2chまとめサイトモバイル

2chまとめサイトモバイル 掲示板
出会う感情の名は、
[8] -25 -50 

1: 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:19:06 ID:f4A63ChN1o
男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」

住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。

辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。

灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。

男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」

散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。


461: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 21:01:19 ID:JiCQdQcUTY

疎らになっていく人の影から、ちらちらとノエルの姿が見え隠れする。すぐにでもノエルの傍に駆け寄って声を掛けたい、そう思っていた筈の弟の足は止まってしまっていた。

「電話したら来てくれるって」
「そう、よかったわ。いつまでもこんなものがあったらおっかないものね…」

ノエルは猫の前に腰を下ろし、何かを語り掛けていた。血塗れの猫に臆する事なく、少女が近寄り声を掛ける。弟ですら思わず足を止めたこの状況を、周りの大人達は気にも留めていない。
こんなにも奇妙な状況があるのだろうか。弟は、言いようのない複雑な思いでその様子を伺った。


462: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 21:34:06 ID:JiCQdQcUTY

ノエルの白い手が横たわる猫の亡骸に、そっと触れる。労るように猫の体躯を滑るその手には、まだ乾ききらない血の赤は一滴も付いていない。

弟(ノエル…?一体、何を……)

ノエルの異常な行動に弟は息を呑んだ。気味が悪いとさえ思えるその姿は、寧ろ神々しく弟の目に映った。

ノエル「お迎えだよ。さあ、行こうか」

ぼそぼそと語り掛ける中、その言葉だけがはっきりと弟の耳を突いた。身を乗り出すように覗き込んだ弟は、驚きに目を見開いた。


463: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 21:55:12 ID:JiCQdQcUTY

ノエルが手を滑らせた場所から、黄金色の光の粒が溢れた。その光は猫の亡骸を包み込み、サラサラと流れるように消えてゆく。
キラキラと美しい輝きに、弟も目を眩ませた。

弟「ノエル……」

前に立っていた女性が一人、弟の声に気付いて怪訝な顔で振り返った。こんなにもまばゆい明滅に、目を細める事もしていない。
弟は胸がざわめくのを感じた。

──何だか、酷く嫌な予感がする。


464: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 22:17:04 ID:JiCQdQcUTY

弟「ノエル、ノエル…っ」

友「本当にどうしたんだよ。何かあんの?」

ふらふらと、覚束ない足取りで人集りに近付いて行く弟を制止したのは、やはりクラスメイトだった。振り返った弟は、今にも泣き出しそうな顔で瞳を揺らしている。

弟「友にはあれが見えないの?」

友「あれ?…って、どれ?猫の死体なら、もう…」

弟「違うよ!!」


465: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 22:41:30 ID:JiCQdQcUTY

弟が声を荒げると、周りの視線が一斉に集中した。じわりと嫌な汗が手の平に滲むのを感じる。
振り返る大人達と、クラスメイトの表情を見れば分かる。弟の予感は的中した。

誰にも、あの光は見えていない。

友「なあ、どうしちゃったんだよー…怖い事言うなよなー」

弟「…なんで!其処に居るじゃないか!猫が光って…」


466: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 22:59:20 ID:JiCQdQcUTY

しん、と静まり返る路地に、ノエルの姿は何処にもない。先程と何ら変わりのない猫の亡骸が其処にはあった。濡れた血はすっかり固まり、茶色く変化している。

弟「あ、れ…?ノエル…ノエルは、」

きょろきょろと辺りを見回す弟の肩に、ポン、とクラスメイトの手が乗せられた。小さく溜め息を吐きながら苦笑するその表情は、呆れたと言っているようにも見える。

友「何もないってば。本当に疲れてんじゃない?」


467: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 23:27:31 ID:JiCQdQcUTY

そんな筈はない。確かにこの目で見たのだ。あんなに焦がれていた彼女の姿を、その鈴の音を、間違える筈がない。
馬鹿にするように笑うクラスメイトに、弟は下唇を噛んだ。

友「──じゃあ、またな!」

弟「うん、またね」

クラスメイトと別れてからも、弟はモヤモヤと煮え切らないでいた。
会いたいと願う気持ちが、ノエルの幻覚を見させたとでも言うのだろうか。そうだとするのならば、クラスメイトが言うように、何処かおかしいのかもしれない。


