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出会う感情の名は、
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1: 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:19:06 ID:f4A63ChN1o
男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」

住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。

辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。

灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。

男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」

散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。


537:
◆b.qRGRPvDc:2012/1/11(水) 23:32:45 ID:7sLdf6eHp.
今回は此処までとさせて頂きます。いよいよ>>505さんが導いて下さったラストが迫って参りました!

>>530
支援ありがとうございます!
ノエルーー!!
こんなにも皆さんからの書き込みでノエルの名を呼んで頂けるなんて、本当に嬉しいです。泣いてもいいでしょうか?

真面目で丁寧…恐らく、本当の私をご覧になったら驚かれる事でしょうね。私も530さん大好きです(´;ω;`)


>>531
支援ありがとうございます!
このSSを書き始めて早三ヶ月。沢山の支援を頂けて本当に幸せでした。長々と続いてしまいましたが、もう少しだけお付き合い下さい(´・ω・`)
538: 505:2012/1/12(木) 07:16:05 ID:YTr0jUTa5.
(;Д;)ノシ ここだ!!ここまで来い!!
全員へ
っハッピーエンドと幸せ
539: 名無しさん@読者の声:2012/1/12(木) 10:29:40 ID:rGeVyfef4c
最後の支援になりそうだな

>>1にも、登場人物全員も幸あれ!!

540: 名無しさん@読者の声:2012/1/12(木) 20:21:33 ID:IldJR.WcpI
このSS大好きだよ
もう終わると思うと本当に辛い…
皆幸せになれ!(;ω;)っCCCCC
541: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 17:47:48 ID:TxKS0SpfWQ




弟「姉ちゃーん、これ何処に置けばいいの?」

ずっしりと、見るからに重量のありそうな段ボールを両手で抱え、弟が問う。その後ろで、かつてのクラスメイトである友が、息を切らせて壁に寄り掛かっていた。

女「はいはーい!ごめんねぇ、こっちに持って来てくれるかな」

真新しい壁紙に、まだ下ろしたてのように綺麗なフローリングの室内。その奥からひょっこりと顔を出した姉が、二人に向かって手招きをした。


542: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 17:55:32 ID:p0f38hIIa.

友「うひぃー…弟、俺もう駄目。腰がやられそう」

弟「お前の体力の無さにはガッカリだよ、友」

酷い!と悲痛の叫びを上げる友の声を背に、弟はせっせと姉の居る部屋へ荷物を運んだ。

どさり。
段ボールを床に置いた弟は、腰に手を当て身体を反らせる。友にああは言ったものの、重い荷物を持つのは腰にくるものだ。


543: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 18:15:01 ID:TxKS0SpfWQ

女「ありがとー!弟くん達が手伝ってくれて、本当助かる。自分達で引っ越しって結構大変──」

弟「姉ちゃん、走っちゃ駄目でしょ」

小走りで駆け寄る姉を、溜息混じりに弟が制止する。今となっては随分と目立つ、小さな命を宿したお腹を擦りながら、ちぇっと姉が口を尖らせた。

女「でも、転びそうになったら弟くん、抱き抱えてくれよね?」

当然、とでも言うように上目遣いの姉が笑う。


544: ◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 18:18:51 ID:p0f38hIIa.

姉ちゃんの台詞ミス…orz

×抱き抱えてくれよね?
○抱き抱えてくれるよね?


545: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 18:33:00 ID:TxKS0SpfWQ

弟「はぁ…頭痛くなってきた」

弟は苦笑しながら、子供のような笑顔で笑う姉を見下ろした。
これでも一度三途の川を渡りかけているのだから、放っておきたくともそうはいかない。

奇跡のような復活劇から数年が経ち、弟は青年へ、姉はすっかり大人の女性へと成長を遂げた。姉に至っては男との長い交際の末に幸せを掴み、母親になろうとしている。
安定期に入ってからも悪阻が続いた姉は、予定日まで残すところ後二ヶ月程になってようやく落ち着き、それからひと月。繰り下げてきた引っ越しを慌ただしく始め、弟と友は手伝いに駆り出されたのだった。


546: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 18:47:56 ID:TxKS0SpfWQ

弟「……折角助かった命なんだから、もっと大事にしなよ」

女「そうね、また弟くんが気絶しながら泣いちゃうと困るし」

じと、と弟が姉を睨むと、逃げるように段ボールから小物類を取り出し、整理し始めた。

弟「人が覚えてないのをいい事に、いつまでも引っ張るなよな」

また一つ、弟の口から溜め息が洩れる。


547: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 19:07:37 ID:TxKS0SpfWQ

姉が危篤状態に陥ったあの晩の事を、弟は全く覚えてはいなかった。病室を出され、気が付いた時には見慣れない天井が其処にはあった。
幼い子供には余りにもショックが大きかったのだろう。気を失った弟は引き付けを起こし、眠りながら涙を流していたのだと、目が覚めた時に母親に説明された。

何か、大事な事を忘れている気がする。そうは思えど、やはり何も思い出す事はなかった。
それから数年、事ある毎に話題にされては笑われる事に、弟はほとほと困り果てていた。

弟「まったく…小学生の時の話を何度も持ち出されちゃ堪ったもんじゃないよ」


548: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 19:21:26 ID:p0f38hIIa.

