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キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」 ヘンゼルとグレーテル編

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Part15
416 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)22:54:35 ID:L4X
ビュオオォォォォ
グレーテル「……」ガクガク
ヘンゼル(この世界はなんていうおとぎ話なのか?どれからどうするか?考える事は多いけど……今はとにかくこの吹雪を凌ぐ事を考えよう、じゃないと凍えてしまう)ブルブル
ヘンゼル「……グレーテル、こっちへおいで。僕を風よけにするといい、きっと少しはましだよ」スッ
グレーテル「でも……それじゃあ、お兄ちゃん……寒いでしょ……?」
ヘンゼル「そんな事気にしなくていいんだ、グレーテルはスカートなんだから僕より寒いだろ?」
グレーテル「うん……それだったら……甘えるね……」スッ
ヘンゼル「いいかい、グレーテル。もう少しだけ、もう少しだけ我慢して…吹雪が防げる洞窟か何かを探そう。そこで吹雪が収まるのを待つんだ」
グレーテル「うん……わかった……」ボソッ
ヘンゼル(魔女のもとでの生活はよほど苦しかったんだろう…グレーテルは一か月の間にだいぶ変わってしまったみたいだ)
ヘンゼル(一カ月ぶりにあった妹は一切笑わなくなってしまった。自由に喋る事すら許されなかったのか、言葉を口にするにもゆっくりで詰まりがちだ。以前のような明るさは無く、どことなく影を背負っているように見えた)
ヘンゼル(だからと言ってグレーテルが僕の大切な妹である事は変わりない。だけど一カ月でこんなに変わってしまったのは僕がしっかりと護れなかったから…そのせいだ)
グレーテル「見て……お兄ちゃん、あれ……」クイクイッ
ヘンゼル「…!?」
ドスドス
白熊の群れ「グルルル……」フシューッ
ヘンゼル「あいつら僕達を狙ってる。どうやら運命はよっぽど僕達を不幸にしたいんだ」

417 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)22:56:26 ID:L4X
ドスドスドス
白熊の群れ「……グルルッ」フシューッ
ヘンゼル(品定めをするように僕達の様子をうかがってる…下手に走り出せば追われる、そうなればどれくらい逃げられるだろう?いいや、数分…食いちぎられるのが遅くなるだけだ)
ヘンゼル「……グレーテル、僕が引きつける。だからその隙にお前は…」
グレーテル「……イヤ。私は……もうお兄ちゃんとずっと一緒に居る……例え……食べられちゃっても……一緒なの……離れ離れは嫌だよ……」ギュッ
ヘンゼル「……グレーテル」ギュッ
ヘンゼル(死んでしまう事よりも、兄と離れ離れになる事が辛いなんて。どれだけ辛い経験をすれば…そんなに考えにたどり着けるだろう)
白熊「グルルルッ……グォッ!」バッ
ヘンゼル(こんなに慕われている僕は幸せ者だ。だけど…それでも僕はグレーテルと一緒に居ることよりも、お前が幸せになる事の方が大切なんだ)
白熊「ベアアアアァァァァッ!!」ブンッ
ヘンゼル(だから、こんなところで…こいつらの餌になるなんて結末はあり得ない。グレーテルの結末はハッピーエンドしかあり得ないんだ)
ゴゴゴゴゴ
ヘンゼル「ケダモノめ、僕の大切な妹に近寄るな!」ヒュッ