468: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 23:47:09 ID:7ZF8K9v94o

自宅のドアがいつもよりも重く感じる。キィ、と耳障りな音を立てながらドアが開かれた。

弟「……ただいま」

薄暗い家の中を伺いながら、リビングのドアを開ける。玄関の鍵は開いていたのに、母親の姿は何処にもない。
テーブルの上には、中身が出されていない状態のままのレジ袋が無造作に置かれていた。

弟「おかしいな、今日は休みだって言ってたのに…」

ぼんやりとリビングを見渡すと、電話機の留守番電話のボタンが忙しなく点滅しているのが見えた。
鞄をソファの上に下ろし、何の躊躇いもなくそのボタンに人差し指を添えて、ピッ、と押した。


469:
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 23:54:00 ID:7ZF8K9v94o
今回は此処までとさせて頂きます。

今日はクリスマスですね。皆さんの所にはサンタさんは来てくれたでしょうか?
私の所には来てくれませんでした。ちょうど弟くんの歳の時に、サンタさんはもう来ないのだと悟った私です。ちょっと遅いのでしょうか(´・ω・`)

それでは、おやすみなさい。
470: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/26(月) 23:06:22 ID:wVQmzr2KFI

電話機から流れてくる声に、その内容に、弟は戦慄した。母親が慌てふためいた様子で、すぐに病院に来いと促している。

母親『お姉ちゃんの容態が急変したって…!ああ、どうしよう…とにかく早く!早くね!神様…!』

どくん、どくん、と心臓が激しく脈打つ。
──落ち着け、落ち着け、大丈夫だ。そう自分に言い聞かせるも、震える足は止まらない。

『消去するには、3を──…』

感情の籠もらない無機質な音声が電話機から流れている。最後まで聞く事もせず、弟は家を飛び出した。


471: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/26(月) 23:25:19 ID:wVQmzr2KFI

────‐‥


弟「…っ姉ちゃんは!?」

男「弟くん……。今は、何とか持ち堪えて…」

肩で息をしながら、弟が病室に駆け込んだ。連絡を受けて来たのであろう男が、力なくベッドに頭を伏せて言葉を詰まらせる。

弟「……母さんは?」

男「先生に呼ばれて、話をしに行ったよ」

そう、と小さく返事を返して男の隣に腰掛ける。男は小刻みに肩を震わせて姉の手を握っていた。
弟は何の感情も沸いてこない、不思議な感覚に捉われていた。いやに冷静でいられる自分が怖い。


472: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/26(月) 23:48:25 ID:suwcKOoNSM

ベッドに横たわる姉は、眠っているだけのように穏やかな顔をしている。いつもの姉だ。その体に無数に絡み付く白いチューブと、口を覆った半透明のマスクさえなければ、いつもの姉だった。
見慣れた部屋に白いベッドと、見慣れない機械に命を繋がれている姉。その妙な違和感が、弟を冷静にさせたのかもしれない。

一定のリズムで心電図が刻む電子音が、病室に響き渡る。横に一直線に流れるラインが音に合わせて上に尖り、姉の心臓は確かに動いているのだとを教えてくれていた。
──生きている。
ふう、と一息、弟はパイプ椅子に背中を預けた。


473: 名無しさん@読者の声:2011/12/27(火) 07:51:00 ID:TcjuuEWQvQ
支援だ支援!
お姉ちゃん頑張れ(´;д;`)
474: 名無しさん@読者の声:2011/12/28(水) 13:38:47 ID:vYxDVcu0Fo
CCCCC
475:
◆b.qRGRPvDc:2011/12/28(水) 21:55:05 ID:qcDttONIGI
>>473
支援ありがとうございます!
お姉ちゃん、頑張ってます。医療関係は全くの無知なので矛盾が生じるかもしれませんが、生暖かく見守って下さると幸いです。

