男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
26: 名無しさん@読者の声:2011/10/18(火) 18:43:39 ID:0xGhRsTZCU
鳥肌たったCCCC
27: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/19(水) 19:33:03 ID:2cyvJuLH8k
>>26
こんな稚拙な文章で鳥肌なんて嬉しくて涙がちょちょ切れです。
支援ありがとうございます!
それから幾日も時が過ぎた。
青年は黒猫を“めぐ”と名付け、その首には鈴の着いた赤い首輪をつけてやった。
青年には両親が居ない。幼い頃に両親は離婚。母親と暮らしていたが、病気で呆気なく逝ってしまった。
近所に住む伯母が度々面倒を見に来てくれているが、伯母にも家庭があるので甘えるのも気が引ける。
他人に気を遣い甘える事知らない。気が付けば青年は孤独であった。
テレビもないこの家で、パソコンに向かっている時だけは誰にも気も遣わず時間が経つのも忘れられた。
28: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/19(水) 19:35:43 ID:2cyvJuLH8k
そんな青年もめぐが現れた事で随分と変わった。毎日自分を出迎えてくれる鈴の音。話し掛ける相手がいるだけでこんなにも自分が明るくなれる事に青年自身も驚いていた。
月日はあっという間に流れ、電柱に貼られた迷い猫の貼り紙も随分と色褪せていた。
29: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/19(水) 19:56:49 ID:2cyvJuLH8k
――‐‥
??『君って馬鹿なの?ルール違反でしょ、それ』
?『でも、あの人がボクを見付けたんだ。傍に居るだけで何も話してないし…』
誰かの話し声がする。
女の子の高い声。
??『そんなの言い訳にならないよ。消えたいの?』
?『……』
夢でも見ているのだろうか。
それにしてはやけに鮮明な夢だ。
??『失くしたものを見付けて、送り届けるのが私達の使命じゃないの。呆れるね、まったく』
?『…本当に、送り届けなきゃいけないのかな』
??『は?君さっきから何言ってんの。毒されてるんじゃないの。』
何の話をしているのだろうか。
全く話が読めない。
30: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/19(水) 20:04:24 ID:Q7VdjOx2wM
??『生まれ変わるんだよ、私達は。やり直せるんだ』
?『…そう、だね』
??『私は失くしたものを見付ける。自分の罪も、きっと』
?『……うん』
失くしたもの?罪?
すぐ其処で誰かが話しているのに、目が重くて開かない。
??『傍に居てはいけないよ。このままじゃ君も消える事になる。共倒れだね』
?『消える…傍に居たら、消えちゃうの…?』
??『忠告はしといてあげたよ。…めぐ、か。良い名前を貰ったね』
――めぐ…?
男『め、ぐ…?』
31: 名無しさん@読者の声:2011/10/21(金) 10:37:27 ID:p80KbTGG36
更新まだかな支援
32: 名無しさん@読者の声:2011/10/21(金) 18:20:01 ID:yCl96nADP2
うわあ面白い!
本当にこれからが楽しみな構成…期待ですw
つC
33: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/21(金) 23:28:18 ID:KRJJSQkUy.
>>31
遅くなってしまってすみません…!支援ありがとうございます!
これから少しですが投下したいと思います(`・ω・´)
>>32
あああ嬉しすぎる(´;ω;`)
ラストだけはもう出来上がっているので、それに向けて突っ走るのみです。
本当にありがとうございます!期待に応えられるように頑張ります!
男「支援だってさ!」
少女「しえん…?」
男「えーと…つまり、頑張ってねーって」
少女「…?頑張ってね〜」
男「俺達が言うんじゃなくて…まぁいいや…」
34: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/21(金) 23:31:24 ID:PfVrPL84Ws
男「――そうだ、あの時、俺…」
少女「?」
少女は手の甲をペロリと舐めて首を傾げた。青年は何かを思い出した素振りで眉間に手を当てて目を閉じている。
男「あ、いや。俺、気付いたらあの路地で立ってたんだ。自分が何をしようとしていたか思い出せなくて」
少女「……」
35: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/21(金) 23:37:53 ID:PfVrPL84Ws
男「寝ている時に誰かの話し声がした気がして、目が覚めて、誰も居なかったんだけど、いや、あれは夢だったんだから当たり前か。
じゃなくて、めぐが…めぐって、俺が飼ってたというか拾って保護してたんだけど…」
少女の瞳がゆらゆらと揺れる。何かを言いたげに揺れる瞳を伏せると、グッと唇を噛み締めた。
36: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/21(金) 23:56:52 ID:PfVrPL84Ws
青年の脳裏に過る光景。
月明かりにほんのりと照らされた黒猫の姿と、鈴の音。
男「…めぐがベランダから飛び降りたんだ。それで、急いで下に降りたんだけどめぐは居なくて、それで」
少女「……」
男「あの路地に、首輪が落ちてた。あの日も今日みたいに雨が降っていて」
少女はギュッと目を閉じ、顔を伏せた。その体は小刻みに震えている。
青年は、はっと目を開けて、
37: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/22(土) 00:10:36 ID:KRJJSQkUy.
