俺+妹×天使=世界の終わり
Part1
1:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/2 23:23 ID:Dix0uZLpUY
ども、つねこです。
読んでくれる人が果たしているのかどうか分からないようなSSですが頑張って書きます。
生暖かい目で見守って下さい。
感想くれたら飛んで喜びます(^∀^)
テーマもクソもないSSですが、よろしくお願いします←
2:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/2 23:24 ID:tA6KOE9Ttw
とある土曜日、その日は雪が降っていた。
ずいぶんキメの細やかな粉雪だ。
もしかしたら、つもるかもしれない。
雪だ、雪だ、とぴょんぴょん嬉しそうに跳ねながら喜ぶ妹の更紗を横目に、俺は手元のコーヒーを一口飲んだ。……甘い。どうやら砂糖の分量を間違えてしまったらしい。
腕の時計を見ると、ちょうど七時だった。溜め息をついて、俺は立ち上がる。
もう、バイトに行く時間だ。
「お兄ちゃん、いってらっしゃい!」
手を振る妹に背を向けドアを開けた。靴を履いて玄関へ向かう。
そして次の瞬間、愕然とした。
時計が、七時ちょうどを指したままピタリと制止していたのだ。
くそっ、何故気付かなかった、俺!馬鹿じゃねーの?つかなんでちょうど七時で止まってんの?俺に恨みでもあんの?
と時計が止まっていたのに気付かなかった自分と、上手い具合に出かける時間ぴったりに止まっていた時計を呪いつつ、大急ぎで家を飛び出した。
3:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:02 ID:/25NWE.7V2
「おいおい、今の本当の時間は何時だよ、ヤベェって!」
さて、俺はと言うと愚痴りつつ最寄りのバス停までダッシュしながら、きょろきょろと辺りを見回して時計を探していた。
そして曲がり角で滑った。雪が振っている分、地面が滑りやすい。思いっきりよろめいた所をどっかの子連れのお母様に見られた。あーあ。恥ずかしい。
しかし、気分が悪いな。さっきの甘ったるいコーヒーが効いたか。
……うぷ。思い出したら余計気持ち悪くなってきた。俺、甘いの苦手なんだよな……。
コーヒーが朝食と共にあがってきそうなのを堪えながら、俺はまだまだ時計を探す。
そういえば、この次の角を曲がったところに公園があったっけ……時計もあるはず。
あった。
7時23分?
……終わった……。
4:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:06 ID:/25NWE.7V2
もうどんなに急いだとしても遅刻は確定だろうな。
どうせ遅刻するなら思いっきり遅刻してやろう。バイトなんて……本当はやりたくないし。
俺はポケットに手を突っ込んで、携帯を取り出した。遅刻する、とバイト先に電話をかける為だ。
数コール空白があった後に、よく知っている声が応答する。
「はいもしもし。今日はどうしたのかな?須藤クン」
「店長、すいません。更紗がまた熱を出しまして」
「あら、それは大変ね」
俺は平然と嘘をついた。
バイト先の仲間はみんな俺が一人で更紗を養っているのを知っているので、こう言うと大抵はすんなりと話が通る。今日もどうやら怪しまれずに済みそうだ。
「なので、病院に連れて行ってから行きます」
「……分かったわ。それじゃ、更紗チャンにお大事にって伝えておいてね」
話し終わったと同時に、携帯の終了ボタンを連打する。遅刻、何回目だっけか。1,2,3……数えられない、覚えてない。
それほどやってるってことか。終わってるな、俺。
さーて、病院に行くとすると、大体昼過ぎ頃にバイト先に到着したら丁度いいぐらいかな。
