男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
191: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/14(月) 21:44:54 ID:OdAcFveXkI
*
青年は風にはためくビニールに目をやった。
光を洩らす半透明の向こう側から、車が走る音が聞こえる。何処かで犬が鳴いている。
いつの間にか、魔法は解けてしまっていた。
男「…俺が送り届けられれば、」
ピクリと少女が顔を上げる。
男「めぐは、助かるのか…?」
少女「……」
少女を見つめる青年の目はまるで懇願する子供のように熱を帯びていた。
妄言などではない、真実を語る目をしていた。
192: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/14(月) 22:04:21 ID:S9pHaiYRfY
少女「消えずには済むんじゃない」
少女は視線を下に外すと、ぶっきらぼうに答えてみせた。
安堵の吐息が聞こえてくる。少女の前にはきっと、顔を綻ばせる青年の姿があるのだろう。
男「…天国、行けんのかな」
少女は舌打ちをして青年に向き直った。
少女「何を夢見ているのか知らないけれど、天国なんてものはないよ」
少女の胸がチクチクと痛む。自らが仕向けた事なのに、何故こんなにも胸が痛むのだろうか。
193: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/14(月) 22:32:43 ID:OdAcFveXkI
少女「君という魂は消滅して、また次の世の命となって生まれる」
男「生まれ変わる、か」
少女「随分と素直に受け入れるんだね」
男「ははっ、そうだな」
怪訝そうに見上げる少女を前に、青年は笑ってみせた。
男「思い出しちゃったもんはしょうがないよ。うん。俺、死んじゃったんだもんな」
少女「……」
194: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/14(月) 23:13:05 ID:S9pHaiYRfY
青年の顔から笑みが消えていく。
深い溜め息を吐いて伏せられた睫毛を揺らせた。
男「…下らない人生だった。いつ死んでもいいなんて思ってたけど、なんでこんなに辛いんだろうな」
少女「それは……知っているからでしょう?」
唇を噛み締める少女の手に力が込められた。ギュッと強く握られたワンピースの裾が皺を寄せる。
少女「君を思って、女性がずっと泣いているのが私には聞こえる。…その人の温もりを、君は知っているからでしょう?」
195: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 00:00:02 ID:OdAcFveXkI
男「伯母さん…ごめん……」
少女「聞こえる筈ないでしょ」
男「分かってるよ。霊子さんって本当にズバッと言うよね」
少女「いけないかい?」
悪びれる事もなく首を傾げる少女に苦笑気味に笑みを零した。
男「届かなくても伝えたかったんだよ」
「ふーん」と頷きながら少女は青年を見上げる。青年の視線はカーテンの向こう側に向けられていた。
196: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 00:04:09 ID:OdAcFveXkI
少しですが今日は此処までとさせて頂きます。
次で少女の出番は終わりにしますです(`・ω・´)
このスレを開いて下さった皆さん、本当にいつもありがとうございます!おやすみなさい
197: 名無しさん@読者の声:2011/11/15(火) 08:34:32 ID:CzTxzhHXm6
少女たんとさよならやだあああああ(´;ω;`)
支援支援支援
198: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 20:16:31 ID:XtSlSMN0tE
>>197
支援ありがとうございます!
少女は二人を動かす為の大事な登場人物でした。彼女のぶっきらぼうな性格と物言いが気に入って頂けるとは思いもよらず、正直驚いておりますw
男という人間に出会って変わったのは、めぐよりも少女だったのかもしれません。
ああ、なんでこう語りすぎてしまうんでしょうか。語るのは完結してからにすべきですね。本当にすみません…orz
本当にありがとうございます。もう少し、お付き合い下さい(*´・ω・`*)
199: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 20:18:39 ID:XtSlSMN0tE
青年が何を思っているのかなど、少女には容易に予想出来た。
少女「……行くのかい?」
男「なんか、霊子さんには頼りっぱなしだったな」
少女「…馬鹿二人じゃ少しも話が先に進まないからね」
少女はフンと鳴らして口元を緩ませた。伏し目がちになりそうなのを堪えて、出来るだけ悪たれてみせた。
青年が笑みを零す。その吐息が合図だったかのように、少女の瞳はゆらゆらと揺れた。
200: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 20:41:06 ID:XtSlSMN0tE
男「霊子さん…?」
少女の手がギュッと強く青年の手を握り締める。
青年の手を握りながら、少女は言った。
少女「すまない…」
男「え?」
