共有する事で協力せざるを得ん状況を作ったに違いない」
アリアス「なるほど、あくまで独占するつもりだったのですね。したたかな娘…」
神父「…わ、私はあくまでも巻き込まれただけなのです!」
アリアス「ダガ?」
ダガ「あぁ…」パッ
ジョー「う……」ゲホッゲホッ
ダガ「」ガシッ
神父「…あ、頭など掴んで何を?」キョトン
ダガ「教えてやるよ…」グッ
神父「は……」
ゴキィッ
神父「」プラーン
ナラ「……!」
ダガ「ふ…いい音がしたなぁ?」ニヤリ
ジョー「あ、あんた…何してんだっ!?」ギョギョッ
ダガ「」ガシッ
ジョー「ひっ…や、やめ…」ジタバタ
アリアス「待って」
ダガ「あぁ?」
919:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 22:01:38 ID:m1j4TaAkkU
アリアス「あなた…最期に何か言い残したい事はある?」
ジョー「え…?」ブルブル
アリアス「」クスリ
ジョー「(くそっ…!こいつ、笑いやがった!俺が泣きわめいて命乞いするとでも思ってんだな!?)」
アリアス「どうしたの?恐怖に凍って言葉が出ないのかしら?」
ジョー「(冷血オバタリアンが…!こうなりゃヤケだ!)」
ジョー「…し、司祭様!」
司祭「なんじゃ?」
ジョー「どうせだったら教えてくれよ!あんたらの目的はなんだったんだ!?」
司祭「……」
ジョー「俺達は何も知らねぇのに、ただ死ねなんて都合が良すぎるだろ!?」
司祭「ふむ…。それもそうじゃな?」
司祭「いいじゃろう。あの世に着いたら神父にも教えてやるがいい?」
ジョー「……!」
司祭「枯れた大樹を再び蘇らせ、実を付ける…。それがわしの目的じゃよ」
ジョー「枯れた大樹を蘇らせるだと?」
司祭「伝承にある大樹とはアピシナの樹と言ってな…。かつてホビットが育てていた物なのじゃよ」
ジョー「(…おとぎ話じゃなかったのかよ)」
司祭「奴らがその樹をどのようにして天高くまで聳えさせたと思う?」
ジョー「俺に分かる訳ねぇだろ。作物は育てても樹なんか世話した事もねぇんだ」
司祭「癒しの力じゃよ。癒しの力を樹に注ぐ事で大樹にまで成長させたのじゃ」
ジョー「……!」
司祭「力をたっぷりと注がれた樹から成る実は…素晴らしく潤った癒しの力そのものよ」
司祭「その実をかじればたちまちの内に傷は癒え、大病を患い濁った体をも浄化する…。
老いて萎れても実の効能に掛かればあっという間に若返るそうな……」
司祭「そして極限まで力の染み込んだ実は…永遠の命をもたらすとまで言われておる」
920:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 22:06:56 ID:m1j4TaAkkU
ジョー「そ、そんな嘘臭い迷信を…信じてんのか?」
司祭「なぜ嘘だと言える?」
ジョー「いや、どう考えたってありえねぇだろ…」
司祭「伝承の通り、ホビットが育てたとされる大樹は存在し、癒しの力も手に入れた…。
それでもなお、お前さんはあり得ぬと言うのか?」
ジョー「……」
司祭「この世は可能性に満ちておる。手の届かぬ物であれ、そこに手を伸ばすだけでも自ずと広がるものじゃよ…。
賢いふりをし、バカを見る者は大勢いるが…好奇心こそが人間の最大の強みだということを忘れてはならん」
ジョー「それで…その秘密に近付いた宣教師さんを…消したってのか…?」
司祭「…そうじゃ」
ジョー「じ、実の娘のように思ってるってのは…嘘だったのかよ!」
司祭「……」
ダガ「こんな時に他人の話か…?これだから偽善者って奴は…」グググッ
ジョー「あ、ぐっ…!」ギリギリ
司祭「やめい!」
ダガ「…失礼しました」パッ
ジョー「はぁっはぁっ」
司祭「愛しておったよ…。あやつは紛れもなくわしの娘じゃった…」
921:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 22:09:11 ID:m1j4TaAkkU
ジョー「…ほ、本当に親子だったって言うんじゃないだろうな?」
司祭「血は繋がらずとも…わしにとっては大事な娘だ」
ジョー「……」
司祭「じゃが…わしを謀ろうというのなら容赦はせん!!」
ジョー「癒しの力を狙ってるなんて…宣教師さんは一言も言ってなかったぜ?」
司祭「それはお前と神父が利用されておったからじゃろう。哀れでならんよ」
ジョー「違うな!あの人は誰かを騙すような人じゃねぇ!
本気で差別を嘆いて…あの親子を助けようとしてただけだ!」
司祭「ふん…貴様ごときに何が分かる…?」
ジョー「分かるさ!あんたより付き合いも短かったけどな!
親代わりだったあんたがそんな事も分からなかったのかよ!?」
ジョー「癒しの力がなんだか知らねぇが!てめぇの欲に目がくらんで的外れな事ばっかしてんじゃねぇよ!!」
司祭「……!」ギリッ
ジョー「けっ!あんたも王国も変わらないぜ?目の前の果実にかぶり付いたケダモノだ!」
司祭「ぐ…くく…!」ワナワナ
ダガ「生意気言ってんじゃねぇぞ、ガキが…!」ガシッ
ジョー「ちっ…!」
アリアス「…もういいでしょ。さようなら」
ジョー「ちくしょう…!ちくしょーーー!!!」
ゴキィッ
922:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 22:15:16 ID:m1j4TaAkkU
ジョー「」プラーン
ナラ「あ……う…」
司祭「くだらん時を過ごしたな…。戻るぞ?」スタスタ
ダガ「はっ!」スタスタ
カツンカツン カツンカツン………
ナラ「……」
アリアス「…ナラ」
ナラ「」ビクッ
アリアス「あなた、さっき私になんて言ったか覚えてる?」
ナラ「」ブルブル
アリアス「『カロルは友達だから騙したくない』そう言ってたわよね?」
ナラ「は、い…」
アリアス「あの罪人達はホビットに心を許した愚かな人間…。その末路がこれなのよ?」
ナラ「……」
アリアス「あなたもホビットに心を許してああなりたい?」
ナラ「いやっ…いやです!」ブンブン
アリアス「そう…。それなら分かってくれるわね?」
ナラ「」コクコク
アリアス「…私は後片付けがあるから先に部屋に戻りなさい。夜更かしは女の敵よ?」ニコリ
ナラ「」タタタッ
カツンカツン カツンカツン
アリアス「……」
――――――
ナラ「うっ…うっ…」ポロポロ
ナラ「(ごめん…。カロル…わたし…やっぱり、できない…。じぶんのきもち…したがえない)」ポロポロ
923:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:39:49 ID:hHymL3JH/Y
―――村―――
ザシュッ ドバッ
村人1「」ドサッ
兵士長「…よし、火を放て!」
兵士1「はっ!」ボッ
パチパチ ゴォォォ
大臣「タイマが御禁制だと知らない訳でもないでしょうに…愚かな田舎者達だ…」
大臣「それにしてもひどい匂いですねぇ…。下劣な田舎者はこんな臭い空気の中でしか生きていけないのでしょうか?」
兵士長「報告致します!奥の民家から村長と思わしき死体を発見しました。
妻と思われる女と首を括っているあたり、おそらく心中したのでしょう」
大臣「無責任な方ですなぁ?苦しむ村人達を放って逝かれるとは呆れて物も言えませんよぉ?」
兵士1「あらかた片付いたものと思われます!いかが致しましょう!」
兵士長「周りに燃え移らぬよう、事前に草木は刈り取ってあります。陽が昇る頃には全て焼けていましょう」
大臣「ゴホッゴホッ…で、では帰るとしますか。ここにいてはむせてしょうがない…」ゲホッゲホッ
兵士長「はっ!帰還するぞ!全兵を呼び戻せ!」
兵士1「はっ!」
大臣「(ぐふふ…!土産もある事ですしねぇ。早く戻ってたっぷりと楽しまねば…!)」ニシシシシ
924:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:42:07 ID:hHymL3JH/Y
―――馬車1―――
パカラッパカラッ
アントリア「済みましたか?」
大臣「はいはい。まっさらにしておきましたよ」
アントリア「相変わらず容赦を知らないお方だ。あそこまでするからには余程の罪があったのだろうね?」
大臣「さぁて…大麻の使用とホビットとの内通。
まぁこれといって大きな罪は見当たりませんが、わざわざ司法の下に裁くのも面倒だったんで片付けておきましたよ」
アントリア「……」
大臣「それはもう赤々と焼けて眼にも鮮やかな光景でしたぞ?神官にも見せて差し上げたかった!」
アントリア「遠慮しておきましょう。焦げた匂いはなかなか取れませんからね。
僕の教会に足を運ぶ迷える子羊達に不信感を与えたくはありません」
大臣「それは残念ですなぁ…」
アントリア「……」
大臣「それにしても…世に悪の種は尽きまじとはよく言ったもので…。
あのような辺境の村まで毒されるようではどれ程に洗い流そうとキリがない」
アントリア「…そんな時代はもうじき終わりを告げますよ」
大臣「え?」
アントリア「いえ、失敬。聞き流してください…」
大臣「?」
925:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:43:56 ID:hHymL3JH/Y
―――馬車2―――
宣教師「」スヤスヤ
バルガン「……」ジーッ
兵士3「な、なりませんぞ、卿!その娘は大臣の……」
バルガン「邪推するな。ただ眺めていただけだ」
兵士3「は、はぁ」
宣教師「ん…んぅ……」モゾモゾ
バルガン「フッ…この娘の裸絵など書いてみるのも悪くはなさそうだ」
兵士3「な、何をおっしゃって……」
バルガン「神に仕える清らかな美女の生まれたままの姿…なかなか良いとは思わんか?」
兵士3「ご、ご冗談を…そんな真似をなされば大臣のお叱りを受けますぞ」
バルガン「あられもないサマでもいい。いや、むしろその方が背徳的で艶やかさも増すだろうな?」
兵士3「…ど、どうか慎重なご判断を」
バルガン「大臣は芸術に理解あるお方だ。願い出れば即座に叶うさ」
兵士3「で、ではそのようになさればよろしいかと」
バルガン「イマイチ乗り気ではないな?貴様も見ろ、この金糸の如く輝き、靡く柔らかな髪…。
やや幼い顔立ちではあるが躯は健康そのもので、よく育っている」
兵士3「確かに…ですが女性絡みで大臣のよい噂は聞きません。触らぬ神に…と言いますし」
