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3センチメンタル・ヤング・ピーポー【2】
[8] -25 -50 

1: ◆UTA.....5w:2012/7/31(火) 17:25:45 ID:N3rkjbtVuM


高校生の馬鹿馬鹿しくて、

ちょっぴりセンチメンタルな

青春グラフィティ───続行。


【前スレ目次】
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch3/1327757079/993-995

【登場人物】
>>2-3

【当スレ目次】
>>768-769


240: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 00:38:37 ID:.KubV4gQ6k

ハルに対して、劣等感を覚えていないと言ったら嘘になる。

いつも比べられては嫌気が差していたけれど、一番意識していたのは紛れもなく俺自身だった。


「双子なのに、全然違うね」


そんな事、自分が一番分かってる。

ハルは幼い頃に小児喘息を拗らせて以来、すっかり病弱になってしまった。母さんはいつもハルを気に掛けていたし、風邪を引こうものならすぐさま病院へ車を走らせた。
運動神経だけが取り柄な俺とは対照的に、柔和に、穏健に成長していった。


「本当にそっくりだよね、顔だけは」


だから、ナツが言った事に間違いなんて一つもない。

生まれた時から俺とハルは、そっくりなマスクを被っただけの別の何かだった。


241: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:08:06 ID:.KubV4gQ6k

中学に入ってすぐに陸上部に入ったけれど、長続きもせずにすぐに辞めた。
別に、最初から走る事は好きじゃなかった。

勉強も、感性も、人柄も。何をとっても適わないハルが、唯一出来ない事だったから。
陸上部に入ったのは、ただそれだけの理由だった。

母親の愛情、学校での人脈、彼女の心──俺の欲しいものを全部手に入れたハルへの、単なる当て付けだった。

ハルはきっと、こんな事を考えたりはしないんだろう。

「……俺は春なんか好きじゃない」

街路樹の葉はもうすっかり色を失い、風に吹かれてカサカサと音を立てている。道端に落ちている枯れ葉に目を向ける人なんて、何処にもいない。
切り落とされた頼りない枝を露にして、春が来るのを待つばかり。

皆、春を待ってる。


242: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:10:05 ID:i4x93x/JA6

「アキはどの季節が一番好き?」

リビングのソファに寝転がっている俺の足元に腰を掛けて、ハルは訊ねた。
録画したテレビ番組では、芸能人が屋外の温泉に浸かりながら赤裸々に本音を語り合っている。

「何、いきなり」

「もう冬になるなぁと思って」

ふーん、と一言返して、画面に視線を送る。白濁の温泉からは目まぐるしく白い湯気が立ち込めていた。
CMに入ったのを見届けて、リモコンに手を伸ばしながら横目にハルを見る。

「寒いのは嫌かなー」

「じゃあ、暑いのは?」

早送りされている画面からの音はなく、妙な沈黙がやけに重い。

「……夏、って事?」

視界の片隅でハルが小さく動いたのが見えた。

「うん、そう」


243: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:30:39 ID:.KubV4gQ6k

ひくり、と渇いた喉が引き攣ったのをハルは気付いただろうか。

平静を装ってみたけれど、再生ボタンが上手く押せない。漸く再生した頃には、とうに温泉のシーンは終わり、スタジオに切り替わっていた。

「あーあ、何やってんの」

ハルが笑ってソファに身体を沈める。

「いいの。温泉入ってるとこなんか見ても面白くないし」

「あはは、芸能人の本音見せる番組なのに、そこ飛ばしちゃ意味ないじゃん」

何がそんなに面白いのか、スタジオの芸能人達は随分楽しそうに笑っていた。
一体、何人の人が心の底から可笑しいと感じているんだろう。皆、貼りつけたような笑顔で手を叩いて。

