清掃員:天使
Part11:銀杏 ◆r4Uv0gWlmU:10/11/2 12:34 ID:SgTN3iRB0U
『グッドモーニング・リバイバル!』
2007年10月末
極東の国
イマムラ ユウジ(22)
2:名無しさん:10/11/2 12:35 ID:4sfdgTgOT2
『今村様 この度は弊社の採用試験にご参加頂き、誠に有り難う御座いました。
さて、採用試験の結果ですが、申し訳有りませんが今回は今村様の採用は見送るということに
致しました。今後も今村様のご活躍をお祈り申し上げます。』
これで45社目の不採用通知。
何が売り手市場だよ、全然じゃないか。
採用結果の記されたメールを見て、僕は呟く。
ここ数年、この国では労働者の大きな世代交代の影響により
企業は人材不足になって居る。
こんなチャンスは今後滅多に無い、そんなことを就職セミナーの講師も云っていた。
「はぁ」
溜め息をつき、僕は窓から外を見下ろした。
其処から見える木々は、葉を落とした茶色の木々だけだった。
もう一年か。
就職活動を始めてもう一年が経つと云うのだ。
この一年、周りの知人・友人達は次々と就職先を見つけている。
それに比べ、僕って奴は。
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いかんいかん、ネガティブタイムに入るとこだった。
3:名無しさん:10/11/2 12:36 ID:4sfdgTgOT2
そんなネガティブタイムを晴らすべく、僕は外出することにした。
アパートの駐輪場に停めてあるバイクを引っ張り出し、いざ出発。
バイクは小気味良いエンジン音を立てて、動き出す。
僕のお気に入りの時間だ。
こうしてバイクを走らせていると、自分自身が風になれたような気がして心地良い。
このまま、ずっとこうして居られたら―――――――ドンッ
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あれ?轢いた?
4:名無しさん:10/11/2 12:37 ID:DqEWF02yyY
今、何か『ドンッ』って……
僕は慌ててブレーキを掛け、バイクから降りて周囲を見渡した。
だが何も無い、轢いた痕跡すら無かった。
バイクを確認しても、へこみや擦り跡、血糊といった事故の痕跡は一切無かった。
気のせいだったのだろうか。
気を取り直し、再度バイクに乗り込む。
と、そこへ僕の右肩にポンっと手が乗せられた。
僕は後ろを振り向くと、目の前に男が立って居た。
「ダラァァアアア!!!何すんだよボケェェエ!!」
瞬間、僕の顔に正拳が叩き込まれた。
5:名無しさん:10/11/2 12:38 ID:iNRJRKk/Ts
目が覚めると白い天井が見えた。
「ここは……」
「おぉ!起きた!」
僕の呟きを遮るように男の声がした。
目を左右に動かすと、視界の左側に男の姿が見えた。
「さっきはごめんな。やり過ぎたわ」
男は被っていた帽子を胸の辺りで抑えながらバツが悪そうに答えた。
この時点でようやく僕はこの男の正体を思い出す。
さっき轢いた(と思われる)男だ。
見た所、同い年か少し年上だろうか。
「その人がここまで連れてきたのよ。感謝しないとね」
僕らの声を聞きつけたのか、奥から中年女性がやって来た。
見覚えのある顔だった。
たしか、僕の大学の医務室の室長だ。
6:名無しさん:10/11/2 12:39 ID:iNRJRKk/Ts
ということは、ここは大学の医務室か。
「君の学生証を拝借したんだ。それでここに」
先ほどの男が答える。
「じゃ、じゃあバイクは」
まさか今もあそこに停めてあるのだろうか、と不安が過ぎる。
「君をバイクの後ろに乗せて、俺が此処まで運転したから大丈夫さ」
ニッと屈託の無い笑みを浮かべ、男は僕のバイクのキーを見せながら答えた。
「此処まで僕を振り落とさずにですか?」
「あぁ、コイツで君を俺の身体に括りつけたんだよ」
そういって男はボロボロの布袋から、これまたボロボロのロープを取り出した。
7:名無しさん:10/11/2 12:40 ID:iNRJRKk/Ts
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胡散臭い。何もかもが胡散臭過ぎる。
轢いてしまったのは本当に済まないことだとは思う。
けれど、いきなり僕を殴り、そして都合よく大型バイクの免許を持っているなんて不自然というか不気味過ぎる。
というか轢かれたはずなのにピンピンしてるし。
それに何だよ、あのロープは。
服装もさっきの事故の影響だけでなるとは思えない程に砂埃まみれで
何だか昔の西部劇に出て来るガンマンみたいだし。
こんな胡散臭い男とは、さっさと別れを告げよう。
「…ここまで運んで頂きありがとうございます。そちらは本当に大丈夫ですか?」