バルガン「フッ…肝の小さい男だ?それでよくも私の護衛が務まるな?」
兵士3「なんとでもお言いください…」
926:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:47:25 ID:hHymL3JH/Y
宣教師「」ポロッ
兵士3「何か落とされましたな?」
バルガン「……?」ヒョイッ
兵士3「…紙、ですかな?」
バルガン「いや、これは絵だな…」
兵士3「絵…ですか?」
バルガン「……」マジマジ
兵士3「どうされました?」
バルガン「この絵はこいつが描いた物か?」
兵士3「は…?さ、さぁ?どうなんでしょう?」
バルガン「……」
兵士3「卿?」
バルガン「見てみろ」つ【絵】
兵士3「は、はぁ…?へぇ!これは上手ですなぁ?」
バルガン「まるでこちらにまで息遣いが聴こえそうな程の見事な写生だ…」ギリッ
兵士3「王都の芸術家において五指にも数えられる卿がお認めになるのでしたら素晴らしい出来なんでしょうな!」
バルガン「私が認めたから素晴らしいだと?バカにしているのか!?」
兵士3「えっ」
バルガン「これは私の創造してきた…どの絵画にも勝る代物だ!」
兵士3「い、いや…まさかぁ?そんなこと……」
バルガン「許せん…!」ギリッ
宣教師「」スヤスヤ
バルガン「この絵を描いたのがこいつだとするならば…今すぐに!」スラッ
兵士3「ちょちょっ!落ち着いて!こんな狭い馬車の中で剣など振り回しては危険です!」アタフタ
宣教師「……」パチッ
927:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:50:24 ID:ioWP3.zHhw
宣教師「……?」ゴシゴシ
バルガン「目を覚ましたか、ちょうどいい!」ジャキッ
兵士3「よくありませんよ!あぁもうなんでこうややこしい時に…!」
宣教師「」ハッ
バルガン「ん!?」ピクッ
宣教師「ここは!?ここはどこですか!?」ガバッ
バルガン「黙れ!」チャキッ
宣教師「わっ!?危ないじゃないですか!?」ビクッ
バルガン「私の質問に答えろ。さもなくば……」ジャキッ
宣教師「し、質問…!?」
バルガン「この絵を描いたのは誰だ!?」つ【絵】
宣教師「あ、なぜそれを!どなたか存じ上げませんが他人の私物を勝手に取らないでください!」バッ
バルガン「ど、どなたか存じ上げない…だとぉ!?」ワナワナ
兵士3「き、貴様!卿に対してその口の聞き方はなんだ!?」
宣教師「卿?ということは貴族…ですか?くだらない…」
バルガン「フッ…クックックッ!い、いいだろう?そんなに死にたいのなら思い通りにしてやる!」バッ
兵士3「お、おやめください!いけません!いけませんよ!」ガシッ
バルガン「邪魔をするなぁ!!」ジタバタ
宣教師「貴族を名乗る割には随分と野蛮ですね…」
バルガン「……!」プルプル
928:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:54:29 ID:hHymL3JH/Y
バルガン「殺す前に聞いておいてやろう…!その絵を描いたのは貴様か!?」
宣教師「殺されるのはイヤですが答えましょうか。私ではないですよ?」
バルガン「…や、やはりな。貴様にこの絵が描ける訳がない!」
兵士3「ならば誰が描いたんだ!」
宣教師「私の友達です。友情の証にとプレゼントしてくれました」
バルガン「…誰だ、そいつは?さぞ高名な画家なんだろうな?」
宣教師「いえ、画家ではありませんよ。ホビットの少年です」
バルガン「ホビット?ホビットだとぉ!?」ガバッ
兵士3「ま、まさか貴様はホビットに通じているのか!万死に値する罪……」
バルガン「そんなことはどうでもいい!!」ダンッ
兵士3「ひっ!お、おやめください!傾いてしまいます!」グラグラ
バルガン「ホビット…たかがホビットがこの私をも凌ぐ才能を持っているというのか…!?」ギリギリ
兵士3「卿、お気を確かに!」
宣教師「……」
929:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 19:00:16 ID:ioWP3.zHhw
宣教師「私の番です。ここはどこですか?」
兵士3「言うまでもない。王国へ帰る馬車の中だ」
宣教師「……」
兵士3「教団側に頼まれたんだよ。罪人の処罰を王国に一任するとな」
宣教師「そういう事にしておきましょうか。ですが私の行き先は大臣に沿うのでは?」
兵士3「あ、あぁ。そうだ」プイッ
宣教師「ふむふむ。大臣のいない馬車に乗せられたのは幸いでした。
今の私はおそらく積み荷扱い、つまりあなた達は大臣の許可なく私に手出し出来ないんですよね?」
兵士3「くっ」
宣教師「交渉しませんか?」
兵士3「交渉だと?元教徒ごときが図に乗るなよ!?」
宣教師「あなたではありません。卿に言っているのです」
兵士3「なっ!」
宣教師「どうですか?」
バルガン「わ、私がホビットに劣るだと…!?あり得ない…あっていい筈がない…!」ブツブツ
宣教師「卿?」
バルガン「いや、待てよ…?この才能を私の物に出来れば…!」ブツブツ
宣教師「…もし協力してくださるのでしたら私も出来る限りの見返りを用意します」
バルガン「見返り…?」
宣教師「えぇ。私に出来る事であれば応じますが?」
兵士3「バカにするな!卿が貴様などに……」
バルガン「いいだろう…」
兵士3「えっ」
930:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 19:07:43 ID:ioWP3.zHhw
兵士3「き、卿!お気を確かに!この娘は我々を利用しようと…」
バルガン「フッ…笑わせるな、こんな小娘に踊らされるものか?」
宣教師「…特別難しいことを頼む気はありません。安心してください」
バルガン「なんでも言ってみろ…。ただし、貴様の申し出を聞き入れる代わりにその絵を描いたホビットの居どころを吐いてもらうぞ?」
宣教師「そんなことを聞いてどうするつもりですか?」
バルガン「…関係あるまい?貴様の要件とはなんだ?」
宣教師「実は今、大臣と司祭様がある催しを企画しています」
バルガン「大臣と司祭が?布教を兼ねた講演会でも開くのか?」
宣教師「その内容はホビットに関するもので…じきに卿のお耳にも入ると思います」
バルガン「…で?」
宣教師「…その催しを知らされたら私に招待状を送っていただきたいのです」
バルガン「……?」
宣教師「いかがですか?」
バルガン「構わんが…」
宣教師「ではお願い致します」ペコッ
バルガン「(バカな女だ…。その頃には大臣の屋敷の飾り物になっているとも知らずに…)」
931:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 19:23:25 ID:hHymL3JH/Y
バルガン「…次はこちらの要件だな。ホビットの居どころを教えろ?」
宣教師「……」
兵士3「どうした?答えろとおっしゃっているだろ?」
宣教師「今は言えません」
バルガン「なに?」ピクッ
宣教師「招待状が届いたのを確認してから教えます。それまでは……」
バルガン「バカにしているのか?」ジャキッ
宣教師「いえ、真剣ですよ?」
バルガン「そうか、なら…この一方的な条件はなんだぁ!!俺を誰だと思っているぅ!?」
宣教師「…互いに平等な条件にしたとしてあなたが約束を守ってくださるとは到底思えません」
バルガン「……!」
宣教師「それに先程も言いましたが、今の私は大臣の積み荷です。あなた方は手を出せない」
バルガン「ぐ、ぐ…!」ワナワナ
宣教師「分かったのなら剣を鞘に納めなさい」
バルガン「…ぬぅ……」チンッ
宣教師「そして最後に言わせていただくなら…あなたがすんなり私の条件を飲む事そのものが不自然でなりません。
これは推測ですが…大臣の下で私になんらかの影響が…最悪の場合、死に直結する何かがあると分かっていたからではないですか?」
バルガン「……!」
宣教師「あなたのような汚い人間の考えなど見え透いています。カロ…ホビットとの出逢いで人の醜さは存分に学びましたから」
バルガン「…なるほど、大臣のお眼鏡に叶う訳だ。だがそれでも一方的だとは思わんか?」
宣教師「…思いませんね。これでもまだ譲歩しているくらいです」
バルガン「フッ…この条件を私が飲んだ場合、催しが知らされる日まで貴様の命を保証してやらなければならないのか」
兵士3「卿!こんな条件を飲むべきではありませんぞ!」
バルガン「いや、喜んで飲もう」
兵士3「えぇ!?」
932:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 19:36:28 ID:hHymL3JH/Y
バルガン「それでその絵を描いたホビットが手に入るのなら安いものだ?」
兵士3「な、何を言ってるんです!ホビットの代わりなどいくらでも……」
バルガン「分かっておらんなぁ?私はホビットではなく、才能が欲しいんだよ」
兵士3「はぁ?」チンプンカンプン
宣教師「おおよその見当は付いてます。察するに影を欲しているのでしょう?」
バルガン「」ニヤァァ
兵士3「影?」
宣教師「影に作品を創らせ、あたかも自分が創ったかのように展示すれば影が浴びるべき脚光は自身へともたらされます」
バルガン「まぁそんなところだ。ホビットとはいえ表に姿を出さなければ、なんら問題はない」
バルガン「私の影として利用させてもらうよ…。これほどの写生が可能な腕ならば…歴史に名を残す一作が生まれてもおかしくはない」
宣教師「どうぞ、お好きなように。条件に従っていただけるのでしたら私から言う事はありません」
兵士3「き、卿!貴方はとんでもない事をしようとしているんですぞ!?それに芸術家としての誇りはないのですか!?」
バルガン「芸術家の誇りは名声あってこそのモノだ。王都の芸術に携わる者はみんなやっているさ」
兵士3「そ、そういう問題では…」
バルガン「私の名さえ知れればいい。国の意向など知ったことか」
宣教師「交渉成立ですね」ニコッ
宣教師「(厄介払い出来たとお思いでしょうが大間違いです…。私は諦めない。絶対に親子を救ってみせる!)」
933:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:34:03 ID:Qd7LFFvBs.
