Part5
125 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/10(日) 10:33:05 ID:
E0qVI6ko
少年「なんで」
僕は魔女に聞こうと思いましたが、結局聞けませんでした。
魔女「これ以上を話す気は無いんだ。 ごめんね」
そう言った魔女の目が、あまりにも優しくて、泣きそうなくらい悲しい目だったからです。
魔女はたまに、そんな目をします。
何もかもを諦めているような、何もかもを拒絶したような、何もかもを許したような。
いったいどんな物をその瞳に写したら、こんなに美しくて、悲しい瞳になるのか僕には想像も付きません。
だけど、いつかそんな魔女の悲しみを和らげてあげたいと思いました。
126 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/10(日) 18:20:27 ID:
E0qVI6ko
魔女「花を、持ってきてくれたんだね」
魔女は飾ってある花を見て言いました。
少年「魔女が喜んでくれるなら持ってきて良かった」
本当にそう思います。
魔女「ただ、この花をどこで摘んだのかは知らないけど、良くないモノがついているね」
魔女が指を動かして、花を浮かべます。
魔女「〜〜」
よく聞き取れない言葉を鼻歌のように口にすると、花から黒い靄のような物が出てきました。
もの凄く嫌な感じがします。
127 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/10(日) 18:21:16 ID:
E0qVI6ko
少年「なにこれ?」
魔女「人の悪意かな」
魔女はそう答えると空いている手から紅い靄のような物をだしました。
それは次第に形を変えて、大きな狼の顎になり、唸り声をあげています。
魔女「喰らえ」
魔女が一言そう呟くと狼の顎は黒い靄を一口で平らげてしまいました。
絶対に美味しくなさそうなんですが、狼の顎は満足げです。
もしかしたら、美味しいのかもしれません。
食べたくはありませんけど。
128 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/10(日) 18:21:48 ID:
E0qVI6ko
少年「いまの、なに?」
魔女「せっかくの花に虫が付いていたら長く飾れないだろう?」
魔女いわく、黒い靄は人の悪意が形を持った物らしく、あそこまで濃い物は珍しいらしいです。
魔女「あんなにしっかりと形ができる奴は、普通なら戦場くらいでしかお目にかかれないよ」
少年「ここは、戦場じゃなくてただの森なのに」
戦場で花を摘んだ覚えはありません。
まぁ、人は埋まっているんでしょうけど。
魔女「ただの森、ではないけどね」
少年「え?」
魔女「ただの森なら僕はここに居ないさ」
すっかり冷めてしまった紅茶を一口飲んで魔女は言いました。
129 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/10(日) 18:23:36 ID:
E0qVI6ko
少年「何故魔女はこの森に?」
魔女「魔女だから、かな」
魔女はこれ以上は何も言いません。
いつものように本を読み始めました。
静かな空気は居心地が良いはずなのですが、なんだか今日は寂しいです。
少年「なにか、話をしよう」
魔女「いいよ。 まずは君から」
魔女は優しい声で言いました。
少年「何か話すことあるかな」
魔女「そうだな、君の事を知りたいな」
魔女はもう一度、優しい声で言いました。
130 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/10(日) 18:24:17 ID:
E0qVI6ko
それから、他愛もない話をしました。
本当に、退屈でどこにでもあるような他愛のない話です。
きっと僕以外にもこんな話をする人はいっぱい居るはずです。
魔女はそれを、優しく頷きながら聞いてくれました。
僕は、話し終わる頃には泣いてしまいました。
そんな僕を見て魔女は、「大変だったね」と言ってくれました。
なぜ、魔女はこんなに優しくできるのでしょうね。
131 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/10(日) 18:24:56 ID:
E0qVI6ko
少年「ごめんね、こんな話じゃ魔女はつまらなかったんじゃないかな」
いつの間にか、日は暮れていました。
部屋の壁が蛍火のように、冷たい光を発しています。
魔女「いや、そんなことはないよ」
魔女は頭を撫でてくれました。
子供扱いされるのは好きではありませんが、魔女の手が優しいので思わず頬が緩みます。
少年「子供扱いはあまり好きじゃないよ」
見られたくはないので、顔を背けました。 恥ずかしいですから。
魔女「もう少し子供らしくしても良いよ?」
今日の魔女はなんだか優しくて嬉しくなりました。
134 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/16(土) 20:35:12 ID:
auoAPclo
少年「じゃあ、僕はそろそろ帰るよ」
魔女「君の寝具も用意しようか? 帰ったところで君には」
魔女が心配そうに言いました。
