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キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」
Part97


459 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/16(日)00:16:58 ID:aV7
村の若者1「逃がしゃあせんぞ、妖怪の類だとしたら他の村で悪さするに違いない」
村の若者2「そうじゃそうじゃ、この妖怪共を捕まえて懲らしめてやらにゃあならん」
グイッ
グレーテル「きゃっ……!お兄ちゃん……助けて……!」
ヘンゼル「おい!僕の妹から手を離せ!」ギロリ
薄毛のおっさん「見るんじゃこの恐ろしい目つき…!やはり妖怪じゃよ!妖怪のせいじゃよ!」
村の若者1「おい、オラはあの妖怪の小僧を捕まえる 。お前はあの妖怪の娘じゃ」
村の若者2「おおう、人間に迷惑ばかりかける妖怪共じゃ、ように懲らしめてやらんとな」
ヘンゼル「クソッ…!わからず屋の大人ばっかりだ…!見た目が自分達と違うからって妖怪だと決めつけるなんて…!」
薄毛のおっさん「ええい、早く捕まえるんじゃ。そうせんと何をするかわからんからな」
グレーテル「助けて……!お兄ちゃん……!」ジタバタ
ヘンゼル「やめろお前等…!汚い手でグレーテルに触るな!」
ザワザワ
おっさん「おぉい!お前等、何しとるんじゃ子供相手に大人が寄ってたかって!やめんかやめんか!」ズカズカ

460 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/16(日)00:23:36 ID:aV7
薄毛のおっさん「おぅ、なんじゃい弥平か。止めんでくれ、こいつらは妖怪なんじゃ。懲らしめとる最中でな」
弥平「妖怪…?この童共が?なにか悪さでもしたってのか?」
村の若者1「弥平さん、悪さしてからじゃ遅いんじゃ」
村の若者2「妖怪ってぇのは悪さするもんじゃ、悪さをする前に捕えて懲らしめんとなぁ」
弥平「なんじゃそりゃ、つまりこの童共は妖怪かどうかはっきりせん上になんも悪さしとらんってことか?」
薄毛のおっさん「何を言っとるんじゃ弥平、見てみぃあの目ん玉!瑠璃色の目ん玉なんぞみた事ないじゃろ?」
弥平「そりゃあ珍しいが、遠い場所から来たんだとしたらそう言う事もあるんだろ。妖怪だって証拠にはならん」
薄毛のおっさん「弥平、お前は甘い奴じゃな!村のみんなが心配じゃありゃせんのか!見てみぃこの栗色の髪の毛を!こんな髪の毛見た事ありゃせんじゃろ!」
薄毛のおっさん「ワシらとこんなに外見が違うんじゃ、人間じゃありゃあせん!だとしたら妖怪の類じゃろうが!」
弥平「ほう、その理屈だと薄毛のあんたも妖怪ってことだな?この村には他に薄毛のもんはおらんからなぁ、ハッハッハ!やーい、このハゲ妖怪め!」
薄毛のおっさん「な、なにを言っておるんじゃ弥平!ワシの薄毛は関係ないじゃろ!今はこの童共n」
村の若者1「でも確かにおやっさんってちょっと他にないくらい薄毛だなぁ……他の連中は髪の毛あるのになぁ」ヒソヒソ
村の若者2「もしかしてあの童の珍しい色の髪の毛が気に食わなくてケチ付けただけなんじゃないか」ヒソヒソ
弥平「おっ、そうだな。そうに違いない!あの娘っ子の髪の毛綺麗だから、殺して自分のカツラにするつもりだったんだな!なんと悪だくみのうまい妖怪だ」ハッハッハ