〜〜〜夢(ルーボイ)〜〜〜
―――村―――
メラメラ メラメラ
ルーボイ「うっ…あぐっ……!」タタタッ
ルーボイ「かはっ…はぁっ」
ルーボイ「(息…できねぇっ…!)」
ルーボイ「(母ちゃん…どこ…!?)」
ルーボイ「(なんで…こんな……)」フラッ
ルーボイ「」ドタッ
ルーボイ「っ…ふっ…ふぅ…」ズルズル
ルーボイ「(イヤだ…!もう…)」スクッ
ルーボイ「(父ちゃんも…パッチもいなくなって…母ちゃんもいなくなるなんて…イヤだ!)」タタタッ
テパ「あぁぁぁあぁぁぎゃああぁああ!!!」ボォォォォオ
ルーボイ「て…ぱ…にいちゃ…?」ビクッ
テパ「ひやあああああああ!!!」ゴロゴロ
ルーボイ「……!」
テパ「あちいぃぃぃぃ!!!あちいぃぃぃぃよぉぉぉぉ!!!?」ゴロゴロ
ルーボイ「(…ゴメン!ゴメン!)」タタタッ
ギャアアアアアアア
934:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:35:15 ID:2.YmjrSCgk
―――民家―――
ルーボイ「はぁっ…はぁっ…」ガチャッ
ルーボイ「よ、よかった…!まだ燃えてない!」
ルーボイ「母ちゃん!母ちゃん!」スタスタ
ルーボイ「どこだよー!母ちゃ…」ドンッ
ルーボイ「…なんかにぶつかっ……」チラッ
死体「」
ルーボイ「うわあ!?」ズザァッ
ルーボイ「(いつも叱られたおっちゃんだ…。な、なんで…)」ビクビク
ルーボイ「」ハッ
ルーボイ「母ちゃん!母ちゃーん!」タタタッ
ガチャッ
935:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:36:26 ID:2.YmjrSCgk
―――ルーボイの部屋―――
ルーボイ「……母ちゃん?」
死体「」
ルーボイ「母ちゃん…なの?」ヒシッ
死体「」
ルーボイ「……」ギュッ
ルーボイ「なんだよ…なんなんだよ…!」ギュゥゥゥ
ルーボイ「なんでみんな…いなくなんだよぉ…!」ポロポロ
ルーボイ「あぁぁ…う…あぁぁぁ!」ポロポロ
『あいつのせいさ?』
ルーボイ「えっ」バッ
ルーボイ「(だ、誰も…いない)」キョロキョロ
『何度でも言うよ〜?あいつが悪いのさ?』
ルーボイ「あ、あ…!た、旅人の…!?し、死んだんじゃ……」
『あいつが来たから全部おかしくなったんだよ!』
ルーボイ「ぱ、パッチ…!?」
『あんたはほんとにしょうがないね!さんざんホビットと関わるなって口酸っぱく言ってきただろ!』
ルーボイ「か、母ちゃん!!」ガバッ
死体「」
ルーボイ「母…ちゃん?」
ボォォォォオ
936:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:41:33 ID:2.YmjrSCgk
『はい、ここで問題。あいつってだーれだ?』
ルーボイ「(なんだよ、これ…わけわかんねぇよ)」
『決まってるでしょ?あいつはあいつさ!』
ルーボイ「…うるせぇ」
『あたし達を不幸にしたあいつよ!』
ルーボイ「やめろよ!俺にどうしろって言うんだよ…!」
『おやまぁ〜?これだけヒントを出してもピンとこないかね?』
『ホントは気付いてるクセに』
『あいつが来るまで村もみんなも平和だった!あたしらもあんたもあいつに貶められたんだ!』
ルーボイ「やだよ…。やめろよ…聞きたくない!」ブンブン
『残念!それが出来ないんだなぁ〜?なんせ、この声はルーボイくん、君の意思だからねぇ?』
『君が自分で言えないから、ボクらが代わりに言ってあげてるんだよ』
『元はと言えばあんたがあいつを友達だなんて言い出したから!』
ルーボイ「わりぃかよ!あいつは俺の友達だ!」
『ところがどっこい、君の心の奥の奥の本当の所を除いてみると〜?あら不思議、大事な友達を否定してました〜?』
ルーボイ「ちがあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ブンブン
937:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:44:17 ID:2.YmjrSCgk
『許せないとは思わないか?いや、思うからこそ君には聴こえるんだろう?』
『あいつを受け入れたのはルーボイくんだもんね?』
『自分勝手だね!あんたもあいつも!目の前のあたしの顔を見てごらん!?』
死体「」ズルッ ボトッ
ルーボイ「ひいっ!」パッ
『あいつとあんたがあたしをこんな目に合わせた!』
ゴォォォォオ
ルーボイ「ひっ…火が…!」
『おっとっと、早く逃げないと大変だぁ〜?』
『逃げて。それで…ボクらの恨みを晴らしてよ?』
『あんたはやればできる子だから、分かってくれるでしょう?』
ルーボイ「」ガタガタ
ルーボイ「(全部…俺が悪いのかよ…)」ブルブル
『違う。悪いのはあいつさ』
『あいつがいけないんだ!』
『あいつがいなかったら!』
ルーボイ「…お、おれ」
『蔑むんだ?君が俺にしたようにねぇ?』
『怒ってよ。君がボクにしたみたいに』
『あいつの話なんか聞くんじゃないよ。あんたはあたしにそうしたんだから!』
ルーボイ「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」
ガラガラガラッ!! ボォォォォオォォ!!!
938:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/10(日) 20:49:47 ID:2.YmjrSCgk
―――教会―――
ルーボイ「うわあぁぁぁぁぁ!?」ガバッ
カロル「ルーボイくん!」ダキッ
ルーボイ「うおっ…ちょ!」ビックリ
カロル「よかった…!ホントによかった!」ギュゥゥゥ
ルーボイ「……!?」
母「気が付いたのね?あなた、三日も寝てたのよ?」
ルーボイ「ど、どこ…?」
母「ここは教会よ。宣教師様もいるわ?」
ルーボイ「えっ!?」バッ
カロル「ほら、そこにいるよ?」
宣教師「久しぶりですね。ルーボイくん?」ニコッ
ルーボイ「せ、宣教師様…宣教師様ぁぁ!!」ダキッ
宣教師「…よしよし、怖かったでしょう?もう何も心配は入りませんからね?」ナデナデ
カロル「すごい火傷してたんだよ?ボク心配したんだから?」
母「ルーボイくん…ここで一緒に静かに暮らしましょ?」ニコリ
ルーボイ「え……」
宣教師「それは名案ですね?そうすればもう悪い夢にうなされずに済みますよ」
マルク「わんっ」シッポフリフリ
ルーボイ「お、おれ…」モジモジ
カロル「ボクたち家族になるんだよ!」
ルーボイ「……!」
ルーボイ「おれ…おれ…みんなといたい。家族に…なりたい!」
カロル「えへへ!これからはずーっと一緒だよ?」ニコニコ
ルーボイ「うん…うん!ずーっと…ずーっと一緒にいような!」パァァ
………………
939:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 08:31:13 ID:lBZMgJx./k
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「よしよし」ナデナデ
マルク「クゥーン」シッポフリフリ
カロル「ごめんね、毛繕いしてあげたいけど櫛が無いんだ?」ナデナデ
マルク「」スリスリ
カロル「…ふふ。こうしてると3人で暮らしてた頃を思い出すね」ナデナデ
マルク「……」シュン
カロル「…そんな顔しないで?」
マルク「くぅん」
カロル「後悔なんてしてないよ。
宣教師さまにルーボイくんとパッチくん、ラムくんにナラ…みんな大切な出会いだったから」ニコッ
マルク「」クイッ クイッ
カロル「うん、そうだね。マルクは一番の親友だよ?」ニコニコ
マルク「あんっ!」ニコリ
940:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 08:34:38 ID:3wYAsB3RjM
ガチャッ
カロル「おはよう」ニコッ
ナラ「……」
カロル「…どうしたの?」
ナラ「なんでも…ない」
カロル「顔が真っ青だよ?何かあったんじゃ…」
ナラ「へ、へいき…それより、あさごはん…もってきたよ?」コトッ
カロル「……」ジーッ
ナラ「な、なに…?」
カロル「やっぱり休んだ方がいいよ。ボクのことは気にしないで?」
ナラ「…へ、へいき。わたしはふつうだよ」アセアセ
カロル「じゃあ気休めかもしれないけど…」ナデナデ
ナラ「……!」フワッ
ナラ「え…あ…」
カロル「はい、少しは楽になったかな?」パッ
ナラ「う、うん…。あたま…なでられたら、からだがかるくなった…よ!」スッキリ
カロル「ふふ。よかった!」ニコニコ
ナラ「いまの…いやしのちから、なの?」
カロル「そうみたい?結構、便利な力だね?」ニコニコ
ナラ「う、うん…そうだね」プイッ
941:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 08:56:37 ID:3wYAsB3RjM
〜〜〜1週間後〜〜〜
―――大聖堂(礼拝堂)―――
ワイワイガヤガヤ
司祭「…そろそろ始めるとするかの」
アリアス「はい。すでに皆集まっています」
司祭「ふむ…。皆の者、早朝からご苦労じゃの」
全教徒「」シャキッ ペコッ
司祭「…また今日という1日を授かった幸運に感謝し、祈りを捧げよう」ギュッ
アリアス「黙祷!」ギュッ
全教徒「」ギュッ
シーン
司祭「……では解散してよいぞ」パッ
アリアス「解散!」パッパッ
ワイワイガヤガヤ
司祭「ふぅ…しかし何十年続けても疲れるわい。宗教の真似事というのは」
アリアス「お察しします。ですがそれも今しばらくのご辛抱ですわ?」
司祭「それもそうじゃが…まぁよいわ。小僧はどうしとる?」
アリアス「ご安心を。うまく管理してあります」
司祭「そうか…。王国から返事は来たか?」
アリアス「えぇ。明日にも迎えの馬車が来るそうですよ」
司祭「ふむ…ようやくか。待たせおってからに…」
アリアス「例の母親はどうします?連れていきますか?」
司祭「…どうしておる?」
アリアス「体調が悪化していたのでシスター達に看させて安静にしてありますが」
司祭「では連れていくとするかの。いざという時の切り札になろうて」
アリアス「かしこまりました」ペコリ
942:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 14:59:47 ID:sEfoXHz.V2
―――夢(ラム)―――
村人「ようこそ、旅のお方。ここは平和なアルの村です」
旅人「ちっぽけで何もない、ナイの村の間違いじゃないのかね?」
村人「ご冗談を。ちっぽけで何もないつまらなさこそがアルの村の財産なのです」
旅人「なるほど、平和な訳だ?」
村人「アルの村はおおらかです。歓迎しましょう。旅のお方」
旅人「それはどうも?」
村人「どうか私の家に来てください。外の人間の話が聞きたいのです」
旅人「見ず知らずの人間を招いていいのかね?ご家族が困るんじゃないか?」
村人「お気になさらず。私の家内は気さくです。
あなたが来ればカボチャのスープを暖めて迎えてくれる事でしょう」
旅人「ありがたいね。空腹を連れて旅をするのにも嫌気が差してたとこだ」
村人「それに私の娘はとても素直です。あなたの来訪に喜び、シュルグの花を摘みに行く事でしょう」
旅人「居心地が良さそうでなによりだ。俺の話が宿賃になるんなら何日でも聞かせよう」
村人「とても楽しみです」
943:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:03:36 ID:sEfoXHz.V2
旅人「素晴らしいもてなしだ。暖かいスープをたらふくいただいたおかげか、生き返った心地だよ?」
村人の妻「お気に召してもらえたようで良かった」ニコニコ
旅人「こんな美味しい手料理を毎日食べられるのだからご主人は幸せ者だねぇ」
村人「自慢の家内です」ニコニコ
ガチャッ
少女「ただいまー!」
村人の妻「おかえりなさい。今日はお客様がお見えになってるわよ」
少女「ほんと!?それなら野原に行ってお花を摘んでこなくちゃ!」
旅人「おやおや、かわいらしい娘さんだ?」
少女「こんにちは。旅のお方!今から花を摘んでくるから待っててね!」ガチャッ
旅人「せっかくだが花はまた今度受け取ろうか。帰ってきたばかりなんだからお嬢ちゃんも一緒に夕飯を食べよう?」
少女「はーい!じゃあ花は明日摘んでくるわね?」
村人の妻「さぁさ、手を洗って、おいしいスープをいただきましょう」
旅人「聞いてた通り、素直なお嬢ちゃんですな?」
村人「自慢の娘です」ニコニコ
944:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:05:49 ID:sEfoXHz.V2
少女「今日はみんなと石をぶつけて遊んだよ!」
村人の妻「またあの子に近付いたの?ダメだと言ってるのに!」
村人「えらいな!」ナデナデ
少女「うふふ」ニコニコ
村人の妻「あなたがそうやって甘やかすから…」
村人「悪いことをしてないなら叱る理由もないだろ」
少女「明日はなにして遊ぼっかな」
旅人「あぁ〜。俺の聞き間違いかな?すごく違和感を覚えるんだが?」
村人「なぜ違和感を覚えるのです?」
旅人「平和な村にあるまじき会話としか思えないね。誰かをいじめる内容にしか聞こえないんだ」
村人「アルの村ではごく普通の平和な日常です」
旅人「あぁ…じゃあこうしよう?たとえば俺がお嬢ちゃんの髪を引っ張ったらどうするね?」
村人の妻「まぁひどい!」
少女「」ビクビク
村人「旅のお方!ここは平和なアルの村!乱暴はいけません!」
旅人「(なに言ってんだ、こいつら)」
945:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:07:55 ID:sEfoXHz.V2
村人の妻「旅のお方の為に部屋を用意しました。今晩はここで休んでください」
旅人「…俺にはもったいない部屋だ。恩に切るよ」
村人の妻「いえいえ、おやすみなさい。どうかよい夢を見られますよう」バタンッ
旅人「……」
旅人「」ボスンッ
旅人「ふぅ…こんなばか正直な村に出会えて幸運だったな。今夜はよく眠れそうだ」ゴロン
旅人「(…しかし変わってるな。口調もそうだが何より…)」
旅人「あの会話はなんだったんだろうねぇ?まったく不思議な連中だ」
旅人「」ゴロゴロ
旅人「ふぅ…」
旅人「少し散歩でもしてみるか」スクッ
946:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:09:59 ID:5VD59INVTw
旅人「」スタスタ
旅人「何もないねぇ。灯りもないし視界も悪い。
酒場の一つもあればと思ったが…こんな村に期待した俺がバカだったか」スタスタ
旅人「…おんやぁ〜?」チラッ
???「」ザッザッ
旅人「坊や」
???「」ビクッ
旅人「こんな夜更けに何をしてるんだい?お子さまはおねんねする時間だろう?」
???「……」
旅人「おやぁ?これは砂で作った洞穴かなぁ?」ジロジロ
???「……!」バッ
旅人「隠さなくたっていいじゃないか?