418 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)22:59:26 ID:L4X
ゴゴゴゴゴ
グレーテル「お兄ちゃん…?」
ヘンゼル(なんだ…身体の底から何か力がみなぎってくる…あの熊を倒そうと思った途端だ。手のひらに何かのエネルギーが集まるのがわかる…なんなんだこの力…こんな得体のしれない力に頼ってもいいのだろうか…?)
白熊「グルル……ベアアァァァ!!」ビュオッ
ヘンゼル「…っ!どうなっても知ったもんか!この力でグレーテルが助かるなら…その正体なんてなんだっていい!」
ドゴシャアアアアァァ!
白熊「ベ、ベアッ」ドサァ
ヘンゼル「っ…ぐあぁぁ……っ!」ベキベキバキ
グレーテル「お兄ちゃん…!右腕……酷い傷……!」オロオロ
ヘンゼル「……平気だよ。それに一匹倒せただけだ、まだ…敵は残ってる」ゼェゼェ
ヘンゼル(あの熊の攻撃は喰らってない、それなのに右腕がピクリとも動かない。まさか力の反動なんだろうか…?)
白熊の群れ「……グルルルッ」ザワザワ
ヘンゼル(今ので白熊達は警戒してるけど、じきに襲ってくるだろう。熊を一撃で沈めるこの力…きっと左腕でも同じ事が出来るだろうけど、反動を考えると軽々しく使えない。まだ白熊は数匹残ってるんだ)
ヘンゼル「左腕一本犠牲にしてでも残りの白熊を一掃する方法……何かないのか……」ボソッ
グレーテル「お兄ちゃん……私、やってみる……練習だとうまくいかなかったけど……」
ヘンゼル「無茶だよグレーテル。お前が何をするつもりか知らないけど、そんな危険な真似させるわけには…」
グレーテル「お兄ちゃんだって危ない事した……だから私も……頑張る……元々、お兄ちゃんの為に頑張って覚えた……魔法だから」

419 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)23:00:39 ID:L4X
ヘンゼル「魔法…?そうか、あの小鳥が言っていた努力って…」
グレーテル「魔法書……たくさん読んだ……一度も上手くいった事、無いけど……今は一人ぼっちじゃないから、うまくいく気がするの……」
ヘンゼル「やめておこう、グレーテル。魔法なんて誰にでも使えるようなものじゃない。きっと無意味だよ」
グレーテル「うまくいかなくても……お兄ちゃんだけ辛い思いさせるの……イヤ。だから……頑張る……。うまくいくように……手、握ってて……いい……?」
ギュッ
ヘンゼル「…一度だけだよ。それで無理なら僕がもう一度不意を突いて、その隙に逃げる。いいね…?」
グレーテル「わかった……頑張る……」
スッ
白熊の群れ「グルルッ……ベアアアァァァァ!!」ババッ
グレーテル「……真夏のお日様……真冬のストーブ……真夜中のランプ」
グレーテル「……熱い熱いかまどの炎、私とお兄ちゃんをいじめる熊さん達を……焼きつくして……!」スッ
ポワッ…メラメラメラメラァ!!
白熊の群れ「ベ、ベアアアァァァ!?」ボボゥ
グオオォォォッ

420 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)23:01:57 ID:L4X
ヘンゼル「…っ!火の気の無い場所から無数の火柱が!魔法書読んだと言っても、独学でこんな強力な魔法を…!すごいじゃないか、グレーテr」
ドサッ
ヘンゼル「グレーテル!ど、どうしたんだ?まさか、お前の魔法にも僕の力みたいに反動が…」
グレーテル「……ううん、そんなの書いてなかったよ……でも、なんだか……気持ち悪い……頭がね、ボーってするの……」ゼェゼェ
ヘンゼル「グレーテル!もしかして寒さに耐えきれなくなったのか!?とにかくすぐに町を探さないと手遅れになる…!」
ザザッ
ラスト白熊「ベアアァァァ!」バッ
ヘンゼル「…っ!まだ一匹残っていたなんて!……こんな近くじゃ避けられない!切り裂かれる…!」クッ
ラスト白熊「グルルッ…ベアアア!!」ブンッ
雪の女王「困ったものだな、この地で私に無断で狩りを行うとは。それもこんなに可愛らしい少年と少女を相手に…」
パキパキパキッ……ペキペキッ……!!
ラスト白熊「」カチンコチーン
雪の女王「私の領域で狼藉を働いた罰だ。しばらく剥製気分を味わっているといい」スッ


