男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
376: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/10(土) 22:33:15 ID:qcDttONIGI
男「女ちゃん…?」
訝しげに様子を伺う男に姉は笑顔て振り返った。震える手を押さえ、困ったように眉を寄せて。
女「最近ね、手に力が入らない時があるの」
男「え…?」
表情を強張らせる男とは対照的に、姉は笑みを浮かべたまま手の平に視線を移した。
震えが治まったのを確認すると、ひょいと鉛筆を拾い上げる。
377: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/10(土) 22:52:25 ID:qcDttONIGI
女「その内描けなくなっちゃうかもしれないから…だから、」
お願い、と悪戯な笑顔を見せた姉の肩を、男の腕がそっと抱き寄せた。痩せて小さくなった姉の華奢な体は男の腕の中に容易に収まった。
男「大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫だから…」
何度も繰り返し、男は言った。心地好い低音が姉の耳を撫でる。姉は縫い付けたように弧を描いていた唇をゆっくりと解き、揺れる瞳を閉じた。
378: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/10(土) 23:11:15 ID:yvEPXiu.Rw
女「……突き放せなくて、ごめんね」
力なく寄り掛かる姉の髪の香りが男の鼻を擽った。いとおしそうにその髪に頬を擦り寄せると、穏やかな優しい声色で囁くように言った。
男「女ちゃんに来るなって言われても来るよ、俺は」
女「男くん…」
ドクン、と姉の心臓が大袈裟に音を立てた。それに応えるように男の心臓もドクン、と高鳴る。
姉は表情を綻ばせ、熱が帯びた瞳で男を見つめた。
女「ありがとう」
379: ◆b.qRGRPvDc:2011/12/10(土) 23:18:18 ID:qcDttONIGI
今回は此処までとさせて頂きます。
弟は弟表記なのに何故姉は女なんだ、と疑問に思われる方も居るかもしれないので少し説明を。
男が姉を呼ぶ際、ちゃん付けにしろさん付けにしろ、弟が姉を呼ぶ時の「姉ちゃん」と被るなーと思ったからです。「姉さん」だと「ねえさん」と読んでしまうし「姉ちゃん」だと弟と同じ。ややこしいやないか!と思いまして。
という言い訳でした(´・ω・`)
此処まで読んで下さってありがとうございます。おやすみなさい。
380: 名無しさん@読者の声:2011/12/11(日) 00:28:18 ID:0dUz0APGSQ
あぁ…キュンキュンする(*´д`)
キス
381: 380:2011/12/11(日) 00:32:07 ID:/NxGZR211E
ごめんなさい誤爆った…
キスするのか!!って言いたかっただけなんだorz
つC
382: 名無しさん@読者の声:2011/12/11(日) 08:02:43 ID:px..1hXM1Q
姉かわいいよ姉
全力C
383: ◆b.qRGRPvDc:2011/12/11(日) 23:44:05 ID:r12WCtJTeY
>>380-381
支援ありがとうございます!9m
きゅんきゅんして頂けましたでしょうか?私自身あまり少女漫画を読まない為、女でありながら乙女要素が皆無に等しいのでそれはとても嬉しいです…!
女「私と男くんがそんな事…フヒヒ…デュシュ、デュシュシュジュルジュル」
男「やだこの子怖い…」
>>382
支援ありがとうございます!
あれ、お姉ちゃんが一番好感度が高いのでしょうか。ちょっぴり驚いています。きっとお姉ちゃんの人気に男は焦っている事でしょうねw
男「ちょ、支援は有難いけど女ちゃんは駄目だよ…!」
女「えへへ、駄目らしいです」デレデレ
384: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/11(日) 23:47:21 ID:r12WCtJTeY
弟「お二人さん、もういいかな」
女「お、おと、弟くん!?」
男「今日も良い天気だなーっと!」
弟の声に二人の肩は面白い程に跳ね上がった。姉は先程まで鉛筆を滑らせていたそれに慌てて布を被せ、男は窓際に立って白々しく口笛を吹いた。
弟「男さん、今日は曇りだよ?」
晴れやかな満面の笑みを浮かべながら、弟が可愛らしく首を傾げてみせる。男は苦笑して頭を掻くと「まいったな」と眉を下げた。
385: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/12(月) 00:11:36 ID:6.GQMZQyxE
母「男くんごめんなさいね、この子シスコンだから嫉妬妬いてるのよ」
弟「何言ってんの。違うから」
弟の頭をポンポンと叩きながら母親が笑う。二人はそれを見て握り拳が入りそうな程にあんぐりと口を開けた。
女「お母さんまで居たの!?」
母「大丈夫よぉ、会話の内容までは聞いたりしてないから」
頬を火照らせた姉は両手で顔を隠して狼狽えた。穴があったら入りたいとはこの事を言うのだろう。
386: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/12(月) 00:29:53 ID:6.GQMZQyxE
男「……あの、俺はそろそろ失礼しますね」
上着を手に、いそいそと出口に向かう男が言った。
母「あらあら、邪魔しちゃったかしら」
男「いえ、そんな事は…!また来ます」
さようなら、と頭を下げる。名残惜しそうに様子を伺う姉に「またね」と笑顔で手を振った。
男が去った病室に少しの沈黙が流れた。仕切りなおすように母親がパチンと手を叩いて言った。
387: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/12(月) 00:51:05 ID:6.GQMZQyxE
母「さて!じゃあお母さん先生とお話ついでにお花の水入れてくるわね」
女「ああ、うん。行ってらっしゃい」
姉は病室のドアが閉まるのを確認して弟に視線を移した。表面上こそいつも通りにしているものの、椅子に掛けている弟の脚はブラブラと落ち着かない。
女「弟くん、何か良い事あった?」
388: 名無しさん@読者の声:2011/12/12(月) 11:58:44 ID:KIYooKWHqg
(´・ω・)っC
389: ◆b.qRGRPvDc:2011/12/12(月) 17:08:55 ID:xkRlVvRAxw
>>388
支援ありがとうございます!