461 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/16(日)00:25:44 ID:aV7
薄毛のおっさん「そんなわけないじゃろ!わ、ワシの薄毛は生まれつきじゃ!その童共とは違うんじゃ……!」
弥平「それを言うならこの子供等の髪の毛も瞳の色も生まれつきだろう、ちょっと珍しいだけでな」
薄毛のおっさん「ぐぬぬ……そんな得体のしれん童のかたを持ちおって!ええい、何かあったらお前のせいじゃからな弥平!ワシは知らん!行くぞお前達!」スタスタスタ
村の若者1・2「親方ー、待って下さいよー!」
弥平「へいへーい、わかりましたよーっと……さて、大丈夫か童共?おっ、本当に瑠璃色の瞳だなぁハッハッハ」ニッ
ヘンゼル「…なんで助けたの?何かあったらあんたのせいにするってあのハゲ言ってたけど」
弥平「そりゃあ困ってる奴を助けるのに眼の色なんざ関係ないからな、その子もお前も言いがかりをつけられて困ってたんだろ?」
グレーテル「うん……助けてくれてありがとうね……えっと……」
弥平「おっ、オラの名前は弥平だ。この村で畑仕事して生活しとる。童共の名前はなんだ?」
ヘンゼル「僕の名前はヘンゼル、こっちは妹のグレーテル。理由があって別の世界…いや、別の場所から来たんだ」
弥平「へんぜるとぐれぇてる?変わった名前だ、でもまぁお前達の住んでた場所じゃあそれが普通だったんだろうなぁハッハッハ!」
ヘンゼル「…さっきのおじさん、僕達が自分達と違うって事に凄くこだわってたよね。そんなに人と同じじゃなきゃ不安なの?」
弥平「まぁ、年寄りにはそういう考えの奴が多いなぁ。外見が自分達人間と違う奴は人間じゃない。つまり妖怪や鬼だって考えだ、古い考えだが…」
弥平「ここは小さな村だ。正しいとか間違ってるってのは二の次で、古い考えや習慣、風習ってのは重要視されちまうんだ」

462 :名無しさん@おーぷん :2015/08/16(日)00:43:03 ID:W0h
おお!来てた支援!!

463 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/16(日)00:52:55 ID:aV7
弥平「それより、童共。今晩泊まるあてがないんなら、ウチに来るか?なんももてなしなんざ出来ねぇけど」ハッハッハ
ヘンゼル「いいの…?そうしてもらえるなら助かるけど」
弥平「いいってことよ!うちの手伝いさえしてくれるってぇなら何日でも置いてやるぞ?」
ヘンゼル「手伝いくらいいくらでもするけど、僕達に何か求めてもそれ以上何もできないよ?」
弥平「ハッハッハ!ヘンゼルはおかしい事を言うなぁ、童に何かを求めるような大人いねぇよ」ハッハッハ
グレーテル「……弥平さん……良い人なんだね……」
弥平「よせよせ、グレーテル。子供を護ってやんのは大人の使命だ、そんで子供等はいつも笑ってるのが仕事。そういうもんだ!ハッハッハ!」
ヘンゼル「そう言う訳にはいかないよ、世話になるには何か礼をしないと……弥平さん、荷物持つよ。僕に出来るのはそんな事だけだから」
弥平「こんくらいの荷物平気だ平気。ヘンゼルは気にしぃだなぁ…ああ、そうだ、そんなに礼がしたいってならひとつ頼もうか」
ヘンゼル「なにかな?僕達に出来る事ならするけど」
弥平「ウチには一人、お前たちと同じくらいになる娘がいるんだがな?いつも家に一人でいるもんだから寂しそうだ」
弥平「そこでさ、お前達どっちでもいいから娘の遊び相手してやっちゃくれねぇか?オラは昼間畑仕事があるからなぁ」
ヘンゼル「だったら僕は畑仕事を手伝う、その子の遊び相手はグレーテルがしてあげてよ」
グレーテル「うん……弥平さん、この子の名前……なんていうの……?」
弥平「お千代って名前の娘だ。鞠つきが好きでなぁ、今頃も軒先で手毬唄でも歌ってるだろうよ」

464 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/16(日)00:58:04 ID:aV7
今日はここまで、みんなレスありがとう!
お千代と弥平。しばしテンション下がるお話しです
ヘンゼルとグレーテル。とある消滅したおとぎ話編 次回に続きます

465 :名無しさん@おーぷん :2015/08/16(日)01:01:27 ID:W0h
乙です!雪の女王、何か可愛いな……
弥平ってキャラが出てくるおとぎ話は読んだことないから調べてみようかな
次回の更新も楽しみにしてる!

466 :名無しさん@おーぷん :2015/08/16(日)01:06:34 ID:6wp
>>1さん乙です!
弥平さんが出てきて回想もそろそろ佳境でしょうか…!?
とりあえず次回更新を楽しみに待ってます!!