421 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)23:06:11 ID:L4X
ヘンゼル「白熊が一瞬で氷漬けに…!」
雪の女王「心配する必要は無いさ、死なない程度の氷結にとどめてある。それよりも危険なのはキミ達の方だ。この地を散策するにはあまりに軽装過ぎる」
ヘンゼル「……」ジリッ
雪の女王「どうかしたか?これ以上吹雪にさらされるのはキミもそこの女の子も危険だ。私の宮殿がすぐそこだ、そこで身体を温めるといい」
ヘンゼル「今の…魔法だよね?ということはあんたも魔女なの…?」
雪の女王「何を気にしているんだ?そこの女の子は随分と苦しそうだ、あまり長くは持ちそうにない今は宮殿へ運ぶ事が先決だ」
ヘンゼル「はぐらかさないでよ。あんたが魔女だというなら僕達はその宮殿には向かわない。魔女は信用できない」
雪の女王「フフッ、信用できないとは随分だな。何か魔女に嫌な思い出でもあったのか?だが…察しの通りだ、私は雪の女王。この地を統べる魔女だ」
ヘンゼル「やっぱり魔女なんだね…それなら信用なんかできない。僕達の事はほっておいてくれ」
雪の女王「そうはいかないな。キミもだが…この女の子もこのままだと一時間と持たない」
スッ
ヘンゼル「魔女め…!妹に触れるなっ!」ゴゴゴゴゴ
雪の女王「へぇ、やはり随分と膨大な魔力を持っているんだなキミは。だが、まだまだ制御不足だ。大方その潰れた右腕も自分自身の魔力に喰われたんだろう」
パキパキパキッ…!
ヘンゼル「クッ…!動けない!僕に何をしたんだ!」グッグッ
雪の女王「氷でキミの足を大地に縫い付けただけさ。この女の子の応急処置が終わるまで、そこで待っているといい」スッ

422 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)23:09:20 ID:L4X
雪の女王「お嬢ちゃん。君の名前を教えてくれるかな?」
グレーテル「私は……グレーテル……お姉さんは……誰なの……?」ゼェゼェ
雪の女王「私は雪の女王だ。今から君を苦しめている冷気を取り払う、少しだけ我慢できるな?」スッ
グレーテル「私を……助けてくれるの……?冷気を取り払うって……なにしたらいいの……?」
雪の女王「少し口づけをするだけだ。君は力を抜いて楽にしているといい」スッ
チュッ
グレーテル「んっ……」スゥゥゥッ
ヘンゼル(あいつは魔女。油断しちゃいけない。だけど僕達だけじゃどうにも出来ない事も事実だ…ここは言われるままにするしかない…)
雪の女王「グレーテル。どうだ?まだ寒さを感じるか?」
グレーテル「ううん……寒いのは感じない……でも、まだ頭がぼーっとする……」
雪の女王「そうか、冷気吸収はうまくいった。しかしそれは詳しく調べて見る必要がありそうだ。まずは宮殿へ急ごう。次は君だ」
ヘンゼル「やめてよ、僕は寒さなんか平気だ。それよりも見ず知らずのあんたにキスされる方が苦痛だよ」
雪の女王「フフッ、年頃の少年には刺激が強い処置かもしれないな。安心するといい、これは愛情表現というより医療的処置に近い。君の身体からしばらく『寒さ』を吸い取るだけだ」スッ
ヘンゼル「…そうやって僕達を助けるふりをして利用するつもりなんでしょ?僕達はもう魔女なんか信じない、あんたの思い通りには…ならない」
雪の女王「フフッ、頑なだな。だが私を追い返しても二人がここで死ぬだけだぞ?キミもそのことには気が付いているんじゃないか?信用できようと出来まいと、生きるには私を頼るしかない」フフッ
ヘンゼル「……っ」ギリッ
雪の女王「そう警戒するな。魔女もキミが思うほど悪い輩ばかりではないさ」フフッ

