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女騎士「寝ていろ。勇者」

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Part1
1 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 00:51:58.528 ID:N8Qe0WAA0
ーー深夜。スイス、ヌーシャテル近郊。
ワンボックスカー車内。
偉い人「昨日、サン・ヴェルニー島に居た中佐から連絡が入ってな」
「え、どうやって? あの島には通信設備なんて無いはずですよ。というか、"居た"?」
偉い人「ああ。もう島を出とる。あの島では少し大きな地震があってな。そのおかげーーと言うと言葉は悪いが、"彼女"との仕事が存外早く片付いた」
「地震ですか……。それと租税回避とどんな関係が?」
偉い人「ま、色々あったんだ。色々」
「はあ」
偉い人「中佐は急遽島に寄港した空中艦で、捕らえた総督とエルルまで優雅に空の旅だ。連絡は当然、艦の通信設備から寄越した」
「なるほど」
偉い人「でーーまあ本題なんだが、地震で島の御神体が目覚めたんだと」
「御神体? ……まさかっ!」
偉い人「勇者様だよ」
「そんな馬鹿な……」
偉い人「君はドラゴンクエストをやったことがあるかね?」
「……Ⅷからなら。欧州版が出ていますので……」
偉い人「おおそうか。私などは若い頃から北米版を手に入れてやり込んでいたクチでね。まさにあれの世界だよ」

2 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 00:53:28.641 ID:N8Qe0WAA0
「は、はあ」
偉い人「空と大地と目覚めし伝説の勇者ーーってところだ。ロマン溢れる話じゃないか。
「めっちゃパクりましたね」
「その勇者様は"彼女"と一緒に、海路と陸路でガリアに帰るらしい」
「2人だけでですか」
偉い人「そうだ。つまり、途中から"3人"になる可能性がある」
ボコッ
偉い人「……軽い冗談じゃないか」
「セクハラには実力行使すると言いました。それで、私にどうしろと?」
偉い人「不安だ。2人だけだと」
「3人になりそうでーーってわけでも無さそうですね」

4 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 00:54:52.132 ID:N8Qe0WAA0
偉い人「サン・ヴェルニー島の総督から、金を吸い上げていた本国の連中。甘い汁で肥え太った、豚のような連中がまだ健在だ」
「まだ尻尾は掴めませんか」
偉い人「ああいう連中は中々しぶとい。とはいえ、空を行く総督と中佐には手が出せないだろう。口を封じるなら陸路を行く2人から、ということになる」
「……かなり不味くないですか?」
偉い人「そうだ。だから君を送り込むことにした」
「き、急ですね」
偉い人「2人が乗る予定の艦が、3日後に出航する。時間がない。それに、ちょうど島の"門"の安全が確保されたところだ。
そして、今ここに我々が居るということはーー」
「すぐにでも行けと」
偉い人「うむ」

5 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 00:55:52.345 ID:N8Qe0WAA0
「い、嫌だと言ったら?」
偉い人「悪い話じゃないだろう。あっちに行ってしまえばその帽子も、"ヒトミミ"カチューシャも要らないぞ」
「そ、そりゃあそうですけど。でも大学が……」
偉い人「すでに休学届けが出ている」
「は?」
偉い人「君の気が乗らないなら、代わりにアンリを充てよう。そうしたら、君はアンリの代わりにDGSEで諜報活動の特別講習だぞ。みっちり3ヶ月」
「行きます。サン・ヴェルニー島。いますぐにでも。少佐の助けになりたいです」
偉い人「おお、そうかね? それなら話は早い。諸々の物品は用意してある。スイス側にも"門"の使用は通知済みだ。ーーおい、車を出せ。例の場所まで行くぞ」

6 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 00:57:00.693 ID:N8Qe0WAA0
ーーーー
『ーーーーた』
『ーーしたっ』
『どうしたっ? おいっ』
勇者「!」ハッ
剣士「おいっ、どうした? 大丈夫か勇者?』
勇者『っ。あ……ああ。ごめん。ちょっと考えごと』
剣士『大丈夫かよ? 話しかけても全然反応ないから心配したぜ』
勇者「ごめんごめん。……ほら、なんか不気味な島だなぁと思って」


