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男「少し不思議な話をしようか」女「いいよ」

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Part1
1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:20:37.58 ID:lF1ZecCgo
第一話
【謎のタクシー客】

2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:21:19.84 ID:lF1ZecCgo
男「俺はタクシーの運転手をしてるんだけどさ」
女「うん」
男「この前の夜、女の人を一人乗せたんだよ」
女「へえ、それで?」
男「その女の人はとある住所を言って、そこまで乗せてってくれって言ったんだ」
男「それっきり、その女の人は外の景色をずっと見ていてたから、俺も話しかけはしなかったんだ」
女「うん」
男「しばらくして、言われた住所まで辿り着いて」
男「それで、料金を告げたんだよ」
男「結構、距離があったから五千円を超えてた」
男「そうしたらさ」
女「うん」

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:21:55.83 ID:lF1ZecCgo
男「その女の人は、お金が足りないって言うんだ」
女「ああ……」
男「だけど、家がすぐそこだから、取ってくる。ここで少し待っててくれって」
女「それ、もしかして、乗り逃げとか?」
男「俺もそれを考えた。だから、念の為に、家の前までついていってもいいかって尋ねたんだよ」
女「そしたら?」
男「別に構わないって事で、一緒に外に出たんだ」
女「うん」

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:22:46.15 ID:lF1ZecCgo
男「だけど、特に乗り逃げの心配をする事はなくてさ」
男「その女の人と俺は、すぐ目の前のマンションに入って、一緒にエレベーターに乗って」
男「四階の一番の端の部屋まで来たんだ」
男「そして、そこの鍵を開けて、女の人は部屋の中に入っていったんだよ」
女「じゃあ、本当に乗り逃げとかじゃなかったんだね」
男「俺もそう思ったんだけどさ」
女「?」
男「それから十五分ぐらい経っても、家から出てこないんだよ」
女「あー……」

5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:23:26.40 ID:lF1ZecCgo
男「だから、流石に俺もインターホンを押したんだ。あまりに遅いからさ」
女「うん」
男「そうしたら、しばらくして、インターホンから男の人の声が聞こえてきて」
男「『どちら様ですか?』って」
女「うん」
男「だから俺は、『〇〇タクシーの者ですけど、そちらのお嬢さんからまだタクシー代を頂いてないので、お待ちしてるんですが』って返したら」
女「返したら?」
男「『うちにはそんな人はいませんけど』って返ってきてさ」
女「ん?」


6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:24:38.81 ID:lF1ZecCgo
男「でも、こっちは実際に乗せてる訳だし、その家に入っていくところも見てる訳だろ」
男「もう一度、『そんなはずはないんですけど』って言って」
男「『確かに先程そちらの家に入られたお嬢さんから、まだタクシー代を貰ってないのでその事を伝えてもらえませんか』って言ったら」
女「うん」
男「『うちには、さっきから誰も入ってきてませんけど。そちらこそ、家を勘違いしてませんか?』って返ってきたんだ」
女「変な話だね」
男「でも、いくらなんでも、それは有り得ないよな」
男「こっちはしっかりと目の前で見てるんだからさ」
男「しらばっくれてるとしか思えなかったんだ。その女の人は鍵を開けて中に入ってる訳だし」
女「あ、ちょっと待って、わかった!」
男「?」
女「ひょっとして、それ、その女の人が、事件か事故で死んだその人の娘さんってオチじゃない?」
女「幽霊になっても、家に帰ってきたくなって、そういう事をしたとか」
男「だったら、まだ良かったんだけどな」
女「え?」

7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:25:33.24 ID:lF1ZecCgo
男「結局、向こうはずっと、そんな女の人は家に来てないって言い張って」
男「でも俺も、確かにこの家に入っていくところを見た訳だから、はいそうですかなんて言えないだろ」
男「水掛け論になって、最終的には、警察を呼ぶ事になったんだよ」
女「うん」
男「それで、まず、俺の方についての事なんだが」
男「タクシーの車内カメラには、その女の人がちゃんと映ってたから、幽霊ではないはずだ」
男「警察の話によると、エレベーターの監視カメラにも映ってたそうだ。俺とその女の人が四階で降りるところがな」
男「だから、俺が嘘やデタラメを言ってる訳じゃないってのは、警察に信じてもらえたんだ」
女「うん」