423 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)23:11:36 ID:L4X
しばらく後
雪の女王の世界 雪の女王の宮殿 客室
グレーテル「とっても……大きな宮殿だね……雪の女王さま……優しそうだったね……」
ヘンゼル「グレーテル、駄目だよ…まだ信用できるかどうか分からない。相手は魔女なんだ、油断なんかしたら何されるか解らない」
グレーテル「でも……あの恐い魔女とは……違う感じ。女王さまは……私達を心配して助けてくれた……そう思うの……」
ヘンゼル「助けてもらった事は事実だけど、でもあのお菓子の家の魔女だって僕達を助けるふりして酷い事をした。そう簡単に信用できないよ」
雪の女王「へぇ、お菓子の家の魔女ってのはどんな奴なのか聞かせてもらおうか?」クスッ
ヘンゼル「……っ!あんたいつの間に…!」ザッ
雪の女王「フフッ、待たせてしまったなヘンゼルにグレーテル。しかし、いくらなんでも警戒し過ぎじゃあないか?随分と飛びのいたぞ、今」フフッ
ヘンゼル「助けてくれた事には礼を言うよ。だけど、僕はまだあんたを信用したわけじゃ無い」
雪の女王「そうか、でもそろそろ温まって心も落ち着いただろう?警戒したままでも構わないから少し私と話をしようか。【ヘンゼルとグレーテル】の主人公達が何故ここに居るのか聞いておきたい」フフッ
ヘンゼル「……わかった。その代わり、僕達にもいくつか教えて欲しい事がある。別の世界へ来たのはこれが初めてで、勝手がわからないから」
雪の女王「ああ、構わない。私に答えられる事なら何でも聞いてくれ。グレーテルも何か聞きたい事があれば聞いてくれて構わないぞ?」フフッ
グレーテル「えっと……じゃあ……女王さまは魔女って言ってたけど……悪い魔女じゃないよね……良い魔女だよね……?」
雪の女王「フフッ、それはなんとも言えないな。良い魔女とも言えるし、悪い魔女とも言える」
グレーテル「えっと……どっち……なのかな……?」
雪の女王「少なくとも今の君とっては良い魔女だ。二人を助けた事に打算や企みは無いと誓おう。単なる親切心…善意での行動だ。あのままじゃ死んでいたからな、そんな子供をほおっておけない」フフッ

424 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)23:16:29 ID:L4X
ヘンゼル「魔女は悪人だって相場が決まってる。あのお菓子の家の魔女もそんな風に言っていたけど…そこだけは僕も同感だ。良い魔女なんて信じられない」
雪の女王「それは随分と見識が狭いな。そもそも善悪なんて時代や境遇や立場でころころと変わってしまうというのに」フフッ
ヘンゼル「…僕は、あんたが僕達を利用する為に助けたんじゃないかと疑ってる。例えば僕が持っているらしい魔力とかグレーテルの魔法とかを奪う為に」
雪の女王「キミの魔力やグレーテルの魔法を私が欲しがっている?フフッ、笑わせるのはよしてくれヘンゼル」クスクス
ヘンゼル「可笑しい事ないでしょ、お菓子の家の魔女は僕の特殊な体質に目をつけて魔力を奪う為に僕を捕らえたんだ。グレーテルからさっきそう聞いた」
雪の女王「キミ達のおとぎ話の魔女は『人喰いの魔女』だったな、彼女ならば確かにヘンゼルの魔力を欲しがるだろう」
ヘンゼル「自分は違うって言いたいんだね。魔女なら誰だって魔力を手に入れたいものなんじゃないの?」
雪の女王「そうでもないさ、こう言うと嫌らしい感じになってしまうが『人喰いの魔女』は魔女の中でも魔力の弱い魔女だ。実際、彼女が強力な魔法を使うところを見たのか?」
グレーテル「見てない……お菓子の家を魔法で作って……それ以外は魔法らしい魔法……使ってなかった……」
雪の女王「だからこそ魔力を底上げしようとしたんだろう。でも私は違う、自画自賛になってしまうが私の魔力は相当高いからな。今更キミの魔力なんかいらないのさ、例え膨大でもね」フフッ
ヘンゼル「…その高い魔力を持つあんたが単なる親切心で僕達を助けたっていうの?なんのメリットがあって?」
雪の女王「キミはメリットが無ければ行動を起こさないのか?キミは何か勘違いしているが魔女だって普通の人間と同じだ。善意もあれば善意もある。初めてあった魔女に騙されてしまったから魔女全体を憎むというのは悲しい事だと思わないかヘンゼル?」
雪の女王「魔女にだっていろんな輩が居るさ、善人も悪人もいる。貧しい娘を舞踏会へ導く魔女もいる。努力を怠らない者には富を与える一方で傲慢で驕る者にはタールを浴びせる魔女だっている。出会ったばかりの娘を薪に変えて暖炉にくべる魔女だっている…いろいろな魔女が居るんだ」
雪の女王「キミ達は一カ月も人喰いの魔女に良いように利用されて辛い思いをしただろう。だがそんな魔女ばかりではないという事だけは覚えておくといい、キミに協力的な魔女も多いだろう。私もその一人だ」

