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3センチメンタル・ヤング・ピーポー【2】
[8] -25 -50 

1: ◆UTA.....5w:2012/7/31(火) 17:25:45 ID:N3rkjbtVuM


高校生の馬鹿馬鹿しくて、

ちょっぴりセンチメンタルな

青春グラフィティ───続行。


【前スレ目次】
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch3/1327757079/993-995

【登場人物】
>>2-3

【当スレ目次】
>>768-769


276: ◆UTA.....5w:2012/10/10(水) 19:01:05 ID:xQN70T9RIM

帰宅してから、ハルがそわそわと落ち着かない。ソファに落ち着いたと思ったらすぐに立ち上がり、冷蔵庫を開けては何も取らずに閉める。

そんな事を繰り返し、気付けば外は薄らと月が顔を覗かせていた。

「……何してんの?」

「へっ?何って、何が?」

「いや、だから……何してんの?」

業を煮やすようなハルの行動に、我慢が出来ずに口を挟む。

何でもない、と顔の前で両手を振る様は、とてもじゃないけどそうは思えなかった。

「ちょっと落ち着こうよ、お兄ちゃん」

そんなハルを見て、思わず苦笑する。

ハルが隣に腰を下ろしたのは、それから数分も経ってからだった。


277: ◆UTA.....5w:2012/10/10(水) 19:05:52 ID:hcR50Jf2HA

「はい、どうぞ」

マグカップの中に、溢れんばかりのホットミルク。
差し出したのは俺。

「ありがと」

「どう致しましてー」

砂糖の甘い香りがリビングに充満する。
隣にはミルクに息を吹き掛けて、ひいひい声を洩らすハル。窓の外に舞う白い雪。

まるで、あの日がフラッシュバックを起こしているようだ。

「うーん、砂糖入れすぎたかな」

こういう類のものを出してくれるのはいつもハルの方だから、いまいち勝手が分からない。いつもより甘いホットミルクに、無意識にしかめっ面で首を捻る。

ハルは何も返さず、湯気を掻き分けるようにして息を吐き続けていた。
何か考え事でもしているのだろうか。その表情は何処か迷いを生じているようにも見える。


278: ◆UTA.....5w:2012/10/10(水) 19:08:45 ID:xQN70T9RIM

「あの、さ……」

頼りなく湯気の立つカップの中を覗きながら、ハルが言う。

「何?」

「その……」

何かを切り出そうとはしているものの、ハルの態度は煮え切らない。

「言いたい事があるならはっきり言ってよ」

さっきからハルが頻りに時計を気にしていた事には、早い段階から気付いていた。

それから、その理由にも。

「ナツに話があるって言われたんだ」

「それで?」

「大事な話なんだって、言われた」

しん、と静まり返るリビングに、時計の音がカチカチと響く。秒針よりも早い俺の鼓動は指先まで渡り、ホットミルクを揺らした。

俯くハルに身体を向けて、俺はまた嘘を吐く。

「それって告白?やるじゃん、ハル!」


279: ◆UTA.....5w:2012/10/10(水) 19:10:06 ID:hcR50Jf2HA

へらへらと笑う俺とは対照に、ハルの表情は真面目だった。

「ハルを選ぶとは、ナツもなかなか見る目があるね」

なんで。なんで。なんで──

渦巻く本音を押し潰して、からかうようにハルを小突く。

クリスマスだから忙しいのだろうか。もう随分暗くなってるというのに、パートに行っている母さんが帰って来る気配もない。
時計を見ると、まだ夜と呼ぶにも相応しくない時間だった。つまりは父さんの帰宅も望みがないという事だ。

こんな時に限って、逃げ場がないなんて。

「……アキ、」

マグカップをテーブルに置いて、ハルが俺に向き直る。
カップから離れたハルの手は、行き場を失って服の裾を弄んだ。

「ナツ、家で待ってるよ」

「は?」

頭の中に大きな疑問符が浮かぶ。

いくらマイペースとはいえ、予想の斜め上を行くハルの発言に開いた口が塞がらない。


280: ◆UTA.....5w:2012/10/10(水) 19:14:39 ID:hcR50Jf2HA

話があると呼び出されたのは俺じゃなく、ハルだ。

「何言ってんの。ナツが待ってるのはハルでしょ」

何を馬鹿な事を、と渇いた笑いを浮かべるも、ハルの表情は変わらない。
ぎゅっと口を結んで俺を見据えた真っ直ぐな目は、何かをずっと訴え掛けている。

「外は雪が降ってるから家に居てって言ったんだ。だから──」

へらり、間抜けな笑顔でハルは言った。

「行きなよ、アキ」

ふんわり柔らかい、お月様のような優しい笑顔。ハルの武器を前にしても、どうでもいいなんて思えなかった。

「……何、言ってるんだよ」

気付けばもう、お互いの表情に笑顔はなかった。

ハルの本音は分かっているのだ。
二人の重みに沈むソファが、あの日の事を鮮明に思い出させる。


──ハルは夏、好き?


