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出会う感情の名は、
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1:🎏 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:19:06 ID:f4A63ChN1o
男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」

住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。

辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。

灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。

男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」

散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。


447:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/20(火) 21:44:30 ID:N1Rzc090pk

弟は一人、展望台から街の景色を眺めていた。星のように輝いて見えたネオンの明滅が、今はただの単調な電球の灯りでしかない。夜空に色を放つ星の瞬きですら、画用紙に飛び散らせただけの絵の具のように思えた。

ノエルが何処にもいない。ただそれだけで、弟が見る世界はガラリと姿を変えてしまった。

弟「ノエル、ノエル……何処に居るの」

弟はノエルを捜し求めた。木の影から遊具の下、公園の隅々まで。ばったり再会した路地の角、初めて会った病院の木──思い付く限りの場所を見て回った。


448:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/20(火) 22:10:44 ID:oifCLjfsx6

道行く人に尋ねてもみたが、姿の見えないノエルの行き先を、一体誰が教えてくれるというのだろう。皆揃って首を横に振るばかりで、ノエルの行き先どころかその足取りを辿る事すら出来ないでいた。

弟「返事をしてよ、ノエル…」

ノエルの居ない世界はこんなにも寂しい。まるで、モノクロのフィルターが掛かっているかのように色がない。
弟の脚は、ノエルを求めて駆け回った。また会いたいと、その一心で───。


449:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/20(火) 22:34:34 ID:N1Rzc090pk

しかし、それから幾日が経ってもノエルの姿は何処にもなかった。
鈴の音も聞こえない。街中でスカートをはためかせる女の子を見掛ける度に、胸が苦しくなる。

弟「…もう、会えないのかな」

教室の窓際の席で、弟は深い溜息を吐いた。学校の中に居ては探しに行く事も出来ない。逸る気持ちがそわそわと落ち着かないでいた。

友「弟、一緒に帰ろうぜ!」

クラスメイトが弟の肩に触れる。はっとして振り返る筈の弟は窓の外へ視線を送ったまま、溜息混じりに頷いた。


450:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/20(火) 23:40:48 ID:dQdSMz.X2A

友「いきなりテストとか最悪だよな。酸素って空気の何倍なんだっけ?どうやって集めるんだっけ?弟、出来た?」

クラスメイトが口を尖らせてぼやいた。どうやら理科の抜き打ちテストに、手応えを感じられなかったらしい。

弟「酸素は空気の11倍。水上置換法だよ。僕もあんまり自信ないけど」

またまたぁ、とクラスメイトが弟の肩を突く。体に力の入っていない弟は、ふらふらと足を縺れさせた。


451:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/21(水) 00:05:30 ID:SRCGK.4MQ6

友「…どうしたんだよ、最近なんかおかしいぞ?」

心配そうに伺うクラスメイトに、弟は何でもない、と首を振った。

話したところでどうなるというのか。何処の誰かも分からない女の子に名前を付けて二人で会っていたなんて、笑い話にされるに決まっている。ましてや、会いたくて堪らないなどと言える筈がない。

弟はやはり首を振り、何でもない、と笑うのだった。


452:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/21(水) 00:29:18 ID:dQdSMz.X2A

ふいに鈴の音が耳を突き、弟の心を掻き乱した。クラスメイトの御守りの鈴が揺れている。これがなければ、ノエルともこんな風にはなれなかったかもしれない。
──ああ、ノエルは今頃、何処に居るのだろうか。
そう考えるだけで、弟は胸が締め付けられる思いだった。

友「…あれ?何かあったのかな?」

ふと、クラスメイトが訝しげに前を指差した。路地の隅に何かの塊のようなものが転がり、通行人が避けるようにして歩いている。何人かはその場に佇んでボソボソと何かを言っていた。


453:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/21(水) 01:00:44 ID:dQdSMz.X2A

友「弟、見に行こう!」

弟「止めときなよ。絶対ろくなもんじゃないって…」

好奇心旺盛なクラスメイトは、いまいち乗り気でない弟の手をグイグイ引いて先へ進んだ。

友「うわっ…」

苦虫を噛み潰したような顔でクラスメイトが後退った。間隙を縫うようにして弟が覗き込むと、突然視界が真っ暗になった。クラスメイトが目隠しをしたのだ。
視界を覆い隠すその手を解こうとすると、慌てた口調でクラスメイトが言った。


454:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/21(水) 01:27:11 ID:SRCGK.4MQ6

友「猫!猫!グロいから絶対見ない方がいい!」

うぇ、とクラスメイトが唸る。その場に佇んでいたであろう数名の哀れむような声も、同時に弟の耳に聞こえてきた。

「可哀想に、車にでも跳ねられたんだろう」
「保健所に連絡してあげようか」

路地の隅に転がっていたのは、猫の死骸だったのだろう。やはり、ろくなものではなかったのだ。
弟は、なるべく視界に入らないようにそろそろとその場を通り過ぎた。


455:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/21(水) 01:53:19 ID:dQdSMz.X2A

──チリン、

何処か懐かしく感じる鈴の音に、弟の足は止まった。幾度となく耳にし、焦がれていた音色は、今度ばかりはクラスメイトの御守りの鈴ではない。
がばっ、と振り返り、踵を返して来た道を戻った。クラスメイトが慌てて弟の名を呼んだが、弟の足は止まらない。