「別に芸能人の本音なんてどうでもいいや」

だけど、生憎俺が知りたいのは芸能人の本音なんかじゃない。

「……で、ハルはどうなの?」

「へ?何が?」

テーブルの上のスナック菓子に手を伸ばそうとしていたハルは、唐突に振られた話題にきょとんと首を傾げた。

なるべく素っ気なく、興味もなさげに俺は言う。

「ハルは夏、好き?」

こんな子供みたいな駆け引きで本音を探ろうなんて、俺もどうかしてる。

先に仕掛けてきたのはハルだ。
頭の中で呪文のように繰り返し言い訳をしながら、息を呑んで返事を待った。

それで何が得られるとも限らないのに。


244: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:31:14 ID:i4x93x/JA6

 ***


「見て見て!雪降ってる!」

下足室から外を指差して、ナツは声を上げてはしゃいだ。

どんよりとした灰色の空から、綿のような白い雪がはらはらと降りてゆく。

「えー……傘持ってないよ、俺」

「私も持ってなーい。濡れるのやだなー」

言いながら、ナツは両手を広げて空を仰いだ。

嫌がっている割に、彼女の行動は存外楽しそうに感じるんだけど。

「……まあ、いっか」

いつ止むかも分からないのに、此処でじっとしていても仕方ない。雨に変わってしまっても厄介だし、不本意ではあるけれどさっさと帰るのが得策だろう。

「ひえ、冷たっ」

決心をしてから第一歩。下足室から足を踏み出した途端に鼻先で雪が弾ける。
氷の粒は一瞬にして熱に溶けてはくれたものの、冷たい風が追い打ちを掛けるように、びゅう、と俺を痛め付けた。


245: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:31:50 ID:i4x93x/JA6

「情けない声出さないでよね、もう」

「うー……だって、寒くて……」

つい先月までは肌寒いと感じるだけで済んでいたのに、十二月に入った途端に雪だなんて。

申し訳程度に着ている薄いセーターは、全く機能してくれていない。こんな事ならもっと着込んでくるんだった。

「十二月といえばもう冬でしょ。なんでコートもマフラーもなしなのよ」

「ごわごわするじゃん」

「そんな事言ってたら風邪引くよ?ハル、みたいにさ」

ナツの表情が僅かに陰る。

「大丈夫大丈夫、俺はハルみたいに弱くないから……っくしゅん!」

「ほら、言わんこっちゃない」

直後にまた風が吹いて、何とも間抜けなくしゃみをしてしまった。


246: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:32:36 ID:i4x93x/JA6

「前に二人の似てるとこ、顔だけって言ったけど一つ追加」

「一つって、なに──」

首元にナツの腕が回る。ひんやり冷たい手が触れて、ぴくりと身体が硬直した。

「ちょっと馬鹿なとこ!」

ナツが触れた、首元がじんわり暖かい。

ナツは満足気に頷いて、後ろで結んだマフラーをぽんぽん叩いた。彼女の温もりを吸い込んだオレンジ色のマフラーが、冷えきった俺の身体を包み込んでゆく。

「いいよ、こんな……ナツだって寒いでしょ」

「ほら、私って名前も誕生日も夏の子だし。冬の寒さなんて吹き飛ばしちゃいますよ」

「でも、」

「あーもう煩い!人の親切は素直に受け取ってよね」

でも、だってと食い下がっても、いいの、と半ば強引に振り切られる。この押し問答は完全に俺の負けとなってしまった。

男としてのプライドが……なんて独りごちてはみたけれど、首に巻き付けられたマフラーは確かに暖かい。

大人しくマフラーに鼻を埋めると、ふわりとナツの匂いがした。


247: ◆UTA.....5w:2012/9/25(火) 01:34:04 ID:i4x93x/JA6

「雪って綺麗だよね」

空を仰ぎながら、ナツが言う。

「そう?冷たいし濡れるし、良いとこなしじゃん」

釣られて俺も空を仰ぐ。

真っ白な雪は水気を含んでいて、灰色の空と合わせて見るとまるで埃のようだった。

「えー、綺麗だよ。ハルも見てるかなぁ」

「高熱で倒れてるから、それどころじゃないかもね」

俺はさらっと嘘を吐いた。きっと、ハルは見てるに違いない。

高熱で寝込んでしまったのは本当だけど、今朝は幾分か調子が良さそうだった。本当は今日だって、学校で熱が上がったら大変だと、母さんが心配して休ませたのだ。

「そっか。ハルならきっと喜ぶと思うんだけどなぁ」

残念そうに呟くナツを、そろりと横目に見る。

しとしとと雨のように降る雪は、ナツの頬に落ちては細かく弾けて水の粒に変わっていった。流れるようなナツの髪に、弾けた粒が反射する。

「……やっぱり綺麗かも、雪」

ぽつりと一つ呟いて、同時に嫌悪感が込み上げる。
下らない嘘を吐いて、俺は一体何がしたいんだろう。二人きりで登下校出来るだなんて、心を踊らせたりして。

どうやったって、ナツの心からハルを消せやしないのに。

「アキ?」

眉を寄せて黙りこくる俺を、ナツは小首を軽く傾げて不思議そうに見ていた。


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