さて、ちょっとミスって生まれたこのフリータイム。どうしようか。
家に帰るのもいいが、なんとなく気が進まない。
更紗が一人で寂しく俺が帰るのを待ちわびながら留守番しているのだろうが。
……雪が、積もり始めていた。
5:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:10 ID:1ZUSyWVMKA
「あー寒い寒い」
ポケットに手を突っ込んでひとりごちた。
はぁ、と吐く息が白い。コートを着込んではいるが、寒いもんは寒いんだよ。
最近は何もかもが寒くなってきた。気温はもちろん、生きていることさえもだ。
人生って、一体何なんだろう。
人生なんて、つまらないことだらけだ。
俺たちの親はもういない。
三年前に、事故って死んだ。
そのおかげで、俺は何もかもを一人でやらなくちゃならなくなった。いい迷惑だぜ、全く。
更紗もまだ小3だから仕方ないといえばまあ仕方ないんだが。ちなみに俺は高2だ。高校には一応行っているが、成績は褒められたもんじゃない。親がいないから関係ないけど。
それを羨ましがる他の生徒たちが信じられん。まったくもって。何が羨ましいんだこの野郎。
家は、大家さんがいい人で、家賃は出世払いということでかなり安くしてもらっている。
なので、きりつめてきりつめて、なんとかバイトと生活保護で生きていけていた。
「……あそこにでも、行ってみるか」
ふいに、頭の中に懐かしい光景が浮かんだ。
俺の足はその場所へと向かう。
うーん、よく登って遊んだっけ。
「……ん?」
6:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:13 ID:/25NWE.7V2
ぽつり、と何かが頬に触れた。冷たい。
どんよりと曇った空を見上げ、急に雪が雨に変わったのを確信し、このままではずぶ濡れになってしまうと、俺はとにかく走り出した。俺、傘持ってねぇよ!
このままじゃ、俺が熱を出しちまうじゃねーか。やだよ。ただでさえ給料が減ってんだからな。
……オイ、誰だ今「自業自得だろ」って言った奴。
腕で頭をガードするようにして走る。あっというまに本降りになった雨に苦戦しつつ、とある場所――ポツンと立っている巨大な樹のある小高い丘――へとたどり着いた。
健闘むなしく、もうずぶ濡れだけどな。なんで積もりかけるほどの雪だったくせにいきなり雨なんかになったんだ……。
とにかく急いでそのパッと見「この~木何の木♪」のCMのような大樹の影に飛び込んだ。あんなにでかくはないが、枝がとても長いため雨宿りにはぴったりだ。
ひたすら走り続けていたせいでだいぶ消耗していた俺は、すっかり脱力して樹の幹にもたれかかり、座り込んでしまった。
深呼吸をすると、雨のにおいが身体いっぱいに染み渡っていく。
俺、このにおい結構好きなんだよな。
ふいに、どこかでかさり、と音がした。
7:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:15 ID:/25NWE.7V2
驚いてすぐに起き上がり、あたりを見渡すが、誰もいない。
何だったのかよく分からなかったが、とりあえずもう一度樹にもたれかかる。何だったんだ?
そして、上を見上げるような視点になったとき、俺は見た。
真っ赤な林檎を片手に、
真っ白な髪をたなびかせる、
夏仕様の服に身を包んだ少女が細い枝の先に座っているのを。
夏仕様と行っても、一応分厚いコートのようだが……なんで半袖なんだ?
そして長いコートの中でなんでショートパンツなんだ?
林檎かじってるとかお前どこの死神だよ、オイ。早く自分の持ち場に帰れ。
つーか……なんであんなに枝の先のほうに座ってるんだ?あんなに枝の先の方では、雨に濡れてしまうではないか。何のために、ここに来たんだ。雨宿りじゃないのか?
