死神「ハッピーバースデー!」ッパーン! 男「いや、命日だけど」
Part1
1 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:39:08.70 ID:1O1LHxZ+0
******
都内某所:ビルの上
「ハッピーバースデー…じゃ、ないの?」ショボン
「あー…。いや、間違ってはないんだけれど。確かに今日は僕の誕生日だった」
「あはは。じゃあ、私にまかせて?」
「え?」
「いえーい! ハッピーバースデー!!」ッパパーン♪
「いや、だからそれはいいってば」
「っていうか。人の死体を前にして、よくお祝いできるね…?」
「いやー。ちょっとあまりに凄惨な現場だし、盛り上げていこうかなって」
「盛り上げなくていいよ」
「そう? じゃぁ… ぁー…なんか、その…ご愁傷様で…う、うぅぅ…」
「盛りさげる必要もないから、変な演技はしなくていいよ」
「演技ってなんですぐバレちゃうかなー」
「華やかなリボンテープの垂れ下がったクラッカーで涙をふく真似されてもね」
「……ところで、君、誰?」
「ぁー、死神。ねぇ、このケーキ食べていい?」
「お、おう」
2 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:40:00.79 ID:1O1LHxZ+0
******
「それにしても、随分と思い切ったね。なかなかできることじゃないよー」
「そうだね。でも他にいい方法が思いつかなくて」
「普通に飛び降りとかすればよかったのに」
「飛び降りで死に損ねるとすごい最悪って聞いた。あと、万が一にも他の誰かに接触して巻き込んだら悪いし」
「通行人とか?」
「うん。……巻き込まなくても、見たくない人が見ちゃって、トラウマとか残させてもねぇ」
「まぁこんだけのビルからの飛び降りとか、見たい人ってそうそういないよねー」
「でもほら、この方法なら あまり迷惑もかけないかなって」
「ビルの屋上で、水を張ったコンテナに自分の身体を沈めるのが?」
「重かった」
「そりゃあれだけの鉄材ごと沈めば重いよねー」ケラケラ
「…水に落ちた後、そのままだったら怖くなって、水から出ちゃうだろうから」
「鉄材に自分の身体を結び付けて、一緒にドボン」
「そう」
3 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:40:29.06 ID:1O1LHxZ+0
「睡眠薬とアルコールとケーキ。お供えもばっちりだね」
「いや、お供えっていうか…。なんか、恥ずかしいな」
「恥ずかしい?」
「うん。こうして改めてみると、なんかすごく気取った感じする」
「死の直前に、一人で自分の誕生日パーティするのが?」
「ナルシストっぽい。なんだかんだで、感傷的にでもなってたのかな」
「あー、まぁ 自殺の直前って性格出るよね。わかる。あとね、あるある」
「そんなあるある話を聞かされても…」
「で、死神って言った?」
「そう、死神。お迎えにきちゃった☆」
「お迎えかぁ。ありがとう」
「どういたしましてー! じゃぁ、帰ろうか!」
「帰る? って、どこへ?」
「ふふふー。現世のお勤めが終わったんだもの。帰るのはもちろん……」
「冥府へ」
4 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:41:08.49 ID:1O1LHxZ+0
******
都内:上空
「うわ……飛んでる…?」
「お客さん、ソラははじめてですかー?」
「飛行機とかはあるけど、空身で飛ぶのははじめてだよ」
「ですよねー」
「……すごいなー」
「ふふふ。せっかくだし観光でもしてく?」
「え? いいの、そんなことしていても」
「死神がお迎えに行って、冥府に連れ戻すのって、割と時間かかることもあって。ゴネる人とかもいるし」
「あぁ…」
5 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:42:57.35 ID:1O1LHxZ+0
・・・・・・セリフの前に名前を付けるの忘れてた…。
6 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:48:13.33 ID:1O1LHxZ+0