「この通り元気だよ?そっちこそ大丈夫かい?気絶したんだよ?」
相変わらず屈託の無い笑顔を浮かべながら男は答える。
「僕はもう、はい。大丈夫ですので。では、はい。ありがとうございます」
そう言って僕はベッドから下りる。
よし、これでいい。就職活動もまだまだ頑張らねばならないんだ。
さっさと家に帰って会社説明会を予約しないと。
8:名無しさん:10/11/2 12:40 ID:mO2SeSxT6s
「ちょっ、待て待て」
被害者兼加害者の男(以下カウボーイ)が
加害者兼被害者の僕を呼び止める。
僕は聞こえないフリをしながら医務室をあとにした。
「なあっ、待ってくれよ」
カウボーイは僕の肩をガシッと掴む。
「本当に大丈夫で…」
振り向いてカウボーイを見る。
改めてカウボーイを見ると、かなり体格が良いことがわかった。
僕の身長が168cmと小柄な事もあるが、目の前にいるこのカウボーイは
おそらく190cmは有るだろう。
肩幅も肉体労働でもやってるのかと思うくらいにしっかりしていた。
9:名無しさん:10/11/2 12:41 ID:mO2SeSxT6s
「お詫びを!謝礼をさせてくれ!」
今度は僕の両肩を掴み、医務室前の廊下で大きな声でカウボーイは言った。
「えっ、あ」
突然大きな声で喋られて動揺した。
何より周囲の目が気になって仕様がなかった。
「な!いいだろ!」
カウボーイは再び確認をとる。
「わ、分かりましたから。とりあえず此処を出ましょう」
正直、周囲の人たちの目を気にしてしまい、一刻も早くここから出たい気持ちから
つい答えてしまった。
10:名無しさん:10/11/2 12:43 ID:J5jW5NMxFA
校舎を出た僕たちは学生食堂へ向かった。
カウボーイが謝罪の意として、奢ってくれるらしい。
まあ、ちょうど昼間だし金もそんなに有るわけでもないので
その謝罪の意を受けることにした。
カウボーイは歩く度に不思議な金属音を立てていた。
カウボーイの足元を見ると、ブーツの踵の部分に小さな車輪の様なものが付いていた。
原因はこれか。
「それは何ですか」
興味本位でカウボーイに訊ねた。
するとカウボーイは、こちらから質問されたのが嬉しかったようで、
喜々としながら答えた。
「これ?これね、馬を蹴って合図を送る道具だよ。『拍車』って言うんだよ、知ってた?」
それからカウボーイは、この『拍車』の使い方やら馬の乗り方について語ってくれた。
この男は本当にカウボーイなんだな、と分かった。
どうでもいいことだけど。
11:名無しさん:10/11/2 12:45 ID:7j/sPOVAuo
食堂内は昼間ということもあり、かなり混み合っていた。
僕たちはトレーにA定食を載せ、カウンター席の空いていた所に座る。
カウボーイは僕の右隣へと座ると直ぐに食べ始めた。
「普段は何をされてるんですか?」
この会話も特に意味は無かった。
ただの興味本位だった。
「んっ、ぐっ、まぁ、はっ、人助け…みたいな?」
熱々で有名な我が校の炊き立てご飯をかき込みながらカウボーイは答える。
「NGOとかですか?」
「うんにゃ、違う。なんというか、はっ、組織でやってる、けど、はふっ、仕事は単独、みたいな」
「ま、世界中に仲間が、あふっ、居る、し」
「人の笑顔、見れたら、気持ち良い、はぁ、でしょ?」
ご飯をかき込みながら喋っててよく分からんが、
何らかの仕事があるのか。
今日は平日だけど、こんな事して大丈夫なのか、
このカウボーイ。
12:名無しさん:10/11/2 21:18 ID:GjgUYEXgk2
「んっ、まぁつまり、仕事サイコーって感じだよ。ところで、ご飯はおかわり自由?」
ええ、と答えると嬉しそうに食堂の炊飯器に向かって行った。
仕事サイコー、か。
果たして僕に最高と思える仕事なんて貰えるのかな。
死んだ方がマシかも。
・
・
・
うわあぁ、またネガティブタイムに突っ込む所だった。
死ぬとか考えちゃったよ。
悪い癖だな。
「……ラくん」
誰かが僕に声を掛けてきた。
「はい?……あっ」
「イマムラくん、ここ空いてるかな?」
去年、同じゼミに入っていた沢登由衣だ。
13:名無しさん:10/11/2 21:19 ID:pzT5R6geCY
「あ、あぁ、どうぞ」
僕は先ほどまでカウボーイが座っていた席とは反対側、つまり僕から見て左隣の席を差しながら座るように促した。
彼女も僕の右隣の椅子の傍に置かれてあったボロボロの布袋を見て察したのか、
すぐに左側の席に着いた。
カウンターから二十メートルほど離れた炊飯器の置かれた所では、
先ほどのカウボーイが楽しそうにご飯をよそっているのが見える。
「今日はどうしたの?イマムラくんが学校に来るなんて久しぶりじゃない?」
まぁ色々あって、と沢登由衣の質問に対して僕は答えを適当に濁した。
