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魔王「何でイチャイチャちゅっちゅできないんだよ!」
[8] -25 -50 

1:🎏 :2012/9/14(金) 23:05:11 ID:4.MWSg5KoU
書きたいことが出来たので、以前書いてたSSの続きを書かせていただきます。
お手数おかけして申し訳ございませんが、知らない方は前作から読んだ方がいいと思います。
一応貼っておきます。前作→http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch3/1316008982/1-10

基本長いので携帯だと読めなくなる可能性があります。また、支援返レスを飛ばして読みたい方もいらっしゃると思います。
それらに該当する方は、本編とわけてまとめたので、こちらから読んでみてください。→>>981-984

注意事項は以上です。何卒よろしくお願い致します。


858:🎏 :2012/11/13(火) 23:20:43 ID:7RuR6mIcnA
いざ世界の支配者になってみると、面倒なことが多い。
片っ端から民を惨殺するつもりでいたのだが、それでは労働力がなくなってしまう。
とはいっても、連中と俺を繋ぐ要素なんて食糧の献上くらいの物だが。
父親は食料のほかに美女も要求していたようだが、俺はどうでもいい。子を残したいなんて思わねえし、男性器を突っ込みたいとも思わない。
あの辺の快楽は一人で処理すりゃそれでいいし、女は殺すに限る。死体の方がまだそそる。
とにかく、食糧問題があるから、民を無差別に殺すわけにはいかない。
昔みたいに虫や動物を殺してそのまま食べてれば、そんなことも気にせず民を殺せるという物だが、ちゃんとした食料の味を覚えてしまうとそれができない。
仕方がないから、適当に襲って怪我させるくらいで我慢するのだが、物足りない。殺さなきゃ、本物の絶望に染まる顔は造れない。
宝物も腐ってしまったから捨てた。頂点から転がり落ちた絶望に染まったあの表情は最高傑作だったんだけどな。
何て言うか、支配してしまって逆に楽しくなくなった。こんなのが俺の生まれた意味だったのだろうか。
859:🎏 :2012/11/13(火) 23:21:34 ID:7RuR6mIcnA
体の方は成長して大人も板についてきたのだが、中身はまだ子供のようだ。楽しみを失った俺は、またくだらないことを考えるようになっていた。
人は何故生きるか、そんな議題だ。知らねえよ馬鹿。
だが俺は、こんなことにも答えを欲していた。自分なりの答えでは、楽しむためだ。
楽しみがあるから、明日を望めるんだ。命を続けられるんだ。俺は笑えるんだ。
だけど今は、楽しくなくなっちまった。俺は支配者たる宿命の下に生まれたと信じてきたが、それで辿り着いた先がこれではな。
人生なんてそんなもので、楽しくない今こそが答えなのか。それとも、俺は間違っていたのか。
860:🎏 :2012/11/13(火) 23:23:18 ID:7RuR6mIcnA
突然だが、俺は父親を倒す修行の過程で魔法を身に付けた。倒すのに使ったのは一つだけだが、覚えたのは三つある。
まずは倒すのに使った魔力の放出法。これを覚え、その放出した魔力を相手に飛ばすのが低級攻撃魔法となるらしい。そう書いてあった。
その低級攻撃魔法で倒せるんだから、父親はどんだけ弱かったかって話だ。いや、俺が強すぎたか?
後の二つは移動系の魔法だ。移動魔法に浮遊魔法。世界中が俺の遊び場になるんだからと、移動に役立つ魔法を必死に覚えた。
だが、結局は大した遊び場にはならなかった。支配者になったことで、俺は楽しくなくなっちまった。
楽しいって何なんだろうな?
……ってわけで、浮遊魔法を使って集落の人間共を観察してみることにした。連中、俺に気付くと途端にわめきだすからな。
けっこういじめてやってるから、病人や怪我人がごろごろしてやがる。あー、とどめを刺してやりたい。俺なら徹底的に苦しめながら殺せるのに。
そんな連中とは違って、子どもは気が楽なもんで、何人かでなんかやって遊んでやがる。
この子ども達が笑ってやがるんだ。笑うってことは楽しいってことだろ。人も殺さず、支配するでもなく、何で笑えるんだ?
楽しいって感情にも、種類はあるのだろうか。その楽しいを間違えたからこそ、俺は今楽しくないのか。何か変な気分になってきたが、これは何だ。
考えても答えは出なかった。
861:🎏 :2012/11/13(火) 23:24:35 ID:7RuR6mIcnA
ある日のことだった。
あと何人くらいなら殺しても大丈夫か、なんて考えながら城内を歩いていると、わけのわかんねえ大穴がぽっつり開いてやがった。
「……なんだこれ?」
未知なる物に対する恐怖より、興味の方が余裕で勝った俺は、とりあえず入ってみることにした。