死神「特に抵抗もしないでついてきてくれるなら、少し自分の生きた世界を見てもいいと思うんだよね」
男「そっか…。じゃぁ、見てみたいものがあるんだけど、いいかな」
死神「いいよ? どこ? 音信不通であなたのことを探してる恋人のところ? それとも突然の死のお知らせをした実家? はたまた憧れの地、女湯?」
男「幽霊になって女湯を覗きたいって、アレよくいうけどあんまり思わないよね」
死神「そうなの?」
男「知らない女の人の裸をみても…。普通に女性だらけの場所で入浴してる姿なんて、第一に、そんなに色っぽいようなものでもないと思うんだ」
死神「あら、無欲ー」
男「それよりいっそ身近な恋愛関係にある人の、ごくプライベートな時間をそっと見てみたい。僕とメールしてる時の彼女がどんな顔してるのかとか知りたいよね」
死神「むしろ気持ち悪かった。ストーカーなの?」
男「実行したことはないけど、夜中に急にテレビ電話をかけて映像を隠されたことならある」
死神「女の子は24時間可愛くいられない。その魔の時間を覗き見ることはできないわ」
男「その時間こそを覗きみたいのが男心。むしろそこに女の子の本性がありそう」
死神「間違いない」
死神「で、どこに行きたいの?」
男「トウキョウスカイツリーの展望室」
死神「それは生きてる間に行っとけよ」
男「行き忘れてたんだ…」
7 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:48:40.80 ID:1O1LHxZ+0
******
スカイツリー:展望室
男「おお…高い」
死神「どうせなら、外を回って塔の先端とかもいけるのにー」
男「怖いじゃん」
死神「さっきまで空飛んでたのに」
男「空を飛ぶのは、なんていうか非現実的で。妄想じみたところがあるからむしろ怖くない」
死神「スカイツリーの突端だって、現実的な高さじゃないよ?」
男「構造体であることを考えちゃうと、到達不可能じゃないからね。現実的に落下という概念がつきまとう」
死神「よくわかんない」
男「ヘリからの地上映像を見るより、高層ビルからの地上映像を見るほうが怖くない?」
死神「ちょっとわかる」
男「それにしても、綺麗だね」
死神「夜景だねー。貸切りスカイツリー、ちょっといいかも」
男「……うん。ちょっと、いいかも」
8 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:49:09.97 ID:1O1LHxZ+0
******
スカイツリー:展望室
死神「………」
男「………」
死神「なんか、しゃべらないの?」
男「喋りたい?」
死神「ううん」
男「喋ってほしい?」
死神「……ううん。このままで、いいや」
男「…うん」
死神「……」
男「……」
死神「………」
男「………」
「「……綺麗だねー……」」
9 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:49:43.06 ID:1O1LHxZ+0
******
都内:上空
死神「ほんとに、もう出てきちゃってよかったの?」
男「あのままいたら、夜が白んでしまいそうだったし」
死神「……朝日の昇る景色かぁ…」
男「見たかった?」
死神「ううん。見たくない… それはそれで綺麗なのかもしれないけど、夜の景色が綺麗だったから」
男「うん。夜のイメージだけで、ずっととっておきたい」
死神「わかるー」
男「死神と気が合うなんて、思わなかった」
死神「そう? 私、あなたの自殺現場に行った時から思ってた。きっと気が合うなって」
男「え? なんで?」
死神「おひとり様でお祝いケーキ買うのに、コストコの48人前ハーフシートケーキを選んでたから」
男「憧れ」
死神「わかる」
男「半解凍くらいで固いのを食べるのが、甘すぎなくて美味しい」
死神「わかる」
10 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:50:10.36 ID:1O1LHxZ+0
******
死神「ねぇ、なんで死んじゃおうと思ったの?」
男「なんでだろう。なんかね、満たされなかったんだ。ずっとね」