「沢登さんは今日は何で学校に来たの?大学は単位取り終えたんでしょ?」
大学四年生にもなると、大抵の学生は必要最低限の単位は取り終え、やりたいことに集中出来るものだ。
毎日アルバイトで旅行資金を貯めたり、
研究に勤しんだり、といった具合に。
僕みたいに就職活動したり。
14:名無しさん:10/11/2 21:21 ID:DqEWF02yyY
「あたしは内定先の会社に提出する書類を貰いに来たんだ」
そっかー、と僕は答える。
内定という単語が入っていて、内心僕の耳には痛い一言だった。
「イマムラくんは今は何してるの?卒業までにまたゼミのみんなで遊びに行きたいね!」
うわあぁ、嬉しい!けどなんでだ、涙が止まらない止まらない。
これは嬉し涙じゃないね、うん。
「お待たせ!ご飯だけじゃなくて味噌汁とサラダも大盛だったんだなー!」
カウボーイが丼三つをトレーに載せながらやって来た。
それぞれの丼にはご飯、味噌汁、キャベツの千切りが大量に盛られていた。
15:名無しさん:10/11/2 21:23 ID:5KqIGw5982
「あっ…友達?」
沢登由衣は突然やって来たカウボーイに少し戸惑いの表情を浮かべる。
「いや、そんなんじゃ」
「ちょっ!今日から俺は君の友達だぜ?」
カウボーイも負けじと食い付いた。
「えっと、同じゼミに居た沢登と申します。宜しくお願いします」
沢登由衣は簡単ではあるが自己紹介をする。
そういえば、この大食漢のカウボーイってなんて名前なんだ?見た目はどこの国の人か分からない感じだけどハーフとか?
デビッド佐藤とかだったらどうしよう、などと考えていた。
「俺?俺はカウボーイだ!ハァイよろしくぅ!」
本気で茶を吹き出したのは人生で初めてだった。
16:名無しさん:10/11/2 21:25 ID:NUK7FuhQGQ
「い、イマムラくん!?大丈夫!?」
茶を吹き出して、むせる僕を気遣う沢登由衣。
何が『カウボーイだ!』だよ、意味分からん!
名を名乗れば良いだけだろ!
「ゲホッ、ゲホッ」
「ははっ、咽び苦しむが良い!人間め!」
そんな僕にカウボーイは呑気にもご飯を食べながらからかう。
「か、カウボーイさん!イマムラくんが可哀想ですよ!」
沢登由衣マジ天使。
「はっはっはっ」
高笑いをし、味噌汁をクッと飲み干すカウボーイ。
この野郎をもう一度バイクで轢くべきだと本気で考えた。
17:名無しさん:10/11/3 00:05 ID:7j/sPOVAuo
そんな悪夢のような昼食を終えた後、僕たち三人は食堂を抜けた。
沢登由衣はバイトがあるらしく、すぐに別れた。
「なぁ」
最寄りの駅へと向かって行く沢登由衣の後ろ姿を見送りながら
カウボーイは僕に声を掛ける。
「……なんですか」
「あの子のこと、好きなんだろ。」
「はっ?えっ!?」
「態度に表れてたなぁ」
ニヤニヤと愉しげにカウボーイは聞いてくる。
「付き合いたい?」
「なんでそんな事を言う必要があるんですかっ」
「良いじゃんよ、どうせ俺はこの大学の関係者じゃないしさ」
18:名無しさん:10/11/3 00:08 ID:27r9DO/Y4s
確かに。確かに僕は彼女のことが好きだ。
初めて会ったとき、僕は彼女に一目惚れをした。
それから彼女と関わっていく内、今度は彼女の内面にも惚れていった。
誰にでも優しい笑顔で接し、時には悩みを聞いてくれる
そんな彼女の優しさに惚れていたのだ。
「……まぁ、好きです……よ」
ついさっき知り合ったばかりの男に、俺は何を話しているんだろう。
だが、
「そっか」
カウボーイはその一言だけだった。
僕はこのカウボーイに何を期待して答えたのだろうか。
この事を話して何かが得られるとは思えなかった。
けれど、その時は話さなければいけないような気になっていた。
「おっ」
カウボーイは空を見上げながら、手の平をかざした。
「そろそろ雨が降るな」
カウボーイは訝しげに呟いた。
僕もカウボーイが見上げた方向の空を見た。
確かに西の空に暗雲が立ちこめているのが見えた。
そういえば今朝のニュースで夕方には雨が降ると言っていたな、と思い出す。
19:名無しさん:10/11/3 00:11 ID:DqEWF02yyY
「じゃあ俺は帰るよ。また会おう」
医務室で見せた様な笑みを浮かべながら
カウボーイは片手を上げ、別れを告げた。
「あ、うん」
突然別れを告げられ、僕は適当な返事をしてしまった。
返事を聞いたカウボーイは、引き留める間もなく踵を返し、何処かへと向かって行った。
引き留めようとすれば出来ただろう。
けれど、彼の『また会おう』という別れ際の一言がそれを止めた。
それ位、彼の一言には妙な信頼感があった。
どこの誰とも知らない、不思議なカウボーイ。
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