467 :名無しさん@おーぷん :2015/08/16(日)01:21:53 ID:8aA
乙です!
弥平がいい人すぎる!!
このあとどうなっていくのか楽しみです!
続き待ってます!!

476 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/18(火)23:07:56 ID:C93
とあるおとぎ話の世界 小さな村
グレーテル「お兄ちゃん……優しい人にあえてよかったね……弥平さん……良い人……」
ヘンゼル「まだ完全に信じ切っちゃダメだとは思うけど、でも女王みたいに優しい大人が居る事だって解ったからね」
ヘンゼル「それにあの人は自分の立場を悪くしてまで僕達を助けてくれた。少なくとも、とりあえずは信用しても良いと思う」
グレーテル「うん……私もそう思う……女王さまが迎えに来るまで……ちゃんとお手伝いしないとね……」
ヘンゼル「ああ、でもやっぱり弥平さんも女王と同じで大人の中でも特別なんだ。ほら、他の大人達を見てみなよ」
ヒソヒソヒソヒソ
グレーテル「なんだか……村の大人たち……私たちの事見てるね……」
ヘンゼル「さっきのおじさんと一緒だ、僕達の髪や瞳の色が珍しいんだろうね。下手にあいつらに近づいちゃダメだよグレーテル、何されるかわからない」
弥平「ハッハッハ、妹思いなのは良いことだがちぃとばかり心配性だなヘンゼルは。平気だ、取って食ったりしねぇよ!」ハッハッハ
ヘンゼル「心配にもなるよ、さっきの大人達はグレーテルに乱暴しようとしたんだから。大人なんてのは本当は悪いやつばかりだからね」
弥平「そう言わんでやってくれ、あのおっさんも悪人じゃあねぇんだ。この村じゃあ神様だの妖怪だのが信じられているからな…二人みたいな髪や瞳の色が違う余所の人間が恐いんだろ」
ヘンゼル「理屈はわかるけど、だからと言って僕の妹を傷つけて良い理由にはならないでしょ」
弥平「まっ、そりゃそうだ。っと、ごちゃごちゃ言ってる間に見えてきたな。ほれ、あそこのボロ家がオラの家だ、なぁに崩れはせんから心配いらねぇよ」ハッハッハ

477 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/18(火)23:10:07 ID:C93
とあるおとぎ話の世界 弥平の家
お千代「てんてんてんまり、てんてまりー。今日はー、隣の婆ちゃんの畑のお手伝いー。婆ちゃんお礼に、芋がらくーれたー」ニコニコ
グレーテル「ボール遊びしてる……えっと、この世界では手毬っていうんだっけ……?」
弥平「ああ、あれが娘のお千代だ。ああやって何か嬉しい事があるとな、よく手毬唄に乗せて歌ってるんだ」
ヘンゼル(弥平さんには言えないけど…お千代はなんだか凄く痩せてる。きっと、ろくに食事も取れてないんだろうけど…それなのに僕達が厄介になっても平気なのかな?)
弥平「おい、お千代。父ちゃん帰ったぞー!鞠つきはそんくらいにして家の中入れ、夕飯にするぞ」ガシガシ
お千代「父ちゃん!おかえり!うちね、今日隣の婆ちゃんの畑手伝ったんよ。それでお礼に…」ニコニコ
弥平「婆ちゃんに芋がら貰ったんだよな?ちゃーんと手伝い出来て偉いなお千代!婆ちゃんに礼言ったか?」
お千代「うん!ちゃんとお礼言ったんよ、婆ちゃん褒めてくれた!それで父ちゃん、そっちの二人は…お客さんなん?」ニコニコ
弥平「おお、そうだそうだ。お千代、しばらく一緒に暮らす事になった新しい家族だ。ヘンゼル、グレーテル、あらためて紹介するぞ。こいつぁ娘の千代だ」
ヘンゼル「始めまして、僕はヘンゼル。こっちは妹のグレーテル。さっき村で酷い目にあっている時に弥平さんに助けてもらって、しばらくの間厄介になる事になt」
弥平「硬っ!なんなんだヘンゼルお前!硬いぞ!もっと軽くで良いんだよ。お千代、こいつはお前の兄さんになるヘンゼル、そっちは姉…妹か?まぁどっちでもいい、姉妹になるグレーテルだ。仲良くしろな?」ハッハッハ
グレーテル「うん……お千代ちゃん……よろしくね……」
お千代「うちの兄妹…!うちの名前はね、千代っていうんよ!だからみんなお千代って呼ぶの、だから二人もそう呼んでくれたらうれしいな!よろしくね、ヘンゼル!グレーテル!」パァァ
ヘンゼル(なんだかお千代はやけに嬉しそうだ。昔のグレーテルみたいに、よく笑う娘だ)
弥平「さぁさぁ、家の前で話しこんでても仕方ねぇ、家に入るぞ。今日は二人が家族になった祝いだ、ごちそう作ってやるから仲良く待ってろよ」ハッハッハ