死神「満たされない?」
男「いろんなものを手に入れたし、僕の人生は幸せだったと思う」
死神「……幸せだったの?」
男「幸せと呼ぶためのものに、条件を付けるなら、きっとそれは満たしてたはずなんだ」
死神「例えば?」
男「親も優しかった、きさくに遊べる友人もいたし、僕を大切にしてくれる優しい彼女もいた」
男「仕事もうまくいっていた。同僚の中では一番といえないまでも2番目か3番目に評価されていたし、収入にも申し分はなかった」
男「休日も時間を持て余すことのない程度にはやることがあった。良く見に行く服屋では親切な店員と仲良くなって、いつも僕によく合う服を一緒に考えてくれたし」
男「一人で飲みに行っても、気が付くと誰かと一緒にダーツを投げたりテーブルゲームをしていたり」
男「そういえば宝くじがあたったこともあったよ。200万くらいあたって、小さめだけど綺麗な車を買って、残りの金は…どうしたんだったかな」
死神「ふぅん…」
11 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:50:54.38 ID:1O1LHxZ+0
男「自慢しているみたいだね、ごめんね」
死神「ううん。全然自慢に聞こえないし、いいよ」
男「聞こえない?」
死神「そう。だって、そうやって話しているあなたは誇らしげじゃないし、なんだかさみしそう」
男「……うん。つまり僕は、いろいろなものを持っていたけど、心が満たされなかった」
死神「愛されなかったの?」
男「充分に、みんなから愛されたような気がするよ」
死神「それでも、満足できないんだ?」
男「満足…してるのかもしれない。だから、死んでしまうことに納得したのかもしれない」
死神「もう十分だったってこと? 満喫したっていう顔もしてないクセに」
男「そんな顔してる?」
死神「うん。してるよ…ほら…」
男「あ…」
死神「すごく…物欲しそうな顔をして、どこかぼんやりして…」
男「……っ…」ゴク
12 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:51:25.16 ID:1O1LHxZ+0
死神「………ちょっと? さっきまで目が泳いでたのに、どこ見てるの?」
男「っ、い、いきなりそんな近くに来たから!」
死神「口元みたまま目線もそらさずに喉ならされても。何? キスもしたことないの? 童貞なの?」
男「そ、そんなんじゃないよ! 自分でも、なんでそんな急にこんな……」ドキドキ
死神「ふぅん……?」
チュ。
男「っ」
死神「………私は、はじめてだけど。そんなに欲しそうにされると、あげたくなっちゃうじゃない」
男「な…な…」
死神「いらなかった?」
男「………っ」
死神「もっと欲しいのかぁ。仕方ないにゃー」
男「え、あ、その。ちょっ……」
死神「ーーー」
男「ーーーっ」
死神「冥途の土産が死神のキス…。ふふ、幸先悪そう」
男「死、神………」
13 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:51:59.78 ID:1O1LHxZ+0
******
冥府:地獄の入り口
死神「さて、私の仕事はここまで」
男「え」
死神「ふふふ。私が居なかったら、あなたここまで来るのに、すごい冒険をするはずだったのよ」
男「あ、えっと。さっきみた、三途の川を渡ったりとか?」
死神「そうそう。山登りとかもするはずだったけど、私がいるからアッサリついちゃった」
男「……そう、なんだ」
死神「私の仕事はここまであなたを送り届けることだから、礼を言えとは言わないけど。もうちょっとなんか言ってもいいでしょ? あはは」
男「し、ごと…」
死神「ま、いっか。この道をまっすぐ行くと、大きな門があるの。その中には閻魔様がいるわ。そこであなたは審判にかけられる」
男「……」
死神「自殺者だから、それだけで罪に問われるわ。少しの覚悟は必要だけど」
男「……」
******
都内某所:ビルの上
「ハッピーバースデー…じゃ、ないの?」ショボン
「あー…。いや、間違ってはないんだけれど。確かに今日は僕の誕生日だった」
「あはは。じゃあ、私にまかせて?」
「え?」
「いえーい! ハッピーバースデー!!」ッパパーン♪