よくわからないヤツだ。俺が色々なことを考えつつ、そいつをガン見していると、そいつがチラリとこちらを向いた。
8:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:17 ID:/25NWE.7V2
やっべ、目が合った。
そいつは、俺と目が合ったまま、かりっ、と手の中の林檎をかじる。
やっべ、気まずい。
そいつは俺と目が合ったまま、さらに林檎をかじる。
何か言わないと気まずすぎると思い、パッと思いついた言葉を口にする。
「り、林檎好きなのか?」
ちょ、俺何言ってんの。いきなり林檎が好きかどうかなんて聞いてどうする。バカじゃねーの、俺。ありえねー……。
そいつはさらにまた、林檎をかじった。
やっべ、気まずい(二回目)。
本当にこっちを向いたまま何の反応も示さない。
だんだんイライラしてきた。
「おい、返事くらいしたらどうなんだ!?」
やはり返事をしない。ずっと俺の方を見つめたままだ。
何だ?もしかして耳が聞こえないとかそんなオチじゃないだろうな。
俺は、それから数十秒くらい粘って睨み合ってみたが、微動だにしないまま林檎をかじりつづけるそいつに、ついに痺れを切らした。
9:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:19 ID:1ZUSyWVMKA
帰ろうと思って立ち上がり、きびすを返した。
すると、今まで何の反応も示さなかったそいつが、いきなり俺の目の前に降りてきた。あんな高い所からよくも怖がらず飛び降りれるもんだな。
ぶわっ、と、風が俺の髪と服を揺らした。
こいつ、全く雨に濡れてねえ……。
そして、ろくに風が吹いていないのにもかかわらず、髪がさわさわと揺れている。
見た目は普通の15,6ぐらいの女の子だが、もしかしたらとんでもないやつなのかもしれない。超能力者とか、まさか魔女っ子だったり!……いかんいかん。ラノベの読みすぎだ。
でも本当にそうだったら、楽しいかもしれないな。
なんにせよ、この真っ白な背中の翼だ。人間じゃなくてもおかしくな―――――え?翼?
「な、なんだその背中のは……コスプレかなんかか?」
俺の問いは例のごとくまたスルーされた。
「……須藤新野(しんや)。通称ニーノ。県立高校2年。所属部無し。成績、悪。趣味は……」
「!?」
やっと口を開いたかと思えば、そいつはどっからか分厚い本を取り出し、ばさ、と開いた。そして突然俺のプロフィールを読み上げ始めた。
なんだこれ、なんでこんな正確なんだ?こいつは俺のストーカーか?
いや、なぜその本に俺のプロフィールが……。
突っ込みどころしかない。
突っ込んでやれ。
10:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:21 ID:/25NWE.7V2
「何だよ、お前!何で俺のことを知ってるんだ!?」
「話しかけるな」
え、冷たっ。
凛々しくて可愛い顔にずいぶん不釣合いな対応の仕方だ。
「いや、何それ。ひどくね?」
「黙れ」
取り付くしまもない。
そいつは真っ白な羽根ペンを取り出し、サラサラと何かをその分厚い本に書き記している。
なんて書いているのか覗き込んでやろうとしたが、ぎろ、と睨まれてしまったのでやめた。
あーあ。こいつが何か行動を起こすまで待つしかないか……。
俺は腕を組み、羽根ペンが本の上を走るのをひたすら見つめ続けた。
数十秒後。
はた、と字を書く音が止まり、そいつが突然顔を上げた。
数秒間、見つめ合う。
そいつは、こう言った。
11:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:21 ID:/25NWE.7V2
「私はプロジェクト“幸福天使”コード:A-16832、イロハだ。貴様を不幸にするために参った。今すぐ死ね」
は?
え?
お?
何ソレ。嘘、え?マジで?
俺、死ななきゃいけないようなことしたっけ?
てゆーか、え?お前もしかして本気で天使だったりしちゃったりするわけ?
人を殺す天使とかねーよ。お前やっぱり早く自分の持ち場に帰ったほうがいいぞ。
……いやいや、もう少し、整理して考えてみよう。
俺は、目を閉じて自分の今までの行動を思い出してみた。
あいつが林檎を食べているのを見た。
声をかけた。
そんだけじゃねーか!やっぱり俺死ななきゃならねーことなんかしてねぇ!
そう思い、とりあえず反論しようとして、目と口を開いた。
開いた口が塞がらない。
あまりの出来事に硬直するしかない。
―――俺の身体が、燃えていた。
「うぉおおおおおおおお!?」
誰か、早く夢だと言ってくれ。
12:名無しさん:10/10/5 19:09 ID:wFG/BPLy7E
これは良作と出会っちまったようだぜ(`∇´ゞ
支援いたす(≧∇≦)
13:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/6 07:47 ID:tA6KOE9Ttw
>>12
ふおおお!読んでくれている人がいる!(///∀///)
支援ありがとうございます、頑張ります!
はっと気が付くと、頭上で、「この~木何の木♪」のCMような大樹の枝が揺れていた。ざわざわと心地よい音を発している。
俺は、寝転んだまま考えた。
(あれ、何だったんださっきのは……夢?)
