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出会う感情の名は、
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1: 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:19:06 ID:f4A63ChN1o
男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」

住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。

辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。

灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。

男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」

散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。


452: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/21(水) 00:29:18 ID:dQdSMz.X2A

ふいに鈴の音が耳を突き、弟の心を掻き乱した。クラスメイトの御守りの鈴が揺れている。これがなければ、ノエルともこんな風にはなれなかったかもしれない。
──ああ、ノエルは今頃、何処に居るのだろうか。
そう考えるだけで、弟は胸が締め付けられる思いだった。

友「…あれ?何かあったのかな?」

ふと、クラスメイトが訝しげに前を指差した。路地の隅に何かの塊のようなものが転がり、通行人が避けるようにして歩いている。何人かはその場に佇んでボソボソと何かを言っていた。


453: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/21(水) 01:00:44 ID:dQdSMz.X2A

友「弟、見に行こう!」

弟「止めときなよ。絶対ろくなもんじゃないって…」

好奇心旺盛なクラスメイトは、いまいち乗り気でない弟の手をグイグイ引いて先へ進んだ。

友「うわっ…」

苦虫を噛み潰したような顔でクラスメイトが後退った。間隙を縫うようにして弟が覗き込むと、突然視界が真っ暗になった。クラスメイトが目隠しをしたのだ。
視界を覆い隠すその手を解こうとすると、慌てた口調でクラスメイトが言った。


454: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/21(水) 01:27:11 ID:SRCGK.4MQ6

友「猫!猫!グロいから絶対見ない方がいい!」

うぇ、とクラスメイトが唸る。その場に佇んでいたであろう数名の哀れむような声も、同時に弟の耳に聞こえてきた。

「可哀想に、車にでも跳ねられたんだろう」
「保健所に連絡してあげようか」

路地の隅に転がっていたのは、猫の死骸だったのだろう。やはり、ろくなものではなかったのだ。
弟は、なるべく視界に入らないようにそろそろとその場を通り過ぎた。


455: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/21(水) 01:53:19 ID:dQdSMz.X2A

──チリン、

何処か懐かしく感じる鈴の音に、弟の足は止まった。幾度となく耳にし、焦がれていた音色は、今度ばかりはクラスメイトの御守りの鈴ではない。
がばっ、と振り返り、踵を返して来た道を戻った。クラスメイトが慌てて弟の名を呼んだが、弟の足は止まらない。

弟「…っう、」

人集りの間隙から見えたのは茶色の縞模様をした、いつぞやの野良猫だった。車にでも跳ねられたのだろう、その亡骸は血に塗れて横たえている。


456: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/21(水) 02:15:02 ID:SRCGK.4MQ6

弟「あ…」

弟の目が大きく見開かれた。見覚えのある猫の亡骸を目の当たりにしたからではない。その亡骸の前で揺れる黒いワンピースが、間違いなくノエルだと確信したからだった。

弟「ノエ───」

友「もー…見ない方がいいって言ったのに……って、オイ!」

踏み出された弟の一歩を、後を追ってきたクラスメイトの声が遮った。肩に置かれたクラスメイトの手をするりと抜けて、弟はノエルの元へと足を踏み出した。


457: 名無しさん@読者の声:2011/12/23(金) 02:27:16 ID:xpJaCVvKg2
忙しいのかな?
支援あげ!
458:
◆b.qRGRPvDc:2011/12/24(土) 23:23:47 ID:JNYBj0Z0wc
>>457
支援ありがとうございます!
更新が滞ってしまってすみません。私生活が忙しく、なかなか来られませんでした…orz

女「本当にごめんなさい!支援ありがとう〜!」
弟「ちゃんと更新するように僕がお説教しとくね」
ノエル「私も叱っておくよ」
459: 名無しさん@読者の声:2011/12/25(日) 08:35:44 ID:px..1hXM1Q
リアル優先でいいんだからね!
いや、待てよクリスマス…リア充か?

っC
っ愛
460:
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 19:21:49 ID:7ZF8K9v94o
>>459
支援ありがとうございます!そしてお優しい心遣い、痛み入ります(´;ω;`)

上記で言い訳をした忙しさとクリスマスリア充は、全く関係ありません。しかし、忙しいという事はリアルが充実しているという事。即ち、私はリア充という事でいいんでしょうか(`・ω・´)キリッ?

弟「支援ありがとう、メリークリスマス」
女「サンタさんは来なかったけど、459さんの愛をプレゼントとして貰っちゃいます!」
男「」ガーン
461: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 21:01:19 ID:JiCQdQcUTY

疎らになっていく人の影から、ちらちらとノエルの姿が見え隠れする。すぐにでもノエルの傍に駆け寄って声を掛けたい、そう思っていた筈の弟の足は止まってしまっていた。

「電話したら来てくれるって」
「そう、よかったわ。いつまでもこんなものがあったらおっかないものね…」

ノエルは猫の前に腰を下ろし、何かを語り掛けていた。血塗れの猫に臆する事なく、少女が近寄り声を掛ける。弟ですら思わず足を止めたこの状況を、周りの大人達は気にも留めていない。
こんなにも奇妙な状況があるのだろうか。弟は、言いようのない複雑な思いでその様子を伺った。


462: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 21:34:06 ID:JiCQdQcUTY

ノエルの白い手が横たわる猫の亡骸に、そっと触れる。労るように猫の体躯を滑るその手には、まだ乾ききらない血の赤は一滴も付いていない。

弟(ノエル…?一体、何を……)

