男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
181: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/13(日) 20:12:31 ID:awCAHkK9I.
男「…俺、が…?」
ふらふらと青年は立ち上がった。
目の前には先程と変わらず少女の姿があった。フローリングの床がギシリと音を立てて軋む。
男「はは、は…なんだ…」
住み慣れている筈のワンルームにはベッドも、何もなかった。カーテン代わりにぶら下げられている半透明のビニールだけが、風にはためいている。
182: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/13(日) 20:54:49 ID:awCAHkK9I.
全身に走った衝撃、反転する視界、散乱した財布の中身、雨の降る住宅街の路地─それらが青年の脳裏で交差する。
青年は全てを思い出し、そして理解した。
男「居なくなんのは…、俺だ…」
少女「……」
男「俺、なんだ……」
183: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/13(日) 21:18:06 ID:awCAHkK9I.
*
雨の中、静かに佇んでいた黒猫が待っていたのは、一人の青年。
自分の存在に気付く筈のないその人物は、とても暖かい手の持ち主だった。
人と触れ合うのは初めてだった。
ただの好奇心だった。
黒猫は、いつしか青年を失う事を受け入れられなくなっていた。そして、運命に抗った。
いつか失う命──黒猫はそれをただ守りたかった。
184: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/13(日) 21:38:31 ID:awCAHkK9I.
青年の元を去った黒猫は、自らを犠牲にする事で青年を助けようとした。
それなのに、
それなのに──。
『なん、で…』
守りたかったものが、目の前に立っている。
あの時と同じように、暖かい手で受け止めてくれる。
『一緒に、居たい…男と一緒に居たい!』
抑えきれない気持ちが爆発してしまった。
ああ、この人を失いたくない。
手放したくない。
貴方を、忘れてしまいたくない──
185: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/13(日) 21:43:03 ID:awCAHkK9I.
今日の投下は此処までとさせて頂きます。
ちょっと少女の出番が多過ぎるかな…大丈夫かな…(´・ω・`)
186: 名無しさん@読者の声:2011/11/13(日) 23:23:29 ID:/c1i8FH/0g
多すぎないよ(`・ω・´)つCCCCC
少女たん可愛いよ少女たん
187: 名無しさん@読者の声:2011/11/14(月) 00:54:17 ID:avPVj.d99o
感情さんランクインおめでとう!
愛してるうううう
188: 名無しさん@読者の声:2011/11/14(月) 08:19:41 ID:jXFPpZf.mk
CおCめCでCとCうC
めぐも男も少女も1も愛してるよ
189: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/14(月) 18:15:03 ID:S9pHaiYRfY
>>186
支援ありがとうございます!
メインはめぐと男の筈なのにこれでいいものかと思っていましたが、大事な所なので端折る事も出来ず悩んでいました。
でもその一言で救われました。ありがとうございます(´;ω;`)
少女「少女…たん?」
男「いいじゃないか少女たん…って顔赤っ!」
少女「う、うるさいよ」プイッ
男「186さんごめんね。照れてやがるわ」
>>187-188
支援とコメントありがとうございます!どうしましょう、6位だなんて。ランキングとは無縁だと思っていたのでお二方の書き込みを見て知りました。手が震える…
皆さんが予想をされている所も見ていました。その予想の中に入れて頂いていた事やこのSSを好きだと言って下さった事、ランキングに入る事が出来た事、どれも凄く有難くて嬉しい事です。
ですが、皆さんの反応を見ていると素直に喜べない部分も本心としてあります。とても複雑な心境ですが、皆さんが応援して下さっている事は本当に本当に嬉しいです!言葉に表せられないくらいに!