「起きろ」
そうか、夢かと納得しかけていた俺の眉間に、ガスッと鈍い衝撃が走った。
「いってぇ!」
思わず反射的に叫んで飛び起きる。
バサリ、と手元に落ちてきたのは、パッと見でも重さ数キロはありそうな分厚い本。
おいおい、こんなものが俺の頭に落ちてきたのか?
「てめっ……痛ぇだろ!何すんだ!」
これはいくら心の広い俺でもキレる。……いや、結構痛かったんだって。当たったの丁度角だったし。
目の前の、背中に大きな翼を持つ謎の少女……いや、自称人外だが。
とりあえず今分かっているのは、こいつが俺にこの本を投げつけてきたということだけ、か。
……いや、こいつが普通じゃないってことも分かってるな。
「フン、これぐらいで済んで有難いと思うがいい」
腕を組んで思いっきり冷たい眼で見下された。
えー……うわー……感じ悪ィー……。見た目に似合わず口が悪いな。
あ、いや、つかそういうこと聞きたいんじゃなくて。
14:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/6 07:49 ID:tA6KOE9Ttw
「なんなんだよお前!いきなり燃やしやがって!」
「……ジョークだ」
そんな馬鹿なことがあるか、馬鹿野郎。
「じゃあ、“今すぐ死ね”ってのは」
「ジョークだ」
「それじゃプロジェクトがどうとか、コードがどうとか、あれは」
「ジョークだ」
ぷっちん。頭にきた。
「そんじゃあ、お前の存在もジョークか、ァア!?」
思わず叫んでしまった。
数秒間の沈黙が流れる。
そして少しも表情を変えないままイロハが言葉を紡ぎだした。
「私は、出会った人間の本当の願いを叶える」
願いを叶える、ですか。こいつ、漫画読みすぎじゃね?
それが本当なら、今すぐ俺と更紗が一生遊んで暮らせるだけの金、用意してみろよ。それができれば、信じてやらんこともないが。
「それは出来ない」
「ふーん……やっぱ嘘なんだな“天使様”?」
これ以上、馬鹿に付き合っている時間はない。
俺がイロハに背を向けて立ち去ろうとした瞬間、異変が起こった。
ふいに、地面の感覚がなくなったのだ。ふわり、と浮遊感が全身を包む。
「貴様で最後なんだ」
「……っな……!」
驚くことに、俺の身体が宙に浮いたまま、静止していた。そしてまるで俺の周りだけ空気が薄くなったかのように、息が苦しい。
どういうことだ。
不安定なバランスのまま、イロハの方を振り向くと、イロハは右手に羽根ペン、左手にはあの馬鹿デカイ本を持ち、俺を見ていた。
15:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/6 07:57 ID:BshHIOFOFM
「そう……貴様で、最後」
怪しげな光を湛えた瞳に、ヤバい!と反射的に思った。
淡い光を放つ羽根ペンが、それを助長している。あわてて逃げようとはしたものの、まるで身体が動かなかった。
「叶える願いは私が決める。心の奥底に眠る願いは自分では気付けない」
「……」
「私がそれを見つけ出す」
「……っ」
「それまで、監視させてもらおう」
「―――――……!」
「おっと、折角の獲物が」
失神寸前の俺にやっと気付いたイロハが、光る羽ペンで宙をなぞる。
なぞられた場所がぼんやりとした青い線となって浮かび上がり、文字を形作った。ふわ、とその文字が溶けるようにして消えた瞬間、動けなかった俺に自由が戻る。
空中から突然投げ出されて地面に叩きつけられた俺は、衝撃と痛みに一瞬呼吸が止まる。しかし、長い間空気から切り離されていた俺の身体は、酸素を求めてぜぇぜぇとみっともなく喘いだ。
「くそっ、何だってんだ……てめぇ、は」
イロハは羽根ペン――すでに光を失っている――を手際よく懐にしまい、本を閉じる。本は閉じた瞬間、イロハの手の中でパッと消えた。