また中途半端な所でうっかり寝てしまっていました…(´・ω・`)
こんな拙作に毎日のように支援が頂けるのはとても光栄な事ですね。皆さんからのレスで私の中の小さいおっさんが踊り狂います(※>>371参照)
女「ピンポーン!1さんの50%は小さいおっさんで構成されています」ニコッ
弟「それもはや小さくないし」
それから、セコムさんにお伺いしたところ12位だったそうで。(しかも読んで下さっている上に好きだと言って頂けました(´;ω;`))本編も完結し、過去や番外編を綴っているだけの作品に投票して頂けた事、とても嬉しく思います。本当にありがとうございます。
番外編が完結次第、この物語は終了となります。それまでもう暫くお付き合い下さると幸いです(`・ω・´)
390: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/12(月) 20:21:02 ID:jB4X9WbM8.
ころりと寝返りを打ち、見透かしたように姉が笑う。弟はぴくりと眉を動かして僅かに反応を示したが「別に何も?」と、冷蔵庫から缶ジュースを取り出して飲みはじめた。
コクン、と弟の喉が波打つ。横目でそろりと姉を伺うと、期待に目を輝かせて弟を見ていた。
弟「……何」
女「んー?別にー?」
弟「……」
ニコニコと見つめる姉の視線が痛い。弟は平静を装ってジュースを流し込んだ。
391: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/12(月) 20:43:31 ID:xkRlVvRAxw
そういえば、と弟が白々しく切り出すと、姉の目の輝きが一層増した。ベッドから落ちそうになる程ズイ、と身を乗り出し、続く弟の言葉を待った。
弟「……友達になろうって言った。この前話した子に」
女「本当に?」
弟が頭を上下に振った。それを確認した姉は花が綻ぶように笑って声を上げた。
392: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/12(月) 21:01:57 ID:jB4X9WbM8.
弟「でもあの子、名前なんてないとか、帰る家はないとか…変な事言うんだよ」
女「ミステリアスな女の子…いいじゃない!」
弟「もう、調子に乗らないの」
興奮して立ち上がろうとする姉の肩を弟が押さえた。姉の起伏の激しさや子供っぽい面は見慣れてはいるが、今日はまたいつにも増して激しい気がする。
誰かに恋をしても姉には相談するべきではないな、と考える弟の口からは自然と溜息が洩れていた。
393: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/12(月) 21:21:15 ID:xkRlVvRAxw
女「そうだ、名前がないって言うなら勝手に付けちゃうのはどう?」
弟「…そんな、人をペットみたいに」
駄目駄目、と弟が手を払う。
女「駄目かなぁ。二人だけの呼び名って、特別で素敵だと思ったんだけど……」
むぅ、と唸りながら姉の体がベッドに沈んだ。ふんわりと膨らむ栗色の髪を指先に絡ませて子供のように口を尖らせた。
394: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/12(月) 21:40:54 ID:jB4X9WbM8.
女「ねぇ、その子どんな子なの?可愛い?」
弟は姉の指先に絡まる栗色の髪を見つめた。
弟「……とりあえず、姉ちゃんとは真逆だと思うよ。色々と」
女「えぇ〜…?色々って何よう」
首を捻り、まるで難問題を叩きつけられたかのように考え込む姉を前に、弟は楽しげにクスクスと笑った。
弟(特別、か…)
395: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/12(月) 22:01:05 ID:xkRlVvRAxw
母「随分楽しそうね。何の話?」
母親の声と共に花の香りが病室に広がる。花瓶に挿された色とりどりの花がゆらゆらと揺れ、その香りが弟の脳を刺激した。
弟「別に何でもない話だよ。僕、先に帰って遊んできていい?」
少女はまたあの公園で一人、街の景色を眺めているのだろうか──何故だか、無性に会いたくなってしまった。
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