よく出来てる。あとは水を汲んで流せば完璧だ」
???「う、うるさい!僕にかまうなっ…!」
旅人「なんだ、喋れるんじゃないか?
声を出さないもんだから言葉を知らないんだと思ったよ」
???「……」プイッ
旅人「ひねくれたガキだなぁ?今からそんなんじゃ将来が不安だ」ヤレヤレ
???「あっち行ってよ。僕に用なんかないだろ!」
旅人「用ならあるさ?なんでこんな夜更けに一人で砂遊びなんかしてるか聞かなきゃならないからねぇ?」ニヤニヤ
???「……!」カァァァ
947:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:11:26 ID:sEfoXHz.V2
旅人「ほらほら、恥ずかしがらずに言ってごらん?おじさん笑わないから?」ニヤニヤ
???「関係ないだろ…。それにもう笑ってる」
旅人「おっと、これは失敬。なんだか滑稽でね」ププッ
???「笑いたかったら笑えばいいよ。僕は夜にしか遊べないんだ」
旅人「ははーん!道理で背が伸びない訳だ?」
???「うるさいっ…!」
旅人「なんで夜に限定する?お日さまの光は嫌いかね?」
???「お日さまはキライじゃない…。でも村のみんなはキライだ…」
旅人「友達がいないのかい?おじさんが友達になってあげようか?」ニヤニヤ
???「……」
旅人「なぁボクちゃん?そろそろこっちを向いてくれてもいいだろ?」
???「やだ…」プイッ
旅人「向かぬなら向かせてみせようホトトギス」ガシッ
???「えっ」グリンッ
旅人「はーい、目が合った!これでおじさんと坊やは仲良しだ!」
???「は、離してよ!」ジタバタ
旅人「ダメだよぉ〜?離したら君は逃げるだろう?」ググッ
???「当たり前だろ…!いいから離して…!」
旅人「力一杯抵抗していいよー!おじさんはね、抗う子供を従わせるのが大好きなんだ…!」
???「」ゾクッ
948:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:13:05 ID:sEfoXHz.V2
旅人「なんてね」パッ
???「わっ」ドサッ
旅人「…ま、君に友達がいない理由はよく分かったよ」
???「……」
旅人「目は口ほどに物を言うなんてことわざがあるが、ここまで分かりやすい例はないだろうねぇ」
???「……」
旅人「なぁ?ホビットのボクちゃん?」ジロッ
???「ひっ…!」ビクビク
旅人「安心しなよ?おじさんは君の味方さ」
???「へ…?」
旅人「かわいそうにねぇ…。本当にせちがらい世の中だよ」
???「……」
旅人「それもこれも教団がいいように差別を促すからだ。人のエゴは目に見える形で犠牲を強いてる」
???「…おじさんだって人間じゃないか」
旅人「あぁ、おじさんは人間だとも?勝手気ままに旅して回る自由人さ?」
???「おじさんも僕が嫌いなんだろ…」
旅人「あらま?さっき言ったの聞いてなかった?おじさんは君の味方だよ?」
???「うそだっ…!」
旅人「俺は嘘を付いた事が無くてね、それだけが寂しい人生の中で唯一の誇りなんだ?」
???「うさんくさいよ…さっきからずっと」
旅人「心外だなぁ?信じてみなきゃ始まらんよ?」
???「……」
949:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:15:06 ID:5VD59INVTw
旅人「ま、なんにしてもお家にお帰りよ?ご家族も心配してるだろう?」
???「…わかった」スクッ
旅人「よしよし、いい子だ」ワシャワシャ
???「な、なにするの!?やめてよ!?」クシャクシャ
旅人「照れ屋さんだなぁ〜?もっと素直に喜んでいいんだぞ?」ニヤニヤ
???「う、うるさい!」プンスカ
旅人「元気でなによりだ」ニヤニヤ
???「……!」スタスタ
旅人「」スタスタ
???「なんで付いてくんのさ!?」バッ
旅人「おいおい、ボクちゃん?こんな暗がりの中を子供一人で歩かせる訳にはいかないだろう?」
???「子供扱いするな!それに僕はボクちゃんじゃない!」
旅人「だったらなんて呼べばいい?」
???「」ボソリ
旅人「ん?聞こえないなぁ?」
???「ラム…」
旅人「…ラム、ねぇ?OK、それじゃおじさんの事はワルドって呼んでくれ」
ラム「……」
950:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:16:17 ID:5VD59INVTw
旅人「ここがラムの家か?ウサギ小屋かと思ったよ」キョロキョロ
ラム「じゃあ帰れば?人間はウサギ小屋には入らないだろ?」
旅人「たまにはかわいいウサギちゃんと添い寝するのも悪くはないな」
ラム「気色悪いからやめてよ…」ゾワッ
旅人「さて、お宅拝見といきますか」ガチャッ
ラム「勝手に入るな!」
951:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:20:10 ID:sEfoXHz.V2
旅人「…ふーん。質素な家だねぇ。家具も置かずに生活してるのか?」
ラム「悪かったね、貧乏で」ムスッ
旅人「いやいや、それより家族はもう寝たのかな?」
ラム「いないよ」
旅人「いない?こんな時間に出かけてるのか?」
ラム「…そのままの意味だよ。家族はいないんだ」
旅人「……」
ラム「村人達が…僕の両親を村から追い出したんだ」
旅人「追い出した?」
ラム「ホビットは汚い種族だから村に置いておけないって…」
旅人「君は追い出されなかったのか?」
ラム「僕はまだ小さかったから…。両親がお金を渡して村に預けてくれたんだ」
旅人「なるほど、地獄の沙汰も金次第って言うしねぇ。君の両親は懸命だよ」
ラム「僕は残りたくなんかなかった…!」ググッ
旅人「気持ちは分かるがね。子供を連れてあてのない旅をするのは大変だよ」
ラム「お母さんもお父さんも…僕が邪魔だったから捨てたって言うの?」
旅人「そうじゃない。きっと事情があったのさ」
ラム「事情ってなんだよ!僕より大切な事情だったの!?」
旅人「…両親なりに考えたんじゃないかねぇ。
のたれ死ぬと分かって連れて行った方が幸せか、迫害されると分かって残した方が幸せか…」
ラム「……!」
旅人「…ラムはどう思うね?」
ラム「…僕の幸せを考えるなら、飢えて死んだっていいから一緒に行きたかった!」
旅人「…そうだろうなぁ。難しいよ、親子ってのは」
952:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:25:04 ID:5VD59INVTw
旅人「ま、なんにせよクヨクヨしたって始まらないぞ〜?」
ラム「別にしてない…」
旅人「ふぅ〜」
ラム「なに?そのわざとらしいため息は?」
旅人「分からないか?」
ラム「……?」キョトン
旅人「さっきから君はお客さんに茶の一つも出さないのかね?」
ラム「呼んだつもりはないし、勝手にズカズカ入り込んでくる人間をお客さんとは思えない」
旅人「悲しいなぁ〜?」
ラム「…水でよかったら出してあげてもいいけど」
旅人「水?おいおい、ジョークがうまいじゃないか?」
ラム「村の人間は茶葉も食料も売ってくれないから、雨が降った日には水を溜めてる。それでいいなら出すけど?」
旅人「手厳しいなぁ〜?それじゃ飯はどうしてるんだい?」
ラム「1日に一回、家のドアの前に村人が置いてる」
旅人「なんだ、意外に大事にされてるんだねぇ?」
ラム「そうかな…。僕は地面に落ちてる食べかけの料理を見て、大事にされてると思った事は一度もないよ」
旅人「…こりゃ失敬」
953:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:27:54 ID:5VD59INVTw
旅人「なぁ、ラム君。一つ訪ねてもいいかい?」
ラム「…なに?」
旅人「外の世界に興味はあるかね?」
ラム「ないけど」キッパリ
旅人「…そんなにきっぱり言われるとは思わなんだなぁ」ポリポリ
ラム「…でも、ずっとここにいるなら…外に出てみるのもいいかな」
旅人「素直じゃないねぇ?」クスクス
ラム「…どうしてそんなこと聞くのさ?」
旅人「なぁに、ただの気まぐれだよ?」
ラム「あっそ…」プイッ
旅人「もしラム君さえよかったらおじさんが素晴らしい世界へ案内しようか?」
ラム「素晴らしい世界って?」
旅人「こんな村にいたら味わえない幸せがこの世にはたくさんあるって事さ」
ラム「……」
旅人「どうだい?子供の君ならわくわくしないか?」
ラム「なんで僕に優しくするの?」
旅人「ん?」
954:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:37:46 ID:5VD59INVTw
ラム「僕を騙してからかう気なんだろ?」
旅人「なぜそう言える?おじさんは見ての通り、優しくて頼れる力持ちだよ〜ん?」
ラム「…今日だってそうだった」
旅人「ん〜?」
ラム「みんなから遊ぼうって誘われて…行ったら石を投げられた」
旅人「あぁ…そういえばあの家でそんな話をしてたっけなぁ」ポリポリ
ラム「いつもそうさ…。嘘だって分かってるのに…!」ググッ
旅人「そいつは可哀想に。心から同情するよ」ナデナデ
ラム「それでも信じたくなるんだ…。そんな自分が情けなくて…悔しくて…どうしていいか分からないよ」
旅人「悪循環でしかないなぁ?そんな環境にいたら君はダメになる」
ラム「」ウルウル
旅人「おんやぁ?キレイな瞳に水溜まりが出来てるぞ?」
ラム「大人たちは…汚く濁った黄色い目だってバカにする…」
旅人「そうか?おじさんはそうは思わないがね?」
ラム「そんなの…誰も言ってくれない」
旅人「俺は言うさ?君の瞳は濁っちゃ〜いない!磨いた石ころ程度には輝いてるさ!」
ラム「なにそれ…」クスッ
旅人「」ニヤリ
955:🎄 改行ミス…orz ◆WEmWDvOgzo:2013/11/13(水) 15:40:02 ID:sEfoXHz.V2
旅人「また明日、必ず遊びに行くよ。約束だ?」
ラム「別に来なくていい…」
旅人「素直じゃないなぁ〜?」ニヤニヤ
ラム「…うるさい」
旅人「いい子にしてろよ?」ナデナデ
ラム「やめろって言ってるだろ…!」バッ
旅人「おやすみ、ラム君?」フリフリ
ラム「……」
バタンッ
ラム「おやすみ、おじさん…」ボソッ
ガチャッ
ラム「」ビクッ
旅人「あぁ、そうだ!さっきの話、考えといてくれよ?」
ラム「う、うん。わかっ…た…」
旅人「…それからおやすみの挨拶はもっと大きな声でした方がいい?」ニヤリ
ラム「……!?」カァァァ
バタンッ
ラム「くっ…」ギリッ
956:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:18:41 ID:Ou70Vp7aU.