478 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/18(火)23:12:12 ID:C93
・・・
お千代「ヘンゼルもグレーテルも遠くの国から来たん?私とは髪の毛も眼の色も違うよね、山の向こうの向こうのずっと遠くなんかな?」ワクワク
ヘンゼル「そうだね、きっとずっとずっと遠く。本当なら来る事が出来ないくらい遠い国なんじゃないかな?」
グレーテル「うん……お家のかたちも……キッチンも……全然違うの、見た事無いかたち……きっとお千代ちゃんも弥平さんも知らない国……」
お千代「もーっ、弥平さんなんて言ってー、二人ともあれだよえーっと……こういうのなんだっけ、父ちゃん?たにんぎょーぎ?」
弥平「ああ、他人行儀な。二人とも『弥平さん』なんて丁寧に呼ぶ必要ないぞ!父ちゃんって呼べ父ちゃんって!ハッハッハ!」ハッハッハ
ヘンゼル「いや、父ちゃんなんて呼べないよ。本当の父親じゃないのになれなれしすぎるよ、そんな呼び方。弥平さんは弥平さんだよ」
お千代「ヘンゼル駄目なんよ?一緒に暮らすって事は家族なんだから、家族は相手に『さん』なんて付けないんよ。そうだよね、父ちゃん?」
弥平「おっ、なんだぁ?そいつまた変な気を使ってんのか?おいおい、強情だなヘンゼルさん」ハッハッハ
お千代「困ったヘンゼルさんなんよ」クスクス
グレーテル「ヘンゼルお兄ちゃんさん……」
ヘンゼル「グレーテルまで…。わかったよ、僕達の世界では父親の事は『パパ』って呼ぶんだ、だからパパさんって呼ぶよ。だから父ちゃんは勘弁してよ」
グレーテル「うん、私……弥平パパって呼ぶ……父ちゃんよりパパの方がなんだか……呼びやすいから……」
弥平「ヘンゼルは結局さん付けじゃねぇかそれ。まぁよし!ようやく家族らしくなったな!じゃあ飯にするぞ、弥平父ちゃん特製の芋がら入り粟の粥だ!さぁ食え食えー!」

479 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/18(火)23:14:17 ID:C93
お千代「わぁー!芋がら入りのお粥なんて久しぶりなんよ!すっごいごちそうやねー」ニコニコ
グレーテル「弥平パパ……いもがらって……?」
弥平「芋のツルの事だな、二人の故郷には芋がら無いのか?今日のはお千代が隣の家から貰った干し芋がらだ、普通は保存食にするんだが…今日は特別だ!食え食え!」ハッハッハ
ヘンゼル(お粥って料理は初めて見たからなんとも言えないけど、きっとこの粟っていう穀物はこの世界の主食なんだと思う。お粥っていうのはきっとそれをスープにしたものだ)
ヘンゼル(でもおそらく…このお粥と言うのは本来、もっとたくさん粟が入っているものなんだと思う。だけど僕達にめいめい配られた器には少しの粟が沈んだお湯が注がれている)
ヘンゼル(そのお湯に芋がらっていう植物がいくつか浮いている。お千代の口ぶりだと、いつもはこの萎びた草さえ浮いていないお湯の様なスープが二人の夕飯なんだろう)
ヘンゼル(そのささやかな夕飯も、僕とグレーテルに分けてくれたから一人分の分け前はいつもより随分と減っているはずだ)
ヘンゼル(お湯のようなスープと硬いパンで過ごしていたあの頃の生活を思い出してしまった。とてもじゃないけど、お腹を空かせてる二人から食べ物を分けてもらうなんて出来ない。僕は遠慮しよう、そうすれば少しはみんなの分け前が増える)
ヘンゼル「……ああ、えっと…ごめん、弥平さん。僕は夕飯いらn」
弥平「ん?どうした、ヘンゼル『さん』?」ニカッ
ヘンゼル「…パパさん、僕は夕飯いいよ、あまりお腹すいていないから。僕の分、三人で分けてよ」
弥平「おう、却下だ。お前の分はお前がちゃんと食え」ハッハッハ
ヘンゼル「いや、だからお腹すいてないから…」
弥平「すいてなくても食え。お前の腹がすいてない理由をお千代とグレーテルが知ったら、この家の誰も粥を食わなくなるだろうが」ヒソッ
ヘンゼル(僕の考えなんて読まれてるってことか……)
弥平「な?だから気にするならむしろ食え。確かにうちには食べ物が山ほどあるなんて言えないけどな、四人居てもこんな薄い粟の粥なら毎日でも食える。だから遠慮するな」
ヘンゼル「……うん、いただくよ」