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:26:57.64 ID:lF1ZecCgo
男「それなら、嘘をついてるのはその家の家族って事になるんだが」
男「その家は父母息子の三人家族で、娘はいなかったんだ」
男「そして、その女の人も家の中にはいなかった」
女「え? いなかったの?」
男「ああ。そこはマンションの四階だから出口は玄関しかない」
男「俺はずっとそこに立っていたから、出てきたら見逃すはずがない」
男「そして、警察の話によると、家の中で隠れる場所と言えば、せいぜい押し入れやクローゼットの中ぐらいだったそうだが」
男「だけど、そこにも誰もいなかったんだ」
男「そして、その家の家族三人ともが、誰も家の中には入ってきてないって証言したし」
男「その女の人の映像を見せたところ、家族三人ともが、知らない、一度も見た事がない人だ、と言ったそうだ」
女「……?」

9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:27:57.58 ID:lF1ZecCgo
女「それ、おかしくない? その女の人は部屋の鍵を開けて中に入っていったんでしょ?」
男「ああ」
女「なのに、その事に誰も気が付いてなくて、しかも家の中にいないって変じゃない」
男「そうだな。確かに変なんだ」
男「俺の言う事も、向こうの言う事も、どちらも本当だとしたら」
男「その家には、見知らぬ女が鍵を開けて中に入っていった事になるし」
男「その事に、家族全員が気が付かなかった事になる」
男「そして、その女の人はどこかに忽然と消えた事になるんだ」
女「…………」
男「あの女の人は、一体どこに消えたんだろうな?」
女「……うーん」

10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:28:49.91 ID:lF1ZecCgo
女「えっと……ベランダから、隣の家に移動したとかは?」
男「有り得なくはない。というより、それ以外に方法がないと思う」
男「実は、女の人は、その家族の知り合いで合鍵も渡されていた」
男「そして、タクシー代を乗り逃げする為に、ベランダから隣の家に移動した」
男「家族全員は、その事を隠していて嘘をついている」
男「というのが一番筋道が通っている」
男「だけど、隣の部屋の住人もその女の人を見てない、知らないと言ったし」
男「警察が一応調べたところ、その隣の家の中にも女の人はいなかったそうだ」
女「…………」
男「もちろん、ベランダからベランダへと更に乗り移って移動したって可能性もあるけど」
男「タクシー代を乗り逃げする為だけに、そこまでするかって疑問が残るよな」
女「うーん……」

11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:29:54.34 ID:lF1ZecCgo
女「じゃあじゃあ、その女の人の指紋とかは?」
女「それがドアノブに残ってれば、その女の人が確かにその家の中に入っていったっていう証拠になるでしょ。それはあったの?」
男「いや、警察は指紋を調べてくれなかったから、それはわからなかった」
女「どうして?」
男「指紋ってのは、かなり長く残るんだそうだ。だから、ドアノブからその家の家族以外の指紋が出てきたとしても」
男「それが、その女の人の指紋なのか、それともずっと前に別の誰かが触った指紋なのか、その判断が出来ないらしい」
男「つまり、調べても無意味だって事を言われた。その女の人が見つからない限りは意味がないってな」
男「そもそも五千円程度の乗り逃げだからな。警察もそこまでしてくれなかったんだ」
女「むう……」

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:31:41.13 ID:lF1ZecCgo
男「それで、この後、どうなったかと言えば」
男「俺が勘違いしたという事で、その乗り逃げ代金の五千円を自腹で立て替える事で、終わりになった」
女「何で? おかしいじゃない」
男「仕方がなかったんだ」
男「その部屋の家族が、かなり迷惑そうに俺の事を睨んでいたし」
男「警察もそれを勧めてきたからな」
男「あんたの事を疑う訳じゃないけど、ここはもう勘違いにしておかないか、って。あちらの家族も今ならそれでいいって言ってるし、って感じでな」
男「五千円ぐらいで裁判沙汰とかになると色々面倒だよ、とか言われたら、そうするしかないだろ」
女「う……まあね」
男「だけど、その女の人が鍵を開けてその部屋の中に入っていったのを俺は確かにこの目で見ているし」
男「それは、勘違いとかじゃない。まして、幽霊とかでもない」
男「なのに、その女の人が誰で、どこへ消えたのかは、永遠に謎のままなんだ」
女「…………」