「私はプロジェクト“幸福天使”コード:A-16832の、イロハだ。覚えておけ、人間」
ども、つねこです。
読んでくれる人が果たしているのかどうか分からないようなSSですが頑張って書きます。
生暖かい目で見守って下さい。
感想くれたら飛んで喜びます(^∀^)
テーマもクソもないSSですが、よろしくお願いします←
2:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/2 23:24 ID:tA6KOE9Ttw
とある土曜日、その日は雪が降っていた。
ずいぶんキメの細やかな粉雪だ。
もしかしたら、つもるかもしれない。
雪だ、雪だ、とぴょんぴょん嬉しそうに跳ねながら喜ぶ妹の更紗を横目に、俺は手元のコーヒーを一口飲んだ。……甘い。どうやら砂糖の分量を間違えてしまったらしい。
腕の時計を見ると、ちょうど七時だった。溜め息をついて、俺は立ち上がる。
もう、バイトに行く時間だ。
「お兄ちゃん、いってらっしゃい!」
手を振る妹に背を向けドアを開けた。靴を履いて玄関へ向かう。
そして次の瞬間、愕然とした。
時計が、七時ちょうどを指したままピタリと制止していたのだ。
くそっ、何故気付かなかった、俺!馬鹿じゃねーの?つかなんでちょうど七時で止まってんの?俺に恨みでもあんの?
と時計が止まっていたのに気付かなかった自分と、上手い具合に出かける時間ぴったりに止まっていた時計を呪いつつ、大急ぎで家を飛び出した。
3:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:02 ID:/25NWE.7V2
「おいおい、今の本当の時間は何時だよ、ヤベェって!」
さて、俺はと言うと愚痴りつつ最寄りのバス停までダッシュしながら、きょろきょろと辺りを見回して時計を探していた。
そして曲がり角で滑った。雪が振っている分、地面が滑りやすい。思いっきりよろめいた所をどっかの子連れのお母様に見られた。あーあ。恥ずかしい。
しかし、気分が悪いな。さっきの甘ったるいコーヒーが効いたか。
……うぷ。思い出したら余計気持ち悪くなってきた。俺、甘いの苦手なんだよな……。
コーヒーが朝食と共にあがってきそうなのを堪えながら、俺はまだまだ時計を探す。
そういえば、この次の角を曲がったところに公園があったっけ……時計もあるはず。
あった。
7時23分?
……終わった……。
4:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:06 ID:/25NWE.7V2
もうどんなに急いだとしても遅刻は確定だろうな。
どうせ遅刻するなら思いっきり遅刻してやろう。バイトなんて……本当はやりたくないし。
俺はポケットに手を突っ込んで、携帯を取り出した。遅刻する、とバイト先に電話をかける為だ。
数コール空白があった後に、よく知っている声が応答する。
「はいもしもし。今日はどうしたのかな?須藤クン」
「店長、すいません。更紗がまた熱を出しまして」
「あら、それは大変ね」
俺は平然と嘘をついた。
バイト先の仲間はみんな俺が一人で更紗を養っているのを知っているので、こう言うと大抵はすんなりと話が通る。今日もどうやら怪しまれずに済みそうだ。
「なので、病院に連れて行ってから行きます」
「……分かったわ。それじゃ、更紗チャンにお大事にって伝えておいてね」
話し終わったと同時に、携帯の終了ボタンを連打する。遅刻、何回目だっけか。1,2,3……数えられない、覚えてない。
それほどやってるってことか。終わってるな、俺。
さーて、病院に行くとすると、大体昼過ぎ頃にバイト先に到着したら丁度いいぐらいかな。
さて、ちょっとミスって生まれたこのフリータイム。どうしようか。