425 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)23:18:55 ID:L4X
ヘンゼル「……理解はできるけど、納得はできない。全てが悪人で無いとしても魔女という存在は僕の妹からたくさんのものを奪った。それは許しちゃならない事だ」
雪の女王「キミはグレーテルが随分と大切なんだな?」
ヘンゼル「当り前でしょ。兄妹なんだから、妹が大切じゃない兄なんていないよ」
雪の女王「そうか、ならばもっと柔軟に生きてみたらどうだ?魔女だから信じないなんてのはやめて、相手を一人の人間として見極めるべきだ、そして信用に値するかどうか決めればいい」
雪の女王「いいか、ヘンゼル。確かに君達はたくさん辛い思いをした。しかし両親への復讐心、魔女に対する怒り…それらはキミ達が未来を歩んでいく上で必ず足枷になる」
雪の女王「容易いことではないとは思うが、それらの負の感情はどこかで置いて行かないといけないものだ。今は無理だとしても、長い未来への旅路の途中……どこかで、な」
ヘンゼル「……」
グレーテル「ねぇ、お兄ちゃん……女王さまの事……信じてみよう?……私は、女王様……嫌いじゃないよ?」ヒソヒソ
ヘンゼル「……」
雪の女王「フフッ、すまない。思わず説教じみた事を言ってしまったな。さぁ、今度は私の質問だ。何故キミ達二人がこの世界に来たのか…もとのおとぎ話をどうしたのかも聞いておきたい」
ヘンゼル「わかった……話すよ。僕達が捨てられた事、魔女に捕えられている間の事、それとおとぎ話の世界の住人だってことと……作者の事も、全部」
雪の女王「作者の存在を知っているんだな。その様子だと恐らく君は自分の作者を恨んでいるんだろう」
ヘンゼル「そうだよ、当然恨んでいるよ。僕やグレーテルを酷い目にあわせた張本人だからね」
雪の女王「…まぁ、ひとまずはキミの話を聞かせてもらおう。何をするにしても話はそれからだ」
・・・