このSSに投票して下さった皆さん、本当にありがとうございます。私も皆さんの事が大好きです。
これからも頑張りますので見守ってやって下さい(`・ω・´)
190: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/14(月) 18:21:27 ID:OdAcFveXkI
>>189の最後を訂正
このSSに投票して下さった皆さん、支援して下さっている皆さん、読んで下さっている皆さん、です。馬鹿野郎、私。
また夜に投下しに来ます(`・ω・´)
191: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/14(月) 21:44:54 ID:OdAcFveXkI
*
青年は風にはためくビニールに目をやった。
光を洩らす半透明の向こう側から、車が走る音が聞こえる。何処かで犬が鳴いている。
いつの間にか、魔法は解けてしまっていた。
男「…俺が送り届けられれば、」
ピクリと少女が顔を上げる。
男「めぐは、助かるのか…?」
少女「……」
少女を見つめる青年の目はまるで懇願する子供のように熱を帯びていた。
妄言などではない、真実を語る目をしていた。
192: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/14(月) 22:04:21 ID:S9pHaiYRfY
少女「消えずには済むんじゃない」
少女は視線を下に外すと、ぶっきらぼうに答えてみせた。
安堵の吐息が聞こえてくる。少女の前にはきっと、顔を綻ばせる青年の姿があるのだろう。
男「…天国、行けんのかな」
少女は舌打ちをして青年に向き直った。
少女「何を夢見ているのか知らないけれど、天国なんてものはないよ」
少女の胸がチクチクと痛む。自らが仕向けた事なのに、何故こんなにも胸が痛むのだろうか。
193: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/14(月) 22:32:43 ID:OdAcFveXkI
少女「君という魂は消滅して、また次の世の命となって生まれる」
男「生まれ変わる、か」
少女「随分と素直に受け入れるんだね」
男「ははっ、そうだな」
怪訝そうに見上げる少女を前に、青年は笑ってみせた。
男「思い出しちゃったもんはしょうがないよ。うん。俺、死んじゃったんだもんな」
少女「……」
194: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/14(月) 23:13:05 ID:S9pHaiYRfY
青年の顔から笑みが消えていく。
深い溜め息を吐いて伏せられた睫毛を揺らせた。
男「…下らない人生だった。いつ死んでもいいなんて思ってたけど、なんでこんなに辛いんだろうな」
少女「それは……知っているからでしょう?」
唇を噛み締める少女の手に力が込められた。ギュッと強く握られたワンピースの裾が皺を寄せる。
少女「君を思って、女性がずっと泣いているのが私には聞こえる。…その人の温もりを、君は知っているからでしょう?」
195: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 00:00:02 ID:OdAcFveXkI
男「伯母さん…ごめん……」
少女「聞こえる筈ないでしょ」
男「分かってるよ。霊子さんって本当にズバッと言うよね」
少女「いけないかい?」
悪びれる事もなく首を傾げる少女に苦笑気味に笑みを零した。
男「届かなくても伝えたかったんだよ」
「ふーん」と頷きながら少女は青年を見上げる。青年の視線はカーテンの向こう側に向けられていた。
196: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 00:04:09 ID:OdAcFveXkI
少しですが今日は此処までとさせて頂きます。
次で少女の出番は終わりにしますです(`・ω・´)
このスレを開いて下さった皆さん、本当にいつもありがとうございます!おやすみなさい
197: 名無しさん@読者の声:2011/11/15(火) 08:34:32 ID:CzTxzhHXm6
少女たんとさよならやだあああああ(´;ω;`)
支援支援支援
198: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 20:16:31 ID:XtSlSMN0tE
>>197
支援ありがとうございます!
少女は二人を動かす為の大事な登場人物でした。彼女のぶっきらぼうな性格と物言いが気に入って頂けるとは思いもよらず、正直驚いておりますw
男という人間に出会って変わったのは、めぐよりも少女だったのかもしれません。
ああ、なんでこう語りすぎてしまうんでしょうか。語るのは完結してからにすべきですね。本当にすみません…orz
本当にありがとうございます。もう少し、お付き合い下さい(*´・ω・`*)
199: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 20:18:39 ID:XtSlSMN0tE
青年が何を思っているのかなど、少女には容易に予想出来た。
少女「……行くのかい?」
男「なんか、霊子さんには頼りっぱなしだったな」
少女「…馬鹿二人じゃ少しも話が先に進まないからね」
少女はフンと鳴らして口元を緩ませた。伏し目がちになりそうなのを堪えて、出来るだけ悪たれてみせた。
青年が笑みを零す。その吐息が合図だったかのように、少女の瞳はゆらゆらと揺れた。
200: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 20:41:06 ID:XtSlSMN0tE
男「霊子さん…?」
少女の手がギュッと強く青年の手を握り締める。
青年の手を握りながら、少女は言った。
少女「すまない…」
男「え?」
少女「すまない…!君は、君は私達とは違う。救いがあるから…」
青年は二度程瞬きをしてクスクスと笑った。
少女はきょとんと首を傾げたが、青年の喉はクックッと震えている。
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