家に帰るのもいいが、なんとなく気が進まない。
更紗が一人で寂しく俺が帰るのを待ちわびながら留守番しているのだろうが。
……雪が、積もり始めていた。
5:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:10 ID:1ZUSyWVMKA
「あー寒い寒い」
ポケットに手を突っ込んでひとりごちた。
はぁ、と吐く息が白い。コートを着込んではいるが、寒いもんは寒いんだよ。
最近は何もかもが寒くなってきた。気温はもちろん、生きていることさえもだ。
人生って、一体何なんだろう。
人生なんて、つまらないことだらけだ。
俺たちの親はもういない。
三年前に、事故って死んだ。
そのおかげで、俺は何もかもを一人でやらなくちゃならなくなった。いい迷惑だぜ、全く。
更紗もまだ小3だから仕方ないといえばまあ仕方ないんだが。ちなみに俺は高2だ。高校には一応行っているが、成績は褒められたもんじゃない。親がいないから関係ないけど。
それを羨ましがる他の生徒たちが信じられん。まったくもって。何が羨ましいんだこの野郎。
家は、大家さんがいい人で、家賃は出世払いということでかなり安くしてもらっている。
なので、きりつめてきりつめて、なんとかバイトと生活保護で生きていけていた。
「……あそこにでも、行ってみるか」
ふいに、頭の中に懐かしい光景が浮かんだ。
俺の足はその場所へと向かう。
うーん、よく登って遊んだっけ。
「……ん?」
6:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:13 ID:/25NWE.7V2
ぽつり、と何かが頬に触れた。冷たい。
どんよりと曇った空を見上げ、急に雪が雨に変わったのを確信し、このままではずぶ濡れになってしまうと、俺はとにかく走り出した。俺、傘持ってねぇよ!
このままじゃ、俺が熱を出しちまうじゃねーか。やだよ。ただでさえ給料が減ってんだからな。
……オイ、誰だ今「自業自得だろ」って言った奴。
腕で頭をガードするようにして走る。あっというまに本降りになった雨に苦戦しつつ、とある場所――ポツンと立っている巨大な樹のある小高い丘――へとたどり着いた。
健闘むなしく、もうずぶ濡れだけどな。なんで積もりかけるほどの雪だったくせにいきなり雨なんかになったんだ……。
とにかく急いでそのパッと見「この~木何の木♪」のCMのような大樹の影に飛び込んだ。あんなにでかくはないが、枝がとても長いため雨宿りにはぴったりだ。
ひたすら走り続けていたせいでだいぶ消耗していた俺は、すっかり脱力して樹の幹にもたれかかり、座り込んでしまった。
深呼吸をすると、雨のにおいが身体いっぱいに染み渡っていく。
俺、このにおい結構好きなんだよな。
ふいに、どこかでかさり、と音がした。
7:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:15 ID:/25NWE.7V2
驚いてすぐに起き上がり、あたりを見渡すが、誰もいない。
何だったのかよく分からなかったが、とりあえずもう一度樹にもたれかかる。何だったんだ?
そして、上を見上げるような視点になったとき、俺は見た。
真っ赤な林檎を片手に、
真っ白な髪をたなびかせる、
夏仕様の服に身を包んだ少女が細い枝の先に座っているのを。
夏仕様と行っても、一応分厚いコートのようだが……なんで半袖なんだ?
そして長いコートの中でなんでショートパンツなんだ?
林檎かじってるとかお前どこの死神だよ、オイ。早く自分の持ち場に帰れ。
つーか……なんであんなに枝の先のほうに座ってるんだ?あんなに枝の先の方では、雨に濡れてしまうではないか。何のために、ここに来たんだ。雨宿りじゃないのか?