426 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)23:25:36 ID:L4X
・・・
雪の女王「そうか、キミ達兄妹の身に何が起きたのかは概ね理解出来たよ」
ヘンゼル「全ては、あんたに今話した通りだ」
ヘンゼル「僕達は両親や魔女に良いように利用された。辛い思いもした。でもそれは全て現実世界の作者が仕組んだ事だった」
ヘンゼル「現実世界のおとぎ話が面白くなるように盛り上がるように、僕達を不幸にした。それが許せなくて、僕達は反発する事に決めた」
ヘンゼル「だから【ヘンゼルとグレーテル】のおとぎ話は僕達が消滅させた」
グレーテル「……私とお兄ちゃんはもう戻るところは無いの……だから別のおとぎ話の世界で……幸せになるの……」
ヘンゼル「そうだ、僕達は必ず幸せな結末をつかむ。僕達の人生はおとぎ話じゃないんだ、僕達の結末を決めるのは作者じゃない、僕達自身だ」
雪の女王「そうか…自らのおとぎ話を消してしまったか…」
グレーテル「女王さま……なんだか悲しそう……私たちやっちゃいけない事……したかな……?」ヒソヒソ
ヘンゼル「おとぎ話を消した事が正しいかどうかを決めるのは僕達だ、あいつじゃない。それにこんな立派な宮殿に住んでるあいつには僕達の気持ちなんか理解できないよ」
雪の女王「フフッ、聞こえているぞ?それに私にだってヘンゼルの気持ちはよくわかるさ」
ヘンゼル「そんなわけないでしょ?世界を消してでも不幸な人生を取っ払おうなんて考え、あんたに理解出来っこないよ。女王様のあんたに、子供の気持ちなんか解らない」
雪の女王「そうか?実は私も、ずっと昔にあるおとぎ話の主人公の境遇が納得できなくてね…ある貧しい少女のおとぎ話だったんだが」
ヘンゼル「…それで?あんたはどうしたの?僕達みたいにそのおとぎ話を消してやったわけじゃないでしょ?」
雪の女王「もちろん消してなんかいないさ。ただ……」
雪の女王「そのおとぎ話の作者に直接文句を言ってやったよ」フフッ

427 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)23:33:18 ID:L4X
ヘンゼル「はぁっ…?作者に…直接、文句を言ったの?わざわざ現実世界にまで赴いて?自分のおとぎ話でもないのに!?」
グレーテル「なんだか……すごいお話だね……」
雪の女王「ああ、現実世界の時間の流れだとこの【雪の女王】のおとぎ話が作られ…この世界が構築されて数年たったくらいだったかな?まだ作者が生きていたころだ」
雪の女王「とはいっても現実世界に行ったのはただの興味本位だったんだがな。ただそこで、ある男が書きあげたばかりのおとぎ話の原稿を見つけてね」
ヘンゼル「あんたはそれを読んで…納得がいかなかったってこと?」
雪の女王「当時はな。とてつもなく悲惨で救いの無い話だと思った。現実世界の人間は生み出されたおとぎ話がある程度の知名度を得ればおとぎ話の世界が生まれる事を知らない」
雪の女王「だからこいつらこんな悲惨な物語が作れるんだ…と、私は柄にもなく頭に来てしまってな。初対面のアナスンの頬を打ってやったよ」ハハハッ
グレーテル「アナスン…?作者さんの名前……?」
雪の女王「アナスンは愛称だ。名はハンス・クリスチャン・アンデルセン。この世界【雪の女王】の作者であり、私が当時納得がいかなかった悲惨な少女の物語…【マッチ売りの少女】の作者だ」
ヘンゼル「【マッチ売りの少女】…?そんなに悲惨なおとぎ話なの?」
雪の女王「靴も買えない、食事もろくに摂れない、貧しい娘が父親の虐待に耐え、寒空の中裸足でマッチを売るが誰も買ってくれず……結局は幸せな幻に包まれて凍死する。そんなおとぎ話だ」
グレーテル「……私たちみたいに……一応でも……幸せな結末……用意されてないの……?」
ヘンゼル「やっぱり現実世界の作者はどいつもこいつもクズばかりなんだね。可哀そうな女の子が可哀そうなまま死ぬ、そんな悲惨な世界を生み出した。知らないなんて言葉じゃ済まされないよ」
雪の女王「ところがそうでもない。アナスンはマッチ売りの事を誰よりも愛し、そしてその幸せを願っていた。だからこそあの結末を迎えさせたんだ」
雪の女王「彼のおとぎ話への思いを聞いた私は…納得した。この作者は、決して少女を苦しめる為に物語を作り出したのではないと理解出来たからね」

