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少年「あなたが塔の魔女?」
Part3


57 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 21:58:45 ID:IchVhHA6
少年「わかった。 わざわざありがとう」
 冷たくも温かくもない、苦くて酸っぱくて甘くてしょっぱい液体が喉を通っていきます。
魔女「どんな味がした?」
少年「苦くて酸っぱくて甘くてしょっぱい味」
魔女「そう、良かったわね」
 魔女はなんだかほっとしたような顔をして、安楽椅子に戻ります。
 あまりに変な味だったせいか、いつの間にか吐き気は収まっていました。

58 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 23:03:57 ID:IchVhHA6
魔女「さて、夜も更けてきたようだ」
 魔女は読んでいた本をパタンと閉じて言いました。
少年「うん」
魔女「今日はいつまで居るのかな?」
 魔女の瞳がいつもより小さく見えます。
少年「居ても良いまで」
 この部屋はランプもないのに随分と明るいです。 部屋の壁がぼんやりと光っているからなんですが、これも魔女の魔法なんでしょうか?

59 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 23:04:14 ID:IchVhHA6
魔女「……」
 魔女の瞼が徐々に下がっています。 眠いんでしょうね。
魔女「居ても良いまでとは言ったが、ここには僕の分の寝具しかないんだけど」
少年「魔女は眠らないんじゃないの?」
魔女「魔女だって眠るさ」
少年「なら帰った方が良さそうだね」
 居心地が良い分、帰る時は後ろ髪を引かれるような気分になります。 でも、魔女の睡眠の邪魔は良くないですね。 『寝不足は美容の天敵よ』ってお姉ちゃんも、言ってたし。

61 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 07:30:58 ID:kQaYoE2g
 塔を出て森を歩きます。 耳を澄ませば、遠くにある木々の葉が風に擦れる音までも聞こえてきそうな程、静かな、透明な夜です。
 どこからか狼達の遠吠えが聞こえてきました。
 不純物のない空気は、思わず深呼吸をしたくなります。
少年「?」
 しばらく歩いている内に、青年を見かけました。
 スコップを片手に怖い顔で森の奥へ消えていきます。
 なにやら大きな荷物を背負っていました。
 ちょうど娘さんくらいの大きさだな、なんて思ってしまいました。
 そんな訳ないですよね?

62 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 07:31:36 ID:kQaYoE2g
仕事行ってきます(`・ω・´)

63 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 14:16:38 ID:u8fquL.c
( ´・ω・`)ノ"行ってら〜

64 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 21:25:33 ID:kQaYoE2g
戻りました。再開します(`・ω・´)

65 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 21:51:50 ID:kQaYoE2g
「ただいま」
「うん、魔女は悪い人じゃないよ」
「はは、お姉ちゃんは心配しすぎだよ」
「魔女の正体?」
「魔女は魔女じゃないかなぁ」
「今日は父さんがいないね? まだ帰らないんだ」
「大丈夫だよ、父さんなら」
「今日もお姉ちゃんと一緒に寝るの?」
「良いけど、お姉ちゃんチクチクしてくるから痛いんだよなぁ」
「うん、お休みなさい」
少年「ん、今日は雨か……」

66 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 21:52:51 ID:kQaYoE2g
 今日は朝から雨でした。 雨は素敵だと思います。 昔、お母さんが『雨は、泣きたくても泣けない人の代わりにお空が泣いてくれているの』と言っていました。
 でもそれは嘘だと思います。
 だって、それならば、毎日雨が降っていなきゃおかしいでしょうから。
 それに、自分の悲しみなのに、どこかの誰かが何の断りも無しに奪って行くなんて酷い話だと思いませんか?
 喜びや悲しみは、感じた人だけが表現できる大切な物だと僕は思うんです。
 僕の悲しみは僕じゃなきゃ悲しめませんものね。
少年「押しつけがましいから雨は嫌いなんだ」

67 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 22:45:54 ID:kQaYoE2g
 魔女の塔へ行く途中、村のみんなが慌てていました。 口々に娘さんの名前を呼んでいます。
青年「少年!? 娘を見なかったか?」
 青年さんが慌てた様子で僕に話しかけてきました。 周りの村人のみんなはそれを遠くから眺めてます。
 どうやら、娘さんが居なくなったらしいです。 青年さんは、周りに聞こえるような大きな声で、僕が昨日の夜何をしていたか聞いてきました。
少年「昨日の夜は森を散歩していたよ。 その後は家に帰って寝たんだ」
青年「夜の森に一人で散歩? 何か目的でもあったのかい?」
少年「うーん、特に理由は無いけど」
青年「理由も無く夜の森を? おかしな事もあるもんだ。 野獣が彷徨くような夜の森にふらふらと行くなんて!!」
 青年さんは一層大きな声で言いました。 まるで僕の話している内容を、周りのみんなに聞かせているみたいです。
 みんなに聞かせるような面白い事は話して無いつもりなんですけど。