7 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 00:58:43.070 ID:N8Qe0WAA0
剣士『そうか? まあ嫌な気配はプンプンするな。でも綺麗な島じゃないか』
魔術師『ええ。でも不思議ね。ガリアとは季節がまるで逆。そう聞いてはいたけど』
勇者『本当にね。ーーそうだ。ところでさ』くるっ
ぽつーん。
勇者『あ……れ? み、みんな? や、やだなぁ、からかわないでよ! ここ魔王の島だよ!?』
しーん。
勇者『みんな、みんなどこ!? そんな、さっきまで……。どうしたんだよ! みんな!』
勇者「み、みんなってばぁっ!」ガバッ
勇者「あ……」

8 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:00:15.481 ID:N8Qe0WAA0
ーー深夜。サン・ヴェルニー島。ヴェルニー連隊駐屯地、士官用宿舎。
勇者「はぁっ、はぁっ、はぁっ。そうか。夢をーー」
こんこん、かちゃり。
女騎士「うるさい。寝ていろ、勇者」
勇者「あ、ご、ごめんなさい」
女騎士「まったくこんな夜中に。士官用宿舎で騒ぐなら、兵舎に戻ってもらうぞ」
勇者「そ、そうですね。戻ります。やっぱり女騎士さんの隣の部屋だと落ち着かないや。ドキドキしちゃって。あははは。……じゃあ」

9 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:01:49.578 ID:N8Qe0WAA0
女騎士「待て」
勇者「え?」
抱きっ。
勇者「わっ。ど、どうしたんです!?」
女騎士「顔が真っ青だ。少しこうしていてやる。……人戀しさが悪夢の原因なら、これが効くはずだ」
勇者「……ありがとうございます」
女騎士「いい。だが他言無用だ」

10 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:03:55.534 ID:N8Qe0WAA0
勇者「…………昼間、なんで2月なのに暖かいのか聞いたじゃないですか」
女騎士「ああ。南半球だからーーと言ってもなかなか納得しなかったな」
勇者「信じられませんよ。まあるい球に張り付いて生活してるなんて」
女騎士「そうだな。私も学校で教わらなかったら、信じていないだろう」
勇者「1000年前は誰もそんなこと知らないから、みんなで言ってたんです。『なんで季節が逆なんだろう』って。多分それを思い出してしまって」
女騎士「そうか」

12 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:07:01.561 ID:N8Qe0WAA0
ーー朝。連隊駐屯地、食堂。
主計課エルフ「なんか変よ」
兵士「そぉかぁ?」
主計課エルフ「2人の席、妙に離れてる」
オーク「女の勘か? お前のは当てになんねぇからなぁ」
主計課エルフ「あなたこのあと、勇者様と魔王城跡を見に行くんでしょ? 昨日の夜なにがあったか、勇者様に聞いてよ」
オーク「えぇぇ……」

14 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:08:43.186 ID:N8Qe0WAA0
主計課エルフ「場合によっちゃあ、勇者様から下等生物に格下げよ」
兵士「ま、まさかぁ」
主計課エルフ「英雄色を好む! それも溜まりに溜まったり1000年分。些細なことで爆発してもおかしくないわ」
オーク「……女性誌読んでると、どんどん下衆な勘繰りに磨きがかかるよな……」

15 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:10:18.314 ID:N8Qe0WAA0
ーー魔王城跡。
勇者「石垣だけ……」
オーク「そりゃあな。城は燃えて崩れてバラバラだ」
勇者「……勝利の証のはずなのに。なんか虚しいな」
オーク「石造りの部分は、入植者達が運び出して建築資材にしちまったそうだ。かつての魔王城も、今じゃ民家の土台石さ」
勇者「そう。……ん? あれはお墓ですか?」
オーク「ああ。行ってみるか」