428 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)23:35:03 ID:L4X
ヘンゼル「……理解できないよ。空腹は辛いことだ、父親に裏切られるのだってそうだ、その作者が何を言おうとその子はその子にとっての現実で不幸なまま死んだんだ」
グレーテル「私も……よくわかんない……やっぱり悲しい結末じゃ幸せにはなれない……」
雪の女王「物語の悲惨さをそのまま受けとる、今のキミ達はそれでいい。素直に物事を感じ取ることもそれはそれで大切だ」
雪の女王「だが、いずれは…キミ達にもう一度話そう。私が納得した理由を、アナスンが何を思って物語を紡いだか。キミ達がもう少し精神的に大人になったらな」フフッ
ヘンゼル「なにそれ、まるでこれからもずっとあんたと居る事が決まってるみたいな言い方だけど?」
雪の女王「そうはいっても他に行くあてもないのだろ?この宮殿は広い、キミ達二人を迎え入れるくらいの事は容易いさ」
ヘンゼル「僕とグレーテルに……ここで暮らせっていうの?」
雪の女王「そうだな、強制はしたくないが…その方が良い。キミの魔力も、グレーテルの魔法も野放しにはできないからな」ボソッ
グレーテル「女王さま……一緒に暮らすって事は……私と女王さま……家族……?」
雪の女王「ああ、そうなるな。フフッ、グレーテルは私と家族になりたいか?」ナデナデ
グレーテル「……私、魔女って怖くてイジワルで嫌い……だけど女王さまは……悪い魔女に見えない……私、信じても良いかなって……思うの」スッ
ヘンゼル「……」
雪の女王「グレーテルは問題ないみたいだな、それで?キミはどうするヘンゼル」
ヘンゼル「あんたは魔女だ……僕は、やっぱりあんたを信用しきることは出来ない」

429 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)23:37:32 ID:L4X
ヘンゼル「でも、まったく信用できないかっていうと……今ではそうでもない。少なくとも僕達に危害を加えるつもりが無いのは事実なんだろうと思う」
ヘンゼル「あんたの言うとおり僕達は行くあてもないし、きっと僕がどれだけ強がっても子供二人で暮らしていけるほど現実は甘くないんだろう。それにグレーテルがあんたにやたら懐いてる」
グレーテル「うん……女王さま……本当はすごく優しいの……なんとなくわかるよ……」スリッ
雪の女王「フフッ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」ナデナデ
ヘンゼル「だから…僕もグレーテルもしばらくの間はあんたの所に厄介にならせてもらう。ただ条件を一つつけさせて欲しい」
雪の女王「へぇ、条件?どんな条件を突きつけられるのかな?」フフッ
ヘンゼル「僕とグレーテルがあんたの事を信用できなくなったらすぐに出ていく、その際一切引きとめたり手を出さないと約束して欲しい」
ヘンゼル「その代わり僕の事が気にいらなくなったら雪原に容赦なく捨ててもらって構わない、でもグレーテルにだけは辛い思いをさせないでやって欲しい」
グレーテル「お兄ちゃん……あのね……私……」ボソボソ
雪の女王「ああ、わかったよヘンゼル。でもそう言う事ならこっちからも条件を出す」
雪の女王「一緒に住む以上は家族だ、私の事はあんたじゃなく女王と呼ぶ事。それとカイというキミより少し年上の少年が居るが宮殿の中では三人仲良くする事」
雪の女王「なるべく夕飯はみんなで食べる事。それと、私たちは主従なんかじゃないし同居人でもお客さんでもない。あくまで家族だ、それを忘れない事」
ヘンゼル「わかった、僕の条件を飲んでくれるなら従うよ」
グレーテル「うん……約束……」
雪の女王「それとここからは特に重要な話だが……これから言う事を二人には守ってもらう」
雪の女王「キミ達が持つ魔法の力についてだ」