少女「すまない…!君は、君は私達とは違う。救いがあるから…」
青年は二度程瞬きをしてクスクスと笑った。
少女はきょとんと首を傾げたが、青年の喉はクックッと震えている。
201: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 21:09:44 ID:XtSlSMN0tE
青年はコホンと咳払いをして踏ん反り返ってみせた。
眉を寄せて少女を見下ろすと、少女はますます首を傾げた。
男「君さっきから何言ってんの。毒されてるんじゃないの」
少女の眉がピクリと動く。
男「どうやら君は俺に絆されてしまったみたいだね」
フンと鼻を鳴らして笑みを浮かべる青年を前に、ポカンと口を開けていた少女にも笑みが零れる。
少女「君みたいな鈍い子に諭されるとはね。どうやらその通りらしい」
202: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 21:34:45 ID:XtSlSMN0tE
頭に何かの重みを感じて、少女の体が強ばった。青年の手の平が少女の頭に乗っている。
ポン、ポン、と凡そ一定のリズムで青年の手が少女の頭を優しく叩いた。
少女「………」
少女は体の力を抜くとゆっくりと目を閉じた。
胸の辺りがじわりと暖かくなるのを感じる。これが人の温もりなのだろうか。
男「ありがとう」
青年の手が頭から離れると、少女は目を開いた。青年の姿は何処にもなく、ワンルームはシンと静まり返っていた。
203: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 22:31:50 ID:XtSlSMN0tE
少女「…ありがとう、男くん」
ワンルームに一人佇む少女がポツリと呟いた。青年からの返事がある筈もなく、虚無感に苛まれる。
ごそごそとワンピースのポケットを漁って、手の平を見つめた。
少女「返しそびれちゃったね…」
チリン、と鈴の音が鳴った。
赤い首輪を握り締めると、少女はワンルームから姿を消した。
204: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 22:39:55 ID:VrA.sR3qFU
今日の投下は此処までとさせて頂きます。
さようなら、少女たんw
205: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 22:46:22 ID:VrA.sR3qFU
おぅふ…知らない間に200越えていました(`・ω・´;)
此処まで来れたのも皆さんのお陰です。本当に本当にありがとうございます。
206: 名無しさん@読者の声:2011/11/16(水) 01:57:47 ID:8suo7e3v.U
すでに泣きそうな私ガイルCCCCCC
207: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/16(水) 18:02:43 ID:89gvyHE3LQ
>>206
支援ありがとうございます!
そんな事を言って頂けるなんて…私が泣きそうです。いや、泣きます。泣いちゃいます。嬉しいです、嬉しすぎです。
ありがとうございます(´;ω;`)
男「支援ありがとう…うぅっ」グスッ
少女「何故君が泣くんだい」
男「だってさ…だってさ…」
男「俺超格好良くない?格好良すぎじゃない?」グスグス
少女「駄目だこいつ」
208: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/16(水) 21:48:05 ID:adMUXkgFVg
*
一軒の平屋の前に青年は居た。膝に手を付き、深々と頭を下げている。その表情は垂れ下がる髪に隠れて伺う事は出来ない。
家の中からは女性の泣き声が聞こえてくる。啜り泣くようなその声は、時折何かを言いながら息を詰まらせていた。
男「……ごめん」
青年が擦れた声で呟く。垂れ下がる髪が小刻みに揺れた。
209: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/16(水) 22:08:07 ID:89gvyHE3LQ
女性の泣き声は止まない。きっと、青年の声が彼女に届く事はないのだろう。言葉を交わす事でさえ、もう──。
それでも、
男「ごめん…ごめんな……親不孝者で、ごめん……!」
この思いを声に出さずにはいられなかった。
男「…ありがとう、ございました」
少しの間を置いて、青年の頭が勢いをつけて上げられた。
210: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/16(水) 22:32:48 ID:adMUXkgFVg
一歩踏み出す度に青年の頭に思い出が蘇る。
伯母さんの作るご飯は毎回味が薄かったな。
熱が出た時は泊まっていくなんて、子供みたいに駄々を捏ねて看病してくれたっけ。
伯父さんと喧嘩した時は二人して伯母さんに正座させられたなあ。
母さんが亡くなった時は、息が出来なくなるくらい抱き締めてくれた。
俺が死んで、伯母さんは誰に抱き締めてもらったんだろうか。
振り返らずとも鮮明に浮かぶ暖かかった家族。青年は後ろ髪を引かれる思いで一歩、また一歩と前に進む。
青年の唇が震える。込み上げる悲しみを振り切るように、パシッと両手で頬を叩いて自身の頭を切り替えた。
241.54 KBytes
[4]最25 [5]最50 [6]最75
[*]前20 [0]戻る [#]次20
【うpろだ】
【スレ機能】【顔文字】