「いや、だからそれはいいってば」
「っていうか。人の死体を前にして、よくお祝いできるね…?」
「いやー。ちょっとあまりに凄惨な現場だし、盛り上げていこうかなって」
「盛り上げなくていいよ」
「そう? じゃぁ… ぁー…なんか、その…ご愁傷様で…う、うぅぅ…」
「盛りさげる必要もないから、変な演技はしなくていいよ」
「演技ってなんですぐバレちゃうかなー」
「華やかなリボンテープの垂れ下がったクラッカーで涙をふく真似されてもね」
「……ところで、君、誰?」
「ぁー、死神。ねぇ、このケーキ食べていい?」
「お、おう」
2 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:40:00.79 ID:1O1LHxZ+0
******
「それにしても、随分と思い切ったね。なかなかできることじゃないよー」
「そうだね。でも他にいい方法が思いつかなくて」
「普通に飛び降りとかすればよかったのに」
「飛び降りで死に損ねるとすごい最悪って聞いた。あと、万が一にも他の誰かに接触して巻き込んだら悪いし」
「通行人とか?」
「うん。……巻き込まなくても、見たくない人が見ちゃって、トラウマとか残させてもねぇ」
「まぁこんだけのビルからの飛び降りとか、見たい人ってそうそういないよねー」
「でもほら、この方法なら あまり迷惑もかけないかなって」
「ビルの屋上で、水を張ったコンテナに自分の身体を沈めるのが?」
「重かった」
「そりゃあれだけの鉄材ごと沈めば重いよねー」ケラケラ
「…水に落ちた後、そのままだったら怖くなって、水から出ちゃうだろうから」
「鉄材に自分の身体を結び付けて、一緒にドボン」
「そう」
3 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:40:29.06 ID:1O1LHxZ+0
「睡眠薬とアルコールとケーキ。お供えもばっちりだね」
「いや、お供えっていうか…。なんか、恥ずかしいな」
「恥ずかしい?」
「うん。こうして改めてみると、なんかすごく気取った感じする」
「死の直前に、一人で自分の誕生日パーティするのが?」
「ナルシストっぽい。なんだかんだで、感傷的にでもなってたのかな」
「あー、まぁ 自殺の直前って性格出るよね。わかる。あとね、あるある」
「そんなあるある話を聞かされても…」
「で、死神って言った?」
「そう、死神。お迎えにきちゃった☆」
「お迎えかぁ。ありがとう」
「どういたしましてー! じゃぁ、帰ろうか!」
「帰る? って、どこへ?」
「ふふふー。現世のお勤めが終わったんだもの。帰るのはもちろん……」
「冥府へ」
4 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:41:08.49 ID:1O1LHxZ+0
******
都内:上空
「うわ……飛んでる…?」
「お客さん、ソラははじめてですかー?」
「飛行機とかはあるけど、空身で飛ぶのははじめてだよ」
「ですよねー」
「……すごいなー」
「ふふふ。せっかくだし観光でもしてく?」
「え? いいの、そんなことしていても」
「死神がお迎えに行って、冥府に連れ戻すのって、割と時間かかることもあって。ゴネる人とかもいるし」
「あぁ…」
5 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:42:57.35 ID:1O1LHxZ+0
・・・・・・セリフの前に名前を付けるの忘れてた…。
死神「特に抵抗もしないでついてきてくれるなら、少し自分の生きた世界を見てもいいと思うんだよね」
男「そっか…。じゃぁ、見てみたいものがあるんだけど、いいかな」
死神「いいよ? どこ? 音信不通であなたのことを探してる恋人のところ? それとも突然の死のお知らせをした実家? はたまた憧れの地、女湯?」
男「幽霊になって女湯を覗きたいって、アレよくいうけどあんまり思わないよね」
死神「そうなの?」
男「知らない女の人の裸をみても…。普通に女性だらけの場所で入浴してる姿なんて、第一に、そんなに色っぽいようなものでもないと思うんだ」
死神「あら、無欲ー」