480 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/18(火)23:16:10 ID:C93
グレーテル「……お粥、初めて食べた……不思議な味、でも美味しい……」ズズー
ヘンゼル「うん…おいしいね。お千代が隣から芋がらっていうのを貰って来たおかげだね」
お千代「隣のおじさん足痛めたって言ってたんよ、婆ちゃん一人じゃ畑仕事大変だから。その間、お手伝いしてるんよ」
弥平「うちも大変だが、隣はもっと大変だからな。困った時はお互いさまってんで、今だけお千代にはそっち手伝ってもらってるんだ」
ヘンゼル「そうなんだ、お千代は働き者だね」
お千代「えへへっ、そんな事ないんよ?本当は早く大人になって父ちゃんの畑仕事をもっとたくさん手伝いたいんよ」ニコニコ
グレーテル「でも……このお家、弥平パパとお千代ちゃんしか居ないよね……ママはどk」
ヘンゼル「…っ!そうだ!パパさん!後片付けは僕がするよ!一緒にやろうかグレーテル!」バッ
グレーテル「……?うん、わかった……」
弥平「…おう。そりゃあ助かる、茶碗と箸を洗ってくれ。それが終わったら今日はもう休め、お千代は今日は特に疲れたろう。今日の後始末は二人に任せてお前はもう寝ろ。な?」
お千代「それじゃ二人に悪いんよ。夕飯の片づけはうちの仕事だから、今日もうちが…」
ヘンゼル「大丈夫だよ、お千代の仕事は僕達の仕事だ。僕達はお客さんじゃないんだから。そうだよね、グレーテル?」
グレーテル「うん……私たちは兄妹……だから協力するのは当たり前……今日は私とお兄ちゃんの番、お千代ちゃんはお休みの日……」
お千代「わかったんよ、それじゃあ今日はお願いね。あしたはうちがやるから」ニコッ
ヘンゼル「うん、任せてよ。おやすみ、お千代」

481 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/18(火)23:18:09 ID:C93
とあるおとぎ話の世界 弥平の家 炊事場
ザブザブ
ヘンゼル「駄目だよグレーテル、お千代のお母さんの話しちゃ」
グレーテル「どうして……?」
ヘンゼル「どうしてって……きっと、もうこの家お母さんは居ないんだよ。だからパパさんは一人で畑仕事してるし、家の事や隣の手伝いをお千代がやってるんだ」
グレーテル「そっか……じゃあ、ママの事なんか聞いたらお千代ちゃん悲しませちゃってたね……」
ヘンゼル「うん、お千代は明るくふるまってるけど…でも辛い事も多いと思うんだ。お手伝いやお家の仕事頑張って、きっとご飯もお腹いっぱい食べられない、それにママだって居ないんだから…」
グレーテル「昔の……私達みたいだね……あの時の私と……今のお千代ちゃんはちょっと似てる……」
ヘンゼル(僕もそう思ってる。貧しいところも、お腹を空かせてるところも、それでも頑張って働くところも、笑顔が可愛らしいところも)
ヘンゼル(つい、なんとなくあの頃のグレーテルの姿を重ねてしまう。だからお千代には幸せになって欲しい。でも今の僕達には何もできない)
ヘンゼル「今の僕達には宮殿に帰る術が無いからしばらくは二人にお世話になるけど…いつかパパさんにもお千代にもお礼がしたいね」
グレーテル「うん……まずは明日からお手伝い……いっぱい頑張ろうね……」
弥平「おう、グレーテル。ちょっといいか?」
グレーテル「弥平パパ……なに……?」
弥平「お前の寝巻な。お千代の寝巻を使ってもらうけどよ、多分どうやって着るかわからないだろう?お千代に着方を教えてもらって、もうそのまま寝ちまえ。あとはオラがヘンゼルとやるから。な?」
グレーテル「うん……わかった、そうするね……弥平パパ、お兄ちゃん……おやすみなさい……」グシグシ

