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幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.

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Part16
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 11:30:41.49 ID:FfC3rck9o
「美味しい?」
「美味しい」
 恥ずかしいけど。
「ずっと体調悪かったの?」
「別に」
 身体がだるいのは暑さのせいだと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
「もういいよ、あとは自分で食べるから」
「だめだよ」
 何がだめなのか。
 結局最後まで妹はスプーンを放そうとしなかった。
 逆の立場になったときは存分に世話をしてやろう。

388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 11:31:10.90 ID:FfC3rck9o
 せっかく病気になったのだし、上手く使えないものかな、と打算。
 ちょっと卑怯かな、と思いつつも。
「なあ」
 妹は俺が寝るまでいるといって部屋に残っていた。
 俺たち兄妹には基準にすべき家族がいない。お互いがお互いの模倣をする。
 だから、互いに対する態度は自然に似通う。性格や立場が大きく言動や態度を変えることはあっても、本質的には似たものになる。
「写真立ての中の、二枚目の写真、なんなんだ?」
 妹は少し迷ってから、立ち上がって部屋を出て行った。少しして戻ってきたときには、手には写真立てを持っていた。
「お姉ちゃんにも、同じこと聞かれた」
 言いながら写真立てを差し出してくる。なんだか不満そうだった。
 受け取って、写真を取り出す。
 ーー見なかったことにした。
「なんか言ってよ」
「何を言えばいいやら」
「私がバカみたいじゃない」

389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 11:31:38.73 ID:FfC3rck9o
「いやまぁなんといいますか」
 若かりし頃の僕と妹の写真でした。
「自分が写ってない写真しか寄越さないからわざわざ二枚入れてたのに」
「……なんといいますか」
「全員だったら文句はなかったのに」
 ひょっとして写真立てを渡したときに微妙そうにしていたのもこれだったのだろうか。
 そのあと、少しだけ話をした。俺は気付くと寝ていて、特に夜中目覚めるようなこともなかった。
 悪い夢も見なかった。
 なんだかな、と思う。
 些細なことで浮いたり沈んだり、ちょっとだけ疲れる。楽しいんだけど。
 とりあえず、そのうちまた写真でも撮ることにした。風邪が治ったら。

390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/01(月) 11:32:19.02 ID:FfC3rck9o
つづく

391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2011/08/01(月) 11:32:43.40 ID:kRVCGsNU0
乙です
リアルタイムで読みますた


392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/08/01(月) 11:33:43.93 ID:F6ehUsz2o
乙!
もしかしてこのチェリーリア充なんじゃね?

396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2011/08/01(月) 13:01:05.01 ID:beqNshAAO
乙。おかしいなうちの妹こんなにかわいくないぞ

397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/08/01(月) 13:23:36.30 ID:nh+VSAUjo
妹と屋上さんの株があがりっぱなし
特に妹がやべえ

416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/02(火) 11:17:11.35 ID:DyoUjAOYo
 翌朝には、体調も多少よくなっていた。まだ微熱は残っていたけれど、今日一日休んでいれば治るだろう。
 大事をとって薬を飲んでベッドで寝ておく。食事はリビングに下りてとった。
 十一時を過ぎた頃、昨日言った通りに幼馴染がやってきた。
「はい、缶詰」
「苦しゅうない」
 俺はベッドにふんぞり返った。
 咳が出た。情けない。
「まだつらい?」
「だいぶ楽になった」
 養生しております。

417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/02(火) 11:17:40.02 ID:DyoUjAOYo
「あのね、風邪が治ってからなんだけど」
「なに?」
「水族館行かない?」
「水族館」
 唐突だった。
 幼馴染はたまに突飛なことを言い出す。たいていがユリコさんの案。
 以前、突然思い立ったといって二泊三日の旅行に行ったこともある。
 今回もどうやらそういうアレらしい。
「いつになるかにもよるけど、うん」
 遠出をすると心が沸き立つのです。
 その後、妹が剥いてくれたリンゴを三人で食べた。

418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/02(火) 11:18:23.28 ID:DyoUjAOYo
 三日もすれば風邪は治った。誰かにうつった様子もない。とりあえずはほっとした。
 失われた夏休みの一部を惜しみながら、課題を少しずつ消化する。後でまとめてやるにせよ、減らしておくに越したことはない。
 
 平日には祖父の車に乗せられて免許センターに行った。
 書類の空欄を埋めるのに悪戦苦闘する。受付に書類を提出すると今度はたらいまわし。
 適性検査。問題なくクリアする。最後に揃った書類を出して申請が終了する。
 