母「もっと応援してあげて!」ブワッ
男「さあ、皆で!お姉ちゃん頑張れ!お姉ちゃん頑張れ!」ブワッ
弟「温度差激しすぎて風邪引くわ」


>>474
支援ありがとうございます!
もう少しで番外編も終わります。めぐやノエル、番外編で生まれた弟や姉達とも、もうすぐお別れです(´;ω;`)

めぐ「読んでくれてありがとー!」
男(元祖)「俺が居た事も忘れないでね!?お願いしますよ!?」
476: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/29(木) 20:21:13 ID:AXHvj7glAs

弟「ねぇ、男さん。前から気になってたけど、あれって何なの?」

弟は、部屋の隅を指差した。布を被せられた四角い形をした何かは、以前姉を見舞った際に慌てて隠していた物だった。

男は伏せていた顔をのろのろと上げると、鼻を啜りながら、ああ、と声を洩らした。

男「絵を描いてたんだよ」

弟「それは分かるけど」

そんな事はどうでもいい、と言わんばかりに弟は眉を寄せた。あれが絵である事は、いくら小学生と言えど理解は出来る。
何故、隠しているのか。弟が問いたいのはそこだった。


477: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/29(木) 20:50:41 ID:i20aHeWQRM

男「最近よく夢を見るんだって。いつ描けなくなるようになるか分からないから、自分が感じたものを残しておきたいんだって言ってた」

男の手が弟の頭にポン、と優しく乗る。姉とは違う大きな手の重さが、じわりと目頭を熱くさせた。
ぐっと口を結んで、溢れ出てしまいそうな感情をしまい込んだ。

弟「…無理するからこんな事になるんだよ。馬鹿な姉ちゃん」

ははっ、と男が笑みを零す。

男「弟くんに怒られるって怯えながら描いてたよ」

だからかな。そう言うと、男は笑みを浮かべたまま、布に覆われたキャンバスに視線を流した。


478: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/29(木) 21:08:41 ID:i20aHeWQRM

男「恥ずかしいから、って俺もあんまり見せてもらえなかったんだ」

弟「見せてもらったところで、じゃない?姉ちゃんの見る夢なんてきっと、理解不能だと思う」

夢見る乙女な姉の事だ、どうせあの布の向こうには不思議の国が広がっているに違いない。
兎が羽根を生やして飛んでいたり、可愛らしいリボンをあしらった三つ編みのライオン、飴を舐めている牙のない狼──姉の見る夢なんて、そんなものなのだろう。

男も同じような想像をしたのだろうか。二人で目を合わせて、ぷっ、と吹き出した。


479: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/29(木) 21:36:40 ID:i20aHeWQRM

母「弟、来たのね」

タイミングを見計らったように、母親が病室に戻った。後ろには、白衣を纏った医師の姿が見える。
折角の和やかな雰囲気がぶち壊しだ。弟は小さく眉を寄せた。

母「弟にはまだ難しくて分からないかもしれないけど…」

母親が小さく会釈をすると、背後の医師がコホン、と偉そうに咳払いをした。視界の隅で男が姿勢を正すのが見える。それに釣られるように、弟の背筋もピンと伸びた。


480: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/29(木) 22:01:16 ID:AXHvj7glAs

────‐‥

母「お母さん起きてるから、ちょっと寝てなさい」

弟は、ふるふると左右に首を振った。相変わらず部屋の中には心電図の電子音が鳴り響き、姉の鼓動を伝えている。

母「男くんも」

男「いえ、俺は…」

医師からの説明はどれも難しく、弟には理解の出来ない単語ばかりが並べられていた。先に説明を受けた筈の母親や、隣に座る男の反応で大体の予想は付いたが、未だピンとこないでいる。
それでも何処かざわめく胸が、弟の意識を電子音に集中させた。


241.54 KBytes

名前:
sage:


[1] 1- [2] [3]最10

[4]最25 [5]最50 [6]最75

[*]前20 [0]戻る [#]次20

うpろだ
スレ機能】【顔文字