少年「そうも行かないよ、お母さんも心配するし」
魔女「……」
魔女は少し悲しそうな顔をしてうなずきました。
135 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/16(土) 20:35:36 ID:
auoAPclo
塔をでて森を歩きます。
今朝よりも、もっと嫌な感じが肌に纏わりつきます。
木々の影がまるでニタニタと笑いながら僕を見ているように感じました。
早く森を出たくて駆け出します。
途中、流れる景色に、森の獣のように恐ろしく、人間みたいに不気味な生き物が見えた気がしました。
136 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/16(土) 20:36:13 ID:
auoAPclo
村に帰りました。
みんな居るはずなのに、誰もいないみたいに静まりかえっています。
家の前まで行くと、パン屋のおじさんが立っていました。
少年「何かよう?」
おじさん「……」
おじさんは何も喋りません。
気味が悪いです。
おじさんも気味悪がっているみたいです。
まるで、化け物でも見るような目で僕の方を見ていました。
少年「何かようなの?」
おじさん「あの時の復讐か……?」
おじさんはブルブルと小刻みに震えながら呟き僕を睨みつけます。
怖がっているというより、怒りで震えているみたいです。
137 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/16(土) 20:36:40 ID:
auoAPclo
少年「何の話? よくわかんないよ」
おじさん「確かに、二年前にした事は俺たちが悪い、だからといって娘が何をしたって言うんだ?」
おじさんはよく分からない事を言いながら僕の肩を掴み揺さぶりました。
目が血走って、かなり興奮しているみたいです。
殺されちゃいそうです。
少年「今度は僕の事を殺すの? あの時したみたいに?」
思ってもない筈の言葉が口から出てしまいました。
さっき魔女にあんな話をしたせいですね。
138 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/16(土) 20:37:11 ID:
auoAPclo
おじさん「あれはっ……」
おじさんは黙ってしまいました。
少年「殺すの? それとも殺さないの? 殺さないなら手を離してよ」
本当に、早くしてほしいです。 早くお家に入らないとお母さんが心配しちゃいます。
おじさん「本当に気味の悪い餓鬼だ、そこまで言うならお望み通り……」
おじさんの大きな手が僕の首にかかりました。
死ぬのは嫌ですが、人生なんてこんな物なのかもしれません。
そう思っている筈なんですが。
いざ死ぬとなると、なんだか無性に悲しくなりました。
139 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/16(土) 20:37:46 ID:
auoAPclo
おじさん「娘の仇を討たせてもらうぞ」
喉が潰れそうです。 息が苦しくなって目が飛び出してしまいそうです。
その時でした。
おじさん「くっ!!」
少年「お母さん?」
お家からお母さんが出てきて、おじさんの腕に噛み付きました。
おじさんの手が、僕の首から離れます。
おじさん「なんだこの野良犬は!?」
おじさんはお母さんを振りほどこうと必死に腕を振り回します。
少年「お母さん、ありがとう。 でも駄目だよ……」
小さなお母さんの身体では、おじさんにかなう訳もなく呆気なく振りほどかれてしまいました。
140 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/16(土) 20:38:27 ID:
auoAPclo
おじさん「この糞犬が」
おじさんは振りほどいたお母さんのお腹を蹴り上げました。
このままじゃまたお母さんが殺されちゃいます。
また、独りきりの家に帰る事になります。
それは嫌です。 おじさんに何回も家族を殺されたくないです。
141 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/16(土) 20:38:44 ID:
auoAPclo
少年「うわぁぁぁっ」
おじさんの背中に思いっきり体当たりをします。
おじさん「この糞餓鬼っ!!」
おじさんは、僕の頬を思いっきり殴りつけました。
骨の軋む嫌な音が頭の中から聞こえます。
視界が霞んできました。
お母さんの吠える声が段々小さく聞こえてきました。
そのうち、何も見えなくなりました。 何も聞こえなくなりました。
僕は、気を失ったみたいです。
142 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/16(土) 20:40:05 ID:
auoAPclo
多分今日はここまでとなります。
そろそろクライマックスに近づいてきました。
143 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/16(土) 20:49:35 ID:b2arUbhU
なんだか霞がかかったみたいに真相が見えないな…
最後には全て明らかになるんだろうか?
( ・ω・)っ?"