…………………
―――東の領土―――
「…きろ……ラム…!」
ラム「……?」ボヤァ
バンパ「起きろって!」ユサユサ
ラム「うぅん…揺すらないでよ」ゴシゴシ
バンパ「いつまで寝てんだ!出発するぞ!?」
ラム「はいはい…」スクッ
シープ「珍しいねー!ラムが寝坊するなんて!」
バンパ「ったく!俺に見張らせといてのんきなもんだぜ!」
ラム「ふあぁ〜…ちょっと懐かしい夢を見ててね」ノビッ
バンパ「ちっ…聞いちゃいねぇ!」
シープ「どんな夢だったの?」
ラム「…すごく嫌な夢。思い出したくなかったんだけどなぁ」
シープ「へー!じゃあ起こしてもらってよかったね?」ニッコリ
ラム「うん。バンパもたまにはいいことするよね」ニコッ
バンパ「たまにはってなんだ!?」
ラム「さ、行こうか。早く仲間に会いたいし」
バンパ「待たせといて行こうかじゃねぇだろ!?」
シープ「れっつらごー!」ピョンッ
957:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:20:05 ID:2f6ATVrpfk
シープ「あとどれくらいで着くのかなー?」スタスタ
バンパ「歩いてりゃその内着くよ」スタスタ
シープ「ちゃんと答えてよ!」
バンパ「あぁはいはい。分かったからこれでも食ってろ」つ【饅頭】
シープ「なにこれ?」
バンパ「行商人からぶん盗った荷物に入ってたんだよ。うまいかは知らん」
シープ「へー!ラムー!はんぶっこしよー!」チギリチギリ
ラム「ありがとう」パシッ
バンパ「(俺にも分けるって発想はないんだな…)」シミジミ
シープ「モグモグ…これ…おいモグモグしいね…!」モゴモゴ
ラム「パクッ…うん」モグモグ
バンパ「食いながら喋るな。だらしねーぞ」
シープ「バンパってお母さんみたい?いちいちうるさいしー!」
バンパ「誰がお母さんだ!?せめて兄貴って言えよ!?」
ラム「まぁ歳は離れてるから立ち位置は保護者に近いかもね」
バンパ「お前らみたいな年中反抗期のガキを育てられる甲斐性なんかねーよ!」
シープ「こっちだってやだよーだ!」アッカンベー
バンパ「(このクソガキ…!)」イライラ
958:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:21:46 ID:Ou70Vp7aU.
ラム「お母さん、かぁ。そういえばカロル君のお母さんは綺麗で優しかったっけ」
バンパ「あ?またそいつの話か?飽きねぇな、お前も?」
ラム「まぁね。ちょっと気になるんだ」
ラム「誰かを助けたいからって教団の人間に付いていっちゃったけど、結局どうしたんだろ」
バンパ「けっ!ホビットは罪深いだの触れ回ってんのはあいつらだ。無事に済むわきゃねぇだろ」
シープ「そんなに心配なら止めてあげればよかったのに?」
ラム「もちろん止めたよ。だけど聞かなかったから…」
バンパ「分からないな。お前も言ってたじゃないか?そいつとは気が合わないってよ」
ラム「気が合う訳じゃないけど…気に入らない訳でもない」
バンパ「なんだ、そりゃ…」
シープ「ぼくはキライ!人間も!人間と仲良くするヤツも!」
バンパ「同感だな。絶対ダチにはなれねぇ」
ラム「……」
バンパ「俺が人間の奴隷だったのは知ってるだろ?
おかげでイヤってほど踏みにじられてきたんだ!
あんな奴らと仲良くなれるなんて信じたくもねぇ!」
シープ「ぼくだって!」
ラム「うん…。そうだね」
ラム「でも…あの子の気持ちも少しだけ理解できるかな」
バンパ「…え?」
ラム「……なんでもない。それより前から馬車が来てるよ。隠れよう」
バンパ「え、あ、ほんとだ!」アタフタ
シープ「大きな木があるよ!あそこの木陰にしよう?」タタタッ
バンパ「お、おう!」タタタッ
ラム「」タタタッ
ラム「(カロル君の気持ちは理解できる。僕も一度信じてしまったから…)」
ラム「(けど騙された…。人間は平気で嘘をつく生き物だから)」
959:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:23:39 ID:2f6ATVrpfk
パカラッパカラッ パカラッパカラッ
ラム「…行ったよ」ヒョコッ
バンパ「けっ!なんであんな奴らにビクビクしなきゃなんねぇんだ!」スタスタ
シープ「捕まったらまたあそこに入れられちゃうよー?」
バンパ「うっ…あ、あそこだけは死んでも入りたくねぇ…!」
シープ「そうだよ。せっかく自由になれたんだから!」
ラム「…あそこで未だに苦しめられてる仲間もいるしね」
シープ「仲間を集めたらみんなみんな助けてあげよー!」エイッ エイッ オー!
ラム「ふふ」クスッ
バンパ「エルマーの仲間を説得したら世界中から同族を集めるんだ!きっと凄いコトになるぜ?」
シープ「そしたら人間なんて目じゃないよね!」
ラム「うん。ヘマトも教団も王国も全部、全部潰してやろう」
バンパ「そうだな!」ニカッ
シープ「うん!」ニッコリ
960:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:26:04 ID:2f6ATVrpfk
バンパ「やっと獣道を抜けたな」ザッザッ
シープ「ね、ねぇねぇ?いつまで歩くの?ぼく疲れちゃったよ」ゼーゼー
ラム「あと少しだから頑張って?」
バンパ「…見えたぞ!」
シープ「えっ!どこ?どこ!?」キョロキョロ
バンパ「あの丘の先に旗が見えるだろ!アレは俺達の種族を表す"青い実"の刻印だ!」
シープ「ホントだー!」キラキラ
ラム「……」
バンパ「行こうぜ!早く!」タタタッ
シープ「オッケー!」タタタッ
ラム「あ、二人とも…」
バンパ「チンタラしてたら置いてくぞー!」タタタッ
シープ「ラムも早く来なよー!」タタタッ
ラム「(おかしい。何かが…)」
ラム「(エルマーはホビットが隠れて暮らす集落の筈なのに…わざわざあんなに目立つ旗を付けるのかな)」
ラム「……」
ラム「」タタタッ
961:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:27:33 ID:2f6ATVrpfk
―――エルマー?―――
バンパ「お!入り口に誰か立ってるぞ?」
シープ「…人間?」
バンパ「いや、あれは同族だよ。説明して入れてもらおうぜ」スタスタ
シープ「…ぼくたち、ホントにここまで来たんだねー!やっと仲間に会えるんだ!」スタスタ
門番「」ビクッ
バンパ「そう警戒すんな!見ての通り同族だ!」
門番「……」
バンパ「どうした?」
門番「」ボソッ
バンパ「なんだって?聞こえないぞ?」
シープ「様子が変だよ?」
ラム「二人とも!」タタタッ
バンパ「ん?あぁ、やっと来たか!見ろよ、ちゃんと同族がいるぜ!」
ラム「…あ、ホントだ。僕の勘違いだったのかな」
シープ「ねぇ、通してよ?ぼくらは仲間でしょ?」
門番「誰から聞いてここに来た…!?」ボソボソ
バンパ「誰からって…同族から聞いたんだ。ここがホビットの集落だって」
シープ「あのお爺さん、一人で旅をしてたよね?今も元気かなー?」
門番「…げろ!…やく!」ボソボソ
シープ「え?なに?」キョトン
ギィィ バンッ
門番「」ビクッ
962:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:29:51 ID:Ou70Vp7aU.
バンパ「お、門が開いたぞ!」
ラム「待ちなよ。誰かいる…」
???「ようこそ、愛すべき同胞達!心から歓迎致します!」ニコニコ
門番「た、タワンテさん!」アセアセ
タワンテ「何をしてるんですか、ティラーナ!アナタの仕事は門を守るコト!
人間なら追い返し!同族なら受け入れる!違いますカ!?」
門番「……」
タワンテ「見なサイ。愛すべき同胞達がとても困ってル!」
ラム「……」
タワンテ「失礼しまシタ。どうぞお入りくだサイ!」
バンパ「それじゃ入ろうぜ?」
シープ「うん!」トコトコ
ラム「……」スタスタ
タワンテ「ティラーナ!門を閉じておきなサイ!アナタの役割をわすれないように!ネ!」
門番「…わかり…ました」
ギィィ バタンッ
963:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:31:23 ID:2f6ATVrpfk
タワンテ「ワタシが案内しますからネ!付いてってくだサイ!」スタスタ
ラム「案内?」スタスタ
タワンテ「皆にもアナタ達を紹介したいのデス!同胞がやって来るのは珍しいので!」
ラム「珍しいって…どうしてです?同族なら、まずここを目指すんじゃ…」
バンパ「たどり着けないんじゃねーか?俺らだって1年以上掛かったし危ない橋も渡ってきたろ?」
タワンテ「かもしれません」
シープ「あんまり家もないし…誰も歩いてない?」キョロキョロ
ラム「うん…。僕も気になってた」
タワンテ「そういうものデス」
バンパ「まさかほとんど誰も住んでないってんじゃないだろうな?」
シープ「タワンテさん、どうなの?」
タワンテ「心配はいりません。すぐに同胞に会えますから」
964:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:33:27 ID:Ou70Vp7aU.