68 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 22:49:28 ID:kQaYoE2g
少年「そうは言っても……」
 魔女の事はなんだか話したくありませんでした。 僕の中だけの出来事で良いからです。 青年さんに話せば、周りにも聞こえてしまうでしょうし。
青年「そうか。 もし娘を見かけたら教えてくれ。 彼女のパンは村の大切な財産だから」
 青年さんはそれだけ言うと、村のみんなのところに戻っていきました。 村のみんなは、僕の方を見ながら小さな声で何か話し合っているようで、少しだけ内容が気になります。
 内緒話なんて、良くないです。
 なんとなく、昨日の夜に青年さんを森で見かけた事は言わないでおきました。
 なんとなく、言わない方がいい気がしたからです。

69 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/26(土) 23:12:46 ID:kQaYoE2g
眠気が頂点に達したので今日は多分更新終了です。
質問等あれば起き次第応えます。
おやすみなさい。

70 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/27(日) 18:34:20 ID:ilIezWdk
なにやら村に不穏な空気が…
支援

71 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/27(日) 22:27:52 ID:IbKh7y.k
戻りました。
再開します。

72 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/27(日) 22:29:10 ID:IbKh7y.k
少年「やぁ魔女。 今日も本を読んでいるんだね」
 今日も魔女は安楽椅子にその小さな身体を預けて読書をしています。
魔女「あぁ、僕にとっては読書は呼吸にも等しいからね」
 魔女は、今日は僕の方に視線すら向けません。 よほど面白い本なのでしょうか?
魔女「今日は……ないの?」
 魔女は本からは視線をずらさずにポツリと呟きました。
少年「なにが?」
魔女「いや、何でもない」
 魔女の視線が一瞬窓辺の方へ向きました。
 窓辺では綺麗に飾られた昨日の花が、風に揺れています。 その隣にはなにも飾られていない花瓶が一つ、置かれていました。

73 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/27(日) 22:29:30 ID:IbKh7y.k
少年「もしかして、花が欲しかった?」
魔女「いや、そういう訳じゃないんだけどね。 ただ……」
少年「?」
魔女「素敵な贈り物だったからつい、期待してしまったんだ。 恥ずかしい話だけど、ね」
 魔女の声は、普段と変わりません。 澱まず、通り抜けていく、見た目の割に落ち着いた低い声。
 ただ、その夕闇の色をした紫色の瞳は少し残念そうに見えました。

74 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/27(日) 23:17:01 ID:IbKh7y.k
今日は少ないですけどこの辺で失礼します。
毎日更新目指してがんばります。

75 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/28(月) 03:46:52 ID:xR69rJzg
なんか嫌な予感がする…
(;・ω・)っ?"

76 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 15:02:03 ID:DJ6La7VI
再開します。

77 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 15:04:01 ID:DJ6La7VI
 魔女が花を好きだとは思いませんでした。 知っていたなら一抱えでも、二抱えでも花を持ってきたというのに。
少年「ごめんね、魔女が花を欲しかった事に気がつけなくて」
魔女「よしてよ、僕だって柄じゃないことくらい自覚している。 それに、声にも出してもいない思いを他人に悟られる程若くはないよ」
 魔女が笑いました。 ほくそ笑むように唇だけを歪めるいつもの笑い方ではなく、しっかりとした笑みです。
 それは自嘲気味な、寂しい笑顔でした。 でも、まるで神様が魔女の為に作った表情だと思ってしまう程魔女には似合っていてました。

78 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 15:05:19 ID:DJ6La7VI
少年「魔女の笑顔はどうしてそんなに悲しいの?」
 魔女は夕闇のような深い紫の瞳を、満月のように丸くして僕の方を見ました。 驚いているようです。
 そして、安楽椅子から降りると僕の方へ歩いてきました。
 その表情は、怒っているような、喜んでいるような、そんな表情です。
魔女「まさかそんな事を言われるとは思わなかったよ」
少年「怒らせちゃったかな?」
魔女「あぁ、怒っている。 あって数日の年端もいかぬ少年に分かったような口を叩かれたんだ。 魔女のプライドもあったもんじゃない」
少年「……ごめん」
魔女「ただ、それを言われたのは君が初めてじゃないんだ。 だから、その言葉を君から言われて、なんというか複雑な気持ちでもある」
 魔女はまた、笑いました。
 泣き出してないのが不思議なくらい悲しい、寂しい笑みでした。

79 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 17:02:44 ID:eX1ApM3g
こういうの好き
支援

80 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 20:25:34 ID:DJ6La7VI
>>79
ありがとうございます。
そういってもらえると凄く嬉しいです(`・ω・´)

81 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 20:28:33 ID:DJ6La7VI
 魔女は、それだけ言うと安楽椅子に戻りまた本を読み始めました。 
 僕も、魔女も、口を開きません。 時間だけが過ぎていきます。
 日が暮れていきます。 茜色の空が紫色に染まっていきます。 
少年「今日はもう帰るよ」
 魔女は明日も来て良いと思ってくれているでしょうか?
魔女「あぁ」
 魔女は本から視線を外さないで答えました。
少年「じゃあね。 それと魔女……」
魔女「なに?」
 魔女はまだ僕を見てくれません。
少年「明日、来ても良いかな?」