穴を抜けるとそこは未知なる光景だった。
見たこともない栄えた集落に、干からびた何かがごろごろ転がってやがる。
人間は糞ジジイとイケメン二人。イケメンの方はちょっと何か違和感あるけど、まあ人間だろう。
とにかく、その三人が俺を見て驚いている。よくよく聞けば爺は確か自分の城に戻るとか言ってたか。
更にはこいつら、俺を知らないときたもんだ。てめえの世界の支配者を知らねえってどういうことだ。
と思ってたら、ここは異世界だそうだ。糞ジジイは父親が追いやった魔法一族だそうで。目障りだから殺してやった。
そして俺は気付いてしまった。異世界ということは、この世界の連中をいくら殺しても構わねえってことだ。
久々に楽しくなってきた。湧き上がる快感に、思わず頬が上がる。
俺は残りのイケメン二人に襲いかかった。
862:🎏 :2012/11/13(火) 23:25:52 ID:7RuR6mIcnA
まあ結果から言えば実質負けてた。
イケメン二人組、その一方は問題なかったんだが、残りの一人が怪物でよ。
実力では足元にも及ばなかった。だけど、意外と善戦はしたんだ。
何故かって、変な性格をしてて、俺を真剣に殺そうとはしないからだ。
その気になればすぐ殺せるってくらいの実力差はあるのによ。そうしないんだよ。
でもまあそれでも苦戦は強いられてて、逆に相手に支配されんじゃねえのかってとこまできた。
なのに楽しかったんだよ。何でだろうな?支配されたらそれで楽しい人生とは離れちまうのに、俺はこれを楽しんでたんだよ。
まあ逆に支配されちまうって恐怖心もあったがな。その恐怖を払うため、俺は手段を選ばずに、形勢逆転を果たした。
でも……このままこいつを殺してしまっていいのかって疑問が生じた。結局俺は、戦いの中で芽生えた謎の楽しさを優先し、お互いの調子が良くなるまで待とうと提案した。
863:🎏 :2012/11/13(火) 23:27:13 ID:7RuR6mIcnA
戦闘でいろいろ壊したものの、この街は本当に……なんか凄い。この凄さをどう表現すればいいのか。
とにかく、俺の世界では考えられないほど栄えているこの街で俺は回復を待った。
穴が上空にあるわけだし一旦帰ってもいいかなって思ったけど、それでもし帰れなくなったら、久々に楽しいこのイベントを逃すことになって嫌だしな。
だけど回復を待ってる間は暇だ。その間に思うのはイケメン弟(俺を倒しかねない化物につけたあだ名だ)のことだった。
俺より強い奴ってのは、俺にとって脅威でしかないはずだ。何故なら俺は支配者で、誰かの命を弄ぶために生まれてきた。
そんな俺が自分より強い奴を許す道理なんてあるわけなく、手段を選ばないなら殺せるってんなら、殺すしかないだろう。実際、殺しは俺の喜びのはずだ。
だけど殺すのを勿体無いと思ってしまった。それに、俺は確かに殺すことよりも戦闘その物を楽しんでいた。ギリギリのところで命を削り合うのが本当に楽しかった。
久々だったな、あんなに楽しかったのは。でも何であんなに楽しかったんだろうか。支配・虐殺とはかけ離れた行為だったんだけどな。
考えても考えても答えは出ず、再戦の時が訪れた。まあ元々深く考えても答えの出るタイプじゃねえ。考えるより行動した方が答えが出たりする。
今は楽しもう。イケメン弟との死闘という、最高に楽しいことをして笑ってやろう。
864:🎏 :2012/11/13(火) 23:28:19 ID:7RuR6mIcnA
相変わらず舐めた考えで戦闘してくるもんだから、俺は本当にあと一歩ってとこまで追い詰めた。馬鹿が、舐めた真似すっからだ。
「終わりだなあ、イケメン弟ぉ!!命の灯が消えんとする瞬間が来たようだなあ!!」
と、怒鳴ってやった。ふざけてっからこうなるんだ。まあ俺も、強敵を倒せて興奮してたんだけどな。
「お互い残念だな。俺はもうちょっとお前という最高の玩具で遊んでいたかったし、お前は愛しいこの世界を守れなかったんだ。本当、お互い残念で仕方ねえな」
これからもう死ぬしかないであろうイケメン弟に俺はこう告げた。その瞬間、俺の中で生じた違和感に気付く。
……殺すのが大好きな俺が、何故こいつを殺すのを残念がってんだ?
こいつと戦うのが楽しいからか?でも殺すのが楽しい俺にとって、こういう強敵を無念の中で殺すことこそが楽しみだったんじゃなかったのか?
くそ、イケメン弟と出会ってから、どうも俺の様子がおかしい。俺という存在がわからなくなっている。
俺は、このイケメン弟をどうしたいんだ?
865:🎏 :2012/11/13(火) 23:29:35 ID:7RuR6mIcnA
俺に僅かでも迷いが生じた上、イケメン弟が最後にとんでもない隠し玉を披露したことで、間もなく俺は敗北した。
正直あの時のことはよく覚えてない。気がつけば、全身を焼かれるような感覚に襲われ、痛い以外の思考が消え去った。
そうして俺は気を失って……