ノエルの異常な行動に弟は息を呑んだ。気味が悪いとさえ思えるその姿は、寧ろ神々しく弟の目に映った。

ノエル「お迎えだよ。さあ、行こうか」

ぼそぼそと語り掛ける中、その言葉だけがはっきりと弟の耳を突いた。身を乗り出すように覗き込んだ弟は、驚きに目を見開いた。


463: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 21:55:12 ID:JiCQdQcUTY

ノエルが手を滑らせた場所から、黄金色の光の粒が溢れた。その光は猫の亡骸を包み込み、サラサラと流れるように消えてゆく。
キラキラと美しい輝きに、弟も目を眩ませた。

弟「ノエル……」

前に立っていた女性が一人、弟の声に気付いて怪訝な顔で振り返った。こんなにもまばゆい明滅に、目を細める事もしていない。
弟は胸がざわめくのを感じた。

──何だか、酷く嫌な予感がする。


464: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 22:17:04 ID:JiCQdQcUTY

弟「ノエル、ノエル…っ」

友「本当にどうしたんだよ。何かあんの?」

ふらふらと、覚束ない足取りで人集りに近付いて行く弟を制止したのは、やはりクラスメイトだった。振り返った弟は、今にも泣き出しそうな顔で瞳を揺らしている。

弟「友にはあれが見えないの?」

友「あれ?…って、どれ?猫の死体なら、もう…」

弟「違うよ!!」


465: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 22:41:30 ID:JiCQdQcUTY

弟が声を荒げると、周りの視線が一斉に集中した。じわりと嫌な汗が手の平に滲むのを感じる。
振り返る大人達と、クラスメイトの表情を見れば分かる。弟の予感は的中した。

誰にも、あの光は見えていない。

友「なあ、どうしちゃったんだよー…怖い事言うなよなー」

弟「…なんで!其処に居るじゃないか!猫が光って…」


466: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 22:59:20 ID:JiCQdQcUTY

しん、と静まり返る路地に、ノエルの姿は何処にもない。先程と何ら変わりのない猫の亡骸が其処にはあった。濡れた血はすっかり固まり、茶色く変化している。

弟「あ、れ…?ノエル…ノエルは、」

きょろきょろと辺りを見回す弟の肩に、ポン、とクラスメイトの手が乗せられた。小さく溜め息を吐きながら苦笑するその表情は、呆れたと言っているようにも見える。

友「何もないってば。本当に疲れてんじゃない?」


467: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 23:27:31 ID:JiCQdQcUTY

そんな筈はない。確かにこの目で見たのだ。あんなに焦がれていた彼女の姿を、その鈴の音を、間違える筈がない。
馬鹿にするように笑うクラスメイトに、弟は下唇を噛んだ。

友「──じゃあ、またな!」

弟「うん、またね」

クラスメイトと別れてからも、弟はモヤモヤと煮え切らないでいた。
会いたいと願う気持ちが、ノエルの幻覚を見させたとでも言うのだろうか。そうだとするのならば、クラスメイトが言うように、何処かおかしいのかもしれない。


468: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 23:47:09 ID:7ZF8K9v94o

自宅のドアがいつもよりも重く感じる。キィ、と耳障りな音を立てながらドアが開かれた。

弟「……ただいま」

薄暗い家の中を伺いながら、リビングのドアを開ける。玄関の鍵は開いていたのに、母親の姿は何処にもない。
テーブルの上には、中身が出されていない状態のままのレジ袋が無造作に置かれていた。

弟「おかしいな、今日は休みだって言ってたのに…」

ぼんやりとリビングを見渡すと、電話機の留守番電話のボタンが忙しなく点滅しているのが見えた。
鞄をソファの上に下ろし、何の躊躇いもなくそのボタンに人差し指を添えて、ピッ、と押した。


469:
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 23:54:00 ID:7ZF8K9v94o
今回は此処までとさせて頂きます。

今日はクリスマスですね。皆さんの所にはサンタさんは来てくれたでしょうか?
私の所には来てくれませんでした。ちょうど弟くんの歳の時に、サンタさんはもう来ないのだと悟った私です。ちょっと遅いのでしょうか(´・ω・`)

それでは、おやすみなさい。
470: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/26(月) 23:06:22 ID:wVQmzr2KFI

電話機から流れてくる声に、その内容に、弟は戦慄した。母親が慌てふためいた様子で、すぐに病院に来いと促している。

母親『お姉ちゃんの容態が急変したって…!ああ、どうしよう…とにかく早く!早くね!神様…!』

どくん、どくん、と心臓が激しく脈打つ。
──落ち着け、落ち着け、大丈夫だ。そう自分に言い聞かせるも、震える足は止まらない。

『消去するには、3を──…』

感情の籠もらない無機質な音声が電話機から流れている。最後まで聞く事もせず、弟は家を飛び出した。


471: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/26(月) 23:25:19 ID:wVQmzr2KFI

────‐‥


弟「…っ姉ちゃんは!?」

男「弟くん……。今は、何とか持ち堪えて…」

肩で息をしながら、弟が病室に駆け込んだ。連絡を受けて来たのであろう男が、力なくベッドに頭を伏せて言葉を詰まらせる。

弟「……母さんは?」

男「先生に呼ばれて、話をしに行ったよ」

そう、と小さく返事を返して男の隣に腰掛ける。男は小刻みに肩を震わせて姉の手を握っていた。
弟は何の感情も沸いてこない、不思議な感覚に捉われていた。いやに冷静でいられる自分が怖い。


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