482 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/18(火)23:19:08 ID:C93
ヘンゼル「ありがたいけどもう皿洗いは終わったから、手伝いはいらないよ。パパさんこそ疲れてるんだからもう休んだら?」
弥平「おう、その前にちょっと話そうじゃねぇか。男同士の語りあいってやつだな」ハッハッハ
ヘンゼル「お千代やグレーテルに早く休むように言ったのはそういう訳なんだ。それで、話って何?」
弥平「お前なぁ、晩飯の時遠慮しただろ?ただでさえ貧しい生活してるオラとお千代の飯の分け前を減らせねぇからってな。ああいうのは今後無しだ、いいな?」
ヘンゼル「パパさんがそう言うなら、わかったけど…でも僕もグレーテルも昔住んでいたところで大きな飢饉があって…飢えの苦しさは知ってる。だからほっておけないよ」
弥平「なるほどな、お前達も似たような生活をしてたって訳か。だったら尚更遠慮なんかするんじゃない、食えるときには食っておけ」
ヘンゼル「うん、でも…どうしても食べ物に困ったら言ってよ。その時は僕の分、減らしてくれたらいいから」
弥平「よくねぇよ。なんでそうなるんだお前、オラの話聞いてたか?」
ヘンゼル「聞いてたよ。でもよそ者の僕達のせいでパパさんやお千代がお腹をすかせるってのはおかしいよ。それに……」
弥平「それに…なんだ?」
ヘンゼル「パパさんは良い人だ。だけど空腹っていうのは人を狂わせるから、もしも…もしも何か間違いがあって…お千代が口減らしにでもされたら…可哀そうだよ」
弥平「お前、まだ子供なのに口減らしなんて知ってるのか…いや、故郷で大飢饉があったなら知ってて当然か」
ヘンゼル「僕もグレーテルもその口減らしで両親に…いいや、両親だった奴らに森の奥へ捨てられたんだ。だから、捨てられる子供の気持ちは痛いほどわかる」

483 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/18(火)23:20:16 ID:C93
弥平「そうか、お前達は口減らしにあったのか。遠い異国でも似たような事が起きてるんだな…」
ヘンゼル「今のところ、パパさんはそんな事をする悪い大人には見えない。だけど、お千代は僕達が兄妹になるって聞いたときすごく喜んでた」
ヘンゼル「だからもう、お千代は僕の妹も同然だ。それに……お千代の境遇はあの頃のグレーテルに似てる。だから、悲しい思いはさせたくない。」
弥平「確かにこの国にも口減らしってのは存在する。だけどなぁ、オラには縁の無い話だな。例えお千代を口減らしに出したとして、残る家族はオラだけだ」
弥平「嫁さんにも先に逝かれて、その上自分の食いぶちの為に娘を捨てるなんて事になんの意味もねぇんだよ。孤独なおっさんが一人長生きしてどうなるってんだ」
弥平「オラがお千代を手放す時はな、あいつが嫁に行く時だけだ。どんな飢饉が起きようと生活が苦しかろうと、それ以外にお千代が俺の元から居なくなる事はねぇよ」
弥平「それにな、自分の子を見捨てるような大人は子供にも見捨てられちまう。そんな馬鹿な話があるか、親子ってのは助けあって笑いあうもんだろ?」ハッハッハ
ヘンゼル「……パパさんは、僕達の父親だった奴とは違うんだね」
弥平「そう言ってやるなよ、お前達の父親だって苦渋の選択の末の行動だったんだろう」
ヘンゼル「だとしても、許せない。絶対に」
弥平「まぁ、とにかく…だ。オラはお千代やお前を見捨てたりしねぇよ。だいたいお前は気を使い過ぎなんだよ、さっきだってそうだぞお前」
ヘンゼル「さっきって……グレーテルがお千代のお母さんの事に触れそうになった時、それを止めた事?」
弥平「ああ、そうだ。お千代はまだ子供だ。けどな、母親が居ない生活にも随分慣れさせちまった。寂しいだろうが、お前達がうっかり聞いても悲しんだりしない」
弥平「兄妹だと思ってるお前に、変に気を使われる方があいつも嫌だろうよ。だから普通に接してやってくれ」