男「それよりいっそ身近な恋愛関係にある人の、ごくプライベートな時間をそっと見てみたい。僕とメールしてる時の彼女がどんな顔してるのかとか知りたいよね」
死神「むしろ気持ち悪かった。ストーカーなの?」
男「実行したことはないけど、夜中に急にテレビ電話をかけて映像を隠されたことならある」
死神「女の子は24時間可愛くいられない。その魔の時間を覗き見ることはできないわ」
男「その時間こそを覗きみたいのが男心。むしろそこに女の子の本性がありそう」
死神「間違いない」
死神「で、どこに行きたいの?」
男「トウキョウスカイツリーの展望室」
死神「それは生きてる間に行っとけよ」
男「行き忘れてたんだ…」
7 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:48:40.80 ID:1O1LHxZ+0
******
スカイツリー:展望室
男「おお…高い」
死神「どうせなら、外を回って塔の先端とかもいけるのにー」
男「怖いじゃん」
死神「さっきまで空飛んでたのに」
男「空を飛ぶのは、なんていうか非現実的で。妄想じみたところがあるからむしろ怖くない」
死神「スカイツリーの突端だって、現実的な高さじゃないよ?」
男「構造体であることを考えちゃうと、到達不可能じゃないからね。現実的に落下という概念がつきまとう」
死神「よくわかんない」
男「ヘリからの地上映像を見るより、高層ビルからの地上映像を見るほうが怖くない?」
死神「ちょっとわかる」
男「それにしても、綺麗だね」
死神「夜景だねー。貸切りスカイツリー、ちょっといいかも」
男「……うん。ちょっと、いいかも」
8 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:49:09.97 ID:1O1LHxZ+0
******
スカイツリー:展望室
死神「………」
男「………」
死神「なんか、しゃべらないの?」
男「喋りたい?」
死神「ううん」
男「喋ってほしい?」
死神「……ううん。このままで、いいや」
男「…うん」
死神「……」
男「……」
死神「………」
男「………」
「「……綺麗だねー……」」
9 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:49:43.06 ID:1O1LHxZ+0
******
都内:上空
死神「ほんとに、もう出てきちゃってよかったの?」
男「あのままいたら、夜が白んでしまいそうだったし」
死神「……朝日の昇る景色かぁ…」
男「見たかった?」
死神「ううん。見たくない… それはそれで綺麗なのかもしれないけど、夜の景色が綺麗だったから」
男「うん。夜のイメージだけで、ずっととっておきたい」
死神「わかるー」
男「死神と気が合うなんて、思わなかった」
死神「そう? 私、あなたの自殺現場に行った時から思ってた。きっと気が合うなって」
男「え? なんで?」
死神「おひとり様でお祝いケーキ買うのに、コストコの48人前ハーフシートケーキを選んでたから」
男「憧れ」
死神「わかる」
男「半解凍くらいで固いのを食べるのが、甘すぎなくて美味しい」
死神「わかる」
10 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:50:10.36 ID:1O1LHxZ+0
******
死神「ねぇ、なんで死んじゃおうと思ったの?」
男「なんでだろう。なんかね、満たされなかったんだ。ずっとね」
死神「満たされない?」
男「いろんなものを手に入れたし、僕の人生は幸せだったと思う」
死神「……幸せだったの?」
男「幸せと呼ぶためのものに、条件を付けるなら、きっとそれは満たしてたはずなんだ」
死神「例えば?」
男「親も優しかった、きさくに遊べる友人もいたし、僕を大切にしてくれる優しい彼女もいた」
男「仕事もうまくいっていた。同僚の中では一番といえないまでも2番目か3番目に評価されていたし、収入にも申し分はなかった」
男「休日も時間を持て余すことのない程度にはやることがあった。良く見に行く服屋では親切な店員と仲良くなって、いつも僕によく合う服を一緒に考えてくれたし」
男「一人で飲みに行っても、気が付くと誰かと一緒にダーツを投げたりテーブルゲームをしていたり」