16 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:12:25.130 ID:N8Qe0WAA0
ーーーー
勇者「……」
〈もう一つの正義を求めた者、ここに眠る〉
オーク「文言は気にするな」
勇者「……。彼は正義と呼ぶにはあまりに苛烈な人でした。でも、悪と呼ぶにはあまりに悲しい人でもあった」
オーク「まぁ、よっぽどの事情がなきゃ、魔王なんざやらないわな。……元はただの人間だってのに」
勇者「……満足しました。戻りましょう」
オーク(聞けねぇなあ。この雰囲気じゃ)

17 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:15:19.945 ID:N8Qe0WAA0
ガサッ。
勇者「!」
オーク「だ、誰だ! そこの茂み隠れているのはわかってるんだぞ!」
「ちょ、待ってください! 怪しい者じゃありません」
ガササッ。
オーク「あぁ? そ、その耳……フェリス人か?」
勇者「めちゃくちゃ怪しいけどあなた。本当に怪しい者じゃないの?」
「え、ええ。そりゃあーー」
勇者「……」じー
「ごめんなさい怪しい者です許してください」

18 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:17:25.151 ID:N8Qe0WAA0
ーー連隊駐屯地。執務室。
オーク「ーーで、本人は『隊長の知り合いだ』の一点張りですよ」
女騎士「……フェリス人、私の知り合い。ハァ……。連れてこい」
オーク「はあ、じゃあ」
かちゃ。
「どうも」
女騎士「……久しぶりだな」
「ええ」
女騎士「ーー悪いが外してくれ」
オーク「あい」

20 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:19:45.238 ID:N8Qe0WAA0
「やっぱり似合いますね。軍服」
女騎士「……で? 今はなんて名前だ? お前は会うたびに名前が違うからな」
「これ。今回限りの身分証です」
女騎士「ーーふむ。……よろしく。マリア」
マリア「知ってます? マリア・シャラポワ」
女騎士「名前だけな。お前と違って、私は最近ほとんどこっちにいるんだ。話題にはついていけん」
マリア「大学でテニスやってるんでこの名前にしました。でも、この前ドーピングで大変なことになっちゃってーー」
女騎士「知らん。というかそういう話は極力するな。……まったく中佐といい、あまりに両世界を行き来すると、感覚が麻痺するようだな」

21 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:21:28.349 ID:N8Qe0WAA0
マリア「聞いても誰もわかりゃしませんよ。特にこんな田舎じゃあ」
女騎士「……島へはどうやって?」
マリア「そりゃあ、"ゲート・ヴェルニー"から。直通ですよ」
女騎士「……使ったのか。向こう側はフランス領内ではなく、スイスの森の中だと聞いていたが」
マリア「ええ。まあちゃんと許可とって使ってますよ。……ところでいま何時ですか? なにせ慌てて来たもんで、時計を合わせてなくて」
女騎士「……乱暴な作戦もあったものだな。ここはガリアと同じ、キャメロット標準時+2だ。ーーほら、この時計を見ろ」

22 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:22:44.122 ID:N8Qe0WAA0
ーー連隊駐屯地、練兵場。
一等兵「名誉連隊長殿にー、敬礼っ!」
連隊兵士 ビシッ。
勇者「わわっ」あたふたーービシッ。
名誉連隊長「そこぉっ! 動きが遅い!」
勇者「も、申し訳ありません!」
名誉連隊長「勇者だがなんだか知らんが、弛んどる!」
勇者「は、はいっ」
名誉連隊長「というわけで、全員腕立てよーい!」

23 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:24:29.825 ID:N8Qe0WAA0
ーー訓練後。
勇者「つ、疲れた……」ドタッ
兵士「な……、なぁ? 強烈な爺さんだろ」ドタッ
勇者「で、でも理にかなった訓練だと思いますよ……」
兵士「ま、まあ……昔はかなり偉い人だったらしいからな」
勇者「……以前、この部隊の隊長さんだったんですよね?」
兵士「ああ。俺がまだ生まれる前な。……なんでも本国で大問題を起こして、3年くらい干されていたらしい」