弟「…っう、」

人集りの間隙から見えたのは茶色の縞模様をした、いつぞやの野良猫だった。車にでも跳ねられたのだろう、その亡骸は血に塗れて横たえている。


456:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/21(水) 02:15:02 ID:SRCGK.4MQ6

弟「あ…」

弟の目が大きく見開かれた。見覚えのある猫の亡骸を目の当たりにしたからではない。その亡骸の前で揺れる黒いワンピースが、間違いなくノエルだと確信したからだった。

弟「ノエ───」

友「もー…見ない方がいいって言ったのに……って、オイ!」

踏み出された弟の一歩を、後を追ってきたクラスメイトの声が遮った。肩に置かれたクラスメイトの手をするりと抜けて、弟はノエルの元へと足を踏み出した。


457:🎏 名無しさん@読者の声:2011/12/23(金) 02:27:16 ID:xpJaCVvKg2
忙しいのかな?
支援あげ!
458:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/12/24(土) 23:23:47 ID:JNYBj0Z0wc
>>457
支援ありがとうございます!
更新が滞ってしまってすみません。私生活が忙しく、なかなか来られませんでした…orz

女「本当にごめんなさい!支援ありがとう〜!」
弟「ちゃんと更新するように僕がお説教しとくね」
ノエル「私も叱っておくよ」
459:🎏 名無しさん@読者の声:2011/12/25(日) 08:35:44 ID:px..1hXM1Q
リアル優先でいいんだからね!
いや、待てよクリスマス…リア充か?

っC
っ愛
460:🎏
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 19:21:49 ID:7ZF8K9v94o
>>459
支援ありがとうございます!そしてお優しい心遣い、痛み入ります(´;ω;`)

上記で言い訳をした忙しさとクリスマスリア充は、全く関係ありません。しかし、忙しいという事はリアルが充実しているという事。即ち、私はリア充という事でいいんでしょうか(`・ω・´)キリッ?

弟「支援ありがとう、メリークリスマス」
女「サンタさんは来なかったけど、459さんの愛をプレゼントとして貰っちゃいます!」
男「」ガーン
461:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 21:01:19 ID:JiCQdQcUTY

疎らになっていく人の影から、ちらちらとノエルの姿が見え隠れする。すぐにでもノエルの傍に駆け寄って声を掛けたい、そう思っていた筈の弟の足は止まってしまっていた。

「電話したら来てくれるって」
「そう、よかったわ。いつまでもこんなものがあったらおっかないものね…」

ノエルは猫の前に腰を下ろし、何かを語り掛けていた。血塗れの猫に臆する事なく、少女が近寄り声を掛ける。弟ですら思わず足を止めたこの状況を、周りの大人達は気にも留めていない。
こんなにも奇妙な状況があるのだろうか。弟は、言いようのない複雑な思いでその様子を伺った。


462:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 21:34:06 ID:JiCQdQcUTY

ノエルの白い手が横たわる猫の亡骸に、そっと触れる。労るように猫の体躯を滑るその手には、まだ乾ききらない血の赤は一滴も付いていない。

弟(ノエル…?一体、何を……)

ノエルの異常な行動に弟は息を呑んだ。気味が悪いとさえ思えるその姿は、寧ろ神々しく弟の目に映った。

ノエル「お迎えだよ。さあ、行こうか」

ぼそぼそと語り掛ける中、その言葉だけがはっきりと弟の耳を突いた。身を乗り出すように覗き込んだ弟は、驚きに目を見開いた。


463:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 21:55:12 ID:JiCQdQcUTY

ノエルが手を滑らせた場所から、黄金色の光の粒が溢れた。その光は猫の亡骸を包み込み、サラサラと流れるように消えてゆく。
キラキラと美しい輝きに、弟も目を眩ませた。

弟「ノエル……」

前に立っていた女性が一人、弟の声に気付いて怪訝な顔で振り返った。こんなにもまばゆい明滅に、目を細める事もしていない。
弟は胸がざわめくのを感じた。

──何だか、酷く嫌な予感がする。


464:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 22:17:04 ID:JiCQdQcUTY

弟「ノエル、ノエル…っ」

友「本当にどうしたんだよ。何かあんの?」

ふらふらと、覚束ない足取りで人集りに近付いて行く弟を制止したのは、やはりクラスメイトだった。振り返った弟は、今にも泣き出しそうな顔で瞳を揺らしている。

弟「友にはあれが見えないの?」

友「あれ?…って、どれ?猫の死体なら、もう…」

弟「違うよ!!」


465:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 22:41:30 ID:JiCQdQcUTY

弟が声を荒げると、周りの視線が一斉に集中した。じわりと嫌な汗が手の平に滲むのを感じる。
振り返る大人達と、クラスメイトの表情を見れば分かる。弟の予感は的中した。

誰にも、あの光は見えていない。

友「なあ、どうしちゃったんだよー…怖い事言うなよなー」

弟「…なんで!其処に居るじゃないか!猫が光って…」


466:🎏 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/12/25(日) 22:59:20 ID:JiCQdQcUTY

しん、と静まり返る路地に、ノエルの姿は何処にもない。先程と何ら変わりのない猫の亡骸が其処にはあった。濡れた血はすっかり固まり、茶色く変化している。

弟「あ、れ…?ノエル…ノエルは、」

きょろきょろと辺りを見回す弟の肩に、ポン、とクラスメイトの手が乗せられた。小さく溜め息を吐きながら苦笑するその表情は、呆れたと言っているようにも見える。

友「何もないってば。本当に疲れてんじゃない?」


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