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少年「あなたが塔の魔女?」
Part2


28 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 00:09:26 ID:IchVhHA6
 朝早くから魔女の家に来てから数刻が経ちました。
 少しお腹が減ってきたことで、もうお昼なんだとわかりました。
少年「ねぇ魔女、君はおなか空かない?」
魔女「……うーん、食事か。 そういえば数年くらい口にしてないかな」
 驚きの事実が発覚しました。
 魔女は食事をしなくても大丈夫なようです。
少年「食べなくても平気なの?」
魔女「平気と言えば平気さ。 食事はうーん、そうだな。 魔女にとってタバコや珈琲と同じ嗜好品のようなものと考えてくれて良い」
 魔女はそう言うと、やっぱり安楽椅子に身体を預けて本を読んでいます。
 魔女は本を読んでなくてはいけないものなのでしょうか?

29 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 00:18:23 ID:IchVhHA6
少年「食べれない訳じゃないんだね」
魔女「まぁ、そうなるね」
 魔女は心底どうでも良い、とでも言うような態度で返事をします。
 きっと僕にあまり興味が無いんだと思います。
 僕が魔女の立場だったらやっぱり、僕には興味が湧かないだろうなと思うとすんなりと納得できました。
魔女「昨日も思ったんだが」
 魔女は顔の前にふわふわと本を浮かべて僕の方に視線を向けました。
魔女「君もあまり満足に食事をとっているようには見えないんだが?」
 魔女はなんでもお見通しのようです。
 確かに最近はしっかりとした食事をとっていません。
 とりたいとは思っています。 でも、とっていません。

30 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 00:33:54 ID:IchVhHA6
魔女「君は何故食事をとらないのかは分からないけど」
 魔女の瞳は綺麗です。 なんだか全部お見通しにされているような気がするのに、あまり嫌な感じはしないんです。 不思議です。
魔女「このままだと色々とまずいんじゃないかな? 既に身体のあちこちに影響は出てると思うんだけど」
 その通りです。最近の僕の身体は言うことをきいてくれない事がよくあります。
少年「うん、でも大丈夫なんじゃないかな」
 正直大丈夫な要素は殆どないと思います。難しい言い方をすると皆無って奴です。
魔女「君が大丈夫だと言うのならばこの話はここで止めよう、何事も無理強いは好きじゃない」
少年「ありがとう、魔女は優しいんだ」
魔女「優しいのなら君の口に無理矢理でも食物を詰め込むよ」
 違う、そうしないから魔女は優しいんだと思うんだ。
 青年さんみたいに無理矢理にでも食事させようとしてこなくて良かった。

31 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 00:53:36 ID:IchVhHA6
 数刻の間、無言が続きます。 魔女が本の頁を捲る音だけが時折、部屋に響きます。
 とても、居心地が良いです。
魔女「なぁ、君。 君を見ていたらなんだか久々に空腹という感覚が僕にも蘇ったよ」
 珍しく、魔女の方から話しかけてきました。
少年「そっか、君でもお腹は空くんだね」
魔女「だが、生憎のところ我が家には食物を貯蔵するような習慣もなければ、それをする為の場所もない」
少年「それは大変だね、魔法でなんとかできないの?」
魔女「……」
 魔女が今までで一番真面目な顔をしました。

32 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 00:58:15 ID:IchVhHA6
魔女「いいかい、良く聞いてくれ少年よ。 魔法は万能ではないんだ。 事象の原理を深く理解した上で、それを成す為に力を借りるのが魔法なんだ」
 また魔女は難しい話を始めました。
魔女「つまり、だ」
魔女「……料理を作れない奴には料理を作り出すような魔法は出来ないんだ」
 少しばつの悪そうな顔をして頬をかく魔女。 可愛らしい女の子みたいです。
少年「つまり、魔女は料理ができないんだ」
魔女「真実を言うだけで時折言葉というのは酷く心を傷つけるものだ」
 魔女は節目がちに僕を睨んで、唇を尖らせて呟きました。
 魔女にもできない事ってあるんだと思うと親しみを感じます。

33 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 01:05:52 ID:IchVhHA6
今日はここまでにしようと思います。
明日も休日なので更新できるようにしたいです。
見てくれてる人が居れば嬉しいなぁ。
お休みなさい。

34 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 01:15:52 ID:J02wINVg
塔の魔女と聞いてウィッチクラフトワークス思い出した

35 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 01:42:53 ID:g9iSXEWk
星みたいな文体だな
おつ

36 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 07:40:39 ID:IchVhHA6
>>34
その作品はわかりません(´・ω・`)
>>35
確かに好きな作家ですから、影響は受けていると思います。
なるべく地の文が邪魔にならないようにこのような形にさせていただきました。