 待合室の長椅子では、俺と同じくらいの年齢の人たちが問題集と向かい合っていた。
 真似してみようと思って鞄から問題集を出す。すぐ飽きる。緊張で集中できない。
 長い時間待たされてからアナウンスで試験会場へと誘導される。番号に従って席に座る。落ち着かない。
 小心者ですから。
 学科試験は手ごたえはあったが自信はなかった。
 問題はほとんど解けたつもりでいるものの、不安が残る問題が五問以上ある。ケアレスミスがないとも限らない。
 時間を置いて合格者の発表。電光パネルに番号が表示される。
 自分の受験番号を見つけてほっとする。祖父にメールをしながら横目で周囲を見た。

419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/02(火) 11:19:00.60 ID:DyoUjAOYo
 二人で来たのに、片方だけが受かったと思しき人たちがいた。よかった、一人で来て。あれは気まずい。
 片方が安堵で表情をゆるめているのに対して、もう片方が少しいたたまれないような顔をしている。
 また今度がんばれ。上から目線で思った。
 午後の講習が終わってから携帯を開くと、妹からも祝いのメールが来ていた。終わってみると祝われるほど大したことじゃない。
 祖父に電話をすると付近の本屋で待機しているという。歩いていける距離なので、そのまま向かうことにした。
 本屋で部長と遭遇した。手には参考書。自分の未来を見せられているようで思わず不安が浮き上がる。
 少し話をした後、すぐに別れる。次に会うのは部活のときだろう。
 祖父の家に寄って、従兄のナオくん(通称)が昔使っていた原付を譲り受ける。
 彼は車があるのでもう使わないらしい。ちょうどいい。
 さっそく原付に乗って帰る。少しだけ緊張したけれど、運転しはじめると大したことはなかった。
 ただ、多少は心臓が痛かった。

420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/02(火) 11:19:34.96 ID:DyoUjAOYo
 翌日、目を覚ましてリビングに行くと、誰もいなかった。妹はまだ寝ているらしい。
 起こそうか迷ったが、どうせ休みなのだしと放っておく。
 結局、妹が起きたのは正午になる頃だった。
 昼過ぎには幼馴染がやってきた。
 例の水族館の話で、予定を聞きにきたらしい。
 どうせ部活以外には予定と言えるものはない。妹も似たようなものだったので、すり合わせは簡単にできた。
 明日らしい。
「急な話だ」
「日帰りだしね」
 そりゃそうだけど。
「で、今日、花火しない?」
「なぜ花火?」
「夏だからだよ」
 納得した。

421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/02(火) 11:19:56.83 ID:DyoUjAOYo
 そんなわけで、日没ちょっとまえに家を出て、幼馴染の家に行った。
 
 暗くなってきた頃、チャッカマン片手に庭に出る。花火は既に用意していたみたいだった。
 ユリコさんが噴出花火を三つ地面に並べる。まさかと思いながら見ていると、あっという間に三つ揃えて点火してしまった。
「てへ」
「てへじゃないでしょういきなり」
 花火の音が周囲に響く。
 はしゃぐユリコさんを放置して、手持ち花火を配る。
 最初の一本から火を分け合って、全員の手に花火が行き渡る。
「夏ですな」
 ぼんやり呟く。
「だねえ」
 幼馴染が頷いた。
「煙! すげえ煙!」
 思わずはしゃぐ。
「振り回さない!」
 妹に叱られる。

422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/02(火) 11:20:27.40 ID:DyoUjAOYo
 一本ずつ消化していっても、やがて花火は尽きる。
 火が噴き出す音が消えて、急に周囲に静けさが帰ってきた。
 ユリコさんが袋から線香花火を取り出す。
「じゃあ、一気に火つけちゃう?」
「そこは一本ずつでしょう」
「そんな辛気臭いのは夏の終わりにでもやればいいじゃん。どうせ何回でもするんだから、花火なんて」
 ……そういうものだろうか。
「じゃ、点火します」
 喋っているうちに、彼女は数本の線香花火にまとめて火をつけた。火の玉でかい。
「あ、落ちた」
 
 はええよ。
 片付けが終わった後、俺と妹は幼馴染の家にお邪魔して夕食をご馳走になった。
 満腹になった後、スイカを食べさせられる。
「チューハイ飲む?」
「いただきます」
 何度も言うが俺たちは十六歳(数え年)だった。

423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/02(火) 11:20:59.35 ID:DyoUjAOYo
「やめときなよ。二日酔いになるよ」
 妹に諭される。
 ぶっちゃけ、酒には弱かった。
 三口で酔う。立っていられなくなる。
 缶一本を飲み干したことがない(ちなみに幼馴染はめっちゃ強い)。
 
