男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
352: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/7(水) 23:10:46 ID:8qV65XyEH6
クラスメイトが鞄を漁ると同じくして、チリン、チリンと鈴の音が聞こえる。鞄に付けられた御守りの鈴が、小刻みに震えて音を鳴らしていた。
その音にふと、少女の姿が頭に過った。放っておいてくれと悲しげに呟いたきり、病院でも少女の姿を見掛けていない。
弟「…次は優しく、か」
友「え?何?」
鞄から算数ノートを取り出したクラスメイトが弟を見上げる。
弟「ごめん、用事思い出した。また明日!」
来た道を戻るようにして弟は走りだした。クラスメイトはその後ろ姿をただ呆然と見送った。
友「明日学校休みなんだけど…まあいっか」
353: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/7(水) 23:38:49 ID:.AL642LWkg
弟の細い脚は少女を探して走り続けた。何処の誰かも分からない少女を探しだすのは容易ではない筈なのに、その足を止める術を弟は知らなかった。
何より、会える気がしてならなかった。それだけが弟をただただ走らせた。
弟「ハァっ…ちゃんと言わなきゃ…!」
きっと少女も同じなのだ。言い表わす事の出来ない不安と、無力な自分が怖くてたまらないのだ。そうして人を突き放す。
自分が少女に出来る事は、きっとこれだけなのだと信じて止まなかった。
354: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/7(水) 23:57:17 ID:8qV65XyEH6
辺りはすっかり薄暗くなり始め、惜しみながら沈んでいく夕日に弟の焦りは増すばかりだった。
弟「猫…?」
息も絶え絶えな弟の前に、一匹の黒猫が佇んでいた。闇に溶けるような美しい黒が月明かりに艶めかしく輝いている。
もの言わぬ飴色の瞳が誘うように弟を見つめた。
──鈴の音が聞こえる。
355: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/8(木) 00:16:16 ID:.AL642LWkg
弟が黒猫の後を追うようにして辿り着いた先は、丘の上にある公園だった。展望台から見える景色は夜空に光る星のようにキラキラと輝いている。
弟「あれ…猫、何処行ったんだ、ろ……」
薄く開かれた弟の瞳が段々と開かれていく。大きく開かれた弟の瞳には朧月のようにぼんやりと少女の姿が映っていた。
少女「君は本当に…懲りない子だねぇ…」
356: ◆b.qRGRPvDc:2011/12/8(木) 00:19:59 ID:.AL642LWkg
今回は此処までとさせて頂きます。
もっとささっと終わらせようと思っていたのですが、思っているよりも長くなってしまいそうです…(´・ω・`)
支援して下さった方、読んで下さった方、ありがとうございました!
357: 名無しさん@読者の声:2011/12/8(木) 01:09:59 ID:suIVnJhzas
引き込まれるね。1さんの才能に嫉妬(`・ω・´)つCC
納得行くまで続けてほしいです
358: 名無しさん@読者の声:2011/12/8(木) 19:26:27 ID:vYxDVcu0Fo
お姉ちゃんツボりそう(*´д`*)CCCC
359: ◆b.qRGRPvDc:2011/12/8(木) 20:49:10 ID:vWFRRZFXl2
>>357
支援ありがとうございます!
うわわわ、そんな事を言って頂いていいのでしょうか。恐縮です。でも凄く嬉しいです(*´・ω・`*)
納得の行くまで、となるともはや短編小説ではなくなってしまう長さになってしまう予感がするので、自重しつつちゃんと完結させたいと思っています!
弟「お気遣いありがとう」
少女「君は本当に可愛げがないね」
弟「あんたに言われたくない」ベー
女「喧嘩しないのー!」
>>358
支援ありがとうございます!