よくわからないヤツだ。俺が色々なことを考えつつ、そいつをガン見していると、そいつがチラリとこちらを向いた。
8:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:17 ID:/25NWE.7V2
やっべ、目が合った。
そいつは、俺と目が合ったまま、かりっ、と手の中の林檎をかじる。
やっべ、気まずい。
そいつは俺と目が合ったまま、さらに林檎をかじる。
何か言わないと気まずすぎると思い、パッと思いついた言葉を口にする。
「り、林檎好きなのか?」
ちょ、俺何言ってんの。いきなり林檎が好きかどうかなんて聞いてどうする。バカじゃねーの、俺。ありえねー……。
そいつはさらにまた、林檎をかじった。
やっべ、気まずい(二回目)。
本当にこっちを向いたまま何の反応も示さない。
だんだんイライラしてきた。
「おい、返事くらいしたらどうなんだ!?」
やはり返事をしない。ずっと俺の方を見つめたままだ。
何だ?もしかして耳が聞こえないとかそんなオチじゃないだろうな。
俺は、それから数十秒くらい粘って睨み合ってみたが、微動だにしないまま林檎をかじりつづけるそいつに、ついに痺れを切らした。
9:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:19 ID:1ZUSyWVMKA
帰ろうと思って立ち上がり、きびすを返した。
すると、今まで何の反応も示さなかったそいつが、いきなり俺の目の前に降りてきた。あんな高い所からよくも怖がらず飛び降りれるもんだな。
ぶわっ、と、風が俺の髪と服を揺らした。
こいつ、全く雨に濡れてねえ……。
そして、ろくに風が吹いていないのにもかかわらず、髪がさわさわと揺れている。
見た目は普通の15,6ぐらいの女の子だが、もしかしたらとんでもないやつなのかもしれない。超能力者とか、まさか魔女っ子だったり!……いかんいかん。ラノベの読みすぎだ。
でも本当にそうだったら、楽しいかもしれないな。
なんにせよ、この真っ白な背中の翼だ。人間じゃなくてもおかしくな―――――え?翼?
「な、なんだその背中のは……コスプレかなんかか?」
俺の問いは例のごとくまたスルーされた。
「……須藤新野(しんや)。通称ニーノ。県立高校2年。所属部無し。成績、悪。趣味は……」
「!?」
やっと口を開いたかと思えば、そいつはどっからか分厚い本を取り出し、ばさ、と開いた。そして突然俺のプロフィールを読み上げ始めた。
なんだこれ、なんでこんな正確なんだ?こいつは俺のストーカーか?
いや、なぜその本に俺のプロフィールが……。
突っ込みどころしかない。
突っ込んでやれ。
10:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:21 ID:/25NWE.7V2
「何だよ、お前!何で俺のことを知ってるんだ!?」
「話しかけるな」
え、冷たっ。
凛々しくて可愛い顔にずいぶん不釣合いな対応の仕方だ。
「いや、何それ。ひどくね?」
「黙れ」
取り付くしまもない。
そいつは真っ白な羽根ペンを取り出し、サラサラと何かをその分厚い本に書き記している。
なんて書いているのか覗き込んでやろうとしたが、ぎろ、と睨まれてしまったのでやめた。
あーあ。こいつが何か行動を起こすまで待つしかないか……。
俺は腕を組み、羽根ペンが本の上を走るのをひたすら見つめ続けた。
数十秒後。
はた、と字を書く音が止まり、そいつが突然顔を上げた。
数秒間、見つめ合う。
そいつは、こう言った。
11:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/3 10:21 ID:/25NWE.7V2
「私はプロジェクト“幸福天使”コード:A-16832、イロハだ。貴様を不幸にするために参った。今すぐ死ね」
は?
え?
お?
何ソレ。嘘、え?マジで?
俺、死ななきゃいけないようなことしたっけ?
てゆーか、え?お前もしかして本気で天使だったりしちゃったりするわけ?
人を殺す天使とかねーよ。お前やっぱり早く自分の持ち場に帰ったほうがいいぞ。
……いやいや、もう少し、整理して考えてみよう。
俺は、目を閉じて自分の今までの行動を思い出してみた。
あいつが林檎を食べているのを見た。
声をかけた。
そんだけじゃねーか!やっぱり俺死ななきゃならねーことなんかしてねぇ!
そう思い、とりあえず反論しようとして、目と口を開いた。
開いた口が塞がらない。
あまりの出来事に硬直するしかない。
―――俺の身体が、燃えていた。
「うぉおおおおおおおお!?」
誰か、早く夢だと言ってくれ。
12:名無しさん:10/10/5 19:09 ID:wFG/BPLy7E
これは良作と出会っちまったようだぜ(`∇´ゞ
支援いたす(≧∇≦)
13:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/6 07:47 ID:tA6KOE9Ttw
>>12
ふおおお!読んでくれている人がいる!(///∀///)
支援ありがとうございます、頑張ります!
はっと気が付くと、頭上で、「この~木何の木♪」のCMような大樹の枝が揺れていた。ざわざわと心地よい音を発している。
俺は、寝転んだまま考えた。
(あれ、何だったんださっきのは……夢?)