37 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 08:22:44 ID:IchVhHA6
魔女「君は料理というものをしたことがあるかい?」
少年「僕は料理をしたことはないや」
魔女「そうか、残念だ」
少年「うん、ごめんね」
 魔女はなんだか落ち着かないみたいです。 さっきからこんな会話ばかりが続きます。
魔女「僕は何か食べたいんだけど」
少年「僕は何も持ってないよ?」
魔女「だろうね」
 魔女が話しかけてくれるのはうれしいんだけど、なんだかさっきより居心地が悪いです。
魔女「ねぇ、少年。 お使いを頼まれてくれないかな?」
 魔女にお使いを頼まれるなんて思っても居ませんでした。

38 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 11:11:16 ID:IchVhHA6
 塔から村までは、大した距離ではありません。 少し鼻歌を歌って歩いていればついてしまう距離です。
 熊や狼も、森には居ますが会ったことが無いのであまり気にしません。 むしろ、一度会ってみたいような気もします。
青年「おぉ、少年じゃないか。 何してるんだ?」
 村の入り口で青年さんに会いました。 頬には手のひらの痕があります。
少年「お使いだよ。 青年さんは?」
青年「ん、あぁ俺もそんな所だ
 やっぱり僕はこの人の事が好きじゃないようです。
 胸の辺りに嫌な感じがもやもやと広がりますもん。

39 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 12:31:58 ID:IchVhHA6
 村にはパン屋さんがありました、小さな小さなパン屋さんです。
 焼き上がりの時間になると美味しそうな匂いが村の間を風に乗って流れます。 
少年「パンを下さい」
 お店にはパン屋の娘さんがいて、焼きたてのパンを並べていました。 どれもサクサク、ふわふわの美味しそうなパンです。
娘「っ少年!?」
 娘さんは驚いたような顔で僕を見ます。 どうやら僕がパンを買いにくるとは思っていなかったようです。
娘「その……大丈夫?」
 なにやら心配したような顔でした。 
 僕は人にこんな顔をさせることが多いです。 駄目な奴なんですね。 きっと。

40 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 12:33:38 ID:IchVhHA6
少年「ん、大丈夫だよ」
 僕は魔女から預かっていた金貨を差し出しました。 これ一枚で店にあるパンを全て買ってもお釣りがきます。
娘「……どうしたの、これ?」
 魔女は正直に言っては駄目といって金貨を僕に渡しました。 なので嘘をつく事にします。
 嘘は嫌いなんだけどなぁ。
少年「森で拾ったんだ、これで足りる?」
 魔女いわく、金貨の価値を知らないふりをしろ、だそうです。 そうすれば買い物で余計ないざこざが減るらしいです。
 人間ってそんなもの、らしいです。
娘「えぇ、足りるわ。 どのくらい欲しいの?」
 娘さんは少し動揺したような、上擦った声で言いました。
少年「お釣りが無いように欲しいな」
娘「………」
 娘さんは悩んでいるようでした。 この人は悩んでいる姿が様になりません。 魔女なら凄く頭が良さそうに見えるのに。

41 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 12:35:37 ID:IchVhHA6
青年「これくらいじゃないかな?」
 後ろから声がしました。
少年「あぁ、青年さん、パンを買いに来たの?」
青年「あぁ、そんな所さ」
 青年さんはお店の籠に大きなパンを何個か入れると、にっこり笑って言いました。
青年「少しおまけしてコレくらいだな、なぁ娘?」
 青年さんはちらりと娘さんを見て頷きました。
娘「え、えぇ、そうね」
 娘は頷くと、籠にもう一つパンを入れてくれました。
青年「良かったな、少年。 娘にありがとうしなきゃな」
 青年さんはにっこりと笑っています。
少年「うん、ありがとう娘さん」
 僕もにっこり笑って応えます。 そうした方がいいから、そうします。
 人間ってそんなもの、です。

42 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 12:40:19 ID:IchVhHA6
少年「じゃあね」
青年「あぁ、じゃあな」
娘「ま、またね」
みんな顔がにっこりしてました。 まるで仮面をつけてるみたいです。
 みんな笑顔のままならそれも素敵なことかもしれないですね。
 僕が、パン屋さんを離れると、青年さんは娘さんの腰に手を回してお店の中に消えていきました。
 そういう関係、と大人の人達は軽蔑したような目で言っていたのを思い出しました。 みんな知っている、村の秘密です。
 知っているのに秘密だなんて、不思議だと思います。
 ただ、青年さんが周りからあまり好かれてないと思うと、嬉しいような、悲しいような気持ちになります。

43 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 13:35:25 ID:IchVhHA6
一旦休憩
そのうち戻ります

44 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 18:07:25 ID:IchVhHA6
戻りました。
なんだかほかの作品に比べて魔女が可愛くないですね(´・ω・`)