男「……どうしたんだっけ?あれ?」
少女がきょとんとした顔で青年を見た。青年もまた、少女と同じ表情で少女を見ていた。
男「めぐ、何処に行ったんだろう…」
少女「此処に居るよ。めぐは、此処に居る」
ゆらゆらと揺れる少女の瞳からはポロポロと涙が溢れだしていた。
涙で濡れた顔を上げて、真っ直ぐに青年を見つめた。
少女「めぐは、此処に居るよ」
38: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/22(土) 00:13:37 ID:PfVrPL84Ws
書き溜めが尽きてしまいそうなので今回は此処までとさせて頂きます。
毎度毎度、少ない投下ですみません…orz
39: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/22(土) 17:16:39 ID:VxWkJSWhZ2
男「……は、」
二人の間に流れた暫くの沈黙。それを破ったのは青年だった。
男「はは、何言ってんの。めぐは猫だぞ、猫!からかわないでくれよー」
青年は脱衣場からバスタオルを取ると、その涙を隠すように少女の頭を覆った。
わしゃわしゃとまだ水の滴る少女の髪を拭いてやりながら笑った。
確かに出会った状況も似ている。
あの路地で雨の中、誰かを待っていた黒猫と少女。青年が連れて帰って、こうしてバスタオルで拭いてやった。めぐは大層嫌がったものである。
少女「う〜!」
男「あ、こら!暴れるな!」
少女「うぅ〜!!」
そうだ、めぐの奴も風呂が嫌いだった。バスタオルで拭く時は決まって腕をすり抜けて逃げていた。
そんな事を青年が思っていた時だった。
40: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/22(土) 17:24:26 ID:VxWkJSWhZ2
少女「う…うにゃーっ!!」
男「あ、おいこら待て!めぐ!…っ!」
重なった状況と思い出に浸っていた所為で、思わず口から出た名前。
青年自身も驚いて、慌てて口元を押さえた。
男「ごめん、つい…猫と同じ扱いをしてしまった」
少女「どうして?ボクはめぐだよ」
少女はそんな青年の素振りを気にも止めず、頭を左右に振り回した。
男「いや、だからね…」
少女「男がそう呼ぶならボクはめぐ。それに、」
男「え?」
少女「あんたと呼ばれるよりはいいと思うんだ」
バツの悪い顔をして「ごめん…」と言う青年に対して、少女は満足気にニンマリと笑った。
少女は“めぐ”になった。
41: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/23(日) 23:44:41 ID:XoCiYgLVhw
青年は頬を紅潮させながらコホンと一つ咳払いをして、
男「では、改めましてめぐさん。とりあえず、髪乾かしておいで。びしょびしょだ」
めぐ「乾かす…?」
男「ドライヤーだよ、ドライヤー」
青年の口から発された単語にめぐは怪訝な目で見つめた。その表情を見て青年もまた、怪訝な目でめぐを見つめる。
青年は一人納得したように頷くとめぐの手を引いて洗面台の前に立たせた。
42: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/23(日) 23:57:46 ID:jDEa9QqT6g
男「今回は特別に俺がやってあげますよ、お客様」
めぐ「おきゃくさま?」
男「そ。お持て成しって事で」
「安いお持て成しだけど」と苦笑いする青年を余所にめぐは存外嬉しそうに笑みを浮かべた。
めぐ「おきゃくさま。おもてなし。おきゃくさ、みゃっ!?」
青年がドライヤーのスイッチを入れると、めぐの表情は一変し毛を逆立てて飛び跳ねた。何か恐ろしいものを見るような目でじりじりと後退して行く。
43: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/24(月) 00:03:45 ID:jDEa9QqT6g
男「どうした?」
めぐ「それ、いらない…」
男「ん?それって、これ?」
青年がドライヤーを傾けてめぐに向ける。温風を直に受けて、めぐは叫び声を上げてベッドの上へと飛び乗った。
ふうふうと息を荒げ、肩を上げて凄んでみせたが青年は動じない。
そればかりか、青年の表情はどこか楽しげであった。
44: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/24(月) 00:07:05 ID:XoCiYgLVhw
男「フフン…猫の“めぐ”もよくそうやって抗ったものよ」
めぐ「いらないったらいらない!」
男「ええい!黙れお客様!無料サービスでございますーっ!」
めぐ「ぎにゃああぁあああぁぁ!!」
めぐの断末魔のような叫びと青年の笑い声がワンルームに谺する。
それから数分間の格闘の末、青年の前にはぐったりとしためぐの姿があった。
45: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/24(月) 00:14:11 ID:jDEa9QqT6g
男「サラサラふわふわの仕上がり。完璧!」
めぐ「うぅ…ボク、おきゃくさま嫌いだ…」
男「そうかそうか」
青年はベッドに突っ伏して頬を膨らませるめぐを横目に、まだほんのりと暖かいその髪を指で梳くように撫でてやった。
暫く唸っていためぐだったが、次第に瞼が重くなっていくのを感じていた。温かくて優しい手の感触を感じながら、やがてめぐの視界は真っ暗になった。
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