144 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/16(土) 22:18:51 ID:
auoAPclo
…………。
……。
気が付きました。
まだ夜は明けてません。
あと一日も経てば、完全になる月が真上で濁った黄色に輝いています。
少年「……お母さん」
僕の近くには、お母さんが死んでいました。 その横には姉さんも死んでいます。
暖かくて柔らかかった毛皮は血で汚れて傷ついています。 優しげな瞳が僕を見つめる事はもうないでしょう。
青年「大丈夫か?」
青年さんが近くに居た事に、声をかけられて初めて気が付きました。
145 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/16(土) 22:19:30 ID:
auoAPclo
少年「……」
青年「パン屋のおじさんには帰ってもらったよ。 なんの証拠も無いのに娘を殺した犯人扱いしやがって」
少年「……」
青年「娘が居なくなってからおじさんはおかしいんだ。 それに村の連中も」
少年「……」
青年「正直な話、村のみんなはパン屋の娘を殺したのはお前だと思ってる」
少年「……」
146 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/16(土) 22:19:54 ID:
auoAPclo
青年「俺はお前のことを信じてるけど、庇いきれなくなりそうだ」
何か話してますね。 いったい何を話してるんでしょう?
青年「こう言っちゃなんだが、お前には身よりも居ない。 これを気に村を出たらどうだ?」
誰に向けた言葉なんでしょうか? 青年さんの言葉には何一つ本当の気持ちがないみたいです。
青年「なぁ、確かに飼い犬が殺されて悲しいのは分かるが、このままだとお前まで殺されちまうぞ?」
少年「……」
147 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/18(月) 19:10:45 ID:uq3Ycl9I
支援
148 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/18(月) 21:20:13 ID:
OUFhU7a6
少年「娘さんを殺したのは青年さんでしょう? この前くれた綺麗な花が咲いている場所に埋めたんだよね」
我慢の限界です。
この人の言葉のひとつ一つが不愉快でしょうがありません。
青年「……何言ってんだよ。 俺はお前の事を思って言ってやってるのに笑えない冗談だ」
少年「青年さんが、自分の事しか考えてない事くらいわかるよ。 それに見たんだ、青年さんが森で死体を運んでいるところを」
青年「……ふーん」
149 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/18(月) 21:20:43 ID:
OUFhU7a6
青年さんの顔は月明かりの逆光で見えません。
でも、分かります。
青年さんは嗤っています。
三日月みたいに口を歪めて、青年さんの中身を包み隠す事なく。
この濁った月の光に本来の自分を晒して、青年さんは嗤っています。
青年「で?」
青年さんの事を初めて人間らしいと思いました。
自分のことを包み隠さずに晒してくれた方が、僕は好きです。
青年さんは好きになれませんけど。
150 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/18(月) 21:21:24 ID:
OUFhU7a6
青年「良くわかんねー疫病で、家族全員死んじまって」
青年さんが近づいてきました。
青年「村の端っこのボロ小屋に野良犬何匹かと暮らしてる」
青年さんは僕の頭を撫でました。 吐き気がします。
青年「おまけに犬共を、お母さんだとか、お父さんだとか呼んでいる薄気味悪い糞餓鬼が何言ったって」
ここまで言って、青年さんはいつもの張り付けたように嘘臭い爽やかな笑顔に戻ってしまいました。
151 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/18(月) 21:22:12 ID:
OUFhU7a6
青年「村の連中が信じてくれる訳ねーだろ? お前は殺されずにすむ、俺は疑われない。 最高じゃねーか」
少年「……」
青年「村の連中はどいつもこいつもなんか悪いモンにでも取り憑かれたみたいに殺気立ってやがる。 村をでるなら早い方が良いぜ?」
……なぜこうなってしまったかは、わかりません。
ただ、お母さんやみんなが死んでしまったのが悲しいです。
この犬たちが居ないと寒くて眠れません。
いくら毛布を被ろうと、夜になって一人で眠ると奥歯がガチガチと震えるんです。
152 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/18(月) 21:22:39 ID:
OUFhU7a6
疫病にかかってしまい、「村を守るため」と言う理由でいきなり殺されてしまったり。
僕を助けようとして、撲殺されてしまったり。
なぜ、僕と縁が深くなるとみんな死んでしまうのでしょうか?
僕のせいなんでしょうか?
そのうち魔女も、死んでしまうのでしょうか?
気が付いたら泣いていました。
『夜に大声は出したらだめなのよ?』というお母さんの言葉を守るために、下唇を思いっきり噛みます。
世界って、どうしてこんなに優しくないのでしょうか?