484 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/18(火)23:21:18 ID:C93
ヘンゼル「…でも、やっぱり触れちゃダメでしょそういうのは」
弥平「お前は本当に気にしぃだな…!オラが子供の時はもっとこうバンバン言っちゃまずいこと言ってたぞ!だからお前も気にすんな!」バシバシ
ヘンゼル「なんで自慢げなの。だめでしょそれ」
弥平「まっ、どっちにしろ犀川の事はお前達にも言わなきゃなんねぇからな。そのついでに教えておくか、お千代の死んだ母親の事」
ヘンゼル「犀川って…昼間にあの薄毛のおじさんも言ってたね。『犀川の神様が荒ぶる頃』だって」
弥平「ああ、この村のすぐ側には犀川って名の川が流れてんだが、この犀川は秋の雨の時期になると毎年氾濫が起きててな。そのせいで毎年大勢の村人が死んでんだ」
弥平「この村じゃあ昔から犀川の神様が荒ぶってるって言ってな、氾濫する事がわかっていてもどうにも手が打てないから毎年困ってんだよ」
ヘンゼル「もしかして、お千代のお母さんもその犀川の氾濫で亡くなったの?」
弥平「ああ、去年の秋。畑の様子を見に行くと言って出て行ったお千代の母親は、氾濫する犀川に飲み込まれて死んじまった。犀川の神様に連れて行かれちまったんだ」
ヘンゼル「そんなに毎年村人が死んでいるのに、どうしてなにもしないの?橋を強くするとか、氾濫しないような川にするとか」
弥平「そうだよな、まぁそういう考えになるのが普通だ。じゃあ聞くけどなヘンゼル、どういう具合に橋を強くする?どうすれば氾濫しない川に出来るか、その方法に考えがあるか?」
ヘンゼル「いいや、ないよ…まぁそうだよね、出来たらとっくにやってるだろうしね」
弥平「そうだな、自然の脅威には結局オラ達人間はどうする事も出来ねぇ。だからあまりにも犀川の氾濫が酷い年には、神様に捧げものをして納めて貰う」
ヘンゼル「捧げもの…?」
弥平「……いや、子供に聞かせるようなもんじゃねぇや。すまんが、この事は忘れてくれ」