タワンテ「…着きましたよ」
バンパ「着きましたって…何にもないじゃないか?」
タワンテ「……」
シープ「冗談やめてよ!ぼく、もうクタクタなんだから!」
ラム「え…?」ピクッ
ゾロゾロ ゾロゾロ
黒装束「ハッハー!ようこそ、愚かなホビット達よ!」ガサッ
ラム「……」
バンパ「は…!?」
シープ「ちょ、ちょっと!なにこれ…!?」アタフタ
黒装束「野郎共!このマヌケな3匹を捕らえな!」バッ
手下1「」ジリジリ
バンパ「うおっ!ふ、ふざけんな!」ダッ
ラム「シープ!走れるかい!?」ダッ
シープ「う、うん」タッタッ
手下2「逃げ場なんかねぇよ!おとなしく捕まりやがれ!」パシッ
シープ「ひっ!」ググッ
バンパ「シープを離せ!」バキッ
手下2「あうっ!?」ドカッ
バンパ「チャッチャと走れ!捕まるぞ!?」ガシッ タタタッ
シープ「わっ!ひ、引っ張らないでよ!」タタタッ
965:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:37:02 ID:2f6ATVrpfk
黒装束「おとなしく捕まっておけば痛い目に遭う必要もないんだがなぁ?」
タワンテ「諦めきれないんでしょう。せっかく手に入れた自由を」
黒装束「ハッハッハ!そういうモンか!?お前らホビットは好きだもんなぁ?無駄な努力が…!」
――――――
手下3「へぇっへっへ!追い詰めちゃったぞぉ〜?」ジリジリ
ラム「…うるさい。デブ」トンッ
手下4「後ろは壁。前にはナイフを持った俺達。さぁどうする?」
ラム「」スッ
手下3「おぅっ!おぅっ!?ひざまづいたぞぉ!?泣いて許しを乞うつもりかぁ〜!?」ブヒヒ
ラム「誰がお前らなんかに…」
手下4「素直にしとけば加減してやらんでもなかったが…バカな奴だ」ダッ シュバッ
ラム「」サッ バウッ
手下4「ぐあっ…目が…!このガキ…砂を…!」ギュッ ゴシゴシ
ラム「」タタタッ
手下3「ほーい!逃がさないよーん!」バッ
ラム「」バウッ
手下3「おっと、同じ手を喰うか!」サッ
ラム「」シュッ ガツンッ
手下3「ごぼほぉっ!?」ズルッ バタッ
ラム「潰れちゃった?」クスリ
手下3「(こ、このガキぃ…!き、きき…た…玉ぁぁ…蹴りやがったぁ!?)」アガアガ
ラム「バイバイ」タッタッ
966:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:39:22 ID:Ou70Vp7aU.
ラム「(バンパ達と合流しなきゃ)」タタタッ
???「逃がしませんよ」ヒュッ
ザクッ!
ラム「えっ…!?」ドサッ
タワンテ「諦めなサイ。ナイフが太ももに突き刺さってます。もうその足は使えませんヨ」スタスタ
ラム「た、タワン…テ?」ドクドク
タワンテ「こうしないとワタシがお仕置きされるんデス」ガッ グイッ
ラム「あっ…ぐっ!」ブチブチ
タワンテ「スミマセン。愛すべき同胞…許してください」
ラム「離せっ…!離せよ…!」ジタバタ
手下4「味な真似を…!」ゴシゴシ
手下3「うぐぅ…ゆ、ゆるさねぇ!こいつの玉、握り潰してやるぅ!」エグッ グシッ
タワンテ「…とりあえずウォルター様に報告しましょう」
手下3「ちぃっ」
手下4「それもそうだな?さっさと持ってくぞ」
タワンテ「ハイ」ズルズル
ラム「うあっ!ぐぅ!」ズズズ
967:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:43:46 ID:2f6ATVrpfk
―――エルマー?(門前)―――
バンパ「おい!開けろ、開けろよ!?」バンッバンッ
バンパ「っ…ダメだ!押しても引いてもビクともしないし門番も反応しねぇ!」
シープ「あいつらが来たよ!?」
手下1「へっ」スタスタ
手下2「言ったよな?逃げ場なんかねぇと?」スタスタ
バンパ「うぅ…くそがっ!こうなったら俺が時間を稼ぐ!シープ、お前は壁をよじ登って出るんだ!」
シープ「む、ムリだよー!あんな高い壁…!」
バンパ「じゃあどうすんだ!?ここまで来て、また自由を手放すのか!?」
シープ「」ビクッ ブルブル
バンパ「それが嫌なら死ぬ気で逃げろ!!無理でも壁から這い上がれ!!」
シープ「……!」ダッ ガッ ヨジヨジ
バンパ「けっ!」ダッ
手下1「お、あちらさんから向かってくるぞ?」
手下2「手間が省けていいや!やっちまえ!」
968:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:48:23 ID:Ou70Vp7aU.
バンパ「おらっ!」ビュッ
手下1「ぎゃっ!?」ドスンッ
手下2「な、なんだ、こいつ…!」
バンパ「(大したことねぇな…。これならラムの奴も逃げれてんだろ)」
黒装束「おーおー手こずってんなぁ?」スタスタ
手下2「ウォルターさん!」
バンパ「(親玉はあいつだな…。ならあいつさえ倒しちまえば…)」
黒装束「狩人が獲物に狩られてちゃ世話ねぇよ」
手下2「す、すんません」
黒装束「指、小指でいいから」クイッ
手下2「へ?あ、いや…でも…!」アタフタ
黒装束「ん?耳がいいのか?勇気のある奴だな?」
手下2「……!ゆ、指で…お願いします!」スッ
黒装束「」ヒュンッ ビシュッ
手下2「あっ…あっ!あうぅぅぅ……!」ブシュー
黒装束「おーしおし、止血なんかすんじゃねーぞ?骨を剥き出しにしてよーく風に当てとくんだ?」
手下2「は、はい…!」プルプル
黒装束「後で剥き出しになった指の骨をヤスリで削ってやるからなぁ?楽しみだなぁ?」
手下2「あ、あぁふぅぅ」ジョー
969:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 20:51:15 ID:Ou70Vp7aU.
黒装束「そんじゃ遊ぶか?」ニヤリ
バンパ「狂ってやがんな…」
黒装束「狂ってるくらいがマトモなんだよ。俺達の仕事はな」
バンパ「胸くそ悪い野郎だぜ…!」ダッ ブンッ
黒装束「お?なんだ、こりゃ?メガトンパンチか?」パシッ
バンパ「な、なにぃ!?」グイッ グイッ
黒装束「ハッハー!」ブンッ
バンパ「ぐは…!」バキッ
黒装束「運がいい時に来たなぁ、お前ら?」
バンパ「あぁ…!?」ヨロッ
黒装束「本当ならちょっとばかし遊んでから組織に持って帰るんだが…なんでも今度行うショーはでかいようでな?
最高の催しを届ける為に綺麗なままのホビットを集める事になってんだ」
バンパ「お前…!まさかヘマトか!?」
黒装束「なんだ?俺達の組織を知ってんのか?」
バンパ「……」
黒装束「あぁ?さてはお前ら脱走しやがったんだな?」
バンパ「だったらどうした!?」
黒装束「どうしたもこうしたもあるか。もったいないから再利用するだけだ。
せいぜい自分の出る演目に期待してな?主役を張りたきゃ悲痛な叫びを客に聴かせてやるこった?」
バンパ「なにが演目だ…!あんなモン、ただの虐殺じゃねぇか…!」
黒装束「価値観の相違ってやつか?まぁいいわな?」
970:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 21:01:23 ID:Ou70Vp7aU.
黒装束「しかし愚かだな?せっかく抜け出せたのにこんなとこに来るとはよ?」
バンパ「黙れ!お前らが先回りしてるとは思わなかったんだよ!」
黒装束「先回りだと?ハッハッハ!こいつは傑作だな!?」ゲラゲラ
バンパ「何がおかしいんだ!?」
黒装束「お前勘違いしてるよ?ここはな、最初から俺達の場所なんだ」
バンパ「!?」
黒装束「確かにここにはエルマーなんて集落もあったがとっくに滅ぼされてんだよ」
バンパ「じゃあ…タワンテさんは!?門番のティラーナは!?あいつら同族じゃねーのか!?」
黒装束「紛れもなく薄汚いホビットだぜ?」
バンパ「だったらなんでここにいんだよ!?おかしいだろうが!?」
黒装束「あいつらには俺達の拷問ショーに出さないって条件で協力させてんの。
迷いこんできたホビットを誘い込むのがあいつらの役目さ?」ヘラヘラ
バンパ「そんな…!同族を…売ったってのか!?」
黒装束「そう珍しい話でもないだろ?
俺たち人間も騙し合い、奪い合う。お前らホビットも例に漏れずってやつだよ」
バンパ「人間なんかと一緒にすんな!俺は…俺たちはな…!」ワナワナ
黒装束「人間だの、ホビットだの…区別すんのが好きだなぁ?王国も教団も…そしてお前らも?」
バンパ「あぁ!?」イラッ
黒装束「俺に言わせりゃニワトリかハトかくらいの違いしかねーよ。
いくら名前を付けても括りはおんなじ鳥だ」ニヤリ
手下4「あっ!いたいた!ウォルターさん!こっちは捕まえましたぜ!」スタスタ
黒装束「おーしおし、んじゃこっちもパパっと終わらせっか」ズイッ
バンパ「……!」
971:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/15(金) 21:03:35 ID:Ou70Vp7aU.
―――エルマー?(外)――
シープ「な、なんでことするの…?」ググッ
門番「おとなしくしろ…。縛りにくい」シュルシュル ギュギュッ
シープ「同じ仲間でしょ!助けてよ!?」ギシギシ
門番「」ボソッ
シープ「え…?」
門番「忠告はした…。入ったのはお前らだ」ボソボソ
シープ「こんな所だなんて思わなかったから!知ってたら入らなかったよ!」
門番「一度入ったら…もう出せない。出したらワタシとタワンテさんが罰を受ける…」ボソボソ
シープ「一緒に逃げようよ!?そうすれば……」
門番「ダメだ…。ヘマトは追ってくる…。捕まったら…恐ろしい」ボソボソ
シープ「平気だって!そんな簡単に見つかったりしないよ!」
門番「…ヘマトは今、ホビットを大量に欲しがってる…。
次のショーは大舞台で王国を交えてやるから…数を増やさないとワタシとタワンテさんがショーに出される…」ボソボソ
シープ「……!」
ギィィ バンッ
黒装束「そういうこった?」ポイッ ドサッ
バンパ「」ピクッ ピクッ
ラム「はぁっ…ぅくっ…」ドクドク
シープ「ラム!!バンパ!!」ギシギシ
黒装束「そいつらを馬に括り付けろ。組織に持ち帰るぞ」
門番「」コクリ
972:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:12:07 ID:5tYfNPQVjY
―――大聖堂(東門)―――
ダガ「…まだ馬車の影も見えねぇ内から門を解放していいのか?怪しい人間が侵入したらどうするつもりなんだ?」
アリアス「…司祭様のやる事に文句を付けるの?」
ダガ「そんなんじゃねぇよ。ただな、俺達は付き人だぞ?
なんでこんな雑用紛いの扱いを受けなきゃならねぇんだ?」
アリアス「司祭様の気短な性分は今に始まったことじゃないでしょう?