430 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)23:40:37 ID:L4X
雪の女王「具体的には『ヘンゼルの魔力』と『グレーテルの魔法』だな」
ヘンゼル「僕の持つ魔力とグレーテルの魔法…それがどうかしたの?」
雪の女王「結論というか最初に要点を言うとだな、キミ達が魔力や魔法を扱う事は非常に危険だ」
グレーテル「でも……さっき、ちゃんと熊さん追い払えたよ……?」
雪の女王「その代償としてヘンゼルは右腕を大怪我してグレーテルは倒れた。グレーテルがあの時倒れたのは寒さが原因じゃない」
雪の女王「どう話せば子供にもわかり易いだろうな……そもそもだな魔女や魔法使いと言うのは基本的に魔力を持っているものだ」
雪の女王「ただ魔力と言うのは簡単にいえばエネルギーの塊、それだけじゃ炎を出したり凍らせたりは出来ない。そのエネルギーを変換して炎や氷を打ちだす事が魔法だな。しかし、どんなに魔力を持っていても魔法を扱うセンスが無ければ魔法は使えない」
雪の女王「ヘンゼルの身体にはこの『魔力』が異常なほど渦巻いている。ただ、魔法を扱うセンスは皆無。こればかりは修行や鍛錬でもある程度までしか上げられない、おそらくどれだけ鍛錬してもまともな魔法すら使えない」
ヘンゼル「だったらさっき僕が熊を追い払うのに使ったのは何なの?」
雪の女王「あれは魔力を圧縮した言わばただのエネルギーだな。魔力であって魔法じゃない。強い力を持つがただそれだけだ。それにそれを操作するセンスも無いから負担が大きい」
雪の女王「一方のグレーテルは魔法を使うセンスがずば抜けて高い。それにあの魔法、言葉を連想させて術を出すタイプだな?」
グレーテル「うん……炎を出したいときは……炎みたいに熱いものの名前を連ねていくの……覚えやすいから……その魔法にしたの……」
雪の女王「その魔法の形式は初心者向けのようなものでな、確かに覚えやすくセンスさえあれば習得もしやすいが…複雑な事は出来ないし威力も劣る、言わば入門用だ」
雪の女王「だがグレーテルが出した炎は同じ魔法の一般的な威力をはるかに超えていた。正直、あの形式の魔法であの威力は私も出せない」
雪の女王「グレーテルは魔法のセンスだけで言えばその辺りの魔女をはるかに凌駕する」

431 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/13(木)23:42:27 ID:L4X
ヘンゼル「すごいじゃないか、グレーテル。努力が報われたね」ナデナデ
グレーテル「……これで、お兄ちゃんの役に立てる……よね……?」
雪の女王「だがそうもいかない。グレーテルの魔法のセンスはずば抜けているが、本人の身体にはいっさいの魔力が流れていない」
ヘンゼル「もしかして…練習だとうまくいかないって言ってたのにあの時うまくいったのは、魔力を持つ僕が側に居たから?」
雪の女王「キミ達はあの時、手を握っていたんじゃないか?それならグレーテルの身体にヘンゼルの魔力が流れて適応したのも納得がいく」
グレーテル「じゃあ……お兄ちゃんと手をつないでる間は……私は魔法が使えるんだね……」
雪の女王「その通りだな。魔力を持つが魔法センスが無いヘンゼルと、魔力は持たないが魔法センスがずば抜けてるグレーテル二人が揃えばそこらの魔女魔法使いなんか敵じゃない」
ヘンゼル「…この力があれば、どんな困難だって乗り越えられる…!」
雪の女王「二人とも喜んでいるところ悪いが、グレーテルが魔法を使う事は禁止だ」
グレーテル「……どうして?」
ヘンゼル「折角才能があるのなら、使っていった方がいいと思うけど?」
雪の女王「あの時グレーテルが倒れた理由は中毒症状によるものだ」
グレーテル「中毒って……?魔法にもそんなのがあるの……?」
雪の女王「魔法と言うのは資質や体質に大きく左右される。グレーテルは魔力を持っていないだけじゃない、生まれつき魔力に弱い体質のようだ。だからグレーテルは耐えられない、自分の体内に一定以上の魔力を流される事に」
雪の女王「もしも許容を越えてグレーテルの体内に魔力が流れるような事があれば、その安全は保障できない」

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