485 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/18(火)23:23:34 ID:C93
ヘンゼル「なにそれ?言いかけて止めるとか気になるじゃないか。その捧げものって、人には言えないようなものなの?」
弥平「ああ、そうだ。子供は知らなくていいことだ。だから聞かなかった事にしろ。どっちにしろ、犀川の氾濫を防ぐのは容易い事じゃねぇって事だ」
ヘンゼル「……」
弥平「とにかくだ。この村では毎年秋の季節に犀川が暴れて、大勢の人が死ぬ。お千代の母親もその被害者だ」
ヘンゼル「あの年で母親が居ないっていうのは、寂しいだろうね」
弥平「寂しいだろうな、まだ母親に甘えたい年頃だろうに…でもお千代は今までに一度だって寂しいとも母親に会いたいとも言わずに一生懸命働いてる。貧しさに文句ひとつ言った事も無いんだあいつは」
ヘンゼル「でも、それは気丈にふるまってるだけだよ。きっと、本当は寂しいに決まってる」
弥平「ああ、口には出さないだけで本当は寂しいんだろうな。お千代の喋り方、独特のなまりがあるだろ?あれはあいつの母親の故郷の言葉でな、母親が死んでからその面影にすがる様に真似し始めたんだ」
弥平「死んだ母親の口癖を真似て寂しさを紛らわせてるんだろうな。本当はオラがいつだって側に居てやりたいが、畑仕事や寄り合いがあってそうもいかねぇしな」
ヘンゼル「兄妹のいる僕達はまだお千代よりは恵まれてたんだね、一人になるって事無かったから」
弥平「飯も腹いっぱい食わせてやれない、一緒に居てやる事も出来ない、オラは不甲斐ない父親だ。でも、お千代は大切な娘だ。いくら貧しくても、いつかは幸せになって欲しいんだ、今は難しくてもな」
ヘンゼル(パパさんのお千代への気持ちは、僕がグレーテルに感じている気持ちと同じだ)
ヘンゼル(自分には何もできないけど、でも出来る事はなんだってやるつもりでいる。それでお千代やグレーテルが幸せになるなら、なんだってやる)
弥平「それでなぁ、ヘンゼル。今俺達がしてやれるのはお千代の寂しさを無くしてやるくらいの事だ」
弥平「だから出来る限りで良い、お前かグレーテルどっちかは常にあいつの側に居てやってくれ。それが出来ないオラの代わりにあいつの側にいてやっちゃあくれねぇか?」
ヘンゼル「うん、どうやらグレーテルもお千代の事、気にいってるみたいだから仲良くできると思うよ。僕も、手伝いの無い時はなるべく一緒に居るようにするよ」
弥平「ありがとな、お前は気にしぃだがその分よく周りが見える奴だ。あいつの事、気に掛けてやってくれな」ポンポン
・・・

486 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/18(火)23:26:24 ID:C93
それから半月ほどの時が流れ…
とあるおとぎ話の世界 弥平の畑
ザクッザクッザクッ
ヘンゼル「ふぅ、今日はこのくらいかな…?」
弥平「おぉい、ヘンゼル!今日はこのくらいにして帰るぞ、収穫した野菜も運ばねぇとな」
ヘンゼル「うん、片付けたらすぐに行くよ」
ヘンゼル(僕とグレーテルがこの世界に来てから半月ほど経った)
ヘンゼル(女王はまだ現れない。でも僕もグレーテルも不思議と心配はしていなかった。女王が僕達を見捨てる姿を想像するのは大爆笑するカイを想像するより何倍も難しい、必ずいつかは迎えに来てくれるという確信があった)
ヘンゼル(凄まじい魔力を持っていても、氷結の力で右に出る者が居なくても、女王は万能じゃない。火は苦手だし、子供に甘過ぎてその子供に叱られる、むしろ弱点が多いんじゃないかとすら思う)
ヘンゼル(でも家族を見捨てるような人じゃない。きっとすぐに迎えに来れない事情があるんだろう、そもそも世界移動なんて容易い事じゃないだろうし)
ヘンゼル(だから僕もグレーテルもあまりその事は気にしていなかった。それより忙しいパパさんや頑張るお千代の手助けが何とか出来ないかと、そればっかり考えていた気がする)
隣のおっさん「おぉ、ヘンゼル。今日もよく働いてるみたいだな、まだ子供なのに偉いなぁ!これうちの畑で採れた菜っ葉だ、少ししかねぇけど妹達と食うと良い」ヘラヘラ
ヘンゼル「ありがとう。でもおじさんはもう少し力を抜いたらどう?足の怪我まだ完璧に治ったわけじゃないから無理するなってお婆さんに言われてるんでしょ?お千代に聞いたよ」
隣のおっさん「うぉっ、なんだ筒抜けなのか。でもいつまでもお千代ちゃんに畑の手伝いしてもらう訳にもいかんからな、ぼちぼちやるさ。じゃあなー」ヘラヘラ
ヘンゼル(一生懸命畑仕事を手伝っているうちに、周りの大人達は僕に好意的に声を掛けてくれるようになった。前は僕達の外見だけで避けてたのにおかしい話だ)
ヘンゼル(でも、悪い気はしない。僕の事もグレーテルの事も村の一員だと思ってくれているようで…正直に言うと、少し嬉しい)
ヘンゼル(とはいってもあの薄毛のおじさんみたいに、僕達をいまだ妖怪の類だと思っている大人もいる)
ヘンゼル(だから大人の事は今だって嫌いだ、信用できないと思ってる。でも、少しだけ、心を開いてもいいかなとは、思う。誰にでもとはいかないけれど…)