気がつけば俺の城に戻ってた。お互い死んだと思ってたけど、どうやらイケメン弟は生き残ったみたいで、更には俺まで回復しちまったようだ。
いつか見た魔道書に載ってた回復魔法ってやつだろうか。すげえ効能だな。
ただ、俺の驚きは別のとこにあった。自分を殺しかけた俺を助けたんだ、こいつは。
衝撃だった。自分と違う別の人間は支配し壊すだけの存在と思ってた俺にとって、助けるなんて選択はなかったんだ。
しかしこいつは俺を助けた。馬鹿な、どういう意図があってこんなことを。
そう思ってるとイケメン弟は俺の心を見透かしたかのように、俺をどうしたいのかを説明し始めた。
866:🎏 :2012/11/13(火) 23:31:06 ID:7RuR6mIcnA
「これから一緒に探してみようよ!皆で一緒に楽しめる方法!異界王だって変われるよ!大丈夫、変われるまで俺も協力するよ!」
……イケメン弟の意見をまとめるとこうなる。奴は俺に変わってほしいようだ。
俺が支配者でいる以上、俺以外の人間は絶望に染まることになる。それは当然他の奴は楽しむことなく死んでいくってことだ。
だけどイケメン弟は、絶望を楽しむのをやめろと言う。新しい楽しみを皆で分かち合おうと言う。馬鹿じゃねえのか、等と思ったが、どうやら俺の本音は別にあるみたいだ。
考えても考えてもわからなかった答えがもしかしたらわかっちまったかもしれない。
俺は、いつの日か観察した子ども達が羨ましかったのかもしれない。
俺は愛情という物を受け取ったことがない。いつも一人で、誰かと何かを共有したことなんてなかった。
だから誰かと一緒に何かをやってみたかったのかもしれない。柄にもなく誰かの愛情が欲しかったのかもしれない。
だからこいつと真剣勝負をした時、心から楽しめたのかもしれない。戦いの中で、確かにこいつは俺を想ってくれていた。今ならわかる。俺はそれが嬉しかった。
確証はねえが、たぶんそういうことなんだろうな。こうして考えてみると、本当に俺ってやつは子どもだ。

俺は、こういう「楽しい」も望んでいたんだろうな。一人じゃ決してわからなかったんだろうが、こいつがわからせてくれた。
「……負けだなあ。俺の負けだ、参ったよ」
ぽつりと呟いた。本音だ。戦いはもちろん、いろんな意味で俺は負けた。
867:🎏 :2012/11/13(火) 23:32:32 ID:7RuR6mIcnA
イケメン弟が俺を受け入れ、外に出ようと言い出した。
俺をこれから変えていくから許してくれって民に伝えるつもりらしい。
やれやれ、なんて呟きながら奴についていこうとした時、俺の脳裏にはある物が浮かんだ。
それは、今まで殺してきた全ての者達の苦痛の表情。かつて最高傑作とまで謳った父親のそれも混ざっている。
これらはかつて、俺が楽しんでいった作品達だ。でも、今はどうだろうか。自分の本音に気付かせて貰って、愛情を以て誰かと接しようと思った今、改めてこいつらを見る。
怖い。楽しかった殺しが、好きだった絶望が、今はたまらなく怖いのだ。俺は間もなく自問自答に苛まされた。

これほどの人間を殺してきた俺が、今更民に受け入れてもらえるのか?
自分だけが楽しむために多くを奪ってきた俺が、今後誰かの楽しさを分けてもらうことが許されるのか?

……悪いな、イケメン弟。お前が示す新しい明日を俺は迎えることはできなさそうだ。
民は納得しないだろうし、仮に納得しても俺が怖いんだ。俺は支配者をやめることはできなさそうだ。
868:🎏 :2012/11/13(火) 23:33:40 ID:7RuR6mIcnA
立ち止まっていると、イケメン弟がそれに気づいて問いかけてきた。
「……どしたの?何で動かないの?まだ体痛い?」
体はもう痛くねえよ、おかげさまでな。ただ、変なことを言わせてもらうと、心が痛いんだよ。
もう俺は支配者をやめることができないんだ。愛情を望むことができないんだ。怖いからよ。
そんな状況で明日が来るのは怖いんだ。だからよ、終止符ってやつを打とうかと思う。
「忘れたのかよ、イケメン弟。俺の負ける時ってのは、俺が死ぬ時だけだぜ」
そう言って、俺は自分の首を掴んだ。
支配者として生き、多くを奪ってきた。そんな俺が最後に奪うのは、てめえの命と理想かもしれねえ明日だ。
不思議と躊躇いはなかった。殺すのは慣れてたからかな。ただ、今までの殺しとは違って楽しくもねえし、笑えなかった。
死に際の表情ってやつが好きなんだけど、今回の場合はどんな表情かもわかんねえしな。
869:🎏 :2012/11/13(火) 23:34:25 ID:7RuR6mIcnA
ただ。
薄れゆく意識の中で最期に見たのは。
こんな俺の死すら悲しんでくれてるイケメン弟の泣き顔だった。
たぶんそれには愛情ってやつがあったと思う。最高傑作が父親からそれに変わった。
最期の最期でこんなのが見れるなんてよ。腐ってたけど、悪い人生ではなかったんじゃねえのか。

ありがとうな、イケメン弟。

最期に笑って、俺はただの肉塊となった。
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