男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
107: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/2(水) 23:02:17 ID:VDnJeC4e6A
少女「めぐは此処には居ないよ」
男「ぎゃーっ!」
突然聞こえた背後からの声に、青年は体を跳ねさせた。
恐る恐る振り返ると、耳を押さえた少女が眉を寄せながら青年を見下ろしていた。少女は昨日と何ら変わりない格好で其処に居た。
少女「うるさいよ」
男「す、すみません幽霊さん…」
少女「本当に幽霊って呼ぶんだね」
男「じゃあ、女の子だから霊子さん」
少女はげんなりとした表情で頭を押さえた。
108: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/2(水) 23:24:58 ID:VDnJeC4e6A
少女「で?」
少女は首を傾げて青年に話の先を促した。
少女「私に何か用?」
男「あ、はい。その、めぐの事なんですけど…」
ああ、と頷いて少女は踵を返した。スカートの裾がふわりと風に揺れる。
少女「彼女の事なら知らないよ。第一、私から逃げたんだから知るわけがないでしょ」
ひらひらと手を振りながらその場から離れて行く少女を、青年は追い掛けた。
男「待ってくれよ!あいつ“居なくならないで”って言ったんだよ。だったら、居なくなるのはあいつじゃないだろ?」
109: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/2(水) 23:57:28 ID:VDnJeC4e6A
少女は足を止めて青年に向き直った。
少女「じゃあ、居なくなるのは誰なのさ」
男「それは……誰だ?」
相変わらずの仏頂面で青年を見上げて溜息を吐く。その動作は至極面倒そうなもので、青年はたじろいだ。
少女「…君は鈍いのか鋭いのかどっちなんだい」
男「へ?」
少女「“めぐ”を一番知っているのは君だと思うけど。それに、私が知る限りは彼女は此処と君の家しか知らない筈だよ」
男「此処と、俺の家…?」
110: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/3(木) 00:17:50 ID:VDnJeC4e6A
青年が気が付いた時にはもう少女の姿は何処にも見当たらなかった。呆然と立ち尽くす青年に、雨は降り注ぎ続ける。
青年のズボンはすっかり色が変わってしまっていた。
男「霊子さんが知らなくて俺とめぐは知ってる場所…?」
青年はぼんやりと路地を見つめる。雨具姿のめぐが楽しそうにくるくると回る姿が見えた気がした。
男「一つしかない、か」
111: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/3(木) 00:28:59 ID:VDnJeC4e6A
青年は再び走った。バシャバシャと水音を立てて、めぐが居るであろう場所に向かった。
二人で肩を並べた場所。
幸せだったと、手放したくないと言ってくれた場所へ。
息を切らして、ただ、真っ直ぐに。
――真っ直ぐに、めぐを求めた。
男「めぐ!!」
112: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/3(木) 00:32:17 ID:BlrKqtJxIg
これにて今日の投下は終了とさせて頂きます。
いつも支援して下さってありがとうございます!
113: 名無しさん@読者の声:2011/11/3(木) 00:48:45 ID:aTgMsJ/gf2
この1区切るの上手すぎるぜ…気になって眠れん!支援支援!
114: 名無しさん@読者の声:2011/11/3(木) 08:04:56 ID:EG7w1yMPRs
つC
115: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/4(金) 23:03:49 ID:e9xZwMYK/.
体調不良の為、今日はお休みします。昨日も投下出来ず申し訳ありませんorz
支援して下さってありがとうございます。レスは明日に必ずさせて頂きます
116: 名無しさん@読者の声:2011/11/5(土) 09:55:02 ID:7qWZnYTPBM
>>115
体調はいかがですか?
天候も気温も変化の大きい時期ですものね。
ゆっくり休まれてくださいね。
117: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/5(土) 21:42:36 ID:gMBCdlvBpY
>>113-114
支援ありがとうございます!