82 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 20:29:10 ID:DJ6La7VI
魔女「僕と君ではあまり有意義な時間は過ごせない。 今日わかったでしょう? 僕は本を読んでいるだけだし」
 魔女はため息混じりに応えました。 
 きっと今、僕は情けない顔になっています。
 魔女にやんわりと拒絶されたのが胸にどうしようもない鈍痛を生み出しましたから。
少年「え……あ」
 なんとか言葉を返そうと頑張りますが、出来損ないの心は言葉を考えつきませんし、役立たずな舌は、気の利いた言葉を話したりはせず、漏れ出した空気に適当に声をつけただけです。
 いっそ泣き出したい気持ちです。 こんな気持ちは久しぶりでした。

83 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 20:30:09 ID:DJ6La7VI
今日は多分ここまでです。

84 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 23:03:50 ID:dx4kdX36
おやすみ!続きが気になる…段々世界に引き込まれていくね!面白い!

85 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 23:05:24 ID:DJ6La7VI
魔女「……全く」
 魔女は呆れたように呟きました。
魔女「明日は、花を持ってきてくれると嬉しい」
少年「いいの?」
 聞き間違えや、幻聴でなければ魔女は明日も来て良いと言ってくれてます。
魔女「だから、野良猫や野良犬の類を連想させられるその目を止めてくれ」
 魔女は優しいですね。 その優しさにつけこんだみたいで情けないです。 でも、すごく嬉しいです。
 自分でも、なぜ魔女と仲良くしたいのかは分かりません。 なんなんでしょうね。 こんな気持ちは初めてです。

86 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 23:07:34 ID:DJ6La7VI
 魔女の塔から出ました。
 明日、朝一番で魔女に花を渡したいので、摘んで帰ろうと思います。
 夜の森は静かで暗くて、でも何かが常に居るようで。
 怖くはないけど、今日の森は居心地は良いとは思えませんでした。
少年「あの花はどこで摘んだ物何だろう?」
 青年さんに聞いておけば良かったです。 でも、青年さんとはあまり仲良くしたいとは思えません。
 村のみんなは、彼を多少女癖は悪いが腕の良い狩人で頼りになる人だと言っています。
 みんなが言うならそうなのでしょう。
 でも、僕は青年さんの目が好きではないんです。 何故なのかはわかりませんが。

87 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 23:08:40 ID:DJ6La7VI
少年「そういえば、青年さんが狩りをする時の為の小屋があったんだ」
 どうしてひとりなのに喋ってしまうんでしょうか?
 昔、僕がお皿を割ったのを隠していたときにお母さんが『人は何かを誤魔化すとき、喋らずにはいられないものなのよ』なんて言って僕の嘘を見破りました。
 今の僕もきっと何かを誤魔化そうとしてるんでしょうね。 
 自分では分かりませんけど。
 小屋は村からも塔からも離れた森のはずれにありました。
 木を適当合わせただけの簡素な小屋です。
 青年さんは居ないみたいです。

88 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 23:09:29 ID:DJ6La7VI
少年「んーこの辺にあればいいけど」
 近くの茂みを探しますが、花は見あたりません。
 それになんだかこの辺りはいやな感じがします。
 そんな気持ちで辺りを探している内に夜も更けていきました。
 いつの間にか、欠けた月が真上近くにまで来てます。
 不完全で、色も黄ばんで濁っているそれは見ているだけで不快になりました。 
 今日はもう切り上げて、明日の朝早くに青年さんに尋ねようかな、とも思いましたが、あまり気が進みません。
 青年さんは、きっと教えてくれるだけじゃなく、色々聞いてくるでしょうから。
 それに、魔女が欲しいって言ってくれた花だから自分で探したいですしね。

89 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 23:10:00 ID:DJ6La7VI
少年「次は、そこを探してみよ……?」
 茂みの奥から、お腹の中の物が押し上げられるような酷い臭いがしました。
 血肉の腐ったような嫌な臭いです。 それは、死の臭いでした。
 茂みを押し広げて、臭いの元を確かめようか迷います。
 見ない方が良いと思うのですが、足は臭いのする方へ動くのを止めません。
 嫌な予感はします。 見たい物はそこには無いと断言できます。
 でも、そこにある物が、自分の想像している物じゃ無いことを確認して安心したいから、僕は見ることにしました。
 見なければ良かったーー。
 と思うの事になる事は分かっていたんですけど。

90 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/29(火) 23:11:14 ID:DJ6La7VI
 茂みを掻き分けると、そこにはありました。
 真新しい血の痕と掘り返された形跡のある地面です。
 きっとこの地面の下には僕の予想通りの物が埋まっているんだと思います。
 埋めた人は、きっとここには人が来ないと知っているんでしょうね。 じゃなければこんな雑なやり方にしないと思います。
 埋めた人も埋まっている人も、知っている人です。
 理由も何となくわかります。
 人間って、そんなものです。