24 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:25:54.251 ID:N8Qe0WAA0
名誉連隊長「聞こえとるぞ」
兵士「っ! もっ、申し訳ありません!」
名誉連隊長「大問題というほどのもんでもないわい。ただ女性副官の尻を日常的に撫でとったら、いつのまにかこの島に異動させられただけじゃ」
兵士(大問題だろ……)
勇者「ひ、酷い。たったそれだけのことで!」
兵士「えっ」


25 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:27:18.611 ID:N8Qe0WAA0
名誉連隊長「おお! さすが話のわかる!」
勇者「お尻くらいでそりゃないですよ!」
名誉連隊長「そうじゃろう! 減るもんじゃなしに!」
勇者「そうです! あんまりだ!」
兵士(……せ、1000年のジェネレーションギャップ……なんだろうなぁ)
名誉連隊長「だがまあそのおかげで、この島の魅力に取り憑かれてな。退官後はこうしてまた戻って来たわけじゃ」

26 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:29:56.322 ID:N8Qe0WAA0
女騎士「ーー閣下」
名誉連隊長「おお、少佐」
女騎士「いつもありがとうございます。おかげで事務処理もだいぶ終わりました」
名誉連隊長「寂しいのぉ。もうすぐお別れか」
女騎士「新しい連隊長も、支えてやって下さい」
名誉連隊長「また佐官クラスが来るんじゃろうか?」
女騎士「ま、一応連隊ですから」
名誉連隊長「可哀想にのぉ」
女騎士「ええ」
兵士「……ここは流刑地ですか」

27 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:31:10.113 ID:N8Qe0WAA0
ーー島の反対側。海沿いの切り立った崖の上。
漁師「はーあ。晴れてるわりに波が高ぇ。午後は船出せねぇかもなぁ」
漁民「ま、仕方ねぇさ」
漁師「にしても、あの総督の野郎はーー」
漁民「どうした」
漁師「いやあそこ、ほら崖の陰んとこ、なんか見えねぇか?」
漁民「んー。確かに……。灰色の……なんだろ」
漁師「見に行ってみよう!」
漁民「あ、おい!」

28 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:32:34.578 ID:N8Qe0WAA0
ーーーー
漁師「なんだなんだぁ? 一体なに……が……。うおっ!」
漁民「お……おい。あれ」
漁師「ち、ちっちゃい空中船だ。港に来た奴とは違うぞ……」
漁民「え、えれぇこっちゃ。すぐに知らせないと」
???「それは困る」
『!』
???「すまないが、見られたからには拘束させてもらうよ」
漁師「あ……あ……」
漁民「た、助け……」
???「怖がらなくていい、少し聞きたいことがあるんだ」

29 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:34:23.101 ID:N8Qe0WAA0
ーー昼過ぎ。連隊駐屯地。
駐在警官「ーーんでまあ、その2人が戻ってこないもんで、カミさんたちが駐在所に来てね。ウチの旦那を探してくれって言うんだけど……こっちも人手不足だからねぇ。
ただ船は繋いだままだから、溺れちまったわけじゃ無いと思うんだ」
女騎士「分かりました。何人か人を回します」
駐在警官「助かるよ」
女騎士「いえ」

30 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:36:08.279 ID:N8Qe0WAA0
ーー夕方。連隊駐屯地、食堂。
マリア「ーーと、いうわけで、ほんの少しの間お世話になります」
兵士「……どういう訳なんだ?」
一等兵「"隊長の知り合い"とだけ言われてもねぇ」
伍長「そもそもどうやってこの島へ?」
主計課エルフ「ネコミミ可愛いー!」
マリア「あはは……いやー」
マリア(しゃーないでしょ。急ぎでなんのカバーストーリーも用意してないんだから。……こんなド田舎島にわざわざ来る理由なんて思いつかなかったわよ)

31 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/19(火) 01:37:49.794 ID:N8Qe0WAA0
女騎士「ま、勘ぐってくれるな。私だって総督に探りを入れるために来た身だしな」
兵士「でも、ちゃんと連隊長でしたよ」
女騎士「……ありがとう」
勇者「じゃあ、マリアさんは女騎士さんのスパイ仲間ってことですか」
『…………』
女騎士「たったいま勘ぐるなと言ったろう」
勇者「あ、ごめんなさい」

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