それに教徒にも表向きは王都で講演会を行うと言ってあるけど…」
ダガ「ふ…実際はなぁ?」
アリアス「間違ってもその先を言わないでね?」ジロッ
ダガ「あぁ…分かってるよ。誰が聞いてるとも知れねぇしな」
アリアス「なんにしても雑用に近い役目を私達に任されるのは自然のなりゆきだと思わない?」
ダガ「ちっ…」
パカラッパカラッ パカラッパカラッ
アリアス「…いらっしゃったみたい。司祭様とホビットを呼んでくるわ?」
ダガ「あぁ…」
アリアス「くれぐれも失礼のないように出迎えなさい?」スタスタ
ダガ「うるせぇ。さっさと行ってこい」
973:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:14:57 ID:5tYfNPQVjY
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
ガチャッ
カロル「おはよう、ナ……ラ?」キョトン
司祭「ナラじゃなくて悪かったのう、小僧?」
カロル「お、おじいさま…」
マルク「」グルルルル
アリアス「私もいるのだけれど?」
カロル「…おはようございます」ペコリ
司祭「ほっほっほ!かしこまらずともよい!行くぞ?」
カロル「行くって…どこへ?」
アリアス「あなた達が安心して暮らせるように住み処を見つけてあげたのよ?」
カロル「お母さまは…?お母さまも一緒ですよね…?」
アリアス「あなたの母親は宣教師が一足先に連れていったわ?」
カロル「え?二人がボクを置いていったんですか?」
アリアス「違うわ?あなたの母親に新しい住み処を見てもらって…納得してからあなたも連れていく手筈なの」
カロル「…そんなの、おかしいですよ」プイッ
アリアス「(…めんどくさいガキ。だから嫌いなのよね、マザコンって)」イライラ
司祭「…小僧」
カロル「……?」
司祭「付いてこなければ、どのみち母親には会えんぞ?それでもいいんじゃな?」
カロル「…やっぱり、騙してたの?」ボソリ
司祭「…付いてくるのか?来ないのか?」
カロル「…わか…りました」シュン
司祭「安心せい。犬も連れていってやるわい?」ニヤリ
974:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:17:24 ID:OqXv9TpU5w
―――馬車―――
パカラッパカラッ パカラッパカラッ
アリアス「」ペラッ
司祭「……」ジロジロ
カロル「わぁっ!すごいや!草原が動いてるよ!」キラキラ
マルク「わんっ!わんっ!」シッポフリフリ
アリアス「(バカな子…草原が動く訳ないじゃない。中にいるからそう見えるのよ…)」ペラッ
カロル「あはは!揺れてるよ!」キャッキャッ
マルク「あんっ!」パァァ
司祭「なんじゃ、こいつは…?さっきまで浮かない顔をしとったクセに?」コショコショ
アリアス「癒しの力を持つホビットとはいえ中身は子ども…という事でしょうね」ペラッ
司祭「…どういう神経の持ち主じゃ?」ジロジロ
カロル「あっ!ねぇ、見てみて!今ボクらが住んでた森が見えたよ!」
マルク「」ハッハッ
司祭「(緊張感のない奴め…。うるさくてかなわん!)」
975:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:19:54 ID:OqXv9TpU5w
パカラッパカラッ
カロル「馬車って楽しいね!」ニコニコ
マルク「くぅーん!」コクリ
司祭「…これならダガの方に乗っておけばよかったわい」
アリアス「馭者に言って止めさせますか?今なら、まだ乗り換えられますが?」
司祭「む……わざわざそこまでしとうないわ」
カロル「止めてっ!!」
司祭「」ビクッ
馭者1「」ビクッ
ズズッ ズズズズズ ガタンッ
馬「ヒヒーン!」ブルルッ
アリアス「……!?」
司祭「あ、あ、危ないじゃろうが!?何を考えとる!?」ドキドキ
カロル「降りよ?あの子ケガしてるみたい!」
司祭「な、なんじゃ?」
カロル「」ピョンッ ストッ
司祭「ま、待てい!?」ガチャッ
アリアス「止めておいてもらえる?」
馭者1「は、はぁ…?」キョトン
976:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:22:47 ID:5tYfNPQVjY
???「……」グッタリ
カロル「……!?」
司祭「これは…むごい有り様じゃな」
アリアス「息はしてるようだけれど全身の皮膚が焼け爛れてるし、まず助からないでしょうね」
カロル「そんなっ…!」
マルク「」クンクン
司祭「やはり畜生よな…。死体の肉を食らいたがっとる?」
カロル「なっ…!マルクはそんなことしません!」ムッ
マルク「」グイッグイッ
カロル「え?マルク…この子の匂いを知ってるの?」
マルク「わぅん!」コクリ
カロル「も、もしかして……」ゾクッ
???「」
カロル「おねがい…間に合って…!」ガバッ ギュッ
???「」シュゥゥゥ
アリアス「爛れていた皮膚が…再生して…!?」ギョギョッ
司祭「ほう…!力を使いこなせるようになったか!」
アリアス「(これが癒しの力…?もっと神秘的なものを想像してたけれど案外単純なのね…?)」ビクビク
977:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:24:54 ID:5tYfNPQVjY
???「ぐっ…うぅ…」ピクッ
カロル「……やっぱりキミだったんだね」
ルーボイ「あ…!」
カロル「…ルーボイくん」シュン
司祭「ほう?知り合いか?」
カロル「はい…村の友達です」
ルーボイ「カロル…!」
カロル「ルーボイくん、いったい何があったの?」
ルーボイ「し、知らねぇよ!パッチを見つけて……い、いろいろあって!
村に戻ったらなんか火が燃え上がってて…!母ちゃんが……いや、とにかく逃げて…」アタフタ
ルーボイ「なんか…知らねぇけど、夢見てた…」
カロル「そっか…。もっと早く見つけられなくてごめんね。苦しかったでしょ?」ションボリ
ルーボイ「ていうか…えっ?えっ?俺、なんで生きてんの?」マジマジ
カロル「ボクが治したんだ?癒しの力…っていうので?」ニコッ
ルーボイ「癒しの力?」
カロル「うん。ボクの持ってる力なんだって?まだよくわかんないんだけど、ね…」
ルーボイ「(え、まてよ…癒しの力なんて…ないんじゃねーの…?)」
ルーボイ「(だって…全部、ウソで…ホビットを悪者にするから…癒しの力があって…ホビットは癒しの力…盗んでなくて…)」グワングワン
カロル「でも…ルーボイくんが助かってホントによかった!」ニコニコ
ルーボイ「は…?」ピクッ
カロル「?」パチクリ
ルーボイ「なんだよ、それ…」ボソリ
カロル「な、なにが?」オロオロ
ルーボイ「お前…ウソ付いてたのになんで笑ってんの?」
カロル「…え?」
978:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:27:08 ID:OqXv9TpU5w
ルーボイ「せ、宣教師様が言ってたんだぞ!癒しの力はお前らを悪者にするためのウソだって!」
カロル「ぼ、ボク…知らなかったから」シュン
ルーボイ「…お前、宣教師様を騙したのかよ?」
カロル「ち、ちがうよ…!」
ルーボイ「じゃあ…じゃあなんなんだよ…」グッ
カロル「えと…ボクも何て言ったらいいか…」マゴマゴ
ルーボイ「た、頼むよ…カロル」
カロル「……?」
ルーボイ「ちゃんと教えてくれよ…!俺、俺…!」ググッ
ルーボイ「お前が信じられなかったら、俺にはもう…なんにも無いんだよ!」
カロル「ルーボイくん…」
ルーボイ「父ちゃんも母ちゃんも死んじゃってさぁ!パッチにも嫌われたよ!?
村だって燃えちゃったし…分かるよな!?」
カロル「……」
ルーボイ「だからさ…。お前だけは信じさせてよ?いいだろ?」
カロル「実は……」
司祭「悪いがそんな時間はないぞ?」
979:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:29:46 ID:5tYfNPQVjY
ルーボイ「あ、司祭様…!」
司祭「災難じゃったのう…。しかしもう心配は入らぬ。その足で大聖堂を訪ねよ?」ポンッ
ルーボイ「大聖堂に…?」
司祭「お前さんはわしら教団で引き取る。あそこにはお前さんぐらいの歳の子もたくさんおるからな」
ルーボイ「ま、待ってよ…。そんな…いきなり言われたって分かんないよ!」オロオロ
司祭「大丈夫、大丈夫じゃからな?」ナデナデ
ルーボイ「…ちゃんと教えてくれよ!このままじゃイヤだよ!」
司祭「…聞き分けのない小僧じゃのう?」イラッ
ルーボイ「なぁ!カロル!どうなんだよ!?」
カロル「…もう少しだけお話してもいいですか?」
司祭「ならん。時間の無駄じゃ」
カロル「じゃあ…ボクはここに残ります。おじいさま達だけで行ってください」
司祭「なにぃ…!?」
カロル「ともだちと話すのは…無駄な時間じゃないですから!」
司祭「ぬぅぅ…!あ、アリアス!」
アリアス「いいのですか?神官からはなるべく刺激しないようにと…」
司祭「構わんから連れていけ!」
アリアス「…かしこまりました」
980:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:32:26 ID:OqXv9TpU5w
アリアス「(かといって手荒に扱う訳にもいかないし…)」スッ
アリアス「そういう事だから、おとなしく付いてきてくれると助かるのだけど?」
カロル「……!」
ルーボイ「な、なんだよ!どうなってんだよ!?」
マルク「」グルルルル
アリアス「…そう。イヤなのね。とても残念」
カロル「ご、ごめんなさい。でも…今話さなかったらルーボイくんが傷付くから…!」
アリアス「友達思いね?分かったわ…。そこまで言うなら…」
カロル「…!」パァァ
アリアス「でもこれだけは忘れないで?母親に会えるかはあなた自身に懸かっているのよ?」ニコリ
カロル「えっ…?」ドクンッ
ルーボイ「…そういえばカロルの母ちゃんはどうしたんだ?」
アリアス「…どうするの?」ニコニコ
カロル「」ワナワナ
カロル「ず、ずるい…よ!」
アリアス「フフフ!」クスクス
カロル「決められないってわかってるのに…!」キッ
アリアス「それでも決めないといけない…そうでしょう?」
カロル「……!」
981:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:34:00 ID:OqXv9TpU5w
ルーボイ「…いいよ、カロル」ポンッ
カロル「ルーボイくん…?」クルッ
ルーボイ「いいから…俺なんか気にすんなよ」
カロル「…どうして?どうしてそんなこと言うの?」
ルーボイ「お前の気持ち分かったから、もう大丈夫だって!」ニカッ
カロル「……」
ルーボイ「よくわかんねーけどお前の母ちゃんが大変なんだろ?」
カロル「う、うん…」
ルーボイ「じゃあいいよ。俺は大聖堂に行くから!お前も戻ってくんだろ?」
カロル「ど、どうかな…?もしかしたら…戻らないかも…」
ルーボイ「…で、でもよ?宣教師様がいんだろ?」
カロル「宣教師様は…お母さまと一緒に行っちゃったって言ってたよ…」
ルーボイ「えっ」
982:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:38:01 ID:OqXv9TpU5w
ルーボイ「おい、待てよ!それ、どういう意味だよ!?」
アリアス「そのままの意味よ。分かったら早く行きなさい?」
ルーボイ「」プチンッ
カロル「ち、ちがうん……」
ルーボイ「ふざけんなよ!?」ガッ
カロル「ひぐっ…!」
ルーボイ「てめぇ…!なに考えてんだよ…!?」ググッ
カロル「あっ…うっ…」プルプル
アリアス「は、離しなさい!何してるの!?」ガシッ
司祭「早く引き離さんか!癒しの力が死んではもとも子もあるまいが!?」
アリアス「(子どものクセになんて力よ…!引き剥がせない!)」ググッ
ルーボイ「…おまえ!おれからぜんぶ盗る気かよ!みんな…おまえに巻き込まれたんだぞ!?
父ちゃんも…母ちゃんも…パッチも…!宣教師様まで…どっかに行っちゃうのかよ!?」ギュウウウウ
カロル「や……る…ぼい…くん…く、くるしい」ピクピク
マルク「」ガブッ
ルーボイ「いってぇ!?」パッ
カロル「かはっ!ぇほっ…」ゲホッゲホッ
ルーボイ「クッソ…!」ズキズキ
アリアス「この…!」グイッ ブンッ
ルーボイ「っ…!」フワッ
ズダンッ!