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:33:16.33 ID:lF1ZecCgo
第一話
【謎のタクシー客】
終了

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 16:33:58.33 ID:lF1ZecCgo
次回、第二話
【生きてますという電話】
全て終わるまで、あと七話……

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 17:11:09.23 ID:Ma3PdCJjO
おつおつ

16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 17:15:12.75 ID:rGwJx4x6O
好きな雰囲気だ

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 17:22:48.81 ID:0RG21XHVo
おつ
続きを楽しみに待ってます

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 18:27:55.62 ID:eqKxEnyF0
おつ
なかなか引き込まれる

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/14(木) 18:52:29.20 ID:DnjoARiOO
いいね
期待

23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/17(日) 15:29:07.56 ID:9LNo3peso
第二話
【生きてますという電話】


24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/17(日) 15:29:35.72 ID:9LNo3peso
女「次は私の話をしようか」
男「ああ」
女「私さ、携帯を初めて持ってから、もう十年以上になるんだけどね」
男「うん」
女「これまで、何百回もイタズラ電話を受けてるんだ」
男「イタズラ電話?」

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/17(日) 15:30:05.21 ID:9LNo3peso
女「そう。イタズラ電話」
女「しかも、普通のイタズラ電話じゃないんだよ」
男「どんな電話なんだ?」
女「普通さ、イタズラ電話って無言だとかさ」
女「変態からの電話みたいなのとか」
女「タチの悪いのだと、死ね、とかそんな事を言ってくる電話でしょ」
男「ああ、そうだな」

26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/17(日) 15:30:34.86 ID:9LNo3peso
女「でもね、その電話はそういうのじゃないんだ」
男「うん」
女「こっちが『もしもし』って出るでしょ。そうしたらね」
女「『生きてます』って、そう一言」
女「それだけ」
女「それを言ったら、切れるの」
女「意味がわからないよね」
男「…………」

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/17(日) 15:31:12.26 ID:9LNo3peso
女「初めて電話がかかってきたのが、私が中学校の時だったかな」
女「その頃、お母さんから、携帯電話を渡されてさ」
女「早速、友達とかと電話番号を交換するでしょ」
女「それで、しばらく経った頃に、その電話がかかってきたの」
女「公衆電話からだった。画面にそう出てたから」
女「何かなって思って、電話に出たら、女の人の声でね」
女「『生きてます』って」
女「暗い声なんだけど、ボソボソ喋ってる訳じゃなくて」
女「はっきりと」
女「こっちに、その事を伝える感じで、そう言ったの」
女「それで電話は切れたんだ」
男「…………」

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/17(日) 15:33:42.07 ID:9LNo3peso
女「最初は、間違い電話じゃないかって思った」
男「だろうな」
女「だけどさ」
女「間違い電話だったとしても」
女「『生きてます』って伝える用件って、何なんだろうって、思うよね」
女「何かおかしいよね」
女「それが十年近くも続いてるんだよ」
女「不思議じゃない?」
男「確かにな……。でも」
女「でも?」
男「俺は多分、その理由がわかった」
女「?」

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/17(日) 15:35:37.62 ID:9LNo3peso
女「どういう理由?」
男「昔、聞いた話だけどさ」
男「アンデルセンって知ってるか? 童話で有名な」
女「マッチ売りの少女とか人魚姫の絵本を作った人だよね、知ってるよ」
男「そのアンデルセンなんだが」
男「異常な程の心配性でさ」
男「自分が寝てる時に、死んでると勘違いされて、墓に入れられるかもしれないって考えて」
男「寝る前に必ず、『死んでません』って書いた紙を横に置いてたそうだ」
男「それと似たような事を、誰かが電話でやってるんじゃないか? 生きてるって伝える為に」
男「それが、間違えてお前にかかってきたとか、そういう話だと思う」
女「ううん」
女「それはないよ。絶対に」
男「?」

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