めぐ「支援ありがとうございます」
少女「そうそう、お礼はそうやって言うんだよ」
男「調教されとる…」gkbr
>>116
暖かいお言葉ありがとうございます…急性胃腸炎に掛かってしまって2日程ですっかりトイレと仲良しになりましたorz
体調管理もしっかりしないといけませんね。お気遣い本当にありがとうございます(´ω`)
118: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/5(土) 21:44:30 ID:gMBCdlvBpY
丘の上にある公園、二人で寄り添った木にめぐは居た。あの時と同じように木の枝に一人、腰掛けていた。
めぐ「男…」
男「何黙って居なくなってんだ、馬鹿…!」
青年は膝に手をついて呼吸をしながらめぐを見上げた。肩は大きく上下して、酸素を吸い込む度に咳き込んだ。
119: 名無しさん@読者の声:2011/11/5(土) 21:52:21 ID:EG7w1yMPRs
体調は大丈夫?
無理だけはしないように(`・ω・)キリッ
っCCCCCC
120: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/5(土) 21:59:56 ID:abfFXIg/oE
男「待ってる奴が居るんだろ?居なくならないでほしいんだろ?なんであそこに居ないんだよ」
めぐはぴくりと体を揺らした。黒めがちな瞳に睫毛が掛かる。
ぎゅっと胸が、締め付けられる。
男「何を隠してんのか知らないけどさぁ…」
青年はゆっくりと体を起こし、真っ直ぐにめぐを見つめた。
男「お前と一緒に居たいんだよ、俺は」
121: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/5(土) 22:06:17 ID:abfFXIg/oE
>>119
ありがとうございます…!
まだ少しトイレと仲良くはしていますが、点滴のお陰で大分距離を置けるようになりました!
恐るべし急性胃腸炎…119さんも気を付けて下さいね(`・ω・´)キリッ
めぐ「トイレと仲良しってどういう意味?」
男「え?それは、えーと…(下品すぎて言えねぇ…!!)」
少女「出るもん出してるだけだよ」
1「言わないでえぇえぇぇ!!」
122: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/5(土) 22:12:04 ID:gMBCdlvBpY
まさか、とめぐは顔を上げる。青年の真っ直ぐな視線とぶつかって思わず唇を噛み締めた。
男「お前が何処の誰なのかとか、俺に何を隠してるのかなんてもうどうだっていい。俺は“めぐ”と一緒に居たいんだよ!」
青年の瞳からは涙が零れていた。
人前でこんなに泣くなんて何年ぶりだろうか。震える喉をグッと堪えた。
123: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/5(土) 22:25:07 ID:abfFXIg/oE
男「お前はどうなんだよ、めぐ!」
めぐ「ボクは……」
めぐの肩が小刻みに震える。瞳は大きくゆらゆらと揺れ、やがて大粒の涙を溢れさせた。
雨に混ざってめぐの涙が落ちる。
めぐ「一緒に、居たい…男と一緒に居たい!」
124: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/5(土) 22:50:06 ID:gMBCdlvBpY
めぐはわんわんと噎び泣いた。自分の行動が自らの存在意義を無にする事を理解していた。
それでも、この気持ちを抑える事が出来なかった。
男「めぐ、おいで」
青年が手を広げる。
男「…帰ろう、一緒に」
青年の言葉と同時にめぐの腰が浮く。とめどなく溢れる涙で顔を濡らして、青年の胸に飛び込んだ。
青年はめぐを腕の中に受け止めると、勢い良く後ろに倒れこんだ。
男「…ぐっ……!!」
男(頭強打した痛い泣いちゃう格好付けるんじゃなかった!!!)
125: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/5(土) 23:15:00 ID:gMBCdlvBpY
めぐ(男、ごめんね…ごめんなさい、ごめんなさい…)
青年の暖かい腕の中で、めぐは思い続けた。
もう少しだけ、傍に居させて、と。
許されない事なのは分かっている。少女の忠告も理解はしている。
青年と過ごす時間は、意味のない事なのだと。いずれ自分という存在は消え失せて、もう二度と青年とこうする事も出来なくなるのだと。
めぐは、理解していた。
126: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/5(土) 23:18:35 ID:abfFXIg/oE
少しですが今日の投下は此処までとさせて頂きます。
支援して下さった方、体を気遣って下さった方、皆さん本当にありがとうございます。大好きです(*´・ω・`*)
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