男「そういえば宝くじがあたったこともあったよ。200万くらいあたって、小さめだけど綺麗な車を買って、残りの金は…どうしたんだったかな」
死神「ふぅん…」
11 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:50:54.38 ID:1O1LHxZ+0
男「自慢しているみたいだね、ごめんね」
死神「ううん。全然自慢に聞こえないし、いいよ」
男「聞こえない?」
死神「そう。だって、そうやって話しているあなたは誇らしげじゃないし、なんだかさみしそう」
男「……うん。つまり僕は、いろいろなものを持っていたけど、心が満たされなかった」
死神「愛されなかったの?」
男「充分に、みんなから愛されたような気がするよ」
死神「それでも、満足できないんだ?」
男「満足…してるのかもしれない。だから、死んでしまうことに納得したのかもしれない」
死神「もう十分だったってこと? 満喫したっていう顔もしてないクセに」
男「そんな顔してる?」
死神「うん。してるよ…ほら…」
男「あ…」
死神「すごく…物欲しそうな顔をして、どこかぼんやりして…」
男「……っ…」ゴク
12 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:51:25.16 ID:1O1LHxZ+0
死神「………ちょっと? さっきまで目が泳いでたのに、どこ見てるの?」
男「っ、い、いきなりそんな近くに来たから!」
死神「口元みたまま目線もそらさずに喉ならされても。何? キスもしたことないの? 童貞なの?」
男「そ、そんなんじゃないよ! 自分でも、なんでそんな急にこんな……」ドキドキ
死神「ふぅん……?」
チュ。
男「っ」
死神「………私は、はじめてだけど。そんなに欲しそうにされると、あげたくなっちゃうじゃない」
男「な…な…」
死神「いらなかった?」
男「………っ」
死神「もっと欲しいのかぁ。仕方ないにゃー」
男「え、あ、その。ちょっ……」
死神「ーーー」
男「ーーーっ」
死神「冥途の土産が死神のキス…。ふふ、幸先悪そう」
男「死、神………」
13 : ◆OkIOr5cb.o :2016/08/23(火) 21:51:59.78 ID:1O1LHxZ+0
******
冥府:地獄の入り口
死神「さて、私の仕事はここまで」
男「え」
死神「ふふふ。私が居なかったら、あなたここまで来るのに、すごい冒険をするはずだったのよ」
男「あ、えっと。さっきみた、三途の川を渡ったりとか?」
死神「そうそう。山登りとかもするはずだったけど、私がいるからアッサリついちゃった」
男「……そう、なんだ」
死神「私の仕事はここまであなたを送り届けることだから、礼を言えとは言わないけど。もうちょっとなんか言ってもいいでしょ? あはは」
男「し、ごと…」
死神「ま、いっか。この道をまっすぐ行くと、大きな門があるの。その中には閻魔様がいるわ。そこであなたは審判にかけられる」
男「……」
死神「自殺者だから、それだけで罪に問われるわ。少しの覚悟は必要だけど」
男「……」
ショートストーリーの人気記事
神様「神様だっ!」 神使「神力ゼロですが・・・」
神様の秘密とは?神様が叶えたかったこととは?笑いあり、涙ありの神ss。日常系アニメが好きな方におすすめ!
→記事を読む
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
→記事を読む
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」
→記事を読む
魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」
→記事を読む
男「少し不思議な話をしようか」女「いいよ」
→記事を読む
同僚女「おーい、おとこ。起きろ、起きろー」
→記事を読む
妹「マニュアルで恋します!」
→記事を読む
きのこの山「最後通牒だと……?」たけのこの里「……」
→記事を読む
月「で……であ…でぁー…TH…であのて……?」
→記事を読む
彡(゚)(゚)「お、居酒屋やんけ。入ったろ」
→記事を読む