ルーボイ「あ…がっ」ドサッ
カロル「ケホッ…る、ルーボイくん!」
司祭「ふぅ…危ないところだったわい」フイー
アリアス「とんでもないガキね…!」ハァッハァッ
983:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:40:56 ID:5tYfNPQVjY
ルーボイ「」ビクンッビクンッ
カロル「ルーボイくん!大丈夫!?」パシッ
ルーボイ「」フワァッ
ルーボイ「う……」ムクッ
司祭「小僧!何をやっとる!?」
カロル「ごめん、ごめんね…!ボクのせいで…!」
ルーボイ「ちっ…!」
カロル「大丈夫?痛くない?」オロオロ
ルーボイ「離せよ!触んな!」パシンッ
カロル「あっ……」ヒリヒリ
ルーボイ「おまえなんかしらねー」ボソリ
カロル「ルー…ボイくん」
ルーボイ「じゃあな」スクッ
カロル「ルーボイくん!待って!」アセアセ
ルーボイ「」スタスタ
カロル「おねがいだよ!行かないで!?」タタタッ ダキッ
ルーボイ「離せよ」ピタッ
カロル「や、やだ!絶対離さない!離したら行っちゃうもの!」ギュッ
ルーボイ「……」
984:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/17(日) 21:44:36 ID:OqXv9TpU5w
カロル「おねがいだから…ボクの話を聞いてよっ…!?」
ルーボイ「…なぁカロル」
カロル「っ…!な、なに?」
ルーボイ「ケガ…治してくれてサンキューな」
カロル「いいよ!だって…ともだちじゃない!」
ルーボイ「…ともだち、かぁ」
カロル「うん…!ルーボイくん…パッチくんも…ともだちだもん…!」
ルーボイ「パッチはおまえがキライだって言ってたぞ」
カロル「へ…?」ビクッ
ルーボイ「俺も。おまえなんかキライだ」
カロル「な、なに…言って…るの?」ブルブル
ルーボイ「邪魔」ドンッ
カロル「わっ…!」ドサッ
ルーボイ「」スタスタ
カロル「」ポツン
カロル「………」
カロル「」ポロッ
カロル「」ポロポロ
マルク「クゥン」ペロペロ
カロル「…うそ…だよね?」ポロポロ
アリアス「気が済んだ?」
司祭「とんだ道草じゃったのう」
カロル「……」ポロポロ
985:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 20:46:44 ID:Zn..IGjcXM
―――大臣の屋敷(物置小屋)―――
宣教師「」グッタリ
宣教師「」ヨロッ
宣教師「〜〜〜!」ズキズキ
宣教師「っ…まるで生き地獄ですね」ボソッ
宣教師「……!」ギリッ
986:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 20:48:17 ID:Zn..IGjcXM
〜〜〜回想(寝室)〜〜〜
大臣「おやおや、何を怯えてらっしゃる?恐れる事などありませんぞ?
さぁ…お嬢さんもお脱ぎなさい?」ヌギヌギ
大臣「そんなに恥じらうのでしたら手伝って差し上げましょうか」ガバッ
大臣「おっと…!いけませんなぁ?暴れられてはやりにくいでしょうが?」イラッ
大臣「ちぃっ…おとなしくしろ!小娘が!!」バシンッ
大臣「…ほれ、さっさとするんだよ!わたくしをイラつかせんじゃありませんよ、まったく!」ビリッビリッ
大臣「おほっ!これはこれは…いやはやなんとも…!」ジュルリ
大臣「ふひひ…き、きもちよくしてあげましょうね」レローン
大臣「チュゥゥ…どうですぅ〜?初めて受ける愛撫は…?
数多の美女がわたくしの舌に溺れたのですぞ?光栄に思いなさいよぉ?」レロレロ
大臣「どれどれぇ…!こちらもさぞかし濡れそぼっている事でしょうに!」ピトッ
大臣「んぅ〜?おかしいですなぁ?あまり変化がないようですが…」ツプッ
大臣「あぁ…!あなた病気ですね!?だから感じないんでしょう!?」
大臣「…なんです?その目付きは?まだご自分の立場がお分かりになりませんか?」ギロッ
大臣「そういう態度をとるなら遠慮は入りませんな。このまま…」ツプッ ググッ
大臣「いかせてもらいますぞぉぉぉおぉおおぉぉ!!」ズップン!
大臣「おっ!おっ!し、締まるぞぉう…ブヒィィィ!!」ギシッギシッ
大臣「はぁっ!ど、どうだ?は、初めて…なのだろう!
こ、このわたくしが…相手なのですから!あなたも!贅沢な方ですなぁ?」ズンッズンッ
大臣「ワッハッハ!あまりの嬉しさに涙が出ますか!?
喜んでもらえて良かった!わたくしも連れてきた甲斐があるというものです!」ズプッズプッ
大臣「うっ!い、イイ!イイぞぉぉぉ!?」パンッパンッ
大臣「す、少し早いですが…失敬ィィィ!!」ドピュッ
大臣「ふぅ…」ヌポッ
大臣「さぁて…湯でも浴びてきますかな」ムクッ
大臣「…とても良かったですよぉ?また後でしてあげますからね、今晩は眠れぬものと思いなさい?」ニシシシシ
〜〜〜〜〜〜
987:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 20:54:20 ID:Zn..IGjcXM
宣教師「っ…!」ギュゥゥゥゥ
宣教師「うぅ…あぁ!!」ドンッ
宣教師「はぁ…はぁ…」
宣教師「(大丈夫…!私はまだ捨てていません!)」
宣教師「(たとえ…どれだけ穢されようと…果たさなければならない目的があるのだから…!)」
ガチャッ
大臣「お待たせしましたなぁ〜?」
宣教師「くっ…」ジロリ
大臣「今日も今日とてどっさりと送られた書類に捺印を押し続け…手が疲れてしまいましたよぉ。
ああした儀礼的な手続きを書面で済ますのも中々効率的とは言えませんなぁ?」ブラブラ
宣教師「…でしたらお休みになられたらいかがですか?」プイッ
大臣「ご安心を!多少の疲れはあってもあなたを満足にして差し上げるだけの余力はありますとも!」ニシシシシ
宣教師「痛みに悶える生娘を独りよがりに犯した方のセリフとは思えませんね…」
大臣「ワッハッハ!それなら今夜は満足するまで営みませんとな!?」
宣教師「あなたの目に余る愚行は神の瞳に写っている事でしょう…」
大臣「んぅ〜?」
宣教師「…悔い改める気が無いのなら、いずれ恐ろしい裁きが下されますよ」
大臣「なるほど!よーく分かりました!では寝室へ行きましょうか!」ニヤァァ
宣教師「……」
988:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 20:59:27 ID:bYbkJjNr/E
―――馬車(東の領土)――――
パカラッパカラッ パカラッパカラッ
カロル「ひっ…ひっく…!」ポロポロ
マルク「クゥン」ペロペロ
アリアス「(あれからずっと泣き通しね…。おかげでロクに仮眠も取れないじゃない)」イライラ
司祭「いい加減泣き止んじゃくれんか?わしらも休みたいんじゃがな?」
カロル「ごめ…なさい…」グスッ
アリアス「外を見てみなさい?日が沈みきって真っ暗よ?」
カロル「はい…」
司祭「分かったら寝るがいい。まだ先は長いんじゃからな」
カロル「」グシグシ
カロル「…マルク、一緒に寝よっか?」ニコッ
マルク「あん!」ハッハッ
989:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 21:04:13 ID:bYbkJjNr/E
司祭「」グーグー
アリアス「」スースー
マルク「」スヤスヤ
カロル「……」ムクッ
カロル「(眠れないや…)」チラッ
キラキラ キラキラ
カロル「お星さまがいっぱい浮かんでる…キレイ…」
マルク「くぅーん…」ムクリ
カロル「あ、ごめんね。起こしちゃった?」オロオロ
マルク「うぅ…」ブンブン
カロル「ふふ。気を遣ってくれてるの?キミはホントに優しいね?」ナデナデ
マルク「」シッポフリフリ
990:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 21:05:01 ID:bYbkJjNr/E
マルク「あぅん…?」ツンツン
カロル「ボク?ボクは少し夜空を眺めてから寝るよ。マルクも気にしないでゆっくり休んで?」ニコッ
マルク「……」ジーッ
カロル「…な、なに?」キョトン
マルク「」ペロペロ
カロル「…あ、あはは。くすぐったいよ…」ニコニコ
マルク「」ペロペロ
カロル「や、やめて?おじいさま達が起きちゃうでしょ?」アセアセ
マルク「」ペロペロ
カロル「マルク…やめてって…言ってるじゃない」
マルク「」ペロペロ
カロル「もう…やめてよ。ボク…平気だから」フルフル
マルク「うぅー…」スッ
カロル「ありがとう…。でも…ホントに大丈夫だから、ね?」
マルク「くぅーん?」
カロル「心配してくれるのは嬉しいよ?でも今は慰めないで…?」ウルッ
カロル「慰められたら…思い出しちゃうよ…。止まらないんだ…」ブルブル
マルク「……」シュン
991:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 21:07:18 ID:OHenw44lQM
パカラッパカラッ パカラッパカラッ
カロル「……」
マルク「……」
カロル「…ねぇ、マルク。知ってる?」
マルク「?」
カロル「お星さまってね。ボクらを見守ってるんだよ?」
マルク「わぅ?」キョトン
カロル「おじいさまが言ってたんだ。司祭のおじいさまじゃなくて、ボクのおじいさま」
マルク「……」
カロル「死んだらみんな星に生まれ変わって…大切な人を見てるんだって?」
マルク「わんっ」マジマジ
カロル「うん、見上げてごらんよ?もしかしたら大切な相手に会えるかもよ?」ニコニコ
マルク「あぅぅん…」
カロル「見えない?ははは。ボクもだよ?」
マルク「クゥン……」
992:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 21:12:32 ID:bYbkJjNr/E
カロル「…もしもお星さまが見てるとしたら、今のボクはどう写ってるんだろう?」
マルク「……」
カロル「おじいさまは怒ってるよね。憎んでた人間と仲良くしようとしてるんだもの」
カロル「お父さまは…分からないけど、悲しんでるかも」
カロル「ボクの知らないところで起きてる何かがいろんな人を苦しめてて…。
いつの間にか変わって…どうする事もできなくて…」
カロル「村の人間たちもボクと関わらなかったら、きっと違う生き方をしてたんだろうね」
カロル「歯がゆいよ…。すごく…すごく」ギュッ
マルク「」スリスリ
カロル「ボクのせいで不幸になる人がいるのを…お星さまは全部見てるのかな?」
カロル「ボクは…誰かを幸せにできないのかな?」
カロル「不安なんだ。このままだと…お母さまや宣教師さまも不幸にしそうで」
カロル「もう誰とも離れたくない…。そうじゃないと…きっと変わってしまうもの。
不幸でも…せめて一緒に不幸になれる距離にいたいよ…」ギュッ
マルク「……」スリスリ
カロル「…ごめん。後悔してないって言ったの…ボクなのにね?」
マルク「」ウトウト
カロル「あ…大丈夫だよ?眠っていいからね?」
マルク「くぅ…」スヤ
カロル「…おやすみ」ナデリ
993:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/11/20(水) 21:27:24 ID:OHenw44lQM
中途半端ですが続きは次の更新時にスレを立てて書こうと思います。
読んでくださった方々、一度でも目を通してくださった方々、ちら見してくださった方々!
ありがとうございました!
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停止しますた。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
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