二人に比べて登場シーンが少ないというのに気に入って頂けるなんて…!きっと姉も喜んでます。枕を抱き締めながらゴロゴロ転がってます。
女「きゃーきゃー」ゴロゴロ
女「どうしようモテ期かも〜!」ゴロゴロ
少女「…止めないのかい?」チラッ
弟「無理です」
360: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/8(木) 21:33:37 ID:w/b1EyjZ5M
何時間も自分を探して走り回ったであろう弟の吐息を背後に感じて、少女は振り返る事もせずに言葉を洩らした。
「まあね」と得意気に弟が笑う。
少女「まだ、何かあるのかい?」
弟「あ、うん。えっと…」
少女に促されて弟は口籠もった。
優しく、優しくと姉が背中を押しているような気がした。
弟「…この前は事情も知らずに突っ掛かってごめん。その……友達に、ならない?」
361: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/8(木) 21:56:47 ID:vWFRRZFXl2
夜風が二人の頬を優しく撫でた。少女の瞳が月明かりに反射してうるうると光る。
振り返る先には弟の姿があった。間違いなく真っ直ぐに少女を見つめている。
少女「ともだち…?君と私がかい?」
弟「うん」
弟は照れ臭そうに眉を寄せて鼻を撫でた。
少女の手が微かに震える。警鐘にも似た鼓動の音が少女の身体中に響いていた。
362: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/8(木) 22:24:58 ID:w/b1EyjZ5M
少女「…馬鹿な事言ってないで早くお家に帰りなよ」
少女のスカートが風に膨らんでくるりと回った。弟に背を向けて手首の鈴を弄ぶ。
弟「あんたは帰らないの?」
少女の黒い髪が弟の心を擽るようにさらさらと風に揺れた。夜風に靡く髪を払う事もせずに少女は答えた。
少女「君は帰るべき場所があるでしょう。早く帰るといいよ」
363: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/8(木) 22:54:15 ID:w/b1EyjZ5M
弟には少女に掛ける言葉が思い当たらなかった。というよりも、まだ子供の弟には少女の言動は理解し難いものばかりで、今にも吹き出してしまいそうだったのだ。
少女「…何だい?」
少女は怪訝な顔で横目に弟を見る。
弟「名前もないし帰る家もないって、あんた野良猫みたいだね」
少女「あんなに媚びた声は出せないし、私の声なんて誰にも聞こえやしないよ」
364: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/8(木) 23:23:36 ID:w/b1EyjZ5M
野良猫の方がよっぽどマシだと言って少女は睫毛を伏せた。
弟の頭はますます困惑し、首を傾げるしかなかったが、伏せられた長い睫毛が寂しいと語り掛けているように思えてならなかった。
弟「どういう意味…?」
ふと、聞き馴れたメロディが弟の耳を突いた。いつも何処からか流れてくるそのメロディは、児童に帰宅を促す為の「夕焼け小焼け」のメロディだった。
公園の時計に目をやると、時刻は午後六時半を示している。
365: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/8(木) 23:43:47 ID:vWFRRZFXl2
弟「うわ、もうこんな時間!?帰らないと!」
弟が身じろぐと鞄の中で筆箱が音を立てて揺れた。そういえば下校の途中だったと、青ざめる。母親にばれたらきっと怒られるに違いない。「こんな時間まで何処で寄り道していたの!」と。
少女「…早く行きな。良い子は帰る時間だよ」
少女に促されて弟はこくこくと頷いた。慌てて坂道を駆け降りる最中、少女に向かって振り返ると声を張った。
366: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/9(金) 00:07:56 ID:w/b1EyjZ5M
弟「よく分かんないけどさ、聞こえるよ。僕にはあんたの声、ちゃんと聞こえてるから!」
またねと手を振って弟が走りだす。少女は何も答えなかった。
少女「……」
答えなかったが、走り去る弟の背中に小さく手を振ってみせた。夕焼け小焼けのメロディに乗せて小さくなってゆく弟の背中をぼんやりと一人、見送った。
367: ◆b.qRGRPvDc:2011/12/9(金) 00:18:32 ID:w/b1EyjZ5M
今日は此処までとさせて頂きます。
余談ですが、夕焼け小焼けのメロディは全国的に放送されているみたいですね。地域によって時間帯にばらつきはあるようですが、夏期は凡そ17時、冬期は16時頃から流れるそうです。
私の住む地域も夕方になると何処からともなく夕焼け小焼けが流れてきます。何となく、胸が締め付けられるような切なさを感じる私ですw
私が言いたかったのはそんな事ではなく、上記の事から>>364は有り得ないという事です。間違った認識をさせてしまうような事を書いて申し訳ありませんでした(´・ω・`)
368: 名無しさん@読者の声:2011/12/9(金) 01:38:54 ID:cW/o/4ljMA
夕焼け小焼け懐かしいwうちの地域も鳴ってた気がする
弟可愛い紫煙
369: 名無しさん@読者の声:2011/12/9(金) 08:23:08 ID:LrqHLtn3N6
真面目だなww
1さんのキャラ好きだわっC
370: 名無しさん@読者の声:2011/12/10(土) 00:32:34 ID:fkBVTflO66
(`・ω・´)つC
371: ◆b.qRGRPvDc:2011/12/10(土) 18:08:35 ID:qcDttONIGI
>>368
支援ありがとうございます!
夕焼け小焼けが鳴ると帰らないといけないという幼い頃のイメージの所為か、あれが聞こえると本当に切なくなります。丁度空が夕日に染まる頃だから余計にそう感じるのかもしれませんが(´・ω・`)
女「そうなの、弟くん可愛いの。368さん分かってる〜!」
弟「ちょっと姉ちゃん黙って」
>>369
支援ありがとうございます!
す、す、すすすす…!?いや、あの、全国的に流れているという事だったので、もし夕焼け小焼けが聞こえてきた時に「もう18時半!?」という勘違いをさせてしまってはいけないと思いまして、はい(*´・ω・`*)
実物の私を見たらきっと真面目とは言って頂けないでしょうねw
少女「こんなSSに影響力があるとは到底思えないけどね」
弟「激しく同意」
>>370
支援ありがとうございます!
やはり支援して頂けると嬉しいものですね。Cの記号を見るとテンションが上がります。周りに変に思われるかもしれないので表面上は無表情で画面を凝視しつつ、心の中で小さいおっさんが激しく踊っていますw
少女「私達ではテンションが低すぎて表せられないらしいよ」
弟「どうせ可愛げのない子供ですよ」
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