女「はいはい……あ、」

弟の様子を気にも止めていない様子の姉は、段ボールの中から一冊のアルバムを取り出して手を止めた。
桃色の刺繍が施されたアルバムの表紙には、真新しい赤ん坊のワッペンが縫い付けられている。穏やかな母親の表情を浮かべて、まだ見ぬ我が子の成長に胸を膨らませていた。

女「沢山思い出作ろうね、めぐちゃん」

「……めぐちゃん?」

首を傾げる弟に、お腹に手を添えた姉がにこやかに頷いた。


549: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 19:39:47 ID:TxKS0SpfWQ

女「この子の名前、もう決めてあるの。愛と書いて、めぐみ。沢山の愛に囲まれて、この子は生きていくのよ」

素敵でしょう。そう言って笑う姉は、昔も今も変わらず“夢見る乙女”の顔をしていた。

弟「……いい名前だとは思うけど、男が産まれたらどうすんの」

女「その心配は無用よ、弟くん!この子は女の子って、ほぼ確定してるんだから。知ってる?最近のエコー写真って凄いのよ」

胸を反らした姉が、ちっちっ、と偉そうに指を振った。


550: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 19:50:57 ID:TxKS0SpfWQ

男「女の子は男の子と違って判断が難しいって言ってるのに、女ちゃん全然聞いてくれないんだよ」

苦笑しながら、荷物を持った男が部屋に入る。その手に持たれた荷物に、弟の視線は釘付けになった。布を被せられた、四角いもの。厚みからすると、昔から絵を描く事を趣味としている、姉が描いた絵なのだろうか。

何故だか胸がざわざわと騒ぎだす。廊下から助けを呼ぶ友の声が聞こえるのも構わず、弟の心はその布の向こう側への興味で一杯だった。


551: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 20:10:29 ID:p0f38hIIa.

ふと、何処からか流れるメロディが室内に居る弟達の耳を突いた。随分と聞き慣れたメロディは、弟の胸を強く鷲掴む。どうしてだか、今日は泣きたくなる程に切なく感じた。

男「大変だ、急がないと夜になる!弟くん、手伝って貰っている身で悪いけど荷物だけでも急いで中に入れよう」

バタバタと慌ただしく、男の足音が遠ざかってゆく。弟は生返事をして、壁に立て掛けられた四角いものを凝視した。


552: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 20:30:15 ID:TxKS0SpfWQ

女「これが気になるの?」

弟の様子に気が付いた姉が、重たそうにお腹を抱えながら横に立った。返事のない弟に首を傾げながら、結び目を解いて布に手を掛ける。

女「入院中に描いたものなんだけど、実はよく覚えてないし不思議なのよね。描いてた事自体は覚えてるのに、誰がモデルなのかも分からないし…」

するする、と布が擦れる音と共に、キャンバスに描かれた絵が露になった。
其処へ描かれた人物を目にして、弟の心臓は激しく脈打ち、戦慄した。


553: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 20:52:06 ID:p0f38hIIa.

キャンバスに描かれていたのは、一人の少女だった。青みがかった紫色の花畑の中、ワンピースを着たロングヘアーの少女の姿。
さらさらと流れるような黒髪と黒目がちな瞳は、まるで其処に居るかのように輝きを放ち、弟に語り掛けているようだった。

女「男くんも知らないって言うの。誰かにあげる気にもなれなくてさ……弟くん、何か知らない?」

弟は暫く絵の中の少女を見つめ、小さく首を横に振った。

弟「……知らない。入院中は姉ちゃん、こそこそ描いてたしね」


554: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 21:12:16 ID:TxKS0SpfWQ

女「だ、だって、弟くん怒るんだもん。毎日叱られてたら、こそこそしたくもなるっていうか…」

ゴニョゴニョと姉がぼやく声を聞き流しながら、弟はキャンバスから視線を外す事が出来ないでいた。
見覚えのない少女の筈なのに、何処かで会った事があるような気がする。胸を締め付けられるような、痛みにも似た感覚。

何処かで感じた事がある。何かを忘れている。
──この少女は一体、誰なのだろう。


555: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 21:38:12 ID:p0f38hIIa.

ふと、少女の足元に広がる青紫色の花に目を奪われた。美しい青みがかった紫が、少女を包み込むようにキャンバスに敷き詰められている。

弟「姉ちゃん、この花は何?」

女「ああ、この花なら分かるわよ。とても切ない花なの」

姉が得意げに腕組みをして、ふふん、と鼻を鳴らしてみせた。

女「この花はね、勿忘草って言うのよ。花言葉が三つあるの」

へえ、と頷きながら、吸い寄せられるようにキャンバスに手を伸ばす。その瞬間、弟の頬を暖かい風が優しく掠めた。
ふわり、ふわり、と風に乗せられ、何処からか声が聞こえた気がする。


556: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 21:41:38 ID:p0f38hIIa.

「この花の花言葉はね、」


 ──私に関わらない方がいい。


「“真実の友情”、」


 ──ともだち…?


「“誠の愛”、」


 ──私も君が好きだ。


「それから……」



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