「起きろ」
そうか、夢かと納得しかけていた俺の眉間に、ガスッと鈍い衝撃が走った。
「いってぇ!」
思わず反射的に叫んで飛び起きる。
バサリ、と手元に落ちてきたのは、パッと見でも重さ数キロはありそうな分厚い本。
おいおい、こんなものが俺の頭に落ちてきたのか?
「てめっ……痛ぇだろ!何すんだ!」
これはいくら心の広い俺でもキレる。……いや、結構痛かったんだって。当たったの丁度角だったし。
目の前の、背中に大きな翼を持つ謎の少女……いや、自称人外だが。
とりあえず今分かっているのは、こいつが俺にこの本を投げつけてきたということだけ、か。
……いや、こいつが普通じゃないってことも分かってるな。
「フン、これぐらいで済んで有難いと思うがいい」
腕を組んで思いっきり冷たい眼で見下された。
えー……うわー……感じ悪ィー……。見た目に似合わず口が悪いな。
あ、いや、つかそういうこと聞きたいんじゃなくて。
14:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/6 07:49 ID:tA6KOE9Ttw
「なんなんだよお前!いきなり燃やしやがって!」
「……ジョークだ」
そんな馬鹿なことがあるか、馬鹿野郎。
「じゃあ、“今すぐ死ね”ってのは」
「ジョークだ」
「それじゃプロジェクトがどうとか、コードがどうとか、あれは」
「ジョークだ」
ぷっちん。頭にきた。
「そんじゃあ、お前の存在もジョークか、ァア!?」
思わず叫んでしまった。
数秒間の沈黙が流れる。
そして少しも表情を変えないままイロハが言葉を紡ぎだした。
「私は、出会った人間の本当の願いを叶える」
願いを叶える、ですか。こいつ、漫画読みすぎじゃね?
それが本当なら、今すぐ俺と更紗が一生遊んで暮らせるだけの金、用意してみろよ。それができれば、信じてやらんこともないが。
「それは出来ない」
「ふーん……やっぱ嘘なんだな“天使様”?」
これ以上、馬鹿に付き合っている時間はない。
俺がイロハに背を向けて立ち去ろうとした瞬間、異変が起こった。
ふいに、地面の感覚がなくなったのだ。ふわり、と浮遊感が全身を包む。
「貴様で最後なんだ」
「……っな……!」
驚くことに、俺の身体が宙に浮いたまま、静止していた。そしてまるで俺の周りだけ空気が薄くなったかのように、息が苦しい。
どういうことだ。
不安定なバランスのまま、イロハの方を振り向くと、イロハは右手に羽根ペン、左手にはあの馬鹿デカイ本を持ち、俺を見ていた。
15:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/10/6 07:57 ID:BshHIOFOFM
「そう……貴様で、最後」
怪しげな光を湛えた瞳に、ヤバい!と反射的に思った。
淡い光を放つ羽根ペンが、それを助長している。あわてて逃げようとはしたものの、まるで身体が動かなかった。
「叶える願いは私が決める。心の奥底に眠る願いは自分では気付けない」
「……」
「私がそれを見つけ出す」
「……っ」
「それまで、監視させてもらおう」
「―――――……!」
「おっと、折角の獲物が」
失神寸前の俺にやっと気付いたイロハが、光る羽ペンで宙をなぞる。
なぞられた場所がぼんやりとした青い線となって浮かび上がり、文字を形作った。ふわ、とその文字が溶けるようにして消えた瞬間、動けなかった俺に自由が戻る。
空中から突然投げ出されて地面に叩きつけられた俺は、衝撃と痛みに一瞬呼吸が止まる。しかし、長い間空気から切り離されていた俺の身体は、酸素を求めてぜぇぜぇとみっともなく喘いだ。
「くそっ、何だってんだ……てめぇ、は」
イロハは羽根ペン――すでに光を失っている――を手際よく懐にしまい、本を閉じる。本は閉じた瞬間、イロハの手の中でパッと消えた。
「私はプロジェクト“幸福天使”コード:A-16832の、イロハだ。覚えておけ、人間」
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