あの質問の答えを、俺は忘れてなんかいない。


281: ◆UTA.....5w:2012/10/10(水) 19:23:08 ID:xQN70T9RIM

「ナツが何の話をしたいのか、ハルは分かってるんでしょ?」

俺の問いかけに、ハルは首を縦に振る。

「だったら、」

早く行ってやればいいじゃないか。俺が言うより先に、ハルが前のめりに遮った。

「それでいいの?」

ハルの硝子玉のような澄んだ瞳は、まるで全てを見透かすように真っ直ぐに俺を捕えていた。
溢れだしてしまいそうな感情に無理矢理蓋をして、一瞥を投げる。

ハルは一体何を訊いている?

一体俺に、何を言わせたいというのだろう。

ぐるぐる回る思考回路は、ハルの一言であっさりとその動きを止める事になった。


「本当は好きなんでしょ、ナツの事」


282: ◆UTA.....5w:2012/10/10(水) 19:25:16 ID:hcR50Jf2HA

まるで時間が止まってしまったかのような感覚に襲われたその刹那、ハルは切なげに眉を寄せて微笑んでみせた。
そして、何も言葉を発する事が出来ないでいる俺に、諭すような口調で言い放った。

「本当は気付いてたんだ、ずっと前から」

俺は漸く理解した。

気付いていない振りをしていたのは、俺だけじゃなかったのだ。
バランスが崩れる事を恐れて全てから目を背け、何も知らない馬鹿な自分を演じていたのは。

ハルも、同じだった。

まるで、ジェンガのように積み重ねられた感情のパーツ。それを抜き取ってはまた重ねて、何とかバランスを保っていた。
けれど、だからといってこのゲームを終わらせる術を知らずに、アンバランスなタワーは今にも倒れそうな程に頼りなく揺れたまま。


283: ◆UTA.....5w:2012/10/10(水) 19:25:59 ID:xQN70T9RIM

完璧に演じていたと思っていた仲の良い弟と、ただの幼馴染み。
バランスを崩したタワーは、ハルの一言でいとも容易く崩れ落ちた。

ゲームオーバーを言い渡された俺に残っているものは、圧倒的な敗北感。
欺瞞に満ちた仮面を剥がされて、俺はただ笑うしかなかった。

「ああ、そう。それで?」

「え?」

「俺を行かせてどうしたいの?こっぴどく振られてこいって?ナツが好きなのはハルだって、全部分かってるのに?」

ハルの瞳が大きく揺れる。傷付いた、とでも言いたげな表情で唇を噛みしめて声を荒げた。

「違うよ!」

「何が違うんだよ!!」

ハルのそれよりも大きく、俺の声がリビングに響く。
荒々しくテーブルに置いたカップから温かい乳白色が音を立てて零れた。

どうしてハルが、そんな顔をするの。
まるで、鏡でも見ているかのような瓜二つの顔は、今にも泣き出しそうに歪んでいた。


284: ◆UTA.....5w:2012/10/10(水) 19:27:52 ID:hcR50Jf2HA

「だからずっと正反対に生きてきたのに……なんで、今更……」

鼻の奥がツンとするのをぐっと堪える。

発した言葉が震える辺り、きっと今の俺はハルと同じ顔をしているんだろう。

「なんで最後まで気付いてない振りしてくれないんだよ!」

「アキっ……!」

椅子に掛かったコートを乱暴に掴んで、そのまま外に駆け出す。

冷たい風が肌に刺さって痛い。胸がぎゅっと締め付けられるのは、きっと寒さの所為に違いない。

雪は今だに降り続いていて、アスファルトは今にも白に飲み込まれてしまいそうだ。
冷たいし濡れるし、良いところなんて何もない。こんなもの、綺麗だなんて思える訳がない。
目眩い明滅を繰り返すイルミネーションも、カラフルに飾られたツリーも、綺麗だなんて思わない。

俺とハルが同じ感性を持つ筈がないんだ。
今までだって、ずっとそうしてきたじゃないか。
そうやってずっと、他人を欺いてきたじゃないか。


285: ◆UTA.....5w:2012/10/10(水) 19:31:50 ID:xQN70T9RIM

本当は、本を読むのが好きだった。季節毎に色を変える鮮やかな景色が好きだった。
世界に彩りを加える春の花も、差すような夏の太陽も、優しく落ちる秋の月明かりも、光に反射する冬の雪も、全部。

全部、好きだったのに。

幼い頃は共有出来ていたであろうその感性は、成長するにつれて俺に重くのしかかった。
常に付き纏う双子の兄。いつしか俺の先を行くそっくりな別物に覚えたのは、紛れもない劣等感。

そうして、俺はハルを避けたのだ。
比べられる事がないように。勝ち目のない勝負には挑まないように。

他人を欺いて、欺いて。
自分でも忘れてしまう程に、俺は嘘を重ねていったのだ。


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