45 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 18:58:42 ID:IchVhHA6
 魔女の塔に戻りました。
 長い長い石造りの階段をぐるぐる回って、頂上の魔女の部屋を目指します。
 なんだか、ぐるぐると回っている内に違う世界に迷い込んでいくような不思議な感じがします。
 僕は、この感覚が好きです。
 だから魔女も、ここに住んでいるのかな? それとも魔女が住んでいるからこうなのかな?
 ひんやりと沈んだ空気の中、僕はそんな事を考えてました。
少年「魔女、買ってきたよ」
魔女「あぁ、お使いご苦労」
 やっぱり魔女は安楽椅子に腰掛けて本を読んでいました。
 花瓶の置いてある窓から入った風が、魔女の蜂蜜のような濃い金色の癖っ毛を微かに揺らしてます。
 一枚の絵のように、自然で美しいと思います。

46 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 18:59:30 ID:IchVhHA6
少年「ねぇ、魔女。 なぜ金貨の価値を知らないふりしなければいけなかったの? あれは大金だよね」
 魔女は受け取ったパンを手に取り、しげしげと眺めながら応えてくれました。
魔女「君は、わかってるんじゃないのかい?」
 魔女は小さな口を精一杯広げてパンを頬張ります。
 なんだか栗鼠みたいです。
少年「なんとなくしか分かんないや。 それに僕は魔女じゃないから、魔女が考えている事なんてわかんないよ」
 魔女の考えと僕の考えが同じだったらそれは素敵なことだけど。

47 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 19:00:04 ID:IchVhHA6
魔女「人間は自分の物にならないものよりも、確実に手には入るものに目がくらむ奴が大抵だからね」
 魔女は、あっという間にパンをひとつ平らげると、僕にパンをひとつ飛ばしました。
魔女「もし、仮に君が金貨の価値を知った上で、このパンとの正当な取引をしようとすれば、大金を持っている理由に興味が湧くだろう。 妬みに近い感情で」
 僕は、渡されたパンを掴んだまま魔女の話を聴きました。
 薄く笑った魔女の顔は感情を表している笑顔なので僕は好きです。
 なぜ人は、感情を隠すために笑顔を作るんでしょうね? 不思議ですよね。

48 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 19:01:06 ID:IchVhHA6
魔女「でも、金貨が自分の手に入るかも知れないと考えたら、その金貨の出所なんて途端に興味がなくなる。 僅かな罪悪感と、大きな満足感に比べれば、ね」
 難しい話でしたが、なんとなく僕と同じような考えだと言うのは分かりました。
少年「人間って、そんなものだよね」
魔女「うん、人間ってそんなものさ」
 魔女の笑い方はなんだか悲しそうでした。
 そう見えたのは、沈む夕日が魔女を照らしてたからなんでしょうか?
 僕は、魔女じゃないから分かりませんでした。

49 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 20:04:10 ID:9TDAeVTs
>>44
まぁいろんなタイプが居るさ

50 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 20:09:01 ID:IchVhHA6
>>49
ありがとうございます(`・ω・´)

51 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 20:48:31 ID:9TDAeVTs
>>50
よくあるドジっ子魔女だとかのステレオタイプばかりじゃ面白くないからね

52 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 21:15:13 ID:IchVhHA6
>>51
ありがとうございます。がんばります。

53 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 21:16:57 ID:IchVhHA6
魔女「僕はもうおなか一杯になったんだけど、君は食べないのかい?」
 魔女はまた本を見てます。
 今日一日魔女が安楽椅子から降りたのをみていません。
少年「食べようかな」
魔女「……そう」
 魔女は僕がパンを食べるかどうか、あまり興味がないようです。
 すっかり冷えてしまいましたが、やはりパンはいい匂いです。
 僕はパンを噛みしめます。
少年「魔女、このパンどんな味がした?」
魔女「ふんわりとバターの香りが鼻腔を抜けていく、久々に食べた食物がコレで良かったと思える程度にはおいしいパンだと僕は思ったけど?」
 そうか、このパンは美味しいんだ。

54 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 21:39:45 ID:IchVhHA6
魔女「君的にはどうだったのかな?」
少年「魔女と同じだと思う」
 嘘は嫌いなんだけどなぁ。
魔女「……そう」
 魔女は僕の方に視線を向けるとなんだか残念そうな顔でため息をつきました。
 どうやら、魔女の期待から外れてしまったようです。 残念です。
 手に残ったパンを口に運ぶ作業に戻ります。
 胃に入れた先からこみ上げてくる吐き気との戦いには骨が折れますね。

55 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 21:44:23 ID:KtYrDwrs
支援

56 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/05/25(金) 21:58:30 ID:IchVhHA6
魔女「飲み物……必要かい?」
少年「できれば」
 魔女は安楽椅子から降りて、奥の部屋から硝子の小瓶を持ってきました。
 彼女の瞳よりも濃い紫色の液体が満たされている小瓶は、凄く不味そうです。
魔女「生憎だけど、僕の家には飲み物といえばこれくらいしかないんだ」
少年「飲まなきゃ、駄目なの?」
魔女「飲まなくても良いけど、僕はわざわざ読書を中断してまで取りに行ってあげたんだよ?」
 魔女は諭すように言いました。 少しずるいと思います。