 男として負けるわけにはいかなかった。
 結果、缶を半分くらい飲むことができた(歴史的快挙)。
「ちょっと強くなったんじゃない?」
 半分じゃなんの慰めにもならない。体質的に無理なのだろう。
 少し休んでからお礼を言って幼馴染の家を出た。
 夜風に当たると酔いに火照った体を心地よい冷たさが撫でた。
 涼しい。風流。
 ふらふらになりながらも自分の足で歩く。
 家についた。
 リビングのソファに寝転んだ。頭がぼんやりとして心地いいのか悪いのか分からないような熱が全身に広がっている。
 酒を飲むとエロいことを考えられない。不思議と。いい傾向。
 風呂には入らずに顔を洗い、歯を磨いて眠る。
 明日は水族館らしい。

424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/02(火) 11:21:35.52 ID:DyoUjAOYo
 翌朝は幸い二日酔いにならずに済んだ。
 準備を終わらせて幼馴染の家に向かう。
 車の中ではしりとりをしながら時間を潰した。なかなか白熱する。
 妹が「り」で俺を攻める。俺はなんとか回避する。幼馴染が「み」で妹を攻める。
 飽きた頃には海が見え始めた。
 港だけど。
 目的地は寂れた水族館だった。寂れた、というところが絶妙で、本当に寂れている。
 さして大きくもなく、目新しさがあるわけでもない。人も少なくてがらんとしている。
 でもまぁ、水族館は水族館だった。
 適当な駐車場に車を止めて、海沿いの道を歩く。十分もせずに目的地についた。
 ちょうどアシカショーが始まる五分前だったらしい。
 せっかくなので見た。
 どう考えても安っぽいセットにあんまり綺麗とはいえない客席。
 座る。
 見る。
 案外ワクワクする。
 すげえ、ってなる。
「うおー! すげえ!」
 終わったときにはテンションが上がっていた。
 単純。

425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/02(火) 11:22:07.90 ID:DyoUjAOYo
 大量のペンギン。
 写メってキンピラくんに送った。
『俺はペンギンよりシロクマの方が好きだ』
 謎の返信内容だった。
 館内にシロクマはいなかったので、デフォルメされたシロクマの看板を撮影して送信する。
 返信は来なかった。
 クラゲ、イルカ、ワニ、あとなんかいろんな魚(名前は見ていない)。
 いっそグロテスクですらある見た目をしている魚もいた。
 壁は水槽。周囲は薄暗い。
 ワクワクする。
「サメ、ちっちゃいね」
 幼馴染は残念そうに言った。
 妹はというとクラゲをじっと眺めている。
「超癒される……」
 超って。
 ユリコさんは一人でイカ焼きを食べていた。それはなんか違わないか。

426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/02(火) 11:23:21.20 ID:DyoUjAOYo
 一通り見終わってから土産物屋を見る。
 シロクマのぬいぐるみがあった。
 超かわいい。
「俺これ買うわ」
 即決した。
 サメの牙のアクセサリーとか、魚型のストラップとかもあったけれど、琴線には触れない。
 妹は亀がたのぬいぐるみを欲しがった。なぜ亀?
「買う。これ買う」
 妹は、一見どうでもいいようなものに強い執着を示すときがある。今だ。
 
 祖父母や両親向けにお土産にお菓子を買っておく。あと自分たち用。
 水族館を出る。一時半を過ぎた頃だった。
「どうだった?」
 ユリコさんは串焼きのイカを片手に尋ねた。
「クラゲもうちょっと見たかったです」
「満喫しました」
 大いに満足した。アシカショーとか。
 帰り際に、ユリコさんが付近で売っていたカレーパンを買ってくる。なぜカレーパン? 彼女は食べっぱなしだった。
 俺たちもご相伴に与る。美味かった。

427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/02(火) 11:23:55.16 ID:DyoUjAOYo
 家についたときには、父が帰ってきていた。
 夕食を一緒にとってからお土産のクッキーをかじる。
 父はユリコさんにお礼の電話をかけた。
 大人の会話を横目に見ながら俺と妹はリビングでお茶を飲む。
 暑いときこそお茶をすするのです。
 その後、親子三人で花札をした。点数計算ができないので勝敗は適当だった。
 翌日は部活があったので学校に向かった。
 ひんやりした空気。
 人のいない教室。
 遠くに聞こえる運動部の掛け声と、吹奏楽部の練習の音。
 窓からグラウンドを見下ろすと、陸上部が走っていた。
 そのなかに屋上さんの姿を見つけて立ち止まる。
 軽快な速さで彼女はグラウンドを縦横無尽に駆け巡る。ハードルを越える。
 彼女の雰囲気も、夏休みが始まる前とでは、少しだけ違っているように見えた。
 部室に行くとほとんどの先輩は来ていなかった。とはいえ人数は結構いる。
 そもそも何をする部でもないので当たり前といえば当たり前なのだが。
 部活では何をするわけでもなくぼーっと座っていた。
 部長はしずかに本を読んでいた。邪魔をするのも悪いと感じる。
 持ってきておいた課題を進めておく。早めにするに越したことはない。あとが楽でいい。

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